本発明は、人間の心臓の環帯に人工心臓代用弁を埋め込むための保持・挿入器具として機能する器具21を提供する。この器具21において具体化される基本方針は、広範な多種多様の人工心弁、特に二葉心臓弁を埋め込むために適した実用的な保持・挿入器具を作成する場合に有効である。しかしながら、この器具の図面に示した好ましい実施形態は、断面図を図3に示した On-X 心臓弁23の埋設を容易にするために適合させられると共に形成されている。この弁23は、前述の米国特許に詳細に記述されているように、弁体、すなわち開口環27に対して旋回するように取り付けられる一対の葉状部25を用いており、弁体27は外側に拡がった入口端29を有している。例示された弁23は、大動脈弁代用品として挿入されるようになっており、湾曲した入口端29の凹形で概ね環状の外面が、欠陥のある生来の弁の葉状部が切除された組織環帯に対して接触状態となるように配されよう。この埋め込まれる代用弁は、弁体27の中央部外側領域に添えられたかがり環31を介して縫合することにより、環帯の心臓側に配され、すなわち心臓の左心室と対向する所定位置に固定され、縫合が綿撒糸によってもたらされる。
保持・挿入器具21は、相互に相対移動可能な2つの蝶番部を具えた本体33を有している。これらは、前部35および後部37として適宜呼称される。本体を、この分野において周知の許容可能な任意の材料から作ることができるが、通常は、ナイロン,テフロン(商標),デルリン(商標)またはポリスルホンの如き、消毒可能な重合材料から成形されよう。2つの部分35,37を別々に成形し、これらの間の枢軸すなわち蝶番部にてしかるべく接続することが可能である。あるいは、一体蝶番により相互に連結される単一の一体部品としてこれらを成形することができる。前部、すなわち(図4で方向付けたような)左側部分35は、上部39および垂下する脚部41と共に形成されている。後部、すなわち右側部分37は、上部43および垂下する脚部45と共に形成されている。2本の脚部41および45は、相互に対称であって同じ構成を有し、脚部の窪んだ上部は、ここに収容される弁体27を受け入れるように適合させた溝を構成する。
本体33は、任意の適当な方法にて設けられるこれらの間の蝶番部と共に2つの個別部品として成形される。例えば、個別の蝶番ピンを両方の部品35,37に設けた穴に嵌合させることができ、あるいは短いスタブ軸を係合部分に成形したレセプタクルに嵌合させることができる。2つの部分は、(図2および図4に示すような)それらの係合位置と、一方の脚部45が他方の脚部41により近付くように揺動し、先に係合された人工心臓弁を解放するような(図1に示す如き)解放位置との間を旋回しよう。
この心臓弁保持・挿入器具21は、脚部41,45の下端にそれぞれ配されてこれらと一体に形成される一対の傾斜案内部材47,49の組み込みを除き、図1に示した従来の器具に概ね類似している。各案内部材は、その上端に形成された横断面、すなわちフランジ51を有し、ここに人工心臓弁の先端縁29が着座する。この係合は、2つの本体部分35,37が例えば図4および図7に示すような係合位置にある場合、人工心臓弁を保持・挿入器具21に対して所定位置に固定させる。
案内部材49は、フランジ51の外側端縁から先端55まで下方へと滑らかに延在する傾斜外側面53と共に形成されている。2本の脚部41,45がそれらの係合位置にある場合、挿入器具21をこれに係合する心臓弁23と共に示した図8において多分最も良く見られるように、横断面51の外側端縁は、心臓弁のリム29の外側端縁の近傍にある。長手方向の傾斜面53は、段部の端縁から下、すなわち底端55まで全長に亙って滑らかに延在し、連続した曲線、すなわち凹部を有さないように示されている。図8において、先端部55の外側端縁は、それらの最大距離で、その先端縁における心臓弁のリム29の直径よりも実質的に小さい距離で、好ましくはリムの直径の約30%と80%との間の距離で、より好ましくはリムの直径の約50%と65%との間の距離で間隔をあけられている。好ましくは、これらの外側端縁は、挿入器具21の長手方向軸線上にその中心を持つ円上に存在する円弧である。しかしながら、以下に説明するように、これは必須ではない。
基本的に案内部材47,49の外側面は、長手方向軸線と直交する平面内で湾曲する任意の面であってよい。図2および図4〜図9に示すように、これは心臓弁挿入器具の長手方向軸線と直交する平面およびこの長手方向軸線と平行な平面の両方にて好ましくは湾曲している。しかしながら、これは、面83が円錐の一部である図10および図11に示すように長手方向軸線と直交する平面内のみで湾曲することができる。図4で示すような好ましくは二重に湾曲した外側面53は、回転面の一部であることがより好ましい。これらは、球または卵または任意のほぼ同様な形状の一部であってよく、回転楕円形または卵形として呼称することができる。卵形が楕円形や放物面なども意味する場合、楕円形が最も好ましい。対称の見地から、両方の案内部材47および49が同一回転面の一部である面53を有することが好ましいけれども、これらが図8に示した最終的な係合位置にある場合、これらの位置が、例えば公差または他のそのような要因のためにある程度相互にずれる可能性があるため、案内部材が同一回転面に正確に置かれることができないことを理解すべきである。
図5に最も良く示すように、フランジ51が配される案内部材の上端において、その円形の外側端縁は、少なくとも約60°の円弧、より好ましくは約75°と約105°との間の円弧の範囲に画成すべきである。円弧の上限寸法は、図3から明らかなように、案内部材が葉状部25と弁体27の内壁との間を通り抜ける必要があるので、埋め込まれる心臓弁に存在する隙間の量によって決定される。上部領域における少なくとも約60°の円弧は、組織の開口部を充分に広げて所定位置への弁の容易な導入を促進するのに充分であると思われる。内面の中空部58(図2)もまた、葉状部のための隙間をもたらす。
図5,図6および図7に最も良く示すように、案内部材47,49の側端面59は、縦方向ではなくて傾いており、これらは少なくとも約5°、好ましくは約10°のわずかな角度で好ましくは傾斜している。従って、図5および図6から理解できるように、案内部材47,49の各側面59は同一平面にあるけれども、これらは長手方向軸線に対して平行な平面ではなくオフセットされており、長手方向軸線に向けて先細りとなり、これらの側面が案内部材の先端部に向けて延在するようになっている。(図5および図6において参照符号59により識別される)案内部材の側方端面は、これが約5°〜10°オフセットのため、より容易に環帯に入る。さらに、案内部材が組織と接触状態となるように、心臓弁を切開した開口部へと充分に挿入した後、心臓弁を支持する保持・挿入器具を回転した場合、これらの側面59は、組織と開口部の心臓側の縫合を維持するために用いられる綿撒糸との両方に関して外向きのカム動作をもたらす。
案内部材の長手方向の長さもまた、重要であると考えられており、組織と接触した後の案内部材のさらなる挿入は、相対的に遅くかつ滑らかな外方への組織の変形をもたらすようになっている。この点において、案内部材の長手方向の長さ、すなわち図8における距離Aが、弁体の主要部の直径の約20%と約80%との間、より好ましくは弁体の環状縁部の直径の約30%と約40%との間にあるべきである。よりなだらかで長さがより長い案内部材は、環帯のより円滑な拡幅をその結果としてもたらす外側面の曲率半径である可能性がある。弁がその完全な挿入位置の寸前にある場合、通常、挿入器具が回転され、その回転中に側端面59が案内部材の外側面と最初に接触していなかった組織環帯の外側領域をカム動作させる。
先端の1つの隅部C(図2および図5)から反対側の隅部Cまでの端縁が、側面59の傾斜の結果としてフランジ51の端縁での表面の上端縁の円弧よりも僅かに小さな円弧となることは、図5からも理解することができる。さらに、末端での鋭い端縁を回避するため、案内部材の先端が平らにされて狭い平坦面60を作り出す。中空部58をもたらすように窪ませた相互に対向する案内部材の内側面は、二葉弁の葉状部との干渉をさらに回避する。
図7に示すように、保持・挿入器具21が二葉心臓弁23に対して係合位置にある場合、2つの本体部分の上部39および43は、相互に当接係合状態へと回転させられる。これら上部は環状溝61を含み、その周囲に柔軟な伸張部材63が通されて連結され、これらをその当接位置に固定するようになっている。伸張部材63、通常は長さの短い縫合糸は、好ましくは上部39の横穴64を介して通され、そして結ばれる。図4は、心臓弁23が埋め込まれて心臓の壁の望ましい位置に少なくとも予備的に縫合された後に係合を解除するため、外科医が伸張部材63を切って保持・挿入器具の取り外しを可能にすることを容易にする長手方向に延在する溝65を示している。
本体の前部35もまた、本体を完全に通って延在することができる(図5に示すような)上端キャビティ69が形成されたキャップ部67を含む。このキャビティ69の上端は、この分野において周知のような(図示しない)取手の末端に形成された共働部材と相互係合するように形成されている。保持・挿入器具21は、心臓弁と共に普通に包装されて病院または他の施設への出荷前に消毒されるように設計される。使用準備ができている場合、手術室で包装が解かれ、手術の準備ができた時点か、または後に外科医が埋め込まれる心臓弁の正確な大きさを選択した後に、消毒した取手が保持・挿入器具の上端のキャビティ69を介してこのアセンブリと連結されよう。輸送中に、このアセンブリは、概ね図9で最も良く認められ、かつこの分野において一般的に知られているように、本体に設けられた一対の側方溝73に支えられるC字形クリップによる包装状態でぐらつかずに支持される。
欠陥がある生来の弁葉状部を手術により大動脈を介して切除した後、環帯の左心室側にしばしば配される綿撒糸と共に、縫合糸が環帯の周りにその外周を囲むように間隔をあけて置かれる。次いで、外科医は案内部材47,49が環帯を通って延在するように、係合させた弁23と共に保持・挿入器具21を挿入しよう。この挿入動作は、傾斜面53が組織環帯の端縁に係合することをもたらし、これを円滑に外側へゆっくりと拡げて開口部へと弁体の先端縁の導入を案内することをもたらす。それから、外科医は器具を回転して組織環帯の残りの外周を外側へ滑らかにこれが最初に接触状態になかった円弧位置へと拡げ、左心室に関して二葉弁を望ましく整列させる。この回転は、組織が外側にカム動作するのみならず、ここに配されるべき任意の綿撒糸の端部に係合してこれらを移動させることを側端面59にもたらし、それでこれらは弁体外側面と組織の未処理端縁との間に存在する可能性がなくなろう。面53と59との間の隅部の適切な組み合わせ(図示せず)は、この移動を容易にするために好ましくは含まれる。結果として、係合した心臓弁23は、この心臓弁23の先端縁29の凹形の概ね環状をなす外側面に対して当接状態にある組織環帯の未処理端縁と共に、その望ましい位置へと円滑に動かされる。この時、外科医は、この分野において周知のように、かがり環31を貫通する湾曲した縫合針を用いて弁の少なくとも一部を所定位置に縫合し、そして結び終える。次いで、外科医は、切欠き溝65に通された伸張部材63を切って本体の上端での係合を解除することができる。これは、脚部45が後部37の底で自由に旋回すると共に弁体の内側面との接触状態から解除されることを可能にする。図8の右側への挿入器具のわずかな移動は、脚部41をその接触状態から解除する。これは、キャップ部の横穴64に保持された切欠き柔軟部材65を支持する保持・挿入器具が直ちに取り外されることを可能にする。
図10および図11には、保持・挿入器具の他の実施形態が示されており、二重に湾曲した外側面を有する案内部材を用いる代わりに、案内部材81のそれぞれを円錐部である面83にて形成することにより、滑らかな傾斜面が与えられている。この変更を除き、案内部材81は前述の案内部材47,49に類似している。これらは、上述したように同様な間隔をあけられると共に配される外側端を持った同様な平坦な底端部85を有している。
図12〜図15には、異なる人工心臓弁を支持するように設計された保持・挿入器具121の他の実施形態が示されている。これは、St. Jude Medical, Inc により数十年に亙って販売されているような一般型の人工心臓弁を支持するものとして示されている。この保持・挿入器具121の部品には、100を加えた保持・挿入器具21と同じ参照符号が与えられている。従って、このような対応部品に関して先になされた記述が図12〜図15の対応する参照符号を与えた部品に対して等しく適用できることを理解すべきである。
この図示された器具121の他の実施形態は、St. Jude Medical, Inc により市場に出され、かつ米国特許第4276658号に示したものに類似した人工心臓弁123の埋設を容易にするように適合されると共に形成されている。この弁123は、弁体または開口環127に旋回するように取り付けられた一対の葉状部125を同じように用いる。図示した弁123は、これが配される大動脈弁代用品として挿入されるように設計されており、欠陥のある生来の弁葉状部が切除された環帯の左心室に向けてその入口端の一対の半円形延在部128が突出するようになっている。埋め込まれた人工弁は、環帯の心臓側に配される、すなわち心臓の左心室に面する綿撒糸により固定される縫合糸を用い、弁体127の中央外側領域に付与されたかがり環131を介して縫合することにより所定位置に固定される。
保持・挿入器具121は、蝶番により相対移動可能な2つの部品である前部135と後部137とを具えた本体133を有する。前部、すなわち(図14に示すような)左側の部品135は、上部139および付随する脚部141と共に形成されている。後部、すなわち右側の部品137は、上部143および付随する脚部145と共に形成されている。2本の脚部141および145は、相互に対称であって同じ構成を有し、これらの下端に一体的に配された一対の傾斜案内部材147,149を有する。それぞれの案内部材は、脚部141,145に設けられた溝に収まる弁の入口端129に対し、その上端に形成された横断面、すなわちフランジ151を有する。この入口端は、大動脈から埋設中における心臓弁の先端縁である。2つの本体部品135,137が、図に示すような係合位置にある場合、溝への係合は、保持・挿入器具121に対して所定位置に弁を固定する。
案内部材147の傾斜外側面153は、フランジ151の外側端縁から先端155まで下方へと滑らかに延在する。2本の脚部141,145がその係合位置にある場合、横断面151の外側端縁は、心臓弁の入口端129のリムの外側端縁に近接して置かれる。長手方向傾斜面153は、段部の端縁から下端、すなわち底端155までの全距離に亙って連続した曲線として滑らかに延在する。図14にて最も良く理解できるように、これら先端部155の外側端縁はまた、心臓弁のリム129の外径よりも実質的に短い距離で間隔をあけられている。
フランジ151が位置する案内部材の上端は、約75°および約105°の円弧の範囲を繰り返しそれぞれ定める円形の外側端縁を有する。内側面の空洞158もまた、葉状部のための隙間をもたらす。
案内部材147,149の側端面159もまた、少なくとも約5°、好ましくは少なくとも約10°のわずかな角度にて好ましくは傾けられている。また、案内部材の好ましい長手方向の長さ、すなわち図12中の距離Bは、弁体127の先端縁の直径の約20%と約80%との間、より好ましくは弁体127の外周リム面の直径の約30%と約40%との間にあるべきである。
保持・挿入器具121の構成の残り、つまり主にその上部は、保持・挿入器具21に対して前述したものと同じである。この二葉心臓弁123は、前述した方法で取り付けられると共に取り外されよう。同様に、外科医は、保持・挿入器具121をこれに保持される弁123と共に差し込み、生来の弁の欠陥のある葉状部を切除した環帯を通って傾斜案内部材147,149が延在するようにしよう。また、傾斜面153は、組織環帯の端縁が滑らかにかつゆっくりと外側に拡げられることをもたらし、開口部への弁体127の先端縁部の導入を案内する。次に、外科医は、この器具を回転して組織環帯の残りの外周を外側へ滑らかに拡げ、そして左心室に関して二葉弁を望ましく整列させよう。望まれる正しい位置が達成されたならば、外科医は少なくとも弁の一部を所定位置に縫合し、次いで、先に述べたように、伸張部材を切って保持・挿入器具の2つの部品の本体の上端での係合を解除させ、後部137の底で脚部145が自由に旋回すると共に保持・挿入器具121を直ちに取り外すことができるように係合解除することを可能にする。
このように、上述した目的を完全に満たす人工心臓代用弁のための保持・挿入器具が提供されることを理解すべきである。しかしながら、この発明を実施するために現時点において発明者らに知られている最良の形態を構成する好ましい実施形態が例示および記述されたけれども、当業者らにとって明らかなように、これに添付した特許請求の範囲に画成された本発明の範囲を逸脱することなく、さまざまな変更および修正を行うことができることを理解すべきである。この点に関し、この明細書の詳細な説明が大動脈心臓弁の埋設について述べていたけれども、この保持・挿入器具が弁を例えば僧帽弁の位置に挿入するために用いられる場合、同様な利点が得られることを理解すべきである。先に列挙した米国特許のすべての開示内容は、これらを参照することによってこの明細書に明確に組み入れられる。
本発明の個別の特徴が特許請求の範囲で強調される。