JP2009052537A - 燃料噴射装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】燃料噴射孔から噴射する燃料を瞬時に効率よく加熱できるようにして、内燃機関の始動直後であっても高温の燃料を噴射でき、且つ、加熱した燃料の噴射と加熱しない燃料の噴射との切替えを瞬時に行うことができる燃料噴射装置を提供する。
【解決手段】ノズルボディ内に形成された燃料流路に接するように、この燃料流路に沿って複数の発熱要素を並べたヒータを配置する。ヒータを構成する各発熱要素は、発熱/非発熱を個別に制御可能とされており、内燃機関の運転状態に応じて、燃料流路内の燃料をオリフィスに近い下流側から、次回に噴射される燃料噴射量に相当する体積分だけ加熱する。
【選択図】図1
【解決手段】ノズルボディ内に形成された燃料流路に接するように、この燃料流路に沿って複数の発熱要素を並べたヒータを配置する。ヒータを構成する各発熱要素は、発熱/非発熱を個別に制御可能とされており、内燃機関の運転状態に応じて、燃料流路内の燃料をオリフィスに近い下流側から、次回に噴射される燃料噴射量に相当する体積分だけ加熱する。
【選択図】図1
Description
本発明は、内燃機関に燃料を噴射する燃料噴射装置に関する。
従来、燃料を高温高圧の状態で内燃機関に噴射することで、燃料の微粒化および気化を促進し、燃焼を効率よく行えるようにした燃料噴射装置が提案されている。例えば、特許文献1には、油圧室が設けられた燃料油ケーシングをノズルボディの内部に収納し、この燃料油ケーシング内の油圧室に供給された高圧の燃料を、油圧室を取り囲むように配置されたヒータにより加熱して、高温の超臨界状態としてノズルボディ先端の燃料噴射孔から噴射する燃料噴射装置が開示されている。
特開平10−141170号公報
しかしながら、特許文献1にて開示される燃料噴射装置は、毎回の噴射に必要な量の燃料だけでなく、油圧室内に供給された燃料の全てを一律に加熱する構成となっている。このため、例えば加速時などでは、噴射する燃料を所望の温度にまで瞬時に加熱することができないので、加熱した燃料と加熱しない燃料とを瞬時に切替えながら噴射することが望まれる場合に対応できないといった問題がある。
本発明は、以上のような従来技術の有する問題点を解消すべく創案されたものであって、内燃機関の運転状態に応じて、必要量だけ燃料を加熱し噴射できる燃料噴射装置を提供することを目的としている。
本発明に係る燃料噴射装置は、内燃機関に燃料を噴射するものであり、先端に燃料噴射孔を有するノズルと、燃料噴射孔と繋がるようにノズル内部に形成された燃料流路と、燃料流路に近接して配置され、内燃機関の運転状態に応じて動作制御されて燃料流路内の燃料を加熱するヒータとを備える。そして、燃料流路の上流側から下流側に亘る位置に応じて燃料流路内の燃料が温度分布を持つように、当該燃料を加熱可能に構成されている。
本発明に係る燃料噴射装置によれば、内燃機関の運転状態に応じて、必要量だけ燃料を加熱し噴射できるので、加熱した燃料の噴射と加熱しない燃料の噴射とを、内燃機関の運転状態に応じて瞬時に切替えながら行うことができる。
以下、本発明を適用した燃料噴射装置の具体例について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下で説明する燃料噴射装置は、自動車等における内燃機関の燃焼室に燃料を噴射するものであり、特に、油圧室内に供給された燃料を必要な分だけ効率よく加熱する機能を持たせたものである。
[第1の実施形態]
図1は、本発明を適用した燃料噴射装置の一例(第1の実施形態)を示す断面図である。この図1に示す燃料噴射装置は、先端にオリフィス(燃料噴射孔)2を有する円筒状のノズルボディ3と、このノズルボディ3の基端側に連結されたヨーク4と、ノズルボディ3の内部に移動可能に挿通されたプランジャロッド5と、プランジャロッド5の基端側に位置してヨーク4内に固着された円筒状のコア6とを備える。
図1は、本発明を適用した燃料噴射装置の一例(第1の実施形態)を示す断面図である。この図1に示す燃料噴射装置は、先端にオリフィス(燃料噴射孔)2を有する円筒状のノズルボディ3と、このノズルボディ3の基端側に連結されたヨーク4と、ノズルボディ3の内部に移動可能に挿通されたプランジャロッド5と、プランジャロッド5の基端側に位置してヨーク4内に固着された円筒状のコア6とを備える。
コア6の外周側には、コイルボビン7に保持された状態で、開弁コイル8及び保持コイル9が巻装されている。また、コア6の内周側にはスプリング10が配設されており、このスプリング10がプランジャロッド5のアンカ5aに当接してプランジャロッド5をノズルボディ3の先端側へと付勢している。このスプリング10による付勢力は、スプリングアジャスタ11によって調整されている。
この燃料噴射装置は、コア6の基端側(図1中の上方)の端部が図示しない燃料供給配管に接続される。そして、図示しない燃料ポンプによって加圧された燃料がこの燃料供給配管を通して燃料噴射装置に供給される。
燃料噴射装置に供給された燃料は、コア6内部の空間やこれに連通するノズルボディ3内部の空間を経由して、ノズルボディ3先端のオリフィス2へと導かれる。つまり、燃料噴射装置では、これらコア6内部やノズルボディ3内部の空間が、加圧された燃料が流れる燃料流路12とされている。そして、特に本実施形態の燃料噴射装置では、ノズルボディ3内部に形成された燃料流路12に接するようにして、当該燃料流路12内の燃料を加熱するヒータ13が、ノズルボディ3の内周面に設置されている。
このような構成の燃料噴射装置は、非噴射時においては、プランジャロッド5がスプリング10によりノズルボディ3の先端側に付勢され、図2(a)に示すように、このプランジャロッド5の先端部がノズルボディ3の先端内周面に当接することで、ノズルボディ3の先端に設けられたオリフィス2を閉塞している。したがって、燃料流路12内の加圧された燃料は、これらプランジャロッド5とノズルボディ3の接触部分で遮断され、オリフィス2から燃料噴射装置の外部に噴射されることはない。なお、図2(a)は図1におけるA部を拡大して示した図である。
ここで、開弁コイル8に通電が行われると、電磁力の作用によりプランジャロッド5がスプリング10の付勢力に抗してコア6側へと移動し、フランジ5bがストッパ14に当接するまでプランジャロッド5が引き上げられる。これにより、図2(b)に示すように、プランジャロッド5の先端部がノズルボディ3の先端内周面から離間してオリフィス2が開放された状態となり、燃料流路12内の加圧された燃料がオリフィス2を通って燃料噴射装置の外部に噴射される。また、プランジャロッド5が引き上げられた状態で保持コイル9に通電すると、その後、開弁コイル8への通電を停止しても、プランジャロッド5は引き上げられた状態を維持する。このため、オリフィス2が開放されたままとなり、オリフィス2からの燃料の噴射が継続される。
保持コイル9への通電を停止すると、プランジャロッド5はスプリング10の付勢力によりノズルボディ3の先端側へと押し戻される。そして、プランジャロッド5の先端部がノズルボディ3の先端内周面に当接してオリフィス2を閉塞することで、燃料の噴射が停止される。
以上のように、燃料噴射装置では、開弁コイル8及び保持コイル9への通電制御によって、燃料の噴射・非噴射が制御される。また、保持コイル9への通電時間を変えることにより、噴射時間を制御することが可能である。噴射時間はほぼ噴射量に比例するため、保持コイル9への通電時間を制御することで燃料噴射装置からの1回あたりの噴射量が制御される。例えば、自動車の加速時などは内燃機関へ大量の燃料を噴射する必要があるので、その場合は保持コイル9への通電時間を長くする。また、自動車が停止状態(アイドリング時)のときは、内燃機関へは少量の燃料が供給されるため、その場合は保持コイル9への通電時間を短くしている。
内燃機関へ供給される燃料の量は、図示しないECU(Engine Control Unit)によって判断される。ECUは内燃機関の内外に取り付けてある各種のセンサからの情報をもとに内燃機関の運転状態を判断し、その状態に応じて内燃機関が必要とする燃料の量を判断し、それによって燃料噴射装置の保持コイル9への通電時間を決定している。また、特に本実施形態の燃料噴射装置では、ノズルボディ3の内周面に設置されたヒータ13で燃料流路12内の燃料を加熱する構成とされており、このヒータ13の動作が、燃料噴射量の制御(つまり保持コイル9への通電制御)と合わせて、内燃機関の運転状態に応じてECUにより制御されることによって、噴射する燃料を必要な分だけ効率よく加熱できるようにしている。以下、本実施形態の燃料噴射装置において特徴的な部分であるヒータ13の構成及び動作の詳細について、具体例を挙げながらさらに詳しく説明する。
ヒータ13は、上述したように、ノズルボディ3内部の燃料流路12に接するようにノズルボディ3の内周面に設置され、当該燃料流路12の上流側から下流側に亘る位置にかけて、当該燃料流路12内の燃料が温度分布を持つように、当該燃料流路12内の燃料を加熱できるように構成されている。具体的には、ヒータ13は、発熱状態を個別に切替え可能な複数の発熱要素が、ノズルボディ3内部の燃料流路12の上流側から下流側に亘って並ぶように配置された構成とされている。ヒータ13の各発熱要素は、個別の配線によって電力供給源と接続され、各配線中にそれぞれスイッチが設けられる。そして、内燃機関の運転状態に応じて各スイッチのオン/オフがECUによって制御されることで、ヒータ13を構成する複数の発熱要素の加熱/非加熱を個別に切り替えることが可能とされており、これにより、燃料流路12内の燃料を上流側と下流側との間の位置に応じて温度分布を持つように加熱できるようにしている。
ヒータ13の各発熱要素は、例えばNiやCuなどの金属のメッキ等により形成され、それぞれ図示しない配線によって電力供給源に接続される。ここで、ヒータ13の各発熱要素は配線よりも高い抵抗値を持つ必要があるが、各発熱要素を金属メッキで形成する場合はメッキの膜厚を薄くすることで抵抗値が高くなるので、これを利用すればよい。
また、ヒータ13の各発熱要素及び配線以外の部分に電気が漏電することを防ぐため、これらの周囲には絶縁構造が必要である。本実施形態の燃料噴射装置のようにノズルボディ3内周面にヒータ13を設置する場合は、例えば、セラミックなどを用いた絶縁膜15をノズルボディ3内周面に形成し、その上に、前述の金属メッキによりヒータ13の各発熱要素を形成するようにすればよい。これにより、ヒータ13の各発熱要素とノズルボディ3はセラミックの絶縁膜15により電気的に絶縁される。しかも、一般にセラミックは熱伝導度が低いため、セラミックの絶縁膜15を介装することでヒータ13の発熱要素からノズルボディ3に熱が伝わり難くなるので、断熱構造も併せて実現できる。また、セラミックの絶縁膜15に凹部を形成してこの凹部内にヒータ13の各発熱要素を埋め込み形成するようにすれば、隣接する発熱要素間の電気的絶縁性及び断熱性も確保される。さらに、ヒータ13の発熱要素が直接燃料に触れて、燃料への漏電が問題になる場合には、各発熱要素の表面を酸化させる、あるいは各発熱要素の表面に薄い絶縁膜を形成するなどの対策を行うことで、燃料への漏電を防ぐことが可能である。なお、ヒータ13を構成する各発熱要素の1つ1つの形状は、円筒状のノズルボディ3の内周面を全て覆うようなリング形状とされていることが望ましい。
以上のような複数の発熱要素を並べた構成のヒータ13は、上述したプランジャロッド5の先端部とノズルボディ3の先端内周面との接触位置、すなわちノズルボディ3の先端に設けられたオリフィス2の近傍の位置までをカバーするように配置されていることが望ましい。燃料噴射装置では、上述したように開弁コイル8への通電によりプランジャロッド5がコア6側に引き上げられるとオリフィス2が開放され、ノズルボディ3内部の燃料流路12内の燃料のうちでオリフィス2近傍に位置するものから噴射されることになるので、ヒータ13をオリフィス2近傍位置までカバーするように配置して、オリフィス2近傍の燃料を加熱できる構造(つまり、次回に絶対に噴射される燃料を加熱できる構造)としておけば、燃料噴射装置が次回に噴射する燃料を確実に加熱することが可能であり、燃料流路12の上流側(図1中の上方向)の燃料を加熱しなくとも、次回に噴射するだけの燃料を加熱することが可能である。
また、例えば自動車の加速時など、内燃機関に多量の燃料を噴射することが求められる場合は、噴射する燃料の体積に合わせて発熱させる発熱要素の数を増やすことで、次回に噴射する燃料が増加してもこれに対応可能である。逆に、内燃機関に噴射する燃料が少量の場合には、最下流部の発熱要素のみを発熱させるようにすればよい。このように、本実施形態の燃料噴射装置では、個別に発熱状態を切替可能な複数の発熱要素でヒータ13を構成することにより、次回噴射する燃料の体積に合わせて加熱する燃料の体積を可変にし、燃料流路12内の燃料を効率よく加熱することを可能にしている。
ところで、燃料噴射装置の1回あたりの燃料噴射量の最小値と最大値(最小噴射量と最大噴射量)は、内燃機関の性能によって予め定められている。燃料噴射装置の最小噴射量は、内燃機関を回し続けるのに最低限供給される燃料の量のことである。自動車のアイドリング状態がこの状態に当たる。また、燃料噴射装置の最大噴射量は、この量以上の燃料を噴射しても内燃機関の出力が上がらない、或いは、出力が上がったとしても燃焼が不適正な状態となる、或いは、内燃機関がこれ以上の出力になると損傷を受ける可能性が高くなるなどの理由で決まっている。自動車の最大加速時つまりフルスロットル(または、WOT=ワイドオープンスロットル)状態がこの状態に当たる。
本実施形態の燃料噴射装置では、ヒータ13により加熱する燃料の体積が、内燃機関の性能に応じて定められる最小噴射量と最大噴射量との間の任意の体積に可変とされている。具体的には、ヒータ13を構成する全ての発熱要素を発熱させたときに加熱される燃料の体積が燃料噴射装置の最大噴射量と同程度とされ、燃料流路12の最下流に位置する(オリフィス2に最も近い)発熱要素のみを発熱させたときに加熱される燃料の体積が最小噴射量と同程度とされている。そして、ヒータ13を構成する複数の発熱要素のうち、発熱させる発熱要素の数(燃料流路12の最下流から何番目までの発熱要素を発熱させるか)を切り替えることによって、燃料噴射装置の最小噴射量と最大噴射量との間の任意の体積の燃料を、ヒータ13によって加熱できる構成とされている。これにより、内燃機関の運転状態に応じてどの量の燃料を噴射するにしても、噴射する燃料をヒータ13で効率よく且つ確実に加熱することが可能になる。
本実施形態の燃料噴射装置において、ヒータ13が燃料を加熱するタイミングは、噴射直前、すなわち開弁コイル8が通電されてプランジャロッド5が引き上げられる直前とすることが望ましい。熱は高温部から低温部に拡散していくため、加熱のやり方によっては、燃料以外の部品を加熱してしまい燃料噴射装置の信頼性低下を招く要因となることも考えられる。ここで、ヒータ13による燃料の加熱を噴射直前に行うようにすれば、加熱によって高温になった燃料は噴射によって燃料噴射装置の外部に出され、しかもそれと同時に燃料流路12の上流側から加熱されていない(ほぼ室温の)燃料が加熱部(つまりヒータ13の近傍位置)に供給されて加熱部を冷却してくれる。これにより、燃料加熱に起因した燃料噴射装置の信頼性低下の問題を未然に回避することが可能となる。
また、本実施形態の燃料噴射装置において、ヒータ13により加熱される燃料流路12内の燃料は、臨界圧力以上に加圧されていることが望ましい。ヒータ13の加熱により燃料の温度は急激に上昇するため、燃料の圧力によっては加熱時に沸騰することも予想される。燃料の沸騰が起きると、燃料の密度や熱伝導度、比熱などが急激に変化するため、場合によってはヒータ13の熱が燃料に所望の速度で伝わることがなくなり、ヒータ13が過度に高温になってしまうこともあり得る。これはヒータ13の耐久性にとって好ましいことではない。また、沸騰によって密度が急激に変化するとそれが圧力波となって、燃料流路12内の部品(例えばヒータ13など)に物理的なダメージを与えることがある。また、沸騰が同じ場所で何度も繰り返し起こる場合は、燃料中に溶けていた成分がその場所に析出してしまい、場合によっては燃料流路12が詰まってしまうことも予想される。そのため、加熱中の沸騰は出来る限り避けた方が望ましい。ヒータ13により加熱される燃料流路12内の燃料を臨界圧力以上に加圧しておけば、燃料は沸騰することがなくなるので上述の問題を有効に回避することが可能となる。
本実施形態の燃料噴射装置では、上述したように、次回に噴射される量だけの燃料を、必要に応じて(つまり内燃機関の運転状態に応じて)ヒータ13により加熱して噴射するが、噴射された燃料は、温度が沸点を超えていれば液相から気相へと相変化する。その結果、気相の燃料は膨張することによって温度が低下する。そして、温度が低下すると、燃料が完全に気相にならない(気液が混在する)状態で空気と混合することになる。内燃機関の運転状態によっては、完全に気化した状態で空気と混合することが望ましいこともあり得る。例えば、なるべく早く空気と混合したい場合は、液相の燃料が残っていると液相の燃料が蒸発して気相になる時間の分だけ、空気と混合する時間が遅くなる。このような観点から、本実施形態の燃料噴射装置では、ヒータ13により燃料流路12内の燃料を臨界温度以上にまで加熱して、たとえ気相の燃料が膨張したとしても、十分な温度が保てるようにすることも有効である。ここで言う十分な温度とは、噴射した燃料が全て気相になるような温度のことであり、燃料を燃料噴射装置内で臨界温度以上に加熱することで実現される。
以上、具体的な例を挙げながら詳細に説明したように、本実施形態の燃料噴射装置によれば、ノズルボディ3内に形成された燃料流路12に接するように、この燃料流路12に沿って複数の発熱要素を並べたヒータ13を配置しているので、燃料流路12内の必要な燃料分だけが加熱されるようにヒータ13から与えられる熱量を制御するので、ヒータ13の発熱量を必要最小限とすることができ、加熱した燃料の噴射と加熱しない燃料の噴射とを、内燃機関の運転状態に応じて瞬時に切替えながら行うことができる。
また、本実施形態の燃料噴射装置では、ノズルボディ3内に形成された燃料流路12内の燃料を必要な分だけ、つまり次回噴射する燃料のみをヒータ13により加熱するので、燃料を急速に昇温することが可能であり、内燃機関の始動直後などにおいても所望の温度に加熱した燃料を噴射することができ、また、余分な燃料を加熱することなく、加熱によって消費される電力を低減することが可能である。さらに、内燃機関の運転状態に応じて、加熱した燃料の噴射と加熱しない燃料の噴射とを瞬時に切替えながら行うことも可能である。
また、本実施形態の燃料噴射装置によれば、次回に噴射する燃料を噴射直前にヒータ13によって加熱する構成としているので、加熱によって生じた熱が燃料以外の部品に拡散していくことを防止でき(熱は時間の経過とともに高温部から低温部へ拡散して行く。この現象は、不可逆変化であり一度拡散した熱を元の場所に集中させることは不可能である。つまり、熱は必要な瞬間に必要な量だけ供給することが望ましい。)、拡散した熱によって部品が熱膨張を起こして燃料漏れを起こすなどの問題を有効に回避して信頼性低下を防ぐことが可能になる。
また、本実施形態の燃料噴射装置によれば、ヒータ13を構成する各発熱要素とノズルボディ3内周面との間にセラミックなどの絶縁膜15を設け、このセラミックなどの絶縁膜15により電気的絶縁性とともに断熱性も確保しているので、ヒータ13の発熱要素が発熱した際にノズルボディ3への熱の拡散を低減することが可能になり、オリフィス2近傍のシール性の低下による燃料漏れなどの問題を有効に回避して、信頼性低下を防ぐことが可能である。また、ヒータ13の発熱要素からの熱がノズルボディ3へ逃げないということは、燃料へ伝わる熱が増加することになるので、加熱により消費される電力の削減にもつながる。
また、本実施形態の燃料噴射装置では、燃料流路12内の燃料を臨界圧力以上に加圧しておくことにより、ヒータ13の加熱による燃料の沸騰を防ぐことが可能になり、安定した加熱が可能になる。さらに、本実施形態の燃料噴射装置では、燃料を燃料噴射装置内で臨界温度以上に加熱することによって、噴射後の気相から液相への相変化を防ぐことが可能となり、安定した燃料噴射を実現することが可能となる。
[第2の実施形態]
図3は、本発明を適用した燃料噴射装置の他の例(第2の実施形態)を示す断面図である。この図3に示す第2の実施形態の燃料噴射装置は、燃料を加熱するヒータの設置位置が上述した第1の実施形態(図1参照)と異なるものである。それ以外の構成及び動作は第1の実施形態と同様であるので、以下、第1の実施形態と同様の部分については同一の符号を付して説明を省略し、本実施形態に特徴的な部分についてのみ説明する。
図3は、本発明を適用した燃料噴射装置の他の例(第2の実施形態)を示す断面図である。この図3に示す第2の実施形態の燃料噴射装置は、燃料を加熱するヒータの設置位置が上述した第1の実施形態(図1参照)と異なるものである。それ以外の構成及び動作は第1の実施形態と同様であるので、以下、第1の実施形態と同様の部分については同一の符号を付して説明を省略し、本実施形態に特徴的な部分についてのみ説明する。
上述した第1の実施形態では、ノズルボディ3の内周面に発熱状態を個別に切替え可能な複数の発熱要素を並べて燃料流路12内の燃料を加熱するヒータ13として構成したが、本実施形態では、プランジャロッド5の外周面に発熱状態を個別に切替え可能な複数の発熱要素を並べて、燃料流路12内の燃料を加熱するヒータ21としている。ヒータ21の構成は、プランジャロッド5の外周面に配置されている以外は、上述した第1の実施形態と同様である。すなわち、例えばNiやCuなどの金属のメッキ等により形成された複数の発熱要素が、ノズルボディ3内部の燃料流路12の上流側から下流側に亘って並ぶように配置され、各発熱要素が個別の配線によって電力供給源と接続され、各配線中にそれぞれスイッチが設けられる。そして、内燃機関の運転状態に応じて各スイッチのオン/オフがECUによって制御されることで、ヒータ21を構成する複数の発熱要素の加熱/非加熱を個別に切り替えることが可能とされており、これにより、燃料流路12内の燃料を上流側と下流側との間の位置に応じて温度分布を持つように加熱できるようにしている。
また、ヒータ21の各発熱要素及び配線以外の部分に電気が漏電することを防ぐため、プランジャロッド3の外周面上には、図4(a),(b)に示すように、第1の実施形態と同様にセラミックなどの絶縁膜22が形成され、その上に、前述の金属メッキによりヒータ21の各発熱要素が形成されている。これにより、ヒータ21の各発熱要素とプランジャロッド3は絶縁膜22により電気的に絶縁される。しかも、一般にセラミックは熱伝導度が低いため、セラミックの絶縁膜22を介装することでヒータ21の発熱要素からプランジャロッド5に熱が伝わり難くなるので、断熱構造も併せて実現できる。また、セラミックの絶縁膜22に凹部を形成してこの凹部内にヒータ21の各発熱要素を埋め込み形成するようにすれば、隣接する発熱要素間の電気的絶縁性及び断熱性も確保される。さらに、ヒータ21の発熱要素が直接燃料に触れて、燃料への漏電が問題になる場合には、第1の実施形態と同様に、各発熱要素の表面を酸化させる、あるいは各発熱要素の表面に薄い絶縁膜を形成するなどの対策を行うことで、燃料への漏電を防ぐことが可能である。なお、ヒータ21を構成する各発熱要素の1つ1つの形状は、プランジャロッド5の外周面を全て覆うようなリング形状とされていることが望ましい。
本実施形態の燃料噴射装置は、以上のように、燃料流路12内の燃料を温度分布を持つように加熱可能なヒータ21を備えているので、上述した第1の実施形態と同様に、内燃機関の運転状態に応じて、燃料流路12内の燃料を必要な分だけ効率よく加熱することができ、第1の実施形態と同様の効果が得られる。
また、特に本実施形態の燃料噴射装置は、プランジャロッド5の外周面にヒータ21を配置するようにしているので、第1の実施形態に比べて製造が容易となるといった利点を有する。すなわち、第1の実施形態のようにノズルボディ3側にヒータ13を配置するには、円筒状のノズルボディ3の内周面に発熱要素を形成する必要があるため、製造上の難しさが存在する。これに対して、本実施形態のようにプランジャロッド5側にヒータ21を配置する構成とすれば、円柱状のプランジャロッド5の外周面に発熱要素を形成すればよく、ノズルボディ3内周面に発熱要素を形成する場合に比べて、製造上の難しさは大幅に低減される。ただし、プランジャロッド5は上述したように開弁コイル8や保持コイル9の通電、非通電の切替えによって高速に移動する可動部材であるため、信頼性の観点からは、第1の実施形態のように、固定部材であるノズルボディ3側にヒータ13を設置する構成の方が有利である。プランジャロッド5側とノズルボディ3側とのどちらにヒータ21(13)を設置するかは、要求される信頼性と製造上の制約条件などを考慮しながら総合的に判断して決定すればよい。
また、図5に示すように、ノズルボディ3の内周面とプランジャロッド5の外周面との双方にヒータ13,21を設置することも可能である。この場合には、ノズルボディ3とプランジャロッド5との間に形成される円筒状の燃料流路12を両面から(円筒の外側と内側の両面から)加熱することになり、燃料を加熱する時間を短縮することが可能になる。
[第3の実施形態]
図6は、本発明を適用した燃料噴射装置のさらに他の例(第3の実施形態)を示す図であり、ノズルボディ3とプランジャロッド5との間の燃料流路12近傍を拡大して示す断面図である。第3の実施形態の燃料噴射装置は、ヒータ13の近傍に触媒層31が形成されている以外は上述した第1の実施形態と同様であるので、以下、第1の実施形態と同様の部分については同一の符号を付して説明を省略し、本実施形態に特徴的な部分についてのみ説明する。
図6は、本発明を適用した燃料噴射装置のさらに他の例(第3の実施形態)を示す図であり、ノズルボディ3とプランジャロッド5との間の燃料流路12近傍を拡大して示す断面図である。第3の実施形態の燃料噴射装置は、ヒータ13の近傍に触媒層31が形成されている以外は上述した第1の実施形態と同様であるので、以下、第1の実施形態と同様の部分については同一の符号を付して説明を省略し、本実施形態に特徴的な部分についてのみ説明する。
本実施形態の燃料噴射装置では、図6に示すように、ヒータ13を構成する発熱要素の表面や発熱要素以外の燃料流路12表面(絶縁膜15の一部など)に、燃料流路12内の燃料の化学反応を促進するための触媒層31が形成されている。この触媒層31の触媒としては、例えば、Pt、Pd、Rhなどの貴金属、あるいはCuなどの金属が挙げられる。これらの触媒は通常はセラミックを母材とする材料によって担持されるので、触媒とそれを担持するセラミックを薄膜状にして、ヒータ13を構成する発熱要素の表面や発熱要素以外の燃料流路12の表面に塗布して触媒層31とすればよい。
本実施形態の燃料噴射装置は、以上のように、ヒータ13の近傍に触媒層31が形成されているので、上述した第1の実施形態や第2の実施形態と同様の効果に加え、局所的な燃料の化学反応を促進することが可能となるといった効果が得られる。すなわち、触媒は高温で機能するものが多いので、触媒層31をヒータ13近傍に形成することにより、触媒を効率的に活性化させて、この触媒と接する燃料の化学反応を促進することが可能となる。
なお、図6に示した例では、第1の実施形態のようにノズルボディ3側にヒータ13を配置した構成としているが、第2の実施形態のようにプランジャロッド5側にヒータ21を配置した場合や、ノズルボディ3側とプランジャロッド5側の双方にヒータ13,21を配置した場合にも、ヒータ13,21の近傍に触媒層31を塗布することで、効率的に触媒を活性化させて燃料の局所的な化学反応を促進することが可能となる。
[第4の実施形態]
図7は、本発明を適用した燃料噴射装置のさらに他の例(第4の実施形態)を示す断面図である。この図7に示す第4の実施形態の燃料噴射装置は、燃料を加熱するヒータの構成が上述した第1の実施形態(図1参照)と異なるものである。それ以外の構成及び動作は第1の実施形態と同様であるので、以下、第1の実施形態と同様の部分については同一の符号を付して説明を省略し、本実施形態に特徴的な部分についてのみ説明する。
図7は、本発明を適用した燃料噴射装置のさらに他の例(第4の実施形態)を示す断面図である。この図7に示す第4の実施形態の燃料噴射装置は、燃料を加熱するヒータの構成が上述した第1の実施形態(図1参照)と異なるものである。それ以外の構成及び動作は第1の実施形態と同様であるので、以下、第1の実施形態と同様の部分については同一の符号を付して説明を省略し、本実施形態に特徴的な部分についてのみ説明する。
上述した第1の実施形態では、発熱状態を個別に切替え可能な複数の発熱要素を燃料流路12に沿って並べ、燃料流路12内の燃料が温度分布を持つように当該燃料流路12内の燃料を加熱できるヒータ13としたが、本実施形態では、図7に示すように、ノズルボディ3の内周面に、燃料流路12の上流側から下流側に亘って厚みが異なる一体の発熱要素を形成して、燃料流路12内の燃料が温度分布を持つように当該燃料流路12内の燃料を加熱できるヒータ41としている。
このヒータ41を構成する発熱要素は、負の温度特性(NTC(Negative Temperature Coefficient)特性)を有する材質を用いて形成することが望ましい。NTC特性を有する材質としては、例えばMn、Co、Ni、Feなどを含んだ焼結金属が挙げられる。このようなNTC特性を有する材質を、例えば燃料流路12の上流側から下流側にかけて次第に厚みが薄くなるように成形し、第1の実施形態と同様にセラミックなどの絶縁膜42(断熱構造を兼ねる絶縁膜)を介してノズルボディ3の内周面に配置することで、燃料流路12内の燃料が温度分布を持つように当該燃料流路12内の燃料を加熱可能なヒータ41とすることができる。
ヒータ41が燃料流路12内の燃料を温度分布を持つように加熱できる原理を、図8及び図9を用いて説明する。図8のようにNTC特性を持ち、かつ形状の異なる材質に比較的小さな一定電流(図9中のI1)を通電した場合、電流が集中する場所、すなわち図8の下方向部分が最も発熱密度が高くなる。その結果、下方部分は高温(図9中のT21)となり、発熱密度の小さい上方部分は比較的低温(図9中のT11)となる。さらに、大きな電流(図9中のI2)を流すと、下方部分は高温のためNTC特性から電気抵抗が下がっているので、小さな電流(図9中のI1)を流したときと比べて、それほど温度は高くならない(図9中のT22)。一方で、上方部分は下方部分と比べて比較的低温のため電気抵抗の下がり方が下方部分と比べて小さく、小さな電流を流したときと比べて大きな電流を流した場合の温度上昇が大きくなる(図9中のT12)。その結果、電流I1を流したときよりも、電流I2を流したときの方が下方部分と上方部分の温度差が小さくなる。この性質を利用すれば、流す電流の量を制御することで、ヒータ41の温度分布、すなわちヒータ41の加熱による燃料流路12内の燃料の温度分布を制御することが可能である。
NTC特性を持つ焼結金属のうち、材料の種類によってはある温度で急激に電気抵抗が低下するものが存在するので、そのような焼結金属をヒータ41に用いるようにしてもよい。図10を用いて、このような材料をヒータ41に用いた場合の特性を説明する。図10中のTaは前述の抵抗が急激に低下し始める温度を表わしている。ヒータ41に通電する電流量を増加させていくと、ヒータ41がある温度(図10中のTa)に達したとき電気抵抗が急激に下がるため、それ以上電流を大きくしても殆ど温度が上昇しなくなる。つまり、ヒータ41の温度変化に関して、しきい電流が存在することになる。ヒータ41の下方部分にとってのしきい電流は図10中のIaになり、上方部分にとってのしきい電流は図10中のIbになる。IbがIaよりも大きな理由は、前述の電流密度の関係から明らかである。ここで、図7に示したように燃料流路12の下流側に向かうに従ってヒータ41の厚みが薄くなっている場合は、電流密度を考えれば下流側いくほどしきい電流が低く、上流側に近いほどしきい電流は大きくなる。十分に大きな電流を流せば、ヒータ41全面の温度分布、つまりヒータ41の加熱による燃料流路12内の燃料の温度差がなくなるし、小さな電流を流した場合は、燃料流路12の上流側と下流側とで燃料の温度差が大きくなる。
本実施形態の燃料噴射装置では、図7に示したように、NTC特性を有する焼結金属を材質とした発熱要素を、燃料流路12の下流側に向かうに従って厚みが薄くなるように形成してヒータ41としている。したがって、内燃機関の運転状態に応じて、例えば、次回の噴射量が少ない場合は、ヒータ41に比較的小さな電流を流して、ヒータ41のうちで燃料流路12の下流側に位置する部分のみを高温にすることで、次回噴射される燃料のみを効率よく加熱することができる。また、逆に、次回の噴射量が多い場合は、ヒータ41に比較的大きな電流を流して、ヒータ41全体が高温になるようにすればよい。これにより、次回に噴射される燃料と同等の体積の燃料をヒータ41で加熱することが可能となる。
本実施形態の燃料噴射装置は、以上のように、燃料流路12内の燃料を温度分布を持つように加熱可能なヒータ41を備えているので、上述した第1の実施形態と同様に、内燃機関の運転状態に応じて、燃料流路12内の燃料を必要な分だけ効率よく加熱することができ、第1の実施形態と同様の効果が得られる。また、ヒータ41は単一の発熱要素よりなるので、配線数を大幅に削減することができ、構造の簡素化を図ることができる。
なお、図7に示した例では、第1の実施形態のようにノズルボディ3側にヒータ41を配置しているが、第2の実施形態のようにプランジャロッド5側にヒータ41を配置するようにしてもよいし、ノズルボディ3側とプランジャロッド5側の双方にヒータ41を配置するようにしてもよい。
[第5の実施形態]
次に、本発明を適用した燃料噴射装置の第5の実施形態について説明する。本実施形態の燃料噴射装置は、燃料流路12内の燃料の沸騰(或いは沸騰に近い現象)を防止する手法が、上述した第1の実施形態と異なるものである。それ以外の構成及び動作は第1の実施形態と同様であるので、以下、第1の実施形態と同様の部分については同一の符号を付して説明を省略し、本実施形態に特徴的な部分についてのみ説明する。
次に、本発明を適用した燃料噴射装置の第5の実施形態について説明する。本実施形態の燃料噴射装置は、燃料流路12内の燃料の沸騰(或いは沸騰に近い現象)を防止する手法が、上述した第1の実施形態と異なるものである。それ以外の構成及び動作は第1の実施形態と同様であるので、以下、第1の実施形態と同様の部分については同一の符号を付して説明を省略し、本実施形態に特徴的な部分についてのみ説明する。
上述した第1の実施形態では、ヒータ13による燃料加熱時の沸騰を防止するために、燃料流路12内の燃料を臨界圧力以上に加圧しておくことが有効であることを説明した。ヒータ13による燃料の加熱が比較的緩やかであれば、上述した第1の実施形態で説明したように、ヒータ13により加熱される燃料流路12内の燃料を臨界圧力以上に加圧しておくことで、上述の沸騰による問題を回避することが可能である。しかしながら、燃料の加熱が急激である、言い換えればヒータ13の温度上昇速度が早い場合は、燃料が臨界圧以上に加圧されている場合でも沸騰に近い現象が起こりうる。
ここで、沸騰に近い現象とは、臨界圧以下の場合のような気相から液相への相変化は伴わないが、沸騰と同様に急激な圧力波を発生させるような現象を言う。このような現象は、燃料流路12内の燃料がヒータ13による急激な加熱によって、比較的密度の高い準安定状態から、密度の低い安定状態へと急激に変化するために生じるものと考えられる。
ヒータ13による燃料加熱時に以上のような沸騰に近い現象が発生することを防止するには、燃料流路12内の燃料を臨界圧力以上に加圧しておくだけでは不十分であり、燃料流路12内の燃料の温度を、ある圧力に対して存在する飽和温度、または擬臨界温度よりも低い温度に保っておく必要がある。なお、擬臨界温度とは、図11に示すように、臨界圧力Pc以上のある圧力での燃料の定圧比熱(Cp)が極大になる温度であり、臨界圧力Pc未満の場合における飽和温度に相当するものである。臨界圧力Pc以上に加圧され、且つ、臨界温度Tc以上に加熱された超臨界状態の流体は、この擬臨界温度よりも低い温度では密度の高い状態で安定であり、擬臨界温度よりも高い温度では密度の高い準安定状態である。
以上の観点から、本実施形態の燃料噴射装置では、燃料流路12内の燃料の圧力が臨界圧力未満であればヒータ13の最高温度を燃料の飽和温度以下に制限し、燃料流路12内の燃料の圧力が臨界圧力以上であればヒータ13の最高温度を燃料の擬臨界温度以下に制限することで、上述した沸騰に近い現象も含めて、ヒータ13による燃料加熱時の急激な圧力波の発生を確実に防止できるようにしている。
具体的には、例えば図12に示すように、燃料流路12内の燃料の圧力を検知する圧力検知手段51を設ける。具体的には、例えば燃料流路12の上流側となるコア6内部の圧力を検知可能な圧力センサを設置し、これを圧力検知手段51とする。また、ヒータ13の温度を例えば熱電対のような温度検知手段52でモニタリングできるようにしておく。そして、圧力検知手段51で検知される圧力が燃料の臨界圧力未満の場合には、温度検知手段52の検出値をモニタリングしながら、ヒータ13の温度が燃料の飽和温度を超えないように、ヒータ13の動作を制御する。また、圧力検知手段51で検知される圧力が燃料の臨界圧力以上の場合には、温度検知手段52の検出値をモニタリングしながら、ヒータ13の温度が燃料の擬臨界温度を超えないように、ヒータ13の動作を制御する。
以上のように、燃料流路12内の燃料の圧力に応じて、ヒータ13の最高温度を燃料の飽和温度または擬臨界温度以下に制限すれば、ヒータ13により加熱される燃料は原理的にヒータ13よりも高温にはなりえないので、燃料流路12内の燃料の温度を飽和温度または擬臨界温度よりも低い温度に保つことができ、上述した沸騰に近い現象も含めて、ヒータ13による燃料加熱時の急激な圧力波の発生を確実に防止することができる。なお、ヒータ13は基本的に噴射孔2に近い側の方が温度が高く、噴射孔2から遠ざかるにつれて温度が下がるため、ヒータ13の最高温度を燃料の飽和温度または擬臨界温度以下に制限するには、噴射孔2に最も近い側のヒータ13の温度を温度検知手段52でモニタリングしながら、この温度が燃料の飽和温度または擬臨界温度を超えないようにヒータ13の動作を制御すればよい。なお、ヒータ13の温度を判断する手法としては、ヒータ13に熱電対のような温度検知手段52を設ける手法以外にも、例えば、ヒータ13自体で温度を検知できるようにしてもよい。また、ヒータ13に供給する電力量とヒータ13の温度との関係を予め求めておいて、この関係をもとにヒータ13の温度を推定し、この温度が燃料の飽和温度または擬臨界温度を超えないようにヒータ13の動作を制御するようにしてもよい。
ところで、一般に自動車などに使用される燃料はガソリンや軽油等の混合物であり、混合物に含まれる内容物によって飽和温度や擬臨界温度は変化してしまうため、予め燃料の飽和温度や擬臨界温度を知ることが難しい場合も多い。
そこで、燃料の飽和温度や擬臨界温度を予め知ることができない場合には、圧力検知手段51により検知される燃料流路12内の燃料の圧力変動から燃料の沸騰或いは沸騰に近い現象が生じていると判断されたときに、次回以降の燃料噴射時における燃料加熱の条件や燃料圧力を調整することで、沸騰或いは沸騰に近い現象が継続しないようにすることも有効である。
具体的には、例えば、圧力検知手段51により所定値以上の圧力変動が検知された場合に、次回以降の燃料噴射時におけるヒータ13の最高温度が、今回の燃料噴射時におけるヒータ13の最高温度よりも低くなるように、ヒータ13の動作を制御する。ヒータ13の最高温度を低い方向に変更しても未だ所定値以上の圧力変動が検知される場合は、ヒータ13の最高温度をさらに低く制限するように、ヒータ13の動作を制御する。
なお、制御の閾値となる所定値は、燃料の沸騰或いは沸騰に近い現象による圧力変動であるか否かを判定するものであり、予め実験などを行って最適な値を定めておく。燃料流路12内の燃料の圧力は、例えばプランジャロッド5の移動などに伴って多少なりとも変動するので、このような沸騰或いは沸騰に近い現象以外の要因による圧力変動よりも十分に大きな値を所定値として設定し、沸騰或いは沸騰に近い現象が生じたときにのみ、ヒータ13の最高温度が低い方向に変更されるようにする。
また、例えば、圧力検知手段51により所定値以上の圧力変動が検知された場合に、次回以降の燃料噴射時における燃料の温度上昇速度が、今回の燃料噴射時における燃料の温度上昇速度よりも低くなるように、ヒータ13の動作を制御するようにしてもよい。ヒータ13の温度上昇速度を低下させると、過熱度が低くなるため沸騰或いは沸騰に近い現象が発生しにくくなるからである。なお、このような過熱度に依存する現象は、飽和温度の場合だけでなく、擬臨界温度の場合も同様に生じ得るものである。
また、例えば、圧力検知手段51により所定値以上の圧力変動が検知された場合に、次回以降の燃料噴射時に噴射される燃料が、今回の燃料噴射時に噴射された燃料よりも高い圧力となるように、燃料の加圧状態を変化させるようにしてもよい。燃料圧力を上昇させると、その分、燃料の飽和温度または擬臨界温度が高くなり、それまでの燃料噴射時と同じ条件でヒータ13の動作を制御して燃料を加熱した場合、燃料の過熱度が低くなるために、沸騰或いは沸騰に近い現象が発生しにくくなるからである。
本実施形態の燃料噴射装置は、以上のように、ヒータ13の温度が燃料の飽和温度または擬臨界温度を超えないようにヒータ13の動作を制御することで燃料の沸騰或いは沸騰に近い現象が発生することを防止し、または、燃料の沸騰或いは沸騰に近い現象が生じていると判断されたときに、次回以降の燃料噴射時における燃料加熱の条件や燃料圧力を調整することで、燃料の沸騰或いは沸騰に近い現象が継続しないようにしているので、上述した第1乃至第4の実施形態で得られる効果に加えて、燃料の沸騰或いは沸騰に近い現象に起因する上述した種々の問題を有効に回避して、より安定した燃料の加熱および噴射が可能になるといった効果が得られる。
以上、本発明を適用した燃料噴射装置の具体例として第1乃至第5の実施形態を例示したが、以上の各実施形態は本発明の一適用例を示したものであり、本発明の技術的範囲が以上の各実施形態で説明した内容に限定されることを意図するものではない。つまり、本発明の技術的範囲は、以上の各実施形態で開示した具体的構成に限らず、この開示から容易に導きうる様々な変形、変更、代替技術なども含むものである。
2 オリフィス(燃料噴射孔)
3 ノズルボディ
4 ヨーク
5 プランジャロッド
6 コア
8 開弁コイル
9 保持コイル
10 スプリング
12 燃料流路
13 ヒータ
15 絶縁膜
21 ヒータ
22 絶縁膜
31 触媒層
41 ヒータ
42 絶縁膜
51 圧力検知手段
52 温度検知手段
3 ノズルボディ
4 ヨーク
5 プランジャロッド
6 コア
8 開弁コイル
9 保持コイル
10 スプリング
12 燃料流路
13 ヒータ
15 絶縁膜
21 ヒータ
22 絶縁膜
31 触媒層
41 ヒータ
42 絶縁膜
51 圧力検知手段
52 温度検知手段
Claims (17)
- 内燃機関に燃料を噴射する燃料噴射装置において、
先端に燃料噴射孔を有するノズルと、
前記燃料噴射孔と繋がるように前記ノズル内部に形成された燃料流路と、
前記燃料流路に近接して配置され、前記内燃機関の運転状態に応じて動作制御されて前記燃料流路内の燃料を加熱するヒータとを備え、
前記燃料流路の上流側から下流側に亘る位置に応じて、前記燃料流路内の前記燃料が温度分布を持つように、前記ヒータの動作が制御されることを特徴とする燃料噴射装置。 - 前記ヒータは、発熱状態を個別に切替え可能な複数の発熱要素が前記燃料流路の上流側から下流側に亘って並ぶように配置されてなることを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射装置。
- 前記ヒータにより加熱する燃料の体積が、前記内燃機関の性能に応じて定められる1回あたりの燃料噴射量の最小値から最大値までの間の任意の体積に合わせて可変とされていることを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料噴射装置。
- 前記ヒータは、次回の燃料噴射時に噴射される燃料を加熱することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の燃料噴射装置。
- 前記ヒータは、次回の燃料噴射時に噴射される燃料を噴射直前に加熱することを特徴とする請求項4に記載の燃料噴射装置。
- 前記燃料流路内の燃料の圧力を検知する圧力検知手段を有し、
前記圧力検知手段で検知される圧力が前記燃料の臨界圧力未満の場合には、前記ヒータの温度の最大値が前記燃料の飽和温度以下となるように前記ヒータの動作が制御されるとともに、前記圧力検知手段で検知される圧力が前記燃料の臨界圧力以上の場合には、前記ヒータの温度の最大値が前記燃料の擬臨界温度以下となるように前記ヒータの動作が制御されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の燃料噴射装置。 - 前記燃料流路内の燃料の圧力を検知する圧力検知手段を有し、
前記圧力検知手段により前記燃料の所定値以上の圧力変動が検知された場合に、次回以降の燃料噴射時における前記ヒータの温度の最大値が、今回の燃料噴射時における前記ヒータの温度の最大値よりも低くなるように、前記ヒータの動作が制御されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の燃料噴射装置。 - 前記燃料流路内の燃料の圧力を検知する圧力検知手段を有し、
前記圧力検知手段により前記燃料の所定値以上の圧力変動が検知された場合に、次回以降の燃料噴射時における前記燃料の温度上昇速度が、今回の燃料噴射時における前記燃料の温度上昇速度よりも低くなるように、前記ヒータの動作が制御されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の燃料噴射装置。 - 前記燃料流路内の燃料の圧力を検知する圧力検知手段を有し、
前記圧力検知手段により前記燃料の所定値以上の圧力変動が検知された場合に、次回以降の燃料噴射時に噴射される燃料が、今回の燃料噴射時に噴射された燃料よりも高い圧力となるように加圧されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の燃料噴射装置。 - 前記ヒータは、前記燃料流路内の燃料を臨界温度以上に加熱することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の燃料噴射装置。
- 前記燃料流路内の燃料が臨界圧力以上に加圧されていることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の燃料噴射装置。
- 前記ヒータは、前記ノズルの前記燃料流路と接する内周面に設置されていることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の燃料噴射装置。
- 前記ヒータと前記ノズル内周面との間に電気的絶縁性を有する断熱部材が配置されていることを特徴とする請求項12に記載の燃料噴射装置。
- 前記ノズル内部に前記燃料噴射孔を開閉するプランジャーロッドが設けられて、当該プランジャーロッドの外周面と前記ノズルの内周面との間に前記燃料流路が形成されており、
前記ヒータは、前記プランジャーロッドの前記燃料流路と接する外周面に設置されていることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の燃料噴射装置。 - 前記ヒータと前記プランジャーロッド外周面との間に電気的絶縁性を有する断熱部材が配置されていることを特徴とする請求項14に記載の燃料噴射装置。
- 前記燃料流路と前記ヒータとの間に、前記燃料流路内の燃料の化学反応を促進する触媒が配置されていることを特徴とする請求項1乃至15のいずれか1項に記載の燃料噴射装置。
- 前記ヒータは、負の温度特性を有する材質からなる発熱要素が前記燃料流路の上流側から下流側に亘って異なる厚みで形成されてなることを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射装置。
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---|---|---|---|
JP2007332218A JP2009052537A (ja) | 2007-08-01 | 2007-12-25 | 燃料噴射装置 |
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Applications Claiming Priority (2)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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JP2007200944 | 2007-08-01 | ||
JP2007332218A JP2009052537A (ja) | 2007-08-01 | 2007-12-25 | 燃料噴射装置 |
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Publication Number | Publication Date |
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Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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JP2014118952A (ja) * | 2012-12-19 | 2014-06-30 | Denso Corp | 燃料噴射装置 |
JP2018525569A (ja) * | 2015-07-14 | 2018-09-06 | マルモーターズ エス.エレ.エル. | 噴射温度を通じた反応性制御により圧縮点火内燃機関の燃焼を制御する方法 |
-
2007
- 2007-12-25 JP JP2007332218A patent/JP2009052537A/ja active Pending
Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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JP2014118952A (ja) * | 2012-12-19 | 2014-06-30 | Denso Corp | 燃料噴射装置 |
JP2018525569A (ja) * | 2015-07-14 | 2018-09-06 | マルモーターズ エス.エレ.エル. | 噴射温度を通じた反応性制御により圧縮点火内燃機関の燃焼を制御する方法 |
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