JP2009149967A - Cr−Cu合金板およびそれを用いた電子機器用放熱板と電子機器用放熱部品 - Google Patents

Cr−Cu合金板およびそれを用いた電子機器用放熱板と電子機器用放熱部品 Download PDF

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Abstract

【要 約】
【課 題】 熱膨張率が小さく、熱伝導率が大きいという特性を有し、かつ耳割れの発生を抑制したCr−Cu合金板およびそれを用いた放熱材料(すなわち電子機器用放熱板,電子機器用放熱部品)を提供する。
【解決手段】 Crを30%超え80%以下含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有し、表面に存在する微小なクラックが2.5個/cm2 以下であるCr−Cu合金板である。
【選択図】 無

Description

本発明は、電子機器に搭載された半導体素子等の発熱体から発生する熱を速やかに放散させるために用いられ、低い熱膨張率と高い熱伝導率を要求される電子機器用放熱板(すなわちヒートシンク材またはヒートスプレッダー材)や所定の形状に加工された電子機器用放熱部品、ならびにその素材となるCr−Cu合金板に関するものである。
なお、ここでは電子機器用放熱板と電子機器用放熱部品を総称して放熱用材料と記す。
半導体素子等の電子部品を搭載した電子機器を作動させる際には、電子回路への通電に伴い電子部品が発熱する。電子機器の高出力化に伴い、作動時の発熱量はますます増加する傾向にあるが、温度が上昇し過ぎると半導体素子の特性が変化し、電子機器の動作が不安定になる問題が生じる。また長時間にわたって使用することによって過剰な高温に曝されると、電子部品の接合材(たとえばハンダ等)や絶縁材(たとえば合成樹脂等)が変質して、電子機器の故障の原因になる。そのため、電子部品から発熱する熱を速やかに放散させる必要がある。そこで、放熱用材料を介して熱を放散させる技術が種々検討されている。
半導体素子は、放熱用材料にハンダ付けまたはロウ付けで直接固定される、あるいはたとえば窒化アルミニウム(AlN)にAl電極をダイレクトボンディングした基板(いわゆるDBA基板)上にハンダ付けまたはロウ付けされた後、そのDBA基板を放熱用材料の上に同様の方法により固定する。その際、シリコンの熱膨張率は3.5×10-6-1であり、DBA基板の熱膨張率は5〜7×10-6-1であるため、接合される放熱用材料としてはこれらに近い熱膨張率を有することが要求される。現在使用されている放熱用材料としては、W−Cu系複合材料の熱膨張率が6〜9×10-6-1であり、Mo−Cu系複合材料の熱膨張率が7〜14×10-6-1である。このように接合される相手材に近い熱膨張率を有することにより、半導体素子の発熱によって発生する熱応力の影響を小さく抑えることができる。
放熱用材料は、熱膨張が小さいことに加えて、熱伝導率が大きいことが要求されるが、単相材料で両者を同時に達成することは難しい。そのため、熱膨張率の小さい材料と熱伝導率の大きい材料を組み合わせた複合材料が多く用いられている。
このような例として、たとえば特許文献1には、W−Cu,Mo−Cu等の金属−金属系複合材料が提案されている。W,Moは熱膨張率が低く、他方、Cuは熱伝導率が高いという特性を利用する技術である。
また特許文献2には、SiC−Al,Cu2O−Cu等のセラミックス−金属系の複合材料が開示されている。
さらに特許文献3にはCr−Cu,Nb−Cu等の金属−金属系複合材料が開示されている。この技術は、鋳造した後で熱間圧延し、さらに冷間圧延して所定の形状を得てから溶体化熱処理し、時効熱処理を行なってCuマトリックス中から粒子状Cr相を析出させ、それによって熱膨張率の低減を図るものである。特許文献3は、Cr−Cu系合金について、低熱膨張率と高熱伝導率を共に達成するための技術である。この技術は、2〜50質量%のCrを含有するCu合金について、第2相として存在する凝固の際に析出する初晶Cr相のアスペクト比を10以上とすることによって、複合則から予想されるよりも低い熱膨張率を得ることが可能になるというものである。しかしながら、製造方法は溶解鋳造法を前提としているので、開示されている方法ではCr含有量が増加すると、融点が高くなる上、凝固偏析により均質な合金製造が困難である。これを均質化するためには、高温長時間の均質化熱処理に加えて、熱間鍛造や熱間圧延工程が必要となる。したがって、特許文献3の実施例には、30質量%を超えるCrを含有する例は開示されていない。しかしながら、この方法では凝固の際の1次析出相であるCr相のアスペクト比を100以上として、やっと複合則より10%程度の熱膨張率低下が得られる程度である。Cr相のアスペクト比を100とするだけでも、たとえば冷間圧延では90%以上の圧下を必要とする。その結果、製造コストの上昇を招き、しかも製品として提供できる放熱用材料の寸法が制限されるという問題がある。
非特許文献1には、30質量%以上のCrを含むCr−Cu合金を溶解と冷間加工によって均一に製造する技術が開示されている。すなわち、CrとCuの混合粉末を焼結したものを消耗電極として用い、高価なアーク放電を用いた溶解鋳造法で鋳造し、さらに室温での延性が不十分なCrが変形し易いように押出し法によって丸棒を製造する方法である。押出し法は、Crに対してCuマトリックスからの静水圧が働くため、加工が容易となることを利用したものである。この技術では、アーク放電による溶解鋳造が高価である等、経済性に問題があり、かつ放熱材料のような薄い板状の材料の製造には適していない。
非特許文献2には、15質量%のCrを含み、20μm程度の微細Cr相を析出させたCr−Cu合金に対し、冷間で強加工を施すことにより、低い熱膨張率を達成する技術が開示されている。この技術では、Cr相を1μmほどの厚さとなるまで強加工を行なう必要があり、経済性に問題がある。また、たとえば30質量%以上のCrを含む場合に、このような強加工を行なうことは困難であると考えられる。
また発明者らは、特許文献4に、熱処理によって熱膨張率を調整したCr−Cu材を放熱用材料に適用する技術を開示している。特許文献4に開示した粉末冶金法では、Cr粉末を使用し、Cuと焼結あるいは溶浸を行なって合金化し、同様に時効熱処理を行なってCrマトリックス中から粒子状Cr相の析出を図るものである。これらの方法では、粒子状Cr相の析出は3次元でランダムであり、どの方向に対しても膨張率は一定である。一方、半導体用放熱材料では、一般的に薄板形状が多く、この場合、板面上に半導体が接合されるので、半導体の接合部を含む面、つまり板の面内の方向の熱膨張率を小さくすることが要求される。
また、特許文献4に開示されたCr−Cu材では、微細析出物の析出形態を制御することのみで、熱膨張率を低減させる技術であるため、ロウ付け接合のような750℃以上の高温に加熱する接合方法では、微細析出物が変化してしまう惧れがあり、低い熱膨張率が安定して得られない。
また放熱板の場合、放熱板用材料の表面を、フライス盤等の切削加工,平面度を得るための両頭研削盤による研削,あるいはラッピングを行ない、仕上げた上で、そのまま、あるいはさらにNiめっきを施して製品となる。したがって、圧延板表面をそのまま製品表面として、あるいはそのままメッキ仕上げして製品とすることができれば、コスト上非常に大きな利点となる。特許文献3,4や非特許文献1,2に開示されたCr−Cu合金は、熱特性中心の記載で、冷間圧延板表面をそのまま使用する点に関する記載はない。また、冷間圧延が容易ではなかった。Crは脆い金属であり、表面のCr相が冷間で強加工されると表面Cr相が破壊される懸念がある。そこで発明者らは、Cr−Cu材の圧延板表面をそのまま使用することを配慮しながら、冷間圧延により偏平したCr相とCuマトリックスからなる熱伝導性が大きく、さらに面内の方向の熱膨張率が小さく、高温に加熱する接合の後も低い熱膨張率を保持できるCr−Cu合金の発明(特許文献5)に至った。しかしながら特許文献5の方法では、適度なCr配合量,圧延前の素材の厚さ,圧下率であれば問題はないが、Cr配合量,圧延前の素材の厚さ,圧下率が大きくなるにつれて、冷間圧延した圧延板の側面には肉眼でも明瞭に確認できる耳割れを生じ、材料歩留りの点で好ましくないことが判明した。また、圧延板の表面には熱特性や表面粗さ等の形状面での問題はないものの、肉眼では見えない微小なクラックが発生する場合があり、その場合、圧延板の表面に直接めっきを施すと、ロウ付け接合のように高温で熱処理する際に、めっきに数μm〜数十μm程度の微小なふくれ(以下、めっきふくれという)が発生する場合があることが判明し、放熱用材料として使用するのに支障をきたすという問題が生じる。
特公平5-38457号公報 特開2002-212651号公報 特開2000-239762号公報 特開2005-330583号公報 特願2007-34405号公報 Siemens Forsch.-Ber.Bd,17(1988)No3 古河電工時報 平成13年1月 p53〜57 Trans. of the Metal. Society of AIME. Vol.230, Aug.1964 p1150-1159 Journal of the Institute of Metals. Vol.92 1963-1964 p351-356 Scripta Materialia, Vol.38, No.2 1998 p321-327
本発明は上記のような問題を解消し、熱膨張率が小さく、熱伝導率が大きいという特性を有し、かつ耳割れの発生を抑制したCr−Cu合金板およびそれを用いた放熱材料(すなわち電子機器用放熱板,電子機器用放熱部品)を提供することを目的とする。
また本発明のCr−Cu合金板は、めっきふくれも抑制するので、めっきを施して高機能の放熱用材料として好適に使用できる。
発明者らは、Cr−Cu合金板の耳割れとめっきふくれの発生原因について検討した。その結果、冷間圧延によってCr−Cu合金板の表面に発生する微小なクラックが耳割れの主たる原因であることが分かった。また、Cr−Cu合金板にめっきを施す際に、Cr−Cu合金板の表面に存在する微小なクラックにめっき液等のめっき処理で使用される液体が浸入し、その後、ハンダ付けやロウ付けの際にめっき液が高温に曝されて気化することによって、めっきふくれが発生することが分かった。したがって、微小なクラックの発生を防止すれば、Cr−Cu合金板の耳割れとめっきふくれを防止できる。
そこで、冷間圧延によってCr−Cu合金板に生じる微小なクラックについて、さらに調査した。その結果、
(a)冷間圧延ではCrとCuの剛性が異なるので圧延時にCrとCuの界面に高い応力歪が発生する。またCrは脆いのに対して、Cuは優れた延性を有するので、Cr−Cu合金板の表面に露出したCr相とCu相の界面から微小なクラックが発生する、あるいはCr相内で微小なクラックが発生する、
(b)Cr−Cu合金板の内部では、Cu相がCr相を包むので、クラックは発生しないということが分かった。つまり、微小なクラックはCr−Cu合金板の内部には存在せず、表層部のみに発生する、
(c)溶浸後、表面に残留したCu相を除去し、圧延素材として厚さを調整するための加工で、溶浸体表面を傷付けないように適切な方法で切削加工あるいは研削加工した場合は、めっきふくれは生じない、
(d)冷間圧延を行なわず、Crに延性を付与するためにCr−Cu合金素材を40〜300℃の温度範囲とする温間圧延を行なうことによって、微小なクラックが発生するのを防止できる
ということが判明した。
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
すなわち本発明は、質量%で、Crを30%超え80%以下含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有し、表面に存在する微小なクラックが2.5個/cm2 以下であるCr−Cu合金板である。
本発明のCr−Cu合金板は、Cuマトリックスと偏平したCr相からなる組織を有することが好ましい。そのCr相の平均アスペクト比は1.0超えであることが好ましい。平均アスペクト比は4.0以上であることが一層好ましい。
また本発明は、上記のCr−Cu合金板を使用した電子機器用放熱板あるいは電子機器用放熱部品である。
また本発明は、上記のCr−Cu合金板の表面にNiめっき層を形成して使用した電子機器用放熱板あるいは電子機器用放熱部品である。
本発明によれば、熱膨張率が小さく、かつ熱伝導率が大きいという特性を有し、かつ耳割れの発生を抑制した歩留りの高い圧延板からCr−Cu合金板およびそれを用いた放熱材料を得ることができる。
また本発明のCr−Cu合金板は表面の微小なクラックが極めて少なく、めっきふくれも抑制するので、研削等の表面加工の必要はなく、合金板の表面に直接めっきを施して高機能の放熱用材料として好適に使用できる。
まず、本発明を適用して得られるCr−Cu合金板におけるCr含有量の限定理由を説明する。なお各元素の含有量の単位は、いずれも質量%である。
Crは、本発明のCr−Cu合金において、熱膨張率の低減を達成するための重要な元素である。Cr含有量が30%以下では、放熱用材料(すなわち電子機器用放熱板,電子機器用放熱部品)に要求される低熱膨張率(約14×10-6-1以下)が得られない。一方、80%を超えると、熱伝導率が低下し、放熱用材料として十分な放熱効果が得られない。したがって、Crは30%超え80%以下とする。好ましくは40%以上70%以下である。なお、より好ましくは45%以上65%以下であり、50%超え65%以下が一層好ましい。
本発明では、Crの原料をCr粉末として粉末冶金法を適用する。粉末冶金法の採用によって、Cr粉末を用い、これを単独で、あるいはCu粉末と混合して型に充填して焼結した多孔質体にCuを溶浸させることによって、30%を超えるCrを均一に分布させたCr−Cu合金の製造が可能になった。多孔質体に求められる好ましい気孔率としては、水銀圧下法(JIS規格R1655:2003)で得られる値で15〜65体積%程度である。なお多孔質体を得るにあたって、Cr粉末を単独で、またはCr粉末をCu粉末と混合して型に充填した後、圧力を加えて成形(いわゆる加圧成形)して焼結しても良いし、あるいは圧力を加えず充填したまま(いわゆる自然充填)で焼結しても良い。
使用するCr粉末は、純度99%以上、JIS規格Z2510:2004に準拠して篩分けした粒度10〜250μm(JIS規格Z8801-1:2006に規定される公称目開き寸法)が好ましい。ただし、粒度が大きくなると、粉末を均一に充填することが困難になるほか、圧延後に板厚方向で十分な熱伝導率が得られ難いという傾向がある。また、粒度が小さくなるとCr粉末の表面積が増大して酸化し易くなり、焼結して得た多孔質体にCuを溶浸することが困難になる上、酸素含有量が増加して、後述する温間圧延等の加工性にも悪影響を及ぼす傾向がある。したがって、より好ましい粒度は30〜250μmであり、50〜200μmが一層好ましい。
またCr粉末中の不純物は、多孔質体にCuを溶浸した溶浸体の加工性向上の観点から、可能な限り低減することが好ましい。特にO,N,Cは多大な影響を及ぼし、大きい加工を施す場合には、O含有量を0.15%以下,N含有量を0.1%以下,C含有量を0.1%以下とすることが好ましい。より好ましくは、O含有量:0.08%以下,N含有量:0.03%以下,C含有量:0.03%以下である。
Cu粉末は、工業的に生産される電解銅粉,アトマイズ銅粉等を使用することが好ましい。
Cr粉末を焼結して得た多孔質体に溶浸させるCuは、工業的に製造されるタフピッチ銅,りん脱酸銅,無酸素銅等の金属Cu板、あるいは電解銅粉,アトマイズ銅粉等のCu粉末を使用するのが好ましい。
このようにして得た溶浸体に切削加工や研削加工を施して、溶浸体の表面に残留するCuを除去するとともに、所定の厚みのCr−Cu合金板を得る。
切削加工を行なう場合は、作業効率の観点から超硬チップによるフライス加工が好ましい。ただし、超硬チップが欠損するとCr−Cu合金板の表面に疵を誘発する原因になるので、超硬チップの保守点検が重要である。超硬チップの耐用性を高めるために、CrN等でコーティングした超硬チップを使用することが好ましい。
研削加工を行なう場合は、砥粒(たとえばAl23 ,SiC等)がCr−Cu合金板の表面に食い込むと疵を誘発する原因になるので、砥粒の選択および押圧力の調整が重要である。
あるいは、溶浸体の表面に残留するCuを除去した後、温間圧延を施して所定の厚みのCr−Cu合金板を得ることが好ましい。温間で圧延することによって、Cr相に延性が付与され、クラックの発生を防止できる。
Crは、その純度や結晶粒の大きさ,熱処理によって延性−脆性遷移温度(いわゆるDBTT)が大きく変化することが知られており(非特許文献3参照)、状況によって30〜40℃の室温に近い温度でDBTTが発現する(非特許文献4,5参照)。Cr−Cu合金も、Cr粉末の純度を高める(特にO,C,Nを低減する)ことによって低いDBTTのCr相を得ることができる。Cr−Cu材の圧延試験の結果、Cr相の延性向上が圧延板表面の微小クラック発生を抑える効果のあることが判明した。したがって、温間圧延におけるCr−Cu合金素材の温度は40℃以上とすることが好ましい。さらに好ましくは60℃以上である。80℃以上が一層好ましい。
一方、温間圧延におけるCr−Cu合金素材の温度が300℃を超えると、Cr−Cu合金板の表面にスケールが発生し、めっきの前処理にてスケールを除去する際にCrとCuの酸化物の溶解速度の相違により段差を生じて表面が粗くなる。また、CrとCuの界面が過剰にエッチングされて亀裂を生じる等、めっき不良(たとえば密着不良,変色等)が発生する原因となる。したがって、温間圧延におけるCr−Cu合金素材の加熱温度は300℃以下が好ましい。より好ましくは200℃以下である。150℃以下が一層好ましい。
つまり、温間圧延におけるCr−Cu合金素材の温度が40〜300℃の範囲内となるようにCr−Cu合金素材を加熱することが好ましい。より好ましくは40〜200℃,80〜200℃である。80〜150℃が一層好ましい。この温度範囲では、表面の酸化膜を軽度のエッチングで除去でき、通常のめっき前処理でめっきできるため、大気中で温間圧延を行なうことが可能である。
Crに含有される不純物が増加すると、DBTTが高くなるので、温間圧延における溶浸体の温度を上昇せざるを得なくなる。不純物としては、O,N,CがDBTTに多大な影響を及ぼす。ただし、温間圧延が施される溶浸体におけるO含有量:0.08質量%以下,N含有量:0.05質量%以下,C含有量:0.05質量%以下(好ましくはO含有量:0.03質量%以下,N含有量:0.02質量%以下,C含有量:0.01質量%以下)の範囲内であれば、上記の温度範囲で温間圧延する上で問題はない。
なお、不可避的不純物は通常の範囲(たとえば合計で約1質量%以下)で問題ない。主な不可避的不純物として、たとえば0.03質量%以下のS,0.02質量%以下のP,0.3質量%以下のFeを含んでも良い。
温間圧延を行なうにあたって、溶浸体を所定の温度に加熱する方法は、加熱装置を用いて溶浸体を予め加熱する、溶浸体と圧延ロールに温風を吹き付ける、あるいは加熱装置(たとえばヒーター等)を備えた圧延ロールを使用する等の方法が好ましい。
温間圧延は、圧下率を10%以上として行なうことが好ましい。圧下率が10%未満では、温間圧延によってCr相が熱膨張率の低減に有利な方向に配向しない。ここで圧下率は、100×〔t0−t〕/t0(t0:圧延前の板厚,t:圧延後の板厚)とする。
溶浸体の加工性を改善するために、温間圧延を行なうに先立って、必要に応じて溶浸体(すなわちCr−Cu合金素材)を還元雰囲気あるいは真空中で300〜1050℃の温度範囲に熱処理することが好ましい。その温度が300℃未満では、加工性の改善効果が乏しい。一方、1050℃を超えると、Cu相が一部溶解する。こうしてCr−Cu合金素材を加熱した後、一旦冷却して、所定の温度で温間圧延を行なう。
一方、温間圧延が終了した後、Cr−Cu合金板を還元雰囲気,不活性ガスあるいは真空中で300〜900℃の温度範囲で熱処理を施すことが好ましい。この熱処理は、圧延後のCr−Cu合金板を軟質化するために行なうものである。熱処理の温度が300℃未満では、軟質化の効果が得られない。一方、900℃を超えると、溶浸したCuが溶解する等のため、圧延板が大きく変形する。
このようにして、得られた溶浸体に切削加工や研削加工を施す、あるいは溶浸体に温間圧延を施すことによって、表層部の微小なクラックが1cm2 あたり2.5個以下のCr−Cu合金板を得ることができる。微小なクラックが2.5個/cm2 以下であれば、Cr−Cu合金板にめっきを施した後、ハンダ付けやロウ付けの際に高温に曝されて発生するめっきふくれは極めて少ないので、放熱用材料として支障なく使用できる。
なお、温間圧延を行なうことによってCuマトリックス中のCr相は偏平になる。圧下率の増加とともにCr相のアスペクト比は大きくなる。そのCr相のアスペクト比が1.0以下では、さらなる熱膨張率の低減効果が得られない。したがって、Cr相のアスペクト比は1.0超えが好ましい。より好ましくは4.0以上である。
なお、圧下率10%未満の圧延加工では、Cr−Cu合金板の断面全体にわたってはCr相の偏平化を生じないので、熱膨張率のさらなる低減効果が得られないものと考えられる。
Cr相のアスペクト比は、Cr−Cu合金板の厚み方向を含む断面のうち、偏平したCr相の長径が最大となる方向を含む断面、さらに具体的には溶浸体を温間圧延した後の断面(圧延方向および圧下方向を含む断面)を光学顕微鏡で観察して求められ、下記の(1)式で算出される値である。そして、50〜100倍の光学顕微鏡で観察した任意の1視野の平均値を求める。なお、観察した視野に全体が入っているCr相について測定する。また複数のCr相が合体して形成されているように見えるものは、複数のCr相に分解し、分解した各Cr相のアスペクト比を求める。
アスペクト比=L1/L2 ・・・(1)
なお(1)式において、L1は、Cr−Cu合金板の厚み方向を含む断面のうち、偏平したCr相の長径が最大となる方向を含む断面において長径が最大となる方向の最大長さを指し、L2は、Cr−Cu合金の厚み方向を含む断面のうち、偏平したCr相の長径が最大となる方向を含む断面において厚み方向の最大長さを指す。温間圧延を施して得られるCr−Cu合金板の場合には、上記の偏平したCr相の長径が最大となる方向は圧延方向である。また、2方向への圧延を行なう場合には、2方向のうち偏平したCr相の長径が最大となる圧延方向である。
以上のようにして得られたCr−Cu合金板は、微小なクラックが大幅に減少するので、耳割れが大幅に減少する。その結果、Cr−Cu合金板の歩留りが向上する。特に温間圧延を施すことによって得られたCr−Cu合金板の表面は、切削加工,研削加工あるいはラッピングを行なって仕上げた表面と同等の清浄度を有するので、温間圧延後、そのまま、又は直接Niめっきを施して放熱用材料とすることが可能となる。また、そのCr−Cu合金板は、めっきを施した後、高温に曝されても、めっきふくれが大幅に減少する。そのため、放熱用材料として好適に使用できる。
O含有量:0.04〜0.15%,N含有量:0.01〜0.08%,C含有量:0.01〜0.08%のCr粉末(粒度50〜200μm)を型に自然充填して真空中で焼結し、気孔率41体積%の焼結体(70×70×10mm)を作製した。焼結温度は1200〜1500℃とし、焼結時間は90分とした。この気孔率41体積%の焼結体(すなわち多孔質体)のCr量は、Cuを溶浸した後のCr含有量に換算すると54%に相当する。なお、各元素の含有量の単位は質量%である。
得られた多孔質体の上面にCu板を載置し、さらに真空中で1200℃に加熱(保持時間1.5時間)してCu板を溶解し、多孔質体にCuを溶浸させた。次いで、冷却する過程で、1200〜200℃の温度範囲を200〜600℃/時間の冷却速度で冷却した。
得られた溶浸体のO含有量は0.01〜0.07%,N含有量は0.004〜0.04%,C含有量は0.004〜0.04%であった。
さらにフライス盤を用いて切削加工を施し、溶浸体の表面に残留するCuを除去した。これを予備加工とする。
この予備加工を施した溶浸体(厚み15mm)に仕上げ加工を施して、厚み3.5mmのCr−Cu合金板とした。仕上げ加工は表1に示す通りである。
これらのCr−Cu合金板の表面を実体顕微鏡で観察(倍率40倍)し、表面に発生したクラックの数を測定した。その結果を1cm2あたりの個数に換算して表1に示す。なお、ここで測定したクラックは、Cr−Cu合金板の表面に露出したCr相とCu相の界面から発生するクラック、あるいはCr相内に発生するクラックを指し、長さ数十μm程度の微小なクラックである。ただし、切削加工,研削加工,温間圧延,冷間圧延の際に異物を巻き込むことによって発生したクラックは除外した。発明例1〜8は、Cr−Cu合金板の表面の微小なクラックの数が本発明の範囲を満足する例、参考例1,2は微小なクラックの数が本発明の範囲を外れる例である。
さらに前述した方法で、Cr−Cu合金板の厚み方向断面でのCr相のアスペクト比を求めた。
なお、発明例1の仕上げ加工はフライス盤を用いた切削加工である。発明例2〜8の仕上げ加工は温間圧延(圧下率77%)である。ここで温間圧延に用いた圧延ロールはワークロールとして直径80mm,幅200mmの加熱装置を内蔵したものを使用した。また、0.1〜0.2mm/パスの圧下量にて約40パスの圧延を行なった。発明例2では、加熱装置を用いて溶浸体(Cr−Cu合金素材)を予め60℃に加熱しておき、ヒーターを内蔵した圧延ロールの温度を60℃に保持して温間圧延を行なった。発明例3では、加熱装置を用いて溶浸体を予め80℃に加熱しておき、ヒーターを内蔵した圧延ロールの温度を80℃に維持して温間圧延を行なった。発明例4では、加熱装置を用いて溶浸体を予め120℃に加熱しておき、ヒーターを内蔵した圧延ロールの温度を100℃に維持して温間圧延を行なった。発明例5では、加熱装置を用いて溶浸体を予め150℃に加熱しておき、ヒーターを内蔵した圧延ロールの温度を150℃に維持して温間圧延を行なった。発明例6では、加熱装置を用いて溶浸体を予め200℃に加熱しておき、ヒーターを内蔵した圧延ロールの温度を200℃に維持して温間圧延を行なった。発明例7では、加熱装置を用いて溶浸体を予め250℃に加熱しておき、ヒーターを内蔵した圧延ロールの温度を250℃に維持して温間圧延を行なった。発明例8では、加熱装置を用いて溶浸体を予め80℃に加熱しておき、ヒーターを内蔵した圧延ロールの温度を80℃に保持して温間圧延を行なった。
参考例1の仕上げ加工は、溶浸体の予熱とロールの加熱を行なわない冷間圧延(圧下率72%)である。参考例2の仕上げ加工は、夏季日中に圧延を行なったので、加熱は行なわない。
Figure 2009149967
これらのCr−Cu合金板から試験片を切り出し、発明例1は550℃で熱処理した後、圧延方向の平均熱膨張率を常温〜200℃の温度範囲で測定した。それ以外の圧延板は800℃で熱処理した後、圧延方向の平均熱膨張率を常温〜200℃の温度範囲で測定した。その結果、平均熱膨張率は、発明例1が10.8×10-6-1であり、その他の圧延材はいずれも9.1〜9.5×10-6-1であった。
また耳割れの巾は、Cr−Cu合金板の上下表面において側面から目視で観察される最大クラック長を測定した。その結果を表1に示す。なお、Cr−Cu合金板の板巾は約70mmであった。表1から明らかなように、発明例2〜6では耳割れの巾が1〜2mmであったのに対して、参考例では8〜10mmであった。
次に、Cr−Cu合金板の表面を実体顕微鏡で観察(倍率40倍)し、表面に発生したクラックの数を測定した。その結果を1cm2あたりの個数に換算して表1に示す。なお、ここで測定したクラックは、Cr−Cu合金板の表面に露出したCr相とCu相の界面から発生するクラック、あるいはCu相内に発生するクラックを指し、長さ数十μm程度の微小なクラックや試験片の切り出し時に発生したクラックである。ただし、温間圧延の際に異物を巻き込むことによって発生したクラックは除外した。表1から明らかなように、発明例2〜8では微小なクラックの数が0.1〜2.5個/cm2であったのに対して、参考例1,2では8.0〜11.0個/cm2であった。
次に、Cr−Cu合金板の表面に電解Niめっき(厚さ5μm)を施した。さらに水素雰囲気中で800℃に加熱した後、冷却し、表面をそれぞれ200cm2ずつ実体顕微鏡(倍率40倍)で観察して、めっきふくれの数を測定した。その結果を1cm2あたりの個数に換算して表1に示す。なお、めっきふくれは、数μm〜数十μm程度の直径と高さを有する膨らみである。表1から明らかなように、発明例1〜8ではめっきふくれの数が0.0〜0.5個/cm2であったのに対して、参考例1,2では1.0〜1.5個/cm2であった。
以上の結果から、本発明のCr−Cu合金板は、微小なクラックが大幅に減少し、その結果、耳割れが大幅に減少することが確かめられた。また、そのCr−Cu合金板は、めっきを施した後、高温に曝されて発生するめっきふくれが大幅に減少することが確かめられた。

Claims (8)

  1. 質量%で、Crを30%超え80%以下含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有し、表面に存在する微小なクラックが2.5個/cm2 以下であることを特徴とするCr−Cu合金板。
  2. 前記Cr−Cu合金板がCuマトリックスと偏平したCr相とからなる組織を有することを特徴とする請求項1に記載のCr−Cu合金板。
  3. 前記Cr相の平均アスペクト比が1.0超えであることを特徴とする請求項2に記載のCr−Cu合金板。
  4. 前記Cr相の平均アスペクト比が4.0以上であることを特徴とする請求項3に記載のCr−Cu合金板。
  5. 請求項1〜4のいずれか一項に記載のCr−Cu合金板を使用することを特徴とする電子機器用放熱板。
  6. 請求項1〜4のいずれか一項に記載のCr−Cu合金板を使用することを特徴とする電子機器用放熱部品。
  7. 請求項1〜4のいずれか一項に記載のCr−Cu合金板の表面にNiめっき層を形成して使用することを特徴とする電子機器用放熱板。
  8. 請求項1〜4のいずれか一項に記載のCr−Cu合金板の表面にNiめっき層を形成して使用することを特徴とする電子機器用放熱部品。
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