JP2009302040A - 燃料電池システム - Google Patents

燃料電池システム Download PDF

Info

Publication number
JP2009302040A
JP2009302040A JP2009106532A JP2009106532A JP2009302040A JP 2009302040 A JP2009302040 A JP 2009302040A JP 2009106532 A JP2009106532 A JP 2009106532A JP 2009106532 A JP2009106532 A JP 2009106532A JP 2009302040 A JP2009302040 A JP 2009302040A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
fuel cell
magnetic field
coil
frequency
small
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Granted
Application number
JP2009106532A
Other languages
English (en)
Other versions
JP5337569B2 (ja
Inventor
Kuniyasu Ogawa
邦康 小川
Yasuo Yokouchi
康夫 横内
Tomoyuki Haishi
智之 拝師
Hidehira Ito
衡平 伊藤
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Keio University
Original Assignee
Keio University
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Keio University filed Critical Keio University
Priority to JP2009106532A priority Critical patent/JP5337569B2/ja
Publication of JP2009302040A publication Critical patent/JP2009302040A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP5337569B2 publication Critical patent/JP5337569B2/ja
Expired - Fee Related legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Classifications

    • YGENERAL TAGGING OF NEW TECHNOLOGICAL DEVELOPMENTS; GENERAL TAGGING OF CROSS-SECTIONAL TECHNOLOGIES SPANNING OVER SEVERAL SECTIONS OF THE IPC; TECHNICAL SUBJECTS COVERED BY FORMER USPC CROSS-REFERENCE ART COLLECTIONS [XRACs] AND DIGESTS
    • Y02TECHNOLOGIES OR APPLICATIONS FOR MITIGATION OR ADAPTATION AGAINST CLIMATE CHANGE
    • Y02EREDUCTION OF GREENHOUSE GAS [GHG] EMISSIONS, RELATED TO ENERGY GENERATION, TRANSMISSION OR DISTRIBUTION
    • Y02E60/00Enabling technologies; Technologies with a potential or indirect contribution to GHG emissions mitigation
    • Y02E60/30Hydrogen technology
    • Y02E60/50Fuel cells

Landscapes

  • Fuel Cell (AREA)

Abstract


【課題】運転中の燃料電池の固体高分子電解質膜の発電状況を正確に局所的に把握できるシステムを提供すること。
【解決手段】固体高分子電解質膜に対して、静磁場を印加する静磁場印加部と、固体高分子電解質膜よりも小さい小型RFコイルと、燃料電池を停止した状態で、励起用振動磁場を印加した際に、前記小型RFコイルにて検出される核磁気共鳴信号の周波数である、基準核磁気共鳴信号の周波数の経時変化(直線A)が記憶された第一記憶部と、以下の(A)と(B)との周波数の差分を算出する第一算出部とを備える燃料電池システム。(A)前記燃料電池の運転中に、固体高分子電解質膜に対して、励起用振動磁場を印加した際に前記小型RFコイルにて取得した核磁気共鳴信号の周波数ω1(B)第一記憶部に記憶された基準核磁気共鳴信号の周波数の経時変化から取得され、燃料電池の運転中に前記励起用振動磁場を印加した時点での基準核磁気共鳴信号の周波数ω2
【選択図】 図57

Description

本発明は、燃料電池システムに関し、特に、核磁気共鳴法を用いて運転中の燃料電池の固体高分子電解質膜の特定箇所の電流を測定する技術に関する。
試料の電流を計測する従来の方法として、非特許文献1および2に記載の方法がある。
非特許文献1には、燃料電池の面方向電流分布を計測する際に、電極を分割して「分割電極」とし、個々を絶縁して、一つの分割電極ごとに流れる電流を計測する方法が記載されている。
また、非特許文献2には、ホール素子を利用して磁場の強度を計測する方法が記載されている。ここで、ホール素子は、素子に印加された磁場強度に応じて素子の電気抵抗が変化する特性を持つ素子である。非特許文献2においては、このホール素子を燃料電池に近づけ、空間的に走査することで、磁場強度の空間マップを計測し、それを逆問題として解析して、電流分布を求める方法が提案されている。
恩田和夫他5名、「固体高分子燃料電池の膜物性測定と電流分布の解析/測定」、第13回燃料電池シンポジウム講演予稿集、2006年、p.234−237 泉政明、後藤雄治、「固体高分子形燃料電池の計測技術とモデリングに関する研究開発」、NEDO燃料電池・水素技術開発中間報告会要旨集、平成17年12月27日発表、p.39−40
ところが、上述した非特許文献1および2に記載の方法は、それぞれ、以下の点で改善の余地があった。
まず、非特許文献1に記載の分割電極法においては、分割電極を組み込んだ燃料電池セルを製作する必要があり、計測専用の装置で計測を行うため、分割電極を用いていない実機とは異なる計測結果となる可能性がある。そのため、実験データの信頼性の点で改善の余地があった。また、新しいセルを設計、製作するごとに、分割電極も設計、製作し直さなければならず、開発コストが増加する点でも、実用的ではなかった。
また、非特許文献2に記載のホール素子を用いた方法では、電極中に電流が流れることで発生する磁場を計測しているが、この磁場強度は地磁気の強さにほぼ等しく、微弱な値である。このような微弱な磁場強度を正確に計測するには、ホール素子が高い分解能と高い再現性を持つことを要求される。
また、燃料電池の計測にホール素子を用いようとした場合、ホール素子は温度変化にも敏感であり、発熱を伴う燃料電池の内部やその周囲に設置してホール素子で磁場を計測するには、各温度で計測されたホール素子に流れる電流または抵抗値と印加した磁場強度との関係を予め校正曲線として素子の非線形性を補正できるように準備し、燃料電池に適用した際のホール素子自体の温度を非常に高い精度で計測した上で、校正曲線から磁場を算出するという非常に手間がかかる手法をとらねばならない。さらに、真のホール素子温度を計測することが困難であるという問題もあった。
これらのことから、ホールセンサを用いる方法は、検討されてはいるものの、未だ研究段階にあり、実用化には遠い水準のものであった。
以上のように、従来技術においては、運転中の燃料電池の固体高分子電解質膜の発電状況を正確に局所的に把握することは難しい。
本発明によれば、
プロトン性溶媒を含んだ固体高分子電解質膜と、この固体高分子電解質膜の一方の側に配置される燃料極と、前記固体高分子電解質膜の他方の側に配置される酸化剤極とを有する燃料電池を含む燃料電池システムにおいて、
前記固体高分子電解質膜に対して、静磁場を印加する静磁場印加部と、
前記固体高分子電解質膜よりも小さい小型RFコイルと、
前記燃料電池を停止した状態で、励起用振動磁場を印加した際に、前記小型RFコイルにて検出される核磁気共鳴信号の周波数である、基準核磁気共鳴信号の周波数の経時変化が記憶された第一記憶部と、
以下の(A)と(B)との周波数の差分を算出し、あるいは、以下の(A)と(B)との周波数の差分を算出しこの周波数の差分に基づいた電流量を算出する第一算出部とを備える燃料電池システムが提供される。
(A)前記燃料電池の運転中に、前記固体高分子電解質膜に対して、励起用振動磁場を印加した際に前記小型RFコイルにて取得した核磁気共鳴信号の周波数
(B)前記第一記憶部に記憶された基準核磁気共鳴信号の周波数の経時変化から取得され、前記燃料電池の運転中に前記励起用振動磁場を印加した時点での基準核磁気共鳴信号の周波数
運転を停止した状態において、励起用振動磁場を印加し、小型RFコイルで核磁気共鳴信号を検出する場合、小型RFコイルで取得する核磁気共鳴信号の周波数が変動することがわかった。この原因としては、たとえば、以下のようなことが考えられる。
静磁場印加部から静磁場を印加した状態で、励起用振動磁場を印加するが、このとき静磁場印加部の温度が時間とともに、変動することで、静磁場の強度が時間とともに、変動することがある。静磁場の強度が変動することに伴い、小型RFコイルで取得する核磁気共鳴信号の周波数も変動してしまう。
そこで、第一記憶部に、燃料電池を停止した状態で、励起用振動磁場を印加した際に、小型RFコイルにて検出される核磁気共鳴信号の周波数である、基準核磁気共鳴信号の周波数の経時変化を記憶しておく。
そして、第一算出部では、前述した(A)と(B)との差分を算出する。
このようにすることで、運転中の燃料電池において、固体高分子電解質膜中の局所的な発電状態をより正確に計測することができる。
なお、第一記憶部に記憶される基準核磁気共鳴信号の周波数の経時変化は、以下のようにして取得することができる。
(i)燃料電池を停止した状態において、静磁場印加部から静磁場を印加するとともに、固体高分子電解質膜に対し、励起用振動磁場を印加して、固体高分子電解質膜の特定箇所で発生した核磁気共鳴信号を取得する。そして、取得した核磁気共鳴信号の周波数を基準核磁気共鳴信号の周波数とする。
(ii)(i)の操作を複数回行い、基準核磁気共鳴信号の周波数の経時変化を取得する。
第一算出部では、このようにして取得された基準核磁気共鳴信号の周波数の経時変化を第一記憶部から読み出し、読み出した基準核磁気共鳴信号の周波数の経時変化と時間との関係を補間(外挿、あるいは内挿)して、固体高分子電解質膜に対して、励起用振動磁場を印加した時点における基準核磁気共鳴信号の周波数を算出することが好ましい。
なお、本明細書において、「静磁場」は、核磁気共鳴信号および電流の取得を安定的に行うことが可能な程度に時間的に安定な磁場であれば、完全に安定な磁場でなくてもよく、その範囲内で多少の変動があってもよい。
また、本明細書において、「電流量」とは、電流の値であってもよく、また、電流密度であってもよい。
また、本発明によれば、プロトン性溶媒を含んだ固体高分子電解質膜と、この固体高分子電解質膜の一方の側に配置される燃料極と、前記固体高分子電解質膜の他方の側に配置される酸化剤極とを有する燃料電池を含む燃料電池システムにおいて、
前記固体高分子電解質膜に対して、静磁場を印加する静磁場印加部と、
前記燃料電池の運転中に、前記固体高分子電解質膜に対して、励起用振動磁場を印加するとともに、前記固体高分子電解質膜の特定箇所で生じた核磁気共鳴信号を取得する、前記固体高分子電解質膜よりも小さい小型RFコイルと、
前記燃料電池を停止した状態で、励起用振動磁場を印加した際に、前記小型RFコイルにて検出される核磁気共鳴信号の周波数である、基準核磁気共鳴信号の周波数と、
前記励起用振動磁場の周波数との差である基準周波数差の経時変化が記憶された第一記憶部と、
以下の(C)と(D)との差を算出し、
前記(C)と(D)の差から
前記基準周波数差の経時変化に基づいて取得される基準周波数差であって、燃料電池の運転中に、前記固体高分子電解質膜に対して、励起用振動磁場を印加した時点での基準周波数差を差しひいた周波数の差分を算出し、あるいは、前記周波数の差分に基づいた電流量を算出する第一算出部とを備える燃料電池システム。
(C)前記燃料電池の運転中に、前記固体高分子電解質膜に対して、励起用振動磁場を印加した際の励起用振動磁場の周波数
(D)前記燃料電池の運転中に、前記固体高分子電解質膜に対して、励起用振動磁場を印加した際に、前記小型RFコイルで取得した核磁気共鳴信号の周波数
この構成においても、静磁場の変動を考慮し、運転中の燃料電池において、固体高分子電解質膜中の局所的な発電状態をより正確に計測することができる。
ここで、第一記憶部に記憶される基準周波数差の経時変化は、以下のようにして取得することができる。
(i)燃料電池を停止した状態において、前記静磁場印加部から静磁場を印加するとともに、前記固体高分子電解質膜に対し、励起用振動磁場を印加して、前記固体高分子電解質膜の特定箇所で発生した核磁気共鳴信号(基準核磁気共鳴信号)を複数回取得する。
(ii)取得した各前記基準核磁気共鳴信号の周波数と、励起用振動磁場の周波数との周波数差を算出し、基準周波数差の経時変化を取得する。
第一算出部では、このようにして取得された基準周波数差の経時変化を第一記憶部から読み出し、読み出した基準周波数差と時間との関係を補間(外挿、あるいは内挿)して、前述した(C)と(D)との差分を補正することが好ましい。
さらに、燃料電池システムは、所定値を記憶した第二記憶部と、前記第一算出部で算出した前記周波数の差分が前記第二記憶部に記憶された前記所定値以上か否か、あるいは、前記周波数の差分に基づいて算出される前記電流量が前記第二記憶部に記憶された所定値以上か否かを判断する判断部と、前記判断部での判断結果が出力される出力部とを備える燃料電池システムであってもよい。
このようにすることで、燃料電池の発電状況をより簡単に把握することができる。
さらに、燃料電池システムは、前記固体高分子電解質膜の面方向に沿って配置された前記小型RFコイルを複数備え、前記複数の小型RFコイルが、それぞれ、前記固体高分子電解質膜の複数箇所に対し、前記励起用振動磁場を印加するとともに、前記核磁気共鳴信号を取得し、前記第一算出部では、前記固体高分子電解質膜の前記複数箇所における前記周波数の差分をそれぞれ算出し、前記第二記憶部は、前記固体高分子電解質膜の前記複数箇所それぞれに対応づけられた複数の前記所定値が記憶され、前記判断部では、算出した前記複数箇所の前記周波数の差分あるいは電流値それぞれが、前記第二記憶部に記憶されており前記複数箇所に対応づけられた前記所定値以上であるかどうかを判断することが好ましい。
固体高分子電解質膜における発電状態は、固体高分子電解質膜の面内の位置(場所)ごとに異なることがある。
第二記憶部は、固体高分子電解質膜の測定箇所である複数箇所それぞれに対応づけられた複数の前記所定値が記憶するものであるため、固体高分子電解質膜の電流量の分布を考慮して、前記所定値を記憶させることができる。
そして、判断部では、算出した前記複数箇所の前記周波数の差分あるいは電流量それぞれが、第二記憶部に記憶された、前記複数箇所に対応づけられた各所定値以上であるかどうかを判断することで、より正確に、燃料電池が所望の運転を行っているかどうか判別することができる。
ここで、前記第二記憶部に記憶された複数の前記所定値は、変更可能であってもよい。
さらには、前記第二記憶部には、前記燃料電池の運転時間と前記所定値の経時変化が記憶され、前記判断部は、前記第二記憶部に記憶された前記燃料電池の運転時間と前記所定値の経時変化との前記関係から、前記固体高分子電解質膜に対し、前記励起用振動磁場を印加した際の前記所定値を取得し、前記周波数の差分あるいは、電流量が前記所定値以上であるかどうかを判断するものであってもよい。
燃料電池は、常に同じ状態で発電できるのではなく、運転時間に伴って発電量が増加したり、低下したりする場合がある。そこで、第二記憶部に燃料電池の運転時間と前記所定値の経時変化との関係を記憶しておき、この所定値の経時変化に基づいて、前記周波数の差分あるいは、電流量が前記所定値以上であるかどうかを判断する。これにより、燃料電池が所望の運転を行っているかどうかをより正確に判別することができる。
さらに、本発明では、前記出力部は、前記燃料電池の駆動を制御する制御部を有し、前記制御部では、前記判断部の判断結果に基づいて前記燃料電池の駆動を制御するものであってもよい。たとえば、制御部では、判断部の判断結果に基づき、前記周波数の差分あるいは、電流量が所定値以下である場合には、燃料電池の運転を停止する構成としてもよい。
さらに、本発明は、前記小型RFコイルで取得された前記核磁気共鳴信号に基づいて、前記固体高分子電解質膜中のプロトン性溶媒の量を算出する第二算出部と、前記固体高分子電解質膜の前記周波数の差分を測定する第一測定モードと前記固体高分子電解質膜中のプロトン性溶媒の量を測定する第二測定モードとを切り替える切替部と、をさらに備え、前記第一測定モードにあるとき、前記第一算出部が、前記周波数の差分あるいは電流量を算出し、前記第二測定モードにあるとき、前記第二算出部が、前記小型RFコイルで取得された前記核磁気共鳴信号に基づく前記固体高分子電解質膜中のプロトン性溶媒の量の算出を実行するものであってもよい。
このようにすれば、第一測定モード、第二測定モードの切り替えにより、局所的なプロトン性溶媒量を計測することができる。
固体高分子電解質膜は乾燥しすぎるとプロトン伝導性が低下して、オーム損失が増加し、発電電流が低下する傾向にある。
一方で、固体高分子電解質膜中のプロトン性溶媒量が多くなりすぎた場合には、プロトン伝導性は向上するが、酸化剤極表面にプロトン性溶媒の膜ができ、酸化剤の供給が阻害されて、発電電流が低下することがある。
たとえば、プロトン性溶媒量が所定の数値範囲外であると判断され、かつ、第一算出部で算出された電流量あるいは周波数の差分が所定値未満であると判断された場合には、発電量低下の原因として、固体高分子電解質膜のプロトン性溶媒量が不足であるか、あるいは、固体高分子電解質膜および電極に液膜が形成されてガス供給が阻害されていることが考えられる。
一方で、プロトン性溶媒量が所定の数値範囲内であり、かつ、第一算出部で算出された電流量あるいは周波数の差分が所定値未満であると判断された場合には、発電量低下の原因として、燃料電池に供給されているガス濃度の低下等が考えられる。
このように、プロトン性溶媒量を計測し、所定の数値範囲内であるかどうかを判断することで、燃料電池の運転状況をより正確に把握することができる。
なお、プロトン性溶媒とは、自分自身で解離してプロトンを生じる溶媒をいう。プロトン性溶媒としては、たとえば、水やメタノールがあげられる。
ここで、小型RFコイルは、たとえばパルス状の前記励起用振動磁場を印加するとともに、前記励起用振動磁場に対応するFID(Free Induction decay:自由誘導減衰)信号を取得し、前記第一算出部が、前記FID信号の実部および虚部を取得することができる。また、このとき、ノイズに比べて有意なFID信号が取得できる程度の励起パルスで磁化ベクトルが励起されていればよく、励起パルスが磁化ベクトルを励起させる角度(静磁場方向を基準として傾ける角度)は任意である。
この角度を任意とすることで、T1緩和時定数に関わる磁化ベクトルの回復時間を短くすることもでき、より短時間の繰り返し時間で励起パルスを照射できて、電流分布の短時間計測が可能となる。
また、小型RFコイルは、たとえば励起用振動磁場を以下のシーケンスで印加するとともに、当該励起用振動磁場に対応するエコー信号を取得することもできる。
(a)90°パルス、および、
(b)(a)のパルスの時間τ経過後に印加される180°パルス。
励起用振動磁場を上記(a)および(b)を含むパルスシーケンスとし、第一算出部が、エコー信号の実部および虚部を取得するスピンエコー法を用いることにより、エコー信号の位相を収束させることができる。また、後述するように磁場の不均一性に起因する測定誤差を効果的に低減させることができる。このため、核磁気共鳴信号の実部および虚部の測定精度をさらに向上させることができる。
なお、本明細書において、「FID信号」および「エコー信号」は、励起用振動磁場に対応するとともに実部および虚部の検波が可能な核磁気共鳴信号として機能する信号であればよい。
また、本発明における「パルスシーケンス」とは、励起用振動磁場を印加する時刻とその間隔とを設定するタイミングダイアグラムを規定するシーケンスである。ここで、タイミングダイアグラムは、時系列的に必要な操作を行う手順表も含んでいる。
また、上記パルスシーケンスに加え、90°パルス(a)より時間τだけ前の時刻に、180°パルスを印加するステップを加えた別のシーケンスを実行するようにしてもよい。90°パルス(a)で取得したNMR信号の強度と、180°パルス(b)での時間τを適宜選んで取得したNMR信号の強度とを比較することで、RFコイルから照射する励起用振動磁場の強度が、正確に90°、180°に対応しているかを判断することができる。二つのパルスの強度が1対2の関係、または照射エネルギーが1対4、またはパルス印加時間が1対2の関係にあり、磁化ベクトルをそれぞれ90°および180°に励起することが測定値の確からしさと再現性を向上させる重要な要因となる。この結果、装置の異常または調整の未熟さにより二つのパルスの関係が不適切になった場合でも、測定を行う前の段階で異常を検知でき、測定値をより確からしいものとすることができる。
さらに、前記出力部は、前記判断部での判断結果を表示する表示部であることが好ましい。
ここで、本発明では、前記小型RFコイルに前記励起用振動磁場を発生させるRFパルスを生成するRFパルス生成部と、前記小型RFコイルで取得した核磁気共鳴信号を検出する信号検出部と、共振回路と、を有し、前記共振回路は、前記信号検出部およびRFパルス生成部に接続され、前記共振回路は、前記小型RFコイルと、容量素子と、前記小型RFコイルと前記容量素子とを接続する同軸ケーブルを有することが好ましい。
NMR法を用いた計測方法を行う場合、特定の周波数の核磁気共鳴信号を検出するために共振回路を使用することがある。この場合、共振回路の容量素子に高い電圧がかかるため、容量素子自体を小さくすることが難しい。同軸ケーブルを使用しない場合には、小型RFコイルと、容量素子とが近接して配置されることとなる。そのため、固体高分子電解質膜に対し、小型RFコイルを近づけて計測を行う場合、容量素子がじゃまになることある。
また、小型RFコイルと、容量素子とを一定距離離間することも考えられるが、この場合、単にコイルの線を延長させて、小型RFコイルと、容量素子とを接続したのでは、ノイズを拾う原因となる。
そこで、共振回路を、小型RFコイルと、容量素子とを同軸ケーブルで接続する構成とする。このようにすることで、ノイズの強度を大きくせずに、小型RFコイルと、容量素子との間の距離を長く確保することができる。これにより、測定精度を低下させずに、計測操作しやすくすることができる。
本発明によれば、燃料電池を運転した状態において、固体高分子電解質膜中での発電状況を正確に把握することができる燃料電池システムが提供される。
本発明の実施形態における電流の測定手順を示すフローチャートである。 CPMG法の補償機能を説明する図である。 実施形態における水分量の測定手順を示すフローチャートである。 スピンエコー法によりNMR信号を取得する原理を説明するための図である。 自己拡散係数計測のパルスシーケンスの例を示す図である。 実施形態における自己拡散係数の測定手順を示すフローチャートである。 第一実施形態における燃料電池システムの概略構成を示す図である。 燃料電池の概略構成を示す図である。 測定装置の制御部の構成を示す図である。 実施形態における測定装置の励起用振動磁場の印加およびNMR信号の検出を行うLC回路の一例を示す図である。 実施形態における測定装置の励起用振動磁場の印加およびNMR信号の検出を行うLC回路の一例を示す図である。 同軸ケーブルの等価回路を示す図である。 実施形態における測定装置のスイッチ部の構成を示す図である。 表示部の構成を示す模式図である。 実施形態における測定装置の一部の構成を示す図である。 NMR信号の位相差のずれを説明する図である。 第一実施形態における測定手順を示すフローチャートである。 第二実施形態における燃料電池システムの概略構成を示す図である。 第二実施形態におけるGコイルの配置を示す模式図である。 第二実施形態における測定手順を示すフローチャートである。 変形例における燃料電池システムの概略構成を示す図である。 実施例における小型RFコイルを示す図である。 実施例における膜電極接合体を示す図である。 各小型RFコイルでの周波数シフト量の測定値と、解析値とを示す図である。 燃料電池における電流の分布と、燃料電池セルの等価回路と、磁場強度の分布とを示す図である。 燃料電池の要部を示す図である。 燃料電池の電流−電圧特性を示す図である。 含水量を計測するためのCPMGシーケンスと、電流を計測するためのPGSEシーケンスを実行した順序を示す図である。 固体高分子電解質膜の水分量とNMRのエコー信号強度との関係を示す図である。 固体高分子電解質膜の水分量と、T2緩和時定数(CPMG)値との関係を示す図である。 CPMG法によって小型RFコイルで得られたエコー信号を示す図である。 実験条件Case1と2における、第1番目のエコー信号強度を示す図である。 小型RFコイル114A,114B,114Cでのエコー信号強度を、Case1と2で比較した結果を示す図である。 Case1の発電条件で計測された小型RFコイル114Dでの基準周波数シフト量の変化を示す図である。 Case1の発電条件で計測された小型RFコイル114E,114Fの周波数シフト量と、解析結果とを示す図である。 Case2の発電条件で計測された小型RFコイル114E,114Fの周波数シフト量と、解析結果とを示す図である。 実施例2における小型RFコイルの配置を示す図である。 実施例2−1における小型RFコイル114Mと小型RFコイル114Iでの平均エコー信号強度を示す図である。 実施例2−1における小型RFコイル114K、114NでPGSE法により計測された周波数シフト量を示す図である。 実施例2−2における燃料電池の温度と時間経過との関係を示す図である。 実施例2−2における小型RFコイル114M,114Iでの平均エコー信号強度を示す図である。 実施例2−2における小型RFコイル114K,114Nで計測された周波数シフト量を示す図である。 実施例2−3におけるバブラー出口での水素ガス濃度CH2の時間変化を示す図である。 実施例2−3における小型RFコイル114K,114Nでの周波数シフト量の計測結果を示す図である。 実施例で使用した測定装置を示す図である。 第三実施形態にかかる燃料電池を示す図である。 第三実施形態にかかる燃料電池システムを示す図である。 中実のセパレータと、薄板のセパレータとを示す模式図である。 セパレータに異なる電流を流した場合の磁場強度Hzの変動を示す図である。 セパレータに異なる電流を流した場合の磁場強度Hzの変動を示す図である。 セパレータに異なる電流を流した場合の磁場強度Hzの変動を示す図である。 セパレータが中実の場合と、薄板の場合における磁場強度Hzの変動を示す図である。 実施例3のCaseIにおける周波数シフト量を示す図である。 実施例3のCaseIIの触媒層と、固体高分子電解質膜とを示す模式図である。 実施例3のCaseIIにおける周波数シフト量を示す図である。 実施例3のCaseI、CaseIIにおける電流密度示す図である。 基準核磁気共鳴信号の周波数の経時変化を示す図である。
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、すべての図面において、共通の構成要素には同じ符号を付し、適宜説明を省略する。
(測定原理)
はじめに、後述する実施形態における電流の測定方法の測定原理について、例を挙げて説明する。なお、電流の測定モードを、以下、第一測定モードとも呼ぶ。
(A)電流の測定
図1は、電流の測定手順の概要を示すフローチャートである。図1においては、以下のステップを順次行い、核磁気共鳴(NMR)法を用いて試料(固体高分子電解質膜)の特定箇所の電流を局所的に測定する。NMR法においては、磁場中に置かれた原子核のスピン共鳴現象により核磁化の運動をNMR信号として検出することができる。小型表面コイル(小型RFコイル)を用いてNMR信号を計測すれば、コイル周辺部の局所NMR計測が可能となる。
ステップS301:試料を磁石が配置された空間に置き、試料に静磁場を印加する、
ステップS303:静磁場に置かれた試料の特定箇所に対し、試料より小さい小型RFコイルを用いて、励起用振動磁場を印加するとともに、特定箇所で発生した核磁気共鳴(NMR)信号を取得する、
ステップS305:ステップS303で取得した核磁気共鳴信号の周波数と励起用振動磁場の周波数とに基づく周波数の差分を算出する、
ステップS307:ステップS305で得られた差分から、試料の特定箇所の電流を求め、所定値以上であるかどうか判別する
ステップS309:その後、結果を出力する。
以下、ステップS303〜307をそれぞれ詳細に説明する。
(i)ステップS303(励起用高周波パルスの印加およびNMR信号の取得)
本ステップでは、励起用振動磁場として、試料内の計測対象核に照射する高周波パルスを印加する。また、励起用振動磁場による核磁気共鳴現象によって試料内の計測対象核から放出されるNMR信号を取得する。
NMR信号は、具体的には、励起用高周波パルスに対応するエコー信号である。エコー信号は、ステップS305における周波数の差分を確実に求めることができるように、位相が収束していることが好ましい。また、高周波パルスを、エコー信号の位相がそろうようなパルスシーケンスで印加することが好ましい。
このようなパルスシーケンスの具体例については、図4を参照して後述する。
また、NMR信号は、位相敏感検波方式により、実部と虚部とを分離して検波される。これにより、ステップS305における周波数の差分と、その増減(正負の符号)がわかる。
(ii)ステップS305(周波数変化の算出)
本ステップでは、ステップS303で取得したNMR信号の周波数と励起用振動磁場の周波数との差分(周波数シフト)を求める。
具体的には、位相敏感検波方式により取得されたエコー信号の実部と虚部のarctanを算出することにより位相差Δφを求める。そして、周波数シフトΔωを、単位時間あたりの位相差Δφとして換算する。
(iii)ステップS307(電流の算出)
本ステップでは、ステップS305で取得した周波数の差分Δωから、電流を算出する。以下、電流の算出原理を説明する。
計測対象に電流が流れれば、ビオ・サバールの法則から電流jに正比例した磁場Hjが発生する。そして、その磁場強度は電流が流れた位置と計測位置との距離rn(nはべき数)に反比例する。
一方、核磁気共鳴現象では、核磁化の共鳴周波数ωが磁場強度Hに正比例する。小型検出コイル(小型RFコイル)で磁気共鳴信号を取得している場合には、小型検出コイルが計測している領域の磁場強度Hを磁気共鳴周波数ωとして間接的に計測していることになる。
磁石が作る空間的にも時間的にも安定した磁場ベクトルH0の中で、電流jを流して磁場ベクトルHjを作れば、ある位置での磁場強度Hiは、両者の合成ベクトル(H0+Hj)で表される。磁場ベクトルH0は一定であるから、核磁化の共鳴周波数ωがΔωだけ増減した場合には、ある位置での磁場強度Hiは電流jと距離rnに関係することになる。
よって、たとえば
(i)試料の特定箇所に流れる電流jと周波数の差分Δωとの関係を実験的な方法等で予め取得しておく
あるいは
(ii)燃料電池をシミュレーションし、電流jと周波数の差分Δωとの関係を取得しておくこと等により、ステップS305で得られた周波数の差分Δωから試料に流れた電流jを求めることができる。
さらに、複数の小型RFコイルを試料に配置して、試料中の複数の位置について核磁化の共鳴周波数の増減Δωを計測すれば、電流jとそれが流れた位置rを逆問題解析によって求めることができる。
この際、NMRの検波方式では、ppmオーダの周波数分解能を持ち、これにより高分解能、高感度で磁場強度の変化を捉えることができる。たとえば、励起用振動磁場の周波数が43MHzである場合、10Hz程度の分解能は充分に得られる。
以下、上記(i)ステップS303で印加する励起用高周波パルスの具体例を示す。
実際の測定においては、試料や装置特性に起因する磁場の不均一が生じ、周波数の差分が正確に得られないことがある。そこで、以下の実施形態においては、スピンエコー法を用い、励起用高周波パルスを、たとえば以下の(a)および(b)を含む複数のパルスからなるパルスシーケンスとする。
(a)90°パルス、および、
(b)(a)のパルスの時間τ経過後に印加される180°パルス
上記(a)および(b)のパルスシーケンスに従う励起用振動磁場を印加することにより、エコー信号の位相が収束し、こうした磁場の不均一に起因する測定誤差が効果的に低減される。また、対応するエコー信号の位相のばらつきを抑制することができるため、電流をさらに正確に求めることができる。以下、この理由について図4を参照して説明する。
図4に示したように、共鳴励起された磁化ベクトルM-yは時間と共に緩和してゆく。この際に実際に観測される磁気共鳴信号の時間変化は、スピン−格子緩和時定数T1、スピン−スピン緩和時定数T2のみでは表すことができない別の時定数のT2 *により緩和していく。この様子が図4の最下段に信号強度の時間変化として90°励起パルスの直後から示されている。一般的に、この波線で示された実際に計測される磁気共鳴信号強度は急速に減衰し、その時定数T2 *はT2よりも短い。T2緩和による減衰曲線よりも実際に観測される減衰信号が速く減衰してしまう原因は、静磁場マグネットの作る外部静磁場の不均一性、試料の磁気的性質や形状による試料内磁場の不均一性などにより試料の全体に渡って均一な磁場が確保されていないことによる。このような実際に計測される磁気共鳴信号の時間変化を自由誘導減衰、英語表記では「Free Induction decay」、略した英語表記では「FID」と呼ぶ。
この試料や装置特性としての磁場の不均一性による位相のずれを補正する方法として「スピンエコー」がある。これは、90°励起パルスのτ時間後に、その2倍の励起パルス強度を持つ180°励起パルスを印加して、磁化ベクトルMの位相がxy平面上で乱れていく途中でその位相の乱れを反転させ、2τ時間後には位相を収束させてT2減衰曲線上にのるエコー信号を得るという手法である。
なお、静磁場に沿った方向を便宜上Z方向としたとき、上記(b)で印加する180°励起パルスとしては、X方向でもY方向でもどちらの180°励起パルスでも使用できる。
なお、上記(b)の時間2τ経過後にさらに180°パルスを印加し、これに対応するエコー信号を用いて電流計測を行ってもよい。ただし、複数回目のエコー信号を用いて電流計測を行う際には、できるだけ強いエコー信号を観測できるように、Y軸方向の180度励起パルスを複数回照射することが有効である。その理由は、後述する図2(a)〜図2(d)の磁化ベクトルの動きに示されている。
これらの方法を採用することによって、磁化ベクトルの位相を収束させ、できるだけ強いエコー信号を取得することができる。このようなエコー信号であれば、NMR信号をより高い精度で実部、虚部を検波し、基準周波数(励起用振動磁場の周波数)からの位相の変化量を確実に求めることができる。
なお、(a)と、(b)との間に、一定時間勾配磁場パルスを印加し、さらに、(b)の後に、一定時間勾配磁場パルスを印加してPGSE(Pulsed-Gradient Spin-Echo)法により、NMR信号を取得し、電流の測定を行ってもよい。
以上、電流の測定原理を説明した。
つづいて、NMR法を用いた試料中のプロトン性溶媒量およびプロトン性溶媒量の移動のしやすさ(易動性)の分布の測定原理について、プロトン性溶媒が水である場合を例に挙げて説明する。これらは、第一実施形態および第二実施形態において後述するように、電流の測定装置を用いて測定することができる。なお、以下の説明において、前述した電流測定と共通のステップについては、詳細な説明を適宜省略する。
まず、水分量の測定方法を説明する。なお、水分量の測定モードを、以下、第二測定モードとも呼ぶ。
(B)水分量の測定
以下の実施形態では、後述するCPMG(Carr-Purcell-Meiboom-Gill)法により、T2(横)緩和時定数を算出し、その後、「T2と水分量」の換算表を用いて試料の局所的な水分量を算出し、水分量の分布を把握する。
図3は、水分量測定の概要を示すフローチャートである。
図3に示した水分量測定においても、上述した電流測定と同様に、まず、試料を磁石が配置された空間に置き、試料に静磁場を印加する(S102)。この状態で、試料に対して小型RFコイルを介して励起用振動磁場(高周波パルス)を印加し、これに対応するNMR信号(エコー信号)を取得する(S104)。
次いで、このエコー信号からT2緩和時定数を算定する(S106)。そして、得られたT2緩和時定数から、試料中の局所的水分量を測定する(S108)。具体的には、試料中の水分量とT2緩和時定数との相関関係を示すデータを取得し、このデータと上記T2緩和時定数とから、試料中の特定箇所における局所的な水分量を求める。さらに、この水分量が所定の範囲内であるかどうか判別する。その後、結果を出力する(S110)。以上の手順(S104〜S110)を、各小型RFコイルを介して行なうことで、水分量の分布を把握することができる。
以下、ステップS104〜ステップS108を具体的に説明する。
(i)ステップS104(励起用高周波パルスの印加およびNMR信号の取得)
ステップ104における励起用高周波パルスは、複数のパルスからなるパルスシーケンスとし、これに対応するエコー信号群を取得するようにすることが好ましい。こうすることにより、T2緩和時定数を正確に求めることができる。
パルスシーケンスは、以下の(a)、(b)および(c)を含むものとすることが好ましい。
(a)90°パルス、および、
(b)(a)のパルスの時間τ経過後に印加される180°パルス、および
(c)(b)のパルスの時間2τ経過後からはじまり、時間2τの間隔で印加されるn個の180°パルス(nは自然数である。)
上記(a)および(b)は、(A)電流の測定と共通である。
上記(a)〜(c)のパルスシーケンスに従う励起用振動磁場を印加することにより、エコー信号の位相が収束し、こうした磁場の不均一に起因する測定誤差が効果的に低減される。また、対応するエコー信号の位相のばらつきを抑制することができるため、水分量をさらに正確に求めることができる。以下、この理由について図2(a)〜図2(d)を参照して説明する。
静磁場中に置かれた水素原子核は、静磁場に沿った方向(便宜上、Z方向とする)に正味の磁化ベクトルを持ち、特定の周波数(これを共鳴周波数と呼ぶ)のRF波をZ軸に垂直なX軸方向で外部から照射することで磁化ベクトルはY軸の正方向に傾斜し、核磁気共鳴信号(NMR信号と呼ぶ)を観測することができる。この際、最大強度のNMR信号を取得するために照射されたX軸方向の励起パルスを90°パルスと呼ぶ。そして、磁化ベクトルを90°パルスによってY軸の正方向に傾斜させた後、τ時間後に「Y軸方向」に外部から180°励起パルスを照射して、磁化ベクトルを「Y軸を対称軸として」反転させる。この結果、2τ時間後には磁化ベクトルがY軸の「正の方向」上で収束し、大きな振幅を持つNMR信号が観測される。
このように磁化ベクトルを「Y軸を対称軸として」反転させるため、以下の補償機能が発現する。図2(a)〜図2(d)は、スピンエコー法の補償機能を説明する図である。なお、図で示される座標は、回転座標系である。
試料の中に、静磁場の不均一性が無視できるような小さな領域の核磁化として、PとQを考える。Pにおける磁場がQにおける磁場より強いものとする。このとき、図2(a)に示すように、90°パルスをx'軸方向へ印加すると、P、Qの核磁化は、回転座標系で同じ場所(y'軸)から歳差運動を始め、時間の経過とともに、Pの位相がQの位相より進んだものとなる(図2(b))。
そこで、90°パルスから時間τ経過した時点でy'軸方向に180°パルスを印加すると、P、Qの核磁化はy'軸の周りに180°回転し、パルスを印加する前とy'軸に関して対称な配置になる(図2(c))。
この配置では、より進んだ位相をもっていた核磁化Pが、逆にQより遅れた位相をもつため、これからさらに時間τ経過した時刻では、どちらの核磁化も同時にy′軸に達することになる(図2(d))。
このような関係は、試料の中のあらゆる領域の核磁化について成り立つため、すべての核磁化は、この時刻にy'軸に集まり、その結果、大きなNMR信号が得られる。
以上のように、はじめにx'軸方向へ90°パルスを印加し、次いでy'軸方向に180°パルスを印加することにより、図2(c)で示したように、P、Qの核磁化はx'y'平面内で反転する。この核磁化の反転により、補償機能が良好に発現する。たとえば、(a)磁場の不均一性、(b)RFコイルが照射する励起パルス強度の不均一性等の原因により、P、Qの位置がx'y'平面上方または下方の位置にずれた場合でも、x'y'平面内で核磁化が反転することにより、位相のずれが補償される。
以上より、2τ時間後には磁化ベクトルがY軸の「正の方向」上で収束し、大きな振幅を持つエコー信号が観測される。さらに、上記(c)では、3τ時間後に磁化ベクトルに「Y軸方向」に外部から180°励起パルスを照射して、再度、Y軸の「正の方向」上で収束させて、4τ時間後に大きな振幅を持つエコー信号を観測する。さらに、同様の2τ間隔で、180°パルスを照射し続ける。この間、2τ,4τ,6τ,・・・の偶数番目のエコー信号のピーク強度を抽出し、ステップS106において指数関数でフィッティングすることで、CPMG法によるT2(横)緩和時定数を算出することができる。
(ii)ステップS106(T2緩和時定数の算出)
2緩和時定数は、図4を参照して前述したスピンエコー法を利用することにより的確に測定することができる。スピンエコーを使用した際のエコー信号の強度SSEは、TR>>TEの場合には、以下の式(A)で表される。
上記式(A)において、ρは位置(x,y,z)の関数としての対象核種の密度分布、TRは90°励起パルスの繰り返し時間(100msから10s程度)、TEはエコー時間(2τ、1msから100ms程度)、AはRFコイル検出感度やアンプ等の装置特性を表す定数である。
ステップS106では、前述のように、ステップS104で取得されたT2減衰曲線上にのる複数のエコー信号群(2τ,4τ,6τ,・・・)を指数関数でフィッティングすることで、上記式(A)よりT2緩和時定数を求めることができる。
(iii)ステップS108(水分量の算出)
図3に戻り、ステップS108では、T2緩和時定数から水分量を算出する。試料中の水分量とT2緩和時定数とは、正の相関を持ち、水分量の増加につれてT2緩和時定数が増大する。この相関関係は、試料の種類や形態等により異なるので、あらかじめ、水分濃度がわかっている測定対象試料と同種の試料について検量線を作成しておくことが望ましい。すなわち、水分量が既知の複数の標準試料に対して水分量とT2緩和時定数との関係を測定し、この関係を表す検量線をあらかじめ求めておくことが望ましい。このようにして作成した検量線を参照することで、T2緩和時定数測定値から試料中の水分量を算出することができる。
次に、易動性の算出について説明する。なお、易動性の測定モードを、以下、第三測定モードとも呼ぶ。
(C)易動性の算出
以下の実施形態では、勾配磁場を印加してPGSE(Pulsed-Gradient Spin-Echo)法による水分子の自己拡散係数を計測することにより、試料の局所的な水分子の易動性を算出し、水分子の易動性の分布を把握する。
液体分子内の特定の核スピンを磁気共鳴により励起させた後、数10msの間隔をおいて、一対の勾配磁場パルス(パルス状の勾配磁場)を印加すると、その間に個々の原子核がブラウン運動や、拡散により、移動して、核スピンの位相が収束しなくなるため、NMR信号の強度が低下する。段階的に変化させた勾配磁場パルスとNMR信号の強度の低下とを関連させることで、特定分子種の自己拡散係数を測定することができる。これがPGSE法による自己拡散係数の測定原理である。
図5は、自己拡散係数を計測するために用いるPGSEシーケンスの例を示す図である。図5におけるシーケンスでは、図4を参照して前述したスピンエコーシーケンスに、180°励起パルスを対称軸として、印加時間と強度が等しい一対の勾配磁場パルスGzをz方向に加えて、NMR信号として、たとえばスピンエコー信号を取得する。
得られるNMR信号のピーク強度Sは、印加するパルス勾配磁場強度Gz[gauss/m]、印加時間d、パルス間隔Δに依存し、以下のような関係式でz方向の自己拡散係数Dz[m2/s]と関係付けられる。
ln(S/S0)=−γ2DzΔ2dGz2 (II)
上記式(II)において、S0は、Gz=0とした時の通常のNMR信号強度を示す。また、d、ΔおよびGzは、それぞれ、勾配磁場パルスのパルス幅、一対の勾配磁場パルスの時間間隔、および勾配磁場パルスの磁場勾配(z方向)を示す。また、γは、磁気回転比を示し、核に固有の値である。たとえば、水素原子核1Hの場合、磁気回転比42.577×102[1/gauss・s]である。
なお、図5には、d=1.5ms、Δ=34.5msの場合のシーケンスが例示されている。たとえばこのようなパルスシーケンスで試料に磁場を印加することにより、NMR信号のピーク強度Sを用いて、自己拡散係数Dzを安定的に算出することができる。
図6は、以上のようなPGSE法を用いて試料の特定箇所の易動性を測定するフローチャートであり、以下のステップを含む。
はじめに、試料を磁石などによって作られた静磁場中に置き、試料に静磁場を印加する。この状態で、小型RFコイルを介して、試料に対して所定のパルスシーケンスに従って励起用振動磁場を印加し、小型RFコイルを介してこれに対応するNMR信号を取得する(S202)。
次に、試料中の同じ領域について、励起用振動磁場および勾配磁場を印加し、小型RFコイルを介してこれに対応するNMR信号を取得する(S204)。
なお、図6は、ステップS202において勾配磁場は無印加とした場合のフローであるが、ステップ202においてステップS204と異なる大きさの勾配磁場の印加を所定のパルスシーケンスにしたがって実行してもよい。このとき、たとえば、ステップS202における勾配磁場の大きさをゼロに近い値とすることが好ましい。
つづいて、パルス勾配磁場の勾配を段階的に変えて得られた複数のNMR信号から自己拡散係数Dを算定する(S206)。なお、ステップS206の後、ステップS206で算出された自己拡散係数Dに基づいて、試料中の水の他の易動性を示すパラメータを算出してもよい。その後、結果を出力する(S208)。
このような操作(ステップS202〜ステップS208)を、各小型RFコイルを介して行なうことで、自己拡散係数の分布を把握することができる。
以下、各ステップの詳細について説明する。
(i)ステップS202およびステップS204(励起用振動磁場の印加、勾配磁場の印加およびNMR信号の取得)
ステップS202およびステップS204では、試料に対し励起用振動磁場および勾配磁場を所定のパルスシーケンスにしたがって印加する。励起用振動磁場は、複数のパルスからなるパルスシーケンスであり、勾配磁場は、励起用振動磁場に対応する一対のパルスシーケンスである。
勾配磁場については、前述したように、ステップS202では勾配磁場をゼロまたはゼロに近い値とし、ステップS204では所定の勾配磁場を印加する。
また、パルスシーケンスは、以下の(a)〜(d)からなるものとすることが好ましい。
(a)励起用振動磁場の90°パルス、
(b)(a)のパルス時間の経過後からはじまり、一定時間d印加される、勾配磁場パルス、
(c)(a)のパルスの時間τ経過後に印加される励起用振動磁場の180°パルス、および、
(d)(c)のパルス時間の経過後からはじまり、一定時間d印加される、勾配磁場パルス。
ただし、ステップS202で勾配磁場をゼロとする場合は、上記(b)のシーケンスを行わない。
さらに具体的には、前述した図5に示したように、(b)の勾配磁場パルスを印加し終える時間と、(d)の勾配磁場パルスを印加し始める時間とが、(c)の180°パルス(パルスといっても、120マイクロ秒の幅がある。その中心の60マイクロ秒を対称軸と考える)から、等しい時間((34.5ms−1.5ms)/2=16.5ms)だけ離れた距離となるようにし、さらに、(b)の勾配磁場パルスの印加時間dと、(d)の勾配磁場パルスの印加時間dとを共に等しくする(d=1.5ms)。
そして、パルスシーケンスに対応するNMR信号を測定する。NMR信号のピーク強度Sは、スピンエコー法により測定される。具体的には、図5に示したように、2τ時間に現れるエコー信号のピーク強度Sを計測する。ピーク強度Sは、2τ時間のNMR信号強度のみではなく、その周辺の時間で計測されたNMR信号強度の平均値としてもよい。この方法により、NMR信号に含まれるノイズを原因とした測定値のばらつきを低減することができる。
このように、勾配磁場を段階的に印加して、磁場勾配を大きくした場合に対応したNMR信号の低下の程度を検出することにより、試料中のプロトンの自己拡散係数Dが算出される。
なお、ステップS204では、励起用振動磁場および勾配磁場の印加を所定のパルスシーケンスにしたがって実行するステップ、および、このパルスシーケンスに対応するNMR信号を取得するステップを、一回または複数回実行する。
(ii)ステップS206(自己拡散係数Dの測定)
ステップS206では、ステップS202およびステップS204で得られたNMR信号のピーク強度から、試料の特定箇所における水の自己拡散係数Dを求める。プロトンの自己拡散係数Dは、PGSE法で取得されたNMR信号のピーク強度Sを用いて、前述した式(II)で表される。
勾配磁場Gを印加しなかった時のNMR信号のピーク強度S0と勾配磁場Gを印加した場合のNMR信号のピーク強度Sとから、上記式(II)を用いて、試料中のプロトンの自己拡散係数Dを求めることができる。たとえば、試料中の同じ箇所について勾配磁場Gの大きさを変えて測定を行い、ln(S/S0)と−γ2DΔ2dG2との関係をプロットすることにより、プロットの勾配から自己拡散係数Dを求めることができる。
なお、第二測定モードで算出された水分量および第三測定モードで測定された水の易動性に基づいて、水分子の移動量の分布を算出することもできる。
以下、上述の測定原理を用いた燃料電池の運転方法、燃料電池システムについて、具体的に説明する。
(第一実施形態)
図7には、本実施形態の燃料電池システム1を示す。
この燃料電池システム1は、燃料電池5と、この燃料電池5の運転状態を計測する測定装置100とを備える。
(燃料電池の構成)
燃料電池5は、図8に示すように、固体高分子電解質膜511を有する膜電極接合体51と、一対の拡散層52、53と、セパレータ54,55とを有する。
膜電極接合体51は、固体高分子電解質膜511と、この固体高分子電解質膜511の両側に設けられた触媒層512、513とを有する。
固体高分子電解質膜511は、プロトン性溶媒(本実施形態では水)を含有しており、この水を含有した状態でイオンを伝導することができる膜である。固体高分子電解質膜511としては、たとえば、ナフィオン(登録商標)等を使用することができる。
一対の触媒層512、513のうち、一方の触媒層512は、固体高分子電解質膜511の一方の面に接触するように設けられ、他方の触媒層513は、固体高分子電解質膜511の他方の面に接触するように設けられる。触媒層512、513は、たとえば、カーボン粒子の表面に白金触媒を担持させたものを固体高分子電解質膜511の表面に積層することで形成される。
一方の触媒層512は、酸化剤極(酸素極、カソード)として機能する。他方の触媒層513は、燃料極(水素極、アノード)として機能する。燃料電池5の運転中は、電流は、電気回路(電子負荷装置)57を通って水素極(触媒層513)から酸素極(触媒層512)に移動する。
なお、触媒層512,513には、燃料電池5で発電した電流を取り出すための集電用の電極(集電体)56がそれぞれ取り付けられている。
拡散層52は、触媒層512の固体高分子電解質膜511側の面と反対の面側に設けられる。同様に、拡散層53は、触媒層513の固体高分子電解質膜511側の面と反対の面側に設けられる。拡散層52,53としては、たとえば、撥水処理されたカーボンペーパとすることができる。膜電極接合体51内に存在する水は、拡散層52,53を伝わって外部に排出される。
セパレータ54,55は流路541,551を有している絶縁材料、本実施形態では、ポリカーボネート製の板状体である。セパレータ54,55の流路を通るガスは、拡散層52,53を介して触媒層512,513と接触する。
(測定装置の構成)
図7には、本実施形態の燃料電池システム1の測定装置100の概略構成が示されている。なお、測定装置100の各構成要素は、CPU、メモリ、メモリにロードされた本図の構成要素を実現するプログラム等を中心に、ハードウエアとソフトウエアの任意の組合せによって実現される。そして、その実現方法、装置にはいろいろな変形例があることは、当業者には理解されるところである。
測定装置100は、NMR法を用いて固体高分子電解質膜511の特定箇所の電流を局所的に測定する装置であって、
固体高分子電解質膜511に対して静磁場を印加する静磁場印加部(磁石113)、
固体高分子電解質膜511に対して励起用振動磁場を印加するとともに、固体高分子電解質膜511の特定箇所で発生したNMR信号を取得する、固体高分子電解質膜511より小さい小型RFコイル114、
小型RFコイル114で取得されたNMR信号の周波数と励起用振動磁場の周波数とに基づく周波数の差分(以下周波数シフト量という場合もある。)Δωを算出し、当該差分から、固体高分子電解質膜511の特定箇所の電流を算出する第一算出部130A、
第一算出部130Aで算出した電流値が所定値以上であるかどうか判断する第一判断部160Aを備える。
また、測定装置100は、他に、RF発振器102、変調器104、RF増幅器(RF増幅部)106、プリアンプ112、検波器140、A/D変換器118、スイッチ部170、制御部150、計時部128、シーケンステーブル127、データ受付部120、記憶部190、判断部160,出力部135等を備える。
また、測定装置100は、図15を参照して後述する構造を備えていてもよい。
磁石113は、固体高分子電解質膜511に対して静磁場を印加する(図1のS301、図3のS102)。この静磁場が印加された状態で励起用振動磁場が固体高分子電解質膜511に印加され、電流の測定あるいは水分量の測定がなされる。
小型RFコイル114は、固体高分子電解質膜511の特定箇所に対し、励起用振動磁場を印加するとともに、励起用振動磁場に対応するNMR信号を取得する(図1のS303、図3のS104)。NMR信号は、具体的には、励起用振動磁場が核磁気共鳴を発生させるための高周波パルスである。
小型RFコイル114は、図8にも示すように、固体高分子電解質膜511の面方向に沿って複数配置されている。この小型RFコイル114は、拡散層52と固体高分子電解質膜511との間、拡散層53と固体高分子電解質膜511との間に配置される。
小型RFコイル114の計測領域は、固体高分子電解質膜511の表面から、固体高分子電解質膜511の厚みの途中位置までである。そして、拡散層52と固体高分子電解質膜511との間に配置された小型RFコイル114の計測領域と、拡散層53と固体高分子電解質膜511との間に配置された小型RFコイル114の計測領域とは重なっていない。
小型RFコイル114は、固体高分子電解質膜511全体の大きさの1/2以下とすることが好ましく、1/10以下とすることがより好ましい。このようなサイズとすることにより、固体高分子電解質膜511中の電流値や、プロトン性溶媒(水)量を短時間で正確に測定することが可能となる。
なお、固体高分子電解質膜511の大きさとは、固体高分子電解質膜511の表面の大きさである。小型RFコイル114の専有面積を、上記固体高分子電解質膜511の好ましくは1/2以下、より好ましくは、1/10以下とすることで、短時間で正確な測定が可能となる。小型RFコイル114の大きさは、たとえば、直径10mm以下とすることが好ましい。
小型RFコイル114は、たとえば実施例にて後述する図22に示すようなものを用いることができる。図示したような平面型コイルを用いることで、計測領域を限定し、局所的な測定を行うことができる。このような渦巻き型のコイルの計測領域は、たとえば幅がコイルの直径程度、深さがコイル半径程度である。また、このコイルは、通常のソレノイド型コイルと異なり、平面状であるために、平面状の固体高分子電解質膜の上に貼り付けるだけで、NMR信号を取得することができる。
また、小型RFコイル114は、平面型の渦巻き型コイルに限られず、種々の形態のものを用いることができる。たとえば、平面型の8の字コイル(バタフライコイル、Double−D型コイル等と呼ばれることもある。)等も利用可能である。8の字コイルは、二つの渦巻き型コイルを含むものであり、磁石の主磁場方向にコイルの渦巻きの軸が平行である場合でも、または、両者に角度がある場合でも、固体高分子電解質膜からのNMR信号を検知することができる。また、渦巻き型コイルは巻いたコイルの軸方向に感度を有するのに対し、8の字コイルは巻いたコイルと同じ平面内で感度を有する。
図7に戻り、小型RFコイル114により印加される振動磁場(励起用振動磁場)は、RF発振器102、変調器104、RF増幅器106、制御部150中のパルス制御部151(図9参照)、スイッチ部170、および小型RFコイル114の連携により生成される。また、本実施形態において、小型RFコイル114に励起用振動磁場を発生させるRFパルスを生成するRFパルス生成部は、RF発振器102、変調器104、RF増幅器106を含んで構成される。RF発振器102から発振した励起用振動磁場は、制御部150中のパルス制御部151による制御に基づいて変調器104にて変調され、パルス形状となる。生成されたRFパルスはRF増幅器106により増幅された後、小型RFコイル114へ送出される。
なお、図示しないがRFパルス生成部は、各小型RFコイル114それぞれに対応して設けられ、複数のRFパルス生成部は、制御部150に接続される。
励起用振動磁場の周波数は、静磁場における電流が流れていない状態でのNMR信号の共鳴周波数と略一致する。RF発振器102には、この共鳴周波数が記憶されている。
制御部150は、図9に示すように、パルス制御部151と、固体高分子電解質膜511の電流を測定する第一測定モードと固体高分子電解質膜511中の水分量を測定する第二測定モードとを切り替える切替部(モード切替制御部152)とを含む。
モード切替制御部152に接続された操作信号受付部129は、作業者の測定モードの要求を受け付ける。そして、操作信号受付部129が、この要求をモード切替制御部152に送出する。
パルス制御部151は、小型RFコイル114が固体高分子電解質膜511に印加する励起用振動磁場が上述のパルスシーケンスに従って実行するように、上記の連携を制御する。
パルス制御部151は、シーケンステーブル127および計時部128に接続されており、シーケンステーブル127から取得したシーケンスデータと計時部128での計測時間とに基づいて、高周波パルスを発生させる。シーケンステーブル127には、電流を測定する際の高周波パルスのシーケンスデータが記憶されている。シーケンステーブル127には、具体的には、高周波パルスの発生時刻とその間隔が設定されたタイミングダイアグラムと、タイミングダイアグラムに基づいて印加する高周波パルスの強度、位相が記憶されている。
小型RFコイル114は、このRFパルスを固体高分子電解質膜511の特定箇所に印加する。そして、印加されたRFパルスのNMR信号を小型RFコイル114が取得する。NMR信号は、たとえば励起用振動磁場に対応するエコー信号である。
第一測定モードにおいて、小型RFコイル114が固体高分子電解質膜511に印加する励起用振動磁場は、たとえば、
(a)90°パルス、および、
(b)(a)のパルスの時間τ経過後に印加される180°パルス
からなるパルスシーケンスとする。
また、第二測定モードにおいても、小型RFコイル114が固体高分子電解質膜511に印加する励起用振動磁場は、たとえば、
(a)90°パルス、
(b)(a)のパルスの時間τ経過後に印加される180°パルス、および
(c)(b)のパルスの時間2τ経過後からはじまり、時間2τの間隔で印加されるn個の180°パルス(nは自然数である。)
である。
なお、小型RFコイル114を用いる場合、(a)および(b)の励起パルス強度の調整が困難となる場合がある。たとえば、測定対象の領域、つまり小型RFコイル114で囲まれた領域のうち、中央部と周縁部とで励起のされかたに差異が生じてしまい、全体を均一の励起角度となるように、つまり(a)および(b)における励起磁場の強度比が一定となるように励起することが困難となる場合がある。(a)および(b)における励起角度比がばらつくと、適切なスピンエコー信号の取得が困難となる。
そこで、このような場合には、パルス制御部151が、上記パルスシーケンスに加え、90°パルス(a)より時間τだけ前の時刻に、180°パルスを印加するステップを加えた別のシーケンスを実行するようにする。そして、これら2つのシーケンスに対応する180°パルス(b)の減衰曲線の挙動を比較することにより、90°パルス(a)および180°パルス(b)の励起パルス強度が正確であるか否かを判別できる。この結果、装置の異常等により励起パルス強度がずれた場合でも、測定を行う前の段階で異常を検知でき、測定値をより正確なものとすることができる。また、(a)90°パルスが第1位相にあり、(b)180°パルスが、第1位相と90°ずれた第2位相にある構成とすることもできる。
なお、第一測定モードにおいて、以下のようなパルスシーケンスとしてもよい。
(a)励起用振動磁場の90°パルス、
(b)(a)のパルスを照射した後に、一定時間dだけ印加される、勾配磁場パルス、
(c)(a)のパルス照射から時間τだけ経過した後に印加される励起用振動磁場の180°パルス、および、
(d)(c)のパルスを照射した後に、一定時間dだけ印加される、勾配磁場パルス。
からなるパルスシーケンス。
次に、NMR信号の検出について説明する。
NMR信号検出部は、小型RFコイル114で取得したNMR信号を検出し、このNMR信号を演算部130に送出する。NMR信号検出部は、プリアンプ112、検波器140およびA/D変換器118を含んで構成される。検出されたNMR信号は、プリアンプ112により増幅された後、検波器140へ送出される。
なお、図示しないがNMR信号検出部は、各小型RFコイル114それぞれに対応して設けられ、複数のNMR信号検出部は、データ受付部120に接続される。
検波器140は、位相敏感検波法により、NMR信号の実部および虚部を検波するよう構成されている。検波器140において取得したNMR波形が実部と虚部に正確に分離するために、復調の元となる基本波のsin波とcos波の位相差が正確に90度になるように、厳密に調整することが好ましい。二つの基本波が厳密に90度の位相差となるように調整することにより、後述する実部と虚部のtan-1を用いた位相差の算出をさらに正確に行うことができる。なお、復調の元となる基準波は、たとえば図15を参照して後述する90°ハイブリッドによって作られる。
検波器140は、検波した実部と虚部をA/D変換器118へ送出する。A/D変換器118はNMR信号をA/D変換した後、データ受付部120に送出する。演算部130は、データ受付部120に送出されたデータを取得する。
以上、励起用振動磁場の印加およびNMR信号の検出について述べたが、これらは、小型コイルを含むLC回路により実現することができる。LC回路は、RFパルス生成部と、NMR信号検出部とに接続される。
図10は、このようなLC回路の一例を示す図である。図10においては、共振回路のコイル部(インダクタンス部)は、直径1.4mmの小型RFコイルとしている。核磁気共鳴(NMR)法においては、磁場中に置かれた原子核のスピン共鳴現象により核磁化の運動をNMR信号として検出することで原子数密度とスピン緩和時定数を計測することができる。1Teslaの磁場中でのスピン共鳴周波数は約43MHzであり、その周波数帯を高感度に選択的に検出するために、図10に示すようなLC共振回路が用いられる。
また、図10に示すLC共振回路にかえて、図11に示すような構成でLC共振回路を構成してもよい。図11のLC共振回路は、RFパルス生成部と、NMR信号検出部とに接続される。図11では、小型RFコイル114と、可変容量コンデンサC、Cとの間に同軸ケーブルLを配置している。
チューニング用の可変容量コンデンサC(可変容量素子)は、特定の周波数で回路が共振し、NMR信号を受信しやすくするように小型RFコイル114に対して挿入されている。
一方、アンプを含む伝送系を同一のインピーダンスに整合させるために、マッチング用可変容量コンデンサC(可変容量素子)が上述の共振回路に含まれている。
これらの共振回路の構成は、一つの例であり、同じように特定の周波数で共振し、伝送系とのインピーダンス整合が取れる回路であれば、他の構成としても良い。
同軸ケーブルLは、図12に示すように、コイルと、キャパシタとが組みあわされた等価回路として表すことができる。
同軸ケーブルLの長さを調整すると、図11の点Pから見たインダクタンスとキャパシタンスが増減するように見える。
ここで、測定装置100では、送受信系、伝送系のケーブル等がすべてたとえば、特定のインピーダンス(たとえば、50Ω)でインピーダンス整合されている。そこで、同軸ケーブルLの長さを調整し、小型RFコイル114を含む共振回路の特性インピーダンスを、所定のインピーダンスとすればよい。
図10に示したような共振回路を使用した場合、小型RFコイル114を、可変容量コンデンサCに直接接続した構成となるため、小型RFコイル114と、可変容量コンデンサCとの距離が近くなりやすい。そのため、固体高分子電解質膜511に対し、小型RFコイル114を近づけて計測を行う場合、可変容量コンデンサCがじゃまになることがある。特に、本実施形態のように複数の小型RFコイル114を使用する場合には、複数の可変容量コンデンサCが必要となり、複数の小型RFコイル114を所望の位置に配置しづらくなったり、複数の小型RFコイル114を密に配置することが困難となったりする可能性がある。
また、可変容量コンデンサCには大きな電圧がかかるため、可変容量コンデンサC自体を小さくすることは難しい。一方で、小型RFコイル114と、可変容量コンデンサとを一定距離離間することも考えられるが、この場合、単にコイルの線を延長させて、小型RFコイル114と、可変容量コンデンサとを接続したのでは、ノイズを拾う原因となる。
そこで、図11に示すような共振回路を使用することで、ノイズの強度を大きくせずに、小型RFコイル114と、可変容量コンデンサとの間の距離を長く確保することができる。これにより、測定精度を低下させずに、計測操作しやすくすることができる。また、複数の小型RFコイル114を使用する場合にも、小型RFコイル114を所望の位置に設置したり、密に配置したりすることが可能となる。
図7に戻り、スイッチ部170は、小型RFコイル114、RF増幅器106およびプリアンプ112を接続する分岐部に設けられており、
小型RFコイル114とRF信号生成部(RF増幅器106)とが接続された第1状態、および、
小型RFコイル114とNMR信号検出部(検波器140)とが接続された第2状態を切り替える機能を有する。
つまり、スイッチ部170は、「送受信切り替えスイッチ」の役目を果たす。この役目は、RF power−ampで増幅された励起パルスを小型RFコイル114に伝送する際には、受信系のプリアンプ112を切り離して大電圧から保護し、励起後にNMR信号を受信する際には、RF増幅器106から漏れてくる増幅用大型トランジスタが発するノイズを受信系のプリアンプ112に伝送しないように遮断することである。小型RFコイル114を用いて計測する場合には、微弱な信号を取り扱うため、以下の理由でスイッチ部170が必要となる。一方、小型RFコイル114を用いない大型計測システムでは、「クロスダイオード」を用いれば充分に対処ができる。なお、クロスダイオードは、所定値以上の電圧が印加された際にオン状態となり、所定値未満の場合にはオフ状態となるダイオードである。
また、スイッチ部170は各小型RFコイル114に対応して複数設けられている。
小型RFコイル114を用いる場合に特に「送受信切り替えスイッチ」すなわちスイッチ部170が必要な理由は以下の通りである。
(i)本計測システムの小型コイルで検出できる固体高分子電解質膜体積は、大型コイルに比べて小さくなる。この検出可能な固体高分子電解質膜体積は、おおよそ、(コイルの内側面積×コイル半径の深さ)である。体積に比例して減少する微弱なNMR信号を、低ノイズ、高感度で計測するためには、送信系において、RF増幅器106の増幅用大型トランジスタから漏れてくるノイズを遮断することが必要となる。また、受信系では高感度のプリアンプ112を使用する必要がある。高感度のプリアンプ112の使用に当たっては、送信時に小型コイルに送られる大電圧の励起パルスからプリアンプ112を保護できるように、プリアンプ112を切断しなければならない。
(ii)固体高分子電解質膜体積内の核磁化を励起する際に、適切な励起パルスパワーで、具体的には、90度パルスと180度パルスの強度が1対2の関係、または照射エネルギーが1対4、またはパルス印加時間が1対2の関係になるように、核磁化を励起する必要がある。励起パルスパワーの調整を適切に行うことができないと、目標としているスピンエコー法のパルス系列とならず、その結果、適切なスピンエコー信号の取得ができないために、易動度の計測の信頼性が低下する。この現象は、従来のクロスダイオードを用いて、小型コイルの送受信切り替えを行う際には顕著に現れる。大型コイルでは、励起パルス強度が非常に大きく、クロスダイオードでの損失が無視できるほど小さいとみなせるが、小型コイルの場合には、励起パルス強度が大型コイルのそれよりも小さいために、クロスダイオードでの損失が無視できない。このため、適切な励起パルス強度とするためには損失が極力少ない「送受信切り替えスイッチ」が必要となる。
上記分岐部にスイッチ部170を設けることにより、小型RFコイル114から固体高分子電解質膜511に印加される励起用振動磁場信号の損失を低減し、この結果、90°パルスおよび180°パルスのパルス角を正確に制御することが可能となる。パルス角の正確な制御は、スピンエコー法における補償効果を確実に得る上で重要な技術的課題であり、本実施形態では、かかる課題をスイッチ部170の配設により解決している。
また、局所計測のためのRF検出コイルは微小化し、NMR受信時の低ノイズ化が、計測の確からしさを確実なものとするためには重要な因子となる。NMR信号を受信する際に、プリアンプ112に入り込むノイズには、RF波の送信系が主にあり、励起用パルスを増幅するRF増幅器106からの「RF波の漏れ」や「大電力増幅器が発するノイズ」がある。NMR信号の受信時には、送信側から漏れてくる励起波をスイッチ部170で確実に遮断し、低ノイズでNMR信号を受信する必要がある。本実施形態では、かかる課題についても、スイッチ部170の配設により解決している。
スイッチ部170は、種々の構成を採用することができる。図13はスイッチ部170の構成の一例を示す回路図である。
また、測定装置100は、固体高分子電解質膜511に対して勾配磁場を印加する勾配磁場印加部(一対のGコイル251)および一対のGコイル251にパルス電流を供給する電流駆動用電源159をさらに備える。
一対のGコイル251は、小型RFコイル114から離間して配置された勾配磁場印加コイルである。一対のGコイル251は、図7に示すように、固体高分子電解質膜511に勾配磁場を印加できるように配置される。Gコイル251は、一つの小型RFコイル114に対して、2つ配置され、小型RFコイル114を挟んで対向配置されている。
Gコイル251の形状は、種々のものを採用し得るが、本実施形態では平板状コイルを用いる。Gコイル251は、たとえば、図19のような半月状のものであってもよい。なお、図7では、一つの固体高分子電解質膜511に複数の小型RFコイル114を設け、複数の小型RFコイル114に対して一対のGコイル251を配置する場合が例示されている。また、図19には、各小型RFコイル114に対して、一対のGコイル251が配置される場合が例示されている。
Gコイル251は、固体高分子電解質膜511の表面に対し平行に配置される。
また、Gコイル251は、小型RFコイル114よりも上方に配置されている。これにより、小型RFコイル114の中心軸上に、y軸方向に磁場の勾配を持つ勾配磁場を形成することができる。
小型RFコイル114と一方のGコイル251との間、小型RFコイル114と他方のGコイル251との間には、図示しない遮蔽シールドが設けられている。この遮蔽シールドにより、Gコイル251からのノイズが、小型RFコイル114に影響するのを防止している。遮蔽シールドは、ノイズの通過を防止し、かつ、磁場が通過できるような厚さとなっている。
以上、固体高分子電解質膜511周辺の装置構成について説明した。つづいて、NMR信号の処理ブロックについて説明する。
図7に戻り、検波器140で検波されたNMR信号(エコー信号)の実部および虚部は、データ受付部120により取得されて、演算部130に送出される。演算部130は、第一算出部130Aと、水分量算出部である第二算出部130Bとを有する。
第一測定モードにおいては、第一算出部130Aは、検波器140で検波されたエコー信号の実部および虚部を取得し、これらを用いてエコー信号と励起用振動磁場との位相差を算出し、この位相差から、エコー信号の周波数と励起用振動磁場の周波数とに基づく周波数の差分(周波数シフト量)Δωを算出する(図1のS305)。
エコー信号の周波数は、電流が流れて形成される磁場により、基準の周波数となる励起用振動磁場の周波数から変化する。このため、周波数の変化量(差分)と電流値との関係を予め取得しておくことにより、測定されたエコー信号の周波数の差分から、固体高分子電解質膜511を流れる電流が求められる。周波数の差分は、ある時間間隔での位相の変化量を単位時間あたりに換算することにより求められる。
具体的には、検波された実部と虚部よりtan-1(Re/Img)を算出する。この値は、NMR信号の位相差ΔΦ[rad]に相当する。ΔΦは、図16に示すように、時間的に変化しない周波数で進行する基準波(位相Φ0)と、計測したNMR信号との位相の差である。ここで、基準の周波数は、電流が流れていない状態でのNMR信号の共鳴周波数に予め設定しておく。
演算部130の第一算出部130Aは、得られた位相差ΔΦの単位時間あたりの変化量から、Δωを得る。そして、Δωと電流との関係を参照することにより、測定箇所における固体高分子電解質膜511の電流の値を算出する(図1のS307)。なお、第一算出部130Aは、得られた電流値を電流が流れている面積で除して、電流密度を算出してもよい。
Δωと電流との関係は、記憶部190の第三記憶部193に記憶されている。第三記憶部193には、たとえば、実験的に得られた周波数の差分Δωと電流との対応付けのデータが格納されている。これは、さらに具体的には周波数の差分Δωと電流との検量線データである。演算部130中の第一算出部130Aは、記憶部190の第三記憶部193から検量線データを取得し、これに基づいて周波数の差分Δωに対応する電流を算出する。
ここで、磁石113の温度変化に伴い、静磁場の強度が変化することがある。この静磁場の強度の変化は、小型RFコイル114の測定位置によっても異なる。静磁場の強度が変動する場合には、小型RFコイル114で取得する核磁気共鳴信号の周波数も変動してしまう。
そこで、第一算出部130Aでは、以下のようにして、電流値の算出を行う。
図57に示すように、第一測定モードにおける測定の前後において、電流が流れていない状態で、各小型RFコイル114から励起用振動磁場を印加する。そして、各小型RFコイル114にて、核磁気共鳴信号を取得し、これを基準核磁気共鳴信号とする。この操作を複数回行い、各小型RFコイル114に対応した基準核磁気共鳴信号の周波数の経時変化を取得する。この基準核磁気共鳴信号の周波数の経時変化を第一記憶部192に記憶させておく(たとえば、図57の直線A)。
第一測定モードにおいて、第一算出部130Aでは、電流値の測定を行った際、第一記憶部192に記憶された基準核磁気共鳴信号の周波数の経時変化に基づいて、電流値の測定を行った時点における基準核磁気共鳴信号の周波数を取得する(図57ω2)。
具体的には、第一算出部130Aでは、第一記憶部192に記憶された基準核磁気共鳴信号の周波数と時間との関係を近似直線とし、これを外挿(補間)して、燃料電池運転時の固体高分子電解質膜511に対して、励起用振動磁場を印加した際の基準核磁気共鳴信号の周波数を算出する。なお、第一算出部130Aでは、第一記憶部192に記憶された基準核磁気共鳴信号の周波数と時間との関係を近似式としてもよい。
そして、電流値の測定を行った際に各小型RFコイル114にて取得した核磁気共鳴信号の周波数(図57のω1)から、各小型RFコイルに対応した各基準核磁気共鳴信号の周波数(図57のω2)をそれぞれ差し引く。すなわち、電流値の測定を行った際に各小型RFコイル114にて取得した核磁気共鳴信号の周波数には、基準核磁気共鳴信号の周波数の経時変化が含まれているため、電流値の測定を行った際に各小型RFコイル114にて取得した核磁気共鳴信号の周波数(A)から、電流値の測定を行った時点(燃料電池運転中に固体高分子電解質膜に対して、励起用振動磁場を印加した時点、すなわち、(A)の周波数を計測した時点)での各小型RFコイルに対応する基準核磁気共鳴信号の周波数(B)を差し引き、差分Δωを算出し、さらに、電流値の算出を行う。
さらに、測定装置100は、第二記憶部191と、第四記憶部194と、判断部160とを有する。判断部160は、第一判断部160Aと、第二判断部160Bとを備える。
第二記憶部191には、固体高分子電解質膜511の各小型RFコイル114の測定箇所に対応づけられた電流値が複数記憶されている。換言すると、第二記憶部191には電流値の分布が記憶されている。この第二記憶部191に記憶された電流値の分布は、固体高分子電解質膜511の各領域において各電流値以上で、燃料電池5が駆動していれば、正常に駆動していることの指標となるものである。なお、第二記憶部191に電流値が記憶されており、記憶された電流値以上で燃料電池5が駆動していれば正常に駆動しているものと判断するとしたが、第二記憶部191に電流値範囲が記憶され、算出した電流値が、第二記憶部191に記憶された電流値の下限値以上か否か、上限値以上か否か判断するものとしてもよい。
固体高分子電解質膜511における発電状態は、固体高分子電解質膜511の面内で位置(場所)ごとに異なることがある。たとえば、固体高分子電解質膜511のガス供給口付近では、電流値が高くなる一方、ガス排出口付近では電流値が低くなる傾向がある。さらに、固体高分子電解質膜511の面内方向に沿った原料ガスの供給量(たとえば、ガス濃度、圧力、ガス流量など)の不均一性、加湿量や水分除去量の不均一性、燃料電池の温度の不均一性、触媒の劣化度合いの不均一性によっても、固体高分子電解質膜511における発電状態は、固体高分子電解質膜511の面内で異なることがある。
このように、固体高分子電解質膜511における電流量は、固体高分子電解質膜511の面内で異なる。そのため、第二記憶部191には、電流値の分布が記憶されているのである。
第二記憶部191に記憶された電流値の分布は、以下のような点を考慮し、たとえば、燃料電池5をシミュレーションして設定される。
(1)小型RFコイル114の設置位置
(2)小型RFコイル114の計測領域
(3)静磁場の方向と、電流が流れている方向との関係
(4)発電電流の空間的な分布
(5)発電電流の時間的変動
(6)燃料電池の要素構成、セル構成、スタック構成などの構造
(7)燃料電池の寸法、厚さ、および各要素部品の寸法
また、第二記憶部191に記憶された電流値の分布は、変更可能となっている。たとえば、上述した(1)〜(7)等により、正常に駆動していることを示す電流値は異なる。そこで、第二記憶部191に記憶された電流値の分布は、変更可能となっている。これにより、たとえば、小型RFコイル114の配置位置等を変更した場合であっても、燃料電池5が正常に駆動しているかどうか判断することができる。
なお、本実施形態では、上記(1)〜(7)を考慮して、第二記憶部191に記憶される電流値を設定したが、これに限らず、たとえば、過去の実験データをもとに、第二記憶部191に記憶される電流値を設定してもよい。さらには、燃料電池が固体高分子電解質膜511内で均一に発電していると仮定し、燃料電池5をシミュレーションして第二記憶部191に記憶される電流値を設定してもよい。
また、第四記憶部194には、固体高分子電解質膜511の各小型RFコイル114の測定箇所に対応づけられた所定の水分量の範囲が複数記憶されている。換言すると、第四記憶部194には水分量の範囲の分布が記憶されている。この水分量の分布は、固体高分子電解質膜511の各領域において、所定の水分量の範囲内で燃料電池5が駆動していれば、固体高分子電解質膜511のイオン伝導性が確保され、かつ、ブラッデイングが生じていないという指標となる。
固体高分子電解質膜511における水分量は、固体高分子電解質膜511の面内で異なることがある。たとえば、固体高分子電解質膜511のうち、比較的乾きやすい部分では、必然的に、水分量が少なくなる。そのため、第四記憶部194には、水分量の分布が記憶されているのである。
第一判断部160Aは、第一算出部130Aで算出した各小型RFコイル114に対応する電流値と、第二記憶部191に記憶された各小型RFコイル114の測定箇所に対応づけられた電流値とをそれぞれ比較する。たとえば、複数の小型RFコイル114のうち、一の小型RFコイル114Aにより測定され、第一算出部130Aで算出した電流値と、第二記憶部191に記憶され、一の小型RFコイル114Aの測定箇所に対応づけられた電流値とを比較する。そして、各測定領域において、第一算出部130Aで算出した電流値が、第二記憶部191に記憶された電流値以上であるかどうかを判断する。
第二判断部160Bは、第二算出部130Bで算出した各小型RFコイル114に対応する水分量と、第四記憶部194に記憶された各小型RFコイル114の測定箇所に対応づけられた水分量とをそれぞれ比較する。たとえば、複数の小型RFコイル114のうち、小型RFコイル114Aにより測定され、第二算出部130Bで算出した水分量と、第四記憶部194に記憶され、小型RFコイル114Aの測定箇所に対応づけられた水分量の範囲とを比較する。そして、各測定領域において、第二算出部130Bで算出した水分量が、第四記憶部194に記憶された水分量の範囲内であるかどうかを判断する。
第一判断部160A、第二判断部160Bでの判断結果は、出力部135の表示部135Aに出力される。表示部135Aはディスプレイである。
具体的には、図14に示すように、表示部135Aには、小型RFコイルの配置に応じて表示領域が区画されている。たとえば、電流値が所定値未満であり、水分量が所定値範囲外である領域は、第1の色で表示され、電流値が所定値未満であり、水分量が所定値範囲内である領域は、第2の色で表示される。
さらに、電流値が所定値以上であり、水分量が所定値範囲内である場合には第4の色で表示される。
ユーザは、表示部135Aの表示を見て、どの領域で発電量が低下しているか、水分量が不足であるか過剰であるかを把握することができる。
なお、本実施形態では、出力部135は、ディスプレイである表示部135Aを有するとしたが、これに限らず、リンタ出力、ファイル出力等、特に制限はない。
固体高分子電解質膜511を用いた燃料電池5では、ガスの供給状態、触媒の劣化、高分子電解質膜511のイオン伝導性によって発電状態が変化する。
水素利用率を高くした場合には、ガス供給口近くでは水素濃度が高く、その場所での発電電流が大きいが、一方、ガス出口近くでは水素濃度が低く、発電電流も小さくなる。これは「物質輸送損失」が大きくなるためである。
また、燃料電池5の触媒が劣化すれば、「活性化損失」が大きくなり、発電電流が低下する。Pt触媒は燃料電池の起動、停止などの過渡変動時によって劣化し、それには空間的な不均一性を生ずる。
また、高分子電解質膜511の含水量に依存してイオン伝導性は増減し、「オーム損失」が変化して、発電電流が増減する。この損失は含水量の空間的な分布に依存するために、電流も一枚の高分子電解質膜511の中であっても空間的な分布を持つことになる。
燃料電池発電では、上記の「物質輸送損失」、「活性化損失」、「オーム損失」が重なって最終的に出力される電流と電圧が決まり、電池の性能となる。燃料電池の出力端子から出力される電流は電流計によって容易に計測できるが、その電流値は、平面状の「MEA(Membrane Electrode Assembly)の総和」であり、空間的な分布を持つ電流を平面全体で積分した値である。電池性能を向上させる際に必要な電池内部の情報は、場所ごとに異なってしまう発電状態であり、場所ごとに異なる電流である。
電流のMEA面内での空間分布が計測でき、さらに、MEA面内での水分量分布が計測できれば、空間的に「物質輸送損失」、「活性化損失」、「オーム損失」がどのような状態にあるのか推測することが可能となる。
たとえば、水分量が所定範囲外で少なく、かつ、電流値が所定値未満である場合には、発電量低下の原因として、固体高分子電解質膜511の水分量不足が考えられる。そこで、燃料電池5の運転条件を調整することができる。
たとえば、
(i)水素極側での加湿量を増加する
(ii)酸素極側での水分の除去量を低下させる(たとえば、空気流量を低下させる等)
(iii)燃料電池の温度を低下させる
等の調整を行う。
一方で、水分量が所定範囲外で水分量が過剰であり、かつ、電流値が所定値未満である場合には、発電量低下の原因として、ブラデッィングの発生等が考えられる。この推測に基づいて燃料電池の運転条件を調整することができる。
たとえば、
(i)水素極側の加湿量を低下させる
(ii)酸素極側での水分の除去量を増加させる(たとえば、空気流量を増加させる等)
(iii)燃料電池の温度を上昇させる
等の調整を行う。
さらに、水分量が所定範囲内であり、かつ、電流値が所定値未満である場合には、発電量低下の原因として、水素濃度の低下、酸素濃度の低下、触媒の劣化等が考えられる。この推測に基づいて燃料電池の運転条件を調整することができる。
次に、図15を参照して、RF発振器102、変調器104、RF増幅器106、パルス制御部151、スイッチ部170、小型RFコイル114、プリアンプ112、検波器140およびA/D変換器118の連携について説明する。
図15において、変調器104は、ミキサー177、ミキサー179および合成器181を含んで構成される。検波器140は、ミキサー183、ミキサー185および分配器187を含んで構成される。A/D変換器118は、第一A/D変換器118Aおよび第二A/D変換器118Bを備える。
また、図15においては、RF発振器102と変調器104との間に、90°ハイブリッド171および分配器173がさらにこの順に配置され、90°ハイブリッド171と検波器140との間にさらに分配器175が配置されている。
この構成において、RF発振器102から出力される波形を90°ハイブリッド171によって、同一周波数だが90°だけ位相が異なる二つの波形とする。この二つの基準波形を元にして、NMR信号が検波され、RealとImaginary成分となる。
ここで、90°ハイブリッド171から出力されている二つの波形は、具体的にはsin波、cos波であり、二つの波形が精度良く直交していることが位相を求める上で重要な点である。
なお、図15において、A/D変換器118での信号の名前がRealおよびImaginaryと付けられているが、これは便宜上の表現であり、ImaginaryとRealと逆になっていても構わない。逆になった場合は、arctanで求められる位相が±90°だけずれるだけであり、時間と共に増減する「位相の変化量」を求める際には問題とはならない。
一方で、第二測定モードにおいては、小型RFコイル114が、励起用振動磁場に対応するNMR信号(エコー信号)を取得し、第二算出部130Bが、小型RFコイル114で取得されたエコー信号に基づく固体高分子電解質膜511中のプロトン性溶媒(水)の量の算出を実行する。
第二算出部130Bは、具体的には、エコー信号の強度から、T2緩和時定数を算出し、算出したT2緩和時定数から、固体高分子電解質膜511中の特定箇所におけるプロトン性溶媒の量を算出する。
ここで、プロトン性溶媒(水)の量の算出する際に、必要となる「NMR信号の強度」は、検波器140にて取得されたRealとImaginaryの成分を基に、
(Real^2+Imaginary^2)^−1/2
によってその強度に変換すればよい。すなわち、この演算は図16の円の半径を求めていることに相当する。
以上のような燃料電池システム1において、図17に示すように、電流値の算出と、水分量の算出とは以下のような手順で行うことができる。
ステップS401:固体高分子電解質膜511に静磁場を印加する(図1のS301、図3のS102に該当)
ステップS402:燃料電池の運転を停止した状態で、
(a)90°パルス、および、
(b)(a)のパルスの時間τ経過後に印加される180°パルス
を含むパルスシーケンスで、励起用振動磁場を印加し、エコー信号を取得する。
ここで、180°パルスの前後に、Gコイル251から所定時間勾配磁場を印加してもよい。以上の操作を複数回行い、基準核磁気共鳴信号の周波数(燃料電池を停止した状態で小型RFコイルで取得する核磁気共鳴信号の周波数)の経時変化を取得する。
ステップS403:小型RFコイル114を介して、
(a)90°パルス、
(b)(a)のパルスの時間τ経過後に印加される180°パルス、および
(c)(b)のパルスの時間2τ経過後からはじまり、時間2τの間隔で印加されるn個の180°パルス(nは自然数である。)
のパルスシーケンスで、励起用振動磁場を印加し、これに対応するエコー信号を取得する(図3のS104に該当)
ステップS404:ステップS403で取得した(b)および(c)のパルスに対応する複数のエコー信号の強度からT2緩和時定数を算定する(図3のS106に該当)
ステップS405:ステップS404で算出したT2緩和時定数から、固体高分子電解質膜中の局所的水分量を測定する(図3のS108に該当)
ステップS406:ステップS405で得られた局所的水分量が、所定の範囲内であるかどうか判別する(図3のS108に該当)
ステップS407:燃料電池を運転した状態で、ステップS402と同じパルスシーケンスで、励起用振動磁場を印加し、エコー信号を取得する(図1のS303に該当)。ここでも、ステップS402と同様に勾配磁場を印加してもよい。また、S407のあとに再度S402を実施してもよい。
ステップS408:ステップS407で取得したエコー信号の実部および虚部を用い、さらに、ステップS402で求めた基準核磁気共鳴信号の周波数の経時変化を考慮して、第一算出部により、エコー信号の周波数と励起用振動磁場の周波数とに基づく周波数の差分Δωを算出する(図1のS305に該当)。
ステップS409:ステップS408で得られた差分から、固体高分子電解質膜の特定箇所の電流を求め所定値以上であるかどうか判別する(図1のステップS307に該当)
ステップS410:ステップS406,S409での結果を出力する。
次に、本実施形態の作用効果について説明する。
本実施形態では、小型RFコイル114を用いて、局所的に励起用振動磁場を印加するとともに、励起用振動磁場を印加した箇所から発せられる核磁気共鳴信号を取得し、得られた核磁気共鳴信号から固体高分子電解質膜511の特定箇所における電流を求めている。本発明者らが検討した結果、このような測定方法を使用すれば、燃料電池5の運転中に、固体高分子電解質膜511の特定箇所における電流値を正確に把握することができることがわかった。
従って、本実施形態の燃料電池システム1を採用し、運転中の燃料電池5の固体高分子電解質膜511の特定箇所において電流値が所定値以上であるかどうかを判断することで、発電状態を正確に判定することが可能となる。
また、本実施形態では、静磁場強度の経時変化に伴い、基準核磁気共鳴信号の周波数の経時変化を取得している。具体的には、燃料電池5を運転する前あるいは後(または、前および後)において、前記燃料電池5を停止させ、励起用振動磁場の周波数を複数回印加し、各小型RFコイル114にて、核磁気共鳴信号を取得し、これを基準核磁気共鳴信号している。そして、取得した基準核磁気共鳴信号の周波数と時間との関係から基準核磁気共鳴信号の周波数の経時変化を求めている。第一算出部では、基準核磁気共鳴信号の周波数の経時変化を考慮し、電流値を算出している。このようにすることで、静磁場強度の経時変化を考慮し、正確な電流値を把握することができる。
また、本実施形態では、基準核磁気共鳴信号の周波数の経時変化を計測した小型RFコイル114と、電流値を計測する小型RFコイル114とを同じものとしている。これにより、電流値を測定する領域における基準核磁気共鳴信号の周波数の経時変化を把握することができるので、正確な発電状況を把握することができる。
さらには、燃料電池5では、固体高分子電解質膜511の場所ごとに、発電量が異なることがある。これは、固体高分子電解質膜511の面内方向に沿った原料ガスの供給量(たとえば、ガス濃度、圧力、ガス流量など)の不均一性、加湿量や水分除去量の不均一性、燃料電池の温度の不均一性、触媒の劣化度合いの不均一性等のためである。そのため、固体高分子電解質膜511の各領域における発電量を、同一基準で評価することは難しい。
そこで、本実施形態では、発電状態を把握するための電流の基準値(所定値)を、小型RFコイル114の配置箇所に応じて設定している。これにより、固体高分子電解質膜511の各領域において、正常な発電が行われているかどうか正確に把握することができる。
さらに、本実施形態では、小型RFコイル114により測定対象となる部位を限定して励起用振動磁場を与えることにより、固体高分子電解質膜511の所定の領域における局所的な電流を短時間で測定することができる。
また、電流を求める際に、周波数分解能の高い核磁気共鳴信号を用いることにより、測定精度を向上させることができる。また、核磁気共鳴信号の周波数と励起用振動磁場の周波数との差分を算出し、差分から電流を求めることにより、非特許文献2を参照して前述したホール素子を用いた測定のような絶対値を用いる方法に比べて、温度環境などの素子周囲の環境変化による影響や、校正曲線の必要性を低減させることができるため、測定精度をより一層向上させることができる。
本実施形態のように小型表面コイル114を用いると、計測領域が小さいために、計測領域内での静磁場均一性が高くなり、エコー信号が非常に長い時間に渡って観測できる。これにより、高い周波数分解能で周波数シフト量を計測することができる。
また、スピンエコー法を用いてNMR信号の位相を収束させることにより、エコー信号の位相を収束させて小型RFコイル114で取得することができる。これにより、エコー信号の実部と虚部の検波およびこれらを用いた位相差ΔΦの算出をさらに正確に行うことができる。なお、本実施形態および本明細書の他の実施形態における周波数シフト量の測定には、スピンエコー法を用いなくてもよく、周波数シフト量は、単純なFID(Free Induction Decay)から算出することもできる。スピンエコー法の方が、FIDよりも計測領域が小さく制限されるので、FIDよりも静磁場の均一性をさらに高めることができる。
また、電流の計測の際に、小型RFコイル114に代えて大きなソレノイドコイルで固体高分子電解質膜全体を計測することを試みると、静磁場の均一性が悪くなり、FIDは短く、エコーは短く、鋭いピークの形となる。このため、大きなソレノイドコイルで行う場合には、磁場の均一性から困難が伴う。これに対し、本実施形態では小型RFコイル114を用いるため、充分な磁場の均一性が得られる。
また、化学シフト法において、大きなソレノイドコイルを用い、勾配磁場を印加して特定の局所のみを励起して、NMR信号の周波数シフト量を計測することも可能ではある。これに対し、小型表面コイルでは、計測領域がコイルの形状によって制限されているので、局所励起のために勾配磁場を用いる必要はない。このため、装置構成を簡略化できる。
また、非特許文献2を参照して前述したホール素子を用いる場合、センサの抵抗値と温度の二つの物理量を測定する必要があるのに対し、本実施形態の方法では、核磁気共鳴信号から得られる周波数を取得すればよいため、一つの物理量の計測で済む点で、簡便な方法である。
また、本実施形態によれば、一つの装置で固体高分子電解質膜511の局所的な電流だけでなく、含水量を合わせて計測できる。燃料電池運転時の固体高分子電解質膜511の状態をより一層詳細に把握することができる。
(第二実施形態)
次に、図18〜20を参照して、本発明の第二実施形態について説明する。
前記実施形態では、第二記憶部191には、各小型RFコイル114の測定箇所に対応づけられた電流値が記憶されていたが、第二記憶部191に記憶された電流値は、固定値であった。
これに対し、本実施形態では、発電電流の時間的変動を考慮し、第二記憶部191には、各小型RFコイル114の測定箇所に対応づけられた電流値の経時変化が記憶されている。この経時変化は、燃料電池5の運転を開始し、停止するまでの時間に沿った変化である。
たとえば、燃料電池5の運転を開始した直後は、十分に発電できない場合がある。また、燃料電池5を長時間運転すると、触媒の劣化や水分の蒸発等により、発電量が低下する。これらの現象を考慮し、第二記憶部191には、各小型RFコイル114の測定箇所に対応づけられた電流値の経時変化が記憶されている。
そして、第一判断部160Aでは、燃料電池5の運転開始からの時間と、第二記憶部191に記憶された各小型RFコイル114の測定箇所に対応づけられた電流値の経時変化とから、基準となる電流値(所定値)を取得し、第一算出部130Aで算出した各小型RFコイル114に対応する電流値が、所定値以上であるかどうかを判断する。
このようにすることで、第一実施形態と同様の効果を奏することができるうえ、燃料電池5の発電状態が正常であるかどうかをより正確に判断することができる。
また、本実施形態では、電流値、水分量に加えて水の易動性を算出することが可能である。
図18に示した装置の基本構成は、図7に示した測定装置と同様であるが、演算部130が、さらに易動性算出部130Cを備えている点が異なる。
なお、電流、水分量および自己拡散係数を計測する際には、小型RFコイル114のみを固体高分子電解質膜511に接触させる。
易動性算出部130Cは、異なる勾配磁場に対応して得られた小型RFコイル114で取得されたNMR信号に基づいて、固体高分子電解質膜511中のプロトン性溶媒(水)の易動性を算出する。
また、本実施形態において、制御部150中のモード切替制御部152が、固体高分子電解質膜511の電流を測定する第一測定モード、固体高分子電解質膜511中の水分量を測定する第二測定モード、および固体高分子電解質膜511中の水の易動性を測定する第三測定モードを切り替える。
第三測定モードにおいては、小型RFコイル114が、固体高分子電解質膜511に励起用振動磁場を印加するとともに、励起用振動磁場および勾配磁場に対応する核磁気共鳴信号を取得する。また、易動性算出部130Cが、異なる勾配磁場に対応して得られた核磁気共鳴信号の情報に基づいて、固体高分子電解質膜511の特定箇所の易動性を算出する。
また、第三測定モードにおいては、小型RFコイル114は、以下の(a)〜(d)を含むパルスシーケンスで、励起用振動磁場を印加する。
(a)励起用振動磁場の90°パルス、
(b)(a)のパルス時間の経過後からはじまり、一定時間d印加される、勾配磁場パルス、
(c)(a)のパルスの時間τ経過後に印加される励起用振動磁場の180°パルス、および、
(d)(c)のパルス時間の経過後からはじまり、一定時間d印加される、勾配磁場パルス。
なお、上記(b)で印加される勾配磁場がゼロであってもよい。また、(a)90°パルスが第1位相にあり、(c)180°パルスが、第1位相と90°ずれた第2位相にある構成として、スピン−スピンに基づくNMR信号のピーク強度と固体高分子電解質膜511中の水の自己拡散係数Dとの相関関係を取得することもできる。
次に、図20を参照して本実施形態の燃料電池システムを使用した、電流値、水分量、自己拡散係数の計測手順について説明する。
まず、第一実施形態と同様のステップS401〜S409までを実施する。
その後、以下のステップを実施する。
ステップS411:勾配磁場をゼロとし、上記(a)〜(d)を含むパルスシーケンスで、励起用振動磁場を印加し、これに対応するエコー信号を取得する(図6のS202に該当)、
ステップS412:勾配磁場をゼロでない所定の大きさとし、上記(a)〜(d)を含むパルスシーケンスで、励起用振動磁場を印加し、これに対応するエコー信号を取得する(図6のS204に該当)、
ステップS413:ステップS411およびステップS412で得られたNMR信号のピーク強度から、上記式(II)を用いて、固体高分子電解質膜511の特定箇所の水の自己拡散係数Dを求める(図6のS206に該当)、
ステップS414:ステップS406,S409、さらには、ステップS413での自己拡散係数の結果を出力する。
このような第二実施形態によれば、第一実施形態と同様の効果を奏することができるうえ、以下の効果を奏することができる。
本実施形態では、第二記憶部191には、各小型RFコイル114の測定箇所に対応づけられた電流値の経時変化が記憶されている。この経時変化は、燃料電池5の運転を開始し、停止するまでの時間に沿った変化である。第一判断部160Aでは、燃料電池5の運転開始からの時間と、第二記憶部191に記憶された各小型RFコイル114の測定箇所に対応づけられた電流値の経時変化とから、基準となる電流値(所定値)を取得し、第一算出部130Aで算出した各小型RFコイル114に対応する電流値が、前記所定値以上であるかどうかを判断する。
このようにすることで、燃料電池5の発電状態が正常であるかどうかをより正確に判断することができる。
また、本実施形態では、電流値、水分量に加えて水の易動性の指標となる自己拡散係数を算出することができる。これにより、燃料電池5の発電状態をより正確に把握することができる。
さらに、電流値、水分量、自己拡散係数の三つの値を数秒ごとに交互に計測することで、ほぼ同時刻に両者の値を取得することができる。
(第三実施形態)
図46、図47を参照して、本発明の第三実施形態について説明する。
本実施形態では、前記各実施形態と燃料電池の構成および小型RFコイルの配置が異なっている。本実施形態の燃料電池システムは、図47に示すように、燃料電池600と測定装置700とを備える。
図46に示すように、燃料電池600は、前記実施形態と同様の膜電極接合体51と、膜電極接合体51を挟んで配置された拡散層52,53を備える。膜電極接合体51は、固体高分子電解質膜511と、触媒層と(図示略)を備える。
セパレータ64は前記実施形態のセパレータとは異なるものであり、本実施形態では、導電性の部材、たとえば、金属で構成されている。このセパレータ64は、図46奥行き方向に直線上に延びる直方体状の複数のリブ641を備えている。複数のリブ641は、互いに平行に配置され、リブ641の間の溝部642がガスの流路となる。リブ641は、中実であってもよいし、内部に空洞が形成されていてもよい。セパレータ64は、平板状の集電体56に接続され、集電体56と一体成形されている。集電体56は、固体高分子電解質膜511の表面側からの平面視において、固体高分子電解質膜511を完全に覆うようにもうけられている。
図47に示すように、測定装置700は、第一実施形態の測定装置100と略同様の構成であるが、小型RFコイル114の配置や、記憶部790の構成が異なっている。
小型RFコイル114は、図46に示すように、一方の拡散層52と、固体高分子電解質膜511との間、他方の拡散層53と固体高分子電解質膜511との間に配置される。この小型RFコイル114は固体高分子電解質膜511表面側からの平面視において、リブ641と溝との境界線を含むように、リブ641の両側に配置される。
また、本実施形態では、前記実施形態と同様の第一記憶部192、第四記憶部194を有するとともに、第五記憶部795を有する。
第五記憶部795には、所定の数値が記憶されている。
第一判断部160Aでは、第一算出部130Aで算出した一つの小型RFコイル114(リブ641とリブ641に隣接する一方の溝部642との境界部分に配置された小型RFコイル114)により計測した周波数シフト量と、この小型RFコイル114に隣接する小型RFコイル114(リブ641とリブ641に隣接する他方の溝部642との境界部分に小型RFコイル114)により計測した周波数シフト量との差を算出し、第五記憶部795に記憶された数値範囲内であるかどうかを判断する。
そして判断結果を出力部135に出力する。
このようにすることで、リブ641の両側の領域での発電状況を把握することができ、さらには、固体高分子電解質膜511中での発電状況が均一化、不均一かを把握することができる。
この点につき、以下のシミュレーションをもとに説明する。
ここでは、以下の条件でシミュレーションを行った。
・燃料電池500の発電領域は48 mm×48 mm
・集電体56の厚さMは1mm
・セパレータ64の流路lは幅1mm、深さ1mm、ピッチPは2mm
・セパレータ64のリブ641は中実の場合と、薄板(厚さ0.1mm)の場合の2種類を考える(図48(A)、(B)参照)。
・GDL(拡散層52,53)の厚さは400μm
・PEM(表面に触媒層が塗布された高分子電解質膜511)の厚さは178μm
・燃料電池500の構造は、図46の奥行き方向に一様であるとする。(流路が一筆書き状に曲がるなどは考えない。)
座標軸は、図46に示すように、燃料電池500の発電面をyz平面とし、その面に垂直な方向をx軸方向とした。電流はx軸方向に流れるとする。
また、理論解析を行うにあたり、以下のような仮定をおいた。
・電流はx方向のみに流れる。
・セパレータ64の導電性材料の電気伝導率は無限大、電気抵抗はゼロである。
・定常電流である。
・発電電流は0 A, 11.5 A, 23 Aの3条件とし、x方向の電流密度成分は、各位置xでのyz平面での導電体面積に依存する。(集電体56、拡散層52,53、固体高分子電解質膜511では全面で電流が流れるが、セパレータ64では、yz平面の面積が中実と薄板で異なり、導電体面積が増減するため、その面積に反比例して電流密度が増減するとした。x軸方向での電流の保存を保証するためにこのように考えた。)
・発電電流はy軸方向にのみ変化する一次元分布とし、奥行き方向には一様である。
・NMR計測での静磁場印加方向は、z軸方向である。
・NMR計測のための小型RFコイル114の大きさ、厚さは無視する。
本解析では、静磁場方向と同じz方向の磁場強度Hzのみを解析する。
燃料電池600での発電が全面に渡って一様に起こり、その発電電流が0 A, 11.5 A(発電電流密度ixで0.5 A/cm2)の場合のz方向の磁場強度Hzの分布を図49に示す。セパレータ64は中実の場合である。図中の上部には、セパレータ形状を示した。
図49から、全領域に渡って、磁場強度Hzのy方向分布が形成されることがわかる。磁場強度Hzはy軸方向の中心部分で位置yに対して正比例の関係にあるが、燃料電池500が一様に発電している場合であっても、端面に近づくにつれて、磁場強度Hzは中心部よりも急な勾配を持つことが分かる。
NMR計測における周波数シフトは、磁場強度Hzによって生じ、1 A/mあたり336 Hzだけシフトする。実際の計測での周波数シフト量は100 Hz程度が生ずれば、有意な値として計測できるため、このHzによる周波数シフト量は計測可能であると言える。
図50には、発電電流が0 A, 11.5 A(発電電流密度ixで0.5 A/cm2)、23 A(発電電流密度ixで1 A/cm2)の場合の燃料電池600の中心部分(-6 mm < y < 6 mm)のz方向の磁場強度Hzの分布を示す。
図50から、発電電流密度ixが増加すると、それにほぼ比例して、磁場強度Hzが増加することが分かる。また、その分布は、セパレータ64が中実であるとき、セパレータ64のリブ641の右側の領域では周波数は増加し、左側では周波数が減少していることが分かる。
次に、発電電流が一様ではない場合の解析結果を示す。図51には、ある一つのセパレータ64の一つのリブ641で発電電流密度ixが小さくなった場合のz方向の磁場強度Hzの分布を示す。発電電流密度ixが小さくなったリブ641の位置は、図中の位置y = 1 mmにあるリブ(これを要素1と呼ぶ)であり、その領域での発電電流密度ixが0, 0.25, 0.5 A/cm2となったとした。それ以外の領域は一様な発電電流密度ixであり、その値は0.5 A/cm2である。図51でも、磁場強度Hzは燃料電池600の中心部分(-6 mm < y < 6 mm)のみを示した。
図51から、要素1での発電電流密度ixが他の領域より小さくなることで、その周辺での磁場強度Hzが大きく変化し、この領域でz方向の磁場強度Hzは右下がりとなっていることが分かる。一様な発電時のix=0.5 A/cm2と比べて、非常に大きな相違があることが分かる。これは、発電電流が小さくなる場合にのみ見られる現象であり、逆に、発電電流が大きくなる場合には、右上がりの勾配が大きくなる。
この解析結果から、セパレータ64のリブ641の左右側の領域での周波数シフト量を計測することで、発電電流密度ixが他の領域よりも大きいのか小さいのかを判別することが可能となる。
次に、セパレータ64を0.1mmの薄板とした場合の磁場強度Hzの空間分布を図52に示す。図52中には、位置とHz分布の変化の様子を理解しやすくするために模式的なセパレータの中実と薄板の一部を描いた。この絵では、薄板の絵が左側にしか描かれていないが、全ての領域に渡って薄板である。また、薄板は、上下のx方向のみが有効な部分であり、yz面に平行な部分は電流が流れないために無視されている。
図52より、薄板としても周波数シフト量は右上がりとなり、その勾配は中実の場合と変わらないが、薄板の場合は、中実の場合に比べて、セパレータのリブの左右側の領域での周波数シフト量の差が小さくなっている。ただし、それ以外の差はないため、セパレータが薄板で作られたとしても、NMRによって周波数シフト量を計測すれば、発電電流の空間分布を求めることができる。
以上の解析結果を基にして考察すると、小型RFコイル114の設置位置を工夫することで、燃料電池600の発電電流密度の計測感度(発電電流が空間的に均一か、不均一かの判別)を向上させることができる。すなわち、本実施形態のように、小型RFコイル114を配置することで、以下のような利点がある。
リブ641の両側(リブ641とこのリブ641に隣接する一方の溝部642(流路)との境界部分およびリブ641とこのリブ641に隣接する他方の溝部642(流路)との境界部分)の周波数シフト量Δωn,L, Δωn,R(nは自然数)を計測し、両者の差(Δωn,L- Δωn,R)を計測することで、以下のことが判別できる。
(Δωn,L- Δωn,R)が他のリブ641の両側における(Δωn,L- Δωn,R)とほぼ同じ値(勾配が一定)であれば、均一に発電している。
(Δωn,L- Δωn,R)が右上がり(勾配が正で、大きい)であり、(Δωn,L- Δωn,R)の値が他のリブ641よりも大きければ、発電が活発である。また、(Δωn,L- Δωn,R)の値が第五記憶部795に記憶された所定の数値範囲外である場合には、特定の領域に異常が生じていることを把握することができる。
(Δωn,L- Δωn,R)が右下がり(勾配が小さいか、負)であれば、他の領域よりも発電電流密度が小さい。また、(Δωn,L- Δωn,R)の値が第五記憶部795に記憶された所定の数値範囲外である場合には、特定の領域に異常が生じていることを把握することができる。
なお、本実施形態のように、平面視において、リブ641とこのリブ641に隣接する溝部642との境界部分に小型RFコイル114の計測領域が重なるように、小型RFコイル114を配置してもよいが、リブ641の幅方向の中心部分に小型RFコイル114の計測領域が重なるように配置してもよい。
隣り合う小型RFコイル114を介して、それぞれの領域における周波数シフト量を計測し、隣り合う小型RFコイル114に対応した領域における周波数シフト量の差を算出することで以下のことが判別できる。
周波数シフト量の差が他のリブ間の周波数シフト量の差とほぼ同じ値(勾配が一定)であれば、均一に発電している。
周波数シフト量の差が右上がり(勾配が正で、大きい)で周波数シフト量差が大きければ、他の領域よりも発電量が大きい。
周波数シフト量の差が右下がり(勾配が小さいか、負)であれば、他の領域よりも発電電流密度が小さい。
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
たとえば、前記各実施形態では、第一判断部160A、第二判断部160Bでの判断結果を出力部の表示部135Aに表示していたが、これに限られるものではない。たとえは、出力部が警報手段を有しており、音等で判断結果を報知してもよい。
さらには、図21に示すように、出力部135は、制御部135Bを備えていてもよい。この制御部135Bは、第一判断部160A、第二判断部160Bでの判断結果に基づいて、燃料電池5の運転条件を制御する。
固体高分子電解質膜511は乾燥しすぎるとプロトン伝導性が低下して、オーム損失が増加し、発電電流が低下する傾向にある。
一方で、固体高分子電解質膜511中の水分量が多くなりすぎた場合には、プロトン伝導性は向上するが、酸化剤極表面に水の膜ができ、酸化剤の供給が阻害されて、発電電流が低下する。
たとえば、水分量が所定の数値範囲外であり、かつ、電流値が所定値未満である場所が所定箇所数(多数)ある場合には、制御部135Bでは燃料電池5の運転を停止する。水分量が所定の数値範囲外であり、かつ、電流値が所定値未満である場所が所定箇所数未満である場合には、制御部135Bでは燃料電池5の運転を続けるように制御する。
また、前記実施形態では、第一算出部130Aにより、電流量を算出していたが、これに限らず、たとえば、第一算出部130Aにて、励起用振動磁場と、核磁気共鳴信号の周波数との差分を算出し、この差分が所定値以上であるかどうか第一判断部160Aで判断してもよい。
さらには、前記各実施形態では、第一記憶部192には、基準核磁気共鳴信号の周波数の経時変化が記憶されていたが、これに限らず、基準核磁気共鳴信号の周波数と、RF発振器102で設定された励起用振動磁場の周波数との周波数差である基準周波数差の経時変化を記憶しておいてもよい((図57の直線Aとω0との差の経時変化)。
この基準周波数差は、以下のようにして取得することができる。
燃料電池5を停止した状態において、静磁場印加部から静磁場を印加するとともに、固体高分子電解質膜511に対し、励起用振動磁場を印加して、固体高分子電解質膜511の特定箇所で発生した核磁気共鳴信号を複数回取得する。そして、取得した各前記核磁気共鳴信号の周波数と、RF発振器102で設定された周波数(励起用振動磁場の周波数)との差を算出して基準周波数差の経時変化を取得する。
この場合には、
(i)第一算出部130Aでは、第一記憶部192に記憶された前記基準周波数差の経時変化に基づいて求められ、燃料電池5の運転中に前記固体高分子電解質膜511に対して、励起用振動磁場を印加した時点での基準周波数差を取得する。
具体的には、第一算出部130Aでは、第一記憶部192に記憶された基準周波数差と時間との関係を外挿(補間)して、燃料電池5の運転中に前記固体高分子電解質膜511に対して、励起用振動磁場を印加した時点での基準周波数差(図57のΔω0)を推測する。または、第一算出部130Aでは、第一記憶部192に記憶された基準周波数差と時間との関係を近似式とし、燃料電池5の運転中に前記固体高分子電解質膜511に対して、励起用振動磁場を印加した時点での基準周波数差(図57のΔω0)を取得する。
(ii)一方で、第一算出部130Aでは、燃料電池5の運転中に前記固体高分子電解質膜511に対して、励起用振動磁場を印加した際に、小型RFコイル114で検出した核磁気共鳴信号の周波数(D)(図57のω1)と、RF発振器102に設定された励起用振動磁場の周波数(C)(図57のω0)との差分を求める。
そして、(ii)で求めた差分を、(i)で取得した基準周波数差に基づいて補正する。すなわち、(ii)で求めた差分は、(i)で取得した基準周波数差が含まれた値であるため、(ii)で求めた差分から、(i)で取得した基準周波数差を除く。
さらに、前記各実施形態では、測定装置100は、小型RFコイル114を複数そなえていたが、これに限らず、小型RF114コイルは一つであってもよい。
また、前記実施形態では、燃料電池5は、酸素と水素により駆動するものであるとしたが、これに限らず、燃料電池は、たとえば、アノード側にメタノールを供給し、カソード側に酸素を供給するダイレクトメタノール型の燃料電池であってもよい。
さらに、励起用振動磁場の周波数と、核磁気共鳴信号の周波数との差分の測定には、スピンエコー法を用いなくてもよく、周波数シフト量は、単純なFID(Free Induction Decay)から算出することもできる。第一算出部がFID信号の虚部および実部を取得すればよい。スピンエコー法の方が、FIDよりも計測領域が小さく制限されるので、FIDよりも静磁場の均一性をさらに高めることができる。
また、前記各実施形態では、CPMG法にて、固体高分子電解質膜511中の水分量を算出していたが、これに限らず、電流計測時のPGSE法にて得られたエコー信号の強度をもとにして、固体高分子電解質膜511中の水分量を把握してもよい。
この場合には、PGSE法により計測されるエコー信号強度と、含水量との関係を把握しておけばよい。
ただし、CPMG法にて水分量を計測する場合には、以下の利点がある。
・複数のエコー信号を用いるので、計測のばらつき、信号対雑音比が向上する(ノイズが低減される)。
・T2(CPMG)緩和時定数を算出する際には、CPMG法が一度で複数のエコー信号を取れるため、短時間計測に向いている。また、T2(CPMG)値は減衰曲線から時定数を求めているため、単純に「信号強度」のように、アンプやコイル形状による計測装置の装置定数の影響を受けない。(信号強度では、計測装置の条件によって、増減する。絶対値が不明である。)
・T2(CPMG)は含水量に敏感に変化して増減するが、T2(Hahn)は含水量に対して鈍感で、ほとんど一定である。
水分量の計測をCPMG法にするか、PGSE法にするかは、状況に応じて適宜選択すればよい。
(参考)
ここでは、運転中の燃料電池において、励起用振動磁場の周波数と、小型RFコイルで取得された核磁気共鳴信号の周波数とに基づく周波数の差分(以下周波数シフト量という場合もある)が、シミュレーション結果と一致するかどうか、また、実際の発電状況と一致するかどうかの検討を行った。
燃料電池としては、図8に示したものを使用し、小型RFコイル114A〜114Cを使用して計測を行った。
測定装置の構成は、第一実施形態(図7)と同様である。さらに、詳細な装置構成を図45に示す。また、装置構成について以下に詳細について説明する。なお、燃料電池は、測定装置において、磁場強度が1Tesla、Air-Gapが100 mmの永久磁石の内側に入れられ、静磁場Hが印加された。
(1)小型RFコイル
小型RFコイルは線径80μmの銅線を内径0.6 mmで渦巻き状に5回平面状に巻いて製作した。図22に小型RFコイルの図を示す。銅線はポリウレタン皮膜で覆われており、この皮膜により絶縁されている。また、このコイルでは、ポリウレタン皮膜同士で接着しており、そのままでコイルの形状を保っている。このため、コイル中心は貫通しており、ガスが通過できる。
この小型RFコイルは、膜電極接合体と、拡散層との間に配置されている。そして、固体高分子電解質膜の面方向にそって5 mm間隔で3点配置した。これらの3つの小型RFコイルは、発電によって拡散層に流れる電流を計測することとなり、それは、固体高分子電解質膜の面方向の電流分布になる。また、3つの小型RFコイルの計測領域は,3つの小型RFコイル表面から3つの小型RFコイル内径(0.60mm)の1/5程度の領域であり、MEA表面から厚み方向へ120μmまでの領域である。受信するNMRの周波数シフト量はこの範囲内で計測していると考えればよい。
(2)膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)
膜電極接合体は、固体高分子電解質膜上にPt触媒層をホットプレスすることで製作した。固体高分子電解質膜はNafion117(登録商標)で、その厚さは178μmである。膜電極接合体の外形は40 mm四方である。膜電極接合体のPt触媒層は固体高分子電解質膜の中央部にあり、その寸法は23 mm×20 mmである(図23に、MEAを示す)。
(3)拡散層(GDL)には厚さ400μmのカーボンメッシュを用いた。膜電極接合体をGDLおよび燃料供給用流路つきセパレータで挟み込んで燃料電池とした。その構造は、図8に示した通りである。セパレータ上のガス流路は断面2mm四方でサーペンタイン型とした。
(4)ガス供給と、発電特性について
燃料電池(セル)に、水素と空気を供給して発電を行った。水素はPEMの乾燥を防ぐために室温のバブラーを通して水蒸気を含有した状態でセルに供給した。水素の供給流量は13 ml/minとし、空気の供給流量は48ml/minとした。セルと供給燃料の温度はすべて室温(20℃)とし、その条件で発電を行った。発電された電流はGDLを通ってセル端の集電極に集められて外部負荷装置を流れる。この場合には、電流Iの流れる方向(図8中ではy方向)と、静磁場H0を印加する方向(図8中ではx方向)および、小型RFコイルが振動磁場H1を誘起する方向(図8中ではz方向)が全て垂直の関係にある。このような配置の場合には、GDLを流れる電流が磁場を新たに形成し、それをNMR信号の周波数シフト量として観測することができる。特に、この配置の場合に感度良く、電流分布を計測することができる。電流I、静磁場H0、振動磁場H1の三つが全て略垂直であれば、どのような位置関係であっても良い。また、電流I、静磁場H0、振動磁場H1の3つが完全に垂直でない場合、つまり傾いていても、直交成分があれば、信号対ノイズ比の許す範囲で計測が可能である。
この燃料電池に電子負荷装置を接続して発電を行い、電流の制御を行った。発電を行ったときのPEMを通過する電流密度と電子負荷装置端での電圧特性を表1に示した。
(5)計測結果
Case1〜Case3の電流密度条件のもと、前記実施形態で述べた方法にて、各小型RFコイルで励起用振動磁場の周波数と、核磁気共鳴信号の周波数との差分を算出した。
ここでは、NMR信号は、90度パルスと、180度励起パルスとの間隔を5msに設定し、エコー時間が10msとしてエコー信号を計測している。このシーケンスでは、180度励起パルスの前後に1msだけ勾配磁場を印加して、90度および180度励起パルス直後のNMR信号がエコー信号と干渉しないようにした。
結果を図24に示す。Case1の計測値は、□、Case2の計測値は△、Case3の計測値は○で示した。
図24から、電子負荷装置に流れる電流が小さくなるほど、周波数シフト量の絶対値が小さくなる様子が分かる。
(6)燃料電池発電時の周波数シフト量のシミュレーション(解析)
(a)燃料電池の等価回路
燃料電池のアノードとカソード双方の電極に流れる電流がMEA内部の小型RFコイルの計測領域に形成する磁場を解析する。
燃料電池がMEA(膜電極接合体)内で一様に発電していると仮定して、電流分布計測を行った燃料電池の等価回路を、図25に示すようにモデル化した。
これは、MEAへの水素と酸素の供給が十分にあり,フラッディングが生じておらず、温度分布が一様という条件を想定している。
MEA内で一様に発電している燃料電池を、アノードとカソード間に電源と内部抵抗が一様に分布する等価回路とした(図25(B))。本実施例で用いた燃料電池では、集電用の電極をアノード側とカソード側で逆の端部に取り付けており、同様の位置から負荷の抵抗を接続した等価回路とした。
この等価回路では,電源から流れ出る電流は一旦カソード上をMEAの面方向へ流れた後に燃料電池から流れ出て負荷の抵抗へ供給される。アノード側にも同様に電極の面方向へ電流が流れる。電源はMEA内に一様に分布していることから、この電極(触媒層512上)上でMEA面方向に流れる電流は、直線的な分布となる(図25(A)参照)。
(b)MEA内の磁場解析結果
アノードとカソード双方の電極に流れる電流が,MEA内部に形成する磁場を解析し,周波数シフト量の分布を算出した。解析はCase1,Case2の電流密度条件で行い,図25(C)に示すy0軸上の周波数シフト量を算出した。y0軸はMEA表面から小型RFコイルの計測領域の厚み分内側の軸である。
解析結果を図24に示す。ここでは,y0=0をMEAの中心として、周波数シフト量の分布を実線と一点鎖線で示した。また、小型RFコイルの計測領域内でも磁場の空間分布があるが,ここでは計測領域中心での値を代表値として示した。
周波数シフト量の分布はy0=0を中心として,正方向と負方向で異なる符合となる。これは、図25(C)のMEA内に形成される磁場の方向と強度を見ることで理解できる。
アノード電極とカソード電極に流れる電流の向きは同じであるため、間に挟まれたMEA内部に発生する磁場はそれぞれ向きが逆になり,双方が作る磁場強度の差分が磁場として発生する。そのため、y0軸上での磁場の分布は,アノードとカソードで電流が等しいMEAの中心付近で0を通る分布となり,y0が正の位置と負の位置で符号が異なる分布となる。
(7)計測結果とシミュレーション(解析)結果の比較
解析値と計測値とはほぼ一致しており、本実施例では、MEA内で一様に発電していると考えられる。このように、一様に発電している場合には、周波数シフト量は、y位置に対してほぼ直線的に増減して行く分布となる。
このy位置に対する周波数シフト量をプロットすることで、燃料電池が一様に発電しているのか、または、ある部分のみが発電しているのかを知ることができる。
また、各小型RFコイルでの計測値が、たとえば、図24に示される周波数シフト量の解析値以上であるかどうかを判別することで、燃料電池が所望の運転を行っているかどうか判別することも可能である。
(実施例1)
本実施例では、運転中の燃料電池の固体高分子電解質膜の水分量の分布と、電流分布を計測した。
(1)燃料電池システムの構成
使用した燃料電池システムは、参考例と同様である。燃料電池は、測定装置において、磁場強度が1Tesla、Air-Gapが100 mmの永久磁石の内側に入れられ、静磁場Hが印加された。
ただし、本実施例では、燃料電池セルに温調用循環水を導入し、その循環水の温度を外部チラーで制御することで、燃料電池セルの温度を20℃と50℃の二通りに変えた。図26(A)には、セル内に温調用循環水が通る流路の図を示す。また、図26(B)には循環水を供給する配管の様子を示す。
図26(A)には、燃料電池の図8下側の拡散層、小型RFコイル等が示されている。拡散層の下方に位置するセパレータの下方を循環水が流れる構成となっている。
(2)燃料電池の発電条件
燃料電池の固体高分子電解質膜を「湿った状態」「乾いた状態」の二つの条件で発電させ、その際の含水量と電流分布を小型表面コイル(小型RFコイル)で計測した。本実験での燃料電池の発電条件を表2に示す。
固体高分子電解質膜は実験開始前に水に浸し、実験開始直前に燃料電池内に組み込んだ。発電させても、短時間(30分程度)であれば、固体高分子電解質膜は湿った状態を保っていた。固体高分子電解質膜が湿った状態であるということは、後述する実験結果、すなわち、発電時の電流―電圧(IV)特性からも、含水量計測で取得したNMR信号強度の大きさからもわかる。
固体高分子電解質膜を乾燥させる方法は、燃料電池の温調用循環水の温度を50℃に昇温し、30分程度発電させて行った。これも先と同様に、固体高分子電解質膜が乾燥状態での発電時のIV特性とNMR信号の低減から推測できる。
(3)燃料電池の電流―電圧(IV)特性
表3に示すガス供給量で燃料電池を発電させた。ただし、表3に記載した供給圧力は、ガスボンベの減圧弁の出口圧力であり、配管やニードルバルブでの流動抵抗が含まれている。さらに、水素ガス側では加湿用バブラーがあり、これでの圧力損失分も含まれている。
電子負荷装置の電流値を変えて計測した燃料電池の電流―電圧(IV)特性を図27に示す。この図27から、燃料電池の温度を20℃から50℃に昇温すると、出力される電流が低下していることが分かる。本実験では、水素ガス側のバブラー温度は20℃であり、セルへの加湿量が非常に少ない。このため、燃料電池の温度を50℃へと昇温したことで、MEAは乾燥し、イオン伝導によるオーム損失が増加して、出力電流が低下したと推測できる。
(5)小型表面コイルによる燃料電池内の含水量と電流計測
本実施例では、燃料電池内MEAの含水量とMEAを流れる電流の分布とを同じ小型表面コイルで計測している。図28には、含水量を計測するためのCPMGシーケンスと、電流を計測するためのPGSEシーケンスを実行した順序を示す。
ここでは、PGSEシーケンスでは、90度パルスと、180度励起パルスとの間隔を5msに設定し、エコー時間が10msとしてエコー信号を計測している。このシーケンスでは、180度励起パルスの前後に1msだけ勾配磁場を印加して、90度および180度励起パルス直後のNMR信号がエコー信号と干渉しないようにした。
また、CPMGのシーケンスは、(a)90°パルス、(b)(a)のパルスの時間τ経過後に印加される180°パルス、および(c)(b)のパルスの時間2τ経過後からはじまり、時間2τの間隔で印加されるn個の180°パルス(nは自然数である。)
とし、τ=10 ms、n=25とした。
本計測では、CPMGシーケンスを3回、その後に、PGSEシーケンスを1回実行して、これを1セットとして、7セット繰り返した。図28のCPMGの欄に示された黒い四角は、CPMGのシーケンス1回分を示し、PGSEの欄に示された黒い四角は、PGSEシーケンス1回分を示している。
計測時間として、CPMGシーケンスでは、90度励起パルスの繰り返し時間TRを10秒、PGSEシーケンスでは90度励起パルスの繰り返し時間TRを5秒とした。すなわち、CPMGシーケンスを1回実行するのに10秒を要し、PGSEシーケンスが1回実行されるのに5秒を要している。1セットで35秒を要する。
(6)含水量の測定
CPMG法を用いてCase1とCase2の状態での含水量計測を行った。以下に結果を示す。
(6−1)NMR信号と含水量の関係
高分子電解質膜(PEM)内の含水量とNMRのエコー信号強度、さらに、T2緩和時定数(CPMG)値の関係を図29,30に示す。含水量の増加と共に、エコー信号強度とT2緩和時定数(CPMG)値は単調に増加する。
(6−2)Case1でのNMR信号
Case1の実験条件で、CPMG法によって小型RFコイル114Aで得られたエコー信号を一例として図31に示す。CPMGシーケンスのパラメータは、90度励起パルスと180度励起パルスの時間間隔tauを10 ms、90度励起パルスの励起間隔TRを10秒とした。
図31の波形から、180度励起パルスの間にエコー信号を見ることができる。本実施例では、第1番目のエコー信号の強度のみを用いて、図29の相関関係を基に、含水量の多い・少ないを判断した。
(6−3)Case1と2の比較
図32には、第1番目のエコー信号強度を実験条件Case1と2で比較した結果を示す。この図では、Case1と2でそれぞれ9セットのCPMG計測(図28の実験手順に示された始めから9セット分のCPMG計測)を行い、すべての実験結果を示した。横軸は各セットの番号を示している。
この図から、Case1の実験条件の方が、Case2に比べて、エコー信号強度は大きいことがわかる。また、この関係は9回の計測結果全てにおいて保たれていた。
また、この計測でのばらつき(変動係数=エコー信号強度の標準偏差/エコー信号の平均値、9回分のデータの統計量)は、Case1では5.8%、Case2では9.2%であった。
小型RFコイル114A,114B,114Cでのエコー信号強度をCase1と2で比較した結果を図33に示した。この結果より、どの位置の小型RFコイルであっても、Case1の実験条件の方がCase2に比べて、エコー信号強度が大きく、含水量が多いことが分かる。
(7)電流分布計測の結果
図28に示した順序でPGSEシーケンスを実行させて、燃料電池の電流がゼロの状態(開回路)で3回、電流Iを0.40Aとして2回、再度、電流がゼロの状態で2回計測した。
燃料電池は、はじめは発電電流がゼロの状態(開回路の状態)とし、この状態で電流計測に用いる基準の周波数シフト量を計測した。ここでいう基準周波数シフト量とは、RF発振器で設定された周波数(励起用振動磁場の周波数)と、燃料電池を停止した状態で励起用振動磁場を印加した際の核磁気共鳴信号の周波数との周波数差である。
次に所定の電流Iを流して、PGSEシーケンスを2回実行して、電流が流れている状態でのRF発振器で設定された周波数と、励起用振動磁場を印加した際の核磁気共鳴信号の周波数との差を求めた。その後、再度、回路を開いて発電電流をゼロとして、基準周波数シフト量を計測した。
一例として、Case1の発電条件で計測された小型RFコイル114Dでの基準周波数シフト量の変化を図34に示す。PGSEシーケンスは35秒ごとに繰り返して計測された。
図34より、燃料電池が開回路で、電流を流さない場合であっても、磁石の温度上昇に伴う静磁場強度の低下により、時間と共に基準周波数シフト量が増加していく様子が見られる。このため、電流がゼロの場合(実験番号1, 2, 3, 6, 7)の基準周波数シフト量を用いて、基準周波数シフト量が時間共に直線的に増減すると仮定して、最小自乗法により近似した。その近似直線を図34の破線で示す。これより、数分程度の時間経過の間であれば、磁石温度の増減による基準周波数シフト量はおおよそ時間の一次関数(直線)として近似できることが分かる。この破線を基準周波数シフト量とし、実験番号4、5で示される、発電電流が流れた場合に生ずる周波数シフト量は、図34に示すように、この基準周波数シフト量からの差として周波数シフト量Δωを算出した。
同様の算出方法によって、小型RFコイル114E,114Fの周波数シフト量も算出した。その結果を図35に示す。
図35には、MEA内で一様に発電して電流が一様に流れると仮定し、それらの電流がGDLに流れることで作られる磁場を解析し、それを基に算出した周波数シフト量も実線として図示した。実験結果と解析結果を比較すれば、周波数シフト量はほぼ一致しており、Case1の条件では発電電流がほぼ一様であることが分かった。
また、同様の計測をCase2でも行った。その結果を図36に示した。Case2でも、発電電流は0.40AとCase1と同じである。
図35,36から、Case1に比べ、Case2の方が発電量が少なくなることがわかる。これは、図27に示したシミュレーション結果と一致している。
従って、本発明の燃料電池システムを使用することで燃料電池の発電状態を正確に把握することができることがわかった。
(実施例2)
実施例2では、3つの実験を行った。
実施例2−1.PEMが乾燥した状態で発電させ、生成した水によってPEMが湿潤していく様子の含水量および周波数シフト量の計測
実施例2−2.PEMが湿潤した状態で発電させ、セル温度を上昇させたことで、PEMが乾燥していく様子の含水量および周波数シフト量の計測
実施例2−3.発電時に燃料ガス側に窒素を供給して、供給水素濃度を低下させた場合の電流分布計測
(1)燃料電池システムの構成
使用した燃料電池システムは、実施例1と同様である。ただし、小型RFコイルの取り付け位置は、図37のようにした。本実験では8つのコイルが燃料電池内に挿入された。それら小型RFコイルの設置位置は、図37に示すように、燃料ガス側と空気側のそれぞれのGDLとPEMの間に4つずつ挿入した。片側のコイルの間隔は5mmとした。図37中では小型RFコイル114を区別するために、114G〜114Nまでの番号を振った。燃料電池は、測定装置において、磁場強度が1Tesla、Air-Gapが100 mmの永久磁石の内側に入れられ、静磁場H印加された。
(2)燃料電池の発電条件
本実施例では、燃料電池の温度を20℃と50℃の二通りに変えた。燃料電池の発電条件を表4に示す。このPEMの「湿った状態」と「乾いた状態」の区別は、実施例2−1と実施例2−2で得られたエコー信号強度の結果からである。
また、燃料電池を発電させる際に供給した水素ガスと空気の流量と圧力を表5に示す。本実験では、水素ガスはバブラー(水温20℃)を通過させている。これにより、燃料電池に供給した水素ガスには20℃の飽和水蒸気圧の水蒸気が含まれている。空気側は無加湿である。
(3)小型表面コイルによる燃料電池内の含水量と電流計測
計測シーケンスの実行手順は、実施例1とほぼ同様である。ただし、本実施例では、実施例1に比べて、発電させる(通電する)タイミングを約30秒間だけ早くした。これは、発電させている時間を長くするためである。本実験では、4セット目のCPMG計測の前から発電させた。発電(通電)時間は約70秒であった。
その他の計測シーケンスの実行手順は、実施例1と同様である。また実施例1と同様に、基準周波数シフト量の経時変化を計測し、この基準周波数シフト量に基づいて、周波数シフト量Δωを算出した。
(実施例2−1)
MEAを蒸留水に数時間浸した後、取り出してMEA表面の水滴をキムワイプでしっかり拭いてから燃料電池内に組み込んだ。燃料電池は開回路状態(発電電流がゼロ)を保ったままで、表5に示したガス供給を燃料電池に行った。また、燃料電池の温度は20℃とした。この状態でのMEAは比較的乾燥した状態にある。
この状態から、前述した図28に示した計測シーケンス(CPMG、PGSE計測 7セット分を一つの実験とした)を実行した。
第0番目の実験(Exp #0)では、燃料電池を開回路のまま、通電せずに計測を行った。それ以降の計測(Exp #1以降)では、計測時に70秒間の通電を行った。実験番号の増加は時間の経過に対応している。
(発電電流と出力電圧の測定結果)
燃料電池の発電電流と出力電圧を電子負荷装置(KIKUSUI PLZ 152 WA)により計測した。その結果を表6に示す。この計測値は、燃料電池全体での値である。また、この表には、通電していた時間の積算値として「積算発電時間」も記載した。実験の経過と共に積算発電時間は増加する。
(CPMG法による含水量計測)
CPMG計測では、図28の実験手順に示されたように、始めの3回のCPMG計測(各実験番号における7セットのCPMG計測のうち、はじめの3セット分のCPMG計測)によって得られたエコー信号を用いた。始めの3回のCPMG計測でそれぞれ得られた三つの「第1番目のエコー信号強度」(はじめの3セット分のCPMG計測において、各セット中1番目のCPMG計測のエコー信号強度)を平均し、それを「平均エコー信号強度」とした。
平均エコー信号強度が大きいほど、含水量も大きいという関係にある。(実施例1参照。)
典型的な計測結果として、小型RFコイル114Mと小型RFコイル114Iでの平均エコー信号強度を図38に示した。横軸は表6で示した実験番号と対応させた。小型RFコイル114Mは水素ガス側、小型RFコイル114Iは空気側に設置された小型RFコイルであり、両者はほぼ合い向かう位置にある。
図38の計測結果から次のことが分かった。発電前は、小型RFコイル114M、小型RFコイル114I共にほぼ同じ信号強度であり、含水量がほぼ同じであると見なせる。発電を開始すると、小型RFコイル114Iの信号強度が急激に増加する。この急激な増加は、小型RFコイル114Iが空気側にあり、発電によって空気側に水が生成し、PEMが湿潤したためであると推測できる。その後、信号強度は一定となり、PEMの含水量も一定となったように見られるが、生成した水がGDL内に浸透してフラッディングが生じていると推測される。一方、水素側の小型RFコイル114Mでは増加はするが、僅かである。その後、発電の積算時間が長くなると共に、水素側の小型RFコイル114Mはゆっくりと増加していく。
(PGSE法による電流計測)
小型RFコイル114K、114NでPGSE法により計測された周波数シフト量を図39中の点(◆、○)として示した。小型RFコイル114K、114Nは共に水素側にあり、両者はMEAの中心軸に対して対称の位置にある。また、横軸は図38と同様に実験番号である。
図39より次のことが分かる。燃料電池が発電していない場合(Exp #0)では、両小型RFコイル共に周波数シフト量はゼロである。発電している場合(Exp #1)には周波数シフト量が大きくなり、時間が経過していく(Exp #2以降)と共に両小型RFコイル共に周波数シフト量の絶対値は少しずつ小さくなった。この周波数シフト量の振る舞いは表6に示した燃料電池全体での計測結果と同様である。
また、図39には、破線と実線によって、MEA全体で均一に発電が起きていると仮定して解析した周波数シフト量も示した。それぞれの実験点と対応する破線または実線がほぼ一致していることから、本実験条件での燃料電池の発電はほぼ一様に起きていると言える。
以上の結果から、本発明の燃料電池システムを用いると、燃料電池が発電することで生成される水によってPEMが空気側から湿潤し、発電時間が長くなると共に水素側のPEMも湿潤していく様子を捉えることができる。
また、発電により生成した水は、PEMを湿潤させ、イオン伝導率を上昇させたが、空気側のGDLでフラッディングが発生し、酸素供給が阻害されたことによって、発電電流が低下したものと推測される。このように、燃料電池システムで計測された局所含水量と周波数シフト量を基にして多面的(例えば、水素側、空気側のそれぞれの局所含水量、および発電電流の均一性)に情報を収集することで、燃料電池内部で生じている現象をより正確に推測でき、それに応じた対策や制御を燃料電池に施すことができる。
(実施例2−2)
実施例2−1の結果から、燃料電池の温度を20℃として発電すれば、PEMは湿潤していった。これとは逆に、PEMを乾燥させるために、循環水槽の温度を徐々に40℃まで上昇させ、この状態から、前述した図28に示した計測シーケンス(CPMG、PGSE計測 7セット分を一つの実験とした)を実行した。
表7には、時間の経過と共に増加する実験番号と、その際の燃料電池の温度、その際の発電電流と出力電圧を示した。図40には、表7に示した燃料電池の温度の時間経過をプロットした。実験は約10分間隔で行われ、燃料電池の温度は約20分で40℃に達した。実験番号Exp #5が終了したのは実験開始から約1時間後であった。
燃料電池の電流・電圧計測、CPMG、PGSE計測の方法はすべて実施例2−1と同様である。
(CPMG法による含水量計測)
前述の実施例2−1と同様に、小型RFコイル114M,114Iでの平均エコー信号強度を図41に示した。横軸は実験番号であり、時間の経過に対応する。
図41は、小型RFコイル114M,114I共に時間の経過と共に信号強度は低下していくことを示している。その際、空気側の小型RFコイル114Iの方が水素側の小型RFコイル114Mに比べて、ゆっくりと低下する。そして、実験開始から約1時間後のExp #5では、両者はほぼ同じ信号強度となる。
この計測結果から、本実験条件のように、水素ガス側への加湿量が少ない場合には、燃料電池の温度を20℃から40℃に上昇させることで、燃料電池が発電している場合であってもPEM内の含水量は低下していくことが分かる。また、その低下の様子は、水素側で早く、水が生成される空気側ではゆっくり低下することが分かった。
(PGSE法による電流計測)
前述の実施例2−1と同様に、小型RFコイル114K,114Nで計測された周波数シフト量を図42に点(◆、○)として示した。本実験では、表7に示すように、電流が僅かにしか低下しない。この結果と対応して、図42に示した周波数シフト量もほとんど一定であった。この結果からも、周波数シフト量を計測することで、燃料電池が発電する電流を知ることができる。
(実施例2−3)
燃料電池に供給する水素ガスの濃度を低下させて、発電電流が低下していく様子をPGSE計測での周波数シフト量の変化(低下)として計測できることを以下で示す。
(供給水素濃度の時間変化)
供給する水素ガスの濃度を窒素ガスで希釈することで低下させた。具体的には、加湿用に用いているバブラーに予め水素ガスと水を満たしておき、その後、窒素ガスを供給して、水素ガスと窒素ガスをバブラー内で混合させ、バブラーから排出される水素ガスの濃度を時間と共に低下させる方法を用いた。この方法では、燃料ガスに含まれる水蒸気濃度は一定に保たれる。
バブラー容器の内容量は1200 mlであり、その中に800 mlの蒸留水を入れた。多孔質ガラス製のガス噴射管をバブラー内底部に固定して、始めは水素ガスを流量14 ml/minで注入した。数時間経過した後には、バブラー内は水素ガスとバブラー温度の20℃の飽和水蒸気で満たされる。この状態のバブラーに、水素ガスに代えて、窒素ガスを3.75 ml/minで注入した。窒素ガスを供給し始めた時間をゼロとした。
この条件の下で、バブラー内での水素ガスと窒素ガスが「完全に混合する」と仮定して解析を行い、バブラー出口での水素ガス濃度CH2の時間変化を算出した。その結果を図43に示す。水素ガス濃度CH2は時間と共に指数関数的に減少していくのが分かる。この図では、さらに、水素ガス濃度CH2が供給された際に、水素を全て消費したとして算出した発電電流も示した。水素ガス濃度と同様に時間と共に低下していくことが分かる。
(燃料電池の発電電流と出力電圧の測定結果)
燃料電池の温度を20℃、空気供給量を70 ml/minとし、前節(供給水素濃度の時間変化)で記述したような希釈水素ガスを供給した際の、燃料電池の発電電流と出力電圧を電子負荷装置(KIKUSUI PLZ 152 WA)により計測した。その測定結果を表8に示す。この計測値は、燃料電池全体での値である。
本実験での結果を分かりやすくするために、表8の左列に示す実験番号(Case)を付け、さらに、図43中には実験番号(Case)に対応する時間を矢印で示した。
図43と表8から、時間の経過と共に、水素ガス濃度は低下し、それと共に、発電電流および出力電圧が低下していくことが分かる。
(PGSE計測での周波数シフト量の時間変化)
発電電流による周波数シフト量をPGSEシーケンスにより計測した。小型RFコイル114K,114Nでの計測結果を図44の点(◆、○)として示した。小型RFコイル114K,114Nは、図37で示したように、位置がy=-7.5mmと7.5mmと両端にあり、周波数シフト量は符号が反対になって計測される。また、電流が小さくなると、周波数シフト量の絶対値は小さくなる。
実験結果の図44から、表8で示した発電電流の低下に伴って、小型RFコイル114K,114Nの周波数シフト量の絶対値が両者共に小さくなったことが分かる。すなわち、水素ガス濃度の低下によって燃料電池の発電電流が低下していく様子を周波数シフト量から知ることができる。
また、この図には、破線と実線によって、MEA全体で均一に発電が起きていると仮定して解析した周波数シフト量も示した。それぞれの実験点と対応する破線または実線がほぼ一致していることから、計測結果が確からしいと言える。
以上より、NMR信号の周波数シフト量を計測することで、燃料電池の発電電流の増減を知ることができ、さらには、燃料電池内に複数の小型RFコイルを備えることで燃料電池が全領域で均一に発電しているか、そうでないのか、不均一な場合には、どの程度の不均一性があるかを周波数シフト量の分布から知ることができると言える。
そして、周波数シフト量が所定値以上であるかどうか判断することで、燃料電池が所望の運転を行っているかどうか判断することが可能である。
(実施例3)
ここでは、周波数シフト量から、発電電流密度を求めた。
まず、実施例2と同様の燃料電池システムを使用した(図37)。
燃料電池に、水素と空気を供給して発電を行った.水素は、固体高分子電解質膜の乾燥を防ぐために室温のバブラーを通して水蒸気を含有した状態でセルに供給した。セパレータ上のガス流路は断面2 mm×2 mmのサーペンタイン型とした。水素の供給流量は13 ml/minとし,空気の供給流量は48 ml/minとした。セルと供給燃料の温度はすべて室温(20 ℃)で発電を行った。
この燃料電池セルに電子負荷装置を接続して発電を行い,電流の制御を行った.発電を行ったときの固体高分子電解質膜を通過する電流密度と電子負荷装置端での電圧特性を表9に示す。小型RFコイルでの電流分布計測は、以下のCaseIの条件で行った。
なお、計測シーケンスの手順は、実施例2と同じであり、また、実施例2と同様に、基準周波数シフト量の経時変化を計測し、この基準周波数シフト量に基づいて、周波数シフトΔωを算出した。
結果を図53に示す。また、図35で示した解析結果と同様の方法で解析した解析結果を図53中に実線として示す。解析値と計測値とはほぼ一致しており、固体高分子電解質膜面内で一様に発電していると考えられる。
次に、固体高分子電解質膜の半分の領域(y < 0)にのみに触媒層を形成し(固体高分子電解質膜の表面側の半分の領域が触媒層により覆われ、裏面の半分の領域が触媒層に覆われる、図54)、発電が固体高分子電解質膜の半分の領域のみで起きる場合の電流分布を計測した。固体高分子電解質膜の外形は、40 mm × 40 mm、厚さは、178 μmである。触媒層は固体高分子電解質膜の中央を端部として、11.5 mm × 20 mmとした。他の点は、図37に示すものと同じである。また、水素の供給流量は13 ml/minとし,空気の供給流量は48 ml/minとした。セルと供給燃料の温度はすべて室温(20℃)で発電を行った。小型RFコイルでの電流分布計測は、以下のCaseIIの条件で行った。
なお、計測シーケンスの手順は、実施例2と同じであり、また、実施例2と同様に、基準周波数シフト量の経時変化を計測し、この基準周波数シフト量に基づいて、周波数シフトΔωを算出した。結果を図55に示す。また、図53と同様に、解析結果を実線で示す。
触媒層が形成された左側(位置y0が負の領域)では、発電電流密度は、CaseIIとして表中に記載された174mA/cm2程度であると考えられ、周波数シフト量の勾配は右上がりで、大きな勾配を取るが、一方、触媒層がない右側(位置y0が正の領域)では、発電電流密度はゼロであり、周波数シフト量の勾配はほぼゼロになっていることが分かる。
さらに、Case Iと、CaseIIで計測した周波数シフト量Δωのy0軸上分布から発電電流密度を換算した。換算にあたり,隣り合う二つの計測値から周波数シフト量の勾配を求め、y0軸上での磁場解析から得られた周波数シフト量の勾配と比較して発電電流密度を求めた。その結果を図56に示した。本計測では、小型RFコイル間の間隔を5 mmとしたため、発電電流密度の計測の空間分解能は5 mmである。図56から,全面に触媒層を形成したMEAでは発電電流密度はほぼ一様で、表9中のCaseIの87 mA/cm2にほぼ等しいことが分かる。一方、固体高分子電解質膜の半分の領域のみで発電するMEAでは,触媒層が形成された左側(位置y0が負の領域)では発電電流密度は表9中のCaseIIの174 mA/cm2程度であるが、触媒層がない右側(位置y0が正の領域)では発電電流密度がゼロに近い値となっていることが分かる。中心位置( y0 = 0 )には触媒層の境界があり、その領域では電流密度計測の空間分解能が不足し、中間的な電流密度を示している。
これらの結果から、本手法で計測された周波数シフト量の一次元分布から、燃料電池内で発電された発電電流密度の一次元分布へと換算できたと言える。
1 燃料電池システム
5 燃料電池
51 膜電極接合体
52 拡散層
53 拡散層
56 集電体(電極)
64 セパレータ
100 測定装置
102 発振器
104 変調器
106 増幅器
112 プリアンプ
113 磁石
114 小型RFコイル
118 変換器
118A 変換器
118B 変換器
120 データ受付部
127 シーケンステーブル
128 計時部
129 操作信号受付部
130 演算部
130A 第一算出部
130B 第二算出部
130C 易動性算出部
135 出力部
135A 表示部
135B 制御部
140 検波器
150 制御部
151 パルス制御部
152 モード切替制御部
159 電流駆動用電源
160 判断部
160A 第一判断部
160B 第二判断部
170 スイッチ部
171 ハイブリッド
173 分配器
175 分配器
177 ミキサー
179 ミキサー
181 合成器
183 ミキサー
185 ミキサー
187 分配器
190 記憶部
191 第二記憶部
192 第一記憶部
193 第三記憶部
194 第四記憶部
251 コイル
500 燃料電池
511 固体高分子電解質膜
512 触媒層
513 触媒層
541,551 流路
600 燃料電池
641 リブ
642 溝部
700 測定装置
760 判断部
790 記憶部
795 第五記憶部
A 直線
マッチング用可変容量コンデンサ
可変容量コンデンサ
L 同軸ケーブル

Claims (13)

  1. プロトン性溶媒を含んだ固体高分子電解質膜と、この固体高分子電解質膜の一方の側に配置される燃料極と、前記固体高分子電解質膜の他方の側に配置される酸化剤極とを有する燃料電池を含む燃料電池システムにおいて、
    前記固体高分子電解質膜に対して、静磁場を印加する静磁場印加部と、
    前記固体高分子電解質膜よりも小さい小型RFコイルと、
    前記燃料電池を停止した状態で、励起用振動磁場を印加した際に、前記小型RFコイルにて検出される核磁気共鳴信号の周波数である、基準核磁気共鳴信号の周波数の経時変化が記憶された第一記憶部と、
    以下の(A)と(B)との周波数の差分を算出し、あるいは、以下の(A)と(B)との周波数の差分を算出しこの周波数の差分に基づいた電流量を算出する第一算出部とを備える燃料電池システム。
    (A)前記燃料電池の運転中に、前記固体高分子電解質膜に対して、励起用振動磁場を印加した際に前記小型RFコイルにて取得した核磁気共鳴信号の周波数
    (B)前記第一記憶部に記憶された基準核磁気共鳴信号の周波数の経時変化から取得され、前記燃料電池の運転中に前記励起用振動磁場を印加した時点での基準核磁気共鳴信号の周波数
  2. プロトン性溶媒を含んだ固体高分子電解質膜と、この固体高分子電解質膜の一方の側に配置される燃料極と、前記固体高分子電解質膜の他方の側に配置される酸化剤極とを有する燃料電池を含む燃料電池システムにおいて、
    前記固体高分子電解質膜に対して、静磁場を印加する静磁場印加部と、
    前記燃料電池の運転中に、前記固体高分子電解質膜に対して、励起用振動磁場を印加するとともに、前記固体高分子電解質膜の特定箇所で生じた核磁気共鳴信号を取得する、前記固体高分子電解質膜よりも小さい小型RFコイルと、
    前記燃料電池を停止した状態で、励起用振動磁場を印加した際に、前記小型RFコイルにて検出される核磁気共鳴信号の周波数である、基準核磁気共鳴信号の周波数と、
    前記励起用振動磁場の周波数との差である基準周波数差の経時変化が記憶された第一記憶部と、
    以下の(C)と(D)との差を算出し、
    前記(C)と(D)の差から
    前記基準周波数差の経時変化に基づいて取得される基準周波数差であって、燃料電池の運転中に、前記固体高分子電解質膜に対して、励起用振動磁場を印加した時点での基準周波数差を差しひいた周波数の差分を算出し、あるいは、前記周波数の差分に基づいた電流量を算出する第一算出部とを備える燃料電池システム。
    (C)前記燃料電池の運転中に、前記固体高分子電解質膜に対して、励起用振動磁場を印加した際の励起用振動磁場の周波数
    (D)前記燃料電池の運転中に、前記固体高分子電解質膜に対して、励起用振動磁場を印加した際に、前記小型RFコイルで取得した核磁気共鳴信号の周波数
  3. 請求項1または2に記載の燃料電池システムにおいて、
    前記第一記憶部に記憶された前記基準核磁気共鳴信号の周波数の経時変化、あるいは、前記基準周波数差の経時変化は、前記燃料電池を運転する前あるいは後において、取得したものであり、
    第一算出部では、前記第一記憶部に記憶された前記基準核磁気共鳴信号の周波数の経時変化、あるいは、前記基準周波数差の経時変化を補間して、得られるものである燃料電池システム。
  4. 請求項1乃至3のいずれかに記載の燃料電池システムにおいて、
    所定値を記憶した第二記憶部と、
    前記第一算出部で算出した前記周波数の差分が前記第二記憶部に記憶された前記所定値以上か否か、あるいは、前記周波数の差分に基づいて算出される前記電流量が前記第二記憶部に記憶された所定値以上か否かを判断する判断部と、
    前記判断部での判断結果が出力される出力部とを備える燃料電池システム。
  5. 請求項4記載の燃料電池システムにおいて、
    前記固体高分子電解質膜の面方向に沿って配置された前記小型RFコイルを複数備え、
    前記複数の小型RFコイルが、それぞれ、前記固体高分子電解質膜の複数箇所に対し、前記励起用振動磁場を印加するとともに、前記核磁気共鳴信号を取得し、
    前記第一算出部では、前記固体高分子電解質膜の前記複数箇所における前記周波数の差分をそれぞれ算出し、
    前記第二記憶部は、前記固体高分子電解質膜の前記複数箇所それぞれに対応づけられた複数の前記所定値が記憶され、
    前記判断部では、算出した前記複数箇所の前記周波数の差分あるいは電流値それぞれが、前記第二記憶部に記憶され、前記複数箇所に対応づけられた前記所定値以上であるかどうかを判断する燃料電池システム。
  6. 請求項5に記載の燃料電池システムにおいて、
    前記第二記憶部に記憶された複数の前記所定値は、変更可能である燃料電池システム。
  7. 請求項4乃至6のいずれかに記載の燃料電池システムにおいて、
    前記第二記憶部には、前記燃料電池の運転時間と前記所定値の経時変化が記憶され、
    前記判断部は、前記第二記憶部に記憶された前記燃料電池の運転時間と前記所定値の経時変化との関係から、前記固体高分子電解質膜に対し、前記励起用振動磁場を印加した際の前記所定値を取得し、前記周波数の差分あるいは、電流量が前記所定値以上であるかどうかを判断する燃料電池システム。
  8. 請求項4乃至7のいずれかに記載の燃料電池システムにおいて、
    前記出力部は、前記燃料電池の駆動を制御する制御部を有し、
    前記制御部では、前記判断部の判断結果に基づいて前記燃料電池の駆動を制御する燃料電池システム。
  9. 請求項1乃至8のいずれかに記載の燃料電池システムにおいて、
    前記小型RFコイルで取得された前記核磁気共鳴信号に基づいて、前記固体高分子電解質膜中のプロトン性溶媒の量を算出する第二算出部と、
    前記固体高分子電解質膜における前記周波数の差分を測定する第一測定モードと前記固体高分子電解質膜中のプロトン性溶媒の量を測定する第二測定モードとを切り替える切替部と、
    をさらに備え、
    前記第一測定モードにあるとき、前記第一算出部が前記周波数の差分あるいは電流量を算出し、
    前記第二測定モードにあるとき、前記第二算出部が、前記小型RFコイルで取得された前記核磁気共鳴信号に基づく前記固体高分子電解質膜中のプロトン性溶媒の量の算出を実行する燃料電池システム。
  10. 請求項1乃至9のいずれかに記載の燃料電池システムにおいて、
    前記小型RFコイルが、パルス状の前記励起用振動磁場を印加するとともに、前記励起用振動磁場に対応するFID信号を取得し、
    前記第一算出部が、前記FID信号の実部および虚部を取得する燃料電池システム。
  11. 請求項1乃至9のいずれかに記載の燃料電池システムにおいて、
    前記小型RFコイルが、
    (a)90°パルス、および、
    (b)(a)のパルスの時間τ経過後に印加される180°パルス
    を含むパルスシーケンスで、前記励起用振動磁場を印加するとともに、前記励起用振動磁場に対応するエコー信号を取得し、
    前記第一算出部が、前記エコー信号の実部および虚部を取得する燃料電池システム。
  12. 請求項1乃至11のいずれかに記載の燃料電池システムにおいて、
    前記小型RFコイルに前記励起用振動磁場を発生させるRFパルスを生成するRFパルス生成部と、
    前記小型RFコイルで取得した核磁気共鳴信号を検出する信号検出部と、
    共振回路と、
    を有し、
    前記共振回路は、前記信号検出部および前記RFパルス生成部に接続され、
    前記共振回路は、前記小型RFコイルと、容量素子と、前記小型RFコイルと前記容量素子とを接続する同軸ケーブルとを有する燃料電池システム。
  13. 請求項1または2に記載の燃料電池システムにおいて、
    前記燃料電池は、前記燃料極側および前記酸化剤極側に、集電体とともに形成された導電性のセパレータを有し、
    このセパレータは、複数の溝部と前記溝部を隔てる複数のリブとが形成され、前記溝部によって反応ガスの流路を構成し、
    前記小型RFコイルは、複数設けられ、前記小型RFコイルの計測領域が、前記固体高分子電解質膜表面側からの平面視において、前記リブと前記溝部との境界線を含むように、前記リブの両側にそれぞれ配置され、
    前記第一算出部では、各小型RFコイルの位置に対応した前記周波数の差分を算出するとともに、前記リブの一方の側に配置された第一の小型RFコイルの位置に対応した前記周波数の差分と、前記第一の小型RFコイルに隣接し、前記リブの他方の側に配置された第二の小型RFコイルの位置に対応した前記周波数の差分との差を算出する燃料電池システム。
JP2009106532A 2008-05-13 2009-04-24 燃料電池システム Expired - Fee Related JP5337569B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2009106532A JP5337569B2 (ja) 2008-05-13 2009-04-24 燃料電池システム

Applications Claiming Priority (3)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2008126181 2008-05-13
JP2008126181 2008-05-13
JP2009106532A JP5337569B2 (ja) 2008-05-13 2009-04-24 燃料電池システム

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2009302040A true JP2009302040A (ja) 2009-12-24
JP5337569B2 JP5337569B2 (ja) 2013-11-06

Family

ID=41548704

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2009106532A Expired - Fee Related JP5337569B2 (ja) 2008-05-13 2009-04-24 燃料電池システム

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP5337569B2 (ja)

Cited By (4)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2010003628A (ja) * 2008-06-23 2010-01-07 Keio Gijuku 燃料電池用測定装置および燃料電池システム
WO2021141010A1 (ja) * 2020-01-10 2021-07-15 三菱重工業株式会社 水分率測定装置及び水分率測定方法
CN113793958A (zh) * 2021-08-24 2021-12-14 清华大学 一种基于电流密度分布的燃料电池水淹诊断方法
CN117691151A (zh) * 2024-02-01 2024-03-12 成都扬百风辉新能源技术有限公司 一种燃料电池运行监测方法及系统

Citations (5)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPH09238921A (ja) * 1996-03-12 1997-09-16 Toshiba Corp 磁気共鳴イメージング装置
JP2007051990A (ja) * 2005-08-19 2007-03-01 Keio Gijuku 核磁気共鳴法を用いて膜の透過特性を測定する測定装置および測定方法
JP2007080613A (ja) * 2005-09-13 2007-03-29 Toyota Motor Corp 燃料電池内電流分布計測用スケール冶具及び燃料電池内電流分布計測用固定装置
JP2007121037A (ja) * 2005-10-26 2007-05-17 Keio Gijuku 磁気共鳴法を用いて試料中のプロトン性溶媒の挙動の分布を測定する測定装置、測定方法およびプログラム
WO2008041361A1 (fr) * 2006-09-29 2008-04-10 Keio University Dispositif de mesure et procédé de mesure utilisant un procédé de résonance magnétique nucléaire

Patent Citations (5)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPH09238921A (ja) * 1996-03-12 1997-09-16 Toshiba Corp 磁気共鳴イメージング装置
JP2007051990A (ja) * 2005-08-19 2007-03-01 Keio Gijuku 核磁気共鳴法を用いて膜の透過特性を測定する測定装置および測定方法
JP2007080613A (ja) * 2005-09-13 2007-03-29 Toyota Motor Corp 燃料電池内電流分布計測用スケール冶具及び燃料電池内電流分布計測用固定装置
JP2007121037A (ja) * 2005-10-26 2007-05-17 Keio Gijuku 磁気共鳴法を用いて試料中のプロトン性溶媒の挙動の分布を測定する測定装置、測定方法およびプログラム
WO2008041361A1 (fr) * 2006-09-29 2008-04-10 Keio University Dispositif de mesure et procédé de mesure utilisant un procédé de résonance magnétique nucléaire

Cited By (4)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2010003628A (ja) * 2008-06-23 2010-01-07 Keio Gijuku 燃料電池用測定装置および燃料電池システム
WO2021141010A1 (ja) * 2020-01-10 2021-07-15 三菱重工業株式会社 水分率測定装置及び水分率測定方法
CN113793958A (zh) * 2021-08-24 2021-12-14 清华大学 一种基于电流密度分布的燃料电池水淹诊断方法
CN117691151A (zh) * 2024-02-01 2024-03-12 成都扬百风辉新能源技术有限公司 一种燃料电池运行监测方法及系统

Also Published As

Publication number Publication date
JP5337569B2 (ja) 2013-11-06

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP5469689B2 (ja) 磁気共鳴法を用いて試料中のプロトン性溶媒の挙動を局所的に測定する測定装置、測定方法、プログラム
Minard et al. Magnetic resonance imaging (MRI) of PEM dehydration and gas manifold flooding during continuous fuel cell operation
JP4798350B2 (ja) 磁気共鳴法を用いて試料中のプロトン性溶媒の挙動の分布を測定する測定装置、測定方法およびプログラム
JP5170686B2 (ja) 核磁気共鳴法を用いた測定装置および測定方法
JP5337569B2 (ja) 燃料電池システム
JP4849623B2 (ja) 試料中のプロトン性溶媒量を局所的に測定する方法、装置
Liu et al. Pulsed-field nuclear magnetic resonance: Status and prospects
Tamski et al. Electrochemical Overhauser dynamic nuclear polarization
JP4997620B2 (ja) 核磁気共鳴法を用いて膜の透過特性を測定する測定装置および測定方法
Tsushima et al. Magnetic resonance imaging of water in operating polymer electrolyte membrane fuel cells
Aguilera et al. The parallel-plate resonator: an RF probe for MR and MRI studies over a wide frequency range
JP5212972B2 (ja) 計測装置および計測方法
US9733327B2 (en) NMR imaging device with probe, magnetic field generator and image processor using transverse relaxation time (T2L) and NMR imaging method for performing T2L imaging
JP5337413B2 (ja) 燃料電池用測定装置および燃料電池システム
Ramírez Aguilera et al. Optimization of a parallel‐plate RF probe for high resolution thin film imaging
JP2016145723A (ja) セルモデル、計測システム及び同時計測方法
JP6917251B2 (ja) 測定解析装置、燃料電池システム及び測定解析方法
JP5257994B2 (ja) 測定装置および測定方法
Ogawa et al. Development of an eight-channel NMR system using RF detection coils for measuring spatial distributions of current density and water content in the PEM of a PEFC
JP5513783B2 (ja) 測定装置および燃料電池システム
JP5046203B6 (ja) 測定装置およびこれを備える燃料電池、ならびに測定方法
JP5046203B2 (ja) 測定装置およびこれを備える燃料電池、ならびに測定方法
US20240094316A1 (en) Hyperpolarization micro-magnetic resonance imager and three-dimensional imaging of a biological composition with cellular resolution
Ramírez Aguilera Parallel-plate RF probe for magnetic resonance and magnetic resonance imaging studies of lithium-ion batteries
JP2014098716A (ja) 測定装置および燃料電池システム

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20120330

A521 Written amendment

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20130131

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20130723

A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20130724

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20130805

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150

S111 Request for change of ownership or part of ownership

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R313113

R350 Written notification of registration of transfer

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R350

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

LAPS Cancellation because of no payment of annual fees