以下、本発明を直噴エンジンに適用した場合の実施形態を図に基づいて説明する。
(第1実施形態)
図1〜図9に基づいて本実施形態に係る燃料噴射装置を説明する。図1においては、燃料噴射装置100と燃料噴射システム300の他に、シリンダヘッド200も図示している。以下においては互いに直交の関係にある3方向を、x方向、y方向、z方向と示す。そしてx方向とy方向によって規定される平面をx−y平面と示す。
図1に示すように、燃料噴射装置100はエンジンの燃焼室の一部を構成するシリンダヘッド200に設けられる。シリンダヘッド200は燃焼室の一部を構成する内壁面200aと燃焼室の外に位置する外壁面200bとを有する。シリンダヘッド200には内壁面200aと外壁面200bを連通する挿入孔201が形成されている。挿入孔201の形状は、燃料噴射装置100の外形形状に合わせて形成されている。この挿入孔201に燃料噴射装置100が設けられる。
燃料噴射装置100には円環状のシール材202が設けられている。シール材202の中空に燃料噴射装置100が挿入されている。シール材202は燃料噴射装置100と挿入孔201を構成する側壁面201aとの間で挟持される。このシール材202により、挿入孔201と燃料噴射装置100との間の隙間が塞がれる。これにより、燃焼室内で発生した排気ガスなどが挿入孔201を介して燃焼室の外に漏れることが抑制されている。
シリンダヘッド200の外壁面200bには円環状の座金203が設けられている。この座金203の中空に燃料噴射装置100が挿入されている。また、燃料噴射装置100は図示しないクリップによって座金203に押し付けられている。このクリップの弾性力によって、燃料噴射装置100はシリンダヘッド200に機械的に固定されている。
図1に示すように燃料噴射装置100は、ボディ10、弁部30、バネ40、電磁部50、および、昇温部60を有する。ボディ10は燃料の流通する燃料流路11を内部に形成している。この燃料流路に弁部30とバネ40が設けられる。バネ40は弁部30に付勢力を付与する。これにより燃料流路11が閉塞される。この結果、燃料噴射装置100は閉弁される。
電磁部50はボディ10に設けられる。電磁部50は磁気回路を形成する。これにより弁部30がバネ40の付勢力に抗してボディ10の軸方向に動かされ、燃料流路11が開放される。この結果、燃料噴射装置100が開弁される。この開弁により、燃料噴射装置100から燃焼室へと燃料が噴射される。
昇温部60はボディ10に固定されている。昇温部60は発熱することで燃料流路11の燃料を昇温する。これにより燃料噴射装置100から燃焼室に噴射される燃料の微粒化が促進される。以下、燃料噴射装置100の各構成要素を詳説する。
ボディ10は、ノズルボディ12、固定コア13、非磁性部材14、および、噴孔プレート15を有する。ノズルボディ12、固定コア13、および、非磁性部材14それぞれは筒形状を成している。ノズルボディ12、固定コア13、および、非磁性部材14それぞれの軸方向はz方向に沿い、x−y平面で一致している。
ノズルボディ12と固定コア13とは非磁性部材14を介して機械的に連結されている。これらノズルボディ12、固定コア13、および、非磁性部材14の中空部によって燃料流路11が構成されている。図1では、燃料流路11の中心軸CAを一点鎖線で示している。
ノズルボディ12、固定コア13、および、非磁性部材14によって、第1開口部10aと第2開口部10bを有する筒が形成されている。第1開口部10aはノズルボディ12の先端で構成されている。第2開口部10bは固定コア13の先端で構成されている。ノズルボディ12の先端に噴孔プレート15が固定されている。噴孔プレート15には微小な噴射孔15aが形成されている。固定コア13の先端には図示しない燃料配管が固定されている。この燃料配管はデリバリーパイプ、高圧ポンプ、フィードポンプ、および、燃料タンクと連結されている。
フィードポンプ、高圧ポンプ、および、デリバリーパイプなどによって供給された燃料タンクの燃料は燃料流路11に流入される。燃料流路11に流入した燃料は、弁部30の電磁部50による軸方向の運動により、噴孔プレート15の噴射孔15aから燃焼室に噴射される。
ノズルボディ12は磁性材料からなる。ノズルボディ12は母材を切削加工などによって形状を整えることで製造される。ノズルボディ12は挿入孔201に挿入される。
ノズルボディ12は、ボディ部16と取り付け部17を有する。ボディ部16と取り付け部17それぞれは筒形状を成し、その軸方向はz方向に沿っている。ボディ部16と取り付け部17はz方向において一体的に連結されている。
ボディ部16は、上記の第1開口部10aを構成する。このボディ部16の開口部が閉塞されるように、ボディ部16に噴孔プレート15が固定されている。ボディ部16は円筒形状を成している。そのためにボディ部16の内径と外径はそれぞれ一定である。ボディ部16の内側面16aと外側面16bそれぞれには凹凸が形成されていない。ボディ部16の内側面16aと外側面16bとの間の厚みは、ボディ部16の剛性強度を保証する程度に設定される。この外側面16bに昇温部60のヒータ61が取り付け固定される。
取り付け部17は、その外側面17aに電磁部50のハウジング54が固定される。また取り付け部17の内側面17bにはバネ40の下バネ42と、電磁部50の可動コア55が設けられる。取り付け部17のボディ部16側の内径は一定である。しかしながら取り付け部17の固定コア13側の内径は、下バネ42と可動コア55を設けるために一定ではなくなっている。
取り付け部17の内側面17bの一部は、下バネ42を設けるための環状の設置面を構成している。この設置面はx−y平面に沿っている。図1に示すように、下バネ42に可動コア55が搭載されている。取り付け部17の内径は、この設置面から固定コア13側へと向かうにしたがって、2段階に広がっている。1段階目の内径は、下バネ42の周囲を囲むように設定されている。これにより下バネ42のx−y平面に沿う方向での位置ずれが防止されている。2段階目の内径は、可動コア55と接触するように設定されている。これにより可動コア55のx−y平面に沿う方向での位置ずれが防止されている。
固定コア13は、磁性材料から成る。固定コア13は母材を切削加工などによって形状を整えることで製造される。固定コア13の内径は一定である。しかしながら固定コア13の外径は、z方向においてノズルボディ12から離れるにしたがって狭くなっている。
固定コア13のノズルボディ12側の開口部を構成する端部に非磁性部材14が固定される。この非磁性部材14の内側に可動コア55が設けられている。この可動コア55の固定コア13側の上端面55aは、固定コア13のノズルボディ12側の開口部を構成する端部の端面13aと対向している。この端面13aと上端面55aそれぞれはx−y平面に沿っている。
固定コア13の端面13aと可動コア55の上端面55aとは、電磁部50によって磁気回路が形成されない場合、バネ40の付勢力により、z方向において離間している。そのため端面13aと上端面55aとの間に隙間が形成され、この隙間と固定コア13の中空とが連通されている。しかしながら電磁部50によって磁気回路が形成されると、その磁気回路によって可動コア55がバネ40の付勢力に抗して固定コア13側に移動し、上端面55aと端面13aとが接触する。これにより端面13aと上端面55aとの間の隙間がなくなる。
固定コア13の上記の燃料配管の接続される開口部を構成する端部の外側面13bには、バックアップリング20、Oリング21、環状ストッパ22が設けられている。図1に示すように、z方向においてノズルボディ12から固定コア13に向かう方向に、バックアップリング20、Oリング21、環状ストッパ22が順に並んでいる。このようにOリング21はバックアップリング20と環状ストッパ22とによって挟まれている。これによりOリング21が固定コア13から外れることが抑制されている。なお、固定コア13の燃料配管の接続される開口部を構成する端部の外側面13bには、環状ストッパ22を設けるための環状の溝部13cが形成されている。
固定コア13の中空には、弁部30の一部、バネ40の上バネ41、および、上バネ41に付勢力を発生させるための圧入部材23が設けられている。圧入部材23は筒形状を成す。圧入部材23は固定コア13の燃料配管の接続される開口部からその内部へと圧入される。これにより圧入部材23の外側面23aと固定コア13の内側面13dとの間に圧入部材23の復元力が発生し、圧入部材23は固定コア13内に固定されている。圧入部材23の圧入により、上バネ41は弁部30と圧入部材23との間でz方向に圧縮される。
固定コア13の中空には、フィルタ24も設けられている。フィルタ24は金属から成り、網目構造を有している。フィルタ24は固定コア13の燃料配管の接続される開口部側の中空に設けられる。燃料配管を介して固定コア13の構成する燃料流路11に流入した燃料はフィルタ24を通過する。これにより燃料に含まれるゴミがフィルタ24によって除去される。このフィルタ24によってゴミの除去された燃料がノズルボディ12の構成する燃料流路11へと流れる。
非磁性部材14は、その名の示す通り、非磁性材料から成る。非磁性部材14は、電磁部50によって形成される磁気回路の可動コア55への通過が妨げられることを抑制する機能を果たす。非磁性材料としては、例えばセラミックを採用することができる。
非磁性部材14の内径と外径は一定である。非磁性部材14はノズルボディ12と固定コア13とを機械的に連結する機能も果たす。非磁性部材14はノズルボディ12と固定コア13それぞれと接合されている。
噴孔プレート15はボディ部16の開口部に設けられる。噴孔プレート15は、ボディ部16に固定される固定部18と、噴射孔15aの形成された噴孔部19と、を有する。固定部18は筒形状を成す。固定部18は外径と内径とが一定である。固定部18はボディ部16の中に設けられる。固定部18の外面がボディ部16の内面に溶接接合される。
噴孔部19は固定部18の燃焼室側の開口部を塞ぐ円盤形状を成している。噴孔部19の中央部は燃焼室側に突起している。これにより噴孔部19の外面と内面それぞれは円錐の側面と同様の形状を成している。この噴孔部19の内面に、弁部30の先端が着座したり離座したりする。噴孔部19の中央には、燃料を霧状に噴射するための噴射孔15aが複数形成されている。弁部30の離座により、噴射孔15aから燃焼室への燃料の噴射がなされる。弁部30の着座により、噴射孔15aから燃焼室への噴射が止められる。
弁部30はz方向に延びる円柱形状を成す。弁部30とボディ10の軸方向はx−y平面において一致している。弁部30はボディ部16から取り付け部17へと向かうにしたがって、段々と径が太くなる形状を有している。
弁部30は母材を切削加工などによって形状を整えることで製造される。弁部30は、第1柱部31、第2柱部32、および、第3柱部33を有する。第1柱部31、第2柱部32、および、第3柱部33はz方向において順に一体的に連結されている。
第1柱部31は円柱状を成し、ボディ部16の中に位置している。第1柱部31の径は、噴孔部19の内面に先端が着座することで、噴射孔15aから燃料の噴射が止められるように設計されている。第1柱部31の先端の縁部には、噴孔部19の内面と同一の傾斜角度のテーパが形成されている。この第1柱部31のテーパ状の縁部が噴孔部19の内面と全面的に接触することで、噴射孔15aからの燃料の噴射が止められる。
第2柱部32は円柱状を成し、ボディ部16と取り付け部17の中に位置している。また、第2柱部32の第3柱部33側の部位は、可動コア55の中空にも位置している。第2柱部32の径は、第1柱部31から第3柱部33へと向かう方向において、徐々に広くなった後、一定となっている。第2柱部32の径は、弁部30の剛性強度を保ちつつ、燃料流路11内に貯留される燃料の量が少なくならないように設計されている。
第3柱部33は円盤状を成し、固定コア13の中に位置している。第3柱部33の下面33aの中央に第2柱部32が一体的に連結されている。第3柱部33の径は、下面33aの縁部が可動コア55の上端面55aと円環状に接触するように設定されている。第3柱部33の上面33bには上バネ41が設けられている。
バネ40は可動コア55と弁部30に付勢力を付与するものである。バネ40は上バネ41と下バネ42を有する。上バネ41は固定コア13の中に設けられている。上バネ41は弁部30と圧入部材23とによってz方向に圧縮されている。これにより上バネ41は、z方向において上バネ41から離れる方向に付勢力を発生させている。
下バネ42は取り付け部17の中に設けられている。下バネ42は可動コア55の下端面55bと取り付け部17の設置面との間に位置している。上記したように弁部30の第3柱部33の上面33bに上バネ41が設けられている。第3柱部33の下面33aは可動コア55の上端面55aと接触している。そして弁部30には上バネ41の付勢力が付与されている。このため、可動コア55にも上バネ41の付勢力が付与されている。下バネ42はこの付勢力によって可動コア55と取り付け部17との間でz方向に圧縮されている。これにより下バネ42は、z方向において下バネ42から離れる方向に付勢力を発生させている。
以上に示したように、可動コア55には、上バネ41と下バネ42それぞれの付勢力が付与されている。上バネ41から可動コア55に付与する付勢力と、下バネ42から可動コア55に付与する付勢力は逆向きである。したがって可動コア55に付与されている2つの付勢力は打ち消し合う。しかしながら上バネ41のほうが下バネ42よりも可動コア55に付与する付勢力が高く設定されている。そのため、バネ40の付勢力により、可動コア55の上端面55aは固定コア13の端面13aと隙間を介して離間している。これにより、この隙間と固定コア13の中空とが連通されている。
電磁部50は、ソレノイドコイル51、コネクタ52、樹脂部53、ハウジング54、および、可動コア55を有する。ソレノイドコイル51はコネクタ52とともに樹脂部53によって一体的に連結されている。ソレノイドコイル51は上バネ41の周囲を囲むように、固定コア13の外側面13bに樹脂部53によって固定されている。
ハウジング54は筒形状を成している。ハウジング54はソレノイドコイル51と樹脂部53それぞれの周囲を囲むように取り付け部17に固定されている。またハウジング54は座金203と円環状に接触し、座金203を介してシリンダヘッド200に固定されている。
可動コア55も筒形状を成し、取り付け部17内に設けられている。可動コア55の中空に弁部30が挿入されている。また可動コア55には、上端面55aと下端面55bとを連通する連通孔55cが形成されている。上記したようにバネ40の付勢力によって上端面55aと固定コア13の端面13aとが離間している場合、固定コア13の中空とノズルボディ12の中空は、連通孔55cを介して連通される。なお可動コア55もハウジング54によって周囲を囲まれている。
ハウジング54と可動コア55は磁性材料によって形成されている。上記したように取り付け部17と固定コア13も磁性材料によって形成されている。そして非磁性部材14は非磁性材料から成る。そのため、コネクタ52を介してソレノイドコイル51に電流を流すと、それによって発生する磁束は、固定コア13、可動コア55、取り付け部17、および、ハウジング54を通る磁気回路を形成する。この磁気回路が形成されると、可動コア55はバネ40の付勢力に抗して固定コア13側へと移動しようとする。上記したように可動コア55の上端面55aに弁部30の下面33aが円環状に接触している。したがって磁気回路の形成による可動コア55の固定コア13側への移動により、弁部30も固定コア13側へと移動する。これにより弁部30の先端が噴孔部19の内面から離座し、噴射孔15aから燃焼室への燃料の噴射がなされる。またこの際に、連通孔55cを介した固定コア13の中空とノズルボディ12の中空との連通が遮断される。
昇温部60は、ヒータ61と、ヒータカバー62と、を有する。ヒータ61は円筒形状を成す。ヒータ61の軸方向はz方向に沿っている。図2および図3に示すようにヒータ61の内周面61aの全てがボディ部16の外側面16bと面接触している。ヒータ61は薄膜形状を成している。
ヒータカバー62は円筒形状を成す。ヒータカバー62の軸方向はz方向に沿っている。ヒータカバー62はヒータ61に挿入されている。図3に示すようにヒータ61とヒータカバー62との間には、ヒータカバー62よりも伝熱性の低い断熱部63が設けられている。ヒータカバー62とヒータ61それぞれは断熱部63と密着している。ヒータ61の外周面61bの全面が断熱部63を介してヒータカバー62の内周面62aと対向している。なお、ヒータカバー62とヒータ61との間に断熱部63が設けられない場合、ヒータ61の外周面61bの全面がヒータカバー62の内周面62aと密着して面接触する。
図4に本実施形態のヒータ61の具体的な形状を示す。ヒータ61は絶縁フィルム64、導電パターン65、および、電極66を有する。絶縁フィルム64は薄膜形状を成す。導電パターン65と電極66それぞれは絶縁フィルム64に形成されている。
絶縁フィルム64は絶縁性、耐熱性、および、耐ガソリン性を兼ね備えた樹脂材料から成る。絶縁フィルム64の具体的な形成材料としては、例えばポリイミド、ポリアミドイミド、テフロン(登録商標)などを採用することができる。
導電パターン65は、例えばNiCrなどの導電性、伝熱性、展延性、および、弾性を備える金属材料から成る。
電極66は例えばAlなどの導電材料から成る。電極66は正極端子67と負極端子68とを有する。この正極端子67と負極端子68とが導電パターン65を介して電気的に接続されている。
正極端子67と負極端子68それぞれには、導電パターン65に電流を流すための接続配線69が接続されている。この接続配線69は、図1に示すように、コネクタ52の一部と電気的に接続されている。接続配線69は樹脂部53の中を通り、ハウジング54の外側面に沿わせて設けられている。座金203、および、ハウジング54における座金203との接触部位の少なくとも一方には、接続配線69を通すための溝が形成されている。また、ハウジング54には接続配線69を通すための孔が形成されている。この孔を通った接続配線69はノズルボディ12の側面に沿って設けられている。そして接続配線69の端部が正極端子67と負極端子68それぞれと電気的に接続されている。
コネクタ52にはドライバ110が電気的に接続されている。ドライバ110からコネクタ52へと電流を流すことで、導電パターン65に電流が流れる。これによりヒータ61は発熱する。ドライバ110と燃料噴射装置100によって燃料噴射システム300が構成されている。ドライバ110が制御部に相当する。
図4に示すように、本実施形態では導電パターン65は第1導電パターン65aと第2導電パターン65bを有する。正極端子67は第1導電パターン65aに対応する第1正極端子67aと、第2導電パターン65bに対応する第2正極端子67bを有する。負極端子68は第1導電パターン65aと第2導電パターン65bそれぞれに共通している。
第1導電パターン65aと第2導電パターン65bとは並列接続されている。これら第1導電パターン65aと第2導電パターン65bとによって構成される等価回路を図5の(a)欄に示す。ドライバ110はこの等価回路に記載の第1スイッチ111と第2スイッチ112、および、出力部113を有する。第1スイッチ111は第1導電パターン65aと直列接続されている。第2スイッチ112は第2導電パターン65bと直列接続されている。出力部113は第1スイッチ111と第2スイッチ112にデジタルの制御信号を出力する。この制御信号のパルス周期やパルス幅を制御することで、第1導電パターン65aと第2導電パターン65bの通電が制御される。換言すれば、第1導電パターン65aと第2導電パターン65bの発電が制御される。なお図5の(b)欄に、第1導電パターン65aと第2導電パターン65bとが第1スイッチ111とともに直列接続された場合の等価回路を示す。
図4に示すように、第1導電パターン65aは第1正極端子67aから負極端子68へと向かってジグザグに折れ曲がって延びている。第2導電パターン65bも同様にして第2正極端子67bから負極端子68へと向かってジグザグに折れ曲がって延びている。これにより第1導電パターン65aと第2導電パターン65bそれぞれの配線長を稼いでいる。換言すれば、第1導電パターン65aと第2導電パターン65bそれぞれの絶縁フィルム64における形成面積を稼いでいる。さらに言いかえれば、第1導電パターン65aと第2導電パターン65bそれぞれのボディ部16における発熱面積を稼いでいる。
本実施形態では、第2導電パターン65bのジグザグに折れ曲がる第2ピッチP2は、第1導電パターン65aのジグザグに折れ曲がる第1ピッチP1よりも短くなっている。これにより第2導電パターン65bは第1導電パターン65aよりも絶縁フィルム64における単位面積当たりの形成面積が大きくなっている。換言すれば、第2導電パターン65bは第1導電パターン65aよりもボディ部16における単位面積当たりの発熱面積が大きくなっている。
また第2導電パターン65bは第1導電パターン65aよりも、延長方向に直交する断面の面積が広くなっている。第2導電パターン65bは第1導電パターン65aよりも厚くなっている。具体的には、第2導電パターン65bは第1導電パターン65aよりも数%〜数十%厚くなっている。本実施形態では第2導電パターン65bは第1導電パターン65aよりも20%程度厚くなっている。これにより第2導電パターン65bは第1導電パターン65aよりも抵抗値が低く、電流が流れやすくなっている。以上により、第2導電パターン65bは第1導電パターン65aよりも発熱しやすくなっている。
さらに、第2導電パターン65bは第1導電パターン65aよりも噴射孔15a側に位置する。そのため、噴射孔15a側の燃料流路11内の燃料を昇温しやすくなっている。
図6〜図8に実際に本発明者が行った実験結果を示す。図6の(a)欄に、比較構成として、絶縁フィルム64に一つの導電パターン65が形成された構成を示す。図6の(b)欄に、絶縁フィルム64に二つの第1導電パターン65aと第2導電パターン65bが形成された本実施形態の構成を示す。
図7に、上記の比較構成の導電パターン65と、本実施形態の第1導電パターン65aと第2導電パターン65bとに同一の電力を流した場合の実験結果を示す。比較構成の導電パターン65に流した電力をP0、第1導電パターン65aに流した電力をP1、第2導電パターン65bに流した電力をP2とすると、P0=P1+P2が成立する。この比較構成の噴孔プレート15の温度の時間変化を破線で示す。本実施形態の噴孔プレート15の温度変化を実線で示す。図7に明示されるように、本実施形態のほうが比較構成と比べて噴孔プレート15の温度が昇温しやすくなっている。このように導電パターンを2つに分けることで、噴孔プレート15の温度、すなわち、噴射孔15a側の燃料流路11内の燃料の温度を効率よく昇温することができる。
なお、上記の実験では、比較構成の導電パターン65の接触面積をS0、第1導電パターン65aの接触面積をS1、第2導電パターン65bの接触面積をS2とすると、S0=S1+S2が成立する。またS2<S1が成立する。したがって比較構成の導電パターン65の熱流束Q0はP0/S1と表される。同様にして第1導電パターン65aの熱流束Q1はP1/S1、第2導電パターン65bの熱流束Q2はP2/S2と表される。ここで、Q1<Q0<Q2が成立する。このように第2導電パターン65bを第1導電パターン65aよりも高温に発熱している。
図8に、上記の電力を流した場合の燃料噴射装置100に生じる温度分布を濃淡で示す。濃淡が濃いほどに温度が低く、濃淡が薄いほどに温度が高いことを示している。この実験結果からも明らかなように、本実施形態のほうが比較構成と比べて噴孔プレート15側を高温にしやすくできる。噴孔プレート15側へと向かうにしたがって高温となる温度分布が形成されるとともに、その温度勾配を急にすることができる。
このような温度分布は、特に、車両を始動する際に形成すると効果的である。車両が駐停車してエンジンの駆動が止まっている場合、エンジンは冷えている。そのために燃料噴射装置100内の燃料も冷えている。この燃料噴射装置100内の燃料のうち、エンジンの始動時に噴射される燃料は、噴孔プレート15側の燃料である。そのため、上記した温度分布を形成することで、噴孔プレート15側の燃料流路11内の燃料の温度を効率よく昇温することができる。これにより、エンジンの始動時において、燃焼室に噴射する燃料の微粒化を実現することができる。
なお、このようなヒータ61による燃料の昇温は、当然ながら、エンジンの始動前に行う必要がある。このようなヒータ61による燃料の昇温開始タイミングとしては、例えば、以下に示すタイミングを採用することができる。駐停車状態の車両へユーザが乗車する際にドアが開かれたタイミング、ユーザによってイグニッションスイッチがオンになったタイミング、ユーザによってエンジンのクランキングが開始され始めたタイミング、などを採用することができる。ドライバ110はこれらのタイミングにおいて、上記の温度分布が形成されるように、第2導電パターン65bを第1導電パターン65aよりも高温に発熱させ始める。
ヒータ61の通電制御としては、パルス幅制御を採用することができる。パルス幅によって通電と非通電の間隔が決定される。この通電と非通電の間隔は、例えばヒータ61の温度に基づいて決定することができる。ヒータ61の温度が低い場合、ヒータ61をより昇温するべく、ヒータ61への通電時間を長くし、非通電時間を短くする。これとは反対に、ヒータ61の温度が高い場合、ヒータ61の昇温を抑えるべく、ヒータ61への通電時間を短くし、非通電時間を長くする。
ヒータ61の温度は、例えば以下に示す方法によって検出することができる。ヒータ61の抵抗は、発熱に応じて変動する。その振る舞いはヒータ61の電熱線の形成材料の特性によって定まる。そのため、ヒータ61への印加電圧を一定として、ヒータ61に流れる電流を検出する。この電圧と電流からヒータ61の抵抗を検出し、その検出した抵抗と電熱線の形成材料の特性とに基づいてヒータ61の温度を検出してもよい。若しくは、単に、燃料噴射装置100に温度センサを搭載し、その温度センサよりヒータ61の温度を検出してもよい。温度センサは、ノズルボディ12などに搭載することができる。
次に、図9に基づいて、昇温部60のボディ部16への取り付けとともに、ヒータカバー62の概略形状を説明する。
図9の(a)欄に示すように、ヒータカバー62をボディ部16に取り付ける前に、先ずボディ部16にヒータ61を取り付ける。この際、内周面61aの全面がボディ部16の外側面16bと面接触するように、薄膜形状のヒータ61をボディ部16に巻いて取り付ける。そしてヒータ61とボディ部16とを接着剤などで仮止めする。なお、仮止めではなく、ヒータ61とボディ部16との間に全面にわたって接着剤を塗布することで、ヒータ61とボディ部16とを本固定してもよい。このような接着剤としては、耐熱性と伝熱性とを兼ね備えたものを採用することができる。
上記したようにヒータカバー62は円筒形状を成す。そしてヒータカバー62の内径はヒータ61の外径と同等、若しくは、ヒータ61の外径よりも狭く設計されている。したがって図9の(b)欄に示すように、ヒータカバー62はヒータ61の取り付けられたボディ部16に圧入される。なお図示しないが、ヒータ61とヒータカバー62との間には、ポリアミドイミドなどから成る絶縁シートが設けられている。この絶縁シートはヒータ61の一部でもよいし、ヒータ61とは別体でもよい。
上記した圧入により、ヒータカバー62は弾性変形している。この弾性変形したヒータカバー62に発生した弾性力(圧縮応力)によって、ヒータ61はボディ部16に押圧されている。これによりヒータ61の内周面61aとボディ部16の外側面16bとの接触信頼性が高められている。
図9の(c)欄に示すように、ヒータカバー62はボディ部16に圧入されると、ヒータカバー62の一方の開口端62cはノズルボディ12の取り付け部17と全周にわたって接触する。これによりヒータカバー62の一方の開口端62cは閉塞されている。またヒータカバー62の他方の開口端62dは噴孔プレート15(ボディ部16の開口部)と全周にわたって接触する。これによりヒータカバー62の他方の開口端62dは閉塞されている。
上記したようにボディ部16に圧入されると、シール材202がヒータカバー62に取り付けられる。この際、シール材202は取り付け溝70の底面70aと接触している。
本実施形態のヒータカバー62は金属製である。具体的にはハウジング54と同一材料を採用することができる。図9の(c)欄に示すように、ヒータカバー62は取り付け部17との接触部位にて三角記号で示すように溶接接合される。またヒータカバー62はボディ部16との接触部位にて三角記号で示すように溶接接合される。なおもちろんではあるが、ヒータカバー62と取り付け部17、および、ヒータカバー62と取り付け部17との機械的な接続は、溶接接合に限定されない。例えばろう接や接着などを採用することもできる。
次にヒータカバー62の形状を説明する。ヒータカバー62の内径は一定である。しかしながらヒータカバー62の外径は不定である。図2に示すように、ヒータカバー62には局所的に外径の狭まった、シール材202の取り付け溝70が形成されている。この取り付け溝70は、底面70a、下側面70b、および、上側面70cによって外形形状が形作られている。
下側面70bは上側面70cよりも燃焼室側に位置している。下側面70bと上側面70cそれぞれはヒータカバー62の軸方向周りの周方向において環状を成している。下側面70bはx−y平面に沿い、底面70aから垂直に立っている。これに対して上側面70cは、ヒータカバー62の軸方向に沿って燃焼室から離れるにしたがって、ヒータカバー62の中心軸から徐々に離れるように底面70aに対して傾斜している。
ヒータカバー62における上側面70cを含む部位は、z方向において燃焼室からその外側へと向かうにしたがって徐々に外径が広がっている。これにより上側面70cは燃焼室からその外側へと向かうにしたがって徐々に外径が広がるテーパ形状を成している。
このように上側面70cがテーパ形状を成しているのは、以下の理由のためである。シール材202は燃焼室とその外部とを連通する挿入孔201に設けられている。燃焼室内で燃料が爆発すると、それによって爆風が生じる。この爆風によって、シール材202は燃焼室の外へと移動しようとする。これによりシール材202によるシール性が損なわれる虞がある。
そのため、上記したようにヒータカバー62の上側面70cを、燃焼室からその外側へと向かうにしたがって徐々に広がるテーパ形状としている。爆風によってシール材202が燃焼室の外側へと移動しようとした場合、シール材202は、ヒータカバー62の上側面70cにて徐々に広がるように変形する。その変形によってヒータカバー62の外周面62bへと向かうシール材202の圧縮力が増大する。この圧縮力の増大にともない、シール材202とヒータカバー62との間に生じる摩擦力が増大する。これにより、シール材202の移動が抑制される。
なお、下側面70bは、シール材202をヒータカバー62の底面70aを有する部位に設けた際に、シール材202がヒータカバー62から外れることを防止する機能を果たしている。このように取り付け溝70の外径形状を形作る底面70a、下側面70b、および、上側面70cそれぞれがシール材202のストッパとしての機能を果たしている。
なお、下側面70bは無くともよい。この場合、ヒータカバー62の外径は、燃焼室からその外へと向かう方向において、一定となった後に徐々に広がるテーパ形状を成した後、再び一定となる。この変形例では、上側面70cがストッパとしての機能を果たす。
また、上側面70cは、外径が徐々に広がるテーパ形状でなくともよい。上側面70cは、段々と外径が広がる階段形状を成してもよい。若しくは、上側面70cは単に外径が局所的に長い形状を有してもよい。
次に、本実施形態に係る燃料噴射装置100の作用効果を説明する。上記したようにボディ部16は外径が一定となっている。そのため、このボディ部16に薄膜形状のヒータ61を面接触させることができる。これにより燃料噴射装置100が太くなることが抑制される。これに伴い、燃料噴射装置100の挿入される挿入孔201が広がることが抑制される。燃料噴射装置100と挿入孔201を構成する側壁面201aとの間の隙間が広がることが抑制され、挿入孔201のシール性が損なわれることが抑制される。
また薄膜形状のヒータ61を覆うヒータカバー62の外周面62bにシール材202が設けられる。そしてその外周面62bにシール材202の外れを防止する取り付け溝70が形成されている。これによればボディ部に取り付け溝が形成される構成とは異なり、薄膜形状のヒータ61のボディ部16への搭載面積が低減することが抑制される。このため、ボディ部16内の燃料を効率よく昇温することができる。
ヒータ61とヒータカバー62との間に、ヒータカバー62よりも伝熱性の低い断熱部63が設けられている。ヒータカバー62とヒータ61それぞれは断熱部63と密着している。これによれば、ヒータ61にて発生した熱がヒータカバー62に伝熱することが抑制される。これによりボディ部16内の燃料の昇温が妨げられることが抑制される。
ヒータ61はヒータカバー62によってボディ部16に押圧されている。これによれば、ヒータ61とボディ部16との機械的な接続信頼性が向上される。また、ヒータ61とボディ部16との接触面積が増大し、それによってヒータ61にて生じた熱を効率良くボディ部16内の燃料に伝達することができる。
導電パターン65は第1導電パターン65aと第2導電パターン65bを有し、並列接続されている。そして第1導電パターン65aは第1スイッチ111と直列接続されている。第2導電パターン65bは第2スイッチ112と直列接続されている。
これによれば、第1スイッチ111と第2スイッチ112とを個別に制御することで、第1導電パターン65aと第2導電パターン65bそれぞれへの通電を独立して制御することができる。換言すれば、第1導電パターン65aと第2導電パターン65bそれぞれの発熱を独立して制御することができる。
第2導電パターン65bは第1導電パターン65aよりも絶縁フィルム64における単位面積当たりの形成面積が大きくなっている。換言すれば、第2導電パターン65bは第1導電パターン65aよりもボディ部16における単位面積当たりの発熱面積が大きくなっている。また第2導電パターン65bは第1導電パターン65aよりも抵抗値が低く、電流が流れやすくなっている。さらに、第2導電パターン65bは第1導電パターン65aよりも噴射孔15a側に位置する。これらによれば、図6〜図8の実験結果に示されるように、1つの導電パターンに同等の電力供給をする場合と比べて、ボディ部16における噴射孔15a側の燃料流路11内の燃料を早く昇温することができる。
本実施形態では、第2導電パターン65bを第1導電パターン65aよりも高温に発熱させる。これにより噴孔プレート15側へと向かうにしたがって高温となる温度分布を形成するとともに、その温度勾配を急にしている。そしてこのような温度分布を、車両を始動する際に形成する。これによれば、噴孔プレート15側の燃料流路11内の冷えた燃料の温度を効率よく昇温することができる。これにより、エンジンの始動時において、燃焼室に噴射する燃料の微粒化を実現することができる。
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記した実施形態になんら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々変形して実施することが可能である。
(第1の変形例)
本実施形態では、図1に示すようにボディ部16の外側面16bの全面にヒータ61を設ける例を示した。しかしながらヒータ61のボディ部16の外側面16bへの取り付け領域としては上記例に限定されない。例えば図2で言えば、取り付け溝70と噴孔プレート15との間の外側面16bにヒータ61を形成してもよい。
本実施形態では導電パターン65は第1導電パターン65aと第2導電パターン65bを有する例を示した。しかしながら導電パターン65の有する導電パターンの数としては2つに限定されない。1つでもよく、3つ以上でもよい。導電パターンの数が増大すると、燃料噴射装置100に形成する温度分布を調整しやすくなる。
本実施形態では第1導電パターン65aと第2導電パターン65bそれぞれが対応する正極端子から負極端子へと向かってジグザグに折れ曲がって延びている例を示した。しかしながら第1導電パターン65aと第2導電パターン65bそれぞれの形状としては上記例に限定されない。
本実施形態では、第2導電パターン65bのジグザグに折れ曲がる第2ピッチP2は、第1導電パターン65aのジグザグに折れ曲がる第1ピッチP1よりも短くなっている例を示した。しかしながら第2ピッチP2と第1ピッチP1とは同一でもよい。さらに言えば、第2ピッチP2は第1ピッチP1よりも長くともよい。
本実施形態では、第2導電パターン65bは第1導電パターン65aよりも、延長方向に直交する断面の面積が広く、第2導電パターン65bは第1導電パターン65aよりも厚くなっている例を示した。しかしながら第2導電パターン65bと第1導電パターン65aは断面積が同一でもよい。さらに言えば、第2導電パターン65bは第1導電パターン65aよりも断面積が狭くともよい。また第2導電パターン65bと第1導電パターン65aは厚さが同一でもよい。さらに言えば、第2導電パターン65bは第1導電パターン65aよりも、薄くともよい。
(その他の変形例)
各実施形態では、燃料噴射装置100を直噴エンジンに適用した例を示した。しかしながら燃料噴射装置100をポート噴射式エンジンに適用してもよい。