JP2009179292A - 空気入りタイヤ - Google Patents

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【課題】エッジ部の硬度を変化させたことによりタイヤ性能を改善できるうえ、その改善効果を摩耗の過程において持続でき、しかもエッジ部での界面剥離の心配がない空気入りタイヤを提供すること。
【解決手段】トレッド面Trに、溝部81と、その溝部81により区分された陸部80とが設けられた空気入りタイヤにおいて、陸部80に形成したサイプ82又は溝部81の輪郭沿いに延びてエッジ部SE,GEを含む第1の領域81a,82aと、第1の領域81a,82aの周囲に隣接した第2の領域81b,82bとが、同配合ゴムにより一体的に形成され且つゴムの硬度を互いに異ならせている。
【選択図】図1

Description

本発明は、空気入りタイヤに関し、詳しくはエッジ部の硬度を変化させて制動性能などを向上できるようにした空気入りタイヤに関する。
通常、空気入りタイヤのトレッド面には、周方向溝や横溝などの溝部と、その溝部により区分されたブロックやリブなどの陸部とが設けられ、要求されるタイヤ性能や使用条件に応じた各種のトレッドパターンが形成される。また、冬用タイヤとして有用なスタッドレスタイヤでは、陸部にサイプと呼ばれる切り込みを形成しており、このサイプによるエッジ効果によって、摩擦係数が低いアイス路面での走行性能を高めている。
図8に示したブロック90は陸部の一例であり、その周囲を溝部91に取り囲まれている。この例では、2本のサイプ92が、ブロック90の表面で直線状に延びて並設されている。溝部91の縁となるグルーブエッジ部GE、及び、サイプ92の縁となるサイプエッジ部SEは、ブロック90の倒れ込み等によりエッジ効果を奏する箇所であり、タイヤの制動性能や耐偏摩耗性能に及ぼす影響が大きい。
ところで、下記特許文献1には、グルーブエッジ部の硬度を局部的に高めたタイヤが記載されている。更に、下記特許文献2には、グルーブエッジ部だけでなく、サイプエッジ部の硬度をも局部的に高めたタイヤが記載されている。これらのタイヤは、ブロックのエッジ部によるエッジ効果を高めて、アイス路面における制動性能(アイス制動性能)を向上することを企図したものである。
しかし、下記特許文献1,2記載のタイヤは、発泡ゴムを主体とする特殊なトレッド構造を有するものであり、その製造方法は、発泡ゴムからなるトレッドゴムの表面に無発泡ゴムを薄膜状に配設し、その上からトレッドパターンを形成するというものである。これらのタイヤは、エッジ部を異配合ゴムにより形成しているに過ぎず、製作上の問題があるほか、界面剥離などの不具合も懸念される。
このような異配合ゴムを利用する場合を除き、グルーブエッジ部又はサイプエッジ部の硬度を局部的に異ならせたタイヤ、並びに、そのようなタイヤを成形できるタイヤ成形型及びタイヤ製造方法は、本発明者が知る限りにおいて本出願時までに存在しない。
下記特許文献3には、タイヤのトレッド面を成形する型部に加熱手段又は冷却手段を設けて、ブロックの蹴り出し側と踏み込み側とに剛性差を付けるタイヤ成形型が開示されている。しかし、このタイヤ成形型は、トレッド面から離れた位置に設けた管路やヒーターによって、トレッド面を間接的に加熱又は冷却するものであるため、トレッド面の近傍だけで剛性差を生じ易く、その剛性差を生じた部分が摩耗により早期に消滅してしまう。
一方、下記特許文献3に記載のタイヤ成形型を用いて、ブロックの蹴り出し側と踏み込み側とに剛性差を付けるに際し、ある程度の広がりを持った領域を対象として、管路やヒーターによる加熱や冷却を行うことも考えられる。しかし、その場合には、剛性差を生じる部分が深く形成されるものの、グルーブエッジ部やサイプエッジ部といった微小な範囲での剛性変化は得られない。寧ろ、ブロックの剛性を全体的に変化させてしまうため、他のタイヤ性能への悪影響が懸念される。
特開平8−175116号公報 特開平5−147412号公報 特開平11−165320号公報
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、エッジ部の硬度を変化させたことによりタイヤ性能を改善できるうえ、その改善効果を摩耗の過程において持続でき、しかもエッジ部での界面剥離の心配がない空気入りタイヤを提供することにある。
上記目的は、下記の如き本発明により達成できる。即ち、本発明に係る空気入りタイヤは、トレッド面に、溝部と、その溝部により区分された陸部とが設けられた空気入りタイヤにおいて、前記陸部に形成したサイプ又は前記溝部の輪郭沿いに延びてエッジ部を含む第1の領域と、前記第1の領域の周囲に隣接した第2の領域とが、同配合ゴムにより一体的に形成され且つゴムの硬度を互いに異ならせているものである。
本発明に係る空気入りタイヤでは、溝部又はサイプの輪郭沿いに延びてエッジ部を含む第1の領域と、その第1の領域の周囲に隣接した第2の領域とが、ゴム硬度を互いに異ならせている。このため、例えば第2の領域よりも第1の領域のゴム硬度が高い場合には、グルーブエッジ部やサイプエッジ部の剛性が高く、ブロックの稜線やサイプによるエッジ効果を高めてアイス制動性能を向上できるため、冬用タイヤとして特に有用となる。
また、ドライ路面での走行時においては、陸部の中央部よりもグルーブエッジ部の接地圧が高く、それに起因して接地圧が不均一化する傾向にある。そのため、第2の領域よりも第1の領域のゴム硬度が低い場合には、グルーブエッジ部の剛性が低く、グルーブエッジ部での接地圧を低めて陸部における接地圧を均一化し、ドライ路面での制動性能や耐偏摩耗性能を向上できるため、夏用タイヤとして特に有用となる。
そして、本発明では、第1の領域が溝部又はサイプの輪郭沿いに延びることから、硬度が異なる部分が溝部又はサイプに沿って深く形成され、タイヤ性能の改善効果を摩耗の過程において良好に持続できる。しかも、第1の領域と第2の領域とが同配合ゴムにより一体的に形成されているため、通常の未加硫タイヤを用いて製造することができ、エッジ部で界面剥離が起こる心配もない。
本発明の空気入りタイヤでは、前記第1の領域が、タイヤ成形型が備えるトレッド型部の成形面とは温度を異ならせた骨部又はブレードを、未加硫タイヤのトレッド面に押し当てて加硫成形することにより形成したものとすることができる。
このような第1の領域は、溝部又はサイプの輪郭沿いに延びてエッジ部を含む領域が、微小な範囲で局部的にゴム硬度を変化させたものとなる。そのため、上述したエッジ効果の向上効果、或いは接地圧の均一化効果といった改善効果を適切に奏することができる。また、前述した従来技術のようにトレッド面の全体が硬度の異なる部分により覆われることがないため、トレッド面をバフ研磨したり慣らし走行したりする必要がない。
本発明では、前記第1の領域と前記第2の領域とのゴムの硬度差がJISA硬度にて4°以上であることが好ましい。これにより、第1の領域と第2の領域とのゴムの硬度差を確保して、上述したようなタイヤ性能の改善効果を適切に奏することができる。なお、JISA硬度とは、JISK6253のデュロメータ硬さ試験(タイプA)に準じて測定したゴム硬度である。
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明に係る空気入りタイヤのトレッド面の一例を示す断面図である。図2は、そのトレッド面に設けられたブロックの平面図である。図1の断面は、トレッド面をタイヤ周方向(図2の上下方向)に沿って切断したものである。
トレッド面Trには、周方向溝や横溝などの溝部と、その溝部により区分されたブロックやリブなどの陸部とが設けられている。ブロック80は、横溝としての溝部81と周方向溝とに囲まれており、その表面には、タイヤ周方向に交差して延びるサイプ82が形成されている。
このトレッド7は、図1に示した範囲において、同配合の無発泡ゴムにより均一に形成されている。しかし、ゴム硬度については均一ではなく、領域81a,82a(前記第1の領域に相当)の硬度が局部的に異なっている。すなわち、領域81a,82aと、その周囲に隣接した領域81b,82b(前記第2の領域に相当)とが、ゴムの硬度を互いに異ならせている。
領域81aは、溝部81の輪郭沿いに延びてエッジ部を含む領域であり、このエッジ部とは溝部81の縁となるグルーブエッジ部GEである。また、領域82aは、サイプ82の輪郭沿いに延びてエッジ部を含む領域であり、このエッジ部とはサイプ82の縁となるサイプエッジ部SEである。本実施形態では、領域81a,82aが何れも断面U字状をなす例を示す。
本発明において、領域81a,82aのゴム硬度が領域81b,82bよりも高いと、グルーブエッジ部GEやサイプエッジ部SEの剛性が高く、ブロック80の稜線やサイプ82によるエッジ効果を高められるためアイス制動性能を向上できる。この場合のゴム硬度(JISA硬度とする。以下同じ。)としては、領域81a,82aが44〜70°、領域81b,82bが40〜66°であるものが例示され、好ましくは領域81a,82aが47〜55°、領域81b,82bが43〜51°である。
また、本発明では、領域81aのゴム硬度が領域81bよりも低くてもよい。これにより、グルーブエッジ部GEでの接地圧を低めてブロック80の接地圧を均一化し、ドライ路面での制動性能や耐偏摩耗性能を向上することができる。この場合のゴム硬度としては、領域81aが40〜66°、領域81bが44〜70°であるものが例示され、好ましくは領域81aが50〜56°、領域81bが54〜60°である。
本発明では、このようなアイス制動性能やドライ制動性能の向上といったタイヤ性能の改善効果を適切に奏する観点から、領域81aと領域81bとのゴム硬度差、更には領域82aと領域82bとのゴム硬度差が、4°以上であることが好ましい。
領域81a,82aにおけるゴム硬度は、図2においてハッチングを施した領域で測定したものとし、領域81b,82bにおけるゴム硬度は、そのハッチングを施した領域外で測定したものとする。すなわち、領域81aの硬度は、ブロック80の稜線から陸部長さX,Yの10%となる範囲内で測定するものとし、領域82aの硬度は、サイプ82からの距離dが1mm程度となる範囲内で測定するものとする。また、領域82a同士の重複を回避する観点から、サイプ82間距離としては4mm以上を確保することが好ましい。
本実施形態では、領域81aが溝部81の輪郭沿いに延びて断面U字状をなし、領域82aがサイプ82の輪郭沿いに延びて断面U字状をなす。これにより、ゴムの硬度が変化した部分が溝部81又はサイプ82の深さ方向に沿って深く形成され、摩耗が進行してもエッジ部では常に硬度が変化した部分が露出する。その結果、上述したようなタイヤ性能の改善効果を摩耗末期まで良好に持続することができる。
しかも、領域81a,82aと領域81b,82bとが同配合ゴムにより一体的に形成されていることから、従来のように異配合ゴムを配設した未加硫タイヤを使用する必要がなく、通常の未加硫タイヤを用いて製造することができる。加えて、エッジ部の周辺に異配合ゴムの界面が形成されないため、界面剥離が起こる心配もない。
本発明では、溝部又はサイプの輪郭沿いにゴム硬度の異なる領域を設けた上記の如き構造を、トレッド面内の全ての溝部81又はサイプ82に対して適用できるが、一部の溝部やサイプに対してだけ適用しても構わない。例えば、複数本のサイプ82が並設された場合に、領域82aの硬度を1本置きに変えるなどしてもよく、本発明において硬度を変化させる箇所の配置に関しては様々なバリエーションが考えられる。
本発明の空気入りタイヤは、溝部又はサイプの輪郭沿いに上記の如きゴム硬度の異なる領域を有する以外は、通常の空気入りタイヤと同等であり、従来公知の材料、形状、構造、製法などが何れも本発明に採用することができる。
この領域81a,82aは、タイヤ成形型が備えるトレッド型部の成形面と温度を異ならせた骨部又はブレードを、未加硫タイヤのトレッド面に押し当てて加硫成形することにより形成したものとすることができる。かかる加硫成形は、例えば図3に示すようなタイヤ成形型(以下、単に「成形型」と称する場合がある。)10を使用することで実施可能である。
成形型10は、タイヤのトレッド面を成形する環状のトレッド型部1と、タイヤのサイドウォール部外面を成形する一対のサイド型部2,3と、サイド型部2,3のタイヤ径方向内側に配された一対のビードリング4とを備える。タイヤはタイヤ軸方向が図3の上下になるようにセットされ、ビードリング4によってビード部を固定される。図3では、右側がタイヤ径方向内側、左側がタイヤ径方向外側となる。
トレッド型部1の内周側となる成形面1aには、タイヤのトレッド面に溝部81を形成するための骨部と、その骨部によって区分された、ブロック80を形成するための凹所とが設けられている。また、サイプ82を形成するためのブレードが、必要に応じて凹所に配設される。加硫成形時には、未加硫タイヤのトレッド面に成形面1aが押し当てられ、骨部と凹所に対応したトレッドパターンが形成される。
トレッド型部1は、加熱手段としてのコーンリング24によって外周を取り囲まれている。コーンリング24には通路26が設けられていて、その内部を加熱流体が流動するように構成されている。加熱流体としては、スチームやガス、温水などが例示される。この加熱流体の流動によって、トレッド型部1が背面側から所定の温度に加熱される。
図示を省略しているが、サイド型部2の下方には下側プラテンが配設され、サイド型部3の上方には上側プラテンが配設されている。これらのプラテンには、それぞれ内部に通路が形成され、コーンリング24と同様に加熱流体が流動するように構成されている。この加熱流体の流動によって、サイド型部2,3が所定の温度に加熱される。
トレッド型部1の背面側となる外周面にはコンテナ21が取り付けられている。コンテナ21は、昇降自在に構成されたサイドプレート23の下面に、タイヤ径方向に沿って摺動可能に取り付けられている。コーンリング24は、コンテナ21の外側斜面に設けられたレール25に嵌合されており、サイドプレート23に対して相対的に昇降自在に構成されている。
図1に示した型締め状態において、コーンリング24を上昇させてコンテナ21をタイヤ径方向外側に移動させると、トレッド型部1が拡径してサイド型部2,3から離間し、更にサイドプレート23及びコンテナ21を上昇させると、トレッド型部1とサイド型部3が持ち上がって型開き状態に移行する。型開き状態から型締め状態への移行は、上記動作を逆に行えばよい。
図示を省略しているが、成形型10の内部にはブラダーと呼ばれるゴムバッグが設置されている。加硫成形時には、ブラダーをタイヤ径方向外側に膨張させることにより、タイヤのトレッド面が成形面1aに押し当てられる。なお、ブラダーに代えて剛性コアを使用することも可能である。
この成形型10は、トレッド型部1に埋め込まれてトレッド型部1の成形面1aから端部5aが突出した埋込部材5を備える。この端部5aは、タイヤのトレッド面に押し当たって凹みを形成する部分となる。したがって、埋込部材5の突出した端部5aは、溝部81を形成するための骨部、又は、サイプ82を形成するためのブレードを構成することができる。
また、成形型10は、埋込部材5を加熱又は冷却する温度調整手段を備える。本実施形態では、温度調整手段として、トレッド型部1の内部に通路16が設けられ、この通路16内を冷却流体としての冷却水が流動するように構成されている。通路16は断熱材17により周囲を取り囲まれており、これによってトレッド型部1との間での熱伝達が抑えられる。
埋込部材5は、その一部(本実施形態では端部5aとは反対側となる端部5b)を通路16内に露出させて、冷却水に接触するように配設されている。通路16内を流動する冷却水は、ウォータークーラー等の冷却水生成装置(不図示)により生成され、その温度は適宜に変更可能である。したがって、コーンリング24によりトレッド型部1を加熱しながらも、埋込部材5を冷却することができる。
図3では、トレッド型部1の断面において通路16が大部分を占めているように記載しているが、実際に通路16が占める割合はもっと小さく、タイヤの加硫成形に支障のないよう、トレッド型部1を適切に加熱できる範囲で設けられる。
図4は、トレッド型部1の断面を概念的に示した要部拡大図である。この図では1本の骨部51と1枚のブレード52とを代表的に示しているが、実際の成形面1aには複数本の骨部と複数枚のブレードが複雑に配設される。図4に示すように、骨部51及びブレード52は、いずれも埋込部材5の突出した端部5aにより構成されている。すなわち、トレッド型部1に埋め込まれた埋込部材5A,5Bは、その端部を成形面1aから突出させていて、その突出した端部が骨部51やブレード52として供される。
この成形型10を用いてタイヤを製造する方法は、次の通りである。まずは、成形型10に未加硫のタイヤをセットして型締めする。次に、ブラダーを膨張させて、タイヤのトレッド面を成形面1aに押し当てるとともに、タイヤのサイドウォール部外面をサイド型部2,3の内周面に押し当てる。このとき、骨部51によって溝部81が形成され、ブレード52によってサイプ82が形成される。
トレッド型部1及びサイド型部2,3は、それぞれコーンリング24とプラテンによって所定の温度に加熱されており、成形型10内の未加硫タイヤは適切な加硫温度(例えば160〜180℃程度)にて加硫される。
そして、タイヤを加硫成形するに際し、トレッド型部1等を所定の温度に加熱しつつ、埋込部材5(埋込部材5A,5B)を冷却してトレッド型部1と温度を異ならせる。これにより、トレッド型部1の成形面1aとは温度を異ならせた骨部51又はブレード52を、未加硫タイヤのトレッド面に押し当てて加硫成形し、それによって領域81a,82aにおけるゴムの硬度を局部的に変化させることができる。
つまり、埋込部材5の端部5aが骨部51を構成する場合であれば、図5に示すように、トレッド面Trに押し当たった骨部51が溝部81を形成するに際し、骨部51の周辺となる領域Aの温度を他部よりも低くし、その領域Aにおけるゴムの硬度を高くすることができる。この領域Aは図1における領域81aに相当し、領域81aのゴム硬度は領域81bよりも高くなる。
また、埋込部材5の端部5aがブレード52を構成する場合であれば、図6に示すように、トレッド面Trに押し当たったブレード52がサイプ82を形成するに際し、ブレード52の周辺となる領域Bの温度を他部よりも低くし、その領域Bにおけるゴムの硬度を高くすることができる。この領域Bは図1における領域82aに相当し、領域82aのゴム硬度は領域82bよりも高くなる。
なお、成形面1a内の全ての骨部やブレードを埋込部材5の端部5aで構成してもよいが、成形面1a内の一部の骨部又はブレードに対してだけ適用しても構わない。例えば、横溝を形成する骨部に係る埋込部材だけを冷却してもよく、その場合には、グルーブエッジ部の中でも特に制動性能への寄与が大きい部分に対して集中的に硬度を高められる。
ところで、成形型10による加硫成形では、温度調整手段によって埋込部材5を加熱し、その端部5aの温度を成形面1aの温度よりも高くすることも可能であり、その場合には通路16に加熱流体を流動させればよい。加熱流体としては、スチームやガス、温水などが例示されるが、コーンリング24、下側プラテン及び上側プラテンに供給する加熱流体よりも高温の加熱流体を供給することになる。
埋込部材5を加熱して端部5aの温度を成形面1aよりも高くした場合には、上記とは逆に、端部5a周辺のゴムの硬度を低くして剛性を下げることができる。そのため、例えば、ドライ路面で接地圧が高くなりがちなグルーブエッジ部GEの剛性を下げ、それによって陸部の接地圧を均一化し、ドライ路面における制動性能や耐偏摩耗性能を向上することができる。
上記では、埋込部材5を冷却することで端部5a周辺のゴムの硬度が上がり、埋込部材5を加熱することで端部5a周辺のゴムの硬度が下がると記述したが、この現象は加硫温度と加硫挙動との関係から説明できる。すなわち、ゴムの加硫では、加硫温度が高いほど加硫戻りの開始時期が早くなるため、一般的なタイヤの加硫成形に採用される加硫時間においては、加硫温度が高いほどゴムの硬度が低くなる傾向にある。
したがって、例えば加硫戻りが起こらない程度に加硫時間が短い場合など、加硫時間やゴム配合などの条件によっては、上記とは逆に、埋込部材を冷却すると端部周辺のゴムの硬度が下がるという現象が起きる可能性がある。しかし、このことは特に問題とはならない。なぜなら、実施する加硫条件において、どちらの現象が起こるのかは予め容易に把握できるものであり、埋込部材の端部周辺にて硬度を高めるのか或いは低下させるのかに応じて、埋込部材に対する加熱及び冷却の何れかを選択すればよいからである。
骨部又はブレードの温度をトレッド型部1の成形面1aと異ならせる手法としては、成形型10のように温度調整手段によって埋込部材を加熱又は冷却するものに限られない。例えば図7に示すような成形型20を使用することにより、上記とは違う方法で骨部又はブレードの温度を成形面1aと異ならせることができる。成形型20では、トレッド型部1が、成形面1aを含む内側部材11と、その内側部材11の背面側に配置されたバック部材12とを有する。
内側部材11の素材としては、アルミニウムが例示される。このアルミニウムとは、純アルミ系の素材のみならず、アルミニウム合金を含む概念であり、例えばAl−Cu系、Al−Mg系、Al−Mg−Si系、Al−Zn−Mg系、Al−Mn系、Al−Si系が挙げられる。一方、バック部材12の素材としては、内側部材11とは異なる素材が好ましく採用され、スチール等の鉄系材料が例示される。
この成形型20は、トレッド型部1に埋め込まれてトレッド型部1の成形面1aから端部6aが突出した埋込部材6を備える。この端部6aは、溝部81を形成するための骨部又はサイプ82を形成するためのブレードを構成することができる。埋込部材6は、バック部材12に侵入する侵入部6bを有する。本実施形態では、埋込部材6の端部6aとは反対側となる端部がバック部材12にまで入り込んでおり、この端部が侵入部6bとなる。
また、埋込部材6は、内側部材11とは熱伝導率が異なる素材により形成されている。このため、コーンリング24により加熱されて高温となったバック部材12から、内側部材11と埋込部材6とにそれぞれ熱が供給されるものの、その熱の伝わり易さは異なったものとなる。埋込部材6の熱伝導率を内側部材11よりも高くするか低くするかについては、改善すべきタイヤ性能に応じて適宜に選択すればよい。また、埋込部材6と内側部材11との間に断熱材を介在させて、それらの間での熱伝達を抑えることは好適である。
内側部材11をアルミニウムで形成し、バック部材12をスチールで形成し、埋込部材6を内側部材11よりも熱伝導率が低い素材(例えばSUS)で形成したものが例示される。参考までに、室温付近での熱伝導率として、アルミニウムは236、鉄は84、銅は390であることが知られている(単位はW/(m・K))。
加硫成形の際には、トレッド型部1及びサイド型部2,3は、それぞれコーンリング24とプラテンによって所定の温度に加熱されており、成形型20内の未加硫タイヤは適切な加硫温度(例えば160〜180℃程度)にて加硫される。トレッド型部1について詳しく言えば、コーンリング24がトレッド型部1を背面側から加熱することで、まずはバック部材12が高温となり、その熱が内側部材11を介してタイヤのトレッド面に伝達され、主にトレッド7の加硫に供される。
このとき、バック部材12の熱を内側部材11を介してトレッド面に伝達しつつ、内側部材11と埋込部材6との熱伝導の差を利用して、埋込部材6の突出した端部6aの温度を成形面1aの温度と異ならせる。本実施形態では、内側部材11よりも埋込部材6の熱伝導率が低く、内側部材11と比べてバック部材12からの熱が伝わり難いので、端部6aの温度を成形面1aの温度よりも低くできる。
このため、埋込部材6の端部6aが骨部61を構成する場合であれば、トレッド面Trに押し当たった骨部61が溝部81を形成するに際し、骨部61の周辺となる領域の温度を他部よりも低くし、領域81aに相当する領域のゴム硬度を高くすることができる。このことは、成形型10が有する埋込部材5の端部5aについて図5で説明したのと同様である。
また、埋込部材6の端部6aがブレード62を構成する場合であれば、トレッド面Trに押し当たったブレード62がサイプ82を形成するに際し、ブレード62の周辺となる領域Bの温度を他部よりも低くし、領域82aに相当する領域のゴム硬度を高くすることができる。このことは、成形型10が有する埋込部材5の端部5aについて図6で説明したのと同様である。
なお、埋込部材6を内側部材11よりも熱伝導率が高い素材(例えば銅系材料)で形成し、バック部材12からの熱が内側部材11よりも伝わり易くして、端部6aの温度を成形面1aの温度よりも高めることも可能である。この場合、上記とは逆に、端部6a周辺のゴムの硬度を低くすることができる。
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例について説明する。タイヤの各性能評価は、次のようにして行った。
(1)アイス制動性能
タイヤを2500ccクラスの乗用車(後輪駆動)に装着し、氷盤路面(摩擦係数μ≒0.1)を走行させ、速度40km/hで制動力をかけてABSを作動させたときの制動距離を指数で評価した。比較例1の結果を100とし、数値が大きいほど制動距離が短く、アイス制動性能に優れていることを示す。
(2)ドライ制動性能
タイヤを2500ccクラスの乗用車(後輪駆動)に装着し、ドライ路面(摩擦係数μ≒1.0)を走行させ、速度100km/hで制動力をかけてABSを作動させたときの制動距離を指数で評価した。比較例2の結果を100とし、数値が大きいほど制動距離が短く、ドライ制動性能に優れていることを示す。
未加硫タイヤとしては、トレッドゴムの配合が異なる2種を用意した。一方は、一般的なスタッドレスタイヤ(冬用タイヤ)に用いられるゴム配合(A配合)であり、もう一方は、一般的なサマータイヤ(夏用タイヤ)に用いられるゴム配合(B配合)である。このA配合とB配合のゴムに対して、加硫時間を10分間としたときの、加硫温度とゴム硬度との関係を表1に示す。
Figure 2009179292
表1における測定値は、上述した硬さ試験に準じて測定した値を指す。後掲の表2におけるゴム硬度も同様である。表1から、このA配合とB配合のゴムは、10分間の加硫において加硫温度が高いほど硬度が低くなることが分かる。したがって、この場合、ゴム硬度を高くしたいのであれば加硫温度を低く設定すればよいことになる。
比較例1
タイヤサイズが215/60R16であってトレッドゴムの配合がA配合である未加硫のタイヤを、通常の方法により加硫成形したものを比較例1とした。加硫温度は180℃、加硫時間は10分間、サイプ間距離(ブレード間距離)は4mmとした。比較例1では、トレッド型部の成形面と骨部及びブレードとが同じ温度に加熱保持された状態にて、未加硫タイヤのトレッド面に押し当たることになる。
実施例1
未加硫のタイヤを加硫成形するにあたり、埋込部材を冷却したこと以外は比較例1と同じにしたものを実施例1とした。成形型としては、図3に示したようにトレッド型部の内部に冷却源を配置したものを使用した。実施例1では、トレッド型部の成形面の温度と埋込部材の温度とが異なり、埋込部材の突出した端部により構成した骨部及びサイプの周辺のゴムの硬度を局部的に変化させたものとなる。
比較例2
トレッドゴムの配合をB配合、加硫温度を160℃としたこと以外は、比較例1と同じにしたものを比較例2とした。なお、比較例2では成形型にブレードを設けていない。
実施例2
未加硫のタイヤを加硫成形するにあたり、埋込部材を加熱したこと以外は比較例2と同じにしたものを実施例2とした。成形型としては、トレッド型部の外部に熱源を配置したものを使用した。実施例2では、トレッド型部の成形面の温度と埋込部材の温度とが異なり、埋込部材の突出した端部により構成した骨部の周辺のゴムの硬度を局部的に変化させたものとなる。
比較例1,2及び実施例1,2に対し、トレッドゴムの硬度、エッジ部の硬度及び制動性能を調べた結果を表2に示す。表2において、「エッジ部の硬度」とは、比較例1及び実施例1ではサイプエッジ部にて測定したゴム硬度であり、比較例2及び実施例2ではグルーブエッジ部にて測定したゴム硬度である。
Figure 2009179292
表2より、比較例1ではトレッドゴムの硬度が一様に45°であるのに対し、実施例1ではサイプエッジ部にて硬度が局部的に高く変化していることが分かる。その結果、実施例1ではエッジ効果を高めてアイス制動性能を向上できている。また、比較例2では、トレッドゴムの硬度が一様に54°であるのに対し、実施例2ではグルーブエッジ部にて硬度が局部的に低く変化していることが分かる。その結果、実施例2ではブロック内の接地圧を均一化してドライ制動性能を向上できている。
本発明に係る空気入りタイヤのトレッド面の一例を示す断面図 図1のトレッド面に設けられたブロックの平面図 本発明に係る空気入りタイヤを加硫成形するためのタイヤ成形型の一例を概略的に示す縦断面図 図3のタイヤ成形型が備えるトレッド型部の断面を概念的に示した要部拡大図 加硫成形時における骨部周辺の様子を示す断面図 加硫成形時におけるブレード周辺の様子を示す断面図 本発明に係る空気入りタイヤを加硫成形するためのタイヤ成形型の別例を概略的に示す縦断面図 サイプが形成されたブロックの斜視図
符号の説明
1 トレッド型部
1a 成形面
5 埋込部材
6 埋込部材
10 タイヤ成形型
16 通路
20 タイヤ成形型
24 コーンリング
51 骨部
52 ブレード
80 ブロック(陸部の一例)
81 溝部
81a 第1の領域
81b 第2の領域
82 サイプ
82a 第1の領域
82b 第2の領域
GE グルーブエッジ部
SE サイプエッジ部
Tr トレッド面

Claims (3)

  1. トレッド面に、溝部と、その溝部により区分された陸部とが設けられた空気入りタイヤにおいて、前記陸部に形成したサイプ又は前記溝部の輪郭沿いに延びてエッジ部を含む第1の領域と、前記第1の領域の周囲に隣接した第2の領域とが、同配合ゴムにより一体的に形成され且つゴムの硬度を互いに異ならせていることを特徴とする空気入りタイヤ。
  2. 前記第1の領域が、タイヤ成形型が備えるトレッド型部の成形面とは温度を異ならせた骨部又はブレードを、未加硫タイヤのトレッド面に押し当てて加硫成形することにより形成されたものである請求項1記載の空気入りタイヤ。
  3. 前記第1の領域と前記第2の領域とのゴムの硬度差がJISA硬度にて4°以上である請求項1又は2記載の空気入りタイヤ。
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