このような問題点を解決するため、気化器と液体原料流量制御バルブとを離隔して配設することにより、気化器からの熱の影響を液体原料流量制御バルブに及ぼさないようにすることが考えられる。ところが、単に気化器と液体原料流量制御バルブとを離隔するだけでは、気化器と液体原料流量制御バルブとの間における液体原料の流路が長くなり、デッドスペースが生じ易くなる。このため、当該デッドスペースで発生した気泡が液体原料の気化を不安定にする要因となり、液体原料の気化応答性が著しく低下して安定した気化を行うことができなかった。
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みて開発されたものである。それゆえに本発明の主たる課題は、気化器と液体原料流量制御バルブとを離隔して配設しながらも、気化器と液体原料流量制御バルブとの間における液体原料の流路で気泡が発生するのを抑制することにより、当該流路のデッドスペースを実質的になくし、液体原料を気化器へ安定して供給することにある。
請求項1に記載した発明は、「液体原料LMを気化する気化器24へ液体原料LMを供給する液体原料供給装置10であって、入口41と出口42とを有し、入口41から与えられた液体原料LMの流量を制御するとともに、所定量の液体原料LMを出口42から吐出する液体原料流量制御バルブ12、気化器24と液体原料流量制御バルブ12との間に配設され、出口42から吐出された液体原料LMを気化器24へ与える原料供給管54、および出口42の近傍において原料供給管54に連通され、原料供給管54へキャリアーガスCGを与えるキャリアーガス導入管94を備えており、液体原料流量制御バルブ12は、原料供給管54を介して気化器24から離隔して配設され、原料供給管54内の液体原料LMは、キャリアーガスCGによって気化器24へ圧送される液体原料供給装置10。」である。
本発明によれば、液体原料流量制御バルブ12の近傍において、液体原料流量制御バルブ12から気化器24に液体原料LMを導く原料供給管54にキャリアーガス導入管94が接続されている。したがって、キャリアーガス導入管94を通して原料供給管54に導入されたキャリアーガスCGが原料供給管54を通って気化器24まで液体原料LMを圧送することになり、キャリアーガスCGを導入しない場合に比べて、キャリアーガス導入管94が接続された位置から気化器24までの原料供給管54の内部流速が速くなる。
請求項2に記載した発明は、「液体原料LMを気化する気化器24へ液体原料LMを供給する液体原料供給装置10であって、入口41と、出口42と、入口41から出口42に液体原料LMを導く流路43と、流路43の途中に設けられた弁座45と、弁座45の下流側において流路43に接続されたキャリアーガス導入路44と、弁座45と協働して液体原料LMの流量を制御するダイアフラム36とを有する液体原料流量制御バルブ12、および気化器24と液体原料流量制御バルブ12との間に配設され、出口42から吐出された液体原料LMを気化器24へ与える原料供給管54を備えており、入口41と、出口42と、流路43と、キャリアーガス導入路44とは、一つの本体ブロック34に形成されており、弁座45は、本体ブロック34に設けられており、ダイアフラム36は、弁座45に対向して配設されており、弁座45とダイアフラム36との隙間を調節することにより、流路43を通過する液体原料LMの流量が制御される液体原料供給装置10。」である。
本発明によれば、キャリアーガスCGを原料供給路49に導入するキャリアーガス導入路44が本体ブロック34の内部において弁座45の下流側で流路43に接続されているので、原料供給管54内の全域をキャリアーガスCGが通過することになり、原料供給管54内の全域で内部流速が速くなる。また、本体ブロック34の内部に流路43およびキャリアーガス導入路44が作り込まれているので、液体原料流量制御バルブ12の周りに配設される配管が少なくなる。さらに、弁座45とダイアフラム36とが協働して液体原料LMの流れを閉止している場合でも、キャリアーガスCGは、弁座45の下流側から流路43に流入し、原料供給管54を通って気化器24に導入される。
請求項3に記載した発明は、請求項2に記載した液体原料供給装置10であって、「キャリアーガス導入路44に接続され、キャリアーガス導入路44にキャリアーガスCGを与えるキャリアーガス連絡路62と、キャリアーガス連絡路62に接続され、キャリアーガス連絡路62に液体原料LMを除去する洗浄溶媒WSを与える洗浄溶媒導入路65と、洗浄溶媒導入路65の途中に設けられ、洗浄溶媒WSの流量を制御する流量制御部56bとを有する洗浄溶媒流量制御バルブ14を備えている液体原料供給装置10。」である。
本発明によれば、流量制御された洗浄溶媒WSが洗浄溶媒流量制御バルブ14においてキャリアーガスCGに混入され、液体原料流量制御バルブ12のキャリアーガス導入路44に与えられる。また、流量制御部56bが洗浄溶媒導入路65の途中に設けられているので、洗浄溶媒導入路65内における洗浄溶媒WSの流通が流量制御部56bで遮断されてもキャリアーガスCGの流れは遮断されることがなく、キャリアーガスCGは、キャリアーガス連絡路62を通ってキャリアーガス導入路44に与えられる。
請求項4に記載した発明は、請求項3に記載した液体原料供給装置10であって、「キャリアーガス連絡路62に接続され、キャリアーガス連絡路62にキャリアーガスCGを与えるキャリアーガス供給路67と、キャリアーガス供給路67の途中に設けられ、キャリアーガス供給路67を開閉する開閉部56cとを有するキャリアーガス閉止バルブ16を備えており、洗浄溶媒流量制御バルブ14の流量制御部56bは、洗浄溶媒導入路65の途中に設けられた洗浄溶媒用弁座45bと、洗浄溶媒用弁座45bに対向して配設され、洗浄溶媒用弁座45bと協働して洗浄溶媒WSの流量を制御する洗浄溶媒用ダイアフラム36bとで構成されており、キャリアーガス閉止バルブ16の開閉部56cは、キャリアーガス供給路67の途中に設けられたキャリアーガス用弁座45cと、キャリアーガス用弁座45cと協働してキャリアーガス供給路67を開閉するキャリアーガス用ダイアフラム36cとで構成されており、弁座45a、洗浄溶媒用弁座45b、およびキャリアーガス用弁座45cが同一水平面上に位置するように、液体原料流量制御バルブ12、洗浄溶媒流量制御バルブ14、およびキャリアーガス閉止バルブ16が配設されている液体原料供給装置10。」である。
本発明によれば、弁座45a、洗浄溶媒用弁座45b、およびキャリアーガス用弁座45cが同一水平面上に位置するように各バルブが配設されているので、各弁座の位置に高低差が生じない。
請求項5に記載した発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載した液体原料供給装置10であって、「原料供給管54の先端に接続され、気化器24の内部に液体原料LMおよびキャリアーガスCGを噴霧する中空円錐形状のアトマイザーノズル78を備えており、アトマイザーノズル78は、内面が円錐状である側壁80を有しており、側壁80には、液体原料LMおよびキャリアーガスCGを噴射するための複数の貫通孔81が放射状に形成されている液体原料供給装置10。」である。
本発明によれば、原料供給管54に導入された液体原料LMは、アトマイザーノズル78の内側空間79に与えられ、複数の貫通孔81を経由して気化器24の内部の気化空間71に噴霧される。このとき、アトマイザーノズル78の外形および内面は、円錐状に形成されており、また、複数の貫通孔81は、アトマイザーノズル78の側壁80において放射状に設けられているので、1つの貫通孔81から噴霧された液体原料LMの液滴が、他の貫通孔81から噴霧された液体原料LMの液滴と気化器24の内部で衝突し、液体原料LMの液滴径が大きくなるおそれがない。
本発明によれば、キャリアーガスが導入されることにより原料供給管の内部流速が速くなるので、液体原料流量制御バルブで流量制御された液体原料が原料供給管を通って気化器に流入するまでの時間が短くなり、流量の制御性を向上させることができる。また、原料供給管の内部流速が速くなることにより、原料供給管の内部における気泡の発生が抑制され、気化器と液体原料流量制御バルブとを離隔しながらも原料供給管の内部におけるデッドスペースを実質的になくして液体原料の安定した気化を実現することができる。また、液体原料の気化を停止した後であっても、原料供給管の内部に残留する液体原料をキャリアーガスで除去することができる。
また、請求項2に係る発明によれば、原料供給管内の全域で内部流速が速くなるので、請求項1に係る液体原料供給装置よりもさらに安定した気化を実現することができるとともに、より多くの原料供給管の内部に残留する液体原料をキャリアーガスで除去することができる。さらに、液体原料流量制御バルブの周りに配設される配管が少なくなるので、液体原料供給装置をコンパクトに形成することができ、保守・点検が容易な装置にすることができる。
また、請求項3に係る発明によれば、液体原料の気化を行っているときは、キャリアーガス導入路からキャリアーガスだけを原料供給管に導入し、液体原料の気化を停止した後は、キャリアーガス導入路からキャリアーガスと洗浄溶媒とを原料供給管に導入することができる。これにより、原料供給管の内部に残留する液体原料をキャリアーガスと洗浄溶媒とで完全に除去することができる。
請求項4に係る発明によれば、各弁座の高低差に起因して液体原料や洗浄溶媒などの流体が不所望に各バルブの間を移動するおそれがない。例えば、何らかの理由でキャリアーガスの導入が停止するといったトラブルが発生したとき、液体原料流量制御バルブ内部の液体原料がキャリアーガス導入路を逆流して洗浄溶媒流量制御バルブの弁座まで流入することがない。したがって、このようなトラブルが発生した後、各バルブの内部清掃を行うことなく直ちに復旧して液体原料の気化を再開することができる。
請求項5に係る発明によれば、アトマイザーノズルから噴霧された液体原料の液滴径が大きくなるおそれがないので、気化できずに気化器内部の特定位置に付着した液体原料が気化器からの熱を受けて分解・重合することにより残渣が発生し、このような残渣が次々に堆積して気化不能になるおそれがない。
本発明が適用された液体原料供給装置10は、図1に示すように、液体原料流量制御バルブ12と、洗浄溶媒流量制御バルブ14と、キャリアーガス閉止バルブ16とを備えている。ここで、液体原料供給装置10は、図2に示すように、液体原料タンク20から供給される液体原料LMを気化してCVD装置などの反応室22に供給するシステムであって、液体原料供給装置10と、液体原料タンク20と、気化器24と、洗浄溶媒タンク26と、液体原料流量計28と、洗浄溶媒流量計30と、キャリアーガス流量制御器32とを備える液体原料気化供給システム33に組み込まれている。
液体原料流量制御バルブ12は(図1)、気化器24に供給する液体原料LMの流量を制御するバルブであって、図3に示すように、本体ブロック34aと、ダイアフラム36aと、アクチュエータ38aとを備えており、気化器24からの熱影響を受けない程度に気化器24との間隔をあけて配設されている。
本体ブロック34aは、正方形状の上面39aおよび上面39aに対向する下面40aを有する金属製の直方体である。また、本体ブロック34aには、液体原料LMの入口41と、出口42と、流路43と、キャリアーガス導入路44とが形成されているとともに、円筒形状の弁座45が設けられている。
流路43は、本体ブロック34aの上面39aの略中央部に設けられた弁座45を挿入するための弁座挿入穴46aと、弁座挿入穴46aを中心にして環状に設けられた溝である環状通液路47aと、図1に示すように、入口41から環状通液路47aの底面に液体原料LMを導く液体原料導入路48と、弁座挿入穴46aの底から出口42に液体原料LMを導く原料供給路49と、弁座45の天面と底面とを連通する連通孔50aとで構成されている。つまり、流路43は、液体原料LMの入口41→液体原料導入路48→環状通液路47a→連通孔50a→原料供給路49→出口42という順序で入口41から出口42に液体原料LMを導くようになっている。
キャリアーガス導入路44は、液体原料LMを気化器24に圧送するためのキャリアーガスCGを原料供給路49に導入する流路であって、弁座挿入穴46aの底の近傍において原料供給路49に対して水平方向から連通されている。
また、液体原料導入路48の下端、つまり液体原料LMの入口41には、液体原料タンク20から液体原料LMを導入する液体原料導入管52が接続されている。さらに、原料供給路49の下端、つまり液体原料LMの出口42は、離隔して配設された液体原料流量制御バルブ12と気化器24とを連通し、液体原料LMを導く原料供給管54が接続されている。
ダイアフラム36aは、本体ブロック34aの上面39aを覆う膜状体であり、本体ブロック34aの上面39aとダイアフラム36aとの間に、環状通液路47aと隣接する気密された空間である流量制御部56aが形成されている。
アクチュエータ38aは、ダイアフラム36aの上方に取り付けられたアクチュエータ本体58aと、アクチュエータ本体58aの下端から突設されたプランジャ60aとで構成されており、アクチュエータ本体58aは、図示しない電線から受ける電圧に基づいて、プランジャ60aの突き出し長さLを調節する。なお、ダイアフラム36aの上面には、プランジャ60aの下端が当接されている。
アクチュエータ38aを用いて、液体原料流量制御バルブ12の流路43を通過する液体原料LMの量を減少させる場合、アクチュエータ本体58aは、プランジャ60aの突き出し長さLが長くなるように動作して、ダイアフラム36aと弁座45aとの隙間を小さくする。また、ダイアフラム36aと弁座45aとが密着するまでプランジャ60aの突き出し長さLを長くすると、流路43内の液体原料LMの流れが停止する(全閉状態)。逆に、気化器24に供給する液体原料LMの量を増加させる場合、アクチュエータ本体58aは、プランジャ60aの突き出し長さLが短くなるように動作して、ダイアフラム36aと弁座45aとの隙間を大きくする(開状態)。なお、図1に示した液体原料供給装置10では、液体原料流量制御バルブ12が開状態、洗浄溶媒流量制御バルブ14が全閉状態、およびキャリアーガス閉止バルブ16が開状態となっている。
洗浄溶媒流量制御バルブ14は、キャリアーガスCGに混入する洗浄溶媒WSの量を制御するためのバルブであり、洗浄溶媒流量制御バルブ14の本体ブロック34bが有する一の側面と液体原料流量制御バルブ12の本体ブロック34aが有する一の側面とが接するように洗浄溶媒流量制御バルブ14と液体原料流量制御バルブ12とが配設されている。また、洗浄溶媒流量制御バルブ14の本体ブロック34bが有する一の側面に対向する他の側面とキャリアーガス閉止バルブ16の本体ブロック34cが有する一の側面とが接するように洗浄溶媒流量制御バルブ14とキャリアーガス閉止バルブ16とが配設されている。
また、洗浄溶媒流量制御バルブ14は、液体原料流量制御バルブ12の構成要素と同様に本体ブロック34bと、ダイアフラム36bと、アクチュエータ38bとを備えており、本体ブロック34bには、弁座挿入穴46bと、本体ブロック34bが有する一の側面と他の側面とを連通し、環状通液路47bを含むキャリアーガス連絡路62とが形成されている。
キャリアーガス連絡路62は、一端が本体ブロック34bの一の側面に接続され、他端が環状通液路47bの下面に接続された出口路63と、環状通液路47bと、流量制御部56bと、一端が本体ブロック34bの他の側面に接続され、他端が環状通液路47bの下面に接続された入口路64とで構成されている。
なお、洗浄溶媒流量制御バルブ14の本体ブロック34bが有する一の側面に接続された出口路63の一端は、液体原料流量制御バルブ12の本体ブロック34aに形成されたキャリアーガス導入路44に接続されている。
また、本体ブロック34bには、本体ブロック34bの下面40bから弁座挿入穴46bの底面まで洗浄溶媒WSを導入する洗浄溶媒導入路65が設けられている。
また、洗浄溶媒導入路65の本体ブロック34bが有する下面40bに接続された一端には、洗浄溶媒タンク26から洗浄溶媒流量制御バルブ14に洗浄溶媒WSを導入する洗浄溶媒導入管66が接続されている。
キャリアーガス閉止バルブ16は、液体原料LMを気化器24に圧送するためのキャリアーガスCGを洗浄溶媒流量制御バルブ14に供給するためのバルブであり、液体原料流量制御バルブ12の構成要素と同様に本体ブロック34cと、ダイアフラム36cと、アクチュエータ38cとを備えている。また、本体部録34cには、弁座挿入穴46cと、本体ブロック34cが有する一の側面と下面40cとを連通し、環状通液路47cを含むキャリアーガス供給路67とが形成されている。
キャリアーガス供給路67は、本体ブロック34cが有する一の側面に一端が接続され、他端が弁座挿入穴46cの底に接続された出口路68と、連通孔50cと、流量制御部(開閉部)56cと、環状通液路47cと、一端が環状通液路47cの下面に接続され、他端が本体ブロック34bの下面40cに接続された入口路69とで構成されている。
また、洗浄溶媒流量制御バルブ14の本体ブロック34bが有する他の側面とキャリアーガス閉止バルブ16の側面とが接するように洗浄溶媒流量制御バルブ14とキャリアーガス閉止バルブ16とが配設されており、出口路68の一端は、洗浄溶媒流量制御バルブ14の本体ブロック34bに設けられたキャリアーガス連絡路62の入口路64に接続されている。
また、キャリアーガス供給路67を構成する入口路69の他端には、キャリアーガスCGをキャリアーガス閉止バルブ16に供給するキャリアーガス供給管70が接続されている。
なお、本実施例に係る液体原料供給装置10では、液体原料流量制御バルブ12の弁座45a、洗浄溶媒流量制御バルブ14の弁座45b、およびキャリアーガス閉止バルブ16の弁座45cが同一水平面上に位置するように、液体原料流量制御バルブ12、洗浄溶媒流量制御バルブ14、およびキャリアーガス閉止バルブ16が配設されている。
気化器24は、液体原料LMを加熱して気化する装置であり、図4(a)に示すように、内部に気化空間71を備えている。また、気化器24には、気化空間71の周囲に配設されたヒーター72、気化空間71の側部に設けられたガス取出路73、ガス取出路73と反応室22とを連通するためのガス導管74、原料供給管54の先端部を気化空間71に導入するための原料供給管取付孔76、および気化空間71に設けられ、原料供給管54の先端が接続されたアトマイザーノズル78が設けられている。
ヒーター72には、図示しない温度調節器が接続されており、気化空間71を所望の温度に調節することができる。なお、気化器24に取り付けられるヒーター72の数は必要に応じて適宜設定されるものであり、複数個のヒーター72を共通制御するようにしてもよい。
アトマイザーノズル78は、気化空間71に液体原料LMおよびキャリアーガスCGを均一に噴霧するための中空円錐形状のノズルであり、図4(b)に示すように、気化空間71の上端に取り付けられ、かつ、原料供給管54の先端が接続されている。また、アトマイザーノズル78は、内側空間79と、内面が円錐状である側壁80とを有しており、側壁80には、液体原料LMおよびキャリアーガスCGを噴射するための貫通孔81が同心円上に等間隔で、かつ、放射状に3箇所設けられている。なお、貫通孔81の数は3箇所に限られず、同心円上に等間隔で、かつ、放射状に複数箇所設けられていればよい。
液体原料タンク20は、膜の原料となる液体有機金属などの液体原料LMを貯留するものであり、図2に示すように、液体原料タンク20には、プッシュガス管82と液体原料導入管52とが取り付けられている。
洗浄溶媒タンク26は、原料供給管54の内部を洗浄するための洗浄溶媒WSを貯留するものであり、洗浄溶媒タンク26には、プッシュガス管84と洗浄溶媒導入管66とが取り付けられている。
液体原料流量計28は、液体原料タンク20と液体原料流量制御バルブ12との間の液体原料導入管52に取り付けられ、液体原料導入管52を流れる液体原料LMの質量流量(単位時間当たりに流れる液体原料の質量)を測定し、測定結果に基づいてアクチュエータ38aに印加する電圧を調整するものである。
洗浄溶媒流量計30は、洗浄溶媒タンク26と洗浄溶媒流量制御バルブ14との間の洗浄溶媒導入管66に取り付けられ、洗浄溶媒導入管66を流れる洗浄溶媒WSの質量流量(単位時間当たりに流れる液体原料の質量)を測定し、測定結果に基づいてアクチュエータ38bに印加する電圧を調整するものである。
キャリアーガス流量制御器32は、キャリアーガス供給管70に取り付けられた質量流量制御装置であり、キャリアーガス供給源(図示せず)から供給されたキャリアーガスCGの供給量を制御するものである。
なお、液体原料流量計28の下流側、洗浄溶媒流量計30の下流側、およびキャリアーガス流量制御器32の下流側にはメンテナンス用バルブ86が設けられている。また、気化器24と反応室22との間には、手動圧力調整バルブ88と、圧力計90と、圧力計90のメンテナンス用バルブ86と、大気放出バルブ92とが設けられている。
次に、液体原料気化供給システム33を用いて液体原料LMを気化する方法について説明する。
液体原料タンク20の内部にプッシュガス管82を通して、例えばヘリウムなどの不活性ガスであるプッシュガスPGを供給すると、液体原料タンク20の内圧が上昇し、液体原料LMの液面が押し下げられる。これにより、液体原料LMが液体原料導入管52内を流れ、液体原料流量計28を経由して液体原料流量制御バルブ12へ与えられる。このとき、液体原料流量計28では、内部を流れる液体原料LMの質量流量が測定され、測定された流量信号に応じて液体原料流量制御バルブ12のアクチュエータ38aに印加される電圧が調整される。また、当該電圧を受けたアクチュエータ38aが液体原料流量制御バルブ12のダイアフラム36aと弁座45aとの隙間を調整し、一定質量流量の液体原料LMが液体原料導入管52から液体原料導入路48、環状通液路47a、流量制御部56a、連通孔50a、および原料供給路49を経由して原料供給管54に与えられる。
一方、キャリアーガス供給源からキャリアーガス供給管70にキャリアーガスCGが供給されると、キャリアーガス流量制御器32でキャリアーガスCGの質量流量が制御され、所定の質量流量のキャリアーガスCGがキャリアーガス供給管70を通ってキャリアーガス閉止バルブ16に与えられる。このとき、予めキャリアーガス閉止バルブ16のアクチュエータ38cは、プランジャ60cの突き出し長さLが最短になるように設定されており、キャリアーガス閉止バルブ16は全開状態になっているので、キャリアーガス閉止バルブ16に流入したキャリアーガスCGは、キャリアーガス閉止バルブ16におけるキャリアーガス供給路67の入口路69、環状通液路47c、および連通孔50cを経由し、出口路68から洗浄溶媒流量制御バルブ14に与えられる。なお、キャリアーガスCGには、一般的に窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスが用いられている。
また、洗浄溶媒流量制御バルブ14は、予めダイアフラム36bと弁座45bとが密着するようにプランジャ60bの突き出し長さLが設定され、全閉状態になっているとともに、洗浄溶媒タンク26へのプッシュガスPGの供給は停止されている。したがって、洗浄溶媒WSは洗浄溶媒流量制御バルブ14に与えられることがなく、洗浄溶媒流量制御バルブ14に流入したキャリアーガスCGは、そのまま洗浄溶媒流量制御バルブ14のキャリアーガス連絡路62を通ってキャリアーガス導入路44に導入され、液体原料流量制御バルブ12の内部で原料供給路49に流入し、液体原料LMと合流する。
キャリアーガスCGが合流した後の液体原料LMは、キャリアーガスCGにより原料供給路49および原料供給管54の内部を気化器24に向けて圧送され、原料供給管54により気化器24まで圧送された後、アトマイザーノズル78の内側空間79に流入し、アトマイザーノズル78に設けられた3箇所の貫通孔81から気化空間71に均一に噴霧される。
気化空間71に均一に噴霧された液体原料LMは、ヒーター72からの熱を受けて気化されつつガス取出路73に向けて移動し、ガス導管74を経由して反応室22に与えられる。
このように、気化器24と液体原料流量制御バルブ12とが離隔して配設されているために原料供給管54の距離が長い場合であっても、原料供給路49にキャリアーガスCGを導入して原料供給路49および原料供給管54の内部流速を速くすることで、液体原料流量制御バルブ12で流量制御された液体原料LMが気化器24に流入するまでの時間が短くなり制御性が向上するとともに、原料供給路49および原料供給管54内部での気泡の発生を抑制して、原料供給路49および原料供給管54内部のデッドスペースを実質的になくすことができる。これにより、化学的に分解、反応、および重合などの影響を受けやすく、しかも高沸点、低蒸気圧の液体原料LMを高温にした気化器24に安定的に供給し、気化することができる。
また、本体ブロック34の内部に流路43およびキャリアーガス導入路44が作り込まれていることから、液体原料流量制御バルブ12の周りに配設される配管が少なくなり、液体原料供給装置10をコンパクトに形成することができるので、保守・点検が容易な装置にすることができる。
また、アトマイザーノズル78を用いることにより、アトマイザーノズル78から噴霧された液体原料LMの液滴径が大きくなるおそれがない。したがって、気化できずに気化器内部の特定位置に付着した液体原料LMが気化器からの熱を受けて分解・重合することにより残渣が発生し、このような残渣が次々に堆積して気化不能になるおそれがない。
また、本実施例に係る液体原料供給装置10では、各バルブの弁座45が同一水平面上に位置するように各バルブが配設されているので、各弁座45の高低差に起因して液体原料LMや洗浄溶媒WSなどの流体が不所望に各バルブの間を移動するおそれがない。例えば、何らかの理由でキャリアーガスCGの導入が停止するといったトラブルが発生したとき、液体原料流量制御バルブ12内部の液体原料LMがキャリアーガス導入路44を逆流して洗浄溶媒流量制御バルブ14の弁座45bまで流入することがない。したがって、このようなトラブルが発生した後、各バルブの内部清掃を行うことなく直ちに復旧して液体原料LMの気化を再開することができる。
図5に、液体原料流量制御バルブが気化器と一体に形成された従来型液体原料供給装置を用いて液体原料LMを気化したときの気化器内部圧力記録(図5(a))と、本発明に係る液体原料供給装置10を用いて液体原料LMを気化したときの気化器内部圧力記録(図5(b))とを示す。このように、本発明に係る液体原料供給装置10を用いて液体原料LMを気化したときには気化器内部の圧力がほとんど変動せず、極めて安定して気化が行われていたことがわかる。
次に、液体原料気化供給システム33を用いた液体原料LMの気化を停止した後、原料供給管54の内部を洗浄する方法について説明する。
まず、液体原料LMの原料供給管54への供給を停止するため、液体原料タンク20へのプッシュガスPGの供給を停止するとともに、ダイアフラム36aと弁座45aとが密着するようにプランジャ60aを延出して液体原料流量制御バルブ12を全閉状態にする。このとき、原料供給管54へのキャリアーガスCGの供給は継続しているので、原料供給路49にはキャリアーガスCGのみが導入されており、原料供給路49および原料供給管54の内部に残存する液体原料LMは、キャリアーガスCGにより気化器24に向けて押し流される。
液体原料LMの供給を停止した後、洗浄溶媒WSを原料供給管54に供給するため、洗浄溶媒流量制御バルブ14のアクチュエータ38bがダイアフラム36bと弁座45bとの間に隙間が生じるようにプランジャ60bの突き出し長さを少しずつ短くして洗浄溶媒流量制御バルブ14を開くとともに、洗浄溶媒タンク26の内部にプッシュガスPGを供給する。これにより、洗浄溶媒タンク26の内圧が上昇し、洗浄溶媒WSの液面が押し下げられ、洗浄溶媒WSが洗浄溶媒導入管66内を流れ、洗浄溶媒流量計30を経由して洗浄溶媒流量制御バルブ14へ与えられる。そして、洗浄溶媒流量制御バルブ14へ与えられた洗浄溶媒WSは、洗浄溶媒導入路65、弁座45bの連通孔50b、および流量制御部56bを経由して環状通液路47bに流入してキャリアーガスCGと合流する。以降、洗浄溶媒WSは、キャリアーガスCGとともにキャリアーガス導入路44を通って原料供給路49に与えられ、原料供給路49および原料供給管54の内部を気化器24に向かって移動しつつ、キャリアーガス導入管94の接合部からアトマイザーノズル78までの原料供給路49および原料供給管54の内部に残存する液体原料LMを完全に除去する。
所定量または所定時間洗浄溶媒WSを供給した後、洗浄溶媒タンク26へのプッシュガスPGの供給を停止するとともに洗浄溶媒流量制御バルブ14を全閉状態にして、さらにキャリアーガス閉止バルブ16を全閉状態にして原料供給管54に流入する全ての流体の供給を停止する。
本実施例によれば、液体原料LMの原料供給路49への供給を停止した後、キャリアーガスCGおよび洗浄溶媒WSにより原料供給路49および原料供給管54に残存する液体原料LMを完全に除去することができる。したがって、原料供給路49および原料供給管54内に残存した液体原料LMが液体原料気化供給システム33の休止中に変性して固着し、原料供給路49または原料供給管54が閉塞して次回の気化作業ができなくなるおそれがない。
なお、本実施例では、液体原料流量制御バルブ12などにダイアフラムバルブを用いているが、所望の流量制御が可能なバルブであれば他の形式のバルブを用いてもよい。特に、キャリアーガスCGの流量制御はキャリアーガス流量制御器32で行うので、キャリアーガス閉止バルブ16には、流量制御機能を備えていない単なるオン−オフバルブを用いることができる。
また、本実施例では、図2に示すように、キャリアーガス導入路44は、原料供給路49に対して水平に接続されているが、原料供給路49に接続する直前に図1中右上がりの角度をつけてキャリアーガス導入路44を原料供給路49に接続するようにしてもよい。
また、本実施例では、液体原料流量制御バルブ12の内部で原料供給路49にキャリアーガス導入路44を接続するようにしているが、図6に示すように、液体原料流量制御バルブ12を出た直後の位置において、原料供給管54にキャリアーガス導入管94を接続するようにしてもよい。このようにすれば、液体原料流量制御バルブ12と洗浄溶媒流量制御バルブ14とに、本実施例のようにキャリアーガス導入路44が本体ブロック34aに設けられている特殊なバルブを使用する必要がなく、汎用の流量制御バルブを用いることができる。さらに、図6に示すように、キャリアーガス連絡管96を介して洗浄溶媒流量制御バルブ14とキャリアーガス閉止バルブ16とを接続することにより、本実施例のようにキャリアーガス連絡路62が本体ブロック34の側面に連通されている特殊なバルブを使用する必要がなく、キャリアーガス閉止バルブ16に汎用の流量制御バルブを用いることができる。