特許文献1記載の発明は、研磨パッドを独立して変位させることにより、研磨パッドの接触圧の上昇を抑えているが、原理的にウェーハ自体が沈み込んで撓む現象は依然として残る。そのため、ウェーハの中立面が変形し、ウェーハエッジの接触圧が高まるほか、エッジより内側の部分の圧力が変化する。付与する研磨荷重によってウェーハの中立面が撓む構成の場合、ウェーハ荷重によってもエッジにかかる接触圧が変化して、ウェーハ面内で均一な圧力を与えることはできない。特に、大口径のウェーハではウェーハの反りが問題となり、反りをもつウェーハが撓む状態で研磨されると、エッジにかかる接触圧は特に変化が相乗されて、ウェーハ面内で均一な圧力が与えられない。
また、研磨パッドの表面に設けられた多数の孔は、研磨時に研磨パッド上に供給される研磨剤を保持するためのものであるが、この孔に研磨屑が入り込んだ場合はリンスなどで除去することは非常に困難である。例えば、1つの孔から研磨屑が出たとしても、すぐに他の孔に研磨屑が入り込むため、研磨パッド上の研磨屑をきれいに洗い流すことができない。したがって、研磨パッドの表面にあまり多数の孔を設けると、研磨パッド上の研磨屑が残存することになり、研磨屑が研磨パッド上に長く残された場合は、それが塊となってスクラッチを発生させる原因となる。
特許文献2記載の発明も、弾性体シートに設けられた多数の突起部で局部的な加圧を分散させるようにしているが、表層の研磨パッドの撓み剛性が弱い場合、弾性体シートの影響により研磨パッドが沈み込み、平坦化特性が悪化する。したがって、ウェーハ自体が沈み込んで中立面が撓むと、特許文献1と同様に、エッジにかかる接触圧が変化して、ウェーハ面内で均一な圧力が与えられない。
このほかにも、従来は下記のような問題点があった。まず、プラテンシートを両面テープで貼り付ける構成にすると、プラテンシートを取り換える際、シートの取付誤差によって、研磨パッドがウェーハに与える圧力分布が変化することがある。プラテンシートが弾性体である場合、プラテンに取り付ける際に作業者の熟練度によって取付状態に差が生じ、安定した圧力分布を形成できないおそれがある。
また、研磨パッドが完全にフラットであり、かつウェーハも完全にフラットである場合は、圧力が均等にかからない。これは平面対平面が接触する場合、原理的には圧力が均等にかからずエッジに集中する性質があり、平面内で圧力を均一にするには多少のラウンド形状にする必要がある。
プラテンに貼り付けるシートが、密度の高い弾性体であった場合、一部のエリアで弾性体が凹むと、体積が一定であるためにポアソン比の影響で別のエリアでは弾性体が凸になる。この結果、ウェーハ面内で圧力分布がばらつくことになり、ウェーハ面内で均一な圧力が与えられない。
2層に形成された研磨パッドの表層の撓み剛性が乾燥状態で強いとしても、スラリが浸透することによって撓み剛性が低下し、その結果、平坦化特性が悪化することもあった。また、研磨パッドをドレッシングすると、表層の厚みが変化して撓み剛性に関する指数(ヤング率×断面二次モーメント)が初期の状態から変化する。断面が長方形の場合、断面二次モーメントは高さ(厚み)の3乗に比例するため、ドレッシングによる厚みの変化は極めて大きい。
特許文献3記載の発明では、表面に硬質なパッドを使用し、そのパッドと研磨定盤の間に弾性体を介在させ、ウェーハ表面に形成された凹凸については、平坦化を行い、ウェーハ全面のうねりに対しては、表面の硬質パッドが弾性体の上で上下することによって、表面に追従して均一に研磨する方法を示している。
しかし、例えば、初期の膜厚がマクロに見た場合に、同心円状に凸状ないしは、凹状に形成されており、それを補正して研磨後のマクロに見た膜厚分布が均一になるように、ウェーハ中心と外周との研磨量を故意に変化させて、修正するような研磨方法は開示していない。
また、そうしたウェーハ全面での研磨形状を修正する目的での研磨装置構成とはなっていない。さらに、研磨工程の前工程におけるウェーハ膜付け工程において、初期の膜厚分布が均一ではなく、さらにその膜厚分布が幾通りかパターンがある場合に、その膜厚分布のパターンに応じて、適正に研磨形状を制御することはできない。
また、表面に硬質パッドを使用した場合、硬質パッド表面はスラリを保持して研磨に寄与する必要がある。しかし、硬質パッドがスラリを保持するとは、それはすなわち、スラリによってパッド表面が膨潤することを示す。この硬質パッドの膨潤により、表層パッドの撓み剛性は大きく低下する。結果として、表層パッドの撓み特性が変化して、安定した平坦化特性を達成できない問題がある。さらに、パッドをドレッシングして使用する場合では、パッドの厚みが減少して撓み変形に対する剛性が変化し、一定の平坦化特性を達成できない問題がある。
さらに、特許文献3においては、硬質な部分を、下の軟質部材で支えた形を取っている。また、別の実施例では、硬質なパッドに溝を入れて、それぞれの硬質部材がキャタピラー状に変形可能なようにしている。このような形態であれば、例えば、区分化された硬質な部分が軟質部材で支えられている場合、研磨のせん断応力によって下の軟質部材が横方向に変形し、パッド表面の硬質部材部分が、研磨をしていない場合に横倒れした形態になる。
その結果、安定した圧力分布を与えることは難しくなる。また、下の軟質部材に研磨の押圧力とせん断応力が同時に働くため、硬質部分を上に配した軟質部材を使用する場合、硬質部分と軟質部分の間にねじりの応力がはたらき、その界面部分か、軟質部材の部分から破断する場合が懸念される。
また、別の実施例では、硬質部分のパッド部分に溝を入れて溝の部分が支点となって、パッドが曲がるようになっている。しかし、このような構成においても、研磨による圧縮とせん断応力が働く状態においては、先に述べたパッドに対するねじりの応力は、分厚い硬質部分に作用せず、溝で薄くなっている部分に対して、集中的にねじりの応力が作用することになる。
その結果、この薄くなった溝の部分は、繰り返し引っ張りと撓みの応力を受けるフレッチング現象を起こして、その下の弾性体の部分からずれて、少し浮くことなどが考えられる。その下の弾性体材料から表面の硬質パッドが浮いてくることによって、さらにねじりの応力を受けやすくなる。
ねじりの応力をうけたパッドは、自身が変形してしまうために、長期に渉って安定した圧力分布をウェーハに与えることができなくなる。
このように、パッドの撓み強度やパッドの構成が、パッド面内で連続的ではなく、区分化している構成においては、その物理的に最も弱い部分に研磨の応力が集中し、場合によっては、その位置から破断する場合がある。
さらに、表面のパッド部分に撓み剛性が強い部分と、撓み剛性が弱い部分が混在する場合、一定の撓み強度を受けると、それは撓み剛性が弱い部分に応力集中とともに、変形も起きる。その結果、撓み剛性が強い部分の平面が、必ずしも水平な平面を取ることなく、せん断応力によって、応力を受けた方向に傾き、その傾いたままの状態で研磨に寄与することになる。結果的にたわみ剛性の強い平面部分が、自身の水平姿勢を保てなくなるため、結果として、ウェーハへの圧力分布が大幅に悪化することになると予測される。
また、軟質部材上に硬質部材を配置した構成の場合、たとえばパッド交換する際に、軟質部材と硬質部材をセットで交換するようになる。たとえば、本発明のように、あらかじめ圧力分布を初期の膜厚分布に応じて、研磨後の膜厚分布を均一にするように、均一に研磨をするのではなく、恣意的に研磨形状を制御する必要がある場合においては、パッド交換ごとに圧力分布を設定するように調整する必要性が生じる。
それぞれの消耗材料のパッドに対して、微妙に圧力分布を調整した弾性体を多数準備しておくことは技術上非常に問題があり、さらにその微妙に圧力分布を調整した弾性材料を装置に取り付ける上においても、高度な技術が必要となる。例えば、単純にねじ止めすれば、ねじ部とねじのない部分とで圧力分布に影響がでることや、単純に接着剤で全面接着するとしても、貼り付け時の弾性体の延びや縮みの状態によって、あらかじめ、設定した圧力分布を必ずしも反映できない問題がある。
このように、均一にウェーハを研磨するのではなく、ウェーハの膜厚分布状態に応じて、その形状を補正するように恣意的に研磨形状を不均一にする場合など、こうした装置構成、およびパッド構成では、その目的を達成できないことは自明である。
特許文献4記載の発明では、研磨条件によってウェーハ外周部がウェーハ中心部よりも、研磨が速く進む傾向があった場合に、弾性体と研磨定盤の間に凸状体を挟み込み、ウェーハの中心部の圧力を高めて、研磨条件による研磨不均一性を補正する方法を開示している。しかし、この場合も初期の膜厚分布形状に対応して、その形状を補正する内容を開示するものではない。研磨条件によってウェーハ外周部が速く研磨されることを補正するためのものであり、研磨形状を制御するものではない。
ただし、この方法の延長線として、たとえば、研磨レシピが均一に研磨される条件であった場合に、その凸状体を利用することで研磨形状において中心付近を他より多く研磨する能力も有することは予測されることであり、これを研磨形状制御とみなすことは可能である。
しかし、特許文献4においても、様々な初期の膜厚形状によって、その都度、研磨形状を修正するという課題に対して、十分満足できるものではない。それは、研磨パッドと研磨定盤の間に凸状体と弾性体をはさんで保持する場合において、研磨定盤上に凸状体およびその上の弾性体を固定しない場合では、凸状体および弾性体がその上にある研磨パッドの中で移動してしまうため、安定して圧力分布を確保することは難しい。
また、固定しない場合では、特に弾性体においては取り付け誤差の問題もあるため、安定した圧力分布を形成ことは非常に困難である。
研磨定盤上に凸状体を固定し、その上に弾性体を固定する場合、すべてが研磨定盤と一体になるため、例えば、初期の膜厚形状によって研磨形状を修正するといった場合に研磨定盤ごと取り替える形になる。これは非常に大きな手間となる。
さらに、弾性体の下に凸状体を差し挟んだとしても、例えば密な弾性体自身では、弾性体のある部分が局所的に変形すると、弾性体は体積を一定に保とうとするため、それ以外の部分で跳ね返りが起こる。よって、全面を均一に押圧することは原理的に難しい。
また、そうしたことを防ぐために、体積が多少圧縮変化しても、跳ね返りを生じない気泡(空隙)を有するようなスポンジ材料を使用した場合、ある部分が局所的に変形しても、他の部分がそれによって影響を受けることはない。
しかし、こうした気泡を有するスポンジ材料では、繰り返し圧力がかかる研磨過程において、その空隙部分の体積が次第に変形し、結果として弾性体の使用初期の状態における圧力分布と、繰り返しその弾性体を使用した状態における圧力分布は当然変化してくる。その結果、そのスポンジ材料使用初期と使用終期の間で一定の圧力分布を得ることはできず、量産に適用可能な安定した圧力分布を形成する弾性材料としては適用困難な問題がある。
さらに、弾性体の上に研磨パッドを載せて研磨加工を行うが、例えば弾性体表面に加工処理を施していない場合、表面の研磨パッドとその下にある弾性体との界面で、研磨時に生じるせん断応力によってずれを生じることが予測される。このずれが大きくなるとパッドだけが、膨潤によって、しわが寄るようになることが起こり、これを繰り返し使用した場合、パッドがそのしわによって破断してしまう可能性が予測される。
本方法においては、研磨パッドと研磨定盤の間に、凸状体と弾性体を介在させて、研磨を行うにあたって、表層の研磨パッドは、研磨スラリを含んで研磨に寄与する。たとえば、発泡ポリウレタンなどの研磨パッドを使用する場合、研磨しない乾燥状態では非常に硬質であり、変形にしにくい。しかし、一旦スラリを含んで膨潤すると、非常に変形しやすくなる。そのため、スラリを含む状態によって、パッド表面の撓み変形は変化する。
また、研磨パッドは通常パッドドレッシングを行って、パッド表面を再生して研磨を行う。パッドドレッシングはパッド表面を削りながらパッドドレッシングを行う。そのため、パッドの厚みは、パッドの使用とともに減少していく。
例えば、初期のパッド厚みは1.27mm程度であるが、それを使用していくと0.4mm程度減ることで、0.87mmとなり、厚みが2/3程度にまで減少する。パッドの厚みが減少すると、パッドのたわみ変形に対する剛性に大きく影響する。たとえば、厚みが2/3に変化した場合、単純に部材を撓ませる上での断面二次モーメントは、厚みの3乗に比例するため、8/27となり、約3割程度にまで低下する。
その結果、ウェーハ表面の凹凸を平坦化する能力が著しく変化することから、長期にわたって安定した平坦化特性を得ることは困難である。ここで、パッドの撓み変形がウェーハ表面の凹凸の平坦化に大きく影響することは自明である。例えば、表層パッドが非常に硬質で極端に薄いパッドや厚いパッドを想定すれば、その重要性が容易に理解できる。
仮に、ステンレスのパッドで0.01mmのパッドを想定した場合、これを圧縮変形させるには、0.01mmから厚みはほとんど変形しない。しかし、非常に薄いため、いくらステンレスでできた硬質部材のパッドといえども、容易に撓ませることはできる。結果的に、ステンレスのパッドであっても下地の弾性体の硬度が支配的になり、軟質部材で加工したものと同様に、ウェーハ表面の凹凸を平坦化できるものではないことが容易に予測できる。
その反対に、ステンレス製のパッドで非常に厚い1cmのパッドを表層パッドとして想定した場合、いくら下地に弾性体があったとしても、表層パッドがほとんど撓むことがないため、ウェーハ表面のうねりに追従せず、まさに硬質パッド(ラップ盤)で研磨したものと同様に、ウェーハのマクロに見たうねりに追従することなく、そのまま平坦に加工してしまうことは容易に理解できる。よって、研磨時に表層パッドの撓み変形特性は、その下地にある弾性体の特徴を生かすためにも重要な要素であり、厳密に管理する必要がある。
こうした撓み変形特性の制御において、本特許文献4においては、その表層パッドに発泡ポリウレタンを使用している。このような発泡体の研磨パッドでは、研磨することで付随に変化する以下の二つ要素によって、その撓み変形を最適化して一定に保つことが困難であった。
・ スラリによって発泡体のパッドが膨潤し、軟化する点、
・ パッドドレッシングによってパッド厚みが減少してくる点。
さらに、本方法においては、製作上の安定性に欠くことが予測される。すなわち、凸状体を精度良く加工し、弾性体を精度良く加工したとしても、その双方を重ね合わせる際に問題を生じる。とくに凸状体と弾性体を単純に重ね置きするだけでは、その都度位置ずれなどが起こることより、安定した圧力分布形成は困難になる。部分的に固定するとして、例えば、ねじで弾性体を凸状体へ固定する場合、ねじ付近の弾性体の硬度は上昇し、結果的に圧力分布のばらつきが生じ、ねじのない部分では研磨のせん断力によって、凸状体と弾性体の間でずれが起こる。
その結果、ねじ部に集中的な応力が作用してねじ部付近での弾性体が部分的に破断するなどの問題を引き起こす。また、弾性体を研磨定盤相当の大きさの凸状板に全面接着等で貼り付ける場合においても問題は起こる。例えば、弾性体および凸状体を精度良く製作し、さらに凸状体を精度良く製作しても、双方を接着する際に接着むらが生じる。特に弾性体を貼り付ける場合、部分的に引き伸ばされた状態の部分と縮んだ状態の部分とが同一平面内に混ざって存在するようになるため、面内一様にその凸状体の厚みに応じた圧力分布にすることは困難である。
特許文献6においては、ウェーハをパッドに押圧するキャリアヘッド内に独立したチャンバを設け、そのチャンバ内の圧力を独立して制御することによって、ウェーハに与える圧力を領域ごとに独立制御して、上記課題の解決を試みている。
しかし、こうした構成の場合、ウェーハの裏面から圧力を与えて、ウェーハをパッドに押し付けているため、ウェーハの撓み剛性によって、ウェーハとパッド間の圧力分布状態が変化するため、必ずしも安定した圧力分布制御にならない問題がある。
例えば、所望の研磨形状を形成するために、ある厚みのウェーハを使用して、ウェーハ裏面側に存在するチャンバに圧力を与えて、その上の可撓性膜を変形し、ウェーハとパッド間の圧力分布を制御したとする。次に、別の少し厚手のウェーハを適用し、同様にチャンバに同じ圧力を与えたとする。この場合、ウェーハとパッド間の圧力分布は全く異なる。なぜならば、ウェーハの厚みによってウェーハの撓み剛性が異なるため、ウェーハを介して圧力を伝達する際、その圧力伝達はウェーハのたわみ変形に大きく依存するからである。
極端な事例では、ウェーハが仮に10mm程度の厚いウェーハであったことを想定すると、ウェーハ剛性は非常に大きくなり、たとえ、3つのチャンバの圧力を変えたところで、ウェーハとパッドの間の圧力分布は、ほとんど変化せず、一定になることが容易に予測できる。
このように、ウェーハへの理想的な圧力分布制御を想定した場合、所望の研磨形状を得るために、研磨形状に対応した理想的な圧力分布状態を設計したとしても、ウェーハを介して圧力が伝達される際、そのウェーハの撓み変形、ウェーハの反りの状態によって、所望の圧力分布は原理的に崩されてしまうため、原理的に理想的な研磨形状制御はできないことは自明である。
特許文献7においても、同様に、研磨に関連する様々な要素が一様に作用すれば原理的に均一な研磨形状になるが、その要素によっては、一様に作用しない要素が存在し、原理的に不均一になってしまう問題が存在する場合を取り上げている。
こうした問題に対して、ウェーハを押圧するトップリングを複数の領域に分けて、その領域ごとの圧力について、他の要素の不均一性を補正するように最適化することで、結果として、全体に均一な研磨形状を得るとしている。
しかし、これも先の特許文献6と同じ理由によって、原理的に理想的な圧力分布をウェーハとパッドの界面に形成することはできないため、理想的な研磨形状の制御はできないことは自明である。
特許文献8は、2層パッドを形成する上で、表層パッドがスラリ等で膨潤してしわよりを発生するため、しわよりを防止することを目的に支持層を設けている。この支持層として、シートを貼り付けた構成を開示している。しかし、このしわより防止のためのシートを、本発明の撓み変形シートとして利用したとしても以下の問題が生じる。
また、ウェーハを保持台に載せ置きするとしている。すなわち、ウェーハは保持台に吸着されること無く、普通に載せ置きされているとみなされる。そうしたウェーハが保持台に載せ置きされている場合に、まず、しわよりを防止するシートではなく、たとえ、本発明の撓み変形シートを用いたとしても、それは全く意味をなさないことになる。なぜならば、ウェーハは反りを持った状態で単純に載せ置きされている状態では、撓み変形シートで撓み変形を制御して押圧したとしても、ウェーハ自身がその保持台の上で撓むことが想定されるほか、ウェーハが反りを有する場合においては、その反りを補正する応力なども影響するからである。
本件特許では、ウェーハを裏面で吸着保持して、ウェーハの中立面を平面にするとともに、ウェーハの反りを強制することでウェーハ裏面を基準として、ウェーハ表面に、ウェーハ厚みむらや膜厚分布をすべて加えたウェーハ表面のうねり形状を定義する。
ウェーハ表面にあらかじめ形成された凹凸を平坦化する機能を有するとともに、先の状態で定義されたウェーハ表面のうねりに追従するため、パッドの撓み変形シートの撓み特性が平坦化とうねりへの追従との両立を果たすことになる。撓み変形シートは、ウェーハ裏面を基準としてウェーハ保持体と一体となった自信が撓むことの無い剛体とみなしうるウェーハに対してのみ、ウェーハ表面のうねり形状に追従するという本来の機能が発揮されるのである。
仮に、ウェーハを平面矯正しない状態であれば、ウェーハの反りを矯正できないほか、ウェーハの厚みむらや膜厚分布などが反りの影響と混乱し、ウェーハのうねり成分を定義できない。そのため、撓み変形シートが撓み特性として、ウェーハの表面の平坦化する領域では撓みを抑制し、一方でウェーハ表面のうねりに対しては、それに追従するように撓み特性を設定するとしているが、そうした設定そのものができない。場合によっては、うねりに追従させずに不均一に研磨する場合や、ウェーハ表面に形成された凹凸の平坦化を行うことができない場合なども存在する。
さらに、本発明に対して、特許文献8に示すしわより防止シートを使用しても、そのシートの撓み特性は、ウェーハ表面の平坦化とウェーハ表面のうねりに追従する目的として考慮されていないため、意味をなすものではない。すなわち、特許文献8では、ウェーハ表面の平坦化を担う部分は、表層の硬質パッドの部分である。しかし、その硬質パッドの部分は、スラリが膨潤することやドレッシングによりパッドの厚み自身が減耗することで、その撓み変形のその硬度は大きく変わり、撓み変形の度合いが大きくなる。
しわよりを防止するシートでは、そのシートの厚みがせいぜい0.05mm程度の薄手のポリエチレンシートを使用するとしている。パッドの厚みは1.3mm近くある。この程度の薄手のポリエチレンシートでは、パッドのしわよりを防止する程度においては有効であるかもしれないが、パッドの撓み変形特性を制御する上では厚みが非常に薄いため有効ではない。結果的には、表層パッドの撓み特性がそのまま影響することになり、結果的にスラリによる膨潤やドレッシングによるパッドの厚みの減耗による撓み剛性の低下の影響を大きく受けることになる。
本発明においては、撓み変形シートによって、パッドの撓み特性を制御し、パッドのスラリ膨潤による撓み特性の変化やドレッシングによるパッド減耗の影響を極力受けることなく、安定した撓み特性を得る程度の撓み変形シートを使用する。
そのため、その変形シートの厚みは、特許文献8では0.05mm程度としていたものに対して、少なくとも0.1mm以上必要とし、理想的には、パッドの厚みを考慮して0.2mm〜0.5mm程度の厚みが好適とされる。また、さらに詳細には、その撓み変形シートの厚みは、平坦化する領域においてはほとんど撓まないように設定し、うねりに追従する領域においては少ない分布荷重でも十分撓むように、部材のヤング率を考慮した厚みを設定することが望ましい。
そこで、本発明は係る事情に鑑みて、下記の課題を解決することを目的とする。
課題1:ウェーハの撓み剛性やウェーハの反りに影響されることなく、所望の研磨形状を得るための理想的な圧力分布を形成するための研磨装置を提供すること。
課題2: 研磨中の発熱によってプラテンの表面が温められ、プラテンの裏面との温度差の影響でプラテンの平面度が多少変化しても、ウェーハ面内に及ぼす圧力分布が大きく変化せず、結果としてウェーハ面内の研磨均一性が大きく悪化しないようにする。さらに、研磨中の発熱がプラテンの表面にまで伝達し難くすることにより、プラテンの表面と裏面との温度差を大きくしないようにする。
課題3:研磨パッド裏面を粘着材や両面テープなどでプラテン上に貼り付ける際に、研磨パッド面内に気泡が入ってウェーハ面内に与える圧力分布へ悪影響を及ぼすことを防止する。
課題4:ウェーハ表面のなだらかなうねりに対して、ウェーハ表面に研磨パッドを倣わせつつも、ウェーハの裏面から一様な圧力で押圧する際、ウェーハが研磨パッド上で撓むことなく、ウェーハ面内で絶えず一定の平面となる中立面を有し、安定して一様な圧力分布をウェーハ上に形成できるようにする。
課題5:プラテンシートが弾性体である場合でも、プラテンシートの取付誤差による圧力分布の変化をなくし、シートをプラテンに取り付ける際に安定した圧力分布を形成できるようにする。
課題6: 研磨パッドが完全にフラットであり、かつウェーハも完全にフラットである場合は、原理的には圧力が均等にかからないが、プラテンシートの形状によって、ウェーハ面内にかかる圧力分布が均一になるようにする。
課題7: プラテンに貼り付けるシートが、密度の高い弾性体であったとしても、押し付ける圧力によってその跳ね返りが生じないように、ウェーハ全面に均一な圧力分布を与えるようにする。
課題8: 2層に形成された研磨パッドの表層の撓み剛性が弱い場合、あるいは撓み剛性が乾燥状態で強いとしてもスラリが浸透することによって撓み剛性が低下し、その結果、平坦化特性が悪化するような場合でも、2層目を硬質にして撓み変形を抑制することにより、ある程度の平坦度を確保する。また、研磨パッドのドレッシングにより、表層の厚みが変化して撓み剛性に関する指数が初期の状態から変化するような場合であっても、安定して一様な圧力分布をウェーハ上に形成できるようにする。
課題9:初期のウェーハが様々な膜厚分布を有する場合、その膜厚分布に応じて、所望の研磨後の膜厚分布にするように、その膜厚分布を補正する上で適合する圧縮変形板を選択し、その圧力分布調整シートを適正な方法で研磨定盤上に敷設して、圧力分布を調整することをできることを有する。
課題10:さらに、繰り返し作業によって、弾性体自身は安定したウェーハ上への圧力分布形状を有し、その結果絶えず安定した、圧力分布形態を得ることができる。
本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1記載の発明は、
プラテン上に研磨パッドを取り付け、スラリを供給しながらウェーハと研磨パッドを相対的に摺接して研磨を行う研磨装置において、
ウェーハを全面で減圧して平面矯正して取り付けるウェーハ保持台と、
ウェーハと相対的に運動するプラテンと、
プラテン上に敷設され、所望の圧力分布を形成された圧縮変形板と、
その上に、撓み変形によって変位可能な撓み変形シートと、
その上にスラリを保持する機能を有する表層パッドとを有し、
ウェーハ表面を研磨するように構成されたことを特徴とする。
この構成によれば、ウェーハを全面で減圧して平面矯正して保持することによって、ウェーハの反りに関係なく、絶えずウェーハを平面矯正して加工することから、ウェーハ状態に起因しない安定した圧力分布状態を形成し、その結果安定した研磨形状を得ることが可能となる。さらに、ウェーハに研磨荷重をかけた場合においても、従来のようにウェーハが撓むことはなく、ウェーハの中立面は絶えず平面を維持する。それによって、研磨荷重によってウェーハが撓んで変形し、そのウェーハの撓み変形が研磨時のウェーハ面内の圧力分布に影響することを排除することができる。
また、プラテン上に敷設される所望の圧力分布を形成された圧縮変形板と、その上に、撓み変形によって変位可能な撓み変形シートと、その上にスラリを保持する機能を有する表層パッドを有する。
このパッド構成によれば、撓み変形によって変位可能な撓み変形シートによって、表層パッドがたとえスラリによって膨潤したとしても、表層パッドの撓みよりも、この撓み変形シートの方で撓み加減を律速することによって、パッドの消耗やスラリの膨潤によらず安定した撓み変形を確保することができ、安定した平坦化特性を得ることができる。
また、撓み変形シートを裏側で支える、あらかじめ所望の圧力分布を形成した圧縮変形板によって、ウェーハとパッドが当接した際、ウェーハ全面マクロ的にみた場合の圧力分布を制御することが可能となる。また、マクロ的にみた場合の圧力分布について、表層パッドの下にある撓み変形シートは、ウェーハのうねりに追従する程度の領域においては、ほとんど抵抗なく撓むことが可能となる。
後述するが、撓み変形に関する式によれば、撓み変形する変位量は、同じ分布荷重がかかった状態では、半径の4乗に比例することが分かる。すなわち、狭い範囲では撓み変形は非常に小さく無視されるが、少し広い範囲になると、容易に大きく撓むことを示している。この撓みの原理を利用して、ここで、平坦化を必要とする狭い領域においては撓み変形シートを撓ませず、パッドを剛体として作用させ、ウェーハ表面のうねりに追従させて均一に研磨する領域においては、容易に撓むような撓み剛性にすればよい。その領域の半径の4乗に比例して撓み量が変化するため、適正な撓み剛性の撓み変形シートを選択すれば、撓み変形をドラスティックに変化させることが可能となる。
従来問題となっていた表層パッドがスラリを含んで膨潤することにより、撓み変形の剛性が変化し、その結果ウェーハ表面の凹凸の平坦化研磨を行う研磨性能が著しく悪化するといった問題はない。
なぜならば、この撓み変形に対しては、表層パッドの下側にある撓み変形シートの撓み変形が支配的になり、表層パッドの撓み変形は、このスラリに対して膨潤することのない撓み変形シートの撓み変形によってほとんど制御されることになるからである。
さらに、パッド全面、とくに撓み変形シートは一様な厚み構成である。この撓み変形シートが一様な厚みを持つことによって、従来のパッドにあったような局所的な強度の弱い部分をもつことはない。その結果、研磨することによるせん断応力と、ウェーハを純粋に押圧する応力に複合されたねじりの応力は、一様な撓み変形シートで分散される。その結果、従来の溝や区分化された硬質部材のパッドを使用する際に予測されるフレッチング現象などは起きることはなく、撓み変形シート全体で研磨のせん断応力を受けることになる。
その結果、パッドが研磨途中で一部の強度が弱いところに応力が集中することにより、フレッチング現象がおき、その結果、その部分からパッドが破断したりすることはない。また、表面のパッドおよび撓み変形シートが、そのねじりの応力によって、弾性体から一部浮き上がるような現象が置き、その結果表層パッドがウェーハ内の一部に及ぼす圧力分布が極端に大きくなって悪化することもない。その結果、撓み変形シートが長期に渉って安定した強度を保持し、安定した圧力分布状態の下で、安定した研磨形状を得ることが可能となる。
弾性体の裏面に硬質プレートを一体に貼り付けて、所定の圧力分布が形成された圧縮変形板をプラテン上に装着し、さらに、裏面に撓み変形シートを一体に貼り付けた表層パッドを弾性体の上に装着する。すなわち、プラテンの表面には、上から順番に表層パッド、撓み変形シート、弾性体、硬質プレートが貼り付けられており、圧縮変形板は、弾性体と硬質プレートが一体となったものとしている。圧縮変形板によってプラテン表面と裏面で多少の温度勾配によって熱変形したとしても、その変形を弾性体の変形マージンによって吸収するとともに、物質の弾性変形に応じて安定した所定の圧力分布が形成される。
同様に、表層パッド、および撓み変形シートなどに厚みのばらつきがあったとしても、ウェーハ表面全体のうねりに追従するための弾性変形は、先の圧縮変形板が十分な変形マージンを有するため、多少の部材の厚みばらつきによらず安定した所定の圧力分布を形成する。その圧力分布をウェーハの撓み変形に阻害されることなく、安定してウェーハ上にそのまま圧力分布を伝達することができる。
結果として、安定した研磨形状をウェーハの撓み剛性(厚みの違うウェーハなど)や、ウェーハのそりに関係なく、安定した所望の研磨形状を得ることが可能となる。さらに、初期のウェーハの膜厚分布がたとえ不均一であったとしても、所望の研磨形状を得ることから、その初期の不均一膜厚分布を修正して、研磨後に均一な圧力分布を得ることが可能となる。
また、弾性体でプラテンを保護することにより、プラテンに打痕などがついても、圧力分布が変化しない。さらに、弾性体を硬質プレートに貼り付けて一体構成にしたので、プラテンを取り換えずとも容易に圧力分布調整が行える。
尚、ここで、ウェーハの平面矯正は特に本発明の主題とする研磨の形状を制御する場合には必須となる。ウェーハが平面矯正されていない場合、いくらパッドの下側の圧縮変形板に圧力構成をつけても意味をなさない。特に、初期ウェーハの膜厚分布が均一ではなく、その不均一な膜厚分布を補正して研磨することが必要な場合においては、それが顕著になる。
例えば、ウェーハを平板に載せ置きし、その載せ置き状態で反りがある場合、そのウェーハに一様な研磨荷重をかけたとしても、一様な研磨荷重にはならない。ウェーハの反りを補正するための偏った研磨荷重をかけてウェーハの反りを矯正して、その上で一様な研磨荷重をかけることが必要になる。
そのときの、ウェーハの反りを矯正するための偏った研磨圧力と、ウェーハの初期の膜厚分布を補正するための恣意的に不均一にかける研磨圧力とが、ほぼ同じ程度で同じ位置における偏差圧力であったとした場合、初期の膜厚分布の形状を補正するための偏った研磨圧力を与えたとしても、その偏差分の圧力状態がウェーハの反りを修正するために使用される場合だってありうる。このような状態では、初期の膜厚分布を補正することはできず、結果としては、均一な研磨を行ってしまい、結果として得たウェーハの膜厚分布が初期の膜厚分布と同様に不均一な状態で終了してしまうことになる。
よって、より初期の膜厚分布を修正するための偏差を持った圧力分布を効果的に作用させるためには、ウェーハの反りの影響を極力排除した形でウェーハを保持し、その上で、制御性のある圧力分布状態をもつ圧縮変形板によって、安定した圧力分布をウェーハに与えることが重要になる。
さらに、同時に圧力分布調整は圧縮変形板と撓み変形シートの二つが、圧縮変形と撓み変形の二つの機能を、独立して作用させることが必要となる。圧力分布により研磨形状を制御するとしても、前提として、ウェーハ平面に形成された凹凸を平坦化することが、その前提条件として求められる。そのための方法として本発明に示す方法では、部材の撓み特性を利用する。部材の撓み特性は、先にも述べたように領域の半径の4乗に比例して変位量が増大するため、領域の大小によってオンオフするような効果を出すことが可能となる。
さらに、従来の区画化した硬質部材ではなく、一様な撓み変形シートによって、その撓み量を制御しているため、研磨のせん断と押し付ける応力によって発生するねじりの応力を局所的に受けることはなく、一様な撓み変形シートによって分散してその応力をうけることになる。その結果、撓み変形シートが破断することはないほか、局部的に弾性体から浮き上がるようなことも起きず、安定した撓み変形を有した状態で、絶えず一定の圧力分布を与えることが可能となる。
請求項3記載の発明は、上記請求項1において、前記圧縮変形板は、圧縮変形するための弾性体と、その弾性体を全面で固定する硬質板を備えることを特徴とする。
この構成によれば、圧縮変形板が弾性体だけで構成される場合、プラテンに固定することが難しい。例えば、ねじ固定はできない。両面テープや接着固定では、貼り付け方によって圧力ばらつきができ、作業者がそれを容易に行うことはできない。しかし、この構成によれば、あらかじめ所定の圧力分布が形成された弾性体材料を硬質プレートに貼り付けられているため、硬質プレート面をそのまま研磨定盤に載せるだけで作業者が容易に取り付け可能となる。
さらに、取り付けの際の精度においても、プラテンと硬質プレートが十分面精度が確保されておれば、面を合わせるだけである。さらに双方が十分剛性を有するものであれば、ねじ固定などによって、十分取り付け可能である。そのねじ固定によっても、弾性材料の圧力分布が乱されることはない。
請求項4記載の発明は、上記請求項3において、前記圧縮変形板のおける表面の弾性体は、溝を有するか、区画化、区分化されていることを特徴とする。
この構成によれば、圧縮変形板として、研磨による繰り返し応力を受ける上においても、弾性体材料に圧縮永久ひずみが残らず、絶えず安定した弾性回復力を有する密な材料を選択することができる。仮に、密ではない弾性材料、たとえばスポンジのような空隙を有する弾性体の場合、繰返し応力下で弾性体そのものが変形し、安定した弾性回復力が望めず、研磨の圧力分布を繰り返し再現できるものでない。
また、上記示すような安定した弾性回復力を有する密な材料では、ある領域で局所的に弾性体が変形したとした場合、弾性体の体積自体を一定に保とうとする働きから、その近傍付近で跳ね返りの応力が発生する。これにより、研磨の圧力分布を絶えずウェーハ面に追従させることは難しい問題があった。
しかし、密な圧縮変形板の弾性体表面に溝を持たせるか、弾性体そのものを区分化して配置するかによって、個々の弾性体領域において、個別に独立して変形することが可能となる。従来のような跳ね返りの応力を生むことはなく、ウェーハ表面のうねりに対しても絶えず一様に追従することが可能となる。
その結果、安定した所定の圧力分布をウェーハ上に形成することができ、ウェーハ研磨形状を精度良く制御することが可能となる。
請求項5記載の発明は、請求項1において、前記撓み変形シートは、ウェーハ表面の凹凸を平坦化する領域において撓みを抑制し、ウェーハ表面のうねりに追従する領域において容易に撓むような範囲に撓み剛性を設定することを特徴とする。
この構成によれば、先のたわみの原理で述べたように、撓み変形による変位量は、その領域の半径の4乗に比例して増大する。
この原理を利用して、ウェーハ上に形成された凹凸を平坦化することが要求される領域においては、パッドのたわみが抑制されて、表層のパッドがあたかも、下地に弾性体が存在せず、直接硬質部材によって支えられているような挙動をとる。その結果、パッドが硬く作用して、効率的にウェーハ表面の凹凸を平坦化することは可能となる。
一方で、ウェーハ表面のうねりに追従して作用することが要求される領域においては、パッドが微小な応力で容易に撓むように構成される。これにより、パッドの撓み変形より、そのパッドの下に存在する圧縮変形板の弾性率の方が、ウェーハのうねりに追従するための上下方向の変位に対して支配的になる。
その結果、パッド表面は難なく、ウェーハ表面のうねりに追従することにより、さらにあらかじめ圧縮変形板に設定した圧力分布状態を精度良くウェーハ表面に伝達することが可能となる。
このような原理により、ウェーハ上に形成された凹凸を平坦化することを実現しながら、同時にウェーハ表面のうねりに追従して均一に研磨することが可能となる。
また、圧縮変形板に初期の不均一な膜厚分布を補正したい場合においては、そのような圧力分布形状を持たせた圧縮変形板を選択することにより、制御された圧力分布形状により研磨形状を補正し、結果的に初期の不均一な膜厚分布を補正して、研磨後に均一な膜厚分布を得ることも可能となる。
請求項6記載の発明は、上記表層パッドは撓み変形シート上に貼り付けられ一体化させたことを特徴とする。
この構成によれば、スラリを保持する表層パッドと撓み変形シートが全面で一体化されていることにより、たとえスラリを保持する表層パッドが膨潤して変形したとしても、その膨潤による伸びの変形を撓み変形シートによって抑制することができる。さらに、表層パッドが撓み変形シートに強固に固定されていない場合では、スラリを保持する表層部分が、研磨のせん断応力によって捻られて破断することが予測されるが、本発明2によれば、スラリ保持部分と撓み変形シートが強固に固定されることで、このような懸念はない。
さらに、ウェーハの凹凸を平坦化とウェーハ表面のうねりに追従する機能の二つを両立するための撓み変形シートによる撓み変形制御において、撓み変形シートと表層パッドが一体化することで、その一体化した部分で安定した撓み変形制御が可能となる。さらにスラリを保持する部分が、スラリ保持やパッドドレッシングによるパッド厚みの減少によって、撓み剛性が低下したとしても、密着された撓み変形シートの撓み剛性が支配的に影響することによって、スラリ保持部を含めて安定した撓み変形制御を実現することができる。その結果、ウェーハ表面の平坦化とウェーハ表面のロングレンジのうねりに追従する機能とを両立させることが可能となる。
請求項7記載の発明は、上記一体化した表層パッドは、ウェーハ表面の凹凸を平坦化する領域においては、表層パッドの撓み変形量は圧縮変形量よりも小さくし、ウェーハ表面のうねりに追従する領域においては、表層パッドの撓み変形量を圧縮変形量よりも大きくするような撓み剛性を設定することを特徴とする。
この構成によれば、ウェーハは表面の凹凸を平坦化する領域においては、上記一体化した表層パッドの撓み変形量は圧縮変形量よりも小さく撓み剛性を設定する。これに対して、ウェーハ表面のうねりに追従する領域においては、一体化した表層パッドの撓み変形量を圧縮量よりも大きくするような撓み剛性を設定する。
請求項8記載の発明は、上記一体に貼り付けられた表層パッドもしくは撓み変形シートの外周縁部を止めリングにて挟持するとともに、該止めリングを、プラテンとその上の圧縮変形板の上で、プラテンの側面下方へ引き下ろした状態にて張り上げて固定したことを特徴とする。
この構成によれば、表層パッドを撓み変形シートに貼り付けて一体構成にし、それらの外周縁部を止めリングにて挟持してプラテンの側面下方へ引き下ろした状態にて固定したので、表層パッドの貼り付けに伴う圧力変化がなく、表層パッドが膨潤しても伸びることなく弾性体に装着される。また、一体に貼り付けられた表層パッドおよび撓み変形シートは容易に撓むため、圧縮変形板で形成された圧力分布を反映する。さらに、一体に貼り付けられた表層パッドおよび撓み変形シートと、弾性体との間に両面テープを介在させないので、安定した圧力分布を確保できる。
これにより、従来研磨パッドを作業者が交換していたことによって、その作業者自体の技量に依存する貼り付けのばらつきなどが生じていたが、本発明では、貼り付けのばらつきによる圧力分布ばらつきを生じることがない。
従来のような両面テープなどを利用した貼り付け方法によると、例えば撓み変形シートを圧縮変形板にある弾性材料に貼り付ける場合、弾性材料が粘着テープで貼りつかず途中で剥がれる問題などが生じる。もしくは仮に貼り付いた場合においては、次に剥がす際に表面の弾性材料をむしりながら剥がすことになりかねない。
さらに、圧縮変形板の表面や撓み変形シート表面を何等かの処理を施して、付け剥がしが容易にでき、安定した接着能力を確保できたとしても次の問題が起こる。すなわち、研磨時においては、研磨のせん断応力が作用するとき、それはそのまま圧縮変形板上の弾性体を捻ることになる。このねじりの応力で弾性体は横方向に変形し、長期に使用することで、安定した弾性回復力を失うことになる。圧縮変形板は、そのあらかじめ所定の圧力分布を形成した形状であるため、長期にわたって交換頻度を小さくして使用することが好ましい。圧縮変形板に絶えず、横方向の応力が作用することで、こうした使用可能な寿命を極端に短くすることになる。
研磨パッドもしくは表層パッドと一体となった撓み変形シートの外周縁部を、止めリングにて挟持するとともに、該止めリングをプラテンの側面下方へ引き下ろした状態にて固定することによって、パッドに及ぼされる研磨によるせん断応力は、止めリングで支えられることになる。その下の圧縮変形板に対して横方向の応力を作用させることはない。そのため、圧縮変形板には、単純に圧縮方向の研磨による繰り返し荷重がかかるだけとなる。このような形であれば、圧縮変形板は、十分に繰り返しの圧縮応力に耐え得る材料で形成されているため、長期に渉って使用することが可能となる。
また、研磨パッドすなわち表層パッドと一体となった撓み変形シートは、圧縮変形板上でウェーハのうねりに対して十分に変位することができる程度に撓むが、引っ張り方向の応力に対しては大きく変形することなく、十分な強度を有する。それによって、パッドが研磨のせん断応力によって破断することはなく、また皺がよることもない。
さらに、パッドの交換時は、研磨パッドのみを交換すればよい。また、その交換方法は、パッドの外周リングを外して、圧縮変形板を残して研磨パッドを取り外し、パッドを取り付ける際は、外周リングを圧縮変形板上に載せ、外周部で張り上げるだけで容易に取り付けることが可能である。
このような方法によって、従来の両面テープ使用によるパッドのプラテン上への接着時の問題にあったように、研磨定盤とパッドの間に気泡が入ることで、パッドとウェーハ間との圧力分布にばらつきが生じるということはない。作業者の技量によることなく、安定して圧縮変形板上にパッドを取り付けて安定した圧力分布を持たせることが可能となる。すなわち、両面テープを介在させないことで、安定した圧力分布を形成できる。
請求項9記載の発明は、上記圧縮変形板は圧縮永久歪の小さい弾性材料にて形成され、かつその表面は予め圧力分布を考慮した形状に形成されたことを特徴とする。
この構成によれば、あらかじめ圧縮変形板に圧力分布が形成されていることから、パッドによることなく、安定した圧力分布をウェーハに与えることが可能となる。特にパッドは研磨とともにパッドドレッシングによって消耗し、消耗による交換頻度は非常に高い。よって、圧縮変形板はそれに対して、研磨の応力を受けるだけであり、表層のパッドと違って、スラリに浸されることや、ドレッシングによって消耗することもない。よって、繰り返しの応力を受ける状態にあっても、圧縮永久ひずみの小さい弾性材料を使用することによって、長期に渉って、同様の弾性回復力を出すことは可能となり、安定した圧力分布を形成することが可能となる。
圧縮変形板は、十分な変形マージンをもちながら変形する。それによって、部材の厚みむら、ならびにプラテンの熱変形、さらにはウェーハ基板それ自体の厚みむらなど、一連の多少の寸法変形を十分に許容するだけの変形マージンを有している。この十分な変形マージンを有する状態で、あらかじめ圧縮変形板に設けた圧力分布をウェーハに与えることによって、こうした各種の外乱の影響を受けることがないロバスト(安定)な圧力分布をウェーハに与えることが可能となる。
さらには、ウェーハを減圧吸着してウェーハ裏面を基準として平面矯正している。この平面矯正された状態でウェーハは、研磨圧力をうけてもほとんど裏面の平面状態は変形しない。その変形しない基準状態の下で、あらかじめ圧力分布を設定した圧縮変形板の圧力分布をウェーハ表面に作用することで安定した圧力分布をウェーハ表面に作用させることが可能となる。
請求項10記載の発明は、上記圧縮変形板上の弾性体の表面は区分化されて、おのおのが独立して変形し、かつ圧縮変形板がプラテン上から一体で交換可能に形成されたことを特徴とする。
この構成によれば、弾性体の表面は例えば溝などによって区分化されており、おのおのが独立して変形する。弾性体が区分化されていない場合、上記のような圧縮永久ひずみの小さい弾性材料(弾性体)を使用すると、変形した場合でも、弾性材料の体積を一定に保つように他の部分が盛り上がって、変形状態を完了する。研磨におけるこの弾性材料の変形では、一部がウェーハのうねりによって変形したとしても、その他の部分でこのような跳ね返りがあるために、結果的にそれぞれのウェーハ場所によって独立して押圧することはできない。
圧縮変形板の弾性体が区分化されていることにより、区分化されている部分のおのおのが独立して変形し、結果としてウェーハ表面のうねりに関係なく、研磨の圧力分布を制御することが可能となる。
したがって、例えば弾性体が密度の高い弾性体で形成されている場合、一部のエリアで凹んだとしても、別のエリアにその跳ね返りが生じるのを防止でき、ウェーハ面内にかかる圧力分布を均一にできる。