JP2010015815A - 電子管用カソード構体 - Google Patents
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Abstract
【課題】電子銃のカソードの速動性が容易に向上する電子管用カソード構体を提供する。
【解決手段】電子銃においては管軸mを軸中心としてカソード11、その前方のアノード12が取り付けられ、カソード11の後方にカソードを加熱するヒータ13が配置されている。そして、ヒータ13を支持するヒータ支持用部材16ヒータ13からの熱を反射しカソード11を効率的に加熱するための反射筒17が取り付けられ、固定部材18によりヒータ支持用部材16は反射筒17に固定されている。ここで、ヒータ支持用部材16は多孔質セラミックス、繊維質材料含有セラミックス、あるいはPBNにより形成されている。
【選択図】図9
【解決手段】電子銃においては管軸mを軸中心としてカソード11、その前方のアノード12が取り付けられ、カソード11の後方にカソードを加熱するヒータ13が配置されている。そして、ヒータ13を支持するヒータ支持用部材16ヒータ13からの熱を反射しカソード11を効率的に加熱するための反射筒17が取り付けられ、固定部材18によりヒータ支持用部材16は反射筒17に固定されている。ここで、ヒータ支持用部材16は多孔質セラミックス、繊維質材料含有セラミックス、あるいはPBNにより形成されている。
【選択図】図9
Description
本発明は、電子ビームを放出するカソードと該カソードを加熱するヒータを有する電子銃に使用される電子管用カソード構体に関する。
例えばクライストロンや進行波管などの直線ビームを利用して、高周波RF信号を生成したり、増幅したりするマイクロ波管がよく知られている。この電子管は、電子を放出するカソードと、このカソードから間隔を置いて配置されたアノードと、電子を捕獲するコレクタとを少なくとも具備している。ここで、電子ビームを放出する電子銃は通常ピアス型となっている。そして、アノードは中心に開口を有していて、断面凹形状のカソードとアノードとの間に高電圧を印加すると、アノードの開口部を通過する電子ビームが得られる。このような電子銃についてはこれまで種々のものが提示されている(例えば、特許文献1参照)。
以下、クライストロンに使用される電子銃を例にとり、電子管用カソード構体について図9を参照して説明する。図9は電子銃構体の一例を示した側断面図である。
図9に示されるように、通常、電子銃においては管軸mを軸中心としてカソード11、その前方のアノード12が取り付けられ、カソード11の後方にカソードを加熱するヒータ13が配置されている。ここで、カソード11としては、所定の曲率をもつ断面凹形状であって平面円形状に形成されたいわゆる含浸型カソードや酸化物カソードが用いられる。含浸型カソードの場合、気孔率(ポロシティ)が約20%の多孔質タングステン基体の孔部に電子放射物質が含浸される。そして、電子放射物質は酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウムの混合物が用いられる。
上記カソード11は、その外周端面が円筒状のカソードスリーブ14の前端で強固に保持され、カソードスリーブ14の後端が円環状のフランジ部材15に溶接され支持されるようになっている。このカソードスリーブ14は薄肉のモリブデンやレニウム・モリブデン合金から成る。ここで、カソード11とカソードスリーブ14はモリブデン・ルテニウム合金のようなロウ材で接合されている。また、フランジ部材15は導電体から成り例えばモリブデンで構成される。
上記ヒータ13は、その詳細は後述されるが、タングステン線やレニウム・タングステン線から成り渦巻きコイル状に形成されている。そして、コーン状に配置されたセラミックス製のヒータ支持用部材16がその孔部を通してヒータ13を支持している。ここで、従来技術では、上記ヒータ支持用部材16は緻密質構造のアルミナのようなセラミックスで構成されている。
そして、上記ヒータ13やヒータ支持用部材16は、例えば有底円筒状の反射筒17内に収容され、導電体から成る固定部材18により反射筒17内に固定されている。ここで、固定部材18は、反射筒17と共にモリブデンやレニウム・モリブデン合金から成り、ヒータ支持用部材16を固持し反射筒17内壁に接合している。また、この反射筒17はカソードスリーブ14内にあって、ヒータ13がカソード11の後方の所定のところに位置するように取り付けられている。
そして、線状のヒータ13の一端は、反射筒17の底部から延出する第1のヒータリード19aにつながっている。この第1のヒータリード19aは、例えばモリブデン等の導電体から成るカソード支持筒20の前端のフランジおよび上述したフランジ部材15の穴部に取り付けられた絶縁性のヒータガイド21を通して、カソード支持筒20内に取り出される。ここで、カソード支持筒20の前端のフランジとフランジ部材15は溶接されている。
また、ヒータ13の他端は、反射筒17の底部から延出する第2のヒータリード19bにつながっている。この第2のヒータリード19bも上述したカソード支持筒20の前端のフランジおよびフランジ部材15に設けた別の穴部の絶縁性のヒータガイド21を通して、カソード支持筒20内に取り出される。そして、この第2のヒータリード19bは、カソード支持筒20の内面に溶接されている。
一方、第1のヒータリード19aは、支持筒20内部に延在するリード支持部材22に電気接続している。そして、上記支持筒20の後端が筒状のカソード支持体23と接合し、そのカソード支持体23の拡径したところで円盤状の絶縁板24により閉じてある。そして、上記リード支持部材22は絶縁板24を貫通しヒータ端子25に接続して、支持筒20およびカソード支持体23の外部に取り出されるようになっている。ここで、カソード支持体23の外周面はカソード端子26が接合している。絶縁板24はヒータ端子25とカソード端子26を電気的に絶縁する。
そして、カソード11は、カソードスリーブ14、フランジ部材15、支持筒20およびカソード支持体23によりカソード端子26に電気接続する。また、カソード11から放出される電子ビームを集束する例えばステンレス製のウェネルト電極28も、支持筒20およびカソード支持体23によりカソード端子26に電気接続しカソード11と同電位の構造になる。そして、例えばセラミックス製の筒状絶縁体から成る絶縁体シェル27がアノード12とカソード端子26を互いに絶縁し保持している。
上記電子銃構体において、カソード11、ヒータ13、ヒータ支持用部材16を少なくとも含むものをカソード構体という。ここで、反射筒17、ヒータ支持用部材16を反射筒17に固定する固定部材18あるいはヒータリード19(19a、19b)等が含まれても構わない。
特開2006−127899号公報
上記電子銃では、ヒータ13の加熱によるカソード11の温度は、使用される電子管により種々の値に設定されが例えば900〜1100℃にされカソード11より電子が放出される。そして、数十kV〜数百kVの高電圧がカソード11とアノード12間に印加され、カソード11より放出された電子は、ウェネルト電極28の集束作用を受け電子ビームとして、アノード12の開口部へ走行する。ここで、カソード・アノード間の高電圧は直流電圧あるいはパルス電圧であり、電流密度にして7A/cm2程度の電子ビームが出射する。
この電子銃は、カソード11の温度が安定し、電子ビームの電流密度が安定した空間電荷制限領域で動作させる必要がある。カソード11の温度は、ヒータ13への電力入力後に徐々に上昇し、ヒータ13からカソード11への熱放射および熱伝導により定常状態に達して安定化する。そして、ヒータ13への電力供給からカソード温度の安定化までに要する時間は、カソード11の温度が高くなるほど長くなるが、従来の電子銃にあってはカソード温度が950℃の場合に例えば10分程度になっていた。
ところが、近年、電子管の搭載された装置の立ち上げ時間を短縮する要望が強くなっている。上述したように、カソード温度が安定し電子管が動作するまで所定の時間が必要になることから、例えば緊急対応設備においては、電子銃のヒータを常に予備加熱しておく必要があり、その不便さが指摘されている。このため、電子銃のカソードの速動性の向上が強く望まれていた。
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたもので、電子銃のカソードの速動性が容易に向上する電子管用カソード構体を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明にかかる電子管用カソード構体は、電子を放出するためのカソードと、カソードを加熱するためのヒータと、ヒータを固定するための絶縁体から成るヒータ支持用部材とを少なくとも具備する電子管用カソード構体において、ヒータ支持用部材が、多孔質セラミックス、繊維質材料含有セラミックス、あるいはパイロリティック・ボロンナイトライドからなる構成になっている。
本発明によれば、電子銃のカソードの速動性が容易に向上する電子管用カソード構体を提供できる。また、カソードを加熱するヒータ構体の熱的および機械的強度が充分に確保され、あるいは上記カソード構体の長寿命化が容易になる。
以下、本発明の好適な実施形態について図9、図1ないし図3を参照して説明する。図1は電子管用のヒータ構体をアノード12側から見た平面図であり、図2は図1の反射筒17の側部を欠截して上記ヒータ構体を示した側面図である。そして、図3はコーン状に配置されたヒータ支持用部材16がその孔部を通してヒータ13を支持する様子を模式的に示す斜視図である。ここで、ヒータ構体は、電子管用カソード構体からカソード11、カソードスリーブ14あるいはウェネルト電極28を除いたもので、ヒータ13、ヒータ支持用部材16および反射筒17が少なくとも含まれる。
図1ないし図3に示すように、例えば1mm程度に薄い板厚でほぼ短冊状に外形加工した4個のヒータ支持用部材16が、管軸mを中心として半径方向に延在し、90°回転対称に配置される。この4個のヒータ支持用部材16は、それぞれ反射筒17内で所定角度に立設され、その上端が固定部材18により反射筒17上方の内壁に固定され、その下端が反射筒17の底部に固持されている。
そして、タングステン線やレニウム・タングステン線から成る1本のヒータ13が、ヒータ支持用部材16に設けた孔部16aを通って支持され、渦巻きコイル状に形成されている。ここで、ヒータ13は、その一端および他端がそれぞれ反射筒17の底部に設けた第1の孔部17aおよび第2の孔部17bから第1のヒータリード19aおよび第2のヒータリード19bとして延出する。
このようにして、ヒータ支持用部材16により支持されコーン状に捲回されたヒータ13が、カソード11の後方に近接して配置されカソードを加熱する。カソード11は例えば凹球面の電子放射表面をもつ含浸型カソードであり、多孔質タングステン母体に電子放射物質を含浸させている。カソード裏面は凸球面状をなしており、コーン状のヒータが凸球面に沿って近接配置される。
本実施形態では、上記ヒータ支持用部材16が多孔質セラミックス、繊維質材料を含有するセラミックスすなわち繊維質材料含有セラミックス、あるいはパイロリティック・ボロンナイトライド(Pyrolytic Boron Nitride;PBN)により形成される。以下、ヒータ支持用部材16に加工され形成される多孔質セラミックス、繊維質材料含有セラミックスおよびPBNの材質について詳細に説明する。
(多孔質セラミックス)
多孔質セラミックスは、基材としてアルミナが好適であり、その気孔率が20ないし50%の範囲が好ましい。この多孔質アルミナおよびその気孔率の範囲ついては後述の実施例1において詳述される。なお、この気孔率はアルミナ基材に占める孔の体積%であって、例えば、緻密質アルミナに対する多孔質アルミナの密度比でもって算出される。ここで、基材としては酸化カルシウム、酸化シリコン、酸化イットリウム、酸化ジルコニウムあるいは酸化マグネシウム等が添加されたアルミナであってもよい。
多孔質セラミックスは、基材としてアルミナが好適であり、その気孔率が20ないし50%の範囲が好ましい。この多孔質アルミナおよびその気孔率の範囲ついては後述の実施例1において詳述される。なお、この気孔率はアルミナ基材に占める孔の体積%であって、例えば、緻密質アルミナに対する多孔質アルミナの密度比でもって算出される。ここで、基材としては酸化カルシウム、酸化シリコン、酸化イットリウム、酸化ジルコニウムあるいは酸化マグネシウム等が添加されたアルミナであってもよい。
ここで、アルミナセラミックス基材では、アルミナの純度は例えば92%から99.5%と要求される電子管用カソード構体の耐熱性により適宜に選択される。なお、上記耐熱性は電子管の用途により決まる。
多孔質セラミックスの基材は、その他に、アルミナ、窒化アルミナ、酸化シリコン、窒化シリコン、ベリリアからなる群より選択された少なくとも二種以上の材料から成る高耐熱性のセラミックスであってもよい。ここで、これ等のセラミックスは、電子管用カソードにおける加熱温度、真空蒸気圧、熱的および機械的強度等を勘案して決められる。そして、上記セラミックス基材には、アルミナの場合と同じように酸化カルシウム、酸化イットリウム、酸化ジルコニウムあるいは酸化マグネシウム等が添加されていても構わない。
上記多孔質セラミックスは種々の方法により作製することができる。セラミックス気孔率の制御は通常、粉体を部品形状に成形するときのプレス圧および焼結温度で制御する。プレス圧を高くし、焼結温度を最大に設定することにより緻密質セラミックスを製作することができる。この緻密質セラミックスでは、焼固したセラミックス粒子間には粒界が存在するが、それ等の粒界には孔は存在しないように緻密にできあがっている。そこで、多孔質セラミックスの気孔率は、上記緻密質セラミックスとの密度比でもって表すことができる。
また、多孔質セラミックスとしては、多孔質セラミックスと緻密質セラミックスとが層構造になっているものであってもよい。この場合には、適用されるヒータ支持用部材16において、その板厚方向に多孔質セラミックスと緻密質セラミックスとが層を成して形成された構造になる。
(繊維質材料含有セラミックス)
繊維質材料含有セラミックスは、例えば繊維質アルミナが用いられて多孔性を有し、この場合にはその気孔率が20ないし55%の範囲が好適である。この繊維質材料含有アルミナおよびその気孔率の範囲ついては後述の実施例1において詳述される。この場合でも、その気孔率は緻密質アルミナに対する密度比でもって算出することができる。ここで、繊維状アルミナに酸化カルシウム、酸化シリコン、酸化イットリウム、酸化ジルコニウムあるいは酸化マグネシウム等が添加されたものであってもよい。
繊維質材料含有セラミックスは、例えば繊維質アルミナが用いられて多孔性を有し、この場合にはその気孔率が20ないし55%の範囲が好適である。この繊維質材料含有アルミナおよびその気孔率の範囲ついては後述の実施例1において詳述される。この場合でも、その気孔率は緻密質アルミナに対する密度比でもって算出することができる。ここで、繊維状アルミナに酸化カルシウム、酸化シリコン、酸化イットリウム、酸化ジルコニウムあるいは酸化マグネシウム等が添加されたものであってもよい。
上記繊維質材料含有セラミックスに使用される繊維質セラミックスとしては、その他に、アルミナ、窒化アルミナ、酸化シリコン、窒化シリコン、ベリリアからなる群より選択された少なくとも二種以上の材料から成る高耐熱性のセラミックスであってもよい。ここで、これ等の繊維状セラミックスは、アルミナの場合と同じように酸化カルシウム、酸化イットリウム、酸化ジルコニウムあるいは酸化マグネシウム等が添加されていても構わない。
繊維質材料含有セラミックスの作製では、例えば、基材となる粒状のセラミックスに対して繊維状セラミックスを気孔率に合わせた適当量に混合し、これ等の混合物を高温度で焼結することにより、所望の気孔率を有する繊維質材料含有セラミックスが得られる。ここで、繊維質材料含有セラミックスにおいて、繊維質セラミックスとその基材のセラミックスは、そのセラミックス素材が互いに同種であっても異種であっても構わない。
また、繊維質材料含有セラミックスとしては、繊維質セラミックスと緻密質セラミックスとが層構造になっているものであってもよい。この場合には、適用されるヒータ支持用部材16において、その板厚方向に繊維質セラミックスと緻密質セラミックスとが層を成して形成された構造になる。
(PBN)
PBNは化学気相成長(Chemical Vapor Deposition;CVD)法により成膜される。ここで、成長温度は1000以上の高温度であり、原料ガスとしては例えば三塩化ボロン(BCl3)ガスとアンモニア(NH3)ガスが使用される。このCVDで例えば0.5mm以上の膜厚のPBNが形成される。
PBNは化学気相成長(Chemical Vapor Deposition;CVD)法により成膜される。ここで、成長温度は1000以上の高温度であり、原料ガスとしては例えば三塩化ボロン(BCl3)ガスとアンモニア(NH3)ガスが使用される。このCVDで例えば0.5mm以上の膜厚のPBNが形成される。
そして、ヒータ支持用部材16は、上記多孔質セラミックスあるいは繊維質材料含有セラミックスが板厚1mm程度にされて所要形状に加工して作製される。PBNの場合は、CVDで形成した厚さ0.5mm以上の厚膜がヒータ支持用部材16の所要形状に加工される。
図1ないし図3および図9に示した電子管用カソード構体では、以下のような主な熱移動の過程を経てカソード構体の温度が上昇し、熱平衡状態に達してカソード11の温度が安定化する。
すなわち、(1)ヒータ13に電力が供給されヒータ13の温度が上昇する。(2)ヒータ13の発する熱が熱輻射および熱伝導によりヒータ支持用部材16へ伝わる。同時に、(3)ヒータ13あるいはヒータ支持用部材16の熱は、熱輻射によりカソード11へ伝わり、反射筒17およびカソードスリーブ14へ伝わる。そして、(4)カソード11の温度が上昇するとカソード11の熱は、その表面からの熱輻射によりウェネルト電極28およびアノード12に流れ、熱伝導によりカソードスリーブ14へと流れる。また、(5)カソードスリーブ14の熱は支持筒20へ流れる。(6)反射筒17の熱は熱輻射および熱伝導により支持筒20等へと流れる。
ヒータ13熱源からの上述したような熱移動の組み合わせを計算し、電子管用カソード構体が熱平衡状態に達するまでの時間を算出するためには、カソード構体の周辺部に閉曲面をとり、その境界面に熱輻射の境界条件および熱伝導の境界条件をとった熱伝達の方程式を解く必要がある。しかしながら、このシミュレーションはかなり複雑である。そこで、簡略化し(1)式を用いて本実施形態にかかるカソード構体の作用について述べる。
t = (Cth /Hp)×(T−T0) (1)
ここで、tは物体が所要温度Tに達するまでの時間でありCthは物体の熱容量である。そして、Hpはヒータ入力電力であり、Tはカソード11の所要温度、T0は室温である。
ここで、tは物体が所要温度Tに達するまでの時間でありCthは物体の熱容量である。そして、Hpはヒータ入力電力であり、Tはカソード11の所要温度、T0は室温である。
そして、物体の熱容量Cthは次の(2)式で与えられる。
Cth = (比熱)×(密度)×(体積) (2)
Cth = (比熱)×(密度)×(体積) (2)
電子管用カソード構体にあっては、ヒータ支持用部材16以外はタングステン等の比熱が小さい金属材料で構成される。また、上記カソード構体にあっては、カソード11の直径が40mm、肉厚が0.8mm程度である。また、カソードスリーブ14あるいは反射筒17の肉厚は0.08mm程度である。このために、これ等のカソード構体の構成部分の熱容量は比較的に小さい。しかし、例えばアルミナのようなセラミックスから成るヒータ支持用部材16は、上記金属から成っているカソード構体の構成部分に較べて熱容量が大きい。
なお、カソード11の電子放射物質の含浸量上では問題にならないが、カソード構体の動作中およびヒータ13のオン/オフ動作でカソード11の凹曲面の変形が生じるため、カソード11の肉厚0.8mmがほぼ限界値でありこれ以下に薄くできない。これは、カソードスリーブ14の肉厚についても同様であり、動作中の熱変形を考慮すると0.08mmが限度であり、これ以下に薄くすることはできない。
本実施形態では、ヒータ支持用部材16は多孔質セラミックス、繊維質材料を含有するセラミックスすなわち繊維質材料含有セラミックス、あるいはPBNにより形成される。このようにすると、ヒータ支持用部材16の熱容量Cthが低下し、カソード構体全体の熱容量を効果的に減少させることができる。ここで、ヒータ支持用部材16が多孔質セラミックスあるいは繊維質材料含有セラミックスから成る場合には、熱容量の低下は(2)式の密度が低下することによる。また、ヒータ支持用部材16がPBNから成る場合の熱容量の低下も、主に(2)式の密度が低減することによる。
このように、ヒータ支持用部材16の熱容量が低減することによって、カソード11の所要温度Tへの昇温時間が短縮され、電子管用カソード構体の速動性の向上が効果的に現れる。
また、図3で説明したように、線状のヒータ13は所定のテンションを持ちヒータ支持用部材16に設けた孔部16aを通り抜けている。そして、このヒータ13は、ヒータ13の昇降温あるいは熱平衡状態において孔部16aでヒータ支持用部材16に接触する。この時の接触力によって孔部16aに亀裂が発生し、この亀裂を起点としてヒータ支持用部材16の破損が生じる。
本実施形態では、ヒータ支持用部材16の板厚は0.5mmから1mm範囲にされる。あるいは、上記多孔性を有する場合のその気孔率は20〜55%程度と適度に調節される。このようなヒータ支持用部材16であると、上記ヒータ13の昇降温あるいは熱平衡状態においてヒータ支持用部材16の孔部16aで亀裂が発生することは抑制される。そして、電子管用カソード構体の熱的および機械的強度が確保される。
ここで、多孔質セラミックスあるいは繊維質セラミックスと緻密質セラミックスとが層構造に形成される場合には、ヒータ支持用部材16の表面および裏面が緻密質セラミックスで構成されるようにするとよい。このようにすると、ヒータ13が接触し易くなる孔部16aにおけるヒータ支持用部材16の表裏面は高強度の緻密質セラミックスにより保護され、上記亀裂発生が抑制されてヒータ支持用部材16の破損耐性が大きく向上する。
また、本実施形態では、電子管用カソード構体の構成部分のうち相対的に大きなウェートを占めるヒータ支持用部材16の熱容量を低減させることにより、カソード11を所要温度Tに昇温しで安定させるに要するヒータ入力電力Hpは容易に小さくできる。ところで、従来技術において例えば含浸型カソードのように所要温度Tが950℃程度の場合、ヒータ13の温度が1800℃以上となってヒータ13の耐熱性上問題が生じていた。しかし、上記ヒータ支持用部材16の熱容量が低減すると、ヒータ入力電力Hpが小さくて済み、ヒータ13温度は下がり例えば1750℃程度になる。このようにして、電子管用カソード構体の長寿命化が容易になる。
上述したように、本実施形態では、電子管に用いられる電子銃において、その電子管用カソード構体の速動性が容易に向上する。また、カソード11を加熱するヒータ構体の熱的および機械的強度が充分に確保され、上記カソード構体の長寿命化が容易になる。そして、装置の立ち上げ時間の短縮化が必要な例えば緊急対応設備にあって、電子銃のヒータの予備加熱を不要とし、極めて利便性に優れた電子管用カソード構体が提供できる。
次に、実施例により本発明の効果について具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
実施例1では、ヒータ支持用部材16の材料として多孔質アルミナセラミックスおよび繊維質材料含有アルミナセラミックスを用いて実験した。これ等の多孔性アルミナセラミックスから成るヒータ支持用部材16を有する電子管用カソードを作製した。このカソード構体の試験例は図4に示すように計12例である。ここで、ヒータ支持用部材16の板厚は1mmとした。アルミナセラミックスに要求される条件は、耐熱性が1700℃以上であること、およびヒータ13から受ける機械的応力に耐えることである。前者の条件を満たすため、アルミナの純度は97%とした。そして、後者の条件を満たすため焼結温度は1800℃とした。
多孔性アルミナセラミックスの気孔率が0%から20%程度までは、通常市販品として購入できるが、気孔率30%以上は簡単に入手できない。ここで、気孔率0%はいわゆる緻密質アルミナセラミックスである。そこで、試験例1から3で使用した多孔性アルミナセラミックスは市販品を用い、それ以外は発明者が新たに焼成により作製した。試験例4から7では、アルミナ粉末の粒径を大きくすると同時に、水酸化アルミニウムを添加剤として用いた。気孔率のコントロールは水酸化アルミニウムの量と焼結時間で行った。
そして、試験例8から12では、繊維質材料含有アルミナセラミックスは添加物として繊維質アルミナを用い焼成して作製した。ここで使用した繊維質アルミナの線径は3μm程度、長さは100μm程度である。ここに試験例No.1,2,7,12は比較例である。
なお、作製した電子管用カソード構体は、図1ないし図3および図9で説明したのと同じ材料、寸法および構造をしたものである。ここで、有底円筒状の反射筒17は、その口径が30mm、その深さが10mmであり、この中にヒータ13およびヒータ支持用部材16を収容した。
このようにして作製したカソード構体を実際に電子銃に組み込み、カソード温度が室温T0からT=950℃に到達するまでの時間を測定した。このカソード構体の昇温特性について図5に示す。図5はカソード構体の昇温におけるカソードの温度の時間変化を示したグラフである。900℃到達時間はカソード温度が安定化する直前の時間であり、各試験例の比較において測定しやすいこの時間を基準にして評価した。図5では、本実施例である試験例No.5のヒータ支持部材と、試験例No.1の比較例である緻密質アルミナセラミックスから成るヒータ支持用部材の特性を示している。900℃到達時間はNo.5で5分、No.1で7分である。
更に、上記カソード構体を電子銃に組み込んだ電子管の寿命試験を行った。寿命試験条件は、ヒータ13のオン・オフ時間をそれぞれ10分、30分として、3000回のサイクリング試験を行った。その後管球を分解し、セラミックスの欠けの状態を観察した。そして、これ等の結果を図6にまとめて示した。図6において、セラミックスに欠けがない場合を○印にし、欠けがある場合を×印で示している。また、総合評価の判定では、カソード構体の速動性および熱的・機械的強度が高くなる場合に○印、そうでない場合に×印で示す。
上記結果より、試験例No.3のように気孔率を20%にすると、900℃到達時間が比較例(試験例No.1)より14%以上短くなることが判る。更に気孔率が増加していくと、速動性はさらに向上することが実験的にも明らかとなった。速動性の点からはアルミナの気孔率を大きくする程向上するが、気孔率を大きくし過ぎるとセラミックスそのものの強度が弱くなってくる。
電子管では、稼動前後でヒータのオン・オフ作業が行われる。このオン・オフによりヒータは急速加熱・冷却され、ヒータ支持用部材16に力を与える。もしこのセラミックスの熱的および機械的強度が弱いと、セラミックスにクラックが入り欠けとなる。図6に示した試験結果では、水酸化アルミニウムを添加したものでは気孔率55%(試験例7)で欠けが発生し、繊維質アルミナを添加したものでは、気孔率60%(試験例12)で欠けが発生した。これらの結果より、水酸化アルミニウムを添加したものでは、気孔率20ないし50%の範囲が好適で、繊維質アルミナを添加したものでは気孔率20ないし55%の範囲が好適であることが判る。
上記実施例において、電子管用カソード構体のヒータ構体に用いられるアルミナセラミックス製のヒータ支持用部材16に、多孔質セラミックスあるいは繊維質材料含有セラミックスを適用することにより、電子管用カソード構体の速動性の向上が確認された。また、多孔質セラミックスあるいは繊維質材料含有セラミックスには、その熱的および機械的強度を確保する上でそれぞれの気孔率に適度な範囲があることが確認された。
実施例2では、ヒータ支持用部材16の材質をPBN(パイロリティック・ボロンナイトライド)へ変更して実験した。PBNは高温CVD法によって製作された材料であり、図7に示すようにアルミナに対し、速動性に関しては、熱伝導率が約7倍、密度が58%という特徴を有しており、本目的には好適な材料である。但し、それ等の比熱については大差がない。またPBNは真空中の耐熱温度が1900℃以上であるため耐熱性にも問題はない。
本実施例の電子管用カソード構体を用いた試験例は図8に示すように計3例である。PBNは高温の機械的強度がアルミナよりも強いといわれているため、ヒータ支持用部材16の板厚をアルミナの場合よりも更に薄くして検討した。
試験例13のヒータ支持用部材16の板厚は、従来と同じ1mmとし、試験例14,15はそれぞれ0.8mm、0.5mmまで薄くした。そして、それぞれのヒータ支持用部材16を有するカソード構体を実施例1と同様な方法で作製し評価した。その結果を図8にまとめて示した。この結果より、ヒータ支持用部材16の材質をPBNにすることにより、速動性、セラミックスの欠け共に格段に向上することが判った。板厚を更に薄くすると更なる改善が望まれるが、直径40mm程度の大型カソードの場合、使用されるヒータ13の線径が0.5mm程度となり、このヒータ線をヒータ支持用部材16の孔部16aに挿入する作業中に割れが発生するので板厚が0.5mm未満になると好ましくない。
上記実施例において、電子管用カソード構体のヒータ構体にPBN製のヒータ支持用部材16を用いることにより、電子管用カソード構体の速動性の向上が確認された。また、この場合に、ヒータ支持用部材16はアルミナセラミックス製の場合より、その板厚を薄くできることが確認された。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、上述した実施形態は本発明を限定するものでない。当業者にあっては、具体的な実施態様において本発明の技術思想および技術範囲から逸脱せずに種々の変形・変更を加えることが可能である。
例えば、本実施形態のヒータ支持用部材16では、セラミックス基体に多孔質セラミックスおよび繊維質セラミックスが含有された構造になっていてもよい。ここで、セラミックス基体と多孔質セラミックスあるいは繊維質セラミックスとは異種セラミックスあるいは同種セラミックスのどちらであっても構わない。
また、本実施形態の電子管用カソード構体は、グリッド付きのクライストロンや進行波管に適用される場合であってもよく、その他の直線ビーム機器、例えば電子加速器における電子インジェクタ等にも適用できることに言及しておく。
11…カソード,12…アノード,13…ヒータ,14…カソードスリーブ,15…フランジ部材,16…ヒータ支持用部材,16a…孔部,17…反射筒,17a…第1の孔部,17b…第2の孔部,18…固定部材,19a…第1のヒータリード,19b…第2のヒータリード,20…支持筒,21…ヒータガイド,22…リード支持部材,23…カソード支持体,24…絶縁板,25…ヒータ端子,26…カソード端子,27…絶縁体シェル,28…ウェネルト電極
Claims (6)
- 電子を放出するためのカソードと、前記カソードを加熱するためのヒータと、前記ヒータを固定するための絶縁体から成るヒータ支持用部材とを少なくとも具備する電子管用カソード構体において、
前記ヒータ支持用部材が、多孔質セラミックス、繊維質材料含有セラミックス、あるいはパイロリティック・ボロンナイトライドからなることを特徴とする電子管用カソード構体。 - 前記ヒータ支持用部材は、多孔質セラミックスと緻密質セラミックスとが層構造に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電子管用カソード構体。
- 前記ヒータ支持用部材は、繊維質セラミックスと緻密質セラミックスとが層構造に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電子管用カソード構体。
- 前記多孔質セラミックスは、アルミナから成り、その気孔率が20ないし50%の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の電子管用カソード構体。
- 前記繊維質材料は繊維質アルミナであり、前記繊維質材料含有セラミックスの気孔率が20ないし55%であることを特徴とする請求項1に記載の電子管用カソード構体。
- 前記ヒータ支持用部材の板厚が、0.5mmから1mmの範囲にあることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の電子管用カソード構体。
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2008
- 2008-07-03 JP JP2008174598A patent/JP2010015815A/ja not_active Withdrawn
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