図1に示すように、ピックアップ光学系11はCDやDVDの読み取りに加え、BDやHD−DVD等の青紫光で情報の読み取りを行う光ディスク等の各種光ディスク42に共通に用いられる光学系であり、3種のレーザーダイオード(LD)12,13,14、回折格子16,17,18、1/2波長板21,22,23、クロスダイクロイックプリズム26、開口制限プリズム30、偏光ビームスプリッタ36、コリメーターレンズ37、1/4波長板38、対物レンズ39等から構成される。
LD12は、波長405nmの青紫光を発するレーザーダイオードであり、例えばBDからのデータの読み取りに使用される。また、LD13は、波長650nmの赤色光を発するレーザーダイオードであり、DVDからのデータの読み取りに使用される。同様に、LD14は、波長780nmの赤外光を発するレーザーダイオードであり、CDからの情報の読み取りに使用される。なお、これらのLD12,13,14から発せられるレーザー光は、光軸に垂直な断面をみると、楕円形(または円形)となっている。
回折格子16,17,18は、それぞれLD12,13,14に対応して設けられており、LD12,13,14から発せられたレーザー光を回折させることにより、データ読み取りに用いる0次回折光と、トラッキングに用いる±1次回折光に分離する。
1/2波長板21,22,23もまた、それぞれLD12,13,14に対応して設けられている。1/2波長板21,22,23は、LD12,13,14から発せられたレーザー光の偏光面の向きを調節する。すなわち、1/2波長板21,22,23は、LD12,13,14から発せられた各色のレーザー光が後述する偏光ビームスプリッタ36に入射するときにS偏光成分となり、偏光ビームスプリッタ36で反射されるように、各色のレーザー光の偏光面を調節する。
クロスダイクロイックプリズム26は、青紫色の光を反射し、それ以外の波長の光を透過する第1色分離面と、赤外光を反射し、それ以外の波長の光を透過する第2色分離面とが各々入射する光の光軸と45度の角度をなすように、また、互いに垂直に交差するように設けられている。クロスダイクロイックプリズム26は、3種のLD12,13,14の中央に配置され、各LD12,13,14からのレーザー光を開口制限プリズム30に導く。すなわち、LD12から発せられた青紫光は、第1色分離面に反射されて開口制限プリズムに入射する。また、LD13から発せられた赤色光は、第1色分離面及び第2色分離面を透過し、開口制限プリズムに入射する。同様に、LD14から発せられる赤外光は、第2色分離面に反射されて開口制限プリズム30に入射する。
開口制限プリズム30は、LD12,13,14から入射する各色のレーザー光を内面で反射して、偏光ビームスプリッタ36へと導く。このとき、開口制限プリズム30は、青紫光及び赤色光については、ビーム径を制限せずに内面反射し、開口制限プリズム30に入射したレーザー光の全径を偏光ビームスプリッタ36の方向へと出射する。一方、赤外光については、入射した赤外光の一部を吸収することにより、ビーム径を制限して内面反射し、所定のビーム径の赤外光を偏光ビームスプリッタ36へと出射する。なお、開口制限プリズム30への入射光は、反射面で全反射されるように、臨界角以上の入射角度で開口制限プリズム30に入射する。
偏光ビームスプリッタ36は、入射する光の光軸と45度の角度をなすように偏光分離面が設けられており、開口制限プリズム30から入射する各色のレーザー光や、後述するように光ディスク42からの反射光を、偏光方向に応じて反射又は透過する。具体的には、偏光分離面は、例えば、S偏光成分を反射し、P偏光成分を透過する。したがって、前述のように、各LD12,13,14で発せられたレーザー光は、1/2波長板21,22,23でS偏光に整えられているから、開口制限プリズム30から入射する各色のレーザー光は偏光分離面に反射され、コリメーターレンズ37へと導かれる。一方、後述するように、光ディスク42に反射され、偏光ビームスプリッタ36に再度入射する光はP偏光成分となっているから、偏光分離面を透過し、PD41へと導かれる。
コリメーターレンズ37は、偏光ビームスプリッタ36側から入射する光を平行光にする。また、1/4波長板38は、コリメーターレンズ37で平行光に変換された各色のレーザー光を、直線偏光から円偏光へと変換する。コリメーターレンズ37と1/4波長板38により平行光の円偏光へと変換された各色の光は、図示しない反射ミラー(いわゆる立ち上げミラー)に反射され対物レンズ39へと導かれる。
対物レンズ39は、光ディスク42に入射させる光の光軸に平行な方向と、垂直な方向とに所定の範囲内で移動自在に設けられており、平行光の円偏光となった各色の光を集光し、光ディスク42に照射する。光ディスク42の記録面43の位置は、光ディスク42の種別によって異なるが、対物レンズ39は、1/4波長板38側から入射する光のビーム径と、その波長とに応じて、各光ディスク42の記録面43の深さに合わせて入射光を集光するように、面形状が定められている。
光ディスク42の記録面43は、各々の光ディスク42に用いることが定められた波長の光を反射する平坦な反射面(いわゆるランド)に、記録するデジタルデータに応じて円周状のトラックの所々に凹部(いわゆるピット)が設けられた構造となっている。
対物レンズ39によって光ディスク42に照射された光は、ランドやピットで反射され、再び対物レンズ39に入射する。このとき、光ディスク42に反射された光は、入射時とは反対の向きに回転する円偏光に変換される。また、ランドに反射された反射光は、入射時と同じ強度で反射される。一方、光ディスク42に照射された光のスポットの中にランドだけでなく、ピットがある場合には、ランドに反射された光とピットに反射された光とが干渉して弱め合い、入射時よりも強度の小さい反射光が対物レンズ39に再度入射する。
光ディスク42からの反射光は、光ディスク42への入射時とは逆回転の円偏光となっているから、この光ディスク42からの反射光が再び1/4波長板38を透過すると、光ディスク42への入射時と比較して、偏光面が90度回転した直線偏光となる。すなわち、光ディスク42からの反射光は、P偏光となって偏光ビームスプリッタ36へと入射する。したがって、光ディスク42からの反射光は、偏光ビームスプリッタ36の偏光分離面を透過し、図示しないレンズ等を経由してPD41へと入射する。
PD41は、光ディスク42からの反射光を光電変換し、その強度を電気信号へと変換する。また、PD41が受ける光ディスク42からの反射光は、0次回折光に由来する光ディスク42に記録されたデータを強度に反映した反射光の1種類だけでなく、±1次回折光に由来するトラッキング用の反射光もまた同様に光電変換する。
ピックアップ光学系11を搭載した光ディスクドライブ(図示しない)は、PD41の出力する電気信号に基づいて光ディスク42に記録されたデータを読み取る。また、光ディスク42に入射させる光の位置や焦点等は、トラッキング用の反射光のPD41上でのスポット形状や強度等に基づいて自動的に判断され、光ディスク42に記録されたデータを正しく読み取ることができるように対物レンズ39がサーボ制御される。
上述のように構成されるピックアップ光学系11は、読み取りに用いる光の波長や必要な対物レンズのNA、各光ディスク42の記録面43の深さ等が異なるにもかかわらず、可変開口の絞り等の新たな駆動部材を設けずに、複数種類の光ディスク42に共通に用いることができる構成となっている。
このことは、開口制限プリズム30が、赤外光(波長780nm)のレーザー光のビーム径を対物レンズ39のNAに合わせて適切に制限し、青紫光(波長405nm)及び赤色光(650nm)のレーザー光のビーム径は制限せず、かつ、位相段差を生じさせずに、各色の光を出射することによって実現される。
図2に示すように、開口制限プリズム30は、三角柱状のガラスからなる基材51と、基材51の斜面に設けられた反射膜52、吸収膜53とから構成される。
基材51は、ガラス等の透明な材料からなる多面体であり、例えば、三角形の面が垂直二等辺三角形の三角柱状につくられている。各LD12,13,14からの光は、垂直に交差する長方形の2面のうち一方の面から開口制限プリズム30に入射し、後述する反射膜52によって斜面で基材51の内側に反射され、垂直に交差する長方形の2面のうち他方の面から出射する。
反射膜52は、基材51の斜面に設けられており、基材51を通って基材51の内側から入射する青紫光及び赤色光を反射する。また、反射膜52は、基材51を通って基材51の内側から入射する赤外光を透過する。なお、反射膜52自体は赤外光を透過するが、反射膜52の表面が空気に露呈された箇所に、臨界角以上の角度で入射した赤外光は、反射膜52と空気との界面で全反射される。
吸収膜53は、反射膜52上に設けられ、酸化シリコン(SiO2)等の透明な材料とクロム(Cr)等の光を吸収する材料を積層した多層構造の薄膜であり、基材51の斜面中央付近に楕円形の開口54が設けられている。この開口54からは、下層(基材51側)に設けられた反射膜52が露呈される。したがって、反射膜52及び吸収膜53が設けられた基材51の斜面を正面から見れば、反射膜52が空気に露呈した開口エリア56と、反射膜52が吸収膜53に覆われた赤外光吸収エリア57とに分けられる。
開口エリア56に入射する赤外光は、前述のように反射膜52を透過するが、反射膜52の表面が空気に露呈されているために、反射膜52と空気との界面で全反射される。また、赤外光吸収エリア57に入射する赤外光は、反射膜52を透過して吸収膜53に達し、吸収される。したがって、開口エリア56の全体を含むビーム径で開口制限プリズム30に入射する赤外光は、入射時よりも小さく、開口エリア56の大きさに応じた径にビーム径を制限されて反射される。このため、開口54の大きさや形状は、光ディスク42の読み取りのために対物レンズ39に入射させる赤外光のビーム径に基づいて定められている。
一方、赤外光と同様に開口制限プリズム30に入射する青紫光及び赤色光は、反射膜52によって反射され、吸収膜53には達しないため、入射位置が開口エリア56であるか赤外光吸収エリア57であるかによらず、全て反射される。したがって、開口エリア56の全体を含むビーム径で開口プリズム30に入射する青紫光及び赤色光は、入射時のビーム径のまま、径に制限を受けることなく反射される。また、青紫光及び赤色光は、吸収膜53に達する前に反射膜52で反射されるため、開口エリア56と赤外光吸収エリア57との境界においても、入射光のビーム径内で位相を乱されることなく反射される。
また、図3に示すように、反射膜52は第1多層膜61と第2多層膜62との2種の多層膜から構成される。
第1多層膜61は、基材51の斜面に直接的に積層して設けられ、低屈折率材料と高屈折率材料とが交互に積層された多層膜となっている。この第1多層膜61の層構造は、開口制限プリズム30に入射する青紫光を反射し、赤色光及び赤外光を透過させる。第1多層膜61を構成する低屈折材料としては、例えば酸化シリコン(SiO2)が好適に用いられ、高屈折率材料としては、例えば酸化チタン(TiO2)が好適に用いられる。具体的には、例えば、第1多層膜61は、物理的な膜厚が95nm程度の酸化シリコン層と物理的な膜厚が45nm程度の酸化チタン層とを交互に合計で30層程度積層したものであり、第1多層膜61は全体として2.1μm程度の薄膜となっている。
第2多層膜62は、第1多層膜61の上に設けられた多層膜であり、第1多層膜61と同様に、低屈折率材料と高屈折率材料とが交互に積層された多層膜となっている。この第2多層膜61の層構造は、第1多層膜61を透過した赤色光と赤外光のうち、赤色光を反射し、赤外光を透過させる。第2多層膜62を構成する低屈折率材料としては、例えば、酸化アルミニウム(Al2O3)と酸化ランタン(La2O3)との混合物(以下、M3と称する)が好適に用いられ、高屈折率材料としてはイオンプレーティングを用いて成膜した酸化チタン(TiO2IP)が好適に用いられる。具体的には、例えば、第2多層膜62は、物理的な厚さが105nm程度の混合物M3層と、物理的な膜厚が78nm程度のイオンプレーティングを用いて成膜した酸化チタン層とを合計で30層程度積層したものであり、第2多層膜62は全体として2.7μm程度の薄膜となっている。
このように、反射膜52は、第1多層膜61と第2多層膜62とから構成されるので、図3(A)に示すように、開口制限プリズム30に入射する青紫光は、基材51と第1多層膜61との界面で、あるいは薄い第1多層膜61の層内で、基材51の内側の方向へと反射される。
このとき、第1多層膜61で反射される青紫光は、第2多層膜62や吸収膜53の構造に影響を受けることなく反射される。すなわち、青紫光の反射は、第2多層膜62の具体的な材料や厚さ、積層数、入射位置が赤外光吸収エリア57であるか開口エリア56であるか等の上層の構造に影響を受けない。したがって、開口制限プリズム30に入射する青紫光のビーム径をD1とすれば、開口制限プリズム30から出射する青紫光のビーム径もまたD1であり、かつ、出射する青紫光のビーム径内で位相段差は生じない。
また、図3(B)に示すように、開口制限プリズム30に入射する赤色光は、基材51及び第1多層膜61を透過するが、第1多層膜61と第2多層膜62との界面、あるいは薄い第2多層膜62の層内で、基材51の内側の方向へと反射される。
第2多層膜62で反射される赤色光は、上層の吸収膜53の影響を受けることなく反射される。すなわち、赤色光の反射は、入射位置が赤外光吸収エリア57であるか開口エリア56であるかの影響を受けない。つまり、開口制限プリズム30に入射する赤色光のビーム径をD2とすれば、開口制限プリズム30から出射する赤色光のビーム径もまたD2であり、かつ、出射する赤色光のビーム径内で位相段差は生じない。また、反射膜52は5μm程度の薄膜となっているから、開口制限プリズム30への入射時の光軸が同じであれば、開口制限プリズム30から出射する青紫色の反射光の光軸と、赤色の反射光の光軸とは一致する。
また、図3(C)に示すように、開口制限プリズム30に入射する赤外光は、基材51,第1多層膜61を透過する。第1多層膜61を透過した後の赤外光が、第2多層膜62を透過するか否かは、赤外光の入射位置が赤外光吸収エリア57であるか、開口エリア56であるかによって異なる。
入射位置が赤外光吸収エリア57にある場合には、赤外光は基材51及び第1多層膜61だけでなく、第2多層膜62をも透過し、吸収膜53に入射して吸収される。一方、入射位置が開口エリア56にある場合には、基材51及び第1多層膜61を透過した赤外光は、第2多層膜62に入射し、第2多層膜62と空気との界面付近で、基材51の内側の方向に向けて反射される。したがって、開口制限プリズム30に入射する赤外光のビーム径をD3とすれば、開口制限プリズム30から出射する赤色光のビーム径は、入射時のビーム径D3よりも小さいD4となり、開口54の大きさに応じてビーム径が制限される。
このように、開口制限プリズム30に赤外光が入射した場合には、開口制限プリズム30からの出射する反射光のビーム径を制限されるが、反射膜52が5μm程度の薄膜であるから、ビーム径を制限された赤外の反射光の光軸は、前述の青紫色及び赤色の反射光の光軸と一致する。
<実施例1>
上述のように構成される開口制限プリズム30のより具体的な例を、以下に実施例1として説明する。開口制限プリズム30の基材51として、屈折率1.5221の硝材を用いた。また、反射膜52及び吸収膜53の具体的な構成は、表1に示すものとした。なお、表1に示す層番号は、基材51側からの層数であり、第1多層膜61、第2多層膜62及び吸収膜53の通し番号とした。また、物理膜厚dの単位はnmとし、光学的膜厚は、屈折率n,物理的膜厚d(nm),参照波長λ0(nm)を用いてnd/λ0で表される、いわゆるFWOT(Full Wave Optical Thickness)とする。
第1多層膜61は、表1に示すように、低屈折率材料として屈折率1.46291の酸化シリコン(SiO2)を用い、高屈折率材料として屈折率2.36855の酸化チタン(TiO2)を用いた。また、第1多層膜61は、酸化シリコン層と酸化チタン層とを交互に14層ずつ積層し、全体として28層の多層構造とした。
第2多層膜62は、表2の層番号29〜層番号56に示すように、低屈折率材料として屈折率1.8の混合物M3を用い、高屈折率材料としてイオンプレーティングを用いて成膜することで屈折率を2.52895としたイオンプレーティング酸化チタン(TiO2IP)を用いた。また、第2多層膜62は、混合物M3層とイオンプレーティング酸化チタン層を交互に14層ずつ積層し、全体として28層の多層構造とした。
吸収膜53は、表2の層番号57〜層番号60に示すように、透明な酸化シリコン(SiO2)と、吸収係数の大きなクロム(Cr)とを交互に積層した。
そして、このように構成した開口制限プリズム30に対して、波長400nm〜波長800nmのP偏光とS偏光を、基材51の斜面に対して45度の角度をなすように、開口エリア56及び赤外光吸収エリア57にそれぞれ入射させ、反射率(%)を測定した。
図4(A)に示すように、開口エリア56に入射したS偏光は、50%程度まで反射率が低下する波長域があるものの、CD,DVD,BD,HD−DVDといった光ディスク42の読み取りに利用される波長の光に対しては、略100%の反射率を示した。すなわち、点aで示すように、BDやHD−DVDの読み取りに利用される波長405nmの青紫色のS偏光は、略100%の反射率を示した。また、点bで示すように、DVDの読み取りに利用される波長650nm近傍の赤色のS偏光に対しても、略100%の反射率を示した。同様に、点cで示すように、CDの読み取りに利用される波長780nm近傍の赤外のS偏光もまた、略100%の反射率を示した。
図4(B)に示すように、開口エリア56に入射したP偏光は、S偏光の入射光と同様に、波長域によっては50%以下にまで反射率が低下するが、CD,DVD,BD,HD−DVDといった光ディスク42の読み取りに利用される波長の光に対しては、略100%の反射率を示した。すなわち、P偏光についてもS偏光と同様に、点aで示すBDやHD−DVDの読み取りに利用される波長405nmの青紫色のP偏光は、略100%の反射率を示した。また、点bで示すように、DVDの読み取りに利用される650nm近傍の赤色のP偏光に対しても、略100%の反射率を示した。同様に、点cで示すように、CDの読み取りに利用される波長780nm近傍の赤外のP偏光もまた、略100%の反射率を示した。
これらのことから、光ディスク42の読み取りに利用される波長域の光については、開口エリア56に入射すれば、偏光の方向によらず、開口制限プリズム30で略100%反射されることがわかる。
図5(A)に示すように、赤外光吸収エリア57に入射したS偏光は、波長400nm〜波長500nmの間と、波長680nm〜波長730nmの間で略100%の反射率を示し、波長760nm以降の長波長域では、略0%の反射率となった。
したがって、点aで示すように、BDやHD−DVDの読み取りに利用される波長405nmの青紫色のS偏光は、赤外光吸収エリア57に入射すると、略100%反射される。また、点bで示すように、DVDの読み取りに利用される波長650nm近傍の赤色のS偏光もまた同様に、赤外光吸収エリア57に入射すると、略100%反射される。
一方、点cで示すように、CDに利用される波長780nm近傍の赤外のS偏光は、赤外光吸収エリア57での反射率は略0%であった。すなわち、赤外光吸収エリア57に入射した赤外のS偏光は、第1多層膜61及び第2多層膜62を透過し、吸収膜53で略100%が吸収される。
図5(B)に示すように、赤外光吸収エリア57に入射したP偏光は、波長400nm〜波長430nmの間と、波長640nm〜波長680nmの間で略100%の反射率を示し、波長760nm以降の長波長域では、略0%の反射率となった。
したがって、点aで示すように、BDやHD−DVDの読み取りに利用される波長405nmの青紫色のP偏光は、赤外光吸収エリア57に入射すると、略100%反射される。また、点bで示すように、DVDの読み取りに利用される波長650nm近傍の赤色のP偏光もまた同様に、赤外光吸収エリア57に入射すると、略100%反射される。
一方、点cで示すように、CDに利用される波長780nm近傍の赤外のP偏光は、赤外光吸収エリア57での反射率は略0%であった。すなわち、赤外光吸収エリア57に入射した赤外のP偏光は、第1多層膜61及び第2多層膜62を透過し、吸収膜53で略100%が吸収される。
これらのことから、BDやHD−DVDの読み取りに利用される波長405nmの青紫光と、DVDの読み取りに利用される650nm近傍の赤色光は、偏光の方向によらず、赤外光吸収エリア57に入射すると略100%が反射されることがわかる。また、CDの読み取りに利用される波長780nm近傍の赤外光は、赤外光吸収エリア57に入射すると、偏光の方向によらず、第1多層膜61や第2多層膜62では反射されずに、吸収膜53によって略100%が吸収されることがわかる。
上述の開口エリア56に入射した場合の反射率と、赤外光吸収エリア57に入射した場合の反射率とによれば、開口制限プリズム30は、青紫光と赤色光については入射光のビーム径が開口54よりも大きなものであっても、開口制限プリズム30から出射するときのビーム径を制限せずに、略全てを反射して、出射する。また、赤外光については、開口制限プリズム30は、赤外光吸収エリア57に入射する赤外光は吸収膜53で吸収し、開口エリア56に入射する赤外光だけを反射するので、入射時に開口エリア56よりも大きなビーム径であったとしても、開口制限プリズム30に反射されて出射する赤外光は、開口54の大きさによって定まるビーム径となる。したがって、開口制限プリズム30は、種々の光ディスク42の読み取りに利用される青紫光、赤色光、赤外光のうち、赤外光のビーム径だけを選択的に制限して出射することがわかる。
また、波長400nm〜波長800nmの光について、赤外光吸収エリア57で反射された光と、開口エリア56で反射された光との位相の差、いわゆる位相段差(度)を測定した。
図6(A)に示すように、開口制限プリズム30に入射するS偏光は、一部の波長域を除いて、赤外光吸収エリア57での反射と、開口エリア56での反射とで、位相の差は略0であり、位相段差は生じなかった。点aで示すように、波長405nmの青紫色のS偏光は、赤外光吸収エリア57での反射光の位相と、開口エリア56での反射光の位相とに差はなく、位相段差は略0度であった。同様に、点bで示すように、波長650nmの赤色のS偏光もまた、赤外光吸収エリア57での反射光の位相と、開口エリア56での反射光の位相とに差はなく、位相段差は略0度であった。
一方、点cで示すように、波長780nmの赤外のS偏光は、赤外光吸収エリア57での反射光の位相と、開口エリア56での反射光の位相とに10度程度の差が生じた。しかし、前述のように、赤外光は開口エリア56で略100%反射されるものの、赤外光吸収エリア57では波長760nm以降の長波長域では略0%の反射率となっている(図5(A)参照)。したがって、赤外光吸収エリア57からの反射光の強度は、開口エリア56での反射光の強度と比較して極めて微弱であるから、たとえ多少の位相段差が生じていたとしても光ディスク42の読み取りに与える影響は殆どない。
図6(B)に示すように、開口制限プリズム30に入射するP偏光は、一部の波長域を除いて、赤外光吸収エリア57での反射と、開口エリア56での反射とで、位相の差は略0度であり、位相段差は生じなかった。すなわち、点aで示す波長405nmの青紫色のP偏光や点bで示す波長650nmの赤色のP偏光については、赤外光吸収エリア57での反射光の位相と、開口エリア56での反射光の位相とに差はなく、位相段差は略0度であった。
また、点cで示すように、波長780nmの赤外のP偏光については、赤外光吸収エリア57での反射光の位相と、開口エリアでの反射光の位相には、30度程度の差が生じた。しかし、前述のように、P偏光の赤外光は、開口エリア56で略100%反射されるが、赤外光吸収エリア57では、略0%の反射率となっている(図5(B)参照)。したがって、前述のS偏光の赤外光の場合と同様に、赤外光吸収エリア57からの反射光の強度は、たとえ多少の位相段差が生じていたとしても、光ディスク42の読み取りに与える影響は殆どない。
したがって、開口制限プリズム30は、開口エリア56と赤外光吸収エリア57の境界を含むように、青紫光及び赤色光を入射させる場合にも、開口制限プリズム30から出射する青紫光及び赤色光には、位相段差は生じない。また、赤外光は、赤外光吸収エリア57に入射すると略100%が吸収され、かつ、赤外光吸収エリア57での反射光があるとしても、その強度は開口エリア56による反射光と比較して極めて小さい。したがって、赤外光について位相段差を考慮する必要はなく、多少の位相段差が生じていても光ディスク42の読み取りに不具合を生じることはない。
以上のように、開口制限プリズム30は、基材51の斜面上に反射膜52と吸収膜53が設けられており、吸収膜53には開口54が設けられているから、開口制限プリズム30に入射する光ディスク42読み取り用の光のうち、青紫光及び赤色光については、開口制限プリズム30からの出射時のビーム径を制限せずに全て反射し、赤外光についてのみ選択的に、開口制限プリズム30からの出射時のビーム径を制限する。
また、開口制限プリズム30は、青紫光、赤色光、赤外光の何れについても反射膜52の表面や内部で反射し、反射膜52は5μm程度の薄膜であるから、開口制限プリズム30への入射時に光軸が同じであれば、開口制限プリズム30から出射する反射光の光軸も略一致し、波長によって出射光の光軸がずれてしまうことはない。
さらに、開口制限プリズム30は、反射膜52を低屈折率材料と高屈折率材料とを交互に積層した多層の薄膜とすることで、反射面となる基材51の斜面上に吸収膜53に開口54が設けられていることによる物理的な段差があるにもかかわらず、この物理的な段差を含むようなビーム径で青紫光及び赤色光を入射させても、開口制限プリズム30から出射する反射光内に位相段差を生じない。
また、ピックアップ光学系11は、開口制限プリズム30を用いることにより、ピックアップ光学系11の多くの光学要素をCD,DVD,BD,HD−DVD等の種々の光ディスク42に共通して用いることができるから、安価でかつ小型のピックアップ光学系11となる。
なお、上述の実施形態では、主として青紫光、赤色光、赤外光の3波長域の光に対して最適な例を説明するが、これに限らず、反射膜52や吸収膜53の材料や層構造を適宜調節することにより、任意の数の波長域に対応することができる。また、開口制限プリズム30から出射する反射光のうち、ビーム径を選択的に制限する波長域を赤外光の波長域とするが、これに限らず、反射膜52や吸収膜53の材料や層構造を適宜調節することにより、任意の波長域の光について、開口制限プリズム30から出射する反射光のビーム径を選択的に制限することができる。
さらに、開口制限プリズム30から出射する反射光のうち、ビーム径を選択的に制限する波長域を波長780nm近傍の赤外光の1種類の波長域とする例を説明するが、これに限らず、複数種類の波長域の光について開口制限プリズム30から出射する反射光のビーム径を制限するようにしても良い。例えば、2種の波長域の光について開口制限プリズム30から出射する反射光のビーム径を制限する場合には、基材51の斜面(反射膜52)上に、基材51側から開口の大きさが大きい順に2つの吸収膜を設ける。また、下層(基材51側)となる吸収膜に、上層の吸収膜で吸収される波長の光が透過する材料を選ぶ。このとき、下層の吸収膜の大きな開口には、下層の吸収膜で吸収される波長の光を反射膜との界面で反射し、かつ、上層の吸収膜で開口を制限される波長の光を透過するような透明な材料で開口を埋めることが好ましい。また、下層の吸収膜には、下層の吸収膜でビーム径を制限する波長の光を透過する材料及び構造とし、下層の吸収膜で吸収されるべき波長の光は、上層の吸収膜で吸収されるようにしても良い。
例えば、2種の波長域の光についてビーム径を制限する場合には、図7(A)に示す開口制限プリズム71のように、基材51の斜面上に、第1反射膜76、第1吸収膜77、第2反射膜78、第2吸収膜79の順に、反射膜及び吸収膜を設ける。
第1反射膜76は、基材51の斜面に直接的に積層して設けられ、低屈折率材料と、高屈折率材料とが交互に積層された多層膜となっている。この第1反射膜76の層構造は、開口制限プリズム71に入射する青紫光を反射し、赤色光及び赤外光を透過させる。第1反射膜76を構成する低屈折材料としては、例えば酸化シリコン(SiO2)が好適に用いられ、高屈折率材料としては、例えば酸化チタン(TiO2)が好適に用いられる。具体的には、例えば、第1反射膜76は、物理的な膜厚が90〜95nm程度の酸化シリコン層と物理的な膜厚が40〜50nm程度の酸化チタン層とを交互に合計で30層程度積層したものであり、第1反射膜76は全体として2μm程度の薄膜となっている。
第1吸収膜77は、第1反射膜76上に設けられ、酸化シリコン(SiO2)等の透明な材料とクロム(Cr)等の光を吸収する材料を積層した多層構造の薄膜であり、基材51の斜面中央付近に楕円形の開口(以下、第1開口という)81が設けられている。この第1開口81からは、下層に設けられた第1反射膜76が露呈される。また、この第1開口81の大きさは、後述する第2吸収膜79の第2開口82よりも大きい。
第2反射膜78は、第1開口81内に埋め込まれるように設けられ、第1反射膜76を透過する赤色光と赤外光のうち、赤色光を反射し、赤外光を透過させる。この第2反射膜78は、低屈折率材料と高屈折率材料とが交互に積層された多層膜となっており、最も基材51側の層は、第1開口81による段差を平坦化するように埋め込まれる。なお、第2反射膜78を構成する低屈折率材料としては、例えば、酸化アルミニウム(Al2O2)と酸化ランタン(La2O2)との混合物M3が好適に用いられ、高屈折率材料としてはイオンプレーティングを用いて成膜した酸化チタン(TiO2IP)が好適に用いられる。具体的には、例えば、第2反射膜78は、物理的な膜厚が100〜110nm程度の混合物M3層と、物理的な膜厚が70〜80nm程度のイオンプレーティングを用いて成膜した酸化チタン層とを交互に合計で30層程度積層したものであり、第2反射膜78は全体として3.5μm程度の薄膜となっている。
第2吸収膜79は、第1吸収膜77の全体と第2反射膜78の一部を覆うように設けられ、酸化シリコン(SiO2)等の透明な材料とクロム(Cr)等の光を吸収する材料を積層した多層構造の薄膜であり、基材51の斜面中央付近に楕円形の開口(以下、第2開口という)82が設けられている。この第2開口82からは、下層に設けられた第2反射膜78が露呈される。また、第2開口82の大きさは、第1吸収膜77の第1開口81よりも小さくなるように設けられている。
このように、基材51の斜面上に反射膜及び吸収膜を設けられた開口制限プリズム71は、斜面を正面に見ると、図7(B)に示すように、斜面中央の開口エリア86、開口エリア86の外周を取り巻く第1吸収エリア87、第1吸収エリア87のさらに外周に位置する第2吸収エリア88の3つの領域に分けられる。
開口エリア86は、第2開口82の内側であり、第2開口82が第1開口81よりも小さく設けられていることから、第1反射膜76と第2反射膜78とが積層された領域となっている。基材51を通って基材51の内側から、開口エリア86に入射した青紫光は第1反射膜76で反射される。同様に、基材51の内側から開口エリア86に入射する赤色光は、第1反射膜76を透過するものの、第2反射膜78で反射される。また、基材51の内側から開口エリア86に入射した赤外光は第1反射膜76及び第2反射膜78を透過するが、臨界角よりも大きな角度で開口エリア86に入射した赤外光は、第2反射膜78と空気との界面で全反射される。すなわち、開口エリア86では、基材51の内側から入射する青紫光、赤色光、赤外光の何れも反射される。
第1吸収エリア87は、第1開口81と第2開口82の間に位置し、第1反射膜76、第2反射膜78、第2吸収膜79が積層された領域となっている。基材51を通って基材51の内側から第1吸収エリア87に入射した青紫光は、第1反射膜76で反射される。同様に、基材51の内側から第1吸収エリア87に入射した赤色光は第1反射膜76を透過するが、第2反射膜78によって反射される。一方、基材51の内側から第1吸収エリア87に入射した赤外光は、第1反射膜76及び第2反射膜78を透過して第2吸収膜79に達し、吸収される。すなわち、第1吸収エリア87では、基材51の内側から入射する青紫光、赤色光、赤外光のうち、青紫光及び赤色光を反射するが、赤外光は吸収される。
第2吸収エリア88は、第1開口81の外側に位置し、第1反射膜76、第1吸収膜77、第2吸収膜79が積層された領域となっている。基材51を通って基材51の内側から第2吸収エリア88に入射した青紫光は、第1反射膜76で反射される。一方、基材51の内側から第2吸収エリア88に入射した赤色光は、第1反射膜76を透過して第1吸収膜77に達し、吸収される。また、基材51の内側から第2吸収エリア88に入射した赤外光は、赤色光と同様に、第1反射膜76を透過するものの、第1吸収膜77に達して吸収される。すなわち、第2吸収エリア88では、基材51の内側から入射する青紫光、赤色光、赤外光のうち、青紫光は反射されるが、赤色光及び赤外光は吸収される。
開口制限プリズム71は、上述のように、開口エリア86、第1吸収エリア87、第2吸収エリア88の各エリアで反射,吸収する光の波長が異なるから、入射した光の波長によっては選択的にビーム径を制限して反射し、出射する。すなわち、青紫光は、入射位置が開口エリア86、第1吸収エリア87、第2吸収エリア88の何れの場合にも全て反射されるので、開口制限プリズム71に入射すると、ビーム径を制限されずに反射される。また、赤色光は、開口エリア86と第1吸収エリア87で反射されるが、第2吸収エリア88では吸収されるので、開口制限プリズム71に入射すると、第1開口81の大きさに応じた径にビーム径を制限されて反射される。さらに、赤外光は、開口エリア86で反射されるものの、第1吸収エリア87及び第2吸収エリア88では吸収されるので、開口制限プリズム71に入射すると、第2開口82の大きさに応じた径にビーム径を制限されて反射される。
<実施例2>
上述のように構成される開口制限プリズム71のより具体的な例を、以下に実施例2として説明する。開口制限プリズム71の基材51としては、前述の実施例1と同様に、屈折率1.5221の硝材を用いた。また、第1反射膜76、第1吸収膜77、第2反射膜78、第2吸収膜79の具体的な構成は、表2に示すものとした。なお、表2に示す層番号は、基材51側からの層数であり、第1反射膜76、第1吸収膜77、第2反射膜78、第2吸収膜79の通し番号とした。また、物理膜厚dの単位はnmとし、光学的膜厚は、屈折率n,物理的膜厚d(nm),参照波長λ0(nm)を用いてnd/λ0で表される、いわゆるFWOTとする。
第1反射膜76は、表2の層番号1〜28に示すように、低屈折率材料として屈折率1.46291の酸化シリコン(SiO2)を用い、高屈折率材料として屈折率2.36855の酸化チタン(TiO2)を用いた。また、第1反射膜76は、酸化シリコン層と酸化チタン層とを交互に14層ずつ積層し、全体として28層の多層構造とした。
第1吸収膜77は、表2の層番号29〜31に示すように、透明な酸化シリコン(SiO2)と、吸収係数の大きなクロム(Cr)とを交互に積層した。第2反射膜78は、表2の層番号32〜59に示すように、低屈折率材料として屈折率1.8の混合物M3を用い、高屈折率材料としてイオンプレーティングを用いて成膜することで屈折率を2.52895としたイオンプレーティング酸化チタン(TiO2IP)を用いた。また、第2反射膜78は、混合物M3層とイオンプレーティング酸化チタン層を交互に14層ずつ積層し、全体として28層の多層構造とした。第2吸収膜79は、表2の層番号60〜62に示すように、第1吸収膜77と同様に、透明な酸化シリコン(SiO2)と、吸収係数の大きなクロム(Cr)とを交互に積層した。
そして、上述のように構成した開口制限プリズム30に対して、波長400nm〜波長800nmのP偏光とS偏光を、基材51の斜面に対して45度の角度をなすように、開口エリア86、第1吸収エリア87、第2吸収エリア88にそれぞれ入射させ、反射率(%)を測定した。
図8(A)に示すように、開口エリア68に入射したS偏光は、波長域によっては50%程度まで反射率が低下するが、CD,DVD,BD,HD−DVDといった光ディスク42の読み取りに利用される波長の光に対しては、略100%の反射率を示した。すなわち、点a出示すBDやHD−DVDの読み取りに利用される波長405nmの青紫色のS偏光は、略100%の反射率を示した。また、点bで示すように、DVDの読み取りに利用される650nm近傍の赤色のS偏光に対しても、略100%の反射率を示した。同様に、点cで示すように、CDの読み取りに利用される波長780nm近傍の赤外のS偏光もまた、略100%の反射率を示した。
また、図8(B)に示すように、開口エリア86に入射したP偏光は、50%以下にまで反射率が低下する波長域があるものの、CD,DVD,BD,HD−DVDといった光ディスク42の読み取りに利用される波長の光に対しては、略100%の反射率を示した。すなわち、点aで示すように、BDやHD−DVDの読み取りに利用される波長405nmの青紫色のP偏光は、略100%の反射率を示した。また、点bで示すように、DVDの読み取りに利用される波長650nm近傍の赤色のP偏光に対しても、略100%の反射率を示した。同様に、点cで示すように、CDの読み取りに利用される波長780nm近傍の赤外のP偏光もまた略100%の反射率を示した。
これらのことから、光ディスク42の読み取りに利用される波長域の光については、開口エリア86に入射すれば、偏光の方向によらず、開口制限プリズム71で略100%反射されることがわかる。
図9(A)に示すように、第1吸収エリア87に入射したS偏光は、波長400nm〜波長500nmの間と、波長580nm〜波長750nmの間で略100%の反射率を示し、波長760nm以降の長波長域では、略0%の反射率であった。したがって、点aで示すように、BDやHD−DVDの読み取りに利用される波長405nmの青紫色のS偏光は、第1吸収エリア87に入射すると、略100%反射される。また、点bで示すように、DVDの読み取りに利用される波長650nm近傍の赤色のS偏光もまた同様に、第1吸収エリア87に入射すると、略100%反射される。
一方、点cで示すように、CDで利用される波長780nm近傍の赤外のS偏光は、第1吸収エリア87での反射率は略0%である。すなわち、第1吸収エリア87に入射した赤外のS偏光は、第1反射膜76及び第2反射膜78を透過して第2吸収膜79に達し、略100%が吸収される。
また、図9(B)に示すように、第1吸収エリア87に入射したP偏光は、波長400nm〜波長420nmの間と、波長640nm〜波長690nmの間で略100%の反射率を示し、波長760nm以降の長波長域では、略0%の反射率となった。したがって、点aで示すように、BDやHD−DVDの読み取りに利用される405nmの青紫色のP偏光は、第1吸収エリア87に入射すると、略100%反射される。また、点bで示すように、DVDの読み取りに利用される波長650nm近傍の赤色のP偏光も同様に、第1吸収エリア87に入射すると、略100%反射される。
一方、点cで示すように、CDで利用される波長780nm近傍の赤外のS偏光は、第1吸収エリア87での反射率は略0%である。すなわち、第1吸収エリア87に入射した赤外のP偏光は、第1反射膜76及び第2反射膜78を透過して第2吸収膜79に達し、第2吸収膜79で略100%が吸収される。
これらのことから、BDやHD−DVDの読み取りに利用される波長405nmの青紫光と、DVDの読み取りに利用される650nm近傍の赤色光は、偏光の方向によらず、第1吸収エリア87に入射すると略100%が反射されることがわかる。また、CDの読み取りに利用される波長780nm近傍の赤外光は、第1吸収エリア87に入射すると、偏光の方向によらず、第1反射膜76や第2反射膜78では反射されずに、第2吸収膜79によって略100%が吸収されることがわかる。
図10(A)に示すように、第2吸収エリア88に入射したS偏光は、波長400nm〜波長500nmの間で略100%の反射率を示し、波長550nm〜波長700nmの間では波長によって反射率の高低を繰り返すが、総じて反射率25%以下と小さく抑えられており、波長700nm以降の長波長域では、略0%の反射率となった。
したがって、点aで示すように、BDやHD−DVDの読み取りに利用される405nmの青紫色のS偏光は、第2吸収エリア88に入射すると、略100%反射される。一方、点bで示すように、DVDの読み取りに利用される波長650nm近傍の赤色のS偏光の第2吸収エリア88における反射率は10%より小さく、入射した赤色P偏光の略全ての成分は、第1反射膜76を透過して第1吸収膜77に達し、略全て吸収される。同様に、点cで示すように、CDの読み取りに利用される波長780nm近傍の赤外のS偏光は、第1反射膜76を透過して第1吸収膜77に達し、略100%の成分が吸収される。
また、図10(B)に示すように、第2吸収エリア88に入射したP偏光は、波長400nm〜波長430nmの範囲で略100%の反射率を示し、波長600nm以降の長波長域では略0%の反射率であった。したがって、点aで示すように、BDやHD−DVDの読み取りに利用される405nmの青紫色のP偏光は、第2吸収エリア88に入射すると、略100%反射される。一方、点bで示すように、DVDの読み取りに利用される波長650nm近傍の赤色のP偏光は、第1反射膜76を透過して第1吸収膜77に達し、略100%が吸収される。同様に、点cで示すように、CDの読み取りに利用される波長780nm近傍の赤外のS偏光もまた、第1反射膜76を透過して第1吸収膜77に達し、略100%が吸収される。
これらのことから、BDやHD−DVDの読み取りに利用される波長405nmの青紫光は、偏光の方向によらず、第2吸収エリア88に入射すると略100%が反射されることがわかる。一方、DVDの読み取りに利用される650nm近傍の赤色光とCDの読み取りに利用される波長780nm近傍の赤外光は、第2吸収エリア88に入射すると、偏光の方向によらず、第1反射膜76を透過して第1吸収膜77に達し、略100%の成分が吸収されることがわかる。
上述のように、開口エリア86、第1吸収エリア87、第2吸収エリア88の各エリアの波長毎の反射率によれば、開口制限プリズム71は、青紫光を開口エリア86、第1吸収エリア87、第2吸収エリア88の全てのエリアで反射するので、第1開口81や第2開口82よりも大きなビーム径で青紫光を入射させた場合にも、開口制限プリズム71から出射するときにビーム径を制限せずに、略全ての成分を反射して出射する。また、開口制限プリズム71は、赤色光を、開口エリア86及び第1吸収エリア87で反射し、第2吸収エリア88で吸収するから、第1開口81よりも大きなビーム径で入射した赤色光は、第1開口81の大きさに応じたビーム径に制限されて開口制限プリズム71から出射する。さらに、開口制限プリズム71は、赤外光を、開口エリア86で反射し、第1吸収エリア87及び第2吸収エリア88で吸収するから、第2開口82よりも大きなビーム径で入射した赤外光は、第2開口82の大きさに応じたビーム径に制限されて開口制限プリズム71から出射する。すなわち、開口制限プリズム71は、種々の光ディスク42の読み取りに利用される青紫光、赤色光、赤外光のうち、赤色光及び赤外光のビーム径を選択的に、第1開口81や第2開口82の大きさに応じたビーム径に制限して出射する。
また、波長400nm〜波長800nmの光について、開口エリア86で反射された光と、第1吸収エリア87で反射された光との位相の差を測定した。同様に、第1吸収エリア87で反射された光と、第2吸収エリア88で反射された光との位相の差を測定した。
図11(A)に示すように、開口エリア86で反射されたS偏光と、第1吸収エリア87で反射されたS偏光の位相の差は、一部の波長域を除いて略0度であり、位相段差は生じなかった。点aで示すように、波長405nmの青紫色のS偏光は、開口エリア86での反射光の位相と、第1吸収エリア87での反射光の位相とに差はなく、位相段差は略0度であった。同様に、点bで示すように、波長650nmの赤色のS偏光もまた、開口エリア86での反射光の位相と、第1吸収エリア87での反射光の位相とに差はなく、位相段差は略0度であった。
一方、点cで示すように、波長780nmの赤外のS偏光は、開口エリア86での反射光の位相と、第1吸収エリア87での反射光の位相とに数度程度の差が生じた。しかし、前述のように、赤外光は開口エリア86で略100%反射されるものの、第1吸収エリア87では略100%が吸収される。したがって、第1吸収エリア87からの反射光の強度は、開口エリア86での反射光の強度と比較して極めて微弱であるから、数度程度の位相段差が生じていたとしても光ディスク42の読み取りに与える影響は殆どない。
また、図11(B)に示すように、開口エリア86で反射されたP偏光と、第1吸収エリア87で反射されたP偏光の位相の差は、波長400nm〜波長430nmの間、波長630nm〜波長700nmの間で略0度であり、位相段差は生じなかった。すなわち、点aで示す波長405nmの青紫色のP偏光や点bで示す波長650nmの赤色のP偏光については、開口エリア86での反射光の位相と、第1吸収エリア87での反射光の位相とに差はなく、位相段差は略0度であった。
一方、点cで示す波長780nmの赤外のP偏光は、開口エリア86での反射光の位相と、第1吸収エリア87での反射光の位相とに差が生じた。しかし、前述のS偏光の場合と同様に、赤外光は開口エリア86では略100%反射され、かつ、第1吸収エリア87では略100%が吸収されるために、第1吸収エリア87からの反射光の強度は開口エリア86での反射光の強度と比較して極めて微弱であるから、ここで生じた位相段差は光ディスク42の読み取りに与える影響は殆どない。
さらに、図12(A)に示すように、第1吸収エリア87で反射されたS偏光と、第2吸収エリア88で反射されたS偏光の位相の差は、波長400nm〜波長500nmの間で略0度であり、位相段差は生じなかった。すなわち、点aで示す波長405nmの青紫色のS偏光は、第1吸収エリア87での反射光と、第2吸収エリア88での反射光とに位相段差は生じなかった。
一方、点bで示す波長650nmの赤色のS偏光や、点cで示す波長780nmの赤外のS偏光は、第1吸収エリア87での反射光と第2吸収エリア88での反射光とに位相段差が生じた。しかし、点bで示す赤色光については、第1吸収エリア87で略100%反射され、第2吸収エリア88で略100%吸収されるから、第1吸収エリア87での反射光の強度に対して第2吸収エリア88からの反射光の強度は微弱であり、第1吸収エリア87での反射光と第2吸収エリア88での反射光との間に生じた位相段差が光ディスク42の読み取りに影響を与えることは殆どない。同様に、点cで示す赤外光については、第1吸収エリア87及び第2吸収エリア88の何れの領域においても略100%吸収されるから、開口エリア86での反射光と比較して、第1吸収エリア87での反射光と第2吸収エリア88での反射光は何れも微弱であり、ここで生じた位相段差が光ディスク42の読み取りに影響を与えることは殆どない。
また、図12(B)に示すように、第1吸収エリア87で反射されたP偏光と、第2吸収エリア88で反射されたP偏光の位相の差は、波長400nm〜波長430nmの間で略0度であり、位相段差は生じなかった。すなわち、点aで示す波長405nmの青紫色のP偏光は、第1吸収エリア87での反射光と、第2吸収エリア88での反射光とに位相段差は生じなかった。
一方、点bで示す波長650nmの赤色のP偏光は、第1吸収エリア87での反射光と第2吸収エリア88での反射光との間に数度程度の位相段差が生じた。しかし、前述のS偏光の場合と同様に、赤色光は第1吸収エリア87で略100%反射され、第2吸収エリア88で略100%吸収されるため、第1吸収エリア87での反射光の強度に対して第2吸収エリア88での反射光の強度は微弱であり、第1吸収エリア87での反射光と第2吸収エリア88での反射光との間に生じた位相段差が光ディスク42の読み取りに影響を与えることは殆どない。同様に、点cで示す赤外光については、第1吸収エリア87及び第2吸収エリアの何れの領域においても略100%吸収されるから、開口エリア86での反射光と比較して、第1吸収エリア87での反射光と第2吸収エリア88での反射光は何れも微弱であり、ここで生じた位相段差が光ディスク42の読み取りに影響を与えることは殆どない。
以上のことからわかるように、開口制限プリズム71は、出射する光のビーム径を、波長に応じて複数の段階に、選択的に制限して出射し、かつ、出射する光に位相段差を生じさせない。すなわち、開口制限プリズム71は、青紫光を入射させるとビーム径を制限することなく反射して出射するとともに、反射面となる開口制限プリズム71の斜面には波長に応じて出射するビーム径を制限する各エリアの境界に物理的な段差があるにもかかわらず、出射する青紫光内に位相段差を生じさせない。
なお、上述の実施形態では、光ディスク42の読み取りに利用される波長の光を例に説明するが、これに限らず、反射膜52や吸収膜53の材料や層構造を適宜変更することで、光ディスク42へのデータ書き込みに利用する波長の光に対して選択的なビーム径の制限することができる。また、同様に、材料や多層膜の構造を適宜変更すれば、光ディスク42の読み取りや書き込みの何れかだけでなく、光ディスク42のデータの読み書きに対応させることができる。
なお、上述の実施形態では、吸収膜53に開口54が設けられた例を説明するが、これに限らず、開口54には任意の材料を埋め込むことで、開口54により反射光のビーム径を制限する波長の光に対して選択的に特別な光学的効果を及ぼすことができる。例えば、開口54に薄いレンズを埋め込むことで、ビーム径を制限される波長の反射光を選択的に集光又は発散させることができる。
なお、上述の実施形態では、開口制限プリズム30の配置は、LD41からの光が入射し、光ディスク42からの反射光は入射しない配置となっているが、これに限らず、光ディスク42からの反射光も入射する位置、例えば、偏光ビームスプリッタ36よりも光ディスク42側に配置しても良い。開口制限プリズム30は、前述のように入射光の偏光方向によらず機能するから、LD41からのみならず、光ディスク42からの反射光も入射する位置に開口制限プリズム30を配置する場合にも、好適に用いることができる。また、上述の実施形態のように、LD41からの光だけが入射する位置に開口制限プリズム30を配置する場合には、P偏光またはS偏光の一方の偏光成分に対して開口制限プリズム30を機能させるように反射膜52や吸収膜53を設けても良い。このように、P偏光またはS偏光の一方の偏光成分に対してだけ機能する開口制限プリズムでは、反射膜や吸収膜の層構造をより簡単に構成することができる。例えば、より少ない層数で反射膜や吸収膜を攻勢することができる。
なお、上述の実施形態では、低屈折率材料として酸化シリコン(SiO2)や、酸化アルミニウム(Al2O3)と酸化ランタン(La2O3)との混合物M3を用い、高屈折率材料として酸化チタン(TiO2)を用いる例を説明するが、多層膜の材料はこれに限らない。例えば、低屈折材料としてフッ化マグネシウム(MgF2)を、高屈折材料として5酸化ニオブ(Nb2O5)や5酸化タンタル(Ta2O5)を好適に用いることができる。