ところで、車両がカーブに進入する際に減速制御が要求される場合として、以下の2つが考えられる。第1に、運転者による減速操作が行われている場合において、車両を適正車速に向けて減速してこの減速操作をアシストするために減速制御が要求される場合がある。この場合、適正車速は、旋回限界に対応する値よりも十分に小さい値に設定されることが好ましい。以下、この場合の減速制御を「走行アシスト制御」とも称呼する。
第2に、運転者が車両前方にあるカーブの存在を認識していない場合、カーブの半径を誤って大きめに認識した場合等において、車両の旋回状態が旋回限界を超えないように車両を適正車速に向けて減速して走行安定性を確保するために減速制御が要求される場合がある。この場合、運転者による減速操作の有無にかかわらず減速制御が実行される。この場合、「走行アシスト制御」とは異なり、適正車速は、旋回限界に対応する値近傍に設定されることが好ましい。以下、この場合の減速制御を「限界ガード制御」とも称呼する。
上記文献に記載の装置では、上述のように、カーブを走行する際における適正車速が1つしか設定されない。即ち、上記2種類の減速制御が想定されていない。従って、上記2種類の減速制御を車両の走行状態に応じて使い分けることができない。
本発明は、係る問題に対処するためになされたものであり、その目的は、上記2種類の減速制御を走行状態に応じて使い分けて減速制御を効率的に実行することができる車両の運動制御装置(減速制御装置)を提供することにある。
本発明に係る車両の運動制御装置は、車速取得手段と、形状取得手段と、位置取得手段と、第1決定手段と、第1演算手段と、第2決定手段と、第2演算手段と、減速操作取得手段と、第1制御手段と、第2制御手段とを備えている。ここで、第1制御が「走行アシスト制御」に対応し、第2制御が「限界ガード制御」に対応する。
以下、これらの手段について順に説明する。以下、本明細書では、或る地点に対して車両に近い側、遠い側を、それぞれ「手前側」、「奥側」と称呼することもある。また、「カーブ開始地点の通過」を「カーブに進入」と称呼し、「カーブ終了地点の通過」を「カーブから退出」と称呼することもある。また、「第1」が先頭に付される用語は「走行アシスト制御」用であり、「第2」が先頭に付される用語は「限界ガード制御」用である。
車速取得手段は、車輪速度センサの出力を利用する手法等、周知の手法の一つを利用して車両の車速を取得する。
形状取得手段は、前記車両が走行している道路の前記車両の前方にあるカーブの形状を取得する。カーブの形状は、例えば、前記車両に搭載されたナビゲーションシステムに記憶された道路情報から取得され得る。
位置取得手段は、前記カーブに対する前記車両の相対位置を取得する。この相対位置は、例えば、前記車両に搭載されたナビゲーション装置に記憶された道路情報と前記ナビゲーション装置に搭載されたグローバル・ポジショニング・システムから得られる車両の位置とから取得され得る。
第1決定手段は、前記カーブの形状に基づいて、前記カーブを前記車両が通過する際における適正な車速である第1適正車速を決定する。より具体的には、前記カーブの形状に基づいて前記道路上の第1基準地点が決定され、前記車両が前記第1基準地点を通過する際における適正な車速が前記第1適正車速として決定される。前記第1適正車速は、旋回限界に対応する値よりも十分に小さい値に決定される。前記第1基準地点は、カーブの途中(カーブ開始地点とカーブ終了地点との間)の地点であることが好ましい。
第1演算手段は、前記第1適正車速(及び前記第1基準地点)に基づいて、前記車両が前記カーブに進入する際において(前記第1基準地点から前記車両に近い側の前記道路上にて)前記車両の減速が行われる場合における前記道路上の位置に対する前記車速の減少特性の目標である第1目標車速特性を演算する。前記第1目標車速特性は、例えば、車速が、前記第1基準地点にて前記第1適正車速となり且つ前記第1基準地点から前記車両に近い側に向けて離れるほどより大きくなる特性である。前記第1目標車速特性は、前記車両の減速度が一定となる特性であってもよい。
第2決定手段は、前記カーブの形状に基づいて、前記カーブを前記車両が通過する際における適正な車速である前記第1適正車速よりも大きい第2適正車速を決定する。より具体的には、前記カーブの形状に基づいて前記道路上の第2基準地点が決定され、前記車両が前記第2基準地点を通過する際における適正な車速が前記第2適正車速として決定される。前記第2適正車速は、旋回限界に対応する値近傍に決定される。前記第2基準地点は、カーブの途中(カーブ開始地点とカーブ終了地点との間)の地点であることが好ましい。
第2演算手段は、前記第2適正車速(及び前記第2基準地点)に基づいて、前記車両が前記カーブに進入する際において(前記第2基準地点から前記車両に近い側の前記道路上にて)前記車両の減速が行われる場合における前記道路上の位置に対する前記車速の減少特性の目標である第2目標車速特性を演算する。前記第2目標車速特性は、例えば、車速が、前記第2基準地点にて前記第2適正車速となり且つ前記第2基準地点から前記車両に近い側に向けて離れるほどより大きくなる特性である。前記第2目標車速特性は、前記車両の減速度が一定となる特性であってもよい。
減速操作取得手段は、運転者による減速操作を取得する。「減速操作」は、例えば、加速操作部材(アクセルペダル)の操作量が所定値以下(ゼロを含む)の場合、制動操作部材(ブレーキペダル)の操作量が所定値(ゼロでもよい)より大きい場合に取得される。
前記第1制御手段は、前記車速と前記相対位置(前記第1基準地点に対する前記車両の位置)との関係が前記第1目標車速特性に基づいて決定される第1制御許可条件を満足し且つ前記減速操作がなされているときに、前記第1適正車速に向けて前記車両の減速を行う第1制御を開始・実行する。
前記第2制御手段は、前記車速と前記相対位置(前記第2基準地点に対する前記車両の位置)との関係が前記第2目標車速特性に基づいて決定される第2制御実行条件を満足しているときに、前記減速操作がなされているか否かにかかわらず前記第2適正車速に向けて前記車両の減速を行う第2制御を開始・実行する。
前記第1制御許可条件(前記第2制御実行実行条件)は、例えば、現在の車速が、前記第1(第2)目標車速特性から得られる「第1(第2)基準地点に対する車両の現在の位置」に対応する第1(第2)目標車速を超えた場合に満足される。前記第1(第2)制御は、車速が前記第1(第2)目標車速特性に沿って減少するように実行されることが好ましい。例えば、現在の車速と前記第1(第2)目標車速特性から得られる「第1(第2)基準地点に対する車両の現在の位置」に対応する第1(第2)目標車速との偏差がゼロになるように車速がフィードバック制御される。或いは、(道路上の位置に対する)第1(第2)目標減速度が導入され、現在の減速度が前記第1(第2)目標減速度(例えば、一定)と一致するように減速度がフィードバック制御される。車両の減速は、例えば、車輪ブレーキ、駆動源の出力低減、変速機のシフトダウン(変速段を低い側へ移動、減速比の増大)等により達成され得る。また、前記第1(第2)制御は、前記車速が前記第1(第2)適正車速を含む第1(第2)所定範囲内に達したときに終了されることが好適である。前記第1(第2)所定範囲の幅はゼロであってもよい。
そして、前記第2制御手段は、前記第1制御の実行中か否かにかかわらず、前記第2制御を開始・実行する。また、前記第1制御手段は、前記第2制御の実行中は前記第1制御を実行しない。
上記本発明に係る車両の運動制御装置によれば、第1制御許可条件が満足していて且つ運転者が減速操作を行っている場合(=第1制御実行条件が満足している場合)、第1制御(=「走行アシスト制御」)が開始・実行される。また、第2制御実行条件が満足している場合、第2制御(=「限界ガード制御」)が開始・実行される。加えて、第1制御実行中において第2制御実行条件が満足した場合、第1制御から第2制御へと制御が切り替えられる。第2制御が開始・実行された場合、第1制御は実行されない。即ち、第1、第2制御について実行条件が共に成立している場合、第2制御が優先される。
従って、以上のように、車両の走行状態に応じて「走行アシスト制御」と「限界ガード制御」との2種類の減速制御を使い分けることができる。従って、減速制御を効率的に実行することができる。
上記本発明に係る車両の運動制御装置においては、前記第2基準地点が、前記第1基準地点に対して前記車両から遠い側の前記道路上の地点に決定され得る。また、前記第2目標車速特性における前記車速の減少度合い(道路上の位置に対する減少勾配)が、前記第1目標車速特性における前記車速の減少度合い(道路上の位置に対する減少勾配)よりも大きく設定され得る。
「限界ガード制御」は、車両の旋回状態が旋回限界を超えないことを目的とする緊急ブレーキの性格を有する。従って、「限界ガード制御」では、制御がなるべく遅い時期から開始され、また、制御中の減速度がスリップ限界を超えない範囲内でなるべく大きめに設定されることが好ましいと考えられる。一方、「走行アシスト制御」は、減速操作を伴う運転者による予測運転を模擬する性格を有する。従って、「走行アシスト制御」では、「限界ガード制御」よりは早い時期から制御が開始され、また、「限界ガード制御」よりは制御中の減速度が小さめに設定されることが好ましいと考えられる。
上記構成は、係る知見に基づくものである。これによれば、「限界ガード制御」が不必要に頻繁に開始される事態を抑制できるとともに、「走行アシスト制御」において運転者に違和感を与えることなく運転者の予測運転に基づく減速特性に沿って車両を減速させることができる。
上記本発明に係る車両の運動制御装置において、前記道路の路面と前記車輪のタイヤとの間の摩擦係数を取得する摩擦係数取得手段が備えられている場合、前記第1、第2決定手段は、前記摩擦係数が小さいほど前記第1、第2適正車速をより小さい値に決定するように構成されるとともに、前記第1、第2演算手段は、前記摩擦係数が小さいほど前記第1、第2目標車速特性における前記車速の減少度合いをより小さい値に決定するように構成され得る。
この場合、前記第1制御手段は、前記摩擦係数が所定値以下の場合、前記第1制御を実行しないように構成されることが好適である。上記のように、第1、第2適正車速、並びに、第1、第2目標車速特性における車速の減少度合いが摩擦係数に基づいて決定される場合、摩擦係数が小さいほど、(道路上の位置に対する)第1、第2目標車速特性の間の差異が小さくなる。
即ち、摩擦係数が小さい場合、第1制御が開始・実行された後、直ちに第2制御の開始が判定されて第1制御から第2制御へと制御が切り替えられる事態が発生し得る。この場合、係る制御の切替が運転者に違和感を与えることにもなり得る。従って、このような場合、より要求度合いの高い第2制御が優先されて第2制御のみが実行されることが好ましい。上記構成は、係る知見に基づく。これにより、上述した制御の切替に起因して運転者が違和感を受ける事態の発生を防止できる。
以下、本発明による車両の運動制御装置(減速制御装置)の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
(構成)
図1は、本発明の実施形態に係る運動制御装置(以下、「本装置」と称呼する。)を搭載した車両の概略構成を示している。本装置は、車両の動力源であるエンジンEGと、自動変速機TMと、ブレーキアクチュエータBRKと、電子制御ユニットECUと、ナビゲーション装置NAVとを備えている。
エンジンEGは、例えば、内燃機関である。即ち、運転者によるアクセルペダル(加速操作部材)APの操作に応じてスロットルアクチュエータTHによりスロットル弁TVの開度が調整される。スロットル弁TVの開度に応じて調整される吸入空気量に比例した量の燃料が燃料噴射アクチュエータFI(インジェクタ)により噴射される。これにより、運転者によるアクセルペダルAPの操作に応じた出力トルクが得られるようになっている。
自動変速機TMは、複数の変速段を有する多段自動変速機、或いは、変速段を有さない無段自動変速機である。自動変速機TMは、エンジンEGの運転状態、及びシフトレバー(変速操作部材)SFの位置に応じて、減速比(EG出力軸(=TM入力軸)の回転速度/TM出力軸の回転速度)を自動的に(運転者によるシフトレバーSFの操作によることなく)変更可能となっている。
ブレーキアクチュエータBRKは、複数の電磁弁、液圧ポンプ、モータ等を備えた周知の構成を有している。ブレーキアクチュエータBRKは、非制御時では、運転者によるブレーキペダル(制動操作部材)BPの操作に応じた制動圧力(ブレーキ液圧)を車輪WH**のホイールシリンダWC**にそれぞれ供給し、制御時では、ブレーキペダルBPの操作(及びアクセルペダルAPの操作)とは独立してホイールシリンダWC**内の制動圧力を車輪毎に調整できるようになっている。
なお、各種記号等の末尾に付された「**」は、各種記号等が何れの車輪に関するものであるかを示す「fl」,「fr」等の包括表記であり、「fl」は左前輪、「fr」は右前輪、「rl」は左後輪、「rr」は右後輪を示している。例えば、ホイールシリンダWC**は、左前輪ホイールシリンダWCfl, 右前輪ホイールシリンダWCfr, 左後輪ホイールシリンダWCrl, 右後輪ホイールシリンダWCrrを包括的に示している。
本装置は、車輪WH**の車輪速度を検出する車輪速度センサWS**と、ホイールシリンダWC**内の制動圧力を検出する制動圧力センサPW**と、ステアリングホイールSWの(中立位置からの)回転角度を検出するステアリングホイール角度センサSAと、車体のヨーレイトを検出するヨーレイトセンサYRと、車体前後方向の加速度(減速度)を検出する前後加速度センサGXと、車体横方向の加速度を検出する横加速度センサGYと、エンジンEGの出力軸の回転速度を検出するエンジン回転速度センサNEと、アクセルペダルAPの操作量を検出する加速操作量センサASと、ブレーキペダルBPの操作量を検出する制動操作量センサBSと、シフトレバーSFの位置を検出するシフト位置センサHSと、スロットル弁TVの開度を検出するスロットル弁開度センサTSを備えている。
電子制御ユニットECUは、パワートレイン系及びシャシー系を電子制御するマイクロコンピュータである。電子制御ユニットECUは、上述の各種アクチュエータ、上述の各種センサ、及び自動変速機TMと、電気的に接続され、又はネットワークで通信可能となっている。電子制御ユニットECUは、互いに通信バスCBで接続された複数の制御ユニット(ECU1〜ECU3)から構成される。
電子制御ユニットECU内のECU1は、車輪ブレーキ制御ユニットであり、車輪速度センサWS**、前後加速度センサGX、横加速度センサGY、ヨーレイトセンサYR等からの信号に基づいてブレーキアクチュエータBRKを制御することで、周知のアンチスキッド制御(ABS制御)、トラクション制御(TCS制御)、車両安定性制御(ESC制御)等の制動圧力制御(車輪ブレーキ制御)を実行するようになっている。
電子制御ユニットECU内のECU2は、エンジン制御ユニットであり、加速操作量センサAS等からの信号に基づいてスロットルアクチュエータTH及び燃料噴射アクチュエータFIを制御することでエンジンEGの出力トルク制御(エンジン制御)を実行するようになっている。
電子制御ユニットECU内のECU3は、自動変速機制御ユニットであり、シフト位置センサHS等からの信号に基づいて自動変速機TMを制御することで減速比制御(変速機制御)を実行するようになっている。
ナビゲーション装置NAVは、ナビゲーション処理装置PRCを備えていて、ナビゲーション処理装置PRCは、車両位置検出手段(グローバル・ポジショニング・システム)GPS、ヨーレイトジャイロGYR、入力部INP、記憶部MAP、及び表示部(ディスプレー)MTRと電気的に接続されている。ナビゲーション装置NAVは、電子制御ユニットECUと、電気的に接続され、又は無線で通信可能となっている。
車両位置検出手段GPSは、人工衛星からの測位信号を利用した周知の手法の一つにより車両の位置(緯度、経度等)を検出可能となっている。ヨーレイトジャイロGYRは、車体の角速度(ヨーレイト)を検出可能となっている。入力部INPは、運転者によるナビゲーション機能に係わる操作を入力するようになっている。記憶部MAPは、地図情報、道路情報等の各種情報を記憶している。
ナビゲーション処理装置PRCは、車両位置検出手段GPS、ヨーレイトジャイロGYR、入力部INP、及び記憶部MAPからの信号を総合的に処理し、その処理結果(ナビゲーション機能に係わる情報)を表示部MTRに表示するようになっている。
(カーブ走行制御)
以下、上記のように構成された本装置により実行されるカーブ走行制御について説明する。本装置では、カーブ走行制御として、運転者による減速操作をアシストする走行アシスト制御と、運転者の加減速操作にかかわらず車両の旋回状態が旋回限界を超えないように旋回限界付近にて走行安定性を確保する限界ガード制御とが実行される。ここで、走行アシスト制御は前記「第1制御」に、限界ガード制御は前記「第2制御」にそれぞれ対応する。
第1、第2制御共に車両を減速させる減速制御であり、車両の減速は、エンジンEGの出力低減、変速機TMのシフトダウン、及び、車輪ブレーキのうちの少なくとも1つを用いて達成される。ここで、以下、第1、第2制御を「カーブ走行制御」と総称する。
カーブ走行制御では、車両の速度(車速)Vx、車両前方直近のカーブの形状、及び、カーブと車両との相対位置(カーブに対する車両の位置、カーブと車両との距離)に基づいて減速を開始する地点が決定され、この地点にて減速が開始される。そして、車速Vxが適正となったときに減速が終了される。
以下、図2、図3にフローチャートにより示したルーチン、及び、図4に示した車両の道路上の位置と車速との関係を表す図を参照しながら、カーブ走行制御について詳述していく。図2、図3に示したルーチンは、例えば、所定の演算周期毎に実行される。
図5に示すように、一般的な道路では、1つのカーブは、カーブ開始地点(カーブ入口)からカーブ終了地点(カーブ出口)に向けて順に、進入緩和曲線区間、一定曲率半径区間、及び退出緩和曲線区間から構成されている。緩和曲線は、例えば、クロソイド曲線で構成される。緩和曲線区間が設けられているのは、運転者に急激なステアリングホイール操作を要求することなく、運転者がステアリングホイールを徐々に切り込み、その後徐々に切り戻すことで車両がカーブを円滑に通過できるようにするためである。
従って、以下、車両が通過するカーブとして図5に示すものを想定しながら説明を続ける。本明細書では、或る地点に対して車両に近い側、遠い側を、それぞれ「手前側」、「奥側」と称呼することもある。また、「カーブ開始地点の通過」を「カーブに進入」と称呼し、「カーブ終了地点の通過」を「カーブから退出」と称呼することもある。
先ず、図2のステップ205では、車両前方のカーブを認識するための処理が実行される。カーブの認識処理は、ナビゲーション装置NAV、及び図示しない画像認識装置の少なくとも一方によって行われる。例えば、車両がカーブから所定距離の範囲内に近づいた場合にカーブの存在が認識される。
ステップ210では、カーブが存在したか否かが判定され、カーブの存在が認識されていない場合、本ルーチンを終了する。一方、カーブの存在が認識されていると(図4において地点(点N)Pcnを参照)、ステップ215以降の処理が実行される。
ステップ215では、現在の車速Vxが取得され、ステップ220では、車両前方直近のカーブの形状が取得され、ステップ225では、形状が取得されたカーブと車両との相対位置が取得される。これらの情報は、車両内のネットワークを通して取得することができる。
カーブの形状(カーブの曲率半径Rc)は、記憶部MAPに記憶されている上記地図情報に含まれているカーブ情報から読み出すことができる。より具体的には、上記地図情報には予め、カーブの開始地点、カーブ終了地点等の位置と、各位置における曲率半径が記憶されている。また、道路上の特定の複数の点(ノード点)の位置と、各位置における曲率半径がそれぞれ記憶されている。図6に示すように、これらの点を幾何学的に滑らかに繋いだ近似曲線に基づいてカーブの曲率半径を推定することができる。この手法については、特許第3378490号公報に詳細に記載されている。
カーブと車両との相対位置Pcは、ナビゲーション装置NAVの車両位置検出手段GPS、及び、上記地図情報を利用して取得される。より具体的には、車両位置検出手段GPSにより、地球に固定された座標上において現在の車両の位置(緯度、経度等)が検出される。更に、車両位置検出手段GPSにより車両の初期位置が決定された後に、ヨーレイトジャイロGYR、加速度センサGX,GY、及び車輪速度センサWS**等から得られる情報に基づいて前記初期位置からの車両の相対位置を逐次更新していくことで現在の車両の位置を推定することができる。一方、上記地図情報には、道路の位置(経度、緯度)が記憶されている。従って、現在の車両の位置と道路の位置とを照合することで、カーブと車両との相対位置を取得することができる。
また、カーブと車両との相対位置、及び、カーブの形状(カーブの曲率半径)は、車両に搭載されたCCDカメラの画像処理を利用することで取得することもできる。より具体的には、車載されたステレオカメラの画像に基づいて、道路上の白線、或いは道路端が検出される。そして、ステレオ画像における対応する位置のズレ量と、三角測量の原理とに基づいて画像全体における距離分布が演算され、この演算結果に基づいて、車両からカーブまでの距離(即ち、カーブと車両との相対距離)、及びカーブの曲率半径が求められる。この手法については、特許第3378490号公報に詳細に記載されている。
ステップ230では、運転者による加減速操作が取得される。加減速操作は、加速操作部材(アクセルペダルAP)、及び制動操作部材(ブレーキペダルBP)の操作量Ap,Bpに基づいて取得される。「加速操作」は、Apが所定値Ap1以上となった場合に取得される。「減速操作」は、Apが所定値Ap2以下の場合(Ap=0(アクセルペダルAPの開放)を含む。)、及びブレーキペダルBPが操作された場合(Bp>0)の少なくとも何れかの場合に取得される。なお、「制動操作」は、Bpが所定値Bp1以上の場合に取得される。
ステップ235では、路面摩擦係数μが取得される。μとしては、上記ネットワークを通して取得された通信バスCB上での値が使用され得る。或いは、公知の手法の一つを利用して演算された値が使用され得る。
ステップ240では、車両の旋回状態が取得される。具体的には、ステアリングホイール角度センサSA、ヨーレイトセンサYR、横加速度センサGY等からの信号に基づいて、車両の旋回状態の度合いが取得される。
ステップ245では、図3に示したルーチンの実行により、第1、第2制御の制御パラメータが演算される。以下に登場する種々の用語において「第1」、「第2」が先頭に付されたものはそれぞれ、第1制御(=走行アシスト制御)、第2制御(=限界ガード制御)に係わるものである。また、以下に登場する種々の変数、記号等において「1」、「2」が末尾に付されたものはそれぞれ、第1制御、第2制御に係わるものである。また、以下の説明において第1、第2制御の区別が不要な部分については、上述の用語において「第1」、「第2」が省略され、上述の種々の変数、記号等において「1」、「2」が省略されることもある。
図3のステップ305では、カーブの曲率半径(例えば、カーブ内の最小曲率半径Rm)に基づいて、第1、第2適正車速Vq1,Vq2がそれぞれ決定される(図4を参照)。Vq1,Vq2は、例えば、図7に示したテーブルを利用して、最小曲率半径Rmが大きいほどより大きい値に決定される。
また、Vq2は、Vq1よりも大きい値に決定される。これは、第1制御が減速操作を伴う運転者による予測運転を模擬する性格を有すること、並びに、第2制御が車両の旋回状態が旋回限界を超えないことを目的とする緊急ブレーキの性格を有すること、に基づく。
Vq1,Vq2は、第1、第2許容横加速度Gy1,Gy2に基づいて下記(1)式、(2)式に従ってそれぞれ演算され得る。Rmはカーブ内の最小曲率半径である。Gy1は路面摩擦係数μの20〜30%の値とすることができる。路面状態が乾燥アスファルトの場合、Gy1=0.2〜0.3Gに設定され得る。また、Gy2はμの70〜80%の値とすることができる。路面状態が乾燥アスファルトの場合、Gy2=0.6〜0.7Gに設定され得る。これにより、μが小さいほどVq1,Vq2がより小さい値に決定される。
Vq1=√(Gy1・Rm) …(1)
Vq2=√(Gy2・Rm) …(2)
ステップ310では、第1、第2基準地点Pcr1,Pcr2がそれぞれ決定される(図4を参照)。Pcr1,Pcr2はそれぞれ、第1、第2適正車速Vq1,Vq2を達成するために目標とされる地点である。Pcr1,Pcr2は、カーブ内において一定曲率半径区間の開始地点(或いは、最小曲率半径Rmの区間において車両に最も近い地点)Pcm(図4を参照)に基づいて決定される。
Pcmは、図5では、一定曲率半径区間開始地点Cs(=進入緩和曲線区間の終了地点)に対応する。なお、一定曲率半径区間開始地点Csとは、図6における地点Cs1(複数のノード点を幾何学的に滑らかに繋いだ近似曲線から得られる一定曲率半径区間の範囲内における最も手前側のノード点に対応する地点)であっても、図6における地点Cs2(前記近似曲線から得られる一定曲率半径区間の開始地点(手前側の端点))であってもよい。
Pcr1,Pcr2は、Pcmよりも手前側に決定される。これは、車両を適正車速Vq1,Vq2まで早めに減速させて、より安定してカーブを走行させるためである。加えて、Pcr1は、Pcr2よりも手前側に決定される。これは、上述のように、第1制御が予測運転を模擬する性格を有すること、並びに、第2制御が緊急ブレーキの性格を有すること、に基づく。例えば、Pcr1はカーブ開始地点Ciよりも手前側に設定され、Pcr2は、進入緩和曲線区間内(地点Ciと地点Csの間)に設定され得る。
ステップ315では、図4にA1−B1線、A2−B2線で示すように、第1、第2基準地点Pcr1,Pcr2における第1、第2適正車速Vq1,Vq2をそれぞれ起点として、予め設定された減速特性(第1、第2減速度Gx1,Gx2)で車両を減速した場合における第1、第2目標車速特性Vt1,Vt2がそれぞれ演算される。
図4に示すように、第1(第2)目標車速特性Vt1(Vt2)は、道路上の位置に対する車速の減少特性の目標であり、車速が、Pcr1(Pcr2)にて第1(第2)適正車速Vq1(Vq2)となり且つPcr1(Pcr2)から手前側に向けて離れるほどより大きくなる特性である。なお、図4では、減速特性が一定の場合が示されている。この場合、正確には、A−B線は上に凸の曲線となるが、ここでは、理解を容易にするために、A−B線が直線で記載されている。
第2減速度Gx2(第2制御の減速特性)は、第1減速度Gx1(第1制御の減速特性)よりも大きい値に決定される。これも、上述の適正車速Vq1,Vq2の場合と同様、第1制御が予測運転を模擬する性格を有すること、並びに、第2制御が緊急ブレーキの性格を有すること、に基づく。
Gx1,Gx2は、予め設定された一定値とすることができる。また、上述の許容横加速度Gyの場合と同様、Gx1は路面摩擦係数μの20〜30%の値とすることができる。路面状態が乾燥アスファルトの場合、Gx1=0.2〜0.3Gに設定され得る。また、Gx2はμの70〜80%の値とすることができる。路面状態が乾燥アスファルトの場合、Gx2=0.6〜0.7Gに設定され得る。これにより、μが小さいほどGx1,Gx2(車速の減少度合い)がより小さい値に決定される。
再び、図2を参照すると、ステップ245の次のステップ250では、後述する第2制御実行条件が成立しているか否かが判定され、「No」と判定される場合、ステップ255にて、後述する第1制御実行条件(第1制御許可条件+減速操作+旋回状態)が成立しているか否かが判定される。ステップ250にて「Yes」と判定されている場合、ステップ260にて第2制御(限界ガード制御)が開始・実行される。ステップ255にて「Yes」と判定されている場合、ステップ265にて第1制御(走行アシスト制御)が開始・実行される。
このように、第1、第2制御について実行条件が共に成立している場合、より要求度合いの高い第2制御が優先される。即ち、第1制御実行中において第2制御実行条件が成立した場合、第1制御から第2制御へと制御が切り替えられる。一方、第2制御が開始・実行された場合、第1制御は実行されない。
以下、先ず、第1制御実行条件について説明する。第1制御実行条件は、以下に説明する第1制御許可条件が成立することに加えて、運転者による減速操作がなされていて、且つ車両の旋回状態の度合いが小さい(旋回状態量が所定値以下である)場合に成立する。減速操作が条件に加えられているのは、第1制御が運転者による減速操作をアシストする制御であることに基づく。また、車両の旋回状態が条件に加えられているのは、旋回状態が大きいときに減速制御によって車両の挙動が変化することを回避するためである。ここで、旋回状態量は、ステアリングホイール角度、ヨーレイト、横加速度のうちの少なくとも1つに基づいて演算される。
第1制御許可条件は、図8に示すように、カーブと車両との相対距離、即ち、第1基準地点Pcr1と車両との距離Lv1、及び車速Vxに基づいて決定される。Lv1=0は地点Pcr1を意味する。図8において、第1目標車速特性Vt1の左上方の領域(微細なドットで示した領域)が、第1制御許可条件が成立する領域(第1制御許可領域)を表す。
車両がカーブに接近するにつれて、距離Lv1が減少するとともに車速Vxが運転者の運転状態に応じて推移していく。これに伴って、図8の座標平面上にて点(Lv1,Vx)が移動していく。この点(Lv1,Vx)が特性Vt1を左方向に横切った場合には、第1制御許可条件が成立する。このように、点(Lv1,Vx)が第1制御許可領域内にある状態にて、「減速操作有(アクセルペダルの操作量が所定値以下(アクセルペダルの開放を含む)の場合、及びブレーキペダルの操作量が所定値よりも大きい場合の少なくとも何れかの場合)、且つ、所定旋回状態以下(旋回状態量が所定値以下の場合)」の条件が満足された場合に第1制御が開始・実行される。
例えば、図8において、所定の旋回状態以下(例えば、概ね直進状態)で、減速操作により車速Vxaが減少することで点(Lv1,Vx)が左下方に移動しながら特性Vt1を横切った場合(点B1aを参照)、この時点にて、第1制御が開始される。点(Lv1,Vx)が第1制御許可領域内にある状態でも、「減速操作有、且つ所定旋回状態以下」ではない場合には、第1制御は開始されない。しかし、「減速操作有、且つ所定旋回状態以下」ではないことで第1制御が開始されなかった場合であっても、その後において「減速操作有、且つ所定旋回状態以下」となった場合には、第1制御が開始される。
図4では、特性Vt1と車速Vxの推移を表す線(Vxa)とが交わった地点(点B1)Pcs1にて「減速操作有、且つ所定旋回状態以下」の場合には第1制御が開始される。地点Pcs1では「減速操作有」ではないことで第1制御が開始されなかった場合であっても、その後において「減速操作有、且つ所定旋回状態以下」となった場合には、その時点から第1制御が開始される。しかし、車両がカーブ内に進入しカーブの曲率半径が緩和曲線に従って徐々に小さくなり、車両の旋回状態量が所定値よりも大きくなって「所定旋回状態以下」の条件が満足されない場合には、「減速操作有」となっても第1制御は開始されない。これは、減速による車両挙動の変化の発生を回避するとともに、第1基準地点Pcr1の直近手前で第1制御が開始されることを開始するためである。
ただし、路面摩擦係数μが所定値以下(例えば、0.5以下)の場合(例えば、圧雪路、氷結路など)では、第1制御は実行されない。これは、以下の理由に基づく。即ち、上述のように、μが小さいほどVq1,Vq2並びにGx1,Gx2がより小さい値に決定される場合、特性Vt1,Vt2の間の差異が小さくなる。この結果、μが小さい場合、第1制御が開始・実行された直後に第2制御実行条件が成立して第1制御から第2制御へと制御が切り替えられる事態が発生し得る。この場合、係る制御の切替が運転者に違和感を与えることにもなり得るからである。
次に、第2制御実行条件について説明する。第2制御実行条件も、上述した第1制御許可条件と同様、図9に示すように、カーブと車両との相対距離、即ち、第2基準地点Pcr2と車両との距離Lv2、及び車速Vxに基づいて決定される。Lv2=0は地点Pcr2を意味する。図9において、第2目標車速特性Vt2の左上方の領域(微細なドットで示した領域)が、第2制御実行条件が成立する領域(第2制御実行領域)を表す。
即ち、図9の座標平面上にて、点(Lv2,Vx)が特性Vt2を左方向に横切った場合には、第2制御実行条件が成立して第2制御が開始・実行される。この第2制御は、緊急ブレーキの性格を有するものであるから、路面摩擦係数μにかかわらず、また、制御開始前における運転者の加減速操作にかかわらず、開始・実行される。
例えば、図9において、減速操作により減速しているとき(車速Vxa)、概ね一定の車速で走行しているとき(車速Vxb)、加速操作により加速しているとき(車速Vxc)の何れの場合も、点(Lv2,Vx)が特性Vt2を横切ったときに第2制御が開始される(点B2a,B2b,B2cを参照)。図4では、特性Vt2と車速Vxの推移を表す線(Vxc)とが交わった地点(点B2)Pcs2にて第2制御が開始される。ただし、運転者の制動操作により得られる車両の減速度が減速度Gx2よりも大きい場合、運転者による制動操作が優先されて、第2制御は実行されない。
以上のようにして、第1制御又は第2制御(即ち、カーブ走行制御)が開始・実行される。図10は、カーブ走行制御に係わる機能ブロック図である。図10に示すように、目標車速特性取得手段B1にて、第1(第2)目標車速特性Vt1(Vt2)から得られる現在の車両位置に対応する第1(第2)目標車速Vt1(Vt2)が演算される。車速取得手段B2では、現在の車速Vxが取得される。
減速制御量演算手段B3では、車速Vxと第1(第2)目標車速Vt1(Vt2)との偏差ΔVx1(ΔVx2)(=Vx1−Vt(=Vx2−Vt))に基づいて、減速制御量Gstが決定される。減速制御量Gstは、偏差ΔVx1(ΔVx2)が負の場合は「0」に決定され、偏差ΔVx1(ΔVx2)が正の場合はΔVx1(ΔVx2)が大きいほどより大きい値に決定される。
そして、この減速制御量Gstに基づいて、エンジン出力低減手段B4によるエンジン出力の低減(スロットル開度の低減、点火時期の遅角、及び燃料噴射量の低減のうちの少なくとも1つ)、変速機制御手段B5による「減速比」の増大(シフトダウン等)、及び車輪ブレーキ制御手段B6による車輪ブレーキによる制動トルクの付与(制動圧力の付与)の何れか1つ以上が実行される。これにより、車速Vxが、第1(第2)目標車速特性Vt1(Vt2)に沿うように減少していき、第1(第2)適正車速Vq1(Vq2)にまで減少させられる。
このように、第1(第2)制御実行中において、車速Vxが概ね第1(第2)適正車速Vq1(Vq2)に達した場合に第1(第2)制御が終了する。具体的には、減少していく車速VxがVq1(Vq2)を含む微小範囲Hn1(Hn2)に入った地点で第1(第2)制御は終了される。
第1(第2)制御が終了すると、続いて加速制限制御が開始・実行される。即ち、車輪ブレーキの制御は完全に終了する(制動トルク、制動圧力がゼロにされる)一方で、加速が制限された状態(スロットル開度の制限)、及び変速機TMにおいてシフトダウンがなされた状態が、所定距離(又は所定時間)に亘って継続される。
カーブ走行制御終了直後に運転者がアクセルペダルAPを軽率に操作すると、車両が急加速する場合(駆動輪に過大な加速スリップが発生する場合)がある。このため、加速制限制御が実行される。
加速制限制御では、図4に示すように、先ず、第1(第2)制御終了後において、所定期間(車速維持期間)に亘って加速が完全に制限される(点A1(A2)から点C1(C2)まで、第1(第2)制御終了地点から地点Pca1(Pca2)まで)。その後、所定期間(加速制限期間)に亘って加速の制限度合いが徐々に緩められて許可される加速度合いが徐々に大きくなっていく(点C1(C2)から点D1(D2)まで、地点Pca1(Pca2)から地点Pco1(Pco2)まで)。そして、加速制限期間が終了すると加速制限が解除される(点D1(D2)、地点Pco1(Pco2))。
ここで、第1制御終了後では、例えば、地点Pca1が一定曲率半径区間の終了地点Ce近傍の手前側に設定され、地点Pco1が退出緩和曲線区間の終了地点Cd近傍の手前側に設定され得る。即ち、一定曲率半径区間を一定車速で走行でき、退出緩和曲線区間に進入後では徐々に加速の制限度合いが弱められ、カーブ終了地点では加速制限が解除される。従って、カーブ形状に沿った車速をもって運転者に違和感を与えることなく車速を推移させることができる。
一方、第2制御終了後では、第2制御の目的(旋回限界内にて走行安定性を維持すること)が既に達成されていることを鑑みて、車速維持期間及び加速制限期間共に第1制御よりも短く設定される。即ち、地点Pca2が地点Pca1よりも手前側に、地点Pco2が地点Pco1よりも手前側に設定される。
カーブ終了地点に向けて運転者が車両を加速させたい場合もあるから、加速制限制御の終了後も、所定期間に亘って、変速機TMにおいてシフトダウンがなされた状態を維持(即ち、減速比を一定に維持)することができる。
また、路面摩擦係数がカーブ内で変化する場合がある。図11に示すように、第1制御実行中において路面摩擦係数μの変化(図11では、μの減少)が検出された場合、直ちに、第2目標車速特性Vt2がVt2’へと変更される。具体的には、第2適正車速Vq2がVq2’(<Vq2)へと減少させられ、且つ、減速度Gx2がGx2’(<Gx2)へと減少させられる。これにより、路面摩擦係数に対応する適切な旋回限界が認識された状態で第2制御を開始・実行することができる。以上、カーブ走行制御について説明した。
図12は、本装置により第1制御(走行アシスト制御)が実行された場合の一例を示している。車両が上述した第1制御実行条件が成立する地点Pcs1を通過すると、第1制御が開始される。これにより、スロットル開度の制限(上限値までは許容されるが上限値より大きい値とはならない)、及び、変速機TMの減速比の増大(変速段をTrからTsへ変更するシフトダウン)が行われる。
一方、この例では、車輪ブレーキによる制動トルク(制動圧力)が付与されていない。これは以下の理由に基づく。即ち、第2制御の減速度Gx2よりも小さい第1制御の減速度Gx1はスロットル開度の制限及び減速比の増大のみで達成できる。また、車輪ブレーキを用いることは燃費の低下に繋がる。以上より、この例では、燃費向上のために車輪ブレーキを用いない例が示されている。なお、図12に破線で示したように、車輪ブレーキによる制動トルク(制動圧力)が付与されてもよい。
第1制御によって車両は徐々に減速され、車速Vxが第1適正車速Vq1と概ね一致した地点(第1基準地点Pcr1の付近)で第1制御は終了される。これにより、車輪ブレーキの制動トルクが「0」となる一方で(破線で示した場合)、これに続けて上述の加速制限制御が開始される。このため、車両が地点Pca1を通過するまでは、スロットルの開度制限(上限値=0)が設けられ、その後、制限が徐々に弱められて、車両が地点Pco1を通過した時点にて加速制限が完全に解除される。このとき、運転者の加速操作に備えて、変速機TMについては、車両が地点Pce1を通過するまではシフトダウンの状態(変速段=Ts)がなおも維持される。しかしながら、運転者の加速操作が行われない場合、変速段をTsからTrへと変更するシフトアップが行われる。
図13は、本装置により第2制御(限界ガード制御)が実行された場合の一例を示している。車両が上述した第2制御実行条件が成立する地点Pcs2を通過すると、第2制御が開始される。これにより、スロットル開度の制限、及び、車輪ブレーキによる制動トルク(制動圧力)の付与が行われる。
一方、この例では、変速機TMの減速比の増大(変速段をTrからTsへ変更するシフトダウン)が行われていない。これは以下の理由に基づく。即ち、変速機TMのシフトダウンにより、駆動車輪の制動負荷が高くなる。このため、車両のヨーモーメントの均衡が崩れ、不意のヨー運動が発生することがある。特に、第2制御は、比較的大きな減速度を与える制御であるため、上記の現象が発生し易い。以上より、この例では、上記の現象の発生防止のため、変速機TMのシフトダウンを用いない例が示されている。なお、図13に破線で示したように、変速機TMのシフトダウンが行われてもよい。
第2制御によって車両は徐々に減速され、車速Vxが第2適正車速Vq2と概ね一致した地点(第2基準地点Pcr2の付近)で第2制御は終了される。これにより、車輪ブレーキの制動トルクが「0」となる一方で、これに続けて上述の加速制限制御が開始される。このため、車両が地点Pca2を通過するまでは、スロットルの開度制限(上限値=0)が設けられ、その後、制限が徐々に弱められて、車両が地点Pco2を通過した時点にて加速制限が完全に解除される。このとき、運転者の加速操作に備えて、変速機TMについては、車両が地点Pce2を通過するまではシフトダウンの状態(変速段=Ts)がなおも維持される(破線で示した場合)。しかしながら、運転者の加速操作が行われない場合、変速段をTsからTrへと変更するシフトアップが行われる。
以上、本発明の実施形態に係る運動制御装置によれば、カーブ走行制御において、車両の走行状態に応じて「走行アシスト制御」と「限界ガード制御」との2種類の減速制御を使い分けることができる。従って、カーブ走行制御を効率的に実行することができる。
なお、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、第1制御終了後に加速制限制御が行われるが、加速制限制御は省略されてもよい。更に、第1制御が開始された場合であっても、運転者による加速操作が行われた場合には、その時点にて第1制御を中止することができる。これは、第1制御は、車両の旋回限界よりも十分小さい走行領域において開始・実行されるから、運転者による加速操作を優先させることができるからである。また、運転者の加速意思をより直接的に反映させる場合には、第2制御の加速制限制御を省略することができる。
また、上記実施形態においては、第1制御実行条件は、第1制御許可条件(図8を参照)が成立することに加えて、運転者による減速操作がなされていて且つ車両が所定の旋回状態以下にある場合に成立するが、この第1制御実行条件から、「車両が所定の旋回状態以下にあること」が省略されてもよい。
加えて、第1(第2)制御中に運転者がブレーキペダルBPの操作を行った場合には、運転者が要求する減速度(要求減速度Gdr)(ブレーキペダル操作量Bpに基づいて演算される)と、第1(第2)減速度Gx1(Gx2)とを比較して、要求減速度Gdrが減速度Gx1(Gx2)よりも大きい場合には第1(第2)制御を終了し、要求減速度Gdrが減速度Gx1(Gx2)以下である場合には第1(第2)制御を継続することができる。これは、カーブを適正車速Vq1(Vq2)で走行するために必要な車両の減速度合いを確保するためである。
更には、運転者がブレーキペダルBPを操作している場合には、第1(第2)制御終了後の加速制限制御が行われないようにすることができる。これは、運転者がアクセルペダルAPを操作していないため、加速を制限する必要がないからである。
BP…ブレーキペダル、AP…アクセルペダル、SF…シフトレバー、WS**…車輪速度センサ、PW**…制動圧力センサ、TS…スロットル弁開度センサ、HS…シフト位置センサ、SA…ステアリングホイール角度センサ、YR…ヨーレイトセンサ、TH…スロットルアクチュエータ、FI…燃料噴射アクチュエータ、BRK…ブレーキアクチュエータ、TM…自動変速機、EG…エンジン、ECU…電子制御ユニット、NAV…ナビゲーション装置、GPS…グローバル・ポジショニング・システム、MAP…記憶部