JP2008301724A - マイクロ波照射による酵素失活方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 酵素失活対象物を乾燥させる第一の工程と、乾燥させた酵素失活対象物にマイクロ波を照射してタンパク分子を切断する第二の工程とからなることを特徴とする酵素失活方法とする。
【選択図】 図2
Description
酵素失活方法にはいくつかの手法が存在するが、従来からの酵素失活方法には、圧力容器内に酵素失活対象物を入れ、高圧スチームにより酵素を失活させるオートクレーブが用いられている。
しかしながら、オートクレーブ酵素失活処理では高圧蒸気を使用するため酵素失活対象物は金属、ガラス等に限られ、耐熱性の低い高分子材料や紙などには使用できない。また、RNA分解酵素等、熱などに対して非常に安定で破壊されにくい酵素については、オートクレーブ酵素失活処理では完全に失活させることはできない。
しかしながら、二酸化炭素を超臨界状態にするためには高い圧力をかける必要があり、大がかりな設備を必要とするため、機器の設置コストが高く、構成が複雑になるという問題がある。また、超臨界状態の二酸化炭素と接触させるためには、酵素失活対象物が果汁、生酒等の液状食品等でなければならず、熱可塑性樹脂等の容器や器具等の表面に付着した酵素の失活処理を行うことはできないという問題もある。
しかしながら、二酸化炭素を超臨界状態にする程の大がかりな設備は必要とはしないが、通電ユニットが必要になる等、ある程度構成が複雑になるという問題は解決されていない。また、酵素失活対象物が果汁、生酒等の液状食品等でなければならず、電気を通すことができないため、熱可塑性樹脂等の容器や器具等の表面に付着した酵素の失活処理を行うことはできないという問題も解決されていない。
本発明における酵素失活対象物は、マイクロ波照射対象物と該マイクロ波照射対象物が保持された容器、材料等の保持体とからなる。
本発明に使用可能な保持体は、マイクロ波を使用できる物なら特に限定されず、例えば、高分子樹脂(ポリエチレン、PET、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン、ポリアセタール、ポリイミド、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタート等)、紙、布帛、耐熱性ガラス等を使用することができる。
本発明の特徴は酵素失活対象物の温度上昇を抑制し、高圧蒸気を使用することがないことであるため、保持体としては耐熱性の低い熱可塑性樹脂(ポリエチレン、PET、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ABS樹脂,AS樹脂,アクリル樹脂等)を使用することが好ましい。
一方、マイクロ波を照射するとスパークが発生することから、金属類、金属類の装飾を施した陶器、漆器類については保持体として好適に使用することはできない。
一方、酵素失活対象物の温度上昇を伴う乾燥方法、例えば、熱風乾燥、噴霧乾燥、間接加熱乾燥、遠赤外線加熱乾燥、マイクロ波加熱乾燥、太陽熱利用乾燥、フライ乾燥、過熱水蒸気乾燥等は、本発明に係る乾燥方法としては好適には使用することはできない。
第二の工程は、第一の工程により乾燥された酵素失活対象物にマイクロ波を照射する工程である。酵素失活対象物にマイクロ波を照射することによりタンパク分子表面、あるいは内部に存在している結合水が電磁波のエネルギーを吸収し活性化することにより、タンパク分子内のペプチド結合等の切断が生じ、タンパクの立体構造が崩壊するため、水分子を取り除いたとしても酵素失活対象物の酵素失活処理が可能となる。
間欠操作において、マイクロ波連続照射時間は10分以上であることが望ましい。10分未満であるとタンパク分子内に存在している結合水が十分に活性化されず、かつマイクロ波照射効果は蓄積性ではないため、冷却期間を設けると間欠操作のサイクルを繰り返しても、タンパク分子内のペプチド結合等の切断が生じにくいからである。
容器等保持体の酵素失活処理を行う場合は、表面に付着したタンパク分解酵素、DNA分解酵素、RNA分解酵素等を失活させることができれば十分であることから、マイクロ波を10〜20分間の1回照射、または間欠操作を1回行うことが好ましい。酵素失活処理時間、処理費用等が増加するため、間欠操作を2回以上行うのは好ましくない。
一方、乾燥食品等の酵素失活処理を行う場合は、酵素等をより確実に失活させるため、複数回の間欠操作を行うのが好ましい。酵素失活対象物によって、間欠操作回数は適宜選択されるが、多くとも3回以内とすることが好ましい。間欠操作回数を4回以上行うと、酵素失活処理時間、処理費用等が増加し、温度が上昇し保持体が特に耐熱性の低い熱可塑性樹脂等の場合は、長時間の加熱のため熱変形する可能性があるため好ましくない。
プラスチック製容器に入れたプロテナーゼK(インビトロゲン社製)5μgを6区画準備し、真空凍結乾燥機(日立社製CE10)を用いて30分間凍結乾燥させ水を含む溶媒を取り除いた。その後、1000Wのマイクロ波発生装置(シャープ社製RE−SD50−S)を使用し、処理時間をそれぞれ、
(1)0分、(2)2分、(3)5分、(4)10分、(5)15分、(6)20分、
とし、2.45GHzのマイクロ波を照射した。マイクロ波照射後のプロテナーゼKを10μlの50mMTris(pH7.5)に溶解させ、プロテナーゼKの基質としてリゾチーム、トリプシンインヒビター、カルボニックアンヒドラーゼ、オポアルブミンをそれぞれ5μg加えた。プロテナーゼKの残存活性を検定するため、室温で10分間保温して基質を分解させた。
その後、反応液を等量のLoading液(2%SDS、20%ショ糖、100mMDTT)を加え、12.5%のポリアクリルアミドゲルを使用し、40mAで50分間、Laemmli法に基づいて電気泳動を行った。泳動後ゲルをクマシーブリリアントブルー液で染色し、残存する高分子量タンパクを可視化させた。結果を図1の写真に示す。
一方、マイクロ波照射(4)10分以降では基質タンパクのバンドが現れていることから、ペプチド結合等が切断され、プロテナーゼKが失活している旨を示している。このことは、乾燥タンパクに(4)10分以降マイクロを照射すると、タンパク分子内に存在している結合水が十分に活性化することによりタンパク分子内のペプチド結合等が切断されるためと考えられる。
プラスチック製容器に入れたプロテナーゼK(インビトロゲン社製)5μgを6区画準備し、真空凍結乾燥機(日立社製CE10)を用いて30分間凍結乾燥させ水を含む溶媒を取り除いた。その後、1000Wのマイクロ波発生装置(シャープ社製RE−SD50−S)を使用し、処理時間をそれぞれ、
(1)0分、(2)2分、(3)5分、(4)10分、(5)15分、(6)20分、
とし、2.45GHzのマイクロ波を照射した。マイクロ波照射後、酵素失活対象物の温度を測定した。温度測定結果を表1に示す。
プラスチック製容器に入れたプロテナーゼK(インビトロゲン社製)5μgを6区画準備し、真空凍結乾燥機(日立社製CE10)を用いて30分間凍結乾燥させ水を含む溶媒を取り除いた。
その後、乾熱アルミブロックヒータを用いて、
(7)無処理、
(8)30℃2分加熱処理、
(9)45℃5分加熱処理、
(10)60℃10分加熱処理、
(11)75℃15分加熱処理、
(12)80℃20分加熱処理、
を行った。加熱処理後のプロテナーゼKを10μlの50mMTris(pH7.5)に溶解させ、プロテナーゼKの基質としてリゾチーム、トリプシンインヒビター、カルボニックアンヒドラーゼ、オポアルブミンをそれぞれ5μg加えた。プロテナーゼKの残存活性を検定するため、室温で10分間保温して基質を分解させた。
その後、反応液を等量のLoading液(2%SDS、20%ショ糖、100mMDTT)を加え、12.5%のポリアクリルアミドゲルを使用し、40mAで50分間、Laemmli法に基づいて電気泳動を行った。泳動後ゲルをクマシーブリリアントブルー液で染色し、残存する高分子量タンパクを可視化させた。結果を図1の写真に示す。
(10)60℃10分加熱処理でも基質タンパクのバンドが現れておらず、プロテナーゼKが失活せず基質タンパクが完全分解されていることを示しているが、実施例1、実施例2より、(4)マイクロ波10分照射では酵素失活対象物の温度は(10)と同様60℃であるにも関わらず、プロテナーゼKが失活している。従って、図1の実施例1におけるプロテナーゼKの失活は、加熱処理によるタンパク分子の立体構造の崩壊によるものではなく、マイクロ波照射によるペプチド結合等の切断によるものであることが示されている。熱による酵素の失活ではなく、マイクロ波照射によるペプチド結合等の切断による失活であるため、耐熱性が高い酵素、例えばRNA分解酵素も比較的低温にて失活させることができる。
プラスチック製容器に入れたリゾチーム(14.3Kd)、トリプシンインヒビター(20.1Kd)、カルボニックアンヒドラーゼ(29Kd)、ナポアルビミン(45Kd)、血清アルブミン(66.4Kd)、フォスホリラーゼ(97.2Kd)の混合液を10区画準備し、真空凍結乾燥機(日立社製CE10)を用いて30分間凍結乾燥させ水を含む溶媒を取り除いた。その後、5区画については、1000Wのマイクロ波発生装置(シャープ社製RE−SD50−S)を使用し、処理時間をそれぞれ、
(1)0分、(2)2分、(3)5分、(4)10分、(5)20分、
とし、2.45GHzのマイクロ波を照射した。また、残りの5区画については、乾熱アルミブロックヒータを用いて、
(6)無処理、
(7)30℃2分加熱処理、
(8)45℃5分加熱処理、
(9)60℃10分加熱処理、
(10)80℃20分加熱処理、
を行った。
マイクロ波照射後、及び加熱処理後のプラスチック製容器に10μlの50mMTris(pH7.5)を加えて溶解させ、等量のLoading液(2%SDS、20%ショ糖、100mMDTT)を加えて12.5%のポリアクリルアミドゲルを使用し、40mAで50分間、Laemmli法に基づいて電気泳動を行った。泳動後ゲルをクマシーブリリアントブルー液で染色し、残存する高分子量タンパクを可視化させた。結果を図2の写真に示す。
(5)20分間のマイクロ波の照射では、どの種類のタンパク分子も明確なバンドが現れず、分子量が低下していることが認められ、ペプチド結合等の切断が生じていることがわかる。一方、(10)加熱処理20分では、分子量が低下したバンドは認められない。
従って、マイクロ波照射によるタンパク分子内に存在する結合水の活性化によるペプチド結合等の切断は、加熱によるタンパク分子の立体構造の崩壊よりも効率よく、酵素を失活させることができることがわかる。
Claims (5)
- 酵素失活対象物を乾燥させる第一の工程と、乾燥させた酵素失活対象物にマイクロ波を照射してタンパク分子を切断する第二の工程とからなることを特徴とする酵素失活方法。
- 前記第一の工程が、除湿空気乾燥、真空減圧乾燥、凍結乾燥のいずれか1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1に記載の酵素失活方法。
- 前記第二の工程においてマイクロ波を10〜20分連続照射することを特徴とする請求項1または2いずれかに記載の酵素失活方法。
- 前記第二の工程において、マイクロ波を前記連続照射後に、15〜30分休止して10〜20分連続照射することを1単位とする間欠操作を1回以上行うことを特徴とする請求項3に記載の酵素失活方法。
- 前記酵素失活対象物の温度が、前記第一の工程、および前記第二の工程を通して80℃以下であることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の酵素失活方法。
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JP2007149802A JP2008301724A (ja) | 2007-06-05 | 2007-06-05 | マイクロ波照射による酵素失活方法 |
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Citations (5)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JPH01199567A (ja) * | 1988-02-03 | 1989-08-10 | Kirin Brewery Co Ltd | 果汁の製造法 |
JPH04183796A (ja) * | 1990-11-15 | 1992-06-30 | Pare Josselin | 揮発性油のマイクロ波抽出法及びそのための装置 |
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JP2007215408A (ja) * | 2006-02-14 | 2007-08-30 | M & F Shokuhin Kaihatsu Kenkyusho:Kk | 食品の加工処理方法 |
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2007
- 2007-06-05 JP JP2007149802A patent/JP2008301724A/ja active Pending
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