まず、以下に説明する本発明に係る実施形態の概要を説明する。一実施形態においては、放射シールド開口部から内部にオフセットされた位置にクライオパネルが配置される。放射シールド開口部から見て、このクライオパネルは、より低温のクライオパネルの前段に設けられ、以下ではバッフルとも適宜称する。このオフセット配置型バッフルは放射シールドに熱的に接続される。一方、このバッフルの後段に配置される低温クライオパネルは、放射シールドに包囲されかつ非接触に配置される。本発明者は、このオフセット配置型バッフルにより、低温クライオパネルによる排気速度を所望の水準に維持しつつ低温クライオパネルへの輻射熱を効果的に低減し、低温クライオパネルに所望の排気速度とより低い冷却到達温度とを実現できることを実験的に見出した。
放射シールド及びバッフルは第1の冷却温度レベルに冷却され、低温クライオパネルは第1の冷却温度レベルよりも低温の第2の冷却温度レベルに冷却される。そのために、放射シールド及び低温クライオパネルがそれぞれ2段冷凍機の第1冷却ステージ及び第2冷却ステージに熱的に接続されてもよい。第1及び第2冷却ステージはそれぞれ第1及び第2の冷却温度レベルを提供する。以下では適宜、バッフルを第1のクライオパネルとも称し、低温クライオパネルを第2のクライオパネルとも称する。
第1のクライオパネルには、第1の冷却温度レベルにおいて蒸気圧が低い気体が凝縮により捕捉されて排気される。例えば基準蒸気圧(例えば10−8Pa)よりも蒸気圧が低い気体が排気される。第2のクライオパネルには、第2の冷却温度レベルにおいて蒸気圧が低い気体が凝縮により捕捉されて排気される。第2のクライオパネルには、蒸気圧が高いために第2の温度レベルにおいても凝縮しない例えば水素等の非凝縮性気体を捕捉するために表面に吸着領域が形成される。吸着領域は例えばパネル表面に吸着剤を設けることにより形成される。非凝縮性気体は、第2の温度レベルに冷却された吸着領域に吸着されて排気される。
典型的なクライオポンプにおいては、バッフルはシールド開口に配置される一方、低温クライオパネルはシールド中心部に配置された第2冷却ステージに取り付けられている。単にそれぞれ別個独立に配置が定められているにすぎない。排気速度と冷却到達温度との両立ないし最適化という観点から両者の位置関係を調和させるという技術思想はここには存在しない。排気速度と冷却到達温度との最適化は、典型的には例えばバッフルの外径の調整による。この場合、排気速度と冷却到達温度とはトレードオフの関係にあり、大径のバッフルを使用すれば排気速度が低下し、小径のバッフルを使用すれば低い冷却温度に到達させにくくなる。
これに対して本発明の一実施形態においては、排気速度と冷却到達温度の最適化という観点からバッフルと低温クライオパネルとを1つのユニットとして捉え、バッフルと低温クライオパネルとの間隔すなわちシールド開口からのオフセット量を調整する。これは、シールド開口からのバッフルのオフセット量を異ならせても低温クライオパネルの排気速度への影響が小さいという新たな知見に基づいている。
例えば、まず、所望の気体吸蔵量を得るように低温クライオパネルを設計する。例えば低温クライオパネルのレイアウト、吸着領域面積、使用する吸着剤の種類及び形状などを要求される気体吸蔵量を満たすように定める。そして、要求される排気速度が低温クライオパネルに実現されるように、バッフルがシールド開口を占有する割合やバッフル形状を定める。つまり、低温クライオパネルで排気されるべき気体についての要求排気速度に対応させて放射シールドの内面とバッフルとの間に形成される開放領域の面積を設定する。バッフルが例えばルーバーである場合には、ルーバーの径を決める。さらに、バッフルをシールド開口に配置したときよりも低温クライオパネルの冷却到達温度が低くなるよう開口からのオフセット量を定める。好ましくは、低温クライオパネルの冷却到達温度が、要求される冷却温度よりも低温となるオフセット範囲からバッフルのオフセット位置を選択する。
このようにすれば、バッフルの寸法及び形状を要求排気速度に合わせて設定してからバッフルのオフセット量を要求冷却温度に合わせて設定するというシーケンシャルな手順で排気速度と冷却到達温度とを要求仕様に適合させることができる。排気速度と冷却到達温度とのトレードオフを考慮することなく容易に両者の最適化を図ることができる。
その結果、一実施形態においては、シールド端から第1のクライオパネルの外周端を経て放射シールド内部空間の中心軸に交差する直線が当該中心軸に交差する手前で第2のクライオパネルを通るように、第1のクライオパネルはシールド端よりも内側に配置される。また、第1のクライオパネルは、放射シールド開口端から冷凍機の第2の冷却ステージへと向かう輻射熱を遮蔽するように放射シールド内部空間において開口よりも内側に配置されてもよい。
あるいは、第1のクライオパネルを放射シールド開口に配置したときよりも第2のクライオパネルの冷却温度レベルが実質的に低くなるオフセット範囲から選択されたオフセット位置に第1のクライオパネルを配置してもよい。好ましくは、第2のクライオパネルの冷却温度レベルが要求冷却温度よりも低温となるオフセット範囲から選択されたオフセット位置に第1のクライオパネルを配置する。また、第1のクライオパネルは、放射シールド開口との間隔と低温クライオパネルとの間隔とを実質的に等しくするオフセット位置に配置されてもよい。
また、バッフルをオフセット位置に配置するための取付構造は、例えば、放射シールド開口部に設けられているバッフル取付部と、バッフル外周部に形成されているシールド取付部と、オフセット方向に延在してバッフル取付部とシールド取付部とを接続する取付部材と、を備えてもよい。
図1は、本発明の第1の実施形態に係るクライオポンプ100の一部を模式的に示す図である。クライオポンプ100は、ポンプ容器102、放射シールド104、第1クライオパネル112とを含んで構成される。第1クライオパネル112がオフセット配置型バッフルである。図1においては簡明化のため、ポンプ容器102、放射シールド104、及び第1クライオパネル112を主として図示している。
第1クライオパネル112はパネル取付構造(図示せず)を介して放射シールド104に取り付けられる。また、第2パネル設置空間114に第2クライオパネルが設けられる。図において、第2パネル設置空間114は破線で示されている。放射シールド104及び第2クライオパネルは、それぞれ冷凍機(図示せず)の第1及び第2冷却ステージに取り付けられる。放射シールド104及び第1クライオパネル112は例えば80乃至100Kに冷却され、第2クライオパネルは例えば10乃至20Kに冷却される。
放射シールド104は、直線Aを中心軸とし、一端が開放され他端が閉塞されている有底円筒状に形成されている。放射シールド104の内面は、中心軸Aを有する円柱状内部空間106を画定する。また、放射シールド104の外面との間に間隙を有してポンプ容器102が配設されている。放射シールド104の開放側の端部(以下これを適宜「シールド端」という)110は、放射シールドの開口((以下これを適宜「シールド開口」という))108を画定する。放射シールド104が円筒形状であるから、シールド開口108は円形である。
第1クライオパネル112は図示されるように例えば円板状のバッフルであってもよいし、同心円状に形成されたルーバー形状であってもよいし、シェブロン形状であってもよい。第1クライオパネル112は、放射シールド104との間に開放領域を形成して配置されている。図示されるように、開放領域は例えば幅Bの円環状の間隙である。開放領域の面積は、第2クライオパネルの排気速度が要求仕様を満たすように設定される。また、第1クライオパネル112は、シールド開口108からオフセット量Cだけ離れて内部空間106に配置されている。オフセット量Cは、第2クライオパネルの冷却到達温度が要求仕様を満たすように設定される。
第2パネル設置空間114は、シールド内部空間106の一部であり、第2クライオパネルを包含する空間である。第2パネル設置空間114は例えば、直線Aを中心軸とする円柱状空間である。第2パネル設置空間114は、第1クライオパネル112と放射シールド104とに包囲されている。これにより、第2クライオパネルは、シールド開口108から見て第1クライオパネル112の後段に配置される。第2クライオパネルは第2パネル設置空間の内部に任意のレイアウトで配置されうる。例えば、第2クライオパネルは放射シールド18の中心軸を包囲するレイアウトで配置される。
図2及び図3は、オフセット配置型クライオパネルによる輻射熱の遮蔽効果を説明するための図である。図2に示されるように、外部から例えばシールド端110を通ってシールド内部空間106へと入射する輻射熱のうち、開口面108から内側に角度αの範囲を通る輻射熱は第1クライオパネル112により遮蔽される。すなわち、シールド端110から第1クライオパネル112の外周端を経て中心軸Aへと向かう輻射熱aは第2パネル設置空間114へと進入するが、より浅い角度でシールド端110から入射する輻射熱b、cは角度αの範囲に含まれており、第1クライオパネル112により遮蔽される。
また、図3に示されるように、オフセット配置型クライオパネル112によって、第1クライオパネル112をシールド開口108に設けた場合に比べて、クライオポンプ外部の熱源Pからシールド内部空間106へと入射する輻射熱もより遮蔽されるようになる。第1クライオパネル112をシールド開口108に設けた場合には、輻射熱eよりも入射角度が浅い輻射熱を遮蔽するだけであるが、第1クライオパネル112をオフセット量Cだけ内側にオフセットして配置することにより、外部熱源Pから第1クライオパネル112の外周端を経て中心軸Aへと向かう輻射熱dよりも入射角度が浅い輻射熱を遮蔽することができるようになる。第1クライオパネル112をシールド開口108に設けた場合に比べて、オフセット量Cを与えた場合には更に角度βの範囲の輻射熱を遮蔽することができる。
図3に示されるように、中心軸Aからの放射方向において第1クライオパネル112よりも外側に熱源Pがある場合には、オフセット配置型クライオパネル112により第2パネル設置空間への輻射熱の進入が低減される。ところが、中心軸Aからの放射方向において第1クライオパネル112よりも内側に輻射熱源がある場合には、第1クライオパネル112を放射シールド104内部にオフセットすることにより、シールド内部空間106に進入する輻射熱が増えることになる。しかし、この輻射熱の第2クライオパネルへの影響は小さい。放射方向内側の輻射熱源からの輻射熱は、まず第1クライオパネル112により遮蔽される。さらに、放射シールド104と第1クライオパネル112との間の開放領域を経てシールド内部空間106に進入した輻射熱はその大半が放射シールド104の内面に入射する。つまり、放射方向内側の輻射熱源からの輻射熱は基本的に第2クライオパネルに直接入射しない。よって、オフセットされた第1クライオパネル112により、第2パネル設置空間114に進入する輻射熱が効果的に低減される。
なお、放射シールド104の内面は、入射した輻射熱を吸収するように、例えば黒色に表面処理をする等の輻射熱の吸収率を高める処理を施すことが望ましい。そうすれば、放射シールド104の内面で反射して第2クライオパネルに入射する輻射熱を抑えることができる。
また、第1及び第2クライオパネルを冷却する冷凍機の制御方式によっては、放射シールド104の内面への入熱増加が、第2クライオパネルの冷却到達温度をより低下させるのにむしろ役立つ場合もある。例えば、冷凍機の第1冷却ステージの温度を目標温度に一致させるように冷凍機の作動気体吸排気サイクルを制御する場合には、放射シールド104の内面への入熱増加により第2クライオパネルの冷却到達温度をより低下させることができる。この場合、目標温度を維持すべく第1冷却ステージへの熱負荷増大に対抗して冷凍機の吸排気サイクルが増加され、これに連動して第2冷却ステージの温度が低下するからである。よって、一実施例においては、冷凍機の第1冷却ステージの温度を目標温度に一致させるように冷凍機の作動気体吸排気サイクルを制御する制御部を備えてもよい。この制御部は例えば、冷凍機の第1冷却ステージの温度を測定する温度センサと、この温度センサの測定値に基づいて冷凍機の作動気体吸排気サイクルを制御するコントローラと、を備えてもよい。
第1クライオパネル112のオフセット量は、図4に示されるオフセット範囲Dから選択されることが望ましい。図4に示されるように、オフセット範囲Dの最小オフセット量C1は、シールド端110から第1クライオパネル112の外周端を経てシールド内部空間106の中心軸Aに交差する直線が、中心軸Aと第2パネル設置空間114との交点Qを通るように設定される。オフセット範囲Dの最大オフセット量C2は、第1クライオパネル112と第2クライオパネルとが接触しないように第2パネル設置空間114との間に空隙を有するように設定される。この空隙は、第1クライオパネル112と第2クライオパネルとの間の輻射による熱交換の影響を実質的になくすことを考慮して設定されてもよい。
このように設定されたオフセット範囲Dから第1クライオパネル112のオフセット量を選択することにより、図2に示されるように、第1クライオパネル112は、シールド端110から第1クライオパネル112の外周端を経てシールド内部空間106の中心軸Aに交差する直線が中心軸Aに交差する手前で第2パネル設置空間114を通るようにシールド端110よりも内側に配置される。このようにして、要求排気速度の実現と第2クライオパネルへの輻射熱低減とを両立することができる。
図5は、本発明の第2の実施形態に係るクライオポンプ10の一部を模式的に示す図である。第2の実施形態においては、第1のクライオパネルはルーバー23であり、第2のクライオパネルは冷凍機14に吊り下げられてシールド開口20に向けて露出されかつ突出している構成のクライオパネル24である。
クライオポンプ10は、ポンプ容器12と、冷凍機14と、パネル構造体16と、放射シールド18とを含んで構成される。図5に示されるクライオポンプ10は、いわゆる横型のクライオポンプである。横型のクライオポンプ10とは一般に、筒状の放射シールド18の中心軸方向に交差する方向(通常は直交方向)に沿って冷凍機14の第2冷却ステージ22が放射シールド18の内部に挿入され配置されているクライオポンプ10である。なお、本発明はいわゆる縦型のクライオポンプにも同様に適用することができる。縦型のクライオポンプとは、放射シールド18の中心軸方向に沿って冷凍機14が挿入されて配置されているクライオポンプである。
図5は、ポンプ容器12及び放射シールド18の中心軸Aを含み、冷凍機14の中心軸に直交する平面による断面を模式的に示す図である。図5では、ポンプ外部の排気対象容積である真空チャンバからクライオポンプ内部への気体の進入方向を矢印Eで表している。また、図6は、第2の実施形態の一変形例を示す図である。図7は、気体進入方向Eから見たときのルーバー23を模式的に示す図である。図8は、気体進入方向Eから見たときのパネル構造体16を模式的に示す図である。
なお、気体進入方向Eは、クライオポンプ外部から内部に向かう方向と理解すべきである。図において気体進入方向Eが放射シールド18の中心軸Aに平行とされているのは、便宜上説明をわかりやすくするためにすぎない。クライオポンピング処理においてクライオポンプ内部へと進入する気体分子の実際の進入方向は、当然、図示される気体進入方向Eに厳密に一致するものではなく、むしろ気体進入方向Eに交差する方向であることが普通である。
ポンプ容器12は、一端に開口を有し他端が閉塞されている円筒状の形状に形成された部位を有する。ポンプ容器12の内部にパネル構造体16及び放射シールド18が配設されている。ポンプ容器12の開口は、排気されるべき気体が進入する吸気口として設けられており、ポンプ容器12の筒状側面の上端部内面により画定される。ポンプ容器12の上端部には径方向外側に向けて取付フランジ30が延びている。クライオポンプ10は、排気対象容積であるイオン注入装置等の真空チャンバに取付フランジ30を用いて取り付けられる。なおポンプ容器12の断面は円形状には限られず、他の形状例えば楕円形状や多角形形状であってもよい。
冷凍機14は、例えばギフォード・マクマホン式冷凍機(いわゆるGM冷凍機)である。また冷凍機14は2段式の冷凍機であり、第1冷却ステージ(図示せず)及び第2冷却ステージ22を有する。第2冷却ステージ22は、ポンプ容器12及び放射シールド18に包囲され、ポンプ容器12及び放射シールド18の内部空間の中心部に配置されている。第1冷却ステージは第1の冷却温度レベルに冷却され、第2冷却ステージ22は第1の冷却温度レベルよりも低温の第2の冷却温度レベルに冷却される。第2冷却ステージ22は例えば10K乃至20K程度に冷却され、第1冷却ステージは例えば80K乃至100K程度に冷却される。
放射シールド18は、冷凍機14の第1冷却ステージに熱的に接続された状態で固定され、第1冷却ステージと同程度の温度に冷却される。放射シールド18は、パネル構造体16及び第2冷却ステージ22を周囲の輻射熱から保護する輻射シールドとして設けられている。放射シールド18もポンプ容器12と同様に、一端にシールド開口20を有し他端が閉塞されている円筒状の形状に形成されている。放射シールド18はカップ状の形状に形成されている。ポンプ容器12及び放射シールド18はともに略円筒状に形成されており、同軸に配設されている。ポンプ容器12の内径が放射シールド18の外径を若干上回っており、放射シールド18はポンプ容器12の内面との間に若干の間隔をもってポンプ容器12とは非接触の状態で配置される。また、図5に示される実施例では、放射シールド18の閉塞部は、中心軸Aに近づくほどシールド開口20から離れるようにドーム状に湾曲して形成されている。ポンプ容器12の閉塞部も同様にドーム状に湾曲して形成されている。
放射シールド18の内部空間の中心部に冷凍機14の第2冷却ステージ22が配置されている。冷凍機14は放射シールド18の側面の開口から挿入され、その開口部に第1冷却ステージが取り付けられる。このようにして、冷凍機14の第2冷却ステージ22は、放射シールド18の中心軸上においてシールド開口20と最深部との中間に配置される。
なお放射シールド18の形状は、円筒形状には限られず、角筒形状や楕円筒形状などいかなる断面の筒形状でもよい。典型的には放射シールド18の形状はポンプ容器12の内面形状に相似する形状とされる。また、放射シールド18は図示されるような一体の筒状に構成されていなくてもよく、複数のパーツにより全体として筒状の形状をなすように構成されていてもよい。これら複数のパーツは互いに間隙を有して配設されていてもよい。
また放射シールド18の開口20から実質的にオフセットを有してルーバー23が配置されている。ルーバー23は、パネル構造体16とは放射シールド18の中心軸方向に間隔をおいて設けられている。ルーバー23とパネル構造体16との間隔は、シールド開口20とルーバー23との間隔よりも広くてもよいし、狭くてもよい。また、ルーバー23とパネル構造体16との間隔は、シールド開口20とルーバー23との間隔と実質的に等しくされてもよい。図5に示される実施例ではルーバー23のオフセット量が比較的大きく設定されており、シールド開口20からルーバー23の上端までの間隔が、ルーバー23の下端からクライオパネル24の先端部34の上端までの間隔よりも広くなっている。なお、ルーバー23と真空チャンバとの間にはゲートバルブ(図示せず)が設けられていてもよい。このゲートバルブは例えばクライオポンプ10を再生するときに閉とされ、クライオポンプ10により真空チャンバを排気するときに開とされる。
ルーバー23のオフセット量は、放射シールド18の開口端からルーバー23の外周端50を経て中心軸Aに交差する直線Fが、中心軸Aに交差する手前でクライオパネル24を通るように設定される。直線Fは図5において破線で示されている。また、好ましくは、直線Fがクライオパネル24の先端部34の最外部と最内部との間を通るようにルーバー23のオフセット量が設定されてもよい。後述するように、クライオパネル24の冷却到達温度を低減するためには、ルーバー23をクライオパネル24に極度に近接させるのではなく、クライオパネル24との間にある程度の間隔をとることがより好ましいということが実験的に確認されているからである。
また、放射シールド18の開口端から冷凍機14の第2冷却ステージ22へと向かう輻射熱の少なくとも一部が遮蔽されるようにルーバー23のオフセット量が設定されてもよい。好ましくは、放射シールド18の開口端から冷凍機14の第2冷却ステージ22へと向かう輻射熱が完全に遮蔽されるようにルーバー23のオフセット量が設定されてもよい。このようにすれば、冷却源である第2冷却ステージ22への輻射熱の直接入射が抑制されるので、クライオパネル24の冷却温度の低下に寄与すると考えられる。例えば図6に示されるように、ルーバー23をクライオパネル24に比較的近接させることにより、放射シールド18の開口端からルーバー23の外周端50を経て中心軸Aに交差する直線Gが冷凍機14の第2冷却ステージ22よりも下方を通るようになる。その結果、放射シールド18とルーバー23との間隙から進入する輻射熱を第2冷却ステージ22に入射させないようにすることができる。
図5に示されるように、ルーバー23の外周端50の径はクライオパネル24の最外部の径よりも小さいことが望ましい。すなわち、中心軸Aからの放射方向におけるクライオパネル24と放射シールド18の内面との距離は、ルーバー23の外周端50と放射シールド18の内面との距離よりも狭いことが望ましい。クライオパネル24への輻射熱を考慮すれば、ルーバー23の外周端50の径がクライオパネル24の最外径の75%乃至100%であることが好ましく、85%乃至95%であることがさらに好ましい。ルーバー23を比較的小さくすることにより、シールド内部への気体の流れ性を向上させて排気速度を高めることができる。またクライオパネル24と放射シールド18との距離を近づけることで比較的大きなパネル面積を確保することができる。このことも排気性能の向上に寄与する。
また、ルーバー23はシールド開口20から見て露出されており、クライオパネル24はルーバー23から見て露出されている。つまり、ルーバー23の上部には空間が形成されているにすぎず、気体の流通を阻害する障害物は設けられていない。またルーバー23とクライオパネル24との間にも空間が形成されているにすぎず、気体の流通を阻害する障害物は設けられていない。このようなシンプルな構成により、気体の流通が過度に妨げられることなく良好な排気速度が実現される。
ルーバー23は、パネル取付構造40により放射シールド18に取り付けられている。パネル取付構造40は、中心軸Aに対する放射方向に離散的に複数箇所に設けられており、例えば90度おきに4箇所に設けられる(図7参照)。パネル取付構造40は、ルーバー23を放射シールド18に機械的に固定するとともに、放射シールド18とルーバー23とを熱的に接続する。これにより、パネル取付構造40は、放射シールド18からルーバー23への伝熱経路としても機能し、ルーバー23は放射シールド18と同程度の温度に冷却される。
図5に示されるように、パネル取付構造40は、パネル取付部42、第1取付部材44、第2取付部材46、及びシールド取付部48とを含んで構成される。パネル取付部42は、シールド開口20の近傍において放射シールド18の内面から中心軸Aに向けて垂直に立設されている突起である。第1取付部材44は、パネル取付部42と第2取付部材46とを接続するための棒状の部材であり、一端がパネル取付部42に取り付けられ、他端が第2取付部材46に取り付けられる。パネル取付部42及び第2取付部材46は、第1取付部材44にそれぞれ例えばボルト等の取付手段により取り付けられる。取付状態において第1取付部材44は、パネル取付部42から中心軸Aに向けてシールド開口20に平行に延在するように配置される。
第2取付部材46は、第1取付部材44とシールド取付部48とを接続するための棒状の部材であり、一端が第1取付部材44に取り付けられ、他端がシールド取付部48に取り付けられる。第1取付部材44及びシールド取付部48は、第2取付部材46にそれぞれ例えばボルト等の取付手段により取り付けられる。シールド取付部48は、ルーバー23の外周端50から放射方向外側に向けて延在する棒状の部位である。取付状態において第2取付部材46は、第1取付部材44から中心軸Aに沿って放射シールド18内部へと延在するよう配置される。また第2取付部材46は、シールド内面に沿う方向かつシールド開口20から離れる方向に第1取付部材44から延在している。このため、第2取付部材46によりルーバー23のオフセット量が実現される。よって、第2取付部材46の長さを調整することにより所望のオフセット量を実現することができる。
なお、第2取付部材46の軸方向の複数箇所にシールド取付部48との接続部を形成するようにしてもよい。このようにすれば、複数の接続部のいずれかを選択することによりルーバー23のオフセット量を変更することができる。また、第2取付部材46は長さ調整機構を内蔵していてもよい。このようにすれば、ルーバー23のオフセット量をオンサイトで任意に調整することもできる。
また、第1取付部材44は、第2取付部材46だけではなく、シールド取付部48にも取付可能に構成されている。例えば、第2取付部材46とシールド取付部48とは共通の径のボルト孔を有する。このため、第1取付部材44にシールド取付部48を直接取り付けることも可能である。この場合、典型的なクライオポンプと同様に、ルーバー23は中心軸Aに沿う方向に関してパネル取付部42と同位置に配置される。つまり、ルーバー23はシールド開口20の近傍に配置され、シールド開口20からのオフセットは実質的に形成されない。このようにすれば、必要に応じて第2取付部材46を付加することによりルーバー23にオフセットを与えることができる。オフセットの有無にかかわらず放射シールド18及びルーバー23を共用することができるので、オフセット有りのクライオポンプ10とオフセット無しのクライオポンプとを製品シリーズとして提供する場合にコストの低減を図ることができる。
図7に示されるように、ルーバー23は複数の羽板52から形成されており、各羽板52はそれぞれ径の異なる円すい台の側面の形状に形成されて同心円状に配列されている。図7においては上から見たときに各羽板52の間に間隙54が形成されるように配列されているが、隣接する羽板52が互いに重なり合って上から見たときには間隙54が形成されないように各羽板52が密に配列されてもよい。各羽板52は十字形状の支持部材56に取り付けられている。支持部材56の放射方向端部にシールド取付部48が形成されている。なおルーバー23は格子状等他の形状に形成されていてもよい。
ルーバー23は放射シールド18と同軸に配置される。図7においては、放射シールド18の内面及びパネル取付構造40の第1取付部材44を破線で示している。図示されるように、放射シールド18の内面とルーバー23の外周端50との間に環状の開放領域58が形成される。図5に示されるクライオパネル24による水素排気速度が要求仕様を実現するように開放領域58の面積が設定される。具体的には例えば、ルーバー23の羽板52の枚数を変えることによりルーバー23の径を異ならせて、開放領域58の面積を調整することができる。
図5に示されるように、パネル構造体16は、冷凍機14の第2冷却ステージ22に熱的に接続された状態で固定されており、第2冷却ステージ22と同程度の温度に冷却される。パネル構造体16は、複数のクライオパネル24と、接続部材26と、中間部材28と、を備える。冷凍機14の第2冷却ステージ22に接続部材26が取り付けられ、接続部材26に中間部材28が取り付けられ、中間部材28に複数のクライオパネル24が取り付けられる。クライオパネル24、接続部材26、及び中間部材28はともに例えば銅などの材質で形成される。銅を基材として表面をニッケルでメッキしたものを用いてもよい。また、銅に代えて、アルミニウムでクライオパネル24等を形成してもよい。熱伝導度を重視する場合には銅を用いればよいし、軽量化ひいては再生時間の短縮を重視する場合にはアルミニウムを用いてもよい。
接続部材26は、パネル構造体16を第2冷却ステージ22に熱的に接続しかつ機械的に支持するための連結部材として設けられている。中間部材28は、接続部材26を介して複数のクライオパネル24を第2冷却ステージ22へと熱的に接続し、かつクライオパネル24を支持するパネル支持部材として設けられている。また、接続部材26及び中間部材28を併せてパネル支持部材であるとみなすこともできる。接続部材26と中間部材28とは、別体の部材として形成されていてもよいし、一体に形成されていてもよい。クライオパネル24は、中間部材28及び接続部材26を介して冷凍機14の第2冷却ステージ22に熱的に接続され、第2冷却ステージ22と同程度の温度に冷却される。中間部材28及び接続部材26も同様に第2冷却ステージ22と同程度の温度に冷却される。
パネル構造体16は全体として、冷凍機14の第2冷却ステージ22から下方または放射シールド18の深部に向けて接続部材26によって吊り下げられた構成を有する。接続部材26は、パネル構造体16を冷凍機14に吊り下げて支持する吊下部材である。このため、パネル構造体16をシールド開口20から離して配置することができる。その結果、外部の熱源とパネル構造体16との距離を大きくすることができるので、外部からの輻射熱の影響を低減することができる。また、パネル構造体16とシールド開口20との間の空間を利用してクライオパネル面積を比較的大きくすることも可能となり、クライオポンプの排気性能の向上にも寄与する。
接続部材26は、中間部材28を第2冷却ステージ22に吊り下げて支持する。中間部材28は、第2冷却ステージ22よりも気体進入方向Eに関してシールド開口20から離れた位置に配置される。中間部材28は、複数のクライオパネル24の末端部を支持する。クライオパネル24は中間部材28から上方またはシールド開口20に向けて突出し延在する。
よって、冷凍機14の第2冷却ステージ22からクライオパネル24の先端への伝熱経路は、放射シールド18内部において蛇行する。すなわち、冷凍機14からクライオパネル24の先端への伝熱経路は、第2冷却ステージ22から放射シールド18の深部へと延び、折り返して放射シールド18の開口20に向けて延びる。伝熱経路は中間部材28において折り返す。パネル構造体16をこのような折り返し構造とすることにより、クライオパネル面積を大きくすることができる。これにより、クライオポンプ10に高い排気性能を実現することが可能となる。
クライオパネル表面の少なくとも一部には気体を吸着するための吸着剤を設置するための吸着剤設置面が形成される。本実施形態では、クライオパネル24の両面の全域が吸着剤設置面とされる。本実施形態では、クライオパネル24の両面の全域に吸着剤25が接着されて全表面が吸着領域とされている。吸着剤25は例えば、粒状の活性炭である。すべての吸着剤設置面が開口20に露出されている。
クライオパネル24自体の表面の反射率に比べて吸着剤表面の反射率は一般に低くなり、吸着剤を通じた輻射熱の影響が大きいと考えられる。クライオパネル24は通常金属で形成されるのに対し、吸着剤は例えば活性炭であれば黒色であるからである。よって、図5に示されるように、直線Fをクライオパネル24の吸着材設置領域を通るように設定することが好ましい。そうすれば、吸着材設置領域の少なくとも一部をルーバー23により遮蔽することができる。よって、吸着剤を通じた輻射熱の進入を抑えることができる。
クライオパネル24は、中間部材28に接続される末端部である接続部32と、開口20に最も近接する先端部34と、接続部32と先端部34とを接続する中間部36とを有する。本実施形態では、接続部32と先端部34と中間部36とは1枚のプレートにより形成されている。接続部32と先端部34と中間部36とはそれぞれが別体に形成され、互いに連結されて1枚のクライオパネル24が形成されてもよい。クライオパネル24は、接続部32が中間部材28に取り付けられる。例えば接続部32の末端にフランジが形成され、ボルト及びナット等の適宜の固定手段によりそのフランジが中間部材28に取り付けられる。なお、クライオパネル24と中間部材28とが一体の部材として形成されていてもよい。
中間部材28が第2冷却ステージ22よりも気体進入方向Eに関して開口20から離れた位置に配置されているので、クライオパネル24の接続部32も同様に第2冷却ステージ22よりも開口20から離れた位置に配置される。クライオパネル24は、接続部32から開口20に向けて延在する。クライオパネル24の先端部34は、放射シールド18の中心部及び第2冷却ステージ22よりも気体進入方向Eに関して開口20に近接する位置に配置される。クライオパネル24は、放射シールド18の内部空間の中心部を越えて接続部32から先端部34へと気体進入方向Eに沿って延在する。このように、クライオパネル24が気体進入方向Eに関して放射シールド18の中心部を越えて延在されていることにより、気体進入方向Eに沿って配置されるクライオパネル面積を大きくすることができる。これにより、クライオポンプ10に高い排気性能を実現することが可能となる。
なお、クライオパネル24は、先端部34が放射シールド18またはポンプ容器12の中心部よりも下方または深部に配置されていてもよい。同様に、クライオパネル24の先端部34は、冷凍機14の第2冷却ステージ22よりも下方に配置されていてもよい。この場合、クライオパネル24は、先端部34において折り返し構造を有し、クライオポンプ下方に向けて再度延在するようにしてもよい。つまり、クライオパネル24は、接続部32から先端部34へと延び、先端部34においてクライオポンプ下方に向けて折り返されるように形成されていてもよい。このようにすれば、気体進入方向Eにおけるクライオパネル24の長さを抑えつつパネル面積を大きくすることができる。また、輻射熱を避けるべくパネル構造体16をポンプ底部にコンパクトに設けることも可能となる。クライオパネル24の先端部34の位置及び形状等は例えば、クライオポンプ10への要求排気性能と外部からの輻射熱の影響とを考慮して定めればよい。
クライオパネル24は、少なくとも接続部32が開口20に向けて露出される。本実施形態では、クライオパネル24の先端部34及び中間部36も開口20に向けて露出される。このため、クライオパネル24の全体が開口20に向けて露出されている。よって、クライオパネル24は、外部から放射シールド18の内部空間に進入した気体分子を表面全域で直接的に受けることができる。クライオパネル24の吸着剤設置面の全体が気体分子を直接的に受けることができる。よって、吸着剤25が開口20に対して遮蔽されている構成とは異なり、効率的に気体を処理することができる。本実施形態ではクライオパネル24の全表面が吸着領域とされているので、水素等の非凝縮性気体を効率的に排気することができる。このようなパネル構成は、非凝縮性気体を主たる排気気体とする例えばイオン注入装置用のクライオポンプとして好ましい。
また、クライオパネル24は、中心軸Aに平行に配置されている。本実施形態ではクライオパネル24は中間部材28に垂直に立設されている。よってクライオパネル24は開口20に対して垂直に配置されている。クライオパネル24の両面を均等に排気に利用することができるので、効率的に気体を排気することができる。しかし、気体の流れ性及び外部からの輻射熱等を総合的に考慮して、中心軸Aに交差するようクライオパネル24を傾斜させて配置してもよい。
クライオパネル24は、接続部32から先端部34に向けて連続的に幅が拡張された台形形状を有する。クライオパネル24の外周側の側端部は中心軸Aに平行とされ、内周側の側端部は中心軸Aに交差する方向に延びている。クライオパネル24の形状は、図5に示される台形形状には限られず、矩形形状であってもよいし、他の形状であってもよい。また、各クライオパネル24の形状は、互いに異なっていてもよく、例えば複数種類の形状のクライオパネルを混在させてもよい。例えば、大型のクライオパネルと小型のクライオパネルとを混在させて配置してもよい。
本実施形態では図8に示されるように、クライオパネル24はそれぞれ放射状のレイアウトで放射シールド中心軸を包囲するように配置される。冷凍機14の挿入に必要となる部位を除いて、クライオパネル24は等間隔に配置されている。例えば10度乃至20度の等角度間隔にクライオパネル24は配置されている。クライオパネル24は円板状の中間部材28の径方向外周側に設けられており、中間部材28の中心部にはパネルに包囲される円柱状空間が形成される。クライオパネル24の幅は中間部材28の径方向において例えば最外周部から中間部材28の半径の半分程度の位置までを占めるように設定されている。この場合中間部材28の中心部には中間部材28の直径の半分程度の直径を有する円柱状空間が形成される。このように、クライオパネル24を中間部材28の表面で放射状に配置する場合にはパネルを中間部材表面の外周側に設け中心部に開放空間を形成することが好ましい。これにより中心部でのパネルの密集を避けることができるので気体の流れ性を良好にすることができる。
中間部材28は、例えば円板状の形状を有する平板状の部材である。中間部材28の上面すなわち開口20を向く面がパネル取付面となる。パネル取付面は円形の平面である。なお、中間部材28は円板状の平板部材でなくてもよく、他の形状の平板部材であってもよい。あるいは中間部材28は湾曲形状または屈曲形状を有していてもよく、例えば中心部に近づくほど開口20に向けて近接するようなドーム状の形状であってもよい。この場合、パネル取付面は、ドーム状の湾曲面となる。
なお、中間部材28の下面にもパネル取付面を形成して複数のクライオパネル24を取り付けてもよい。この場合、隣接するパネル間において、気体の流通を促進させるためのスリットを中間部材28に形成してもよい。このようにすればクライオポンプ底部側に向けて立設されているパネルへの気体流通を促進させることができる。
接続部材26は、例えば第2冷却ステージ22を包囲するように形成されている。接続部材26は、開口20側の一端に冷凍機14の第2冷却ステージ22に取り付けられる冷凍機取付部を有し、ポンプ底部側の他端に中間部材28に取り付けるためのフランジが形成されている。冷凍機取付部の周囲から吊下部がポンプ下方に向けて延び、吊下部の末端にフランジが形成される。接続部材26のフランジは、ボルト及びナット等の適宜の固定手段により中間部材28に取り付けられる。
接続部材26とクライオパネル24とは中間部材28を介して間接的に接続される。しかし、クライオパネル24の先端部34への熱伝導性を向上させるために、クライオパネル24の先端部34に接続部材26を直接に接続する伝熱経路を設けてもよい。この伝熱経路は、気体の流れ性への影響を最小化するように形成されることが好ましく、例えば気体進入方向Eに平行に配置される面で構成されることが望ましい。
なお上述の実施形態とは異なるパネル配置を採用してもよい。例えば、放射状のパネル配置ではなく、各パネルを平行に配列したり、格子状に配置してもよい。各パネルの間隔は共通であってもよいし、異ならせてもよい。あるいは、中間部材28の最外周部に中間部材28と同径の円筒状外周パネルを設けてもよい。外周パネルに加えて小径の同心円筒パネルをさらに設けてもよい。また、上述の吊り下げ型のパネル構成ではなく、他の公知のクライオパネル配列を採用してもよい。
さて、ルーバー23にオフセットを与えることによりクライオパネル24の排気速度と冷却温度との両立が実現されることを示す実験結果を説明する。図9及び図10はそれぞれ、第2の実施形態においてルーバー23のオフセット量を異ならせた場合の排気速度及び冷却温度を示す図である。
まず、図9及び図10においては、オフセットがない場合、小さいオフセット量を与えた場合、及び大きいオフセット量を与えた場合の3つの場合が示されている。いずれの場合においても同一の径を有する同一構造のルーバー23が使用されている。オフセットがない場合とは、従来のクライオポンプと同様に中心軸Aに沿う方向に関してルーバー23をパネル取付部42と同位置に配置した場合である。小さいオフセット量を与えた場合においては、シールド開口20及びルーバー23の間隔とルーバー23及びクライオパネル24の間隔とが実質的に等しくなる位置にルーバー23を配置している。大きいオフセット量を与えた場合においては、小さいオフセット量を与えた場合の2倍のオフセット量を有する位置にルーバー23を配置している。
図9は、オフセット量を異ならせた場合のクライオパネル24の冷却温度を示す図である。図9の縦軸は冷凍機14の第2冷却ステージ22の温度を示し、横軸は水素ガスの流量を示す。第2冷却ステージ22の温度はクライオパネル24の温度に相当する。図9に示されるように、オフセットがない場合においては、クライオパネル24の温度は概ね12.5K程度となる。これに対して、オフセットを与えた場合にはオフセット量の大きさによらず、11.5K程度にまでクライオパネル24の温度が低下する。ここで注目すべき点は、大きいオフセット量を与えた場合よりも小さいオフセット量を与えた場合のほうが低い冷却温度に達するということである。この傾向は、図9とは異なる径のルーバーを使用して実験した場合にも確認されている。
図10は、オフセット量を異ならせた場合のクライオパネル24の水素排気速度を示す図である。図10の縦軸は水素排気速度を示し、横軸は水素ガスの圧力を示す。図10に示されるように、オフセットの有無によらず基本的には排気速度が大きく変化しないことがわかる。しかし、特に低圧領域においては小さいオフセット量を与えた場合が最も良好な排気速度を示していることに注目すべきである。この傾向は、図10とは異なる径のルーバーを使用して実験した場合にも確認されている。
よって、シールド開口20及びルーバー23の間隔とルーバー23及びクライオパネル24の間隔とが実質的に等しくなる位置にルーバー23を配置した場合に、水素排気速度を最も良好とするとともにパネル冷却温度を最も低くすることができる。シールド開口20及びルーバー23の間隔を、ルーバー23及びクライオパネル24の間隔の例えば90%乃至110%程度とすることが好ましい。このように、ルーバー23のオフセット位置は、シールド開口20との間隔とクライオパネル24との間隔とを実質的に等しくするオフセット範囲から選択することが好ましい。
これに対し比較例として、ルーバー23の径を異ならせた場合における排気速度及び冷却温度を図11及び図12に示す。図11及び図12においては、大径のルーバーを使用した場合、及び、小径のルーバーを使用した場合が示されている。大径のルーバーは小径のルーバーよりも径が22%大きいものを使用している。なお、いずれの場合にもルーバーにオフセットを与えていない。
図11は、ルーバー径を異ならせた場合のクライオパネル24の冷却温度を示す図である。図11の縦軸は冷凍機14の第2冷却ステージ22の温度を示し、横軸は水素ガスの流量を示す。図11に示されるように、小径のルーバーを使用した場合よりも大径のルーバーを使用した場合のほうが、クライオパネル24の温度が若干低下している。しかし、大径のルーバーを使用した場合であっても温度の低下量は0.2K乃至0.4K程度である。図9のようにオフセットを与えた場合のほうがクライオパネル24の冷却温度を大きく下げることができる。
図12は、ルーバー径を異ならせた場合のクライオパネル24の水素排気速度を示す図である。図12の縦軸は水素排気速度を示し、横軸は水素ガスの圧力を示す。図12に示されるように、大径のルーバーを使用することにより水素排気速度が大きく低下していることがわかる。
図9乃至図12からわかることは、まず、ルーバー径を大きくすることに比べて、ルーバー23にオフセットを与えるほうが、クライオパネル24の水素排気速度に対する感度が小さいということである。ルーバー径を大きくした場合には水素排気速度が大きく低下するが、オフセットを与えた場合には水素排気速度はあまり変化しない。また、ルーバー径を大きくしても、ルーバー23にオフセットを与えても、両方ともクライオパネル24の冷却温度低下に一定の効果があるが、ルーバー23にオフセットを与えたほうが温度を大きく下げることができる。
結局、ルーバー径を大きくする場合には水素排気速度と冷却温度とがトレードオフの関係となるため、両者の最適化は容易ではない。また、ルーバー径を異ならせても冷却温度の低下量はそれほど大きくないので、水素排気速度と冷却温度との双方を要求仕様に適合させることが困難である場合もある。一例として、要求されるクライオパネル冷却温度が12Kである場合には、本実施形態においては到達可能である一方、比較例においては到達できない。更に、検証試験のために径の異なる複数のルーバーを製作する必要がある。特に、口径の異なるクライオポンプを製品シリーズとして準備する場合には口径ごとにルーバー径の最適化が必要となり、膨大な手間を要することになる。これに対して、本実施形態によれば、要求排気速度に合わせてルーバー径を選択した上でオフセット量を調整することにより、シーケンシャルな手順で水素排気速度と冷却温度との最適化を容易に行うことができる。
上述のクライオポンプ10の作動に際しては、まずその作動前に他の適当な粗引きポンプを用いて排気対象容積例えばイオン注入装置の真空チャンバ内部を1Pa程度にまで粗引きする。その後クライオポンプ10を作動させる。冷凍機14の駆動により第1冷却ステージ及び第2冷却ステージ22が冷却され、放射シールド18、ルーバー23、及びパネル構造体16も接続先の冷却ステージの冷却温度レベルに冷却される。クライオパネル24は、第2冷却ステージ22によって、接続部材26及び中間部材28含む蛇行伝熱経路を通じて冷却される。
冷却されたルーバー23は、排気対象容積からクライオポンプ10内部へ向かって飛来する気体分子を冷却し、その冷却温度で蒸気圧が充分に低くなる気体(例えば水分など)を表面に凝縮させて排気する。ルーバー23の冷却温度では蒸気圧が充分に低くならない気体はルーバー23または開放領域58を通過して放射シールド18内部へと進入する。進入した気体分子のうちパネル構造体16の冷却温度で蒸気圧が充分に低くなる気体(例えばアルゴンなど)は、パネル構造体16の表面に凝縮されて排気される。その冷却温度でも蒸気圧が充分に低くならない気体(例えば水素など)は、パネル構造体16の表面の吸着剤により吸着されて排気される。
イオン注入装置の真空チャンバを排気する場合には気体の大半が水素である。クライオパネル24はクライオポンプ開口面に対し露出されており、吸着剤25により水素ガスは特に効率的に吸着され排気される。このようにしてクライオポンプ10は真空チャンバ内部の真空度を所望のレベルに到達させることができる。また、ルーバー23の径が要求水素排気速度に対応して設定されており、ルーバー23のオフセット量が要求冷却温度に対応して設定されているので、クライオポンプ10は要求排気性能を実現することができる。
10 クライオポンプ、 12 ポンプ容器、 14 冷凍機、 16 パネル構造体、 18 放射シールド、 20 シールド開口、 22 第2冷却ステージ、 23 ルーバー、 24 クライオパネル、 25 吸着剤、 26 接続部材、 28 中間部材、 32 接続部、 34 先端部、 40 パネル取付構造。