JP2009114488A - 転動部材用鋼、転動部材、及び、転動部材の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】転動部材用鋼は、質量%で、C:0.10〜0.30%、Si:0.50〜3.00%、Mn:0.30〜3.00%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cu:0.01〜1.00%、Ni:0.01〜3.00%、及び、Cr:0.30〜1.00%等を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Si[%]+Ni[%]+Cu[%]−Cr[%]>0.3を満たす。転動部材は、該転動部材用鋼に真空浸炭を施すことにより得られる。
【選択図】図2
Description
一方、近年このガス浸炭法に代わり真空浸炭法が普及し始めている。この真空浸炭法は、減圧後980℃〜1050℃に加熱し、メタン・プロパンなどの炭化水素ガスを導入させることにより鋼表面にCを侵入させて硬くする浸炭方法であり、浸炭期にCを鋼表面に浸入させ、浸入させたCを拡散期に溶解させることにより行われる。
(1)真空中で処理するため酸化が起こらず、ガス浸炭品に存在する粒界酸化が発生せず、強度が向上すること、
(2)炉耐構造上、高温浸炭を行いやすく、高温浸炭を採用することで更なる迅速浸炭化が可能であること、
(3)使用する浸炭ガスが少なくて済み、ガス浸炭対比ランニングコストが安いこと、等の利点があるからである。
このように真空浸炭法は、一般的にはガス浸炭法に比べて多くの利点がある。
この破壊を未然に抑制し長寿命化を図るには、浸炭期における炭化物生成を抑制すればよい。
本発明の第二の目的は、転動疲労寿命を向上させることができる転動部材用鋼を提供すること、並びに、転動疲労寿命を向上させた転動部材、及び、その製造方法を提供することにある。
更に、質量%で、Mo:0.00〜2.00%、Al:0.00〜0.20%、Nb:0.00〜0.20%、Ti:0.00〜0.20%、N:0.00〜0.05%、及び、B:0.00〜0.01%からなる群の少なくともいずれかを含み、
残部がFe及び不可避的不純物からなる転動部材用鋼であって、下記(1)式を満たすことを要旨とする。
Si[%]+Ni[%]+Cu[%]−Cr[%]>0.3…(1)
(成分組成及びその関係並びにそれらの限定理由)
本発明の一実施形態に係る転動部材用鋼及び転動部材は、基本的構成元素として、以下の(1)から(8)の元素を含む。
(1)C:0.10〜0.30%。
Cは、転動部材等の機械構造用部品として必要な強度を得る上で必要な元素である。Cの下限を0.10%としたのは、Cが少なすぎると心部にフェライトが生成し、圧潰強度が低下するためである。具体的には、Cが少なすぎて非浸炭部が柔らかいと荷重に耐えられず、例えば、軸受の球自身が潰れるためである。一方、Cの上限を0.30%としたのは、Cが多すぎると加工性、特に被削性が劣化するためである。
Siは、後述するCu、Niと共に、炭化物生成を抑制する元素である。Siの下限を0.50%としたのは、Siが少なすぎると耐焼付性・耐かじり性が低下し、強度が低下するためである。一方、Siの上限を3.00%としたのは、Siが多すぎると加工性、特に被削性が劣化するためである。
Mnは、転動部材等の機械構造用部品として必要な強度を得る上で必要な元素である。Mnの下限を0.30%としたのは、Mnが少なすぎると心部にフェライトが生成し、圧潰強度が低下するためである。具体的には、Mnが少なすぎて非浸炭部が柔らかいと荷重に耐えられず、例えば、軸受の球自身が潰れるためである。一方、Mnの上限を3.00%としたのは、Mnが多すぎると加工性、特に被削性が劣化するためである。
Pは、不純物であり不可避的に含まれる元素である。Pの上限を0.030%としたのは、Pが多すぎると脆化するためである。
Sは、不純物であり不可避的に含まれる元素である。Sの上限を0.030%としたのは、Sが多すぎると脆化するためである。
Cuは、前述したSi、後述するNiと共に、炭化物生成を抑制する元素である。Cuの下限を0.01%としたのは、Cuが少なすぎると焼入性が低下し、強度が低下するためである。一方、Cuの上限を1.00%としたのは、Cuが多すぎると加工性、特に被削性が劣化するためである。
Niは、前述したSi、Cuと共に、炭化物生成を抑制する元素である。Niの下限を0.01%としたのは、Niが少なすぎると焼入性が低下し、強度が低下するためである。一方、Niの上限を3.00%としたのは、Niが多すぎると加工性、特に被削性が劣化するためである。
Crは、炭化物生成を促進する元素であるため、多量に含有させることができない。しかし、Crが少なすぎると焼入性が低下するとともに、心部にフェライトが生成し、圧潰強度が低下するため、Crの下限を0.30%とした。尚、Crが少なすぎて圧潰強度が低下すると非浸炭部が柔らかくなり、荷重に耐えられず、例えば、軸受の球自身が潰れる。一方、Crが多すぎると加工性、特に被削性を劣化させるため、上限を1.00%としたが、1.00%を限度としてCrの添加量を増加させ得るのは炭化物生成を充分に抑制できる場合である。
(9)Mo:0.00〜2.00%。
Moは、焼入性を向上させるために添加することができる。焼入れ性が低下すると、心部にフェライトが生成し、圧潰強度が低下するためである。Moは、その添加量が多すぎると加工性、特に被削性を劣化させるため、上限を2.00%とした。
Alは、結晶粒を微細化し、強度を向上させるために添加することができるが、多すぎると鋼中でアルミナを生じ強度を低下させるため、上限を0.20%とした。
Nb及びTiは、真空浸炭で生じる結晶粒の成長を抑制し、整粒組織を保つために添加することができる。一方、Nb又はTiが多すぎると、加工性に悪影響が出るため、いずれも上限を0.20%とした。
Nは、結晶粒の粗大化を防止するために添加することができるが、その効果は、0.05%程度で飽和するため、0.05%を上限とした。
Bは、焼入性を向上させるために添加することができるが、多すぎると加工性に悪影響を及ぼすため、0.01%を上限とした。
前述のように、Si、Cu、及び、Niは、炭化物生成を抑制する元素であり、Crは、炭化物生成を促進させるため、Si、Cu、及び、Niの量の合計からCrの量を差し引いた値を炭化物生成を判断する目安とした。この値を0.3超としたのは、後述する実施例により経験的に求めた値である。本発明の一実施形態に係る転動部材用鋼は、上記組成を備え、かつ、上記(1)式の関係を満たすため、当該転動部材用鋼を真空浸炭に供しても浸炭期における炭化物生成が抑制される。従って、そもそも炭化物生成が抑制されるため、真空浸炭の拡散期において炭化物が残存することはない。また、本発明の一実施形態に係る転動部材用鋼を真空浸炭することにより得られる転動部材は、浸炭時における炭化物生成が抑制されているため、その転動疲労寿命が向上する。すなわち、本発明の一実施形態に係る転動部材用鋼は、得られる転動部材の転動疲労寿命を向上させる。
本発明の一実施形態に係る転動部材用鋼は、上記組成になるように原料を溶解し、造塊し、鍛造により所定の形状に加工し、更に、必要な熱処理(焼きならし)を行うことにより得られる。
そして、このように得られた本発明の一実施形態に係る転動部材用鋼を真空浸炭に供することにより、本発明の一実施形態に係る転動部材が得られる。真空浸炭の条件は特に限定されない。
本発明の一実施形態に係る転動部材用鋼は、上記組成を備え、かつ、上記(1)式を満たすものであるから、これを真空浸炭に供すれば炭化物生成が抑制され、転動疲労寿命を向上させる。本発明に係る転動部材は、上記組成を備え、かつ、上記(1)式を満たす転動部材用鋼を真空浸炭に供したものであるから、真空浸炭時における炭化物生成が抑制されている。そのため、本発明に係る転動部材は、転動疲労寿命が向上したものとなる。
(実施例1〜21及び比較例1〜6)
(転動部材用鋼の作製)
実施例1〜21及び比較例1〜6について、表1に示す成分組成となるように原料を電気炉に投入し、溶解・鋳造し、鋼塊(転動部材用鋼)を作製した。
次に、各実施例及び各比較例について、上記の鋼塊(転動部材用鋼)を圧延により棒材に加工した後、熱間鍛造により試験片形状(外径63mm、内径28.3mm、厚さ8.8mmディスク型)に加工した。
(1)試験片形状の各鋼塊を炉に入れて、950℃に加熱して30分間、均熱した。
(2)各実施例及び各比較例について表1に示すガスを導入しながら、950℃、1000Paで60分間、浸炭処理を行った(真空浸炭:浸炭期)。また、この浸炭後の断面組織を観察した。更に、実施例8及び比較例6の顕微鏡写真(400倍)を撮影したので、それぞれを、図2(a)(b)上段に示した。
(3)950℃、10Paで60分間、拡散処理を行った(真空浸炭:拡散期)。
(4)850℃で30分間、保持した。
(5)焼入れ(油又はガス)を行った。
(6)180℃で60分間、焼戻しを行った。また、この焼戻し後(すなわち、真空浸炭における拡散を既に終わった後)の断面組織を観察した。更に、実施例8及び比較例6の顕微鏡写真(400倍)を撮影したので、それぞれを、図2(a)(b)下段に示した。このうち比較例6については、電子顕微鏡写真(10000倍)を撮影した。そこで、これを図3(a)(b)に示した。尚、図3(b)は、図3(a)の炭化物に印を付けたものである。
以上の手順で試験片(転動部材)を作製した。
上記試験片を図4に示すスラスト型転動寿命試験機にセットして転動疲労試験を行った。スラスト型転動疲労試験では、数GPa程度のスラスト方向の繰り返し転がり最大接触応力で転動体(鋼球)を試験片に対して転動させ、試験片に疵や剥離等の破損が生じるまでの転動サイクル数を調べ、全試験片の10%が破損する寿命をL10寿命(サンプルの90%が破損しないで使える負荷回数)として求めた。
具体的な試験条件は以下の通りとした。
(1)試験片:上記の手順で作製した外径63mm、内径28.3mm、厚さ8.8mmディスク型のラッピング加工済みの試験片
(2)転動体:3/8インチ(0.9525cm)SUJ2ボール3個
(3)最大接触応力:Pmax=5.5GPa
(4)負荷回転速度:1800rpm
(5)潤滑:タービン油#68油槽給油(出光興産(株)製)
(6)温度:常温
各実施例及び各比較例のL10寿命は表1に示した通りである。このL10寿命を転動寿命の評価基準とした。
(断面組織観察)
まず、真空浸炭の浸炭後(上記熱処理の(2)後)においては、各実施例の断面組織には炭化物生成が認められなかったが、比較例の断面組織には顕著に炭化物生成が認められた。この点、図2(a)(b)の上段に示すように、実施例8では炭化物の生成が抑制されているが、比較例6では顕著に炭化物が生成していたことにより確認できる。本実施例に係る試験片で炭化物生成が認められなかったのは、いずれも特定の成分バランスを備え、かつ、上記(1)式を満たしたからであるといえる。一方、各比較例に係る試験片でいずれも炭化物生成が認められたのは、本実施例に係る試験片に近い成分バランスを備えたとしても、上記(1)式を満たしていないためと考えられる。
従って、転動疲労試験においても、各実施例はL10値がいずれも16.0超であったが、各比較例はL10値がいずれも14.1以下であった。各比較例が各実施例よりもL10値が相対的に低かったのは、浸炭期に生成した炭化物が拡散後も残存し、それが、転動疲労試験における疵や剥離等の破損の起点となったからと考えられる。一方、各実施例のL10値が相対的に高かったのは、特定の成分バランスを備え、かつ、上記(1)式を満たしたために、浸炭期にそもそも炭化物が生成しないため、拡散後に炭化物が残存すること自体が生じず、炭化物が疵や剥離等の破損の起点とならないからと考えられる。
本発明に係る転動部材の製造方法は、成分バランスを工夫した転動部材用鋼を用いることにより、炭化物生成を抑制し、かつ、転動疲労寿命を向上させた転動部材を製造するものであるため、転動部材の長寿命化を図ることができ、鋼材メーカーや機械構造部品メーカーに対して製造方法の選択余地を拡げる点で産業上の利用価値が極めて高い。
Claims (3)
- 質量%で、C:0.10〜0.30%、Si:0.50〜3.00%、Mn:0.30〜3.00%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cu:0.01〜1.00%、Ni:0.01〜3.00%、及び、Cr:0.30〜1.00%、を含み、
更に、質量%で、Mo:0.00〜2.00%、Al:0.00〜0.20%、Nb:0.00〜0.20%、Ti:0.00〜0.20%、N:0.00〜0.05%、及び、B:0.00〜0.01%からなる群の少なくともいずれかを含み、
残部がFe及び不可避的不純物からなる転動部材用鋼であって、下記(1)式を満たすことを特徴とする転動部材用鋼。
Si[%]+Ni[%]+Cu[%]−Cr[%]>0.3…(1) - 請求項1に記載の転動部材用鋼に対して、真空浸炭を行って得られることを特徴とする転動部材。
- 請求項1に記載の転動部材用鋼に対して、真空浸炭を行うことを特徴とする転動部材の製造方法。
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