JP2009191015A - 創傷治癒促進剤 - Google Patents

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Abstract

【課題】創傷治癒を早期化し、治癒遷延化を予防することが出来る創傷治癒促進剤及びこれを含む創傷治療剤を提供する。
【解決手段】本発明の創傷治癒促進剤は、有効成分としてグルタミン酸又はその塩を含有し、好ましくは低栄養状態の対象者に経口、経胃又は経腸投与する。当該創傷としては、例えば、褥瘡、又は術後患者の手術瘡である。
【選択図】なし

Description

本発明は、創傷の治癒、とりわけ褥瘡、術後患者の手術瘡などの低栄養状態の対象者における創傷に用いるための創傷治癒促進剤及びこれを含む創傷治療剤に関する。
創傷とは開放創など傷口が開いているものを「創」、打撲傷など傷口が開いていないものを「傷」と区別するのが一般的である。創傷全体は「傷害の結果により正常な解剖学的相互関係が破綻した状態」と定義される。創傷には温熱による傷害である熱傷や電流の通過による電撃傷も含まれる。一方、治癒の定義は「創傷の閉鎖」となっている。創傷治癒は傷害を受けた組織が修復する複雑であるが秩序だった過程である。創傷の治癒過程は時間的経過から炎症期、増殖期、および組織再構築期の以下の3期に分けられる。
(1)炎症期:受傷直後から3〜5日間炎症反応が見られる期間を炎症期という。創傷治癒を妨げる諸因子が好中球やマクロファージなどの炎症細胞によって除去され、創傷治癒のための準備がされる時期である。まず、好中球が遊走して蛋白分解酵素を含む顆粒を放出する。蛋白分解酵素は、細菌、異物および損傷した組織を消化分解する。好中球は受傷数分後から浸潤し、3日以内に消退する。好中球にオーバーラップする形で受傷後2日目からマクロファージが出現する。マクロファージは細菌、異物および壊死組織を消化除去するとともにサイトカインや増殖因子を産生し、血管内皮細胞、線維芽細胞および表皮細胞の増殖を促す。炎症期は、次にくる増殖期の準備段階であり、炎症期を構成する何れの因子の異常も、創傷治癒の遷延につながる。
(2)増殖期:炎症期に引き続く2〜3週間を増殖期という。肉芽組織が形成され、続いて上皮化が進行する時期である。肉芽組織は新生血管、線維芽細胞、マクロファージ、コラーゲン線維および間質からなる。創内に遊走した線維芽細胞はマクロファージなどが産生するサイトカインや増殖因子によって活性化され、プロコラーゲンと呼ばれるコラーゲンの前駆体を合成、細胞外へ産生する。細胞外へ産生されたプロコラーゲンはプロコラーゲンペプチダーゼによって切断されてトロポコラーゲン(コラーゲン分子)となる。その後、トロポコラーゲン分子内に分子内架橋が形成されコラーゲン線維となる。
(3)組織再構築期:組織再構築期は創傷治癒の最終段階に当たる。創傷の収縮が起こり、細胞外マトリックスの再編成が行われる時期である。肉芽を形成していたコラーゲン線維は、重合が進んだ線維束の太い瘢痕型のコラーゲン線維に変化する。また、肉芽内に形成されていた新生血管の血管分布は、血管内皮細胞のアポトーシスにより徐々に減少する。真皮内での組織再構築が進むと創傷は平坦化する。
この様な創傷治癒過程は、生体が生来持っている生体防御システムの一つであり、軽度な創傷では治療せずとも自然に治癒に至る。重度の創傷の場合にも、縫合して一次癒合を促進する、皮膚移植により皮膚再生を促進する、傷の消毒や抗生物質の使用などにより感染を予防するなどの治療が適切に行われれば、一般的に自然治癒力により創傷は治癒する。しかし、創傷治癒が極度に遷延化するケースもまれでは無い。創傷治癒が遷延し慢性化する例として、褥創、静脈不全に伴う潰瘍、動脈不全に伴う潰瘍、糖尿病性潰瘍などが良く知られている。
褥瘡(じょくそう)は、長期病臥にある患者でしばしば見られる難治性の創傷である。褥瘡は、長期間にわたり皮膚に一定以上の圧力が加わった結果出来る壊死性の皮膚潰瘍である。褥瘡が出来る原因の一つとして、局所的に長期に加わった圧力による微小循環閉塞、それに伴う血流低下と酸素や栄養供給不良が考えられている。褥創の出来やすい部位としては仰臥位、側臥位、坐位といった姿勢により好発部位が異なるが、骨が突出している部位、特に仙骨部で多発する。自立体位変換が出来ない患者では、寝返りをうつことが出来ず褥瘡が起こりやすい。褥瘡は、患者のQOLを著しく低下させる要因の一つであるだけでなく、感染症に対する抵抗力を低下させる等、患者が死に至る遠因になることもある。
褥瘡が出来ないようにするため、また、褥瘡の治癒を促進するために、看護者がこまめに患者の体位を変換してあげることが効果的である。しかし、昼夜にわたり、看護者に多大な肉体的負担を余儀なくさせる。
術後患者でも手術創の治癒が遷延化する例がある。そもそも、手術が施される患者では疾患や薬剤治療により、患者が本来持っている生体防御力が低下していることも多く、それが治癒遅延の一因と考えられる。術後の手術創治癒の遅延は、手術からの回復期間の延長をもたらすだけでなく、患者の予後を悪化させる大きな要因となり得る。従って、術創治癒の促進は、医療経済上、患者の予後向上の両面から大きな意義がある。
古くから、蛋白栄養の不足が創傷治癒遷延化の危険因子であることが知られている。従って、蛋白栄養の改善が褥瘡の治療や術後管理に欠かせないことが知られているが、消化管疾患を持つ患者など、通常の食事が十分に摂取できない者も少なくない。また、栄養状態を評価する具体的指標が少なく、全ての患者に適切かつ十分な栄養管理が出来ているとは言えない。蛋白質摂取が制限されるような疾病もあり、適切な蛋白質摂取量を知ることは容易ではない。この様な状況で、創傷治癒を促進し、創傷の遷延化を回避出来る新たな治療法が求められている。
グルタミン酸は蛋白質を構成する20種類のアミノ酸の一つであり、非必須アミノ酸に分類される。つまり、グルタミン酸は食事から摂取しなくとも、生体内で合成することが出来るアミノ酸である。一方、必須アミノ酸は、食事から摂取しなければ生合成出来ないアミノ酸であり、個々の必須アミノ酸の一日あたりの必要量がWHO/FAO等により設定されている。一般的には、蛋白質栄養として重要であるのは必須アミノ酸であると考えられており、グルタミン酸の蛋白質栄養としての意義付けは殆どされてこなかった。
近年、食事から摂取するグルタミン酸の多くが消化管で二酸化炭素に代謝され、グルタミン酸が消化管の主要なエネルギー源であることが明らかとされた。また、グルタミン酸を含んだ経口補液が火傷モデルにおける消化管機能維持に効果を示すことが明らかとされた(特許文献1参照)。しかし、食事から摂取されたグルタミン酸は殆ど全てが消化管で利用されるため、経口的に摂取したグルタミン酸の栄養的意義は、消化管に限られると考えられていた。
アミノ酸以外の先行技術としては、増殖因子、あるいはその機能部位であるフラグメント含む創傷治癒促進剤が報告されている。例えば特許文献2では線維芽細胞増殖因子の全長あるいは部分ペプチドを有効成分として含有する創傷治癒促進のための薬剤が開示されている。また、特許文献3ではインシュリン様成長因子−1の最小活性発現単位であるアミノ酸配列がSer−Ser−Ser−Argで表される薬物とされている。これらに共通するのは増殖因子によって皮膚組織の細胞増殖促進を促すことによって創傷治癒を促進させようという考え方である。患者の栄養状態が良好な場合はこれらの増殖因子による創傷治癒促進は望めるであろう。しかし、患者の栄養状態が蛋白質・エネルギー低栄養状態であった場合、局所の蛋白栄養を含む栄養状態を改善することなく、ある特定の細胞のみを増殖しても正常な組織の構築は望めない。組織の再構築は多種多様な細胞種と過程からなる現象であり、栄養状態を改善することがまず必要である。
一方、非特許文献1及び2では、グルタミン酸がシグナル因子として働き、上皮細胞やケラチノサイトに増殖を促すシグナルを入れるという報告がある。グルタミン酸を経口投与しても局所に到達するとは考えられないので、局所へ塗布する必要があろう。しかし、この場合でも前述の通り、栄養状態が悪い場合には機能しないと思われる。
特開平7−330583号公報 特開2006−347979号公報 特開2006−117556号公報 Uchida, N. et al., Glutamate-stimulated proliferation of rat retinal pigment epithelial cells, European Journal of Pharmacology vol.343, 2-3, 19, 1998, 265-273 Genever, P.G. et al., Evidence for a Novel Glutamate-Mediated Signaling Pathway in Keratinocytes, Journal of investigative dermatology vol.112, 3, 1999, 337-342
本発明者らの分析によれば、創傷治癒の過程は複雑であり、また創傷治癒を必要とする対象者の栄養状態等の様々な因子が関与する。従来から提案されている種々の薬剤や治療方法では、適応症状が限られ、あるいは取り扱いが複雑なため、すべての創傷に対して効果的かつ簡便な治療薬や治療方法を見出すことは難しい。本発明の課題は、創傷治癒を早期化し、治癒遷延化を予防することが出来る新規な創傷治癒促進剤及びこれを含む創傷治療剤を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行い、グルタミン酸の摂取が、低蛋白栄養状態における創傷治癒を促進することを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、以下を包含する。
(1)有効成分としてグルタミン酸又はその塩を含有する創傷治癒促進剤。
(2)グルタミン酸又はその塩からなる創傷治癒促進剤。
(3)低栄養状態の対象者に経口、経胃又は経腸投与する(1)又は(2)に記載の創傷治癒促進剤。
(4)前記創傷が、褥瘡、又は術後患者の手術瘡である(1)〜(3)に記載された創傷治癒促進剤。
(5)前記グルタミン酸の塩がナトリウム塩である(1)〜(4)に記載された創傷治癒促進剤。
(6)前記グルタミン酸の投与量が、一日あたり0.001〜0.5g/kg体重である(1)〜(5)に記載された創傷治癒促進剤。
(7)(1)〜(6)何れか記載の創傷治癒促進剤を含む創傷治療剤又は創傷治療のための医薬組成物。
本発明の創傷治癒促進剤は、とりわけ低蛋白質栄養状態の疾患の褥創の治療、病態改善あるいは手術後の術創の治癒促進に有用である。低蛋白質栄養による免疫能の低下が抑制されることから感染症や合併症のリスクが軽減され、自力での動作が困難な患者の褥創管理や術後管理が容易になる。また、グルタミン酸及びその塩は食品として長期間使用されてきたことから、経口投与により安全に使用することができ、かつ低コストであることから医療経済上も有利である。
腎臓病を併発する患者、痛風の患者など蛋白摂取を制限される疾病においては、蛋白栄養状態をしっかりと評価し適切な栄養管理が要求されるが、これは必ずしも容易では無い。この様な患者においても、グルタミン酸は安全に投与することが出来るので、患者の蛋白栄養状態が厳密には評価出来ていなくとも、安心して使用することが出来る。
本発明の創傷治癒促進剤は、有効成分としてグルタミン酸又はその塩を含有するか、又は実質的にグルタミン酸又はその塩からなることを特徴とし、高齢者や消化器系疾患患者、あるいは発展途上国のように十分な蛋白質・エネルギー栄養補給が難しいなどの原因により起こる低蛋白栄養状態を起因とする炎症の遷延化とそれを伴う創傷治癒遅延を改善し、治癒促進を促す。また、低蛋白栄養状態の患者において、予想される褥創の発症や手術創の治癒遅延を予防する。
本発明品が特に有効な、低栄養状態とは医師が創傷治癒を円滑に進めるために、栄養不足をきたさないように栄養管理が必要と判断する患者の栄養状態をいう。具体的には、臨床検査値の血清アルブミン値が正常値である3.5g/dl未満、あるいは3.0g/dlをきるか、患者の食事量あるいは体重が理想値の8割未満である場合をいう。高齢者や終末期の患者あるいは消化器系疾患患者に多くみられる褥創や手術創の治癒遅延は、蛋白質・エネルギー低栄養状態(protein energy malnutrition:PEM)が原因で組織修復遅延や炎症の遷延化、あるいは感染を起こす病態である。また、血清アルブミン値の低下は小さいが、血中アミノ酸濃度の低下したアミノ酸栄養不良も低栄養状態と言える。さらには、特定アミノ酸の異化が亢進した消耗性疾患も低栄養状態に含まれる。
本発明の創傷治癒促進剤の作用機構は必ずしも明らかではないが、本発明者らの解析によれば以下のように考えられる。低蛋白栄養状態では経口摂取して腸に到達するグルタミン酸の量が低下している。グルタミン酸は腸管の燃料であるため、大変重要なアミノ酸である。このアミノ酸が不足すると以下の2つのことが起こると考えられる。1つ目は、腸管の機能低下によりアミノ酸吸収量が低下する。2つ目は、グルタミン酸を作るために全身で他のアミノ酸からグルタミン酸を作ろうとする。この結果、全身的に異化状態となり、創傷治癒遅延の原因にもなる。グルタミン酸を摂取するとこのような問題が解決するため、全身の栄養状態が異化状態を脱すると共に、低蛋白栄養からくる腸管免疫能の低下が改善、ひいては全身免疫能が回復し、創部局所の炎症遷延化が改善する。その結果、創傷治癒遅延が改善されると考えられる。
本発明の創傷治癒促進剤に含有されるグルタミン酸及び/又はその塩の摂取量は本発明の患者の状態、すなわち病人の体重、年齢、体質、体調等、及び投与形態によって調節されるべきであるが、グルタミン酸に換算して、一日あたり0.001〜0.5g/kg体重の範囲内で投与されることが好ましい。標準的な体重の大人に経口投与のする場合は一般に1日あたり、グルタミン酸に換算して0.1〜20g,好ましくは1g〜10gの範囲で適宜選択することができる。
本発明で使用されるグルタミン酸及び/又はその塩は、動物あるいは植物由来の天然蛋白質の加水分解から得られたもの、発酵法あるいは化学合成法によって得られたものいずれでも良い。グルタミン酸は光学異性体として、D体とL体が存在するが、本発明に使用するには、生体蛋白質の構成成分であるL体が望ましい。グルタミン酸は種々の塩の形で用いても良い。塩としては、グルタミン酸が酸性を示すために主に塩基との塩が用いられる。ナトリウム、カルシウム、カリウム、などがあげられる。
本発明の創傷治癒促進剤は、医薬品、食品、化粧品として、あるいはこれらに配合する原体組成物等、種々の用途に使用され、単独もしくは生理的又は薬剤学的に許容される通常の担体又は希釈剤と共に混合物として用いることが出来る。投与形態としては、経口投与、非経口投与の何れも可能であるが、経口、経胃又は経腸投与することが好ましい。これらを医薬組成物として経口投与する場合は、液体成分に含有させることも固形の形態をとることも可能であり、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、丸剤、トローチ剤、内用水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤等が挙げられる。これらの各種製剤は、製剤上通常用いられる賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、潤滑剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤、等張化剤等を適宜選択し、常法により製造することができる。
経腸栄養剤や高カロリー輸液との併用あるいはこれら既存の栄養剤への添加も可能である。本明細書において、「経腸投与」とは、顎や口腔領域の疾患により経口栄養摂取が困難となった患者や、顎、口腔、食道、胃等の外科的治療を施した患者、さらに意識障害等の影響で自力で飲食が困難な患者に対して、チューブを用いて栄養剤を投入する方法を意味する。近年、内視鏡を利用して胃ろうを造設する経皮内視鏡的胃ろう造設術(Percutaneous Endoscopic Gastrostomy:PEG)が確立されて以来、この方法が経腸投与の主たる方法として広く普及している。本発明の創傷治癒促進剤を経腸栄養剤として使用する場合に、グルタミン酸以外に配合する栄養源としては特に限定されず、各種アミノ酸、ペプチド、蛋白質、糖類、ビタミン、脂質等通常用いられているものが使用できる。栄養剤の胃食道逆流や胃ろうからのリークを防止するために、投与前にあらかじめゲル化する方法も報告されている(例えば、特開2006−248981号公報参照)。
さらに本発明は、上記創傷治癒促進剤を含む創傷治療剤を提供する。本明細書において「創傷治療剤」とは、表皮細胞や組織の再生機能を利用・促進して元の状態に戻す薬剤、及びこれに加えて殺菌効果や免疫機能を刺激して、より積極的に創傷を治療する薬剤も含む。従って、本発明の創傷治療剤は、本発明の創傷治癒促進剤のみからなる薬剤だけでなく、その他の創傷治癒促進剤、ヨウ素等の殺菌剤、表皮細胞増殖因子、抗炎症剤、コルチコステロイド、及び活性酸素除去剤等の何れか1又は2以上を含んでもよい。本発明の創傷治癒促進剤を、あらかじめその他の成分と混合して使用してもよいし、あるいは必要時に混合して調製するために別個に包装し流通させてもよい。本発明の創傷治療剤は、典型的には、創傷治療のための医薬組成物として使用されるが、既存の創傷被覆材やクリーム剤、軟膏などの外用剤等との併用も可能である。キットの形態であってもよい。これらの実施形態もまた本発明に含まれる。
(実施例1)
創傷治癒モデル(ポリビニルアルコール(PVA)スポンジ移植モデル)に対するMSGの創傷治癒促進効果
Balb/cマウスの皮下にPVAスポンジを移植し、スポンジ表面上に形成される肉芽の状態を指標として、グルタミン酸ナトリウム(以下「MSG」と称する。)の創傷治癒促進効果を検討した。低蛋白質栄養食(4%カゼイン食)を一週間与えた6週齢のBalb/cマウスの皮膚を切開、直径8mmのPVAスポンジを移植後、縫合クリップで創部を縫合する。肉芽の形成は創傷から7日目頃から始まり、9日目には線維状の再生組織が見られた。皮下から摘出したスポンジはホルマリン固定、パラフィン包埋後に薄切し、ヘマトキシリン/エオジン(H/E)染色法により染色した。肉芽形成の有無は顕鏡下にて観察し判定した。2%MSGは自由飲水にて低蛋白質栄養食給餌と同時に投与を開始し、実験終了まで継続した。
結果
スポンジ移植9日目に摘出したスポンジ断片の顕微鏡写真を図1に示す。図1Aは、正常コントロールとして20%カゼイン食群、Bは低蛋白質栄養食群、Cは低蛋白質栄養食に2%MSGを添加した群、Dはアミノ酸のコントロールとして低蛋白質栄養食に2%グリシンを添加した群における典型的な顕微鏡写真である。コントロール群(カゼイン20%)では全例(5/5)のマウスでスポンジ表面上に肉芽の形成が認められたのに対し、低蛋白質栄養食群(カゼイン4%)では全例(0/5)において肉芽形成は認められなかった。一方、2%MSG投与群では全例(5/5)のマウスにおいて肉芽形成が認められたが、グリシン投与群では全例(0/5)のマウスにおいて肉芽形成は認められなかった。以上の結果は、MSG経口摂取が創傷治癒モデルにおいて有意な創傷治癒促進効果を有することを示す。
(実施例2)
創傷治癒モデル(皮膚切除モデル)に対するMSGの創傷治癒促進効果
Balb/cマウスの皮膚を切除し、傷口面積を指標としてMSGの創傷治癒促進効果を検討した。低蛋白質栄養食(4%カゼイン食)を一週間与えた6週齢のBalb/cマウスから1.5cm×1.5cmの面積の皮膚を切除、経時的に傷口面積を測定した。皮膚切除から2週間で傷口は完全に塞がった。傷口面積はトレース紙に傷口の形をトレースした後に切り抜き、重量を測定することにより求めた。傷収縮率(%)とは、術後5日目、7日目及び10日目の傷口面積と創傷時(術後0日)の傷口面積との差を創傷時(術後0日)の傷口面積で割った値とした。2%MSGは自由飲水にて低蛋白質栄養食給餌と同時に投与を開始し、実験終了まで継続した。統計検定は、コントロール群あるいは4%カゼイン食群に対するStudent’s t−test(創収縮率(%))を用い、p<0.05を有意差ありとした。
結果
結果を図2に示す。コントロール群(カゼイン20%)と比較して低蛋白質栄養食群(カゼイン4%)では皮膚切除後5日目ならびに10日目において傷収縮率(%)の値が有意に低く、低蛋白質栄養の影響による創傷治癒の遅延が認められた。一方、2%MSG投与群では低蛋白質栄養食群(カゼイン4%)と比較して皮膚切除10日目において有意に創収縮率(%)が増加したがグリシン投与群ではそのような効果は認められなかった。以上の結果は、創傷治癒モデルにおける低蛋白質栄養による創傷治癒遅延に対して、MSG経口摂取が有意な創傷治癒促進効果を有することを示す。
(実施例3)
創傷治癒モデル(皮膚切除モデル)におけるMSGの表皮遊走促進効果
Balb/cマウスの皮膚を切除し、傷口の表皮遊走を指標としてMSGの創傷治癒促進効果を検討した。低蛋白質栄養食(4%カゼイン食)を一週間与えた6週齢のBalb/cマウスから1.5cm×1.5cmの面積の皮膚を切除した。切除後10日目に創部組織を採取し、ホルマリン固定、パラフィン包埋後に薄切、H/E染色法により染色した。表皮遊走の程度は顕鏡下にて観察した。表皮遊走は傷口の端から中央部へと傷口を塞ぐ様に起こる。2%MSGは自由飲水にて低蛋白質栄養食給餌と同時に投与を開始し、実験終了まで継続した。顕微鏡写真を図3に示す。
結果
図3において、赤い○で囲まれた部分が傷部の端から中心部へ遊走している表皮である。コントロール群(カゼイン20%)と比較して低蛋白質栄養食群(カゼイン4%)では皮膚切除後10日目において表皮遊走能が低下しており、低蛋白質栄養の影響による創傷治癒の遅延が認められた。一方、2%MSG投与群では低蛋白質栄養食群(カゼイン4%)と比較して表皮遊走の回復傾向が認められたがグリシン投与群ではそのような効果は認められなかった。以上の結果は、創傷治癒モデルにおける低蛋白質栄養による創傷治癒遅延に対して、MSG経口摂取が有意な創傷治癒促進効果を有することを示す。
本発明により提供される新規な創傷治癒促進剤は、創傷一般、とりわけ、褥瘡、術後患者の手術瘡などの治癒を促進することができる。本発明品は、有効成分がアミノ酸であるので安全であり、産業上極めて有用である。
図1はPVAスポンジ創傷治癒モデルマウスの皮下から摘出したスポンジの断片の顕微鏡写真である。 図2は皮膚切除手術を行なった創傷治癒モデルマウスの創収縮率(%)を経時的に示した図である。 図3は皮膚切除手術を行なった創傷治癒モデルマウスの傷部断片の顕微鏡写真である。

Claims (7)

  1. 有効成分としてグルタミン酸又はその塩を含有する創傷治癒促進剤。
  2. グルタミン酸又はその塩からなる創傷治癒促進剤。
  3. 低栄養状態の対象者に経口、経胃又は経腸投与する請求項1又は2に記載の創傷治癒促進剤。
  4. 前記創傷が、褥瘡、又は術後患者の手術瘡である請求項1〜3何れか記載の創傷治癒促進剤。
  5. 前記グルタミン酸の塩がナトリウム塩である請求項1〜4何れか記載の創傷治癒促進剤。
  6. 前記グルタミン酸の投与量が、一日あたり0.001〜0.5g/kg体重である、請求項1〜5何れか記載の創傷治癒促進剤。
  7. 請求項1〜6何れか記載の創傷治癒促進剤を含む創傷治療剤又は創傷治療のための医薬組成物。
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Cited By (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2011084536A (ja) * 2009-10-19 2011-04-28 En Otsuka Pharmaceutical Co Ltd 経腸栄養剤
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