JP2009191338A - 表面外観およびめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 本発明は、筋模様の発生を抑制し、かつ加工時のめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 質量%で、C:0.0001〜0.015%、Si:0.001〜0.3%、Mn:0.01〜1.0%、P:0.001〜0.1%、S:0.0001〜0.015%、Al:0.005〜0.1%、N:0.0005〜0.007%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼板母材の表面に、質量%で、Fe:5.0〜20.0%、Al:0.01〜0.5%、Ni:0.01〜10%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなるめっき層を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、該鋼板母材表層に筋状の{001}組織を有することを特徴とする、表面外観およびめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板である。
【選択図】 なし
【解決手段】 質量%で、C:0.0001〜0.015%、Si:0.001〜0.3%、Mn:0.01〜1.0%、P:0.001〜0.1%、S:0.0001〜0.015%、Al:0.005〜0.1%、N:0.0005〜0.007%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼板母材の表面に、質量%で、Fe:5.0〜20.0%、Al:0.01〜0.5%、Ni:0.01〜10%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなるめっき層を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、該鋼板母材表層に筋状の{001}組織を有することを特徴とする、表面外観およびめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板である。
【選択図】 なし
Description
本発明は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板に係り、さらに詳しくは表面外観およびめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板として、種々の用途、例えば自動車用内外板として適用できる鋼板に関する。
合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、塗装密着性、塗装後耐食性、溶接性などの点に優れることから、自動車用を始めとして、家電、建材等に多用されている。合金化溶融亜鉛めっき鋼板は鋼板表面に溶融亜鉛をめっきした後、直ちに亜鉛の融点以上の温度に加熱保持して、鋼板中からFeを亜鉛中に拡散させることで、Zn−Fe合金を形成させるものであるが、鋼板の組成や組織によって合金化速度が大きく異なるため、その制御はかなり高度な技術を要する。一方、複雑な形状にプレスされる自動車用鋼板には、非常に高い成形性が要求されるとともに、近年では自動車の防錆性能への要求が高まったことによって、合金化溶融亜鉛めっき鋼板が自動車用鋼板に適用されるケースが増加している。さらに、合金化溶融亜鉛めっき鋼板が、自動車用の外板として用いられる場合は、塗装後の外観が非常に厳しく求められる。
ところが、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面に、筋状の合金化ムラ模様(以下、筋模様と称する)が存在すると、化成処理、電着塗装後にも筋模様が残存するため、外観を非常に悪化させることになる。そのため、筋模様が存在するような合金化溶融亜鉛めっき鋼板は製品として出荷できず、生産性や歩留まり低下の原因となっていた。
塗装後の外観以外にも、合金化溶融亜鉛めっき鋼板には、複雑な形状にプレス加工した際でも、めっきが密着していることが求められる。
合金化溶融亜鉛めっき鋼板のめっき層の構造は、めっき層と鋼板の界面からΓ相(Zn10Fe3)、Γ1相(Zn21Fe5)、δ1相(Zn7Fe)、ζ相(Zn13Fe)という、FeとZnの金属間化合物の積層構造になっている。このうち界面に存在するΓ相は非常に硬くて脆く、加工時に容易に破壊される。このため、複雑な形状にプレス加工すると、界面のΓ相を起点としてめっき層が剥離する、所謂パウダリングが起こる場合がある。
特に近年は自動車デザインが多様化しており、合金化溶融亜鉛めっき鋼板が、複雑なボディ形状にプレス加工されるケースでは、強加工部でのパウダリングが問題となっていた。
上記のような筋模様や、強加工時のパウダリングを抑制するために、これまで種々の方法が検討されて来た。
例えば、特許文献1には、鋼板母材の成分と熱延条件を制御して、鋼板母材表層の析出物を制御し、焼鈍時に鋼板母材を均一に再結晶させることによって筋模様を抑制させる方法が開示されている。しかし、この方法では任意の組成の鋼板では必ずしも筋模様を抑制させることができなかった。また、特許文献2には、Γ相の厚みを薄くして、パウダリングを抑制させる方法が開示されている。しかし、強化加工時には必ずしもパウダリングを完全には抑制できなかった。
本発明は前述のような問題を解決し、良好な表面外観と強加工時のめっき密着性を確保することにより、表面外観とめっき密着性が両立した合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供することを目的としている。
本発明者らは、まず、筋模様の原因について鋭意調査した。その結果、鋼板母材表層に筋状の{001}組織が存在していると、溶融亜鉛めっき後の合金化処理を施す際、筋状の{001}組織に沿って合金化むらが生じ、筋模様として見えることを明らかにした。次に、鋼板母材表層に筋状の{001}組織が存在していても、筋模様を抑制できる方法について検討したところ、めっき層中にNiを含有させることにより、筋模様を抑制できることを見出した。また一方で、合金化溶融亜鉛めっき鋼板のめっき密着性について調べたところ、鋼板母材表層に筋状の{001}組織を有している鋼板の方が、強加工時においてもめっき密着性が向上することを見出した。すなわち、めっき層中にNiを含有させることにより、鋼板母材の表層に筋状の{001}組織を存在させたまま表面外観の良好な合金化溶融亜鉛めっき鋼板の提供が可能となり、そのことにより、めっき密着性のさらなる向上が可能となったのである。
めっき層中にNiを含有させることにより、鋼板母材の表層に筋状の{001}組織が存在していても筋模様が抑制できる理由、および、筋状の{001}組織が存在することにより、めっき密着性が向上する理由の詳細については不明であるが、めっき層および鋼板母材を上記の構造とすることで、表面外観とめっき密着性を両立できることを見出したのである。
本発明は、上記知見に基づいて完成されたもので、その要旨とするところは、以下の通りである。
(1) 質量%で、
C:0.0001〜0.015%、
Si:0.001〜0.3%、
Mn:0.01〜1.0%、
P:0.001〜0.1%、
S:0.0001〜0.015%、
Al:0.005〜0.1%、
N:0.0005〜0.007%
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼板母材の表面に、質量%で、
Fe:5.0〜20.0%、
Al:0.01〜0.5%
Ni:0.01〜10%
を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなるめっき層を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、該鋼板母材表層に筋状の{001}組織を有することを特徴とする、表面外観およびめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
C:0.0001〜0.015%、
Si:0.001〜0.3%、
Mn:0.01〜1.0%、
P:0.001〜0.1%、
S:0.0001〜0.015%、
Al:0.005〜0.1%、
N:0.0005〜0.007%
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼板母材の表面に、質量%で、
Fe:5.0〜20.0%、
Al:0.01〜0.5%
Ni:0.01〜10%
を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなるめっき層を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、該鋼板母材表層に筋状の{001}組織を有することを特徴とする、表面外観およびめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
(2)筋状の{001}組織が幅10〜2000μm、長さ100〜10000μmであることを特徴とする、前記(1)に記載の表面外観およびめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
(3)筋状の{001}組織が、10cm2あたり1個〜50個存在することを特徴とする、前記(1)または(2)に記載の表面外観およびめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
(4)質量%で、
C:0.0001〜0.015%、
Si:0.001〜0.3%、
Mn:0.01〜1.0%、
P:0.001〜0.1%、
S:0.005〜0.015%、
Al:0.0001〜0.1%、
N:0.0005〜0.007%
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなるスラブを、熱間圧延した後、酸洗、冷間圧延を施し、表層の平均粒径が0.1〜10μmである筋状の結晶粒組織を形成させた鋼板上に、Niを0.01〜10g/m2めっきし、その後連続溶融亜鉛めっき設備において700〜850℃で焼鈍した後に、溶融亜鉛めっき処理することによって、前記鋼板の表面上に溶融亜鉛めっき層を形成し、次いで、前記溶融亜鉛めっき層が形成された前記鋼板に対し合金化処理を施すことによって、前記鋼板の表面に質量%で、
Fe:5.0〜20.0%、
Al:0.01〜0.5%、
Ni:0.01〜10%、
を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる合金化溶融亜鉛めっき層を形成する合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法であって、前記溶融亜鉛めっき処理を、浴中Al濃度:0.07〜0.2%の溶融亜鉛めっき浴中で行い、440〜580℃において合金化処理を行うことを特徴とする、表面外観およびめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
C:0.0001〜0.015%、
Si:0.001〜0.3%、
Mn:0.01〜1.0%、
P:0.001〜0.1%、
S:0.005〜0.015%、
Al:0.0001〜0.1%、
N:0.0005〜0.007%
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなるスラブを、熱間圧延した後、酸洗、冷間圧延を施し、表層の平均粒径が0.1〜10μmである筋状の結晶粒組織を形成させた鋼板上に、Niを0.01〜10g/m2めっきし、その後連続溶融亜鉛めっき設備において700〜850℃で焼鈍した後に、溶融亜鉛めっき処理することによって、前記鋼板の表面上に溶融亜鉛めっき層を形成し、次いで、前記溶融亜鉛めっき層が形成された前記鋼板に対し合金化処理を施すことによって、前記鋼板の表面に質量%で、
Fe:5.0〜20.0%、
Al:0.01〜0.5%、
Ni:0.01〜10%、
を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる合金化溶融亜鉛めっき層を形成する合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法であって、前記溶融亜鉛めっき処理を、浴中Al濃度:0.07〜0.2%の溶融亜鉛めっき浴中で行い、440〜580℃において合金化処理を行うことを特徴とする、表面外観およびめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
(5)前記(4)に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、冷延鋼板上の筋状の結晶粒組織が幅10〜2000μm、長さ100〜10000μmであることを特徴とする、表面外観およびめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
(6)前記(4)または(5)に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、冷延鋼板上の筋状の結晶粒組織が、10cm2あたり1個〜50個存在することを特徴とする、表面外観およびめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、めっき層中にNiを含有させることで筋模様を抑制するため表面外観が良く、かつ鋼板母材表層に筋状の{001}組織を存在させることで、めっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供することを可能としたものであり、自動車の内外板の用途に極めて有効である。
以下、本発明を詳細に説明する。
まず、上記(1)において、鋼中成分を限定している理由を説明する。
C:Cは鋼の強度を高める元素であって0.0001質量%以上を含有させることが有効であるが、過剰に含有すると強度が上昇しすぎて加工性が低下するので上限含有量は0.015質量%とする。特に高い加工性を必要とする場合には、C含有量は0.010質量%以下とする。
C:Cは鋼の強度を高める元素であって0.0001質量%以上を含有させることが有効であるが、過剰に含有すると強度が上昇しすぎて加工性が低下するので上限含有量は0.015質量%とする。特に高い加工性を必要とする場合には、C含有量は0.010質量%以下とする。
Si:Siも鋼の強度を向上させる元素であって0.001質量%以上を含有させるが、過剰に含有すると加工性および溶融亜鉛めっき性を損なうので、上限は0.3質量%とする。特に高い加工性を必要とする場合には、Si含有量は0.1質量%以下とする。
Mn:Mnも鋼の強度を高める一方で加工性を低下させる元素であるので、上限含有量は1.0質量%とする。Mnが少ないほど加工性は良好であるが、0.01質量%以下とするためには精錬コストが多大となるので下限含有量は0.01質量%とする。強度、加工性とコストのバランスから、0.1〜0.6質量%とすることが好ましい。
P:Pも鋼の強度を高める一方で加工性を低下させる元素であるので、上限含有量は0.1質量%とする。P含有量を0.001質量%未満に低減するためには精錬コストが多大となるので、下限含有量は0.001質量%とする。強度、加工性とコストのバランスから、0.02〜0.08質量%とすることが好ましい。
S:Sは鋼の熱間加工性、耐食性を低下させる元素である。0.015質量%を超えると熱間加工性、耐食性を悪化させるため、上限を0.015質量%とする。0.0001質量%未満とするのはコスト的に不利であるため、下限を0.0001質量%とする。但し、Sを低減し過ぎると表面欠陥が発生し易くなるため、0.008質量%以上とすることが好ましい。
Al:Alは鋼の脱酸元素として、またAlNによる熱延素材の細粒化、および一連の熱処理工程における結晶粒の粗大化を抑制し材質を改善するために0.005質量%以上添加する必要がある。但し、0.1質量%を超えると溶接性を悪化させる恐れがあるため、その含有量は0.1質量%以下とする。さらに、アルミナクラスターによる表面欠陥を少なくする観点から、0.01質量%以下とすることが好ましい。
N:Nは鋼の強度を上昇させる一方で加工性を低下させるので上限は0.007%とする。特に高い加工性を必要とする場合には、0.003質量%以下とすることがより好ましく、0.002質量%以下とするとさらに好ましい。Nはより少ないほど好ましいが、0.0005%未満に低減することは過剰なコストを要するので、下限含有量は0.0005%とする。
本発明において、亜鉛めっき層中のFe含有量を5.0〜20.0質量%の範囲に限定しているのは、5.0質量%未満では、スポット溶接性が劣るからであり、20.0質量%を超えると、Γ相の厚さが厚くなりすぎるために、本件で規定しているような鋼板母材およびめっき層の構造としても、めっき密着性の確保が困難となるからである。好ましくは9〜12質量%の範囲とすることである。
めっき層中のAl含有量を0.01〜0.5質量%の範囲に限定しているのは、めっき層中にAlを0.01質量%以上含有させることにより、過剰なζ相、Γ相の生成を抑制することができるからである。また、0.5質量%を超えてAlを添加すると、Alがめっき層表面に濃化して、スポット溶接性を悪化させる。そのため、上限を0.5質量%とした。好ましくは0.1〜0.3質量%の範囲とすることである。
めっき層中のNi含有量を0.01〜10質量%の範囲に限定しているのは、めっき層中にNiを0.01質量%以上含有含有させることにより、筋模様を抑制する効果が現れるからである。また、10質量%を超えてNiを添加すると、耐食性、スポット溶接性を悪化させる恐れがあるからである。好ましくは5質量%以下とすることである。
めっき層中にNiを含有させることにより筋模様を抑制することができるのは、めっき層中のNiがFe−Zn合金化反応を促進する効果を持つので、Niの含有により、筋模様の原因である合金化ムラ部と合金化正常部の合金化速度差が小さくなり、全体に合金化反応が均一となるからであると考えられる。
めっき層中にNiを含有させる方法としては、特に限定されるものではないが、連続溶融亜鉛めっきラインの通板前に、鋼板表面にNiをめっきし、その後焼鈍、めっき、合金化する方法が考えられる。
めっき層中のFe、Al及びNiの濃度を測定するには、めっき層を酸で溶解し、溶解液を化学分析する方法を用いればよい。例えば、30mm×40mmに切断した合金化溶融亜鉛めっき鋼板について、インヒビタを添加した5%HCl水溶液で、鋼板母材の溶出を抑制しながらめっき層のみを溶解し、溶解液をICP発光して得られた信号強度と、濃度既知溶液から作成した検量線からFe、Al及びNiの含有量を定量する方法を用いればよい。
めっき付着量については、特に制約は設けないが、耐食性の観点から片面付着量で5g/m2以上であることが望ましい。また、めっき密着性を確保すると言う観点からは、片面付着量で100g/m2を超えないことが望ましい。本発明の溶融亜鉛めっき鋼板上に、塗装性、溶接性を改善する目的で、上層めっきを施すことや、各種の処理、例えば、クロメート処理、非クロメート処理、りん酸塩処理、潤滑性向上処理、溶接性向上処理等を施しても、本発明を逸脱するものではない。
本発明において、鋼板母材表層の筋状の{001}組織について規定している理由を以下に説明する。鋼板母材表層の筋状の組織が、{001}であるとしているのは、{001}とすることでめっき密着性が向上するからである。{001}組織とは、鋼板母材板面の結晶面が{001}に集積した粒の集合組織のことを指し、筋状の{001}組織とは、{001}集合組織が、鋼板母材の圧延方向に長く伸びたような形態を持つものを指す。{001}組織の、鋼板母材の圧延方向の径を長さ、圧延方向に垂直な方向の径を幅とし、長さが幅の2倍以上であるものを筋状と定義する。筋状の{001}組織の存在する深さとしては、少なくとも鋼板母材の最表面に存在していればよく、その深さは特に限定されるものではない。鋼板の加工性を求める場合には、筋状の{001}組織の存在深さを50μm以内とすることが好ましい。ここで、以下、鋼板母材表層の組織の結晶面を標記する場合、鋼板母材の板面に平行な結晶面のことを指す。
鋼板母材表層の筋状の{001}組織が存在することにより、めっき密着性を向上させるのは、Γ相と{001}フェライト結晶粒との密着力が、他の方位に比べて高いからであると考えられる。加工時に、鋼板母材表層の{001}以外の結晶粒とΓ相の界面から亀裂が発生しても、筋状の{001}組織で亀裂を停止させることができると考えられる。
鋼板母材表層の筋状の{001}組織の測定方法としては、めっき層を発煙硝酸で溶解除去した後、鋼板母材表層をEBSD(電子後方散乱回折)装置を有するSEMを用いて分析すればよい。例えば、1cm×1cmの領域を測定して、鋼板母材の板面に平行な結晶面のマップを描く。{001}は赤で表されるため、マップ上で赤の筋が見られる場合は筋状の{001}組織が存在していることを確認できる。次に、EBSDの解析ソフトより、筋状の組織の{001}への集積度を求める。{001}からのずれが15°以内への粒の割合が0.2以上であれば、その集合組織は{001}であると定義する。この筋状組織の幅と長さも、マップから測定することができる。
本発明(1)で規定したような筋状の{001}組織を形成させる方法としては、特に限定されるものではないが、冷間圧延後に平均結晶粒径が0.1〜10μmとなるような筋状の結晶粒組織を有するように圧延を行えば、その箇所が、連続溶融亜鉛めっきラインで焼鈍を施した後、筋状の{001}組織となる。
本発明(2)において、筋状の{001}組織のサイズを限定しているのは、幅10〜2000μm、長さ100〜10000μmとすることで、めっき密着性の向上効果をさらに高めることができるからである。好ましくは、幅50μm以上、長さ300μm以上とすることである。
本発明(3)において、筋状の{001}組織の密度を限定しているのは、10cm2あたり1個〜50個とすることでめっき密着性の向上効果をさらに高めることができるからである。好ましくは、10cm2あたり5個以上とすることである。
筋状の{001}組織の密度を求めるには、まず、前述したように1cm×1cmの領域をEBSD分析して筋状の{001}組織の個数を計測する。対象とする鋼板サンプルに対し、この分析を10回行い、計測した個数の合計を、10cm2あたりの個数と定義する。
次に、製造条件の限定理由について述べる。
熱間圧延に供するスラブは特に限定するものではなく、連続鋳造スラブや薄スラブキャスター等で製造したものであれば良い。また鋳造後直ちに熱間圧延を行う連続鋳造―直送圧延(CC−DR)のようなプロセスにも適合する。
熱間圧延の仕上げ温度は特に限定されるものではないが、鋼板のプレス成形性を確保するという観点からAr3点以上とすることが好ましい。熱延後の冷却条件や巻取温度は特に限定しないが、巻取温度はコイル両端部での材質ばらつきが大きくなることを避け、またスケール厚の増加による酸洗性の劣化を避けるためには750℃以下とし、また、巻取り温度が低すぎると冷間圧延時に耳割れを生じやすく、極端な場合には板破断することもあるため550℃以上とすることが望ましい。冷間圧延時の圧下率は通常の条件でよく、加工性の向上を最大限に得る目的からその圧延率は50%以上とすることが好ましい。一方、85%を超す圧延率で冷間圧延を行うことは多大の冷延負荷が必要となるため、85%以下とすることが好ましい。
冷間圧延の際、平均結晶粒径が0.1〜10μmである、筋状の結晶粒組織を有するように冷間圧延する。平均結晶粒径は小さいほど好ましいため、5μm以下とすることが好ましい。筋状の結晶粒組織を形成させる方法としては、冷間圧延前に、酸洗板の表面に筋状の凹凸を付与すればよい。凹凸の付与法としては特に限定されるものではないが、例えば酸洗ライン出側において、金属製ブラシやケガキ針で擦る、ダル目の急峻なロールで軽圧下する、などの方法が簡便である。凹凸の深さとしては特に限定されるものではないが、5〜100μmとすることが好ましい。その後、冷間圧延を施すことにより、上記のような筋状の結晶粒組織を形成することができる。上記のような条件を満たすような冷間圧延を施した後、Niを付着させ、その後連続溶融亜鉛めっきラインで焼鈍、溶融亜鉛めっき、合金化処理を行うと、めっき密着性の向上効果を有するような、筋状の{001}組織を、鋼板母材の表層に形成させることができる。
筋状の結晶粒組織に関して、筋状とは、鋼板母材の圧延方向に長く伸びたような形態を持つものを指す。結晶粒組織の、鋼板母材の圧延方向の径を長さ、圧延方向に垂直な方向の径を幅とし、長さが幅の2倍以上であるものを筋状と定義する。筋状の結晶粒組織の存在する深さとしては、少なくとも鋼板母材の最表面に存在していればよく、その深さは特に限定されるものではない。鋼板の加工性を求める場合には、筋状の結晶粒組織の存在深さを50μm以内とすることが好ましい。
冷間圧延後の筋状の結晶粒組織のサイズを幅10〜2000μm、長さ100〜10000μmとすることによって、めっき密着性の向上効果をより高めることができる。めっき密着性の観点から幅50μm、長さ300μm以上とすることが好ましい。また、筋状の結晶粒組織の密度を10cm2あたり1〜50個とすることで、めっき密着性の向上効果をより高めることができる。好ましくは、10cm2あたり5個以上とすることである。
前述のように、冷間圧延を施したのち、鋼板表面にNiを付着させる。その方法は特に限定されるものではないが、電気めっきや置換めっきなどの方法が簡便で制御しやすい。Niの付着量を0.01〜10g/m2とすることで、筋模様を抑制することができる。好ましくは0.1〜5g/m2とすることである。
鋼板表面にNiを付着させた後、ライン内焼鈍方式の連続溶融亜鉛めっき設備で焼鈍する際、その焼鈍温度は700℃以上850℃とする。焼鈍温度が700℃未満では再結晶が不十分であり、鋼板に必要なプレス加工性を具備できない。また、850℃を超すような温度で焼鈍することは、設備への負荷が大きいため好ましくない。加工性の観点から、750℃以上とすることが好ましい。
焼鈍を施した後、溶融亜鉛めっき浴に浸漬する。その際の鋼板の温度は特に限定されないが、400℃以上600℃以下とすることが好ましい。400℃以下では溶融亜鉛めっき浴中で、鋼板表面上で亜鉛が凝固する可能性があり、600℃以上では溶融亜鉛めっき浴中で、鋼板表面上で亜鉛が蒸発し、表面外観を損ねる可能性があるからである。
溶融亜鉛めっき浴の成分はAl濃度を0.07〜0.2質量%とする。Al濃度が0.07質量%未満ではめっき初期の合金化バリアとなるFe−Al−Zn相の形成が不十分であるために、合金化制御が困難となる。Al濃度が0.2質量%超ではFe−Al−Zn相が形成しすぎるために、合金化制御が困難となる。好ましくは0.10〜0.15質量%とすることである。
溶融亜鉛めっき浴の浴温は特に限定されるものではないが、440℃〜470℃とすることが好ましい。440℃未満ではめっき浴の粘性が高く、めっき付着量の制御が困難となる可能性があり、470℃超では浴中で合金化が開始するため、めっき層の合金化制御が困難となる可能性があるからである。
鋼板が溶融亜鉛めっき浴から出た後、所定の付着量に制御した後、合金化処理を440℃〜580℃で行う。合金化処理の温度が440℃未満であると、合金化に長時間を要し、めっき層が垂れて表面外観を悪化させる。また、580℃超であると、合金化が早すぎて、合金化反応の制御が困難となる。そのため合金化処理の温度を440℃〜580℃に限定した。より好ましくは、460〜550℃とすることである。
本発明において合金化炉加熱方式については特に限定するものではなく、本発明の温度が確保できれば、通常のガス炉による輻射加熱でも、高周波誘導加熱でも構わない。また、合金化加熱後の最高到達温度から冷却する方法も、問うものではなく、合金化後、エアーシール等により、熱を遮断すれば、開放装置でも十分であり、より急速に冷却するガスクーリング等でも問題ない。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
表1に示す組成からなるスラブを1150〜1200℃に加熱し、仕上げ温度900〜930℃で熱間圧延をして、厚さ4mmの熱間圧延鋼帯とし、580〜680℃で巻き取った。酸洗後、筋状のケガキを入れた後に冷間圧延を施して、表2に示すような筋状の結晶粒組織を有する、厚さ1.0mmの冷間圧延鋼帯とした。その後、表2に示すようにNiを付着させ、連続溶融亜鉛めっきラインで焼鈍、溶融亜鉛めっき、合金化処理を施した。
めっき層中のFe濃度、Al濃度、Ni濃度は、前述のように、インヒビタを添加した5%HCl水溶液でめっき層のみを溶解し、溶解液をICP発光分析することにより測定した。
めっき後の鋼板母材表層の筋状の{001}組織の有無、サイズ、密度は、前述のように、EBSD法を用いて測定した。
めっき後の外観評価は目視観察による評点で行った。5点満点で、5点:全く筋模様がない、4点:極稀に僅かな筋模様が存在するが、外観上は問題ないもの、3点:明確な筋模様が存在し、外観上問題があるもの、2点:明確な筋模様がかなりの頻度で存在するもの、1点:ほぼ全面に筋模様が存在するもの、とし、4点以上を合格とした。
めっき密着性の評価は、45°V曲げ試験により、行った。評価面が、曲げの内側に来るように、先端の曲率半径が1mmである金型を用いて、45°に曲げ加工し、曲げ部内側にテープを貼り、テープを引き剥がした。テープと共に剥離しためっき層の剥離状況から、5点満点で耐パウダリング性を評価した。評点付けは5点:剥離幅2mm未満、4点:剥離幅2mm以上3mm未満、3点:剥離幅3mm以上5mm未満、2点:剥離幅5mm以上7mm未満、1点:剥離幅7mm以上とし、4点以上を合格とした。
評価結果を表3に示す。表3より、本発明例は全て、外観、およびめっき密着性の評価が合格レベルを満たしている。本発明の範囲を満たさない比較例は、いずれも外観、めっき密着性の評価が低い。
Claims (6)
- 質量%で、
C:0.0001〜0.015%、
Si:0.001〜0.3%、
Mn:0.01〜1.0%、
P:0.001〜0.1%、
S:0.0001〜0.015%、
Al:0.005〜0.1%、
N:0.0005〜0.007%
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼板母材の表面に、質量%で、
Fe:5.0〜20.0%、
Al:0.01〜0.5%
Ni:0.01〜10%
を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなるめっき層を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、該鋼板母材表層に筋状の{001}組織を有することを特徴とする、表面外観およびめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。 - 筋状の{001}組織が幅10〜2000μm、長さ100〜10000μmであることを特徴とする、請求項1に記載の表面外観およびめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
- 筋状の{001}組織が、10cm2あたり1個〜50個存在することを特徴とする、請求1または2に記載の表面外観およびめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
- 質量%で、
C:0.0001〜0.015%、
Si:0.001〜0.3%、
Mn:0.01〜1.0%、
P:0.001〜0.1%、
S:0.0001〜0.015%、
Al:0.005〜0.1%、
N:0.0005〜0.007%
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなるスラブを、熱間圧延した後、酸洗、冷間圧延を施し、表層の平均粒径が0.1〜10μmである筋状の結晶粒組織を形成させた鋼板上に、Niを0.01〜10g/m2めっきし、その後連続溶融亜鉛めっき設備において700〜850℃で焼鈍した後に、溶融亜鉛めっき処理することによって、前記鋼板の表面上に溶融亜鉛めっき層を形成し、次いで、前記溶融亜鉛めっき層が形成された前記鋼板に対し合金化処理を施すことによって、前記鋼板の表面に、質量%で、
Fe:5.0〜20.0%、
Al:0.01〜0.5%、
Ni:0.01〜10%、
を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる合金化溶融亜鉛めっき層を形成する合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法であって、前記溶融亜鉛めっき処理を、浴中Al濃度:0.07〜0.2%の溶融亜鉛めっき浴中で行い、440〜580℃において合金化処理を行うことを特徴とする、表面外観およびめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。 - 請求項4に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、冷延鋼板上の筋状の結晶粒組織が幅10〜2000μm、長さ100〜10000μmであることを特徴とする、表面外観およびめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
- 請求項5に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、冷延鋼板上の筋状の結晶粒組織が、10cm2あたり1個〜50個存在することを特徴とする、表面外観およびめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
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JP2008035570A JP2009191338A (ja) | 2008-02-18 | 2008-02-18 | 表面外観およびめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法 |
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JP2010126764A (ja) * | 2008-11-27 | 2010-06-10 | Kobe Steel Ltd | 切断端面耐食性に優れたクロメートフリー化成処理亜鉛めっき鋼板 |
JP2014173138A (ja) * | 2013-03-08 | 2014-09-22 | Nippon Steel & Sumitomo Metal | めっき密着性に優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板 |
JP2020532655A (ja) * | 2017-09-13 | 2020-11-12 | ポスコPosco | 塗装後の写像性に優れた鋼板及びその製造方法 |
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2008
- 2008-02-18 JP JP2008035570A patent/JP2009191338A/ja not_active Withdrawn
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