JP2009076036A - プロセスの状態予測方法 - Google Patents

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【課題】熱反応炉プロセスのように数学モデルによるシミュレーションでは現実的には予測不可能なプロセスの将来状態を予測するための新たな方法を提供すること。
【解決手段】操業データベース(プロセスの時系列データベース)からプロセスの将来状態を予測するプロセスの状態予測方法において、1ステップ前に求められたプロセス変数の予測値と事前に設定したプロセスの操作量の値とを新たな検索キーとして1ステップ先を前記状態予測方法で予測する処理を1回以上繰り返すことによって2ステップ以降のプロセス変数値を予測する。
【選択図】図1

Description

本発明は、熱反応炉プロセス等のプロセスの将来状態を予測する方法に関する。
従来、熱反応炉のプラント操業において、操業不良又は操業異常が発生すると、オペレータの過去の経験に基づき、取るべき操業アクションを決定する行為が実施されていた。操業アクションの成功例、失敗例を問わず過去の操業知見を将来の操業改善に活用することは重要であるが、従来は蓄積された熱反応炉の操業状態の時系列データを十分に活用する手段がなく、オペレータの記憶に頼るのが一般的であった。そのため、オペレータの経験により意見の異なる操業アクションが選択される問題があった。
本発明が対象とするプロセスは、熱反応炉プロセス等の複雑、非線形、かつ非定常なプロセスである。このようなプロセスを対象とする数学モデルは、プロセスによっては連立する数式群に定式化されているものがあるが、これらの数式群を連立させた形で数値計算を行い、プロセスの動的挙動(時間的推移、ダイナミクス)を現実的な計算時間内でシミュレーションするには、現時点での計算機能力では限界がある場合が多い。
一方、近年、計算機ハードウェアやデータベースシステム技術の発展に伴い、大量データの蓄積と高速検索が可能になったこと等を背景に、“Just-In-Time (以後、JIT)モデリング”(非特許文献1、2)や“Lazy Learning”(非特許文献3)、“Model-on-Demand”(非特許文献4)と呼ばれる新しい考え方の局所モデリング手法が注目されている。これらは、観測したデータをそのままデータベースに蓄積しておき、システムの予測等の必要が生じるたびに、入力である“要求点(Query)”と関連性の高いデータをデータベースから近傍データとして検索し、検索したデータの出力を補間する局所モデルを構成して、“要求点”の出力を得るモデリング手法である。観測データの更なる蓄積があるたびに既存の局所モデルを廃棄し、再び新たな局所モデルを構築し、対応していく点に特徴を有する。
Stenman, A., Gustafsson, F. and Ljung, L.: "Just In Time Models For Dynamical Systems", in Proc. 35th Conf. Decision and Control, Dec. 1115/1120 (1996) 牛田俊,木村英紀: "Just-In-Timeモデリング技術を用いた非線形システムの同定と制御", 計測と制御, Vol.44, No.2, 102/106 (2005) Bontempi,G., Bersini, H. and Birattari, M.: "The local paradigm for modeling and control from neuro-fuzzy to lazy learning, Fuzzy Sets and Systems", Vol.121, No.1, 59/72 (2001) Inoue, D. and Yamamoto, S.: "An Operation Support System based on Database-Driven On-Demand Predictive Control", in Proc. SICE Annual Conf., 2024/2027 (2004)
本発明は、熱反応炉プロセスのように数学モデルによるシミュレーションでは現実的には予測不可能なプロセスの将来状態を予測するための新たな方法を提供する。
本発明は、プロセスの時系列データベースからプロセスの将来状態を予測するプロセスの状態予測方法において、1ステップ前に求められたプロセス変数の予測値と事前に設定したプロセスの操作量の値とを新たな検索キーとして1ステップ先を前記状態予測方法で予測する処理を1回以上繰り返すことによって2ステップ以降のプロセス変数値を予測することを特徴とするものである。
このように、本発明は、上述のJITモデリングで得られる操業データベース(プロセスの時系列データベース)をプロセスの状態予測に利用したもので、この操業データベースに基づく予測システムにおいて、最初に一度だけ必要な現在のプロセスの情報をすべてシステムに与え、1ステップ先の予測をシステムで行い、その後は得られた予測値と設定した操作量だけを利用して1ステップ先の予測処理を繰り返すことによって、プロセスの将来予測(例えば、2時間の予測)を行う逐次予測方法である。
本発明は、熱反応炉プロセスの状態予測に好適に適用することができ、この場合、前記時系列データベースが熱反応炉プロセスを対象とし、前記時系列データのプロセス変数値を炉頂ガス温度、炉内対象物レベル、耐火物温度、炉内ガス温度、炉内ガス圧力、炉内差圧から少なくとも1つ以上選択することができる。
本発明では、操業データベースに基づく予測技術によって求められた過去の予測値を利用して逐次的に1ステップ先の予測処理を繰り返し、プロセスの将来の変動を予測するようにしたことで、従来、数学モデルによるシミュレーションでは現実的には予測不可能であった熱反応炉プロセスのような複雑なプロセスの将来状態を実用上十分な処理速度で予測できる。
また、現在の操業データと将来の操作量データさえあれば、将来のプロセス変数の変動を予測することができ、数値シミュレータのように取り扱うことができるため、オペレータや技術者等に有益な情報が提供できる。
まず、本発明による操業データベース(プロセスの時系列データベース)に基づく予測技術の基本的な概念となるJITモデリングを概説する。
(1) Just-In-Timeモデリング
対象とするシステムは非線形かつ動的なシステムであり、次式で表される回帰モデル式で与えられると仮定する。
Figure 2009076036
このとき,システムの入力ベクトルxと出力ベクトルyを式(2)、式(3)のように再定義すると、
Figure 2009076036
Figure 2009076036
時間推移に伴い入力ベクトルxと出力ベクトルyのデータセットが(x,y),(x,y),Λ,のように対象システムから大量に取得され,データ集合{(x,y)},(k=1,2,Λ)としてデータベースに蓄積される。kは離散化時間である。このときJITモデリングは、予測や制御の要求のたびに蓄積されている{(x,y)}から非線形関数fを求めることに相当する。
例えば、時刻tにおいて、システムの予測が必要となったとき、現在のシステムの状態{(xkq,ykq)}は要求点(Query)と呼ばれ、この“要求点”に類似した近傍データセット{(xki,yki)}(ki<kq)を過去の観測データ集合から選び出す。複数の近傍データセットが得られたときは、これらのデータセットの出力を補間する局所モデルを構成し、その局所モデルを用いてシステムの出力ykiを予測する。その後、その局所モデルを廃棄し、次回の予測では新たにデータが更新された観測データ集合から近傍データセットを選び出し、予測を行う。
(2)局所モデル
JITモデリングにおける代表的な局所モデルには相加平均法や重み付き線形平均法(LWA)、重み付き局所回帰法(LWR)などが提案されている。
Figure 2009076036
Figure 2009076036
以下、本発明によるプロセスの状態予測方法、すなわち操業データベース(プロセスの時系列データベース)による予測技術を用いた逐次予測方法の実施の形態を説明する。逐次予測は過去に得られた予測値を利用して更に次の状態の予測を行う処理を繰り返し、予測を行う方法であり、制御入力ベクトル以外のすべての入力変数の予測が必要となる。逐次予測方法の概略図を図1に示し、その手順を以下に示す。
1)現在の制御入力ベクトルu(t)と観測入力ベクトルy(t)から構成される要求点データxを予測システムに与え、良好に予測可能な短期間の1ステップ先のy(t+1)を予測する。
2)u(t+1)は予め任意の値を与える。更にu(t+1)とy(t+1)からなるxt+1を予測システムに与えy(t+2)を予測する。
3)時間tを更新して、2)の処理を計算終了まで繰り返す。
次に、この逐次予測方法の処理フローを図2に示し、その処理手順を以下に示す。観測データの追加更新がなされた場合の処理を1)から4)に示す。
1)予め大規模なデータベースにプロセスから得られる観測データを蓄積する。
2)大規模データベースから設定したサンプリング周期に応じてデータを取得し、観測データの欠損値を補う。ここで、フィルタ等によるデータのノイズ除去は施さずに利用した。
3)変数ごとに時間を遅らせた変数を生成し、ステップワイズ法によって予測変数に対して寄与率の高い変数群に絞り込む。ここで、ステップワイズ法とは、式(1)の回帰式モデルにおいて、できるだけ入力変数の数を少なくし、かつ観測値と予測値の差の平方和(残差平方和)が実用に耐え得るほど小さいものとするために、ある検定基準を設けて入力変数の追加、除去を行う方法である。すなわち、ある入力変数を回帰式モデルに追加した場合、残差平方和の変化量を残差分散で正規化した値、いわゆる"変数の寄与率F"が予め設けた検定基準より大きければその入力変数を追加し、ある入力変数を回帰式モデルから除去した場合の"変数の寄与率F"が検定基準より小さければ、その入力変数を除去する。この手順を出力変数との単相関係数の最も大きい入力変数から順に行い、ある段階で追加される入力変数も除去される入力変数もなくなったとき、最終的に得られた回帰式を最良の回帰式とするものである。ステップワイズ法のアルゴリズムについては、例えば河口至商著、多変量解析入門I、森北出版(1973年)、P.3〜33に詳細に説明されている。
4)絞り込まれた変数を自動的にデータベースに格納する。
予測の要求の都度行われる処理を1.から9.に示す。8.で計算終了判定を行い、その後、計算終了まで9.と4.から8.までの処理を順に繰り返す。
1.要求点データと予測設定情報を取得する。
2.データベースより観測データを取得する。
3.観測データの正規化を行う。
4.要求点データの正規化を行う。
5.要求点の近傍データを検索し、予め設定した数だけ近傍データを取得する。
6.得られた複数の近傍データから局所モデルを構成する。つまり、すべての観測入力ベクトルの予測値を生成する。
7.予測の都度、構成した局所モデルは廃棄される。
8.計算終了の判定を行う。
9.観測入力ベクトルの予測値と設定した制御入力ベクトルから1ステップ先の要求点データを新たに生成する。
次に、上述の逐次予測方法で使用する局所モデルについて説明する。逐次予測では、予測値を利用して更に次のステップを予測するため、すべての観測入力ベクトル変数を高精度で予測することが求められる。そこで、局所モデルは、相加平均法のように得られた近傍データをすべて等価に扱うのではなく、要求点と近傍データ間の距離に対応して、予測値に対するその近傍データの影響度を調整し、要求点に他の近傍データより近い近傍データは影響度を大きくし、要求点からより離れている近傍データは影響度を小さくする重み付き線形平均法を用いることが好ましい。重み付線形平均法は、要求点から距離が離れているデータも影響度の小さい近傍データとして採用することができ、より多くの近傍データを利用して予測値を構成できるため、予測精度の向上に繋がる。
ここで、重み付き線形平均法(LWA)は、“要求点”ベクトルxkqに対する出力の推定値ベクトルykqを距離dに基づいて、重みwを
Figure 2009076036
Figure 2009076036
上述の逐次予測方法を用いた、熱反応炉において重要な操業指標である炉頂ガス温度の予測事例を示す。
(1)熱反応炉プロセスの予測条件と変数選択
対象データベースを熱反応炉の操業データとした。サンプリング時間は1分とし、データの入力変数は、8分まで遅れさせた変数を含む486変数の中からステップワイズ法を用いて炉頂ガス温度に対する寄与率の高い54変数を選択した。選択した変数群の一部を表1に示す。1分後の炉頂ガス温度に関連する変数として、現在、1分前、2分前の炉頂ガス温度、1分前と現在の炉内差圧などの54変数が選択された。
Figure 2009076036
(2)熱反応炉プロセス応用のための短期予測の精度評価
1分後の予測結果を利用して更に先の1分後を予測する処理を繰り返すことで逐次的に予測を実施することを考えたとき、1分後の予測精度が十分な精度で得られなければ、長期予測は困難となる。まず、逐次予測が可能であるかを判断するために1分後の予測精度が十分に得られるかを検証する。1分後の炉頂ガス温度の予測を300回実施した結果の実測値と予測値の散布図を図3に示す。このときの炉頂ガス温度の予測値と実測値の相関係数が0.9493となり、また炉内差圧に関しても相関0.7471となり、1分後に関しては良好に予測できていることが確認でき、逐次予測が可能であると判断できる。
(3)熱反応炉プロセスへの逐次予測方法の応用
逐次予測方法を用いて、要求点時刻から1分後を予測し、その予測結果を利用してさらに1分後を予測する処理を繰り返す逐次予測を行った。このとき、初回の予測時のみステップワイズ法によって絞り込まれたすべての54変数の実測値を要求点データとし、2回目以降は操作変数に関しては実際に実施された値を与え、また操作変数以外の変数に関しては予測値を与えることによって要求点データが構成される。
逐次予測方法に基づく2時間(120分)の炉頂ガス温度の予測結果を図4に示す。実測値と予測値の傾向が類似していることが確認できる。図4の炉頂ガス温度の予測値は、現在から約70分間の上昇傾向やその後の下降傾向などを再現していることが分かる。実測値と予測値の相関係数は0.8023であった。
本発明による逐次予測方法の概略図を示す。 図1に示す逐次予測方法の処理フローを示す。 1分後の炉頂ガス温度の予測値と実測値の相関を示す。 2時間後の炉頂ガス温度の実測値と予測値を示す。

Claims (2)

  1. プロセスの時系列データベースからプロセスの将来状態を予測するプロセスの状態予測方法において、1ステップ前に求められたプロセス変数の予測値と事前に設定したプロセスの操作量の値とを新たな検索キーとして1ステップ先を前記状態予測方法で予測する処理を1回以上繰り返すことによって2ステップ以降のプロセス変数値を予測することを特徴とするプロセスの状態予測方法。
  2. 前記時系列データベースが熱反応炉プロセスを対象とし、前記時系列データのプロセス変数値を炉頂ガス温度、炉内対象物レベル、耐火物温度、炉内ガス温度、炉内ガス圧力、炉内差圧から少なくとも1つ以上選択することを特徴とする請求項1に記載のプロセスの状態予測方法。
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