JP2009140820A - リチウム二次電池用の正極活物質の製造方法 - Google Patents

リチウム二次電池用の正極活物質の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】リチウム二次電池の正極活物質の製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明は、リチウム二次電池用の正極活物質を製造する方法である。本製造方法は、遷移金属水酸化物からなる原料粉末を用意する工程(S1、2)と、原料粉末を加熱する工程(S3)と、加熱された粉末を金属アルミン酸塩溶液に接触する工程(S5)と、金属アルミン酸塩溶液と接触した粉末に二酸化炭素を供給する工程(S5)と、二酸化炭素が供給された粉末を洗浄する工程(S6)と、前記洗浄された粉末とリチウム化合物粉末を混合する工程(S7)と、混合した粉末を焼成する工程(S8)と、を備えていることを特徴とする。
【選択図】図1

Description

本発明は、リチウム二次電池用の正極活物質を製造する方法に関する。
リチウム二次電池は、正極活物質に、リチウム遷移金属複合酸化物を用いる。リチウム遷移金属複合酸化物は、高温条件下に置かれると、発熱を伴う改質反応が生じる。リチウム遷移金属複合酸化物中のリチウム原子が少ない場合には、その改質反応が開始する温度が低下する。リチウム遷移金属複合酸化物がリチウム二次電池の正極活物質に用いられると、リチウム二次電池を充電することによってリチウム原子が減少する。リチウム二次電池が過充電されると、正極活物質の改質反応が開始する温度が低下するために改質反応が生じやすくなり、正極活物質が発熱しながら改質されていく熱暴走現象が生じやすい。
リチウム遷移金属複合酸化物を構成している遷移金属原子の一部をアルミニウム(Al)に置換すると、改質反応の開始温度が上昇する。Alを含むリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質に採用すると、リチウム二次電池は熱暴走しづらくなる。
リチウム遷移金属複合酸化物の遷移金属原子の一部をAlで置換する技術が特許文献1に開示されている。特許文献1の技術では、リチウム遷移金属複合酸化物の粉末の表層部に存在する遷移金属の一部をAlに置換する。
特開2003−17055号公報
特許文献1のリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質に用いると、リチウム二次電池の熱暴走現象の発生が抑制される。また、充放電サイクルを繰返すことによってリチウム二次電池の充放電容量が低下することを抑制する効果も得られる。しかし、特許文献1のリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質に採用すると、リチウム二次電池の初期充放電容量が低くなってしまう。
発明者らが研究したところ、特許文献1のリチウム遷移金属複合酸化物は、表層部のAl濃度が濃厚であるために、リチウム遷移金属複合酸化物の全体を通して観察すると、Al濃度が引き上げられていることがわかった。すなわち、仮にAlがリチウム遷移金属複合酸化物に対して均質に存在してればリチウム遷移金属複合酸化物の熱暴走の発生を抑制できるAlの量に対して、Alがリチウム遷移金属複合酸化物の粉末の表層部に偏在していると、熱暴走の発生を抑制するのに必要なAlの量は増大してしまう。
リチウム遷移金属複合酸化物のうち、遷移金属サイトがAlに置換している部分は、電池の充放電特性に寄与しない。過剰にAlが存在していれば、電池の充放電特性が低下する。
上記の理由によって、特許文献1のリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質に採用すると、リチウム二次電池の初期充放電容量が低くなってしまうことが判明した。Alがリチウム遷移金属複合酸化物に対して均質に存在しているリチウム遷移金属複合酸化物を実現することによって、少ない量のAlで熱暴走の発生を抑制することができるリチウム遷移金属複合酸化物を実現することが必要である。
リチウム遷移金属複合酸化物の遷移金属原子の一部をAlに置換する場合、リチウム遷移金属化合物とAl化合物を反応させる手法が多く使われている。しかし、この方法ではリチウム遷移金属化合物の粉末の内部に存在する遷移金属はAlに置換しづらい。Alは、リチウム遷移金属化合物中を拡散しづらいからである。リチウム遷移金属化合物の粉末とAl化合物を反応させる方式では、粉末の内部に存在する遷移金属までAlに置換することが困難であり、それにも係わらずにリチウム遷移金属複合酸化物の熱暴走の発生を抑制するためには、遷移金属原子をAlに置換する量が増大してしまう。
発明者たちが研究を進めたところ、リチウム遷移金属複合酸化物の粉末の内部に存在する遷移金属の一部まで均質にAlに置換されていると、全体に存在するAlも量が少なくても熱暴走の発生を抑制できることがわかった。Al濃度が低くても、均質に存在していれば、充放電サイクルを繰返すことによってリチウム二次電池の充放電容量が低下することを抑制することができ、しかもリチウム二次電池の初期充放電容量を低下させないことがわかった。
本発明は、粉末内でAlがほぼ均質に分布しているリチウム遷移金属複合酸化物を製造する方法を提供することを目的とする。このリチウム遷移金属複合酸化物はリチウム二次電池用の正極活物質に有用である。
本発明は、リチウム二次電池用の正極活物質の製造方法に具現化される。この製造方法は、遷移金属水酸化物からなる原料粉末を用意する工程と、原料粉末を加熱処理する工程と、加熱処理した粉末を金属アルミン酸塩溶液に接触させる工程と、金属アルミン酸塩溶液に接触した粉末を二酸化炭素に接触させる工程と、二酸化炭素に接触した粉末を洗浄する工程と、洗浄した粉末とリチウム化合物粉末を混合する工程と、混合した粉末を焼成する工程を備えている。
本発明の製造方法では、遷移金属水酸化物の粉末を原料とする。この遷移金属水酸化物の粉末を加熱処理して脱水することで、遷移金属酸化物が得られる。遷移金属水酸化物の脱水反応によって得られる遷移金属酸化物は、内部領域まで侵入する孔が形成されているスポンジ状の多孔質構造を有している。
遷移金属水酸化物の加熱処理条件は、遷移金属水酸化物の脱水反応が生じる温度と、遷移金属酸化物の結晶構造が安定化する温度に応じて決定すればよい。例えば、遷移金属がニッケル(Ni)場合、水酸化ニッケル(Ni(OH)2)の脱水反応は300℃前後で始まり、酸化ニッケル(NiO)の結晶構造は470℃前後で安定化する。Ni(OH)2を原料とする場合は、300℃〜400℃の範囲内に加熱する処理と、470℃〜570℃の範囲内に加熱する二段階の加熱処理条件を設定するとことが好ましい。
多孔質構造を有する遷移金属酸化物を金属アルミン酸塩溶液に接触させると、金属アルミン酸溶液が、遷移金属酸化物の粉末の微孔部まで浸透する。金属アルミン酸塩溶液は微孔部の壁面に付着する。金属アルミン酸塩溶液は、遷移金属酸化物の粉末の深部(内側)まで浸透する。
金属アルミン酸塩溶液が深部にまで浸透した遷移金属酸化物の粉末を二酸化炭素に接触させると、金属アルミン酸塩と二酸化炭素が反応し、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)と金属炭酸塩が生成する。Al(OH)3は、遷移金属酸化物の粉末の内部の微孔部の壁面に付着する。次いで粉末を洗浄すると、金属アルミン酸塩に由来する金属炭酸塩が除去される。以上の手順により、均質に存在している細孔部の壁面にAl(OH)3が均質に付着している遷移金属酸化物の粉末が得られる。
この粉末とリチウム化合物粉末を混合して焼成すると、リチウム元素が遷移金属酸化物の粉末の外側から内部に拡散する。Al(OH)3のAl原子は、遷移金属酸化物の粉末の微細孔部から拡散して遷移金属原子の一部と置換する。本発明によれば、Alは、遷移金属酸化物の粉末の外側から内部まで均質に存在している微細孔部からも拡散する。従って、Alの拡散速度が遅くても、遷移金属酸化物の粉末全体に均質にAlを拡散することができる。その結果、粉末の全領域においてほぼ均質に、遷移金属元素の一部がAl原子で置換されているリチウム遷移金属複合酸化物の粉末を生成することができる。
上記の製造方法によると、金属アルミン酸塩溶液の供給量を調節することで、リチウム遷移金属複合酸化物の粉末中のAl量を調節することができる。本製造方法によれば、リチウム遷移金属複合酸化物の粉末の全領域において、遷移金属サイトがAl原子と所定の割合で置換されている正極活物質を得ることができる。
本発明の好ましい製造方法では、遷移金属水酸化物の遷移金属が、ニッケル(Ni)及び/又はコバルト(Co)である原料粉末を利用する。
上記の製造方法によれば、Ni及び/又はCoサイトの一部がAlで置換されたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO2)、リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)、又は、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(LiNi(1-x)CoxO2)が生成される。LiとNi及び/又はCoの複合酸化物は、リチウム二次電池の正極活物質として有用である。
本発明の好ましい製造方法では、ナトリウムアルミン酸塩(NaAlO2)及び/又はカリウムアルミン酸塩(KAlO2)を用いる。
NaAlO2とKAlO2は、二酸化炭素との反応性がよい。NaAlO2は、二酸化炭素(CO2)と反応してAl(OH)3と重炭酸ナトリウム(NaHCO3)を生成する。KAlO2酸塩は、二酸化炭素(CO2)と反応してAl(OH)3と重炭酸カリウム(KHCO3)を生成する。NaHCO3やKHCO3は、水に溶けやすく、CO2処理後の粉末を水洗いすれば粉末から容易に除去できる。本製造方法によれば、金属アルミン酸塩溶液の金属成分が不純物として残っていない正極活物質を製造しやすい。
本発明の好ましい製造方法では、粒子の平均粒径が10μm以上で30μm以下である原料粉末を用い、粒子の平均粒径が5μm以上で20μmであるリチウム化合物粉末を用いる。
上記の粒径範囲に調整された原料粉末とリチウム化合物粉末を用いてリチウム遷移金属複合酸化物を製造すると、高密度なリチウム遷移金属複合酸化物が生成される。高密度なリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質に用いると、電極の単位面積あたりの活物質量が多く、高容量のリチウム二次電池を実現することができる。
最初に、以下に説明する実施例の主要な特徴を列記する。
(特徴1)原料粉末は、略球状のNi(1-x)Cox(OH)2粉末から構成されている。
(特徴2)遷移金属の硫酸塩の溶液に、アンモニア溶液とアルカリ金属水酸化物塩溶液を反応させて得られる原料粉末は、略球状のCo共沈Ni(OH)2粉末から構成されているNi(1-x)Cox(OH)2である。
CoとNiの硫酸塩溶液に徐々にアンモニア溶液とアルカリ金属水酸化物塩溶液を加えて反応させると、反応生成物の粉末が徐々に成長するので、所望の平均粒径となるまで成長させることができる。
(特徴3)Ni(1-x)Cox(OH)2粉末を加熱処理して脱水する工程では、一定温度で保持する処理を二段階に実施するのが好ましい。一段目の保持温度は、300〜400℃の範囲内に設定されていると好ましく、二段目の保持温度は470〜570℃の範囲内に設定されていると好ましい。
300〜400℃に保持すると、Ni(1-x)Cox(OH)2の脱水反応が効率よく進行する。470〜570℃に保持すると、Ni(1-x)CoxOの結晶構造が安定化する。
(特徴4)Al・Ni(1-x)CoxO粒末とLiOH・H2O粉末を混合するとき、水を添加した状態で遊星ボールミルに入れて混合する。水を添加した状態で混合すると、後の焼成処理によって得られる粉末の嵩密度を高く保つことができる。
(特徴5)Al・Ni(1-x)CoxO粉末とLiOH・H2O粉末の混合粉末を焼成する工程では、酸素分圧が0.08MPa〜0.1MPaに設定されている高酸素濃度雰囲気下で加熱することが好ましい。焼成工程では、一定温度で保持する期間を三段階に実施する。最初は、250〜350℃の範囲内に保持し、次に500〜600℃の範囲内に保持し、最後に700〜800℃の範囲内に保持する。
酸素雰囲気で焼成すると、生成される粉末のLiNi(1-x-y)CoxAlyOの純度が高くなる。
250〜350℃の範囲内で保持する時間を設定すると、混合粉末の脱水反応が効率よく進行する。500〜600℃の範囲内で保持する時間を設定すると、NiとAlの置換反応が促進する。700〜800℃の範囲内で保持する時間を設定すると、LiNi(1-x-y)CoxAlyO粉末の結晶構造が安定化する。
<第1実施例:正極活物質の製造>
本実施例では、構造式がLiNi0.819Co0.18Al0.001Oで示される正極活物質を製造した。本実施例で製造される正極活物質は、LiNi(1-x)CoxO化合物のNiサイトの一部がAlで置換されているリチウム遷移金属複合酸化物である。
図1は、本実施例の正極活物質の製造工程を示しているフローチャートである。
先ず、ステップS1に示すように、硫酸コバルト(CoSO4)と硫酸ニッケル(NiSO4)の混合溶液と、アンモニア水(NH4OH溶液)と、水酸化ナトリウム(NaOH)溶液のそれぞれを反応槽に予め設定した注入速度で同時に供給する。反応槽では、各溶液をよく攪拌する。NH4OH溶液は、ニッケルアンミン錯塩を生成するために反応槽に供給する。NaOH溶液は、反応槽内の水素イオン濃度(pH)を調節するために供給する。各溶液を混合すると、反応槽内では、Ni(1-x)Cox(OH)2粉末が生成する。反応槽の内部の液体を攪拌していると、略球体のNi(1-x)Cox(OH)2粉末が生成される。Ni(1-x)Cox(OH)2粉末の合成処理が終了した後、反応槽内のNi(1-x)Cox(OH)2粉末を回収する(ステップS2)。
ステップS1で各溶液を反応槽に連続的に供給する際に、CoSO4とNiSO4の混合溶液が5.6g/minのペースで流れ込むように調整した。このとき、CoSO4の濃度が略5.4質量%(略0.35mol/L)、NiSO4の濃度が略24.7質量%(略1.6mol/L)となるように調整した。混合溶液の濃度を上記の濃度配分にすると、Ni(1-x)Cox(OH)2のx値が0.18の原料粉末が生成できる。
NH4OH溶液のNH3濃度は、略25質量%に調整した。NH4OH溶液の反応槽への供給速度は、0.25g/minとした。NaOH溶液のNaOH濃度は、略22質量%(5.5mol/L)に調整した。NaOH溶液の反応槽への供給速度は、2.9g/minとした。
反応槽内では1分間に300回転(300rpm)の条件で攪拌し、CoSO4とNiSO4の混合溶液とNH4OH溶液とNaOH溶液を混合した。反応槽内には各液体を、8時間以上連続的に供給した。反応槽内では、Ni0.82Co0.18(OH)2粉末からなる原料粉末が析出した。Ni0.82Co0.18(OH)2粉末は、略球状であった。なお、反応槽内の液体は、液温50±1℃、pH値11.8±1の状態を維持するように調整した。反応槽内に、上記の液温とpH値の状態で、混合液体を数日以上(例えば5日以上)保持した。
保持時間が経過した後、反応槽で析出した原料粉末(Ni0.82Co0.18(OH)2)を回収した。
原料粉末となるNi(1-x)Cox(OH)2粉末の形状は、前記したように略球形である。図2は、本実施例で得られたNi0.82Co0.18(OH)2粉末のSEM(電子顕微鏡)像を示している。図2のSEM像に示すように、Ni0.82Co0.18(OH)2粉末は、粉末内に空隙を含まない高密度の粉末であった。また、Ni0.82Co0.18(OH)2粉末の平均粒径は、約20μmであり、20μm〜30μmの粒径を有する粉末が全体の90質量%を占めていた。
次に、ステップS3では、ステップS2で得られたNi(1-x)Cox(OH)2粉末を加熱する。一般式がNi(1-x)Cox(OH)2で表される水酸化物は、加熱処理を行うと、次式に示す脱水反応が生じる。
Ni(1-x)Cox(OH)2 → Ni(1-x)CoxO + H2O
ステップS3の加熱処理条件は、一定温度に保持する工程が二段階に設定されていることが好ましい。一段目の保持温度は、300〜400℃の範囲内で設定されていることが好ましく、二段目の保持温度は470〜570℃の範囲内に設定されていることが好ましい。
300〜400℃で保持すると、Ni(1-x)Cox(OH)2の脱水反応が効率よく進行する。470〜570℃で保持すると、Ni(1-x)CoxOの結晶が安定化する。
本実施例では、Ni0.82Co0.18(OH)2粉末を電気炉に入れた状態で、空気を供給しながら加熱した。350℃と520℃の2段階で保持するように加熱条件を設定した。
Ni0.82Co0.18(OH)2を加熱処理することにより脱水反応が生じ、Ni0.82Co0.18O粉末が生成した。得られたNi0.82Co0.18O粉末を構成する粒子のSEM像を図3に示す。
図3のSEM像が示すように、Ni0.82Co0.18O粉末は、スポンジ状の多孔質であった。Ni0.82Co0.18O粉末は多孔質粒子であるが、生成時に520℃に加熱した状態で保持しているので、孔部以外の領域の結晶構造は安定している。
ステップS4では、ステップS3で得られたNi(1-x)CoxO粉末を、NaAlO2溶液で湿潤する。湿潤処理では、Ni(1-x)CoxO粉末をプラネタリー混合機や転動造粒機に入れて減圧下で攪拌し、その状態の粉末にNaAlO2溶液を噴霧するとよい。NaAlO2の噴霧量は、目的の正極活物質に含有させるAlの量から算出して決定する。
適量のNaAlO2溶液を噴霧した後、ステップS5に進む。
ステップS5では、NaAlO2溶液で湿潤した状態のNi(1-x)CoxO粉末に、二酸化炭素(CO2)ガスを吹きかける。CO2ガスを吹きかけると、下記式で示す反応が生じる。
Ni(1-x)CoxO + yNaAlO2 + 2yH2O + yCO2 → Ni(1-x)CoxO・Aly(OH)3y + yNaHCO3
上記の反応は、多孔質のNi(1-x)CoxOの全表面(内部に形成されている微細孔の表面を含む)で進行し、Ni(1-x)CoxO粉末の深部に至るまでNi(1-x)CoxO・Aly(OH)3yが形成される。すなわち、多孔質のNi(1-x)CoxOの深部に至るまでAlがほぼ均質に導入される。
なお、Ni(1-x)CoxO粉末に供給したNaAlO2溶液の水分が蒸発している場合には、水(H2O)を添加する必要がある。Ni(1-x)CoxO粉末がNaAlO2溶液で浸潤していれば、H2Oを添加しなくてもよい。
本実施例では、ステップS4の湿潤処理を、図4に示される反応装置10を用いて行った。図4を参照して本実施例の湿潤処理を具体的に説明する。
反応装置10は、プラネタリー混合機18と、真空ポンプ12と、グローブボックス16と、CO2ガスボンベ26と、NaAlO2溶液タンク30から構成されている。プラネタリー混合機18は、グローブボックス16の内部に収容されている。真空ポンプ12と、CO2ガスボンベ26と、NaAlO2溶液タンク30は、グローブボックス16の外側に配置されている。プラネタリー混合機18の操作は、グローブボックス16に備えられているグローブを用いて外側から行う。グローブボックス16を備えることで、プラネタリー混合機18は、外気から隔離される。
プラネタリー混合機18には、ブレード22と、混合タンク24と、真空フード25が備えられている。真空フード25には、真空フード25を貫通する排気管14と注液管34が備えられている。排気管14は、真空ポンプ12に連結している。混合タンク24に真空フード25をかぶせた状態で真空ポンプ12を作動させると、混合タンク24の内部の圧力が低下する。注液管34は、送液ポンプ32を介してNaAlO2溶液タンク30に連結している。注液管34の混合タンク24側の端部には、噴霧機36が備えられている。混合タンク24の内部には、霧状のNaAlO2溶液が供給される。混合タンク24の側壁には、混合タンク24の内部にCO2ガスを導入する導入管28が備えられている。導入管28は、CO2ガスボンベ26に連結している。
本実施例では、先ず、プラネタリー混合機18の混合タンク24にNi0.82Co0.18O粉末20を入れ、混合タンク24を真空フード25で封じた。次いで、ブレード22で攪拌しながらNi0.82Co0.18O粉末20に所定量のNaAlO2溶液を噴霧した。本実施例では、製造する正極活物質のLiNi(1-x-y)CoxAlyO2のy値が0.001となるようにNaAlO2溶液の噴霧量を調節した。混合タンク24内では、真空ポンプ12により減圧、加圧の操作を繰り返し行った。混合タンク24内で減圧、加圧を繰り返すと、Ni0.82Co0.18O粉末20の各粒子の深部にまでNaAlO2溶液が浸潤する。また、減圧、加圧を繰り返すことで、所定量のNaAlO2をNi0.82Co0.18O粉末20に吸着することができる。次いで、NaAlO2溶液が湿潤している状態のNi0.82Co0.18O粉末20にCO2ガスを吹きかけた。
Ni0.82Co0.18O粉末20の表面にCO2ガスを吹きかけると、前記した式で示す反応が生じる。本実施例では、CO2ガスボンベ26から混合タンク24内にCO2ガスを毎分2Lの吹き込み量で60分間供給した。
CO2ガスの供給により、Ni0.82Co0.18O粉末20の全表面に、Al(OH)3とNaHCO3が析出した。析出したAl(OH)3は、粉末の外表面や内部の微細孔部の孔壁に強く吸着しており、析出したNaHCO3は、粉末の外表面や内部の微細孔部の孔壁に弱く吸着している。
ステップS6では、ステップS5で得られた粉末を洗浄する。ステップS5で得られた粉末の粒子には、NaHCO3とAl(OH)3が吸着している。吸着物質のうちNaHCO3は、粒子への吸着力が弱く、水への溶解性が高い。水で粉末を複数回洗浄することで、粉末からNaHCO3を容易に除去できる。水洗浄後に得られた粉末には、Al(OH)3のみが付着(担持)している。ステップS6で得られた粉末は、一般式Ni(1-x)CoxO・Aly(OH)3yで示される粒子から構成されている。なお、ステップS6の後に、Ni(1-x)CoxO粉末に担持されているAlの量を測定するとよい。粉末へのAlの担持量は、蛍光X線分析(XRF)や電子線プローブマイクロアアナライザ(EPMA)等の元素分析装置で定量分析するとよい。ステップS6の後でAlの担持量を定量分析しておくと、最終的に生成される正極活物質のAlの割合が正確に予測できる。
本実施例では、最終的に得たい正極活物質(1)の構造式が、LiNi0.819Co0.18Al0.001Oであるので、Ni(1-x)CoxO・Aly(OH)3yにおけるy値は0.001に調整されている。従って、ステップS6で得られた粉末は、Ni0.819Co0.18O・Al0.001(OH)0.003粉末から構成されている。
ステップS7では、ステップS6で得られた粉末を乾燥し、LiOH・H2O粉末と混合して前駆体を調整する。ここで、Ni(1-x)CoxO・Aly(OH)3y粉末とLiOH・H2O粉末の物質量(mol量)をほぼ等しくすれば、製造後の正極活物質に含まれるLiとNi(1-x)Coxの割合が略等しなる。それぞれの粉末を構成する粒子の粒径は、同等か、LiOH・H2O粉末のほうが僅かに小さくなるように調整するとよい。それぞれの粒子の粒径が略同一であると、Li元素がNi(1-x)CoxO・Aly(OH)3y粉末の内部に拡散しやすくなる。また、LiOH・H2O粉末は、LiOHの飽和溶液にLiOH・H2O粉末が分散した状態であってもよい。飽和溶液に粒子が分散した状態のLiOH・H2O粉末とNi(1-x)CoxO・Aly(OH)3y粉末で前駆体を調整すると、より高密度な正極活物質が得られる。
本実施例では、Ni0.819Co0.18O・Al0.001(OH)0.003粉末1molに対して、LiOH・H2O粉末1.05molとなるように両方の粉末を混合して前駆体を調整した。
ステップS5で得られたNi0.82Co0.18(OH)2粉末の粒径は、ステップS2で得られた粉末の粒子の粒径とほぼ等しい。従って、ステップS6で得られたNi0.819Co0.18O・Al0.001(OH)0.003粉末の粒径は約20μmであり、20μm〜30μmの粒径を有する粒子が全体の90質量%を占める。
本実施例では、飽和溶液に粒子が分散した状態のLiOH・H2O粉末と上記のNi0.819Co0.18O・Al0.001(OH)0.003粉末を混合して前駆体を調整した。飽和溶液に粒子が分散した状態のLiOH・H2O粉末は、LiOH・H2O粗粒子を遊星ボールミルで粉砕し、粒径が5μm〜20μmの範囲内(平均粒径を12μm)になるように調整した。LiOH・H2O粗粒子の粉砕は、粒子に水を含ませた湿式法で行った。粉砕処理に用いた水の量は、LiOH・H2Oの粗粒子1に対して2となるように調整した。粉砕処理の乳棒の回転条件は、1分間に350回転(350rpm)とし、継続時間を1時間とした。粉砕処理より、乳鉢には、LiOH・H2O粉末とLiOHの飽和溶液が残った。このLiOHの飽和溶液の一部を除去し、固形分50%のLiOH・H2O粉末を調整した。この飽和溶液に粒子が分散した状態のLiOH・H2O粉末と、ステップS6で得たNi0.819Co0.18O・Al0.001(OH)0.003粉末を混合して前駆体を調整した。
ステップS8では、ステップS7で得られた前駆体を焼成する。焼成処理の前処理として、最初に前駆体を真空乾燥して固形物を形成する。その固形物を、酸素分圧が0.08MPa〜0.1MPaの高酸素濃度雰囲気中で焼成する。焼成時工程では、保温温度を3段階に変化させる。一段目の保温工程では、250〜350℃の範囲内に加熱して保温する。二段目の保温工程では、500〜600℃の範囲内に加熱して保温する。三段目の保温工程では、700〜800℃の範囲内に加熱して保温する。250〜350℃の範囲内で保温すると、上記混合粉末の脱水反応が効率よく進行する。500〜600℃の範囲内で保温すると、NiとAlの置換反応が促進する。700〜800℃の範囲内で保温すると、LiNi(1-x-y)CoxAlyO2の粉末の結晶が安定化する。
本実施例では、固形物をアルミナ性の焼成容器に入れ、焼成炉(マッフル炉:KDF-S90G)に投入して焼成した。焼成処理中は、焼成炉内の酸素分圧が0.8〜1.0に保持されるように、焼成炉内に酸素ガス(O2ガス)が毎分1Lの割合で供給した。
300℃に保持する状態と550℃に保持する状態と750℃に保持する状態を続けて焼成した。具体的には、300℃で8時間保持した。300℃で保持していると、固形物中の水分が完全に除去できる。次に、550℃で24時間保持した。さらに750℃まで昇温し、750℃で8時間保持した。以上の工程により、LiNi0.819Co0.18Al0.001O2で記述される焼成体を得た。
ステップS9では、ステップS8で得られた焼成体を篩で整粒する。
本実施例では、目開が略50μmの篩を用いて焼成体を整粒した。
以上の手順により、LiNi0.819Co0.18Al0.001O2の正極活物質(1)を得た。
<第2実施例:正極活物質の製造>
本実施例では、構造式がLiNi0.818Cox0.18Al0.002O2で示される正極活物質を製造した。
本実施例は、第1実施例の製造手順においてステップS4の工程でNaAlO2溶液の吹き付け量が異なる他は、同様の手順で正極活物質(2)を製造した。本実施例では、製造されるLiCoxNi(1-x-y)AlyO2粉末において、化学式中のyが0.002となるように、NaAlO2溶液の噴霧量を決定した。
<第3実施例>
本実施例では、構造式がLiNi0.815Cox0.18Al0.005O2で示される正極活物質を製造した。
本実施例は、第1実施例の製造手順においてステップS4の工程でNaAlO2溶液の吹き付け量が異なる他は、同様の手順で正極活物質(3)を製造した。本実施例では、製造されるLiCoxNi(1-x-y)AlyO2粉末において、化学式中のyが0.005となるように、NaAlO2溶液の噴霧量を決定した。
<第4実施例>
本実施例では、構造式がLiNi0.81Cox0.18Al0.01O2で示される正極活物質を製造した。
本実施例は、第1実施例の製造手順においてステップS4の工程でNaAlO2溶液の吹き付け量が異なる他は、同様の手順で正極活物質(4)を製造した。本実施例では、製造されるLiNi(1-x-y)CoxAlyO2粉末において、化学式中のyが0.01となるように、NaAlO2溶液の噴霧量を決定した。
<第5実施例>
本実施例では、構造式がLiNi0.80Co0.18Al0.02O2で示される正極活物質を製造した。
本実施例は、第1実施例の製造手順においてステップS4の工程でNaAlO2溶液の吹き付け量が異なる他は、同様の手順で正極活物質(5)を製造した。本実施例では、製造されるLiNi(1-x-y)CoxAlyO2粉末において、化学式中のyが0.02となるように、NaAlO2溶液の噴霧量を決定した。
<比較例>
本比較例では、Alを含有しないLiNi0.82Co0.18O2で示される正極活物質を製造した。品比較例は、第1実施例の製造手順において、ステップS4〜S7の工程を省略した他は、同様の手順で正極活物質(6)を製造した。
<実験例1:正極活物質の粉末の電子顕微鏡観察>
図5は、第3実施例で得た正極活物質(3)のLiNi0.815Co0.18Al0.005O2粉末のSEM像を示している。図5のSEM像が示すように、LiNi(1-x-y)CoxAlyO2粉末は、微結晶からなる一次粒子が複数集まり放射状に整列して形成された二次粒子である。微結晶からなる一次粒子は、一つ一つが微細であり、緻密な状態で集合している。結果、整粒して得られた二次粒子の嵩密度は、高くなる。正極活物質(3)の粒子の嵩密度(タッピング密度)を算出したところ、2.5〜2.8g/cm3であった。一般的なリチウム二次電池の正極活物質の嵩密度は、2.2〜2.5g/cm3であるので、10%程度、高密度であることが判った。
<実験例2:粉末中に含まれる金属元素の分析>
第3実施例で製造した正極活物質(3)の粉末中の酸素以外の元素分布を、電子線プローブマイクロアナライザ(EPMA)を用いて解析した。EPMA解析は、島津製作所社製EPMA解析装置、EPMA-1600を用いて行った。
図6は、本実施例で得られた正極活物質(3)の二次粒子に含まれるAlの分布状態を示したグラフである。グラフは、上記の手順で作成された粒子の一つを元素分析した結果を示している。グラフの横軸は、走査距離を示している。測定対象の粒子の粒径は、略23μmである。グラフの縦軸は、各元素の濃度(atm%)を示している。縦軸のフルスケールは、Alが2%であり、Coが20%であり、Niが50%である。なお、元素分析は、粒子に含まれている酸素以外の元素の合計を100(atm%)として定量した。
EPMA解析の結果、正極活物質(3)の各元素濃度は、Alが略0.22%であり、Niが略41%であり、Coが略7.4%であった。粉末中の結晶中の全NiサイトにAlが置換した割合は、0.45%であった。LiNi(1-x-y)CoxAlyO2のNiサイトの割合は、NiとCoとAlの和算値である。従って、正極活物質(3)の結晶構造におけるNiサイトの割合は、48.62%である。この結果に基づいて計算すると、正極活物質(3)のyの値は約0.0045である。正極活物質(3)は、LiCoxNi(1-x-y)AlyO2のyの値が0.005となるように製造した。従って、正極活物質(3)のyの値の製造誤差は10%であった。上記実施例の製造方法によれば、y値の製造誤差は、10%の低水準に抑えられる。
また、図6のグラフから明らかなように、正極活物質(3)は、AlとNiとCoの各元素濃度が粉末の解析位置によらず、ほぼ一定の値であることがわかった。上記実施例の製造方法によれば、Alが、粉末の表面部から深部に至るまで一様に分散しているLiNi(1-x-y)CoxAlyO2粉末が製造できることがわかった。
<実験例3:リチウム二次電池の製造>
上記実施例で得られた正極活物質(1)〜(5)と上記比較例で得られた正極活物質(6)の充放電特性と熱安定性を評価するために、リチウム二次電池40を製造した。
図7は本実験例で製造したリチウム二次電池40の断面構成を示す模式図である。リチウム二次電池の外形は、直径14mm、高さ50mmの円筒型である。リチウム二次電池の製作手順を簡単に説明する。
先ず、正極板50の製作手順について説明する。
正極活物質(1)〜(6)のいずれかと、導電材であるカーボンブラック(CB)と、結着材であるテトラフルオロエチレン(PTFE)及びポリエチレンオキサイド(PEO)を水と混合して正極活物質ペーストを調製した。このペーストは、正極活物質:導電材:結着材を100:10:2の質量比で含有する。厚さ約15μmのAl箔(正極集電体)の両面に上記で得られた正極活物質ペーストを連続的に塗布し、乾燥後、全体の厚さが約100μmとなるように延伸した。このようにして正極シートを作製した。この正極シートを幅37mm、長さ250mmの長尺形状に切り出し、リチウム二次電池の正極板50を製作した。正極板50の端部には、リチウム二次電池40の正極蓋58に接続する正極リード60を溶接した。
次に、負極板48の製作手順について説明する。
グラファイト活物質と、スチレンブタジエンゴム(SBR)と、カルボキシメチルセルロース(CMC)を水と混合して負極活物質ペーストを調製した。このペーストは、グラファイト活物質:SBR:CMCを100:3:1の質量比で含有する。厚さ約10μmの銅箔(負極集電体)の両面に上記で得られた負極活物質ペーストを塗布し、乾燥後、全体の厚さが約80μmとなるように延伸した。このようにして負極シートを作製した。この負極シートを幅39mm、長さ280mmの長尺形状に切り出し、リチウム二次電池の負極板48を製作した。負極板48の端部には、リチウム二次電池40の負極缶44に接続する負極リード54を溶接した。
次いで、セパレータ46を介した状態の正極板50と負極板48を捲回する。捲回には、巻芯52を用いた。セパレータ46は、微孔性ポリエチレンシートで構成された厚さ25μm、幅39mm、長さ740mmのものを使用した。正極板50とセパレータ46と負極板48からなる積層シートを捲回して捲回型電極体を作製した。この電極体を負極缶44に収容した。この時、負極リード54を負極缶44の底部に接続加工した。次いで、負極缶44に電解液を減圧注入した。電解液には、従来のリチウム二次電池に用いられる一般的な電解液等を用いることができる。ここではエチルメチルカーボネート(EMC)とエチレンカーボネート(EC)の70:30(質量比)の混合溶媒に1mol/LのLiPF6を溶解させた電解液を用いた。
電極体と電解液を負極缶44に注入した後、負極缶44の開口を正極蓋58で封口した。なお、正極蓋58には、安全弁56が備えられており、リチウム二次電池40の内圧が上昇したときに、安全弁56が開放するように構成されている。正極リード54は、封口時に正極蓋58と接続加工した。このようにして、正極活物質(1)〜(6)のいずれかを備えたリチウム二次電池40(リチウム二次電池(1)〜(6))を製作した。
表1は、リチウム二次電池(1)〜(6)と、それに用いられている正極活物質(1)〜(6)の関係を示している。これらのリチウム二次電池(1)〜(6)を用いて、各電池の充放電容量(実験例4)と熱安定性(実験例5)を調べた。
<実験例4:リチウム二次電池の初期充放電容量>
実験例3で得られたリチウム二次電池(1)〜(6)について、初期充電容量と初期放電容量を測定した。初期充電容量は、3.0V〜4.1Vの範囲を充放電するサイクルを5サイクル繰返し、5サイクル目の充電容量を初期充電容量として測定した。初期放電容量は、前記サイクルの5サイクル目の放電容量を初期放電容量として測定した。前記サイクルの充電は、150mAの定電流充電で実施した。前記サイクルの放電は、750mAの定電流放電で実施した。リチウム電池(1)〜(6)の初期充電容量と初期放電容量の測定結果を表2に示す。なお、表2には、AlのNiサイトへの置換率も示す。
表2に示すように、Niサイトに占めるAlの割合が0.1〜2.0%であるリチウム二次電池(1)〜(5)は、充電容量に対する放電容量の割合から算出される充放電効率が、99.87〜100%であった。LiNi(1-x)CoxOのNiサイトの一部にAlを添加することで、充放電効率に優れることがわかった。その一方で、Alが添加されていない正極活物質を用いたリチウム二次電池(6)は、初期充電容量と初期放電容量の充放電効率が98.67%であり、リチウム二次電池(1)〜(5)よりも充放電効率が劣ることがわかった。
また、Niサイトに置換しているAlの割合が0.1〜1.0%であるリチウム二次電池(1)〜(4)は、充電容量と放電容量が745mAh以上であり、Alを添加していないリチウム二次電池(6)に匹敵する充放電容量を有することがわかった。
次に、上記6サイクル目の充電処理が終了したリチウム二次電池(1)〜(6)を解体して、正極板のみを取り出した。それらの正極板について示差走査熱量分析(DSC分析)を行い、正極活物質(1)〜(6)の発熱ピーク温度である熱暴走開始温度を調べた。結果を表3に示す。示差走査熱量分析は、リガク社製TAS−300(機種名)を用いた。分析は、アルゴンガス雰囲気下で行い、毎分5℃の割合で昇温し、正極活物質(1)〜(6)の温度に対する発熱量を測定した。
表3に示すように、NiサイトにAlが置換されていないリチウム二次電池(6)の発熱ピークが242℃であったのに対し、Niサイトの0.1%がAlで置換されている正極活物質(1)は、は発熱ピークが251℃であった。正極活物質は、Niサイトのわずか0.1%をAlで置換するだけで、熱暴走開始温度が9℃も上昇することがわかった。Alの置換率が0.2%、0.5%と上昇するに連れて、熱暴走開始温度が264℃、276℃と大幅に上昇することがわかった。Alの置換率が0.5%〜2.0%の範囲では、熱暴走開始温度に大きな変化は見られなかった。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。例えば、上記実施例では、遷移金属としてNiとCoを含むリチウム複合酸化物について示しているが、これに限定されない。例えば、遷移金属がNiのみであるニッケル酸リチウムや、遷移金属がCoのみであるコバルト酸リチウムであってもよい。また、リチウム遷移金属複合酸化物の結晶構造(たとえば、層状岩塩型やスピネル型の結晶構造)が崩れない程度に、他の元素が含まれていても良い。
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
正極活物質の製造工程を示すフローチャートである。 Ni0.82Co0.18(OH)2粉末のSEM像である。 Ni0.82Co0.18O粉末のSEM像である。 正極活物質の製造に用いる反応装置の模式図である。 正極活物質(3)の粉末のSEM像である。 正極活物質(3)の粉末のEPMA結果を示すグラフである。 実験例3で製作したリチウム二次電池の断面図である。
符号の説明
10:反応装置
12:真空ポンプ
14:排気管
16:グローブボックス
18:プラネタリー混合機
20:Ni0.82Co0.18O粉末
22:ブレード
24:混合タンク
25:真空フード
26:CO2ガスボンベ
28:導入管
30:NaAlO2溶液タンク
32:送液ポンプ
34:送液管
36:噴霧器
40:リチウム二次電池
44:負極缶
46:セパレータ
48:負極板
50:正極板
52:巻芯
54:負極リード
56:安全弁
58:正極蓋

Claims (4)

  1. リチウム二次電池用の正極活物質の製造方法であり、
    遷移金属水酸化物からなる原料粉末を用意する工程と、
    原料粉末を加熱処理する工程と、
    加熱処理した粉末を金属アルミン酸塩溶液に接触させる工程と、
    金属アルミン酸塩溶液に接触した粉末を二酸化炭素に接触させる工程と、
    二酸化炭素に接触した粉末を洗浄する工程と、
    洗浄した粉末とリチウム化合物粉末を混合する工程と、
    混合した粉末を焼成する工程と、
    を備えている正極活物質の製造方法。
  2. 遷移金属水酸化物の遷移金属が、ニッケル及び/又はコバルトであることを特徴とする請求項1の製造方法。
  3. 金属アルミン酸塩が、ナトリウムアルミン酸塩及び/又はカリウムアルミン酸塩であることを特徴とする請求項1又は2の製造方法。
  4. 原料粉末を構成する粒子の平均粒径が10μm以上で30μm以下であり、
    リチウム化合物粉末を構成する粒子の平均粒径が5μm以上で20μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかの製造方法。
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