JP2009299160A - 導電性アルミニウム薄膜 - Google Patents

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Abstract

【課題】成膜コストを低く抑えることができ、薄膜化が容易で、光反射率の設定可能範囲の広い導電性アルミニウム薄膜を提供する。
【解決手段】基材11の表面に形成される導電性アルミニウム(Al)薄膜たる酸素導入Al薄膜12aは、Alにその固溶限界を超える酸素を導入させてなり、100at%のアルミニウムに対する酸素導入量がEPMAによる測定値において5〜80at%である。酸素導入Al薄膜12aは、純Alターゲットを用い、グロー放電を利用した物理蒸着法を用い、その成膜雰囲気において希ガス流量に対して酸素流量を制御することにより成膜される。
【選択図】図1

Description

本発明は、基材表面に形成して用いられるアルミニウム薄膜に関し、より詳しくは、黒色電極や意匠性薄膜等として用いられる導電性アルミニウム薄膜に関する。
家電部品や自動車部品等に使用される金属部品には、意匠性や防錆の観点から塗装やめっきが施される。その中で、金、銀、パラジウム、真鍮、クロム等の金属薄膜コーティングは、高級感を醸し出す高い意匠性を有している。例えば、クロムめっきの光反射率は約60%で、その色調から高級感を与えるという理由で、高級装飾や自動車のアルミホイール等に用いられている。
しかし、クロムは材料コストが高いことから、これを代替する技術の開発が行われており、例えば、銀を主成分とする金属ナノ粒子から形成される光沢膜形成塗料を用いて、クロム光沢調ミラーを形成する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
一方、電子材料分野においては、低反射の電極材料が求められている。例えば、黒色に着色された黒色電極が、粒子移動型表示装置(所謂、電子ペーパー)やプラズマディスプレイパネルで用いられている(例えば、特許文献2、3参照)。また、反射型液晶デバイス等でも、黒色電極に対するニーズがある。
特開2006−124583号公報 特開2007−127676号公報 特開2007−128858号公報
しかしながら、主成分として銀を用いるコーティング薄膜は、原料コストが高いという問題がある。また、従来の黒色電極は、ペースト状のものをスクリーン印刷法等により形成するために、薄膜化が困難であるという問題もある。さらに、物品や部品等の表面に求められる光反射率による意匠性については、ユーザーニーズの多様化を背景として、従来よりも優れた表現力や個性的な表現力が求められている。
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、成膜コストを低く抑えることができ、また、薄膜化が容易であり、光反射率の設定可能範囲の広い導電性アルミニウム薄膜を提供することを目的とする。
発明者は前記課題を解決するために、原料コストが低く、薄膜化成膜が容易で、電気抵抗率が小さいという特徴を有するが、意匠性の観点からは、光反射率が高いためにCrめっきのような高級感を出しにくく、しかも、表面に自然酸化膜が形成されたときに外観上白っぽく見えることがあるという問題を有するアルミニウム薄膜について、鋭意検討した。その結果、PVD法によりアルミニウム薄膜を成膜する際に、適正量の酸素または窒素を導入することにより、所望の光反射率を有するアルミニウム基の薄膜を得ることができることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明に係る導電性アルミニウム薄膜は、基材表面に形成して用いられ、物理蒸着法によりアルミニウムにその固溶限界を超える酸素を導入させてなる導電性アルミニウム薄膜であって、100at%のアルミニウムに対する前記酸素の導入量がEPMAによる測定値において5〜80at%であることを特徴とする。
このような組成及び膜厚を有する導電性アルミニウム薄膜(以下「酸素導入Al薄膜」と記す)は、純アルミニウム薄膜(以下「純Al薄膜」と記す)に比べて低い光反射率を示し、その光反射率は酸素導入量に応じて変化する。そのため、意匠性コーティング膜として、その用途に応じた光反射率を有する酸素導入Al薄膜を、組成選択(組成制御)により容易に得ることができる。また、酸素導入Al薄膜は純Al薄膜に比べると高い電気抵抗率を示すが、その電気抵抗率は酸素導入量に応じて変化するため、例えば、電極材料や電磁気シールド材、帯電防止剤等として、その用途に適した電気抵抗率を有する酸素導入Al薄膜を、組成選択(組成制御)により容易に得ることができる。
酸素導入Al薄膜は、波長550nmの光反射率が10〜85%であり、かつ、電気抵抗率が1.0×10−5〜1Ω・cmであることが好ましい。
このような特性を有する酸素導入Al薄膜は、意匠性コーティング膜として、また、電極材料等として、幅広い用途に対応することができる。
酸素導入Al薄膜では、前記波長550nmの光反射率をZとし、前記電気抵抗率をXとし、Y=0.053×(LogX−0.016×(LogX+0.65×(LogX+0.29×LogX+25としたときに、Y−10<Z<Y+10の関係が満たされていることが好ましい。
本発明に係る酸素導入Al薄膜では、その光反射率Zと電気抵抗率Xが酸素導入量によりほぼ一義的に定まるが、例えば、Al粒子の大きさの違い等により、若干のばらつきが生じる。そこで、最初に、実際に得られた良好な光学的特性と電気的特性(光反射率Zと電気抵抗率X)を有する酸素導入Al薄膜に基づいて、最小二乗法等により光反射率Zと電気抵抗率Xの常用対数であるLogXとの関係式を導き、これに前記したばらつきを考慮したものが“Y−10<Z<Y+10”(この不等式は結果的に光反射率Zと電気抵抗率Xとの関係を示す不等式)であり、逆に、この不等式を満たす酸素導入Al薄膜は、好ましい光学的特性と電気的特性を有しているものと判断することができる。
本発明に係る酸素導入Al薄膜は、その膜厚が10〜10000nmであることが好ましい。
酸素導入Al薄膜は、このような膜厚であることにより、意匠性コーティング膜として、また、電極材料として、良好な特性を示す。
本発明に係る別の導電性アルミニウム薄膜は、基材表面に形成して用いられ、物理蒸着法によりアルミニウムにその固溶限界を超える窒素を導入させてなる導電性アルミニウム薄膜であって、100at%のアルミニウムに対する前記窒素の導入量がEPMAによる測定値において5〜30at%であることを特徴とする。
このような組成を有する導電性アルミニウム薄膜(以下「窒素導入Al薄膜」と記す)は、前記酸素導入Al薄膜と同様に、純Al薄膜に比べて低い光反射率を示し、その光反射率は窒素導入量に応じて変化する。そのため、意匠性コーティング膜として、その用途に応じた光反射率を有する窒素導入Al薄膜を、組成選択(組成制御)により容易に得ることができる。また、窒素導入Al薄膜は純Al薄膜に比べると高い電気抵抗率を示すが、その電気抵抗率は窒素導入量に応じて変化するため、例えば、電極材料や電磁気シールド材、帯電防止剤等として、その用途に適した電気抵抗率を有する窒素導入Al薄膜を、組成選択(組成制御)により容易に得ることができる。
窒素導入Al薄膜は、波長550nmの光反射率が10〜85%であり、かつ、電気抵抗率が1.0×10−5〜100Ω・cmであることが好ましい。
このような特性を有する窒素導入Al薄膜は、意匠性コーティング膜として、また、電極材料等として、幅広い用途に対応することができる。
窒素導入Al薄膜では、前記波長550nmの光反射率をZとし、前記電気抵抗率をXとし、Y=1.2×(LogX−5.4×LogX+35としたときに、Y−10<Z<Y+10の関係が満たされていることが好ましい。
先に酸素導入Al薄膜について、光反射率Zと電気抵抗率Xとの関係が意味するところについて述べたが、これと同様に、窒素導入Al薄膜については、光反射率Zと電気抵抗率Xとの間に上記の関係が成り立ち、この関係を満たす窒素導入Al薄膜は良好な光学的特性と電気的特性を示す。
窒素導入Al薄膜の膜厚は、30〜10000nmであることが好ましい。
窒素導入Al薄膜は、このような膜厚であることにより、意匠性コーティング膜として、また、電極材料として、良好な特性を示す。
本発明によれば、成膜に安価な材料である金属アルミニウムを用いるために、成膜コストを低く抑えることができる。また、物理蒸着法を用いて導電性アルミニウム薄膜を成膜するため、薄膜化が容易である。さらに、所望の光反射率または電気抵抗率を有する導電性アルミニウム薄膜を、酸素導入量または窒素導入量を制御することにより、容易に得ることができる。
本発明に係る導電性アルミニウム薄膜は、種々の物品の表面に形成することにより、その物品に高い意匠性を付与することができるという効果を奏する。また、本発明に係る導電性アルミニウム薄膜は、適切な組成を選択することにより、従来から用いられている黒色電極に代えて用いることができ、これにより黒色電極を用いるディスプレイ製品等の製造コスト、製品コストを低減することができるようになるという利点を有する。
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
《第1実施形態》
図1(a)に本発明の第1実施形態に係る被成膜体の概略構造を示す。被成膜体10Aは、基材11の表面に、金属アルミニウム(以下「アルミニウム」を「Al」と記す)にその固溶限界を超える酸素(O)を導入させてなる薄膜である酸素導入Al薄膜12aが形成された構造を有している。
基材11には、例えば、金属やガラス、樹脂等の各種材料が用いられる。
酸素導入Al薄膜12aは導電性を有する薄膜であり、その酸素導入量は、EPMA(Electron Probe Micro Analysis)による測定値で、100at%(=原子%)のAlに対して5〜80at%である。酸素導入Al薄膜12aの成膜方法については後に詳細に説明するが、酸素導入Al薄膜12aは、その成膜に用いるターゲット材の純度に起因する不可避不純物を含む。なお、「導電性を有する」とは、誘電体のように実質的に電気を流さない性質を有するものを排除するが、必ずしも良導体であることを必要としない。
酸素導入Al薄膜12aにおいて、酸素導入量が5at%未満の場合には、酸素導入Al薄膜12aの波長550nmでの光反射率Z(以下単に「光反射率Z」と記す)が85%を超えやすくなり、一般的な純Al薄膜(波長550nmでの光反射率は約92%)と同等となるため、酸素導入によって光反射率Zを低下させる効果が実質的に得られない。すなわち、この場合には、純Al薄膜との対比において、意匠性に差異が感じられ難い。一方、酸素導入Al薄膜12aの製造方法であるグロー放電を利用した物理蒸着法(後に詳細に説明する)では、酸素導入量が80at%を超える酸素導入Al薄膜を形成しようとすると、誘電体であるアルミナ(Al)薄膜が形成されてしまうという問題が生じる。
酸素導入Al薄膜12aにおいて、酸素導入量は20〜70at%であることが好ましく、純Al薄膜よりも光反射率Zが小さく、かつ、一定の光沢が得られることで、被成膜体10Aの意匠性を高めることができる。
このような組成条件が満たされている場合において、酸素導入Al薄膜12aにおける酸素導入量が同じであっても、例えば、酸素(O)の分布状態やAl粒子の大きさが異なると、光反射特性に若干の差が生じる。そこで、前記した組成条件が満たされている場合に、被成膜体10Aに高い意匠性を付与する観点から、酸素導入Al薄膜12aの光反射率Zは、10〜85%であることが好ましい。
光反射率Zが85%を超える場合には、純Al薄膜と対比して視覚的に明確な差異が感じられ難く、一方、光反射率Zが10%未満では、被成膜体10Aに実質的に光沢がない状態となり、被成膜体10Aに光沢による高い意匠性を付与することができなくなる。酸素導入Al薄膜12aの好適な光反射率Zは20〜70%であり、Crめっきのような高級感のある色調を得ることができ、被成膜体10Aに高い意匠性を付与することができる。
酸素導入Al薄膜12aの用途は多岐にわたり、例えば、黒色電極材料や電磁気シールド材、帯電防止剤等としても用いることができる。各用途にはそれに適した電気抵抗率の範囲が存在する。そのため、酸素導入Al薄膜12aは、それが用いられる用途に応じた電気抵抗率Xを備えている必要がある。言い換えれば、酸素導入Al薄膜12aの電気抵抗率Xを用途に応じて調整する必要がある。酸素導入Al薄膜12aの電気抵抗率Xは、後記する実施例から明らかなように、酸素導入量が多くなるにしたがって大きくなる傾向を示すことから、この電気抵抗率Xの調整は、酸素導入量の制御によって行うことができる。
酸素導入Al薄膜12aは、前記した組成条件を満たしている際に、電気的特性の観点から、前記した光反射率Zを有すると共に、その電気抵抗率Xが1.0×10−5〜1Ω・cmであることが好ましく、これにより酸素導入Al薄膜12aを種々の用途に用いることが可能となる。ここで、酸素導入Al薄膜12aの電気抵抗率Xは、四探針法によって測定される値である。また、酸素導入Al薄膜12aが、前記した光反射率Zの条件をも満たすことで、電気的特性を確保しながら、高い意匠性をも確保することができる。すなわち、酸素導入Al薄膜12aを、その電気的性質が重視されると共に意匠性も重視される用途に、好適に用いることができるようになる。
酸素導入Al薄膜12aでは、電気抵抗率Xの関数として、Y=0.053×(LogX−0.016×(LogX+0.65×(LogX+0.29×LogX+25(以下、適宜、「第1式」という)を定義したときに、このYと光反射率Zとの間に、Y−10<Z<Y+10(以下、適宜、「第2式」という)の関係が満たされていることが好ましい。
酸素導入Al薄膜12aでは、光反射率Zと電気抵抗率Xは、酸素導入量によってほぼ一義的に定まるが、例えば、Al粒子の大きさの違い等により、若干のばらつきが生じる。そこで、実際に得られた良好な特性〔(Z1a,X1a)、(Z1b,X1b)、(Z1c,X1c)、・・・〕を有する酸素導入Al薄膜12aについて、最小二乗法等により、光反射率Zと電気抵抗率Xの常用対数であるLogXとの関係式を導き、得られた式を、光反射率YとLogXとの関係式とすることにより、前記第1式が得られる。つまり、この光反射率Yは、大凡、光反射率Zの平均値(LogXに対して最も高い確率で取り得る値)としての意味を有する。この光反射率Yのばらつきを考慮したものが前記第2式に示される不等式である。前記第1式を前記第2式に代入すれば明らかな通り、前記第2式は光反射率Zと電気抵抗率Xとの関係を規定しており、前記第2式を満たす酸素導入Al薄膜12aは、電気的特性と意匠性に優れたものと判断することができる。
酸素導入Al薄膜12aの膜厚は10〜10000nmとすることが好ましい。膜厚が10nm以下の均一な厚さの膜を成膜することが困難であり、また、光の大部分が透過してしまうために、所望の光反射率Zが得られず、被成膜体10Aに所望の意匠性を付与することができない。一方、膜厚が10000nmを超えると、成膜時または成膜後に内部応力によって基材11から剥離しやすくなる。酸素導入Al薄膜12aの膜厚は、より好適には50〜5000nmとされる。
なお、酸素導入Al薄膜12aは、X線回折(XRD)において、ミラー指数[100]面の回折ピークの角度が純Alの[100]面の回折ピークの角度の±5度の範囲にあり、かつ、Alの回折ピークが現れないことが好ましい。Alの[100]面の回折ピークのシフトは、酸素導入Al薄膜12aにおいて、酸素導入による格子歪みが生じているが、金属Alとしての結晶構造が維持されていることを示している。酸素導入Al薄膜12aの電気抵抗率Xが、酸素導入量が多くなるにしたがって大きくなるのは、酸素によってAl同士の金属結合が分断されることによるものと考えられるが、金属Alの結晶構造が維持され、かつ、誘電体であるAlを実質的に含まないために、酸素導入Al薄膜12aの電気抵抗率Xの上昇は一定に抑えられているものと考えられる。
《第2実施形態》
図1(b)に本発明の第2実施形態に係る被成膜体の概略構造を示す。被成膜体10Bは、基材11の表面に、金属Alにその固溶限界を超える窒素(N)を導入させてなる窒素導入Al薄膜12bが形成された構造を有している。基材11は、被成膜体10Aに用いられるものと同じである。また、窒素導入Al薄膜12bも、酸素導入Al薄膜12aと同様に、その成膜に用いるターゲット材の純度に起因する不可避不純物を含む。
窒素導入Al薄膜12bは、導電性を有する薄膜であり、その窒素導入量は、EPMAによる測定値で、100at%のAlに対して5〜30at%である。窒素導入量が5at%未満の場合には、窒素導入Al薄膜12bの波長550nmでの光反射率Z(以下単に「光反射率Z」と記す)が85%以上となり、窒素導入による光反射率低下の効果が小さい。この場合、純Al薄膜との対比において、意匠性に差異が感じられ難い。一方、窒素導入Al薄膜12bの製造方法であるグロー放電を利用した物理蒸着法では、30at%を超える窒素を導入しようとすると、誘電体である窒化アルミニウム(AlN)薄膜が形成されてしまう。窒素導入量は10〜25at%であることが好ましく、純Al薄膜よりも光反射率Zが小さく、かつ、一定の光沢が得られることで、優れた意匠性が得られる。
窒素導入Al薄膜12bの光反射率Zは10〜85%であることが好ましい。その理由は、先に説明した酸素導入Al薄膜12aの場合と同じである。すなわち、光反射率Zが85%を超える場合には、純Al薄膜と対比して視覚的に明確な差異が感じられ難く、一方、光反射率Zが10%未満では、被成膜体10Bに実質的に光沢がない状態となり、被成膜体10Bに光沢による高い意匠性を付与することができなくなる。窒素導入Al薄膜12bの好適な光反射率Zは20〜70%であり、Crめっきのような高級感のある色調を得ることができ、被成膜体10Bに高い意匠性を付与することができる。
窒素導入Al薄膜12bは、前記した光反射率Zを有すると共に、その電気抵抗率X(四探針法による)が1.0×10−5〜100Ω・cmであることが好ましい。その理由は、先に説明した酸素導入Al薄膜12aの場合と同じである。すなわち、窒素導入Al薄膜12bもまた、例えば、黒色電極材料や電磁気シールド材、帯電防止剤等として用いることができる。窒素導入Al薄膜12bの電気抵抗率Xは、後記する実施例から明らかなように、窒素導入量が多くなるにしたがって大きくなる傾向を示すことから、窒素導入Al薄膜12bを、その電気抵抗率Xが1.0×10−5〜100Ω・cmの範囲の所定の値を示すように、窒素導入量を制御する。これによって、電気的特性を確保しながら、高い意匠性をも確保することができる。
窒素導入Al薄膜12bでは、電気抵抗率Xの関数として、Y=1.2×(LogX−5.4×LogX+35(以下、適宜、「第3式」という)を定義したときに、このYと光反射率Zとの間に、Y−10<Z<Y+10(以下、適宜、「第4式」という)の関係が満たされていることが好ましい。
その理由は、酸素導入Al薄膜12aについて前記第1式及び前記第2式を規定した理由と同じである。すなわち、窒素導入Al薄膜12bでも、光反射率Zと電気抵抗率Xは、窒素導入量によりほぼ一義的に定まるが、例えば、Al粒子の大きさの違い等により、若干のばらつきが生じる。そこで、実際に得られた良好な特性〔(Z2a,X2a)、(Z2b,X2b)、(Z2c,X2c)・・・〕を有する窒素導入Al薄膜12bについて、最小二乗法等により光反射率Zと電気抵抗率Xの常用対数であるLogXとの関係式を導き、得られた式を、光反射率YとLogXとの関係式とすることにより、前記第3式が得られる。したがって、光反射率Yは、大凡、光反射率Zの平均値としての意味を有する。この光反射率Yのばらつきを考慮したものが前記第4式に示される不等式であり、前記第4式を満たす窒素導入Al薄膜12bは、電気的特性と意匠性に優れたものと判断することができる。
窒素導入Al薄膜12bの膜厚は、30〜10000nmであることが好ましい。膜厚が30nm以下では、均一な厚さの膜の成膜が困難であり、また、光の大部分が透過してしまうために、所望の光反射率Yが得られず、被成膜体10Bに所望の意匠性を付与することができない。一方、膜厚が10000nmを超えると、成膜時または成膜後に内部応力によって基材11から剥離しやすくなる。窒素導入Al薄膜12bの膜厚は、好適には50〜5000nmである。
なお、窒素導入Al薄膜12bは、XRDにおいて、ミラー指数[100]面の回折ピークの角度が純Alの[100]面の回折ピークの角度の±5度の範囲にあり、かつ、AlNの回折ピークが現れないことが好ましい。Alの[100]面の回折ピークのシフトは、窒素導入Al薄膜12bにおいては、窒素導入による格子歪みが生じているが、金属Alとしての結晶構造が維持されていることを示している。窒素導入Al薄膜12bの電気抵抗率が、窒素導入量が多くなるにしたがって大きくなるのは、窒素によってAl同士の金属結合が分断されることによるものと考えられるが、金属Alの結晶構造が維持され、かつ、誘電体であるAlNを実質的に含まないために、窒素導入Al薄膜12bの電気抵抗率の上昇は一定に抑えられているものと考えられる。
《酸素導入Al薄膜と窒素導入Al薄膜の成膜方法》
図1(c)に、第1実施形態に係る酸素導入Al薄膜と第2実施形態に係る窒素導入Al薄膜の成膜方法を表したフローチャートを示す。酸素導入Al薄膜12aと窒素導入Al薄膜12bの成膜には、PVD法(物理蒸着法)の1つであるグロー放電を用いたスパッタ法が好適に用いられる。
<酸素導入Al薄膜の成膜方法>
酸素導入Al薄膜12aの成膜は以下の通りに行われる。すなわち、チャンバに純Alターゲットをセットし、また、所定位置に基材11を配置した後、チャンバ内を真空雰囲気とし、かつ、チャンバ内にAr等の希ガスのみを一定流量で供給して、所定の放電電力で初期グロー放電を開始する(初期グロー放電開始工程:S1)。次に、グロー放電が維持されるようにチャンバ内圧を保持しながら、チャンバへの希ガス流量に対する酸素(ガス;O)流量を徐々に増加させ、所定値で保持する。これにより、基材11上に酸素導入Al薄膜12aが成膜される(成膜処理工程:S2a)。このとき、希ガス流量に対する酸素流量を制御することにより、酸素導入Al薄膜12aへの酸素導入量を5〜80at%の範囲の所定値に調整することができる。グロー放電を終了することにより、成膜は終了する。
<窒素導入Al薄膜の成膜方法>
窒素導入Al薄膜12bの成膜方法は、前記した酸素導入Al薄膜12aの成膜方法において、チャンバに供給するガスを酸素から窒素へ変更したものである。すなわち、チャンバに純Alターゲットをセットし、また、所定位置に基材11を配置した後、チャンバ内圧を真空雰囲気とし、かつ、チャンバ内にAr等の希ガスのみを一定流量で供給して、所定の放電電力で初期グロー放電を開始する(初期グロー放電開始工程:S1)。次に、グロー放電が維持されるようにチャンバ内圧を保持しながら、チャンバへの希ガス流量に対する窒素(ガス;N)流量を徐々に増加させ、所定値で保持する。これにより、基材11上に窒素導入Al薄膜12bが成膜される(成膜処理工程:S2b)。このとき、希ガス流量に対する窒素流量を制御することにより、窒素導入Al薄膜12bへの窒素導入量を5〜30at%の範囲の所定値に調整することができる。グロー放電を終了することにより、成膜は終了する。
<酸素導入Al薄膜の成膜プロセスに関する検討>
前記の通り、酸素導入Al薄膜12aと窒素導入Al薄膜12bとでは、成膜に用いるガス種が異なるだけであるので、ここでは、次に、酸素導入Al薄膜12aを例に挙げて、その成膜に前記したプロセスを用いる理由をさらに詳細に説明する。ここでは、成膜プロセスにおいて、不活性ガスとしてアルゴン(Ar)を用いることとして、説明する。
PVD法によって純Al薄膜を成膜する技術は一般的に用いられており、また、PVD法によるAl薄膜の成膜も一般的に行われている。PVD法の1つであるスパッタ法を例にとると、通常、スパッタ法で純Al薄膜を形成するためには、ターゲットとして純Alターゲットを用い、これをマイナス極として、対向する位置に基板(基材11)を設置する。チャンバ内部の大気成分である窒素、酸素、水蒸気及び炭酸ガスを排除するために、一旦、1×10−6Torr(=1.3×10−4Pa)以下の真空(減圧状態)にした後、不活性ガスとしてのArを1mTorr〜5mTorrでチャンバに供給した状態で、電極間にDC電力を投入する。これにより、グロープラズマが発生し、プラズマ中のArイオンが純Alターゲットに衝突してAl原子が叩き出され、対極に設けられた基板(基材11)に純Al薄膜が形成される。
このような純Al薄膜の成膜方法の応用として、成膜中にArと共に酸素をチャンバに供給することによりAl薄膜を形成する方法が、反応性スパッタ法として知られている。通常、チャンバ内に酸素を供給すると、純Alターゲットの表面が酸化し、こうして純Alターゲット表面に生成したAlがスパッタされることによって、基板(基材11)上に透明な誘電体であるAl薄膜が形成されると考えられている。
純Ar雰囲気で純Alターゲットをスパッタする状態では安定な放電が実現されているが、チャンバ内圧を一定に維持しながら、Ar流量を固定して、Arと共にチャンバに供給する酸素流量を大きくしていくと、所定の酸素流量となった時点で放電状態が急変し、電流・電圧が大きく変化する。この変化は、定電流電源を使うか、定電圧電源を使うか、または定電力電源を使うかによって異なるが、このような変化を認知することは容易であり、この変化が生じた後の状態では、基板(基材11)上にAl薄膜が形成される。つまり、放電状態が急変する変化点よりも酸素流量が少ない雰囲気ではAl薄膜(チャンバに酸素が導入された雰囲気において成膜される観点から「純Al薄膜」と言わないこととする)が形成され、変化点よりも酸素流量の多い雰囲気では、Al薄膜が形成されるものと理解される。
そこで、本発明者はさらに放電状態を詳しく調査した結果、チャンバに供給するAr流量を一定として、チャンバに供給する酸素流量を徐々に増加させていった場合に放電状態が急変する酸素流量と、逆に、酸素流量を徐々に減少させていった場合に放電状態が急変する酸素流量とに、違いがあることを発見した。
これについてより詳しく、図2を参照しながら説明する。図2は酸素流量と放電電圧との関係を模式的に示す図である。チャンバに供給するAr流量を一定として、チャンバに供給する酸素流量を徐々に増加させていった場合には、ある特定量の酸素流量Aに達した時点で放電状態が急変し、Al薄膜の成膜モードからAl薄膜の成膜モードに切り替わる。一方、Alが成膜されるような酸素流量の多い状態から酸素流量を減少させていった場合には、酸素流量Aの地点を過ぎてもAl薄膜の成膜モードが維持され、さらに酸素流量を減少させて特定量の酸素流量Bとなった時点で、放電状態が大きく変化して、Al薄膜の成膜モードに戻る。
さらに、このようなAl薄膜の成膜モードにおいて成膜されるAl膜の状態について詳しく調査した結果、純Ar雰囲気での放電では純Al薄膜が成膜され、酸素流量を徐々に増加させていく過程においても、酸素流量が酸素流量B以下である場合には、純Al薄膜と特に変わりのない光反射率を有するAl薄膜が得られる(Al薄膜の成膜モード)。続いて酸素流量を徐々に増加させ、酸素流量B〜酸素流量Aの間でAl薄膜を成膜した場合には、光反射率が低下したAl薄膜(すなわち、酸素導入Al薄膜12a)が得られる(低反射Al薄膜の成膜モード)。さらに酸素流量を徐々に増加させた酸素流量Aを越える範囲では、Al薄膜が成膜される(Al薄膜の成膜モード)。
次に、酸素流量を徐々に減少させた場合には、酸素流量がB以上の範囲がAl薄膜の成膜モードとなり、酸素流量がB以下の範囲がAl薄膜の成膜モードとなる。なお、酸素流量を増加させる際の酸素流量Aの状態と酸素流量を減少させる際の酸素流量Bの状態は、放電が不安定となるために、通常、実際の成膜条件として用いない。
したがって、まず、酸素流量が少ない状態(Al薄膜の成膜モード)から放電を開始し、徐々に酸素流量を増加させて、酸素流量Bと酸素流量Aの間で酸素流量を固定した放電を行うことで、安定した低反射Al薄膜の成膜モードに移行することができ、光反射率を制御した酸素導入Al薄膜12aを得ることができる。
なお、酸素流量が多い状態から放電をスタートして酸素流量を酸素流量Bと酸素流量Aの間まで減らした場合や、放電開始時点で酸素流量が酸素流量Bと酸素流量Aの間に設定されていた場合には、Al薄膜の成膜モードとなるために、酸素導入Al薄膜を得ることはできない。これは、チャンバ内部に含まれる微量の残存酸素によって純Alターゲット表面がAlに変化してしまっており、Al薄膜が成膜されやすい状態になっているためと考えられる。
このような放電状態に変化をもたらす酸素流量は、後記するように、放電電力にも依存している。放電電力を大きくすることによって、低安定な放電で低反射Al薄膜の成膜モードを実現することができる酸素流量範囲を拡大することができる。これは、電力(電流)を大きくすることでArのスパッタ量が増加し、純Alターゲットの表面に形成されたAlが純Alターゲットの表面を全面的に覆う前に、電力増大に伴って増加したArイオンが、Alを吹き飛ばすことによるものと推測される。
前記した低反射Al薄膜の成膜モードにより成膜された酸素導入Al薄膜12aには、固溶限界量を超える酸素原子が導入されている。一般的な金属溶解法で金属Alを製造する場合、金属Alに固溶する酸素量は2×10−8%以下であり、それ以上の酸素原子を導入しようとしても、金属AlとAlとに分離する(混合状態となる)。しかし、スパッタ法等の物理蒸着法は急冷プロセスであるために、固溶限界量を超えた量の酸素原子を強制的に薄膜中に導入することができ、ここでは、Ar流量に対する酸素流量を制御することにより、Al薄膜に固溶限界量を超える酸素原子を導入させている。
酸素導入Al薄膜12aは、純Al薄膜に比して、大きな電気抵抗率を有する(つまり、導電性は低下する)。ここで、通常、金属が高い光反射率を示す原因は、可視光が金属中の自由電子によって遮られて金属内に侵入できないことにある。一方、金属の電気抵抗率も自由電子の存在によって規定されるため、金属の電気抵抗率を変化させれば、光反射率も変化することになる。つまり、酸素導入Al薄膜12aでは、酸素導入によって自由電子の状態が変化するため、電気抵抗率の変化と光反射率の低下とが同時に起こる。このような酸素導入Al薄膜12aにおける光反射率と電気抵抗率との同時制御は、物理蒸着法によって初めて実現される。この性質を利用して、意匠性コーティング膜として、その用途に応じた光反射率を有する酸素導入Al薄膜12aを、組成選択(組成制御)と膜厚制御により容易に得ることができる。
なお、一般的な金属溶解法で作成した金属Alの場合には、混入した酸素は巨大なAlを形成して析出するため、電気抵抗率が顕著に大きくなることはない。また、表面の大部分は金属Alであるから、光沢すなわち光反射率にも大きな変化はない。
次に、本発明の実施例について説明するが、本発明が以下の実施例に限定されるものでないことは言うまでもない。
《予備試験》
予備実験として以下の成膜試験を行った。すなわち、マグネトロンスパッタリング装置を用い、そのチャンバ内にスパッタリングターゲットとして純Alターゲットを設置し、真空ポンプによって1×10−6Torr(=1.3×10−4Pa)まで真空排気した後、Arを流量40sccm(=ml/min)で導入しながら、チャンバ内圧力を2mTorr(=0.267Pa)に保持した。次に、定電流電源装置を用いて純AlターゲットにDC電圧を印加することにより、グロー放電(初期グロー放電)を生じさせた。このとき、印加電圧(放電電圧)を400V、電流を0.4A(電力:160W)、放電時間を10分とした。このグロー放電により、放電状態を安定化させることができる。
続いて、グロー放電を生じさせた状態で、チャンバ内に酸素を導入して、放電電圧の変化を測定した。なお、Ar流量を変化させずに酸素流量を変化させることとして、チャンバ内圧を2mTorrに保持した。図3にその結果を示す。図3は酸素流量と放電電圧との関係を示すグラフであり、図3に示す「増加手順」が酸素流量を徐々に増加させることを示している。酸素流量が0〜2.6sccmの範囲では、放電電圧は395V〜415Vの範囲であった。この間の放電はAl薄膜の成膜モードである。次に、酸素流量を2.7sccmにすると放電電圧は315Vに大きく低下した。さらに酸素流量を増やしても、放電電圧に大きな変化は現れなかった。この間の放電はAl薄膜の成膜モードである。
次に、酸素流量が4sccmの状態で10分間のグロー放電を行った後、酸素流量を徐々に減少させた(図3に示す「減少手順」)。その結果を図3に併記する。この場合、酸素流量が1.3sccmまでは、放電電圧は315V〜325Vであり、この間の放電はAl薄膜の成膜モードである。酸素流量を1.2sccmとすると、放電電圧は413Vまで大きく上昇した。その後、酸素流量を減らしても、放電電圧に大きな変化は現れなかった。この間の放電はAl薄膜の成膜モードである。
これと同様の試験を放電電力260W(410V×0.63A)で行った。最初に、チャンバ内を1×10−6Torrまで真空排気して、Arを導入し、チャンバ内圧力を2mTorrとした後、放電電圧:410V、電流:0.63Aで10分の初期グロー放電を行った。次に、チャンバ内圧を一定に保持しながら、チャンバ内への酸素流量を変化させた結果を図4に示す。酸素流量が0〜3.1sccmの範囲では、放電電圧は390V以上であったが(Al薄膜の成膜モード)、酸素流量が3.2sccmになると、放電電圧は315Vまで大きく低下した。さらに酸素流量を増やしても、放電電圧に大きな変化は現れなかった(Al薄膜の成膜モード)。
続いて、酸素流量が4sccmの状態で10分間のグロー放電を行った後、酸素流量を徐々に減少させた。その結果を図4に併記する。酸素流量が1.5sccmまでは325V以下であったが(Al薄膜の成膜モード)、酸素流量を1.4sccmとすると、放電電圧は410Vまで大きく上昇した。その後、酸素流量を減らしても、放電電圧に大きな変化は現れなかった(Al薄膜の成膜モード)。
《試料作製》
表1に酸素導入Al薄膜に関する試験条件と試験結果を示し、表2に窒素導入Al薄膜に関する試験条件と試験結果を示す。各比較例及び各実施例には、基材として、厚さが0.7mm、直径が50.8mm(=2インチ)の青板ガラス基板を用いた。また、スパッタターゲットとして、純Alターゲットを用いた。まず、比較例1と実施例1の試料作製方法について詳細に説明する。
Figure 2009299160
Figure 2009299160
<比較例1>
表1に示すように、放電電力を260Wとして、前記した予備試験における放電環境(チャンバ内圧力:2mTorr、Ar流量:40sccm)でのグロー放電を220秒間行うことにより、膜厚500nmの純Al薄膜を基板上に成膜した。なお、予め触針式膜厚計を用いて成膜レートを求めており、その成膜レートから、所望の膜厚となる成膜時間(グロー放電時間)を決定している。
<実施例1>
表1に示すように、放電電力を260Wとして、前記した予備試験における放電環境(チャンバ内圧力:2mTorr、Ar流量:40sccm)でグロー放電を開始した後、チャンバ内圧を2mTorrに保持しながら、チャンバ内への酸素供給を開始して徐々に酸素流量を上げ、酸素流量を2.2sccmで保持して210秒間(グロー放電開始から終了までのトータルの時間)の成膜を行うことにより、膜厚500nmの酸素導入Al薄膜を基板上に成膜した。膜厚の制御方法は比較例1の場合と同様である。
<実施例2〜10、比較例2,3>
その他の試料である実施例2〜10及び比較例2,3の試料作製は、前記した実施例1に係る酸素導入Al薄膜の成膜方法に準じて、表1に記載の条件で行った。表2に示す実施例11〜15及び比較例4の試料作製は、チャンバへの供給ガスとして窒素を用い、前記した実施例1に係る酸素導入Al薄膜の成膜方法に準じて、表2記載の条件で行った。以下、各試料に形成された膜を総じて「Al基膜」と呼ぶこととする。
《試料評価方法》
各試料に形成されたAl基膜における酸素または窒素の導入量(at%)の測定は、EPMA(日本電子(製)、型式:JXA−8800RL、加速電圧:5.0kV、照射電流:0.5μA)により行った。また、各試料について、分光光度計を用いて、入射角:5度、反射角:5度の正反射条件で、Al基膜の波長550nmでの光反射率を測定した。各試料に形成されたAl基膜の相同定は、X線回折法(XRD)により行った。さらに、各試料に形成されたAl基膜の電気抵抗率の測定を四探針法により行った。
酸素導入Al薄膜(実施例2〜10及び比較例2,3)については、測定された電気抵抗率Xに基づき、Y=0.053×(LogX−0.016×(LogX+0.65×(LogX+0.29×LogX+25、によりY値を求めた。一方、窒素導入Al薄膜(実施例11〜15及び比較例4)については、測定された電気抵抗率Xに基づき、Y=1.2×(LogX−5.4×LogX+35、によりY値を求めた。なお、比較例1については、他の試料との対比のために、Y値とY値の両方を求めて、それぞれ表1と表2に併記している。
《試験結果》
試験結果を表1,2に併記する。また、図5に、比較例1と実施例1について、光反射率の波長依存性を表した図を示す。比較例1の純Al薄膜の波長550nmでの光反射率は92%であるが、実施例1の酸素導入Al薄膜の光反射率Zは28%であった。目視では、実施例1の試料表面は黒っぽくなっており、若干の映り込みがある金属的な光沢(反射状態)を示した。また、実施例2〜10の光反射率Zは、10〜85%の範囲内にあることが確認された。なお、実施例1について、波長550nmでの光透過率を測定したところ、0.001%以下であった。これは、酸素導入Al薄膜が金属膜であるために、光が酸素導入Al薄膜を透過できないことによるものと考えられる。
表1に示されるように、比較例1の純Al膜の電気抵抗率は3.0×10−6Ω・cmであったが、例えば、実施例1に係る酸素導入Al薄膜の電気抵抗率Xは1.2×10−3Ω・cmとなっており、酸素導入によって電気抵抗率Xが大きくなっていることが確認された。実施例1〜10の結果に示される通り、酸素導入Al薄膜では、比較例1の純Al薄膜と対比して電気抵抗率Xが大きくなっており、酸素導入量の値が大きくなるにしたがって電気抵抗率Xが大きくなる傾向にあることがわかる。比較例2では、酸素流量が大きかったために酸素導入量が大きくなり、誘電体であるAlが成膜された。比較例3では、酸素導入量が少ないために、純Al薄膜と同等の光反射率Zとなった。
図6に、酸素導入Al薄膜について、光反射率Z(測定値)及び光反射率Y(計算値)と電気抵抗率Xとの関係を表した図を示す。図6には、計算により得られた光反射率Yに基づいて、“Y+10”と“Y−10”の値をそれぞれ示す曲線を記している。図6に示されるように、実施例1〜10の光反射率Zは、“Y+10”と“Y−10”の間にあり、良好な電気的特性及び光学的特性を示すことが確認された。
次に、表2に示されるように、実施例11に係る窒素導入Al薄膜では、電気抵抗率Xは3.4×10−1Ω・cmとなっており、窒素導入によって電気抵抗率Xが大きくなっていることが確認された。実施例11〜15の結果に示される通り、窒素導入Al薄膜でも、比較例1の純Al薄膜と対比して電気抵抗率Xは大きくなっており、窒素導入量の値が大きくなるにしたがって電気抵抗率Xが大きくなる傾向にあることがわかる。比較例4では、窒素流量が大きかったために、誘電体であるAlNが成膜された。
実施例11〜15に係る窒素導入Al薄膜の光反射率Zは、10〜85%の範囲内にあることが確認された。図7に、窒素導入Al薄膜について、光反射率Z(測定値)及び光反射率Y(計算値)と電気抵抗率Xとの関係を表した図を示す。図7には、計算により得られた光反射率Yに基づいて、“Y+10”と“Y−10”の値をそれぞれ示す曲線を記している。図7に示されるように、実施例11〜15の光反射率Zは、“Y+10”と“Y−10”の間にあり、良好な電気的特性及び光学的特性を示すことが確認された。
(a)は本発明の第1実施形態に係る被成膜体の構造を示す断面図であり、(b)は本発明の第2実施形態に係る被成膜体の構造を示す断面図であり、(c)は被成膜体の製造方法を示すフローチャートである。 グロー放電において酸素流量を変化させた場合の、酸素流量と放電電圧との関係を模式的に示す図である。 グロー放電において酸素流量を変化させた場合の、酸素流量と放電電圧との関係を示す図である。 グロー放電において酸素流量を変化させた場合の、酸素流量と放電電圧との関係を示す別の図である。 比較例1と実施例1について、光反射率の波長依存性を示す図である。 酸素導入Al薄膜についてのY及びZとXとの関係を示す図である。 窒素導入Al薄膜についてのY及びZとXとの関係を示す図である。
符号の説明
10A 被成膜体
10B 被成膜体
11 基材
12a 酸素導入Al薄膜
12b 窒素導入Al薄膜

Claims (8)

  1. 基材表面に形成して用いられ、物理蒸着法によりアルミニウムにその固溶限界を超える酸素を導入させてなる導電性アルミニウム薄膜であって、
    100at%のアルミニウムに対する前記酸素の導入量がEPMAによる測定値において5〜80at%であることを特徴とする導電性アルミニウム薄膜。
  2. 波長550nmの光反射率が10〜85%であり、かつ、電気抵抗率が1.0×10−5〜1Ω・cmであることを特徴とする請求項1に記載の導電性アルミニウム薄膜。
  3. 前記波長550nmの光反射率をZとし、前記電気抵抗率をXとし、Y=0.053×(LogX−0.016×(LogX+0.65×(LogX+0.29×LogX+25としたときに、Y−10<Z<Y+10の関係が満たされていることを特徴とする請求項2に記載の導電性アルミニウム薄膜。
  4. 膜厚が10〜10000nmであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の導電性アルミニウム薄膜。
  5. 基材表面に形成して用いられ、物理蒸着法によりアルミニウムにその固溶限界を超える窒素を導入させてなる導電性アルミニウム薄膜であって、
    100at%のアルミニウムに対する前記窒素の導入量がEPMAによる測定値において5〜30at%であることを特徴とする導電性アルミニウム薄膜。
  6. 波長550nmの光反射率が10〜85%であり、かつ、電気抵抗率が1.0×10−5〜100Ω・cmであることを特徴とする請求項5に記載の導電性アルミニウム薄膜。
  7. 前記波長550nmの光反射率をZとし、前記電気抵抗率をXとし、Y=1.2×(LogX−5.4×LogX+35としたときに、Y−10<Z<Y+10の関係が満たされていることを特徴とする請求項6に記載の導電性アルミニウム薄膜。
  8. 膜厚が30〜10000nmであることを特徴とする請求項5から請求項7のいずれか1項に記載の導電性アルミニウム薄膜。
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