上記特許文献1に記載の4輪転舵装置は、転舵アクチュエータの中立位置がスプリングの取付誤差や劣化によって変動するために、精度が悪いという問題がある。また、特許文献1に記載の方法以外に、車軸に対する後輪転舵角の絶対角を検出する絶対角検出センサを左右後輪に取付けておき、この絶対角検出センサが0°となる位置に転舵アクチュエータを作動させることによって転舵アクチュエータを中立位置に戻す方法が考えられる。しかし、この場合には、絶対角検出センサを取付けることによるコストアップ、絶対角センサを精度良く組付けるための組付け工数の増加、組付け誤差による精度劣化、などの問題が発生する。
本発明は、上記問題に対処するためになされたもので、コストアップせずに精度良く転舵アクチュエータを中立位置に復帰させることができる機構を有する車輪転舵装置および転舵アクチュエータ中立位置復帰方法を提供することを目的とする。
本発明の特徴は、車輪を転舵する転舵アクチュエータと、前記転舵アクチュエータの作動を制御する制御手段とを備える車輪転舵装置において、前記制御手段は、外部信号の入力によって、前記転舵アクチュエータの作動を制御するための制御モードを、前記転舵アクチュエータが中立位置に戻るように前記転舵アクチュエータの作動を制御する強制制御モードにするモード移行手段と、前記強制制御モード時に、前記転舵アクチュエータを中立位置に戻すために必要な作動量である目標作動量を演算する目標作動量演算手段と、前記強制制御モード時に、前記転舵アクチュエータを前記目標作動量だけ作動させるアクチュエータ作動手段と、を備えるものとしたことにある。
また、本発明の他の特徴は、左右後輪を転舵する転舵アクチュエータと、左右前輪を転舵するための操舵ハンドルと、前記転舵アクチュエータの作動を制御する制御手段とを備える車輪転舵装置において、前記制御手段は、外部信号の入力によって、前記転舵アクチュエータの作動を制御するための制御モードを、前記転舵アクチュエータが中立位置に戻るように前記転舵アクチュエータの作動を制御する強制制御モードにするモード移行手段と、前記強制制御モード中に行われる操舵ハンドル操作における前記操舵ハンドルの操作量に基づいて、前記強制制御モード時に前記転舵アクチュエータが中立位置に戻るために必要な作動量である目標作動量を演算する目標作動量演算手段と、前記強制制御モード時に前記転舵アクチュエータを前記目標作動量だけ作動させるアクチュエータ作動手段と、を備えるものとしたことにある。
上記発明によれば、車輪転舵装置の制御手段は、外部信号入力によって、転舵アクチュエータの作動制御モードを、転舵アクチュエータを中立位置に復帰させる制御モードである強制制御モードにする。この強制制御モードでは、車輪(例えば左右後輪)を転舵する転舵アクチュエータの目標作動量を、例えば強制制御モード中に行われる操舵ハンドル操作における操舵ハンドルの操作量に基づいて演算する。そして、演算された目標作動量だけ転舵アクチュエータを作動させることによって転舵アクチュエータが中立位置に戻る。このように本発明は、転舵アクチュエータの目標作動量を演算した上で、その目標作動量に従って転舵アクチュエータを作動させているので、従来のようにスプリングなどによって機械的に転舵アクチュエータを中立位置に戻す場合と比較して中立位置への復帰精度が向上する。また、絶対角検出センサなどを用いることなくコストを抑えたまま転舵アクチュエータを中立位置に戻すことができる。また、操舵ハンドル操作における操作量に基づいて目標作動量を演算することにより、正確に目標作動量を演算することができる。
上記発明において、外部信号の入力とは、制御手段以外のものから制御手段への信号の入力である。例えば、修理工場に備え付けの故障診断ツールを制御手段に電気的に接続して、この故障診断ツールから外部信号を制御手段に入力してもよい。また、転舵アクチュエータの中立位置とは、転舵アクチュエータにより転舵される車輪(例えば左右後輪)の転舵角が0°であるときの転舵アクチュエータの位置である。また、上記強制制御モードは、制御手段により転舵アクチュエータの作動を制御するための制御モードの一つである。制御手段はそのほかの制御モードにしたがって転舵アクチュエータの作動を制御する場合があってもよい。例えば、車速に応じて転舵アクチュエータの作動を制御する制御モードや、故障時に車輪の転舵をロックする制御モードなどに従ってアクチュエータの作動を制御してもよい。制御手段は外部信号入力があったときは、これらの制御モードから強制制御モードに切り替えるのである。また、本発明において、操舵ハンドルは左右前輪を転舵するためのものであるのがよい。この場合、転舵アクチュエータは左右後輪を転舵するものであるとよい。また、ステアバイワイヤ方式の車輪転舵機構を採用している車両であれば、操舵ハンドルはアクチュエータにより作動させられる車輪(例えば左右前輪)を操作するものでもよいし、そうでない車輪(例えば左右後輪)を操作するものでもよい。
また、前記目標作動量演算手段は、前記強制制御モード中に行われる操舵ハンドル操作における前記操舵ハンドルの操作量と前記目標作動量との関係が予め設定された設定手段に基づいて、前記目標作動量を演算するものであるのがよい。これによれば、強制制御モード中に作業者等によって操舵ハンドルが操作される。このときの操作量と目標作動量との関係が予め設定手段によって設定されており、制御手段はこの設定手段に基づいて、上記操作量から目標作動量を演算する。設定手段を用いて目標作動量を演算することにより、操舵ハンドルの操作量と目標作動量とを対応させることができ、その結果、操舵ハンドルの操作によって正確に目標作動量を制御手段に演算させることができる。
上記設定手段は、強制制御モード中に行われた操舵ハンドル操作における操舵ハンドルの操作量と、転舵アクチュエータの目標作動量との対応関係を表すものであり、1の操作量に対して1の目標作動量が定まる。この場合、設定手段は、操舵ハンドルの操作量の大きさに応じて定められる目標作動量が記憶された制御マップ(制御テーブル)のようなものでもよいし、操舵ハンドルの操作量の大きさと目標作動量との関係が関数により表されているようなものでもよい。また、設定手段は、制御手段に記憶されているのがよい。
また、前記強制制御モード中に行われる操舵ハンドル操作は、前記操舵ハンドルを前記転舵アクチュエータの現在位置が推定可能となる操作位置から中立位置に戻す操作であるとよい。これによれば、操舵ハンドルの操作位置から転舵アクチュエータの現在位置が推定可能であるため、操舵ハンドルが操作位置から中立位置まで操作されたときの操作量と目標作動量(転舵アクチュエータが現在位置から中立位置まで作動するための作動量)とを関連付けることで、操作量から目標作動量が推定できる。したがって、操舵ハンドルの上記操作量とそれから推定される目標作動量とが対応するように設定手段を作成することにより、この設定手段に基づいて操舵ハンドルの操作量から目標作動量を正確に演算することができる。
特に、車輪転舵装置が4輪転舵装置、すなわち左右前輪が操舵ハンドルにより転舵され、左右後輪が転舵アクチュエータにより転舵されるものである場合、転舵アクチュエータの現在位置が推定可能となる操舵ハンドルの操作位置は、左右前輪の転舵角と左右後輪の転舵角が等しくなって車両が斜めに直線走行できる状態(以下、この状態を斜行状態という)となるように操舵ハンドルが操作された場合における操舵ハンドルの操作位置(回動式の操舵ハンドルの場合は回転位置)であるとよい。これによれば、車両が斜行状態であるときは、左右後輪の転舵角が左右前輪の転舵角に等しくなっている。このことから転舵アクチュエータの現在位置も容易に推定することができる。
また、斜行状態における操舵ハンドルを操作位置から中立位置に戻すときの操作量は、斜行状態における左右後輪をそのときの転舵位置から中立位置まで戻すときの転舵量と相関関係があり、この転舵量は、斜行状態における転舵アクチュエータをそのときの現在位置から中立位置まで戻すときの作動量(目標作動量)と相関関係がある。すなわち斜行状態における操舵ハンドルの操作位置から中立位置までの操舵量と目標作動量との間には相関関係がある。したがって、この相関関係に基づいて設定手段を作成し、作成した設定手段に基づいて目標作動量を演算することにより、正確な目標作動量の演算を行うことができ、精度良く転舵アクチュエータを中立位置に戻すことができる。また、転舵アクチュエータを中立位置に戻すために作業者が行う作業は、車両を斜行状態にさせて、その後に操舵ハンドルを中立位置に戻すだけである。このような簡便な作業を行うだけで転舵アクチュエータを精度良く中立位置に戻すことができる。
また、前記転舵アクチュエータの現在位置は予め推定されており、前記強制制御モード中に行われる操舵ハンドル操作における前記操舵ハンドルの操作量は、推定された現在位置に基づいて決定されるものであってもよい。これによれば、転舵アクチュエータの現在位置が予め作業者などにより推定されるので、推定された現在位置から、あとどのくらい転舵アクチュエータを作動させれば転舵アクチュエータが中立位置に戻るかを推定することができる。すなわち目標作動量を推定することができる。よって、作業者は、推定した現在位置から目標作動量を推定し、推定した目標作動量を例えば整備マニュアルに記載されている設定手段の内容、すなわち操舵ハンドルの操作量と目標作動量との関係に照らし合わせて必要な操舵ハンドル操作量を調べ、調べた操作量だけ操舵ハンドルを操作することにより、転舵アクチュエータを目標作動量だけ作動させることができる。なお、転舵アクチュエータの現在位置の推定手法は様々な手法が考えられるが、例えば、現在位置における転舵アクチュエータの中立位置からの変位量を計測機器(例えばノギス)で計測したり、左右後輪の転舵角を計測機器で測定して転舵アクチュエータの変位に換算したりすることにより推定できる。
また、前記制御手段は、前記転舵アクチュエータが前記目標作動量だけ作動した場合に、前記強制制御モードを終了させる強制制御終了手段を更に備えるものであるのがよい。これによれば、強制制御モードにおける転舵アクチュエータの作動によって車輪が中立位置に戻された後に強制制御終了手段により強制制御モードが終了する。
また、前記制御手段は、前記強制制御モード中に車両の状態が所定の状態であるかを判定する車両状態判定手段と、前記車両状態判定段により車両状態が所定の状態と判定されたときに前記強制制御モードを中止する強制制御中止手段と、を更に備えるものであるのがよい。車両状態によっては強制制御モードにより転舵アクチュエータを中立位置に戻すことが好ましくない場合もある。したがって、このような場合に上記強制制御中止手段によって強制制御モードを中止することができる。
この場合、上記所定の状態が、車両のイグニションがOFFであるイグニッションOFF状態、車速が所定の微速以上である車両走行状態、前記アクチュエータに所望の作動を行わせるために前記アクチュエータに供給すべき電流が供給されているにもかかわらず前記アクチュエータが所望の作動を行わないアクチュエータ作動不良状態、操舵ハンドルの操舵角を検出する操舵角検出センサから正しい入力が得られない状態である操舵角検出センサ異常状態、車速を検出する車速センサから正しい入力が得られない状態である車速センサ異常状態、前記制御手段への供給電圧が低下した電圧低下状態、前記制御手段が故障を検知した故障検知状態、の少なくともいずれか一つの状態であるのがよい。
また、車輪転舵装置は、前記強制制御中止手段による前記強制制御モードの中止を報知する中止報知手段を更に備えるものであるのがよい。これによれば、中止報知手段による報知によって、強制制御モードが中止されたことを作業者に知らせることができる。また、車輪転舵装置は、前記制御手段による前記転舵アクチュエータの作動を制御するための制御モードが前記強制制御モードに移行したことを報知する強制制御モード移行報知手段を更に備えるものであるのがよい。これによれば、強制制御モード移行報知手段による報知によって、車輪転舵装置の制御モードが強制制御モードとなったことを作業者に知らせることができる。
また、前記制御手段は、前記強制制御モード中に作動する前記転舵アクチュエータの作動速度を所定の速度以下に制限する作動速度制限手段を更に備えるものであるのがよい。これによれば、転舵アクチュエータを上記所定速度以下の比較的低速で作動させることにより、精度良く転舵アクチュエータを中立位置まで戻し、その位置で固定することができる。この場合、上記所定の速度は、上記転舵アクチュエータにより転舵される車輪の転舵角速度に換算して、0.1deg./sec.〜3deg./sec.程度の速度であると良い。このような範囲の速度であれば、確実に転舵アクチュエータを精度良く中立位置に戻すことができる。
また、本発明の他の特徴は、車両の左右後輪を転舵する転舵アクチュエータを中立位置に復帰させる転舵アクチュエータの中立位置復帰方法であって、前記転舵アクチュエータの現在位置を推定する現在位置推定ステップと、前記転舵アクチュエータの作動を制御する制御手段に外部信号を入力することによって、前記制御手段が前記転舵アクチュエータの作動を制御するための制御モードを、前記転舵アクチュエータが現在位置から中立位置に戻るように前記転舵アクチュエータの作動を制御する強制制御モードにするモード移行ステップと、左右前輪を転舵させる操舵ハンドルを操作する操舵ハンドル操作ステップと、前記操舵ハンドル操作ステップにて操作した操舵ハンドルの操作量と、前記転舵アクチュエータを現在位置から中立位置まで作動させるために必要な作動量である目標作動量との関係が予め設定された設定手段に基づいて、前記制御手段が前記目標作動量を演算する目標作動量演算ステップと、前記目標作動量演算ステップにて演算された作動量だけ前記転舵アクチュエータを作動させることにより前記転舵アクチュエータを中立位置に復帰させる中立位置復帰ステップと、を含む転舵アクチュエータの中立位置復帰方法とすることにある。
上記発明によれば、まず転舵アクチュエータの現在位置が推定される。次いで制御手段の制御モードが外部信号入力により強制制御モードとされ、強制制御モード中に操舵ハンドルが操作される。この操作量から設定手段に基づいて転舵アクチュエータの目標作動量が演算され、演算された目標作動量だけ転舵アクチュエータが作動し、転舵アクチュエータが中立位置に戻される。このように、本発明は、操舵ハンドルの操作量を用いて設定手段から転舵アクチュエータの目標作動量を演算した上で、その目標作動量に従って転舵アクチュエータを作動させているので、従来のようにスプリングなどによって機械的に転舵アクチュエータを中立位置に戻す場合と比較して精度良く転舵アクチュエータを中立位置に戻すことができる。また、絶対角検出センサなどを用いることなくコストを抑えたまま転舵アクチュエータを中立位置に戻すことができる。
この場合、前記現在位置推定ステップは、前記操舵ハンドルを操作して車両を斜め方向に直線走行させて前輪転舵角と後輪転舵角とを一致させることにより前記現在位置を推定するステップであり、前記操舵ハンドル操作ステップは、前記操舵ハンドルを、車両が前記直線走行可能な状態における操作位置から中立位置に戻るように操作するステップであるのがよい。これによれば、作業者は車両が前記斜行状態となるまで操舵ハンドルを操作し、その後操舵ハンドルを中立位置に戻すだけの簡便な作業により目標作動量が演算されて、転舵アクチュエータが中立位置に戻される。
また、前記現在位置推定ステップは、作業者が計測機器を用いて前記転舵アクチュエータの現在位置を測定するステップであり、前記操舵ハンドル操作ステップは、前記現在位置推定ステップにて測定した現在位置に基づいて、前記設定手段が設定している前記目標作動量に対応する前記操舵ハンドルの操作量を作業者が調査し、調査された操作量だけ作業者が操舵ハンドルを操作するステップであってもよい。これによれば、作業者が予め計測機器を用いて転舵アクチュエータの現在位置を直接測定する。測定した転舵アクチュエータの現在位置から目標作動量が推定できる。作業者は測定した現在位置に基づき、設定手段に設定されている目標作動量と操舵ハンドルの操作量との関係が記された整備マニュアルなどを参照し、目標作動量に対応する操作量を調査する。そして、調査した操作量だけ操舵ハンドルを操作する。これにより目標作動量が演算され、演算された目標作動量だけ転舵アクチュエータが作動する。このように、作業者は転舵アクチュエータの作動量を測定してその測定値を整備マニュアルなどに照らし合わせ、得られた操作量だけ操舵ハンドルを操作するだけの簡便な作業により転舵アクチュエータが中立位置に戻される。
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る車輪転舵装置の全体概略図である。
図1に示される車輪転舵装置1は、4輪転舵装置である。この車輪転舵装置1は、運転者によって操舵操作されるとともにその操舵操作によって左右前輪Wfl,Wfrを転舵させるための操舵ハンドル10を備えている。操舵ハンドル10は、ステアリングシャフト11の上端(図示下端)に一体回転するように接続されている。ステアリングシャフト11の下端(図示上端)には、ピニオンギヤ12が一体回転可能に設けられている。ピニオンギヤ12は、ラックバー13に設けたラック歯13aに噛み合っており、その回転によりラックバー13を軸線方向に駆動する。ラックバー13は、その両端にて、図示省略したタイロッドおよびナックルアームを介して左右前輪Wfl,Wfrを転舵可能に接続し、軸線方向の変位により左右前輪Wfl,Wfrを転舵する。
また、この車輪転舵装置1においては、左右後輪Wrl,Wrrを転舵する転舵アクチュエータ20を備えている。この転舵アクチュエータ20は、電動モータ21、後輪転舵軸22およびボールねじ送り機構23を有する。電動モータ21は後輪転舵軸22の外周上に組み付けられている。後輪転舵軸22は、その両端にて図示省略したタイロッドおよびナックルアームを介して転舵輪としての左右後輪Wrl,Wrrを転舵可能に接続し、軸線方向の変位により左右後輪Wrl,Wrrを転舵する。電動モータ21の回転は、後輪転舵軸22の外周上に組み付けられたボールねじ送り機構23を介して後輪転舵軸22に伝達される。ボールねじ送り機構23は、電動モータ21の回転を減速するとともに回転運動を直線運動に変換して後輪転舵軸22に伝達する。したがって、例えば電動モータ21が正方向に回転すると、後輪転舵軸22が一方の軸方向に変位し、これにより左右後輪Wrl,Wrrが一方向、例えば右方向に転舵される。一方、電動モータが逆方向(正方向とは反対方向)に回転すると、後輪転舵軸22が他方の軸方向に変位し、これにより左右後輪Wrl,Wrrが他方向、例えば左方向に転舵される。このようにして転舵アクチュエータ20は、後輪転舵軸22の軸方向への作動により左右後輪Wrl,Wrrを転舵する。
次に、転舵アクチュエータ20の作動を制御する電気制御装置について説明する。電気制御装置は、後輪転舵角センサ31、車速センサ32、ヨーレートセンサ33および操舵角センサ34を備えている。後輪転舵角センサ31は、電動モータ21に組み込まれたエンコーダを備え、電動モータ21の回転角を検出することによって左右後輪Wrl,Wrrの転舵角(後輪転舵角)δrを検出する。なお、転舵角が「0」であるときには左右後輪Wrl,Wrrの転舵位置が中立位置であり、中立位置から左右後輪Wrl,Wrrが左方向に転舵している場合の転舵角は負の値で表され、右方向に転舵している場合の転舵角は正の値で表されるものとする。車速センサ32は車速Vを検出する。ヨーレートセンサ33は車体重心周りのヨーレートγを検出する。操舵角センサ34は操舵ハンドル10に連結されたステアリングシャフト11に取付けられており、ステアリングシャフト11の回転角度を検出することにより操舵ハンドル10の操舵角θを検出する。操舵角θは、左右前輪Wfl,Wfrの転舵位置が中立位置である場合には「0」であり、中立位置から左方向に転舵している場合は負の値で表され、右方向に転舵している場合は正の値で表されるものとする。
後輪転舵角センサ31、車速センサ32、ヨーレートセンサ33および操舵角センサ34は、本発明の制御手段を構成する電子制御ユニット(以下、ECUという)35に接続されている。ECU35は、CPU,ROM,RAMなどからなるマイクロコンピュータを主要構成部品とするもので、各センサの検出信号に応じて駆動回路36を介して電動モータ21を駆動制御することにより転舵アクチュエータ20の作動を制御する。
また、車輪転舵装置1には警報装置40が設けられている。警報装置40は、ECU35に電気的に接続されており、作業者(操舵ハンドル10の操作者)によって視認可能な位置(例えば、メータクラスタ内など)に組み付けられた表示部41と、音を発生する音発生部42とを備えている。表示部41は、例えば、ランプや表示パネルなどから構成される。音発生部42は、例えば、スピーカなどから構成される。
ECU35は、通常は、転舵アクチュエータ20の作動を制御するための制御モードが自動制御モードとされている。この自動制御モードにおいては、ECU35は各種センサから車両の走行状況を判断し、その判断結果に応じて左右後輪Wrl,Wrrが所望の転舵を行うように転舵アクチュエータ20の作動を制御する。例えば、車両が所定の車速V1以上で走行している場合には、ECU35は左右前輪Wfl,Wfrと左右後輪Wrl,Wrrが同じ向き(同位相)となるように転舵アクチュエータ20の作動を制御する。これにより例えば車線変更時の車体スリップ角を小さくして車体のヨー慣性力の影響を受け難くし、車線変更後の車体の振り返しを小さくすることができる。また、車両が走行中に横風を受けたときに、ECU35は、転舵アクチュエータ20の作動を制御して車体が横風によりふらつかないように左右後輪Wrl,Wrrを転舵させる。これにより横風安定性を向上させる。このように走行状況に応じて左右後輪Wrl,Wrrが転舵することにより高い操縦安定性が実現される。
しかし、車輪転舵装置1の制御系に異常が発生した場合は、後輪転舵角センサ31が左右後輪Wrl,Wrrの正しい転舵角を検出しているか不明となる。この場合には、ECU35は転舵アクチュエータ20の作動制御モードをロックモードとし、左右後輪Wrl,Wrrをそのときの転舵位置にて固定して、左右前輪Wfl,Wfrの転舵に関わらずに左右後輪Wrl,Wrrが転舵しないよう転舵アクチュエータ20の作動を制御する。したがって転舵アクチュエータ20は、中立位置から左右後輪Wrl,Wrrが上記転舵位置であるときの作動位置である現在位置に変位したままロックされた状態とされている。そして、ロック状態のまま車両が修理工場などに搬送され、修理工場にて以下の手順にしたがって転舵アクチュエータ20が現在位置から中立位置に戻される。
まず、ロック状態における転舵アクチュエータ20の現在位置を推定する(現在位置推定ステップ)。このためには、作業者が操舵ハンドル10を操舵操作して左右前輪Wfl,Wfrを転舵し、図2に示されるように車両Sが矢印で示される斜めに方向に直線走行できる状態(斜行状態)とする。車両が斜行状態であるときは、左右後輪Wrl,Wrrの転舵角(後輪転舵角)δrと左右前輪Wfl,Wfrの転舵角(前輪転舵角)δfは等しい(δr=δf)。したがって、車両が斜行状態であるときにおける操舵ハンドル10の操作位置(操舵角θ)から前輪転舵角δfが推定でき、この前輪転舵角δfから後輪転舵角δrが推定でき、後輪転舵角δrから転舵アクチュエータ20の現在位置、具体的には後輪転舵軸22の中立位置からの変位量が推定できる。このように、車両が斜行状態であるときの操舵ハンドル10の操作位置は、転舵アクチュエータ20の現在位置が推定可能となる操作位置である。車両が斜行状態であるか否かは、車両を直線上のレーンを走行させて、ハンドル舵角が中立になっているかにより、あるいは、ヨーレートが0の状態で走行し、ハンドル舵角が中立になっているかにより判断することができる。または、車両を微速で走行させて、直線状のレーン上を走行できるか否かにより、あるいはヨーレートが0であるか否かにより判断することもできる。
上記現在位置推定ステップにて転舵アクチュエータ20の作動量を推定した後、作業者は車両に故障診断ツールTを接続する。これによりECU35は、図1に示されるように故障診断ツールTに電気的に接続される。この故障診断ツールTは修理工場等に備え付けてあり、データリンクコネクタなどの接続部材DLCを介してECU35に電気的に接続することによりECU35との通信を可能とする。故障診断ツールTは操作ボタンおよび表示画面を有している。なお、ECU35は自己診断(ダイアグノーシス)機能を備えており、故障診断ツールTを接続し、作業者が故障診断ツールTを表示画面上に表示された指示にしたがって操作することによって、車輪転舵装置1の故障診断を行うことができる。本実施形態では、この故障診断ツールTを用いてECU35が外部信号を入力し、図3に示されているプログラムを実行することにより、転舵アクチュエータ20が現在位置から中立位置に戻される。
図3のプログラムはステップS10にて開始され、次のステップS12にてECU35は、外部からモード移行信号が入力したかを判定する。このモード移行信号は、ECU35に接続された故障診断ツールTを介して作業者が入力できる。ステップS12にてモード移行信号が入力されていないと判定した場合には、ECU35はステップS36に進んでこのプログラムの実行を終了する。モード移行信号が入力されていると判定した場合には、ECU35は次のステップS14にて転舵アクチュエータ20の作動制御モードを強制制御モードに移行する。すなわちステップS12の判定がYesであることを条件として、ECU35は転舵アクチュエータ20の制御モードを強制制御モードに移行する(モード移行手段、モード移行ステップ)。なお、ステップS14によるモード移行処理は、説明を明確にするために設けたステップであり、実際のプログラム作成においてはこれを省略して、ステップS12の判定がYesであることのみによりモード移行処理を行っても良い。
ステップS14にて制御モードを強制制御モードに移行させた後、ECU35はステップS16に進み、このステップS16にて警報装置40の表示部41および音発生部42に報知指令を出力する(第1報知処理)。これにより警報装置40は、作業者に強制制御モードへの移行を報知する。すなわち、ECU35は、表示部41を作動させて、例えば、警告灯を点灯させ、あるいは表示パネル内に強制制御モードに移行した旨のメッセージを表示させる。また、ECU35は、音発生部42を作動させて、例えば、第1警報音をスピーカから出力させ、あるいは強制制御モードに移行した旨のメッセージを音声によってスピーカから出力させる。これにより作業者はECU35の制御モードが強制制御モードに移行したことを認識できる。その後ECU35は、ステップS18に進む。
ステップS18では、ECU35は、転舵アクチュエータ20を現在位置から中立位置に戻すために必要な作動量である目標作動量L*を演算する(目標作動量演算手段、目標作動量演算ステップ)。この目標作動量L*は、例えば転舵アクチュエータ20を現在位置から中立位置に戻すために必要な後輪転舵軸22の軸方向変位量である。この目標作動量L*は、電動モータ21の目標回転量で代用してもよい。ここで、強制制御モード中には、作業者により操舵ハンドル10が所望量だけ操作されており(操舵ハンドル操作ステップ)、このときの操作量に基づいて目標作動量L*が演算される。目標作動量L*および作業者が操作する操舵ハンドル10の操作量は、以下のように決められる。
ECU35には、強制制御モード中における操舵ハンドル10の操作量と、転舵アクチュエータ20の目標作動量L*との関係が予め設定された設定手段としての制御マップまたは関数が記憶されている。図4に制御マップ(関数)の一例を示す。この制御マップの横軸は強制制御モード中に行われた操舵ハンドル操作における操舵ハンドル10の操作量であり、縦軸は転舵アクチュエータ20の目標作動量L*である。この図において、例えば左右前輪Wfl,Wfrおよび左右後輪Wrl,Wrrが右方向に転舵するときのハンドル操作量および転舵アクチュエータ作動量は正の値で示され、左方向に転舵するときの操作量および作動量は負の値で示されている。
ここで、例えばECU35による転舵アクチュエータ20の制御モードが強制制御モードに移行する際の操舵ハンドル10の操舵角をθ1とし、強制制御モード中に操作された後の操舵ハンドル10の操舵角をθ2とすれば、強制制御モード中に行われた操舵ハンドル操作による操作量Aは、θ2−θ1となる。この操作量Aに対応する転舵アクチュエータ20の作動量は、図4の制御マップからBとなる。したがって、ハンドル操作量Aに対応する転舵アクチュエータ20の目標作動量L*はBとなる。
ECU35は強制制御モード中に行われた操舵ハンドル操作における操舵ハンドル10の操作量を基に、図4の制御マップから上記のようにして目標作動量L*を演算する。演算した目標作動量L*だけ転舵アクチュエータ20が作動すれば、転舵アクチュエータ20がロック状態における作動位置(現在位置)から中立位置に戻されるとともに、左右後輪Wrl,Wrrも中立位置に戻る。この場合において、ECU35が操舵ハンドル10の操作量から制御マップを参照して正確な目標作動量L*を演算することができるように、操舵ハンドル10の所定の操作量と目標作動量L*とを対応させた制御マップを作成しておかなければならない。本実施形態においては、上記所定の操作量として、操舵ハンドル10を、車両が斜行状態であるときの操作位置から中立位置に戻すだけの操作量とし、このときの操作量と目標作動量L*とが対応するように制御マップを作成する。
制御マップ作成の具体例を以下に示す。現在位置推定ステップにて斜行状態とされた車両の前輪転舵角δfと後輪転舵角δrは等しく、この転舵角をδ(=δr=δf)で表すものとする。この斜行状態から左右前輪Wfl,Wfrを中立位置まで転舵するには、左右前輪Wfl,Wfrを−δだけ転舵さなければならない。ここで、左右前輪Wfl,Wfrの転舵量(転舵する角度量)と操舵ハンドル10の操作量(操舵角度量)とは比例するものとし、その比例係数をK1とすると、操舵ハンドル10の操作量をK1・(−δ)としてこの操作量だけ操舵ハンドル10を操作することにより操舵ハンドル10が中立位置に戻るとともに左右前輪Wfl,Wfrも中立位置に戻ることになる。また、転舵アクチュエータ20を斜行状態における現在位置から中立位置に戻すには、左右後輪Wrl,Wrrを−δだけ転舵させなければならない。左右後輪Wrl,Wrrの転舵量(転舵する角度量)と転舵アクチュエータ20の作動量とは比例するものとし、その比例係数をK2とすると、操舵アクチュエータをK2・(−δ)だけ作動させることにより、転舵アクチュエータ20および左右後輪Wrl,Wrrが中立位置に戻ることになる。すなわち目標作動量L*はK2・(−δ)である。したがって、原点をハンドル操作量が0で且つ目標作動量が0である点とし、この原点を通り、勾配がK2/K1の直線により表される制御マップを作成することにより、操舵ハンドル10を中立位置まで戻すための操作量と目標作動量L*が対応することになる。ECU35はこのような関係を持って作成された制御マップを記憶している。
よって、作業者は、強制制御モード中に、予め斜行状態とされている車両の操舵ハンドル10をその操作位置から中立位置まで戻す操作を行う。この操作により、斜行状態における左右前輪Wfl,Wfrが中立位置に戻る。また、ECU35は、そのときに得られる操舵ハンドル10の操作量を基に上記した操作量と目標作動量との関係を表している制御マップから目標作動量L*を演算する。
ECU35がステップS18にて転舵アクチュエータ20の目標作動量L*を演算した後は、ECU35はステップS20に進み、電動モータ21に駆動開始指令を出力する。これにより電動モータ21が駆動し、転舵アクチュエータ20が作動する(アクチュエータ作動手段、中立位置復帰ステップ)。電動モータ21の駆動によって、電動モータ21の回転がボールねじ送り機構23によって減速されるとともに後輪転舵軸22の軸方向変位に変換される。これにより後輪転舵軸22が軸方向変位して、左右後輪Wrl,Wrrが転舵される。
続いて、ECU35はステップS22に進み、速度制御処理を行う。この速度制御処理は、転舵アクチュエータ20の作動速度、具体的には後輪転舵軸22が中立位置に達するまでの軸方向移動速度を所定の速度以下とする処理である。これは、例えば電動モータ21の回転変位または回転角速度をなます(例えばローパスフィルタ処理を行う)ことによって後輪転舵軸22の作動速度の上昇を抑制することにより行うことができる。また、電動モータ21に供給する電流を制限しておき、作動速度を一定の低速度で作動させることにより行うこともできる。この場合、後輪転舵軸22の速度は、左右後輪Wrl,Wrrの転舵角速度に換算して0.1deg./sec〜3deg./secの範囲に収まることが好ましい。
次いで、ECU35はステップS24に進み、車両状態が以下に示す異常状態に該当せずに、強制制御モードにて転舵アクチュエータ20を作動させてもよい車両状態であるかを判定する(車両状態判定手段)。
・車両のイグニッションがOFFであるイグニッションOFF状態
・車速が所定の微速V2以上となっている車両走行状態
・電動モータ21に所望の作動を行わせるために供給すべき電流が流れているにもかかわらず、電動モータ21が所望の作動を行わない電動モータ作動不良状態
・操舵角センサ34から正しい入力が得られていない状態である操舵角センサ異常状態
・車速センサ32から正しい入力が得られていない状態である車速センサ異常状態
・ECU35への供給電圧が低下した電圧低下状態
・ECU35が自己の故障を検知した故障検知状態
車両状態が上記異常状態のいずれにも該当しないと判定した場合(S22:Yes)は、ステップS24に進む。一方、上記異常状態のうちの少なくとも一つに該当すると判定した場合(S22:No)は、ステップS32に進む。ステップS32では、ECU35は強制制御モードによる転舵アクチュエータ20の作動制御を中止する処理を行う(強制制御中止手段)。その後ECU35はステップS34に進み、警報装置40に報知指令を出力する(第2報知処理)。これにより警報装置40は、表示部41および音発生部42を用いて、作業者に強制制御モードによる転舵アクチュエータ20の作動制御が中止された旨を報知する。すなわち、ECU35は、表示部41を作動させて、例えば、警告灯を点灯させ、あるいは表示パネル内に強制制御モードによる転舵アクチュエータ20の作動制御が中止された旨のメッセージを表示させる。また、ECU35は、音発生部42を作動させて、例えば、第1警報音とは異なる音による第2警報音をスピーカから出力させ、あるいは強制制御モードによる作動制御が中止された旨のメッセージを音声によってスピーカから出力させる。その後ECU35はステップS36に進み、このプログラムの実行を終了する。
ここで、上記した異常状態のうち、イグニッションOFF状態であるときは、車両の動作が停止しているため転舵アクチュエータ20を作動することができない。そのためこのような車両状態にある場合は強制制御モードによる転舵アクチュエータ20の作動制御が中止される。また、車両走行状態であるときは、強制制御モードによって左右後輪Wrl,Wrrを転舵すると車両が予期せぬ挙動を行う可能性がある。よって、このような車両状態にある場合には安全性確保のため強制制御モードによる転舵アクチュエータ20の作動が禁止される。電動モータ作動不良状態であるときは、強制制御モードによって演算された目標作動量だけ転舵アクチュエータ20を作動させても中立位置に復帰しない可能性がある。よって、この場合にも強制制御モードによる転舵アクチュエータ20の作動制御が中止される。操舵角センサ異常状態であるときは、操舵ハンドル10の操作量に基づいて得られた転舵アクチュエータ20の目標作動量が真の目標作動量とは異なる可能性がある。よって、この場合にも強制制御モードによる転舵アクチュエータ20の作動制御が中止される。車速センサ異常状態であるときは、車両が走行状態である可能性があるので、強制制御モードによる転舵アクチュエータ20の作動制御が禁止される。電圧低下状態または故障検知状態であるときは、ECU35が正常に作動しない可能性があるので、強制制御モードによる転舵アクチュエータ20の作動制御が中止される。
一方、ステップS24における判定結果がYesである場合は、ECU35はステップS26に進み、このステップS26にて転舵アクチュエータ20の作動量Lが目標作動量L*となったかを判定する。転舵アクチュエータ20の作動量Lは、電動モータ21に組み込まれたエンコーダが出力する信号から得られるモータ回転量から計算できる。作動量Lが目標作動量L*に達していないとき(S26:No)はステップS24に戻り、車両状態を確認した後に再度作動量Lが目標作動量L*となったかを判定する。作動量Lが目標作動量L*となったとき(S26:Yes)は、ステップS28に進む。ステップS28ではECU35は電動モータ21に駆動停止指令を出力する。これにより転舵アクチュエータ20は作動を停止する。このとき転舵アクチュエータ20および左右後輪Wrl,Wrrは中立位置に戻っている。さらに、左右前輪Wfl,Wfrも作業者による操舵ハンドル10の操作により中立位置に戻されている。その後ECU35はステップS30に進んで強制制御モードによる転舵アクチュエータ20の作動制御を終了し、(強制制御終了手段)。さらにステップS36に進んでこのプログラムの実行を終了する。
以上のように、本実施形態の車輪転舵装置1においては、ECU35が故障診断ツールTなどからの外部信号の入力によって転舵アクチュエータ20の制御モードを強制制御モードとする(S12,S14)。そして、この強制制御モードにおいて、転舵アクチュエータ20をそのときの現在位置から中立位置に戻すために必要な転舵アクチュエータ20の目標作動量L*が、強制制御モード中に操作される操舵ハンドル10の操作量と目標作動量L*とを対応させた制御マップに基づき演算される(S18)。そして、この目標作動量L*だけ転舵アクチュエータ20が作動されることにより転舵アクチュエータ20が中立位置に戻る(S20,S26,S28)。よって、従来のようにスプリングなどによって機械的に転舵アクチュエータを作動させる場合と比較して精度良く転舵アクチュエータ20および左右後輪Wrl,Wrrを中立位置に戻すことができる。また、絶対角検出センサなどを用いることなくコストを抑えたまま転舵アクチュエータ20および左右後輪Wrl,Wrrを中立位置に戻すことができる。
また、目標作動量L*は強制制御モード中に行われる操舵ハンドル操作における操舵ハンドル10の操作量と目標作動量L*との関係が予め設定された設定手段である制御マップに基づいて演算されるので、正確に目標作動量L*が演算できる。また、強制制御モード中に行われる操舵ハンドル操作は、操舵ハンドル10を、車両が斜行状態である場合の操作位置から中立位置に戻す操作とされている。このためこのハンドル操作により左右前輪Wfl,Wfrが中立位置に戻されるとともに、そのときに行われたハンドル操作における操舵ハンドル10の操作量に基づいて制御マップから演算された目標作動量L*だけ転舵アクチュエータ20が作動することにより、転舵アクチュエータ20および左右後輪Wrl,Wrrも同時に中立位置に戻される。
また作業者は、車両が斜行状態になるまで操舵ハンドル10を操作し、その状態から操舵ハンドル10を中立位置に戻すという簡単な作業をするだけよい。この作業によってECU35が目標作動量L*を演算し、演算した目標作動量L*だけ転舵アクチュエータ20が作動して自動的に中立位置に戻される。
また、ECU35は、強制制御モード中に車両の状態が所定の異常状態であるかを判定し(S24)、所定の異常状態と判定されたときに強制制御モードを中止する(S32)。これにより強制制御モード中に転舵アクチュエータ20を作動させる上での安全性、正確性が確保される。また、ECU35は、強制制御モード時に作動する転舵アクチュエータ20の作動速度を所定の速度以下に制限する(S22)。このため転舵アクチュエータ20をゆっくり動かして精度良く転舵アクチュエータ20を中立位置まで戻すことができる。
また、車輪転舵装置1は、強制制御モードが中止されたときにECU35からの報知指令(S32)を受けて強制制御モードの中止を報知する警報装置40を備える。このため警報装置40からの報知によって、作業者は強制制御モードが中止されたことを確認できる。また、この警報装置40は、転舵アクチュエータ20の作動制御モードが強制制御モードに移行したときにECU35からの報知指令(S16)を受けて、制御モードが強制制御モードに移行したことを報知する機能をも有する。このため作業者は、ECU35の制御モードが強制制御モードとなったことを確認できる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるべきものではない。例えば、上記実施形態においては、左右前輪Wfl,Wfrが操舵ハンドル10により転舵され、左右後輪Wrl,Wrrが転舵アクチュエータ20により転舵される4輪転舵装置について説明したが、その他、操舵ハンドルの操作量を電気信号に変換し、変換された電気信号に応じて転舵アクチュエータが作動することにより左右前輪Wfl,Wfrが転舵されるステアバイワイヤ方式による転舵装置にも本発明は適用できる。この場合、左右前輪Wfl,Wfrを転舵させる転舵アクチュエータを現在位置から中立位置に戻すための作動量である目標作動量を操舵ハンドルの操作量を基に制御マップなどから演算し、演算した目標作動量だけ転舵アクチュエータを作動させることにより転舵アクチュエータが中立位置に復帰する。
また、上記実施形態では、車両を斜行状態とさせることにより転舵アクチュエータ20の現在位置を推定しているが、それ以外の方法により転舵アクチュエータ20の現在位置を推定してもよい。例えば、作業者がノギスなどの計測機器を用いて後輪転舵軸22の中立位置からの変位量を直接測定し、得られた測定結果に基づいて転舵アクチュエータ20の現在位置を推定することもできる。ただし、この場合には上記実施形態とは異なり、操舵ハンドル10は転舵アクチュエータ20の現在位置が推定可能となる位置まで操作されていない。そのため、強制制御モードにおいて作業者が操舵ハンドル10をどの程度操作すれば制御マップから正確な目標作動量L*が演算されるかがわからない。そこで、この場合には、制御マップと同じ関係を表した表やグラフを例えば整備マニュアルなどに記載しておき、作業者は測定した変位量を整備マニュアルなどに記載された表やグラフに照らし合わせる。測定した変位量から目標作動量を推定できるので、その推定に基づいて整備マニュアルなどから必要な操舵ハンドル10の操作量を調査する。そして、調査した操作量だけ操舵ハンドル10を操作することにより、ECU35が正確な目標作動量L*を演算し、得られた目標作動量L*だけ転舵アクチュエータ20を作動させることによって、転舵アクチュエータ20が中立位置に戻される。このようにしても本発明の作用効果を奏する。
また、上記実施形態では、ECU35は、強制制御モード中に操作される操舵ハンドル10の操作量と、目標作動量との関係を表した制御マップに基づいて目標作動量を演算しているが、上記操作量を間接的に表す量と上記目標作動量を間接的に表す量との関係を表した制御マップに基づいて目標作動量を演算してもよい。例えば、制御マップにおける横軸は、左右前輪Wfl,Wfrの転舵量または転舵角とすることができ、縦軸は、左右後輪Wrl,Wrrの転舵角または転舵量、電動モータ21の回転量または回転速度、転舵アクチュエータ20の作動速度などとすることができる。また、横軸を操舵トルク値とし、縦軸を転舵アクチュエータの作動速度(電動モータの回転角速度)とすることもできる。
また、上記実施形態では、目標作動量の演算をECU35が行うようにしているが、ECU35以外の制御装置により目標作動量を演算させて、ECU35は演算された目標作動量を入力するように構成してもよい。例えば車両がコーナリング時の車両安定性制御を行い得るものである場合には、上記安定性を制御するための制御手段が車輪転舵角やヨーレートを常に監視している可能性がある。したがって、この制御手段に目標作動量を演算させておき、ECU35は演算された目標作動量を入力するだけでもよい。
1…車輪転舵装置、10…操舵ハンドル、11…ステアリングシャフト、20…転舵アクチュエータ、21…電動モータ、22…後輪転舵軸、23…ボールねじ送り機構、31…後輪転舵角センサ、32…車速センサ、33…ヨーレートセンサ、34…操舵角センサ、35…ECU(制御手段)、36…駆動回路、40…警報装置(中止報知手段、強制制御モード移行報知手段)、41…表示部、42…音発生部、L*…目標作動量、Wfl,Wfr…左右前輪、Wrl,Wrr…左右後輪、S12,S14…モード移行手段、S16…強制制御モード移行報知手段、S18…目標作動量演算手段、S20,S26,S28…アクチュエータ作動手段、S22…作動速度制限手段、S24…車両状態判定手段、S30…強制制御終了手段、S32…強制制御中止手段、S34…中止報知手段、T…故障診断ツール