JP2009275070A - 導電性湿式摩擦材およびその製造方法 - Google Patents

導電性湿式摩擦材およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】カーボンナノチューブを含みながら、全体に亘って均一な熱伝導性を有する導電性湿式摩擦材を提供する。
【解決手段】導電性湿式摩擦材は、セルロース繊維と、孤立単分散状態でセルロース繊維に絡み付いてネットワークを形成しているカーボンナノチューブとを備える。
【選択図】図1

Description

この発明は、カーボンナノチューブ(CNT)を内部に含む導電性湿式摩擦材およびその製造方法に関するものである。
カーボンナノチューブ(CNT)は、優れた導電性、熱伝導性、耐摩耗性および柔軟性を有するので、各種分野において有効に活用され得る。シート状に成形したカーボンナノチューブは、良好な柔軟性を有するとともに、その後の加工が容易であるので、非常に魅力的である。
CNTをベースとしたシートの製造方法として、幾つかの方法が提案されている。非特許文献1(Endo M, Muramatsu H, Hayashi T, Kim YA, Dresselhaus MS, “Buckypaper” from coaxial nanotubes. Nature 2005; 433:476.)は、CNT分散溶液のろ過法を提案し、非特許文献2(Kim Y. Langmuir-Blodgette films of single-walled carbon nanotubes: Layer-by-layer deposition and in-plant orientation of tubes, Jpn J Apply Phy 2003; 42: 7629-34)はラングミュア・ブロジェット・デポジション法を提案し、非特許文献3(Ago H, Petritsch K, Shaffer MSP, Windle AH, Friend RH. Composites of Carbon nanotubes and conjugated polymers for photo fine CNT-suspension voltaic devices. Adv Mater 1999; 11: 1281-85.)は、CNT分散溶液のスピンコーティングを提案している。また、非特許文献4(Zhang M, Fang S, Zakhidov AA, Lee SB, Aliev AE, Williams CD et al. Strong, Transparent, Mutifunctional Carbon Nanotube Sheets. Science 2005; 309:1215-9)は、鉛直方向に配向したCNT林立集合体(CNT forest)中のCNTを回転させて相互に織り込むようにすることによって、純CNTのシートの製造に成功したことを記載している。
しかしながら、上記に記載の方法によれば、サブミクロンの厚み(例えば、透明導電膜としての機能を維持しながら200nm未満の厚み)のCNTシートを製造することは可能であるが、現状では、大量生産レベルにまで引き上げることはできない。その理由は、生産速度があまりにも遅いからである。例えば、CNTを分散させている水溶液をろ過するのに、1週間程度必要である。さらに、そのような長時間に亘る処理を行なっても、CNT林立集合体を量産レベルで製造することは困難である。
CNTベースのシートを製造するための別の方法として、CNTをセルロースに混合することも報告されている。非特許文献5(Yun S, Kim J. A bending electro-active paper actuator made by mixing multi-walled carbon nanotubes and cellulose. Smart Mater Struc 2007; 16: 1471-6)では、DMA(Dimethyl Acetamide:ジメチルアセトアミド)中の溶解セルロースをマトリックスとして使用してCNT/セルロースの複合膜を得たことが記載されている。非特許文献6(Oya T, Ogino T. Production of electrically conductive paper by adding carbon nanotubes. Carbon 2008; 46: 169-71)には、単に和紙の製造工程を用い、単層のCNTをパルプ懸濁液中に加えることによって、セルロース/CNT複合物を得ることができると報告されている。しかしながら、結果的に得られる紙は導電性を有するが、その導電度は、全面に亘って均一ではなく、不均一である。
Endo M, Muramatsu H, Hayashi T, Kim YA, Dresselhaus MS, "Buckypaper" from coaxial nanotubes. Nature 2005; 433:476 Kim Y. Langmuir-Blodgette films of single-walled carbon nanotubes: Layer-by-layer deposition and in-plant orientation of tubes, Jpn J Apply Phy 2003; 42: 7629-34 Ago H, Petritsch K, Shaffer MSP, Windle AH, Friend RH. Composites of Carbon nanotubes and conjugated polymers for photo fine CNT-suspension voltaic devices. Adv Mater 1999; 11: 1281-85 Zhang M, Fang S, Zakhidov AA, Lee SB, Aliev AE, Williams CD et al. Strong, Transparent, Mutifunctional Carbon Nanotube Sheets. Science 2005; 309:1215-9 Yun S, Kim J. A bending electro-active paper actuator made by mixing multi-walled carbon nanotubes and cellulose. Smart Mater Struc 2007; 16: 1471-6 Oya T, Ogino T. Production of electrically conductive paper by adding carbon nanotubes. Carbon 2008; 46: 169-71
カーボンナノチューブの熱伝導性、耐摩耗性および柔軟性に注目して、カーボンナノチューブを、セルロース繊維をベースとした導電性湿式摩擦材中に含有することが考えられる。ところが、ミクロサイズのセルロース繊維と炭素繊維とを均一に混ぜ合わせることが非常に困難であるため、部分的に熱伝導性の劣る箇所が存在し、摩擦材としての性能の低下や、寿命の低下を招くおそれがある。
この発明の目的は、カーボンナノチューブを含みながら、全体に亘って均一な熱伝導性を有する導電性湿式摩擦材を提供することである。
この発明のさらに他の目的は、カーボンナノチューブを均一に分散させた導電性湿式摩擦材の製造方法を提供することである。
この発明に従った導電性湿式摩擦材は、セルロース繊維と、孤立単分散状態でセルロース繊維に絡み付いてネットワークを形成しているカーボンナノチューブとを備える。
上記構成の本発明によれば、カーボンナノチューブがペーパ摩擦材の全面に亘って均一に分散することになるので、全面に亘って熱伝導度が均一になる。
この発明に従った導電性湿式摩擦材の製造方法は、親水性および疎水性を有する界面活性剤を含む溶液を準備する工程と、上記溶液中にカーボンナノチューブを投入し、カーボンナノチューブを孤立単分散状態で分散させる工程と、カーボンナノチューブが分散している上記溶液と、セルロース繊維を含むパルプとを混合し、孤立単分散状態のカーボンナノチューブをセルロース繊維に絡み付けてカーボンナノチューブのネットワークを形成する工程とを備える。
親水性および疎水性を有する界面活性剤は、好ましくは、3−(N,N−ジメチルミレステルアンモニオ)−プロパンスルホネートである。
好ましくは、界面活性剤を含む溶液中に分散しているカーボンナノチューブをセルロース繊維の表面に移送させるために、溶液のpHの値を、中性状態を示す範囲から酸性状態を示す範囲に低下させ、その後アルカリ状態を示す範囲にまで上げるように調整する。
本件出願の発明者らは、通常の製紙プロセスを用いて、均一な熱伝導度を持つCNT含有導電性湿式摩擦材を大量生産できる方法およびその方法によって得た導電性湿式摩擦材を提案するものである。この目的は、CNTを孤立単分散状態で分散し、続いてこの孤立単分散状態のCNTをセルロース繊維表面に絡み付かせることによって達成され得る。
親水性および疎水性を有する界面活性剤を含む溶液中、例えば3−N,N−ジメチルミレステルアンモニオ)−プロパンスルホネート中にCNTを投入し、CNTを溶液中で孤立単分散状態で分散させる。具体的には、次のように行なった。
300グラムの多層CNTを、下記を含む6リットルの水溶液中に投入し、CNT懸濁液を用意した。
−30グラムの3−(N,N−ジメチルミレステルアンモニオ)−プロパンスルホネート
上記のCNT懸濁液を、ビーズミルに入れて連続的に回転させて撹拌し、微細なCNTが孤立単分散状態で分散するようにした。5.02質量%(熱重量測定器(TGA:Thermo Gravimetry Analyzer)を用いて測定)の孤立単分散状態のCNTを含むCNT懸濁液と、ビートおよびリファイン処理されたどろどろ状態のパルプとをパルプ製造器に投入して、機械的な混合処理を行なった。混合処理後の状態を観察すると、孤立単分散状態のCNTは、水溶液からセルロース繊維に移り、セルロース繊維を骨格として相互に接続されたネットワークを形成した。こうして、「CNT−パルプ」を得た。
CNT懸濁液のpHを初期の状態である中性状態から酸性状態に下げ、その後アルカリ状態に上げるように調整することによって、セルロース繊維へのCNTの移送を実現した。
CNT−パルプを、その後、通常の製紙プロセスを経て、CNT/セルロース複合紙に変換した。分散剤のほとんどは、CNT/セルロース複合紙から分離し、外部に流れ出した。
上記のように、抄紙段階において単分散したカーボンナノチューブを、溶液のpHを一旦酸性に変化させることにより、カーボンナノチューブを溶液の相からセルロース繊維の表面に移動させ、繊維の表面で、カーボンナノチューブの密な繋がりを形成できる。その結果、セルロースの表面をカーボンナノチューブの密な繋がりでコートしたペーパ摩擦材を製造することができる。紙の構成繊維成分としては、天然繊維、合成繊維、無機繊維、金属繊維などからなり、紙が持つ本来の柔軟性を維持した上で、導電性を用途に応じて変化させることができる。
本願発明者らは、CNT懸濁液のpH調整方法を種々に変えた実験を行なった。
使用したCNT懸濁液は、以下の2種類であった。
サンプル1の原料:CNT含有量:5.0質量%、固形分:9.3質量%
サンプル2の原料:CNT含有量:2.7質量%、固形分:3.6質量%
溶液のpH調整方法は、以下の3通りであった。
方法1:中性→アルカリ性→中性
方法2:中性→酸性→アルカリ性→中性
方法3:中性→アルカリ性→酸性
上記のpH調整を行なって抄紙した後のCNT/セルロース複合紙のCNT含有量、体積抵抗を測定した。その結果を表1に示す。体積抵抗は、複合紙の表面および裏面を測定した。表1から理解できるように、方法2のpH調整法において、体積抵抗の減少が見られた。これは本発明により凝集し易いカーボンナノチューブ原料を均一分散させた分散液から、抄紙段階に於いてPHを酸性工程に調整することにより、カーボンナノチューブを溶液の層からセルロース繊維の表面に移動させ、繊維の表面でカーボンナノチューブのネットワークを形成させることによる。
また、本願発明者らは、CNT入り加工紙の各種物性を測定した。その結果を表2に示す。その結果、セルロース繊維の表面で、カーボンナノチューブのネットワークを形成する事による各種物性の向上が見られる。
さらに、本願発明者らは、上記の方法2のpH調整法(中性→酸性→アルカリ性→中性)を用いた抄紙工程を経て製造したCNT入り加工紙と、通常の抄紙工程を経て製造したCNT入り加工紙の導電性(体積抵抗)を比較した。その結果を図1に示す。抄紙工程に酸性工程を経て製造したCNT入り加工紙は、通常の抄紙工程を経て製造したものに比べて、わずかなCNT含有量でも良好な電気伝導性を示した。この
酸性工程が
セルロース繊維表面にネットワーク形成のためには必要不可分であることが
証明された。
本発明の方法によって製造したCNT入り加工紙(CNT含有量1wt%,3wt%,5wt%,10wt%,15wt%)のSEM(走査型電子顕微鏡)写真を図2に示す。CNT入り加工紙中でのカーボンナノチューブが均一分散状態にあることが確認された。
図3は、酸性処理工程を用いて作製したCNT5wt%加工紙および通常の抄紙工程を用いて作製したCNT5wt%加工紙のSEM写真を示す。酸性処理工程を行なったCNT入り加工紙では、CNTが分散していることが観察される。一方、通常の抄紙工程を用いて作製したCNT入り加工紙では、CNTが塊になっているのが観察される。この結果も酸性処理工程が均一分散状態を保持しながら、ネットワーク化していることを証明している。
孤立単分散状態のCNTは、おそらくその一次元的な形態ゆえに、セルロース繊維の周りでそれら自体が互いに絡み合う傾向を有する。この強い結合性は、CNTと、カーボンブラックのような零次元的なナノ材料との間の重要な相違点となる。
本件出願の発明者らは、下記の市販の多層CNTを調査し、それらが全て相互接続されたCNTネットワークを形成することができるのを確認した。
−Baytubes(登録商標)C150P(Bayer Material Scienceから購入)
−Nanocyl(登録商標)−7000(Nanocyl)
−L−MWNTs−2040(登録商標)(Shenzhen Nano-Tech)
−MWNT−7(登録商標)(NCT)
厚み0.45mmで幅が50cmのCNT/セルロース複合紙からなる大形シートを量産ラインで製造することができた。そのシートは、物理的に強くて、しかも良好な柔軟性を有していた。
本発明に従った導電性湿式摩擦材およびその製法の特徴を要約すると、次の通りである。
(a)抄紙段階において、孤立単分散状態で分布しているCNT懸濁液のpHを酸性状態を含むように調整することによって、溶液中のCNTをセルロース繊維の表面に移動させ、セルロース繊維の表面でCNTのネットワークを形成することができた。
(b)CNT懸濁液を酸性状態にする抄紙工程を経て製造したCNT入り加工紙は、パルプ中でのCNTの分散性が改善されていることが認められた。さらに、CNT入り加工紙中のCNTは、均一に分散していることが確認された。
(c)酸性状態にする抄紙工程を経て製造したCNT入り加工紙は、通常の抄紙工程を経て製造したものに比べて、わずかなCNT含有量でも良好な電気伝導性を示した。
本発明に従った導電性湿式摩擦材は、例えば、自動車の動力伝達クラッチ板の湿式摩擦材、電磁クラッチ板、面状発熱体等に有利に利用され得る。
酸性状態にする処理を用いた抄紙工程を経て製造されたCNT入り加工紙と、通常の抄紙工程を経て製造したCNT入り加工紙の導電性を比較する図である。 CNT入り加工紙(CNT含有量1wt%、3wt%、5wt%、10wt%、15wt%)のSEM写真である。 酸性処理工程を用いて作製したCNT5wt%加工紙および通常の抄紙工程を用いて作製したCNT5wt%加工紙のSEM写真である。

Claims (4)

  1. セルロース繊維と、
    孤立単分散状態で前記セルロース繊維に絡み付いてネットワークを形成しているカーボンナノチューブとを備える、導電性湿式摩擦材。
  2. 親水性および疎水性を有する界面活性剤を含む溶液を準備する工程と、
    前記溶液中にカーボンナノチューブを投入し、カーボンナノチューブを孤立単分散状態で分散させる工程と、
    前記カーボンナノチューブが分散している溶液と、セルロース繊維を含むパルプとを混合し、孤立単分散状態の前記カーボンナノチューブを前記セルロース繊維に絡み付けてカーボンナノチューブのネットワークを形成する工程とを備える、導電性湿式摩擦材の製造方法。
  3. 前記親水性および疎水性を有する界面活性剤は、3−(N,N−ジメチルミレステルアンモニオ)−プロパンスルホネートである、請求項2に記載の導電性湿式摩擦材の製造方法。
  4. 前記界面活性剤を含む溶液中に分散しているカーボンナノチューブを前記セルロース繊維の表面に移送させるために、前記溶液のpHの値を、中性状態を示す範囲から酸性状態を示す範囲に低下させ、その後アルカリ状態を示す範囲にまで上げるように調整する、請求項2または3に記載の導電性湿式摩擦材の製造方法。
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