JP2007007077A - 血圧監視装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】 脈波伝播時間を用いて連続的に血圧値を推定、監視する血圧監視装置において、精度良く血圧値を推定可能とすること。
【解決手段】 実測値を用いて推定血圧値の算出式を校正する際、加速度脈波から得られる波形パラメータの変動の大きさを調べる(S209)。そして、変動が大きい場合には、算出式の校正量に補正を加える(S211)。波形パラメータは血管の機能的な状態を表すため、機能的な変化が大きいと思われる場合にはその影響を校正に反映させることで、その後の血圧推定精度をより向上させることができる。
【選択図】 図5

Description

本発明は非観血で連続的に血圧値を監視するための血圧監視装置に関する。
手術室、集中治療室などでは、患者の連続的な血圧監視が必要な場合がある。そして、従来、非観血的かつ連続的に血圧を監視する技術として、脈波伝播時間に基づく血圧推定が知られている。
これは、生体の2点間を脈波が伝播するのに要する時間(脈波伝播時間)又は、この2点間の血管長を脈波伝播時間で割ることで得られる脈波伝播速度が、血圧値と相関を有することを利用したものである。そして、例えば脈波伝播時間を連続的に測定し、予め校正した係数を有する算出式に適用することで推定血圧値を連続的に算出し、その値を監視する(例えば特許文献1参照)。
しかしながら、脈波伝播時間を測定するには異なる部位で脈波を測定する必要があり、測定に手間がかかる。また、脈波を測定するためのセンサやカフなどを2箇所に装着することが難しい場合もある。そのため、特許文献1に記載されるように、生体情報モニタ装置が通常測定する心電図(ECG)と生体の1つの所定部位(例えば指先)で測定される脈波とを用いて脈波伝播時間を算出するのが一般的である。
特開平10−66681号公報(段落0005〜0007)
しかし、ECGを脈波伝播時間の算出に利用することのデメリットとして、測定精度の低下という問題がある。すなわち、ECGは脈波ではなく、心臓の電気的な状態変化を表す信号である。そして、電気的な状態変化が起こってから実際に心臓が収縮して脈波が生じるまでには時間差(駆出前期間)が存在するため、ECGの特徴点が観察された時点を起点として算出した脈波伝播時間には、駆出前期間に帰因する誤差が含まれる。
駆出前期間が一定であればこの誤差の補正は容易であるが、駆出前期間には個人差があり、さらに同一人であってもその時々の状態によって変化しうる。そのため、補正による精度向上には限度がある。
血圧監視装置では通常、脈波伝播時間に基づいて連続的に算出される血圧値が異常である場合には、例えばカフを用いるなどして、より精度の高い血圧値測定を行い、そこで異常な値が検出されるとアラームを出力するといった制御が行われる。
カフによる血圧測定は非観血的に血圧を測定する手法として確立されており、信頼に足りる血圧値を自動的に得るために有効である。しかし、駆血を伴うため、頻繁な実施は患者の負担増に繋がり、望まくない。そのため、ECGと1点で観測される脈波とから算出した脈波伝播時間に基づく推定血圧値を精度良く算出することが重要である。
本発明はこのような従来技術の課題に鑑みなされたものであり、脈波伝播時間に基づいて連続的に血圧値を推定する血圧監視装置において、精度良く血圧値を推定することが可能とすることを目的とする。
すなわち、本発明の要旨は、所定の方法で血圧測定を行う血圧測定部と、生体の所定部位における脈波を取得する脈波取得手段と、この脈波と、心電図又は所定部位とは異なる部位で取得した脈波とから、脈波伝播時間を算出する脈波伝播時間算出手段と、脈波伝播時間を予め定めた算出式に適用して推定血圧値を算出する推定血圧値算出手段と、脈波から加速度脈波を算出する加速度脈波算出手段と、加速度脈波に含まれる波形から所定の波形パラメータを算出する波形パラメータ算出手段と、血圧測定部による測定値を用いて算出式の校正を行う校正手段とを有し、校正手段が、波形パラメータの変動量が所定量を超える場合、そうでない場合に適用される校正量を補正した後に校正を行うことを特徴とする血圧監視装置に存する。
このような構成により、本発明によれば、推定血圧値の算出式の校正に、血管の機能的な状態を反映する、加速度脈波から求まる波形パラメータの変動量を考慮することにより、算出式の校正精度を向上させること可能となり、結果として推定血圧値の精度を向上させることが可能となる。
以下、図面を参照して、本発明をその好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る血圧監視装置としての生体情報モニタ装置の機能構成例を示すブロック図である。
図において、カフ10は帯状の形態を有し、ポンプ14による給排気により膨張と収縮を行うゴム嚢を内蔵する。カフ10は通常患者の四肢のいずれか、代表的には上腕部に装着される。圧力センサ12はカフ10内のゴム嚢内部に充たされた気体に加わる圧力の変化を検出し、圧力信号を電気信号に変換して制御部100へ出力する。
心電図用電極20は複数の電極からなり、患者の胸部所定位置に取り付けられ、誘導波形を心電図信号(ECG)として制御部100へ出力する。指センサ30は酸素飽和度(SPO2)及び指尖容積脈波を光学的に検出して制御部100へ出力する、所謂パルスオキシメータである。酸素と結びついているかどうかによってヘモグロビンの光の吸収度が異なること、また光の波長によっても吸収度が異なることを利用し、一般には赤色光と赤外光の2波長を用いて酸素飽和度を測定する。また、透過光又は反射光のAC成分が血流量に応じて変化することから、このAC成分を光学指尖容積脈波(PTG:photoplethysmograph)として検出する。
その他センサ40は、患者の呼吸や体温といった他の生体情報を検出するためのセンサであり、必要に応じて1つ以上が制御部100に接続される。その他のセンサ40は本実施形態における血圧監視動作に直接関係しないため、これ以上の説明は行わない。
操作部50は、ユーザ(測定者)が生体情報モニタ装置に各種設定や被検者に関する情報などを入力したり、指示を与えたりするためのマンマシンインタフェースである。一般に操作部50は、キーボード、マウス、ボタン、スイッチ、ダイヤル、タッチパネルなどが適宜組み合わされて構成される。
プリンタ60及び表示部70は代表的な出力装置であり、装置の状態、測定結果などを可視的に出力する。外部インタフェース(I/F)80は、典型的にはネットワークインタフェースやシリアルインタフェース(USB,IEEE1394等)、モデム等であり、ネットワークを介して、或いは直接接続される、外部機器と通信するために設けられる。
記憶部90は代表的にはハードディスクドライブであり、生体情報モニタ装置の動作を制御するためのプログラムや各種データ、測定結果や患者の個人情報などを記録する。記憶部90には、他の記憶装置、例えばメモリカードや光ディスクなどの書き込み可能なリムーバブルメディアに対して読み書きを行う装置が少なくとも1種類以上含まれていても良い。
制御部100は、生体情報モニタ装置全体の動作を制御する。制御部100は例えばCPU及びRAMを有し、記憶部90に記憶された制御プログラムをRAMにロードしてCPUにより実行することで、各部を制御し、後述する血圧監視動作を含む生体情報モニタ装置の処理を実現する。なお、全ての処理をCPUによりソフトウェア的に実行する必要はなく、例えば各種センサから入力される信号のA/D変換やフィルタリング等の信号処理をDSPや専用のハードウェアに分担させるなど、適宜他の構成を利用することが可能である。
以下、本実施形態の生体情報モニタ装置における血圧監視動作について説明する。
本実施形態の生体情報モニタ装置は、ECGと指尖容積脈波とを用いて脈波伝播速度を連続的に算出し、予め係数を構成した算出式を適用して推定血圧値を連続的に算出する点、また推定血圧値を用いてカフによる血圧測定の必要性を判定する点において従来技術と共通している。
しかし、本実施形態では、推定血圧値に加え、他の条件を満たした場合にのみカフによる血圧測定が必要であると判定することにより、連続的な血圧監視における異常検出精度を向上させる。そして、この他の条件として、本実施形態では加速度脈波から得られるパラメータの値を用いることを特徴とする。
加速度脈波は脈波を2度時間微分して得られ、図2に示すように、特徴的なa波〜e波を有する。そして、a波、b波は収縮期前方成分、c波、d波は収縮期後方成分、e波は拡張期成分をそれぞれ表すものとされている(例えば、池谷等による「高血圧による動脈硬化度を評価する指尖容積脈波(加速度脈波)」、血圧、vol.10,no.6,2003,pp.54-60参照)。
そして、池谷等によれば、収縮期前方成分は、心臓が収縮したことによる血液の駆出によって生じる駆動圧波を反映したもの、収縮期後方成分は駆動圧波が末梢に伝播し、反射波として戻り、駆動圧波に重なって生じる再上昇圧波である。従って、収縮期前方成分は心臓(中枢)側の状態を、収縮期後方成分は末梢側の状態をそれぞれ表しているものと考えることができる。
そのため、本実施形態では、収縮期前方成分又は収縮期後方成分の少なくとも一方が、カフを用いて前回血圧測定した際の収縮期前方成分又は収縮期後方成分の値から所定量を超えて変動したことを上述の他の条件として採用した。つまり、推定血圧値の変化に加えて中枢側又は末梢側での変化が示される場合には、推定血圧値だけが変動している場合や、中枢側又は末梢側での変化だけが示される場合よりも、実際に血圧が変動している可能性が高いと判断できる。
なお、本実施形態では、中枢側の状態を示すパラメータとしてa波に対するb波の波高比b/aを、末梢側の状態を示すパラメータとしてa波に対するd波の波高比d/aを用いる。ここで、a波の波高に対する比としている理由は、厳密な意味でのキャリブレーションが存在しない加速度脈波から求まるパラメータ相互の比較を行うためであり、一種の正規化に相当する。
以上をふまえて、図3のフローチャートを参照しながら、本実施形態に係る生体情報モニタ装置の血圧監視動作について説明する。
まず、ステップS101で、ECGと脈波の取得を開始する。また、初期化処理として、カフを用いた血圧の初期測定と、加速度脈波パラメータの初期値及び推定血圧値の初期値を以下に説明する方法と同様にして算出し、記憶部90に記憶しておく。以降、加速度脈波の処理(ステップS111〜S115)と、脈波伝播速度に基づく血圧推定処理(ステップS121〜S125)とは並列に処理される。
ステップS111において、制御部100は、指センサ30からの指尖光電容積脈波から加速度脈波を算出する。そして、ステップS113で、加速度脈波の1拍中に含まれるa〜d波に基づき、収縮期前方成分と収縮期後方成分に関するパラメータ、本実施形態では波高比b/a及びd/aを求める。
ステップS115で、制御部100は、求めたパラメータの値と、前回のカフ血圧測定時に測定した値とから、変動量を算出し、異常であるかどうかを調べる。例えば、
D1(%)=1−{b/a(current)}/{b/a(ref)}×100
D2(%)=1−{d/a(current)}/{d/a(ref)}×100
とし、
|D1|>Thb (1a)
|D2|>Thd (1b)
のいずれか、あるいは両方、または予め定めた一方が満たされるかどうかにより、異常かどうかを調べることができる。ただし、b/aは中枢側の状態を表すパラメータであるため、少なくともb/aの値は考慮することが望ましい。ステップS115において、異常判定する対象のパラメータと、異常判定するための式、使用する閾値は予め定めておくものとするが、固定である必要はなく、随時変更可能であってよい。
なお、上式における(current)は現在の算出値、(ref)は基準となる直近のカフ血圧測定時の算出値をそれぞれ示している。また、正常範囲を示す値としての閾値Thb、Thdは等しくてもよいし、個別に定めてもよい。また、変化量を絶対値とせず、増加側の閾値(上限値)と、減少側の閾値(下限値)を個別に定めてもよい。閾値の具体的な値は適宜決定することが可能であるが、例えば式(1a),(1b)においてThb=Thd=20(%)とすることができる。
また、この閾値は、定期的なカフによる血圧測定結果に応じて動的に変更することも可能である。例えば、カフによる血圧測定結果が所定値より低い場合、そうでない場合よりも減少側の閾値がより厳しく(閾値を超えやすく)なるように設定して、血圧の減少をより厳しく監視することも可能である。具体的には、正常範囲が上限値と下限値で規定される場合、下限値を高めに設定することで、下限値を下回りやすくなり、血圧の減少を厳しく監視することができる。また、逆にカフの測定結果が高い場合に、増加側の閾値をより厳しく(正常範囲の上限値を低めに)設定し直すこともできる。
また、変動量は比率(パーセンテージ)である必要はなく、差分であってもよい。
ステップS115において、変動量が異常であると判定された場合には、ステップS130に進み、正常であると判定された場合にはステップS111へ戻って次の心拍に対する処理を続行する。
一方、ステップS121〜S125では、従来と同様の血圧値推定処理が実行される。
ステップS121では、心電図電極20により検出されるECGと、指センサ30が検出する指尖容積脈波とに基づいて、脈波伝播時間を算出する。より具体的には、制御部100は、ECGや指尖容積脈波に対して通常行われるノイズ除去や波形整形などの信号処理を行った後、両者の各心拍中の特徴点間の時間差を脈波伝播速度として算出する。この場合、ECGの特徴点としては例えばR波のピーク位置、指尖容積脈波の特徴点は例えば波形の立ち上がり位置とすることができる。また、上述したように、R波の出現から実際の脈波発生までには時間差(駆出前期間)が存在するため、特徴点間の時間差から、予め統計的に求めた駆出前期間に相当する時間を減じることで、補正を行うことも可能である。
ステップS123では、求めた脈波伝播時間から、推定血圧値を求める。
すなわち、脈波伝播時間を、例えば特許文献1に示されるような、
推定血圧値=α×(脈波伝播時間[msec])+β (2)
(α、βは係数であり、α<0、β>0)
という式に適用することにより、推定血圧値を求める。
なお、係数α、βは、予め求めておけばよい。すなわち、この算出式は二元一次方程式であるから、少なくとも2つの異なる実測血圧値と、対応する脈波伝播時間とを用いることにより、係数α、βの値を決定することが可能である。
また、この係数は固定である必要はなく、他の方法(カフによる測定や観血的な測定)で得られた実測値と、対応する時点の脈波伝播時間とを用いて都度最適な値となるよう更新するように構成することも可能である。
ステップS125において、推定血圧値が異常値であるかどうかを判定する。この判定は、推定血圧値が予め定めた正常範囲の上限値を上回るか下限値を下回るかを判定することによってもよいし、直近のカフによる血圧測定値に対して所定量(変動比であっても、差分であってもよい)以上の変動が見られたかどうかを判定することによってもよい。
これら上限値、下限値又は変動量は、波形パラメータにおける閾値と同様、カフによる血圧測定値に対して固定的に設定されても良いし、測定値の具体的な値に応じて動的に変更するように構成してもよい。
ステップS125において、推定血圧値が異常であると判定された場合にはステップS130に進み、正常であると判定された場合にはステップS121へ戻って次の心拍に対する処理を続行する。
ステップS130では、カフによる血圧測定を実行する条件が満たされたかどうか判定する。すなわち、
(1)所定期間継続して、脈波パラメータ及び推定血圧値の両方が異常であると判定された
(2)直近のカフによる血圧測定から予め定めた時間が経過した
のいずれかに該当するかどうかを判定する。
これら条件のいずれかが満たされた場合、制御部100はポンプ14を制御し、カフ10の圧力を上昇させ、駆血後徐排気しながら圧力センサ12からの入力信号を監視し、周知のオシロメトリック法に基づいて最高血圧値、平均血圧値及び最低血圧値を求める。また、カフ10を用いた血圧測定直前の波形パラメータ及び推定血圧値を記憶部90に記憶しておき、推定血圧値の算出式に含まれる係数α、βの校正やその後の処理に使用する。なお、カフによる血圧値測定中は、ステップS111〜S115の波形パラメータ算出、判定処理及びステップS121〜S125の推定血圧値算出処理を中断するか、結果を無視する。
以後、監視の終了が指示されるまで上述の処理を繰り返す。
図4は、本実施形態の血圧測定装置により連続して算出した推定血圧値と、観血的に測定した血圧値、波形パラメータの関係を示す図である。
図4において、ESYSが脈波伝播時間に基づいて算出した推定血圧値、ISYSが観血的に測定した血圧値をそれぞれ示している。また、これら血圧値の上下に引かれた直線は、時刻t0、t1及びt2においてカフによる測定が行われたものとした場合の、カフ測定値から+20%の値と−20%の値を示している。
すなわち、図4では推定血圧値と実際の血圧値との関係を示すために観血的に測定した血圧値を示しているが、実際の血圧監視装置では観血的な測定は行わない(観血的な測定を行うのであれば、血圧を推定する意味自体がない)。実際には、定期的なカフによる測定が行われ、カフによる血圧測定が行われない期間は、脈波伝播時間に基づく推定血圧値による監視が行われる。そして、図4は、推定血圧値が正常値と見なせるかどうかを判定するための閾値として、直近のカフによる血圧測定値±20%が用いられている場合を示している。
また、図4には、波形パラメータb/a及びd/aが閾値を超えたかどうかをそれぞれBPA_OVER及びDPA_OVERとして示している。
図4で、時刻t0からt1の間、波形パラメータ(b/a)は一部で異常値を示しているが、推定血圧値は正常範囲内にあるためカフ起動は行われず、t0から所定時間経過後のt1において定期的なカフによる血圧測定が行われている。
時刻t1を過ぎると、推定血圧値は下限値及び上限値を外れる期間があるが、波形パラメータはいずれも正常値であるため、やはりカフ起動は行われていない。しかし、その後、推定血圧値及び波形パラメータ(b/a)の両方が異常値を示すようになり、時刻t2でカフによる血圧測定が実行されている。ここで、(t1−t0)>(t2−t1)であり、時刻t2でのカフ起動は定期的な間隔よりも短い。
その後、時刻t2の後、しばらくの間波形パラメータが異常値を示しているが、推定血圧値は正常範囲内であるため、カフ起動は行われていない。
図4から分かるように、本実施形態の血圧監視装置によれば、ECGと脈波とから求めた脈波伝播時間に基づいて算出した推定血圧値の値に加え、加速度脈波から求まる、血管の状態を表すパラメータの値を用いて血圧値の真の変動有無を決定しているため、従来の方法よりも精度良くカフによる血圧測定の必要性を判定することができる。
(算出式の校正処理)
次に、本実施形態の血圧監視装置における推定血圧値算出式の校正処理について説明する。
上述のように、カフによる血圧測定を行った結果が少なくとも定期的に得られる場合、この測定結果を基にして推定血圧値を求めるための算出式の校正(係数α、βの校正)を行うことにより、次のカフ測定時までの区間における推定血圧値の精度を向上させることができる。本実施形態では、カフによる血圧測定結果を基に算出式の校正を行うと共に、上述した加速度脈波の波形パラメータの変動量を考慮した校正を行うことで、推定精度の向上を実現することができる。
既に説明したように、脈波伝播時間から推定血圧値を求める算出式は、
推定血圧値=α×(脈波伝播時間[msec])+β (2)
(α、βは係数であり、α<0、β>0)
と表すことができるが、これらの係数を実測値と推定値の差分(誤差)や、前回の実測値と今回の実測値との差に応じて校正することで、その後の処理において、より精度の高い推定血圧値を算出することが可能になる。
そして、本実施形態では、式(2)を、
推定血圧値=(α+γ)×(脈波伝播時間[msec])+β (2’)
(α、β、γは係数であり、α<0、β>0)
とし、新たな係数γを導入する。係数γは係数αの補正項であり、加速度脈波から得られる波形パラメータの変動量に応じた値を有する。すなわち、加速度パラメータの波形パラメータの変動が大きい場合には、血管の機能的な変化が生じた可能性があるため、波形パラメータの変動が小さい場合よりも補正の程度を強めることが好ましいと考えられるからである。
本実施形態では、係数αの校正は例えば表1に示すように行う。
<表1>
d αの補正量
30<d 再計算
20<d≦30 +10
10<d≦20 + 5
−10≦d≦10 0(補正なし)
−20≦d<−10 − 5
−30≦d<−20 −10
d<−30 再計算
ただし、dは(推定血圧値−実測値)又は(実測値(t-1)−実測値(t))[mmHg]である。
なお、d≧30又はd≦−30の場合には、単なる補正では対応できないものとし、今回の実測値と直近の実測値とを用いて改めて係数の算出を行う。
また、校正された係数αと実測値を用い、係数βも校正がなされる。
また、補正項γは、波形パラメータの、直近のカフによる血圧測定時の値からの変動量(パラメータの値の差分絶対値又は変動比)が予め定めた値を超える場合に導入され、例えば変動量を上述のD1(%)、D2(%)とした場合、以下の表2のような値を有するものとする。
<表2>
D(D1及び/又はD2) γ
30<D +3
20<D≦30 +2
10<D≦20 +1
−10≦D≦10 0
−20≦D<−10 −1
−30≦D<−20 −2
D<−30 −3
なお、本実施形態のように波形パラメータが複数(b/a、d/a)ある場合、どの波形パラメータの変動量に基づいてγを導入するかは適宜設定することが可能であるが、例えばパラメータのいずれかの変動量が閾値を超えた場合にγを導入する。
なお、表2では補正量γの値が波形パラメータの変動量Dの値に応じて変化する場合を示したが、dの値に応じて補正量γの値を変化させても良い。例えば、dの値が大きいほどγの値を大きくするように設定したりしても良い。また、Dによるγの値と、dによるγの値を加算して適用するなど、これら条件を組み合わせることもできる。あるいは、波形パラメータの変動量D又はdが補正量を導入する条件を満たす場合には、D又はdの値にかかわらず、γの絶対値を一定としても良い。具体的には、例えば、表2において、10<Dであれば一律+2のγを、D<−10であれば一律−2のγを導入する。
図5は、本実施形態の生体情報モニタ装置における算出式校正動作を説明するフローチャートである。以下の処理は、上述の血圧監視処理と同様、制御部100が制御プログラムを実行することによって実現される。また、図3のフローチャートにおけるステップS140の終了後、ステップS121へ戻る前に実施されてもよい。
まず、ステップS201において、カフを用いて測定した血圧値(実測値)を取得する。そして、ステップS203で、実測値と、カフによる血圧測定を開始する直前の推定血圧値又は1回前の実測値との比較を行う。そして、ステップS205で、これらの差の大きさや変動率の大きさに基づいて、推定血圧値算出式の校正が必要であるかどうか判定する。
具体的には、上述したように、
(差分で判定する場合)
|推定血圧値−実測値|>Th1
|実測値(t-1)−実測値(t)|>Th2
(変動比で判定する場合)
|(推定血圧値/実測値)−1|>Th3
|(実測値(t-1)/実測値(t))−1|>Th4
等の条件に基づいて、変動量が多い場合には校正が必要であると判定する。
校正の必要がない(推定血圧値の精度が十分である)と判定される場合には、処理を終了する。
一方、校正が必要であると判定される場合には、ステップS207で係数の校正を行う。係数の校正は上述したように、(推定血圧値−実測値)又は(実測値(t-1)−実測値(t))であるdの値に応じて先ず係数αを校正する。
次に、ステップS209において、波形パラメータの変動量を考慮した補正を行う必要があるか、具体的には波形パラメータの変動量が大きいかどうかを、例えば第1の実施形態において説明した式(1a)、(1b)に基づいて決定する。ここでは、いずれかのパラメータが式(1a),(1b)を満たした場合に変動量が大きいものと判定するものとする。
波形パラメータの変動が大きいと判定された場合には、ステップS211において、上述したγにより係数αを補正する。ステップS213では、校正後の係数α(波形パラメータの変動が大きくない場合)又は校正並びに補正後の係数α(波形パラメータの変動が大きい場合)と、実測血圧値とを用い、係数βを校正する。そして、校正後の係数又は校正後の係数を含む算出式を記憶部90へ保存する。
このように、本実施形態によれば、カフを用いた血圧測定時に、脈波伝播速度から推定血圧値を求める算出式の校正を行う血圧監視装置において、加速度脈波から求まる波形パラメータの変動量が大きい場合には係数の校正量を補正することにより、血管の急激な拡張や収縮など、血管の機能性に変化が生じた場合であっても、精度の良い校正が可能となり、結果として精度の良い推定血圧値を得ることができる。
なお、上述の実施形態においては、通常の生体情報モニタ装置を流用するという観点から、ECGと指尖容積脈波とを用いて脈波伝播速度を測定する場合について説明した。しかし、本発明は、脈波伝播速度を他の方法で算出する血圧監視装置に対しても適用可能である。例えば、拡張期血圧以下に加圧したカフで測定した脈波と、指尖容積脈波とから脈波伝播時間を測定する装置や、脈波センサで検出した脈波とカフで検出した脈波から脈波伝播時間を測定する装置に対しても適用可能である。
さらに、上述の実施形態では、係数の校正に利用する血圧値を測定する方法として、カフによるオシロメトリック法を用いた血圧測定値を採用した場合を説明した。しかし、推定血圧値の算出式の係数を校正する際に用いる血圧値には、校正の基準となる程度の精度を満たせば、他の任意の血圧測定方法を用いて測定した血圧値を用いることが可能である。
本発明の実施形態に係る血圧監視装置としての生体情報モニタ装置の構成例を示すブロック図である。 原波形とその加速度脈波の例を示す図である。 本発明の実施形態に係る生体情報モニタ装置の血圧監視動作を説明するフローチャートである。 実施形態に係る生体情報モニタ装置で算出した血圧値と、観血的に実測した血圧値及び波形パラメータの実例を示す図である。 本発明の実施形態に係る生体情報モニタ装置における、推定血圧値算出式の校正動作を説明するフローチャートである。

Claims (13)

  1. 所定の方法で血圧測定を行う血圧測定部と、
    生体の所定部位における脈波を取得する脈波取得手段と、
    前記脈波と、心電図又は前記所定部位とは異なる部位で取得した脈波とから、脈波伝播時間を算出する脈波伝播時間算出手段と、
    前記脈波伝播時間を予め定めた算出式に適用して推定血圧値を算出する推定血圧値算出手段と、
    前記脈波から加速度脈波を算出する加速度脈波算出手段と、
    前記加速度脈波に含まれる波形から所定の波形パラメータを算出する波形パラメータ算出手段と、
    前記血圧測定部による測定値を用いて前記算出式の校正を行う校正手段とを有し、
    前記校正手段が、前記波形パラメータの変動量が所定量を超える場合、そうでない場合に適用される校正量を補正した後に前記校正を行うことを特徴とする血圧監視装置。
  2. 前記補正が、前記波形パラメータの変動量が所定量を超えない場合に適用される校正量よりも大きな校正量が適用されるような補正であることを特徴とする請求項1記載の血圧監視装置。
  3. 前記校正手段が、前記血圧測定部による現在の測定値と前回の測定値との比較、或いは前記血圧測定部による現在の測定値と前記推定血圧値との比較に基づいて前記校正の要否を判定し、必要と判定されたときのみ前記校正を行うことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の血圧監視装置。
  4. 前記補正の大きさが一定であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の血圧監視装置。
  5. 前記補正の大きさが、前記波形パラメータの変動量又は、前記血圧測定部による現在の測定値と前回の測定値との比較、或いは前記血圧測定部による現在の測定値と前記推定血圧値との比較結果に応じて変化することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の血圧監視装置。
  6. 前記算出式が
    推定血圧値=α×(脈波伝播時間[msec])+β
    (α、βは係数であり、α<0、β>0)
    で表され、前記校正手段が、前記αに前記校正量を適用した後、前記血圧測定部による測定値を前記推定血圧値として適用することにより前記係数βを校正することで、前記算出式の校正を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の血圧監視装置。
  7. 前記校正手段が、前記波形パラメータの変動量が所定量を超える場合、前記係数αに対する校正量を補正することを特徴とする請求項6記載の血圧監視装置。
  8. 前記所定の波形パラメータが、収縮期前方成分に関するパラメータと、収縮期後方成分に関するパラメータの少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の血圧監視装置。
  9. 前記所定の波形パラメータが、前記加速度脈波に含まれる特徴波形の波高比であることを特徴とする請求項8記載の血圧監視装置。
  10. 前記所定の波形パラメータが、前記加速度脈波に含まれるb波のa波に対する波高比と、d波のa波に対する波高比であることを特徴とする請求項9記載の血圧監視装置。
  11. 前記血圧測定部が、連続的には測定が行えない方法により血圧測定を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の血圧監視装置。
  12. 前記血圧測定部が、カフを用いたオシロメトリック法により血圧測定を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の血圧監視装置。
  13. 前記脈波取得手段が、指尖容積脈波を取得することを特徴とする請求項1乃至請求項12のいずれか1項に記載の血圧監視装置。
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