JP2009209122A - 創傷治癒促進作用を有する組成物 - Google Patents

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Abstract

【課題】 患部への外用により糖尿病患者においても充分な創傷治癒効果を発揮し、かつ長期間使用しても安全な創傷治癒促進剤及び創傷被覆材を提供する。
【解決手段】 ハナビラタケの子実体及び/又は菌糸体を粉末化した後、熱水、アルカリにより得られる抽出物あるいは酵素を作用させて得られる抽出物、好ましくは、さらにエタノール沈殿によりえら得るβ−グルカン含有画分を有効成分として含む創傷治癒促進作用を有する組成物並びに該組成物を有効成分として含有することを特徴とする外用剤及び医薬並びに創傷被覆材。
【選択図】 図1

Description

本発明は、ハナビラタケ子実体及び/又は菌糸体に由来する創傷治癒促進作用を有する組成物並びにそれを含有する創傷治癒促進剤及び創傷被覆材に関する。
創傷の治癒過程は、血液凝固期、炎症期、増殖期、成熟期の4つのステージに分類される。血液凝固期は、凝固した血液が創を一時的に閉鎖する、いわば外敵侵入に対する応急処置としてとらえられる。炎症期には創傷部に好中球、マクロファージが遊走し、付着した細菌や壊死組織、異物などの処理にあたる。増殖期には線維芽細胞がコラーゲンなどの細胞外マトリックス成分を産生したり、新生血管が形成されたりし、肉芽組織の形成とともに創が収縮する。成熟期には細胞外マトリックス合成は充分に進み、傷口が目立たなくなる。
このような創傷治癒の過程には種々の増殖因子が関与しており、マクロファージなどの免疫担当細胞が重要な役割を果たすことから、創傷治癒は免疫系を介する生理学的プロセスであることが明らかとなっている。
健康な患者における創傷治癒では、上記の過程が確実に進行するが、糖尿病患者では細胞の遊走が鈍くなったり、線維芽細胞のコラーゲン産生能が低下していたり、増殖因子の産生量が低下したりしているため、しばしば治癒が遅れるもしくは治癒が一向に進まない状態となり、臨床上の大きな問題となっている。
現在、創傷に対する治療法としては、消毒を行った上でガーゼを貼る治療法から、ポリウレタンフィルム、ハイドロコロイド、ハイドロジェル、ハイドロポリマーなどのドレッシング剤を利用した湿潤療法が創傷を速やかに治癒させることができるため、多く適用されるようになってきた。しかし、湿潤療法を選択した場合でも、糖尿病患者では依然として創傷治癒の遅延は起こるため、糖尿病患者の創傷治療に対する治療法についてはさらなる改善が必要な状況にある。
このような状況を踏まえ、線維芽細胞の増殖や血管新生を促進させる作用を持ち、糖尿病患者においても高い有効性を発揮する塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)製剤が創傷治癒促進剤として開発された(非特許文献1、2)。
bFGF製剤(商品名:フィブラストスプレー)は、患部に該製剤の溶液をスプレーする局所投与法により優れた創傷治癒効果を発揮するため、外科、形成外科、皮膚科などの領域で頻用されているものの、その増殖因子という特性上、腫瘍の増大を引き起こす可能性が懸念されるため、創傷部付近に腫瘍がある患者に対しては適用できず、汎用性という観点からは必ずしも優れていない。
ところで、キノコ類は古くから薬用/食用として利用されており、1970年代からそれらから抽出した多糖類やβ−グルカンが免疫賦活作用を示すことが次々と示され、アガリクス、メシマコブ、霊芝、ハナビラタケなどに含まれるβ−グルカンに免疫賦活作用を期待し、それらのキノコ類の子実体や菌糸体の乾燥物や抽出物が健康食品素材として近年利用されるようになってきた(例えば、特許文献1、2及び3)。
β−グルカンとはグルコースがβ−グルコシド結合により直鎖状に重合した多糖類の総称であり、種々の生物、特に植物、真菌類、細菌類の細胞壁の構成成分として豊富に含まれている。また、その結合様式によって、β−1,3−グルカン、β−1,4−グルカン、β−1,6−グルカンなどに分類されるものである。
β−グルカンは免疫賦活作用を有し、抗腫瘍作用、造血促進作用などの機能性を発揮することが知られているが(非特許文献3−6)、創傷の治療に対しても、酵母由来のβ−グルカンやメシマコブから抽出された多糖類について、さらには硫酸化されたβ−1,3−グルカンについても、該成分の創面への局所投与による有用性が指摘されている(非特許文献7−10、特許文献4及び5)。
上記したキノコ類の中でもハナビラタケは、子実体乾燥粉末当たり43質量%以上とβ−グルカンを高含有するキノコである。さらに、ハナビラタケの熱水抽出物やβ−グルカンについては、担癌マウスや癌患者での試験において有用性が認められており、またハナビラタケ摂取による健康障害事例も報告がなく、極めて安全な素材であると考えられることから、医薬品分野での用途も提案されている(特許文献6及び7、非特許文献11、12)。
M.オクムラ(Okumura)、T.オクダ(Okuda)、T.ナカムラ(Nakamura) and M.ヤジマ(Yajima)、「創傷治癒障害モデル動物の創傷治癒に及ぼす塩基性線維芽細胞増殖因子の影響(Effect of basic fibroblast growth factor in wound healing in healing-impaired animal models)」、Arzneimittelforschung., (1996),46(5):547-551 奥村誠、奥田敏明、片岡さゆり、堀敏光、中村勉、矢嶋基之、「遺伝子組換え型ヒト塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)の創傷治療効果に関する研究」―用法および既存薬剤とその有効成分との作用比較―、基礎と臨床、(1996)、30(9):2161-2174 特開2001−10970号公報 特開2001−131083号公報 特開2003−183176号公報 N.モハゲポアー(Mohagheghpour)、M.ドーソン(Dawson)、P.ホブズ(Hobbs)、A.ジュド(Judd)、R.ウィナント(Winant)、L.ドウスマン(Dousman)、N.ワルデック(Waldeck)、L.ホカマ(Hokama)、D.ツセ(Tuse)、F.コス(Kos)、C.ベニク(Benike) and E.エングルマン(Engleman)、「免疫アジュバントとしてのグルカン(Glucans as immunological adjuvants)」、アドバンスズイン エクスペリメンタルメディシン アンドバイオロジー(Advances in experimental medicine and biology)、(1995)、383:13-22 前田幸子、石村和子、千原呉郎、「抗腫瘍多糖と癌に対する宿主の抵抗―新しい癌免疫化学療法への道―」、蛋白質核酸酵素、(1976)、21(6):425-435 池川哲郎、「きのこの生理活性について」、バイオセラピー(Biotherapy)、(2000)、14(10):945-951 大野尚仁、「βグルカンの生体防御系修飾作用」、日本細菌学雑誌、(2000)、55(3):527-537 M.ウォーク(Wolk)and D.ダノン(Danon)、「一個体で評価された酵母由来グルカンによる創傷治癒の促進(Promotion of wound healing by yeast glucan evaluated by single animals)」、メディカル バイオロジー(Medical Biology)、(1985)、63:73-85 J.,Z.カプラン(Kaplan)、「酵母生菌由来物による創傷治癒の促進(Acceleration of wound healing by a live yeast cell derivative)」、アーカイブス・オブ・サージェリー(Archives of Surgery)、(1984)、119:1005-1008 W.ブロウダー(Browder)、D.ウィリアムズ(Williams)、P.ルコア(Lucore)、H.プレタス(Pretus)、E.ジョーンズ(Jones) and R.マクナミー(McNamee)、「活性化されたマクロファージの初期創傷治癒における効果(Effect of enhanced macrophage function on early wound healing)」、サージェリー(Surgery)、(1988)、104:224-230 J.-S.バエ(Bae)、K.-H.ヤン(Jang)、S.-C.パク(Park) and H.K.ジン(Jin)、「フェリナス・ギルバスから単離した多糖による創傷治癒の促進(Promotion of dermal wound healing by polysaccharides isolated from Phellinus gilvus in rats)」、ジャーナル オブ ベトリナリー メディカル サイエンス(The Journal of veterinary medical science)、(2005)、67(1):111-114 特開平11−116604号公報 特開平11−171784号公報 特開2000−217543号公報 特許第3509736号公報 N.オオノ(Ohno)、N.N.ミウラ(Miura)、M.ナカジマ(Nakajima) and T.ヤドマエ(Yadomae)、「栽培されたスパラシス・クリスパ子実体由来の抗腫瘍性1,3−ベータグルカン(Antitumor 1,3-beta-glucan from cultured fruit body of Sparassis crispa)」, バイオロジカルアンド ファーマシューティカルブレティン(Biological and Pharmaceutical Bulletin)、(2000)、23(7):866-872 N.オオノ(Ohno)、S.ナメダ(Nameda)、T.ハラダ(Harada)、N.N.ミウラ(Miura)、Y.アダチ(Adachi)、M.(Nakajima)、K.ヨシダ(Yoshida)、H.ヨシダ(Yoshida) and T.ヤドマエ(Yadomae)「薬用キノコ スパラシス・クリスパから抽出したβ−グルカン(SCG)の免疫賦活作用と癌患者への投与(Immunomodulating activity of a β-glucan preparation, SCG, extracted from a culinary-medicinal mushroom, Sparasiss crispa Wulf.:Fr (Aphyllophoromycetidae), and application to cancer patents)」、インターナショナル ジャーナルオブ メディシナルマッシュルーム(International Journal of Medicial Mushrooms、(2003)、5:359-368
これまでに、メシマコブから抽出した多糖類や酵母由来のβ−グルカン、さらには硫酸化β−1,3−グルカンの局所投与が創傷治癒促進作用を発揮することが報告されている。これらの物質は創傷治癒促進剤として有用であると考えられるものの、糖尿病患者における有用性についてはいずれも不明である。また、bFGF製剤は糖尿病患者においても優れた効果を発揮することが知られているものの、腫瘍の成長を促進させるという副作用があり、すべての患者に適用できるわけではない。
本発明は、このような実情に鑑みなされたものであり、腫瘍や糖尿病の有無に関わらず、創傷治癒に対して高い促進効果を発揮でき、かつ長期間投与し続けても安全な創傷治癒促進作用を有する組成物並びにそれを含有する外用創傷治癒促進剤及び創傷被覆材を提供することを目的とするものである。
本発明者らは、上記課題を解決するため新規な素材の開発を求めて鋭意検討した結果、ハナビラタケの子実体及び/又は菌糸体の抽出物が外用により創傷治癒を顕著に促進する事実を見いだし、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、ハナビラタケの子実体及び/又は菌糸体の抽出物、好ましくはそれらに由来するβ−グルカン含有画分を含むことを特徴とし、外用によって創傷治癒促進作用を発揮する組成物を要旨とするものである。
本発明の第二は、上記の本発明の創傷治癒促進作用を有する組成物を含有することを特徴とする創傷治癒促進作用を有する創傷治癒促進剤である。
本発明の第三は、前記した本発明の創傷治癒促進作用を有する組成物を含有することを特徴とする創傷被覆材を要旨とするものである。
本発明によれば、糖尿病患者に対しても優れた効果を発揮する創傷治癒促進剤が提供できる。また、古くから薬用・食用として利用されているハナビラタケを原料としているため、極めて安全性が高いことから、外用剤や創傷被覆材として用いることができる他、医薬としても用いることができる。従って、創傷の程度により適した剤型及び投与方法を選択することができる。
なお、本発明において創傷とは、外的、内的要因によって起こる体表組織及び口腔内や消化管の粘膜組織の物理的な損傷を指し、切創、裂創、刺創、咬創、擦過傷、銃創、挫傷などはもちろんのこと、これらに加えて、潰瘍や熱傷さらには褥瘡をも包含するものである。
また、本発明において外用とは、本発明の創傷治癒促進作用を有する組成物を塗布、噴霧、被覆したりすることによって、創口もしくは創面に接触させることを意味する。
以下、本発明を詳細に説明する。
ハナビラタケは、カラマツ等の針葉樹に生えるキノコであって、非常に希少なキノコである。歯ごたえがよく、その純白の色合いと葉牡丹のような形態が特徴である食用キノコである。これまで、このハナビラタケは成長が遅く人工栽培は非常に困難であるとされてきたが、最近になって、比較的短期間で栽培可能な新しい栽培法が確立され、商業規模での供給が可能となっている。
本発明において用いられるハナビラタケ子実体は、天然のものでの栽培されたものでもよい。人工栽培の方法としては、従来から知られている人工栽培用の菌床を作成することにより行うことができる(詳細は、例えば、特開平11−56098号公報、特許第3746440号、特許第3509736号参照)。
また、本発明においては、ハナビラタケの菌糸体も用いることができる。菌糸体は液体培養法によって得ることができる。培地に使用する炭素源としては、グルコースなどの単糖の他、デキストリン、グリセロールなど通常用いられる炭素源が使用できる。また、窒素源としては無機又は有機窒素源が使用できるが、生育速度の観点からは有機窒素源を用いるほうが好ましい。また、必要に応じて微量元素やビタミン等の生育因子を添加することは通常の培養と何ら変わりはない。培養温度は15℃〜30℃、好ましくは18℃〜28℃、20℃〜25℃が最も好ましい。pHは2.5〜8.0、好ましくは3.0〜7.0、3.5〜5.0が最も好ましい。培地成分には不溶成分を添加することが均一に生育させることができることから好ましい。培養期間は培地組成や菌株により、数日から数週間程度に設定されうる。
本発明においては、上記したハナビラタケ子実体及び/又は菌糸体から得た抽出物を以て、本発明の創傷治癒促進作用を有する組成物とすることができる。ハナビラタケの抽出においては、上記のようにして得られたハナビラタケの子実体あるいは菌糸体をそのまま抽出工程に移してもよいし、まず乾燥した後、破砕機などを用いてハナビラタケの組織を機械的に破砕したものを使用してもよい。乾燥するには、熱風や凍結乾燥のような方法が挙げられる。また、ここで用いられる破砕機としては、ミキサーや石臼などが挙げられる。
本発明における有効成分はハナビラタケに含まれており、本発明の創傷治癒促進作用を有する組成物はハナビラタケから有効成分を抽出、濃縮することによって得ることができる。なお、抽出溶媒としては有機溶剤又は水溶液が適用できるが、抽出効率の点からは水溶液の方が好ましい。水溶液としては純水、酸水溶液、アルカリ水溶液、塩溶液などを用いることができる。抽出にはこれらを単独で又は2種類以上を混合して用いることができる。
また、より高い効果を期待するためには、ハナビラタケ子実体及び/又は菌糸体の抽出液から有効成分であるβ−グルカン含有画分を抽出又は精製することが好ましい。
ハナビラタケのβ−グルカン含量は、人工栽培された子実体乾燥重量当たり40質量%以上であることが知られている。人工培養した菌糸体におけるβ−グルカン含有量は、乾燥重量当たり15〜20質量%前後であることから、本発明のβ−グルカン含有組成物を高効率に抽出するためには子実体を用いることが好ましい。
本発明におけるβ−グルカン含有画分を抽出する為に、酵素を用いてハナビラタケ中のβ−グルカン以外の成分を分解させる方法を適用することができる。また、熱水やアルカリ溶液を用いてβ−グルカンを抽出することもできる。さらに、得られた抽出液に対してアルコール沈殿を行ったり、凍結乾燥を行ったりすることで、β−グルカン含有画分を濃縮することができる。
上記の酵素の種類としては、市販されているα−アミラーゼ、アミログルコシダーゼ、プロテアーゼなど、ハナビラタケに含まれるβ−グルカン以外の多糖類やタンパク質成分の分解酵素を使用することが望ましい。また、効率よく抽出を行うために、耐熱性の酵素を用いることが好ましい。通常、このような酵素を複数組み合わせて酵素処理を行えばよい。
酵素処理に用いる酵素の量はハナビラタケの乾燥粉末重量に対して0.1〜10質量%を用いればよく、0.2〜5質量%を用いることがさらに好ましく、0.5〜2質量%が最も好ましい。0.1質量%以下では酵素処理の効率が悪く、10質量%以上ではコスト面での負担が高くなる。
また、酵素処理は複数回行うこともできる。複数回行う場合は、ハナビラタケからの抽出でもよいし、ハナビラタケから得られた抽出画分をさらに抽出してもよい。また、それらを組み合わせて行うことができる。
酵素処理の際の温度は、特に制限はないが4〜121℃が好ましく、37〜100℃がさらに好ましく、60〜95℃が最も好ましい。4℃以下では抽出効率が悪く、121℃以上では処理に用いる酵素が熱変性して失活したり、得られる抽出物が熱変性し性状が変化したりなどする。抽出時間にも特に制限はないが、5分〜12時間程度が好ましく、10分〜3時間がさらに好ましく、30分〜1時間が最も好ましい。5分以下では抽出量が少なく、12時間以上では作業効率が低い。また、抽出は静置のまま行うこともできるが、撹拌又は振盪などすることによって抽出効率を高めることができる。
本発明における熱水抽出においては、ハナビラタケの乾燥粉末重量に対して2〜200倍量の熱水を用いればよく、10〜100倍量を用いることがさらに好ましく、20〜50倍量が最も好ましい。2倍量以下では抽出効率が悪く、200倍量以上では作業効率が悪くなる。
熱水抽出の際の温度については、100℃以下の抽出は常圧下で行い、100℃以上の抽出はオートクレーブなどの高圧負荷できる機器を用いて行えればよい。抽出温度は60〜200℃が好ましく、80〜150℃がさらに好ましく、100〜121℃が最も好ましい。60℃以下では抽出効率が悪く、200℃以上では2気圧以上の高圧を負荷できる特殊な抽出装置が必要となってしまう。抽出時間には特に制限はないが、30分〜12時間が好ましく、1〜6時間がさらに好ましく、2〜3時間が最も好ましい。30分以下では抽出量が少なく、12時間以上では作業効率が悪い。
本発明におけるアルカリ抽出で用いるアルカリ成分としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどを用いることができる。その溶液濃度としては、0.1〜10Mが好ましく、0.5〜5Mがさらに好ましく、1〜2.5Mが最も好ましい。0.1M以下では抽出効率が悪く、10M以上では取り扱いが困難となる。
また、アルカリ抽出は複数回行うこともできる。複数回行う場合は、ハナビラタケからの抽出でもよいし、ハナビラタケから得られた抽出画分をさらに抽出してもよい。また、それらを組み合わせて行うことができる。特に、抽出物中のβ−グルカン含有量を高めるためには、エタノール抽出を済ませたハナビラタケの抽出残渣に対してアルカリ抽出を行うことが、β−グルカンを高濃度で抽出できるため好ましい。
アルカリ抽出操作の際の温度は、特に制限はないが2〜100℃が好ましく、4〜65℃がさらに好ましい。2℃以下では抽出効率が悪く、100℃以上では溶媒の沸騰により抽出作業に危険性が伴う。抽出時間にも特に制限はないが、30℃以下の低温域で抽出する場合は6時間〜5日間が好ましく、12時間〜3日間がさらに好ましく、1日間〜2日間が最も好ましい。6時間以下では抽出量が少なく、5日間以上では作業効率が悪い。逆に、30℃以上の高温域で抽出する場合は、10分〜1日間程度が好ましく、20分〜8時間がさらに好ましく、30分〜3時間が最も好ましい。10分以下では抽出量が少なく、1日間以上では作業効率が低い。また、抽出は静置のまま行うこともできるが、撹拌又は振盪などすることによって抽出効率を高めることができる。
以上のようにして得られた処理液は、遠心分離や濾過などの手段によって抽出残渣を完全に取り除いた上、以下のようにして脱塩・濃縮処理を施すことが好ましい。脱塩の方法としては、透析膜を用いる方法、カラムを用いた方法などが挙げられる。濃縮の方法としては、アルコール沈殿、乾燥などの周知の分離手段が用いられる。具体的には以下のようにして行うことができる。
上記のようにして得られたハナビラタケの子実体及び/又は菌糸体の処理液を一旦真空乾燥処理により乾燥物とした後、適当量の水に再懸濁し、透析膜を用いて脱塩処理を行う。透析膜は、市販の透析用セルロースチューブを用いればよく、透析外液には蒸留水を用いる。透析外液(蒸留水)を満たした容器に上記の処理液乾燥物を再懸濁した水溶液を入れた透析膜(チューブ)を浸漬し、1〜3日静置、あるいは攪拌下で放置する。これにより透析内液中の塩類を取り除くことが出来る。また、透析外液を3〜4回交換することで、透析内液中の塩類を完全に除くことができる。
次に、得られた透析内液からエタノール沈殿によってβ−グルカンを沈殿させる。すなわち、上記で得られた透析内液に、終濃度が80%になるようにエタノールを添加し、室温に1時間静置する。その後、遠心分離(8000×g、10分)によって沈殿を回収し、上清を破棄することでβ−グルカン含有画分が得られる。
本発明の創傷治癒促進作用を有する組成物は、通常、ハナビラタケの子実体及び/または菌糸体もしくはそれらから上記の方法によって抽出・精製されたβ−グルカン含有画分を0.001〜100質量%配合するのが好ましい。さらに好ましくは、0.01〜80質量%配合するのが好ましい。この範囲であれば製剤化が容易であり、かつ十分な効果を期待できる。
本発明の創傷治癒促進作用を有する組成物の形態は、適用の仕方に応じて種々の形態にすることができる。外用で用いる場合には、坐剤、パップ剤、プラスター剤、軟膏剤、クリーム剤、ムース剤、ゲル剤、点眼剤、エアゾール剤、眼軟膏剤、液剤、エキス剤、流エキス剤、懸濁剤・乳剤、浸剤・煎剤、溶液剤、貼付剤、ドレッシング剤、チンキ剤、リニメント剤、ローション剤、インヘラー剤、ナザールジェル剤、経皮吸収型製剤とすることができる。
製剤には薬剤的に許容できる種々の担体を加えることができる。例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着香剤、着色剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、ゲル化剤、コーティング剤、架橋剤を含むことができるが、これらに限定されない。本発明の創傷治癒促進作用を有する組成物を持続性、徐放性のものとしてもよい。
本発明の第二の創傷治癒促進剤は、上記した本発明の創傷治癒促進作用を有する組成物を含有するものである。この組成物は、上記したように、ハナビラタケの子実体または菌糸体に由来するものであり、ハナビラタケは古くから食用・薬用とされてきたことから極めて安全な素材であり、医薬品として用いることも可能である。このような点から、本発明の創傷治癒促進剤の使用量は厳しく制限されるものではないと考えられるが、概ね、下限は創傷治癒の促進という目的に応じた効果を発揮しうる最低量を、上限は使用のしやすさ、経済性等の観点から実際的な量を基準とすればよい。例えば皮膚潰瘍の治癒に適用する場合、本発明の創傷治癒促進作用を有する組成物をその創面積(cm)あたりのβ−グルカン含有画分の使用量に換算して成人1日あたり0.1〜5000μg/cm、好ましくは1〜2000μg/cm、さらに好ましくは10〜1000μg/cmを使用すればよい。もちろん、使用する者の年齢、体重、症状、使用期間、治療経過等に応じて変化させることもできる。1日あたりの量を数回に分けて投与することもできる。また、他の創傷治癒促進剤(例えば、他のキノコ類や酵母から同様に抽出したβ−グルカンや多糖類を含む創傷治癒促進剤など)と組み合わせて使用することもできる。
本発明の創傷治癒促進剤は、投与の仕方に応じて種々の剤形にすることができる。中でも外用で用いることが好ましく、その場合には、坐剤、パップ剤、プラスター剤、軟膏剤、クリーム剤、ムース剤、ゲル剤、点眼剤、エアゾール剤、眼軟膏剤、液剤、エキス剤、流エキス剤、懸濁剤・乳剤、浸剤・煎剤、溶液剤、貼付剤、ドレッシング剤、チンキ剤、リニメント剤、ローション剤、インヘラー剤、ナザールジェル剤、経皮吸収型製剤とすることができる。また、他の創傷治癒促進剤(例えば、他のキノコ類や酵母から同様に抽出したβ−グルカンや多糖類を含む創傷治癒促進剤など)と組み合わせて製剤化することもできる。
製剤には薬剤的に許容できる種々の担体を加えることができる。例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着香剤、着色剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、ゲル化剤、コーティング剤、架橋剤を含むことができるが、これらに限定されない。本発明の創傷治癒促進剤を持続性、徐放性のものとしてもよい。
本発明の第三の創傷被覆材は、上記した本発明の創傷治癒促進作用を有する組成物を含有するものである。ハナビラタケは古くから食用・薬用とされてきたことから極めて安全な素材であり、医療用具として用いることも可能である。このような点から、本発明の創傷被覆材の使用方法に関する制限事項は特に指定されないが、患部を十分に被覆できる量を用い、さらに創傷治癒の促進という目的に応じた効果を発揮しうる頻度で、本発明の創傷被覆材を交換すればよい。
本発明の創傷被覆材の製剤化における、本発明の創傷治癒促進作用を有する組成物の使用量については、下限は創傷治癒の促進という目的に応じた効果を発揮する最低量を、上限は製剤化のし易さや製造コストの観点から可能な実際的な量を基準とすればよい。例えば皮膚潰瘍の治癒に適用する場合、本発明の創傷治癒促進作用を有する組成物をその創面積(cm)あたりのβ−グルカン含有画分の使用量に換算して成人1日あたり0.1〜5000μg/cm、好ましくは1〜2000μg/cm、さらに好ましくは10〜1000μg/cmとなるように製剤化すればよい。もちろん、患者の年齢、体重、症状、投与期間、治療経過等に応じて変化させることもできる。
本発明の創傷被覆材は、適用方法に応じて種々の剤形にすることができる。例えば、パップ剤、貼付剤、ドレッシング剤、ハイドロジェル剤とすることができる。また、基材としては、薬剤的に許容可能な水溶性又は非水溶性の天然又は合成高分子化合物もしくはこれらの混合物を用いることが出来る。例えば、ハナビラタケの熱水抽出液のキャストフィルムを使用することも可能であるが、ポリビニルアルコール(PVA)を混合した上でキャスティングすることによって、より強靱なフィルムドレッシング材に加工できる。また、本発明の創傷被覆材を有効成分が徐放されるように製剤化してもよい。
また本発明の創傷被覆材は、既存の創傷被覆材原料に本発明の創傷治癒促進作用を有する組成物を混合した上で、パップ剤、貼付剤、ドレッシング剤として製剤化することによっても得ることができる。例えば、キチンを主原料としたドレッシング剤に本発明の創傷治癒促進作用を有する組成物を含ませることができるが、これに限定されない。
以下、本発明の実施例を挙げるが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
調製例1〔ハナビラタケ子実体の調製〕
ハナビラタケ子実体を以下のようにして調製した。カラマツの大鋸屑、小麦粉、栄養分(バナナ、蜂蜜、エビオス、ペプトン、塩化カルシウム、ハイポネックス)及び水を、大鋸屑:小麦粉:栄養分:水=100:11.5:1.9:51の重量比で含む菌床基材を準備した。この菌床基材(520g)を、850ml容のポリプロピレン製の培養瓶に入れ、常法に従って培養瓶を滅菌した後に、ハナビラタケの種菌(16g)を接種した。その後、この培養瓶を、23℃の温度下で、56日間放置することによりハナビラタケ子実体を収穫した。子実体の重量は培養瓶1本当たり140gであった。
調製例2〔ハナビラタケ菌糸体の調製〕
ハナビラタケ菌糸体を以下のようにして調製した。イーストエキス0.4質量%、グルコース2質量%、リン酸2水素カリウム0.1質量%、リン酸水素2ナトリウム0.1質量%となるように水に溶解し、1Nの塩化水素でpH5.0に調製し、500ml容三角フラスコにそれぞれ200ml入れ、常法に従って滅菌した。この液体培地にハナビラタケの種菌を生育させた平板培地から径6mmの寒天片を打ち抜き、その一片を接種し、24℃の暗黒下で、21日間振とう培養(100rpm)することによりハナビラタケ菌糸体を収穫した。菌糸体の乾燥重量は三角フラスコ1本当たり2gであった。
実施例1〔ハナビラタケからのβ−グルカン含有画分の調製〕
ハナビラタケの多糖画分を以下のようにして抽出した。調製例1のハナビラタケ子実体を凍結乾燥後、石臼を用いて粉末化した。この10gを500mlの水に懸濁し、121℃で30分間加熱した。これを室温まで放冷した後、遠心分離により上清を回収し、凍結乾燥を行った。得られた乾燥物(FH)の収率は40.2%であった。一方、FHを水に再度溶解し、終濃度が50%になるようにエタノールを添加し、室温に1時間静置後、遠心分離によって得た沈殿物を凍結乾燥させた。乾燥物(FH50E)のハナビラタケ粉末に対する収率は15.5%であった。
実施例2〔ハナビラタケ子実体からのβ−グルカンの精製〕
ハナビラタケのβ−グルカン含有画分を以下のようにして抽出した。調製例1のハナビラタケ子実体を凍結乾燥後、石臼を用いて粉末化した。この0.25gを250mlの0.08Mリン酸緩衝液(pH6.0)に懸濁し、耐熱性α−アミラーゼ(SIGMA製)を50μl添加して100℃で30分間反応させた。これを室温まで放冷した後、NaOH溶液を用いてpH7.5に再調整し、プロテアーゼ溶液(50mg/ml;SIGMA製)を50μl添加して60℃で30分間反応させた。これを再度室温まで放冷し、HCl溶液を用いてpH4.3に再調整し、アミログルコシダーゼ液(SIGMA製)を50μl添加して60℃で30分間反応させた。得られた酵素処理液に終濃度が80%になるようにエタノールを添加し、室温下に1時間静置後、遠心分離(8000×g、10分)によって沈殿物を得た。この沈殿をイオン交換水に再懸濁し、蒸留水に対する透析により塩や低分子性の物質を取り除いた。この透析内液を回収し、再度終濃度が80%になるようにエタノールを添加し、室温に1時間静置後、再度遠心分離(8000×g、10分)によって沈殿物を得た。この沈殿物を真空乾燥させ、得られた画分を精製β−グルカンとした。なお、本画分の収量は1.54g、収率は61.6%であった。
〔β−グルカン含有画分の成分分析〕
実施例1で得たFH50E及び実施例2で得たβ−グルカン含有画分をイオン交換水に溶解し、糖含量、タンパク質含量をそれぞれフェノール硫酸法、ブラッドフォード法によって算出した。その結果、糖含量はそれぞれ98.5%及び94.0%、タンパク質含量はそれぞれ0.8%及び3.9%であった。
実施例3〔創傷治癒促進作用〕
実施例1及び2で得られた創傷治癒促進作用を有する組成物のin vivoにおける創傷治癒促進作用を検討するため、創傷を作製した糖尿病モデル動物を用いて評価した。
すなわち、6週齢の雄性ICRマウス(日本エスエルシー)に250mg/kgのストレプトゾトシン(SIGMA製)を腹腔内投与し、1週間後の血糖値が300mg/dL以上を呈した個体を選択し、これらのマウスを5匹ずつ5群に群分けした。試験群は、(1):リン酸バッファー群(対照群;PBS)、(2):FH(25mg/ml)群、(3):FH50E(9.6mg/ml)群、(4):β−グルカン(1mg/ml)群、(5):bFGF製剤(フィブラストスプレー、科研製薬製;0.1mg/ml)群の5群とした。
群分けを行った日(day0)にエーテル麻酔下でマウスの背部正中部を剃毛し、パンチで円形(直径6mm)の皮膚全層欠損創を作製した。day0,3,6に上記した被検物質溶液を創面に滴下し、創傷被覆材(テガダーム、3M)で創面を保護した。創の大きさは創傷作製後3日ごとにトレースし、day0を100%とした際の創面積率(%)を算出した。
結果を、以下の図1に示す。アスタリスクを付した群間には統計学的な有意差(**:p<0.01、***:p<0.001)があることを示す。
図1より、ハナビラタケのβ−グルカン含有画分の外用は糖尿病モデルマウスにおいて創傷治癒促進作用を示すことが明らかとなった。また、その効果は既存のbFGF製剤に匹敵するほど強力であることが明らかとなった。
ハナビラタケ抽出物の創面への外用が、糖尿病マウスの創傷治癒を促進することを示した図である。

Claims (4)

  1. ハナビラタケ子実体及び/又は菌糸体の抽出物を含む組成物であって、外用によって効果を発揮することを特徴とする創傷治癒促進作用を有する組成物。
  2. ハナビラタケ子実体及び/又は菌糸体に由来するβ−グルカン含有画分を含む組成物であって、外用によって効果を発揮することを特徴とする創傷治癒促進作用を有する組成物。
  3. 請求項1乃至2記載の創傷治癒促進作用を有する組成物を含有することを特徴とする創傷治癒促進剤。
  4. 請求項1乃至2記載の創傷治癒促進作用を有する組成物を含有することを特徴とする創傷被覆材。
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