図1を参照して、この発明の一実施例である建物10は、バス停などの待合小屋、公園などの休憩小屋、および運動場などの陽射しの強い場所に設置される日除け小屋、ならびにオープンカフェおよびビアガーデン等の建物として好適に採用され、各施設を利用する利用者に対して快適な空間を提供する。なお、この発明でいう建物は、屋根と柱または側壁とを有していればよく、建築基準法でいう建築物の概念とは少し異なる概念で用いられる場合もある。この実施例の建物10は、四隅に設けられる柱12、3方向に設けられる側壁14、底部に設けられる床16、および側壁14の上に設けられる日除け具(屋根)18などによって構成される前面開放型の簡易なものである。建物10の側壁14および床16のそれぞれは、詳細は後述するように、複数の冷輻射パネル(以下、単に「パネル」という。)20を用いて形成される冷輻射パネル構造体である。
先ず、図2−図7を参照して、パネル20の構成について説明する。
パネル20は、図2に示すように、板状に形成される本体22を含み、本体22の中には、貯水部、毛細管部および通水部が形成される。このようなパネル20は、詳細は後述するように、セメントと、繊維束24および繊維塊26を含む繊維集合物とを混合し、加圧しながらセメントを硬化させることによって製造され、図3および図4に示すように、本体22の表面28および内部に繊維集合物が分散配置される構造を有する。
パネル20の本体22は、セメントを硬化させたセメントゲル30によって形成される。この場合のセメントには、各種セメントを利用でき、無機質のものを利用してもよいし、合成樹脂などの有機質のものを利用してもよい。無機質セメントとしては、たとえば、普通ポルトランドセメント或いはアルミナセメントを好適に用いることができる。普通ポルトランドセメントは、広く普及しているため入手し易く、安価であるため経済性に優れる上、これを用いて形成した本体22は、白色または淡色になるため光の表面反射率が高く、日射による表面温度上昇が発生しにくい。また、アルミナセメントを用いて本体22を形成すれば、緻密な組成を作ることができるので、細い毛細管部を形成し易い上、耐食性、耐寒性および耐熱性などに優れる。また、無機質セメントを硬化させたセメントゲル30は、親水性を有するため、水分の付着力が大きい。このため、毛細管部を水分が移動し易く、本体22の表面28上に水分が拡散し易いので、無機質セメントは、本体22の形成に適している。
なお、パネル20の本体22には、単独のセメントを用いることもできるし、複数のセメントを混合して用いることもできる。また、セメントに添加剤を配合することもでき、たとえば無機質セメントに骨材を配合して、コンクリート或いはモルタルとすることもできる。さらに、無機質セメントを焼成などして、セラミックとすることもできる。
また、本体20の表面22には、その全面に亘る多数の微細な凹凸32が形成される(図3および図4参照)。なお、図示は省略するが、本体22の上面34にも、表面28と同様の凹凸が形成される。この凹凸32は、一方向に線状に延び、その直交方向に傾斜する平坦面が繰り返される溝形や波形などで形成される。凹凸32の深さは、たとえば1〜2mmであり、凹凸32のピッチは、繊維塊26の径の数分の1から数百分の1に相当するように設定され、たとえば1〜2mmである。このような凹凸32を表面28に形成することにより、表面28の面積が増加すると共に、表面28に対する水滴のみかけの接触角が小さくなり、水分が表面28に広くかつ薄く拡がり易くなる。
繊維束24は、図5に示すように、長く延びた長尺物であって、多数の微細な繊維36を束ねて形成される。図3および図4を参照して、繊維束24は、本体20の表面28全体に亘って分散して露出し、表面28に向かって延びる繊維束24は、表面28の近くで表面28に対して平行またはほぼ平行に傾けられる。また、パネル10の単位体積当たりに含まれる繊維束24の量(密度)は、表面28に向かうほど増す。
図5および図6に示すように、繊維束24は、その内部に多数の微細な第1細孔38を有する。第1細孔38は、隣接する繊維36の間に形成される微細な空隙であって、その中にセメントゲル30が侵入していない空間であり、繊維束24の内部で連続する。また、繊維束24とセメントゲル30との間、つまり繊維36とセメントゲル30との間には、第2細孔40が形成される。第2細孔40は、第1細孔38よりも大きな空隙であり、たとえば5μm以下の太さを有する。
このような繊維束24同士が、本体22内で接触すると、第1細孔38同士、第2細孔40同士、および第1細孔38と第2細孔40とが連続して、本体22の内部に長く延びた連続空間が形成される。この連続空間は、本体22の内部から表面28へ延び、表面で開口する。また、上述のように、本体22の表面28へ向かうに従い繊維束24が密になるので、この連続空間の太さ(径)は、本体22の表面28へ向かうに従い小さくなる。さらに、繊維束24は、本体22の表面28全体に亘って分散して露出し、表面28に沿って拡がるため、第1細孔38および第2細孔40も表面28に広く長く延びる。このため、第1細孔38および第2細孔40は、導水溝としても機能する。
繊維塊26は、図7に示すように、略球形状に丸められた粒状物であり、多数の繊維42を絡み合わせて形成される。繊維塊26の粒径は限定されないが、粒径を揃えたものが好ましく、5〜6mm程度の粒径のものが特に好ましい。粒径を揃えないと、粒径の小さな繊維塊26が近接する繊維塊26同士の間隙を埋めてしまい、後述する第3細孔44が形成されず、一方、粒径が大きすぎると、パネル20の強度が低下するからである。
繊維塊26は、本体22の内部および表面28の全体に亘って分散配置されるが、本体22の表面28に近いものほど楕円形状に変形される。また、パネル20の単位体積当たりに含まれる繊維塊26の量(密度)は、本体22の表面28に向かうほど増す(図3および図4を参照)。
図6および図7に示すように、繊維塊26は、貯水部として利用される内部空間を有している。この内部空間は、上述の第1細孔38および第2細孔40よりも太い径を有する多数の第3細孔44を含む。第3細孔44は、隣接する繊維42の間に形成される微細な空隙であって、その中にセメントゲル30が侵入していない空間である。第3細孔44は、繊維塊26の内部で連続し、繊維塊26の内部空間の一部を形成する。また、繊維塊26とセメントゲル30との間、つまり繊維42とセメントゲル30との間には、繊維束24の場合と同様に、第2細孔40が形成される。
このような繊維塊26が、本体22内で繊維束24や他の繊維塊26と接触すると、第1細孔38、第2細孔40、および第3細孔44のそれぞれが連続するため、第3細孔44同士が連続したり、第3細孔44が本体22の表面28や上面34と連続したりする。
また、多数の繊維塊26が局所的に近接した部分では、隣接した繊維塊26の間にセメントゲル30が侵入せずに空隙ができ、第4細孔46が形成される。この第4細孔46の太さ、つまり隣接する繊維塊26同士の間隔の大きさは、第1、第2および第3細孔38,40,44よりも大きく形成される。この第4細孔46も、他の細孔38,40,44と連続することなどにより、本体22の内部で連続し、表面28や上面34と連続する。なお、上述のように、本体22の表面28へ向かうに従い繊維塊26が密になるので、第3細孔44および第4細孔46の太さ(径)は、本体22の表面28へ向かうに従い小さくなる。
上述の繊維束24および繊維塊26を形成する繊維36,42には、有機系繊維を利用することもできるし、無機系繊維を利用することもできる。有機系繊維としては、合成樹脂繊維および植物繊維などが挙げられる。植物繊維では、パルプスラッジまたは綿などのセルロースを含む繊維が好適に利用できる。セルロースは、非晶領域を有し、その非晶領域に水分を保持できるからである。また、無機系繊維としては、天然鉱物繊維および人造鉱物繊維などが挙げられる。人造鉱物繊維では、その入手容易性や安価な点において、ロックウールが好適に利用できる。具体的には、その繊維の平均太さが7μm以下、長さ範囲が0.1〜200mm、長さの代表値が50mm以下のロックウールを用いるとよい。なお、繊維束24および繊維塊26は、同じ種類の繊維で形成してもよいし、異なる種類の繊維で形成してもよい。
また、パネル20の体積に対して、繊維束24の体積と繊維塊26の体積とを合わせた体積(以下、「繊維の合計体積」という。)が占める割合は、次の3つの条件を満たすように決定される。1つ目の条件は、多数の繊維束24と多数の繊維塊26とが互いに絡み合うことであり、2つ目の条件は、多数の繊維塊26の間に第4細孔46が形成されることであり、3つ目の条件は、パネル20の用途に応じた強度をパネル20が有することである。
パネル20の体積に占める繊維の合計体積の割合は、本体22、繊維束24および繊維塊26の形成に利用する材料の種類などや、パネル20の使用用途および要求性能などに基づいて適宜決定されるが、パネル20を製造する際に混合するセメントの体積と繊維の合計体積との比は、2:8〜8:2の範囲内であることが望ましい。これは、セメントの割合が少なすぎると、一定の形にならないためパネル20を製造できず、セメントの割合が多すぎると、本体22の中に連続した毛細管部を適切に形成できないために、パネル20が表面温度上昇抑制効果を適切に発揮できないからである。なお、繊維束24と繊維塊26との体積比は、特に限定されないが、繊維束24の体積は、繊維塊26の体積に対して同じまたは小さいことが望ましい。
上述のように、本体22の中には、第1−第4細孔38,40,44,46が形成されるが、これら以外にも、第5細孔48が形成される(図4参照)。第5細孔48は、第1−第4細孔38,40,44,46よりも細く、セメントゲル30によって形成されて、繊維束24および繊維塊26から本体22の表面28に向かって延びる。
上述のような第1−第5細孔38,40,44,46,48の内、第3細孔44は、主に貯水部として用いられる。また、第1、第2および第5細孔38,40,48であって、繊維塊26の内部空間(貯水部)から表面28に延びるものが、主に毛細管部として用いられる。さらに、第4細孔46であって、繊維塊26の内部空間から表面28および上面34に延び、かつ毛細管部より太いものが、主に通水管部として用いられる。ここで、毛細管部とは、その管壁(この実施例では、繊維36,42やセメントゲル30)への水分の付着力が、その管内に保持された水分の重量より大きいことにより、水分が吸い上げられる空間をいう。また、通水管部とは、その径が毛細管部より大きいことにより、その管内に保持された水分の重量が、その管壁への水分の付着力より大きくなり、水分が下降する空間をいう。ただし、第1、第2および第5細孔38,40,48の中でも太いものは、主に通水管部として作用する場合もあるし、第4細孔46の中でも細いものは、主に毛細管部として作用する場合もある。
また、繊維束24および繊維塊26は、本体22の表面28および上面34全体に亘って分散して露出し、第1−第5細孔38,40,44,46,48の端部は、本体22の表面28および上面34全体に万遍なく開口する。また、表面28に露出した繊維束24が第1−第5細孔38,40,44,46,48の各開口に接触すると、この繊維束24の第1細孔38に第1−第5細孔38,40,44,46,48のそれぞれが連続する。
以下には、このようなパネル20の製造方法を説明する。ここでは、一例として、セメントに無機質セメントを用いる場合について説明する。
パネル20を製造するには、先ず、繊維束24および繊維塊26を水に浸し、水を含ませた状態の繊維束24および繊維塊26を無機質セメントおよび水に混合する。次に、図8に示すように、上部開口の成形型50の中に上述の混合物を流入し、無機質セメントが硬化する前に、その上面に圧力を加える。無機質セメントが硬化してセメントゲル30が形成され、一定形状を保持できるようになれば、その硬化物を成形型50から取り出す。そして、圧力を加えた面を切削して表面28を形成し、側面の1つを切削して上面34を形成すれば、図2−図7に示すパネル20ができあがる。
このようなパネル20の製造において、無機質セメントが硬化する際には、無機質セメントから不要な水分が流れ出て、繊維束24および繊維塊26の周囲を伝って硬化物(本体22)の外へ排出されるので、セメントゲル30と繊維束24および繊維塊26との間には、空隙が形成される。また、繊維束24および繊維塊26は、内部に水分および空気を含むので、繊維束24および繊維塊26からも水分および空気が出る。水分は、繊維束24および繊維塊26の周囲を伝って硬化物の外へ排出され、空気は、無機質セメントの中を通って硬化物の外へ排出される。この水分の排出により、セメントゲル30と繊維束24および繊維塊26との間に空隙が形成され、空気の排出により、繊維束24および繊維塊26からセメントゲル30内を通って表面28に延びる孔が形成される。さらに、無機質セメントは硬化する際に多少収縮するため、セメントゲル30が繊維束24および繊維塊26から離れて、セメントゲル30と繊維束24および繊維塊26との間には、空隙が形成される。このようにして、セメントゲル30と繊維束24および繊維塊26との間に形成された空隙が第2細孔40であり、繊維束24および繊維塊26からセメントゲル30内を通って表面28に延びるように形成された孔が第5細孔48である。
また、上述のように、混合物を成形する際に圧力を加えることにより、パネル20の本体22内に形成される第1、第2および第5細孔38,40,48の太さが全体的に細くなるので、これらの細孔38,40,48の多くが毛細管部として作用するようになり、毛細管部が本体22の中で広く連続するようになる。また、この圧力は、圧力を加えた面に近いほど大きく作用する。このため、圧力を加えた面、すなわち本体22の表面28に近い繊維束24および繊維塊26ほど圧縮され、本体22の裏面から表面28に向かうほど、第1、第2および第5細孔38,40,48、つまり毛細管部の太さは徐々に細くなる。その内部に保持された水分を毛細管現象により吸い上げる(移動させる)力は、毛細管部が狭くなるほど大きくなるので、毛細管部内に保持された水分は、毛細管部の細い方に向かって移動する。つまり、本体22の裏面から表面28に向かうに従い毛細管部の太さを徐々に細くしておけば、毛細管部内の水分は、本体22の表面28に向かって移動し易くなり、表面28からの水分の蒸発が促進される。
なお、混合物に加える圧力が小さ過ぎると、本体22の表面28に近い範囲でしか第1、第2および第5細孔38,40,48の太さが細くならないので、毛細管部が本体22の中で広く連続するようにならない。このため、パネル20が表面温度上昇抑制効果を適切に発揮できない恐れが生じる。
一方、混合物に加える圧力が大き過ぎると、第1、第2および第5細孔38,40,48の太さは、本体10の内部全体において均一に細くなる。この場合、第1、第2および第5細孔38,40,48に保持された水分に対して、毛細管現象による太さの細い方向へ引き込む力が適切に作用せず、水分が本体22の表面28まで移動し難くなる恐れが生じる。また、混合物に加える圧力が大き過ぎると、隣り合う繊維塊26が互いに近づき、隣接する繊維塊18同士の間隔が狭くなって、第4細孔46が適切に形成されない。これにより、本体22の表面28に開口する第4細孔46の数が減少し、そこから取り込まれる水分の量が減少するため、パネル20の吸水性および保水性、延いては水分蒸発性が低下してしまう恐れが生じる。
したがって、混合物に加える圧力は、本体22の中で毛細管部が広く連続し、その毛細管部が本体22の表面28に向かうに伴い細くなるように設定され、さらに第4細孔46の数が減少しないように設定される。また、混合物に加える圧力を適宜調節し、圧縮脱水時に移動する水の流れ方向および流量を制御することによって、表裏別々に毛細管部の口径および本数を制御できる。
また、混合物を成形するときに圧力を加えると、流動性の高いセメントが上方へ移動し、硬化物の表面近傍に占めるセメントゲルの割合は高くなるが、上述のように硬化物の表面近傍を切削すれば、多数の第1−第5細孔38,40,44,46,48の開口を、本体22の表面28に確実に形成できる。また、各細孔38,40,44,46,48は、表面28に向かうに従い細くなるので、表面28に形成される各細孔38,40,44,46,48の開口は小さくなり、表面28の凹凸32を形成する平坦面には、大きな窪みは形成されない。これにより、表面28では水分が均一に薄く広がるため、水分が蒸発し易い。
このようなパネル20では、本体22に水分を供給すると、水分は、毛細管現象および重力などにより、本体22の表面28または上面34に露出した繊維束24の第1細孔38に入り、そこから本体22内の第1−第5細孔38,40,44,46,48のそれぞれに浸入したり、表面28または上面34に形成される各開口から本体22内の第1−第5細孔38,40,44,46,48に浸入したりする。このように、太さの細い第1、第2および第5細孔38,40,48(毛細管部)に水分が吸収されるだけでなく、これらより太さの太い第4細孔46(通水管部)にも水分が吸収されるので、水分を本体22内へすばやく吸収することができる。これにより、本体22の表面38または上面34から水分が流れ落ちることなく、本体22内に多量の水分を吸収できる。
続いて、本体22内に吸収された水分は、第1、第2、第4および第5細孔38,40,46,48と接する第3細孔44に移動し、表面28近傍の繊維塊26に浸入する。繊維塊26に入った水分は、毛細管現象により繊維塊26の内部空間全体に拡がり、そこで保持される。
また、第4細孔46の水分は、毛細管現象および重力により、第1、第2および第5細孔38,40,48内へと浸入し、各細孔38,40,48により保持される。これと共に、水分は、各細孔38,40,48を伝って本体22内の他の繊維塊26へ移動したり、他の第4細孔46に移動したりする。このような伝播を繰り返して、本体22全体に水分が浸透していく。このように、パネル20は、本体22内に分散配置される繊維束24および繊維塊26に多量の水分をすばやく吸収して保持することができ、吸水性および保水性に優れる。
なお、パネル20の本体22内において、水分は、繊維束24および繊維塊26に毛細管現象により保持されている。特に、第1、第2および第5細孔38,40,48は、第3および第4細孔44,46に比べて細いため、水分が自重によって本体22の下側に重力水として排出される現象は抑えられて、パネル20は、多くの水分を適切に保持し続けることができる。
そして、水分を含んだパネル20(本体22)の表面28からは、周囲の環境状況に応じて水分が適宜蒸発する。特に、日射を受ける等して温度が上昇すると、表面28に広がっている水分は活発に蒸発する。このとき、表面28に露出する繊維束24の第1細孔38に保持された水分、および第1−第5細孔38,40,44,46,48の各開口付近にある水分が蒸発すると、蒸発した水分の近傍に存在する第1−第5細孔38,40,44,46,48に保持された水分は、分子間力や毛細管現象により吸い上げられて、各開口から表面28に出る。
また、表面28近傍に保持された水分が表面28へ移動するに伴い、本体22のさらに内部に保持された水分は、毛細管現象により順次吸い上げられて、第1、第2および第5細孔38,40,48を適宜通って各開口から表面28に出る。つまり、表面28における水分の蒸発に伴い、本体22内の水分は、第1、第2および第5細孔38,40,48を適宜通って表面28に順次供給される。
そして、表面28へ移動した水分は、上述の凹凸32の作用などにより、表面28全体に均一に薄く拡がり、表面28から速やかに蒸発する。このような水分の蒸発に伴う気化熱により、パネル20の表面温度は下がるので、パネル20を設置した環境の温度(気温)が上昇したとしても、パネル20の本体表面28の温度上昇は抑制される。また、環境の温度が上がれば、その分、パネル20の表面28からの水分蒸発も活発になるので、高温の環境化になるほど、パネル20の表面温度上昇抑制効果はより発揮される。
つまり、この実施例のパネル20は、多量の水分をその内部にすばやく吸収して保持でき、適切にその水分を蒸発させることができるので、持続的に表面温度上昇抑制効果を発揮でき、しかもその効果を、高温の環境化になるほど発揮することができる。
なお、この実施例では、繊維束24および繊維塊26を用いて、毛細管部、通水管部および貯水部をパネル20の本体22に形成するようにしたが、繊維を用いずに、毛細管部、通水管部および貯水部をパネル20の本体22に形成するようにしてもよい。たとえば、珪藻土焼成粒などの多孔質体を利用して、パネル20の本体22に毛細管部、通水管部および貯水部を形成してもよい。
図1に戻って、この実施例の建物10は、上述のパネル20を用いて形成した側壁14および床16を備えており、パネル20による冷輻射を利用してその内部を冷房し、利用者に対して快適な空間を提供する。
以下、建物10の構成について具体的に説明する。図1に示すように、建物10は、その4隅に設けられる柱12を備える。そして、その柱12の内側を覆うように、3方向に側壁14が設けられ、残りの1方向は開放状態にされている。また、建物10の底部には、床16が設けられる。建物10の大きさは、その用途などに応じて適宜設定されるが、この実施例では、たとえば、高さが1.8mであり、横幅が1.5mであり、奥行きが1.5mである。なお、側壁14が設けられる3方向は、特に限定されるものではないが、日本などの北半球に位置する場所では、たとえば東側、南側および西側に面するように側壁14を設けるとよい。
上述のように、側壁14および床16は、複数のパネル20を組み合わせて形成される。この実施例では、パネル20を、縦(高さ)30cm、横(幅)30cm、厚さ3cmの寸法に形成し、これらを縦方向および横方向に並べるようにして柱12に取り付ける、或いは地面に配置することにより、側壁14および床16を形成した。ただし、パネル20の寸法は、その用途などに応じて適宜設定可能である。
具体的に、側壁14の形成方法について説明する。図9を参照して、柱12には、隣り合う柱12同士を結ぶように横方向に延びる複数の木桟60が設けられる。木桟60は、柱12にパネル20を取り付けると共に、建物10の強度を補強するためのものである。木桟60は、板状の挟持部60aおよびその挟持部60aから突出する支持部60bを有し、その断面は略「T」字状を有する。パネル20は、その表面28を建物10の内側に向けて、木桟60と板状の押え具62とによって挟み込まれる状態で固定される。なお、押え具62の材質は、特に限定されるものではないが、軽量であり、熱伝導率も良いという点において、アルミニウムが押え具62の材質として好適である。
木桟60および押え具62を用いて柱12にパネル20を取り付ける際には、木桟60の支持部60bの上にパネル20を乗せ、パネル20の下部を押え具62によって押える。そして、その状態で、狭持部60aと押え具62とをボルト64等によって締め付けることにより、パネル20の下部を固定する。また、パネル20の上部も同様に、木桟60の狭持部60aと押え具62との間に挟み込むようにして固定する。この際には、パネル20の上面34と木桟60の支持部60bとの間に隙間が設けられる。この隙間には、パネル20の上面34に沿うように延びる給水管66が配置される。
図10は、給水管66の配管構造を概略的に示す図であり、パネル20を用いて形成される側壁14(つまり冷輻射パネル構造体)を概略的に示す図である。図10に示すように、給水管66は、その管壁に適宜な間隔で孔68を有している。そして、水道管(図示せず)と接続され、水道管からの給水圧を利用して、水分をその孔68から各パネル20の上面34に供給する。この給水管66には、合成樹脂などによって形成される市販の灌水チューブを利用することができる。なお、給水管66に形成される孔68の数、大きさおよび配置間隔などは、パネル20に供給する水分の量によって適宜設定されるが、この実施例では、1枚のパネル20当たり1つの孔68が形成され、この孔68からは1時間当たり2.5リットルの水分を供給できるようにされている。また、給水管66(或いは水道管)には、タイマ設定によってその開閉を制御できる電磁弁(メータ)70が設けられており、給水管66からパネル20への給水時間(給水量)は、タイマによって調整できるようになっている。
また、床16も側壁14と同様に、パネル20を縦方向および横方向に並べるように地面に配置することによって形成され、各パネル20の間には給水管66が配管される。
また、側壁14の上には、日除け具18が設けられる(図1参照)。日除け具18は、建物10の上方からの日射を遮り、建物10の内部空間を日陰状態にするためのものであり、簾などが用いられる。簾は、日射を適度に遮ることが可能であると共に、風通し(通気性)がよいので、パネル20から蒸発した水分が建物10の内部空間に留まることを防ぐ。
このような建物10では、夏場などの気温が上昇する時期などには、たとえば朝方の1時間程度、給水管66の電磁弁70が開状態にされ、給水管66から各パネル20の上面34に対して水分が供給される。各パネル20の上面34に供給された水分は、上述のように、各細孔38,40,44,46,48を適宜通ってパネル20の本体22全体に浸透していき、パネル20(繊維束24および繊維塊26)に保持される。そして、時刻が昼に近づいて気温が上昇したり、側壁14(パネル20)が直射日光を受けたりすると、パネル20の表面28からの水分の蒸発が活発になる。すると、その気化熱によりパネル20の表面温度(つまり建物10の側壁14および床16の内面温度)は下がる。つまり、建物10の周囲の温度が上昇しても、建物10の側壁14および床16の内面温度の上昇は抑えられ、低温のまま維持される。しかも、周囲が高温になれば、それに伴ってパネル20の表面28からの水分の蒸発もより活発になるので、建物10の側壁14および床16の内面は、周囲の温度によらず低温のまま維持される。
このように低温に維持される側壁14および床16の内面からの輻射熱はほとんど無く、一方、人体からは輻射熱が発せられる。したがって、人が建物10の内部空間に入ると、人は、側壁14および床16に熱を奪われる状態、つまり側壁14および床16の内面(パネル20の表面28)から冷輻射を受ける状態になり、涼しさを感じることになる。
上述のように、この実施例の建物10では、パネル20を用いて側壁14および床16を形成し、夏場などの気温が上昇するときに、冷輻射を利用してその内部にいる人に涼感を与え、快適な空間を提供する。この際、パネル20の表面温度は、気化熱によって下げられるので、パネル20に供給する水には、特許文献1の技術のように冷却水を用いる必要はなく、水道水などをそのまま使用できる。したがって、この実施例によれば、水の冷却装置が不要であり、冷却水をつくるための電気代もかからないので、導入コストおよび運転コストを低減できる。もちろん、従来のエアーコンディショナ(エアコン)を利用して冷房する場合と比較すると、格段に運転コスト(電気代)を低減できる。
また、周囲の温度が上がると、それに応じてパネル20からの水の蒸発も活発になり、パネル20の表面温度は低温に維持されるので、高温の環境下でも冷輻射によって適切に冷房機能を発揮できる。
さらに、パネル20は、セメントゲル30によって形成される本体22の中に、貯水部、毛細管部、および通水管部を有するという構成にすることにより、吸水性、貯水性および水分蒸発性に優れ、持続的に表面温度上昇抑制効果を発揮できる。したがって、建物10(パネル20)は、適切な冷房機能を持続的に発揮できる。本願発明者らによる実験によると、環境状況による変動はあるが、パネル20全体に水分を保持させておけば、新たに水分を供給することなく、1〜2日は連続して冷房機能を発揮できることが確認されている。
なお、この実施例の建物10では、パネル20の表面温度を下げるために水を蒸発させるので、建物10の内部空間の湿度が上昇してしまうという懸念があるが、建物10では、その前面を開放状態にしており、しかも通気性を有する日除け具18を上面に設けているので、内部の空気は自然と入れ替わる。したがって、建物10の内部に湿気がこもることは無く、その内部空間は快適に保たれると共に、パネル20からの水分蒸発は維持される。
また、冬場など冷房が必要のない時期には、水の供給を停止し、パネル20内に水分を保持しない状態にしておけば、水分の蒸発による表面温度の低下は生じないので、冷房機能は停止される。また、パネル20は、断熱効果も有するので、従来の木製やコンクリート製の建物と同様に、冬場には防寒機能を発揮できる。
このような建物10を日本の大学研究棟の屋上に実際に設置し、9月中旬頃の晴れた日に、側壁14の表面(内面)温度、および建物10の内部環境を計測した結果を図11−図14に示す。内部環境の計測には、京都電子工業株式会社製のポータブルPMV計(AM−101)を用い、内部環境を計測する際には、PMV計の計測部が建物のほぼ中央に位置するように、三脚等を用いてPMV計を固定的に設置した。なお、比較例として、パネル20の代わりに、木製の合板(ベニヤ板)を用いて側壁および床を形成した建物を用意した。その内部環境などを計測した結果も合わせて図11−図14に示す。
図11は、建物10の外部の気温(外気温)と、実施例および比較例の南側に面した側壁の各時刻における表面温度とを示す。図11に示すように、この計測を行った日は、午前6時頃から気温が上昇し、午前10時〜11頃に最高気温の約33℃となり、その後徐々に気温が低下するという日であった。比較例では、側壁の表面温度は、外気温とほぼ同様の動向を示し、外気温が最高気温に達した際には約34℃まで上昇した。これに対して、実施例では、側壁14の表面温度は、外気温に係わらず25℃近辺でほぼ一定であった。このことから、周囲が高温でない場合には、側壁14の表面からの水の蒸発はあまり活発に行われず、周囲が高温になれば、側壁14の表面からの水の蒸発も活発になることにより、側壁14の表面温度が適切に低温に維持されることがわかる。なお、本願出願人などによる他の実験においては、パネル20の本体22の表面温度は、湿度にもよるが、無風状態で外気温より4℃程度低くなり、風速2mの風がある状態で外気温より10℃程度低くなり、風速3m以上の風がある状態で外気温より13℃程度低くなることが確認されている。
図12は、実施例および比較例の建物内部の各時刻における気温を示す。図12に示すように、実施例では、およそ28℃〜30℃の間で気温が推移し、その全測定値の平均値は、29.3℃であった。これに対して、比較例では、およそ29℃〜32℃の間で気温が推移し、その全測定値の平均値は、30.6℃であった。このように、実施例と比較例とでは、その内部の気温に大差は無かった。
図13は、実施例および比較例の建物内部の各時刻における平均輻射温度を示す。図13に示すように、データに多少のばらつきはあるが、実施例では、およそ32℃〜36℃の間で平均輻射温度が推移し、その全測定値の平均値は、33.8℃であった。これに対して、比較例では、およそ36℃〜45℃の間で平均輻射温度が推移し、その全測定値の平均値は、39.4℃であった。このように、実施例では、その平均輻射温度を比較例よりも低温に保つことができる。
一般的に、人の体感温度は、おおよそ気温と平均輻射温度との平均値となることが知られている。実施例と比較例との内部の気温差は1〜2℃程度であり、平均輻射温度の差は5〜6℃程度であるので、人の体感温度としては、実施例の建物内部の方が3℃程度涼しく感じることが推定される。
また、図14は、実施例および比較例の建物内部の各時刻におけるPMVを示す。ここで、PMV(Predicted Mean Vote)とは、「予想平均温冷感申告」のことであり、ファンガーが提唱した人の暑さ寒さの感覚を指標化した温熱指標のひとつである。PMVは、温度、湿度、気流(風速)、平均輻射温度、着衣量および活動量(作業量)に基づいて、一定の条件下で大多数の人が感じる温冷感の平均の数値を理論的に予測したものであり、「+3(暑い)」から「−3(寒い)」までの数値で表現され、数値が「0」に近い程、人にとって快適とされる。
図14に示すように、実施例では、およそ1.0〜2.0の間でPMVが推移し、その全測定値の平均値は、1.61であった。これに対して、比較例では、およそ2.0〜3.0の間でPMVが推移し、その全測定値の平均値は、2.70であった。このように、この実施例では、そのPMVを比較例よりも1.0程度低く(「0」に近く)保つことができる。また、外気温が最高気温に達した午前10時〜11時頃には、実施例および比較例のPMVの差が1.2程度あるのに対し、外気温が低下した午後1時頃には、その差が0.8程度であった。このことから、外気温(周囲の温度)が高くなる程、実施例と比較例との差が明確となり、実施例はより高い冷房機能を発揮することがわかる。
なお、この計測を行った同じ日に、大学研究棟内の部屋を従来のエアコンによって28℃に空調したところ、そのPMVは、2.1〜2.5程度であった。つまり、28℃に空調された部屋よりも、直射日光が当たる屋外に設置したこの実施例の建物10の内部の方が、人にとって快適な空間を提供できるのである。
図15は、実際に実施例および比較例の建物の中に、事前の説明を行うことなく被験者に入ってもらい、どのように感じたかを質問したときのアンケート結果を示す。被験者は、19〜22歳の大学生であり、11人の男性および5人の女性を含む。また、図15において、「体感」とは、実施例および比較例のどちらの方が涼しく感じるかのアンケート結果を示し、「○」は実施例の方が涼しく感じることを表し、「△」はどちらでもないことを表し、「×」は比較例の方が涼しく感じることを表す。また、「温度差」とは、そのときにどの程度の温度差があると感じたかを被験者に数値として表現してもらった結果を示す。
図15に示すように、事前に説明を与えることなく、つまり先入観を与えることなく実施例および比較例の建物の中に入ってもらったにも係わらず、ほぼ全ての被験者(16人のうち15人)が、内部の気温についての感想を述べ、実施例の建物10の方が涼しいと答えた。また、多くの被験者(16人のうち9人)が、2〜3℃程度の温度差があると感じている。このことは、図12および図13に示した計測結果から推測される人の体感温度と概ね一致する。
以上の計測結果およびアンケート結果より、建物10は、優れた冷房機能を発揮できることがわかる。また、実施例および比較例の内部の気温に大きな差はないことから、建物10の冷房機能は、主に冷輻射によるものであることが分かる。
また、パネル20の定性定量分析を行った結果を表1に示す。定性定量分析は、蛍光X線分析装置を用いて行い、FP(ファンダメンタル・パラメータ)定量法によって各元素の定量を行った。また、試験体に用いたパネル20は、製造後、屋外に1か月間および屋内に1ヶ月間の計2ヶ月間静置しておいたパネル20であり、計測時には気乾状態となっているパネル20である。
[表1]
表1に示すように、製造後2カ月間が経過したパネル20には、3.17wt%もの炭素(C)が含まれていることが分かった。パネル20の製造に用いた無機質セメントおよび繊維(この実施例ではロックウール)には、炭素成分は含まれていないため、検出された炭素成分は、パネル20が固定化した二酸化炭素に由来するものであると推定される。この検出された炭素を二酸化炭素量に換算すると、18.8wt%もの二酸化炭素がパネル20によって固定化されていることになる。つまり、パネル20は、二酸化炭素固定化パネルとしても有効に利用できることが分かる。
また、この試験体(パネル20)において、二酸化炭素が主にどの成分と結合しているのかを分析したところ、この試験体には、多くのCaCO3およびAl4OC4が含まれていることが分かった。これらの化合物は安定的に存在できるので、パネル20によって二酸化炭素が安定的に固定化されることが分かる。
なお、18.8wt%という二酸化炭素の固定化量は、製造後2ヶ月間という短期間で達成されたものである。パネル20に含まれるセメント成分の割合を考慮すると、より長い期間が経過すれば、パネル20は、より多くの二酸化炭素を固定化できると推定される。
このように、パネル20が大量の二酸化炭素を素早く固定化できるのは、従来のセメント成形体では、その構造が緻密であるため、成形体に含まれるセメント成分の一部しか二酸化炭素の固定化に利用できなかったものが、パネル20では、その大部分のセメント成分を二酸化炭素の固定化に利用できるようになるからであると考えられる。
具体的には、セメントゲルによって形成される本体22の内部には、表面28と連通する貯水部44、毛細管部38,40,48および通水管部46が形成されるので、パネル20では、二酸化炭素と接触するセメントゲルの接触面積が非常に大きくなる。また、パネル20は、優れた吸水性および保水性を有するため、大気中に含まれる二酸化炭素だけでなく、内部に保持した水中に含まれる二酸化炭素も有効に固定化できる。これらが、パネル20が大量の二酸化炭素を素早く固定化できる要因であると考えられる。
上述のように、パネル20は、冷輻射パネルとして機能すると共に、二酸化炭素固定化パネルとしても有効に機能し、効率的に二酸化炭素を固定化でき、地球温暖化防止に貢献できる。
なお、上述の実施例では、側壁14を3方向に設け、側壁14全体および床16全体をパネル20によって形成したが、これに限定されない。たとえば、3方向に設けた側壁14のうち、1方向或いは2方向の側壁14のみをパネル20によって形成することもできるし、側壁14の一部のみをパネル20によって形成することもできる。また、たとえば、床16のみをパネル20によって形成することもできるし、床16の一部のみをパネル20によって形成することもできる。さらに、側壁14は、直交する3方向に設けられることに限定されず、たとえば、側壁14は、1方向に設けるだけでもよいし、2方向に設けるだけでもよい。また、側壁14の交わる角度は90°でなくてもよく、4方向以上に側壁14が設けられてもよい。ただし、建物10内の湿度の上昇を抑制するため、側壁14の1方向(或いは一部)は開放されていることが望ましく、開放型ではない場合には、換気装置や除湿機などを別途用いる必要が生じる場合がある。
また、上述の実施例では、パネル20によって側壁14を形成したが、これに限定されず、従来のコンクリートなどによって形成した側壁の内面に、パネル20を貼り付けることもできる。また、側壁にパネル20を立てかけておくだけでもよいし、床にパネル20を置いておくだけでもよい。また、側壁14の上部に設ける日除け具18として、簾などの代わりに、パネル20を用いることもできる。つまり、冷輻射パネル構造体を屋根部材に用いてもよい。
さらに、上述の実施例では、水道管と接続した給水管66によって、パネル20の上面34から水分を供給するようにようにしたが、これに限定されない。たとえば、貯水タンクを別途用意しておき、その貯水タンクからポンプなどを用いて給水管66に水を供給し、給水管66からパネル20の上面34に水分を供給することもできる。また、たとえば、その底面に孔を設けた容器状の給水タンクを作成して、その給水タンクをパネル20の上面34に設置するようにしてもよい。パネル20に水を供給する際には、その給水タンクに手差しで水を供給すれば、給水タンクの孔からパネル20の上面34に水分が供給される。さらにまた、パネル20の上面34からだけでなく、パネル20の表面28からも水分を供給することができる。たとえば、水の飛散が問題にならないような場所では、水道ホースによる散水や打ち水によって、パネル20の表面28に水をかけ、パネル20に水分を供給するようにしてもよい。なお、パネル20に供給する水は、水道水に限定されず、雨水や井戸水などを利用することもできる。
また、上述の実施例では、パネル20を、本体22の裏面から表面28に向かうに伴い、繊維束24および繊維塊26が密になるように形成したが、これに限定されない。たとえば、本体22の中央部から表面28に向かうに伴い、繊維束24および繊維塊26が密になると共に、本体22の中央部から裏面に向かうに伴っても、繊維束24および繊維塊26が密になるようにすることもできる。つまり、両面が表面28となる状態にしてもよい。このようなパネル20の製造では、混合物が硬化する際に、その1つの面から圧力を加える代わりに、その両面から圧力を加えるようにすればよい。このように、本体22(パネル20)の両面を表面28にすることにより、その両面から水分の蒸発を活発に行えるようになるので、パネル20全体の温度が下がり易くなり、より冷房効果を発揮することができる。
また、この際には、側面の1方向からも圧力を加えるようにし、その圧力を加えた側面を上面とすれば、その上面付近も繊維束24および繊維塊26が密になり、上面からの水分の吸水性が向上する。
また、パネル20は、水を蒸発させるので、屋外に設置される開放型の建物10に用いることが最適であるが、一般住宅などにおける屋内の壁や屋根裏に用いてもよい。たとえば、オフィスなどで利用されるパーテーション(間仕切り)にも好適に用いることができる。また、馬房、牛舎および豚舎などの家畜小屋、或いは野菜の保管庫などの側壁や間仕切り等としても好適に用いることができる。ただし、閉じられた空間にパネル20を用いる場合には、湿度の上昇を防止するために、換気装置や除湿機などを別途用いる必要がある。
さらに、屋外などでは、道路(歩行路)の脇沿いに並べるようにして、その表面28を道路側に向けてパネル20を設けるようにすれば、その道路の利用者は、パネル20からの冷輻射によって涼感を得て、快適に道路を通行することができる。このように、パネル20、或いはパネル20を用いて構成される冷輻射パネル構造体は、様々な場所や用途に利用可能であり、パネル20を用いることによって電気代を大幅に削減できる。
なお、PMV等の計測値は、建物10についてのものしか示していないが、パネル10、およびパネル10を用いて構成される冷輻射パネル構造体についても、建物10と同様の冷房効果を奏することは自明である。