JP2009129366A - 車両の感性推定システム - Google Patents

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Abstract

【課題】乗員の車両に対する好み度合いを推定する感性モデルを学習的に獲得し、車両パラメータの最適化を図る。
【解決手段】感性推定システム1は、学習モード時、条件設定部2で設定した条件での走行試験結果と主観評価結果とをデータ処理部4で処理し、感性推定部5に入力する。感性推定部5は、感性モデルによってドライバの好み度合を推定し、推定結果とドライバの主観評価との誤差を評価値として学習を行い、感性モデルを構築する。実行モードでは、条件設定部2で設定した走行条件や初期車両パラメータで実車走行試験又はシミュレーションを行い、データ処理部4でデータ処理する。感性推定部5は、学習が完了した感性モデルでドライバの好み度合を推定し、この推定値を評価値としてパラメータ学習器6を介して評価値が最大になるまで車両パラメータの更新を行ない、ドライバにとって最適なパラメータを決定する。
【選択図】図1

Description

本発明は、車両に対する乗員の感性を学習モデルを用いて推定する車両の感性推定システムに関する。
一般に、自動車の操縦性や乗り味は、操舵系、駆動系、足回りといった制御パラメータに依存して決定されるが、これらのパラメータのパターンや種類は、無数に存在する。従って、車両の開発において望ましいパラメータは、開発に携わる設計者やエキスパートドライバによる感性を基に試行錯誤的に決定されているのが現状であり、次のような問題が生じる。
すなわち、ドライバにとって望ましい車両パラメータとは、ドライバ個人の特性や走行状況に応じて異なり、一意に決定し難い。そのため、多種類のパターンでテストを行なう必要があり、多大な工数を必要とする。しかも、多種類のパターンでテストを行ってパラメータを決定しても、決定したパラメータはテストドライバの感性に大きく影響され、実際に車両を使う一般のユーザと大きく異なった味付けになる虞がある。
このような事態を避けるため、多種多様なユーザを想定した一般ドライバをテストドライバとすることも考えられるが、車両特性やテストパターンの僅かな変更を行なった際にも被験者全員を集めて再度実験を行なわなければならず、現実的ではない。
このため、従来からニューラルネットワークや遺伝的アルゴリズム等を用いて人間の感性に係わる複雑系の問題を解決しようとする技術が種々提案されている。例えば、特許文献1には、学習型のニューラルネットワークを用いて被験者の特性や被験体の物理量から心理量を推定する技術が提案されており、また、特許文献2には、物体の運動状態(加速度、加々速度)に対する人間の感性をニューラルネットワークを用いてモデル化し、評価する技術が提案されている。更に、特許文献3には、自動車のエンジンにおける制御パラメータを、エンジンの動作結果によって遺伝的アルゴリズムで最適化する技術が提案されている。
特開平5−108605号公報 特開平7−244065号号公報 特開2004−116351号公報
しかしながら、ドライバの車両に対する好み度合いを評価しようとする場合、特許文献1や特許文献2の技術では、車両特性となる操作と応答との関係の評価についての概念がなく、適用は困難である。また、評価結果を用いての車両パラメータの変更についても考慮されていない。同様に、特許文献3に開示の技術は、ドライバの主観評価に関しては考慮されておらず、ドライバの車両に対する好み度合いを評価することは困難である。さらには、ドライバのみならず、オーディオやエアコン等の車内環境でありドライバ以外の同乗者が操作する可能性のある装備についても、同乗者にとって同様の問題が生じる可能性がある。
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、乗員の車両に対する好み度合いを推定する感性モデルを学習的に獲得し、車両パラメータの最適化を図ることのできる車両の感性推定システムを提供することを目的としている。
上記目的を達成するため、本発明による車両の感性推定システムは、車両に対する乗員の感性を推定するための試験条件と車両パラメータとを設定する条件設定部と、上記試験条件及び上記車両パラメータでの実走行或いはシミュレーションによって得られる時系列データを処理して特徴量データを取得すると共に、対応する乗員の主観評価値を教師データとして取得するデータ処理部と、上記教師データを用いて学習的に構築される感性モデルに上記特徴量データを入力し、車両に対する乗員の感性を推定値として出力する感性推定部とを備え、上記車両パラメータは、乗員の操作に基づく操作量と上記車両の応答との関係を示す物理モデルのパラメータであり、上記物理モデルは、伝達関数、微分方程式、代数方程式の何れかひとつ又はそれらの組合せからなるものであることを特徴とする。
本発明によれば、乗員の車両に対する好み度合いを推定する感性モデルを学習的に獲得することができ、車両パラメータの最適化を図ることができる。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1〜図18は本発明の実施の一形態に係り、図1は感性推定システムの構成図、図2は学習モードのフローチャート、図3は時系列データの第1の処理手法を示す説明図、図4は時系列データの第2の処理手法を示す説明図、図5は階層型ニューラルネットワークによる感性モデルの説明図、図6はニューロンモデルを示す説明図、図7はフィードバック構造のニューラルネットワークによる感性モデルの説明図、図8は感性モデルの評価値を示す説明図、図9はファジィシステムによる感性モデルの説明図、図10は階層型ファジィシステムによる感性モデルの説明図、図11は実行モードのフローチャート、図12は遺伝的アルゴリズムによるパラメータ最適化を示す説明図、図13は遺伝子の世代と評価値との関係を示す説明図、図14は車両操舵系パラメータを示す説明図、図15は学習モードの実行過程を示す説明図、図16は実行モードによるステアリングパラメータの最適化を示す説明図、図17はシミュレーション回数と評価値との関係を示す説明図、図18は操舵角と最適ギヤレシオとの関係を示す説明図である。
本発明の感性推定システムは、乗員の車両に対する好み度合を推定する感性モデルを生成し、また、この感性モデルを用いて、乗員にとって最適な車両パラメータを自動的に決定するシステムである。感性モデルは、点数付けされた乗員の主観評価値を用いて学習することで生成する。
このため、感性推定システムは、乗員にとって最適なパラメータを決定するに際して、学習モードと実行モードとの2つの段階を踏むシステムとして構成されている。学習モードは、乗員の車両に対する主観評価(好み、好みではないといった評価)を推定する感性モデルを構築する段階であり、実行モードは、学習が完了した感性モデルを用いて車両パラメータの決定を行なう段階である。
以下では、車両の乗員としてドライバを対象とする感性推定システムについて説明する。具体的には、図1に示すように、本実施の形態における感性推定システム1は、ニューラルネットワークやファジィによる学習・推論エンジンを用いた感性推定部5を中心として構成され、実行モード及び学習モードで共通に使用する部分(但し、各モードで機能は若干異なる)と、実行モードで特有の部分とを有している。尚、ハードウエア的には、感性推定システム1は、単一のコンピュータシステム或いはネットワーク等を介して接続された複数のコンピュータシステムによって構成される。
実行モード及び学習モードの共通構成は、走行試験の試験条件や用いる車両パラメータを決定する条件設定部2と、走行試験やシミュレーションにより車両状態量やドライバ操作量等の時系列データを取得する試験部3と、試験部3で取得した時系列データを圧縮・変換し、特徴量データとして保存・出力するデータ処理部4と、特徴量データからドライバの車両に対する好み度合を学習的に推定する感性推定部5によって構成される。また、実行モード時の構成は、感性推定部5で推定されたドライバの車両への評価値が最大となるように車両パラメータを学習更新するパラメータ学習器6で構成される。
以下、感性推定システム1における学習モードと実行モードとについて、詳細に説明する。
[学習モード]
学習モードは、ドライバの車両に対する主観評価を推定する感性モデルを構築する段階であり、図1中に破線で示すように、実際のドライバの主観評価とドライバの好み度合の推定結果との誤差を評価し、その評価値が最小となるように学習を行う。先ず、学習モード全体の処理の流れを図2に示すフローチャートを用いて説明する。
学習モードでは、先ず、ステップS1で条件設定部2の処理として、実車両の走行パターンや車両パラメータ等の走行条件を設定し、ステップS2で、この条件に従って実機の走行試験を行う。そして、ステップS3の試験部3の処理として、走行試験における車両状態量や操作量等の実験データを取得すると共に、ドライバの車両に対する好みの度合を取得し、図示しない記憶装置に保存する。ドライバの車両に対する好みの度合いは、本実施の形態においては、10段階の評価値で取得する。
以上の走行試験を繰り返して実験結果を保存し、設定した全ての走行パターン、車両パラメータでの実験結果を取得・保存するとステップS4で試験終了と判断し、ステップS5へ進み、データ処理部4の処理として、これらの試験結果と主観評価結果とを処理し、ステップS6以降で感性推定部5の処理を行う。
感性推定部5の処理では、ステップS6で感性モデルの計算によってドライバの好み度合を推定し、また、ステップS7で、推定された結果と実際のドライバの主観評価との誤差を評価値として算出する。この誤差の評価値が大きく、設定値まで収束していない間は、ステップS8で、再度、感性モデルの計算・学習を行い、ステップS6,7でのドライバの好み度合いの推定から評価値の算出を繰り返し、評価値が収束且つ十分に小さくなったとき、学習終了と判断する。
このように、学習モードは、どの走行パターンでどの車両特性ならば、そのドライバの好みであるのか、そうでないのかを判断できるモデルを構築するモードである。次に、この学習モードにおける各段階について、以下の(L1)〜(L4)に示すように、条件設定→走行試験→データ処理→感性モデル構築の4段階に分けて順次説明する。
(L1)条件設定
条件設定部2において、感性モデルを構築する際に行なう走行試験の試験条件、用いる車両のパラメータを設定する段階であり、以下の(L1-1),(L1-2)に示すように、走行条件、車両パラメータに関する入力設定を行う。これらの走行条件、車両パラメータに関しては、多種多様に試験し、また、試験回数も多く設定することで、感性モデルの精度、汎用性を向上させることができる。
(L1-1)走行条件
実車を用いて、様々なコース、路面、速度帯での試験を行うため、例えば、Jターン試験、車体速度40km/hといった条件を設定する。
(L1-2)車両パラメータ
車両パラメータとしては、代表的には、操舵系、駆動系、車輪回りに関するパラメータであるが、車両挙動に影響が大きいパラメータを各種設定することが望ましい(例えば、ステアリングギアレシオ:15、排気量:2000cc等)
(L2)走行試験
一般ドライバによる走行試験を行う段階であり、多種多様な走行パターン、実験条件、車両パラメータで実験を行い、1回毎の試験データの時系列データ(車両状態量、操作量)と、その走行に対するドライバの10段階の主観評価(0:全く好みでない〜10:非常に好みの運転ができた)を得る。
(L3)データ処理
走行試験で得た時系列データを圧縮・変換して特徴量データを得る処理である。圧縮・変換されるデータは、本実施の形態においては、以下の(L3-1)〜(L3-3)に示すように、ドライバの操作量、車両状態量、近似車両特性の3種類であり、これらの3種類のデータを特徴量データとして感性モデルに与える、以下、これらの特徴量データを得るための計算手法について述べる。
(L3-1)ドライバの操作量
車両への入力である操舵角、ブレーキストローク、スロットル開度(アクセル開度)、及びそれらの微分値を、それぞれ、以下の(1),(2)式によって1パラメータずつに圧縮する。
(1/N)Σ|xn| …(1)
max│xn| …(2)
但し、 N:データの処理区間でのサンプル数
n:データ番号
xn:データ番号における各時系列データ
Σ:n=1〜Nの総和
尚、(1)式または(2)式の何れかの結果を感性モデルへの入力としても良いし、双方を入力しても良い。また、操舵角、ブレーキストローク、スロットル開度(アクセル開度)に関しては、FFT(Fast Fourie Transform;高速フーリエ変換)による周波数解析を行い、解析結果のパワースペクトラムのピークが現れる点での周波数に関しても入力する。
(L3-2)車両状態量
車体速度、車体のヨーレイト、横向き加速度、ロールレイト、ロール角、ピッチ角等の車両状態量を操作量に対する処理同様、(1),(2)式で圧縮する。
(L3-3)近似車両特性
近似車両特性は、操作量と車両状態量の時系列データの関係から算出されるゲイン、時定数、無駄時間等の伝達関数(または微分方程式)のパラメータであり、これらのパラメータは、操作角、スロットル(アクセル)、ブレーキ等の入力に対する各車両応答の伝達関数近似によって求められる。伝達関数(または微分方程式)は、入力である操作量、応答である車両状態量に応じて異なるものを用いる。ラプラス変数sによる伝達関数の一例を以下の表1に示す。各入出力データにおける伝達関数の係数A1〜Am(以下の例では、A1〜A9)が求めるパラメータである。
Figure 2009129366
尚、上記した伝達関数(微分方程式)はあくまでも一例であり、実験条件や走行状態に応じて、より高次且つ複雑な伝達関数(微分方程式)を用いても良く、条件に応じて本システムの使用者が任意に決定しても良い。
また、伝達関数パラメータの推定に関しては、入力である操舵角、スロットル(アクセル)、ブレーキに対して、伝達関数を介した応答と実際の車両状態量との誤差を、以下の(3)式に示す評価値Q1とし、これを最小とするよう、遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm;GA)を用いて繰り返し計算し、推定する。GAに関しては後述する。
Q1=1/N(Σ|yn−xn| …(3)
但し、yn:試験で計測された車両状態量
xn:伝達関数の出力
N:データ数、
n:データ番号
Σ:n=1〜Nの総和
このように、時系列の操作量、車両状態量、近似車両特性を一次元パラメータに圧縮し、感性モデルへの入力とする。但し、本システムの使用者は、これら全てのパラメータを感性モデルへの入力としても良いが、被験者へアンケートを行う等して、特にドライバの感性に影響すると考えられるパラメータのみを抜粋して用いるようにしても良い。
次に、時系列データ処理の方法について説明する。時系列データの処理方法は、図3,図4に示すように、2種類のデータ処理手法M_A,M_Bを用いることができる。
図3に示す第1の処理手法M_Aは、1回の走行で得られた時系列データに対して処理を行い、項目毎に1パラメータを得るデータ処理手法である。一方、図4に示す第2の処理手法M_Bは、1回の走行データを微小区間ずつずらして文節(ステート)分けし、その項目、文節(ステート)毎に、1パラメータを推定する手法である。第2の処理手法M_Bは、時系列データの長さに依存した複数のパラメータを得ることでき、感性モデルの学習において、学習効率をより向上させることができる。
尚、データ処理部4において、第1の処理手法M_Aを用いる場合と第2の処理手法M_Bを用いる場合とでは、感性推定部5のシステム構造が異なり、第1の処理手法M_Aを用いる場合には、感性推定部5で用いる感性モデルは、階層型のニューラルネットワーク5A、或いはファジィシステム5Cとなる。第2の処理手法M_Bを用いる場合には、感性推定部5で用いる感性モデルは、フィードバック構造のニューラルネットワーク5Bとなる。これについては、以下で説明する。
(L4)感性モデルの構築
感性モデルは、ニューラルネットワークシステム(Neural network System;NNS)またはファジィシステム(Fuzzy System;FS)によって構築される。データ処理部4によって得られた、ドライバの操作量、車両状態量、近似車両特性のそれぞれのパラメータを感性推定部5に入力し、ドライバの評価点(その車両への好み度合い)を推定する。
このドライバ評価点の推定においては、実際のドライバの評価との誤差があれば、その誤差を用いてシステムの内部パラメータを学習する。この学習を繰り返すことで、感性モデルが正しく構築され、その車両特性、車両状態がドライバにとって好みかどうかを判定することができる。従って、実際のドライバによって運転してもらうことが不可能なシミュレーション環境においても推定が可能になる。
また、感性モデルとして採用するNNS,FSは、その特性上、未知の入力データに対しても、これまでの学習結果を用いて補完的に評価を行なえるという利点がある。従って、学習が完了した感性モデルを用いれば、車両状態、車両特性に対する評価が簡易に行なえるため、実車試験に掛かる工数の低減が可能である。以下の(L4-1),(L4-2)に、感性モデルをNNSで構築した場合と、FSで構築した場合とについて説明する。
(L4-1)NNSによる感性モデル
NNSによって感性モデルを構成し、ドライバの好み度合である教師信号とNNSからの出力とを用いて、ニューロンの結合荷重を学習する。但し、前述のデータ処理部4において、第1の処理手法M_Aを用いた場合と、第2の処理手法M_Bを用いた場合とでは、NNSのアルゴリズムが異なるため、以下に分けて説明する。
<第1の処理手法M_Aを用いた場合>
この場合のNNSの概要を、図5を例に取って説明する。第1の処理手法M_Aでは、学習データとして、1回の走行毎に、ドライバの操作量、車両状態量、近似車両特性パラメータが1つずつ得られ、また、教師データとして、ドライバのその車両に対する好み度合が10段階評価として1つ得られる。これらを繰り返すことで、複数の学習データと教師データとが同じ数だけ得られることになる。
従って、第1の処理手法M_Aによってデータを処理する場合、NNSによる感性モデルは、図5に示すように、階層型のニューラルネットワーク5Aとなり、学習データA1,A2,A3,…を実験回数順にニューラルネットワークNN_Aの入力層へ入力し、中間層、出力層を得て出力を計算する。
この場合、各層の1つのニューロンNRへの入力Uは、図6に示すように、上流側の各ニューロンの出力u1,u2,u3,…を結合荷重w1,w2,w3,…で重み付けした総和となり、以下の(4)式で与えられる。
U=Σwi×ui …(4)
(4)式で与えられる各ニューロンNRへの入力Uiは、所定の伝達関数で処理され、1つの出力Yiとして出力される。伝達関数としては、例えば、以下の(5)式で表されるシグモイド関数を用いることができる。その他、リミッタ、二値化、不感帯、ピークホールド、微分、積分、最大値等の各関数を伝達関数として用いることも可能である。
Yi=1/(1+e(−ui)) …(5)
そして、出力層からの出力が教師データと比較され、出力値と教師データとの誤差である評価値により、各層の結合荷重w1,w2,w3,…が学習(更新)される。学習手法に関しては、最急降下法を用いて実際の出力と希望の出力との誤差が最小になるように結合荷重を変更するバックプロパゲーション(Back Propagation;BP:誤差逆伝搬法)、或いはGAを用いることができ、何れを用いても良い。このような処理を、評価値が十分に小さく且つ収束するまで行なうことで、感性モデルを構築することができる。
<第2の処理手法M_Bを用いた場合>
第2の処理手法M_B用いた場合では、1回の走行で得られる教師データは1つであるが、操作量、車両状態量、近似車両特性のパラメータは、データ長に依存して文節分けしたステート数のパラメータが得られる。そのため、NNSによる感性モデルは、図7に示すように、出力層からの出力を入力層へフィードバックするフィードバック器FBを追加したニューラルネットワーク5Bとなる。
フィードバック器FBは、出力層からの出力を、時間領域、周波数領域、空間領域で処理して入力層にフィードバックすることで、過去の履歴の反映、出力周波数の帯域調整等を行うことができる。図7においては、出力層からのデータをZ変換する(遅延する)Z変換器を用いた例を示しており、一つ前のデータを入力層に戻すことで、過去の履歴を反映させることができる。
このようなフィードバック構造のニューラルネットワーク5Bは、ステート毎にドライバの好み度合を推定するが、その際の出力を入力層にフィードバックし、次のステートでの計算に入力として用いるものとなる。結合過重の学習は、ステート毎に出力を全て計算した後、図8に示すような各ステートでの誤差Enを用いた評価値Q2を、以下の(6)式で計算することで行う。誤差Enは、最終ステート(n=N)に近づく程、評価値Q2に及ぼす影響が大きくなり、この評価値Q2を最小とするよう、GAによる学習器7で各ニューロンの重みを学習する。
Q2=1/N×E1+2/N×E2+3/N×E3+…+N/N×EN …(6)
以上の処理の流れを繰り返すことにより、走行毎に実験回数数分の結合荷重のパターンが得られる。最終的には、これら学習後の結合荷重の平均を取ることで最適な結合荷重とすることができる。
(L4-2)FSによる感性モデル
FSによる感性モデルは、入力であるドライバの操作量、車両状態量、近似車両特性パラメータを抜粋して少数で行う場合に特に適しており、データ処理部4で第1の処理手法M_Aを用いた場合に適応可能となる。従って、感性推定部5における感性モデルは、図9に示すように、ファジィルールに基づいて出力を決定するFSモデル5Cとなる。
本システムにおけるファジィルールの例としては、if then ルールを予め設定し、「B(big;大きい)」、「LB(little big;すこし大きい)」、「S(small;小さい)」、「LS(little small;すこし小さい)」といった曖昧な表現を数値化するためにメンバーシップ関数を用い、「if パラメータA1が大きい and パラメータA2が小さい then ドライバの好み度合は高い」といった形で出力を決定する。
FSの簡単な例として、2つのパラメータを入力し、ドライバの好み度合を推定する場合について説明すると、2つのパラメータD1,D2に対して、それぞれ前件部でメンバーシップ関数から、B,LB,LS,Sでの軸値を求め、後件部で、この軸値とファジィルールを用いて値の範囲における重心点を求める。この重心点における軸値が出力であり、ドライバの好み度合の推定値となるものである。
図9の例では、パラメータD1のB,LBでの軸値が、0.3,0.7であり、パラメータD2のB,LBでの軸値が、0.8,0.2のとき、各軸の小さい方の値0.3,0.2がルールによってS,Bの値となる。このようにして全てのルールに関する推論を行い、B,LB,LS,Sの軸値の集合を求めて重心点を算出することで、ドライバの好み度合を推定する。
以上のファジィルールにおける記号B,LB,LS,Sの組み合わせは、モデルの出力値(推定値)とドライバの主観評価との誤差を評価値として、GAによる評価器8を介して最適化される。尚、評価値は試験データ毎の主観評価との誤差の積算値とする。
この場合、入力パラメータが増えるとファジィルールも増えることになり、その数が莫大になる場合には、図10に示すように、複数の入力データD1,D2,D,3,D4,D5,…に対して、複数のファジィシステム5C−1,5C−2,5C−3,5C−4,…を階層的に接続した階層構造のファジィシステムによる感性モデル5C’へ拡張することが望ましい。これは、FSによって出力された結果と、これまでの未入力データとで再びFSを構成するものであり、ファジィルール数の増大を緩和することができる。
[実行モード]
次に、本システムの実行モードについて説明する。実行モードは、学習が完了した感性モデルを用いて車両パラメータの決定を行なう段階であり、この実行モードの処理の流れは、図11のフローチャートに示される。
すなわち、先ず、ステップS11で条件設定部2の処理として実車両又はシミュレータよる走行条件や初期の車両パラメータを設定し、次に、ステップS12で試験部3の処理として実車走行試験又は走行シミュレーションを行う。そして、ステップS13でのデータ処理部4の処理として1回の走行を終える毎にデータ処理を行い、感性推定部5へ入力する。
続くステップS14での感性推定部5の処理では、感性モデルによりドライバの好み度合を推定し、この推定値を評価値として、パラメータ学習器6を介して評価値が最大になるまで車両パラメータの更新(最適化)を行なっていく(ステップS15,S16)。評価値が十分に収束するまで試験又はシミュレーションを繰り返した後、得られた車両パラメータがドライバにとって最適なものとなる。
尚、様々な走行条件(車体速度、走行環境)において最適パラメータを推定したい場合には、条件を変更して上述の一連の流れを繰り返せば良い。以下に、実行モードの各処理段階について、以下の(G1)〜(G4)に示すように、条件設定→試験→データ処理及び感性モデルによる推定→パラメータ学習の各段階に分けて説明する。
(G1)条件設定
各パラメータを決定する際の試験条件、車両パラメータを設定する段階であるが、実行モードでは、実車に限らずシミュレータを用いる場合もある。
(G1-1)試験条件
実車を用いて、様々なコース、路面、速度帯での試験を行う場合には、例えば、Jターン試験、車体速度40km/hといった条件を設定する。また、実車両による実走行でなくシミュレータによる試験を行う場合には、シミュレーションの初期条件として、路面摩擦係数、初期車体速度、初期姿勢角等を入力する。
(G1-2)車両パラメータ
初期パラメータとしては、ドライバとの適応を考えず、ランダムに決定したパラメータを設定する。試験による評価を繰り返し行なう中で、パラメータ学習器6によって値は変更されていく。
(G2)試験
この段階は、入力された条件に基づいて、実車試験、又はシミュレーションを行なう段階である。実車試験の場合は、自動操縦、又は任意のドライバに運転してもらい、試験データを得る、その後、データ処理部へ入力する。
また、シミュレーションで行なう場合には、車両への入力である操作量、アクセル、ブレーキ量の時系列波形を車両へ入力する。但し、操作量、アクセル、ブレーキ量に関しては、時系列波形を定義せずとも、目標コース形状、速度パターン等を定義し、PID制御等の簡易なドライバモデルを用いて試験を行っても良い。
(G3)データ処理及び感性モデルによる推定
データ処理は、学習段階と同様の処理を行なう。感性モデルは、基本的には学習段階と同様の処理を行ない、推定値としてドライバの車両への好み度合い(10段階)を出力する。但し、学習段階とは異なり、学習は行なわない。つまり、NNSの結合荷重若しくはFSのファジィルールは変更しないものとなる。
(G4)パラメータ学習
入力した車両パラメータを用いて推定されたドライバの車両への好みの評価値が最大になるよう、GAを用いて車両パラメータを適応的に更新する。従って、試験を繰り返す毎にパラメータが更新されて評価値が向上し、結果的にドライバにとって最適な車両パラメータを求めることができる。
GAによる最適化は、最適化したいパラメータ群を各個体の遺伝子として、世代毎に評価を行いながら進化過程を繰り返し、学習を行う。例えば、図12に示すように、初期個体として7個の個体を発生し、この第1世代の初期個体からパラメータ学習器6の出力に基づいて世代交代を行う。
この世代交代の過程では、第1世代の遺伝子に対して評価値の1番良いものを2つ増やし、評価値の悪かった遺伝子を削除して第2世代の遺伝子を生成し、以後、評価値の良い遺伝子だけを残すように、選択、交叉、突然変異等を繰り返す。そして、最終的に、図13に示すように評価値(平均値)が設定値以下になったとき、学習が収束したと判断して最適化を終了することで、最適な入力パターンを決定する。
尚、最適化の終了は、最良の遺伝子の評価値が設定値に達した時点、或いは、遺伝子の世代が設定世代数に達した時点とすることも可能である。
以上のように、本システムにおいては、実際のテストドライバによる評価の代わりに、様々なドライバを模擬した感性モデルを学習により構築することで、自動的にそのドライバに適した車両特性を求めることができる。従って、車両開発において、1車種毎にテストドライバを用いた試験・評価を行う必要もなく、それまでに作成されたドライバの感性モデルを用いることで、容易に望ましいパラメータを決定することができ、開発工数を大幅に低減することができる。また、テストドライバだけでなく、一般ドライバ等、多種多様なドライバの感性モデルを作成することで、ターゲットとするユーザの好みに合わせた車両パラメータの設定が可能となる。
[車両パラメータの決定例]
次に、本システムを用いて、車両パラメータを決定する例について説明する。ここでは、図14に示すようなステアリング系の特性・味付けを司る重要なパラメータ、すなわち、ステアリングホイール慣性モーメントIh、ステアリング系の等価粘性係数C、ステアリング系の等価剛性係数K、ステアリングギアレシオG、キングピン回りのタイヤ慣性モーメントItを決定する例について説明する。
従来、これらのパラメータは、個々のドライバにとって望ましい値を一意に決めることは困難であったが、望ましい値を決定することができれば、そのドライバに適応したステアリング設計の大きな指針となるパラメータである。以下、本システムの各モードに付いて説明する。
<学習モード>
特定のドライバを用いた走行試験によって、感性モデルの構築を行なう。この学習モードでは、図15に示すように、試験条件として、例えば、10km/h〜100km/hの速度条件、レーンチェンジやJターン等の走行条件、路面摩擦係数等のコース条件を設定し、また、車両特性として、エンジン特性、タイヤ特性、車体特性等を条件設定部2で設定する。
そして、レーンチェンジ試験により、操舵角、ヨーレート、横向き加速度等のデータを試験部3で取得し、データ処理部4で次元圧縮したデータを感性推定部5に入力して学習した後、Jターン試験結果を学習というように、実験条件(速度、コース)、車両特性を変更して試験を繰り返し、全ての試験結果に対して学習を行うことで、感性モデルを構築する。
<実行モード>
実行モードでは、学習モードで得られた感性モデルを用いて、PC等によるシミュレーションにより、ドライバにとって最適な操舵パラメータを決定する。この実行モードの処理過程は、図16に示すように、特定のシミュレーション条件(Jターン、車体速度30km/h等)を設定し、ステアリングパラメータを変更しながら計算を繰り返すことで、図17に示すように、感性モデルの出力である評価値が最大となるパラメータを算出し、この評価値が最大となるパラメータを、ドライバにとって最適なパラメータとして決定する。
ステアリングギアレシオGのように操舵角に依存して変化するようなパラメータを推定する場合には、図18に示すように、Jターン試験の旋回半径を変更する等して、操舵角に対する最適なステアリングギアレシオGを求めることができる。また、車両状態量に依存しないステアリングの等価粘性係数C、等価剛性係数K、慣性モーメントIh、キングピン回りのタイヤ慣性モーメントItは、様々な条件でのシミュレーションで求めた最適なパラメータに対して平均を取ることで、適切な値を求めることができる。
尚、この実行モードでは、学習モードで得られた感性モデルを用いて他の車両パラメータを推定することも可能であり、簡単且つ短時間でそのドライバにとっての最適なパラメータを求めることができる。
また、以上の実施の形態では、自動車で代表される車両について述べたが、本発明は、車両に限らず、航空機、船舶、その他の乗用物にも適用可能である。さらには、操作者が操作することで挙動を変化させる装置、環境一般に対しても適用可能である。
感性推定システムの構成図 学習モードのフローチャート 時系列データの第1の処理手法を示す説明図 時系列データの第2の処理手法を示す説明図 階層型ニューラルネットワークによる感性モデルの説明図 ニューロンモデルを示す説明図 フィードバック構造のニューラルネットワークによる感性モデルの説明図 感性モデルの評価値を示す説明図 ファジィシステムによる感性モデルの説明図 階層型ファジィシステムによる感性モデルの説明図 実行モードのフローチャート 遺伝的アルゴリズムによるパラメータ最適化を示す説明図 遺伝子の世代と評価値との関係を示す説明図 車両操舵系パラメータを示す説明図 学習モードの実行過程を示す説明図 実行モードによるステアリングパラメータの最適化を示す説明図 シミュレーション回数と評価値との関係を示す説明図 操舵角と最適ギヤレシオとの関係を示す説明図
符号の説明
1 感性推定システム
2 条件設定部
3 試験部
4 データ処理部
5 感性推定部
6 パラメータ学習器

Claims (15)

  1. 車両に対する乗員の感性を推定するための試験条件と車両パラメータとを設定する条件設定部と、
    上記試験条件及び上記車両パラメータでの実走行或いはシミュレーションによって得られる時系列データを処理して特徴量データを取得すると共に、対応する乗員の主観評価値を教師データとして取得するデータ処理部と、
    上記教師データを用いて学習的に構築される感性モデルに上記特徴量データを入力し、車両に対する乗員の感性を推定値として出力する感性推定部と
    を備え、
    上記車両パラメータは、乗員の操作に基づく操作量と上記車両の応答との関係を示す物理モデルのパラメータであり、
    上記物理モデルは、伝達関数、微分方程式、代数方程式の何れかひとつ又はそれらの組合せからなるものである
    ことを特徴とする車両の感性推定システム。
  2. 上記条件設定部は、上記感性モデルの推定結果に基づいて上記車両パラメータを適応的に決定することを特徴とする請求項1記載の車両の感性推定システム。
  3. 上記感性モデルを、ニューラルネットワークによって構築することを特徴とする請求項1又は2記載の車両の感性推定システム。
  4. 上記ニューラルネットワークの結合荷重を、上記ニューラルネットワークの出力と上記教師データとの誤差を用いてバックプロパゲーションで学習することを特徴とする請求項3記載の車両の感性推定システム。
  5. 上記ニューラルネットワークの結合荷重を、上記ニューラルネットワークの出力と上記教師データとの誤差を用いて遺伝的アルゴリズムで学習することを特徴とする請求項3記載の車両の感性推定システム。
  6. 上記ニューラルネットワークを、フィードバック構造を有するニューラルネットワークとすることを特徴とする請求項3記載の車両の感性推定システム。
  7. 上記感性モデルを、ファジィシステムによって構築することを特徴とする請求項1又は2記載の車両の感性推定システム。
  8. 上記ファジィシステムにおけるルールの組み合わせを、上記ファジィシステムの出力と上記教師データとの誤差を用いて遺伝的アルゴリズムで最適化することを特徴とする請求項7記載の車両の感性推定システム。
  9. 上記ファジィシステムを階層化された複数のファジィシステムとして構成することを特徴とする請求項7又は8記載の車両の感性推定システム。
  10. 上記データ処理部は、上記特徴量データとして、乗員としてのドライバの操作量と車両状態量と近似車両特性との3種類のデータを取得することを特徴とする請求項1記載の車両の感性推定システム。
  11. 上記データ処理部は、上記時系列データを区間平均して処理することを特徴とする請求項1記載の車両の感性推定システム。
  12. 上記データ処理部は、上記時系列データの中の乗員としてのドライバの操作量に対して周波数解析を行い、解析結果のパワースペクトラムのピーク値を上記特徴量データに含めることを特徴とする請求項1記載の車両の感性推定システム。
  13. 上記データ処理部は、上記時系列データの中の乗員としてのドライバの操作量に対する車両状態量を伝達関数で近似し、該伝達関数のパラメータを上記特徴量データに含めることを特徴とする請求項1記載の車両の感性推定システム。
  14. 上記データ処理部は、1走行で得られた時系列データを種類毎に1パラメータに圧縮し、圧縮した各パラメータを上記感性モデルへ入力することを特徴とする請求項1記載の車両の感性推定システム。
  15. 上記データ処理部は、1走行で得られた時系列データを微小時間ずつずらした区間に分割し、分割した区間毎に処理したパラメータを上記感性モデルへ入力することを特徴とする請求項1記載の車両の感性推定システム。
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