ところで、上記従来技術によれば、ロール角R以下の小ロール角領域(直進時及び緩やかな旋回時等)において、フロントサスペンションのロール剛性とリアサスペンションのロール剛性とはほぼ等しくなる。しかしながら、車両が凹凸等を有する路面を走行する場合に、路面からサスペンションに力が入力され、その結果、車両は「車両が有するロール共振周波数近傍である周波数帯域」の振動が大きくなるとロール方向に大きく振動し、乗員が乗り心地を悪いと感じる問題が生じていた。
本発明による車両の制御装置は、上記課題に対処するようになされたものであって、以下に図1乃至図4を参照して説明する原理に基づく。以下において、車両が凹凸等を有する路面を走行することにより路面からサスペンション装置に入力される力を便宜的に「路面入力」と称呼する。
図1の(A)は車体Bと左右のフロント側サスペンション装置SFrL,SFrRとを模式的に示し、図1の(B)は車体Bと左右のリア側サスペンションSRrL,SRrRとを模式的に示している。
図2の(A)は車体Bと左右のフロント側サスペンション装置SFrL,SFrRとを模式的に示し、図2の(B)は車体Bと左右のリア側サスペンションSRrL,SRrRとを模式的に示している。
以下の説明において、車体のロール慣性モーメントを「I」、フロント側のサスペンション装置全体のロール剛性係数を「Kf」、フロント側のサスペンション装置全体のロール減衰係数を「Cf」、リア側のサスペンション装置全体のロール剛性係数を「Kr」、リア側のサスペンション装置全体のロール減衰係数を「Cr」と表す。
図1は、左前輪SFrL及び右前輪SFrRの少なくとも何れか一方が路面の凹部又は凸部を通過する場合において、「左前輪と左フロント側サスペンション装置SFrLとの連結点」と「右前輪と右フロント側サスペンション装置SFrRとの連結点」とを結んだ線分の水平面に対する傾斜角がθとなり、「左後輪と左リア側サスペンション装置SRrLとの連結点」と「右後輪と右リア側サスペンション装置SRrRとの連結点」とを結んだ線分の水平面に対する傾斜角が0となり、且つ、車体Bのロール角がφとなった状態を表している。
この状態は、フロント側のサスペンション装置にロール角φから傾斜角θを減じた値(φ−θ)のロール変位があり、リア側のサスペンション装置にロール角φのロール変位がある状態であると言える。従って、車体がロール運動を行うロール運動方程式は、式(1)の形で表される。
この式(1)をラプラス変換して整理をするとともにロール角φのラプラス変換結果をφ
f(s)と表すと、式(2)が得られる。
この式(2)におけるφ
f(s)は、フロント側サスペンション装置に路面入力θ(s)があった場合の「周波数領域における車体のロール成分」を表している。θ(s)は、周波数領域における路面入力を表している。従って、この式(2)を変形することにより、フロント側サスペンション装置に路面入力があった場合のロール応答φ
f(s)/θ(s)は以下の式(3)で表される。以下、このロール応答φ
f(s)/θ(s)は「フロント入力ロール応答」と称呼する。
次に、図2は、左後輪SRrL及び右後輪SRrRの少なくとも何れか一方が路面の凹部又は凸部を通過する場合において、「左前輪と左フロント側サスペンション装置SFrLとの連結点」と「右前輪と右フロント側サスペンション装置SFrRとの連結点」とを結んだ線分の水平面に対する傾斜角が0となり、「左後輪と左リア側サスペンション装置SRrLとの連結点」と「右後輪と右リア側サスペンション装置SRrRとの連結点」とを結んだ線分の水平面に対する傾斜角がθとなり、且つ、車体Bのロール角がφとなった状態を表している。
この状態は、フロント側のサスペンション装置にロール角φのロール変位があり、リア側のサスペンション装置にロール角φから傾斜角θを減じた値(φ−θ)のロール変位がある状態であると言える。従って、車体がロール運動を行うロール運動方程式は、式(4)の形で表される。従って、式(1)から式(3)を得た場合と同様にして式を変形すると、リア側に入力角θだけ路面入力があった場合のロール応答φ
r(s)/θ(s)は以下の式(5)により表される。以下、このロール応答φ
r(s)/θ(s)は「リア入力ロール応答」と称呼する。この式(5)におけるφ
r(s)は、リア側サスペンション装置に路面入力θ(s)があった場合の「周波数領域における車体のロール成分」を表している。
今、車両が直進状態及び緩やかな旋回状態等の状態であるとすると、フロント側サスペンション装置に入力された路面入力X(ω)と同じ路面入力X(ω)が「車速に応じた所定の時間遅れ」を有してリア側サスペンション装置に入力される。従って、リア側サスペンション装置に入力された路面入力は、フロント側サスペンション装置に入力された路面入力X(ω)に、車速に応じて定められる所定の位相遅れe-jω0tを乗ずることにより表すことができる。即ち、フロント側サスペンション装置に入力された路面入力X(ω)と、リア側サスペンション装置に入力された路面入力X(ω)・e-jω0tとは、複素平面を表す図3において示したとおりとなる。
よって、車両に路面入力X(ω)があった場合、車両としてのロール成分Φ(ω)は、フロント入力ロール応答φ
f(s)/θ(s)と路面入力X(ω)との積(以下、「フロント実入力ロール成分φF」と称呼する。)と、リア入力ロール応答φ
r(s)/θ(s)と路面入力X(ω)・e
-jω0tとの積(以下、「リア実入力ロール成分φR」と称呼する。)と、を合成することにより得られる。即ち、車両としてのロール成分Φ(ω)は、以下の式(6)及び図3に示したとおりとなる。
ここで、フロント実入力ロール成分φFとリア実入力ロール成分φRとの偏角をξと置くと、車両としての周波数領域におけるロール成分Φ(ω)の大きさであるロール量|Φ(ω)|は、式(7)で表すことができる。
この周波数領域におけるロール量|Φ(ω)|を小さくするために、フロント実入力ロール成分の大きさ|φF|及びリア実入力ロール成分の大きさ|φR|を小さくする方法が考えられる。
また、この周波数領域におけるロール量|Φ(ω)|を小さくするために、フロント実入力ロール成分φFとリア実入力ロール成分φRとの偏角ξを大きくする(偏角ξをπ/2に近づける)ことにより、cosξを小さくする方法が考えられる。
本発明の原理は、後者の方法であるcosξを小さくする方法によりロール量|Φ(ω)|を小さくするものである。即ち、本発明の原理は、フロント実入力ロール成分φFの位相の遅れを小さくする(φFの位相を進める)こと、及び/又は、リア実入力ロール成分φRの位相の遅れを大きくする(φRの位相を遅らす)ことにより、偏角ξを大きくするものである。
この原理について図3を参照して確認する。図3において、フロント実入力ロール成分φFの位相の遅れを小さくしたものがφ’Fにて表され、リア実入力ロール成分φRの位相の遅れを大きくしたものがφ’Rにて表されている。図3からこれらφ’Fとφ’Rとの和(ベクトル合成結果)の大きさであるロール量|Φ’(ω)|は、元のロール量|Φ(ω)|に比べて小さくなっていることが理解される。
次に、フロント実入力ロール成分φFの位相の遅れを小さくする方法について説明をする。この場合、路面入力X(ω)が入力されたときのフロント実入力ロール成分φFの位相の遅れを小さくするには、式(3)にて表されたフロント入力ロール応答φf(s)/θ(s)の位相の遅れを小さくすればよい。よって、以下、フロント入力ロール応答φf(s)/θ(s)の位相の遅れを小さくする方法について説明する。
ここで、式(3)にて表されたフロント入力ロール応答φ
f(s)/θ(s)は以下の式(8)により表されるP(s)と式(9)により表されるQ(s)との積として表すことができる(即ち、φ
f(s)/θ(s)=P(s)・Q(s))。
図4(A)は、ロール減衰係数Cfに対するロール剛性係数Kfの比率(割合)Kf/Cf(この値を「進み始め周波数」とも称呼する。)を種々の値に設定した場合における「式(8)のP(s)」の位相を表したボード線図である。
図4(A)において、曲線C1は比率Kf/Cfを第1の値に設定した場合のP(s)の位相を示し、曲線C2は比率Kf/Cfを第1の値よりも大きい第2の値に設定した場合のP(s)の位相を示し、曲線C3は比率Kf/Cfを第2の値よりも大きい第3の値に設定した場合のP(s)の位相を示している。この図4(A)より、曲線C1に示されたP(s)の位相の進みが最も大きいので、ロール減衰係数Cfに対するロール剛性係数Kfの比率であるKf/Cfを小さくすることにより、「式(8)のP(s)」の位相の進みが大きくなることがわかる。
説明の簡便のために、車両全体のロール剛性係数(フロント側のロール剛性係数Kfとリア側のロール剛性係数Krとの和)及び車両全体のロール減衰係数(フロント側のロール減衰係数Cf及びリア側のロール減衰係数Crとの和)は変更しない(それぞれ一定値である)とすると、
式(9)により表されるQ(s)の位相を表したボード線図である図4(B)に示したようにQ(s)の位相は不変である。
図4(C)はP(s)の位相とQ(s)の位相とを重ね合わせることにより得られる「式(3)のフロント入力ロール応答φf(s)/θ(s)」の位相を表したボード線図である。図4(C)において、曲線L1は図4(A)における曲線C1と図4(B)における曲線とを重ね合わせることにより得られ、曲線L2は図4(A)における曲線C2と図4(B)における曲線とを重ね合わせることにより得られ、曲線L3は図4(A)における曲線C3と図4(B)における曲線とを重ね合わせることにより得られる。
この結果、図4(C)から、ロール減衰係数Cfに対するロール剛性係数Kfの比率であるKf/Cfが小さい場合(曲線L1)は、Kf/Cfが大きい場合(曲線L2、曲線L3)よりも、フロント入力ロール応答φf(s)/θ(s)の位相の遅れが小さい(位相が進む)ことがわかる。
即ち、フロント側のロール剛性係数Kfをリア側のロール剛性係数Krに対して相対的に小さくすること、及び/又は、フロント側のロール減衰係数Cfをリア側のロール減衰係数Crに対して相対的に大きくすることにより、フロント入力ロール応答φf(s)/θ(s)の位相の遅れを小さくして、図3の矢印Aにて示したようにフロント実入力ロール成分φFの位相の遅れを小さくすることができる。このことにより、フロント実入力ロール成分φFと、リア実入力ロール成分φRとの偏角ξが大きくなるので、車両としての周波数領域におけるロール成分Φ(ω)の大きさであるロール量|Φ(ω)|を小さくすることができる。
次に、リア実入力ロール成分φRの位相の遅れを大きくする方法について説明をする。フロント実入力ロール成分φFとリア実入力ロール成分φRとは置き換えて考えることができる(即ち、P(S)=CrS+Krと置くことができる。)。従って、前述した図4(A)より、曲線C3に示されたP(s)の位相の進みが最も小さいので、ロール減衰係数Crに対するロール剛性係数Krの比率であるKr/Crを大きくすることにより、P(s)の位相の進みが小さくなることがわかる。また、図4(C)から、ロール減衰係数Crに対するロール剛性係数Krの比率であるKr/Crが大きい場合(曲線L3)は、Kr/Crが小さい場合(曲線L1、曲線L2)よりも、リア入力ロール応答φr(s)/θ(s)の位相の遅れが大きいことがわかる。
即ち、リア側のロール剛性係数Krをフロント側のロール剛性係数Kfに対して相対的に大きくすること及び/又は、リア側のロール減衰係数Crをフロント側のロール減衰係数Cfに対して相対的に小さくすることにより、図3の矢印Bにて示したようにリア実入力ロール成分φRの位相の遅れを大きくすることができる。このことにより、フロント実入力ロール成分φFと、リア実入力ロール成分φRとの偏角ξが大きくなるので、車両としての周波数領域におけるロール成分Φ(ω)の大きさであるロール量|Φ(ω)|を小さくすることができる。
以上から、フロント側のロール剛性係数Kfをリア側のロール剛性係数Krに対して相対的に小さくすることにより、及び/又は、フロント側のロール減衰係数Cfをリア側のロール減衰係数Crに対して相対的に大きくすることにより、フロント実入力ロール成分φFの位相が進み、リア実入力ロール成分φRの位相が遅れるので、偏角ξは増大する。その結果、ロール量|Φ(ω)|は小さくなることが理解される。
本発明による車両の制御装置は、上記原理を利用したものであって、ロール剛性変更手段と、ロール成分取得手段と、第1制御手段と、を有する。
前記ロール剛性変更手段は、指示信号に応じて車両のフロント側のロール剛性係数及びリア側のロール剛性係数のうち少なくとも一方のロール剛性係数を変更することができるようになっている。ロール剛性変更手段は、例えば、前記車両のフロント側及びリア側のうち少なくとも一方に搭載された剛性(ロール剛性)可変式スタビライザ装置であってもよく、前記車両の車輪と車体間に設けられたサスペンションのバネ定数を変更することにより車両のフロント側のロール剛性及びリア側のロール剛性のうち少なくとも一方のロール剛性を変更することができるエアサスペンション装置等の流体式サスペンション装置であってもよい。
前記ロール成分取得手段は、前記車両の振動におけるロール成分を取得するようになっている。前記ロール成分取得手段は、例えば、ロール角センサ及びロール角速度センサ等からの検出信号に基づいてロール方向の(車両のバネ上部材(即ち、車体)の前後方向に延びるロール軸周りの)車体の振動(即ち、ロール振動)をロール成分として検出するものであってもよい。また、前記ロール成分取得手段は、前記車両のロール軸を挟む左右の位置に設けられた少なくとも二つの上下加速度センサからの検出信号に基づいてロール振動をロール成分として推定するものであってもよい。
更に、前記ロール成分取得手段は、「車両が有するロール共振周波数近傍の所定の周波数帯域(特定周波数帯域)」におけるロール方向の振動を抽出することができるフィルタ(アナログ回路によるバンドパスフィルタ及びソフトウェアによるデジタルのバンドパスフィルタ等)を含み、例えば、そのフィルタによってロール角センサからの検出信号をフィルタリングすることにより、車両の振動におけるロール成分を取得するように構成されていることが好ましい。
前記第1制御手段は、前記取得したロール成分が所定値よりも大きい場合は同ロール成分が同所定値以下の場合よりも、フロント側のロール剛性係数に対するリア側のロール剛性係数の割合が大きくなるように前記ロール剛性変更手段に指示信号を送出するようになっている。
「前記取得したロール成分が所定値よりも大きい場合」には、例えば、以下の何れかの場合が含まれ得る。
(1)前記車両(車体)が有するロール共振周波数近傍である周波数帯域(特定周波数帯域)内にあるロール振動(ロール振動を表す値)を積分した値が所定値よりも大きい場合。
(2)前記特定周波数帯域内にあるロール振動のスペクトルの少なくとも一つが所定値よりも大きい場合。
(3)前記特定周波数帯域内にあるロール振動の何れかのスペクトルが所定値よりも大きくなる頻度(単位時間内において前記特定周波数帯域内にあるロール振動の何れかのスペクトルが所定値よりも大きくなる回数)が所定頻度よりも多い場合。
これによれば、車両の振動におけるロール成分を取得して、取得したロール成分が所定値よりも大きい場合、フロント側のロール剛性係数Kfに対するリア側のロール剛性係数Krの割合が増大せしめられる。この結果、フロント側のロール減衰係数Cfに対するフロント側のロール剛性係数Kfの割合であるKf/Cfが小さくなるか、リア側のロール減衰係数Crに対するリア側のロール剛性係数Krの割合であるKr/Crが大きくなるか、のうちの少なくとも一方が実現される。従って、上述したように、フロント実入力ロール成分φFとリア実入力ロール成分φRとの偏角ξが大きくなるので、ロール量の大きさ|Φ(ω)|を小さくすることができる。換言すると、前記特定周波数帯域内に存在するロール振動の振幅(スペクトル)を小さくすることができる。よって、車両がロール方向に大きく振動することを回避できるので、前記車両の乗員は、良好な乗り心地を得ることができる。
なお、
上記ロール剛性変更手段は、
指示信号に応じて車両のフロント側のロール剛性係数及びリア側のロール剛性係数の両方のロール剛性係数を変更することができるように構成され、
上記第1制御手段は、
前記取得したロール成分が所定値よりも大きい場合は同ロール成分が同所定値以下の場合よりも、フロント側のロール剛性係数とリア側のロール剛性係数の和が一定であり、且つ、フロント側のロール剛性係数に対するリア側のロール剛性係数の割合が大きくなるように前記ロール剛性変更手段に指示信号を送出するように構成されていることが好ましい。
前記本発明による車両の制御装置は、ロール減衰変更手段と、第2制御手段と、を更に備えることが好適である。
前記ロール減衰変更手段は、指示信号に応じて車両のフロント側のロール減衰係数及びリア側のロール減衰係数のうち少なくとも一方のロール減衰係数を変更することができるようになっている。前記ロール減衰変更手段は、例えば、前記車両の車輪と車体間に設けられたサスペンション装置の減衰係数を変更することにより車両のフロント側のロール減衰係数及びリア側のロール減衰係数のうち少なくとも一方のロール減衰係数を変更することができる減衰係数可変式サスペンション装置であってもよい。
前記第2制御手段は、前記取得したロール成分が前記所定値よりも大きい場合は同ロール成分が同所定値以下の場合よりも、フロント側のロール減衰係数に対するリア側のロール減衰係数の割合が小さくなるように前記ロール減衰変更手段に指示信号を送出するようになっている。
これによれば、車両の振動におけるロール成分を取得して、取得したロール成分が所定値よりも大きい場合、フロント側のロール剛性係数Kfに対するリア側のロール剛性係数Krの割合が増大せしめられるとともに、フロント側のロール減衰係数Cfに対するリア側のロール減衰係数Crの割合が減少せしめられる。この結果、フロント側のロール減衰係数Cfに対するフロント側のロール剛性係数Kfの割合であるKf/Cfがより小さくなるか、リア側のロール減衰係数Crに対するリア側のロール剛性係数Krの割合であるKr/Crがより大きくなるか、のうちの少なくとも一方が実現される。従って、上述したように、フロント実入力ロール成分φFとリア実入力ロール成分φRとの偏角ξがより大きくなるので、ロール量の大きさ|Φ(ω)|をより小さくすることができる。換言すると、前記特定周波数帯域内に存在するロール振動の振幅(スペクトル)をより小さくすることができる。よって、車両がロール方向に大きく振動することを回避できるので、前記車両の乗員は、良好な乗り心地を得ることができる。
一方、本発明による他の車両の制御装置は、上記原理を利用したものであって、ロール剛性変更手段と、ロール減衰変更手段と、第2制御手段と、を備える。
前記ロール減衰変更手段は、上述したロール減衰変更手段と同じロール減衰変更手段であって、指示信号に応じて車両のフロント側のロール減衰係数及びリア側のロール減衰係数のうち少なくとも一方のロール減衰係数を変更することができるようになっている。
前記ロール成分取得手段は、上述したロール成分取得手段と同じロール成分取得手段であって、前記車両の振動におけるロール成分を取得するようになっている。
前記第2制御手段は、上述した第2制御手段と同じ第2制御手段であって、前記取得したロール成分が前記所定値よりも大きい場合は同ロール成分が同所定値以下の場合よりも、フロント側のロール減衰係数に対するリア側のロール減衰係数の割合が小さくなるように前記ロール減衰変更手段に指示信号を送出するようになっている。
これによれば、車両の振動におけるロール成分を取得して、取得したロール成分が所定値よりも大きい場合、フロント側のロール減衰係数Cfに対するリア側のロール減衰係数Crの割合が減少せしめられる。この結果、フロント側のロール減衰係数Cfに対するフロント側のロール剛性係数Kfの割合であるKf/Cfが小さくなるか、リア側のロール減衰係数Crに対するリア側のロール剛性係数Krの割合であるKr/Crが大きくなるか、のうちの少なくとも一方が実現される。従って、上述したように、フロント実入力ロール成分φFとリア実入力ロール成分φRとの偏角ξがより大きくなるので、ロール量の大きさ|Φ(ω)|を小さくすることができる。換言すると、前記特定周波数帯域内に存在するロール振動の振幅(スペクトル)を小さくすることができる。よって、車両がロール方向に大きく振動することを回避できるので、前記車両の乗員は、良好な乗り心地を得ることができる。
なお、
上記ロール減衰変更手段は、
指示信号に応じて車両のフロント側のロール減衰係数及びリア側のロール減衰係数の両方のロール減衰係数を変更することができるように構成され、
上記第2制御手段は、
前記取得したロール成分が所定値よりも大きい場合は同ロール成分が同所定値以下の場合よりも、フロント側のロール減衰係数とリア側のロール減衰係数の和が一定であり、且つ、フロント側のロール減衰係数に対するリア側のロール減衰係数の割合が小さくなるように前記ロール減衰変更手段に指示信号を送出するように構成されていることが好ましい。
以下、図5乃至図7を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について説明する。
<第1実施形態>
図5は本発明の第1実施形態に係る車両の制御装置(以下、「第1装置」と称呼する。)を概略的に示している。第1装置は車両10に搭載されている。
車両10は、右前輪11FR、左前輪11FL、右後輪11RR及び左後輪11RL、フロント側アクティブスタビライザ装置(以下、「フロント側ASS」と称呼する。)20、リア側アクティブスタビライザ装置(以下、「リア側ASS」と称呼する。)30、減衰係数可変式サスペンション装置(以下、「AVS」と称呼する。)40FR、40FL、40RR及び40RL、を備えている。
フロント側ASS20は、一対のトーションバー部21R及び21L、ブラケット22R及び22L、一対のアーム部23R及び23L、並びにアクチュエータ24から構成されている。
一対のトーションバー部21R及び21Lは、車両10の横方向に延在する軸線に沿って互いに同軸に整合して延在するようになっている。一対のトーションバー部21R及び21Lは、ブラケット22R及び22Lのそれぞれを介して車体に自らの軸線周りに回転可能に支持されている。
一対のアーム部23R及び23Lは、それぞれトーションバー部21R及び21Lの外端に一体に接続されている。一対のアーム部23R及び23Lは、それぞれトーションバー部21R及び21Lに交差するように車両10の前後方向に延在するようになっている。一対のアーム部23R及び23Lの外端は、それぞれ図示しないゴムブッシュ装置を介して右前輪11FR及び左前輪11FLの車輪支持部材又はサスペンションアームに連結されている。
アクチュエータ24は、トーションバー部21R及び21Lの間において、トーションバー部21R及び21Lとそれぞれ接続されている。アクチュエータ24は、後述する電子制御装置50の指示信号に基づいて、一対のトーションバー部21R及び21Lを互いに逆方向へ回転駆動するようになっている。
以上の構成により、フロント側ASS20は、右前輪11FR及び左前輪11FLが互いに逆相にてバウンド又はリバウンドする場合、アクチュエータ24によって電子制御装置50の指示信号に基づいて、トーションバー部21R及び21Lを互いに逆方向へ回転駆動する。従って、トーションバー部21R及び21Lの捩り応力により右前輪11FR及び左前輪11FLがバウンド又はリバウンドすることを抑制する力が変化する。この結果、右前輪11FR及び左前輪11FLの位置において車両10に付与されるアンチロールモーメントが増減されることにより、フロント側の車両10のロール剛性が制御される。即ち、フロント側のロール剛性係数Kfが制御される。
同様に、リア側ASS30は、一対のトーションバー部31R及び31L、ブラケット32R及び32L、一対のアーム部33R及び33L、並びにアクチュエータ34から構成されている。
一対のトーションバー部31R及び31Lは、車両10の横方向に延在する軸線に沿って互いに同軸に整合して延在するようになっている。一対のトーションバー部31R及び31Lは、ブラケット32R及び32Lのそれぞれを介して車体に自らの軸線周りに回転可能に支持されている。
一対のアーム部33R及び33Lは、それぞれトーションバー部31R及び31Lの外端に一体に接続されるようになっている。一対のアーム部33R及び33Lは、それぞれトーションバー部31R及び31Lに交差するように車両10の前後方向に延在するようになっている。一対のアーム部33R及び33Lの外端は、それぞれ図示しないゴムブッシュ装置を介して右後輪11RR及び左後輪11RLの車輪支持部材又はサスペンションアームに連結されている。
アクチュエータ34は、トーションバー部31R及び31Lの間において、トーションバー部31R及び31Lとそれぞれ接続されている。アクチュエータ34は、後述する電子制御装置50の指示信号に基づいて、一対のトーションバー部31R及び31Lを互いに逆方向へ回転駆動するようになっている。
以上の構成により、リア側ASS30は、右後輪11RR及び左後輪11RLが互いに逆相にてバウンド又はリバウンドする場合、アクチュエータ34によって電子制御装置50の指示信号に基づいて、トーションバー部31R及び31Lを互いに逆方向へ回転駆動する。従って、トーションバー部31R及び31Lの捩り応力により右後輪11RR及び左後輪11RLがバウンド又はリバウンドすることを抑制する力が変化する。この結果、右後輪11RR及び左後輪11RLの位置において車両10に付与されるアンチロールモーメントが増減されることにより、リア側の車両10のロール剛性が制御される。即ち、リア側のロール剛性係数Krが制御される。
なお、フロント側ASS20及びリア側ASS30自体は本発明の要旨をなすものではないので、車両10のロール剛性(即ち、ロール剛性係数)を可変制御し得るものである限り当技術分野において公知の任意の構成のものであってよく、例えば、特開2005−88722号公報、特開2006−219048号公報、特開2006−188080号公報、特開2005−297901号公報、特開2007−30833号公報及び特開2007−145175号公報に記載のアクティブスタビライザ装置により構成され得る。
AVS40FR、40FL、40RR及び40RLは、右前輪11FR、左前輪11FL、右後輪11RR及び左後輪11RLのそれぞれと車両10の車体との間に設けられている。AVS40FR〜40RLは、アクチュエータ41FR、41FL、41RR及び41RLをそれぞれ有する。AVS40FR〜40RLは、後述する電子制御装置50の指示信号に基づいてアクチュエータ41FR〜41RLを駆動させるようになっている。
アクチュエータ41FR〜41RLは、図示しないショックアブソーバの可変絞りの開度を調整することによりフロント側の車両10のロール減衰係数Cf及びリア側の車両10のロール減衰係数Crを制御するようになっている。
なお、AVS40FR〜40RL自体は本発明の要旨をなすものではないので、車両10のロール減衰係数を可変制御し得るものである限り当技術分野において公知の任意の構成のものであってよく、例えば、特開2003−146043号公報に記載の減衰係数可変式サスペンション装置により構成される。
第1装置は、上記電子制御装置50、ロール角センサ61、バンドパスフィルタ回路62、積分演算手段63及び横加速度センサ64を備えている。ロール角センサ61、バンドパスフィルタ回路62及び積分演算手段63は、ロール成分取得手段を構成している。
電子制御装置50は、CPU、RAM、ROM及び入出力ポートを含む周知のマイクロコンピュータである。入出力ポートは、フロント側ASS20(アクチュエータ24)、リア側ASS30(アクチュエータ34)、AVS40FR〜40RL(アクチュエータ41FR〜41RL)、ロール角センサ61、積分演算手段63及び横加速度センサ64と接続されている。入出力ポートは、ロール角センサ61、積分演算手段63及び横加速度センサ64からの信号をCPUに供給する。入出力ポートは、CPUの指示に応じてフロント側ASS20(アクチュエータ24)、リア側ASS30(アクチュエータ34)及びAVS40FR〜40RL(アクチュエータ41FR〜41RL)に指示信号を出力するようになっている。
ロール角センサ61は、車両10のバネ上部材(車体)の前後方向に延びるロール軸回りのロール角φ表す信号を検出するようになっている。ロール角センサ61は、検出したロール角φを表す信号をバンドパスフィルタ回路62に出力するようになっている。また、ロール角センサ61は、検出したロール角φ表す信号を電子制御装置50に出力するようになっている。
バンドパスフィルタ回路62は、検出されたロール角φを表す信号のうち車両10が有するロール共振周波数近傍の所定の周波数帯域(特定周波数帯域)内の信号のみを通過させる(抽出する)ようになっている。バンドパスフィルタ回路62を通過した信号は、車体の振動(ロール振動)を表す信号であり、積分演算手段63に出力される。
積分演算手段63は、バンドパスフィルタ回路62を通過した信号(ロール振動を表す信号)の値を積分するようになっている。この結果、バンドパスフィルタ回路62の出力は、車両10の振動におけるロール成分の大きさを示す。積分演算手段63は、積分した値を表す信号を電子制御装置50に出力するようになっている。
横加速度センサ64は、車両10の横加速度Gyを表す信号を検出するようになっている。横加速度センサ64は、検出した信号を電子制御装置50に出力するようになっている。
次に、上記のように構成された第1装置の作動について電子制御装置50のCPUが所定時間の経過毎に繰返し実行するルーチンを示した図6のフローチャートを参照しながら説明する。
CPUは、所定のタイミングにて図6のステップ600から処理を開始し、ステップ610にて、「ロール振動抑制制御条件」が不成立の状態から成立の状態へ変化したか否かを判定する。より具体的には、CPUは、積分演算手段63によりバンドパスフィルタ回路62を通過した信号(ロール振動を表す信号)の値を積分した値が、予め定められた所定の値以下の場合、「ロール振動抑制制御条件」が不成立であると判定する。一方、CPUは、積分演算手段63によりバンドパスフィルタ回路62を通過した信号の値を積分した値が、予め定められた所定の値より大きい場合、「ロール振動抑制制御条件」が成立したと判定する。
いま、イグニッション・キーがオフからオンに変更された後であって、ロール振動抑制制御条件が不成立の場合から説明を開始すると、ロール振動抑制制御条件が不成立の状態から成立の状態へ変化していないので、CPUは、ステップ610にて「No」と判定してステップ620へ進み、ロール振動抑制制御フラグXが「1」であるか否かを判定する。ロール振動抑制制御フラグXは、その値が「1」であるときにロール振動抑制制御中であることを示す。ロール振動抑制制御フラグXは、その値が「0」であるときにロール振動抑制制御中でない通常制御中であることを示す。ロール振動抑制制御フラグXは図示しないイグニッション・キーがオフからオンに変更されたときに実行されるイニシャルルーチンにより「0」に設定されるようになっている。従って、この場合、ロール振動抑制制御フラグXが「0」に維持された状態であるので、CPUは、ステップ620にて「No」と判定して直接ステップ690へ進み、本ルーチンを一旦終了する。
ところで、前述したイニシャルルーチンにより、車両10のフロント側のロール剛性係数Kfは予め定められた通常用フロント側ロール剛性係数Kfnに設定されており、車両10のリア側のロール剛性係数Krは予め定められた通常用リア側ロール剛性係数Krnに設定されている。
更に、電子制御装置50のCPUは、図示しないアンチロール制御ルーチンを所定時間の経過毎に実行することにより、ロール角センサ61により検出されたロール角φ及び/又は横加速度センサ64により検出された横加速度Gyに基づいて車両10に作用するロールモーメントを推定する。加えて、CPUは、ロールモーメントを打ち消す方向のアンチロールモーメントが増大するように、推定したロールモーメントとフロント側のロール剛性係数Kf(この場合、通常用フロント側ロール剛性係数Kfn)とリア側のロール剛性係数Kr(この場合、通常用リア側ロール剛性係数Krn)とに基づいて、フロント側ASS20及びリア側ASS30のアクチュエータ24及びアクチュエータ34の目標回転角度をそれぞれ演算する。更にCPUは、フロント側ASS20及びリア側ASS30のアクチュエータ24及びアクチュエータ34のそれぞれの回転角度が演算した目標回転角度にそれぞれ一致するように、フロント側ASS20及びリア側ASS30に指示信号を送出する。これにより、フロント側及びリア側のロール剛性係数Kf及びKrがKfn及びKrnにそれぞれ維持された状態にて、車両10のロールが抑制される。
同様に、前述したイニシャルルーチンにより、車両10のフロント側のロール減衰係数Cfは予め定められた通常用フロント側ロール減衰係数Cfnに設定されており、車両10のリア側のロール減衰係数Crは予め定められた通常用リア側ロール減衰係数Crnに設定されている。
更に、電子制御装置50のCPUは、図示しない減衰力制御ルーチンを所定時間の経過毎に実行することにより、フロント側のロール減衰係数Cf(この場合、通常用フロント側ロール減衰係数Cfn)とリア側のロール減衰係数Cr(この場合、通常用リア側ロール減衰係数Crn)とに基づいて、AVS40FR〜40RLの可変絞りの目標開度をそれぞれ演算する。加えて、CPUは、AVS40FR〜40RLの可変絞りの開度が、目標開度にそれぞれ一致するように、AVS40FR〜40RLに指示信号を送出して、アクチュエータ41FR〜41RLを駆動制御する。これにより、フロント側及びリア側のロール減衰係数Cf及びCrがCfn及びCrnにそれぞれ維持された状態にて、車両10の振動が抑制される。
なお、このようにフロント側及びリア側のロール剛性係数Kf及びKrがKfn及びKrnにそれぞれ設定され、フロント側及びリア側のロール減衰係数Cf及びCrがCfn及びCrnにそれぞれ設定された状態にて、アンチロール制御及び減衰力制御を行うことを「通常制御」と称呼する。
一方、ロール振動抑制制御条件が成立した場合、ロール振動抑制制御条件が不成立の状態から成立の状態へ変化するので、CPUは、ステップ610にて「Yes」と判定してステップ630へ進み、ロール振動抑制制御の経過時間を表すタイマーTを「0」にリセットするとともにタイマーTによる時間の計測を開始する。次にCPUは、ステップ640に進み、「ロール振動抑制制御」を開始する。ロール振動抑制制御において、車両10のフロント側のロール剛性係数Kfは、予め定められた通常用フロント側ロール剛性係数Kfnから所定値ΔK(>0)だけ小さいロール振動抑制用フロント側ロール剛性係数(Kfn−ΔK)に設定される。車両10のリア側のロール剛性係数Krは、予め定められた通常用リア側ロール剛性係数Krnより所定値ΔK(>0)だけ大きいロール振動抑制用リア側ロール剛性係数(Krn+ΔK)に設定される。このとき、フロント側のロール剛性係数Kfとリア側のロール剛性係数Krとの和(Kf+Kr)は一定である(即ち、通常制御時と同じである。)。
更にステップ640のロール振動抑制制御において、車両10のフロント側のロール減衰係数Cfは、予め定められた通常用フロント側ロール減衰係数Cfnより所定値ΔC(>0)だけ大きいロール振動抑制用リア側ロール減衰係数(Cfn+ΔC)に設定される。車両10のリア側のロール減衰係数Crは、予め定められた通常用リア側ロール減衰係数Crnから所定値ΔC(>0)だけ小さいロール振動抑制用フロント側ロール減衰係数(Crn−ΔC)に設定される。このとき、フロント側のロール減衰係数Cfとリア側のロール減衰係数Crとの和(Cf+Cr)は一定である(即ち、通常制御時と同じである。)。続いてCPUは、ステップ650へ進み、ロール振動抑制制御フラグXを「1」に設定して、ステップ690へ進み本ルーチンを一旦終了する。
そして、CPUは、前述したアンチロール制御ルーチンを実行する。この結果、CPUは、推定したロールモーメントとフロント側のロール剛性係数Kf(この場合、ロール振動抑制用フロント側ロール剛性係数(Kfn−ΔK))とリア側のロール剛性係数Kr(この場合、ロール振動抑制用リア側ロール剛性係数(Krn+ΔK))とに基づいて、フロント側ASS20及びリア側ASS30のアクチュエータ24及びアクチュエータ34の目標回転角度をそれぞれ演算する。加えて、CPUは、フロント側ASS20及びリア側ASS30のアクチュエータ24及びアクチュエータ34のそれぞれの回転角度が演算した目標回転角度にそれぞれ一致するように、フロント側ASS20及びリア側ASS30に指示信号を送出する。
更に、CPUは、前述した減衰力制御ルーチンを実行する。この結果、フロント側のロール減衰係数Cf(この場合、ロール振動抑制用フロント側ロール減衰係数(Cfn+ΔC))とリア側のロール減衰係数Cr(この場合、ロール振動抑制用リア側ロール減衰係数(Crn−ΔC))とに基づいて、AVS40FR〜40RLの可変絞りの目標開度をそれぞれ演算する。加えて、CPUは、AVS40FR〜40RLの可変絞りの開度が、目標開度にそれぞれ一致するように、AVS40FR〜40RLに指示信号を送出して、アクチュエータ41FR〜41RLを駆動制御する。
これによれば、ロール振動抑制制御条件が成立した場合、フロント側のロール剛性係数Kfに対するリア側のロール剛性係数Krの割合(Kr/Kf)がロール振動抑制制御条件が不成立の場合に比べて増大せしめられるとともに、フロント側のロール減衰係数Cfに対するリア側のロール減衰係数Crの割合(Cr/Cf)がロール振動抑制制御条件が不成立の場合に比べて減少せしめられる。この結果、フロント側のロール減衰係数Cfに対するフロント側のロール剛性係数Kfの割合であるKf/Cfが小さくなるとともにリア側のロール減衰係数Crに対するリア側のロール剛性係数Krの割合であるKr/Crが大きくなる。従って、上記本発明の原理にて説明したように、フロント実入力ロール成分φFとリア実入力ロール成分φRとの偏角ξが大きくなるので、ロール量の大きさ|Φ(ω)|を小さくすることができる。換言すると、前記特定周波数帯域内に存在する振動の振幅(スペクトル)を小さくすることができる。よって、車両がロール方向に大きく振動することを回避できるので、前記車両の乗員は、良好な乗り心地を得ることができる。
次に、CPUがステップ600に続くステップ610に進んだとき、ロール振動抑制制御が行われているので、ロール振動抑制制御条件が不成立となる。従って、CPUは、ステップ610にて「No」と判定してステップ620へ進み、ロール振動抑制制御フラグXが「1」であるか否かを判定する。この場合、先のステップ650にてロール振動抑制制御フラグXが「1」に設定されているので、CPUは、ステップ620にて「Yes」と判定してステップ660へ進み、タイマーTが所定時間Tthを計測したか否かを判定する。ロール振動抑制制御が開始してから所定時間Tthが経過していないとすると、CPUは、ステップ660にて「No」と判定して、ステップ690へ進み本ルーチンを一旦終了する。従って、ロール振動抑制制御が継続して行われることになる。
その後、ロール振動抑制制御が開始してから所定時間Tthが経過すると、タイマーTの値はTthより大きくなる。従って、CPUは、ステップ660に進んだとき、同ステップ660にて「Yes」と判定してステップ670に進み、「ロール振動抑制制御」を終了して「通常制御」を開始する。通常制御中は、上述したように、車両10のフロント側のロール剛性係数Kfが前記通常用フロント側ロール剛性係数Kfnに設定され、車両10のリア側のロール剛性係数Krが前記通常用リア側ロール剛性係数Krnに設定される。更に、通常制御中は、車両10のフロント側のロール減衰係数Cfが前記通常用フロント側ロール減衰係数Cfnに設定され、車両10のリア側のロール減衰係数Crは前記通常用リア側ロール減衰係数Crnに設定される。続いてCPUは、ステップ680へ進み、ロール振動抑制制御フラグXを「0」に設定して、ステップ690へ進み本ルーチンを一旦終了する。なお、この場合、ロール振動抑制制御が継続して行われた結果、「ロール振動抑制制御条件」は不成立となっている。
ところで、通常制御中から予めフロント側のロール剛性係数Kfに対するリア側のロール剛性係数Krの割合を大きくしておくことも考えられる。しかしながら、フロント側のロール剛性係数Kfに対するリア側のロール剛性係数Krを大きくしておくと、リア側の車輪11RR及び11RLが受け持つロールを抑制するための荷重が大きくなる。その結果、急旋回運転時等においてリア側の車輪によって横力を発生させたい場合であっても、リア側の車輪の横力を発生させる余裕が小さくなり、場合によりスリップが発生する虞が生じる。これに対し、第1装置は、取得したロール成分が所定値よりも大きい場合に限り、フロント側のロール剛性係数Kfに対するリア側のロール剛性係数Krの割合を同ロール成分が所定値以下の場合よりも大きくする。従って、急旋回運動中等においてリア側の車輪に横力を発生させる余裕を大きく持たせることができる。
なお、第1装置において、フロント側ASS20及びリア側ASS30がロール剛性変更手段に相当する。AVS40FR、40FL、40RR及び40RLがロール減衰変更手段に相当する。ロール角センサ61、バンドパスフィルタ回路62及び積分演算手段63がロール成分取得手段に相当する。CPUによる図6のステップ610及びステップ640の処理が第1制御手段及び第2制御手段に相当する。
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態に係る車両の制御装置(以下、「第2装置」と称呼する。)は、上述の第1装置と同じ装置(ハードウェア)を有している。
第2装置のCPUは、図7のフローチャートに示されたルーチンに従って処理を行う。図7のフローチャートに示されたルーチンは図6のステップ630の処理を行わない点及びステップ660に換えてステップ760の処理を行う点において第1装置の図6のフローチャートと相違している。以下、係る相違点を中心に説明をする。なお、図7において図6に示したステップと同一のステップには、図6に示した符号と同一の符号を付している。
ここでは、ロール振動抑制制御が開始している場合(ロール振動抑制制御フラグXが「1」に設定されている場合)から説明を開始する。第2装置のCPUは、所定のタイミングにて図7のステップ700から処理を開始し、ステップ610にて、「ロール振動抑制制御条件」が不成立の状態から成立の状態へ変化したか否かを判定する。既にロール振動抑制制御が開始しているので、この場合、ロール振動抑制制御条件が不成立の状態から成立の状態へは変化していない。従って、CPUは、ステップ610にて「No」と判定してステップ620へ進み、ロール振動抑制制御フラグXが「1」であるか否かを判定する。ロール振動抑制制御フラグXは、ステップ650にて「1」に設定されている。従って、CPUは、ステップ620にて「Yes」と判定してステップ760へ進み、横加速度センサ64により検出された車両10の横加速度Gyが予め定められた所定の値Gythより大きいか否かを判定する。
車両10の横加速度Gyが予め定められた所定の値Gyth以下である場合、CPUは、ステップ760にて「No」と判定してステップ790へ直接進み本ルーチンを一旦終了する。従って、ロール振動抑制制御が継続して行われることになる。
一方、車両10の横加速度Gyが予め定められた所定の値Gythより大きい場合、CPUは、ステップ760にて「Yes」と判定してステップ670へ進み、「ロール振動抑制制御」を終了して「通常制御」を開始する。続いてCPUは、ステップ680へ進み、ロール振動抑制制御フラグXを「0」に設定して、ステップ790へ進み本ルーチンを一旦終了する。
これによれば、車両10の横加速度Gyが予め定められた所定の値Gythより大きい場合、即ち、リア側の車輪11RR及び11RLによって更に大きな横力を発生させる必要性が高くなった場合、「ロール振動抑制制御」を終了して「通常制御」が開始される。従って、リア側の車輪が受け持つロールを抑制するための荷重が過大となることを回避することができるので、リア側の車輪に対して横力を発生させる余裕をより大きく与えることができる。
なお、第2装置において、リア側の車輪11RR及び11RLによって更に大きな横力を発生させる必要が高くなったか否かは、車両10の横加速度Gyが予め定められた所定の値Gythより大きいか否かによって判定されたが、ロール角センサ61により検出されるロール角φの大きさが所定の値φthより大きいか否かによって判定されてもよい。また、車両10のヨーレートγを検出するヨーレートセンサを設けて、検出したヨーレートγが予め定められた所定の値γthより大きいか否かによって判定されてもよい。また、操舵角αを検出するステアリングセンサを設けて、検出した操舵角αが予め定められた所定の値αthより大きいか否かによって判定されてもよい。また、路面摩擦係数μを取得する路面摩擦係数取得手段を設けて、取得した路面摩擦係数μが予め定められた所定の値μthより小さいか否かによって判定されてもよい。また、タイヤ余裕度Dを取得するタイヤ余裕度取得手段(例えば、特開2001−341627号公報参照)を設けて、取得したタイヤ余裕度Dが予め定められた所定の値Dthより小さいか否かによって判定されてもよい。更にこれらのうちの任意の組み合わせにより行われてもよい。
即ち、第2装置は、車輪に横力を発生させる必要の度合いを表すパラメータを取得するタイヤ横力必要度取得手段と、車輪に横力を発生させる必要が所定必要度合いよりも高くなった場合に「ロール振動抑制制御」(即ち、第1制御手段及び/又は第2制御手段による制御)を終了(若しくは、禁止)して「通常制御」を実行する制御禁止手段と、を備えている。この制御禁止手段は、ロール振動抑制制御条件に加えられてもよい。即ち、CPUは、積分演算手段63によりバンドパスフィルタ回路62を通過した信号の値を積分した値が予め定められた所定の値より大きい場合、且つ、車輪に横力を発生させる必要の度合いが所定必要度合い以下である場合、ロール振動抑制制御条件が成立したと判定してもよい。
<第3実施形態>
本発明の第3実施形態に係る車両の制御装置(以下、「第3装置」と称呼する。)は、上述の第1装置と同じ装置(ハードウェア)を有している。
第3装置のCPUは、上述した図6のフローチャートに示されたルーチンと、上述した図7のフローチャートに示されたルーチンとに従って処理を行う。
この場合、第3装置のCPUは、図6のステップ660にて「Yes」と判定された場合、図7のステップ760にて「No」と判定されたとしても、ステップ670の処理を行い「ロール振動抑制制御」を終了して「通常制御」を開始する。同様に、図7のステップ760にて「Yes」と判定された場合、図6のステップ660にて「No」と判定されたとしても、ステップ670の処理を行い「ロール振動抑制制御」を終了して「通常制御」を開始する。換言すると、CPUは、図6のステップ660にて「No」と判定された場合且つ図7のステップ760にて「No」と判定された場合のみ「ロール振動抑制制御」を継続する。
なお、本発明は上記各実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記各実施形態において、ロール成分取得手段はロール角センサ61によりロール角φを取得していたが、ロール成分取得手段はロール角速度センサを含み、そのロール角速度センサにより検出されたロール角速度を時間積分することにより、ロール角φを取得するように構成されていてもよい。また、ロール成分取得手段は、車両10のロール軸を挟む左右の位置に所定の距離を空けて設けられた少なくとも二つの上下加速度センサを含み、その少なくとも二つの上下加速度センサにより検出された上下加速度を表す信号の一方の信号から他方の信号を減算した差分値を求め、その差分値を、例えば、二回積分する等により、ロール方向の変位を推定するものであってもよい。
また、上記各実施形態において、バンドパスフィルタ回路62により「車両が有するロール共振周波数近傍の所定の周波数帯域(特定周波数帯域)」におけるロール方向の振動を抽出していたが、デジタルのバンドパスフィルタによりロール方向の振動を抽出してもよい。
また、上記各実施形態において、「ロール振動抑制制御条件(取得したロール成分が所定値よりも大きいこと)」は、次の場合に成立するように判定されてもよい。
(1)ロール振動(ロール角の時間的変動)を所定時間毎にフーリエ変換等により周波数分析し、その結果として得られる前記特定周波数帯域内のスペクトルの一つが所定値よりも大きくなった場合。
(2)ロール振動(ロール角の時間的変動)を所定時間毎にフーリエ変換等により周波数分析し、その結果として得られる前記特定周波数帯域内の各スペクトルの何れか一つが所定値よりも大きくなった場合。
(3)ロール振動(ロール角の時間的変動)を所定時間毎にフーリエ変換等により周波数分析し、その結果として得られる前記特定周波数帯域内の各スペクトルの何れか一つが単位時間内において所定値よりも大きくなった回数が所定回数より多い場合。
また、上記各実施形態において、ロール振動抑制用フロント側ロール剛性係数(Kfn−ΔK)及びロール振動抑制用リア側ロール剛性係数(Krn+ΔK)における、前記通常用フロント側ロール剛性係数Kfnから減じられる所定値ΔKと前記通常用リア側ロール剛性係数Krnに加えられる所定値ΔKとは同じ値であったが、前記通常用フロント側ロール剛性係数Kfnから減じられる所定値ΔKと前記通常用リア側ロール剛性係数Krnに加えられる所定値ΔKとは異なる値でもよい。
また、上記各実施形態において、ロール振動抑制用フロント側ロール減衰係数(Cfn+ΔC)及びロール振動抑制用リア側ロール減衰係数(Crn−ΔC)における、前記通常用フロント側ロール減衰係数Cfnに加えられる所定値ΔCと前記通常用リア側ロール減衰係数Crnから減じられる所定値ΔCとは同じ値であったが、前記通常用フロント側ロール減衰係数Cfnに加えられる所定値ΔCと前記通常用リア側ロール減衰係数Crnから減じられる所定値ΔCとは異なる値でもよい。
また、上記各実施形態において、CPUは、ロール振動抑制制御において、フロント側ロール剛性係数Kf、リア側ロール剛性係数Kr、フロント側ロール減衰係数Cf及びリア側ロール減衰係数Crを通常制御中のそれらから変更したが、「フロント側ロール剛性係数Kf及びリア側ロール剛性係数Kr」のみを通常制御中のそれらから変更することにより、フロント側ロール剛性係数Kfに対するリア側ロール剛性係数Krの割合が大きくなるようにフロント側ASS20及びリア側ASS30に指示信号を送出してもよい。この場合、車両10は、フロント側ASS20及びリア側ASS30を備えていればよく、AVS40FR〜40RLは、減衰係数可変式でない通常のサスペンションであってもよい。
また、CPUは、ロール振動抑制制御において、「フロント側ロール減衰係数Cf及びリア側ロール減衰係数Cr」のみを通常制御中のそれらから変更することにより、フロント側ロール減衰係数Cfに対するリア側ロール減衰係数Crの割合が小さくなるようにAVS40FR〜40RLに指示信号を送出してもよい。この場合、車両10は、AVS40FR〜40RLを備えていればよく、フロント側ASS20及びリア側ASS30は、ロール剛性(即ち、ロール剛性係数)を可変制御し得るものでない通常のスタビライザーバーであってもよい。また、この場合、車両10は、フロント側のみ又はリア側のみにスタビライザーバーを搭載していてもよく、スタビライザーバーすら搭載されていなくてもよい。
また、CPUは、ロール振動抑制制御において、フロント側ロール剛性係数Kf及びリア側ロール剛性係数Krのうち少なくとも一方のロール剛性係数を通常制御中のロール剛性係数から変更することにより、フロント側ロール剛性係数Kfに対するリア側ロール剛性係数Krの割合が大きくなるようにフロント側ASS20及びリア側ASS30に指示信号を送出してもよい。この場合、車両10は、フロント側ASS20及びリア側ASS30のうち少なくとも一方を備えていればよい。
また、CPUは、ロール振動抑制制御において、フロント側ロール減衰係数Cf及びリア側ロール減衰係数Crのうち少なくとも一方のロール減衰係数を通常制御中のロール減衰係数から変更することにより、フロント側ロール減衰係数Cfに対するリア側ロール減衰係数Crの割合が小さくなるようにAVS40FR〜40RLに指示信号を送出してもよい。この場合、車両10は、AVS40FR及びAVS40FLからなる組と、AVS40RR及びAVS40RLからなる組と、のうち少なくとも一方の組を備えていればよい。