JP2009046758A - 生体用Co基合金及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】従来の生体用Co基合金(Ni添加材、Niフリー材)のような多量のNi添加、特殊鋳型の使用によらなくても、従来の生体用Co基合金と同等もしくはそれ以上の強度および/または延性を有し得る生体用Co基合金及びその製造方法を提供する。
【解決手段】(1) Cr:26〜30質量%、Mo:5〜8質量%、C:0.20質量%以下、N:0.05〜0.25質量%を含有し、残部が実質的にCoからなると共に、結晶粒径の平均値が1.5〜15μmであり、FCC相の割合が90%以上であることを特徴とする生体用Co基合金、(2) このCo基合金においてHCP相の割合が5%以下であるもの、(3) 上記と同様組成のCo基合金を950〜1250℃に加熱し、鍛造打ち上がり温度:870℃以上、付与する鍛造歪み:30%以上の条件で鍛造した後、5〜200秒空冷し、しかる後、直ちに水冷することを特徴とする生体用Co基合金の製造方法等。
【選択図】図2

Description

本発明は、生体用Co基合金及びその製造方法に関する技術分野に属するものであり、特には、人工骨に好適な生体用Co基合金及びその製造方法に関する技術分野に属するものである。
ASTMF799には人工骨用材の満たすべき特性として、その大まかな組成範囲と機械的性質の規定はあっても、それを生み出す金属組織と製造方法については、特に規定がない。
特開2004−269994号公報には、HCP相であるε相を実質的に単相とすることで、十分な延性を得ている合金とその製造方法が開示されている。しかしながら、800℃で24時間の長時間熱処理がほどこされているため、延性は高いものの最高強度は800MPa程度に留まっている。
特開2002―363675号公報には、水冷銅鋳型を用いて鋳造し熱間鍛造することで、結晶粒径を50μm以下の組織を持つ材料を得る方法とその材料について記載されている。Co−29Cr−6Mo材で1200MPa近い強度が得られている。また、Niを16〜24%添加した材料では、1000MPa程度の強度ながら真歪みで0.5近い破断伸びも得ている。Niを添加しない場合には、真歪みで0.2程度の破断伸びまでの破断伸びが得られ、1200MPa程度の強度も得ている。(この特開2002―363675号公報記載の材料を、以下、従来の生体用Co基合金ともいう。この中、Niを16〜24%添加したもの、Niを添加しないものを区別していう必要がある場合には、それぞれを、以下、Ni添加材、Niフリー材ともいう。)
しかしながら、Ni添加は生体適合性の観点からは添加は最小限にすべきであり、上記従来の生体用Co基合金のNi添加材のような多量のNi添加は生体適合性の点から採用されにくい。さらに、上記従来の生体用Co基合金のNiフリー材での強度、延性は、特殊な鋳型を使うことで達成されており、大幅なコスト増は避けられない。
特開2004−269994号公報 特開2002―363675号公報
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、前記従来の生体用Co基合金(Ni添加材、Niフリー材)のような多量のNi添加、特殊鋳型の使用によらなくても、前記従来の生体用Co基合金と同等もしくはそれ以上の強度および/または延性を有し得る生体用Co基合金及びその製造方法を提供しようとするものである。
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。本発明によれば上記目的を達成することができる。
このようにして完成され上記目的を達成することができた本発明は、生体用Co基合金及びその製造方法に係わり、請求項1〜4記載の生体用Co基合金(第1〜4発明に係るCo基合金)、請求項5〜9記載の生体用Co基合金の製造方法(第5〜9発明に係る生体用Co基合金の製造方法)であり、それは次のような構成としたものである。
即ち、請求項1記載の生体用Co基合金は、Cr:26〜30質量%、Mo:5〜8質量%、C:0.20質量%以下(0質量%を含まず)、N:0.05〜0.25質量%を含有し、残部が実質的にCoからなると共に、結晶粒径の平均値が1.5〜15μmであり、FCC相の割合が面積率で90%以上であることを特徴とする生体用Co基合金である〔第1発明〕。
請求項2記載の生体用Co基合金は、HCP相の割合が面積率で5%以下である請求項1記載の生体用Co基合金である〔第2発明〕。
請求項3記載の生体用Co基合金は、O:100質量ppm以下(0質量ppmを含まず)である請求項1または2記載の生体用Co基合金である〔第3発明〕。請求項4記載の生体用Co基合金は、Si:0.5〜1.0質量%、Mn:0.5〜1.0質量%である請求項1〜3のいずれかに記載の生体用Co基合金である〔第4発明〕。
請求項5記載の生体用Co基合金の製造方法は、Cr:26〜30質量%、Mo:5〜8質量%、C:0.20質量%以下(0質量%を含まず)、N:0.05〜0.25質量%を含有し、残部が実質的にCoからなるCo基合金を、950〜1250℃に加熱し、鍛造打ち上がり温度:870℃以上、付与する鍛造歪み:30%以上の条件で鍛造した後、2〜200秒空冷し、しかる後、直ちに水冷することを特徴とする生体用Co基合金の製造方法である〔第5発明〕。
請求項6記載の生体用Co基合金の製造方法は、Cr:26〜30質量%、Mo:5〜8質量%、C:0.20質量%以下(0質量%を含まず)、N:0.05〜0.25質量%を含有し、残部が実質的にCoからなるCo基合金を、950〜1250℃に加熱し、鍛造打ち上がり温度:870℃以上、付与する鍛造歪み:30%以上の条件で鍛造した後、1〜50℃/sの冷却速度で冷却することを特徴とする生体用Co基合金の製造方法である〔第6発明〕。
請求項7記載の生体用Co基合金の製造方法は、Cr:26〜30質量%、Mo:5〜8質量%、C:0.10質量%以下(0質量%を含まず)、N:0.10〜0.25質量%を含有し、C+Nの総量が0.20〜0.30質量%であり、残部が実質的にCoからなるCo基合金を、1250℃以上の温度に加熱した後、この加熱温度以下1000℃以上の温度で合計30%以上の加工歪を加える鍛造をし、この鍛造の終了後0.5〜20秒以内の間に冷却を開始し、30℃/s以上の冷却速度で300℃以下まで冷却することを特徴とする生体用Co基合金の製造方法である〔第7発明〕。
請求項8記載の生体用Co基合金の製造方法は、前記Co基合金がO:100質量ppm以下(0質量ppmを含まず)である請求項5〜7のいずれかに記載の生体用Co基合金の製造方法である〔第8発明〕。請求項9記載の生体用Co基合金の製造方法は、前記Co基合金がSi:0.5〜1.0質量%、Mn:0.5〜1.0質量%である請求項5〜8のいずれかに記載の生体用Co基合金の製造方法である〔第9発明〕。
本発明に係る生体用Co基合金は、前記従来の生体用Co基合金(Ni添加材、Niフリー材)のような多量のNi添加、特殊鋳型の使用によらなくても、前記従来の生体用Co基合金と同等もしくはそれ以上の強度および/または延性を有し得る。従って、人工骨用材等の生体用材として好適に用いることができる。
本発明に係る生体用Co基合金の製造方法によれば、このように優れた効果を奏する本発明に係る生体用Co基合金を得ることができる。
本発明に係る生体用Co基合金は、前述のように、Cr:26〜30質量%、Mo:5〜8質量%、C:0.20質量%以下(0質量%を含まず)、N:0.05〜0.25質量%を含有し、残部が実質的にCoからなると共に、結晶粒径の平均値が1.5〜15μmであり、FCC相の割合が面積率で90%以上であることを特徴とする生体用Co基合金である〔第1発明〕。
この生体用Co基合金について数値限定理由等を以下説明する。
Crの含有量が26質量%(質量%を、以下、%ともいう)未満であると耐食性が劣化し、30%を超えると加工性が劣化する。従って、Cr:26〜30%としている。
Moの含有量が5%未満であると耐食性が劣化し、8%を超えると加工性が劣化する。従って、Mo:5〜8%としている。なお、Moは耐摩耗性向上の効果もある。
Cは耐摩耗性の必要性や必要具合によって添加されるべき元素であるが、Cの含有量が0.20%を超えた場合には形成される炭化物によって延性が低下すること、さらには、融点の低下によって、鍛造時の加熱で1250℃付近に昇温したときに、一部が溶融し鍛造ができなくなる場合があるため、0.20%をC含有量の上限とする。好ましくは0.10%以下である。
Nは、侵入型元素の中では特にFCC相の安定化に寄与する。Niフリーとした上で、FCC相を安定化するためには、Nの添加が効果的である。しかしながら、Nの添加量(含有量)が0.05%未満では、そのN添加効果(FCC相安定化効果)が顕著でなく、0.25%を超えると、窒化物形成などの延性を低下させる現象が懸念される。従って、N:0.05〜0.25%としている。FCC相安定化の点からはN含有量を0.10%以上とすることが望ましく、0.15%以上とすることは更に望ましい。
結晶粒径の平均値(以下、平均粒径ともいう)が1.5μmを下回ると、強度が高くなるが、延性が低下する。平均粒径:1.5〜15μmでは、強度と延性がバランスよく保たれる。15μmを超える平均粒径では、人工骨に求められる強度が維持できない。従って、平均粒径:1.5〜15μmとしている。延性の点からは平均粒径は3.0μm以上とすることが望ましく、更に5.0μm以上とすることが望ましく、7.0μm以上とすることは更に望ましい。強度の点からは平均粒径は13μm以下とすることが望ましく、更に10μm以下とすることが望ましい。
FCC相は延性に富む相であり、延性を向上させる作用効果がある。FCC相の割合が面積率で90%未満であると、延性が低下して不充分となる。従って、FCC相の割合が面積率で90%以上であることとしている。即ち、FCC相の面積率での割合(以下、FCC率ともいう)を90%以上としている。延性の点から、FCC率は93%以上とすることが望ましい。なお、FCC相とは、面心立方格子の結晶構造を有する相(フェィズ)のことである。
本発明に係る生体用Co基合金は、その組成(化学成分)および組織(平均粒径、FCC相の割合)に起因し、前記従来の生体用Co基合金と同等もしくはそれ以上の強度および/または延性を有し得る。また、その組成からわかるように、前記従来の生体用Co基合金のNi添加材のような多量のNi添加をするものではない。更に、後述する本発明に係る生体用Co基合金の製造方法により得ることができることからもわかるように、前記従来の生体用Co基合金のNiフリー材の製造の場合のような特殊鋳型を使用しなくても上記のような強度、延性を有するものが得られる。
故に、本発明に係る生体用Co基合金は、前記従来の生体用Co基合金(Ni添加材、Niフリー材)のような多量のNi添加、特殊鋳型の使用によらなくても、前記従来の生体用Co基合金と同等もしくはそれ以上の強度および/または延性を有し得る。
従って、本発明に係る生体用Co基合金は、人工骨用材等の生体用材として好適に用いることができ、その安全性の確保、経済性の向上がはかれる。即ち、前記従来の生体用Co基合金のNiフリー材と比較すると、製造コストが低いので、経済性に優れている。前記従来の生体用Co基合金のNi添加材と比較すると、生体適合性に優れて安全性に優れている。
FCCがマトリックスであった場合に塑性変形が進行すると双晶とHCP相が形成されることがわかった。本発明の実施例(後述の実施例8)に係るCo基合金よりなる引っ張り試験片を引っ張り試験した後の試験片の縦断面をEBSP解析したときのHCP相の面積率での割合(以下、HCP率ともいう)の変化を図1に示す。試験片ネジ部から、R部を含んで、試験片平行部の4カ所でHCP率を測定した。図1から、ネジ部から平行部に行くにつれて徐々にHCP率が増していることがわかる。つまり、変形の度合が大きい個所ほどHCP率が高く、変形の進行によってHCP相が増加している。このため、HCP相は変形前から存在することによって延性を低下させる要因であること、つまり、HCP相は延性を低下させる要因であることもわかる。
従って、延性の点ではHCP相は少ないことが望ましく、具体的にはHCP相の割合が面積率で5%以下であることが望ましい〔第2発明〕。即ち、HCP率(HCP相の面積率での割合)は5%以下であることが望ましい。HCP率が5%以下の場合、延性をより高度な水準のものにすることができる。延性の点から、HCP率は3%以下であることが更に望ましく、1%以下であることがより一層望ましい。なお、HCP相とは、稠密立方格子の結晶構造を有する相(フェィズ)のことである。HCP相はε相ともいわれる。
本発明に係る生体用Co基合金の製造方法には、第5発明〜第7発明に係る生体用Co基合金の製造方法がある。第5発明に係る生体用Co基合金の製造方法は、前述のように、Cr:26〜30質量%、Mo:5〜8質量%、C:0.20質量%以下(0質量%を含まず)、N:0.05〜0.25質量%を含有し、残部が実質的にCoからなるCo基合金を、950〜1250℃に加熱し、鍛造打ち上がり温度:870℃以上、付与する鍛造歪み:30%以上の条件で鍛造した後、2〜200秒空冷し、しかる後、直ちに水冷することを特徴とする生体用Co基合金の製造方法である〔第5発明〕。第6発明に係る生体用Co基合金の製造方法は、前述のように、Cr:26〜30質量%、Mo:5〜8質量%、C:0.20質量%以下(0質量%を含まず)、N:0.05〜0.25質量%を含有し、残部が実質的にCoからなるCo基合金を、950〜1250℃に加熱し、鍛造打ち上がり温度:870℃以上、付与する鍛造歪み:30%以上の条件で鍛造した後、1〜50℃/sの冷却速度で冷却することを特徴とする生体用Co基合金の製造方法である〔第6発明〕。第7発明に係る生体用Co基合金の製造方法は、前述のように、Cr:26〜30質量%、Mo:5〜8質量%、C:0.10質量%以下(0質量%を含まず)、N:0.10〜0.25質量%を含有し、C+Nの総量が0.20〜0.30質量%であり、残部が実質的にCoからなるCo基合金を、1250℃以上の温度に加熱した後、この加熱温度以下1000℃以上の温度で合計30%以上の加工歪を加える鍛造をし、この鍛造の終了後0.5〜20秒以内の間に冷却を開始し、30℃/s以上の冷却速度で300℃以下まで冷却することを特徴とする生体用Co基合金の製造方法である〔第7発明〕。
第5発明に係る生体用Co基合金の製造方法において、鍛造前の加熱温度を950〜1250℃にしている。この理由は下記の点にある。即ち、この加熱温度を950℃未満にすると十分なFCC相が得られず、かつ、鍛造するには変形抵抗が高い。950〜1250℃では、十分なFCC量が得られ、かつ、鍛造できる変形抵抗になる。1250℃を超えて加熱した場合には、炭素濃度によっては一部溶融する場合がある。かかる点から、鍛造前の加熱温度を950〜1250℃にしている。
鍛造打ち上がり温度を870℃以上としているのは、870℃未満にするとFCC相以外の相の分率が増し、FCC率が90%未満となるからである。FCC率の増大のためには、鍛造打ち上がり温度を900℃以上とすることが望ましい。
付与する鍛造歪みを30%以上としているのは、FCC相に歪みを加え、動的および静的再結晶を促し、結晶粒径の微細化を促進するためである。30%未満にすると再結晶が不十分にしかおこらず、結晶粒径も粗大であり、平均粒径が15μm超となる。結晶粒径の微細化の点からは、付与する鍛造歪みを50%以上とすることが望ましい。
鍛造後2〜200秒空冷している理由は下記の点にある。このように空冷時間を2〜200秒にすると、再結晶・粒成長の進行を促すことができる。空冷時間を2秒未満にすると再結晶・粒成長が不十分で、延性が低くなって不充分となる。空冷時間を200秒超にすると再結晶・粒成長は十分に進行するが、再結晶・粒成長完了後にHCP相も生成されてしまう。かかる点から、空冷時間を2〜200秒としている。延性の点からは、空冷時間を10秒以上とすることが望ましい。HCP率を小さくする点からは、空冷時間を150秒以下とすることが望ましい。
上記空冷の後、直ちに水冷するようにしているのは、この水冷に代えて徐冷(空冷を含む)をした場合には、HCP相が増加してしまうからである。
第5発明に係る生体用Co基合金の製造方法によれば、素材として用いるCo基合金の組成(化学成分)、鍛造前の加熱温度、鍛造打ち上がり温度、付与する鍛造歪み、及び、鍛造後の冷却方法に起因し、本発明に係る生体用Co基合金を得ることができる。
第6発明に係る生体用Co基合金の製造方法において、鍛造前の加熱温度を950〜1250℃にしている理由、鍛造打ち上がり温度を870℃以上としている理由、付与する鍛造歪みを30%以上としている理由は、第5発明に係る生体用Co基合金の製造方法の場合と同様である。
鍛造した後、1〜50℃/sの冷却速度で冷却する理由は下記の点にある。即ち、このような冷却速度で冷却すると、再結晶・粒成長を進行させつつ、HCP相の形成を抑制し得る。1℃/sより遅い冷却速度では、再結晶は十分に進行するが、HCP相の比率も高まってしまう。50℃/sを超える冷却速度では、HCP相の形成は抑制できるが、十分な再結晶・粒成長が得られない。かかる点から、鍛造後の冷却速度を1〜50℃/sとしている。再結晶・粒成長の点からは、鍛造後の冷却速度を5℃/s以上とすることが望ましく、10℃/s以上とすることが更に望ましく、15℃/s以上とすることは更に望ましい。HCP率(HCP相の面積率での割合)を低くする点からは、鍛造後の冷却速度を40℃/s以下とすることが望ましく、30℃/s以下とすることが更に望ましく、20℃/s以下とすることは更に望ましい。
第6発明に係る生体用Co基合金の製造方法によれば、素材として用いるCo基合金の組成(化学成分)、鍛造前の加熱温度、鍛造打ち上がり温度、付与する鍛造歪み、及び、鍛造後の冷却速度に起因し、本発明に係る生体用Co基合金を得ることができる。
第7発明に係る生体用Co基合金の製造方法においては、製造対象のCo基合金のC量を0.10%以下、N量を0.10〜0.25%、C+Nの総量を0.20〜0.30%としているので、Co基合金の鍛造に際しての鍛造前の加熱温度を1250℃以上に高められる。即ち、C量が高い場合には1250℃ぐらいでCo基合金の一部溶融が始まるので、加熱温度を1250℃以上とすることはできないが、上記のようなC量、N量、C+Nの総量にした場合にはCo基合金の溶融温度が高くなるので、加熱温度を1250℃以上とすることができる。そこで、Co基合金の鍛造前の加熱温度を1250℃以上としている。
このようにCo基合金の鍛造前の加熱温度を高められると、鍛造の際の変形抵抗が下がるので、型寿命を延ばすことができる。即ち、Co基合金の加熱温度を1250℃以上にすると、該加熱温度以下1000℃以上の温度で鍛造することができるので、鍛造の際の変形抵抗が低く、このため、鍛造の型寿命を延ばすことができる。
しかしながら、高温で鍛造も終了するため、結晶粒径制御のためには、高温で保持される時間を短時間にする必要がある。即ち、1000℃以上の温度で鍛造した場合には、鍛造直後の粒径が大きく、すみやかに冷却を開始し、且つ、冷却速度も十分に速くしないと15μm以上の粗大な粒径となってしまい、十分な強度を確保できない。そこで、鍛造終了後、冷却を開始するまでの時間を0.5〜20秒以内とした。このとき、冷却速度を30℃/s以上としている。これは、30℃/s未満にした場合には、HCP相の分率が増し、FCC率が90%未満となるからである。また、冷却を300℃以下までとしているのは、300℃未満の温度であれば粒径を粗大化する影響が極めて低いからである。なお、鍛造に際して付与する鍛造歪みを30%以上としている理由は、第5発明に係る生体用Co基合金の製造方法の場合と同様である。
第7発明に係る生体用Co基合金の製造方法によれば、素材として用いるCo基合金の組成(化学成分)、鍛造前の加熱温度、鍛造温度、付与する鍛造歪み、及び、鍛造後の冷却速度に起因し、本発明に係る生体用Co基合金を得ることができ、また、このCo基合金を得るに際し、鍛造時の変形抵抗が低くて鍛造しやすく、鍛造の型寿命を延ばすことができるようになるという利点がある。
本発明において、Cr:26〜30質量%、Mo:5〜8質量%、C:0.20質量%以下(0質量%を含まず)、N:0.05〜0.25質量%を含有し、残部が実質的にCoからなるCo基合金とは、Cr:26〜30質量%、Mo:5〜8質量%、C:0.20質量%以下(0質量%を含まず)、N:0.05〜0.25質量%を含有し、残部がCo及び不可避的不純物からなるCo基合金のことである。この不可避的不純物には、Ni、Fe、Si、Mn、W、V、O等がある。これらの含有量が、それぞれ1%以下の場合、いずれの元素も不可避的不純物元素としてあつかう。例えば、後述の実施例に係る供試材料の合金1において、Ni含有量は0.25%、Fe含有量は0.14%、Si含有量は0.62%、Mn含有量は0.80%、O含有量は124質量ppm(以下、質量ppmを、以下、ppmともいう)であり、これら元素はいずれも不可避的不純物としてあつかう。
O(酸素)は、100ppmを超えて含む場合には、伸びや絞りを低下させる影響がある。O量を100ppm以下に制御することによって、同様の強度であっても伸びや絞りを向上させることができる。従って、O:100ppm以下とすることが望ましい〔第3発明、第8発明〕。本発明に係るCo基合金において、O量を100ppm以下とするには、この合金の溶製を真空溶製により行えばよい。酸素濃度を特に制御する必要がない場合には、溶製方法として大気溶製方法を採用することができる。
SiおよびMnは生体用Co基合金を固溶強化し、強度を上げるととともに、熱間加工時およびその直後の空冷において、粒成長を幾分抑制する効果がある。その効果は0.5%未満では顕著ではなく、1.0%を超えるとF799合金の規格外となってしまう。従って、Si:0.5〜1.0%、Mn:0.5〜1.0%とすることが望ましい〔第4発明、第9発明〕。
なお、Material Science Forum Vols.475-479(2005) pp2317-2322.には、結晶粒径3μmと11μmのCCM合金の例が挙げられているが、N含有量が6〜9ppmと少ないため、FCC相の安定が低く、FCC率が低い。また、粒径11μmのものでも降伏応力(0.2%耐力)が低い。この合金と本発明に係る生体用Co基合金とを、粒径同一のもの同士で比較すると、本発明に係る生体用Co基合金の方が降伏強度が高い。
本発明の実施例および比較例を以下説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
表1に示す組成のCo基合金(合金1〜4)を溶製してCo基合金の溶製材を得た。合金1は大気溶製で溶製した。合金2〜4はいずれも真空溶製で溶製したものである。この溶製材を一旦Φ26mmに熱間鍛造し、長さ180mmに切りそろえ、しかる後、高周波加熱し、鍛造し、次いで空冷した後、直ちに水冷した。この高周波加熱での加熱温度、鍛造での鍛造打ち上がり温度および付与する鍛造歪み、空冷時間(鍛造終了時点から水冷開始時点までの時間)を表2に示す。なお、 No.18の場合、第7発明に係る要件を満たす条件で加熱、鍛造、冷却しており、鍛造の終了後、1秒してから水冷を開始して、室温まで冷却している。このときの冷却速度は約40℃/sであった。また、上記Co基合金(合金1〜4)は、Niを0.25〜0.59%、Feを0.14〜0.34%、Siを0.48〜0.62%、Mnを0.4〜0.80%、Oを40〜120ppm含有するが、これらはいずれも不可避的不純物である。上記Co基合金の中、合金1〜3は、いずれも本発明に係るCo基合金の組成を満たすものである。合金4は、C量が0.20%よりも高く、この点において本発明に係るCo基合金の組成を満たしていない。
このようにして得られたCo基合金(上記水冷後のCo基合金)について、試験片を採取し、下記方法により、HCP率(HCP相の面積率での割合)の測定、FCC率(FCC相の面積率での割合)の測定、結晶粒径の測定、および、引っ張り試験を行った。
<HCP率の測定方法>
この測定に用いた装置および測定条件は下記のとおりである。
・装置: SEM JEOL JSM 5410
EBSP測定解析システム TSL 社OIM
解析ソフト OIMAnalysis
・測定条件: 測定面積50μmx50μm〜500μmx500μm
・測定間隔: 0.2〜0.4μm
本測定方法では、極めて微小な(薄い)HCP相については、測定原理上の限界から測定できていない可能性もある。本測定方法では、X線で測定した場合よりも低いHCP率しか示さない可能性があるが、引っ張り試験片などの小さな試験片でもHCP率などが測定できるため、本測定方法を採用した。
<結晶粒径の測定方法>
結晶粒径は上記EBSP測定のイメージクオリティマップを用いて測定した。これは、上記Co基合金は非常に耐食性が高く、かつ、結晶粒径が微細なものもあるため、光学顕微鏡での組織観察が困難であったためである。上記イメージクオリティマップの組織写真上で、直線交切法にて粒径を測定し、5点以上の測定を行い、その平均切片長さを測定粒径(平均粒径)とした。
<FCC率の測定方法>
上記EBSP測定にて、今回の測定条件である0.2〜0.4μmの測定点ごとにFCC、HCPもしくはそれ以外の相(今回はほとんどない)に自動で判定される。それを図示させるとある種の組織写真のごとくHCPとFCC相別に表示されることができる。今回は、FCCとHCPの測定点数を全測定点数で割って、面積率を算出した。即ち、以下のように面積率を計算している。
FCC率=(FCCと判定された測定点数/全測定点数)×100
HCP率=(HCPと判定された測定点数/全測定点数)×100
<引っ張り試験方法>
φ6.5mmx25mmの平行部を有する引っ張り試験片を製作し、これを用いて引っ張り試験を行って、YS:降伏応力(0.2%耐力)、TS:抗張力(引っ張り強度)、伸び、及び、絞りを測定した。このとき、0.2%耐力までは0.5%/minの引っ張り速度、0.2%耐力から以降破断するまでは10%/minの引っ張り速度とした。引っ張り試験機としては、島津200KN油圧式万能試験機を用いた。
上記HCP率、FCC率および結晶粒径の測定の結果、ならびに、引っ張り試験の結果を表2に示す。
No.1〜4(比較例)の場合、鍛造歪み(鍛造で付与する歪み)が30%未満であって小さいために結晶粒径(平均粒径)が15μm超であって大きく、このため、強度(引っ張り強度および0.2%耐力)が低くて不充分である。
No.11〜12(本発明例)の場合、強度(引っ張り強度および0.2%耐力)が充分に高い。
No.5〜10、13〜14(本発明例)の場合、HCP率が5%以下であって小さいために延性(伸び、絞り)が高く、強度(引っ張り強度および0.2%耐力)も充分に高い。
No.15(本発明例)の場合、第3発明の要件および第4発明の要件も満たしている。即ち、酸素濃度も低く、Si,Mn濃度も0.5〜1.0の範囲にある。このために、強度も、伸び、絞りも高い。
No.16(本発明例)の場合、酸素濃度が低いが、Si,Mn濃度が0.5%よりも低いため、伸び、絞りが高いが、他の実施例に比べてYS(0.2%耐力)がやや低くなっている。
No.17(比較例)の場合、水冷までの時間が2秒よりも短いために、結晶粒径の平均値が1.0μmであり、1.5μmよりも小さく、このため、実施例7に比べて、強度はより高くなっているが、伸び、絞りが低くなっている。
No.19(比較例)の場合、C量が高く、C:0.20%以下を満たしていないため、十分な強度延性が得られていない。
No.20(比較例)の場合、C量が0.20%よりも高く、加熱温度が1250℃であるため、鍛造そのものができなかった。即ち、C量が0.20%よりも高いので、融点が低く、このため鍛造前の1250℃の加熱の際に一部溶融し、この結果、鍛造そのものができなかった。
No.18(本発明例)の場合、C量が0.20%より低く、第7発明に係る組成要件を満たすCo基合金を、第7発明に係る製造要件を満たす条件で加熱、鍛造、冷却しており、加熱温度が1270℃と高くても、十分な高強度と延性が得られている。
結晶粒径(平均粒径)と、YS(0.2%耐力)、TS(引っ張り強度)、EL(伸び)、RA(絞り)との関係を図2に示す。この図2は表2のデータを用いて作成したものである。結晶粒径(平均粒径)が1.5〜15μmの範囲にあるものは、強度と延性が高いバランスで安定していることがわかる。なお、図2において、■はTS、◆はYS、▲はEL、○はRAを示すものである。
1200℃に加熱し、鍛造打ち上がり温度:1150℃、付与する鍛造歪み:50%の条件で鍛造した後、この温度(1150℃)でt秒間保持し、しかる後、空冷し水冷した場合の、上記1150℃保持時間t(秒)と、この場合に得られたCo基合金の結晶粒径(平均粒径)との関係を、図3に示す。図3から、結晶粒径(平均粒径)を1.5〜15μmの範囲に制御するには、0〜60秒以内の保持しか許されないことがわかる。これを材料の空冷に当てはめて考えれば、鍛造温度が高い場合にはさらに短時間しか空冷ができず、鍛造温度が低い場合により長時間の空冷が可能となる。
1200℃に加熱し、鍛造打ち上がり温度:1150℃、付与する鍛造歪み:50%の条件で鍛造した後、この温度(1150℃)からT℃/sの冷却速度で冷却した場合の、上記冷却速度T(℃/s)と、この場合に得られたCo基合金の結晶粒径(平均粒径)との関係を、図4に示す。図4から、結晶粒径(平均粒径)を1.5〜15μmに制御するには、冷却速度Tを1〜50℃/sとすればよいことがわかる。冷却速度Tが1℃/sより低い場合には、15μm超の平均粒径となり、冷却速度Tが50℃/s超の場合には、ばらつきが大きく、平均粒径が1.5μmを下回る可能性がある。
Figure 2009046758
Figure 2009046758
本発明に係る生体用Co基合金は、前記従来の生体用Co基合金(Ni添加材、Niフリー材)のような多量のNi添加、特殊鋳型の使用によらなくても、前記従来の生体用Co基合金と同等もしくはそれ以上の強度および/または延性を有し得るので、人工骨用材等の生体用材として好適に用いることができ、その安全性の確保、経済性の向上がはかれて有用である。本発明に係る生体用Co基合金の製造方法は、このような生体用Co基合金を得ることができて有用である。
変形の度合が大きい個所ほどHCP率が高いことを説明するための図(即ち、引っ張り試験後の試験片の平行部、R部、ネジ部でのHCP率を示す図)である。 結晶粒径とYS、TS、EL、RAとの関係を示す図である。 1150℃加工後保持時間と粒径との関係を示す図である。 1150℃鍛造後の冷却速度と粒径との関係を示す図である。

Claims (9)

  1. Cr:26〜30質量%、Mo:5〜8質量%、C:0.20質量%以下(0質量%を含まず)、N:0.05〜0.25質量%を含有し、残部が実質的にCoからなると共に、結晶粒径の平均値が1.5〜15μmであり、FCC相の割合が面積率で90%以上であることを特徴とする生体用Co基合金。
  2. HCP相の割合が面積率で5%以下である請求項1記載の生体用Co基合金。
  3. O:100質量ppm以下(0質量ppmを含まず)である請求項1または2記載の生体用Co基合金。
  4. Si:0.5〜1.0質量%、Mn:0.5〜1.0質量%である請求項1〜3のいずれかに記載の生体用Co基合金。
  5. Cr:26〜30質量%、Mo:5〜8質量%、C:0.20質量%以下(0質量%を含まず)、N:0.05〜0.25質量%を含有し、残部が実質的にCoからなるCo基合金を、950〜1250℃に加熱し、鍛造打ち上がり温度:870℃以上、付与する鍛造歪み:30%以上の条件で鍛造した後、2〜200秒空冷し、しかる後、直ちに水冷することを特徴とする生体用Co基合金の製造方法。
  6. Cr:26〜30質量%、Mo:5〜8質量%、C:0.20質量%以下(0質量%を含まず)、N:0.05〜0.25質量%を含有し、残部が実質的にCoからなるCo基合金を、950〜1250℃に加熱し、鍛造打ち上がり温度:870℃以上、付与する鍛造歪み:30%以上の条件で鍛造した後、1〜50℃/sの冷却速度で冷却することを特徴とする生体用Co基合金の製造方法。
  7. Cr:26〜30質量%、Mo:5〜8質量%、C:0.10質量%以下(0質量%を含まず)、N:0.10〜0.25質量%を含有し、C+Nの総量が0.20〜0.30質量%であり、残部が実質的にCoからなるCo基合金を、1250℃以上の温度に加熱した後、この加熱温度以下1000℃以上の温度で合計30%以上の加工歪を加える鍛造をし、この鍛造の終了後0.5〜20秒以内の間に冷却を開始し、30℃/s以上の冷却速度で300℃以下まで冷却することを特徴とする生体用Co基合金の製造方法。
  8. 前記Co基合金がO:100質量ppm以下(0質量ppmを含まず)である請求項5〜7のいずれかに記載の生体用Co基合金の製造方法。
  9. 前記Co基合金がSi:0.5〜1.0質量%、Mn:0.5〜1.0質量%である請求項5〜8のいずれかに記載の生体用Co基合金の製造方法。
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