ところで、上記基本点火時期決定テーブルには、燃料に含まれる水分の割合(以下、単に「水分割合」とも称呼する。)が考慮されていない。他方、燃料タンクの給油口が開閉されること等に起因して、燃料に水が混入する事態が発生することがある。この場合に上記基本点火時期決定テーブルが利用されて点火時期が決定されると、以下に説明する問題が発生する。
図18は、上記基本点火時期決定テーブルにより決定される点火時期CAig1にて点火が行われた場合における、クランク角度と燃焼室内のガスの圧力との関係を示したグラフである。燃料に混入した水そのものは、燃焼室内での燃焼反応に寄与せず、可燃成分の燃焼熱の一部を奪う。このため、(空燃比が一定の場合において)水分割合が大きいほど燃焼室内のガスの温度がより低くなる。この結果、水分割合が大きいほど混合気の燃焼速度がより小さくなる。
水分割合がゼロである場合、ガスの圧力が最大値となるクランク角度(以下、「最大圧力クランク角度」とも称呼する。)は値CA1(即ち、上記最大トルククランク角度)となり、また、この場合に得られる出力トルクが値TQ1(最大値)になるものとする。これに対し、燃料に水が混入している場合に上記点火時期CAig1と同じ時期にて点火が行われると、上記最大圧力クランク角度は上記値CA1よりも遅角側の値CA2となる。この上記値CA1からの上記値CA2の遅角側への偏移の程度は、混合気の燃焼速度が小さいほど(即ち、水分割合が大きいほど)より大きくなる。
図19は、点火時期と出力トルクとの関係を示したグラフである。燃料に水が混入している場合には、上記点火時期CAig1での点火により上記最大圧力クランク角度が上記最大トルククランク角度から偏移する。従って、この場合、出力トルクは、上記値TQ1よりも小さい値となる。この出力トルクの低下度合いは、上記値CA1からの上記値CA2の遅角側への偏移の程度に対応する。即ち、この出力トルクの低下度合いは、水分割合が大きいほどより大きくなる。このように出力トルクが低下することにより燃費の悪化度合いが大きくなる。
換言すれば、燃料に水が混入している場合に、上述した出力トルクの低下を抑制するためには、最大圧力クランク角度を最大トルククランク角度に近づけることが考えられる。即ち、上記偏移の程度(即ち、水分割合)に応じて上記点火時期CAig1よりも進角側の時期にて点火を行う必要がある。従って、水分割合が大きいほど、点火時期と出力トルクと関係を表す曲線(即ち、上記最大トルク点火時期)はより進角側の方向へ平行移動する。
燃料に水が混入した場合等に水分割合を考慮することなく点火時期が決定されると、燃費の悪化度合いが大きくなる。従って、本発明の目的は、燃料に含まれる水分の割合を考慮して、燃費の悪化度合いを抑制し得る内燃機関の制御装置を提供することにある。
本発明にかかる制御装置は、内燃機関の燃焼室に向けて燃料を噴射する噴射弁と、前記噴射弁により噴射された燃料により前記燃焼室内に形成される混合気に点火を行う点火プラグとを備えた内燃機関に適用される。
本発明にかかる制御装置は、前記内燃機関の運転状態に基づいて前記噴射弁により燃料を噴射する量である燃料噴射量を決定する燃料噴射量決定手段と、上記点火時期を決定する点火時期決定手段とを備えている。
本発明にかかる制御装置の特徴は、前記混合気の燃焼速度に応じて変化する値に基づいて上記水分割合を推定する水分割合推定手段を備え、前記点火時期決定手段が、前記水分割合推定手段により推定された水分の割合に基づいて前記点火時期を決定するするように構成されたことにある。
より具体的には、前記点火時期決定手段が、前記水分の割合が大きいほど前記点火時期をより進角側の時期に決定するように構成される。ここにおいて、水分割合は、燃料に含まれる水分の重量割合であってもよいし、体積割合であってもよい。また、例えば、内燃機関の運転状態に基づいて基準の点火時期を決定し、決定された基準の点火時期を水分割合に応じてより進角側の時期に補正してもよい。
上記構成によれば、混合気の燃焼速度に応じて変化する値に基づくことで、容易に水分割合を推定することができる。また、点火時期を水分割合に応じた上記最大トルク点火時期に近づけることができる。従って、燃料に水が混入した場合であっても、上述した出力トルクの低下が抑制され得る。この結果、燃費の悪化度合いを抑制することができる。
本発明にかかる制御装置においては、例えば、制御装置が前記燃焼室内におけるガスの圧力の推移を取得する推移取得手段を備え、前記水分割合推定手段が、上記水分割合が所定割合の場合に対応する予め記憶された前記圧力の推移と、前記推移取得手段により取得された前記圧力の推移との相違に基づいて前記水分の割合を推定するように構成されてもよい。
ここにおいて、圧力の推移は、例えば、少なくとも圧縮行程の後半及び膨張行程の前半を含む期間におけるクランク角度(又は、時間そのもの)に対する前記ガスの圧力の推移(変化)であってもよい。また、予め記憶された前記圧力の推移は、例えば、内燃機関の運転状態が所定の状態であって、所定の点火時期にて点火が行われた場合に得られる圧力の推移であってもよい。
圧力の推移は、混合気の燃焼速度に応じて変化する。即ち、圧力の推移は、水分割合に応じて変化するものとなり得る(図18を参照)。従って、上記構成によれば、前記予め記憶された圧力の推移と前記取得された圧力の推移の相違に基づくことで、容易に水分割合が推定され得る。
また、本発明にかかる制御装置においては、例えば、制御装置が前記内燃機関のクランク軸の出力トルクの推移を取得する推移取得手段を備え、前記水分割合推定手段が、上記水分割合が所定割合の場合に対応する予め記憶された前記出力トルクの推移と、前記推移取得手段により取得された前記出力トルクの推移との相違に基づいて前記水分の割合を推定するように構成されてもよい。
ここにおいて、出力トルクの推移は、例えば、点火時期に対する(1回の燃焼サイクルにおける平均の、又は、最大の)前記出力トルクの推移(変化)であってもよい。また、予め記憶された前記出力トルクの推移は、例えば、内燃機関の運転状態が所定の状態であって、所定の点火時期にて点火が行われた場合に得られる出力トルクの推移であってもよい。
出力トルクの推移も、上記圧力の推移と同様、水分割合に応じて変化するものとなり得る(図19を参照)。従って、上記構成によっても、前記予め記憶された出力トルクの推移と前記取得された出力トルクの推移の相違に基づくことで、容易に水分割合が推定され得る。
本発明にかかる制御装置においては、制御装置が前記内燃機関の温度を取得する温度取得手段を備え、前記燃料噴射量決定手段が、前記温度取得手段により取得された温度が所定温度よりも低い場合、前記混合気の空燃比が理論空燃比よりもリッチな空燃比となるように、且つ、前記水分割合推定手段により推定された水分の割合が大きいほど前記空燃比の前記理論空燃比からのリッチ方向への偏移の程度がより大きくなるよう前記燃料噴射量を決定するように構成されることが好適である。
この場合、例えば、内燃機関の排気通路に排ガスの空燃比に応じた値を出力する空燃比センサが配設され、前記燃料噴射量決定手段が、前記温度取得手段により取得された温度が前記所定温度以上である場合には、前記空燃比センサの出力値に基づいて前記混合気の空燃比が理論空燃比となるよう前記燃料噴射量を決定するように構成されてもよい。
一般に、内燃機関の温度が低い場合、混合気の空燃比を理論空燃比よりもリッチな空燃比となるように燃料噴射量を決定する場合が多い。これは、燃料が蒸発し難いことや、触媒の暖機等の観点に基づく。他方、燃料に水が混入している場合に、内燃機関の温度が低いと、燃料が蒸発し難いのに加え水に燃焼熱が大きく奪われる。このことに起因して、水分割合が大きいほど燃焼室内で失火がより発生し易い。この結果、出力トルクの変動度合いがより大きくなる。
上述した失火の発生を抑制するためには、水分割合に応じて空燃比の理論空燃比からのリッチ方向への偏移の程度を変更することが考えられる。上記構成はかかる知見に基づくものである。これによれば、内燃機関の温度が低い場合であっても、水分割合の大きさにかかわらず、燃焼室内の混合気の状態が適切に可燃状態とされ得、失火の発生が抑制され得る。この結果、上述した出力トルクの変動度合いを抑制することができる。
また、本発明にかかる制御装置においては、前記内燃機関が、前記燃料としてアルコールを含む燃料を用いるように構成される場合、制御装置が前記燃料に含まれる前記アルコールの割合を取得するアルコール割合取得手段を備え、前記燃料噴射量決定手段が、前記アルコール割合取得手段により取得されたアルコールの割合が大きいほど前記リッチ方向への偏移の程度がより大きくなるよう前記燃料噴射量を決定するように構成されると好適である。
一般に、炭化水素燃料(例えば、ガソリン)には、比較的沸点の低い成分が含まれている場合が多い。一方、アルコールの沸点は、上記沸点の低い成分に比して高い場合が多い。また、アルコールの蒸発潜熱は、炭化水素燃料に比して大きい場合が多い。これらは、アルコールが有するOH基に基づくものと考えられる。
従って、燃料としてアルコールを含むものが用いられる場合に、内燃機関の温度が低いと燃料が特に蒸発し難い。加えて、アルコールに燃焼熱が大きく奪われる。このことに起因して、上述した水分割合の場合と同様、アルコールの割合が大きいほど燃焼室内での失火がより発生しやすい。この結果、出力トルクの変動度合いがより大きくなる。
上記構成によれば、アルコールの割合の大きさにかかわらず、燃焼室内の混合気の状態が適切に可燃状態とされ得、失火の発生が抑制され得る。この結果、上述した出力トルクの変動度合いを抑制することができる。
以下、本発明による内燃機関の制御装置の各実施形態について図面を参照しつつ説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態にかかる内燃機関の制御装置を火花点火式多気筒(4気筒)内燃機関10に適用したシステムの概略構成を示している。この内燃機関10は、シリンダブロック、シリンダブロックロワーケース、及びオイルパン等を含むシリンダブロック部20と、シリンダブロック部20の上に固定されるシリンダヘッド部30と、シリンダブロック部20に燃料混合気を供給するための吸気系統40と、シリンダブロック部20からの排気ガスを外部に放出するための排気系統50とを含んでいる。
内燃機関10は、燃料として、ガソリンのみ(エタノール濃度Ret=0%)、エタノールを含むガソリン、及びエタノールのみ(エタノール濃度Ret=100%)を使用可能となっている。ここにおいて、エタノール濃度Retは、Vgasを燃料に含まれるガソリンの体積、Vetを燃料に含まれるエタノールの体積として、「Vet/(Vgas+Vet)」で表されるパーセント濃度である。
シリンダブロック部20は、シリンダ21、ピストン22、コンロッド23、及びクランク軸24を含んでいる。ピストン22はシリンダ21内を往復動し、ピストン22の往復動がコンロッド23を介してクランク軸24に伝達され、これにより同クランク軸24が回転するようになっている。シリンダ21とピストン22のヘッドは、シリンダヘッド部30とともに燃焼室25を形成している。
シリンダヘッド部30は、燃焼室25に連通した吸気ポート31、吸気ポート31を開閉する吸気弁32、吸気弁32を駆動するインテークカムシャフトを含むとともに同インテークカムシャフトの位相角を連続的に変更する可変吸気タイミング装置33、可変吸気タイミング装置33のアクチュエータ33a、燃焼室25に連通した排気ポート34、排気ポート34を開閉する排気弁35、排気弁35を駆動するエキゾーストカムシャフト36、点火プラグ37、点火プラグ37に与える高電圧を発生するイグニッションコイルを含むイグナイタ38、燃料を吸気ポート31内に噴射する燃料噴射弁39を備えている。
吸気系統40は、吸気ポート31に連通し同吸気ポート31とともに吸気通路を形成するインテークマニホールドを含む吸気管41、吸気管41の端部に設けられたエアフィルタ42、吸気管41内にあって吸気通路の開口断面積を可変とするスロットル弁43、及びスロットル弁駆動手段を構成するDCモータからなるスロットル弁アクチュエータ43aを備えている。
排気系統50は、排気ポート34に連通したエキゾーストマニホールド51、エキゾーストマニホールド51(実際には、各排気ポート34に連通したそれぞれのエキゾーストマニホールド51が集合した集合部)に接続されたエキゾーストパイプ(排気管)52、エキゾーストパイプ52に配設(介装)された三元触媒53を備えている。排気ポート34、エキゾーストマニホールド51、及びエキゾーストパイプ52は、排気通路を構成している。
一方、このシステムは、熱線式エアフローメータ61、スロットルポジションセンサ62、カムポジションセンサ63、クランクポジションセンサ64、水温センサ65(前記温度取得手段の一部に対応)、空燃比センサ66、給油口開閉センサ67、及び燃焼室内圧力センサ68を備えている。
熱線式エアフローメータ61は、吸気管41内を流れる吸入空気の単位時間あたりの質量流量を検出し、質量流量(吸入空気流量)Gaを表す信号を出力するようになっている。スロットルポジションセンサ62は、スロットル弁43の開度を検出し、スロットル弁開度を表す信号を出力するようになっている。カムポジションセンサ63は、インテークカムシャフトが90°回転する毎に(即ち、クランク軸24が180°回転する毎に)一つのパルスを有する信号(G2信号)を発生するようになっている。この信号は、吸気弁32の開閉タイミングを表す。
クランクポジションセンサ64は、クランク軸24が10°回転する毎に幅狭のパルスを有するとともに同クランク軸24が360°回転する毎に幅広のパルスを有する信号を出力するようになっている。この信号は、運転速度NEを表す。水温センサ65は、内燃機関10の冷却水の温度を検出し、冷却水温THWを表す信号を出力するようになっている。冷却水温THWが前記内燃機関の温度に相当する。
空燃比センサ66は、排気通路であって三元触媒53よりも上流側に配設されている。空燃比センサ66は、所謂「限界電流式酸素濃度センサ」であって、三元触媒53に流入する排ガスの空燃比を検出し、排ガスの空燃比に応じた電圧である出力値Vafs(V)を出力するようになっている。
給油口開閉センサ67は、図示しない燃料タンクが備える給油口に配設されており、給油口が閉状態から開状態となった場合に、所定の電流を出力するようになっている。燃焼室内圧力センサ68は、燃焼室25内におけるガスの圧力を検出し、ガス圧力Pを表す信号を出力するようになっている。
電気制御装置70は、互いにバスで接続されたCPU71、CPU71が実行するルーチン(プログラム)、テーブル(ルックアップテーブル、マップ)、及び定数等を予め記憶したROM72、CPU71が必要に応じてデータを一時的に格納するRAM73、電源が投入された状態でデータを格納するとともに同格納したデータを電源が遮断されている間も保持するバックアップRAM74、並びにADコンバータを含むインターフェース75等からなるマイクロコンピュータである。
インターフェース75は、上記センサ61〜68に接続され、CPU71にセンサ61〜68からの信号を供給するとともに、同CPU71の指示に応じて可変吸気タイミング装置33のアクチュエータ33a、イグナイタ38、燃料噴射弁39、及びスロットル弁アクチュエータ43a等へ駆動信号を送出するようになっている。
(制御の概要)
次に、上記のように構成された制御装置が行う制御の概要について説明する。本例における制御装置は、原則的には、空燃比センサ66の出力値Vafsに基づいて混合気の空燃比(即ち、排ガスの空燃比)が理論空燃比となるように燃料噴射量Fiを決定する。即ち、空燃比のフィードバック制御が実行される。また、本例における制御装置は、後述するように内燃機関10の運転状態、エタノール濃度Ret、及び水分濃度Raqに基づいて点火時期CAigを決定する。そして、点火時期CAigにて燃料噴射量Fiをもって噴射された燃料の混合気に点火が行われる。
ここにおいて、水分濃度Raqは、Vaqを燃料に含まれる水の体積として、「Vaq/(Vgas+Vet+Vaq)」で表されるパーセント濃度である。
図2は、本例における制御装置が実行する空燃比のフィードバック制御の概略を示した図である。空燃比センサ66が正常、冷却水温THWが所定温度THW1以上である等の条件が成立している場合に、空燃比のフィードバック制御が実行される。なお、冷却水温THWが上記所定温度THW1よりも低い場合には、フィードバック制御が実行されずに後述するように混合気の空燃比を理論空燃比よりもリッチな空燃比とする制御(以下、この制御を「空燃比リッチ制御」と称呼する)が実行される。以下、図2を参照しながらフィードバック制御の概要を説明する。
先ず、1吸気行程あたりの吸入空気量をガソリンのみの燃料(エタノール濃度Ret=0%)の理論空燃比stoich(本例では、14.6(一定値))で除することで、基本燃料噴射量Fbaseが決定される。ここにおいて、吸入空気量は空気の質量流量Ga及び運転速度NEに基づいて決定される。そして、フィードバック係数α算出部にて算出されるフィードバック係数αを上記決定された基本燃料噴射量Fbaseに乗じることで、燃料噴射弁39から噴射するための燃料噴射量Fiが算出される。
フィードバック係数α算出部では、空燃比センサ66の出力値Vafs及び目標値Vafsrefに基づいてフィードバック係数αが算出される。具体的には、上記出力値Vafsから目標値Vafsrefを減じた値をPID処理することでフィードバック係数αが算出される。ここにおいて、目標値Vafsrefは上記理論空燃比stoichに対応する値である。燃料がガソリンのみの燃料(エタノール濃度Ret=0%)である場合、フィードバック係数αは「1」となる。
これにより、エタノール濃度Retが変化する場合であっても、この変化に応じて算出されるフィードバック係数αにより基本燃料噴射量Fbaseが補正される。この結果、フィードバック制御により空燃比が理論空燃比に一致するようになっている。換言すれば、フィードバック係数αは、エタノール濃度Retに応じて変化する値となり得る。
従って、本例における制御装置は、予め規定されたフィードバック係数αとエタノール濃度Retとの関係を利用してエタノール濃度Retを決定する。より具体的には、図3の実線にて示すフィードバック係数αとエタノール濃度Retとの関係を規定する基本エタノール濃度決定テーブルと、フィードバック係数αとに基づいてエタノール濃度Retが決定される。このテーブルは、水分濃度Raqがゼロである場合にエタノール濃度Retを適合する実験結果に基づいて作成されたものである。このテーブルによれば、エタノール濃度Retは、フィードバック係数αが大きいほどより大きい値に決定される。
この例では、エタノール濃度Retが値R1である場合であって、水分濃度Raqがゼロである場合に、算出されるフィードバック係数αが値α1であるものとする。ここで、エタノール濃度Retが上記値R1と等しい値であって、燃料中に水が混入している場合について考える。この場合、フィードバック係数αは、水分濃度Raqに応じた値Δαだけ上記値α1よりも大きい値(α1+Δα)となる。これは、燃料に混入した水そのものは、燃焼室25内での燃焼反応に寄与しないことに基づく。
即ち、燃料中に水が混入している場合には、フィードバック係数αとエタノール濃度Retとの関係は、上記基本エタノール濃度決定テーブルにおける関係と異なったものとなる(図3の破線を参照)。従って、この場合に上記基本エタノール濃度決定テーブルが利用されると、エタノール濃度Retが上記値(α1+Δα)に対応する値R2(>値R1)に決定される。
このように、燃料中に水が混入している場合に上記テーブルが利用されると、エタノール濃度Retが実際のエタノール濃度よりも大きい値に決定される。以下、上記基本エタノール濃度決定テーブルを利用して決定される値を「基本エタノール濃度Rbase」と称呼する。
エタノール濃度Retは、後述するように点火時期CAig等を決定するために用いられるパラメータとなる。このためにも精度よくエタノール濃度Retを決定する必要がある。従って、本例における制御装置は、燃焼室25内におけるガス圧力Pの推移に基づいて水分濃度Raqを推定し、推定された水分濃度Raqに基づいて基本エタノール濃度Rbaseを補正する。
また、上述したように水分濃度Raqが大きいほど、水分濃度Raq=0%の場合に比して、混合気の燃焼速度がより小さくなる。このため、上記最大圧力クランク角度の上記最大トルククランク角度からの遅角側への偏移の程度がより大きくなる(図18を参照)このことに起因して、点火時期CAigとクランク軸24の出力トルクと関係を表す曲線(即ち、上記最大トルク点火時期)はより進角側の方向へ平行移動する(図19を参照)。
従って、本例における制御装置は、運転速度NE、内燃機関10の負荷KL、及びエタノール濃度Retに基づいて基本点火時期CAbaseを決定し、上記推定された水分濃度Raqに基づいて基本点火時期CAbaseを補正する。
加えて、本例における制御装置は、上記推定された水分濃度Raq及び上記補正により得られるエタノール濃度Retに基づいて、上記空燃比リッチ制御を実行する際の燃料噴射量を補正する。以上が、本例における制御装置が行う制御の概要である。
(実際の作動)
次に、本装置の実際の作動について説明する。以下、説明の便宜上、「MapX(a1,a2,・・・)」は、a1,a2,・・・を引数とする値Xを求めるためのテーブルを表すものとする。また、引数の値がセンサの検出値である場合、現在値が使用される。
CPU71は、図4にフローチャートにより示した燃料噴射量Fi及び点火時期CAigの決定を行うルーチンを、各気筒のクランク角が各吸気上死点前の所定クランク角度(例えば、BTDC90°CA)となる毎に、繰り返し実行するようになっている。
従って、任意の気筒のクランク角度が上記所定クランク角度になると、CPU71はステップ400から処理を開始してステップ405に進み、冷却水温THWが上記所定温度THW1以上であるか否かを判定する。ここにおいて、所定温度THW1は、混合気の空燃比が理論空燃比である場合において、エタノール濃度Retにかかわらず混合気の状態が燃焼室25内にて可燃状態となる冷却水温THWの範囲の下限値である。
先ず、冷却水温THWが所定温度THW1以上である場合について説明する。この場合、CPU71はステップ405にて「Yes」と判定してステップ410に進み、上述したように空燃比センサ66の出力値Vafs等に基づいてフィードバック係数αを算出する。なお、上記フィードバック条件が成立していないときは(例えば、空燃比センサ66が異常であると判定される場合等)、フィードバック係数αは「1」に設定される。
次に、CPU71はステップ415に進んで、ステップ410にて算出されたフィードバック係数αを上記基本燃料噴射量Fbase(現時点における最新値)に乗じることで燃料噴射量Fiを求める。
次いで、CPU71はステップ420に進み、水分濃度Raq推定条件が成立しているか否かを判定する。ここにおいて、水分濃度Raq推定条件は、給油口開閉センサ67により給油口が閉状態から開状態になったと検出されてから未だ水分濃度Raq及びエタノール濃度Retが推定されていない場合に成立する。即ち、上記検出がなされる毎に1回だけ水分濃度Raq推定条件が成立する。これは、給油口が開かれて給油等が行われる場合に、水分濃度Raq及びエタノール濃度Retが変化し易いことに基づく。また、本例では、水分濃度Raq推定条件は、上述した条件に加え、内燃機関10の運転状態が定常状態であり、且つ、内燃機関10の負荷KLが所定値KL1よりも小さい場合に成立するものとする。
いま、水分濃度Raq推定条件が不成立であるとして説明する。この場合、CPU71はステップ420にて「No」と判定してステップ425に進み、基本点火時期決定テーブルMapCAbase(NE,KL,Ret)に基づいて基本点火時期CAbaseを決定する。この基本点火時期決定テーブルMapCAbase(NE,KL,Ret)は、水分濃度Raqがゼロである場合において、点火時期CAigに対する出力トルクTQが最大値となる場合に対応する点火時期CAig(即ち、上記最大トルク点火時期)を適合する実験結果に基づいて作製されたテーブルである。なお、本例では、出力トルクTQは、クランク軸24の出力トルクの1燃焼サイクルあたりの平均値を意味している。
図5(a)は、エタノール濃度Retが一定の場合における、運転速度NE及び負荷KLと、基本点火時期決定テーブルMapCAbase(NE,KL,Ret)に基づいて決定される基本点火時期CAbaseとの関係を示した図である。この場合、基本点火時期CAbaseは、運転速度NEが大きいほどより進角側の時期に決定される。これは、運転速度NEが大きいほど単位クランク角度あたりの時間がより短くなることに基づく。また、基本点火時期CAbaseは、負荷KLが大きいほどより遅角側の時期に決定される。これは、負荷KLが大きいほど燃焼室25内のガス圧力Pがより大きくなり、混合気の燃焼速度もより大きくなることに基づく。
なお、「KL≧KL1」である範囲では、「KL<KL1」である範囲の場合に比して、負荷KLの増大に対する基本点火時期CAbaseの遅角側への偏移度合いがより大きい。これは、ガス圧力Pの増大に伴って発生し易くなる異常燃焼(即ち、ノッキング)を抑制する観点に基づく。
図5(b)は、運転速度NE及び負荷KLが一定の場合における、エタノール濃度Retと、基本点火時期決定テーブルMapCAbase(NE,KL,Ret)に基づいて決定される基本点火時期CAbaseとの関係を示した図である。「KL<KL1」である場合、基本点火時期CAbaseは、エタノール濃度Retにかかわらず一定の時期に決定される。一方、「KL≧KL1」である場合、基本点火時期CAbaseは、エタノール濃度Retが大きいほどより進角側の時期に決定される。ガソリンに比してエタノールのオクタン価が大きいため、燃料中のエタノールはアンチノック剤の役割をする。このため、「KL≧KL1」である場合であっても、エタノール濃度Retが大きいほど基本点火時期CAbaseを進角側に設定できる余裕度がより大きくなる。「KL≧KL1」である場合におけるエタノール濃度Retに対する基本点火時期CAbaseの傾向は、このことに基づく。
次に、CPU71はステップ430に進んで、ステップ425にて決定された基本点火時期CAbaseから後述するステップ650にて算出されている進角度合いDCAを減じることで点火時期CAigを求める。点火時期CAigが基本点火時期CAbaseから進角度合いDCAを減じた値に設定されることは、点火時期CAigが基本点火時期CAbaseよりも進角度合いDCAだけより進角側の時期に設定されることを意味している。
次いで、CPU71はステップ435に進み、ステップ430にて求められた点火時期CAigにて点火が行われるようにイグナイタ38等に指示を行った後、ステップ495に進んで本ルーチンの処理を一旦終了する。
以降、CPU71は水分濃度Raq推定条件が不成立である限り、ステップ420にて「No」と判定して、ステップ405,410〜420,425〜435の処理を繰り返し実行する。そして、水分濃度Raq推定条件が成立すると、上記処理を繰り返し実行していたCPU71は、ステップ420に進んだとき「Yes」と判定してステップ440に進む。CPU71はこのステップ440を経由して図6にフローチャートにより示した各種値の算出を実行するためのルーチン処理をステップ600から開始する。
ステップ600に進んだCPU71は、ステップ605に進んで基準点火時期決定テーブルMapMBTstd(NE,KL)に基づいて基準点火時期MBTstdを決定する。この基準点火時期決定テーブルMapMBTstd(NE,KL)は、水分濃度Raqがゼロである場合であって、且つ、「KL<KL1」である場合において上記最大トルク点火時期を適合する実験結果に基づいて作製されたテーブルである。
次に、CPU71はステップ610に進んで、基準クランク角度決定テーブルMapCAstd(NE,KL)に基づいて基準クランク角度CAstdを決定する。この基準クランク角度CAstdは、水分濃度Raqがゼロである場合であって基準点火時期MBTstdにて点火が行われた場合に、クランク角度に対する燃焼室25内のガス圧力Pが最大値となるときに対応するクランク角度(即ち、上記最大トルククランク角度)である。
次いで、CPU71はステップ615に進み、ステップ605にて決定された基準点火時期MBTstdにて点火が行われるようにイグナイタ38等に指示を行う。続いて、CPU71はステップ620に進み、クランク角度に対する燃焼室25内のガス圧力Pが最大値Pmaxとなるときに対応する最大圧力クランク角度CApmaxが取得されたか否かを判定する。
図7は、上記基準点火時期MBTstdにて点火が行われた場合における、クランク角度とガス圧力Pとの関係を示したグラフである。図7において、破線にて示すガス圧力Pの推移は、水分濃度Raqがゼロである場合のものである。上述したように、水分濃度Raqが大きいほど、混合気の燃焼速度がより小さくなる。混合気の燃焼速度が小さいほど、基準点火時期MBTstd以降ガス圧力Pの増大度合いがより小さい。以上のことから、水分濃度Raqが大きいほど、上記最大圧力クランク角度CApmaxがより遅角側の時期となる。
即ち、水分濃度Raqが大きいほど、上記基準クランク角度CAstdと上記最大圧力クランク角度CApmaxとのクランク角度差ΔCAがより大きくなる。換言すれば、クランク角度差ΔCAは、水分濃度Raqに応じて変化する値になる。従って、クランク角度差ΔCAに基づいて水分濃度Raqを推定することができる。本例における制御装置は、かかる知見に基づいて水分濃度Raqを推定する。これらのステップ605〜620が前記推移取得手段の一部に対応する。
従って、CPU71は最大圧力クランク角度CApmaxが取得されるまでステップ620にて「No」と判定し、同ステップ620にて「Yes」と判定するとステップ625に進んで取得された最大圧力クランク角度CApmaxからステップ610にて決定された基準クランク角度CAstdを減じることでクランク角度差ΔCAを求める。
次に、CPU71はステップ630に進んで、ステップ625にて求められたクランク角度差ΔCAと水分濃度決定テーブルMapRaq(ΔCA)とに基づいて水分濃度Raqを推定する。図8は、水分濃度決定テーブルMapRaq(ΔCA)を示した図である。水分濃度決定テーブルMapRaq(ΔCA)によれば、水分濃度Raqは、クランク角度差ΔCAが大きいほどより大きい値に推定される。これらのステップ625,630が前記水分割合推定手段の一部に対応する。
次いで、CPU71はステップ635に進み、ステップ410にて算出されたフィードバック係数αと基本エタノール濃度決定テーブルMapRbase(α)とに基づいて基本エタノール濃度Rbaseを推定する(図3の実線を参照)。このステップ635が前記アルコール割合取得手段の一部に対応する。
続いて、CPU71はステップ640に進んで、ステップ630にて推定された水分濃度Raqとエタノール濃度補正係数決定テーブルMapKR(Raq)とに基づいてエタノール濃度補正係数KR(0<KR≦1)を決定する。図9は、エタノール濃度補正係数決定テーブルMapKR(Raq)を示した図である。エタノール濃度補正係数決定テーブルMapKR(Raq)によれば、エタノール濃度補正係数KRは、水分濃度Raqが大きいほどより小さい値に決定される。
次に、CPU71はステップ645に進んで、ステップ635にて推定された基本エタノール濃度Rbaseに、ステップ640にて決定されたエタノール濃度補正係数KRを乗じることでエタノール濃度Retを求める。
次いで、CPU71はステップ650に進み、ステップ630にて推定された水分濃度Raqと進角度合い決定テーブルMapDCA(Raq)とに基づいて、ステップ430にて用いられる進角度合いDCAを決定する。図10は、進角度合い決定テーブルMapDCA(Raq)を示した図である。進角度合い決定テーブルMapDCA(Raq)によれば、進角度合いDCAは、水分濃度Raqが大きいほどより大きい値に決定される。ステップ425,430,650が前記点火時期決定手段の一部に対応する。
続いて、CPU71はステップ655に進んで、ステップ630にて推定された水分濃度Raqと、ステップ645にて求められたエタノール濃度Retと、リッチ制御補正係数決定テーブルMapKβ(Raq,Ret)とに基づいて、リッチ制御補正係数Kβ(≧1)を決定する。そして、CPU71はステップ695を経由して図4のステップ495に進んで本ルーチンの処理を一旦終了する。
このリッチ制御補正係数Kβは、上記空燃比リッチ制御において用いられるものである(後述するステップ450を参照)。図11は、リッチ制御補正係数決定テーブルMapKβ(Raq,Ret)を示した図である。リッチ制御補正係数決定テーブルMapKβ(Raq,Ret)によれば、リッチ制御補正係数Kβは、水分濃度Raqが大きいほど、エタノール濃度Retが大きいほどより大きい値に決定される。
なお、本例では、水分濃度Raq、エタノール濃度Ret、進角度合いDCA、及びリッチ制御補正係数Kβの最新値が算出される毎に、それらがバックアップRAM74に記憶・更新されるようになっている。
次に、冷却水温THWが所定温度THW1よりも低い場合について説明する。この場合、CPU71はステップ405にて「No」と判定してステップ445に進み、基本リッチ制御係数決定テーブルMapβbase(THW)に基づいて、基本リッチ制御係数βbase(>1)を決定する。この基本リッチ制御係数βbaseは、混合気の空燃比が理論空燃比よりもリッチな空燃比となるように、燃料噴射量Fiの決定に利用されるものである。より具体的には、基本リッチ制御係数決定テーブルMapβbase(THW)によれば、基本リッチ制御係数βbaseは、冷却水温THWが低いほどより大きい値に決定される。
次いで、CPU71はステップ450に進み、ステップ655にて決定されたリッチ制御補正係数Kβをステップ445にて決定された基本リッチ制御係数βbaseに乗じることによりリッチ制御係数β(>1)を求める。続いて、CPU71はステップ455に進んで、ステップ450にて求められたリッチ制御係数βを、上記基本燃料噴射量Fbaseに燃料噴射量補正係数KF(≧1)を乗じた値に乗じることにより燃料噴射量Fiを求める。
ここにおいて、燃料噴射量補正係数KFは、値(KF・Fbase)をもって燃料噴射された場合に混合気の空燃比が理論空燃比となるように、エタノール濃度Retを考慮して決定される値である。より具体的には、図12に示す燃料噴射量補正係数KFとエタノール濃度Retとの関係を規定するテーブルに基づいて、燃料噴射量補正係数KFが決定される。このテーブルによれば、エタノール濃度Retが大きいほど燃料噴射量補正係数KFがより大きい値に決定される。以降、CPU71はステップ420以降の処理を実行していく。ステップ405,410,415,445,450,455,655が前記燃料噴射量決定手段の一部に対応する。
このように、冷却水温THWが所定温度THW1よりも低い場合、上述のように燃料噴射量Fiが決定されることで、冷却水温THWが低いほど空燃比の理論空燃比からのリッチ方向への偏移の程度がより大きくなる。これは、冷却水温THWが低いほど燃料が蒸発し難いこと、及び触媒53を暖める必要性が大きいことに基づく。また、本例では、水分濃度Raq大きいほど、またエタノール濃度Retが大きいほど上記リッチ方向への偏移の程度がより大きくなる。これは、冷却水温THWが低い場合には、水、及びエタノールにより熱が奪われることによる失火への影響が特に大きいことに基づく。
以上説明したように、本発明にかかる内燃機関の制御装置の第1実施形態によれば、水分濃度Raq推定条件が成立した場合、基準点火時期MBTstdにて点火が行われガス圧力Pが最大値となる最大圧力クランク角度CApmaxが取得される。この取得された最大圧力クランク角度CApmaxと、水分濃度Raqがゼロである場合に対応する予め記憶されている基準クランク角度CAstdとの差であるクランク角度差ΔCAが求められる。そして、クランク角度差ΔCAに基づいて水分濃度Raqが推定される。
ここで、水分濃度Raqが大きいほど混合気の燃焼速度がより小さくなる。このため、水分濃度Raqが大きいほど最大圧力クランク角度CApmaxがより遅角側の時期となり、クランク角度差ΔCAがより大きくなる。換言すれば、クランク角度差ΔCAは、水分濃度Raqを表す値となり得る。従って、容易に且つ精度よく水分濃度Raqを推定することができる。
また、上記第1実施形態によれば、運転速度NE等の運転状態に基づいて基本点火時期CAbaseが決定され、点火時期CAigが、基本点火時期CAbaseよりも水分濃度Raqに応じた進角度合いDCAだけ進角側の時期に設定される。即ち、水分濃度Raqが大きいほど点火時期CAigがより進角側の時期に設定される。
水分濃度Raqが大きいほど混合気の燃焼速度がより小さくなることに起因して、運転状態が一定の場合であっても、水分濃度Raqが大きいほど最大トルク点火時期がより進角側の時期となる。従って、図13の破線にて示すように、仮に、点火時期CAigを基本点火時期CAbaseと同じ時期に設定すると、水分濃度Raqが大きいほど出力トルクTQの低下度合いがより大きくなるため(図19を参照)、燃費の悪化度合いもより大きくなる。
これに対し、上記第1実施形態では、点火時期CAigが基本点火時期CAbaseよりも水分濃度Raqに応じた進角度合いDCAだけ進角側の時期に設定される。即ち、点火時期CAigを最大トルク点火時期に近づけることができる。このため、図13の実線にて示すように、水分濃度Raqの増大に対する燃費の悪化度合いをより小さくすることができる。なお、ここにおける「燃費」は、水を含んだ燃料の単位量に対する走行可能距離を意味する。従って、水分濃度Raqが大きくなるほど燃費の悪化度合いは大きくなる。
また、上記第1実施形態によれば、冷却水温THWが所定温度THW1よりも低い場合に、混合気の空燃比を理論空燃比とするように燃料噴射量Fi(=α・Fbase)を決定する(即ち、上記空燃比のフィードバック制御を実行する)のに代えて、混合気の空燃比を理論空燃比よりもリッチな空燃比にとするように燃料噴射量Fi(=β・(KF・Fbase))を決定する(即ち、空燃比リッチ制御を実行する)。この空燃比リッチ制御では、冷却水温THWに基づいて基本リッチ制御係数βbaseが決定され、リッチ制御係数βが、基本リッチ制御係数βbaseに水分濃度Raq及びエタノール濃度Retに応じたリッチ制御補正係数Kβを乗じた値に決定される。
図14の破線にて示すように、仮に、空燃比リッチ制御にて燃料噴射量Fiが値(βbase・(KF・Fbase))に決定されると、水分濃度Raq(又はエタノール濃度Ret)が大きいほど燃焼室25内にてより失火が発生し易くなり、出力トルクTQの変動度合いがより大きくなる。
これに対し、上記第1実施形態では、図14の実線にて示すように、水分濃度Raq(又はエタノール濃度Ret)が大きいほど、空燃比の理論空燃比からのリッチ方向への偏移の程度がより大きくなるよう燃料噴射量Fiが決定されるため、燃焼室25内における失火の発生を抑制することができる。この結果、水分濃度Raqの増大に対する出力トルクTQの変動度合いをより小さくすることができる。
本発明は、上記第1実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記第1実施形態においては、基本点火時期CAbaseが基本点火時期決定テーブルMapCAbase(NE,KL,Ret)に基づいて決定され、点火時期CAigが、決定された基本点火時期CAbaseよりも進角度合いDCAだけ進角側の時期に設定されていたが、これに代えて、点火時期決定テーブルMapCAig(NE,KL,Raq,Ret)に基づいて点火時期CAigを決定してもよい。この場合、点火時期決定テーブルMapCAig(NE,KL,Raq,Ret)によれば、水分濃度Raqが大きいほど点火時期CAigはより進角側の時期に決定される。
また、上記第1実施形態においては、クランク角度差ΔCAが求められ、水分濃度決定テーブルMapRaq(ΔCA)に基づいて水分濃度Raqが推定されていたが、これに代えて、水分濃度Raqがゼロの場合において基準点火時期MBTstdにて点火が行われた場合におけるガス圧力Pの最大値と、基準点火時期MBTstdにて点火が行われた場合における基準クランク角度CAstdに対応するガス圧力Pとの圧力差ΔPが求められ、水分濃度決定テーブルMapRaq(ΔP)に基づいて水分濃度Raqが推定されてもよい。この場合、水分濃度決定テーブルMapRaq(ΔP)によれば、圧力差ΔPが大きいほど水分濃度Raqがより大きい値に推定される。
また、上記第1実施形態においては、引数としてクランク角度差ΔCAのみが用いられる水分濃度決定テーブルMapRaq(ΔCA)に基づいて水分濃度Raqが推定されているが、これに代えて、引数として更に運転速度NEが用いられる水分濃度決定テーブルMapRaq(ΔCA,NE)に基づいて水分濃度Raqが推定されてもよい。水分濃度決定テーブルMapRaq(ΔCA,NE)によれば、運転速度NEが大きいほど水分濃度Raqがより小さい値に推定される。これは、クランク角度差ΔCAが一定の場合であっても、運転速度NEが大きいほどクランク角度差ΔCAに相当する時間が短いことに基づく。また、引数として更に負荷KLが用いられる水分濃度決定テーブルMapRaq(ΔCA,NE,KL)に基づいて水分濃度Raqが推定されてもよい。水分濃度決定テーブルMapRaq(ΔCA,NE,KL)によれば、負荷KLが大きいほど水分濃度Raqがより小さい値に推定される。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態にかかる内燃機関の制御装置について説明する。この第2実施形態が適用される内燃機関は、燃焼室内圧力センサ68に代えて、トルクセンサ69を備えている点についてのみ第1実施形態における内燃機関10と異なる(図1の破線を参照)。このトルクセンサ69は、クランク軸24の出力トルクを検出し、出力トルクTQを表す信号を出力するようになっている。
また、上記第1実施形態では、ガス圧力Pの推移と水分濃度Raqがゼロである場合に対応するガス圧力Pの推移との相違(即ち、上記クランク角度差ΔCA)に基づいて水分濃度Raqが推定されていた。第2実施形態では、これに代えて、出力トルクTQの推移と水分濃度Raqがゼロである場合に対応する出力トルクTQの推移との相違に基づいて水分濃度Raqが推定される。第2実施形態は、この点についてのみ上記第1実施形態と異なる。
具体的には、第2実施形態のCPU71は、第1実施形態のCPU71が実行する図4に示したルーチンと同じものを実行するとともに、図6に対応する図15にフローチャートにより示したルーチンを実行する。以下、第2実施形態に特有の図15に示したルーチンについて説明する。なお、図15において、図6に示したステップと同一のステップについては図6のステップ番号と同一のステップ番号を付することで、その説明を省略する。
第2実施形態のCPU71はステップ1505にて、基準出力トルク決定テーブルTQstd(NE,KL)に基づいて基準出力トルクTQstdを決定する。この基準出力トルクTQstdは、水分濃度Raqがゼロである場合であって基準点火時期MBTstdにて点火が行われた場合に得られる出力トルクTQである。また、第2実施形態のCPU71はステップ1510にて、トルクセンサ69により出力トルクTQが取得されたか否かを判定する。
図16は、点火時期CAigと出力トルクTQとの関係を示したグラフである。図16において、破線にて示す点火時期CAigと出力トルクTQとの関係を表す曲線は、水分濃度Raqがゼロである場合のものである。ここで、上述したように、水分濃度Raqが大きいほど、最大圧力クランク角度の最大トルククランク角度からの偏移の程度(上記クランク角度差ΔCA)がより大きくなる(図7を参照)。即ち、水分濃度Raqが大きいほど、基準点火時期MBTstdに対応する出力トルクTQの上記基準出力トルクTQstdからの低下度合い(以下、この低下度合いを「出力トルク差ΔTQ」称呼する。)がより大きくなる。
換言すれば、出力トルク差ΔTQは、水分濃度Raqに応じて変化する値になる。従って、出力トルク差ΔTQに基づいて水分濃度Raqを推定することができる。本例における制御装置は、かかる知見に基づいて水分濃度Raqを推定する。これらのステップ605,1505,615,1510が前記推移取得手段の一部に対応する。
従って、第2実施形態のCPU71はステップ1510にて、「Yes」と判定するとステップ1515に進んでステップ1505にて決定された基準出力トルクTQstdから取得された出力トルクTQを減じることで出力トルク差ΔTQを求める。そして、第2実施形態のCPU71はステップ1520にて、ステップ1515にて求められた出力トルク差ΔTQと水分濃度決定テーブルMapRaq(ΔTQ)とに基づいて水分濃度Raqを推定する。
図17は、水分濃度決定テーブルMapRaq(ΔTQ)を示した図である。水分濃度決定テーブルMapRaq(ΔTQ)によれば、水分濃度Raqは、出力トルク差ΔTQが大きいほどより大きい値に推定される。これらのステップ1515,1520が前記水分割合推定手段の一部に対応する。
以上説明したように、本発明にかかる内燃機関の制御装置の第2実施形態によれば、水分濃度Raq推定条件が成立した場合、基準点火時期MBTstdにて点火が行われ出力トルクTQが取得される。この取得された出力トルクと水分濃度Raqがゼロである場合に対応する予め記憶されている基準出力トルクTQstdとの差である出力トルク差ΔTQが求められる。そして、出力トルク差ΔTQに基づいて水分濃度Raqが推定される。
ここで、出力トルク差ΔTQは、水分濃度Raqを表す値となり得る。従って、上記第1実施形態と同様、容易に且つ精度よく水分濃度Raqを推定することができる。
本発明は、上記第2実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記第2実施形態においては、出力トルク差ΔTQが求められ、水分濃度決定テーブルMapRaq(ΔTQ)に基づいて水分濃度Raqが推定されていたが、これに代えて、所定のクランク角度の範囲内で複数の点火時期にて順次点火を行い出力トルクTQが最大値となる場合に対応する最大トルク点火時期を取得し、取得された最大トルク点火時期と、上記基準点火時期MBTstdとのクランク角度差ΔMBTが求められ、水分濃度決定テーブルMapRaq(ΔMBT)に基づいて水分濃度Raqが推定されてもよい。この場合、水分濃度決定テーブルMapRaq(ΔMBT)によれば、クランク角度差ΔMBTが大きいほど水分濃度Raqがより大きい値に推定される。
また、所定のクランク角度の範囲内で複数の点火時期にて順次点火を行うことで得られる点火時期と出力トルクと関係を表す曲線を取得し、取得された曲線の、水分割合Rqaがゼロである場合に得られる上記曲線であって予め記憶されているものからの進角側への平行移動量を求めることで、上記クランク角度差ΔMBTが求められてもよい。
また、上記第2実施形態においては、引数として出力トルク差ΔTQのみが用いられる水分濃度決定テーブルMapRaq(ΔTQ)に基づいて水分濃度Raqが推定されているが、これに代えて、引数として更に運転速度NEが用いられる水分濃度決定テーブルMapRaq(ΔTQ,NE)に基づいて水分濃度Raqが推定されてもよい。水分濃度決定テーブルMapRaq(ΔTQ,NE)によれば、運転速度NEが大きいほど水分濃度Raqがより小さい値に推定される。また、引数として更に負荷KLが用いられる水分濃度決定テーブルMapRaq(ΔTQ,NE,KL)に基づいて水分濃度Raqが推定されてもよい。水分濃度決定テーブルMapRaq(ΔTQ,NE,KL)によれば、負荷KLが大きいほど水分濃度Raqがより小さい値に推定される。
また、上記第2実施形態においては、トルクセンサ69により出力トルクTQを検出していたが、これに代えて、例えば、内燃機関10が搭載される車両がモータジェネレータを備え、内燃機関10の出力トルクがモータジェネレータに伝達されるように構成されており、モータジェネレータのトルク検出機構が備えられている場合には、トルク検出機構を用いて出力トルクTQを取得してもよい。この場合、出力トルクTQの取得に際し、上記トルク検出機構が有効に利用され得る。
また、上記各実施形態においては、本発明にかかる制御装置が、燃料としてガソリンにエタノールを混合したものを利用可能な内燃機関10に適用されていたが、アルコールを混合しない燃料(例えば、ガソリン)を利用する内燃機関に適用されてもよい。
加えて、例えば、内燃機関10が、点火プラグ37とは別の第2点火プラグを備えている場合、1燃焼サイクルにおいてこれらの点火プラグのうち一方にて点火が行われ、他方にて点火が行われないように制御され、一方の点火プラグでの点火時期と他方の点火プラグにて火炎を検出した時期との間隔(又は、その間隔から算出される混合気の燃焼速度)を取得してもよい。そして、取得された間隔が大きいほど(即ち、混合気の燃焼速度が小さいほど)、水分濃度Raqがより大きい値に推定されるように構成されてもよい。また、第2点火プラグに代えて、フレームロッド等の火炎を検出するプローブが備えられることによっても上記間隔を取得することができる。
10…火花点火式内燃機関、37…点火プラグ、39…燃料噴射弁、65…冷却水温センサ、68…燃焼室内圧力センサ、69…トルクセンサ、70…電気制御装置、71…CPU