JP2009201422A - 硫黄欠乏応答性シス因子およびその利用 - Google Patents

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明子 丸山
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秀樹 高橋
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Abstract

【課題】植物における遺伝子の発現を硫黄欠乏条件に応答して誘導することができるシス因子を解明し、当該シス因子を植物における新たな遺伝子発現誘導系に利用し、遺伝子発現の制御方法を提供する。
【解決手段】シロイヌナズナ由来の硫酸イオントランスポーター遺伝子SULTR2;1の3'領域に存在する、特定な配列からなる塩基配列を有するDNA断片またはそれと機能的に同等なDNA断片からなる硫黄欠乏応答性シス因子、および当該シス因子を含む組み換えベクター、当該組み換えベクターを導入した形質転換植物。
【選択図】なし

Description

本発明は、植物に硫黄欠乏応答性の遺伝子発現を誘導するシス因子、当該シス因子の植物における遺伝子発現誘導系への利用に関する。
遺伝子組み換え植物による有用物質生産、環境改善、高付加価値作物の生産は、環境負荷の低い持続可能な技術として将来的な発展が期待されている。有用な遺伝子組み換え植物作出のための基盤技術として、組み換え遺伝子を高発現させる、あるいは必要に応じて遺伝子発現を誘導する系の開発がなされてきた。
従来、植物における遺伝子の高発現には、カリフラワーモザイクウイルス由来35Sプロモーターが最も一般的に用いられてきた(非特許文献1)。植物において恒常的に発現しているユビキチン、アクチンなどのプロモーターが用いられることも多い。また、翻訳促進因子であるタバコモザイクウイルス由来オメガ配列をプロモーターの下流に挿入することにより、さらなる高発現が可能となる(非特許文献2)。しかしながら、これらは恒常的な高発現を誘導することから、植物の生育を阻害する遺伝子には使用することができず、また、遺伝子の種類によっては、その過剰な発現から導入細胞の代謝異常、植物組織や植物自体の奇形や生育障害を引き起こすという弊害が生じる場合もある。また、高発現させる遺伝子とは異なる遺伝子由来のプロモーターの制御下で発現されるため、その遺伝子のプロモーターが保持していた発現様式(組織特異性など)は失うことになる。
また、動物ホルモン、エタノールなどの化学物質を用いた一過性の遺伝子発現誘導系も開発されている。これらはエフェクターとして動物ホルモンレセプターやアルコール誘導性の転写因子を高発現させておき、化学物質処理時にのみ目的遺伝子を高発現、あるいは核に移動させるものであり、化学物質を処理しない時の目的遺伝子の発現を非常に低く抑えている。しかしながら、この場合も応答配列と35Sプロモーターの最小配列を組み合わせて用いており、本来の遺伝子の組織特異性は失われる。また、エフェクター遺伝子高発現の影響や化学物質として用いられる物質による植物及び人間に対する生理的な影響についても懸念される。
植物は光合成により得られるエネルギーを利用して土壌中から無機栄養成分の一つである硫黄を吸収し、タンパク質の構成成分となるシステインなどの有機硫黄化合物を生合成する。有機硫黄化合物の基となる硫酸イオンを吸収するために細胞膜には「硫酸イオントランスポーター」というタンパク質が備わっている。これまでに数種の硫酸イオントランスポーター遺伝子が単離され、その構造や機能が報告されており、SULTR2;1はその一つである。また、硫酸イオントランスポーターがそれぞれ植物個体の異なる器官で優位に発現することもわかっており、SULTR2;1は、根の内鞘細胞及び維管束柔細胞、葉の木部柔細胞および篩部細胞で発現することが報告されている(非特許文献3)。
植物遺伝子における発現制御領域であるシス因子(シス配列)は、一般に、プロモーター領域に見出されることが多く、3’領域から見出された例は、シロイヌナズナ、タバコ、イネの遺伝子に関して報告はあるものの少ない(非特許文献4〜7など)。硫酸イオントランスポーター遺伝子についても硫黄栄養応答性シス配列はプロモーターでのみ見出されている(非特許文献8、9)。
Odell J.T., et al., Nature, 313, 810-812 (1985) Leathers, V., et al., Mol. Cell. Biol. 13: 5331-5347 (1993) Takahashi, H., et al., Plant J. 23:171-182 (2000) Dietrich et al., The Plant Cell 4: 1371-1382 (1992) Larkin et al., The Plant Cell 5: 1739-1748 (1993) Mewman et al., Plant Cell 5: 701-714 (1993) Chan and Yu., Proc. Natl. Acad. Sci. 95: 6543-6547 (1998) Maruyama-Nakashita, A., et al., Plant J. 38: 779-789 (2004) Maruyama-Nakashita, A., et al., Plant J. 42: 305-314 (2005)
従って、本発明の課題は、植物における遺伝子の発現を硫黄欠乏条件に応答して誘導することのできるシス因子を解明し、当該シス因子を植物における新たな遺伝子発現誘導系に利用することにある。
本発明者らは、硫黄栄養の少ない(硫黄欠乏)条件で根におけるSULTR2;1の遺伝子発現が上昇することに着目し、SULTR2;1遺伝子近傍に存在する硫黄栄養応答性配列の探索を行った。その結果、硫黄欠乏時のSULTR2;1の根における遺伝子発現誘導がSULTR2;1の3’領域により制御されていることを見出し、この領域中の硫黄栄養応答配列を特定することに成功した。本発明者らはさらに、このSULTR2;1 3’領域が、(i) プロモーターを選ばずに硫黄欠乏下での根における遺伝子発現を硫黄十分条件下の10倍から2000倍に高めることができる、(ii) 硫黄十分条件においてもカリフラワーモザイクウイルス由来 35Sプロモーターの制御下にある遺伝子発現を、NOS(アグロバクテリウム由来ノパリン合成酵素)ターミネーターを用いた場合の50倍に高めることができる、(iii) 特に根の基部側での遺伝子発現を誘導する、(vi) 遺伝子の上流域に繋いだ場合にも硫黄欠乏に応答した発現上昇を引き起こす、という知見を得た。本発明はかかる知見により完成されたものである。
即ち、本発明は以下の発明を包含する。
(1) 以下の(a)〜(d)のいずれかに示すDNA断片からなる、硫黄欠乏応答性シス因子。
(a) 配列番号1に示す塩基配列からなるDNA断片
(b) 配列番号1に示す塩基配列の361番目〜369番目の塩基配列および450番目〜459番目の塩基配列以外の部分において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつ硫黄欠乏応答性シス因子として機能しうるDNA断片
(c) 配列番号1に示す塩基配列に対して80%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつ硫黄欠乏応答性シス因子として機能しうるDNA断片
(d) 配列番号1に示す塩基配列からなるDNA断片と相補的な塩基配列からなるDNA断片とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ硫黄欠乏応答性シス因子として機能しうるDNA断片
(2) 配列番号2に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、または配列番号3に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを少なくとも一つ含むDNA断片からなる、硫黄欠乏応答性シス因子。
(3) 硫黄欠乏応答性シス因子が、その上流または下流に配置される遺伝子の発現を硫黄欠乏条件下で誘導することを特徴とする、(1)または(2)に記載の硫黄欠乏応答性シス因子。
(4) 遺伝子の発現誘導が根特異的である、(3)に記載の硫黄欠乏応答性シス因子。
(5) (1)〜(4)のいずれかに記載の硫黄欠乏応答性シス因子を含有する、組換えベクター。
(6) 前記硫黄欠乏応答性シス因子の上流に目的遺伝子を含有する、(5)に記載の組換えベクター。
(7) 前記目的遺伝子の上流に構成的に発現するプロモーターを含有する、(6)に記載の組換えベクター。
(8) 構成的に発現するプロモーターが、カリフラワーモザイクウイルス由来の35Sプロモーターである、(7)に記載の組換えベクター。
(9) 前記硫黄欠乏応答性シス因子の下流に目的遺伝子を含有する、(5)に記載の組換えベクター。
(10) (5)〜(9)のいずれかに記載の組換えベクターを導入した形質転換植物。
(11) 植物が、植物体、植物器官、植物組織、または植物培養細胞である、(10)に記載の形質転換植物。
(12) (5)〜(9)のいずれかに記載の組換えベクターを植物細胞に導入し、該植物細胞から植物体を再生することを特徴とする、形質転換植物の作出方法。
(13) (11)に記載の形質転換植物の生育する環境における硫黄濃度またはセレン酸濃度を調節することを特徴とする、遺伝子発現の制御方法。
本発明によれば、硫酸イオントランスポーター遺伝子SULTR2;1の硫黄欠乏条件下における遺伝子発現を誘導するシス因子がその3'領域に見出された。SULTR2;1 3’領域は、硫黄欠乏に応じて遺伝子発現を誘導するエンハンサーであるため、目的遺伝子の下流にこの領域を挿入したベクターを作製し、これを用いて遺伝子組み換え植物を作出することにより、硫黄欠乏による目的遺伝子の発現誘導が可能となる。SULTR2;1 3’領域は、プロモーターを選ばずに硫黄欠乏(またはセレン酸処理)により目的遺伝子の発現を誘導するため、プロモーターを任意に選択することが可能である。また、プロモーター、硫黄濃度(またはセレン酸濃度)を任意に組み合わせることにより、目的遺伝子の発現レベルを調節することが可能である。また、通常の硫黄濃度に戻す(またはセレン酸を除く)ことにより、速やかに遺伝子の発現誘導を解除することも可能である。SULTR2;1 3’領域は、目的遺伝子の発現を根特異的に誘導できるため、従来の35Sプロモーターを用いた場合とは異なる効果が期待される。例えば、高発現させたいが、種子や葉では発現させたくない場合(種子や葉が可食部となる作物など)に有用である。さらに、SULTR2;1 3’領域は、目的遺伝子の上流に繋いだ際にもその発現を誘導することができるため、プロモーター領域に挿入することで硫黄欠乏やセレン酸による誘導系を作製することもできる。
1.硫黄欠乏応答性シス因子の同定及びその単離
本発明の硫黄欠乏応答性シス因子(以下、シス因子という)は、シロイヌナズナ由来の硫酸イオントランスポーター遺伝子SULTR2;1(以下、SULTR2;1と称する)の3'領域に存在する、配列番号1に示す1077bpの塩基配列からなるDNA断片である。本シス因子は、硫黄欠乏条件に応答してその上流または下流に位置する遺伝子の発現を誘導することができる。本シス因子に存在する配列番号2に示す9bpの塩基配列または配列番号3に示す10bpの塩基配列は、硫黄欠乏応答性発現誘導に必須なコア配列である。
従って、本発明のシス因子は、配列番号2に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドまたは配列番号3に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを少なくとも含むDNA断片であればよいが、配列番号1に示す塩基配列からなるDNA断片が好ましい。配列番号2に示す塩基配列は、配列番号1に示す塩基配列の361番目〜369番目の塩基配列、配列番号3に示す塩基配列は、配列番号1に示す塩基配列の450番目〜459番目の塩基配列に相当する。
本発明のシス因子は、配列番号1に示す塩基配列からなるDNA断片に限られず、配列番号1に示す塩基配列の361番目〜369番目の塩基配列および450番目〜459番目の塩基配列以外の部分において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつ硫黄欠乏応答性シス因子として機能しうるDNA断片であってもよい。ここで、欠失、置換若しくは付加されてもよい塩基の数は特に限定されないが、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個を意味する。
また、本発明のシス因子には、配列番号1に示す塩基配列に対して80%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつ硫黄欠乏応答性シス因子として機能しうるDNA断片も含まれる。上記80%以上の相同性は、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相同性をいう。配列の同一性は、FASTA検索やBLAST検索により決定することができる。
さらに、本発明のシス因子は、配列番号1に示す塩基配列からなるDNA断片と相補的な塩基配列からなるDNA断片とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ硫黄欠乏応答性シス因子として機能しうるDNA断片であってもよい。ここで、ストリンジェントな条件とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、相同性が高い核酸、すなわち配列番号1に示す塩基配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましく95%以上の相同性を有する塩基配列からなるDNAの相補鎖がハイブリダイズし、それより相同性が低い核酸の相補鎖がハイブリダイズしない条件が挙げられる。より具体的には、ナトリウム塩濃度が15〜750mM、好ましくは50〜750mM、より好ましくは300〜750mM、温度が25〜70℃、好ましくは50〜70℃、より好ましくは55〜65℃、ホルムアミド濃度が0〜50%、好ましくは20〜50%、より好ましくは35〜45%での条件をいう。さらに、ストリンジェントな条件では、ハイブリダイゼーション後のフィルターの洗浄条件が、通常はナトリウム塩濃度が15〜600mM、好ましくは50〜600mM、より好ましくは300〜600mM、温度が50〜70℃、好ましくは55〜70℃、より好ましくは60〜65℃である。
上記のような変異体DNA断片を取得するための遺伝子変異導入は、Kunkel法または Gapped duplex法等の公知手法またはこれに準ずる方法によって行うことができ、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-K(TAKARA社製)やMutant-G(TAKARA社製))、TAKARA社のLA PCR in vitro Mutagenesis シリーズキットを利用することができる。さらに、当業者であれば、配列番号1に示す塩基配列の全部または一部からなるDNA断片を用いて、配列番号1に示す塩基配列からなるDNA断片と同様の機能、すなわち、硫黄欠乏応答性シス因子として機能しうる他の塩基配列からなるDNA断片を種々の生物から新たに取得し、利用することも容易である。このような他の塩基配列からなるDNAの取得は、例えば、配列番号1に示す塩基配列の全部または一部からなるDNA断片と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズさせるハイブリダイゼーション、該塩基配列の一部をプライマーとして用いるPCR等によって行うことができる。
上記のように取得した配列番号1に示す塩基配列と異なる塩基配列からなるDNA断片がシス因子として機能するか否かは、例えば、当該DNA断片の上流または下流にレポーター遺伝子が位置するように発現ベクターを構築し(後述を参照)、当該発現ベクターで形質転換した植物細胞または植物体におけるレポーター遺伝子の発現を確認することで知ることができる。ここで、レポーター遺伝子としては、ルシフェラーゼ(LUC)遺伝子、グリーンフルオレッセントプロテイン(GFP)遺伝子、ベータグルクロニダーゼ(GUS)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)等の遺伝子を使用することができる。
本発明において「硫黄欠乏応答性シス因子として機能しうる」とは、当該シス因子の上流または下流に位置する目的遺伝子を、植物が硫黄十分条件下にあるときには発現誘導せずに、植物が硫黄欠乏条件下にあるときに発現誘導させる活性をいう。また、その発現誘導は根特異的であって、同じ植物体の根を除く他の組織または器官の少なくとも1種におけるよりも根における発現が高度である。根を除く他の組織または器官とは、例えば、葉、花弁及び茎等の植物器官、表皮、師部、柔組織、木部及び維管束等の植物組織を意味する。また、ここで、根とは、根の維管束組織のみならず、内皮、皮層をも含む。
本シス因子を単離する方法としては、特に限定されないが、例えば、インバースPCR、ゲノムDNAライブラリーから単離する方法等を例示することができる。インバースPCRによる場合は、上記のSULTR2;1の塩基配列情報に基づいて一対のプライマーを合成し、これら一対のプライマーと所定の制限酵素で処理した後にセルフライゲーションさせたゲノムDNA断片とを用いてPCRを行うことによって、SULTR2;1の下流領域を増幅する。その後、SULTR2;1の下流領域をクローニングし、塩基配列を決定することによって、SULTR2;1のシス領域の単離、及び塩基配列(配列番号1)の決定を行うことができる。
2. 組換えベクター
本発明の組換えベクターは、上記1.の硫黄欠乏応答性シス因子と目的遺伝子を適当なベクターに導入することにより構築することができる。ここで、ベクターとしては、例えば、アグロバクテリウムを介して植物に目的遺伝子を導入することができる、pBI系、pPZP系、pSMA系のベクターなどが好適に用いられる。特にpBI系のバイナリーベクターまたは中間ベクター系が好適に用いられ、例えば、pBI121、pBI101、pBI101.2、pBI101.3等が挙げられる。バイナリーベクターとは大腸菌(Escherichia coli)及びアグロバクテリウムにおいて複製可能なシャトルベクターで、バイナリーベクターを保持するアグロバクテリムを植物に感染させると、ベクター上にあるLB配列とRB配列より成るボーダー配列で囲まれた部分のDNAを植物核DNAに組み込むことが可能である。一方、pUC系のベクターは、植物に遺伝子を直接導入することができ、例えば、pUC18、pUC19、pUC9等が挙げられる。また、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)、インゲンマメモザイクウイルス(BGMV)、タバコモザイクウイルス(TMV)等の植物ウイルスベクターも用いることができる。
バイナリーベクター系プラスミドを用いる場合、上記のバイナリーベクターの境界配列(LB,RB)間に、目的遺伝子を挿入し、この組換えベクターを大腸菌中で増幅する。次いで、増幅した組換えベクターをAgrobacterium tumefaciens GV3101、C58、LBA4404、EHA101、EHA105あるいはAgrobacterium rhizogenes LBA1334等に、エレクトロポレーション法等により導入し、該アグロバクテリウムを植物の形質導入に用いる。
ベクターに目的遺伝子を挿入するには、まず、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクター DNAの制限酵素部位またはマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法などが採用される。
目的遺伝子としては、対象となる植物における内因性遺伝子または外来遺伝子であって、その遺伝子産物の発現が対象となる植物において所望される任意の遺伝子をいう。かかる遺伝子としては、硫酸イオントランスポーター遺伝子のみならず、糖、窒素源などのトランスポーター遺伝子、有用物質(医薬、色素、芳香成分など)生産遺伝子、植物生長制御(促進/抑制)遺伝子、糖代謝関連遺伝子、耐病虫害性〔昆虫食害抵抗性、カビ(菌類)及び細菌病抵抗性、ウイルス(病)抵抗性など〕遺伝子、環境ストレス(低温、高温、乾燥、塩、光障害、紫外線)抵抗性遺伝子等が挙げられるが、これらに限定はされない。
また、本発明の組換えベクターにおいて、上記のシス因子は、目的遺伝子の下流に配置しても、上流に配置してもよい。
また、本発明の組換えベクターには、目的遺伝子の上流、内部、あるいは下流に、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター、バイナリーベクター系を使用するための複製開始点(TiまたはRiプラスミド由来の複製開始点など)、選抜マーカー遺伝子などを含めることができる。
シス因子を目的遺伝子の下流に配置する場合、本発明のシス因子は、プロモーター非依存的に硫黄欠乏に応答して目的遺伝子の発現を誘導するため、使用するプロモーターの種類は問わない。従って、プロモーターは、目的遺伝子が本来有する自己のプロモーターであってもよく、自己のプロモーター以外のプロモーターであってもよい。自己のプロモーター以外のプロモーターとしては、植物において通常用いられる構成的プロモーターが好ましい。例えば、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35Sプロモーター、ノパリン合成酵素遺伝子のプロモーター(Pnos)、トウモロコシ由来ユビキチンプロモーター、イネ由来のアクチンプロモーター、タバコ由来PRタンパク質プロモーター等が挙げられるが、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35Sプロモーターやその一部からなる最小プロモーターが好ましい。一方、シス因子を目的遺伝子の上流に配置する場合は、当該シス因子は単独で硫黄欠乏応答性の発現誘導プロモーターとして作用するので、転写開始に必要な最小プロモーターのみがあればよいが、発現の目的に応じて植物細胞で機能しうる他のプロモーターと組み合わせてもよい。例えば、他のプロモーターに本発明のシス因子を連結または挿入することによって、そのプロモーターの機能を改変することも可能である。
エンハンサーとしては、例えば、目的遺伝子の発現効率を高めるために用いられ、CaMV35Sプロモーター内の上流側の配列を含むエンハンサー領域などが挙げられる。
ターミネーターとしては、プロモーターにより転写された遺伝子の転写を終結できる配列であればよく、例えば、ノパリン合成酵素(NOS)遺伝子のターミネーター、オクトピン合成酵素(OCS)遺伝子のターミネーター、CaMV 35S RNA遺伝子のターミネーター等が挙げられる。シス因子を目的遺伝子の下流に配置する場合は、SULTR2;1 3’領域がターミネーターとしても機能するため、ターミネーターは必要ない。
選抜マーカー遺伝子は、形質転換植物の選抜を容易にするために使用され、例えば、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ビアラホス耐性遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子などが挙げられる。
3.形質転換植物及びその作出方法
本発明の形質転換植物は、上記組換えベクターを対象植物に導入することによって作出することができる。本発明において「遺伝子の導入」とは、例えば公知の遺伝子工学的手法により、目的遺伝子を上記宿主植物の細胞内に発現可能な形で導入することを意味する。ここで導入された遺伝子は、宿主植物のゲノムDNA中に組み込まれてもよいし、外来ベクターに含有されたままで存在していてもよい。
上記組換えベクターを植物中に導入する方法としては、既に報告され、確立されている種々の方法を適宜利用することができ、例えば、アグロバクテリウム法、PEG−リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポソーム法、パーティクルガン法、マイクロインジェクション法等が挙げられる。アグロバクテリウム法を用いる場合は、プロトプラストを用いる場合、組織片を用いる場合、及び植物体そのものを用いる場合(in planta法)がある。プロトプラストを用いる場合は、TiプラスミドないしはRiプラスミドをもつアグロバクテリウム(それぞれAgrobacterium tumefaciensまたはAgrobacterium rhizogenes)と共存培養する方法、スフェロプラスト化したアグロバクテリウムと融合する方法(スフェロプラスト法)、組織片を用いる場合は、対象植物の無菌培養葉片(リーフディスク)に感染させる方法やカルス(未分化培養細胞)に感染させる等により行うことができる。また種子あるいは植物体を用いるin planta法を適用する場合、すなわち植物ホルモン添加の組織培養を介さない系では、吸水種子、幼植物(芽生え)、鉢植え植物などへのアグロバクテリウムの直接処理等にて実施可能である。これらの植物形質転換法は、「島本功、岡田清孝 監修、新版 モデル植物の実験プロトコール 遺伝学的手法からゲノム解析まで(2001)、秀潤社」などの一般的な教科書の記載に従って行うことができる。
遺伝子が植物体に組み込まれたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法、ウェスタンブロッティング法等により行うことができる。例えば、形質転換植物からDNAを調製し、目的遺伝子特異的プライマーを設計してPCRを行う。PCRを行った後は、増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動またはキャピラリー電気泳動等を行い、臭化エチジウム、SYBR Green液等により染色し、そして増幅産物を1本のバンドとして検出することにより、形質転換されたことを確認することができる。また、予め蛍光色素等により標識したプライマーを用いてPCRを行い、増幅産物を検出することもできる。さらに、マイクロプレート等の固相に増幅産物を結合させ、蛍光または酵素反応等により増幅産物を確認する方法でもよい。
あるいは、種々のレポーター遺伝子、例えばベータグルクロニダーゼ(GUS)、ルシフェラーゼ(LUC)、グリーンフルオレッセントプロテイン(GFP)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、ベータガラクトシダーゼ(LacZ)等の遺伝子を目的遺伝子の下流域に連結したベクターを作製し、該ベクター導入したアグロバクテリムを用いて上記と同様にして植物を形質転換させ、該レポーター遺伝子の発現を測定することによっても確認できる。
本発明において形質転換に用いられる植物としては単子葉植物または双子葉植物のいずれであってもよく、例えば、アブラナ科(シロイヌナズナ、キャベツ、ナタネ等)、イネ科(イネ、トウモロコシ、オオムギ、コムギ、等)、ナス科(トマト、ナス、ジャガイモ、タバコ等)、マメ科(ダイズ、エンドウ、インゲン等)、ヒルガオ科(サツマイモ等)、トウダイグサ科(キャツサバ等)、バラ科(イチゴ等)等に属する植物が挙げられるが、これらの植物に限定されるものではない。
本発明において、形質転換の対象とする植物材料としては、茎、葉、種子、胚、胚珠、子房、茎頂等の植物器官、葯、花粉等の植物組織やその切片、未分化のカルス、それを酵素処置して細胞壁を除いたプロプラスト等の植物培養細胞のいずれであってもよい。またin planta法適用の場合、吸水種子や植物体全体を利用できる。
本発明において、形質転換植物とは、植物体全体、植物器官(例えば葉、花弁、茎、根、穀実、種子等)、植物組織(例えば表皮、師部、柔組織、木部、維管束等)、または植物培養細胞(例えばカルス)のいずれをも意味するものである。
植物培養細胞を対象とする場合において、得られた形質転換細胞から形質転換体を再生させるためには既知の組織培養法により器官または個体を再生させればよい。このような操作は、植物細胞から植物体への再生方法として一般的に知られている方法により、当業者であれば容易に行うことができる。植物細胞から植物体への再生については、例えば、以下のように行うことができる。
まず、形質転換の対象とする植物材料として植物組織またはプロトプラストを用いた場合、これらを無機要素、ビタミン、炭素源、エネルギー源としての糖類、植物生長調節物質(オーキシン、サイトカイニン、ジベレリン、アブシジン酸、エチレン、ブラシノステロイド等の植物ホルモン)等を加えて滅菌したカルス形成用培地中で培養し、不定形に増殖する脱分化したカルスを形成させる(以下「カルス誘導」という)。このように形成されたカルスをオーキシン等の植物生長調節物質を含む新しい培地に移しかえて更に増殖(継代培養)させる。
カルス誘導は寒天等の固型培地で行い、継代培養は例えば液体培養で行うと、それぞれの培養を効率良くかつ大量に行うことができる。次に、上記の継代培養により増殖したカルスを適当な条件下で培養することにより器官の再分化を誘導し(以下、「再分化誘導」という)、最終的に完全な植物体を再生させる。再分化誘導は、培地におけるオーキシン等の植物生長調節物質、炭素源等の各種成分の種類や量、光、温度等を適切に設定することにより行うことができる。かかる再分化誘導により、不定胚、不定根、不定芽、不定茎葉等が形成され、更に完全な植物体へと育成させる。あるいは、完全な植物体になる前の状態(例えばカプセル化された人工種子、乾燥胚、凍結乾燥細胞及び組織等)で貯蔵等を行ってもよい。
本発明の形質転換植物は、当該遺伝子を導入した植物体(形質転換された細胞やカルスから再生された植物体を含む)の有性生殖または無性生殖により得られる子孫の植物体、及びその子孫植物体の組織や器官等の一部(種子、プロトプラストなど)も包含するものとする。
上記のようにして得られる形質転換植物は、前記シス因子制御下にある遺伝子を硫黄欠乏条件下で根において有意に発現することができる。また、当該形質転換植物は、その生育する環境における硫黄濃度の調節によって遺伝子発現量の制御も可能である。硫黄欠乏条件(硫黄濃度を減少)にするには、植物体の場合には硫黄肥料を土壌に施用しない、大量の潅水で土壌中の硫黄を溶脱させるなどの手段が挙げられ、培養細胞の場合は硫黄吸収阻害剤(セレン酸、クロム酸など)を培地に添加する、硫黄源を含まない培地に交換するなどの手段が挙げられる。一方、硫黄十分条件(硫黄濃度を増加)にするには、植物体の場合には硫黄肥料を土壌に施用する、培養細胞の場合は培地の一部または全部を硫黄源を含む培地に交換するなどの手段が挙げられる。
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものでない。
〔材料及び方法〕
後記各実施例において用いた材料及び方法は以下のとおりである。
(1) 植物の育成
実験にはシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana; 特に表記のない場合、コロンビア株Col)を用いた。植物の育成はMGRL寒天培地上(M.Y. Hirai, T. Fujiwara, M. Chino and S. Naito (1995) Effects of sulfate concentrations on the expression of a soybean seed storage protein gene and its reversibility in transgenic Arabidopsis thaliana. Plant Cell Physiol. 36: 1331-1339.)、22℃下で16時間/8時間の明暗サイクルのもとに行った。硫黄欠乏培地は、MGRL培地中に含まれる硫酸塩を塩化物塩に置き換えることにより作製した。硫黄十分、硫黄欠乏培地として硫酸イオンをそれぞれ1500μM、15μM含む培地を用いた。特に表記のない場合、実験には播種後10日目の植物の根を用いた。
(2) 形質転換用ベクター構築
植物形質転換用ベクターとしてpBI101またはpBI121(Clontech, Palo Alto, CA, USA)を、レポーター遺伝子としてルシフェラーゼ(Luc; Wako, Osaka, Japan)またはGFP (W.L. Chiu, Y. Niwa, W. Zeng, T. Hirano, H. Kobayashi and J. Sheen (1996) Engineered GFP as a vital reporter in plants. Curr. Biol. 6: 325-330.)のコード領域を用いた。
(2-1) SULTR2;1 promoter-GFP/Luc-SULTR2;1 terminator (PSULTR2;1-GFP/Luc-TSULTR2;1)、SULTR2;1 promoter-GFP/Luc-NOS terminator (PSULTR2;1-GFP/Luc-TNOS) 融合遺伝子の作製(図1、2)
SULTR2;1の5’領域、翻訳開始点より上流2535 bp(PSULTR2;1)をシロイヌナズナのゲノムDNAを鋳型としてPCRにより増幅し(使用プライマー: SULTR2;1PFSpe、SULTR2;1PRBam)、pCR-BluntII-TOPO (Invitrogen)へクローニング後、シークエンスを確認した。同様に、SULTR2;1の3’領域、翻訳終止コドンより下流1077 bp(TSULTR2;1)をPCRにより増幅し(使用プライマー: SULTR2;1TerFNot、SULTR2;1TerREco)、クローニング後、シークエンスを確認した。使用したプライマーの配列を以下に示す。
SULTR2;1PFSpe:5’-ACTAGTTATTTCTGTTACACGTCTCGTCCATTTCTA-3’(配列番号4)
SULTR2;1PRBam:5’-GGATCCTTCTTCTCGAGTTTTGACGTTGTGTGGAA-3’(配列番号5)
SULTR2;1TerFNot:5’-GCGGCCGCGAAACAGTTTTCAAAGGACCAGTTGTGTT-3’(配列番号6)
SULTR2;1TerREco:5’-GAATTCTCTTACCGAATGATCGATCACCACTCACT-3’(配列番号7)
SULTR2;1 3’領域のNotI-EcoRI断片をpTH2またはpTHLuc (pTH2中のGFP コード領域をNcoI-NotIサイトを用いてLucコード領域に置換したプラスミド)のNotI-EcoRIサイトにクローニングした。これらのプラスミド由来のGFP-TSULTR2;1、Luc-TSULTR2;1、GFP-TNOS、Luc-TNOSのBamHI-EcoRI断片、及びPSULTR2;1のSpeI-BamHI断片をpBI101のXbaI-EcoRIサイトに導入した。
(2-2) 35S promoter-Luc-SULTR2;1 terminator/NOS terminator (P35S-Luc-TSULTR2;1/TNOS)及びSULTR1;1 promoter-Luc-SULTR2;1 terminator/NOS terminator (PSULTR1;1-Luc-TSULTR2;1/TNOS)融合遺伝子の作製(図2)
前記のLuc-TSULTR2;1、Luc-TNOSのBamHI-EcoRI断片をpBI121のBamHI-EcoRIサイトに導入し、P35S-Luc-TSULTR2;1/TNOS融合遺伝子を持つ植物形質転換用ベクターを作製した。
SULTR1;1の5’領域、翻訳開始点より上流2453 bp(PSULTR1;1)のSalI-BamHI断片、及び前記のLuc-TSULTR2;1、Luc-TNOSのBamHI-EcoRI断片をpBI101のSalI-EcoRIサイトに導入し、PSULTR1;1-Luc-TSULTR2;1/TNOS融合遺伝子を持つ植物形質転換用ベクターを作製した。
(2-3) PSULTR2;1-Luc-TSULTR2;1融合遺伝子、 TSULTR2;1デリーション系統の作製(図3)
SULTR2;1の3’領域、翻訳終止コドンより下流663、459、449、431、411、391、372、360、352、332、267 bpを、SULTR2;1 3’領域、翻訳終止コドンより下流1077 bp を含むプラスミドを鋳型にPCRにより増幅し(使用プライマー: SULTR2;1TerFNot、及びSULTR2;1TerREco663、459、449、431、411、391、372、360、352、332、267)、pCR-BluntII-TOPOへとクローニング後、シークエンスを確認した。使用したプライマーの配列を以下に示す。
SULTR2;1TerFNot: 5’-GCGGCCGCGAAACAGTTTTCAAAGGACCAGTTGTGTT-3’ (配列番号8)
SULTR2;1TerREco663: 5’-GAATTCATCAAGTCTAATCAGATTCAGTGAACCTAGACGCA-3’ (配列番号9)
SULTR2;1TerREco459: 5’-GAATTCAGTACTAGTGTACTACTACTAATCAGTACGCT-3’ (配列番号10)
SULTR2;1TerREco449: 5’-GAATTCTGTACTACTACTAATCAGTACGCTATAAAGTCCTTCCA-3’ (配列番号11)
SULTR2;1TerREco431: 5’-GAATTCTACGCTATAAAGTCCTTCCACTAATTTGATTCACCAAATAC-3’ (配列番号12)
SULTR2;1TerREco411: 5’-GAATTCTAATTTGATTCACCAAATACGTAATTACTTTTGTTCAACAA-3’ (配列番号13)
SULTR2;1TerREco391: 5’-GAATTCGTAATTACTTTTGTTCAACAAGATACATTGAACCTAGA-3’ (配列番号14)
SULTR2;1TerREco372: 5’-GAATTCAAGATACATTGAACCTAGACATATATTTTTTTCCCCA-3’ (配列番号15)
SULTR2;1TerREco360: 5’-GAATTCAACCTAGACATATATTTTTTTCCCCAAATCGGTTTCTAGA-3’ (配列番号16)
SULTR2;1TerREco352: 5’-GAATTCATATATTTTTTTCCCCAAATCGGTTTCTAGAATTTTCAATAC-3’ (配列番号17)
SULTR2;1TerREco332: 5’-GAATTCGGTTTCTAGAATTTTCAATACAAAAATACCCCA-3’ (配列番号18)
SULTR2;1TerREco267: 5’-GAATTCAACAATCATACAAAACACCAATAATTCTCAAACT-3’ (配列番号19)
SULTR2;1 3’領域のNotI-EcoRI断片をpTHLucの NotI-EcoRIサイトにクローニングした後、これらのプラスミド由来のLuc-TSULTR2;1、BamHI-EcoRI断片、及びPSULTR2;1のSpeI-BamHI断片をpBI101のXbaI-EcoRIサイトに導入した。それぞれの融合遺伝子を用いて作製した形質転換植物系統を2;1PLT1077、2;1PLT663、2;1PLT459、2;1PLT449、2;1PLT431、2;1PLT411、2;1PLT391、2;1PLT372、2;1PLT360、2;1PLT352、2;1PLT332、2;1PLT267と名付けた(図3)。
(2-4) 332-459TSULTR2;1 (sense/antisense)-PSULTR2;1-Luc-TNOS、332-459TSULTR2;1 (sense/antisense)-PSULTR2;1 minimal-Luc-TNOS融合遺伝子の作製(図4)
SULTR2;1のminimal promoterとして、SULTR2;1の5’領域、翻訳開始点より上流142 bp(PSULTR2;1 minimal)のオリゴDNAをアニーリングによりXbaI-BamHI断片となるように作製した。使用したオリゴDNAの配列を以下に示す。
2;1miniProFXbaBam:A5’-CTAGACACCATGAGATTCCACTAACTCATGTGTATATAACATTAGGGAAGCAGTCAATTCATTTCAGCATCCACACACACTTTGAATGCTCAATCAAAGCTTCTTCATAGTTAAACTTCCACACAACGTCAAAACTCGAGAAGAAG-3’ (配列番号20)
2;1miniProRXbaBam:A5’-GATCCTTCTTCTCGAGTTTTGACGTTGTGTGGAAGTTTAACTATGAAGAAGCTTTGATTGAGCATTCAAAGTGTGTGTGGATGCTGAAATGAATTGACTGCTTCCCTAATGTTATATACACATGAGTTAGTGGAATCTCATGGTGT-3’ (配列番号21)
得られたXbaI-BamHI断片をpBI101Luc (pBI101中のGFP-TNOS領域を、BamHI-EcoRIサイトを用いてLuc-TNOS領域に置換したプラスミド)のXbaI-BamHIサイトにクローニングした。作製したプラスミド、及び前記のPSULTR2;1-Luc-TNOS融合遺伝子を持つpBI101のHindIII-XbaIサイトに、332-459TSULTR2;1 (sense/antisense) のHindIII-XbaI断片を挿入することにより、332-459TSULTR2;1 (sense/antisense) -PSULTR2;1-Luc-TNOS、332-459TSULTR2;1 (sense/antisense) -PSULTR2;1 minimal-Luc-TNOS融合遺伝子を持つ植物形質転換用ベクターを作製した。332-459TSULTR2;1 (sense/antisense) のHindIII-XbaI断片の作製は、SULTR2;1の3’領域、翻訳終止コドンより下流459から332 bpのオリゴDNAのアニーリングによりセンス、アンチセンス方向の断片となるように作製した。実験に用いたオリゴDNA配列を以下に示す。
2;1TerFHindXba(sense): 5’-AGCTTTGGGGAAAAAAATATATGTCTAGGTTCAATGTATCTTGTTGAACAAAAGTAATTACGTATTTGGTGAATCAAATTAGTGGAAGGACTTTATAGCGTACTGATTAGTAGTAGTACACTAGTACTGA-3’ (配列番号22)
2;1TerRHindXba(sense): 5’-CTAGTCAGTACTAGTGTACTACTACTAATCAGTACGCTATAAAGTCCTTCCACTAATTTGATTCACCAAATACGTAATTACTTTTGTTCAACAAGATACATTGAACCTAGACATATATTTTTTTCCCCAA-3’ (配列番号23)
2;1TerFHindXba(antisense): 5’-AGCTCAGTACTAGTGTACTACTACTAATCAGTACGCTATAAAGTCCTTCCACTAATTTGATTCACCAAATACGTAATTACTTTTGTTCAACAAGATACATTGAACCTAGACATATATTTTTTTCCCCAAA-3’ (配列番号24)
2;1TerRHindXba(antisense): 5’-CTAGTTTGGGGAAAAAAATATATGTCTAGGTTCAATGTATCTTGTTGAACAAAAGTAATTACGTATTTGGTGAATCAAATTAGTGGAAGGACTTTATAGCGTACTGATTAGTAGTAGTACACTAGTACTG-3’ (配列番号25)
(2-5) P35S minimal-GFP-TSULTR2;1、PSULTR1;1(+SURE)-GFP-TNOS、PSULTR1;1(-SURE)-GFP-TSULTR2;1融合遺伝子の作製(図8上)
前記のGFP-TSULTR2;1のBamHI-EcoRI断片をpBI101のBamHI-EcoRIサイトに導入した。作製したプラスミドのSalI-BamHIサイトにP35S minimal、PSULTR1;1(+SURE)、PSULTR1;1(-SURE) のSalI-BamHI断片を導入し、P35S minimal-GFP-TSULTR2;1、PSULTR1;1(+SURE)-GFP-TNOS、PSULTR1;1(-SURE)-GFP-TSULTR2;1融合遺伝子を持つ植物形質転換用ベクター作製した。
P35S minimalは、カリフラワーモザイクウイルス由来35S minmal promoter のオリゴDNAをアニーリングによりSalI-BamHI断片となるように作製し、使用した。使用したオリゴDNAの配列を以下に示す。
35SminiF-Sal: 5’-TCGAAGCAAGACCCTTCCTCTATATAAGGAAGTTCATTTCATTTGGAGAGGACACGCTG-3’ (配列番号26)
35SminiR-Bam: 5’-GATCCAGCGTGTCCTCTCCAAATGAAATGAACTTCCTTATATAGAGGAAGGGTCTTGCT-3’ (配列番号27)
PSULTR1;1(+SURE)、PSULTR1;1(-SURE)には、SULTR1;1の5’領域、翻訳開始点より上流3995、2453 bpの断片をそれぞれ用いた(A. Maruyama-Nakashita, Y. Nakamura, A. Watanabe-Takahashi, E. Inoue, T. Yamaya and H. Takahashi (2005) Identification of a novel cis-acting element conferring sulfur deficiency response in Arabidopsis roots. The Plant J. 42: 305-314.)。
(3) 形質転換植物の作製
上記で作製した植物形質転換用ベクターを迅速凍結融解法によりアグロバクテリウムAgrobacterium tumefaciens GV3101 (pMP90) に導入した(C. Koncz and J. Schell (1986) The promoter of T-DNA gene 5 controls the tissue-specific expression of chimaeric genes carried by a novel types of Agrobacterium binary vector. Mol. Gen. Genet. 204: 383-396.)。 シロイヌナズナの形質転換はフローラルディップ法により行った(S.J. Clough and A.F. Bent (1998) Floral dip: a simplified method for Agrobacterium-mediated transformation of Arabidopsis thaliana. Plant J. 16: 735-743.)。形質転換植物の選抜を50 mg/lのカナマイシン硫酸塩を含むGM培地上で行い (D. Valvekens, M. Van Montagu and M. Van Lijsebettens (1988) Agrobacterium-mediated transformation of Arabidopsis thaliana root explants by using kanamycin selection. Proc. Natl Acad. Sci. USA 85: 5536-5540.)、得られたT2またはT3 世代の形質転換植物を用いて実験を行った。
(4) SULTR2;1 T-DNA挿入変異株の単離
SULTR2;1のコード領域へのT-DNA挿入変異株(KO)としてSALK_095764(Col)とFLAG_498E11(Ws)を、SULTR2;1 3’領域へのT-DNA挿入変異株(tKO)としてSAIL_363_C06(Col)とFLAG_373B04(Ws)を取得した。SALK_095764はT-DNA挿入をホモに持つ系統を入手し(SALK homozygous line)、RT-PCRによりSULTR2;1 mRNAの全長が発現していないことを確認した。他のラインはT-DNAの挿入をPCRにより確認した後、次世代を用いたRT-PCRによりホモ系統であることを確認した。T-DNA挿入の確認に用いたプライマーを以下に示す。
2;1-g3260F:5’-TCGGGGATTACTGCTTTGCTGGAACTGCA-3’ (配列番号28)
2;1T656R:5’-GTCTAATCAGATTCAGTGAACCTAGACGCA-3’ (配列番号29)
(5) RT-PCRによるmRNAレベルの定量
トータルRNAの抽出にはRNeasy Plant Mini Kit(Qiagen, Hilden, Germany)を用いた。トータルRNAをDNase (Invitrogen, Groningen, Netherland)処理後、逆転写反応をOmniscript RT Kit (Qiagen)とoligo-d(T)12-18 (Invitrogen)を用いて行い、cDNAを作製した。cDNAを鋳型に、ExTaq (Takara-Bio, Tokyo, Japan)を用いてPCR反応液を作製し、GeneAmp PCR System 9700 (Applied Biosystem, Warrington, UK)を用いてPCR反応を行った後に、エチジウムブロマイドを含むアガロースゲル中で電気泳動を行うことにより、相対的なmRNAレベルを定量した。実験に用いた遺伝子特異的プライマーは以下の通りである。
(SULTR2;1の検出)
SULTR2;1-FA:5’- TCTTCATAGTTAAACTTCCACACAACGTC-3’ (配列番号30)
SULTR2;1-RA:5’- ACATGCAATAACCCGTAACACAACTGGTC-3’ (配列番号31)
(UBQ2の検出)
UBQ2-144F:5’-CCAAGATCCAGGACAAAGAAGGA-3’ (配列番号32)
UBQ2-372R:5’-TGGAGACGAGCATAACACTTGC-3’ (配列番号33)
(6) GFPの観察
植物体におけるGFP蓄積の観察はFluorImager 595 (図1、5左; Molecular Dynamics, Sunnyvale, CA, USA)を用いて文献[A. Maruyama-Nakashita, Y. Nakamura, T. Yamaya and H. Takahashi (2004) A novel regulatory pathway of sulfate uptake in Arabidopsis roots: implication of CRE1/WOL/AHK4-mediated cytokinin-dependent regulation. The Plant J. 38: 779-789.]に従って行った。実体蛍光顕微鏡(図8下)、共焦点顕微鏡を用いた観察(図5右)は文献[T. Kataoka, A. Watanabe-Takahashi, N. Hayashi, M. Ohnishi, T. Mimura, P. Buchner, M.J. Hawkesford, T. Yamaya and H. Takahashi (2004) Vacuolar sulfate transporters are essential determinants controlling internal distribution of sulfate in Arabidopsis. Plant Cell 16: 2693-2704.]に従って行った。
(7) ルシフェラーゼ活性の測定
ルシフェラーゼ活性の測定は文献[A. Maruyama-Nakashita, Y. Nakamura, A. Watanabe-Takahashi, E. Inoue, T. Yamaya and H. Takahashi (2005) Identification of a novel cis-acting element conferring sulfur deficiency response in Arabidopsis roots. The Plant J. 42: 305-314.]に従って行った。
(8) 硫酸イオン吸収活性の測定
硫酸イオン吸収活性の測定は文献[A. Maruyama-Nakashita, Y. Nakamura, T. Yamaya and H. Takahashi (2004) A novel regulatory pathway of sulfate uptake in Arabidopsis roots: implication of CRE1/WOL/AHK4-mediated cytokinin-dependent regulation. The Plant J. 38: 779-789.]に従って行った。
〔実験結果〕
(実施例1)SULTR2;1の硫黄欠乏に応じた3’領域依存的遺伝子発現上昇とシス因子の同定
SULTR2;1の根における遺伝子発現は硫黄欠乏により上昇する。このSULTR2;1の遺伝子発現上昇を制御するシス因子を同定する目的で、SULTR2;1の5’領域(翻訳開始コドンより上流2535bp; PSULTR2;1)、3’領域(終止コドンより下流1077bp; TSULTR2;1)(配列番号1)をGFP、ルシフェラーゼ(Luc)に連結した融合遺伝子を作製し、シロイヌナズナに導入した(図1、2)。これらの形質転換植物を硫黄十分(+S)、硫黄欠乏(-S)条件下で育成し、GFPの蓄積、ルシフェラーゼ活性を測定した。PSULTR2;1の下流にGFPまたはLuc、及びNOSターミネーターを連結した場合には(2;1PGN、2;1PLN)、GFP、ルシフェラーゼ活性がともに硫黄欠乏によって減少した(図1、2)。これに対して、PSULTR2;1の下流にGFPまたはLuc、及びTSULTR2;1を連結した場合には(2;1PGT、2;1PLT)、GFP、ルシフェラーゼ活性がともに硫黄欠乏によって著しく上昇した(図1、2)。これらの結果から、SULTR2;1の硫黄欠乏による遺伝子発現上昇は、3’領域依存的に誘導されると結論した。
(実施例2)SULTR2;1 3’領域の効果に対するプロモーターの種類の影響
SULTR2;1 3’領域の効果は5’領域に35S promoter(P35S)、SULTR1;1 promoter (PSULTR1;1)を用いた場合にも再現された(図2)。
SULTR1;1の発現も硫黄欠乏により上昇し、すでに5’領域に存在する硫黄栄養応答性シス因子を同定している(A. Maruyama-Nakashita, Y. Nakamura, A. Watanabe-Takahashi, E. Inoue, T. Yamaya and H. Takahashi (2005) Identification of a novel cis-acting element conferring sulfur deficiency response in Arabidopsis roots. The Plant J. 42: 305-314.)。PSULTR1;1として、硫黄栄養応答性シス因子を含まない領域を用い、下流にLuc及びNOSターミネーターを連結した場合には(1;1PLN)、硫黄欠乏によってルシフェラーゼ活性が減少し、Luc及びTSULTR2;1を連結した場合には(1;1PLT)、ルシフェラーゼ活性が上昇するという結果が得られた(図2)。
PSULTR2;1の下流にLuc及びTSULTR2;1を連結した場合には(2;1PLT)、硫黄十分条件と比較して6.4倍の活性上昇が認められたが、PSULTR1;1の下流にLuc及びTSULTR2;1を連結した場合には(1;1PLT)、硫黄十分条件と比較して400倍にも及ぶ効果が認められた。
P35Sを用いた場合、その下流にLuc及びNOSターミネーターを連結した場合(35SLN)の硫黄欠乏によるルシフェラーゼ活性の減少(0.05倍)がLuc及びTSULTR2;1を連結した場合(35SLT)に10倍以上に回復する(0.57倍)という形でTSULTR2;1の効果が認められた。
これらの結果は、TSULTR2;1が5’領域を選ばずに効果を発揮することを示しており、TSULTR2;1が何らかの形で基本転写因子に働きかけることを示唆している。また、TSULTR2;1の効果の程度については、使用する5’領域によって異なることが明らかになった。また、35SLNと35SLTとでは通常条件(硫黄十分条件)において50倍ほどのルシフェラーゼ活性の上昇が認められたことから、TSULTR2;1がP35Sによる過剰発現の効果をさらに高める効果を持つことが明らかになった。
(実施例3)SULTR2;1 3’領域のデリーション実験
実施例1より、SULTR2;1 3’領域が硫黄欠乏応答に重要な役割を果たすことを見出した。SULTR2;1 3’領域による遺伝子発現誘導の分子機構をさらに明らかにする目的で、SULTR2;1 3’領域のデリーション実験を行った(図3)。前記の2;1PLT中のTSULTR2;1に、終止コドンより下流663、459、449、431、411、391、372、360、352、332、267bpの領域を用いることにより、TSULTR2;1のデリーション系統を作製し、形質転換系統を得た。それぞれの融合遺伝子について、シロイヌナズナゲノム上の遺伝子挿入部位の異なる6系統を用いて+S、-S条件下におけるルシフェラーゼ活性を測定した。+S、-S条件におけるルシフェラーゼ活性比を算出したところ、SULTR2;1終止コドンより下流459-450bp、372-361bpの領域に硫黄欠乏によるルシフェラーゼ活性上昇に重要な領域があることが分かった。これら2つの領域について塩基置換系統を作製し、同様の実験を行ったところ、いずれの塩基置換系統においても著しく硫黄栄養応答性が低下した(データは示さず)。このことから、SULTR2;1の終止コドンより下流361 : CAATGTATC : 369(配列番号2)、及び450 : CTAGTACTGA : 459(配列番号3)の2つの領域がSULTR2;1の硫黄栄養応答性シス因子であると結論した。SULTR2;1の硫黄栄養応答性シス因子は3’非翻訳領域より外側の非転写領域に存在しており、このことからもSULTR2;1の3’領域がSULTR2;1の発現を転写レベルで調節していると考えられる。
(実施例4) SULTR2;1の硫黄栄養応答領域の上流側での効果
硫黄栄養応答領域を含むSULTR2;1終止コドンより下流459から332bpの領域を、PSULTR2;1またはSULTR2;1 minimal promoter(mPSULTR2;1)の上流に連結し、その制御下にLucを発現させる融合遺伝子を作製し、シロイヌナズナに導入した。PSULTR2;1の上流にSULTR2;1硫黄栄養応答領域を連結した場合、硫黄欠乏によるルシフェラーゼ活性の上昇は認められなかったが、mPSULTR2;1の上流に連結した場合には硫黄欠乏によるルシフェラーゼ活性の上昇が認められた(図4)。この結果は、SULTR2;1の硫黄栄養応答領域は、mPSULTR2;1に用いた142bpほど上流域においては正逆両方向に作用しうるが、PSULTR2;1(2535bp)の上流域では作用できないことを示しており、SULTR2;1の硫黄栄養応答領域が上流域で効果を発揮するためには、近距離に配置することが重要であると考えられる。
(実施例5) 硫黄欠乏条件下における2;1PGT植物のGFP発現
SULTR2;1は、低親和型の硫酸イオントランスポーターであり、地上部、地下部ともに維管束組織で発現し、根においては内鞘細胞及び維管束柔細胞で発現することが報告されている(H. Takahashi, A. Watanabe-Takahashi, F.W. Smith, M. Blake-Kaff, M.J. Hawkesford and K. Saito (2000) The role of three functional sulfate transporters involved in uptake and translocation of sulphate in Arabidopsis thaliana. Plant J. 23: 171-182.)。このことから、SULTR2;1が植物体内において根から地上部への硫酸イオンの移行を担っていると考えられてきた。ところが、前記の2;1PGT植物を硫黄欠乏条件下で育てた場合には、維管束組織に加え、根の内皮、皮層においてもGFPの蓄積が観察された(図5)。このことは、硫黄欠乏条件下においてはSULTR2;1が硫酸イオンの吸収にも関わる可能性を示唆している。
(実施例6) SULTR2;1 T-DNA挿入変異株における硫黄栄養応答
硫酸イオンの吸収及び地上部への移行に果たすSULTR2;1の役割を明らかにする目的で、SULTR2;1のコード領域にT-DNAが挿入された遺伝子欠損変異株(KO)、及びSULTR2;1の3’非翻訳領域より外側でかつ硫黄栄養応答領域よりも内側にT-DNAが挿入された変異株(tKO)を、Col、Wsについて取得した(図6上)。硫黄十分、硫黄欠乏条件下での根及び地上部におけるSULTR2;1 mRNAの蓄積をRT-PCRにより解析したところ、KOではSULTR2;1 mRNAが完全に認められないのに対し、tKO では根における硫黄欠乏に応答したSULTR2;1 mRNAの蓄積のみが失われていた(図6下)。このことは、植物のゲノム内においてもSULTR2;1 3’領域が硫黄栄養応答領域として機能していることを示している。
(実施例7)SULTR2;1 T-DNA挿入変異株における硫酸イオンの吸収
野生株、KO、tKOを用いて、硫黄十分、硫黄欠乏条件下における硫酸イオンの吸収活性を解析した(図7)。硫黄十分条件ではKOのみで硫酸イオン吸収活性の減少が認められた。これに対し、硫黄欠乏条件ではKO、tKOでともに硫酸イオン吸収活性の減少が認められた。図7ではWsにおける吸収活性のみを示したが、地上部への移行についても同様の結果が得られ、またColにおいても同様の結果が得られた。これらの結果から、SULTR2;1は硫酸イオンの吸収及び根から地上部への硫酸イオンの移行に携わっており、硫黄欠乏条件下においては3’領域による根での発現誘導を介してこの役割を果たすことが明らかとなった。
(実施例8) SULTR2;1の3'領域による硫黄欠乏応答の組織特異性
2;1PGT植物では、根の維管束組織、内皮、皮層に特異的な硫黄欠乏によるGFPの蓄積が認められた(図5)。TSULTR2;1が硫黄欠乏条件下での発現誘導にあたり組織特異性をも制御するか否かを明らかにする目的で、minimal 35S promoter (P35Sminimal) 、SULTR1;1 promoterの硫黄栄養応答領域有り(PSULTR1;1(+SURE))または無し(PSULTR1;1(-SURE))の下流に、GFP、及びTSULTR2;1またはTNOSを連結した融合遺伝子を作製し、シロイヌナズナに導入した。前記の2;1PGT植物では、根の全体で硫黄欠乏によるGFPの蓄積が認められ、根の基部側で若干強い蓄積が観察された(図1、5、8)。
P35Sminimalの下流にGFP及びTNOSを連結した融合遺伝子を持つ形質転換植物では、P35Sminimalの特性から、硫黄十分、硫黄欠乏条件でともにGFPの蓄積が認められない(データは示さず)。これに対し、P35Sminimal及びTSULTR2;1を用いた植物(35mPGT)では、硫黄欠乏条件下においてのみ根におけるGFPの蓄積が認められ、特に根の基部側において強い誘導が認められた(図8)。また、硫黄欠乏条件下におけるGFPの蓄積がSULTR1;1の硫黄栄養応答領域に依存するPSULTR1;1(+SURE) :: GFP :: TNOS(1;1PGN (+1;1SURE))植物と、硫黄欠乏条件下におけるGFPの蓄積がSULTR2;1の硫黄栄養応答領域に依存するPSULTR1;1(-SURE)::GFP::TSULTR2;1(1;1PGT(-1;1SURE))植物とを比較すると、1;1PGN(+1;1SURE)植物では主として根の吸収帯において硫黄欠乏に応じたGFPの蓄積が認められるのに対し、1;1PGT(-1;1SURE) 植物では根の基部側において強いGFPの蓄積が認められた(図8)。これらの結果は、TSULTR2;1が硫黄欠乏に応じた根での発現上昇に加え、根の基部側という組織特異性を持った発現誘導を担うことを示している。
図1の上段は、SULTR2;1のゲノム構造を示す。下段の植物形質転換用ベクターコントラクトに用いたSULTR2;1の5’領域(PSULTR2;1)および3’領域(TSULTR2;1)とその長さを示す。図1の下段は、PSULTR2;1の下流にGFP及びTSULTR2;1を連結したベクター(2;1PGT)、PSULTR2;1の下流にGFP及びNOSターミネーターを連結したベクター(2;1PGN)で形質転換した植物における、硫黄十分(+S)、硫黄欠乏(-S)条件下でのGFP蓄積を示す。 図2の左は、プロモーターの種類の検討に用いた植物形質転換用ベクターコンストラクトを示す。図2の中央は、各ベクターで形質転換した植物の根における、硫黄十分(+S、黒)、硫黄欠乏(-S、白)条件下でのルシフェラーゼ活性を示す。各ベクターにつき6系統の形質転換植物を用いた。バーは系統間の平均値を、エラーバーは標準誤差を示す。図2の右は、硫黄十分、硫黄欠乏条件下でのルシフェラーゼ活性の比を示す。グラフ中の各点は形質転換系統を、数字は比の平均値を示す。 図3の左は、硫黄栄養応答性配列の特定に用いた植物形質転換用ベクターコンストラクトを示す。図3の中央は、各ベクターで形質転換した植物の根における、硫黄十分(+S、白)、硫黄欠乏(-S、黒)条件下でのルシフェラーゼ活性を示す。各ベクターにつき6系統の形質転換植物を用いた。バーは系統間の平均値を、エラーバーは標準誤差を示す。図3の右は、硫黄十分、硫黄欠乏条件下でのルシフェラーゼ活性の比を示す。グラフ中の各点は形質転換系統を、数字は比の平均値を示す。 図4の左は、硫黄栄養応答性配列の挿入位置に関する検討に用いた植物形質転換用ベクターコンストラクト[SULTR2;1 minimal promoter (-142bp;上段)、 promoter (-2535bp; 下段)の上流に3’硫黄栄養応答性領域を正方向、逆方向に挿入したベクター]を示す。図3の中央は、各ベクターで形質転換した植物の根における、硫黄十分(+S、白)、硫黄欠乏(-S、黒)条件下でのルシフェラーゼ活性を示す。各ベクターにつき6系統の形質転換植物を用いた。バーは系統間の平均値を、エラーバーは標準誤差を示す。図4の右は、硫黄十分、硫黄欠乏条件下でのルシフェラーゼ活性の比を示す。グラフ中の各点は形質転換系統を、数字は比の平均値を示す。 図5の左は、PSULTR2;1-GFP-TSULTR2;1植物の硫黄十分(+S)、硫黄欠乏(-S)条件下でのGFP蓄積を示す。図5の右は、硫黄欠乏(-S)条件下におけるPSULTR2;1-GFP-TSULTR2;1植物の根の拡大写真を示す。 図6の上段は、SULTR2;1のコード領域にT-DNAが挿入された遺伝子欠損変異株(KO)とSULTR2;1の3’領域(3’UTRより外側、硫黄栄養応答性配列より内側)にT-DNAが挿入された変異株(tKO)を示す(Col株(白)、Ws株(黒))。図6の下段は、各T-DNA挿入変異株の硫黄十分(+)、硫黄欠乏(-)条件下での根および地上部におけるSULTR2;1 mRNAの蓄積を示す。 図7は、野生株(WT)、SULTR2;1 T-DNA挿入変異株(KO、 tKO)の硫黄十分(黒)、硫黄欠乏(白)条件下における硫酸イオンの吸収活性を示す。野生株に対して有意差のあるものに*(**はp<0.05.*はp<0.1)を、KOに対して有意差のあるものに**はp<0.05.はp<0.1)を記した。 図8の上段は、SULTR2;1 3’領域による硫黄欠乏応答の組織特異性の検討に用いた植物形質転換用ベクターコンストラクトを示す。図8の下段は、各ベクターで形質転換した植物における、硫黄十分(+S)、硫黄欠乏(-S)条件下でのGFPの蓄積を示す。

Claims (13)

  1. 以下の(a)〜(d)のいずれかに示すDNA断片からなる、硫黄欠乏応答性シス因子。
    (a) 配列番号1に示す塩基配列からなるDNA断片
    (b) 配列番号1に示す塩基配列の361番目〜369番目の塩基配列および450番目〜459番目の塩基配列以外の部分において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されたされた塩基配列からなり、かつ硫黄欠乏応答性シス因子として機能しうるDNA断片
    (c) 配列番号1に示す塩基配列に対して80%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつ硫黄欠乏応答性シス因子として機能しうるDNA断片
    (d) 配列番号1に示す塩基配列からなるDNA断片と相補的な塩基配列からなるDNA断片とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ硫黄欠乏応答性シス因子として機能しうるDNA断片
  2. 配列番号2に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、または配列番号3に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを少なくとも一つ含むDNA断片からなる、硫黄欠乏応答性シス因子。
  3. 硫黄欠乏応答性シス因子が、その上流または下流に配置される遺伝子の発現を硫黄欠乏条件下で誘導することを特徴とする、請求項1または2に記載の硫黄欠乏応答性シス因子。
  4. 遺伝子の発現誘導が根特異的である、請求項3に記載の硫黄欠乏応答性シス因子。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の硫黄欠乏応答性シス因子を含有する、組換えベクター。
  6. 前記硫黄欠乏応答性シス因子の上流に目的遺伝子を含有する、請求項5に記載の組換えベクター。
  7. 前記目的遺伝子の上流に構成的に発現するプロモーターを含有する、請求項6に記載の組換えベクター。
  8. 構成的に発現するプロモーターが、カリフラワーモザイクウイルス由来の35Sプロモーターである、請求項7に記載の組換えベクター。
  9. 前記硫黄欠乏応答性シス因子の下流に目的遺伝子を含有する、請求項5に記載の組換えベクター。
  10. 請求項5〜9のいずれかに記載の組換えベクターを導入した形質転換植物。
  11. 植物が、植物体、植物器官、植物組織、または植物培養細胞である、請求項10に記載の形質転換植物。
  12. 請求項5〜9のいずれかに記載の組換えベクターを植物細胞に導入し、該植物細胞から植物体を再生することを特徴とする、形質転換植物の作出方法。
  13. 請求項11に記載の形質転換植物の生育する環境における硫黄濃度またはセレン酸濃度を調節することを特徴とする、遺伝子発現の制御方法。
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