JP2009112289A - キシロース発酵酵母およびそれを用いたエタノールの生産方法 - Google Patents

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昭則 松鹿
Shigeki Sawayama
茂樹 澤山
Hiroyuki Inoue
宏之 井上
Katsuji Murakami
克治 村上
Keisuke Makino
圭祐 牧野
Tsutomu Kotaki
努 小瀧
Seiya Watanabe
誠也 渡邉
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Abstract

【課題】キシロースレダクターゼ(XR)、(野生型または変異型)キシリトールデヒドロゲナーゼ(XDH)、キシルロキナーゼ(XK)を発現する遺伝子組換え酵母およびそれを用いたキシロースからエタノールを高効率に生産する方法の提供。
【解決手段】Pichia stipitis由来のXRおよび野生型または変異型XDH遺伝子をプラスミドの状態で、ならびにSaccharomyces cerevisiae由来のXK遺伝子を染色体組込みにより導入した遺伝子組換え酵母を用いてキシロースからエタノールを高効率に生産する方法。
【選択図】図1

Description

本発明は、キシロースからエタノールを高効率に生産する遺伝子組換え酵母およびそれを用いたキシロースからエタノールを生産する方法に関するものである。
近年、バイオエタノールは地球温暖化対策や化石資源代替のために諸外国で需要が急増している。木質系バイオマスからの効果的なエタノール生産技術の確立のために、高い発酵効率をもつ酵母(Saccharomyces cerevisiae)を用いて、木質系バイオマスの糖化液に多量に含まれるキシロースの発酵性を付与する育種が世界的に進められている。
キシロースを発酵できる酵母としてPichia stipitisなどが知られているが、エタノール耐性が低く、またキシロース代謝系はグルコースなどの糖類の存在下で抑制されることも多い。そこでキシロースからエタノールを生産するために、S. cerevisiaeにP. stipitis由来のキシロースレダクターゼ(以下XR)及びキシリトールデヒドロゲナーゼ(以下XDH)をコードする遺伝子を導入し、キシロース代謝能を獲得させる育種が進められている(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。
しかし、この遺伝子組換え酵母においてキシロースからの嫌気的エタノール発酵効率は依然として低く、満足できるものではない。さらに発酵の過程で中間代謝物キシリトールが蓄積して炭素変換効率を減少させるという問題が存在する。これらの欠点は、木質系バイオマスからの効果的なエタノール生産プロセスをより効率化するための大きな障害となる。
このような低いエタノール変換効率の主な原因として、キシロース代謝酵素(XRとXDH)間の補酵素依存性の違いによる細胞内の酸化還元状態の不均衡が指摘されている(非特許文献4、非特許文献5)。すなわち、XRは、キシロースをキシリトールに変換する際に補酵素として、NADP+を使用する。一方、XDHは、キシリトールをキシルロースへと変換する際に補酵素として、NAD+を使用する。この様に両酵素の補酵素に対する要求性が異なっていることが、補酵素供給の量的バランスを崩し、その結果、キシリトールからキシルロースへの変換が効率よく進行せず、最終的にキシロースからエタノールへの変換効率が低くなると推定される。
そこでこの改善策として、上記遺伝子に加えてS. cerevisiae由来のキシルロキナーゼ(以下XK)遺伝子を酵母に導入し、この遺伝子組換え酵母を用いて、キシロースからのエタノール生産効率を向上させるという方法が報告されている(特許文献1を参照)。さらに、また、NAD+要求性からNADP+要求性へと補酵素の特異性を変換したXDH(変異型XDH)を作製し、この変異型XDHをXRと共に発現する遺伝子組換え酵母を作製し、この遺伝子組換え酵母を用いて、キシロースからのエタノールを生産する方法が報告されている(特許文献2を参照)。
近年、バイオマス資源を発酵して得られるエタノールなどを液体燃料もしくは化学原料として利用することが、注目、検討されており、その実用化技術開発が促進されている。そのため、バイオマス資源の実用化経済性のために、上記酵母よりもエタノール生産能の高い酵母株が求められている。
特表2000-509988号公報 特開2006-6213号公報 Chu BCら、Biotechnology Advances, Vol.25, pp.425-441 (2007) Jeffries TW、Current opinion in Biotechnology, Vol.17, pp.1-7 (2006) Jeffries TWら、Applied Microbiology and Biotechnology, Vol.63, pp.495-509 (2004) Bruinenberg PMら、Applied Microbiology and Biotechnology, Vol.18, pp.287-292 (1983) Koetter Pら、Applied Microbiology and Biotechnology, Vol.38, pp.776-783 (2004)
従来法では、バイオマス資源から効率的にエタノールを製造することはできなかった。従って、バイオマス資源からエタノールを安価に効率的に製造することができる有効な方法が望まれていた。従って、本発明では、キシロースからエタノールを高効率に生産できる遺伝子組換え酵母およびそれを用いたエタノールの製造方法を提供する。
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討した結果、XR遺伝子およびXDH遺伝子を含むプラスミドを含み、かつXK遺伝子が染色体組込みにより導入されている遺伝子組換え酵母が、キシロースからエタノールを高効率に生産できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] XR遺伝子およびXDH遺伝子を含むプラスミドを含み、かつXK遺伝子が染色体組込みにより導入されている、キシロースからエタノールを高効率に生産できる遺伝子組換え酵母。
[2] XR遺伝子およびXDH遺伝子が酵母由来である、[1]の遺伝子組換え酵母。
[3] XR遺伝子およびXDH遺伝子が、Candida Shehatae、Pichia stipitis、およびPachysolen tannophilusからなる群から選択される酵母に由来する、[2]の遺伝子組換え酵母。
[4] XR遺伝子およびXDH遺伝子が、Pichia stipitisに由来する、[3]の遺伝子組換え酵母。
[5] XK遺伝子が、酵母または細菌由来である、[1]の遺伝子組換え酵母。
[6] XK遺伝子が、Candida Shehatae、Pichia stipitis、Pachysolen tannophilus、Saccharomyces cerevisiae、Schizosaccaromyces pombeまたはEscherichia coilからなる群から選択される酵母または細菌由来である、[5]の遺伝子組換え酵母。
[7] XK遺伝子が、Saccharomyces cerevisiaeに由来する、[6]の遺伝子組換え酵母。
[8] XR遺伝子およびXDH遺伝子がPichia stipitisに由来し、かつXK遺伝子がSaccharomyces cerevisiaeに由来する、[1]の遺伝子組換え酵母。
[9] XR遺伝子およびXDH遺伝子が過剰発現され、かつXK遺伝子が弱くかつ構成的に発現される、[1]〜[8]のいずれかの遺伝子組換え酵母。
[10] XR遺伝子、XDH遺伝子およびXK遺伝子がPGKプロモーターにより、それぞれ発現される、[9]の遺伝子組換え酵母。
[11] XDH遺伝子が、補酵素要求性をニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)型に改良した変異型XDH(配列番号1)をコードする、[1]〜[10]のいずれかの遺伝子組換え酵母。
[12] 遺伝子組換え酵母がSaccharomyces cerevisiaeより作製される、[1]〜[11]のいずれかの遺伝子組換え酵母。
[13] [1]〜[12]のいずれかの遺伝子組換え酵母を用いた、キシロースからエタノールを生産する方法。
本発明の遺伝子組換え酵母は、高効率でキシロースをエタノールへ変換できるので、木質系バイオマスとしてこれまで利用されることが少なかったキシロースを次世代の液体エネルギーとして期待されているエタノールへ高効率で変換できる。
XRは、キシロースをキシリトールに変換する反応を触媒する酵素である。XR遺伝子は、かかる酵素をコードする遺伝子であれば特に限定されないが、Candida Shehatae、Pichia stipitis、およびPachysolen tannophilusなどの酵母に由来する。好ましくは、XR遺伝子は、Pichia stipitisに由来するものである。
XDHは、キシリトールをキシルロースに変換する反応を触媒する酵素である。XDH遺伝子は、かかる酵素をコードする遺伝子であれば、特に限定されないが、Candida Shehatae、Pichia stipitis、およびPachysolen tannophilusなどの酵母に由来する。好ましくは、XDH遺伝子は、Pichia stipitisに由来するものである。
XKは、キシロースとATPを、キシルロース5リン酸とADPに変換する反応を触媒する酵素である。XK遺伝子は、かかる酵素をコードする遺伝子であれば、特に限定されないが、Candida Shehatae、Pichia stipitis、Pachysolen tannophilus、Saccharomyces cerevisiae、Schizosaccaromyces pombeおよびEscherichia coilなどの酵母または細菌に由来する。好ましくは、XK遺伝子は、Saccharomyces cerevisiaeに由来するものである。
これらの遺伝子は、当業者に周知である一般的な方法、例えば、ハイブリダイゼーション法、PCR法等によって得ることができる。
XDHは、補酵素要求性が変化した変異型を用いることが望ましい。野生型XDHは一般に、補酵素としてニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)を使用する。一方、本願における「変異型XDH」は、補酵素としてニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP+)を使用する。変異型XDHは、NADP+を補酵素として使用することが出来れば、そのアミノ酸配列もしくは塩基配列は、特に制限しないが、XDHのアミノ酸配列の207番目から211番目に対応するアミノ酸の少なくとも1つを他のアミノ酸、例えば、アラニン、アルギニン、セリンまたはスレオニンに置換させたものが好ましい。XDHのアミノ酸配列で207番目のアスパラギン酸をアラニンに置換させたもの、208番目のイソロイシンをアルギニンに置換させたもの、アミノ酸配列の209番目のフェニルアラニンをセリンもしくはスレオニンに置換させたもの、およびアミノ酸配列の211番目のアスパラギンをアルギニンに置換させたものが特に好ましい。さらに好ましくは、XDHのアミノ酸配列の207番目のアスパラギン酸をアラニン、208番目のイソロイシンをアルギニン、209番目のフェニルアラニンをセリン、および211番目のアスパラギンをアルギニンに置換したものである(配列番号1)(Watanabe S.ら、The Journal of Biological Chemistry Vol.280, No.11, pp.10340-10349 (2005)を参照)。変異型XDHは、補酵素としてNADP+を利用するので、XRと共通の補酵素を用いることができるために、両者を導入した酵母はキシロースからキシルロースまでの変換を効率的に行うことが可能となる(図1を参照)。
変異型酵素の作製は、当該分野において周知である方法、例えば、ランダム変異および部位特異的変異を用いて作製することが可能である。一般的に、ランダム変異法では、遺伝子シャッフリングやエラープローンPCRを用いて酵素変異体プールを構築し、その中から目的の性質に改変された変異体をスクリーニングする。部位特異的変異法では、既知のXDH遺伝子配列を基に設計した、所定の位置に変異を導入したXDHクローニング用プライマーを用いてPCRを行うことによって、クローニングされたXDH遺伝子の所定の位置に変異を導入することができる。
これら3種の酵素をコードする遺伝子を宿主細胞内にて発現させる。その方法は、当業者に公知である一般的な分子生物学的手法を用いて行うことができる(Sambrook J.ら、“Molecular Cloning A LBORATORY MANUAL /second edition”, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)参照)。すなわち、当該酵素をコードする遺伝子を適当なベクターに組み込み、そのベクターを用いて適当な宿主生物を形質転換することにより行うことができる。
ベクターとしては、遺伝子の導入および発現のために当業者に公知である一般的な酵母発現ベクターを用いることができる。酵母に導入する際に用いるベクターとしては、多コピー型(YEp型)、単コピー型(YCp型)、染色体組み込み型(YIp型)のいずれも用いることが可能である。
ベクターには、目的の酵素遺伝子の他に、宿主細胞における複製を可能とする複製起点、および形質転換体を同定する選択マーカー、さらに、好ましくは、酵母由来の適切な転写または翻訳制御配列が、所望により酵素の遺伝子配列に連結されて含まれ得る。制御配列の例には、転写プロモーター、オペレーター、またはエンハンサー、mRNAリボソーム結合部位、ならびに転写および翻訳開始および終結を調節する適切な配列が含まれる。用いることができる転写プロモーターは、宿主細胞内にて遺伝子発現を駆動できる限り、特に限定されず、例えばgal1プロモーター、gal10プロモーター、ヒートショックタンパク質プロモーター、MFα1プロモーター、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADH1プロモーター、AOX1プロモーター等を用いることができるが、PGKプロモーターを用いるのが好ましい。選択マーカーとしては、通常使用されるものを常法により用いることができる。例えばテトラサイクリン、アンピシリン、またはカナマイシンもしくはネオマイシン、ハイグロマイシンまたはスペクチノマイシン等の抗生物質耐性遺伝子やHIS3、TRP1などの栄養要求性遺伝子などが例示される。
宿主細胞として用いることができるものとしては、特に限定するものではないがCandida Shehatae、Pichia stipitis、Pachysolen tannophilus、Saccharomyces cerevisiae、およびSchizosaccaromyces pombeなどの酵母が挙げられ、特にSaccharomyces cerevisiaeが好ましい。
ベクターを宿主細胞に導入する方法としては、リン酸カルシウム法または塩化カルシウム/塩化ルビジウム法、エレクトロポレーション法、エレクトロインジェクション法、PEGなどの化学的な処理による方法、遺伝子銃などを用いる方法などが挙げられる。
本発明において、上記3種の酵素は、ベクターから発現されても良いし、宿主のDNAに組み込まれた後そこから発現されても良い。また、2種以上の酵素が同一のベクターから発現されても良いし、別々のベクターから発現されても良く、また、3種の酵素全てが、宿主のDNAに組み込まれても良い。
本発明において好ましくは、XRおよびXDHは過剰発現させ、XKはやや弱めだが構成的に発現させる。例えば、XRとXDHはマルチコピープラスミド上で発現させ、かつXKは染色体組み込み型ベクター等に導入した後、酵母染色体上にシングルコピーで組み込み発現させるのが好ましい。
本発明に係る遺伝子組換え酵母による発酵反応によりエタノールを効率的に製造することができる。発酵反応は、当業者に公知である一般的な方法によって行うことが可能である。その際、培地に含まれるキシロースの濃度は、0.1〜20%、好ましくは0.5%〜10%、さらに好ましくは、1.5%であり、また培地に含まれるグルコースの濃度は、0.1〜20%、好ましくは0.2〜10%、さらに好ましくは、0.5%である。培養温度は25℃〜40℃、好ましくは27℃〜33℃、さらに好ましくは30℃に制御する。培地のpHは、3.0〜7.6、好ましくは、5.0〜6.0、さらに好ましくは5.5に制御する。発酵は嫌気条件で進行するので、酸素が存在しない状態が必要であり、そのため、発酵させる前に系内の酸素および培地中の溶存酸素を除去する操作、すなわち、窒素ガスを培地中に吹き込む操作を行うことが好ましい。反応は、連続式で行っても、バッチ式で行っても良い。
培養開始から0〜192時間、好ましくは0〜96時間、さらに好ましくは、72時間後の培地を回収してエタノールを分離する。培地よりエタノールを分離する方法は、蒸留、浸透気化膜等の公知の方法が用いられるが、蒸留による方法が好ましい。次いで、分離したエタノールをさらに精製(エタノール精製法としては、公知の方法、例えば蒸留等を用いることができる)することによって、エタノールを得ることができる。
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
実施例1:YEpM4-PGK-XRの作製
野生型XR遺伝子を作製するため、GeneBankに登録されているPichia stipitis XR遺伝子(登録番号XM 001385144)(配列番号2)を参考にして、下記の二つのプライマーを設計した。尚、XR遺伝子の5’末端にHind III切断部位、3’末端にBamH I切断部位を認識する配列をプライマーに付加した。
5’-GCATaagcttATGCCTTCTATTAAGTTGAACTCTGG-3’(配列番号3)
5’-TAAggatccTTAGACGAAGGATAGGAATCTTGTCC-3’ (配列番号4)
PCRは、Blend Taq DNAポリメラーゼ(東洋紡株式会社)を用いて行った。10 pmolの各プライマーと100 ngのP. stipitis ゲノムDNAを用い、変性反応を94℃で30秒間、アニーリング反応を55℃で30秒間、伸長反応を72℃で1分間の条件でXR遺伝子を増幅した。得られたDNA断片を、プラスミドpPGKのHind III及びBamH I制限酵素切断部位に導入し、これをpPGK-XRと名付けた。さらにPGKプロモーター及びPGKターミネーター付きのXR断片をプラスミドYEpM4に導入し、これをYEpM4-PGK-XRと名付けた。
実施例2:pAUR-PGK-XKの作製
野生型XK遺伝子を作製するため、GeneBankに登録されているSaccharomyces cerevisiae XK遺伝子(NC_001139.7)(配列番号5)を参考にして、下記の二つのプライマーを設計した。尚、XK遺伝子の5’末端にEcoR I切断部位、3’末端にBamH I切断部位を認識する配列をプライマーに付加した。
5’-CATgaattcATGTTGTGTTCAGTAATTCAGAGACAGAC-3’(配列番号6)
5’-TAAggatccTTAGATGAGAGTCTTTTCCAGTTCGC-3’ (配列番号7)
PCRは、Blend Taq DNAポリメラーゼ(東洋紡株式会社)を用いて行った。10 pmolの各プライマーと100 ngのS. cerevisiae ゲノムDNAを用い、変性反応を94℃で30秒間、アニーリング反応を54℃で30秒間、伸長反応を72℃で2分間の条件でXK遺伝子を増幅した。得られたDNA断片を、プラスミドpPGKのEcoR I及びBamH I制限酵素切断部位に導入し、これをpPGK-XKと名付けた。さらにPGKプロモーター及びPGKターミネーター付きのXK断片を染色体組込み型プラスミドpAUR101(タカラバイオ株式会社)に導入し、これをpAUR-PGK-XKと名付けた。
実施例3:遺伝子組換え酵母株の作製
上記プラスミドYEpM4-PGK-XRとpAUR-PGK-XKに加えて、pPGK-WT(pPGKに野生型XDHを導入)またはpPGK-ARSdR(pPGKに変異型XDHを導入)(これら2つのプラスミドは京都大学牧野先生らから分与されたもの)をYEASTMAKER yeast transformation system 2(クロンテック社)を用いてリチウム酢酸法により酵母D452-2株に形質転換した。まずD452-2株をYEpM4-PGK-XRを用いて形質転換し、さらにpPGK-WTまたはpPGK-ARSdRを用いて形質転換した。YEpM4-PGK-XRとpPGK-WTが導入されたD452-2株を、pAUR101またはpAUR-PGK-XKを用いて形質転換して、それぞれ遺伝子組換え酵母D-WT株およびD-WT/XK株を作製した。また、YEpM4-PGK-XRとpPGK-ARSdRが導入されたD452-2株を、pAUR101またはpAUR-PGK-XKを用いて形質転換して、それぞれ遺伝子組換え酵母D-ARSdR株およびD-ARSdR/XK株を作製した。一方、酵素遺伝子を含まないYEpM4、pPGK、pAUR101を用いてD452-2株に形質転換してD-Vector株を作製し、コントロール株として用いた。
実施例4:酵素比活性の測定
XRの活性測定は、反応によって生成されるNAD(P)Hの特異的な340 nmの吸収度の減少を30℃でモニターすることによって行った。200 mMのキシロース、および100μlの1.5 mM NAD(P)Hを含む50 mMリン酸バッファー(900μl)中において、1μmolのNAD(P) +を1分間に生成するために必要な量を、XRの1ユニットと定義した。
XDHの活性測定は、反応によって生成されるNAD(P)の特異的な340 nmの吸収度の増加を35℃でモニターすることによって行った。50 mM MgCl2、300 mMのキシリトールおよび100μlの10 mM NAD(P) +を含む50 mM Tris-HClバッファー(900μl)中において、1μmolのNAD(P)Hを1分間に生成するために必要な量を、XDHの1ユニットと定義した。
XKの活性測定は、キシルロースからキシルロース5リン酸に変換されるときに生じるADPを利用してピルピン酸キナーゼ(PK)と乳酸脱水素酵素(LDH)が組み合わさった反応によって生成されるNADHの特異的な340 nmの吸収度の減少をモニターすることによって行った。2 mM MgCl2、8 mM NaF、2 mM ATP、0.2 mM ホスホエノールピルビン酸、3 mM 還元グルタチオン、10 U LDH、10 U PK、0.2 mM NADH、および8.5 mM キシルロースを含む100 mM Tris-HClバッファー(900μl)中において、1μmolのNAD+を1分間に生成するために必要な量を、XKの1ユニットと定義した。
酵素活性測定のために、キシロース発酵酵母(D-WT株、D-ARSdR株、D-WT/XK株、およびD-ARSdR/XK株)とコントロール酵母(D-Vector株)を、2 %グルコースを含む栄養要求性培地(6.7 g/l yeast nitrogen base w/o amino acids、 20 g/l グルコース、2 g/l 検定したいアミノ酸を除いたdrop out mix : SCD培地)において30℃で48時間、好気的に培養した。遠心分離により集菌後、滅菌水で洗浄し、適量の酵母タンパク質抽出試薬Y−PER(Pierce社)に懸濁した。細胞懸濁液を20分間voltex mixerで撹拌した後、遠心分離し、その上清を酵母無細胞(タンパク質)抽出液として酵素活性測定に用いた。
タンパク濃度はMicro-BCA kit(Pierce社)を用いて決定した。図2に酵素比活性の結果を示した。野生型XDHを発現する酵母(D-WT株およびD-WT/XK株)におけるXDHの比活性は、NAD+に極めて高い特異性を示した。一方、変異型XDHを発現する酵母(D-ARSdR株およびD-ARSdR/XK株)におけるXDHの比活性は、逆にNADP+に極めて高い特異性を示した。また、XRを発現する酵母におけるXRの比活性は、XRを発現していない酵母におけるよりも極めて高かった。さらにXKを発現する酵母におけるXKの比活性はXKを発現していない酵母におけるよりも約2倍高かった。
実施例5:遺伝子組換え酵母の培養
エタノール発酵実験のために、キシロース発酵酵母(D-WT株、D-ARSdR株、D-WT/XK株、およびD-ARSdR/XK株)とコントロール酵母(D-Vector株)を、2 %グルコースを含む栄養要求性培地(6.7 g/l yeast nitrogen base w/o amino acids、 20 g/l グルコース、2 g/l 検定したいアミノ酸を除いたdrop out mix : SCD培地)において30℃で48時間、好気的に培養した。遠心分離により集菌後、滅菌水で洗浄し、20 mlの発酵培地(0.5 %グルコースと1.5 %キシロースを含む栄養要求性培地)に適量を接種し(菌体量を統一)、50 mlのスクリューバイヤルにおいて緩やかに攪拌しながら30℃で嫌気的に培養した。
実施例6:エタノール濃度の測定
エタノール、グルコース、キシロース、キシリトール、他の副産物の濃度は高速液体クロマトグラフィー(HPLC; 日本分光株式会社)を用いて測定した。分離カラムはHPX-87Hカラム(Bio-Rad)を用い、HPLC装置は5 mM H2SO4で0.6 ml/minの流速で流し、65℃で運転した。酵母の増殖は分光光度計U-3000(日立)を用いて600 nmでの波長を測定した。解析の結果、これら全ての遺伝子組換え酵母間で増殖速度の違いはみられなかった。またこれら全ての遺伝子組換え酵母間において、グルコースは最初の12時間の間に全て消費した。
D-Vector株はグルコース発酵により初期段階でエタノール濃度が上昇したが、その後は上昇しなかった。
D-WT株は、D-Vector株よりもわずかにエタノール濃度が増加した(最終エタノール濃度 0.24%)。
D-ARSdR株は、D-WT株よりも少しエタノール濃度が増加した(最終エタノール濃度 0.31%)。
D-WT/XK株は、D-ARSdR株よりも顕著にエタノール濃度が増加した(最終エタノール濃度 0.57%)。
D-ARSdR/XK株は、D-WT/XK株よりもさらに顕著にエタノール濃度が増加し(最終エタノール濃度 0.80%)、キシリトール蓄積量もD-ARSdR株並みに抑えられた。
最もキシロースからのエタノール発酵効率のよかったD-ARSdR/XK株では、全糖消費量からのエタノール収率は84%と非常に高かった。
実施例7:XK遺伝子の発現量の検討
XK遺伝子の発現量によるエタノールの発酵効率への影響を検討すべく、XK遺伝子をプラスミド上で過剰発現させた場合と、染色体に組み込んで構成的に発現させた場合における、エタノール発酵効率を比較した。プラスミド上でXKを発現させるために、pPGK-XKからPGKプロモーター及びPGKターミネーター付きのXK断片をプラスミドpESC-TRP(pPGKやYEpM4と同じくマルチコピーベクター)に導入してプラスミドを作製し、これをpESC-PGK-XKと名付けた。このpESC-PGK-XKとYEpM4-PGK-XR及びpPGK-WTの3つのプラスミドを酵母INVSc1に形質転換したI-WT/XK(ESC)株を作製した。また、pAUR-PGK-XK、YEpM4-PGK-XR及びpPGK-WTをINVSc1に形質転換してI-WT/XK(AUR)株を作製した。この両酵母株における酵素比活性の結果を図4に示した。I-WT/XK(ESC)株はI-WT/XK(AUR)株と比べて約3倍高いXK活性を示すことが分かった。XRとXDH活性に関しては両酵母株において違いは認められなかった。続いて両酵母株におけるエタノール発酵効率を比較した。これら酵母の培養方法やエタノール濃度の測定等は上記と同じ方法で実施した。
その結果、I-WT/XK(AUR)株は、I-WT/XK(ESC)株よりも顕著にエタノール濃度が増加し(最終エタノール濃度はそれぞれ0.64%, 0.43%)(図5を参照)、キシリトール蓄積量は半分に抑えられた(最終キシリトール濃度はそれぞれ0.14%, 0.28%)。したがって、I-WT/XK(AUR)株ではキシリトール減少量がエタノールの増大につながったと考えられた。このようにXKはプラスミドで過剰発現するよりも染色体に組み込んで構成的に発現させた方がキシロースからのエタノール発酵効率がよくなるということが分かった。
以上の実施例の結果より、従来的に用いられているようなXRおよびXDHを有する遺伝子組換え酵母(D-WT株)、ならびにXRおよび変異型XDHを有する酵母(D-ARSdR株)は、報告されているようにコントロールと比べて高いエタノール発酵能を有することが示された。そして本願発明に係るXR、XDHおよびXKの3つの遺伝子を発現する酵母(D-WT/XK株)も、エタノール発酵能が上昇していることが示された。さらに、本願発明に係るXR、変異型XDHおよびXKの3つの遺伝子を発現する酵母(D-ARSdR/XK株)が、極めて高効率なエタノール生産能を有することが示された。従って、酵母内でXRに加えて、変異型XDHとXKを発現させることがキシロースからのエタノール生産に極めて重要であることが示された。
さらに、XR、XDH、XKを酵母内で適切に発現させることも重要であることが示された。最も高効率にキシロースからエタノールを生産するには、XRとXDHを過剰発現させ、XKをやや弱めだが構成的に発現させる必要があることを見出した。これまでに、キシロースからのエタノール発酵においてXKの発現量はどのくらいが好適であるのかについて議論がなされていた。例えば、Purdue大学のHo博士はXKの活性が高いことが重要であると述べており、一方、Lund大学や別のグループらはXKの活性が過剰であると酵母の増殖阻害を引き起こすので、適度に構成的に発現させるのがよいと報告しており(Johansson Bら、Applied and Environmental Microbiology, Vol.67, pp.4249-4255 (2001);Jin Y-Sら、Applied Microbiology and Biotechnology, Vol.69, pp.495-503 (2003) )、必要とされるXKの発現量が明らかではなかった。本願発明者らによる今回の実験結果(図4と図5を参照)より、XK遺伝子を染色体組み込みで構成的に発現させた酵母はXK遺伝子をプラスミドで過剰発現させた酵母と比較してエタノール量が増大(キシリトール量は減少)することが明らかとなった。
以上の結果より、本願発明に係る遺伝子組換え酵母を用いることによって、キシロースからエタノールを高効率に生産することができることが示された。特に、XR、変異型XDH、およびXKを発現する遺伝子組換え酵母(D-ARSdR/XK株)では、全糖消費量からのエタノール収率が84%と非常に高いことが明らかとなった。
本発明の遺伝子組換え酵母を用いた嫌気的な培養によって、キシロースからエタノールを高効率で生産することができ、さらにXRおよびXKならびに変異型XDHの相乗効果により高収率のエタノール生産を行うことができる。
酵母内のキシロース代謝経路を示す説明図である。図中、XRはキシロース還元酵素、XDHはキシリトール脱水素酵素、XKはキシルロキナーゼをそれぞれ意味する。従来法では、XR、XDHおよびXKのそれぞれをコードする遺伝子を酵母に導入することにより五炭糖発酵酵母が作成される。一方、本願発明の一実施形態では、XR、変異型XDHおよびXKのそれぞれをコードする遺伝子を酵母に導入することにより五炭糖発酵酵母を作成する。それによって、本願発明による五炭糖発酵酵母は高いキシロース発酵能を有し、エタノールを高効率的に生産することが可能である。 作製した遺伝子組換え酵母において発現させた酵素(XR、XDH、XK)の比活性を示す図である。 作製した遺伝子組換え酵母による、キシロースからの嫌気的エタノール発酵能(エタノール濃度)を示す図である。 XK遺伝子をプラスミド上で過剰発現させた株(I-WT/XK(ESC))と、染色体に組み込んで構成的に発現させた株(I-WT/XK(AUR))において発現させた酵素(XK)の比活性を示す図である。 XK遺伝子をプラスミド上で過剰発現させた株(I-WT/XK(ESC))と、染色体に組み込んで構成的に発現させた株(I-WT/XK(AUR))におけるエタノール発酵能を示す図である。

Claims (13)

  1. キシロースレダクターゼ遺伝子およびキシリトールデヒドロゲナーゼ遺伝子を含むプラスミドを含み、かつキシルロキナーゼ遺伝子が染色体組込みにより導入されている、キシロースからエタノールを高効率に生産できる遺伝子組換え酵母。
  2. キシロースレダクターゼ遺伝子およびキシリトールデヒドロゲナーゼ遺伝子が酵母由来である、請求項1記載の遺伝子組換え酵母。
  3. キシロースレダクターゼ遺伝子およびキシリトールデヒドロゲナーゼ遺伝子が、Candida Shehatae、Pichia stipitis、およびPachysolen tannophilusからなる群から選択される酵母に由来する、請求項2記載の遺伝子組換え酵母。
  4. キシロースレダクターゼ遺伝子およびキシリトールデヒドロゲナーゼ遺伝子が、Pichia stipitisに由来する、請求項3記載の遺伝子組換え酵母。
  5. キシルロキナーゼ遺伝子が、酵母または細菌由来である、請求項1記載の遺伝子組換え酵母。
  6. キシルロキナーゼ遺伝子が、Candida Shehatae、Pichia stipitis、Pachysolen tannophilus、Saccharomyces cerevisiae、Schizosaccaromyces pombeまたはEscherichia coilからなる群から選択される酵母または細菌由来である、請求項5記載の遺伝子組換え酵母。
  7. キシルロキナーゼ遺伝子が、Saccharomyces cerevisiaeに由来する、請求項6記載の遺伝子組換え酵母。
  8. キシロースレダクターゼ遺伝子およびキシリトールデヒドロゲナーゼ遺伝子がPichia stipitisに由来し、かつキシルロキナーゼ遺伝子がSaccharomyces cerevisiaeに由来する、請求項1記載の遺伝子組換え酵母。
  9. キシロースレダクターゼ遺伝子およびキシリトールデヒドロゲナーゼ遺伝子が過剰発現され、かつキシルロキナーゼ遺伝子が弱くかつ構成的に発現される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の遺伝子組換え酵母。
  10. キシロースレダクターゼ遺伝子、キシリトールデヒドロゲナーゼ遺伝子およびキシルロキナーゼ遺伝子がPGKプロモーターにより、それぞれ発現される、請求項9に記載の遺伝子組換え酵母。
  11. キシリトールデヒドロゲナーゼ遺伝子が、補酵素要求性をニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)型に改良した変異型キシリトールデヒドロゲナーゼ(配列番号1)をコードする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の遺伝子組換え酵母。
  12. 遺伝子組換え酵母がSaccharomyces cerevisiaeより作製される、請求項1〜11のいずれか1項に記載の遺伝子組換え酵母。
  13. 請求項1〜12のいずれか1項に記載の遺伝子組換え酵母を用いた、キシロースからエタノールを生産する方法。
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