少数の例外を除き、全公知生物の遺伝コードは同一の20種の標準アミノ酸をコードするが、ユニークtRNA/アミノアシルtRNAシンテターゼ対、アミノ酸源、及びアミノ酸に特異的なユニークセレクターコドンさえあれば生物のレパートリーに新規アミノ酸を追加することができる(Furter(1998)Protein Sci.,7:419−426)。先に、本発明者らは夫々大腸菌(Wangら,(2000)J.Am.Chem.Soc.,122:5010−5011;Wangら,(2001)Science,292:498−500;Wangら,(2003)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,100:56−61;Chinら,(2002)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,99:11020−11024)と酵母(Chin and Schultz,(2002)ChemBioChem,3:1135−1137;Chinら(2003)Science 301:964−967)において新規特性をもつ各種アミノ酸を遺伝的にコードするためにアンバーナンセンスコドン、TAGを直交M.jannaschii及び大腸菌tRNA/シンテターゼ対と併用できることを示している。
重原子含有アミノ酸等の付加合成アミノ酸を遺伝コードにin vivo付加するためには、翻訳機構で効率的に機能することができるが、対が翻訳系に内在性のシンテターゼとtRNAから独立して機能するという意味で該当翻訳系に対して「直交性」のアミノアシルtRNAシンテターゼとtRNAの新規直交対が必要である。直交対の所望特徴としては、内在tRNAによりデコードされない特定新規コドン(例えばセレクターコドン)のみをデコード又は認識するtRNAと、そのコグネイトtRNAを特定非天然アミノ酸(例えば重原子含有アミノ酸)のみで優先的にアミノアシル化(又は負荷)するアミノアシルtRNAシンテターゼが挙げられる。O−tRNAは内在シンテターゼによりアミノアシル化されないことも望ましい。例えば大腸菌では、直交対は例えば大腸菌に存在する40種の内在tRNAのいずれをも実質的にアミノアシル化しないアミノアシルtRNAシンテターゼと、例えば大腸菌に存在する21種の内在シンテターゼのいずれによっても実質的にアミノアシル化されない直交tRNAを含む。
本発明では、アンバーコドンに応答して重原子含有アミノ酸ヨードPhe及びブロモPheを蛋白質に効率的且つ選択的に組込む新規直交シンテターゼ/tRNA対の作製について報告する。
1側面では、本発明は直交tRNAシンテターゼと、直交tRNA−アミノアシルtRNAシンテターゼ対(例えば非天然アミノ酸、例えば重原子含有アミノ酸を該当蛋白質に組込むために使用することができるO−tRNA/O−RS対)を含む組成物及びキットを提供する。関連方法も記載する。本発明の代表的な直交アミノアシルtRNAシンテターゼはそのO−tRNAをヨードPhe又はブロモPheで優先的にアミノアシル化(又は負荷)する。O−tRNA/O−RS対はO−tRNAにより認識されるセレクターコドンを含むポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質へのヨードPhe又はブロモPheの例えばin vivo組込みを媒介することができる。O−tRNAのアンチコドンループはmRNA上のセレクターコドンを認識し、そのアミノ酸(例えばヨードPhe又はブロモPhe)をポリペプチドの対応位置に組込む。
重原子含有アミノ酸(例えばヨードPhe又はブロモPhe)の効率的な部位特異的蛋白質組込みはX線結晶解析による蛋白質構造解析を容易にする。蛋白質の重原子修飾は位相決定を実施するために一般に使用されており、本発明の方法及び組成物を使用する重原子の部位特異的組込みは修飾部位と重原子数の選択にフレキシビリティを提供する。更に、本明細書に記載する方法による重原子含有蛋白質のin vivo生産は修飾蛋白質の収率を改善することができる。
例えば、本明細書に記載するO−tRNA/O−RS対を使用してヨードPheを組込むと、SADフェージングを容易にすることができる。従って、本発明はO−tRNA/O−RS対を使用して重原子を蛋白質に組込む蛋白質構造の決定方法も提供する。重原子は例えばSADにより位相決定で使用される。
直交tRNA、直交アミノアシルtRNAシンテターゼ、及びその対
1種以上の非天然アミノ酸を含む蛋白質の生産に適した翻訳系は例えば国際公開第WO2002/086075号、発明の名称「直交tRNA−アミノアシルtRNAシンテターゼ対を作製するための方法及び組成物(Methods and composition for the production of orthogonal tRNA−aminoacyl tRNA synthetase pairs)」及びWO2002/085923号、発明の名称「非天然アミノ酸のインビボ組込み(In vivo incorporation of unnatural amino acids)」に記載されている。更に、国際出願第PCT/US2004/011786号(出願日2004年4月16日)参照。これらの各出願はその開示内容全体を参考資料として本明細書に組込む。このような翻訳系は一般に直交tRNA(O−tRNA)と、直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)と、非天然アミノ酸(本発明ではヨードPhe又はブロモPhe等の重原子含有アミノ酸がこのような非天然アミノ酸の例である)を含む細胞(例えば大腸菌等の非真核細胞又は酵母等の真核細胞とすることができる)を含み、O−RSはO−tRNAを非天然アミノ酸でアミノアシル化する。本発明の直交対はO−tRNA(例えばサプレッサーtRNA、フレームシフトtRNA等)とO−RSを含む。本発明は個々の成分も提供する。
一般に、直交対がセレクターコドンを認識し、セレクターコドンに応答してアミノ酸を負荷するとき、直交対はセレクターコドンを「抑圧」すると言う。即ち、翻訳系の(例えば細胞の)内在機構により認識されないセレクターコドンは通常翻訳されないので、非抑圧下で核酸から翻訳されるポリペプチドの生産を阻止することができる。本発明のO−tRNAはセレクターコドンを認識し、本明細書の配列表(例えば配列番号5)に記載するポリヌクレオチド配列を含むか又は前記配列によりコードされるO−tRNAに比較してコグネイトシンテターゼの存在下でセレクターコドンに応答して少なくとも例えば約45%、50%、60%、75%、80%、又は90%以上の抑圧効率を含む。O−RSはO−tRNAを重原子含有アミノ酸等の該当非天然アミノ酸でアミノアシル化する。翻訳系(例えば細胞)は例えば該当ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む核酸を介して成長中のポリペプチド鎖に非天然アミノ酸を組込むためにO−tRNA/O−RS対を使用し、ポリヌクレオチドはO−tRNAにより認識されるセレクターコドンを含む。
本発明の所定態様では、翻訳系は直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)と、直交tRNA(O−tRNA)と、重原子含有アミノ酸(例えば臭素化又はヨウ素化アミノ酸)と、該当ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む細胞(例えば大腸菌細胞)を含み、ポリヌクレオチドはO−tRNAにより認識されるセレクターコドンを含む。翻訳系は無細胞系でもよく、例えば各種市販「in vitro」転写/翻訳系の任意のものを本明細書に記載するようなO−tRNA/ORS対及び非天然アミノ酸と併用することができる。
1態様では、O−RSとO−tRNAの併用による抑圧効率はO−RSの不在下のO−tRNAの抑圧効率の例えば約5倍、10倍、15倍、20倍、又は25倍以上である。1側面では、O−RSとO−tRNAの併用による抑圧効率は本明細書の配列表に記載するような直交シンテターゼ対の抑圧効率の少なくとも例えば約35%、40%、45%、50%、60%、75%、80%、又は90%以上である。
細胞又は他の翻訳系は場合により2種以上の非天然アミノ酸(例えば(例えば臭素化又はヨウ素化アミノ酸と別の非天然アミノ酸(例えば別の重原子含有アミノ酸、又は別種の非天然アミノ酸))を組込むことができるように、複数のO−tRNA/O−RS対を含む。例えば、細胞は更に別の付加O−tRNA/O−RS対と第2の非天然アミノ酸を含むことができ、この付加O−tRNAは第2のセレクターコドンを認識し、この付加O−RSはO−tRNAを第2の非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化する。例えば、O−tRNA/O−RS対(O−tRNAは例えばアンバーセレクターコドンを認識する)を含む細胞は更に第2の直交対を含むことができ、第2のO−tRNAは別のセレクターコドン(例えばオパール、4塩基コドン等)を認識する。各直交対は異なるセレクターコドンの認識を助長できるように異なる起源に由来することが望ましい。
O−tRNA及び/又はO−RSは天然に存在するものでもよいし、例えば種々の生物の任意のものに由来するtRNAのライブラリー及び/又はRSのライブラリーを作製するか及び/又は種々の利用可能な突然変異ストラテジーの任意のものを使用することにより、天然に存在するtRNA及び/又はRSの突然変異により誘導してもよい。例えば、直交tRNA/アミノアシルtRNAシンテターゼ対を作製する1ストラテジーは例えば宿主細胞以外の起源又は多重起源に由来する(宿主に対して)異種のtRNA/シンテターゼ対を宿主細胞に導入する方法である。異種シンテターゼ候補の特性としては、例えば宿主細胞tRNAに負荷しないことが挙げられ、異種tRNA候補の特性としては、例えば宿主細胞シンテターゼによりアミノアシル化されないことが挙げられる。直交対を作製するための第2のストラテジーはO−tRNA又はO−RSをスクリーニング及び/又は選択するための突然変異体ライブラリーを作製する方法である。これらのストラテジーを組み合わせてもよい。
直交tRNA(O−tRNA)
本発明の直交tRNA(O−tRNA)はO−tRNAにより認識されるセレクターコドンを含むポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質への重原子含有アミノ酸(例えば臭素化又はヨウ素化アミノ酸)等の非天然アミノ酸の例えばin vivo又はin vitro組込みを媒介することが望ましい。所定態様では、本発明のO−tRNAは本明細書の配列表(例えば配列番号5)のO−tRNA配列に記載するポリヌクレオチド配列を含むか又は前記配列によりコードされるO−tRNAに比較してコグネイトシンテターゼの存在下でセレクターコドンに応答して少なくとも例えば約45%、50%、60%、75%、80%、又は90%以上の抑圧効率を含む。
抑圧効率は当分野で公知の多数のアッセイの任意のものにより測定することができる。例えば、β−ガラクトシダーゼレポーターアッセイを使用することができ、例えば本発明のO−tRNAを含むプラスミドと共に修飾lacZプラスミド(構築物はlacZ核酸配列中にセレクターコドンをもつ)を適当な生物(例えば直交成分を使用することができる生物)に由来する細胞に導入する。コグネイトシンテターゼも(ポリペプチド又は発現されるとコグネイトシンテターゼをコードするポリヌクレオチドとして)導入することができる。細胞を培地で所望密度(例えばOD600=約0.5)まで増殖させ、例えばBetaFluor(登録商標)β−ガラクトシダーゼアッセイキット(Novagen)を使用してβ−ガラクトシダーゼアッセイを実施する。比較可能な対照(例えば所望位置にセレクターコドンではなく対応するセンスコドンをもつ修飾lacZ構築物から観察される値)に対するサンプルの活性百分率として抑圧百分率を計算することができる。
本発明のO−tRNAの1例を本明細書の配列表に記載する。代表的O−tRNA及びO−RS分子の配列については本明細書の実施例及び図面も参照されたい。更に、本明細書の「核酸及びポリペプチド配列と変異体」のセクションも参照。O−RS mRNA又はO−tRNA分子等のRNA分子では、所与配列又はその相補配列に対してチミン(T)がウラシル(U)で置換されている(コーディングDNAでは逆)。塩基に付加修飾を加えてもよい。
本発明は本発明の特定O−tRNAに対応するO−tRNAの保存変異体も含む。例えば、O−tRNAの保存変異体としては、例えば本明細書の配列表に記載するような特定O−tRNAと同様に機能し、適当な自己相補性によりtRNA L形構造を維持するが、例えば本明細書の配列表、図面又は実施例に記載する配列と同一配列をもたない(と共に野生型tRNA分子以外のものであることが望ましい)分子が挙げられる。本明細書の「核酸及びポリペプチド配列と変異体」のセクションも参照。
O−tRNAを含む組成物は更に直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)を含むことができ、O−RSはO−tRNAを重原子含有アミノ酸(例えば臭素化又はヨウ素化アミノ酸)等の非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化する。所定態様では、O−tRNAを含む組成物は更に(例えばin vitro又はin vivo)翻訳系を含むことができる。該当ポリペプチドをコードし、O−tRNAにより認識されるセレクターコドンを含むポリヌクレオチドを含む核酸、又はこれらの1種以上の組み合わせも細胞に加えることができる。本明細書の「直交アミノアシルtRNAシンテターゼ」のセクションも参照。
組換え直交tRNA(O−tRNA)の作製方法は例えば国際特許出願第WO2002/086075号、発明の名称「直交tRNA−アミノアシルtRNAシンテターゼ対を作製するための方法及び組成物(Methods and compositions for the production of orthogonal tRNA−aminoacyl tRNA synthetase pairs)」、PCT/US2004/022187、発明の名称「直交リシルtRNAとアミノアシルtRNAシンテターゼの対の組成物及びその使用(Compositions of orthogonal lysyl−tRNA and aminoacyl−tRNA synthetase pairs and uses thereof)」、並びにUSSN60/479,931及び60/496,548、発明の名称「真核遺伝コードの拡張(Expanding the Eukaryotic Genetic Code)」に記載されている。Forsterら,(2003)“Programming peptidomimetic synthetases by translating genetic codes designed de novo” PNAS 100(11):6353−6357;及びFengら,(2003)“Expanding tRNA recognition of a tRNA synthetase by a single amino acid change”PNAS 100(10):5676−5681も参照。
直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)
本発明のO−RSは重原子含有アミノ酸(例えば臭素化又はヨウ素化アミノ酸、例えばブロモPhe又はヨードPhe)等の非天然アミノ酸でO−tRNAを優先的にin vitro又はin vivoアミノアシル化する。本発明のO−RSはO−RSを含むポリペプチド及び/又はO−RS又はその一部をコードするポリヌクレオチドにより翻訳系(例えば細胞)に提供することができる。例えば、O−RSの1例は本明細書の配列表(例えば配列番号3−4)及び実施例に記載するアミノ酸配列又はその保存変異体を含む。別の例では、O−RS、又はその一部は本明細書の配列表もしくは実施例に記載する配列を含むアミノ酸をコードするポリヌクレオチド配列又はその相補的ポリヌクレオチド配列によりコードされる。本明細書の「核酸及びポリペプチド配列と変異体」のセクションも参照。
直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)を含む組成物は更にO−tRNAを含むことができ、O−RSはO−tRNAを臭素化又はヨウ素化アミノ酸(例えばブロモPhe又はヨードPhe)等の非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化する。所定態様では、O−RSを含む組成物は更に(例えばin vitro又はin vivo)翻訳系を含むことができる。該当ポリペプチドをコードし、O−tRNAにより認識されるセレクターコドンを含むポリヌクレオチドを含む核酸、又はこれらの1種以上の組み合わせも細胞に加えることができる。
アミノアシル化を測定するためには多数のアッセイの任意のものを使用することができる。これらのアッセイはin vitro又はin vivoで実施することができる。例えば、in vitroアミノアシル化アッセイは例えばHoben and Soll(1985)Methods Enzymol.113:55−59に記載されている。アミノアシル化は直交翻訳成分と共にレポーターを使用し、蛋白質をコードする少なくとも1個のセレクターコドンを含むポリヌクレオチドを発現する細胞でレポーターを検出することにより測定することもできる。WO2002/085923、発明の名称「非天然アミノ酸のインビボ組込み(In vivo incorporation of unnatural amino acids)」;及び国際出願第PCT/US2004/011786号(出願日2004年4月16日)も参照。
本明細書の実施例にはO−tRNAと併用する直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)の同定方法を記載する。要約すると、方法の1例は第1の種の細胞集団について選択(例えばポジティブ選択)を実施する段階を含み、前記細胞は1)複数のアミノアシルtRNAシンテターゼ(RS)のメンバー(例えば複数のRSは突然変異体RS、第1の種以外の種に由来するRS又は突然変異体RSと第1の種以外の種に由来するRSの両方を含むことができる)と;2)(例えば1種以上の種に由来する)直交tRNA(O−tRNA)と;3)(例えばポジティブ)選択マーカーをコードし、少なくとも1個のセレクターコドンを含むポリヌクレオチドを各々含む。複数のRSのメンバーを含まないか又はその量の少ない細胞に比較して抑圧効率の高い細胞について細胞を選択又はスクリーニングする。抑圧効率は当分野で公知の技術及び本明細書に記載するように測定することができる。抑圧効率の高い細胞はO−tRNAをアミノアシル化する活性RSを含む。第1の種に由来する第1組のtRNAの活性RSによる(in vitro又はin vivo)アミノアシル化レベルを第2の種に由来する第2組のtRNAの活性RSによる(in vitro又はin vivo)アミノアシル化レベルと比較する。アミノアシル化レベルは検出可能な物質(例えば標識アミノ酸又は非天然アミノ酸、例えば標識臭素化又はヨウ素化アミノ酸)により測定することができる。第1組のtRNAに比較して第2組のtRNAをより効率的にアミノアシル化する活性RSを一般に選択することにより、O−tRNAと併用する効率的(最適化)直交アミノアシルtRNAシンテターゼが得られる。
同定されたO−RSを更に操作し、所望非天然アミノ酸(例えば重原子含有アミノ酸)のみをO−tRNAに負荷し、20種の標準アミノ酸を負荷しないようにシンテターゼの基質特異性を改変することができる。非天然アミノ酸に基質特異性をもつ直交アミノアシルtRNAシンテターゼの作製方法は例えばシンテターゼの活性部位、シンテターゼの編集メカニズム部位、各種シンテターゼドメインを組み合わせることにより各種部位等でシンテターゼを突然変異させる段階と、選択プロセスを適用する段階を含む。場合によりポジティブ選択後にネガティブ選択を行う併用に基づくストラテジーを使用する。ポジティブ選択では、ポジティブマーカーの非必須位置に導入したセレクターコドンが抑圧されると、細胞はポジティブ選択圧下で生存する。従って、天然及び非天然アミノ酸両者の存在下で生存細胞は直交サプレッサーtRNAに天然又は非天然アミノ酸を負荷する活性シンテターゼをコードする。ネガティブ選択では、ネガティブマーカーの非必須位置に導入したセレクターコドンが抑圧されると、天然アミノ酸特異性をもつシンテターゼは除去される。ネガティブ選択とポジティブ選択後に生存している細胞は直交サプレッサーtRNAを非天然アミノ酸のみでアミノアシル化(負荷)するシンテターゼをコードする。その後、これらのシンテターゼを例えばDNAシャフリング又は他の帰納的突然変異誘発法により更に突然変異誘発することができる。
突然変異体O−RSのライブラリーは当分野で公知の種々の突然変異誘発技術を使用して作製することができる。例えば、突然変異体RSは部位特異的突然変異、ランダム点突然変異、相同組換え、DNAシャフリング又は他の帰納的突然変異誘発法、キメラ構築又はその任意組み合わせにより作製することができる。例えば、突然変異体RSのライブラリーは2種以上の他の例えばサイズとダイバーシティーの小さい「サブライブラリー」から作製することができる。RSのキメラライブラリーも本発明に含まれる。なお、場合により各種生物(例えば真正細菌又は古細菌等の微生物)に由来するtRNAシンテターゼのライブラリー(例えば天然ダイバーシティーを含むライブラリー)(例えば米国特許第6,238,884号(Shortら);米国特許第5,756,316号(Schallenbergerら);米国特許第5,783,431号(Petersenら);米国特許第5,824,485号(Thompsonら);米国特許第5,958,672号(Shortら)参照)を構築し、直交対についてスクリーニングしてもよい。
シンテターゼにポジティブ及びネガティブ選択/スクリーニングストラテジーを実施した後、これらのシンテターゼを更に突然変異誘発させることができる。例えば、O−RSをコードする核酸を単離することができ;(例えばランダム突然変異誘発、部位特異的突然変異誘発、組換え又はその任意組み合わせにより)突然変異O−RSをコードする1組のポリヌクレオチドを核酸から作製することができ;O−tRNAを非天然アミノ酸(例えば重原子含有アミノ酸)で優先的にアミノアシル化する突然変異O−RSが得られるまでこれらの個々の段階又はこれらの段階の組み合わせを繰り返すことができる。本発明の1側面では、段階を複数回、例えば少なくとも2回実施する。
O−tRNA、O−RS、又はその対を作製するために、本発明の方法では付加レベルの選択/スクリーニングストリンジェンシーを使用することもできる。選択又はスクリーニングストリンジェンシーはO−RSを作製するための方法の一方又は両方の段階で変動させることができる。これは例えば選択/スクリーニング物質の使用量等の変動とすることができる。付加ラウンドのポジティブ及び/又はネガティブ選択を実施することもできる。選択又はスクリーニングは更にアミノ酸浸透率の変化、翻訳効率の変化、翻訳忠実度の変化等の1種以上を含むこともできる。一般に、1種以上の変化は蛋白質を生産するために直交tRNA−tRNAシンテターゼ対を使用する生物における1個以上の遺伝子の突然変異に基づく。
O−RSの作製と、シンテターゼの基質特異性の改変に関するその他の一般的な詳細は例えばWO2002/086075、発明の名称「直交tRNA−アミノアシルtRNAシンテターゼ対を作製するための方法及び組成物(Methods and compositions for the production of orthogonal tRNA−aminoacyl tRNA synthetase pairs)」、並びに国際出願第PCT/US2004/011786号(出願日2004年4月16日)及びPCT/US2004/022187号、発明の名称「直交リシルtRNAとアミノアシルtRNAシンテターゼの対の組成物及びその使用(Compositions of orthogonal lysyl−tRNA and aminoacyl−tRNA synthetase pairs and uses thereof)」(出願日2004年7月7日)に記載されている。
資源及び宿主生物
本発明の翻訳成分は非真核生物に由来することができる。例えば、直交O−tRNAは非真核生物(又は生物組み合わせ)、例えばMethanococcus jannaschii、Methanobacterium thermoautotrophicum、Halobacterium(例えばHaloferax volcanii及びHalobacterium種NRC−1)、Archaeoglobus fulgidus、Pyrococcus furiosus、Pyrococcus horikoshii、Aeuropyrum pernix、Methanococcus maripaludis、Methanopyrus kandleri、Methanosarcina mazei、Pyrobaculum aerophilum、Pyrococcus abyssi、Sulfolobus solfataricus、Sulfolobus tokodaii、Thermoplasma acidophilum、Thermoplasma volcanium等の古細菌や、Escherichia coli,Thermus thermophilus,Bacillus stearothermphilus等の真正細菌に由来することができ、直交O−RSは非真核生物(又は生物組み合わせ)、例えばMethanococcus jannaschii、Methanobacterium thermoautotrophicum、Halobacterium(例えばHaloferax volcanii及びHalobacterium種NRC−1)、Archaeoglobus fulgidus、Pyrococcus furiosus、Pyrococcus horikoshii、Aeuropyrum pernix、Methanococcus maripaludis、Methanopyrus kandleri、Methanosarcina mazei、Pyrobaculum aerophilum、Pyrococcus abyssi、Sulfolobus solfataricus、Sulfolobus tokodaii、Thermoplasma acidophilum、Thermoplasma volcanium等の古細菌や、Escherichia coli,Thermus thermophilus,Bacillus stearothermphilus等の真正細菌に由来することができる。1態様では、例えば植物、藻類、原生動物、真菌類、酵母、動物(例えば哺乳動物、昆虫、節足動物等)等の真核資源もO−tRNA及びO−RS資源として使用することができる。
O−tRNA/O−RS対の個々の成分は同一生物に由来するものでも異なる生物に由来するものでもよい。1態様では、O−tRNA/O−RS対は同一生物に由来する。あるいは、O−tRNA/O−RS対のO−tRNAとO−RSは異なる生物に由来する。
O−tRNA、O−RS又はO−tRNA/O−RS対はin vivo又はin vitro選択又はスクリーニングすることができ、及び/又は臭素化又はヨウ素化アミノ酸又は他の該当非天然アミノ酸を組込んだポリペプチドを生産するために細胞(例えば非真核細胞、又は真核細胞)で使用することができる。非真核細胞は種々の資源の任意のものに由来することができ、例えばEscherichia coli、Thermus thermophilus、Bacillus stearothermphilus等の真正細菌や、Methanococcus jannaschii、Methanobacterium thermoautotrophicum、Halobacterium(例えばHaloferax volcanii及びHalobacterium種NRC−1)、Archaeoglobus fulgidus、Pyrococcus furiosus、Pyrococcus horikoshii、Aeuropyrum pernix、Methanococcus maripaludis、Methanopyrus kandleri、Methanosarcina mazei、Pyrobaculum aerophilum、Pyrococcus abyssi、Sulfolobus solfataricus、Sulfolobus tokodaii、Thermoplasma acidophilum、Thermoplasma volcanium等の古細菌が挙げられる。真核細胞は種々の資源の任意のものに由来することができ、例えば植物(例えば単子葉植物、又は双子葉植物等の複雑な植物)、藻類、原生生物、真菌、酵母(例えばSaccharomyces cerevisiae)、動物(例えば哺乳動物、昆虫、節足動物等)等が挙げられる。例えば、適切な昆虫宿主細胞としては限定されないが、鱗翅目、Spodoptera frugiperda、Bombyx mori、Heliothis virescens、Heliothis zea、Mamestra brassicas、Estigmene acrea、及びTrichoplusia ni昆虫細胞が挙げられ、昆虫細胞株の例としては特にBT1−TN−5B1−4(High Five)、BTI−TN−MG1、Sf9、Sf21、TN−368、D.Me1−2、及びSchneider S−2細胞が挙げられる。重原子含有アミノ酸を組込んだ蛋白質を発現させるためには、このような昆虫細胞に場合により蛋白質とセレクターコドンをコードする組換えバキュロウイルスベクターを感染させる。各種バキュロウイルス発現システムが当分野で公知であり、及び/又は市販されており、例えばBaculoDirect(登録商標)(Invitrogen,Carlsbad,CA)やBD BaculoGold(登録商標)バキュロウイルス発現ベクターシステム(BD Biosciences,San Jose,CA)が挙げられる。本発明の翻訳成分を含む細胞の組成物も本発明の特徴である。
別の種で使用するためにある種でO−tRNA及び/又はO−RSをスクリーニングすることについては、国際出願第PCT/US2004/011786号(出願日2004年4月16日)も参照。
セレクターコドン
本発明のセレクターコドンは蛋白質生合成機構の遺伝コドン枠を拡張する。例えば、セレクターコドンとしては例えばユニーク3塩基コドン、ナンセンスコドン(例えばアンバーコドン(UAG)又はオパールコドン(UGA)等の終止コドン)、非天然コドン、少なくとも4塩基のコドン(例えばAGGA)、レアコドン等が挙げられる。例えば1個以上、2個以上、3個以上等の多数のセレクターコドンを所望遺伝子に導入することができる。複数の異なるセレクターコドンを使用することにより、これらの異なるセレクターコドンを使用して複数の異なる非天然アミノ酸の同時部位特異的組込みを可能にする複数の直交tRNA/シンテターゼ対を使用することができる。同様に、複数部位(例えば2個以上、3個以上等)に所与非天然アミノ酸の部位特異的組込みを可能にするように、所与セレクターコドンの2個以上のコピーを所望遺伝子に導入することもできる。
1態様では、本方法は重原子含有アミノ酸を細胞に例えばin vivo組込むために終止コドンであるセレクターコドンを使用する。例えば、終止セレクターコドンを認識し、O−RSにより重原子含有アミノ酸でアミノアシル化されるO−tRNAを作製する。このO−tRNAは翻訳系の内在アミノアシルtRNAシンテターゼにより認識されない。慣用部位特異的突然変異誘発を使用して該当ポリペプチドをコードするターゲットポリヌクレオチドの該当部位にセレクターコドンを導入することができる。例えばSayers,J.R.ら(1988),“5’,3’Exonuclease in phosphorothioate−based oligonucleotide−directed mutagenesis.”Nucleic Acids Res,791−802も参照。O−RS、O−tRNA及び該当ポリペプチドをコードする核酸を例えばin vivoで併用すると、セレクターコドンに応答して重原子含有アミノ酸が組込まれ、特定位置に重原子含有アミノ酸を含むポリペプチドが得られる。
重原子含有アミノ酸等の非天然アミノ酸のin vivo組込みは宿主細胞をさほど撹乱せずに実施することができる。例えば、大腸菌等の非真核細胞では、終止セレクターコドン(例えばUAGコドン)の抑圧効率はO−tRNA(例えばアンバーサプレッサーtRNA)と(UAGコドンと結合してリボソームから成長中のペプチドの放出を開始する)放出因子1(RF1)の競合に依存するので、例えばO−tRNA(例えばサプレッサーtRNA)の発現レベルを増加するか又はRF1欠損株を使用することにより抑圧効率を調節することができる。真核細胞では、UAGコドンの抑圧効率はO−tRNA(例えばアンバーサプレッサーtRNA)と(終止コドンと結合してリボソームから成長中のペプチドの放出を開始する)真核放出因子1(例えばeRF)の競合に依存するので、例えばO−tRNA(例えばサプレッサーtRNA)の発現レベルを増加することにより抑圧効率を調節することができる。更に、例えばジチオスレイトール(DTT)等の還元剤等の放出因子作用を調節する付加成分も加えてもよい。
例えば重原子含有アミノ酸等の非天然アミノ酸をレアコドンでコードすることもできる。例えば、in vitro蛋白質合成反応でアルギニン濃度を下げると、レアアルギニンコドンAGGはアラニンでアシル化された合成tRNAによるAlaの挿入に有効であることが分かっている。例えばMaら,Biochemistry,32:7939(1993)参照。この場合には、合成tRNAは大腸菌に少量種として存在する天然tRNAArgと競合する。更に、生物によっては全三重項コドンを使用しないものもある。Micrococcus luteusで割り当てられないコドンAGAがin vitro転写/翻訳抽出物へのアミノ酸挿入に使用されている。例えばKowal and Oliver,Nucl.Acid.Res.,25:4685(1997)参照。本発明の組成物はこれらのレアコドンをin vivo使用するために作製することができる。
セレクターコドンは更に拡張コドン(例えば4、5、6塩基以上のコドン等の4塩基以上のコドン)も含むことができる。4塩基コドンの例としては例えばAGGA、CUAG、UAGA、CCCU等が挙げられる。5塩基コドンの例としては例えばAGGAC、CCCCU、CCCUC、CUAGA、CUACU、UAGGC等が挙げられる。本発明の方法はフレームシフト抑圧に基づく拡張コドンの使用を含む。4塩基以上のコドンは例えば1又は複数の非天然アミノ酸を同一蛋白質に挿入することができる。他の態様では、アンチコドンループは例えば少なくとも4塩基コドン、少なくとも5塩基コドン、又は少なくとも6塩基コドン又はそれ以上をデコードすることができる。4塩基コドンは256種が考えられるので、4塩基以上のコドンを使用すると同一細胞で複数の非天然アミノ酸をコードすることができる。Andersonら(2002)“Exploring the Limits of Codon and Anticodon Size”Chemistry and Biology,9:237−244及びMagliery(2001)“Expanding the Genetic Code:Selection of Efficient Suppressors of Four−base Codons and Identification of“Shifty”Four−base Codons with a Library Approach in Escherichia coli”J.Mol.Biol.307:755−769も参照。
例えば、in vitro生合成法を使用して非天然アミノ酸を蛋白質に組込むために4塩基コドンが使用されている。例えばMaら(1993)Biochemistry,32,7939、及びHohsakaら(1999)J.Am.Chem.Soc.,121:34参照。2個の化学的にアシル化されたフレームシフトサプレッサーtRNAを用いて2−ナフチルアラニンとリジンのNBD誘導体をストレプトアビジンに同時にin vitro組込むためにCGGGとAGGUが使用されている。例えばHohsakaら(1999)J.Am.Chem.Soc.,121:12194参照。in vivo試験では、MooreらはNCUAアンチコドンをもつtRNALeu誘導体がUAGNコドン(NはU、A、G又はCであり得る)を抑圧する能力を試験し、四重項UAGAはUCUAアンチコドンをもつtRNALeuにより13〜26%の効率でデコードすることができるが、0又は−1フレームでは殆どデコードできないことを見出した。Mooreら(2000)J.Mol.Biol.,298:195参照。1態様では、レアコドン又はナンセンスコドンに基づく拡張コドンを本発明で使用し、他の望ましくない部位でのミスセンス読み飛ばしとフレームシフト抑圧を減らすことができる。
所与系では、セレクターコドンは更に天然3塩基コドンの1種を含むことができ、内在系はこの天然塩基コドンを使用しない(又は殆ど使用しない)。例えば、天然3塩基コドンを認識するtRNAをもたない系、及び/又は3塩基コドンがレアコドンである系がこれに該当する。
セレクターコドンは場合により非天然塩基対を含む。これらの非天然塩基対は更に既存遺伝アルファベットを拡張する。塩基対が1個増えると、三重項コドン数は64から125に増す。第3の塩基対の性質としては安定的且つ選択的な塩基対合、高い忠実度でポリメラーゼによるDNAへの効率的な酵素組込み、及び合成途上の非天然塩基対の合成後の効率的な持続的プライマー伸長が挙げられる。方法と組成物に応用可能な非天然塩基対については、例えばHiraoら(2002)“An unnatural base pair for incorporating amino acid analogues into protein,Nature”Biotechnology,20:177−182参照。Wu,Y.ら(2002)J.Am.Chem.Soc.124:14626−14630も参照。他の関連文献は以下に挙げる。
in vivo使用では、非天然ヌクレオシドは膜透過性であり、リン酸化され、対応する三リン酸塩を形成する。更に、増加した遺伝情報は安定しており、細胞内酵素により破壊されない。Bennerらによる従来の報告はカノニカルワトソンクリック対とは異なる水素結合パターンを利用しており、そのうちで最も注目される例はイソC:イソG対である。例えばSwitzerら(1989)J.Am.Chem.Soc.,111:8322;Piccirilliら(1990)Nature,343:33;及びKool(2000)Curr.Opin.Chem.Biol.,4:602参照。これらの塩基は一般に天然塩基とある程度まで誤対合し、酵素複製することができない。Koolらは水素結合を塩基間の疎水性パッキング相互作用に置き換えることにより塩基対の形成を誘導できることを立証した。Kool(2000)Curr.Opin.Chem.Biol.,4:602;及びGuckian and Kool(1998)Angew.Chem.Int.Ed.Engl.,36,2825参照。上記全要件を満足する非天然塩基対を開発する目的でSchultz,Romerbergらは一連の非天然疎水性塩基を体系的に合成し、試験した。PICS:PICS自己対は天然塩基対よりも安定であり、大腸菌DNAポリメラーゼIのKlenowフラグメント(KF)によりDNAに効率的に組込むことができる。例えばMcMinnら(1999)J.Am.Chem.Soc.,121:11586;及びOgawaら(2000)J.Am.Chem.Soc.,122:3274参照。生体機能に十分な効率と選択性でKFにより3MN:3MN自己対を合成することができる。例えばOgawaら(2000)J.Am.Chem.Soc.,122:8803参照。しかし、どちらの塩基も後期複製用チェーンターミネーターとして作用するものである。PICS自己対を複製するために使用できる突然変異体DNAポリメラーゼが最近開発された。更に、7AI自己対も複製することができる。例えばTaeら(2001)J.Am.Chem.Soc.,123:7439参照。Cu(II)と結合すると安定な対を形成する新規メタロ塩基対Dipic:Pyも開発された。Meggersら(2000)J.Am.Chem.Soc.,122:10714参照。拡張コドンと非天然コドンは天然コドンに本質的に直交性であるので、本発明の方法は天然コドンに直交性のtRNAを作製するためにこの性質を利用することができる。
翻訳バイパス系を使用して重原子含有アミノ酸又は他の非天然アミノ酸を所望ポリペプチドに組込むこともできる。1翻訳バイパス系では、大きい配列が遺伝子に挿入されるが、蛋白質に翻訳されない。この配列はリボソームに配列を飛び越させて挿入の下流の翻訳を再開するための合図として機能する構造を含む。
非天然アミノ酸
本明細書で使用する非天然アミノ酸とはセレノシステイン及び/又はピロリジンと20種の遺伝的にコードされる以下のαアミノ酸、即ちアラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトフアン、チロシン、バリン以外の任意アミノ酸、修飾アミノ酸又はアミノ酸類似体を意味する。αアミノ酸の一般構造は式I:
により表される。
非天然アミノ酸は一般に式Iをもつ任意構造であり、式中、R基は20種の天然アミノ酸で使用されている以外の任意置換基である。20種の天然アミノ酸の構造については、例えばL.Stryer著Biochemistry,第3版,1988,Freeman and Company,New Yorkを参照されたい。なお、本発明の非天然アミノ酸は上記20種のαアミノ酸以外の天然化合物(又は、当然のことながら人工的に製造した合成化合物)でもよい。
本発明の非天然アミノ酸は一般に側鎖が天然アミノ酸と異なるので、天然蛋白質と同様に他のアミノ酸(例えば天然又は非天然アミノ酸)とアミド結合を形成する。一方、非天然アミノ酸は天然アミノ酸と異なる側鎖基をもつ。
非天然アミノ酸を蛋白質に組込むにあたって特に重要な点は、重原子含有アミノ酸、一般にRが重原子を含む式Iのアミノ酸を組込めることである。適切な重原子としては限定されないが、I、Br、U、Hg、Ag、Pt、Pb、Au、Pd、Ir、Os、Cd、Ba、Xe、Te、及びSeが挙げられる。好ましい重原子含有アミノ酸としては臭素化及びヨウ素化アミノ酸、例えばp−ヨード−L−フェニルアラニン(ヨードPhe又はL−4−ヨードフェニルアラニンとも言う;図6A)、L−3−ヨードフェニルアラニン(図6B)、L−2−ヨードフェニルアラニン(図6C)、L−3−ヨードチロシン(図6D)、L−2−ヨードチロシン、p−ブロモ−L−フェニルアラニン(ブロモPhe又はL−4−ブロモフェニルアラニンとも言う)、L−3−ブロモフェニルアラニン、L−2−ブロモフェニルアラニン、L−3−ブロモチロシン、及びL−2−ブロモチロシンが挙げられる。他の重原子含有アミノ酸としてはI又はBr以外の重原子で置換したPhe及びTyrや、任意重原子で置換した他の天然及び非天然アミノ酸が挙げられる。
他の非天然アミノ酸では、例えば、式IにおけるRは場合によりアルキル、アリール、アシル、ケト、アジド、ヒドロキシル、ヒドラジン、シアノ、ハロ、ヒドラジド、アルケニル、アルキニル、エーテル、チオール、セレノ、スルホニル、硼酸、ボロン酸、ホスホ、ホスホノ、ホスフィン、複素環、エノン、イミン、アルデヒド、エステル、チオ酸、ヒドロキシルアミン、アミン基等又はその任意組合せを含む。他の該当非天然アミノ酸としては限定されないが、光架橋基をもつアミノ酸、スピン標識アミノ酸、蛍光アミノ酸、金属結合性アミノ酸、金属含有アミノ酸、放射性アミノ酸、新規官能基をもつアミノ酸、他の分子と共有又は非共有的に相互作用するアミノ酸、フォトケージド及び/又は光異性化可能なアミノ酸、ビオチン又はビオチン類似体を含有するアミノ酸、ケト含有アミノ酸、グリコシル化アミノ酸、ポリエチレングリコール又はポリエーテルを含むアミノ酸、化学分解性又は光分解性アミノ酸、天然アミノ酸に比較して延長側鎖(例えばポリエーテル又は例えば約5もしくは約10炭素長を上回る長鎖炭化水素等)をもつアミノ酸、炭素結合糖含有アミノ酸、レドックス活性アミノ酸、アミノチオ酸含有アミノ酸、及び1個以上の毒性部分を含むアミノ酸が挙げられる。所定態様では、非天然アミノ酸は光架橋基をもつ。1態様では、非天然アミノ酸はアミノ酸側鎖に結合した糖部分及び/又は他の糖鎖修飾をもつ。
新規側鎖を含む非天然アミノ酸に加え、非天然アミノ酸は場合により例えば式II及びIII:
の構造により表されるような修飾主鎖構造を含み、式中、Zは一般にOH、NH2、SH、NH−R’又はS−R’を含み、XとYは同一でも異なっていてもよく、一般にS又はOであり、RとR’は場合により同一又は異なり、一般に式Iをもつ非天然アミノ酸について上記に記載したR基と同一の基及び水素から選択される。例えば、本発明の非天然アミノ酸は場合により式II及びIIIにより表されるようにアミノ又はカルボキシル基に置換を含む。この種の非天然アミノ酸としては限定されないが、例えば20種の標準天然アミノ酸に対応する側鎖又は非天然側鎖をもつα−ヒドロキシ酸、α−チオ酸、α−アミノチオカルボキシレートが挙げられる。更に、α−炭素の置換は場合によりL、D又はα,α−ジ置換アミノ酸(例えばD−グルタミン酸、D−アラニン、D−メチル−O−チロシン、アミノ酪酸等)を含む。他の代替構造としては環状アミノ酸(例えばプロリン類似体や、3、4、6、7、8及び9員環プロリン類似体)、β及びγアミノ酸(例えば置換β−アラニン及びγ−アミノ酪酸)が挙げられる。本発明のその他の非天然アミノ酸構造としては例えばメチレン又はアミノ基がα炭素に隣接してサンドイッチされているホモβ型構造が挙げられ、例えばホモβ−チロシン、α−ヒドラジノチロシンの異性体が挙げられる。例えば、下記参照。
多くの非天然アミノ酸は天然アミノ酸(例えばチロシン、グルタミン、フェニルアラニン等)をベースとする。例えば、チロシン類似体としてはパラ置換チロシン、オルト置換チロシン、及びメタ置換チロシンが挙げられ、置換チロシンはアセチル基、ベンゾイル基、アミノ基、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン、チオール基、カルボキシ基、イソプロピル基、メチル基、C6−C20直鎖又は分枝鎖炭化水素、飽和又は不飽和炭化水素、O−メチル基、ポリエーテル基、ニトロ基等を含む。更に、多置換アリール環も考えられる。本発明のグルタミン類似体としては限定されないが、α−ヒドロキシ誘導体、γ置換誘導体、環状誘導体及びアミド置換グルタミン誘導体が挙げられる。フェニルアラニン類似体の例としては限定されないが、パラ置換フェニルアラニン、オルト置換フェニルアラニン、及びメタ置換フェニルアラニンが挙げられ、置換基はヒドロキシ基、メトキシ基、メチル基、アリル基、アルデヒド又はケト基等を含む。非天然アミノ酸の特定例としては限定されないが、ホモグルタミン、3,4−ジヒドロキシ−L−フェニルアラニン、p−アセチル−L−フェニルアラニン、p−プロパルギルオキシフェニルアラニン、O−メチル−L−チロシン、L−3−(2−ナフチル)アラニン、3−メチルフェニルアラニン、O−4−アリル−L−チロシン、4−プロピル−L−チロシン、トリ−O−アセチル−GlcNAcβ−セリン、L−Dopa、フッ素化フェニルアラニン、イソプロピル−L−フェニルアラニン、p−アジド−L−フェニルアラニン、p−アシル−L−フェニルアラニン、p−ベンゾイル−L−フェニルアラニン、L−ホスホセリン、ホスホノセリン、ホスホノチロシン、p−アミノ−L−フェニルアラニン、及びイソプロピル−L−フェニルアラニン等が挙げられる。
非天然アミノ酸の化学的合成
上記非天然アミノ酸の多くは例えばSigma(米国)やAldrich(Milwaukee,WI,米国)から市販されている。例えば、臭素化及びヨウ素化フェニルアラニン及びチロシンはSigma,Synthetech,Inc.(世界ウェブsynthetech.com)やAdvanced Asymmetries,Inc.(advancedasymmetrics.com)から市販されている。市販されていないものは場合により各種刊行物に記載されている方法や当業者に公知の標準方法を使用して合成される。有機合成技術については例えばFessendon and Fessendon著Organic Chemistry(1982,第2版,Willard Grant Press,Boston Mass.);March著Advanced Organic Chemistry(第3版,1985,Wiley and Sons,New York);及びCarey and Sundberg著Advanced Organic Chemistry(第3版,Parts A and B,1990,Plenum Press,New York)を参照されたい。非天然アミノ酸の合成について記載しているその他の刊行物としては例えばWO2002/085923、発明の名称「非天然アミノ酸のインビボ組込み(In vivo incorporation of Unnatural Amino Acids)」;Matsoukasら(1995)J.Med.Chem.,38,4660−4669;King,F.E. and Kidd,D.A.A.(1949)“A New Synthesis of Glutamine and of γ−Dipeptides of Glutamic Acid from Phthylated Intermediates”J.Chem.Soc.,3315−3319;Friedman,O.M. and Chatterrji,R.(1959)“Synthesis of Derivatives of Glutamine as Model Substrates for Anti−Tumor Agents”J.Am.Chem.Soc.81,3750−3752;Craig,J.C.ら(1988)“Absolute Configuration of the Enantiomers of 7−Chloro−4[[4−(diethylamino)−1−methylbutyl]amino]quinoline(Chloroquine)”J.Org.Chem.53,1167−1170;Azoulay,M.,Vilmont,M. and Frappier,F.(1991)“Glutamine analogues as Potential Antimalarials”Eur.J.Med.Chem.26,201−5;Koskinen,A.M.P. and Rapoport,H.(1989)“Synthesis of 4−Substituted Prolines as Conformationally Constrained Amino Acid Analogues”J.Org.Chem.54,1859−1866;Christie,B.D. and Rapoport,H.(1985)“Synthesis of Optically Pure Pipecolates from L−Asparagine.Application to the Total Synthesis of(+)−Apovincamine through Amino Acid Decarbonylation and Iminium Ion Cyclization”J.Org.Chem.1989:1859−1866;Bartonら,(1987)“Synthesis of Novel α−Amino−Acids and Derivatives Using Radical Chemistry:Synthesis of L−and D−α−Amino−Adipic Acids,L−α−aminopimelic Acid and Appropriate Unsaturated Derivatives”Tetrahedron Lett.43:4297−4308;及びSubasingheら(1992)“Quisqualic acid analogues:synthesis of beta−heterocyclic 2−aminopropanoic acid derivatives and their activity at a novel quisqualate−sensitized site”J.Med.Chem.35:4602−7が挙げられる。国際出願第PCT/US03/41346号、発明の名称「蛋白質アレー(Protein Arrays)」(出願日2003年12月22日)も参照されたい。
非天然アミノ酸の細胞取込み
細胞による非天然アミノ酸取り込みは例えば蛋白質に組込むように非天然アミノ酸を設計及び選択する場合に一般に考慮される問題の1つである。例えば、αアミノ酸の電荷密度が高いと、これらの化合物は細胞に浸透しにくいと思われる。天然アミノ酸は異なる程度のアミノ酸特異性を示すことが多い一連の蛋白質輸送システムにより細胞に取り込まれる。非天然アミノ酸が細胞に取り込まれる場合にはどの非天然アミノ酸が取り込まれるかを判断する迅速なスクリーニングを実施することができる。例えば国際出願第PCT/US03/41346号、発明の名称「蛋白質アレー(Protein Arrays)」(出願日2003年12月22日);及びLiu,D.R. and Schultz,P.G.(1999)“Progress toward the evolution of an organism with an expanded genetic code”PNAS United States 96:4780−4785における毒性アッセイ参照。取込みは種々の方法で容易に分析されるが、細胞取込み経路に利用可能な非天然アミノ酸を設計する代替方法は、アミノ酸をin vivo生産する生合成経路を提供する方法である。
非天然アミノ酸の生合成
細胞にはアミノ酸と他の化合物を生産するために多数の生合成経路が元々存在している。特定非天然アミノ酸の生合成法は自然界(例えば細胞中)には存在しないと思われるが、本発明はこのような方法を提供する。例えば、非天然アミノ酸の生合成経路は場合により新規酵素を付加するか又は既存宿主細胞経路を改変することにより宿主細胞で作製される。付加新規酵素は場合により天然酵素又は人工的に進化させた酵素である。例えば、(WO2002/085923、前出の実施例に記載されているような)p−アミノフェニルアラニンの生合成は他の生物に由来する公知酵素の組合せの付加に依存している。これらの酵素の遺伝子はこれらの遺伝子を含むプラスミドで細胞を形質転換することにより細胞に導入することができる。これらの遺伝子は細胞で発現されると、所望化合物を合成するための酵素経路を提供する。場合により付加される酵素種の例は下記実施例に記載する。その他の酵素配列は例えばGenbankから入手できる。人工的に進化させた酵素も場合により同様に細胞に付加する。このように、非天然アミノ酸を生産するように細胞機構と細胞資源を操作する。
実際に、生合成経路で使用する新規酵素を生産するため又は非天然アミノをin vitroもしくはin vivoで生産するように既存経路を進化させるためには種々の方法の任意のものを使用することができる。非天然アミノ酸を生産するため(又は、実際に新規基質特異性もしくは他の該当活性をもつようにシンテターゼを進化させるため)には、酵素又は他の生合成経路成分を進化させる方法として入手可能な多数の方法を本発明に適用することができる。例えば、in vitro又はin vivoで非天然アミノ酸を生産(又は新規シンテターゼを生産)するように新規酵素及び/又は前記酵素の経路を開発するためには、場合によりDNAシャフリングを使用する。例えばStemmer(1994)“Rapid evolution of a protein in vitro by DNA shuffling”Nature 370(4):389−391;及びStemmer,(1994)“DNA shuffling by random fragmentation and reassembly:In vitro recombination for molecular evolution”Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,91:10747−10751参照。関連アプローチは所望特性をもつ酵素を迅速に進化させるために関連(例えば相同)遺伝子のファミリーをシャフリングする。このような「ファミリー遺伝子シャフリング」法の1例はCrameriら(1998)“DNA shuffling of a family of genes from diverse species accelerates directed evolution”Nature,391(6664):288−291に記載されている。(生合成経路成分であるか又はシンテターゼであるかを問わずに)新規酵素は例えばOstermeierら(1999)“A combinatorial approach to hybrid enzymes independent of DNA homology”Nature Biotech 17:1205に記載されているような「ハイブリッド酵素作製用インクリメンタルトランケーション(incremental truncation for the creation of hybrid enzymes:ITCHY)として知られるDNA組換え法を使用して作製することもできる。このアプローチは1種以上のin vitro又はin vivo組換え法の基質として使用することができる酵素又は他の経路変異体のライブラリーを作製するために使用することもできる。Ostermeierら(1999)“Combinatorial Protein Engineering by Incremental Truncation”Proc.Natl.Acad.Sci.USA,96:3562−67,及びOstermeierら(1999),“Incremental Truncation as a Strategy in the Engineering of Novel Biocatalysts”Biological and Medicinal Chemistry,7:2139−44も参照。別のアプローチは例えば非天然アミノ酸(又は新規シンテターゼ)の生産に関連する生合成反応を触媒する能力について選択する酵素又は他の経路変異体のライブラリーを作製するために指数的集合突然変異誘発を使用する。このアプローチでは、該当配列中の小群の残基を並行してランダム化し、機能的蛋白質をもたらすアミノ酸を各変異位置で同定する。非天然アミノ酸(又は新規シンテターゼ)の生産用新規酵素を作製するように本発明に応用することができるこのような方法の例はDelegrave and Youvan(1993)Biotechnology Research 11:1548−1552に記載されている。更に別のアプローチでは、例えばArkin and Youvan(1992)“Optimizing nucleotide mixtures to encode specific subsets of amino acids for semi−random mutagenesis”Biotechnology 10:297−300;又はReidhaar−Olsonら(1991)“Random mutagenesis of protein sequences using oligonucleotide cassettes”Methods Enzymol.208:564−86の一般突然変異誘発法を使用することにより、酵素及び/又は経路成分操作にドープ又は縮重オリゴヌクレオチドを使用するランダム又は半ランダム突然変異誘発を使用することができる。ポリヌクレオチドリアセンブリと部位飽和突然変異誘発を使用する更に別のアプローチ(「非確率論的」突然変異誘発と呼ぶことが多い)を使用すると、酵素及び/又は経路成分を作製した後に、(例えば非天然アミノ酸のin vivo生産のための)1種以上のシンテターゼ又は生合成経路機能を実施する能力についてスクリーニングすることができる。例えばShort“Non−Stochastic Generation of Genetic Vaccines and Enzymes”WO00/46344参照。
このような突然変異法の代替方法は生物の全ゲノムを組換え、得られた子孫を特定経路機能について選択する方法である(「全ゲノムシャフリング」と呼ぶことが多い)。このアプローチは、例えばゲノム組換えと非天然アミノ酸(又はその中間体)の生産能に関する生物(例えば大腸菌又は他の細胞)の選択により本発明に適用することができる。例えば、非天然アミノ酸をin vivo生産するように細胞で既存及び/又は新規経路を進化させるための経路設計には、以下の文献に教示されている方法を適用することができる:Patnaikら(2002)“Genome shuffling of lactobacillus for improved acid tolerance”Nature Biotechnology,20(7):707−712;及びZhangら(2002)“Genome shuffling leads to rapid phenotypic improvement in bacteria”Nature,February 7,415(6872):644−646。
例えば所望化合物を生産するように生物及び代謝経路を操作するための他の技術も利用可能であり、同様に非天然アミノ酸の生産に適用することができる。有用な経路操作アプローチを教示している文献の例としては、Nakamura and White(2003)“Metabolic engineering for the microbial production of 1,3 propanediol”Curr.Opin.Biotechnol.14(5):454−9;Berryら(2002)“Application of Metabolic Engineering to improve both the production and use of Biotech Indigo”J.Industrial Microbiology and Biotechnology 28:127−133;Bantaら(2002)“Optimizing an artificial metabolic pathway:Engineering the cofactor specificity of Corynebacterium 2,5−diketo−D−gluconic acid reductase for use in vitamin C biosynthesis”Biochemistry,41(20),6226−36;Selivonovaら(2001)“Rapid Evolution of Novel Traits in Microorganisms”Applied and Environmental Microbiology,67:3645、及び他の多数の文献が挙げられる。
使用する方法に関係なく、一般に本発明の人工生合成経路を使用して生産される非天然アミノ酸は効率的な蛋白質生合成に十分な濃度(例えば天然細胞量)で生産されるが、他の細胞内アミノ酸濃度を有意に変化させたり細胞資源を枯渇させる程ではない。このようにin vivo生産される典型濃度は約10mM〜約0.05mMである。特定経路に所望される酵素を生産するように細胞を操作し、非天然アミノ酸を作製したら、場合によりin vivo選択を使用してリボソーム蛋白質合成と細胞増殖の両方に適合するように非天然アミノ酸の生産を更に最適化させる。
重原子含有アミノ酸を組込むための直交成分
本発明はセレクターコドン(例えば終止コドン、ナンセンスコドン、4塩基以上のコドン等)に応答して成長中のポリペプチド鎖に重原子含有アミノ酸(例えば臭素化又はヨウ素化アミノ酸、例えばヨードPhe又はブロモPhe)を例えばin vivo又はin vitroで組込むための直交成分の組成物と作製方法を提供する。例えば、本発明は直交tRNA(O−tRNA)、直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)及びその対を提供する。これらの対は成長中のポリペプチド鎖に重原子含有アミノ酸を組込むために使用することができる。
本発明の組成物は直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)を含み、前記O−RSはO−tRNAを臭素化又はヨウ素化アミノ酸で優先的にアミノアシル化する。所定態様では、O−RSは配列番号3もしくは4を含むアミノ酸配列又はその保存変異体を含む。所定態様では、O−RSは配列番号1もしくは2を含むポリヌクレオチド配列又はその保存変異体によりコードされるアミノ酸配列を含む。本発明の所定態様では、O−RSは配列番号3又は4のアミノ酸配列を含むポリペプチドがO−tRNAを臭素化又はヨウ素化アミノ酸で優先的にアミノアシル化する効率の少なくとも50%(例えば少なくとも60%、少なくとも75%、少なくとも80%、又は少なくとも90%以上)の効率でO−tRNAを臭素化又はヨウ素化アミノ酸で優先的にアミノアシル化する。本発明のO−RSは配列番号6−9のいずれかのアミノ酸配列を含むO−RSを特異的に排除することができる。所定態様では、O−RSは天然チロシルアミノアシルtRNAシンテターゼ(TyrRS)のアミノ酸配列と少なくとも90%一致しており、M.jannaschii TyrRSのTyr32に対応する位置のLeu、M.jannaschii TyrRSのGlu107に対応する位置のSer又はGlu、M.jannaschii TyrRSのAsp158に対応する位置のPro、M.jannaschii TyrRSのIle159に対応する位置のLeu又はArg、及びM.jannaschii TyrRSのLeu162に対応する位置のGlu又はArgから構成される群から選択される2個以上(例えば3個以上、4個以上、又は5個)のアミノ酸を含むアミノ酸配列をもつ。
O−RSを含む組成物は場合により更に直交tRNA(O−tRNA)を含むことができ、前記O−tRNAはセレクターコドンを認識する。一般に、本発明のO−tRNAは本明細書の配列表及び実施例に記載するポリヌクレオチド配列を含むか又は前記配列によりコードされるO−tRNAに比較してコグネイトシンテターゼの存在下でセレクターコドンに応答して少なくとも例えば約45%、50%、60%、75%、80%、又は90%以上の抑圧効率を含む。1態様では、O−RSとO−tRNAの併用による抑圧効率はO−RSの不在下のO−tRNAの抑圧効率の例えば5倍、10倍、15倍、20倍、25倍以上である。
O−RSを含む組成物は場合により細胞(例えば大腸菌細胞等の非真核細胞、又は真核細胞)、及び/又は翻訳系を含むことができる。
本発明は翻訳系を含む細胞(例えば非真核細胞、又は真核細胞)も提供し、前記翻訳系は直交tRNA(O−tRNA)と、直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)と、臭素化又はヨウ素化アミノ酸を含む。O−tRNAは第1のセレクターコドンを認識し、O−RSはO−tRNAを臭素化又はヨウ素化アミノ酸で優先的にアミノアシル化する。1態様では、O−tRNAは配列番号5に記載のポリヌクレオチド配列又はその相補的ポリヌクレオチド配列を含むか又は前記配列によりコードされる。1態様では、O−RSは配列番号3−4に記載のアミノ酸配列又はその保存変異体を含む。所定態様では、O−RSは配列番号1もしくは2を含むポリヌクレオチド配列又はその保存変異体によりコードされるアミノ酸配列を含む。本発明の所定態様では、O−RSは配列番号3又は4のアミノ酸配列を含むポリペプチドの効率の少なくとも50%(例えば少なくとも60%、少なくとも75%、少なくとも80%、又は少なくとも90%以上)の効率でO−tRNAを臭素化又はヨウ素化アミノ酸で優先的にアミノアシル化する。本発明のO−RSは配列番号6−9のいずれかのアミノ酸配列を含むO−RSを特異的に排除することができる。所定態様では、O−RSは天然チロシルアミノアシルtRNAシンテターゼ(TyrRS)のアミノ酸配列と少なくとも90%一致しており、M.jannaschii TyrRSのTyr32に対応する位置のLeu、M.jannaschii TyrRSのGlu107に対応する位置のSer又はGlu、M.jannaschii TyrRSのAsp158に対応する位置のPro、M.jannaschii TyrRSのIle159に対応する位置のLeu又はArg、及びM.jannaschii TyrRSのLeu162に対応する位置のGlu又はArgから構成される群から選択される2個以上(例えば3個以上、4個以上、又は5個)のアミノ酸を含むアミノ酸配列をもつ。
場合により、本発明の細胞は該当ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含み、前記ポリヌクレオチドはO−tRNAにより認識されるセレクターコドンを含む。本発明の細胞は場合により異なる付加O−tRNA/O−RS対と第2の非天然アミノ酸を更に含むことができ、例えばこのO−tRNAは第2のセレクターコドンを認識し、このO−RSはO−tRNAを第2の非天然アミノ酸で優先的にアミノアシル化する。
所定態様では、本発明の細胞(例えば大腸菌細胞)は直交アミノアシルtRNAシンテターゼ(O−RS)と、直交tRNA(O−tRNA)と、臭素化又はヨウ素化アミノ酸を含む。直交tRNAはセレクターコドンを認識し、直交アミノアシルtRNAシンテターゼは直交tRNAを臭素化又はヨウ素化アミノ酸で優先的にアミノアシル化する。O−RSとO−tRNAは各々一般に細胞中の1個以上の核酸によりコードされる。場合により、細胞は該当ポリペプチドをコードする核酸も含み、前記ポリヌクレオチドはO−tRNAにより認識されるセレクターコドンを含む。細胞は更にターゲット核酸によりコードされる蛋白質も含むことができ、前記蛋白質は臭素化又はヨウ素化アミノ酸を含む。
本発明の所定態様では、本発明のO−tRNAは本明細書の配列表もしくは実施例に記載するポリヌクレオチド配列、又はその保存変異体を含むか又は前記配列によりコードされる。本発明の所定態様では、O−RSは本明細書の配列表に記載するアミノ酸配列又はその保存変異体を含む。1態様では、O−RS又はその一部は本明細書の配列表もしくは実施例に記載するアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド配列、又はその相補的ポリヌクレオチド配列によりコードされる。
本発明のO−tRNA及び/又はO−RSは種々の生物(例えば真核及び/又は非真核生物)の任意のものに由来することができる。
ポリヌクレオチドも本発明の特徴である。本発明の核酸は配列番号1もしくは2のポリヌクレオチド配列、又はその相補的ポリヌクレオチド配列を含む。本発明のポリヌクレオチドは更に本明細書の配列表に記載するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む人工(例えば人為的に作製され、天然には存在しない)ポリヌクレオチドを含むか、及び/又は前記ポリヌクレオチド配列に相補的である。本発明のポリヌクレオチドは更に核酸の実質的に全長にわたって高ストリンジェント条件下で上記ポリヌクレオチドとハイブリダイズする核酸も含むことができる。上記の任意のものと例えば少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%以上一致する人工ポリヌクレオチド及び/又は上記の任意のものの保存変異体を含むポリヌクレオチドも本発明のポリヌクレオチドに含まれる。
本発明のポリヌクレオチドを含むベクターも本発明の特徴である。例えば、本発明のベクターはプラスミド、コスミド、ファージ、ウイルス、発現ベクター及び/又は同等物を含むことができる。本発明のベクターを含む細胞も本発明の特徴である。
重原子含有アミノ酸(例えば臭素化又はヨウ素化アミノ酸)をO−tRNAに負荷する直交アミノアシルtRNAシンテターゼの同定方法も提供する。例えば、方法は第1の種の細胞集団に選択を実施する段階を含み、前記細胞は、1)複数のアミノアシルtRNAシンテターゼ(RS)(例えば複数のRSは突然変異体RS、第1の種以外の種に由来するRS、又は突然変異体RSと第1の種以外の種に由来するRSの両方を含むことができる)のメンバーと;2)(例えば1種以上の種に由来する)直交−tRNA(O−tRNA)と;3)ポジティブ選択マーカーをコードし、少なくとも1個のセレクターコドンを含むポリヌクレオチド、又はネガティブ選択マーカーをコードし、少なくとも1個のセレクターコドンを含むポリヌクレオチドを各々含む。重原子含有アミノ酸(例えば臭素化又はヨウ素化アミノ酸)は一般にポジティブ選択の各ラウンド中に供給され、ネガティブ選択の各ラウンド中には供給されない。
複数のRSのメンバーを含まないか又はその量の少ない細胞に比較して抑圧効率の高い細胞について細胞(例えば宿主細胞)をポジティブ選択又はスクリーニングする。これらの選択/スクリーニングした細胞はO−tRNAをアミノアシル化する活性RSを含む。更に、選択/スクリーニングした細胞がO−tRNAを内在アミノ酸でアミノアシル化しないRSを含むように、細胞をネガティブ選択又はスクリーニングする。この方法により同定された直交アミノアシルtRNAシンテターゼも本発明の特徴である。
核酸及びポリペプチド配列と変異体
上記及び下記に記載するように、本発明は核酸ポリヌクレオチド配列(例えばO−tRNA及びO−RS)及びポリペプチドアミノ酸配列(例えばO−RS)と、例えば前記配列を含む組成物、キット及び方法を提供する。前記配列(例えばO−tRNA及びO−RS)の例を本明細書に開示する(本明細書の配列表及び実施例参照)。しかし、当業者に自明の通り、本発明は例えば実施例や配列表に記載する厳密な配列に限定されない。当業者に自明の通り、本発明は例えば本明細書に記載する機能をもつ(例えば適切なO−tRNA又はO−RSをコードする)多数の関連及び非関連配列も提供する。
本発明はポリペプチド(O−RS)とポリヌクレオチド(例えばO−tRNA、O−RS又はその部分をコードするポリヌクレオチド、アミノアシルtRNAシンテターゼクローンを単離するために使用されるオリゴヌクレオチド等)を提供する。本発明のポリヌクレオチドとしては、1個以上のセレクターコドンをもつ本発明の該当蛋白質又はポリペプチドをコードするものが挙げられる。更に、本発明のポリヌクレオチドとしては、例えば本明細書の配列表に記載するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドと、そのポリヌクレオチド配列に相補的であるか又は前記配列をコードするポリヌクレオチドが挙げられる。本発明のポリヌクレオチドは更に本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。同様に、核酸の実質的に全長にわたって高ストリンジェント条件下で上記ポリヌクレオチドとハイブリダイズする(天然ポリヌクレオチド以外の)人工核酸も本発明のポリヌクレオチドである。人工ポリヌクレオチドとは人為的に作製され、天然には存在しないポリヌクレオチドである。
本発明のポリヌクレオチドは天然に存在するtRNA又は本明細書の配列表もしくは実施例に記載する任意tRNAもしくはそのコーディング核酸と例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%以上一致する人工ポリヌクレオチド(但し、天然に存在するtRNA以外のもの)も含む。ポリヌクレオチドは天然に存在するtRNAのポリヌクレオチドと例えば少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%以上一致する人工ポリヌクレオチドも含む。
所定態様では、ベクター(例えばプラスミド、コスミド、ファージ、ウイルス等)に本発明のポリヌクレオチドを組込む。1態様では、ベクターは発現ベクターである。所定態様では、発現ベクターは本発明のポリヌクレオチドの1種以上と機能的に連結されたプロモーターを含む。所定態様では、本発明のポリヌクレオチドを組込んだベクターを細胞に導入する。
同様に当業者に自明の通り、開示配列の多数の変異体も本発明に含まれる。例えば、機能的に同一配列となる開示配列の保存変異体も本発明に含まれる。例えば標準配列比較法により本明細書に開示する配列のユニークサブ配列であるとみなされる配列も本発明に含まれる。
保存変異
遺伝コードの縮重により、「サイレント置換」(即ちコードされるポリペプチドに変化を生じない核酸配列の置換)はアミノ酸をコードする全核酸配列の暗黙の特徴である。同様に、「保存アミノ酸置換」はアミノ酸配列中の1又は数個のアミノ酸を高度に類似する特性をもつ別のアミノ酸で置換するものであり、このような置換も開示構築物と高度に類似することが容易に認められる。各開示配列のこのような保存変異(又は保存変異体)は本発明の特徴である。
特定核酸配列の「保存変異体」又は「保存変異」とは同一又は本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸を意味し、核酸がアミノ酸配列をコードしない場合には本質的に同一の配列を意味する。当業者に自明の通り、コードされる配列中の単一アミノ酸又は低百分率(一般に5%未満、より一般には4%、2%又は1%未満)のアミノ酸を置換、付加又は欠失させる個々の置換、欠失又は付加の結果としてアミノ酸を欠失するか、アミノ酸が付加されるか、又はアミノ酸が化学的に類似するアミノ酸で置換される場合には、これらの変異は「保存修飾変異」である。従って、本発明の記載ポリペプチド配列の「保存変異体」又は「保存変異」としては、ポリペプチド配列のアミノ酸の低百分率、一般に5%未満、より一般には2%又は1%未満が同一保存置換基のアミノ酸で置換される場合が挙げられる。最後に、非機能的配列の付加のように核酸分子のコードされる活性を変えない配列の付加も基本核酸の保存変異である。
機能的に類似するアミノ酸を示す保存置換表は当分野で周知であり、このようなアミノ酸では、あるアミノ酸残基が同様の化学的性質(例えば芳香族側鎖又は正荷電側鎖)をもつ別のアミノ酸残基に置換しているため、ポリペプチド分子の機能的性質は実質的に変化しない。化学的性質が類似する天然アミノ酸を含む代表的グループを以下に示すが、これらのグループ内の置換は「保存置換」である。
核酸ハイブリダイゼーション
本発明の核酸の保存変異体を含めて本明細書の配列表に記載するような本発明の核酸を同定するためには比較ハイブリダイゼーションを使用することができ、この比較ハイブリダイゼーション法は本発明の核酸を無関係の核酸から識別する方法の1つである。更に、高、超高及び超々高ストリンジェンシー条件下で配列表の配列により表される核酸とハイブリダイズするターゲット核酸も本発明の特徴である。このような核酸の例としては所与核酸配列と比較して1又は数個のサイレント又は保存核酸置換をもつものが挙げられる。
試験核酸が完全にマッチする相補的ターゲットに比較して少なくとも1/2の割合でプローブとハイブリダイズする場合、即ちマッチしないターゲット核酸の任意のものとのハイブリダイゼーションに観測されるシグナル対ノイズ比の少なくとも約5倍〜10倍で完全にマッチするプローブが完全にマッチする相補的ターゲットと結合する条件下におけるプローブとターゲットのハイブリダイゼーションに比較してシグナル対ノイズ比が少なくとも1/2である場合に試験核酸はプローブ核酸と特異的にハイブリダイズすると言う。
核酸は一般に溶液中で会合するときに「ハイブリダイズ」する。核酸は水素結合、溶媒排除、塩基スタッキング等の種々の十分に特性決定された物理化学的力によりハイブリダイズする。核酸ハイブリダイゼーションの詳しい手引きはTijssen(1993)Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology−−Hybridization with Nucleic Acid Probes part I chapter 2,“Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid probe assays,”(Elsevier,New York)及びAusubel,前出に記載されている。Hames and Higgins(1995)Gene Probes 1 IRL Press at Oxford University Press,Oxford,England,(Hames and Higgins 1)及びHames and Higgins(1995)Gene Probes 2 IRL Press at Oxford University Press,Oxford,England(Hames and Higgins 2)はオリゴヌクレオチドを含むDNAとRNAの合成、標識、検出及び定量について詳細に記載している。
サザン又はノーザンブロットで100個を上回る相補的残基をもつ相補的核酸のハイブリダイゼーションをフィルター上で行うためのストリンジェントハイブリダイゼーション条件の1例は、50%ホルマリンにヘパリン1mgを加え、42℃で一晩ハイブリダイゼーションを実施する。ストリンジェント洗浄条件の1例は65℃、0.2×SSCで15分間洗浄する(SSC緩衝液の説明についてはSambrook,前出参照)。多くの場合には高ストリンジェンシー洗浄の前に低ストリンジェンシー洗浄を実施してバックグラウンドプローブシグナルを除去する。低ストリンジェンシー洗浄の1例は40℃、2×SSCで15分間である。一般に、シグナル対ノイズ比が特定ハイブリダイゼーションアッセイで無関係プローブに観測される比の5倍(以上)である場合に特異的ハイブリダイゼーションが検出されたとみなす。
サザン及びノーザンハイブリダイゼーション等の核酸ハイブリダイゼーション実験において「ストリンジェントハイブリダイゼーション洗浄条件」は配列依存性であり、各種環境パラメーターにより異なる。核酸ハイブリダイゼーションの詳しい手引きはTijssen(1993),前出やHames and Higgins 1及び2に記載されている。ストリンジェントハイブリダイゼーション及び洗浄条件は任意試験核酸について経験により容易に決定することができる。例えば、高ストリンジェントハイブリダイゼーション及び洗浄条件を決定するには、一連の選択基準に合致するまで(例えばハイブリダイゼーション又は洗浄における温度上昇、塩濃度低下、界面活性剤濃度増加及び/又はホルマリン等の有機溶媒濃度増加により)ハイブリダイゼーション及び洗浄条件を徐々に増加する。例えば、マッチしないターゲットとプローブのハイブリダイゼーションに観測されるシグナル対ノイズ比の少なくとも約5倍でプローブが完全にマッチする相補的ターゲットと結合するまでハイブリダイゼーション及び洗浄条件を徐々に増加する。
「超ストリンジェント」条件は特定プローブの熱融点(Tm)に等しくなるように選択される。Tmは(規定イオン強度及びpH下で)試験配列の50%が完全にマッチするプローブとハイブリダイズする温度である。本発明の目的には、一般に規定イオン強度及びpHで特定配列のTmよりも約5℃低くなるように「高ストリンジェント」ハイブリダイゼーション及び洗浄条件を選択する。
「超高ストリンジェンシー」ハイブリダイゼーション及び洗浄条件は完全にマッチする相補的ターゲット核酸とプローブの結合に観測されるシグナル対ノイズ比がマッチしないターゲット核酸の任意のものとのハイブリダイゼーションに観測されるシグナル対ノイズ比の少なくとも10倍になるまでハイブリダイゼーション及び洗浄条件のストリンジェンシーを増加する条件である。完全にマッチする相補的ターゲット核酸のシグナル対ノイズ比の少なくとも1/2で前記条件下にプローブとハイブリダイズする場合にターゲット核酸は超高ストリンジェンシー条件下でプローブと結合すると言う。
同様に、該当ハイブリダイゼーションアッセイのハイブリダイゼーション及び/又は洗浄条件を徐々に増加することにより更に高いレベルのストリンジェンシーを決定することもできる。例えば、完全にマッチする相補的ターゲット核酸とプローブの結合に観測されるシグナル対ノイズ比がマッチしないターゲット核酸の任意のものとのハイブリダイゼーションに観測されるシグナル対ノイズ比の少なくとも10倍、20倍、50倍、100倍又は500倍以上になるまでハイブリダイゼーション及び洗浄条件のストリンジェンシーを増加する条件である。完全にマッチする相補的ターゲット核酸のシグナル対ノイズ比の少なくとも1/2で前記条件下にプローブとハイブリダイズする場合にターゲット核酸は超々高ストリンジェンシー条件下でプローブと結合すると言う。
ストリンジェント条件下で相互にハイブリダイズしない核酸でも、これらの核酸によりコードされるポリペプチドが実質的に同一である場合には実質的に同一である。これは、例えば遺伝コードに許容される最大コドン縮重を使用して核酸のコピーを作製する場合に該当する。
ユニークサブ配列
1側面では、本発明は本明細書に開示するO−tRNA及びO−RSの配列から選択される核酸中にユニークサブ配列を含む核酸を提供する。ユニークサブ配列は従来公知の任意tRNA及びRS核酸配列に対応する核酸に比較してユニークである。例えばデフォルトパラメーターに設定したBLASTを使用してアラインメントを実施することができる。任意ユニークサブ配列は例えば本発明の核酸を同定するためのプローブとして有用である。
同様に、本発明は本明細書に開示するO−RSの配列から選択されるポリペプチド中にユニークサブ配列を含むポリペプチドを含む。この場合には、ユニークサブ配列は従来公知の任意RS配列に対応するポリペプチドに比較してユニークである。
本発明はO−RSの配列から選択されるポリペプチド中のユニークサブ配列をコードするユニークコーディングオリゴヌクレオチドとストリンジェント条件下でハイブリダイズするターゲット核酸も提供し、この場合には、ユニークサブ配列は対照ポリペプチド(例えば本発明のシンテターゼを例えば突然変異により誘導した元の親配列)の任意のものに対応するポリペプチドに比較してユニークである。ユニーク配列は上記のように決定する。
配列比較、一致度及び相同度
2種以上の核酸又はポリペプチド配列に関して「一致」又は「一致度」百分率なる用語は2種以上の配列又はサブ配列を最大限に対応するように対比及び整列させ、以下に記載する配列比較アルゴリズム(又は当業者に入手可能な他のアルゴリズム)の1種を使用するか又は目視により測定した場合に相互に同一であるか又は同一のアミノ酸残基もしくはヌクレオチドの百分率が特定値であることを意味する。
2種以上の核酸又はポリペプチド(例えばO−tRNAもしくはO−RSをコードするDNA又はO−RSのアミノ酸配列)に関して「実質的に一致」なる用語は2種以上の配列又はサブ配列を最大限に対応するように対比及び整列させ、配列比較アルゴリズムを使用するか又は目視により測定した場合にヌクレオチド又はアミノ酸残基一致度が少なくとも約60%、約80%、約90〜95%、約98%、約99%以上であることを意味する。このような「実質的に一致」する配列は一般に実際の起源が記載されていなくても「相同」であるとみなす。少なくとも約50残基長の配列の領域、より好ましくは少なくとも約100残基長の領域にわたって「実質的一致」が存在していることが好ましく、少なくとも約150残基又は比較する2配列の全長にわたって配列が実質的に一致していることが最も好ましい。
蛋白質及び/又は蛋白質配列は共通の祖先蛋白質又は蛋白質配列から天然又は人工的に誘導される場合に「相同」である。同様に、核酸及び/又は核酸配列は共通の祖先核酸又は核酸配列から天然又は人工的に誘導される場合に相同である。例えば、1個以上のセレクターコドンを含むように任意天然核酸を利用可能な任意突然変異誘発法により改変することができる。この突然変異誘発した核酸は発現されると、1種以上の非天然アミノ酸(例えば1種以上のヨウ素化又は臭素化アミノ酸)を含むポリペプチドをコードする。突然変異法は当然のことながら更に1個以上の標準コドンを変異させ、得られる突然変異体蛋白質の1個以上の標準アミノ酸も変異させることができる。相同性は一般に2種以上の核酸又は蛋白質(又はその配列)間の配列類似度から推定される。相同性の判定に有用な配列間類似度の厳密な百分率は該当核酸及び蛋白質により異なるが、通常は25%程度の低い配列類似度を使用して相同性を判定する。例えば30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%又は99%以上のより高レベルの配列類似度を使用して相同性を判定することもできる。配列類似度百分率の決定方法(例えばデフォルトパラメーターを使用するBLASTP及びBLASTN)は本明細書に記載し、一般に入手可能である。
配列比較及び相同性判定には、一般に一方の配列を参照配列としてこれに試験配列を比較する。配列比較アルゴリズムを使用する場合には、試験配列と参照配列をコンピューターに入力し、必要に応じてサブ配列座標を指定し、配列アルゴリズムプログラムパラメーターを指定する。こうすると、配列比較アルゴリズムは指定プログラムパラメーターに基づいて参照配列に対して試験配列の配列一致度百分率を計算する。
比較のための最適な配列アラインメントは例えばSmith and Waterman(1981)Adv.Appl.Math.2:482の局所相同性アルゴリズム、Needleman and Wunsch,J.(1970)Mol.Biol.48:443の相同性アラインメントアルゴリズム、Pearson and Lipman(1988)Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 85:2444の類似性探索法、これらのアルゴリズムのコンピューターソフトウェア(Wisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group,575 Science Dr.,Madison,WIのGAP、BESTFIT、FASTA及びTFASTA)、又は目視(一般にAusubelら,後出参照)により実施することができる。
配列一致度及び配列類似度百分率を決定するのに適したアルゴリズムの1例はAltschulら,J.Mol.Biol.215:403−410(1990)に記載されているBLASTアルゴリズムである。BLAST分析を実施するためのソフトウェアはNational Center for Biotechnology Information(www.ncbi.nlm.nih.gov/)から公共入手可能である。このアルゴリズムはデータベース配列中の同一長さの単語と整列した場合に所定の正の閾値スコアTと一致するか又はこれを満足するクエリー配列中の長さWの短い単語を識別することによりまず高スコア配列対(HSP)を識別する。Tを隣接単語スコア閾値と言う(Altschulら,前出)。これらの初期隣接単語ヒットをシードとして検索を開始し、これらの単語を含むもっと長いHSPを探索する。次に、累積アラインメントスコアを増加できる限り、単語ヒットを各配列に沿って両方向に延長する。ヌクレオチド配列の場合にはパラメーターM(1対のマッチ残基のリウォードスコア、常に>0)及びN(ミスマッチ残基のペナルティースコア、常に<0)を使用して累積スコアを計算する。アミノ酸配列の場合には、スコアリングマトリクスを使用して累積スコアを計算する。累積アラインメントスコアがその最大到達値から量Xだけ低下するか、累積スコアが1カ所以上の負スコア残基アラインメントの累積によりゼロ以下になるか、又はどちらかの配列の末端に達したら各方向の単語ヒットの延長を停止する。BLASTアルゴリズムパラメーターW、T及びXはアラインメントの感度と速度を決定する。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列用)は語長(W)11、期待値(E)10、カットオフ100、M=5、N=4、及び両鎖の比較をデフォルトとして使用する。アミノ酸配列用として、BLASTPプログラムは語長(W)3、期待値(E)10、及びBLOSUM62スコアリングマトリクスをデフォルトとして使用する(Henikoff and Henikoff(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10915参照)。
配列一致度百分率の計算に加え、BLASTアルゴリズムは2配列間の類似性の統計分析も実施する(例えばKarlin and Altschul(1993)Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA 90:5873−5787参照)。BLASTアルゴリズムにより提供される類似性の1尺度は2種のヌクレオチド又はアミノ酸配列間に偶然にマッチが起こる確率を示す最小合計確率(P(N))である。例えば、試験核酸を参照核酸に比較した場合の最小合計確率が約0.1未満、より好ましくは約0.01未満、最も好ましくは約0.001未満である場合に核酸は参照核酸に類似しているとみなす。
突然変異誘発及び他の分子生物学技術
本発明のポリヌクレオチドとポリペプチド及び本発明で使用されるポリヌクレオチドとポリペプチドは分子生物学技術を使用して操作することができる。分子生物学技術について記載している一般教科書としてはBerger and Kimmel,Guide to Molecular Cloning Techniques,Methods in Enzymology volume 152 Academic Press,Inc.,San Diego,CA(「Berger」);Sambrookら,Molecular Cloning−A Laboratory Manual(第3版),Vol.1−3,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,New York,2001(「Sambrook」)及びCurrent Protocols in Molecular Biology,F.M.Ausubelら編,Current Protocols,a joint venture between Greene Publishing Associates,Inc.and John Wiley and Sons,Inc.,(2004年補遺)(「Ausubel」))が挙げられる。これらの教科書は突然変異誘発、ベクターの使用、プロモーターについて記載しており、更に例えば非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質を生産するためのセレクターコドンを含む遺伝子の作製や、直交tRNA、直交シンテターゼ及びその対に作製に関する他の多くの関連事項についても記載している。
例えばtRNA分子を突然変異させるため、tRNAのライブラリーを作製するため、シンテターゼのライブラリーを作製するため、及び/又は非天然アミノ酸をコードするセレクターコドンを該当蛋白質又はポリペプチドに挿入するために、本発明では各種突然変異誘発を使用する。これらの例としては限定されないが、部位特異的突然変異誘発、ランダム点突然変異誘発、相同組換え、DNAシャフリング又は他の帰納的突然変異誘発法、キメラ構築、ウラシル含有鋳型を使用する突然変異誘発、オリゴヌクレオチド特異的突然変異誘発、ホスホロチオエート修飾DNA突然変異誘発、ギャップデュプレクスDNAを使用する突然変異誘発等、又はその任意組み合わせが挙げられる。他の適切な方法としては点ミスマッチ修復、修復欠損宿主株を使用する突然変異誘発、制限−選択及び制限−精製、欠失突然変異誘発、完全遺伝子合成による突然変異誘発、2本鎖切断修復等が挙げられる。例えばキメラ構築物を使用する突然変異誘発も本発明に含まれる。1態様では、天然分子又は改変もしくは突然変異させた天然分子の公知情報(例えば配列、配列比較、物性、結晶構造等)により突然変異誘発を行うことができる。
本発明のポリヌクレオチド又は本発明のポリヌクレオチドを組込んだ構築物(例えばクローニングベクター又は発現ベクター等の本発明のベクター)で宿主細胞を遺伝子組換え(例えば形質転換、形質導入又はトランスフェクション)する。例えば、直交tRNA、直交tRNAシンテターゼ、及び修飾すべき蛋白質のコーディング領域を所望宿主細胞で機能的な遺伝子発現制御エレメントに機能的に連結する。典型的なベクターは転写及び翻訳ターミネーターと、転写及び翻訳開始配列と、特定ターゲット核酸の発現の調節に有用なプロモーターを含む。ベクターは場合により少なくとも1個の独立ターミネーター配列と、真核生物又は原核生物又は両者(例えばシャトルベクター)でカセットの複製を可能にする配列と、原核系と真核系の両者の選択マーカーを含む包括的発現カセットを含む。ベクターは原核生物、真核生物、又は好ましくは両者での複製及び/又は組込みに適している。Giliman and Smith(1979)Gene 8:81;Robertsら(1987)Nature,328:731;Schneider,B.ら(1995)Protein Expr.Purif.6435:10;Ausubel,Sambrook,Berger(いずれも前出)参照。ベクターは例えばプラスミド、細菌、ウイルス、裸のポリヌクレオチド又はポリヌクレオチドコンジュゲートの形態とすることができる。ベクターはエレクトロポレーション(Fromら(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82,5824)、ウイルスベクターによる感染、核酸を小ビーズもしくは粒子のマトリックスに埋込むか又は表面に付着させて小粒子形態で高速射入する方法(Kleinら(1987)Nature 327,70−73)、及び/又は同等方法等の標準方法により細胞及び/又は微生物に導入する。
クローニングに有用な細菌とバクテリオファージのカタログは例えばATCCから入手でき、例えばATCCから刊行されたThe ATCC Catalogue of Bacteria and Bacteriophage(1996)Ghernaら(編)が挙げられる。その他のシーケンシング、クローニング及び分子生物学の他の側面の基本手順と基礎理論事項もSambrook(前出),Ausubel(前出)及びWatsonら(1992)Recombinant DNA Second Edition Scientific American Books,NYに記載されている。更に、Midland Certified Reagent Company(Midland,TX mcrc.com)、The Great American Gene Company(Ramona,CA,世界ウェブgenco.com参照)、ExpressGen Inc.(Chicago,IL,世界ウェブexpressgen.com参照)、Operon Technologies Inc.(Alameda,CA)、その他多数の各種販売会社からほぼ任意核酸(及び標準又は標準外を問わずほぼ任意標識核酸)をオーダーメード又は標準注文することができる。
遺伝子組換えした宿主細胞は例えばスクリーニング段階、プロモーター活性化又は形質転換細胞選択等の操作に合うように適宜改変した慣用栄養培地で培養することができる。これらの細胞は場合によりトランスジェニック生物で培養することができる。(例えば後期核酸単離又は蛋白質発現及び/又は精製のための)例えば細胞単離及び培養に関する他の有用な文献としてはFreshney(1994)Culture of Animal Cells,a Manual of Basic Technique,第4版,Wiley−Liss,New Yorkとその引用文献;Higgins and Hames(編)(1999)Protein Expression:A Practical Approach,Practical Approach Series, Oxford University Press;Shulerら(編)(1994)Baculovirus Expression Systems and Biopesticides,Wiley−Liss;Payneら(1992)Plant Cell and Tissue Culture in Liquid Systems John Wiley and Sons,Inc.New York,NY;Gamborg and Phillips(編)(1995)Plant Cell,Tissue and Organ Culture;Fundamental Methods Springer Lab Manual,Springer−Verlag(Berlin Heidelberg New York)及びAtlas and Parks(編)The Handbook of Microbiological Media(1993)CRC Press,Boca Raton,FLが挙げられる。
該当蛋白質及びポリペプチド
例えば少なくとも1個の重原子含有アミノ酸(例えば少なくとも1個のブロモPhe又はヨードPhe等の臭素化又はヨウ素化アミノ酸)を組込んだ該当蛋白質又はポリペプチドと、2種以上の異なる非天然アミノ酸を組込んだポリペプチドも本発明の特徴である。場合により、本発明の蛋白質は翻訳後修飾を含む。賦形剤(例えば医薬的に許容可能な賦形剤)、又はより一般には(例えば1種以上の緩衝液、塩類、沈殿試薬、凍結防止剤等を含有)結晶化溶液も蛋白質に添加することができる。
重原子含有アミノ酸(例えば臭素化又はヨウ素化アミノ酸、例えばブロモPhe又はヨードPhe)を特定位置に組込んだ蛋白質を細胞(例えば大腸菌等の非真核細胞又は真核細胞)で生産する方法も本発明の特徴である。例えば、本方法は、少なくとも1個のセレクターコドンを含み且つ蛋白質をコードする核酸と、細胞で機能し、セレクターコドンを認識する直交tRNAと、直交アミノアシルtRNAシンテターゼを含む細胞を提供する段階を含む。O−RSは天然チロシルアミノアシルtRNAシンテターゼ(TyrRS)のアミノ酸配列と少なくとも90%一致しており、M.jannaschii TyrRSのTyr32に対応する位置のロイシン、M.jannaschii TyrRSのGlu107に対応する位置のセリン又はグルタミン酸、M.jannaschii TyrRSのAsp158に対応する位置のプロリン、M.jannaschii TyrRSのIle159に対応する位置のロイシン又はアルギニン及びM.jannaschii TyrRSのLeu162に対応する位置のグルタミン酸又はアルギニンから構成される群から選択される2個以上(例えば3個以上、4個以上、又は5個)のアミノ酸を含むアミノ酸配列を含む。細胞を適当な培地で増殖させる。臭素化又はヨウ素化アミノ酸(又は他の重原子含有アミノ酸)を提供し、少なくとも1個のセレクターコドンによる核酸の翻訳中に蛋白質の特定位置に組込む。この方法により生産された蛋白質も本発明の特徴である。
本発明は例えば重原子含有アミノ酸(例えば臭素化又はヨウ素化アミノ酸、例えばブロモPhe又はヨードPhe)を組込んだ蛋白質を含有する組成物も提供する。所定態様では、蛋白質は既知蛋白質(例えば治療用蛋白質、診断用蛋白質、産業用酵素、又はその部分)のアミノ酸配列と少なくとも75%一致するアミノ酸配列を含む。場合により、蛋白質は蛋白質結晶を含む。
本発明の組成物と本発明の方法により作製した組成物は場合により細胞に導入する。本発明のO−tRNA/O−RS対又は個々の成分をその後、宿主系の翻訳機構で使用することができ、その結果として、重原子含有アミノ酸は蛋白質に組込まれる。国際出願第PCT/US2004/011786号、出願日2004年4月16日、発明の名称「真核遺伝コードの拡張(Expanding the Eukaryotic Genetic Code)」;及びWO2002/085923、発明の名称「非天然アミノ酸のインビボ組込み(In vivo incorporation of unnatural amino acids)」はこのプロセスを記載しており、参考資料として本明細書に組込む。例えば、O−tRNA/O−RS対を宿主(例えば大腸菌)に導入すると、前記対はセレクターコドンに応答して外部から増殖培地に添加することができる重原子含有アミノ酸(例えばチロシン又はフェニルアラニンの臭素化又はヨウ素化誘導体等の合成アミノ酸)のin vivo蛋白質組込みを誘導する。場合により、本発明の組成物をin vitro翻訳系に導入してもよいし、in vivo系に導入してもよい。
本発明の細胞は非天然アミノ酸を組込んだ蛋白質を大量の有用な量で合成することができる。1側面では、組成物は場合により、重原子含有アミノ酸(例えば臭素化又はヨウ素化アミノ酸)又は複数の非天然アミノ酸を含む蛋白質を例えば少なくとも10μg、少なくとも50μg、少なくとも75μg、少なくとも100μg、少なくとも200μg、少なくとも250μg、少なくとも500μg、少なくとも1mg、少なくとも10mg、少なくとも50mg、又は少なくとも100mg以上含有するか、あるいはin vivo蛋白質生産方法で達成可能な量で含有する(組換え蛋白質生産及び精製に関する詳細は本明細書に記載する)。別の側面では、蛋白質は場合により例えば細胞溶解液、緩衝液、医薬緩衝液、又は他の懸濁液中(例えば約1nL〜約100Lの任意の容量中)に例えば少なくとも10μg蛋白質/l、少なくとも50μg蛋白質/l、少なくとも75μg蛋白質/l、少なくとも100μg蛋白質/l、少なくとも200μg蛋白質/l、少なくとも250μg蛋白質/l、少なくとも500μg蛋白質/l、少なくとも1mg蛋白質/l、又は少なくとも10mg蛋白質/l以上の濃度で組成物中に存在する。少なくとも1個の重原子含有アミノ酸(例えば少なくとも1個の臭素化又はヨウ素化アミノ酸)を組込んだ蛋白質を細胞で大量(例えば他の方法、例えばin vitro翻訳で一般に可能な量よりも多量)に生産することも本発明の特徴である。
重原子含有アミノ酸(例えば臭素化又はヨウ素化アミノ酸)の組込みは例えば本明細書に記載するようにX線結晶解析による蛋白質の三次元結晶構造の解析を容易にするために実施することができる。従って、上記のように、重原子含有アミノ酸を組込んだ蛋白質は場合により蛋白質結晶の一部である。
本発明の1側面では、組成物は少なくとも1個、例えば少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、又は少なくとも10個以上の非天然アミノ酸(例えば重原子含有アミノ酸及び/又は他の非天然アミノ酸)を組込んだ少なくとも1種の蛋白質を含有する。非天然アミノ酸は同一でも異なっていてもよく、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10種以上の異なる非天然アミノ酸を含む1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個以上の異なる部位が蛋白質に存在することができる。別の側面では、組成物は蛋白質に存在する特定アミノ酸の全部よりは少ないが少なくとも1個が重原子含有アミノ酸で置換された蛋白質を含有する。2個以上の非天然アミノ酸を組込んだ所与蛋白質では、非天然アミノ酸は同一でも異なっていてもよい(例えば蛋白質は2個以上の異なる型の非天然アミノ酸を組込んでもよいし、2個の同一非天然アミノ酸を組込んでもよい)。3個以上の非天然アミノ酸を組込んだ所与蛋白質では、非天然アミノ酸は同一でも異なっていてもよいし、同一種の複数の非天然アミノ酸と少なくとも1個の別の非天然アミノ酸の組み合わせでもよい。
本明細書に記載する組成物と方法を使用し、非天然アミノ酸を組込むか又は複数の異なる非天然アミノ酸(及び例えば1個以上のセレクターコドンを含む対応する任意コーディング核酸)をコードするほぼ任意蛋白質(又はその部分)を生産することができる。数十万種の公知蛋白質を同定しようとするのではなく、例えば該当翻訳系に1個以上の適当なセレクターコドンを含むように入手可能な任意突然変異法を調整することにより、1種以上の非天然アミノ酸を組込むように公知蛋白質の任意のものを改変することができる。公知蛋白質の一般的な配列寄託機関としてはGenBank、EMBL、DDBJ及びNCBIが挙げられる。他の寄託機関もインターネットを検索することにより容易に確認できる。
一般に、蛋白質は入手可能な任意蛋白質(例えば治療用蛋白質、診断用蛋白質、産業用酵素、又はその部分等)と例えば少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも99%以上一致しており、1個以上の非天然アミノ酸を含む。重原子含有アミノ酸を組込むように、該当構造をもつほぼ任意蛋白質を改変することができる。1個以上の重原子含有アミノ酸を組込むように改変することができる治療用、診断用、及び他の蛋白質の例としては限定されないが、国際出願第PCT/US2004/011786号、出願日2004年4月16日、発明の名称「真核遺伝コードの拡張(Expanding the Eukaryotic Genetic Code)」、及びWO2002/085923、発明の名称「非天然アミノ酸のインビボ組込み(In vivo incorporation of unnatural amino acids)」に記載されているものが挙げられる。1個以上の重原子含有アミノ酸を組込むように改変することができる治療用、診断用、及び他の蛋白質の例としては限定されないが、例えばα1アンチトリプシン、アンジオスタチン、抗血友病因子、抗体(抗体の詳細については後述する)、アポリポ蛋白質、アポ蛋白質、心房性ナトリウム利尿因子、心房性ナトリウム利尿ポリペプチド、心房性ペプチド、C−X−Cケモカイン(例えばT39765、NAP−2、ENA−78、Gro−a、Gro−b、Gro−c、IP−10、GCP−2、NAP−4、SDF−1、PF−4、MIG)、カルシトニン、CCケモカイン(例えば単球化学誘引蛋白質−1、単球化学誘引蛋白質−2、単球化学誘引蛋白質−3、単球炎症性蛋白質−1α、単球炎症性蛋白質−1β、RANTES、I309、R83915、R91733、HCC1、T58847、D31065、T64262)、CD40リガンド、Cキットリガンド、コラーゲン、コロニー刺激因子(CSF)、補体因子5a、補体阻害剤、補体受容体1、サイトカイン(例えば上皮好中球活性化ペプチド−78、GROα/MGSA、GROβ、GROγ、MIP−1α、MIP−1δ、MCP−1)、表皮増殖因子(EGF)、エリスロポエチン(「EPO」)、表皮剥離毒素A及びB、IX因子、VII因子、VIII因子、X因子、繊維芽細胞増殖因子(FGF)、フィブリノーゲン、フィブロネクチン、G−CSF、GM−CSF、グルコセレブロシダーゼ、ゴナドトロピン、増殖因子、ヘッジホッグ蛋白質(例えばソニック、インディアン、デザート)、ヘモグロビン、肝細胞増殖因子(HGF)、ヒルジン、ヒト血清アルブミン、インスリン、インスリン様増殖因子(IGF)、インターフェロン(例えばIFN−α、IFN−β、IFN−γ)、インターロイキン(例えばIL−1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12等)、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、ラクトフェリン、白血病阻害因子、ルシフェラーゼ、ニュールチュリン、好中球阻害因子(NIF)、オンコスタチンM、骨形成蛋白質、副甲状腺ホルモン、PD−ECSF、PDGF、ペプチドホルモン(例えばヒト成長ホルモン)、プレイオトロピン、プロテインA、プロテインG、発熱外毒素A、B及びC、リラキシン、レニン、SCF、可溶性補体受容体I、可溶性I−CAM1、可溶性インターロイキン受容体(IL−1、2、3、4、5、6、7、9、10、11、12、13、14、15)、可溶性TNF受容体、ソマトメジン、ソマトスタチン、ソマトトロピン、ストレプトキナーゼ、スーパー抗原即ちブドウ球菌エンテロトキシン(SEA、SEB、SEC1、SEC2、SEC3、SED、SEE)、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、毒素性ショック症候群毒素(TSST−1)、チモシンα1、組織プラスミノーゲンアクチベーター、腫瘍壊死因子β(TNFβ)、腫瘍壊死因子受容体(TNFR)、腫瘍壊死因子α(TNFα)、血管内皮増殖因子(VEGEF)、ウロキナーゼ等が挙げられる。
本明細書に記載する重原子含有アミノ酸のin vivo組込み用組成物及び方法を使用して生産することができる蛋白質の1分類としては転写モジュレーター又はその部分が挙げられる。転写モジュレーターの例としては細胞増殖、分化、制御等を調節する遺伝子及び転写モジュレーター蛋白質が挙げられる。転写モジュレーターは原核生物、ウイルス及び真核生物(例えば真菌、植物、酵母、昆虫、及び哺乳動物を含む動物)に存在し、広範な治療ターゲットを提供する。当然のことながら、発現及び転写アクチベーターは例えば受容体との結合、シグナル伝達カスケードの刺激、転写因子の発現調節、プロモーターやエンハンサーとの結合、プロモーターやエンハンサーと結合する蛋白質との結合、DNA巻き戻し、プレmRNAスプライシング、RNAポリアデニル化及びRNA分解等の多数のメカニズムにより転写を調節する。
本発明の蛋白質(例えば1個以上の重原子含有アミノ酸を組込んだ蛋白質)の1分類としては発現アクチベーター(例えばサイトカイン、炎症性分子、増殖因子、その受容体、及び腫瘍遺伝子産物、例えばインターロイキン(例えばIL−1、IL−2、IL−8等)、インターフェロン、FGF、IGF−I、IGF−II、FGF、PDGF、TNF、TGF−α、TGF−β、EGF、KGF、SCF/c−キット、CD40L/CD40、VLA−4/VCAM−1、ICAM−1/LFA−1及びヒアルリン/CD44);シグナル伝達分子及び対応する腫瘍遺伝子産物(例えばMos、Ras、Raf及びMet);並びに転写アクチベーター及びサプレッサー(例えばp53、Tat、Fos、Myc、Jun、Myb、Rel、及びステロイドホルモン受容体(例えばエストロゲン、プロゲステロン、テストステロン、アルドステロン、LDL受容体リガンド及びコルチコステロン))が挙げられる。
少なくとも1個の重原子含有アミノ酸を組込んだ酵素(例えば産業用酵素)又はその部分も本発明により提供される。酵素の例としては限定されないが、例えばアミダーゼ、アミノ酸ラセマーゼ、アシラーゼ、デハロゲナーゼ、ジオキシゲナーゼ、ジアリールプロパンペルオキシダーゼ、エピメラーゼ、エポキシドヒドロラーゼ、エステラーゼ、イソメラーゼ、キナーゼ、グルコースイソメラーゼ、グリコシダーゼ、グリコシルトランスフェラーゼ、ハロペルオキシダーゼ、モノオキシゲナーゼ(例えばp450類)、リパーゼ、リグニンペルオキシダーゼ、ニトリルヒドラターゼ、ニトリラーゼ、プロテアーゼ、ホスファターゼ、スブチリシン、トランスアミナーゼ及びヌクレアーゼが挙げられる。
これらの蛋白質の多くは市販されており(例えばSigma BioSciences 2003カタログ及び価格表参照)、対応する蛋白質配列と遺伝子及び、一般に多くのその変異体も周知である(例えばGenbank参照)。例えば蛋白質構造の決定を容易にするように本発明に従って1個以上の重原子含有アミノ酸又は他の非天然アミノ酸を挿入することにより前記蛋白質の任意のものを改変することができる。
他の各種蛋白質も本発明の1個以上の重原子含有アミノ酸を組込むように改変することができる。例えば、本発明は例えば感染性真菌(例えばAspergillus、Candida種);細菌、特に病原細菌モデルとして利用できる大腸菌や医学的に重要な細菌(例えばStaphylococci(例えばaureus)又はStreptococci(例えばpneumoniae));原生動物(例えば胞子虫類(例えばPlasmodia)、根足虫類(例えばEntamoeba)及び鞭毛虫類(Trypanosoma、Leishmania、Trichomonas、Giardia等));ウイルス(例えば(+)RNAウイルス(例えばポックスウイルス(例えばワクシニア)、ピコルナウイルス(例えばポリオ)、トガウイルス(例えば風疹)、フラビウイルス(例えばHCV)、及びコロナウイルス)、(−)RNAウイルス(例えばラブドウイルス(例えばVSV)、パラミクソウイルス(例えばRSV)、オルトミクソウイルス(例えばインフルエンザ)、ブンヤウイルス及びアレナウイルス)、dsDNAウイルス(例えばレオウイルス)、RNA→DNAウイルス(即ちレトロウイルス、例えばHIV及びHTLV)、及び所定のDNA→RNAウイルス(例えばB型肝炎))に由来する蛋白質において、1種以上のワクチン蛋白質中の1個以上の天然アミノ酸を重原子含有アミノ酸で置換することができる。
昆虫耐性蛋白質(例えばCry蛋白質)、澱粉及び脂質産生酵素、植物及び昆虫毒素、毒素耐性蛋白質、マイコトキシン解毒蛋白質、植物成長酵素(例えばリブロース1,5−ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ、「RUBISCO」)、リポキシゲナーゼ(LOX)及びホスホエノールピルビン酸(PEP)カルボキシラーゼ等の農業関連蛋白質も重原子含有アミノ酸又は他の非天然アミノ酸修飾に適切なターゲットである。
所定態様では、本発明の方法及び/又は組成物における該当蛋白質又はポリペプチド(又はその部分)は核酸によりコードされる。一般に、核酸は少なくとも1個のセレクターコドン、少なくとも2個のセレクターコドン、少なくとも3個のセレクターコドン、少なくとも4個のセレクターコドン、少なくとも5個のセレクターコドン、少なくとも6個のセレクターコドン、少なくとも7個のセレクターコドン、少なくとも8個のセレクターコドン、少なくとも9個のセレクターコドン、10個以上のセレクターコドンを含む。
該当蛋白質又はポリペプチドをコードする遺伝子は例えば重原子含有アミノ酸を組込むために1個以上のセレクターコドンを付加するように本明細書の「突然変異誘発及び他の分子生物学技術」のセクションに記載する当業者に周知の方法を使用して突然変異誘発することができる。例えば、1個以上のセレクターコドンを付加するように該当蛋白質の核酸を突然変異誘発し、1個以上の重原子含有アミノ酸を挿入できるようにする。本発明は例えば少なくとも1個の重原子含有アミノ酸を組込んだ任意蛋白質のこのような任意変異体(例えば突然変異体、変形)を含む。同様に、本発明は対応する核酸、即ち1個以上の重原子含有アミノ酸をコードする1個以上のセレクターコドンをもつ任意核酸も含む。
重原子含有アミノ酸酸を組込んだ蛋白質を生産するためには、直交tRNA/RS対による重原子含有アミノ酸のin vivo組込みに適した宿主細胞及び生物を使用することができる。直交tRNA、直交tRNAシンテターゼ、及び修飾すべき蛋白質をコードするベクターを発現する1種以上のベクターで宿主細胞を遺伝子組換え(例えば形質転換、形質導入又はトランスフェクション)する。これらの成分の各々を同一ベクターに配置してもよいし、各々別々のベクターに配置してもよいし、2成分を第1のベクターに配置し、第3の成分を第2のベクターに配置してもよい。ベクターは例えばプラスミド、細菌、ウイルス、裸のポリヌクレオチド又はポリヌクレオチドコンジュゲートの形態とすることができる。
免疫反応性によるポリペプチドの定義
本発明のポリペプチドは(例えば本発明の翻訳系で合成される蛋白質の場合には重原子含有アミノ酸を含み、例えば新規シンテターゼの場合には標準アミノ酸の新規配列を含む)種々の新規ポリペプチド配列を提供するので、ポリペプチドは例えばイムノアッセイで認識することができる新規構造特徴も提供する。本発明のポリペプチドに特異的に結合する抗血清の作製及び前記抗血清と結合するポリペプチドも本発明の特徴の1つである。本明細書で使用する「抗体」なる用語は限定されないが、検体(抗原)と特異的に結合してこれを認識する1又は複数の免疫グロブリン遺伝子又はそのフラグメントにより実質的にコードされるポリペプチドを意味する。例えばポリクローナル、モノクローナル、キメラ、及び1本鎖抗体等が挙げられる。Fabフラグメントやファージディスプレイを含む発現ライブラリーにより生産されるフラグメント等の免疫グロブリンフラグメントも本明細書で使用する「抗体」なる用語に含まれる。抗体構造及び用語については、例えばPaul(1999)Fundamental Immunology,第4版,Raven Press,New York参照。
イムノアッセイ用抗血清を作製するためには、免疫原性ポリペプチドの1種以上を本明細書に記載するように作製し、精製する。例えば、組換え蛋白質を組換え細胞で生産することができる。(マウスの仮想遺伝子一致により結果の再現性が高いのでこのアッセイで使用する)近交系マウスに標準マウス免疫プロトコールに従って標準アジュバント(例えばフロイントアジュバント)と共に免疫原性蛋白質を免疫する(抗体作製、イムノアッセイフォーマット及び特異的免疫反応性を測定するために使用可能な条件の標準解説については例えばHarlow and Lane(1988)Antibodies.A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Publications,New York参照)。蛋白質、抗体、抗血清等に関するその他の詳細はUSSN60/479,931、60/463,869、及び60/496,548、発明の名称「真核遺伝コードの拡張(Expanding the Eukaryotic Genetic Code)」;WO2002/085923、発明の名称「非天然アミノ酸のインビボ組込み(In vivo Incorporation of Unnatural Amino Acids)」;特許出願、発明の名称「糖蛋白質合成(Glycoprotein synthesis)」、USSN60/441,450)」(出願日2003年1月16日);及び国際出願PCT/US03/41346、発明の名称「蛋白質アレー(Protein Arrays)」(出願日2003年12月22日)に記載されている。
tRNA及びO−RS及びO−tRNA/O−RS対の使用
本発明の組成物と本発明の方法により作製された組成物は場合により細胞に導入する。本発明のO−tRNA/O−RS対又は個々の成分をその後、宿主系の翻訳機構で使用することができ、その結果として、重原子含有アミノ酸は蛋白質に組込まれる。特許出願、発明の名称「非天然アミノ酸のインビボ組込み(In vivo Incorporation of Unnatural Amino Acids)」WO2002/085923、発明者Schultzらはこのプロセスを記載しており、参考資料として本明細書に組込む。例えば、O−tRNA/O−RS対を宿主(例えば大腸菌)に導入すると、前記対はセレクターコドン(例えばアンバーナンセンスコドン)に応答して外部から増殖培地に添加することができる重原子含有アミノ酸のin vivo蛋白質(例えば該当構造の任意蛋白質)組込みを誘導する。場合により、本発明の組成物はin vitro翻訳系に導入してもよいし、in vivo系に導入してもよい。重原子含有アミノ酸を組込んだ蛋白質は蛋白質構造、機能等に関する研究を助長するために使用することもできる。
キット
キットも本発明の特徴である。例えば、特定位置に臭素化又はヨウ素化アミノ酸を組込んだ蛋白質を生産するためのキットが提供され、前記キットは細胞で機能し、セレクターコドンを認識する直交tRNAと、直交アミノアシルtRNAシンテターゼを含む細胞を1個以上の容器にパッケージングしたものである。直交アミノアシルtRNAシンテターゼは天然チロシルアミノアシルtRNAシンテターゼ(TyrRS)のアミノ酸配列と少なくとも90%一致しており、M.jannaschii TyrRSのTyr32に対応する位置のロイシン、M.jannaschii TyrRSのGlu107に対応する位置のセリン又はグルタミン酸、M.jannaschii TyrRSのAsp158に対応する位置のプロリン、M.jannaschii TyrRSのIle159に対応する位置のロイシン又はアルギニン及びM.jannaschii TyrRSのLeu162に対応する位置のグルタミン酸又はアルギニンから構成される群から選択される2個以上(例えば3個以上、4個以上、又は5個)のアミノ酸を含むアミノ酸配列を含む。例えば、O−RSは配列番号3もしくは4のアミノ酸配列又はその保存変異体を含むことができる。1分類の態様では、キットは更に臭素化又はヨウ素化アミノ酸(例えばブロモPhe又はヨードPhe)を含む。別の分類の態様では、キットは更に蛋白質を生産するための説明書、適切な細胞増殖培地、対象蛋白質をコードするターゲット核酸を導入すると共にセレクターコドンを細胞に加えるための試薬、及び/又は同等物を含む。キット形態での生産に適したパッケージング材料(例えば容器等)と本発明の任意組成物、系又は装置を組み合わせることもできる。
蛋白質構造決定
上記のように、重原子含有アミノ酸(例えばヨードPhe又はブロモPhe)の効率的な部位特異的蛋白質組込みはX線結晶解析による蛋白質構造解析を容易にする。蛋白質の重原子修飾は例えば多重同形置換(MIR)、単一同形置換(SIR)、多波長異常分散(MAD)、又は単波長異常分散(SAD)法により位相決定を行うために一般に使用されている。例えば本発明の方法及び組成物を使用する重原子の部位特異的組込みは修飾部位と重原子種及び数の選択にフレキシビリティを提供する。本発明の方法及び組成物を使用する重原子組込みは原則的に任意蛋白質の構造決定を容易にするために使用できるが、メチオニン数が少ない蛋白質はセレノメチオニン組込みが困難であったり、他の初期位相決定方法では不十分であるため、このような蛋白質の場合や、シンクロトロンを利用できない場合に特に有利であると思われる。
従って、1分類の態様は蛋白質構造の決定方法を提供する。本方法では、直交tRNAと、直交tRNAを重原子含有アミノ酸で優先的にアミノアシル化する直交アミノアシルtRNAシンテターゼを含む翻訳系で特定位置に重原子含有アミノ酸を組込んだ蛋白質を発現させることにより前記蛋白質を提供する。重原子含有アミノ酸を組込んだ蛋白質を結晶化させることにより、重原子含有蛋白質結晶を作製する。重原子含有蛋白質結晶から回折データを収集し、例えばMIR、SIR、MAD、SAD、又はその組合せにより構造を決定するために使用する。
例えば、1好適分類の態様では、SADフェージングを使用する。この分類の態様では、単波長で重原子含有蛋白質結晶からの回折データを収集する段階と、結晶中の重原子の存在に起因するフリーデル対間の異常差を測定する段階を含むプロセスにより蛋白質の構造を決定する。要約すると、1個以上の蛋白質結晶にX線ビームを照射することにより生じた多数の反射の強度を測定することにより回折データを収集する。各反射を指数h,k,及びlで表す。一般に、フリーデル対(指数h,k,l及び−h,−k,−lで表す反射の対)の強度は等しい。しかし、蛋白質結晶中に重原子が存在している場合にこの重原子の吸収端近傍の波長のX線を使用すると、重原子による異常散乱の結果、所定フリーデル対の強度に差が生じる。これらの異常差を使用して位相を計算することができ、測定強度と組合わせると、蛋白質構造モデルを当てはめることが可能な電子密度マップを計算することができる。
蛋白質は例えば本明細書に記載するようなin vivo又はin vitro翻訳系で発現させることができる。所定態様では、直交アミノアシルtRNAシンテターゼは配列番号3もしくは配列番号4のアミノ酸配列又はその保存変異体を含む。同様に、直交tRNAは配列番号5のポリヌクレオチド配列又はその保存変異体を含むことができる。
重原子含有アミノ酸は原則的に本明細書に記載する任意重原子含有アミノ酸とすることができる。例えば、重原子含有アミノ酸は臭素化又はヨウ素化アミノ酸(例えばL−2−ヨードフェニルアラニン、L−3−ヨードフェニルアラニン、L−2−ヨードチロシン、L−3−ヨードチロシン、L−2−ブロモフェニルアラニン、L−3−ブロモフェニルアラニン、L−2−ブロモチロシン、又はL−3−ブロモチロシン)とすることができる。1好適分類の態様では、臭素化又はヨウ素化アミノ酸はL−4−ブロモフェニルアラニン又はL−4−ヨードフェニルアラニンである。
回折データを収集する波長は原則的に簡便な任意波長とすることができる。例えば、CuKα波長1.5418Åの銅陰極型屋内発生装置を使用して簡便にデータを収集することができる。なお、この波長では臭素からの異常シグナルは弱いので、この波長で使用する重原子としては臭素よりもヨウ素のほうが好ましい。代替又は付加方法として、シンクロトロン又は他の波長可変放射線源からの各種波長の任意波長でデータを収集することができる。例えば、蛋白質に組込まれた特定重原子からの異常シグナルを最大化するか、蛋白質結晶の放射線損傷を最小限にするか、及び/又は同等目的に選択された波長で場合によりデータを収集する。
別の分類の態様では、MADフェージングを使用する。この分類の態様では、2種以上の波長で重原子含有蛋白質結晶からの回折データを収集する段階と、異なる波長で収集したデータ間の分散差を測定する段階を含むプロセスにより蛋白質の構造を決定する。例えば、場合により2種の波長(例えば重原子の吸収曲線の変曲点と吸収端から離れた点の波長)で例えば放射線源としてシンクロトロンを使用してデータを収集する。
SAD、MIR、及びMADによるフェージングを含む構造決定技術は周知である。例えばStout and Jensen(1989)X−ray structure determination:a practical guide,2nd Edition Wiley Publishers,New York;Ladd and Palmer(1993)Structure determination by X−ray crystallography,3rd Edition Plenum Press,New York;Blundell and Johnson(1976)Protein Crystallography Academic Press,New York;Glusker and Trueblood(1985)Crystal structure analysis:A primer,2nd Ed.Oxford University Press,New York;International Tables for Crystallography,Vol.F.Crystallography of Biological Macromolecules;McPherson(2002)Introduction to Macromolecular Crystallography Wiley−Liss;McRee and David(1999)Practical Protein Crystallography,Second Edition Academic Press;Drenth(1999)Principles of Protein X−Ray Crystallography(Springer Advanced Texts in Chemistry)Springer−Verlag参照。MADフェージングも例えばFanchon and Hendrickson(1991)Crystallographic Computing,Volume 5 IUCr/Oxford University Pressの15章とMurthy(1996)Crystallographic Methods and Protocols Humana Pressの5章に記載されている。SADフェージングの他の例は本明細書の実施例と、例えばDauterら(2000)“Novel approach to phasing proteins:derivatization by short cryo−soaking with halides” Acta Cryst.D56:232−237;Dauter(2002)“New approaches to high−throughput phasing” Curr.Opin.Structural Biol.12:674−678;Chenら(1991)“Crystal structure of a bovine neurophysin−II dipeptide complex at 2.8 Å determined from the single−wavelength anomalous scattering signal of an incorporated iodine atom” Proc.Natl Acad.Sci.USA,88:4240−4244;及びGaviraら(2002)“Ab initio crystallographic structure determination of insulin from protein to electron density without crystal handling” Acta Cryst.D58:1147−1154に記載されている。
更に、データ収集、位相決定、モデル構築及び精密化等を容易にするための各種プログラムが公共入手可能である。例としては限定されないが、HKL2000パッケージ(Otwinowski and Minor(1997)“Processing of X−ray Diffraction Data Collected in Oscillation Mode” Methods in Enzymology 276:307−326)、CCP4パッケージ(Collaborative Computational Project(1994)“The CCP4 suite:programs for protein crystallography” Acta Crystallogr D 50:760−763)、SOLVEとRESOLVE(Terwilliger and Berendzen(1999)Acta Crystallogr D 55(Pt 4):849−861)、SHELXSとSHELXD(Schneider and Sheldrick(2002)“Substructure solution with SHELXD” Acta Crystallogr D Biol Crystallogr 58:1772−1779)、Refmac5(Murshudovら(1997)“Refinement of Macromolecular Structures by the Maximum−Likelihood Method” Acta Crystallogr D 53:240−255)、及びO(Jonesら(1991)“Improved methods for building protein models in electron density maps and the location of errors in these models” Acta Crystallogr A 47( Pt 2):110−119)が挙げられる。
結晶化前に一般に例えば天然源、in vitro翻訳系、該当蛋白質を過剰発現する細胞(例えば細菌、酵母等)(例えばAusubel、Sambrook、及びBerger(いずれも前出)参照)等から当分野で周知の多数の方法(例えば硫安又はエタノール沈殿、遠心分離、酸又は塩基抽出、カラムクラマトグラフィー、アフィニティーカラムクラマトグラフィー、アニオン又はカチオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)、ゲル濾過、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、レクチンクロマトグラフィー、ゲル電気泳動等)の任意のものにより蛋白質を精製する。
本明細書に記載する他の方法に加え、各種蛋白質精製法が当分野で周知であり、例えばR.Scopes,Protein Purification,Springer−Verlag,N.Y.(1982);Deutscher,Methods in Enzymology Vol.182:Guide to Protein Purification,Academic Press,Inc.N.Y.(1990);Sandana(1997)Bioseparation of Proteins,Academic Press,Inc.;Bollagら(1996)Protein Methods,2nd Edition Wiley−Liss,NY;Walker(1996)The Protein Protocols Handbook Humana Press,NJ,Harris and Angal(1990)Protein Purification Applications:A Practical Approach IRL Press at Oxford,Oxford,England;Harris and Angal Protein Purification Methods:A Practical Approach IRL Press at Oxford,Oxford,England;Scopes(1993)Protein Purification:Principles and Practice 3rd Edition Springer Verlag,NY;Janson and Ryden(1998)Protein Purification:Principles,High Resolution Methods and Applications,Second Edition Wiley−VCH,NY;及びWalker(1998)Protein Protocols on CD−ROM Humana Press,NJ;並びにその引用文献に記載されている方法が挙げられる。
蛋白質が細胞内合成、単離又は精製中に変性する場合には蛋白質の活性コンホメーションを得るために必要に応じて周知蛋白質リフォールディング技術を使用することができる。蛋白質の還元、変性及び再生方法も当業者に周知である(上記文献に加え、Debinskiら(1993)J.Biol.Chem.,268:14065−14070;Kreitman and Pastan(1993)Bioconjug.Chem.,4:581−585;及びBuchnerら,(1992)Anal.Biochem.,205:263−270参照)。
ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は場合によりポリペプチドの精製を助長するか及び/又は融合ポリペプチドと粒子、固体支持体又は別の試薬の結合を助長するモジュール(例えばドメイン又はタグ)をコードする配列とインフレーム融合することができる。このようなモジュールとしては限定されないが、固相化金属上の精製及び/又は前記金属との結合を可能にするヒスチジン−トリプトファンモジュール(例えばヘキサヒスチジンタグ)等の金属キレート化ペプチド、グルタチオンと結合する配列(例えばGST)、ヘマグルチニン(HA)タグ(インフルエンザヘマグルチニン蛋白質に由来するエピトープに対応;Wilson,I.ら(1984)Cell 37:767)、マルトース結合蛋白質配列、FLAGS伸長/アフィニティー精製システムで使用されるFLAGエピトープ(Immunex Corp,Seattle,WA)等が挙げられる。プロテアーゼで開裂可能なポリペプチドリンカー配列を精製ドメインと本発明の配列の間に挿入すると、ポリペプチドの精製後、又は精製中にモジュールを除去するのに有用である。
回折品質結晶を得るために蛋白質を結晶化する条件は当分野で公知の技術を使用して経験的に決定することができる。例えばMcPherson(1999)Crystallization of Biological Macromolecules Cold Spring Harbor Laboratory、Bergfors(1999)Protein Crystallization International University Line、及びMullin(1993)Crystallization Butterwoth−Heinemann参照。
当然のことながら、本明細書に記載する実施例と態様は例証の目的に過ぎず、これらの記載に鑑み、種々の変形又は変更が当業者に示唆され、このような変形又は変更も本願の精神と範囲に含むものとする。従って、以下の実施例は特許請求の範囲に記載する発明を例証するものであり、これを限定するものではない