JP2009126821A - シメンおよびリモネンの合成方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】超臨界状態に近い高温高圧水環境において、触媒無添加で、α-ピネンからシメンおよびリモネンを生成する合成反応を行なうことで課題が解決できる。
【選択図】 なし
Description
シメンまたはp-シメンは、製薬産業での殺菌剤の生産や、殺虫剤などの農薬や、調味料、さらには伝熱媒体として利用される重要な中間体である。またリモネン特にd-リモネンは、90%を上回る含有率を有するとされるオレンジおよびレモンの皮油の主成分となっているものであり、オレンジジュース工業では年に50,000トンの量が副産物として生成している。工業的には製薬および香料産業において、例えばカルベオール、カルボンおよびペリリルアルコールなどの重要な出発化合物になっている。また近年スチレンモノマーと構造が似ていることからスチロール樹脂(ポリスチレン)を溶解する性質があり、特にd-体は発泡スチロールの安全な溶剤としても注目されている。
ところで、α-ピネンは、主に松やヒノキや楠木などの松柏類の精油中に多量に含まれる物質で、資源として天然に多く存在する物質である。また製紙工場の廃液としても多く破棄されており、植物資源由来の原料として有効活用が求められている。
また、このような高温高圧水中での有機合成に関して、テルペンアルコールの合成反応法が報告されている(特許文献1)が、ここでは、ヘミテルペンアルコールからモノテルペンアルコールを合成するとしているだけである。さらに、α-ピネンを原料として用いる合成反応として、モノテルペンアルコールの合成に関し、α-ピネンからの半合成法(特許文献2)が知られており、これによれば3段階の製造プロセスを用いる必要があり該多段プロセスでは多くの触媒を使用し、触媒を含めた高ランニングコストとなり、また製造プロセスが煩雑で、合成物の価格が高コストになる一因となっている。
すなわち、本発明者らは、シメンおよびリモネンの合成反応が、高温高圧水環境において、短時間のうちに1段階で自発的に進行することを見出したものである。この手法は、有機溶媒や酸・塩基触媒を用いることがないので、低環境負荷のプロセスであることに加え、生成物が水相と分離して取得できるため、分離取得工程の簡略化が達成できるメリットもある。
本発明者らは、シメンおよびリモネンの合成反応として植物資源由来のα-ピネンを原料として選択して検討をしたところ、水のみを溶媒とし、かつ触媒の添加なしに合成反応が短時間のうちに1段階で進行し、シメンおよびリモネンが合成されることが明らかとなった。
この反応は、上述のようなシメンおよびリモネンを合成する上で基本となる反応であり、α-ピネンの架橋部分が開環し瞬時にリモネンが生成し、その後生成したリモネンが脱水素反応を起こすことでベンゼン骨格を有するシメンを生成する経路をたどるものである。また、得られたシメンおよびリモネンは、不純物を多く含む製紙工場の廃液から合成反応を利用して得られるにもかかわらず、単体として容易に分離可能なものである。
(1)高温高圧水中、触媒無添加において、α-ピネンを原料として用いシメンおよびリモネンを合成することを特徴とするシメンおよびリモネンの合成方法。
(2)α-ピネンが製紙廃液中に含まれるものである上記(1)記載の合成方法。
(3)温度150℃以上、圧力0.4MPa以上で反応させることを特徴とする上記(1)〜(2)のいずれかに記載の合成方法。
本発明は、高温高圧水(HTW)中、触媒無添加において、α-ピネンを原料として用いα-ピネンの架橋部分が開環しリモネンが生成し、その後生成したリモネンが脱水素反応を起こすことでベンゼン骨格を有するシメンを生成するというシメンおよびリモネンを短時間のうちに1段階で合成することを特徴とするものである([化3])。また本発明において原料となるα-ピネンは主に松やヒノキや楠木などの松柏類の精油に多量に含まれる物質で、資源として天然に多く存在する物質である。この物質は製紙工場の廃液として多く廃棄されているものであり、従来から有効活用が求められているものである。
本発明で高温高圧水中、無触媒において、シメンおよびリモネンの合成反応が短時間のうちに1段階で自発的に進行されることが明らかになった。このことは、原料のα-ピネンが製紙工場の廃液中に多く含まれ、廃液処理に苦慮していた製紙工業においても簡単な手段でもって廃液を有効な資源へと活用できるものである。このバイオマス資源であるα-ピネンの有効活用の面からも、原料として安価であり、かつ生成物として製薬、香料産業などで多量に使用される中間体原料としてのシメンおよびリモネンが簡単に生成・分離できる合成反応が確立できるものである。
反応溶媒に使用する水としては、水道水、イオン交換水、純水、超純水等が挙げられるが、反応収率を向上させるためには、イオン交換水、純水、超純水を使用することが好ましく、イオン交換水、純水、超純水を脱気した状態で使用することがより好ましい。
[実施例]
実験に用いた回分式反応管は、SUS316製、内容積10cm3、最高使用条件は、温度537 ℃、圧力35MPaである。
反応管にα-ピネン約0.23〜0.30gと超純水約3.2〜3.6gとを1:100のモル比になるように仕込み、密閉した後、所定温度に設定した金属溶融塩浴に投入することで反応を開始させた。温度は250〜400℃、圧力は4〜30MPa、反応時間は1〜30分(昇温時間約1分を含む)に設定した。
所定時間経過後、金属溶融塩浴から反応管を引き上げ、冷水浴で急冷し、反応を停止させた。有機相と水相に液液分離した回収液にジエチルエーテルを加え、有機化合物をエーテル相に抽出して採取し、生成物を下記分析手段により分析した。
分析には、定性にGC-MS、定量にGC-FIDを用いた。
(1)ガスクロマトグラフィー(GC)
島津製作所製ガスクロマトグラフGC-2010、水素炎イオン検出器(FID)により生成物の定性、定量分析を行なった。GC分析において、注入量は、島津製作所製オートインジェクターAOC-20iを使用し、0.5 μLの一定量に制御した。気化室と検出器の温度はそれぞれ250 ℃、260 ℃に設定した。カラム恒温槽内は40℃で15分間保持し,40〜70℃の温度範囲で10 ℃/minの速度で昇温させ,70℃で5分間保持し,70〜190℃の温度範囲で20 ℃/minの温度で昇温させ,190℃で3分間保持した。また、線速度を20 cm/sec、スプリット比を100:1として分析を行なった。カラムにはJ&W(Agilent Technologies)社製HP-INNOWax (長さ30 m, 内径0.250 mm, 膜厚0.25 μm)を用いた。
(2)GC/MS
島津製作所社製GC(GC-2010)/MS(GCMS-QP2010)により生成物の定性を行った。注入量は0.1μL、気化室の温度を250 ℃に設定し、カラム恒温槽内はカラム恒温槽内は40 ℃で15分間保持し,40〜70 ℃の温度範囲で10 ℃/minの速度で昇温させ,70 ℃で5分間保持し,70〜250 ℃の温度範囲で20 ℃/minの温度で昇温させ,250 ℃で10分間保持した。また、線速度を28 cm/sec、スプリット比を100:1として分析を行った。カラムにはJ&W(Agilent Technologies)社製HP-INNOWax (長さ30 m, 内径0.250 mm, 膜厚0.25 μm)を用いた。
反応生成物のうち1min経過後の生成物と10min経過後の生成物をMS分析した結果を図1、図2に示す。図1は生成物(1min)のMSスペクトルで、下段はリモネンの標準物質、上段は反応生成物である。図2は生成物(10min)のMSスペクトルで、下段はシメンの標準物質、上段は反応生成物である。この結果からリモネン及びシメンの生成を確認できた。
反応時間1minの時点で原料の転化率はほぼ100%であり、表1によれば、GC-FIDで定量したリモネンおよびシメンおいて、リモネンの収率は反応時間1minで最大48.0%となった後、時間の経過とともに減少し、3minで15.3%、30minでほぼ0%となった。一方、シメンの収率は時間の経過とともに増加し、30minで17%弱となった。
この結果から、温度400 ℃、圧力30 MPa、反応時間1分以上の高温高圧水中での反応によりα-ピネンの開環反応が即座に容易に進行し、α-ピネンの架橋部分が高温高圧水によって開環しリモネンを生成し、その後、生成したリモネンが脱水素反応を起こすことでベンゼン骨格を有するシメンを生成するという経路をたどっていることが分かった。
一方、実施例2では、反応時間1minの時点で原料の転化率はほぼ100%であり、リモネンの収率は反応時間1minで最大48.0%となった後、時間の経過とともに減少し、3minで15.3%、30minでほぼ0%となったのに対して、シメンの収率は時間の経過とともに増加し、30minで17%弱得られた。実施例3では、反応時間0.5〜1minの時点で原料の転化率はほぼ100%であり、リモネンの収率は反応時間1minで最大69.7%となっているのに対して、シメンは得られなかった。このことは、実施例2、実施例3とも温度400℃、圧力30MPaの条件であるものの、実施例3では反応管内に原料を仕込み後、反応管内の空気を不活性ガス(アルゴンガス)で置換したのちに反応させたものであり、シメンの反応には、微量での酸素の存在により反応が促進していることを推測させるものである。
これらのことによれば、シメンとリモネンの収量を反応条件に応じて最適割合得られるよう制御できることがわかる。例えば、シメンを大量に得たいときには微量の酸素の添加した状態で高温400℃で反応時間を30minと長くし、リモネンを大量に得たいときには高温400℃で反応時間を1minと短くすればよいことが分かる。
Claims (3)
- 高温高圧水中、触媒無添加において、α-ピネンを原料として用いシメンおよびリモネンを合成することを特徴とするシメンおよびリモネンの合成方法。
- α-ピネンが製紙廃液中に含まれるものである請求項1記載の合成方法。
- 温度150℃以上、圧力0.4MPa以上で反応させることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の合成方法。
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