以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の始動制御装置を備えた4気筒内燃機関を示している。図1において、1は機関本体、2はシリンダブロック、3はピストン、4はシリンダヘッド、5は燃焼室、6は吸気弁、7は吸気ポート、8は排気弁、9は排気ポート、10は点火プラグ、11は燃料噴射弁をそれぞれ示す。燃料噴射弁11は、吸気ポート7に燃料を噴射するようにシリンダヘッド4に取り付けられている。
各気筒の吸気ポート7は、対応する吸気枝管13を介してサージタンク14に連結される。サージタンク14は、吸気ダクト15及びエアフロメータ16を介してエアクリーナ(図示せず)に連結される。吸気ダクト15内には、ステップモータ17によって駆動されるスロットル弁18が配置される。一方、各気筒の排気ポート9は、対応する排気枝管19に連結される。排気枝管19は、三元触媒20を内蔵した触媒コンバータ21に連結される。排気枝管19とサージタンク14とは、再循環排気ガス(以下、「EGRガス」という)導管26を介して互いに連結され、このEGRガス導管26内には、EGR制御弁27が配置される。
電子制御ユニット31はデジタルコンピュータからなり、双方向性バス32を介して相互に接続されたRAM(ランダムアクセスメモリ)33、ROM(リードオンリメモリ)34、CPU(マイクロプロセッサ)35、入力ポート36及び出力ポート37を具備する。エアフロメータ16は、吸入空気量(燃焼室5内に吸入される空気の量)に比例した出力電圧を発生し、この出力電圧が対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。また、アクセルペダル40には、負荷センサ41が接続されており、負荷センサ41は、アクセルペダル40の踏込量に比例した出力電圧を発生し、この出力電圧が対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。また、クランク角センサ42は、クランクシャフトが、例えば、30°回転する毎に出力パルスを発生し、この出力パルスは、入力ポート36に入力される。
三元触媒20上流の排気枝管19には、空燃比を検出するための空燃比センサ(以下「上流側空燃比センサ」ともいう)28が取り付けられ、この空燃比センサ28の出力信号が対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。また、三元触媒20下流の排気管22にも、空燃比センサ(以下「下流側空燃比センサ」ともいう)29が配置され、空燃比センサ29の出力信号が対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。
三元触媒20は、その温度が或る温度(いわゆる、活性温度)以上であって、且つ、そこに流入する排気ガスの空燃比が理論空燃比近傍の領域内にあるときに、排気ガス中の窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)を同時に高い浄化率で浄化する。一方、三元触媒20は、そこに流入する排気ガスの空燃比が理論空燃比よりもリーンであるときには、排気ガス中の酸素を吸収し、そこに流入する排気ガスの空燃比が理論空燃比よりもリッチであるときには、吸収した酸素を放出する酸素吸放出能力(いわゆる酸素ストレージ能力)を有する。この酸素吸放出能力が正常に機能する限り、三元触媒20に流入する排気ガスの空燃比が理論空燃比よりもリーンであってもリッチであっても、三元触媒20内の雰囲気の空燃比がほぼ理論空燃比近傍に維持されるので、排気ガス中のNOx、CO、HCが同時に高い浄化率で浄化される。
ところで、図2に示されているように、内燃機関の始動時には、機関回転数NEは、或る一定の回転数(いわゆるアイドリング回転数)NEstに落ち着く。ここで、機関回転数が一定の回転数に落ち着くまでに機関回転数が辿る軌跡を所定の軌跡にしようとすると、各気筒での燃料と空気との混合気の燃焼によって出力させるべきトルク(以下「要求トルク」という)が決まる。本実施形態では、機関回転数が一定の回転数に落ち着くまでに機関回転数が辿る軌跡が所定の軌跡となるように、要求トルクが設定される。そして、本実施形態では、或る特定のタイミングで点火プラグにより混合気に点火したときに要求トルクが達成されるように、燃料噴射弁から噴射させるべき燃料の量(以下「目標燃料噴射量」という)が設定される。
ところで、燃料には、軽質なものから重質なものまである。一般的には、軽質な燃料ほど揮発性が高く、重質な燃料ほど揮発性が低い。従って、混合気の空燃比が所定の空燃比となるように同じ量の燃料を燃焼室5に供給し、同じタイミングで点火プラグにより混合気に点火した場合、軽質な燃料ほど燃料の燃焼から得られるトルク(以下「出力トルク」という)が大きく、重質な燃料ほど出力トルクが小さい。従って、燃料が軽質であることを前提に目標燃料噴射量が設定されている場合に実際に使用されている燃料が重質であるときには、要求トルクを達成することができず、一方、燃料が重質であることを前提に目標燃料噴射量が設定されている場合に実際に使用されている燃料が軽質であるときにも、要求トルクを達成することができない。いずれにしても、要求トルクを達成するためには、燃料の性状に応じて目標燃料噴射量を変更する必要がある。
ところが、実際に使用されている燃料が重質であるか軽質であるか、又は重質と軽質との混合割合がどの程度であるかが不明である場合、燃料の性状に応じて目標燃料噴射量を設定することは困難である。特に、内燃機関が始動されてから(すなわち、内燃機関のクランキングが開始されてから)機関回転数が一定の回転数(いわゆるアイドリング回転数)に落ち着くまでの間(以下「回転数過渡期間」という)に、要求トルクを達成することができるように最適な目標燃料噴射量を設定するのは困難である。
そこで、回転数過渡期間中に要求トルクを達成するためには、燃料の性状に関わらず、要求トルクを達成することができるようにフィードバック制御をすることが考えられる。斯かるフィードバック制御としては、回転数過渡期間中における燃料噴射量を予め設定しておき、出力トルクが要求トルクと等しくなるように点火時期をフィードバック制御するか、逆に回転数過渡期間中における点火時期を予め設定しておき、出力トルクが要求トルクと等しくなるように燃料噴射量をフィードバック制御することが考えられる。以下では、回転数過渡期間中に燃料性状に関わらずに要求トルクを達成することができるように点火時期を制御する場合について説明する。
上述したように、混合気の空燃比が理論空燃比よりもリーンな空燃比となっているときに、燃料噴射量が同じであれば、出力トルクは燃料が重質である場合よりも燃料が軽質である場合のほうが大きいので、回転数過渡期間中の機関回転数の上昇は燃料が重質である場合よりも燃料が軽質である場合のほうが速い。従って、回転数過渡期間中の或る特定のクランク角度を基準クランク角度とし、回転数過渡期間中であって上記基準クランク角度の後に順に到来する複数のクランク角度を判定用クランク角度としたとき、基準クランク角度から最初の判定用クランク角度まで進むのにかかる時間及び或る判定用クランク角度から次の判定用クランク角度まで進むのにかかる時間(以下「クランク角度進行時間」という)は、燃料が重質である場合よりも、燃料が軽質である場合のほうが短い。従って、例えば、重質な燃料が使用されたときの上記クランク角度進行時間を判定用クランク角度進行時間として予め実験などによって求めておき、回転数過渡期間中の実際のクランク角度進行時間(実クランク角度進行時間)が判定用クランク角度進行時間に等しい或いは略等しければ、重質な燃料が使用されており、回転数過渡期間中に算出される実クランク角度進行時間が判定用クランク角度進行時間より短ければ、軽質な燃料が使用されていることになる。
そこで、本実施形態では、まず、最も重質な燃料が使用されたときにノッキングが発生したりしない範囲で最も進角側にある点火時期を基準点火時期として予め実験などによって求めておく。そして、回転数過渡期間中の特定のクランク角度を基準クランク角度として選択し、回転数過渡期間中であって前記基準クランク角度の後に到来する複数のクランク角度を判定用クランク角度として選択し、最も重質な燃料が使用されたときにクランク角度が上記基準クランク角度から最初の判定用クランク角度まで進むのにかかる時間及び或る判定用クランク角度から次の判定用クランク角度まで進むのにかかる時間をそれぞれ判定用クランク角度進行時間として予め実験などによって求めておく。そして、回転数過渡期間中の実際のクランク角度進行時間とそれに対応する判定用クランク角度進行時間との偏差を積算した値がゼロに等しい(或いは、略等しい)ときには、点火時期を基準点火時期とし(すなわち、点火時期の変更を行わず)、上記偏差を積算した値がゼロよりも大きいときには、その積算値に応じた分だけ点火時期を基準点火時期よりも遅角する。
すなわち、これによれば、基準クランク角度の後に到来する判定用クランク角度を順に第1判定用クランク角度、第2判定用クランク角度、第3判定用クランク角度・・・(以下同様)とし、クランク角度が基準クランク角度から第1判定用クランク角度まで進むのに実際にかかった時間を第1実クランク角度進行時間とし、クランク角度が第1判定用クランク角度から第2クランク角度まで進むのに実際にかかった時間を第2実クランク角度進行時間とし、クランク角度が第2クランク角度から第3クランク角度まで進むのに実際にかかった時間を第3実クランク角度進行時間としたとき、最初に、第1実クランク角度進行時間とそれに対応する判定用クランク角度進行時間とが比較され、これら時間の偏差に応じた分だけ点火時期が基準点火時期から遅角される。
そして、次に、第1実クランク角度進行時間とそれに対応する判定用クランク角度進行時間との偏差に第2実クランク角度進行時間とそれに対応する判定用クランク角度進行時間との偏差が積算され、この積算値に応じた分だけ点火時期が基準点火時期から遅角される。換言すると、第1実クランク角度進行時間に第2実クランク角度進行時間を積算した値とそれに対応する判定用クランク角度進行時間の積算値との偏差に応じた分だけ点火時期が基準点火時期から遅角される。これによれば、例えば、第1実クランク角度進行時間の算出に外乱などが影響して、第1実クランク角度進行時間とそれに対応する判定用クランク角度進行時間との偏差が燃料の性状を正確に反映していなかったとしても、次の第2実クランク角度進行時間の算出に外乱などの影響がなく、第2実クランク角度進行時間とそれに対応する判定用クランク角度進行時間との偏差が燃料の性状を正確に反映していれば、上記積算値に与える影響は小さい。従って、点火時期が燃料の性状に応じて最適な点火時期に設定されることになる。
そして、本実施形態によれば、次に、第1実クランク角度進行時間とそれに対応する判定用クランク角度進行時間との偏差と第2実クランク角度進行時間とそれに対応する判定用クランク角度進行時間との偏差と第3実クランク角度進行時間とそれに対応する判定用クランク角度進行時間との偏差とが積算され、この積算値に応じた分だけ点火時期が基準点火時期から遅角される。換言すると、第1実クランク角度進行時間と第2実クランク角度進行時間と第3実クランク角度進行時間とを積算した値とそれに対応する判定用クランク角度進行時間の積算値との偏差に応じた分だけ点火時期が基準点火時期から遅角される。これによれば、例えば、第1実クランク角度進行時間の算出に外乱などの影響があってとしても、その影響が上記積算値に与える影響はさらに小さい。従って、燃料の性状に応じてより正確に最適な点火時期が設定されることになる。
また、実クランク角度進行時間とそれに対応する判定用クランク角度進行時間との偏差は、最も重質な燃料に対する実際に使用されている燃料の性状の差に一対一で対応するものであるから、本実施形態によれば、最も重質な燃料に対する実際に使用されている燃料の性状の差がきめ細かく点火時期の制御に反映されることになる。
なお、上述した実施形態では、基準点火時期や判定用クランク角度進行時間として、最も重質な燃料が使用されたときのものを採用しているが、所定の性状の燃料が使用されたときのものを採用してもよい。この場合において、最も重質な燃料よりも軽質な燃料が使用されたときのものを判定用クランク角度進行時間として採用した場合、実クランク角度進行時間が判定用クランク角度進行時間よりも長くなることがあり得る。この場合には、実クランク角度進行時間と判定用クランク角度進行時間との偏差に応じた分だけ点火時期を基準点火時期よりも進角する。
また、上述した実施形態では、最初に実クランク角度進行時間を算出したときに、該実クランク角度進行時間とそれに対応した判定用クランク角度進行時間との偏差を点火時期の遅角に反映させているが、最初に実クランク角度進行時間を算出したときではなく、所定の回数だけ実クランク角度進行時間を算出したときに始めて該実クランク角度進行時間とそれに対応した判定用クランク角度進行時間との偏差を点火時期の遅角に反映させてもよい。
また、上述した実施形態では、最も重質な燃料が使用されたときにノッキングが発生したりしない範囲で最も進角側にある点火時期を基準点火時期としており、これによれば、最も重質な燃料が使用されたときに最も少ない量の燃料で要求トルクを達成することができる。しかしながら、要求トルクを達成するために必要な燃料の量は若干多くなるが、最も重質な燃料が使用されたときにノッキングが発生しない範囲で最も進角側にある点火時期よりも若干遅角側にある点火時期を基準点火時期としてもよい。この実施形態は、実際に使用された燃料が最も重質な燃料であろうと考えていた燃料よりも重質な燃料であった場合に有利である。
また、上述した実施形態は、4気筒内燃機関に本発明を適用したものであるが、本発明は、それ以外の複数の気筒を有する内燃機関にも適用可能である。また、上述した実施形態は、吸気ポートに燃料を噴射するように燃料噴射弁が設けられた内燃機関に本発明を適用したものであるが、本発明は、燃焼室に燃料を直接噴射するように燃料噴射弁が設けられた内燃機関にも適用可能である。
次に、上述した実施形態の点火時期制御の具体的な例を説明する。本実施形態の内燃機関では、各気筒において、吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程の4つの行程を行うサイクルを1つの機関サイクルとして、この機関サイクルが繰り返し実行される。そして、一列に並んだ4つの気筒を一方の側からそれぞれ第1気筒、第2気筒、第3気筒、第4気筒と称したとき、各気筒の機関サイクルは、第1気筒、第3気筒、第4気筒、第2気筒の順でクランク角度180°ずつずれて開始される。また、1つの機関サイクルは、クランク角度720°で完了する。
ここで、例えば、回転数過渡期間中、全気筒のうち最初に混合気が燃焼した気筒が第1気筒であった場合、第1気筒(最初に混合気が燃焼した気筒)の最初の燃焼時における圧縮上死点を基準クランク角度とし、第1気筒の圧縮行程の直後に行われる第3気筒の圧縮行程における圧縮上死点を第1判定用クランク角度とし、クランク角度が基準クランク角度から第1判定用クランク角度まで進むのに実際にかかった時間を第1実クランク角度進行時間として算出する。
さらに、第3気筒の圧縮行程の直後に行われる第4気筒の圧縮行程における圧縮上死点を第2判定用クランク角度とし、クランク角度が第1判定用クランク角度から第2判定用クランク角度まで進むのに実際にかかった時間を第2実クランク角度進行時間として算出する。さらに、第4気筒の圧縮行程の直後に行われる第2気筒の圧縮行程における圧縮上死点を第3判定用クランク角度とし、クランク角度が第2判定用クランク角度から第3判定用クランク角度まで進むのに実際にかかった時間を第3実クランク角度進行時間として算出する。さらに、第2気筒の圧縮行程の直後に行われる第1気筒の圧縮行程における圧縮上死点を第4判定用クランク角度とし、クランク角度が第3判定用クランク角度から第4判定用クランク角度まで進むのに実際にかかった時間を第4実クランク角度進行時間として算出する。そして、同様に、第5実クランク角度進行時間を算出する。
そして、最も重質な燃料が使用されたときのクランク角度進行時間をそれぞれ判定用クランク角度進行時間として予め実験などによって求めておく。さらに、最も重質な燃料が使用されたときに目標燃料噴射量の燃料を燃料噴射弁から噴射させた場合に要求トルクを達成することができる点火時期を基準点火時期として予め実験などによって求めておく。そして、実クランク角度進行時間とそれに対応する判定用クランク角度進行時間との偏差を積算した値を比較し、全体的に実クランク角度進行時間がそれに対応する判定用クランク角度進行時間よりも短いときには、この積算値に応じた分だけ点火時期を基準点火時期から遅角する。一方、全体的に実クランク角度進行時間がそれに対応する判定用クランク角度進行時間よりも長いときには、この積算値に応じた分だけ点火時期を基準点火時期から進角する。もちろん、実クランク角度進行時間とそれに対応する判定用クランク角度進行時間との偏差を積算した値がゼロに等しい(或いは、略等しい)ときには、点火時期を基準点火時期とする。
なお、上述した具体的な例では、基準クランク角度を回転数過渡期間中に最初に混合気が燃焼した機関サイクル中のクランク角度としているが、最初に混合気が燃焼する前のクランク角度を基準クランク角度としてもよい。
次に、図3を参照してこの点火時期制御について説明する。図3において、0は基準クランク角度を示し、CA1〜CA5は第1判定用クランク角度〜第5判定用クランク角度を示している。また、時間TX1〜TX5は、それぞれ、最も重質な燃料が使用されたときにクランク角度が基準クランク角度0から第1判定用クランク角度CA1まで進むのにかかる時間(以下「第1判定用クランク角度進行時間」という)、第1判定用クランク角度CA1から第2判定用クランク角度CA2まで進むのにかかる時間(以下「第2判定用クランク角度進行時間」という)、第2判定用クランク角度CA2から第3判定用クランク角度CA3まで進むのにかかる時間(以下「第3判定用クランク角度進行時間」という)、・・・(以下同様)を示している。
一方、図3において、TY1〜TY5は、それぞれ、クランク角度が基準クランク角度0から第1判定用クランク角度CA1まで進むのに実際にかかった時間(以下「第1実クランク角度進行時間」という)、クランク角度が第1判定用クランク角度CA1から第2判定用クランク角度CA2まで進むのに実際にかかった時間(以下「第2実クランク角度進行時間」という)、クランク角度が第2判定用クランク角度CA2から第3判定用クランク角度CA3まで進むのにかかった時間(以下「第3実クランク角度進行時間」という)、・・・(以下同様)を示している。
本実施形態によれば、第1実クランク角度進行時間TY1が算出されると、これと第1判定用クランク角度進行時間TX1との偏差(TX1−TY1)が第1偏差D1として算出される。ここで、図3に示されているように、時間TY1が時間TX1よりも短く(すなわち第1偏差D1が正であり)、これら時間の間の偏差D1がゼロでないときには、この偏差D1に応じた分だけ点火時期が基準点火時期から遅角される。さらに、第2実クランク角度進行時間TY2が算出されると、これと第2判定用クランク角度進行時間TX2との偏差(TX2−TY2)が第2偏差D2として算出されると共に、第1偏差D1と第2偏差D2とを積算して第2積算値I2が算出される(なお、第1積算値I1は第1偏差D1に等しい)。ここで、図3に示されているように、時間積算値(TY1+TY2)が時間積算値(TX1+TX2)よりも小さく(すなわち第2積算値I2が正であり)、第2積算値I2がゼロでないときには、この第2積算値I2に応じた分だけ点火時期が基準点火時期から遅角される。
さらに、第3実クランク角度進行時間TY3が算出されると、これと第3判定用クランク角度進行時間TX3との偏差が第3偏差D3として算出されると共に、第2積算値I2と第3偏差D3とを積算して第3積算値I3が算出される。ここで、図3に示されているように、時間積算値(TY1+TY2+TY3)が時間積算値(TX1+TX2+TX3)よりも小さく(すなわち第3積算値I3が正であり)、第3積算値I3がゼロでないときには、この第3積算値I3に応じた分だけ点火時期が基準点火時期から遅角される。さらに、第4実クランク角度進行時間TY4が算出されると、これと第4判定用クランク角度進行時間TX4との偏差が第4偏差D4として算出されると共に、第3積算値I3と第4偏差D4とを積算して第4積算値I4が算出される。ここで、図3に示されているように、時間積算値(TY1+TY2+TY3+TY4)が時間積算値(TX1+TX2+TX3+TX4)よりも小さく(すなわち第4積算値I4が正であり)、第4積算値I4がゼロでないときには、この第4積算値I4に応じた分だけ点火時期が基準点火時期から遅角される。
さらに、第5実クランク角度進行時間TY5が算出されると、これと第5判定用クランク角度進行時間TX5との偏差が第5偏差D5として算出されると共に、第4積算値I4と第5偏差D5とを積算して第5積算値I5が算出される。ここで、図3に示されているように、時間積算値(TY1+TY2+TY3+TY4+TY5)が時間積算値(TX1+TX2+TX3+TX4+TX5)よりも小さく(すなわち第5積算値I5が正であり)、第5積算値I5がゼロでないときには、この第5積算値I5に応じた分だけ点火時期が基準点火時期から遅角される。
ここで、図3に示した例では、積算値は、第1積算値I1から順に第5積算値I5へと大きくなっているので、点火時期は、第1積算値I1に応じた分だけ基準点火時期から遅角された場合よりも、第2積算値I2に応じた分だけ基準点火時期から遅角された場合のほうが大きく遅角され、それよりも、第3積算値I3に応じた分だけ基準点火時期から遅角された場合のほうが大きく遅角され、それよりも、第4積算値I4に応じた分だけ基準点火時期から遅角された場合のほうが大きく遅角され、それよりも、第5積算値I5に応じた分だけ基準点火時期から遅角された場合のほうが大きく遅角されることになる。
本実施形態の点火時期制御によれば、使用燃料が重質であるほど点火時期が進角側に設定されることから、燃焼が安定することになる。また、使用燃料が重質であるほど点火時期が進角側に設定されると、燃焼効率が高くなる。このため、燃料噴射量が同じであれば、燃焼効率が高くなる分、出力トルクが増大するので、内燃機関の始動後、早期に内燃機関の駆動を安定させることができる。一方、燃焼効率が高くなる分、燃料噴射量を少なくしても要求トルクを達成することができるので、燃料噴射量を少なくした場合には、要求トルクを達成することができると共に、燃費を向上させることができる。
また、一般に、使用燃料が軽質であるほど、燃焼効率が高く、少ない燃料で要求トルクを達成することができる。云い換えれば、使用燃料が軽質であるときに、使用燃料が最も重質であるときに要求トルクを達成する量の燃料を燃料噴射弁から噴射すると、要求トルクを上回るトルクが発生してしまう。
しかしながら、本実施形態の点火時期制御によれば、使用燃料が軽質であるほど点火時期が遅角されることから、内燃機関を駆動するトルクとなるエネルギが少なくなる。従って、点火時期の遅角量を適切な量とすれば、要求トルクを達成することができる。
さらに、使用燃料が軽質であるほど点火時期が遅角されると、内燃機関を駆動するトルクとならないエネルギが熱エネルギになることから、排気ガスの温度が上昇することになる。従って、図1に示したように、排気管に三元触媒20などの排気浄化触媒が配置されている場合、この排気浄化触媒の温度を活性温度まで素早く上昇させることができる。従って、排気エミッションを低減することができる。
また、本実施形態の点火時期制御によれば、使用燃料が軽質であれば、各気筒毎に点火時期が順次遅角されてゆく。すなわち、各気筒において要求トルクの達成や排気エミッションの低減に関して適切な点火時期が設定される。従って、各気筒に対する燃料噴射量が同一であっても、要求トルクを達成することができると共に、排気エミッションを低減させることができる。
なお、点火時期が進角されると、燃焼室5内でノッキングが発生することがあるので、ノッキングが発生する点火時期またはノッキングが発生する可能性のある点火時期を、基準点火時期を進角する場合の限界としてもよい。また、点火時期があまりに遅角されると、内燃機関を駆動するトルクに消費されないエネルギの量が多くなるので、エネルギの全てが内燃機関を駆動するトルクに消費されない点火時期を、基準点火時期を遅角する場合の限界としてもよい。
ところで、実際の機関運転時においては、出力トルクが変動してしまう要因は上述したような重質と軽質との燃料性状の相違だけではなく他にも様々なものがあり、例えばプラグのくすぶり、燃焼のプラグへの付着、混合気の形成不良、ピストンリングの劣化等、燃焼室5内等で異常状態が発生することが挙げられる。
このような異常状態が発生した場合には、要求トルクに対して出力トルクが大きく変動してしまい、機関回転数が辿る軌跡が上記所定の軌跡から大きく外れてしまう。特に、このような異常状態によるトルク変動が内燃機関の始動後数爆発目に初めて生じるような場合、実クランク角度進行時間とこれに対応する判定用クランク角度進行時間との間の偏差は急激に大きくなることになるが、実クランク角度進行時間と判定用クランク角度進行時間との偏差の積算値はそこまで急激に大きな値にならない。
従って、実クランク角度進行時間と判定用クランク角度進行時間との偏差の積算値に基づいて点火時期を制御していると、上述したような異常状態が発生した場合には、それに伴うトルク変動に迅速に対応することができず、その結果、回転数過渡期間中における内燃機関の運転が不安定なものになってしまう虞がある。
そこで、本発明の実施形態では、回転数過渡期間中において原則的には上述したように点火時期を制御すると共に、異常状態が発生した場合には実クランク角度進行時間と判定用クランク角度進行時間との偏差の積算値に基づいて点火時期を制御するだけでなく、偏差自体又はその微分値に基づいて点火時期を制御することとしている。以下、異常状態が発生した場合の点火時期の制御について説明する。
上述したように異常状態が発生すると、実クランク角度進行時間とこれに対応する判定用クランク角度進行時間との間に大きな偏差が生じる。従って、この偏差が後述する限界偏差よりも大きい場合には、内燃機関に異常状態が発生しているとして、上述した点火時期の制御に加えて、実クランク角度進行時間と判定用クランク角度進行時間との偏差又はその微分値に基づく点火時期の制御を実行する。
例えば、図4に示したように、実際のクランク角度が第2判定用クランク角度から第3判定用クランク角度まで進む間に上述したような異常事態により出力トルクの変動が生じた場合、第3判定用クランク角度進行時間TX3と第3実クランク角度進行時間TY3との間の偏差D3(=TX3−TY3)の絶対値は大きくなっており、限界偏差よりも大きくなっている。このとき上述した点火時期の制御では、第2積算値I2と第3偏差D3とを積算して第3積算値I3を算出すると共に、図4に示した例では全体的に判定用クランク角度進行時間よりも実クランク角度進行時間の方が長いことからこの第3積算値I3に応じた分だけ点火時期が基準点火時期から進角される。
これに加えて、本実施形態では、第3判定用クランク角度進行時間TX3と第3実クランク角度進行時間TY3との間の第3偏差D3が大きい場合には、この偏差D3に応じた分だけ点火時期を基準点火時期から進角又は遅角される。特に、図4に示した例では、第3判定用クランク角度進行時間TX3よりも第3実クランク角度進行時間TY3の方が長いことから、第3偏差D3に応じた分だけ点火時期が基準点火時期から進角される。
その後、図4に示した例では、実際のクランク角度が第3判定用クランク角度から第4判定用クランク角度まで進む間には上述したような異常事態は発生しておらず、よって第4判定用クランク角度進行時間TX4と第3実クランク角度進行時間TY4との間の第4偏差D4(=TX4−TY4)の絶対値は大きくなく、限界偏差よりも小さくなっている。このため、このとき点火時期の制御は偏差の積算値のみに応じて行われる。すなわち、第3積算値I3と第4偏差D4とを積算して第4積算値I4を算出すると共に、図4に示した例では全体的に判定用クランク角度進行時間よりも実クランク角度進行時間の方が長いことからこの第4積算値I4に応じた分だけ点火時期が基準点火時期から進角される。
なお、図4において実線で表された点火時期の進角量は偏差の積算値に加えて偏差自体に応じて点火時期を制御した場合を示しており、一方破線で表された点火時期の進角量は偏差の積算値のみに応じて点火時期を制御した場合を示している。
このように本実施形態によれば、判定用クランク角度進行時間と実クランク角度進行時間との間の偏差自体に応じて点火時期が進角又は遅角される。上述したように異常事態が発生した場合には、判定用クランク角度進行時間と実クランク角度進行時間との間の偏差が急激に大きくなるため、この偏差に基づいて直接的に点火時期を制御することにより出力トルクを迅速に要求トルクに合わせることができると共に機関回転数が辿る軌跡を迅速に所望の軌跡に合わせることができる。
なお、上述した限界偏差は、内燃機関が不安定にならない範囲内における実クランク角度進行時間とこれに対応する判定用クランク角度進行時間との間の偏差の限界値である。この限界偏差は、予め実験等により算出されて、ECU31のROM34等に保存される。限界偏差は、一定の値であってもよいし、判定用クランク角度毎に異なる値であってもよい。判定用クランク角度毎に異なる値とする場合、一般にクランク角度進行時間は内燃機関が始動してからのクランク角度が大きくなるにつれて短くなるため、同様に、限界偏差も内燃機関が始動してからのクランク角度が大きくなるにつれて小さくされるのが好ましい。
なお、上記実施形態では、実クランク角度進行時間とこれに対応する判定用クランク角度進行時間との間の偏差が限界偏差より大きくなった場合には、偏差の積算値に加えて偏差自体に応じて点火時期を制御することとしているが、斯かる場合には偏差の積算値に無関係に偏差自体のみに応じて点火時期を制御するようにしてもよい。
また、上記実施形態では、実クランク角度進行時間とこれに対応する判定用クランク角度進行時間との間の偏差が限界偏差より大きくなった場合には、偏差の積算値に加えて偏差に応じて点火時期を制御することとしているが、偏差の積算値に加えて偏差の微分値に応じて、又は偏差の積算値とは無関係に偏差の微分値のみに応じて点火時期を制御するようにしてもよい。なお、偏差の微分値とは、例えば、第1偏差D1と第2偏差D2との間の偏差、第2偏差D2と第3偏差D3との間の偏差等を意味する。このように、偏差の微分値に応じて点火時期を制御することにより、異常状態に対する応答性をより高めることができる。
さらに、上記実施形態では、実クランク角度進行時間とこれに対応する判定用クランク角度進行時間との間の偏差が限界偏差より大きくなった場合に、点火時期の制御方法を変更することとしているが、実クランク角度進行時間とこれに対応する判定用クランク角度進行時間との間の偏差の微分値が限界微分値より大きくなった場合に点火時期の制御方法を変更するようにしてもよい。
図5は、上述した実施形態の点火時期制御を実行するフローチャートの一例を示している。図5のルーチンでは、始めに、ステップS10において、最初に混合気が燃焼してから実行された混合気への点火回数Nsaが所定回数Nsath以下である(Nsa≦Nsath)か否かが判別される。ここで、Nsa>Nsathであると判別されたときには、ルーチンは、そのまま終了する。一方、Nsa≦Nsathであると判別されたときには、ルーチンは、ステップS11に進み、クランク角度がi−1番目の判定用クランク角度からi番目の判定用クランク角度まで進むのにかかった時間(第i実クランク角度進行時間TY(i))とそれに対応する判定用クランク角度進行時間TX(i)との偏差D(i)が算出される(D(i)=TX(i)−TY(i))。
次いで、ステップS12において、前回のルーチンで算出された第i−1積算値I(i−1)にステップS11で算出された第i偏差D(i)が加算されて第i積算値I(i)が算出され、ルーチンはステップS13へと進む。
ステップS13では、ステップS11で算出された第i偏差D(i)の絶対値が限界偏差Dth以下であるか否かが判別される。ステップS13において、第i偏差D(i)の絶対値が限界偏差Dth以下であると判別された場合(|D(i)|≦Dth)、すなわち内燃機関に異常状態が発生していないと判別された場合にはステップS14へと進む。ステップS14では、ステップS12で算出された第i積算値I(i)に基づいて下記式(1)によって点火時期補正量ΔSAが算出される。
ΔSA=ki・I(i) …(1)
なお、式(1)においてkiは係数であり、この係数は予め定められた一定の値であってもよいし、種々の条件、例えば内燃機関が始動されてからのクランク角度や気筒内の温度等に応じて変化する値であってもよい。その後、ルーチンはステップS16へと進む。
一方、ステップS13において、第i偏差D(i)の絶対値が限界偏差Dthよりも大きいと判別された場合(|D(i)|>Dth)、すなわち内燃機関に異常状態が発生していると判別された場合にはステップS15へと進む。ステップS15では、ステップS11で算出された第i偏差D(i)及びステップS12で算出された第i積算値I(i)に基づいて下記式(2)によって点火時期補正量ΔSAが算出される。
ΔSA=kp・D(i)+ki・I(i) …(2)
なお、式(2)においてkp及びkiは係数であり、この係数は予め定められた一定の値であってもよいし、種々の条件、例えば内燃機関が始動されてからのクランク角度や気筒内の温度等に応じて変化する値であってもよい。その後、ルーチンはステップS16へと進む。
ステップS16では、ステップS14又はステップS15で算出された点火時期補正量ΔSAに基づいて点火時期TSAが算出される。すなわち、点火時期TSAは基準点火時期TSAbaseに点火時期補正量ΔSAを加算することによって算出される(TSA=TSAbase+ΔSA)。次いで、ステップ17において、ステップ16で算出された点火時期TSAがノッキングが発生する点火時期よりも遅角側にあって且つエネルギの全てが内燃機関を駆動するトルクに消費されない点火時期よりも進角側にあるように、この点火時期TSAがガードされる。
そして、今回のルーチンによって算出された点火時期は、混合気を最初に燃焼させた点火を1回目の点火として5回目の点火に反映される。そして、図5のルーチンは、ステップS10において、Nsa>Nsathであると判別されない限り、点火時期を算出し続ける。
なお、上述した実施形態では、クランク角度が所定のクランク角度だけ進むのにかかる時間をパラメータとして採用しているが、機関回転数やクランクシャフトの角加速度をパラメータとして採用してもよい。ここで、機関回転数をパラメータとして採用する場合には、例えば、最も重質な燃料が使用されたときの基準クランク角度での機関回転数及び所定のクランク角度での機関回転数とを判定用回転数として予め実験などによって求めておき、回転数過渡期間中に基準クランク角度での機関回転数及び所定のクランク角度での機関回転数の積算値が判定用回転数の積算値よりも大きいときには、これら積算値の偏差に応じた分だけ点火時期が基準点火時期よりも遅角される。もちろん、上記機関回転数の積算値が判定用回転数の積算値に等しい(或いは、略等しい)ときには、点火時期が基準点火時期とされる。
また、クランクシャフトの角加速度を燃料性状判定パラメータとして採用する場合には、例えば、最も重質な燃料が使用されたときの基準クランク角度での角加速度及び所定のクランク角度での角加速度を判定用角速度として予め実験などによって求めておき、回転数過渡期間中に基準クランク角度での角加速度及び所定のクランク角度での角速度の積算値が判定用角速度の積算値よりも大きいときには、これら積算値の偏差に応じた分だけ点火時期が基準点火時期よりも遅角される。もちろん、上記角速度の積算値が判定用角速度の積算値に等しい(或いは、略等しい)ときには、点火時期が基準点火時期とされる。
また、上述した実施形態では、基準クランク角度や第1クランク角度を各気筒における圧縮行程の圧縮上死点としているが、各気筒において対応するクランク角度であれば、例えば、膨張下死点や排気上死点などのクランク角度でもよい。すなわち、上述した実施形態は、基準クランク角度や第1クランク角度を各気筒において対応する所定のクランク角度に設定したものであると言える。
また、上述した実施形態では、点火時期を制御しているが、これに代えて、燃料噴射量を制御するようにしてもよいし、点火時期と燃料噴射量とを制御するようにしてもよい。燃料噴射量を制御する場合には、例えば、実クランク角度進行時間が判定用クランク角度進行時間よりも短いときには、これら時間の偏差に応じた分だけ燃料噴射量を少なくし、実クランク角度進行時間が判定用クランク角度進行時間よりも長いときには、これら時間の偏差に応じた分だけ燃料噴射量を多くする。また、点火時期と燃料噴射量とを制御する場合には、例えば、実クランク角度進行時間が判定用クランク角度進行時間よりも短いときには、これら時間の偏差に応じた分だけ点火時期を遅角すると共に燃料噴射量を少なくし、実クランク角度進行時間が判定用クランク角度進行時間よりも長いときには、これら時間の偏差に応じた分だけ点火時期を進角すると共に燃料噴射量を多くする。
次に、本発明の第二実施形態の始動制御装置について説明する。第二実施形態の始動制御装置は基本的に第一実施形態の始動制御装置と同様な装置である。
上述した第一実施形態の始動制御装置では、実クランク角度進行時間とこれに対応する判定用クランク角度進行時間との間の偏差が限界偏差よりも大きいか否かで、偏差自体に応じた点火時期制御を実行するか否かが決められる。ところが、実クランク角度進行時間とこれに対応する判定用クランク角度進行時間との間の偏差が限界偏差近傍で変動すると、上記偏差自体に応じた点火時期制御の実行開始と停止とを繰り返すことになり、内燃機関の運転が不安定になる虞がある。
そこで、本発明の第二実施形態では、図6に示したような関数を用いることとしている。図6に示した関数は、実クランク角度進行時間とこれに対応する判定用クランク角度進行時間との間の偏差と反映率Rとの間に用いられる。この関数では、実クランク角度進行時間とこれに対応する判定用クランク角度進行時間との間の偏差が限界偏差Dthよりも或る程度小さいときには反映率Rが0近傍の値をとり、限界偏差Dthよりも或る程度大きいときには反映率Rが1近傍の値をとり、限界偏差Dth付近にあるときには反映率Rが0と1との間で緩やかに変化する。特に、図6に示した関数はシグモイド関数であるが、上述したような傾向となる関数であれば如何なる関数を用いても良い。
そして、本実施形態では、実クランク角度進行時間とこれに対応する判定用クランク角度進行時間との間の偏差が限界偏差Dthよりも大きいか否かに無関係に、この偏差の積算値に加えて、この偏差自体に図6に示した関数に基づいて算出された反映率Rを乗算したものに基づいて点火時期を進角又は遅角することとしている。従って、実クランク角度進行時間とこれに対応する判定用クランク角度進行時間との間の偏差が限界偏差Dthよりも或る程度小さいときには点火時期はこの偏差に基づいては制御されず、逆に、限界偏差Dthよりも或る程度大きいときには点火時期はこの偏差に基づいて制御されることになる。そして、実クランク角度進行時間とこれに対応する判定用クランク角度進行時間との間の偏差が限界偏差Dth付近にあるときには所定の反映率Rでこの偏差に基づいて制御されることになる。
本実施形態では、点火時期をこのように制御することによって、上記偏差に応じた点火時期制御の実行開始と停止とが頻繁に繰り返されることが防止され、よって内燃機関の運転が不安定になるのが抑制される。
図7は、上述した第二実施形態の点火時期制御を実行するフローチャートの一例を示している。ステップS20〜S22及びS25、26はそれぞれ図5のステップS10〜S12及びS16、17と同様であるため説明を省略する。
ステップS23では、ステップS21で算出された第i偏差D(i)に基づいて図6に示した関数を用いて反映率Rが算出される。次いで、ステップS24では、ステップS21で算出された第i偏差D(i)、ステップS22で算出された第i積算値I(i)及びステップS23で算出された反映率Rに基づいて下記式(2)によって点火時期補正量ΔSAが算出される。
ΔSA=kp・D(i)+R・ki・I(i) …(3)
なお、上記実施形態では、シグモイド関数を用いており、このシグモイド関数は0又は1に漸近していくが、最終的に0又は1にはならない。そこで、反映率Rが0に近い値(例えば0.1)以下である場合には反映率を0に、反映率Rが1に近い値(例えば0.9)以上である場合には反映率を1にするようにしてもよい。