以下、この発明の各実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、各図中、同一符号は同一または相当部分を指し、その説明は繰返さない。
発明者らは、容積補償法において、動脈の無負荷状態を維持するためのサーボ制御に係るサーボゲインの決定について次のような知見を得た。
サーボゲインを増加していくにつれて、動脈容積変化信号の振幅は次第に小さくなり振幅は最小値に収束していく。つまり、サーボ制御により、サーボゲインを増加させていく過程において、カフ圧信号から検出される脈動の大きさも収束し、動脈の容積の変化の量も最小値に収束する。それ以上にサーボゲインを増加すると、制御系が不安定になるため、制御信号において不要な高周波成分の振動が生じる。さらにサーボゲインを増加すると、制御信号において異常発振が生じて制御不能になるという性質がある。そこで、発明者らは、この性質を利用して、サーボゲインを増加させながらサーボ制御を行う過程で動脈容積変化信号の振幅が最小となる時点を検出することにより、個人毎に動脈の無負荷状態を維持するための最適なサーボゲインを決定できるとの知見を得た。
以下に、各実施の形態に係る容積補償法を用いて血圧を測定する電子血圧計を説明する。各実施の形態に係る電子血圧計は、最適なサーボゲインを決定後は、たとえば特許文献1に開示される手順を利用した容積補償法により連続的に血圧を測定する。電子血圧計は、生体外から動脈に外圧を加え、生体外圧と動脈内圧すなわち血圧とが常時平衡するように、決定した最適なサーボゲインを用いてサーボ制御する。つまり、電子血圧計は、動脈壁が無負荷状態に維持されるようにカフ圧を微調整し、そのとき(無負荷状態)の生体外圧を測定することにより連続的に血圧を測定する。
図1は、本発明の各実施の形態に係る電子血圧計1の外観斜視図である。
図1を参照して、電子血圧計1は、本体部10と、被測定者の四肢に巻き付け可能なカフ20とを備える。本体部10はカフ20に取り付けられている。本体部10の表面には、たとえば液晶等により構成される表示部40と、ユーザ(被測定者)からの指示を受付けるための操作部41とが配置されている。操作部41は、複数のスイッチを含む。
本実施の形態において、「四肢」とは、上肢および下肢を表わす。つまり、四肢は、手首から腕の付け根までの部位と、足首から足の付け根までの部位とを含む。以下の説明においては、カフ20は、被測定者の手首に装着されるものとする。
なお、各実施の形態における電子血圧計1は、図1に示されるように、本体部10がカフ20に取り付けられた形態を例に説明するが、上腕式の血圧計で採用されているような、本体部10とカフ20とがエアチューブ(後述の図3においてエアチューブ31)によって接続される形態のものであってもよい。
図2は、本発明の各実施の形態に係る電子血圧計1における血圧測定のためのカフ圧を制御する概念を表わした図である。図2には、カフ20が、被測定者の手首200に装着された様子が示される。
図2を参照して、本体部10には、ポンプ51および排気弁(以下、単に「弁」という)52を含むカフ圧の調整機構が配置される。
ポンプ51、弁52、および空気袋21内の圧力(カフ圧)を検出するための圧力センサ32からなるエア系30は、エアチューブ31を介して、カフ20に内包される空気袋21と接続される。このように、エア系30が本体部10に設けられるため、カフ20の厚みを薄く保つことができる。
空気袋21の内側には発光素子71と受光素子72とが所定の間隔に配置される。図2では、カフ20の装着状態における手首の周に沿って発光素子71と受光素子72とが並べられるが、このような配置例に限定されるものではない。
図3は、本発明の各実施の形態に係る電子血圧計1のハードウェア構成を表わすブロック図である。
図3を参照して、電子血圧計1のカフ20は、空気袋21と、動脈容積センサ70とを含む。動脈容積センサ70は、上述した発光素子71と受光素子72とを有する。発光素子71は、動脈に対して光を照射し、受光素子72は、発光素子71によって照射された光の動脈の透過光または反射光を受光する。
なお、動脈容積センサ70は、動脈の容積が検出できるものであればよく、インピーダンスにより動脈の容積を検出するものであってもよい。その場合、発光素子71および受光素子72に代えて、動脈を含む部位のインピーダンスを検出するための複数の電極が含まれる。
本体部10は、上述の表示部40および操作部41に加え、各部を集中的に制御し、各種の演算処理を行なうためのCPU(Central Processing Unit)100と、CPU100に所定の動作をさせるプログラムや各種データを記憶するためのメモリ部42と、測定された血圧データを記憶するための不揮発性メモリの1種であるフラッシュメモリ43と、CPU100を介し各部に電力を供給するための電源44、および現在時間を計時して計時データをCPU100に出力するタイマ45とを含む。操作部41は、電源をONまたはOFFするための指示の入力を受付ける電源スイッチ41Aと、測定開始の指示を受付けるための測定スイッチ41Bと、測定停止の指示を受付けるための停止スイッチ41Cと、フラッシュメモリ43に記録された血圧などの情報を読出す指示を受付けるためのメモリスイッチ41Dと、被測定者を識別するためのID(Identifier)情報を入力するために操作されるIDスイッチ41Eを有する。
本体部10は、さらに、上述したエア系30と、カフ圧の調整機構50と、発振回路33と、発光素子駆動回路73と、動脈容積検出回路74とを含む。
調整機構50は、ポンプ51および弁52の他、ポンプ駆動回路53と弁駆動回路54とを有する。
ポンプ51は、カフ圧を加圧するために、空気袋21に空気を供給する。弁52は、空気袋21の空気を排出しまたは封入するために開閉される。ポンプ駆動回路53は、ポンプ51の駆動をCPU100から与えられる制御信号に基づいて制御する。弁駆動回路54は弁52の開閉制御をCPU100から与えられる制御信号に基づいて行なう。
発光素子駆動回路73は、CPU100からの指令信号に応じて、発光素子71を所定のタイミングで発光させる。動脈容積検出回路74は、受光素子72からの信号に基づき、動脈容積を検出する。
圧力センサ32は、静電容量型の圧力センサでありカフ圧により容量値が変化する。発振回路33は、圧力センサ32の容量値に応じた発振周波数の信号をCPU100に出力する。CPU100は、発振回路33から得られる信号を圧力に変換し圧力を検知する。
(実施の形態1)
以下、実施の形態1によるサーボゲイン決定動作について説明する。本実施の形態では、容積補償法に従う血圧測定時のサーボ制御に用いるべき予め検出した特定のサーボゲイン(最適サーボゲインという)の決定に要する時間を短縮して血圧測定を迅速に開始できるようにするために、初期サーボゲインを予め算出し、サーボゲイン調整時に現在のサーボゲインを、算出しておいた初期サーボゲインを加算することにより逐次更新する。この概要を説明する。
(概要)
まず、初期サーボゲインの算出方法について後述の式1〜式4を用いて説明する。図4には、制御脈圧と制御誤差とサーボゲインの関係が模式的に示される。図4では、横軸は最適サーボゲインを決定する期間の時間経過を指しており、同一時間軸上に、制御脈圧と制御誤差とサーボゲインの変化が示される。
容積補償法においては、動脈の容積が無負荷状態の容積(制御目標値)に一致するように、すなわち動脈容積の脈動が最小になるようにカフ圧Pcをサーボ制御する。図4を参照して、サーボ制御においては、カフ圧Pcの制御量(これを、制御脈圧PPcという)は、制御誤差信号(制御誤差信号は、制御目標値と動脈容積信号の値の差分を指す信号)の振幅(Δerr)にサーボゲイン(G)を掛け合わせた値として指示される。そこで、動脈の容積が無負荷状態時の制御脈圧PPcである制御脈圧PPc1および動脈の容積が無負荷状態時の制御誤差振幅Δerrである制御誤差振幅Δerr1が予め検出されるならば(式1)に基づき最適サーボゲインAGを算出することができる。
上記の制御脈圧PPcは、最高血圧と最低血圧の差分により指示される。ここで、容積補償法に従う血圧測定時に検出されるべき血圧値(最高血圧と最低血圧)は、制御目標値を決定する過程においてオシロメトリック法に従う算出により推定(検出)することができる。また、上記の制御誤差振幅Δerr1は、サーボ制御開始前の動脈容積信号の振幅値(制御誤差最大値:Δerr-max)と、動脈容積一定制御による容積変化消去率PDR(サーボ制御中の動脈容積変化信号の振幅/サーボ制御前の動脈容積変化信号の振幅)とを用いて(式2)に基づき算出することができる。
また、サーボ制御開始前の動脈容積信号(Δerr-max)は、カフ20により動脈を徐々に圧迫していったときの動脈容積信号の最大振幅値として検出できる。これに対し、容積変化消去率PDRは被測定者の動脈の弾性特性によって異なるので、通常は実際にサーボ制御を行うまでは検出することができない。ここで、何らかの方法により事前に容積変化消去率PDRを推定することができれば、(式3)に基づき制御脈圧PPc1を取得するのに必要なサーボゲイン、すなわち最適サーボゲインAGを事前に算出することが可能である。
このように、容積変化消去率PDRが事前に検出されていない場合には、最適サーボゲインAGを事前に算出することは不可能なので、容積変化消去率PDRが事前に検出できない場合であっても最適サーボゲインAGを短時間のうちに検出することが望まれる。
そこで、本実施の形態では、最適サーボゲインAGを短時間のうちに検出するために、(式4)に基づき制御脈圧PPc1を制御誤差最大値Δerr-maxで割った値を初期サーボゲインG-initとして算出する。そして、算出した初期サーボゲインG-initの値を、サーボ制御時のサーボゲインの値に逐次加算すれば、ゼロから徐々にサーボゲインを増加するよりも速く最適サーボゲインに到達させることが可能となる。その結果、最適サーボゲインを取得するためのサーボゲイン調整にかかる時間を短縮することが可能となる。たとえば容積変化消去率PDRが50%を指示している場合には、(式3)と(式4)に従えば初期サーボゲインG-initの値は最適サーボゲインAGの値の50%を指示することになる。そのため、サーボゲイン調整においてゼロからサーボゲインの値を増加させた場合と比べて、最適サーボゲインAGの決定にかかる時間を半分に短縮することができる。
AG=PPc1/Δerr1…(式1)
Δerr1=Δerr-max×PDR…(式2)
AG=PPc1/(Δerr-max×PDR)…(式3)
G-init=PPc1/Δerr-max…(式4)
(メモリ内容)
ここで、図5を参照して、本発明の実施の形態1におけるフラッシュメモリ43に格納されるデータの一例を説明する。
図5を参照して、フラッシュメモリ43は最適サーボゲインAGの検出にかかるデータを格納するための領域E0、所定の閾値を予め格納するための領域E1、作業用の領域E2および血圧測定データを格納する領域E3を含む。領域E0のデータについては後述する。領域E1には、制御目標値および初期カフ圧検出のために参照されるカフ圧データPC1と、サーボゲイン決定のために参照される閾値THpdrとが予め格納される。領域E0およびE2の内容は血圧測定が開始される毎に初期化される。
領域E3には、容積補償法に従う血圧測定時に得られた複数の測定データ80が格納される。測定データ80の各々は、一例として、「ID情報」のフィールド81と、測定情報のフィールド83とを含む。フィールド81には、血圧測定時のIDスイッチ41Eの操作により入力した被測定者を識別するためのID情報が格納される。フィールド83には、タイマ45により計時された測定データ80の測定開始日時や測定期間などを指示するデータ831および測定された血圧のデータ832(データV(1)、V(2)、…、V(n))が関連付けて格納される。
(機能構成)
図6は、本発明の実施の形態に係る電子血圧計1の機能構成を示す機能ブロック図である。
図6を参照して、CPU100は、サーボ制御のための制御目標値を検出するための制御目標値検出部102と、カフ圧を設定するためのカフ圧設定部104と、血圧を連続的に測定するためのフィードバック制御を行なうサーボ制御部106と、血圧決定部108と、サーボゲインを決定するためのサーボゲイン決定部109と、初期サーボゲインG-initを検出するための初期ゲイン検出部107とを含む。なお、図6には、説明を簡単にするために、CPU100の有するこれら各部との間で直接的に信号を授受する周辺のハードウェアのみ示されている。
制御目標値検出部102は、カフ圧を所定値(たとえば、200mmHg)まで加圧させる過程において、初期カフ圧を検出する処理を行なう。制御目標値検出部102は、ポンプ駆動回路53にポンプ51を駆動させるとともに、発光素子駆動回路73に発光素子71を駆動させる。ポンプ51が駆動されることで、カフ圧が徐々に上昇する。発光素子71の駆動により、受光素子72が受付けた信号が、動脈容積検出回路74に出力される。制御目標値検出部102は、動脈容積検出回路74から出力される動脈容積変化信号を入力し、入力した動脈容積変化信号に基づき1心拍毎の変化(振幅)を検出する。
制御目標値検出部102は発振回路33から入力する信号に基づき検出されるカフ圧が所定値を指示するまでポンプ駆動回路53の駆動を制御する(このとき、弁52は閉じた状態にある)。制御目標値検出部102は、カフ圧が所定値に達するまでの間、動脈容積変化信号の振幅の(仮の)最大値を検出するとともに、発振回路33からの信号を入力し、入力した信号を圧力値に変換することにより、カフ圧を検出する。そして、検出された仮の最大値とその時点において検出した動脈容積信号の値とカフ圧とを関連付けて、フラッシュメモリ43の領域E2に記録する。
最終的に、動脈容積信号の最大値として領域E2に記録された値は、サーボ制御の際の制御目標値(V0)として確定されて領域E0に格納される。また、カフ圧の最大値として領域E2に格納されたカフ圧は、初期カフ圧(MBP)として確定されて領域E0に格納される。
なお、カフ圧を所定値から減圧させる過程において、初期カフ圧が検出されてもよい。
制御目標値検出部102は、カフ圧が所定値となったことを検知すると、ポンプ駆動回路53の駆動を停止する。そして、カフ圧設定部104には、領域E0から確定された初期カフ圧および制御目標値を読出す。カフ圧設定部104は、発振回路33からの信号を入力し、入力した信号をカフ圧に変換し、変換したカフ圧が初期カフ圧となるまで弁駆動回路54を駆動する。これにより、弁52が開いて空気袋21から空気が排出されて、カフ圧が所定値のカフ圧から初期カフ圧にまで減少される。
サーボ制御部106は、発光素子駆動回路73を駆動する。そして、動脈容積検出回路74からの信号に基づいて、動脈の容積が一定となるようにポンプ駆動回路53または弁駆動回路54を制御する。
より具体的には、サーボ制御部106は、動脈容積検出回路74から受付けた動脈容積信号と制御目標値V0との差が最小となるように(好ましくはゼロになるように)、サーボゲインに従う制御量に基づきポンプ駆動回路53または弁駆動回路54を制御する。つまり、ポンプ駆動回路53または弁駆動回路54は、動脈容積変化信号の値(振幅値)が所定の閾値以下となるようにポンプ51の駆動または弁52の開閉を制御する。
血圧決定部108は、サーボ制御部106による制御が行なわれている際に、発振回路33から入力する信号(「圧力検出信号」という)を連続的に(定期的に)受付けて、圧力検出信号に応じたカフ圧を、血圧として決定するための処理を行なう。
より具体的には、血圧決定部108は、動脈容積信号の値と領域E0から読出した制御目標値V0との差が、所定の閾値以下であるか否かを検出する。そうである場合にのみ、そのときのカフ圧を血圧として決定する。決定された血圧は、フラッシュメモリ43の領域E2にタイマ45の計時データに従い時系列に格納される。
最適サーボゲインを決定するために、初期ゲイン検出部107は制御脈圧検出部113を含み、およびサーボゲイン決定部109は容積変化消去率算出部111およびゲイン更新部112を含む。これらの各部の機能は後述する。
なお、CPU100に含まれる各機能ブロックの動作は、メモリ部42中に格納されたソフトウェアを実行することで実現されてもよいし、これらの機能ブロックのうち少なくとも1つについては、ハードウェアで実現されてもよい。
あるいは、ハードウェア(回路)として記載したブロックのうち少なくとも1つについては、CPU100がメモリ部42中に格納されたソフトウェアを実行することで実現されてもよい。
(血圧測定動作)
次に、本実施の形態における電子血圧計1の動作について説明する。
図7、8および11は、本発明の実施の形態1における血圧測定処理を示すフローチャートである。図7のフローチャートに示す処理は、予めプログラムとしてメモリ部42に格納されており、CPU100がこのプログラムを読み出して実行することにより、血圧測定処理の機能が実現される。なお、被測定者は、血圧測定をするときには、電子血圧計1のカフ20を図3に示すように測定部位である手首に装着していると想定する。
図8を参照して、CPU100は、電源スイッチ41Aが操作(たとえば押下)されたか否かを検出する(ステップS2)。電源スイッチ41Aが操作されたと検出した場合(ステップS2においてYES)、ステップS4に進む。
ステップS4において、CPU100は、初期化処理を行なう。具体的には、メモリ部42およびフラッシュメモリ43の所定の領域を初期化し、空気袋21の空気を排気し、圧力センサ32を0mmHgを指示するように補正を行なう。また、このとき、最適サーボゲインが決定されたか否かを指示するためのフラグFLの値が初期化される。たとえば、フラグFLの値は0に更新される。フラグFLは、当該フローチャートのために準備される一時変数であり、CPU100の図示のない内部メモリの所定記憶領域を指している。
初期化が終わると、CPU100は、測定スイッチ41Bが操作(たとえば押下)されたか否かを検出する(ステップS6)。測定スイッチ41Bが操作されるまで待機する。測定スイッチ41Bが押下されたと検出すると(ステップS6においてYES)、ステップS8に進む。
ステップS8において、制御目標値検出部102は、初期カフ圧および制御目標値の検出の処理を実行し、この処理に並行して初期ゲイン検出部113は初期サーボゲイン検出の処理を実行する。初期カフ圧および制御目標値、ならびに初期サーボゲインの検出は以下のように行う。
制御目標値検出部102はポンプ駆動回路53を駆動してカフ圧を徐々に増加させながら、その時の動脈容積信号(容積脈波信号の直流成分)PGdcと動脈容積変化信号(容積脈波信号の交流成分)PGacを検出する。これら信号は、動脈容積検出回路74により検出される。つまり、動脈容積検出回路74は図示のないHPF(High Pass Filter)回路を有している。
動作において、動脈容積検出回路74は動脈容積センサ70から動脈の容積の変化を指す容積脈波信号を入力すると、その入力信号をHPF回路により、容積脈波信号の直流成分の動脈容積信号PGdcと交流成分の動脈容積変化信号PGacに分離して出力する。たとえば、フィルタ定数を1Hzとして、1Hz以下の信号は直流成分として検出されて、1Hzを超える信号は交流成分として検出される。制御目標値検出部102は、動脈容積検出回路74から動脈容積信号PGdcと動脈容積変化信号PGacを入力する。入力した動脈容積信号PGdcに基づき、1心拍毎の振幅を検出する。
制御目標値検出部102は、現在検出される動脈容積変化信号PGacの振幅値が最大であるかを検出し、最大であると検出されるときに検出される動脈容積信号PGdcの値と動脈容積信号PGdcの振幅値とカフ圧とを関連付けて領域E2に格納する。カフ圧が所定の圧力に達するまでこの動作を繰り返す。この所定の圧力は、フラッシュメモリ43の領域E1から読出されるカフ圧データPC1(たとえば200mmHg)により指示される。
動脈容積変化信号PGacの振幅値は、たとえば1心拍分の動脈容積変化信号PGacの波形を抽出して、抽出した波形を微分処理することにより算出される最大値に相当する。同様に、動脈容積信号PGdcの振幅値は、たとえば1心拍分の動脈容積信号PGdcの波形を抽出して、抽出した波形を微分処理することにより算出される最大値に相当する。
カフ圧が所定の圧力に達したことを検出したときに、領域E2に格納されている動脈容積信号PGdcの最大値、カフ圧の最大値および動脈容積信号PGdcの振幅値の最大値を、制御目標値、制御初期カフ圧および制御誤差最大値として確定する。これにより、制御目標値と初期カフ圧と制御誤差最大値が検出される。検出された制御目標値、初期カフ圧および制御誤差最大値は領域E2から読出されて領域E0ににおいて、制御目標値V0、初期カフ圧MBPおよび制御誤差最大値Δerr-maxとして格納される。
このような、制御目標値V0、初期カフ圧MBPおよび制御誤差最大値Δerr-maxの検出について、図8および図9を用いて詳細に説明する。
図8は、本発明の実施の形態における制御目標値と初期カフ圧と初期サーボゲインの検出処理を示すフローチャートである。図9は、本発明の実施の形態1の血圧測定処理を説明するための図である。図9の上段には、圧力センサ32によって検出されるカフ圧Pcを示す信号がタイマ45が計時する時間軸に沿って示される。図9の中段と下段には、同一の時間軸に沿った動脈容積変化信号PGacと動脈容積信号PGdcが示される。
図8の手順を、図9を参照しながら説明する。図8を参照して、制御目標値検出部102は、フラッシュメモリ43の領域E2を初期化する(ステップS102)。この時点で図9のtime=0に相当する。なお、以下の処理において動脈容積変化信号PGacの最大値は随時更新されるものであるので、最終的に最大値として確定するまでの値を「容積変化仮最大値」というものとする。
次に、CPU100は、ポンプ駆動回路53を制御して、カフ圧を加圧する(ステップS104)。
カフ圧を加圧する段階において、制御目標値検出部102は、動脈容積検出回路74から、動脈容積信号PGdcと動脈容積変化信号PGacを入力し、入力した両信号について、1心拍毎の信号を検出する(ステップS106)。そして、動脈容積信号PGdcについて1心拍毎の振幅値を検出する(ステップS108)。
制御目標値検出部102は、検出した動脈容積変化信号PGacの振幅値と、領域E2から読出した容積変化仮最大値とを比較し、比較結果に基づき、動脈容積変化信号PGacの振幅値が容積変化仮最大値以上であるか否かを検出する(ステップS110)。動脈容積変化信号PGacの振幅値が容積変化仮最大値以上であると検出された場合(ステップS110においてYES)、ステップS112に進む。一方、動脈容積変化信号PGacの値が容積仮最大値未満であると検出された場合(ステップS110においてNO)、ステップS114に進む。
ステップS112において、制御目標値検出部102は、検出した動脈容積変化信号PGacの振幅値と、関連付けてカフ圧と、動脈容積信号PGdcの値と、動脈容積信号PGdcの振幅値とを格納する。この処理が終わると、処理はステップS114に移される。
S114〜S120においては、制御目標値検出処理と並行して、血圧推定(検出)と脈圧の算出(検出)の処理が行われる。この処理については後述する。
その後、ステップS122において、制御目標値検出部102は、検出するカフ圧Pcが領域E1から読出した所定値PC1のカフ圧以上を指示するか否かを検出する。カフ圧Pcが所定値PC1のカフ圧以上を指示しないと検出した場合(ステップS122においてNO)、処理はステップS104に戻り、移行の処理が同様に繰返される。このようなステップS104〜S122のループ処理は、図9の時刻T0に至るまでの期間において行なわれる。
一方、カフ圧Pcが所定値PC1のカフ圧以上を指示すると検出した場合(ステップS112においてYES)、処理はステップS124に進む。ステップS124では、領域E2に格納されている動脈容積信号PGdcの最大値を初期制御目標値V0とし、カフ圧Pcの最大値を初期カフ圧MBPとし、および動脈容積信号PGdcの振幅値の最大値を制御誤差最大値Δerr-maxとして検出して、領域E2から読出し、領域E0に格納する。これにより、確定した初期制御目標値V0、初期カフ圧MBP、および制御誤差最大値Δerr-maxが検出される。
ここで、ステップS114〜S116における図9の時刻T0までに期間における血圧推定処理の具体例を図10を参照しながら説明する。図10は、オシロメトリック法による血圧推定方法を概念的に示す図である。図10の上段には、徐々に加圧されるカフ圧がタイマ45が計時する時間軸に沿って示されて、下段には、同一の時間軸に沿った動脈容積変化信号PGacの振幅の包絡線600が示される。包絡線600のために、ステップS108で検出された動脈容積変化信号PGacの振幅値は、ステップS122においてYESと判定されるまで、領域E2に時系列に格納する。これにより、ステップS122においてYESと判定された時点で領域E2において格納された時系列の動脈容積変化信号PGacの振幅データによって包絡線600が指示されることになる。
図10の下段の包絡線600を参照して、初期ゲイン検出部107は、ステップS114において、動脈容積変化信号PGacの振幅の最大値MAXが検出されると、その最大値に所定の定数(たとえば0.7および0.5)を乗じて2つの閾値TH-DIAおよびTH-SYSを算出する。そして、最大値MAXが検出された時点(これは図9の時刻T0に相当する)のカフ圧MEAN(平均血圧)よりもカフ圧が低い側において、閾値TH-DIAと包絡線600とが交わった点におけるカフ圧を最低血圧として推定する。また、カフ圧MEANよりもカフ圧が高い側において、閾値TH-SYSと包絡線600とが交わった点におけるカフ圧を最高血圧として推定する。
初期ゲイン検出部107は、最低血圧が推定されると、たとえば、最低血圧が推定済みであるか否かを指示するフラグ(以下「DIAフラグ」という)を、0から1に更新する。最高血圧が推定されると、たとえば、最高血圧が推定済みであるか否かを指示するフラグ(以下「SYSフラグ」という)を、0から1に更新する。
初期ゲイン検出部107は、最低血圧と最高血圧が推定済か否かを判断する(ステップS116)。具体的には、DIAフラグおよびSYSフラグの値が1を指示するか否かを判断する。両フラグの値が1を指示すると判断されたとき(ステップS116でYES)、処理はステップS118に移行する。
一方、両フラグの値がともに1を指示すると判断されない時は血圧値は決定していないと判断され(ステップS116でNO)、処理はステップS122へ移行する。つまり、ステップS116においてDIAフラグが1を指示すると判断したときは、そのときの動脈容積信号PGdcの値を最低血圧と推定し、SYAフラグが1を指示すると判断したときは、そのときの動脈容積信号PGdcの値を最高血圧と推定する。このようにして最低および最高血圧の両方が推定されると血圧値決定と検出される(ステップS116でYES)。血圧値決定と判断されると、決定した血圧値は領域E2に格納される。
そして、制御脈圧検出部113は、ステップS114と116で推定した最高血圧と最低血圧の値を領域E2から読出し、読出した両血圧の差分(最高血圧−最低血圧)を算出し制御脈圧PPc1として、領域E2に格納する(ステップS120)。
これにより、初期制御目標値V0、初期カフ圧MBP、制御誤差最大値Δerr-maxおよび制御脈圧PPc1が検出されて領域E0またはE2に格納される。
その後、初期ゲイン検出部107は、領域E2から制御脈圧PPc1を、領域E1から制御誤差最大値Δerr-maxを読出し、読だした制御脈圧PPc1を制御誤差最大値Δerr-maxで割った値を、初期サーボゲインG-initの値として算出する。算出された初期サーボゲインG-initは領域E0に格納される(ステップS126)。これにより、初期サーボゲインG-initが取得される。
次に、図7を参照して、サーボ制御部106はポンプ駆動回路53および弁駆動回路54を制御して、発振回路33から入力する信号に基づき検出するカフ圧を、領域E0から読出す初期カフ圧MBPに設定する(ステップS10)。この状態においては、未だ、最適サーボゲインはフラグFLに基づき未決定と判断されるので(ステップS12でNO)、ゲイン決定の処理(ステップS26)が行なわれる。
最適サーボゲインの決定処理(ステップS26)を図11のフローチャートに従い説明する。なお、サーボ制御部106により参照されるサーボゲインは領域E2に格納されると想定する。
図11を参照して、ゲイン決定部109は、動脈容積検出回路74から入力する動脈容積変化信号PGacに基づき、1心拍毎の動脈容積変化信号PGacの振幅値を検出する(ステップS302)。そして、容積変化消去率算出部111は、容積変化消去率PDR(PDR=現在の動脈容積変化信号PGacの振幅値/カフ圧を初期カフ圧に設定したときに検出された動脈容積変化信号PGacの振幅値)を算出して、領域E2に格納する(ステップS304)。カフ圧を初期カフ圧に設定したときに検出された動脈容積変化信号PGacの振幅値は、CPU100の内部メモリに格納されていると想定する。
次に、ゲイン更新部112は、領域E2の現在のサーボゲインの値を一定の割合で増加させるように書換える(ステップS308)。続いて、ゲイン更新部112は、この領域E2の増加後のサーボゲインを、領域E0から読出した初期サーボゲインG-initの値を加算することにより更新する(ステップS310)。そして、サーボ制御部106は領域E2から更新後のサーボゲインを読出し、読出したサーボゲインを用いてサーボ制御を行う(ステップS312)。
次に、ゲイン決定部109は領域E2から読出した現在の容積変化消去率PDRが、領域E1から読出した所定の消去率目標値THpdr以上であるか否かを判断する(ステップS316)。容積変化消去率PDRが消去率目標値THpdr以上であると判断された場合(ステップS316でYES)、現状のサーボゲインは最適ではないと判断されると、処理は、図9のメインルーチンに戻される。ここで、消去率目標値THpdrは、動脈容積変化信号PGacの振幅が最小値に収束するときの値として実験により予め検出された値であるので、図11の処理に従うことで、動脈容積信号PGdcの値と制御目標値V0との差が最小となるようにカフ圧のサーボ制御が行われる。
これに対し、容積変化消去率PDRが消去率目標値THpdr未満であると判断された場合(ステップS316でNO)、ゲイン決定部109は、血圧決定部108による血圧決定処理で使用するサーボゲイン(最適サーボゲイン)を、この時点の領域E2に格納されているサーボゲインに決定する(ステップS318)。決定した最適サーボゲインは、サーボ制御部106に与えられるので、サーボ制御部106は与えられるサーボゲインに基づき血圧測定のためのサーボ制御を行うことができる。
そして、サーボゲインが決定済みであることを指示するためにフラグFLに1が設定される(ステップS320)。
以上の手順により、本実施の形態1に係る最適サーボゲインの決定処理(ステップS26)は終了する。
再び図7を参照して、カフ圧が初期カフ圧に設定されて(ステップS10)、続いて、ゲイン決定部109によるサーボゲイン決定処理(ステップS26)が行なわれる。この間の処理は図9の時刻T1〜T2の期間で行なわれる。
ステップS12において最適サーボゲインが決定済みであるか否かの検出が、フラグFLの値に従い行なわれる。具体的には、フラグFLの値が1を指示すると検出すると、最適サーボゲインが決定済みである(ステップS12でYES)と検出し、そうでないと(ステップS12でNO)、未決定であると検出し、サーボゲイン決定処理(ステップS26)に移行する。
上述した手順に従い最適サーボゲインが決定済みの場合には(ステップS12でYES)、決定した最適サーボゲインを用いたサーボ制御部106によるサーボ制御によって動脈容積一定制御が実行される(ステップS14)。具体的には、サーボ制御部106は、動脈容積信号PGdcおよび動脈容積変化信号PGacを動脈容積検出回路74から入力するとともに、ポンプ駆動回路53および弁駆動回路54に、領域E2の最適サーボゲインに従い決定した制御量に基づく制御信号を出力する。これにより、ポンプ51および弁52は、検出される動脈容積信号PGdcの値と制御目標値V0との差が最小となるように駆動される。
ポンプ51および弁52の制御信号は、具体的には動脈容積信号PGdcの値と制御目標値V0との差分にサーボゲインを掛け合わせた値から算出される。サーボゲインを大きくすれば、サーボ制御によってカフ圧が示す脈動が大きくなる。すなわち、本実施の形態において、サーボゲインとはサーボ制御によるカフ圧の脈動の大きさを決定する係数を指す。
図9の例では、時刻T1からT2までの期間において最適サーボゲインの決定処理が行われると、時刻T2からは動脈容積一定制御(サーボ制御)が開始される。
このような動脈容積一定制御に並行して、血圧決定部108は、血圧算出および血圧決定の処理(ステップS16とS18)を実行する。具体的には、動脈容積一定制御を行っている間において検出されるカフ圧Pcを血圧として決定する(ステップS18)。
決定した血圧のデータはフラッシュメモリ43に格納される(ステップS20)。ステップS20の処理が終わると、処理はステップS22に移行する。
図9に示される時刻T2以降は、決定したサーボゲインを用いたサーボ制御により動脈容積と制御目標値V0との差はゼロに近い。すなわち、サーボ制御部106により動脈は無負荷状態に維持される。したがって、時刻T2以降において検出されるカフ圧Pcが血圧として決定される。つまり、血圧決定部108は、動脈壁が無負荷状態に維持されている期間において、カフ圧Pc(外圧)が指す信号の1心拍毎の振幅の最大値と最小値を当該信号の波形を微分処理などすることにより検出して、検出した最大値は最高血圧に、最小値は最低血圧に相当するとして算出し、領域E3に測定データ80として格納する。
続いて、ステップS22において、CPU100は、停止スイッチ41Cが操作(たとえば押下)されたか否かを検出する。停止スイッチ41Cが操作されていないと検出した場合(ステップS22においてNO)、処理はステップS12に戻る。停止スイッチ41Cが操作されたと検出した場合(ステップS22においてYES)、フラッシュメモリ43から測定された血圧データを読出し表示部40に表示する(ステップS24)。これにより、一連の血圧測定処理は終了する。
本実施の形態では、停止スイッチ41Cの操作が検知された場合に、血圧測定処理を終了することとしたが、動脈容積一定制御が開始されてから、タイマ45によって所定時間経過したと検出された場合に、終了することとしてもよい。
本実施の形態1によれば、初期ゲインG-initを最適サーボゲイン決定のためのサーボ制御時のゲインに逐次加算するように構成されるので、ゼロから徐々にサーボゲインを増加するよりも速く最適サーボゲインに達することができて、最適サーボゲインの決定にかかる時間を短縮することが可能となる。
(実施の形態2)
本実施の形態2においては、制御目標値検出処理中において血管の圧−容積特性を利用して動脈容積一定制御時の容積変化消去率PDRを算出する。この算出値を利用して(式3)からサーボ制御における最適サーボゲインを事前に算出する。これにより、最適サーボゲインの検出にかかる時間を短縮することが可能である。
本発明の実施の形態2の説明に先立ち、概要について説明する。
従来の容積補償法を用いた電子血圧計においては、容積補償制御を行う際に、サーボゲインを徐々に増加させていき、容積変化消去率(制御中の動脈容積変化信号の振幅/制御前の動脈容積変化信号の振幅)が所定値より小さくなる点を検出して、この時のサーボゲインを利用して血圧測定を行っている。
しかし、容積変化消去率は、動脈の弾性特性すなわち動脈硬化度により異なる。具体的には、動脈が硬いほど押圧に対する応答性が悪くなるため制御が難しく、消え残り(制御中の脈波信号)が大きくなる。その結果、容積変化消去率は大きな値となる。反対に、動脈が柔らかいほど容積変化消去率は小さな値となる。そのため、本来、サーボゲインの最適値には個人差が生じる。
そこで、本実施の形態2では、動脈の弾性特性に応じた、容積変化消去率PDRを算出により検出することにより、被験者ごとに最適サーボゲインを設定する。
以下に、本発明の実施の形態に係る、容積補償法を用いて血圧を測定する電子血圧計を説明する。
本実施の形態2に係る電子血圧計の外観およびハードウェア構成は、図1〜図3に示したものと同じであるので説明は略す。
(機能構成)
図12は、本実施の形態2に係る電子血圧計1の機能構成を示す機能ブロック図である。図12の構成と図6の構成とを比較して異なる点は、図12の構成では図6の初期ゲイン算出部107を省略して、図6のゲイン決定部109とサーボ制御部106に代替してゲイン決定部120とサーボ制御部109を備える点にある。図12の他の構成は、図6に示すものと同じなので説明は略す。
図12のゲイン決定部120は、容積補償法を用いて血圧測定時のサーボゲインを決定するために、特性推定部122を有する消去率検出部121を含む。
特性推定部122は、制御目標値および初期カフ圧の検出処理(以下、「制御目標値検出処理」という)において、すなわち、制御目標値検出部102による処理と並行して、動脈の弾性特性を推定する。特性推定部122は、発振回路33および動脈容積検出回路74からの信号を受付ける。
動脈の弾性特性は、血管の圧−容積特性曲線から求めることが可能である。血管の圧−容積特性曲線は、カフ圧を増加または減少させた時の光電容積脈波やインピーダンス脈波から得られる動脈容積信号PGdcであり、本実施の形態においては、制御目標値検出処理において検出される。圧−容積特性曲線の傾きと変化量は、動脈の弾性特性を表わす。
図13は、血管の圧−容積特性を示す図であり、Y軸に動脈容積信号、X軸に押圧力(単位:mmHg)が示されている。図13を参照して、柔らかい血管の圧−容積特性が曲線Laで示され、硬い血管の圧−容積特性が曲線Lbで示されている。曲線Laは、内外圧差が0の付近(押圧力P0の付近)の傾きが大きく、曲線Lbは傾きが小さい。つまり、硬化の認められる血管では、硬化の認められない(または少ない)血管よりも、内外圧差が0の付近(すなわち平均血圧の付近)において、圧−容積特性曲線(以下「特性曲線」と略す)の傾きが小さいという特徴を持つ。ここで、各特性曲線の傾きは、“ΔPGdc/脈圧”で求められる。脈圧は、最高血圧と最低血圧との差分であり、ΔPGdcは、最低血圧検出時の動脈容積と最高血圧検出時点の動脈容積との差分を指示する。
そのため本実施の形態2では、特性推定部122は、制御目標値検出処理において、オシロメトリック法に従い被測定者の最高血圧および最低血圧を推定する。つまり、カフ圧を所定値まで徐々に加圧(または減圧)させる過程において、発振回路33からの圧力検知信号に基づいて、被測定者の最高血圧および最低血圧を算出により推定する。
最高血圧および最低血圧が推定されると、特性推定部122は、推定最高血圧および推定最低血圧が検出された時点における動脈容積信号の値(PGdc-SYS,PGdc-DIA)を特定する。PGdc-SYSとPGdc-DIAとの差であるΔPGdcを、脈圧(推定最高血圧−推定最低血圧)で割ることで、特性曲線の傾きを算出する。算出された傾きを指す値は、消去率検出部121に与えられる。
このように、本実施の形態2では、制御目標値検出処理において検出されるカフ圧および動脈容積信号を利用して特性曲線の傾きを算出することができる。そのため、効率良く、かつ、高精度に動脈の弾性特性を推定することができる。しかしながら、必ずしも制御目標値検出処理において検出されるカフ圧および動脈容積信号を利用する必要はなく、たとえば、血圧決定部108による当該被測定者の過去(たとえば直近)の測定データに基づいて弾性特性が算出されてもよい。
消去率検出部121は、特性推定部122により算出された特性曲線の傾き、および、特性曲線の傾き(血管の弾性特性)と容積変化消去率との相関関係に基づいて、動脈弾性特性に応じた容積変化消去率PDRを検出する。そして、ゲイン決定部120は、この値を利用して、(式3)に基づき、最適サーボゲインの値を算出する。
血管の特性曲線の傾きと容積変化消去率との相関関係は、図14に示される。2次元の座標平面においてY軸に「容積変化消去率」をとり、X軸に「圧−容積特性曲線の傾き」をとった場合の両者の相関関係は、おおよそ式700で示す一次関数式(y=-7.3861x+0.5405)で表わされる。
図14の相関関係は、血管について侵襲状態で測定して得られた臨床データに基づくものである。図14に示されるように、容積変化消去率は、特性曲線の傾きが小さいほど(すなわち動脈が硬いほど)大きく、特性曲線の傾きが大きいほど(すなわち動脈が柔らかいほど)小さくなる。
本実施の形態2では、Y軸の「容積変化消去率」を被験者ごとに算出する。つまり、消去率検出部121は、特性推定部122で算出された特性曲線の傾きを、上記一次関数式に基づいて、容積変化消去率PDRに換算する。なお、一次関数式に代えて、消去率目標値と特性曲線の傾きとの相関関係を表わすデータテーブルを用いてもよい。
消去率検出部121により算出された容積変化消去率PDRは、ゲイン決定部120に与えられる。
本実施の形態において、「血圧測定のためのサーボゲイン」とは、容積補償法により連続的に血圧を測定(決定)する期間、すなわち、カフ圧と動脈の内圧とが平衡状態に維持される期間のサーボ制御で用いられる最適サーボゲインである。したがって、最適サーボゲインが決定されると、サーボ制御部109は、サーボゲインを最適サーボゲインに固定して(図5における時刻T2)、サーボ制御を開始する。したがって、本実施の形態2では、図5の時刻T1からT2の最適サーボゲインを決定するための調整時間は省略することが可能である。
血圧決定部108は、サーボ制御部109による制御が行なわれている際に、発振回路33から入力する信号(「圧力検出信号」という)を連続的に(定期的に)受付けて、圧力検出信号に応じたカフ圧を、血圧として決定するための処理を行なう。より具体的には、サーボゲインが固定された後に、血圧決定部116は、動脈容積信号の値と制御目標値との差が、所定の閾値以下であるか否かを判断する。そうである場合にのみ、そのときのカフ圧を血圧として決定する。決定された血圧は、フラッシュメモリ43に時系列に格納される。
(動作について)
次に、本実施の形態2における電子血圧計1の動作について説明する。
図15-図17は、本発明の実施の形態2における血圧測定処理を示すフローチャートである。図18は、本実施の形態2のフラッシュメモリ43の内容例を示す図である。
図15のフローチャートを、図9のスローチャートとを比較し異なる点は、図15では図9のステップS4とS8の処理が、ステップS4aとS8aに代替されている点にある。図15の他の処理は図9に示すものと同様であるので、説明は簡単に行なう。
図15を参照して、CPU100は、電源スイッチ41Aが操作されたと判断すると(ステップS2においてYES)、ステップS4において、初期化処理を行なう。このときフラグFLとFRの値も初期化される。フラグFRは、サーボゲインの調整期間において血圧の推定が完了したか否かを指す。
初期化が終わり、CPU100は、測定スイッチ41Bが押下されたと判断すると(ステップS6においてYES)、処理はステップS8aに進む。
ステップS8aにおいて、制御目標値検出部102は、初期カフ圧および制御目標値の検出の処理を実行する。初期カフ圧および制御目標値の検出について、図16および上述の図5を用いて詳細に説明する。
図16は、本発明の実施の形態における制御目標値検出処理を示すフローチャートである。
図16を参照して、制御目標値検出部102はステップS102〜S112の処理を図10と同様に行なう。
次のステップS113では、特性推定部122により血圧推定がされる。血圧推定処理については、後に図17のフローチャートを用いて詳述する。
ステップS113の処理が終わると、制御目標値検出部102は、検出するカフ圧Pcが所定値PC1のカフ圧以上を指示するか否かを判断する(ステップS122)。カフ圧Pcが所定値PC1のカフ圧以上を指示しないと判断した場合(ステップS122においてNO)、ステップS102に戻る。一方、カフ圧Pcが所定値PC1のカフ圧以上を指示すると判断した場合(ステップS122においてYES)、ステップS124に進む。
ステップS124において、図6と同様に、ステップS124では、図18の領域E2に格納されている動脈容積信号PGdcの最大値を初期制御目標値V0とし、カフ圧Pcの最大値を初期カフ圧MBPとし、および動脈容積信号PGdcの振幅値の最大値を制御誤差最大値Δerr-maxとして検出して、領域E2から読出し、図18の領域E0に格納する。これにより、確定した初期制御目標値V0、初期カフ圧MBP、および制御誤差最大値Δerr-maxが検出される。
ステップS124の処理が終わると、容積変化消去率PDRの算出と最適サーボゲインAGの算出を行う。まず特性推定部122はフラグFRが1を指示するか否かを検出する(ステップS136)。フラグFRは0であると検出すると(ステップS136でNO)、図16の処理を抜けて処理はメインルーチンに戻される。
フラグFR=1であると検出すると(ステップS136でYES)、動脈容積の変化量(ΔPGdc)と脈圧から圧−容積曲線の傾きを算出し(ステップS138)、臨床データから得られた関係式(図14)と圧−容積特性曲線の傾きとに基づき容積変化消去率PDRを算出する(ステップS140)。
より具体的には、ステップS138において、特性推定部122は、動脈の弾性特性として、特性曲線の傾きを算出する。特性曲線の傾きは、ステップS200で推定された最高血圧および最低血圧と、ステップS204およびS208でそれぞれ決定された容積値PGdc-DIAおよびPGdc-SYSとに基づき、算出される。より具体的には、次式により算出される。
特性曲線の傾き={(PGdc-SYS)−(PGdc-DIA)}/(推定最高血圧−推定最低血圧)
次に、消去率検出部121は、消去率目標値PDRを算出する(ステップS140)。具体的には、ステップS138で算出された特性曲線の傾きの値を、図14の式700で表わされる上記一次関数式に代入することにより、消去率目標値PDRを算出する。算出した消去率目標値PDRは、図18の領域E0に一時格納される。この処理が終わると、処理は、ステップS144に移る。
ステップS144においてゲイン決定部120は、実施の形態1と同様の図10で説明した手順に従い最高血圧と最低血圧を検出し、検出した両血圧に基づき脈圧PPc1を算出する(ステップS144)。そして、算出した脈圧PPc1と領域E0から読出した消去率目標値PDRと制御誤差最大値Δerr-maxを用いて(式3)に従い最適サーボゲインAGを算出し、領域E0に格納する。最適サーボゲインAGが決定されると、フラグFLの値は1に設定される(ステップS146)。このように最適サーボゲインAGが検出されると、処理はメインルーチンに戻される。
ここで、血圧推定処理(ステップS113)の流れについて説明する。図17は、血圧推定処理を示すフローチャートである。
図17を参照して、はじめに、特性推定部122は、血圧推定処理を実行する(ステップS200)。ここで、本実施の形態2における血圧推定処理の具体例を図10を参照しながら説明する。図10を参照して、特性推定部122は、動脈容積信号PGdcの振幅の最大値MAXが検出されると、閾値TH-DIAおよびTH-SYSを算出する。そして、最大値MAXが検出された時点T0のカフ圧MEAN(平均血圧)よりもカフ圧が低い側において、閾値TH-DIAと包絡線600とが交わった点におけるカフ圧を最低血圧として推定する。また、カフ圧MEANよりもカフ圧が高い側において、閾値TH-SYSと包絡線600とが交わった点におけるカフ圧を最高血圧として推定する。特性推定部122は、最低血圧が推定されると、たとえば、最低血圧が推定済みであるか否かを指示するフラグ(以下「DIAフラグ」という)を、0から1に更新する。最高血圧が推定されると、たとえば、最高血圧が推定済みであるか否かを指示するフラグ(以下「SYSフラグ」という)を、0から1に更新する。
特性推定部122は、最低血圧が推定済か否かを判断する(ステップS202)。具体的には、DIAフラグの値が1を指示するか否かを判断する。最低血圧が推定済と判断された場合(ステップS202でYES)、そのときの動脈容積信号PGdcの値を、最低血圧推定時の容積値“PGdc-DIA”として決定する(ステップS204)。決定した容積値PGdc_DIAは、内部メモリに一時記録される。この処理が終わると、ステップS206に進む。
ステップS202において、最低血圧が推定済でないと判断された場合(ステップS202でNO)、ステップS206に進む。
ステップS206において、特性推定部122は、最高血圧が推定済か否かを判断する。具体的には、SYSフラグの値が1を指示するか否かを判断する。最高血圧が推定済と判断された場合(ステップS206でYES)、そのときの動脈容積信号PGdcの値を、最高血圧推定時の容積値“PGdc-SYS”として決定する(ステップS208)。決定した容積値PGdc-SYSは、内部メモリに一時記録される。この処理が終わると、ステップS210に進む。
ステップS206において、最低血圧が推定済でないと判断された場合(ステップS206でNO)、ステップS210に進む。
ステップS210において、特性推定部122は、容積値PGdc-DIAと、容積値PGdc-SYSとが決定済か否かを判断する。決定済と判断された場合(ステップS210でYES)、ステップS212においてフラグFRの値を1に設定する。一方、決定済でないと判断された場合(ステップS210でNO)、フラグFRの値を更新することなく処理は、図16のルーチンに戻される。
再び図15を参照して、上述のような制御目標値検出処理が終了すると、カフ圧設定部104は、弁駆動回路54を制御して、カフ圧Pcを初期カフ圧に設定する(ステップS10)。図5を参照して、カフ圧設定部104は、カフ圧Pcが初期カフ圧に設定された時点T1で、弁駆動回路54を停止させる。
このようにカフ圧が初期カフ圧に設定されると、動脈容積変化信号PGacが示す振幅は最大となる。
カフ圧が初期カフ圧に設定されると、サーボ制御の最適サーボゲインAG(特定サーボゲイン)が決定されるまでは(ステップS12でNO)、サーボゲイン決定処理(ステップS26)が行なわれる。
ゲイン決定部120によって最適サーボゲインAGが決定済みの場合には(ステップS12でYES)、領域E0から読出した最適サーボゲインAGを用いてサーボ制御部109によりサーボ制御がされて、動脈容積一定制御が実行される(ステップS14)。
このような動脈容積一定制御に並行して、実施の形態1と同様に、血圧決定部116は、血圧算出および血圧決定の処理(ステップS16とS18)を実行する。測定した血圧のデータはフラッシュメモリ43の領域E3に格納される(ステップS20)。ステップS20の処理が終わると、処理はステップS22に移行する。
続いて、ステップS22において、停止スイッチ41Cが操作されたと判断されると(ステップS22においてYES)、一連の血圧測定処理は終了する。
このように、本実施の形態2によると、実施の形態1の初期ゲイン値G-initに代替して最適サーボゲインAGを利用することができるので、最適ゲインを決定する処理が不要となる。したがって、図9の時刻T1−T2の最適サーボゲイン決定の時間を省略できて、直ちに血圧測定に移行することができる。
また、本実施の形態2では、血圧測定のためのサーボゲインが被測定者の動脈の弾性特性(硬化度)に応じて決定されるため、高精度に血圧を測定(決定)することができる。また、動脈の弾性特性は、被測定者の動脈の脈圧と脈圧間における動脈容積の変化量とに基づいて推定されるため、容積補償法による血圧測定では必須の処理である制御目標値検出処理において推定することができる。その結果、一連の血圧測定処理に要する時間を従来よりも延ばすことなく、被測定者ごとに最適サーボゲインを決定することができる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 電子血圧計、102 制御目標値検出部、104 カフ圧設定部、106,109 サーボ制御部、108 血圧決定部、109,120 ゲイン決定部、111 容積変化消去率算出部、112 ゲイン更新部、113 制御脈圧検出部、121 消去率検出部、122 特性推定部。