JP2008281370A - 免疫組織化学的染色による抗原の検出方法 - Google Patents

免疫組織化学的染色による抗原の検出方法 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明は既存の超高感度免疫染色法を更に改良し、核内でのp40Taxタンパク質の検出を実現することを目的とする。
【解決手段】本発明は、固定組織標本中の抗原に一次抗体を結合させ、一次抗体に二次抗体と西洋ワサビペルオキシダーゼとがポリマー担体上に結合してなるポリマー複合体を結合させ、次いで標識化タイラマイドを付与して異化沈着させ、異化沈着標識化タイラマイドを可視化する超高感度免疫染色法において、抗原回復処理をプロテアーゼによる酵素処理により行うことを特徴とする改良された超高感度免疫染色法に関する。
【選択図】なし

Description

本発明は、ヒトT細胞向性ウイルス1型感染細胞におけるp40Taxタンパク質のような、固定組織標本中に極微量存在する抗原を検出するための、改良された超高感度免疫染色法に関する。
本発明はまた成人T細胞性白血病又はリンパ腫に代表される、ヒトT細胞向性ウイルス1型に関連する疾患の診断方法に関する。
1. HTLV-1感染の検出方法
ヒトT細胞向性ウイルス1型(Human T-cell lympho-tropic virus type 1、本明細書では「HTLV-1」と表記することがある)は、RNAレトロウイルスに分類され、生きた細胞に感染すると、環状DNAに変換され、感染細胞のDNAにプロウイルスDNAとして組み込まれる(図1)。このプロウイルスDNAのpX領域のp40Taxタンパク質(Taxタンパク質とも称される)とp27Rexタンパク質(Rex)が良く研究されており、p40TaxはプロウイルスDNAの活性化と感染細胞遺伝子のトランスな活性や抑制により病原性を示し、RexはHTLV-1の再生産を亢進させることが知られている。このHTLV-1の感染は、成人T細胞性白血病 (Adult T-cell leukemia、本明細書では「ATL」と表記することがある)の細胞培養時に樹立されたHTLV-1産生性臍帯T細胞(a cord T-cell)の細胞株MT-2(Myoshi et al. 1981)にATL患者血清を反応させた間接蛍光抗体法で、陽性所見が認められ、この血清中の抗体をATLA (ATL-associated antigen)で確認された(Hinuma et al. 1981)。この間接蛍光抗体法の方法は、患者血清をMT2細胞をスライドグラスに添付した標本に反応させて、患者血清中の抗HTLV-1抗体の検出を行なう間接蛍光抗体法である。
一方、HTLV-1感染から成人T細胞性白血病又はリンパ腫(Adult T-cell leukemia/lymphoma, 本明細書では「ATLL」と表記することがある) に至る過程で検出できるDNA、RNA、タンパク質や抗体の検出する方法としては、表1に示す方法が考えられ、それぞれの方法が報告されているが、まだ、十分に病理組織標本切片に応用でき、且つ、ATLの病理診断に直接的に利用できるものは確立されていないのが現状である。
Figure 2008281370
現在、臨床血液学と血液病理学の分野で実施されているHTLV-1感染を確認する方法には、1)末梢血中の抗HTLV-1抗体の検出、2)末梢血のATL細胞を含む単核球ないしATLL細胞を含む組織から抽出したDNAのサザンブロット解析によるHTLV-1 プロウイルスDNAのクローナルな組み込みの有無の検索である。
末梢血中の抗HTLV-1抗体に関しては、ATL患者は多くの場合が、胎児期ないし新生児期にHTLV-1に感染し、抗HTLV-1抗体を新生児、小児、若年期には獲得せずに、その後に、seroconversionにて獲得し、ATL発症時には獲得している場合が多いが、経過中に、抗体が検出出来なくなる場合があることが知られている。また、特定のヒトリンパ球抗原(HLA)を有するヒトではHTLV-1 pX領域の関連タンパク質のp40Taxと類似したアミノ酸配列から抗体が出来難いことが判明している。一方、HTLV-1関連疾患であるHTLV-1-asscoiated myelopathy (HAM)の患者の場合には、非常に高い血清中の抗HTLV-1抗体の出現が観察される。
また、HTLV-1 プロウイルスDNAのサザンブロット解析でも、検索対象細胞中の5%以上がATL細胞でないと、そのクローナルな組み込みは検出できないことが判明している。この欠点補う為に、inverse PCR法によるHTLV-1のプロウイルスDNAのクローナルな組み込みを検出する方法が開発されている(Takemoto et al. 1994)。また、Real-time PCRによる末梢血中のウイルス量(プロウイルスDNA量)を測定する場合もある。
血液病理学でのATLの診断には、末梢性T細胞性白血病乃至リンパ腫の診断を行なった上で、末梢血中の抗HTLV-1抗体の検出ないし組織から抽出したDNAのサザンブロット解析によるHTLV-1 プロウイルスDNAのクローナルな組み込みの有無の確認を参考に、ATLであろうと云う病理診断が行なわれているのが現状である。また、病理切片中のウイルス量を、プロウイルスDNAのPCRとnestic/semi-nestic/two times PCRにて、多くのウイルス量があるのか否かがATLLの診断に用いられる可能性があることが示唆されている(Marin et al. 2002)。
PCR:Polymearse chain reactionの略。標的遺伝子のDNA配列に対応した前方と後方の2つ領域に、Primerと云う20から30 bp長さの1本鎖DNAを準備して、その2つの間のDNA配列を、約100万倍の増幅して、その遺伝子の存在を確認する方法である。検索されるDNAを酵素等で切断した短鎖DNAの環状DNAを作製した上で、Primer方向を逆にして、DNAの増幅を行ない、その増幅遺伝子の隣のDNA配列を同定して、その遺伝子の組み込まれた染色体上での位置やクローン性を検索するPCRの方法をinverse PCRと呼ぶ。また、標的のDNA量が非常に少ない場合には、1回目のPCR産物を、1000倍に希釈し、再度、同じPrimerの組み合わせ(two times PCR)ないし一つは同じPrimer でもう一つは内側のPrimerの組み合わせ(Semi-nestic PCR)ないし内側のPrimerの組み合わせ(Nestic PCR)のPCR反応により増幅が行なわれる。
2. 組織切片でのHTLV-1感染の検出方法
HTLV-1の感染の検出には、現在、実用化されている前記の末梢血中の抗HTLV-1抗体の検出ないし組織から抽出したDNAのサザンブロット解析によるHTLV-1 プロウイルスDNAのクローナルな組み込みの有無の確認、病理切片中のウイルス量(プロウイルスDNA量)のPCRによる検索以外に、標的をHTLV-1関連のDNA、RNA/mRNA、タンパク質とする表2に示すような多彩な方法が試みられている。表2中、丸印は可能と思われる方法を示す。
Figure 2008281370
1994年に発表されたArai et alの論文(Arai et al. 1994)がこの分野の最初の論文と思われるが、この方法は、プローブをランダム標識して、ISH(in-situ hybridization)を行うもので、陽性の症例では、多くの核に陽性像を示したと報告したが、著者自身の追試ができず(Personal communication)、本発明者らの試みでも、プローブをPCRで高度標識して、DNAとmRNAのISHによる同時検出を試みたが、mRNAは検出できたが、プロウイルスDNAの検出ができず(Hasui et al. 1994)、後のin-situ PCRでのa single copyのプロウイルスDNAの検出では、切片ではATL細胞でも少数の細胞の核にしか検出されず(Ohshima et al. 1996)、予想される切片中の細胞核で検出されるa single copyのプロウイルスDNAの頻度は、切片中に含まれる核の体積比(Hasui et al. 1986)からも、ATLでも少数の細胞の核にしか検出できないことなど予測されることから、Arai et alの試みは、プローブのランダム標識の結果、非特異な標識プローブ成分のDNA-DNAの非特異結合による染色像であることが考えられている。
HTLV-1 (RNAウイルス)は、生きた細胞間での感染が生じ、細胞外には長期間存在しないとされることから、ウイルスの外套のタンパク質の免疫染色やウイルスコアのRNAのISHでHTLV-1を検出することは可能であるのではないかと考えられ、HTLV-1産生性の細胞株であるMT-2の電子顕微鏡写真等での再生産の状況は観察されている (Miyoshi et al. 1981)。しかしながら、未だに、生体の組織や細胞で検出したとする報告はない。
HTLV-1のプロウイルスDNAの検出では、1細胞当たり数百万コピー存在するEpstein-Barr virusに対して一コピーしか存在しないHTLV-1のプロウイルスDNAが対象であることから、通常法での検出は現状では妥当な報告がない。増幅法の一つであるin-situ PCRにより標的DNAを増幅する方法が成功し、報告された (Higuchi et al. 1995); (Ohshima et al. 1996); (大島孝一他. 1996); (Matsuoka et al. 1998); (Takenouchi et al. i1999)が、その後のMatsuoka等による詳細な検討の結果、通常の病理組織標本での実施が難しいことが判明している。一方、プローブ標識と検出系での増幅方法では、試みられているが、まだ、妥当な報告がない。
HTLV-1プロウイルスDNAのmRNAの検出では、通常法では僅かな検出に終わっている(大島孝一他. 1996)。 mRNAをRT-PCRで増幅する方法でも検索が行なわれている(Ohshima et al. 1996); (大島孝一他. 1996)。一方、プローブの高度標識と検出系の増幅を組み合わせた方法でも検出に成功している (Hasui et al. 1994); (Hasui & Sato. 1994) ; (Hasui et al. 1995); (蓮井和久他、1999)。
プロウイルスDNAのpX領域の関連タンパク質の検索は、通常法では、細胞株や刺激されたATLL細胞ではその発現が誘導されて、p40Taxタンパク質等も検出されるが、末梢血中やリンパ節等のATLL細胞には検出されなかった。HAMの病変と末梢血中リンパ球で、p40Taxタンパク質を検出したとする報告は、1996年のMoritoyo et al.の論文(1996)がある。この論文の主体は、“double-label in situ hybridization techniques”でp40Tax遺伝子のリンパ球での発現を確認したとするものであるが、p40Taxタンパク質の検出は、ALP標識法で、ALPの発色過程での増感法によるものであった。その後の1999年の彼等の論文(Moritoyo et al. 1999)では、本発明者らと同様の異化リポーター沈着(catalyzed reporter deposition, CARD)反応による検出を報告していることから、この方法によるp40Taxタンパク質の検出は、HTLV-1感染直後のp40Taxタンパク質の高発現の状態を検出したのではないかと考えられるが、安定した検出方法ではなかったようである。一方、本発明者らは、4M尿素液中で熱による抗原回復後にstreptavidin-biotin complex (sABC)法とcatalyzed reporter deposition (CARD)反応によるImmunoMax法に内因性ビオチンによる非特異反応のマスク法を導入したmodified ImmunoMax法(超高感度免疫染色法)を開発し、p40Taxタンパク質を検出したことを報告している(Hasui et al., 1997); (Hasui et al., 1997); (蓮井和久他、1999); (Marin et al. 2002); (Hasui et al. 2003)。この方法は、本発明に直接関係するので、以下に詳細に説明する。
HTLV-1感染の病原性の本体がp40Taxタンパク質であることから、p40Taxタンパク質を含めたプロウイルスDNAのpX領域の関連タンパク質の検出は、HTLV-1関連疾患の発病の機序の解析に寄与するものである。このp40Taxタンパク質とRexタンパク質を標識する抗体(マウス抗p40Taxモノクローナル抗体:Lt-4 (Lee et al. 1989)、ラット抗p40Taxモノクローナル抗体:WATM-1(Tanaka et al. 1992)、マウス抗Rexモノクローナル抗体:Rec-6)は現琉球大学教授の田中勇悦先生より供与を受けた。ImmunoMax法(Merz et al. 1995); (Malisius et al. 1997)は、ドイツのリューベック医科大学(現ホルスタイン大学リューベックキャンパス)病理学教室(Prof. AC Feller)から導入したが、熱による(圧力鍋法)抗原回復は予想以上に非特異反応が多かった。そこで、本発明者らは4M尿素液中での圧力鍋による熱による抗原回復と内因性ビオチンのマスク法を導入したmodified ImmunoMax法を開発した(Hasui et al. 1997)。この方法では、p40Taxタンパク質もRexタンパク質も、MT-2細胞やATLL細胞の細胞質に陽性染色像を示した (Hasui et al., 1997); (Hasui et al., 1997); (蓮井和久他、1999); (Marin et al. 2002); (Hasui et al. 2003)。この結果は、p40Taxタンパク質の病原性を考える上でp40Taxタンパク質の細胞質での機能も重要であることを示唆したが、p40Taxの主な細胞内でのトランスな遺伝子活性化の場である核でのp40Taxタンパク質の検出を達成できていなかった。その後、modified ImmunoMax法での内因性ビオチンによる非特異反応の回避の為に、sABC法をポリマー試薬法へ変更し、ポリマー試薬法の非特異反応抑制処理を導入し(Hasui et al. 2002)、且つ、CARD反応の非特異反応抑制処理を行なう(Hasui & Murata, 2005)ことにより、更に改良された超高感度免疫染色方法の確立に至った(特開2004-271511号公報)。しかしながらこの改良された超高感度免疫染色方法を用いたp40Taxの検出の検討は行なわれずに現在に至っていた。
なお本発明者らが開発した特開2004-271511号公報記載の超高感度免疫染色方法(本明細書では「本研究のシステム」と称することがある)と、商業的に供給されている関連する免疫組織化学的染色方法との関係を図2にまとめる。図2上段に示すDako CSA systemは、二次抗体としてビオチン標識二次抗体を用いるstreptavidin-biotin complex (sABC)法と、ペルオキシダーゼによるフェノール類(ビオチン化タイラマイド等)の異化沈着(catalyzed reporter deposition: CARD)反応とを組み合わせた超高感度免疫染色システムであり、前述のImmunoMax法と同じ方法である。図2中段のDako CSA II systemは、Dako CSA system におけるsABC法を、HRP(西洋ワサビペルオキシダーゼ)標識二次抗体を用いた反応に置換するとともに、Dako CSA systemにおけるCARD反応試薬であるビオチン化タイラマイドをFITC標識タイラマイドに置換することにより、内因性ビオチンの影響を低減させた、改良された超高感度免疫染色システムである。図2下段の特開2004-271511号公報記載の本研究のシステムは、二次抗体試薬として、HRPと二次抗体とがポリマー担体に結合してなるポリマー複合体(「ポリマー試薬」とも言う)を用いること、並びに、ポリマー複合体と一次抗体との結合反応の前に該結合反応の非特異反応を抑制するための処理を施すこと、及びCARD反応を行う前に該反応の非特異反応を抑制するための処理を施すことにより、内在性ビオチンによる影響と非特異反応による影響を低減させた、改良された超高感度免疫染色システムである。
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上記の通り本発明者らが開発した特開2004-271511号公報記載の超高感度免疫染色法は核内でのp40Taxタンパク質の検出を行うには未だ不十分であった。
そこで、本発明は特開2004-271511号公報記載の超高感度免疫染色法を更に改良し、核内でのp40Taxタンパク質の検出を実現することを目的とする。
特開2004-271511号公報記載の超高感度免疫染色法では抗原回復処理として加熱処理を行っていた。本発明者らは驚くべきことに、従来の加熱処理をプロテアーゼによる酵素処理に置換することにより、検出感度を高めることができることを見出した。また非特異反応抑制工程における処理条件や、一次抗体反応の条件などを変更することにより、検出感度を更に高めることができることを見出した。本発明は以下の発明を包含する。
(1) 免疫組織化学的染色方法により固定組織標本中の抗原を検出する方法であって、
前記標本にプロテアーゼによる酵素処理を施して前記標本中の抗原を回復させる抗原回復工程と、
前記抗原回復工程後の標本に、抗原抗体反応における非特異反応を抑制するための処理を施す第一の非特異反応抑制工程と、
前記第一の非特異反応抑制工程後に、前記抗原に、該抗原に対する一次抗体を結合させる一次抗体反応工程と、
前記一次抗体反応工程後の標本に、抗原抗体反応における非特異反応を抑制するための処理を施す第二の非特異反応抑制工程と、
前記第二の非特異反応抑制工程後の、前記抗原に結合した一次抗体に、該一次抗体に対する二次抗体と西洋ワサビペルオキシダーゼとがポリマー担体上に結合してなるポリマー複合体を結合させる二次抗体反応工程と、
前記二次抗体反応工程後の標本に、前記ポリマー複合体中の西洋ワサビペルオキシダーゼによるタイラマイドの異化反応における非特異反応を抑制するための処理を施す第三の非特異反応抑制工程と、
前記第三の非特異反応抑制工程後に、標識化タイラマイドを付与し、前記ポリマー複合体中の西洋ワサビペルオキシダーゼにより前記標識化タイラマイドを異化し沈着させる標識化タイラマイド異化沈着工程と、
前記沈着した異化標識化タイラマイドを可視化する可視化工程と、
を含む前記方法。
(2) 前記抗原回復工程において用いられるプロテアーゼが、トリプシン(Trypsin)、プロナーゼ(Pronase)、又はプロテイナーゼK (Proteinase K)である、(1) 記載の方法。
(3) 前記抗原回復工程において用いられるプロテアーゼが、プロテイナーゼK (Proteinase K)である(2)記載の方法。
(4) 前記第一の非特異反応抑制工程及び前記第二の非特異反応抑制工程が、カゼイン溶液による処理、動物血清による処理、スキムミルクによる処理、又はノンファットミルクによる処理により非特異反応を抑制する工程である、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5) 前記第三の非特異反応抑制工程が、カゼイン溶液による処理、ポリエチレングリコール溶液による処理、スキムミルクによる処理、又はファットミルクによる処理により非特異反応を抑制する工程である、(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6) 前記一次抗体反応工程が、動物血清を含まない条件下で行われる(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7) 前記標識化タイラマイドが、ビオチン又は蛍光物質とタイラマイドとが結合してなるものである、(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
(8) 前記標識化タイラマイドが、蛍光物質とタイラマイドとが結合してなるものであり、
前記可視化工程が、異化し沈着した該標識化タイラマイドに、前記蛍光物質に対する抗体のFab断片と西洋ワサビペルオキシダーゼとの複合体を結合させ、次いで該西洋ワサビペルオキシダーゼにより呈色反応を行わせる工程である、(7)記載の方法。
(9) 前記蛍光物質がフルオレセインイソチオシアネートである、(7)又は(8)記載の方法。
(10) 前記抗原回復工程の前に行われる、前記標本中の内因性ペルオキシダーゼを不活化する第一の内因性ペルオキシダーゼ不活化工程と、
前記抗原回復工程の後に行われる、前記標本中の内因性ペルオキシダーゼを不活化する第二の内因性ペルオキシダーゼ不活化工程と
を更に含む、(1)〜(9)のいずれかに記載の方法。
(11) 前記第一の内因性ペルオキシダーゼ不活化工程は、前記標本を0.3%過酸化水素メタノール溶液により15〜25℃にて15〜30分間処理する工程、又は3%過酸化水素リン酸緩衝液により15〜45℃にて15〜30分間処理する工程であり、前記第二の内因性ペルオキシダーゼ不活化工程は、前記標本を3%過酸化水素リン酸緩衝液により15〜45℃にて15〜30分間処理する工程である、(10)記載の方法。
(12) 検出しようとする抗原が、ヒトT細胞向性ウイルス1型感染細胞におけるp40Taxタンパク質である、(1)〜(11)のいずれかに記載の方法。
(13) 一次抗体がマウス抗p40Taxタンパク質モノクローナル抗体である(12)記載の方法。
(14) 前記固定組織標本が、末梢血組織標本、病理組織標本、末梢血白血球又は細胞の浮遊標本を沈降又は遠沈して作成されるセルブロック標本、或いは、末梢血又は細胞を含む液体の塗沫標本である、(1)〜(13)のいずれかに記載の方法。
(15) 被検動物から単離された固定組織標本中のp40Taxタンパク質を、(12)又は(13)記載の方法を用いて検出する工程を含む、ヒトT細胞向性ウイルス1型に関連する疾患の診断方法。
(16) 前記ヒトT細胞向性ウイルス1型に関連する疾患が、成人T細胞性白血病又はリンパ腫である、(15)記載の方法。
(17) 前記固定組織標本が、末梢血組織標本、病理組織標本、末梢血白血球又は細胞の浮遊標本を沈降又は遠沈して作成されるセルブロック標本、或いは、末梢血又は細胞を含む液体の塗沫標本である、(15)又は(16)記載の方法。
本発明の方法により検出される抗原としては、熱処理やマイクロウェーブ処理による抗原回復と超高感度免疫染色とを組み合わせた免疫染色によっては十分に検出できない抗原(例えばp40Taxタンパク質)が挙げられる。
なお本明細書において「p40Taxタンパク質」とは、「ヒトT細胞向性ウイルス1型(HTLV-1)のプロウイルスDNAのpX領域の関連蛋白の一つであるp40Taxタンパク質」を意味する。
本発明により提供される改良された超高感度免疫染色法によれば、従来検出が困難であったHTLV-1感染細胞の核内のp40Taxタンパク質の検出を行うことが可能になる。
1. 固定組織標本
本発明で用いられる固定組織(パラフィン包埋)標本切片について説明する。固定組織(パラフィン包埋)標本とは、生物組織から切り出され、固定化された標本の事で、例えば、10%緩衝ホルマリン液等で化学固定され、濃度が漸増するエタノール溶液系列で水分が除かれ、100%キシレン等で浸透され、60℃前後の溶解したパラフィン等の溶液で浸透され、低温下でパラフィン等で固化された標本をいう。固定組織(パラフィン包埋)標本切片は、通常、薄切装置で作成されたその標本の3ミクロン前後の厚さの切片で、適切に処理されたスライドに貼付されている。固定組織パラフィン標本切片が免疫組織化学的染色に供される時には、100%キシレンに浸透する事でパラフィンを除き、100%エタノールでそのキシレンを置換した後に、リン酸緩衝液等に浸透して、親水化される。
本発明に使用できる固定組織標本の例としては、病理組織標本、末梢血組織標本、組織から分離された細胞や体液から分離された細胞のセルブロック標本、末梢血白血球又は細胞の浮遊標本を沈降又は遠沈して作成されるセルブロック標本、組織の捺印標本、或いは、末梢血、体液、滲出液、又は細胞を含む液体の塗沫標本が挙げられる。
2. 第一の内因性ペルオキシダーゼ不活化工程
上記固定組織標本は、化学固定やその後の組織の処理でも失われないペルオキシダーゼ活性を有することがある。そこで本発明の方法では、固定組織標本の内因性ペルオキシダーゼ活性を抑制する工程を含むことが好ましい。不活化工程としては例えば以下の処理を行う。固定組織パラフィン標本切片から100%キシレンでパラフィンを除き、キシレンを100%エタノールで除いた後に、0.03〜1%過酸化水素メタノール溶液 (より好ましくは0.3%過酸化水素メタノール溶液) に、好ましくは15〜25℃にて、15〜30分間浸すか、固定組織パラフィン標本切片を親水化した後に、1〜5%過酸化水素リン酸緩衝液(より好ましくは3%過酸化水素リン酸緩衝液)に、好ましくは15〜45℃にて、15〜30分間浸す。リン酸緩衝液としては例えば0.01Mリン酸緩衝食塩水を用いることができ、リン酸緩衝液のpHは好ましくは7.2である。3%過酸化水素リン酸緩衝液は、Dakoから内因性パーオキシダーゼブロッキング試薬 (S2001)やダコChemMateパーオキシダーゼブロッキング試薬 (S2023)が供給されているものを用いることも可能である。上記の過酸化水素メタノール溶液又は過酸化水素リン酸緩衝液を調製する場合には市販の過酸化水素水原液を希釈して使用することが一般的であるが、過酸化水素水原液の濃度は保存条件により変動することから、使用前に過酸化水素水原液が所定の濃度を有しているかどうかをpHを基準に確認することが好ましい。例えば過酸化水素水原液として市販の30%過酸化水素水を使用する場合、この原液がpH4.3〜4.5であることを確認して使用することが好ましい。
3. 抗原回復工程
本発明の最大の特徴は、上記固定組織標本中の抗原を回復させるために、従来の熱処理に代えて、プロテアーゼによる酵素処理を施すことにある。プロテアーゼによる酵素処理により、非特異反応が抑制され、精度の高い検出が可能になる。従来の熱やマイクロウエーブによる抗原回復での過多な抗原の回復での検出は30%程度の症例で主に細胞質のp40Taxタンパク質の検出であり核のp40Taxタンパク質はほとんど検出できなかった(Hasui et al. 2003)。プロテアーゼによる酵素処理を施すことにより、抗原と一次抗体との抗原抗体反応を阻害しているタンパク質が消化され、実施例2で示すように100%近い症例での主に核のp40Taxタンパク質の検出が可能となった。このように、プロテアーゼによる酵素処理を施すことにより抗原回復処理を行うことにより、一次抗体による抗原の精度の高い検出が可能になる。
使用できるプロテアーゼとしては抗原と近接して存在し一次抗体と抗原との抗原抗体反応を阻害するタンパク質分子の部分を消化するプロテアーゼや、抗原と結合し一次抗体と抗原との抗原抗体反応を阻害しているタンパク質自体ないし抗原との結合部分を消化するプロテアーゼが挙げられる。このようなプロテアーゼの具体例としてはトリプシン(Trypsin)、プロナーゼ(Pronase)、プロテイナーゼK (Proteinase K)などが挙げられ、プロテイナーゼKが最も好ましい。
抗原回復処理時のプロテアーゼの濃度は20μg/ml〜2mg/mlが好ましい。
プロテアーゼによる抗原回復処理は10〜30分間かけて行うことが好ましい。
プロテアーゼによる抗原回復処理は室温〜60℃の温度で行うことが好ましい。室温とは通常は15〜25℃の範囲である。
最も好ましいプロテアーゼ処理としては、200μg/ml プロテイナーゼK 塩添加0.05M トリス緩衝液溶液中で室温〜37℃にて標本を30分間処理することが挙げられる。
4. 第二の内因性ペルオキシダーゼ不活化工程
抗原回復工程後の標本切片の内因性ペルオキシダーゼ活性を不活性化する処理を行うことが好ましい。この処理は、前記抗原回復工程後の標本を0.03〜1%過酸化水素メタノール溶液 (より好ましくは0.3%過酸化水素メタノール溶液) に、好ましくは15〜25℃にて、15〜30分間浸すか、1〜5%過酸化水素リン酸緩衝液(より好ましくは3%過酸化水素リン酸緩衝液)に、好ましくは15〜45℃にて、15〜30分間浸すことにより行うことができる。より好ましい処理は、前記抗原回復工程後の標本を1〜5%過酸化水素リン酸緩衝液(より好ましくは3%過酸化水素リン酸緩衝液)に、好ましくは15〜45℃にて、15〜30分間浸すことである。本工程のその他の条件は前記「2. 第一の内因性ペルオキシダーゼ不活化工程」の項で説明したのと同様である。
5. 第一の非特異反応抑制工程
標的とする抗原と一次抗体との抗原抗体反応(一次抗体反応)を行う前に、標本中の、一次抗体と非特異的に結合する非特異的結合物質を被覆し、前記一次抗体と非特異的結合物質との結合を抑制する処理を行う。この工程を本明細書では「第一の非特異反応抑制工程」と称する。
標的とする抗原以外の標識を抑制する処理としては、例えば、カゼイン溶液により標本を被覆する処理、ウシ血清アルブミン(BSA)などの動物血清溶液により標本を被覆する処理、スキムミルクによる処理、ノンファットミルクによる処理等が挙げられ、なかでもカゼイン溶液により標本を被覆する処理が好ましい。
用いるカゼイン溶液は、好ましくは0.025〜2.5%、より好ましくは0.1〜1.0%、最も好ましくは、0.25%±0.1%のカゼインを含む溶液である。カゼイン溶液は、リン酸緩衝液食塩水、例えば0.01Mリン酸緩衝液8.5%塩化ナトリウム溶液中に前記濃度のカゼインを含有する溶液であることが好ましい。
動物血清としてBSA溶液を用いる場合のBSAの濃度は限定されないが、非特異反応抑制効果をより発揮し得るという観点から、0.01〜5%が好ましく、0.05〜3%がより好ましい。動物血清溶液には、Tween20、Triton X-100などの界面活性剤を添加することが好ましい。界面活性剤の添加量は、特に限定されないが、例えば、非特異反応抑制効果をより効率的に発揮し得るという観点から、0.01〜1%が好ましく、0.05〜0.5%がより好ましい。tween 20 添加BSA溶液としては、溶液の粘性を高めないという観点から、最も好ましくは、0.1%tween 20添加3%BSAである。
6. 一次抗体反応工程
次いで標的とする抗原に対する抗体(本発明では「一次抗体」と称する)を用いて抗原抗体反応を行う。用いる一次抗体はモノクローナル抗体であってもポリクローナル抗体であってもよいが、モノクローナル抗体が好ましい。一次抗体は、標的抗原が明らかに存在する細胞や組織の固定組織標本である対照標本の抗原を、抗原に至適な熱による抗原回復と通常の抗原検出感度の免疫組織化学的染色(sABC法ないしポリマー試薬法)で適切に標識できる濃度まで抗体希釈溶液にて希釈する。抗体希釈液は、一般に、リン酸緩衝液やトリス緩衝液が用いられるが、0.01M tween 20等の界面活性剤を含み、8.5%前後の塩化ナトリウムを含むものが用いられる。また、カゼイン等の抗体希釈液への適当な濃度での添加は、5分以上の反応では抗原抗体反応を阻害するので避けるべきである。一次抗体反応時間は、15〜30分間行われるが、15分間が好ましい。
一次抗体反応は、ウシ血清アルブミンなどの動物血清を含まない条件下で行われることが好ましい。このような条件下で一次抗体反応を行うことにより非特異反応を抑制することができる。
7. 第二の非特異反応抑制工程
抗原に結合した一次抗体と、二次抗体との抗原抗体反応(二次抗体反応)を行う前に、標本中の、二次抗体と非特異的に結合する非特異的結合物質を被覆し、前記二次抗体と非特異的結合物質との結合を抑制する処理を行う。この工程を本明細書では「第二の非特異反応抑制工程」と称する。この処理は、上述の「第一の非特異反応抑制工程」の項で説明したのと同様の操作により行うことができる。
8. 二次抗体反応工程
前記第二の非特異反応抑制工程後の、抗原に結合した一次抗体に、該一次抗体に対する二次抗体と西洋ワサビペルオキシダーゼとがポリマー担体上に結合してなるポリマー複合体を結合させる。本明細書ではこの工程を「二次抗体反応工程」と称する。また前記ポリマー複合体を「ポリマー試薬」と称することもある。
二次抗体と西洋ワサビペルオキシダーゼとがポリマー担体上に結合してなるポリマー複合体としては、DakoCytomation社のChemMate ENVISIONキットのポリマー試薬を用いることができる。
9. 第三の非特異反応抑制工程
本発明ではCARD法の手順に沿って前記ポリマー複合体中の西洋ワサビペルオキシダーゼにより標識化タイラマイドの異化反応を行うが、この異化反応の前に非特異反応を抑制するための処理を施す。本明細書ではこの工程を「第三の非特異反応抑制工程」と称する。
本工程は、標識化タイラマイドの異化反応を生じる部位をポリマー複合体の西洋ワサビペルオキシダーゼ存在部に限定し、異化標識タイラマイドの沈着を西洋ワサビペルオキシダーゼ存在部に限局させるために行う。
具体的な処理としては、例えば、二次抗体反応後の標本をカゼイン溶液により被覆する処理、ポリエチレングリコール溶液により被覆する処理、スキムミルクにより被覆する処理、ファットミルクにより被覆する処理等が挙げられ、なかでも二次抗体反応後の標本をカゼイン溶液により被覆する処理、又はポリエチレングリコール溶液により被覆する処理が好ましい。特に、CARD反応試薬としてビオチン化タイラマイド (本明細書中ではbiotinylated tyramide とも記す) を用いる場合には本工程にカゼイン溶液を用いることが好ましく、CARD反応試薬としてフルオレセインイソチオシアネート標識タイラマイド(本明細書中ではFITC-labeled tyramide とも記す)を用いる場合には本工程にポリエチレングリコール溶液を用いることが好ましい。
カゼイン溶液としては、第一の非特異反応抑制工程で用いるのと同様のカゼイン溶液を用いることができる。
ポリエチレングリコール溶液としては、分子量1500〜20000前後のポリエチレングリコールの溶液であって、Tweeen 20等の界面活性剤が添加されたものが好ましい。ポリエチレングリコールの濃度としては0.1〜5%が好ましく、3±1%がより好ましい。Tween20の濃度は例えば0.01〜1%であり、好ましくは、0.05〜0.5%である。最も好ましいポリエチレングリコール溶液は、0.1% tween 20添加3%ポリエチレングリコール〈分子量20000〉PBS溶液である。
10. 標識化タイラマイド異化沈着工程 (CARD反応工程)
第三の非特異反応抑制工程後の標本に標識化タイラマイドを付与し、前記ポリマー複合体中の西洋ワサビペルオキシダーゼにより標識化タイラマイドを異化し沈着させる。この工程を本明細書では「標識化タイラマイド異化沈着工程」と称する。標識化タイラマイドを異化し沈着させる反応は、異化リポーター沈着(catalyzed reporter deposition, CARD)反応とも呼ばれる公知の反応である。
標識化タイラマイドは、免疫染色された標本の観察に光学顕微鏡、蛍光顕微鏡、又はレーザー共焦点顕微鏡等が用いられるという観点から、タイラマイドに可視化できる物質が結合したものが好ましい。可視化できる物質としては例えばビオチン、蛍光物質等が挙げられる。蛍光物質としてはフルオレセインイソチオシアネート (FITC) が挙げられる。
ビオチン化タイラマイドとしては市販されているもの、例えばDako CSA ststem (K1500)やGenPoint (K0620)の増幅試薬が使用できる。
FITC標識タイラマイドとしては市販されているもの、例えばDako CSA II system(K1497)やGenPoint (K0618)の増幅試薬が使用できる。
11. 可視化工程
次いで、標識化タイラマイド異化沈着工程により沈着した異化標識化タイラマイドを可視化する。可視化は、標識化タイラマイドに結合できる物質と西洋ワサビペルオキシダーゼとの複合体を前記沈着した異化標識化タイラマイドに結合させ、次いで西洋ワサビペルオキシダーゼにより呈色反応を行わせ、呈色産物を定量することにより行うことができる。標識化タイラマイドに結合できる物質としては、標識化タイラマイドがビオチン化タイラマイドである場合には例えばアビジン、ストレプトアビジン又は抗ビオチン抗体が挙げられ、標識化タイラマイドが蛍光物質標識タイラマイドである場合には該蛍光物質に対する抗体が挙げられる。ここで使用する抗体は、標識化タイラマイドに特異的に結合する能力を有するFab断片の形態であることが、非特異反応を低減できるという観点から好ましい。西洋ワサビペルオキシダーゼによる呈色反応としては、公知の過酸化水素ジアミノベンゼン反応が挙げられる。
12. 洗浄工程
本発明の抗原の検出方法では、更に、非特異反応生成物、及びその他の残存反応物を除去する為に、加熱した洗浄液によって洗浄する工程を含んでもよい。前記加熱した洗浄液の温度は、25〜60℃の範囲内であることができる。かかる温度範囲では、抗原抗体反応が起こり、非特異的反応生成物及び残存反応物の充分な除去が可能となる。
13. 自動化
また、本発明の抗原の検出方法の好ましい実施態様において、反応液、反応時間及び洗浄回数等をプログラムして自動免疫装置に組み込み、自動化して行うことができる。即ち、市販の自動免疫組織化学的染色装置に、上記反応液、反応時間及び洗浄回数等の情報をプログラムして導入し、自動化して行うことができる。
14. 本発明の抗原検出方法の最も好ましい実施形態
本項では、本発明の抗原検出方法の最も好ましい実施形態を具体的に説明するが、本発明の範囲は以下の実施形態には限定されない。
本発明の方法は、化学固定(一般には、10%ホルマリン溶液ないし緩衝10%ホルマリン溶液中にて、一晩以上の固定)され、パラフィン包埋標本とされた標本のスライドグラスに貼付した切片を用い、以下の手順にて、自動免疫染色装置を用いて、染色する。
工程1:脱パラフィン工程
100%キシレンに10分間浸すことを3回繰り返し、次ぎに、100%エタノールに10分間浸すこと3回繰り返す。
工程2:第一の内因性ペルオキシダーゼ不活化工程
0.3%過酸化水素メタノール溶液に20分間から30分間浸す。その後に、pH 7.2(PBS)にて3回洗浄し、親水化する。
(以下の工程は自動染色装置で行なう。この自動染色装置による染色の洗浄液は、35〜45℃に加温した0.1% tween 20添加Tris緩衝液:TBSTを用いる。
工程3:酵素処理による抗原回復工程
洗浄を2回行なった後に、酵素溶液(例えば、Proteinase K 200μg/ml溶液)反応を行ない、3回洗浄する。
工程4:第二の内因性ペルオキシダーゼ不活化工程
3%過酸化水素リン酸緩衝液にて、15分間処理する。その後に、3回洗浄する。
工程5:第一の非特異反応抑制工程(抗Tax蛋白抗体反応の非特異反応抑制)
Dako Protein Block溶液ないしカゼイン溶液で、5分間処理する。洗浄は行なわない。
工程6:一次抗体反応工程(抗p40Tax蛋白抗体反応)
反応溶液は、抗p40Tax抗体原液をTBSTでx1000倍に希釈したものを用いる。反応時間は15分間で、反応後に、3回洗浄する。
工程7:第二の非特異反応抑制工程(ポリマー試薬反応の非特異反応抑制)
Dako Protein Block溶液ないしカゼイン溶液で、5分間処理する。洗浄は行なわない。
工程8:二次抗体反応工程(ポリマー試薬反応)
Dako ChemMate Envision試薬ないし同等試薬を用いる。反応後に、3回洗浄する。
工程9:第三の非特異反応抑制工程(Catalyzed reporter deposition: CARD反応の非特異反応処理)
Dako Protein Block溶液ないしカゼイン溶液で、5分間処理する。洗浄は行なわない。
工程10:標識化タイラマイド異化沈着工程(CARD反応)
15分間行い、2回洗浄する。CARD反応試薬はビオチン化タイラマイド試薬を用いる。反応後、2回洗浄する。 異化沈着したビオチン化タイラマイドを西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識ストレプトアビチン溶液反応で標識する。2回洗浄する。
工程11:可視化工程
Dako液状過酸化水素ジアミノベンチジン(DAB)試薬反応4分間、水で1回洗浄する。
工程12:核染色
Dakoヘマトキシリン溶液で1分間染色する。水で1回洗浄する。
(以下は、自動染色装置から切片を取り出して行なう。)
工程13:脱水、透徹、封入
<上記実施形態で用いる材料などの例>
<化学固定パラフィン包埋標本切片>
パラフィン包埋標本をマイクロトームで3から5ミクロン厚の切片にして、処理スライドグラスに添付されたものを、化学固定パラフィン包埋標本切片と呼ぶ。
<処理スライドグラス>
処理スライドグラスとは、シランスライドであり、3-アミノプロピルトリエトキシシランの2mlをアセトン98mlに溶解して2%溶液として、スライドグラスを5秒程度浸潤し、その後、アセトンを通して水洗し、37℃で一晩乾燥させたものである。
<化学固定パラフィン包埋標本の切片の処理スライドグラスへの貼付標本>
パラフィン包埋標本をマイクロトームで3から5ミクロン厚の切片にして、処理スライドグラスに添付したものを指す。
<0.01Mリン酸緩衝食塩水pH 7.2 (PBS)>
0.01Mリン酸緩衝食塩水pH 7.2は、リン酸水素ニナトリウム・12水和物28.7gとリン酸二水素ナトリウム・二水和物3.3gと塩化ナトリウム85.0gをイオン交換水10Lに溶解して作成する。
<0.05 M TBS pH 7.2溶液 (TBS)>
0.05 M TBS pH 7.2溶液は、トリス塩基121.1gをイオン交換水800mlに溶解し、70mlの塩酸を加えて、オートクレーブ処理し、室温に冷却してから、1N塩酸ないし1N水酸化ナトリウム溶液でpH 7.4の調整し、イオン交換水を1Lになるように加えたものを1Mトリス溶液とし、塩化ナトリウム292.2gを800mlのイオン交換水に溶解してオートクレーブ処理してイオン交換水を加えて1Lにしたものを5M塩化ナトリウム溶液として、1Mトリス溶液を500mlと5M塩化ナトリウム溶液360mlにイオン交換水を10Lになるまで加えたものを用いた。
<0.1%tween20 0.05 M TBS pH 7.2溶液 (TBST)>
0.1%tween20 0.05 M TBS pH 7.2溶液は、トリス塩基121.1gをイオン交換水800mlに溶解し、70mlの塩酸を加えて、オートクレーブ処理し、室温に冷却してから、1N塩酸ないし1N水酸化ナトリウム溶液でpH 7.4の調整し、イオン交換水を1Lになるように加えたものを1Mトリス溶液とし、塩化ナトリウム292.2gを800mlのイオン交換水に溶解してオートクレーブ処理してイオン交換水を加えて1Lにしたものを5M塩化ナトリウム溶液として、1Mトリス溶液を500mlと5M塩化ナトリウム溶液360mlにイオン交換水を10Lになるまで加えた0.05 M TBS pH 7.2溶液に、0.1%の割合で界面活性剤(tween20)を添加したものである。TBSTと呼ぶ。
<酵素処理による抗原回復>
Trypsin、Pronase、Proteinase K溶液で、切片と10分から30分間処理する。
<Trypsin溶液>
Trypsin溶液は、0.05Mトリス塩酸緩衝液pH 7.6に、Trypsin 10mgと塩化カルシウム 10mgを溶解させる。トリプシン錠剤(Trypsin tablet, T-7168, Sigma Co.)を1mlのイオン交換水に溶解しても作製できる。
<Pronase溶液>
Pronase溶液は、0.05Mトリス塩酸緩衝液 PH 7.6ないし0.01M PBSに、Proteinase (Sigma Co. type XXIV) 5mg を溶解する。また、100mgのpronase (Dako, S2013)を0.1M NaCLを含む0.05Mトリス塩酸緩衝液pH 7.2の10mlに溶解し凍結した1%ストック溶液の0.1mlを1.9mlの0.1M NaCLを含む0.05Mトリス塩酸緩衝液pH 7.2に希釈して0.05%pronase溶液とする。
<Proteinase K溶液>
proteinase K溶液は、Takara Bio Co社の溶液状試薬(Code No. 9033)を用いて、0.05 M TBS pH 7.2溶液で最終濃度を200μg/mlとした溶液を用いる。
<3%過酸化水素PBS溶液>
3%過酸化水素PBS溶液は、濃縮過酸化水素水(30%濃度)を0.01Mリン酸緩衝食塩水pH 7.2溶液(PBS)で10倍に希釈した溶液である。Dakoから内因性パーオキシダーゼブロッキング試薬 (S2001)やダコChemMateパーオキシダーゼブロッキング試薬 (S2023)が供給されている。
<Dako Protein Block溶液ないしカゼイン溶液(0.25%カゼイン溶液)>
25mgのカゼイン(シグマ社)を28.7gのリン酸水素第二ナトリウム・12水と3.3gのリン酸第二水素ナトリウム二水和物を1Lのイオン交換水に溶解した0.1Mリン酸緩衝液に、85gの塩化ナトリウムを加え、オートクレーブで完全に溶解し室温まで冷却し、10N 水酸化ナトリウム水でpHを7.6に調整したものを10倍溶液として、使用時に10倍にイオン交換水で希釈する0.01M PBSの10 mlに希釈したもの。商業的には、DakoCytomation Co.から供給されている。
<3%BSA 0.1% tween20 PBS溶液>
3%BSA 0.1% tween20 PBS溶液は、牛血清アルブミン(Bovine serum albumin: BSA)を0.01Mリン酸緩衝食塩水pH 7.2に3%の割合で加え、溶解するまで待って、攪拌し、0.01%の割合で界面活性剤(Triton X-100ないしtween20)を添加する。
<抗p40Tax蛋白抗体>
抗p40Tax抗体原液(Lt-4, WATM-1:琉球大学 田中勇悦教授から供与)をTBSTでx1000倍に希釈したものを用いる。反応時間は15分間で、反応後に、3回洗浄する。
<ポリマー試薬>
ポリマー試薬は、二次抗体と西洋ワサビペルオキシダーゼがポリマーに標識された試薬で、DakoCytomation社のChemMate ENVISIONキットのポリマー試薬を用いる。
<ビオチン化タイラマイド試薬>
ビオチン化タイラマイド試薬は、DakoのダコCSAシステム(K1500)の増幅試薬を用いる。
<ストレプトアビチン西洋ワサビペルオキシダーゼ複合体試薬(ストレプトアビチンと西洋ワサビぺルオキシダーゼ等の酵素ないし蛍光物質の複合体溶液)>
ビオチンないし蛍光物質で標識されたタイラマイド試薬に対応した沈着したタイラマイドを標識する試薬。HRP標識タイラマイドであればストレプトアビチンと西洋ワサビペルオキシダーゼ等複合体溶液は、DakoCytomation Co.からはダコCSA Systemの酵素標識試薬として供給されている。パーキンエルマーライフサイエンスジャパン株式会社からはTSA免疫組織化学染色・in situ Hybridization増感システムのキットの酵素や蛍光物質標識試薬として供給されている。
<過酸化水素ジアミノベンチジン(DAB)反応>
DAB過酸化水素反応による呈色反応は、西洋ワサビペルオキシダーゼの過酸化水素を基質としたDAB(ジアミノベンチジン)の異化沈着反応であり、DakoのDAB+(33’-ジアミノベンチジンテトラヒドロクロライド)液状試薬(K3464)を用いて行うことができる。
<ヘマトキシリン溶液>
ヘマトキシリン溶液としては、DakoのChemMateヘマトキシリン(S2020)を用いることができる。
15. p40Taxタンパク質の検出方法及びHTLV-1に関連する疾患の診断方法
本発明の抗原検出方法によれば、HTLV-1感染細胞におけるp40Taxタンパク質を検出することが可能である。p40Taxタンパク質を検出する場合、一次抗体としてはLt-4 (Lee et al. 1989) 等のマウス抗p40Taxモノクローナル抗体、又は、WATM-1(Tanaka et al. 1992) 等のラット抗p40Taxモノクローナル抗体を使用することができ、なかもでマウス抗p40Taxモノクローナル抗体が好ましい。
本発明はまた、被検動物から単離された固定組織標本中のp40Taxタンパク質を本発明の方法を用いて検出する工程を含む、HTLV-1に関連する疾患の診断方法に関する。
被検動物としてはヒト又は非ヒト哺乳動物が挙げられ、ヒトが特に好ましい。
HTLV-1に関連する疾患としては成人T細胞性白血病又はリンパ腫が挙げられる。本発明の方法は、慢性型成人T細胞性白血病での急性型への進展をp40Taxタンパク質の発現の低下で検出し、末梢性T細胞性リンパ腫の特に、多形細胞型リンパ腫と退行性大細胞型リンパ腫の中でp40Taxタンパク質の発現で成人T細胞性白血病又はリンパ腫症例を診断し、その他のT細胞性リンパ腫でのp40Taxタンパク質発現による二次性成人T細胞性白血病又はリンパ腫への進展を診断し、T細胞性リンパ腫以外のリンパ腫でのp40Taxタンパク質の発現にて成人T細胞性白血病又はリンパ腫以外のHTLV-1関連リンパ腫の診断に有用である。
HTLV-1に関連する疾患の診断のためには用いる固定組織標本としては、病理組織標本、末梢血組織標本、組織から分離された細胞や体液から分離された細胞のセルブロック標本、末梢血白血球又は細胞の浮遊標本を沈降又は遠沈して作成されるセルブロック標本、組織の捺印標本、或いは、末梢血、体液、滲出液、又は細胞を含む液体の塗沫標本が挙げられる。
実験1:はじめに、ヒト腎臓の一般的なホルマリン固定されパラフィン包埋された針生検標本の切片で、p40Tax蛋白の超高感度検出を試みた。
(実験操作および結果)
以下の実験操作は、特開2004-271511号公報、特開2006-053031号公報、及びHasui K, Murata F. A new simplified catalyzed signal amplification system for minimizing non-specific staining in tissues with supersensitive immunohistochemistry. Arch. Histol. Cytol. 68(1):1-17, 2005に記載された実験操作に独自の改変を加えたものである。
超高感度免疫染色は、
a) パラフィン包埋標本の切片をガラススライドに貼付した標本(スライド切片と略す)を、100%キシレンに5〜10分間3回浸し、その後、100%エタノールに5〜10分間3回浸して、脱パラフィンし
b) 0.3%過酸化水素メタノール溶液にスライド切片を15〜30分間浸して、第1回目の内因性ペルオキシダーゼの活性の不活化を行ない、リン酸緩衝液(PBS)にて浸し、親水化する。
c) 標的抗原に至適な抗原回復処理(0.01Mクエン酸緩衝液pH8にスライド切片を浸し、オートクレーブで5分間の高圧加熱処理)を行なう。
次ぎに、(自動染色装置での処理にて)
1)内因性ペルオキダーゼの失活(第2回目の内因性ペルオキダーゼの不活化)、0.5%tween20添加トリス緩衝液(TBST)で3回洗浄
2)一次抗体の非特異反応抑制(Protein block 1)
3)一次抗体反応、その後、TBSTで3回洗浄
4)ポリマー試薬(二次抗体とHRPとポリマーの複合体)の非特異反応抑制(Proetin block2)、5)ポリマー試薬反応、その後、TBSTで3回洗浄
6)CARD反応の非特異反応抑制(Protein block3)
6)CARD反応、その後、TBSTで2回洗浄
7)CARD反応の可視化(通常は、streptavidin-HRPで沈着したbiotinylated tyramideを標識するか、沈着したFITC-tyramideをHRP標識抗FITC抗体で標識し、H202-DAB反応で呈色反応)の手順で以下の実験1を行なった。
実験1-1: 一次抗体溶液は、一次抗体を含まない抗体希釈溶液で行い、ポリマー試薬反応はDako ChemMate EnVision 試薬を用い、CARD反応試薬はDako CSAシステムのbiotinylated tyramide試薬を用いて行った。Protein block1と2と3を3%bovin serum albumin (BSA)で行ったものとCasein溶液(DakoのProtein block)で行ったものを比較した。腎臓の針生検標本では、BSAは非特異反応の原因となった。一次抗体試薬の希釈液に2%BSA溶液を用いたものとBSAを除いたものを比較したところ、BSAを除くと、非特異反応は減少した。しかし、尿細管上皮の非特異反応は消えなかった。
実験1-2: 一次抗体溶液は、一次抗体を含まない抗体希釈溶液で行い、ポリマー試薬反応はDako ChemMate EnVision 試薬を用いて行った。非ビオチン系の超高感度染色法であるCSA IIシステム(ただし、上記のprotein block1と2は、Casein溶液(Dako Protein blockを用いて5分間処理)で行ない、CARD反応をbiotinylated tyramideを用いる場合にはprotein block 3はCasein溶液(Dako Protein blockを用いて5分間処理)で行ない CARD反応をFITC-tyramideを用いる場合のprotein block 3は3 Vol. % PEG (M.W. 20000)-0.1% tween 20添加Tris saline緩衝液にて1分間処理))を用いて、biotinylated tyramideを用いる場合のstreptavidin-HRP複合体の影響を検討したところ、尿細管の非特異反応はstreptavidin-HRP反応による内因性ビオチンの検出であることが判明した。
実験1-3: 5)のポリマー試薬反応をCSA IIシステムのHRP標識二次抗体試薬反応(15分間)を行ない、Lt-4 (x1000、in 0.1% tween 20添加Tris saline緩衝液)によるHTLV-1 p40Taxの検出を試みて、間質の細胞の細胞質に顆粒状の陽性所見と認めたが、このシステムでは検出感度が不足していた。5)のポリマー試薬反応を、ChemMate EnVision system (ポリマー試薬)で行なった所、充分な抗原検出感度が得られて、Lt-4の特異反応が得られた。
(まとめ)
上記実験から、一次抗体や二次抗体の非特異反応とCARD反応の非特異反応の抑制に用いるbovin serum albumin (BSA、本実験では3%BSA 0.1% tween20 PBS溶液として用いた)が非特異反応を生じること、腎臓の尿細管上皮の内因性ビオチンはビオチン標識タイラマイドを用いたCARD反応の可視化で用いるstreptavidin-HRP複合体反応で強く検出されてしまうこと、Dako CSA II system (Dako K1497)においてFITC標識タイラマイドを用いたCARD反応を行うとp40Tax蛋白の検出には抗原検出感度が低いのに対して、本研究のシステムにおいてFITC標識タイラマイドを用いたCARD反応を行うとp40Tax蛋白の検出に対応した抗原検出感度が充分であることが判明した。
(材料)
3%BSA 0.1% tween20 PBS溶液:3%BSA 0.1% tween20 PBS溶液は、牛血清アルブミン(Bovine serum albumin: BSA)を0.01Mリン酸緩衝食塩水pH 7.2に3%の割合で加え、溶解するまで待って、攪拌し、0.01%の割合で界面活性剤(Triton X-100ないしtween20)を添加して調整した。
streptavidin-HRP複合体(ストレプトアビチンと西洋ワサビぺルオキシダーゼ複合体)溶液:CARD反応で沈着したビオチン化タイラマイドを標識する試薬。DakoCytomation Co.からDako CSA Systemの酵素標識試薬として供給されているものを使用した。
実験2:化学固定された組織内の細胞内微量分子検出の最適な超高感度免疫染色方法の設定
用いた標本は、白血病細胞を含むヒト末梢血組織標本である。この末梢血組織標本は、採血後少なくとも3時間の垂直にしての静置にて自然沈降凝固した白血球を含むフィブリン凝血塊をホルマリン固定パラフィン包埋した標本である (Hasui et al. 2003)。
最適な超高感度染色方法の設定は、一次抗体を含まない抗体希釈溶液により一次抗体反応を行って決定した。
以下に説明する実験2において、基礎となるプロトコールは、抗原回復超高感度染色は、実験1の結果から、簡単に記述する以下のものである。
a) パラフィン包埋標本の切片をガラススライドに貼付した標本(スライド切片と略す)を、100%キシレンに5〜10分間3回浸し、その後、100%エタノールに5〜10分間3回浸して、脱パラフィンし
b) 0.3%過酸化水素メタノール溶液にスライド切片を15〜30分間浸して、第1回目の内因性ペルオキシダーゼの活性の不活化を行ない、リン酸緩衝液(PBS)にて浸し、親水化する。
c) 標的抗原に抗原回復処理を行なう。
次ぎに、(自動染色装置での処理にて)
1)内因性ペルオキダーゼの失活(第2回目の内因性ペルオキダーゼの不活化)、0.5%tween20添加トリス緩衝液(TBST)で3回洗浄
2)一次抗体の非特異反応抑制(カゼイン溶液)
3)一次抗体反応、その後、TBSTで3回洗浄
4)ポリマー試薬(二次抗体とHRPとポリマーの複合体)の非特異反応抑制(カゼイン溶液)
5)ポリマー試薬反応、その後、TBSTで3回洗浄
6)CARD反応の非特異反応抑制(3Vol % PEG (M.W. 20000) in 0.1% tween 20添加Tris saline緩衝液、1分間ないしカゼイン溶液5分間)
7)CARD反応、その後、TBSTで2回洗浄
8)CARD反応の可視化(沈着したFITC-tyramideをHRP標識抗FITC抗体で標識(30分間)するか、HRP標識Streptavidin溶液で15分間反応後に、H202-DAB反応で呈色反応)の手順で以下の実験2を行なった。
実験2a:内因性ペルオキシダーゼ活性の抑制と抗原回復方法による非特異反応
好中球を多く含む末梢血の組織標本(Hasui et al. 2003)は、完全な内因性ぺルオキシダーゼの不活化を行う必要があり、細胞成分の少ないフィブリン凝固領域や好中球やそのゴースト細胞の強い陽性反応が観察される時には、本研究のシステムでは、脱パラフィン後の0.3%過酸化水素メタノールでの20〜30分間の処理と、自動染色装置での3%過酸化水素リン酸緩衝液での15分間の処理を行うことから、使用する過酸化水素水での過酸化水素量に注意する必要があると考えられる。
(実験操作)
30%過酸化水素水は、蒸留水で2倍の連続希釈を行ない、原液(x1)から6回までの2倍連続希釈(64倍希釈溶液)を用意した。これらの溶液の100μlのpHを上記のpHメーターで測定した。
(結果)
過酸化水素水は、一般に、30%過酸化水素水として、工業用過酸化水素水を小分けして供給されているが、開封後の過酸化水素濃度の低下に関しては、基礎的な資料がない。実際に、開封直後の30%過酸化水素水を、連続2分の1で、蒸留水で希釈して、その溶液のpHを測定した所、pH5以下(pHメーター:pHBOY-P2)のものでしか、実用に耐えないことが判明した、ただし、緩衝液にて希釈した場合は、この過酸化水素濃度と溶液のpHの関係は見られなかった。
Figure 2008281370
(材料)
30%過酸化水素水:三徳化学工業、試薬特級 過酸化水素水500g (8266, JIS K8230, H2O2: FW.34.01 UN No.2014, CAS No. 7722-84-1)を用いた。
pHメーター:pHBOY-P2 新電元工業株式会社
実験2b:抗原回復方法と非特異反応
(実験操作)
抗原回復処理として、オートクレーブ、鍋、又はマイクロウエーブ装置(電子レンジ)による熱処理、或いは酵素処理を行ない比較検討した。
オートクレーブによる抗原回復処理は、脱パラフィンした固定組織標本を、0.01M citrate buffer pH 8に浸し、121℃で5分間加熱し、ゆっくりと冷ました。鍋による抗原回復は、スターラーを常備した電気鍋に、水を満たし、脱パラフィンした固定組織標本を0.01M citrate buffer pH 8を満たした耐熱性の染色ビンに入れて、電気鍋に入れ、電気鍋の水が沸騰する状態で、スターラーを回転させ、その鍋をアルミ箔で覆い、0.01M citrate buffer pH 8を94℃として、40分間加熱した。マイクロウエーブ装置では、電子レンジの強照射で、脱パラフィンした固定組織標本を0.01M citrate buffer pH 8を満たした耐熱性の染色ビンに入れて、5分間過熱沸騰させて、0.01M citrate buffer pH 8が減少した分だけ蒸留水を追加し、3回照射過熱を行った。
酵素処理は、以下のように準備した酵素溶液との反応を、自動染色装置に固定組織標本を配置した後に、1)内因性ペルオキダーゼの失活(第2回目の内因性ペルオキダーゼの不活化)、0.5%tween20添加トリス緩衝液(TBST)で3回洗浄の後に行った。反応時間は、10分間、TBSTで3回洗浄した。3つの酵素処理で最適なものを選び、反応時間を、20分、30分として、酵素処理時間と抗原回復の程度の関係を検討した。
Trypsin溶液:Trypsin溶液は、0.05Mトリス塩酸緩衝液pH 7.6に、Trypsin 10mgと塩化カルシウム 10mgを溶解させる。トリプシン錠剤(Trypsin tablet, T-7168, Sigma Co.)を1mlのイオン交換水に溶解しても作製できる。
Pronase溶液:Pronase溶液は、0.05Mトリス塩酸緩衝液 PH 7.6ないし0.01M PBSに、Proteinase (Sigma Co. type XXIV) 5mg を溶解する。また、100mgのpronase (Dako, S2013)を0.1M NaCLを含む0.05Mトリス塩酸緩衝液pH 7.2の10mlに溶解し凍結した1%ストック溶液の0.1mlを1.9mlの0.1M NaCLを含む0.05Mトリス塩酸緩衝液pH 7.2に希釈して0.05%pronase溶液とする。
Proteinase K溶液:proteinase K溶液は、Takara Bio Co社の溶液状試薬(Code No. 9033)を用いて、0.05 M TBS pH 7.2溶液で最終濃度を200μg/mlとした溶液を用いる。
(結果)
図3には、オートクレーブ法とマイクロウエーブ装置による抗原回復を行い、3)一次抗体反応、その後、TBSTで3回洗浄の一次抗体反応は、一次抗体を含まない2%BSA 0.1% tween20 PBS抗体希釈溶液で反応を行った染色結果を示した。
本研究のシステムで、ビオチン化タイラマイドをCARD反応に用いる場合とFITC標識タイラマイドを用いる場合での0.01M citrate buffer pH 8.0溶液中での熱による抗原回復法であるオートクレーブ法(121℃ 5分間)とマイクロウエーブ法(5 min x3 times)による非特異反応は、ビオチン化タイラマイドを用いてマイクロウエーブ法による場合が最も非特異反応は低くかったが皆無ではなかった。
酵素処理による抗原回復では、ビオチン化タイラマイドを用いる場合には、非特異反応は生じなかった(図4)。
(材料)
0.01M citrate buffer pH 8.0溶液:0.01M citrate buffer pH 8.0溶液は、クエン酸一水和物3.783gとクエン酸三ナトリウム二水和物24.116gを800mlのイオン交換水に溶解し、1N水酸化ナトリウム溶液でpH 8.0に調整して、最終濃度が1%になるように界面活性剤NP-40を添加し、イオン交換水を加え、1Lにしたものを10倍濃度溶液として、イオン交換水での10倍希釈溶液を用いた。
ビオチン化タイラマイド:Dako CSA ststem (K1500)を用いた。
FITC標識タイラマイド:Dako CSA II system(K1497) を用いた。
マイクロウエーブ法(5 min x3 times):電子レンジ(ナショナルNE-EH22、750W)で、抗原回復用緩衝液(0.01M citrate buffer pH 8.0溶液)中に切片を設置して加熱し、沸騰状態を5分間維持し減少した量だけイオン交換水を加えることを3回繰り返すことで、抗原回復を行なった。
実験2c:抗体希釈液中BSAによる非特異反応
一般に用いられる抗体希釈液中の2%BSA 0.1% tween20 PBS溶液は、通常感度の免疫染色では、非特異反応を抑制することが知られているが、ヒト腎臓の針生検標本での超高感度免疫染色(実験1)では非特異反応を生じることが判明しているので、この末梢血組織標本(Hasui et al. 2003)で、それを確認した。
(実験操作)
前記の基礎となるプロトコールで、抗原回復は、proteinase Kの酵素処理で行い、3)一次抗体反応、その後、TBSTで3回洗浄の一次抗体反応は、一次抗体を含まない0.1% tween20 PBS抗体希釈溶液で2%BSAを含むものと含まないもので反応を行い、7)CARD反応、その後、TBSTで2回洗浄のCARD反応はFITC-tyramide試薬を用い30分間行い、8)CARD反応の可視化は、沈着したFITC-tyramideをHRP標識抗FITC抗体で標識(30分間)し、H202-DAB反応の呈色反応を行った。
(結果)
FITC標識タイラマイドを用いた超高感度染色では、末梢血組織標本では、非特異反応を増強した(図5)。牛血清アルブミン(Bovine serum albumin: BSA)を入れた抗体希釈液を用いた場合(図5左)は、用いない場合(図5右)より、非特異反応が少ない場所と最も酷い場所で、明らかな差を認めた。ビオチン化タイラマイドを用いた超高感度染色でも、同様のBSAによる非特異反応が観察された。
(材料)
抗体希釈液:抗体希釈液は、DakoのAntibody Diluent (ChemMate) (S2022)ないし2%BSA 0.1% tween20 PBS溶液を用いた。
2%BSA 0.1% tween20 PBS溶液:2%BSA 0.1% tween20 PBS溶液は、牛血清アルブミン(Bovine serum albumin: BSA)を0.01Mリン酸緩衝食塩水pH 7.2に2%の割合で加え、溶解するまで待って、攪拌し、0.01%の割合で界面活性剤(Triton X-100ないしtween20)を添加したものを用いた。
実験2d:FITC標識タイラマイドのCARD反応による本研究のシステム
末梢血組織標本(Hasui et al. 2003)でのFITC標識タイラマイドのCARD反応利用の超高感度染色では、非特異反応が強いものであった。そこでFITC標識タイラマイドのCARD反応の非特異反応抑制のための前処理について検討した。
(実験操作および結果)
基礎となるプロトコールの6)CARD反応の非特異反応抑制の処理として3Vol % PEG (M.W. 20000) in 0.1% tween 20添加Tris saline緩衝液で1分間の処理と、カゼイン溶液で5分間の処理を行ない、7)CARD反応ではFITC-tyramide、30分間の反応を行ない8)CARD反応の可視化では、沈着したFITC-tyramideをDako CSA IIのHRP標識抗FITC抗体試薬を用いる場合と抗FITC抗体(Fab)(Dako)を用いる場合を比較検討した。
FITC標識タイラマイドのCARD反応の非特異反応抑制前処理に、0.1% tween 20添加3%ポリエチレングリコール〈分子量20000〉PBS溶液(PEG20000)(1分間)を用いた場合と、カゼイン溶液(Protein block, PB)(5分間)を用いた場合とを比較すると、後者で、完全に非特異反応が消えた(Hasui & Murata, 2005)が、特異な反応の検出も出来なくなった(図6)。
DAKO CSA II systemのHRP標識抗FITC抗体は、ある種の免疫グルブリンと交叉反応をすることが知られているので、抗FITC抗体(Fab)(Dako)で比較すると、この抗体を用いることで、ある程度の非特異反応が減少した。
上記の検討結果から、基礎となるプロトコールの6)CARD反応の非特異反応抑制の3Vol % PEG (M.W. 20000) in 0.1% tween 20添加Tris saline緩衝液、1分間を行ない、7)CARD反応ではFITC-tyramide、15分間、20分間、25分間、30分間行ない、8)CARD反応の可視化では、抗FITC抗体(Fab)(Dako)を用い30分間行ない、非特異反応の程度を比較した。
FITC標識タイラマイドのCARD反応は、以前の検索では30分間が妥当であったが、今回の試薬(Dako CSA II)での反応時間と非特異反応の関係を見た。今回の実験は一次抗体反応を抗体希釈液のみで行っている。期待に反して、15分から20分で非特異反応は増加し、25分で減少し、30分ではかなり消失していた(図7)。このことは、Dako CSA IIの試薬がある程度の一次抗体反応を増幅するように設計されているためであると考えられる。今回のような抗原が微量に存在するか否かを判別する超高感度免疫染色のCARD反応試薬としては、使用したDako CSA IIの試薬(FITC標識タイラマイド試薬)は適当でないことが判明した。
(材料)
FITC標識タイラマイド:Dako CSA II system(K1497)を用いた。
0.1% tween 20添加3%ポリエチレングリコール(polyethylene Glycole (PEG))〈分子量20000〉PBS溶液(PEG20000):ポリエチレングリコール(Polyethylene Glycole (PEG))〈分子量20000〉の液状試薬(30% Polyethylene Glycole 20、000:HR2-609、Hampton Research)を、0.1%tween20を添加した0.01Mリン酸緩衝食塩水pH 7.2 (PBS)で10倍希釈した溶液。
0.25%カゼイン溶液(Protein block): Dakoから供給されているもの(X0909、非特異反応ブロッキング試薬)を用いた。
DAKO CSA II systemのHRP標識抗FITC抗体:DAKO CSA II system(Dako K1497)のFITC標識タイラマイドの検出試薬。
抗FITC抗体(Fab)(Dako):抗FITC, F(ab)ウサギポリクローナル抗体(Dako P5100)
実験2のまとめ
実験2での検討から、1) 一次抗体希釈溶液はBSAを含まないもの(0.1% tween 20添加TBS:TBST)を用いる。2) 十分な内因性ペルオキシダーゼの不活化を行う。3) FITC標識タイラマイドのCARD反応は30分間行い、その非特異反応抑制はPEG20000を用い、異化沈着したFITC標識タイラマイドは抗FITC抗体(Fab)(Dako)を用いる。4) 抗原回復には酵素処理を行うという設定が決まった。
実験3:ビオチン化タイラマイドないしFITC標識タイラマイドによるCARD反応の非特異反応
本実験では、実験2で設計された本研究のシステムにおいて、タイラマイドの標識物質の種類(ビオチン又はFITC)がCARD反応の非特異反応に与える影響を検討した。
(実験操作)
本実験は、実験2の手順に、上記「実験2のまとめ」の欄に記載の条件設定を適用した手順に沿って行った。
(結果)
20例の末梢血組織標本切片で、Proteinase K室温10分間の処理では、ビオチン化タイラマイドを用いた場合には、ほとんど非特異反応を認めなかったが、FITC標識タイラマイドを用いた場合には非常に強い非特異反応が細胞および背景に生じた(表4)。背景の非特異反応は顆粒状であった。
Figure 2008281370
従って、末梢血組織標本での超高感度染色は、酵素処理による抗原回復とビオチン化タイラマイドのCARD反応を用いた超高感度染色方法が非特異反応が少ないものであることが示された。
(材料)
0.1%tween20 0.05 M TBS pH 7.2溶液0.1%tween20 0.05 M TBS pH 7.2溶液は、トリス塩基121.1gをイオン交換水800mlに溶解し、70mlの塩酸を加えて、オートクレーブ処理し、室温に冷却してから、1N塩酸ないし1N水酸化ナトリウム溶液でpH 7.4の調整し、イオン交換水を1Lになるように加えたものを1Mトリス溶液とし、塩化ナトリウム292.2gを800mlのイオン交換水に溶解してオートクレーブ処理してイオン交換水を加えて1Lにしたものを5M塩化ナトリウム溶液として、1Mトリス溶液を500mlと5M塩化ナトリウム溶液360mlにイオン交換水を10Lになるまで加えた0.05 M TBS pH 7.2溶液に、0.1%の割合で界面活性剤(tween20)を添加したものである。TBSTと呼ぶ。
FITC標識タイラマイド:Dako CSA II system(K1497)を用いた。
0.1% tween 20添加3%ポリエチレングリコール(polyethylene Glycole (PEG))〈分子量20000〉PBS溶液(PEG20000):ポリエチレングリコール(Polyethylene Glycole (PEG))〈分子量20000〉の液状試薬(30% Polyethylene Glycole 20、000:HR2-609、Hampton Research)を、0.1%tween20を添加した0.01Mリン酸緩衝食塩水pH 7.2 (PBS)で10倍希釈した溶液。
抗FITC抗体(Fab)(Dako):抗FITC, F(ab)ウサギポリクローナル抗体(Dako P5100)
実験4:酵素処理と抗原回復の程度
抗原回復酵素処理として、Trypsin、Pronase、Proteinase K処理を比較検討した。
(実験操作)
抗p40Tax抗体(Lt-4)(0.1% tween 20 Tris buffer saline: TBSTで1000倍に希釈)を用いて、ビオチン化タイラマイドをCARD反応に用いる本研究のシステムで、脱パラフィン後に、内因性ペルオキシダーゼの不活化処理を行い、自動染色装置に標本をセットした後に、抗原回復酵素処理(10分間)と2回目の内因性ペルオキシダーゼの不活化処理を行った。ビオチン化タイラマイドのCARD反応の超高感度染色を行った。具体的な手順は以下の通りである。
a) パラフィン包埋標本の切片をガラススライドに貼付した標本(スライド切片と略す)を、100%キシレンに5〜10分間3回浸し、その後、100%エタノールに5〜10分間3回浸して、脱パラフィンし
b) 0.3%過酸化水素メタノール溶液にスライド切片を15〜30分間浸して、第1回目の内因性ペルオキシダーゼの活性の不活化を行ない、リン酸緩衝液(PBS)にて浸し、親水化する。
次ぎに、(自動染色装置での処理にて)
1)内因性ペルオキダーゼの失活(第2回目の内因性ペルオキダーゼの不活化)、0.5%tween20添加トリス緩衝液(TBST)で3回洗浄
2)酵素処理による抗原回復処理、TBSTで3回洗浄
3)一次抗体の非特異反応抑制(カゼイン溶液5分間)
4)一次抗体反応(抗Tax抗体Lt-4をTBSTで1000倍希釈した溶液で、15分間反応)、その後、TBSTで3回洗浄
5)ポリマー試薬(Dako ChemMate EnVison試薬)の非特異反応抑制(カゼイン溶液5分間)
6)ポリマー試薬(Dako ChemMate EnVison試薬)反応、その後、TBSTで3回洗浄
7)CARD反応の非特異反応抑制(カゼイン溶液5分間)
8)CARD反応(biotinylated tyramide溶液で15分間反応)、その後、TBSTで2回洗浄
9)CARD反応の可視化(HRP標識Streptavidin溶液で15分間反応後に、H202-DAB反応で呈色反応)の手順で行った。
(結果)
Trypsin、Pronase、Proteinase K処理の結果を比較すると、Proteinase K処理にて、僅かな陽性染色所見を認めた(図8)。Proteinase K処理を、10分間、20分間、30分間で比較すると次第に陽性染色所見が顕著になった(図8右)。
Proteinase K 30分間処理によるシステムにより極微量のp40Tax蛋白を非特異反応が少ない状態で検出できることが判明した(図9)。
(材料)
Trypsin溶液:Typsin溶液は、0.05Mトリス塩酸緩衝液pH 7.6に、Trypsin 10mgと塩化カルシウム 10mgを溶解させる。トリプシン錠剤(Trypsin tablet, T-7168, Sigma Co.)を1mlのイオン交換水に溶解しても作製できる。
Pronase溶液:Pronase溶液は、0.05Mトリス塩酸緩衝液 PH 7.6ないし0.01M PBSに、Proteinase (Sigma Co. type XXIV) 5mg を溶解する。また、100mgのpronase (Dako, S2013)を0.1M NaCLを含む0.05Mトリス塩酸緩衝液pH 7.2の10mlに溶解し凍結した1%ストック溶液の0.1mlを1.9mlの0.1M NaCLを含む0.05Mトリス塩酸緩衝液pH 7.2に希釈して0.05%pronase溶液として用いる。
Proteinase K溶液:Proteinase K溶液は、Takara Bio Co社の溶液状試薬(Code No. 9033)を用いて、0.05 M TBS pH 7.2溶液で最終濃度を200μg/mlとした溶液を用いた。
0.1% tween 20 Tris buffer saline: TBST:0.1%tween20 0.05 M TBS pH 7.2溶液は、トリス塩基121.1gをイオン交換水800mlに溶解し、70mlの塩酸を加えて、オートクレーブ処理し、室温に冷却してから、1N塩酸ないし1N水酸化ナトリウム溶液でpH 7.4の調整し、イオン交換水を1Lになるように加えたものを1Mトリス溶液とし、塩化ナトリウム292.2gを800mlのイオン交換水に溶解してオートクレーブ処理してイオン交換水を加えて1Lにしたものを5M塩化ナトリウム溶液として、1Mトリス溶液を500mlと5M塩化ナトリウム溶液360mlにイオン交換水を10Lになるまで加えた0.05 M TBS pH 7.2溶液に、0.1%の割合で界面活性剤(tween20)を添加したものである。TBSTと呼ぶ。
実施例1:末梢血組織標本での検索
急性型ATLの6例、慢性型ATLの 7例、その他の白血病の5例、HTLV-1キャリアー10例(十分な細胞の染色の評価が出来たのは2例)の末梢血組織標本 (Hasui et al. 2003)を、実験1から4で確立した酵素処理、Proteinase K 室温(35℃前後の洗浄緩衝液で洗浄後に、自動染色装置に標本を配置した後に)30分間による抗原回復と、ビオチン化タイラマイドのCARD反応による超高感度免疫染色法により、抗p40Tax蛋白抗体(Lt-4マウス単クローン抗体、WATM-1ラット単クローン抗体)の染色を行った。
(実験操作)
a) パラフィン包埋標本の切片をガラススライドに貼付した標本(スライド切片と略す)を、100%キシレンに5〜10分間3回浸し、その後、100%エタノールに5〜10分間3回浸して、脱パラフィンし
b) 0.3%過酸化水素メタノール溶液にスライド切片を15〜30分間浸して、第1回目の内因性ペルオキシダーゼの活性の不活化を行ない、リン酸緩衝液(PBS)にて浸し、親水化する。
次ぎに、(自動染色装置での処理にて)
1)内因性ペルオキダーゼの失活(第2回目の内因性ペルオキダーゼの不活化)、0.5%tween20添加トリス緩衝液(TBST)で3回洗浄
2)酵素処理による抗原回復処理、TBSTで3回洗浄
3)一次抗体の非特異反応抑制(カゼイン溶液5分間)
4)一次抗体反応(抗Tax抗体Lt-4ないしWATM-1をTBSTで1000倍希釈した溶液で、15分間反応)、その後、TBSTで3回洗浄
5)ポリマー試薬(Dako ChemMate EnVison試薬)の非特異反応抑制(カゼイン溶液5分間)
6)ポリマー試薬(Dako ChemMate EnVison試薬)反応、その後、TBSTで3回洗浄
7)CARD反応の非特異反応抑制(カゼイン溶液5分間)
8)CARD反応(biotinylated tyramide溶液で15分間反応)、その後、TBSTで2回洗浄
9)CARD反応の可視化(HRP標識Streptavidin溶液で15分間反応後に、H202-DAB反応で呈色反応)の手順で行った。
(結果)
細胞質、主に核に、顆粒状の陽性所見が見られた(図10)。Lt-4陽性細胞の数と陽性顆粒の大きさと数は、HTLV-1キャリアーよりも顕著である例が慢性型ATLに見られる一方、HTLV-1キャリアーよりも乏しい例が急性型に見られた。Lt-4はWATM-1よりも、p40Tax蛋白への親和性が高いことが判明しているが、その特異性は以前の検索で皮膚扁平上皮の核を染色したことからWATM-1より低いと評価していた (Hasui et al., 1997) が、急性骨髄性白血(AML)の細胞の核をLt-4とWATM-1は染色し、特異性も同等であることが判明した。このAMLでの核陽性像は、2例で観察されたが、ATLでの核陽性像とは異なることからATLの判別には問題ないが、これがHTLV-1キャリアーの反応性リンパ球の核であるのか、AML細胞の核であるのかは、今後、検討が必要である。
表5にLt-4による検索結果を示す。この検索で明らかになったHTLV-1キャリアーのp40Tax蛋白陽性像は、非腫瘍性HTLV-1感染リンパ球におけるp40Tax蛋白の発現が幾らかの細胞に生じていることを示している。慢性型でHTLV-1キャリアーより明瞭にp40Tax蛋白の発現を示す例が3例あり、急性型でHTLV-1キャリアーよりもp40Tax蛋白の発現が乏しい例が3例あることは、慢性型から急性型ATLへの移行に伴ったp40Tax蛋白の発現低下が生じている可能性を示唆した。
Figure 2008281370
実施例2:病理組織標本での検索
実施例2a:病理組織標本での超高感度免疫染色の非特異反応
酵素処理による抗原回復した病理組織切片での超高感度免疫染色の非特異反応を10例のリンパ腫組織標本切片で検討した。
(実験操作)
a) パラフィン包埋標本の切片をガラススライドに貼付した標本(スライド切片と略す)を、100%キシレンに5〜10分間3回浸し、その後、100%エタノールに5〜10分間3回浸して、脱パラフィンし
b) 0.3%過酸化水素メタノール溶液にスライド切片を15〜30分間浸して、第1回目の内因性ペルオキシダーゼの活性の不活化を行ない、リン酸緩衝液(PBS)にて浸し、親水化する。
次ぎに、(自動染色装置での処理にて)
1)内因性ペルオキダーゼの失活(第2回目の内因性ペルオキダーゼの不活化)、0.5%tween20添加トリス緩衝液(TBST)で3回洗浄
2)酵素処理による抗原回復処理、TBSTで3回洗浄
3)一次抗体の非特異反応抑制(カゼイン溶液5分間)
4)一次抗体反応(抗Tax抗体Lt-4をTBSTで1000倍希釈した溶液で、15分間反応)、その後、TBSTで3回洗浄
5)ポリマー試薬(Dako ChemMate EnVison試薬)の非特異反応抑制(カゼイン溶液5分間)
6)ポリマー試薬(Dako ChemMate EnVison試薬)反応、その後、TBSTで3回洗浄
7)CARD反応の非特異反応抑制(カゼイン溶液5分間あるいは 3Vol % PEG (M.W. 20000) in 0.1% tween 20添加Tris saline緩衝液、1分間)
8)CARD反応(biotinylated tyramide溶液で15分間反応、ないしFITC標識tyramide溶液で30分間反応)、その後、TBSTで2回洗浄
9)CARD反応の可視化(HRP標識Streptavidin溶液で15分間反応ないしHRP標識抗FITC抗体溶液で30分間反応)後に、H202-DAB反応で呈色反応)の手順で行った。
(結果)
結果を表6まとめる。
末梢血組織標本切片の場合と同様に、Dako CSA II systemのFITC標識タイラマイドと抗FITC抗体(Fab)(Dako)による染色では、一次抗体反応を抗体希釈液(0.1% tween 20 Tris緩衝液: TBST)で行ったが、リンパ腫細胞、背景細胞組織に非常に強い非特異反応が見られた。
一方、ビオチン化タイラマイドを用いた場合には、少数の背景細胞組織に非特異反応を認めるのみであった。詳細な顕微鏡下での観察(x100oil)では、この非特異反応を示す細胞は、間質の大型細胞〈類上皮細胞や形質細胞等〉であり、形態学的にリンパ腫細胞と判別可能であった。
Figure 2008281370
実施例2b:リンパ腫組織切片でのLt-4の酵素処理よる抗原回復超高感度免疫染色
(実験操作)
a) パラフィン包埋標本の切片をガラススライドに貼付した標本(スライド切片と略す)を、100%キシレンに5〜10分間3回浸し、その後、100%エタノールに5〜10分間3回浸して、脱パラフィンし
b) 0.3%過酸化水素メタノール溶液にスライド切片を15〜30分間浸して、第1回目の内因性ペルオキシダーゼの活性の不活化を行ない、リン酸緩衝液(PBS)にて浸し、親水化する。
次ぎに、(自動染色装置での処理にて)
1)内因性ペルオキダーゼの失活(第2回目の内因性ペルオキダーゼの不活化)、0.5%tween20添加トリス緩衝液(TBST)で3回洗浄
2)酵素処理による抗原回復処理、TBSTで3回洗浄
3)一次抗体の非特異反応抑制(カゼイン溶液5分間)
4)一次抗体反応(抗Tax抗体Lt-4をTBSTで1000倍希釈した溶液で、15分間反応)、その後、TBSTで3回洗浄
5)ポリマー試薬(Dako ChemMate EnVison試薬)の非特異反応抑制(カゼイン溶液5分間)
6)ポリマー試薬(Dako ChemMate EnVison試薬)反応、その後、TBSTで3回洗浄
7)CARD反応の非特異反応抑制(カゼイン溶液5分間)
8)CARD反応(biotinylated tyramide溶液で15分間反応)、その後、TBSTで2回洗浄
9)CARD反応の可視化(HRP標識Streptavidin溶液で15分間反応後に、H202-DAB反応で呈色反応)の手順で行った。
(結果)
ATLと診断して妥当とされた多形細胞型リンパ腫の病理標本切片におけるLt-4の酵素処理による抗原回復超高感度免疫染色では、全例で、標本切片の一部では、明らかにリンパ腫細胞が陽性である所見が得られた。特に、ATLの非常に奇妙な巨大細胞は、核に顆粒状のLt-4陽性所見を示し、p40Tax蛋白の細胞分裂障害機能を示唆する所見と考えられた(図11a, b)。一方、多形中細胞型(図11c)や多形細胞型(図11d)の症例の小型リンパ球の多い領域では、腫瘍性中型リンパ球と反応性ないし介在性小型リンパ球は、末梢血組織標本での検索で認められたものと同様に、核に顆粒状の陽性所見を示した。また、ATLの組織では、リンパ腫細胞以外に細胞、例えば、血管内皮や間質細胞にも、HTLV-1が感染し、p40Tax蛋白を発現しているようである (図11e)。また、p40Tax蛋白の検出が顕著でない部分でも、リンパ腫細胞にp40Tax蛋白の僅かな発現が見られ、p40Tax蛋白依存性の増殖を示唆する所見とも考えられた (図11f)。
表7に、29例のリンパ腫の病理組織標本でのLt-4の酵素処理による抗原回復超高感度免疫染色の結果を示す。
ATLとは診断されていなかった多形細胞型の症例でも、p40Tax蛋白の発現が明らかに認められて、ATLと判断された(図12a)。
消化管病を伴うT細胞性リンパ腫(図12b)とNK/T細胞性リンパ腫(図12c)では、p40Tax蛋白が検出された部分では、異型なリンパ腫細胞が認められ、腫瘍化した後でのHTLV-1感染による細胞形態の変化が生じることが示唆された。
ホジキン病(図12d)では、背景のリンパ球にp40Tax蛋白陽性のものを認めると共に、Reed-Sternberg細胞も陽性であり、HTLV-1が感染しても、余り細胞への影響がない場合もあることが示唆され、HTLV-1キャリアーホジキン病にATLの続発する症例があることから、背景のリンパ球へのHTLV-1感染によるp40Tax蛋白の発現によるATL発症の可能性が示唆された。
図13にB細胞性リンパ腫における染色結果を示す。B細胞性リンパ腫では、細胞異型性の強い濾胞性リンパ腫(図13a)とびまん性大型B細胞性リンパ腫(図13b)で、p40Tax蛋白の発現が認められた。p40Tax蛋白はこれらのB細胞性リンパ腫の細胞異型性を増している可能性が示唆された。リンパ腫の背景リンパ球がp40Tax蛋白を発現している例が見られ、HTLV-1キャリアーに発生したB細胞リンパ腫であると判断された。リンパ形質細胞性リンパ腫は、他の症例とはことなる強い細胞質陽性像を示し、Lt-4の特異な形質細胞への交叉反応であることが示唆された。
Figure 2008281370
これらのリンパ腫でのLt-4の染色の結果で、ATLの診断へのLt-4の酵素処理による抗原回復超高感度免疫染色の寄与を、その感受性と特異性で検討した (表8)。病理組織学的所見を加味すると、Lt-4の染色は、感受性(Sensitivity: S)が87.5%で特異性(Specificity)が100%と云う非常に高いATL診断への寄与を示すことが明らかになった。
Figure 2008281370
この検索に用いた悪性リンパ腫における免疫組織化学的検索で多形細胞型リンパ腫とされたのは、29例中14例にて、臨床血液学的HTLV-1感染状況の臨床情報により、14例中の13例がATLと診断されていることから、このp40Tax抗体の酵素処理超高感度免疫染色の実施前のATLであるか否かの検査前確率(Pretest probablyity: PP)は、13/14(=92.9%)であり、従って、このp40Tax抗体の酵素処理超高感度免疫染色によるATL診断の陽性予測力または陽性適中率(Predictive value)は、98.9%となる。また、陰性予測力または陰性適中率(Negative predictive value)は、34.9%となった。つまり、ATLの現状の病理診断にp40Tax抗体の酵素処理超高感度免疫染色を導入した場合には、ATLの診断率が、92.9%から98.9%に高くなるが、p40Tax抗体の酵素処理超高感度免疫染色が陰性であるからATLではないと云う確率は34.9%と低いことが判明した。
検査結果の疾患の有無を表現する感受性(Sensitivity: S):検査結果陽性での疾患ありとする症例数 (a)と検査結果陰性での疾患ありとする症例数(c)から、=a/(a+c)x100 (%)で算出される。
検査結果の疾患の有無を表現する特異性(Specificity):検査結果陽性での疾患無しの症例か数 (b)と検査結果陰性での疾患なしの症例数 (d)から、=d/(b+d)x100 (%9と算出される。
検査前確率(Pretest probablyity: PP)は、実施する検査の前でのその疾患である確率をいい、一般的には、有病率と同じであるが、病院等での検査を行なって行く過程で、高くなり、本例では、ATLの免疫組織化学的検査とHTLV-1に関する臨床情報により、14例の13例がATLであると云うことになる。
陽性予測力または陽性適中率(Predictive value):Predictive valueは特定の検査の陽性結果による疾患の診断率を表現し、 (100 - PP) x S / 100 ((100 - PP) x S /100 + PP x (100 - S) / 100) x100(%)で算出される。
陰性予測力または陰性適中率(Negative predictive value):Negative predictive valueは、特定の検査が陰性である場合の除外診断できる確率であり、(100 - PP) x S / 100 ((100 - PP) x S /100 + PP x (100 - S) / 100) x100(%)で算出される。
HTLV-1の感染とATLL細胞の検出方法についての説明図である。 本研究の超高感度免疫染色システムと、他の既存のシステムとの関係を示す図である。 熱による抗原回復による非特異反応を示す図である。図3左列は、同一標本内の白血病細胞が多く凝集した部分を示し、中列は好中球を多く示す部分を示し、右列はフィブリン凝集部で変性した細胞を含む部分を示す。 抗原回復処理としてProteinase K 200μg/mlにより室温で10分間処理した場合の非特異反応を示す図である。同一標本で、図4上段は白血病細胞が密に凝集している部分を示し、下段は白血病細胞や白血球が赤血球凝集部分に少数分布している部分を示す。 BSAによる非特異反応を示す図である。 FITC標識タイラマイドによるCARD反応の非特異反応抑制処理液と、異化沈着したFITC標識タイラマイドの検出のためのHRP標識抗FITC抗体の非特異反応への影響を示す図である。 FITC標識タイラマイドを用いたCARD反応の反応時間の検出感度への影響を示す図である。 酵素処理抗原回復と、ビオチン化タイラマイドを用いたCARD反応による超高感度免疫染色の結果を示す図である。 酵素処理抗原回復 (Proteinase K 30分間処理) と、ビオチン化タイラマイドを用いたCARD反応による、Lt-4マウス抗HTLV-1 p40Tax抗体の超高感度免疫染色による染色像を示す図である。 末梢血組織標本での抗p40Tax抗体(Lt-4, WATM-1)の酵素処理抗原回復超高感度免疫染色の結果を示す図である。 ATLと診断されている症例のLt-4の酵素処理抗原回復超高感度免疫染色の結果を示す図である。 ATL周辺のHTLV-1関連症例の酵素処理抗原回復超高感度免疫染色の結果を示す図である。 HTLV-1感染B細胞性リンパ腫の酵素処理抗原回復超高感度免疫染色の結果を示す図である。

Claims (17)

  1. 免疫組織化学的染色方法により固定組織標本中の抗原を検出する方法であって、
    前記標本にプロテアーゼによる酵素処理を施して前記標本中の抗原を回復させる抗原回復工程と、
    前記抗原回復工程後の標本に、抗原抗体反応における非特異反応を抑制するための処理を施す第一の非特異反応抑制工程と、
    前記第一の非特異反応抑制工程後に、前記抗原に、該抗原に対する一次抗体を結合させる一次抗体反応工程と、
    前記一次抗体反応工程後の標本に、抗原抗体反応における非特異反応を抑制するための処理を施す第二の非特異反応抑制工程と、
    前記第二の非特異反応抑制工程後の、前記抗原に結合した一次抗体に、該一次抗体に対する二次抗体と西洋ワサビペルオキシダーゼとがポリマー担体上に結合してなるポリマー複合体を結合させる二次抗体反応工程と、
    前記二次抗体反応工程後の標本に、前記ポリマー複合体中の西洋ワサビペルオキシダーゼによるタイラマイドの異化反応における非特異反応を抑制するための処理を施す第三の非特異反応抑制工程と、
    前記第三の非特異反応抑制工程後に、標識化タイラマイドを付与し、前記ポリマー複合体中の西洋ワサビペルオキシダーゼにより前記標識化タイラマイドを異化し沈着させる標識化タイラマイド異化沈着工程と、
    前記沈着した異化標識化タイラマイドを可視化する可視化工程と、
    を含む前記方法。
  2. 前記抗原回復工程において用いられるプロテアーゼが、トリプシン(Trypsin)、プロナーゼ(Pronase)、又はプロテイナーゼK (Proteinase K)である、請求項1記載の方法。
  3. 前記抗原回復工程において用いられるプロテアーゼが、プロテイナーゼK (Proteinase K)である請求項2記載の方法。
  4. 前記第一の非特異反応抑制工程及び前記第二の非特異反応抑制工程が、カゼイン溶液による処理、動物血清による処理、スキムミルクによる処理、又はノンファットミルクによる処理により非特異反応を抑制する工程である、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
  5. 前記第三の非特異反応抑制工程が、カゼイン溶液による処理、ポリエチレングリコール溶液による処理、スキムミルクによる処理、又はファットミルクによる処理により非特異反応を抑制する工程である、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
  6. 前記一次抗体反応工程が、動物血清を含まない条件下で行われる請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
  7. 前記標識化タイラマイドが、ビオチン又は蛍光物質とタイラマイドとが結合してなるものである、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
  8. 前記標識化タイラマイドが、蛍光物質とタイラマイドとが結合してなるものであり、
    前記可視化工程が、異化し沈着した該標識化タイラマイドに、前記蛍光物質に対する抗体のFab断片と西洋ワサビペルオキシダーゼとの複合体を結合させ、次いで該西洋ワサビペルオキシダーゼにより呈色反応を行わせる工程である、請求項7記載の方法。
  9. 前記蛍光物質がフルオレセインイソチオシアネートである、請求項7又は8記載の方法。
  10. 前記抗原回復工程の前に行われる、前記標本中の内因性ペルオキシダーゼを不活化する第一の内因性ペルオキシダーゼ不活化工程と、
    前記抗原回復工程の後に行われる、前記標本中の内因性ペルオキシダーゼを不活化する第二の内因性ペルオキシダーゼ不活化工程と
    を更に含む、請求項1〜9のいずれか1項記載の方法。
  11. 前記第一の内因性ペルオキシダーゼ不活化工程は、前記標本を0.3%過酸化水素メタノール溶液により15〜25℃にて15〜30分間処理する工程、又は3%過酸化水素リン酸緩衝液により15〜45℃にて15〜30分間処理する工程であり、前記第二の内因性ペルオキシダーゼ不活化工程は、前記標本を3%過酸化水素リン酸緩衝液により15〜45℃にて15〜30分間処理する工程である、請求項10記載の方法。
  12. 検出しようとする抗原が、ヒトT細胞向性ウイルス1型感染細胞におけるp40Taxタンパク質である、請求項1〜11のいずれか1項記載の方法。
  13. 一次抗体がマウス抗p40Taxタンパク質モノクローナル抗体である請求項12記載の方法。
  14. 前記固定組織標本が、末梢血組織標本、病理組織標本、末梢血白血球又は細胞の浮遊標本を沈降又は遠沈して作成されるセルブロック標本、或いは、末梢血又は細胞を含む液体の塗沫標本である、請求項1〜13のいずれか1項記載の方法。
  15. 被検動物から単離された固定組織標本中のp40Taxタンパク質を、請求項12又は13記載の方法を用いて検出する工程を含む、ヒトT細胞向性ウイルス1型に関連する疾患の診断方法。
  16. 前記ヒトT細胞向性ウイルス1型に関連する疾患が、成人T細胞性白血病又はリンパ腫である、請求項15記載の方法。
  17. 前記固定組織標本が、末梢血組織標本、病理組織標本、末梢血白血球又は細胞の浮遊標本を沈降又は遠沈して作成されるセルブロック標本、或いは、末梢血又は細胞を含む液体の塗沫標本である、請求項15又は16記載の方法。
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