第1の発明は、着座面を有し金属材料を含む便座と、前記便座の前記着座面の裏面に密着して設けた便座ヒータと、前記便座ヒータの過昇を防止するサーモスタットを備え、前記便座ヒータは2枚の金属箔の間に絶縁被覆層を備えた線状ヒータを所定の配設パターン
で配設した構成とし、前記サーモスタットは前記便座ヒータの着座面側に配設したヒータ保持具と他面側に配設したサーモスタット保持具で挟持して前記便座ヒータに密着して固定したことにより、便座ヒータとサーモスタットはヒータ保持具とサーモスタット保持具機械的に挟持されるため、便座ヒータとサーモスタットは確実に密着して固定され、しかも経年変化や熱的な変化が起き難く、温度過昇防止装置としての高い性能を長期間亘り安定して発揮することができる。また、サーモスタット取り付け部分も着座面に熱が伝わるためコールドポイントの発生がなく着座面を快適な状態に小オンすることができる。
第2の発明は、特に第1の発明において、ヒータ保持具は間隔開けて設けた複数の固定突起を備え、サーモスタット保持具は前記固定突起に対応する固定孔とサーモスタット保持部を備え、便座ヒータは前記固定突起に対応する貫通孔を備え、前記固定突起を前記貫通孔と固定孔に挿入し、前記固定突起の先端部を変形して固定することにより、サーモスタットの固定は、ヒータ保持具とサーモスタット保持具の必要最小限度の部品で行うことが可能となり、便座ヒータの熱を不必要に伝達あるいは放熱することを抑制することができるので、正確な温度検知が可能となり温度過昇防止装置としての精度を高めることができる。
第3の発明は、特に第2の発明において、便座ヒータの貫通孔の端面に防水処理を施したことにより、貫通孔より浸入した水で便座ヒータ内部の充電部からの漏電や感電を防止することができるので、便座装置の防水性と安全性を向上することができる。
第4の発明は、特に第1〜3のいずれか1つの発明において、便座ヒータのサーモスタットを設置する領域は、線状ヒータの配設パターンを他の領域より密度を高めて配設することにより、サーモスタットの設置部分は他の領域より早く温度が上昇するため、他の領域より早く異常温度上昇を検知することが可能となり、温度過昇防止装置としての感度と精度を向上することができ、便座装置の安全性と信頼性を向上することができる。
第5の発明は、特に第1〜第4のいずれか1つの発明の便座装置と、洗浄装置と、線浄水供給機構と、便蓋とを備えたことにより、便座装置の異常温度上昇を確実に防止し、安全性と信頼性の高い衛生洗浄装置を提供することができる。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施に形態によって本発明が限定されるものではない。
<1> 衛生洗浄装置およびそれを備えるトイレ装置の外観
図1は本発明の第1の実施の形態に係る便座装置およびそれを備えた衛生洗浄装置を示す外観斜視図である。衛生洗浄装置はトイレットルーム内に設置される。
衛生洗浄装置100は便器700の上面に取り付けられる。衛生洗浄装置100は、本体部200、遠隔操作装置300、便座部400および蓋部500により構成される。蓋部500を除く衛生洗浄装置100の各構成要素が、後述の便座装置110を構成する。
本体部200には、便座部400および蓋部500が開閉可能に取り付けられている。また、本体部200には、図示しない洗浄装置と洗浄水供給機構が設けられるとともに、後述の制御部90(図3)が内蔵される。
図1では、本体部200の正面上部に設けられる着座センサ610が示されている。この着座センサ610は、例えば反射型の赤外線センサである。この場合、着座センサ610は、人体から反射された赤外線を検出することにより便座部400上に使用者が存在することを検知する。
さらに、図1では、本体部200の正面下部に設けられる洗浄装置の便器ノズル40が便器700の内側に突出している状態が示されている。この便器ノズル40は、上述の洗浄水供給機構に接続されている。
洗浄水供給機構は、図示しない水道配管に接続されている。これにより、洗浄水供給機構は、水道配管から供給される洗浄水を便器ノズル40に供給する。それにより、便器ノズル40から便器700の内面の広い範囲に洗浄水が噴出される(便器プレ洗浄)。または、便器ノズル40から便器700の内面の背面側に洗浄水が噴出される(便器後部洗浄)。詳細は後述する。
また、洗浄水供給機構は、図示しない洗浄装置のお尻洗浄ノズルと、ビデ洗浄ノズルと、ノズル洗浄噴出口に切替弁を介して接続されている。これにより、洗浄水供給機構は、水道配管から供給される洗浄水を加熱手段で温水にし、各ノズルに供給する。それにより、お尻洗浄ノズルと、ビデ洗浄ノズルから噴出した温水で使用者の局部を洗浄する。また、ノズル洗浄噴出口から洗浄水を噴出させてお尻洗浄ノズルとビデ洗浄ノズルをセルフクリーニングする。
遠隔操作装置300には、複数のスイッチが設けられている。遠隔操作装置300は、例えば便座部400上に着座する使用者が操作可能な場所に取り付けられる。
入室検知センサ600は、トイレットルームの入口等に取り付けられる。入室検知センサ600は、例えば反射型の赤外線センサである。この場合、入室検知センサ600は、人体から反射された赤外線を検出した場合にトイレットルーム内に使用者が入室したことを検知する。
本体部200の制御部90(図3)は、遠隔操作装置300、入室検知センサ600および着座センサ610から送信される信号に基づいて、衛生洗浄装置100の各部の動作を制御する。
<2> 遠隔操作装置の構成
図2は、図1の遠隔操作装置300の正面図である。遠隔操作装置300は、コントローラ本体部301の下部にコントローラ蓋部302が開閉自在に設けられた構造を有する。
図2(a)に示すように、コントローラ蓋部302が閉じられた状態で、コントローラ本体部301の上部には乾燥スイッチ320、強さ調整スイッチ322,323および位置調整スイッチ325,326が設けられ、コントローラ蓋部302には停止スイッチ311、おしりスイッチ312およびビデスイッチ313が設けられている。
使用者により、上記各スイッチが操作される。これにより、遠隔操作装置300から図1の本体部200に各スイッチに応じた所定の信号が無線送信される。本体部200の制御部90(図3)は、受信した信号に基づいて本体部200(図1)および便座部400(図1)の各構成部の動作を制御する。
例えば、使用者がおしりスイッチ312またはビデスイッチ313を操作することにより、後述するノズル部20(図3)から使用者の局部に洗浄水が噴出される。また、使用者が停止スイッチ311を操作することにより、ノズル部20から使用者の局部への洗浄水の噴出が停止される。
使用者が乾燥スイッチ320を操作することにより、使用者の局部に後述する乾燥ユニット210(図64)から温風が噴出される。また、使用者が強さ調整スイッチ322,323を操作することにより、使用者の局部に噴出される洗浄水の流量および圧力等が調整される。
さらに、使用者が位置調整スイッチ325,326を操作することにより、後述するおしりノズル21(図3)または後述するビデノズル22(図3)の位置が調整される。それにより、使用者の局部への洗浄水の噴出位置が調整される。
図2(b)に、コントローラ蓋部302が開かれた状態の遠隔操作装置300の正面図が示されている。図2(b)に示すように、コントローラ蓋部302により覆われるコントローラ本体部301の下部には、上述の停止スイッチ311、おしりスイッチ312およびビデスイッチ313に加えて、自動開閉スイッチ331、水温調整スイッチ332、便座温度調整スイッチ333、除菌スイッチ335および便器洗浄スイッチ336が設けられている。
これらのスイッチが操作される場合にも、遠隔操作装置300から本体部200に各スイッチに応じた所定の信号が無線送信される。これにより、本体部200の制御部90は、受信した信号に基づいて本体部200および便座部400の各構成部の動作を制御する。
自動開閉スイッチ331はつまみにより構成されている。使用者が自動開閉スイッチ331のつまみを操作することにより、蓋部500(図1)の開閉動作が設定される。すなわち、自動開閉スイッチ331のつまみがオンの位置にある場合、使用者のトイレットルームへの入室に応じて蓋部500が開閉される。
使用者が水温調整スイッチ332を操作することにより、ノズル部20から使用者の局部に噴出される洗浄水の温度が調整される。使用者が便座温度調整スイッチ333を操作することにより、便座部400の温度が調整される。
また、使用者が除菌スイッチ335を操作することにより、本体部200の洗浄水供給機構に銀イオンを含む洗浄水が流れ、除菌動作が行われる。
自動開閉スイッチ331と同様に、便器洗浄スイッチ336はつまみにより構成されている。使用者が便器洗浄スイッチ336のつまみを操作することにより、便器ノズル40による便器プレ洗浄および便器後部洗浄の動作が設定される。
すなわち、便器洗浄スイッチ336のつまみがオンの位置にある場合、使用者のトイレットルームへの入室に応じて便器ノズル40から便器700内部の広い範囲に洗浄水が噴出される。また、使用者の便座部400への着座中に便器ノズル40から便器700の内面の背面側に洗浄水が噴出される。
<3> 便座装置
(3−a)便座装置の構成
図3は、便座装置110の構成を示す模式図である。上述のように、便座装置110は、本体部200、遠隔操作装置300、便座部400および入室検知センサ600を備える。
図3に示すように、本体部200は、制御部90、温度測定部401、ヒータ駆動部402、便座温調ランプRA1および着座センサ610を含む。
また、便座部400は便座ヒータ450およびサーミスタ401aを備える。
制御部90は、例えばマイクロコンピュータからなり、使用者の入室および便座部400の温度等を判定する判定部、タイマ機能を有する計時部、種々の情報を記憶する記憶部、ならびに、ヒータ駆動部402の動作を制御するための通電率切替回路等を含む。
本体部200の温度測定部401は、便座部400のサーミスタ401aに接続されている。これにより、温度測定部401は、サーミスタ401aから出力される信号に基づいて便座部400の温度を測定する。以下、サーミスタ401aを通じて温度測定部401により測定される便座部400の温度を測定温度値と称する。
また、本体部200のヒータ駆動部402は、便座部400の便座ヒータ450に接続されている。これにより、ヒータ駆動部402は便座ヒータ450を駆動する。
本実施の形態において、便座装置110は次のように動作する。初期設定時では、制御部90がヒータ駆動部402を制御することにより、便座部400が例えば約18℃となるように温度調整される。このときの温度を待機温度と称する。
ここで、使用者が遠隔操作装置300の便座温度調整スイッチ333を操作することにより、便座設定温度が制御部90に送信される。制御部90は、遠隔操作装置300から受信した便座設定温度を記憶部に記憶する。
使用者がトイレットルームに入室すると、入室検知センサ600が使用者の入室を検知する。それにより、使用者の入室検知信号が制御部90に送信される。
次に、通常の使用時の動作について説明する。制御部90の判定部は、入室検知センサ600からの入室検知信号により使用者のトイレットルームへの入室を検知する。そこで、判定部は、便座部400の測定温度値、および記憶部に記憶された便座設定温度に基づいて便座ヒータ450の駆動に関する特定のヒータ制御パターンを選択する。
通電率切替回路は、選択されたヒータ制御パターンおよび計時部により得られる時間情報に基づいてヒータ駆動部402の動作を制御する。
それにより、ヒータ駆動部402により便座ヒータ450が駆動され、便座部400の温度が便座設定温度へと瞬時に上昇される。
(3−b)便座部400の第1の例
図4は、便座部400の分解斜視図である。図5(a)は、第1の例の便座部400の便座ヒータ450の平面図、図5(b)は、図5(a)の領域C72の拡大図である。図6は、第1の例の便座部400の平面図である。図7は、図6の便座部400のC73−C73断面図である。
図4に示すように、便座部400は、主としてアルミニウムにより形成された略楕円形状の上部便座ケーシング410、略馬蹄形状の便座ヒータ450および合成樹脂により形成された略楕円形状の下部便座ケーシング420を備える。
以下、着座した使用者から見て前方側を便座部400の前部とし、着座した使用者から見て後方側を便座部400の後部とする。
図5(a)および図6に示すように、便座ヒータ450は、前部の一部が切り取られた略馬蹄状に形成される。なお、便座ヒータ450は、略楕円形状を有してもよい。便座ヒータ450は、例えばアルミニウムからなる金属箔451,453および線状ヒータ460を含む。
線状ヒータ460は、シート中央部SE3からシート一方端部SE1までの領域およびシート中央部SE3からシート他方端部SE2までの領域において上部便座ケーシング410の形状に合わせて蛇行形状に配設される。
具体的には、線状ヒータ460は、左右6列程度のU字状部を有するように形成される。これらのU字状部は、着座した使用者の大腿部の方向にほぼ沿って並行に配置される。各U字状部における線状ヒータ460の間隔は5mm程度である。
線状ヒータ460のヒータ始端部460aおよびヒータ終端部460bは、便座部400の後部の一方側から引き出されるリード線470にそれぞれ接続される。
さらに、図5(b)に示すように、蛇行形状の線状ヒータ460の経路中に熱応力緩衝部となる複数の折曲部CUが設けられる。
図7に示すように、上部便座ケーシング410の外側の側辺に沿った領域G1における線状ヒータ460の間隔ds1および内側の側辺に沿った領域G3における線状ヒータ460の間隔ds3は、上部便座ケーシング410の中央部の領域G2における線状ヒータ460の間隔ds2よりも小さく設定される。それにより、上部便座ケーシング410の外側の側辺に沿った領域G1および内側の側辺に沿った領域G3では、中央部の領域G2に比べて線状ヒータ460が密に配列される。
(3−c)便座部400の第2の例
図8(a)は、第2の例の便座部400の便座ヒータ450の平面図、図8(b)は、図8(a)の領域C77の拡大図、図9は、第2の例の便座部400の平面図である。
図8(a)および図9に示すように、線状ヒータ460は、シート中央部SE3からシート一方端部SE1までの領域およびシート中央部SE3からシート他方端部SE2までの領域において上部便座ケーシング410の形状に合わせて左右方向に蛇行する蛇行形状に配設される。本例では、線状ヒータ460は、蛇行形状の曲げ部が上部便座ケーシング410の外側の側辺および内側の側辺の近傍に位置するように配置される。
具体的には、線状ヒータ460が便座ヒータ450の後部の一方側からシート一方端部SE1の近傍まで左右に蛇行しながら延びることにより図8(b)の第1系列Aの蛇行形状が形成される。また、線状ヒータ460がシート一方端部SE1の近傍から左右に蛇行しながらシート中央部SE3の近傍を経由してシート他方端部SE2の近傍まで延びることにより第2系列Bの蛇行形状が形成される。さらに、線状ヒータ460がシート他方端部SE2の近傍からシート中央部SE3の近傍を経由して便座ヒータ450の後部の一方側まで延びることにより第1系列Aの蛇行形状が形成される。
さらに、図8(b)に示すように、第1系列Aの蛇行形状の線状ヒータ460と第2系列Bの蛇行形状の線状ヒータ460とはほぼ平行に配列される。第1系列Aおよび第2系列Bの蛇行形状の線状ヒータ460はヒータ始端部460aからヒータ終端部460bまで連続している。
線状ヒータ460のヒータ始端部460aおよびヒータ終端部460bは、便座部40
0の後部の一方側から引き出されるリード線470にそれぞれ接続される。
本例では、線状ヒータ460は、便座ヒータ450の内側の側辺の近傍および外側の側辺の近傍に曲げ部が位置する蛇行形状を有する。それにより、曲げ部間の間隔が短い。したがって、熱膨張および熱収縮に起因する長さ変化が小さくなるので、たとえ線状ヒータ460が伸縮しても曲げ部で伸縮による歪が吸収および緩衝される。その結果、線状ヒータ460の熱膨張および熱収縮に起因するストレスが小さくなり、長期間の使用での破損を抑制することができる。
また、線状ヒータ460の熱的伸縮が小さいので、金属箔451,453に対する密着性を長期間良好に維持することができる。それにより、便座ヒータ450の加温を効率的にかつ確実に行うことができる。
また、図8(b)に示すように、曲げ部の長さLa,Lbおよび曲げ部間の間隔Sは、任意に調整することができる。それにより、便座ヒータ450の加熱分布を調整することができる。
例えば、便座ヒータ450の外側および内側の側辺近傍の加熱密度が便座ヒータ450の中央部の加熱密度よりも高くなるように、曲げ部の長さLa,Lbおよび曲げ部間の間隔Sを調整する。それにより、便座ヒータ450の全領域において均等な暖房温度を維持することができる。
また、本例では、第1系列Aの蛇行形状の線状ヒータ460での電流の向きが第1系列Bの蛇行形状の線状ヒータ460での電流の向きと逆になる。それにより、線状ヒータ460から発生する電磁波が互いが打ち消される。その結果、ノイズの発生が防止される。
(3−d)便座部400の第3の例
図10(a)は、第3の例の便座部400の便座ヒータ450の平面図、図11は、便座ヒータ450に温度過昇防止装置としてサーモスタット450Qを設置した状態の要部斜視、図12は、サーモスタット450Qの取り付け構造を示す分解斜視図、図13は、サーモスタット450Qの取り付け構造を示す断面図、図14は、サーモスタット450Qの別の取り付け構造を示す分解斜視図、図16はサーモスタット450Qの別の取り付け構造を示す分解斜視図、図16は温度ヒューズ450Rの取り付け構造を示す断面図である。
図10に示すように、便座ヒータ450の後部の両側に線状ヒータ460が高い密度で蛇行する検温部450Tがそれぞれ形成される。図11に示すように、一方の検温部450Tには、過昇防止装置としてバイメタル等を用いた復帰型のサーモスタット450Qが設けられる。他方の検温部450Tには、非復帰型の過昇防止装置として温度ヒューズ450Rが設けられる。
図11に示すように復帰型のサーモスタット450Qは、便座ヒータ450の一方の検温部450Tの表面に設置される。
図12に示すように、便座ヒータ450の検温部450Tの両側には所定の間隔を開けて貫通孔450Uが設けてある。
便座ヒータ450裏面側(便座400の着座部410側)にはヒータ保持具490を設置する。ヒータ保持具490は厚み0.3〜0.5mmのアルミ板を加工して形成しており、その両側部には便座ヒータ450の貫通孔450Uの配設ピッチと同じ間隔で固定突起
490aが設けてある。固定突起490aはヒータ保持具490のアルミ板をバーリング加工により外径が直径5.8mmで、高さが2.5mmの円筒状に切り起こして一体に形成してある。また、固定突起490aの周囲には略円形の凸部490bが形成してある。
便座ヒータ450の貫通孔450Uの両面に耐熱性の樹脂シートに粘着材を塗布した円環状の防水シート492が設置される。防水シート492の取り付け孔492aは便座ヒータ450の貫通孔450Uの口径よりひと回り小さく、また防水シート492の外形は貫通孔45Uの口径より大きい。本実施の形態においては、便座ヒータ450の貫通孔450Uの直径が13mmとし、防水シート492の取り付け孔は直径6.5mmとし、外形は直径20mmとした。
このような寸法関係をとることにより便座ヒータ450上下から防水シート492を粘着することで、便座ヒータ450の貫通孔450Uの端面の暴露を防ぐことができる。貫通孔450Uに対し防水シート492の取り付け孔492aの寸法は直径で6mm以上小さくする事が望ましい。これは、防水性を担保するには最低でも3mmの接着代が必要であり、作業バラツキ、部品寸法のバラツキを考えるとできるだけ大きい接着代が確保できれば安定した量産が可能となる。また、貫通孔450Uに対し防水シート492の外形寸法についても接着代として最低3mm以上必要で、安定した量産を考えると設計上5mm以上の接着代が望ましい。
このような防水処理が必要な理由として、便座部400には水が付着する可能性があると考えるのが一般的である。それに加え、便座ヒータ450が局部発熱により絶縁性能が劣化した場合は金属箔451、453に電気が流れる。この金属箔451、453と便座部400の着座部410の表面が水でつながり、さらに人体が触れた場合は感電する恐れがある。金属箔451、453の表面は樹脂層をコーティングおよびラミネートすることで解決できるが端面の金属暴露部の防水は非常に困難である。そこで絶縁性のある防水シート492を配設することでこの問題を回避することができる。
サーモスタット450Qを保持するサーモスタット保持具491は、アルミ板をプレス加工等により形成したものであり、中央にサーモスタット450Qを保持する円形孔のサーモスタット保持部491aが設けてあり、その両側には固定孔491bが設けてある。サーモスタット保持部491aはサーモスタット450Qの後端部からはめ込んで、先端の感熱部の全周を保持することができる形状となっており、固定孔491bは前記ヒータ保持具490の固定突起490aと同ピッチで配設してあり、固定突起490aが挿入可能な大きさとなっている。
図13は、上記各部品を組み付けた状態の断面図を示すものであり、図に示すように各部品を組み付けた状態で固定突起490aをかしめることにより、サーモスタット450Qは便座ヒータ450に確実に固定することができ、サーモスタット450Qの先端部の感熱部は便座ヒータ450の検温部450Tに密着して固定される。また、固定突起490aの周囲に設けた凸部490bにより防水シート492に圧がかかるため防水シート492の密着性が良くなるため防水性が向上する。
図14は、防水シートの別形状の例であり、サーモスタット450Q側に設置する上部防水シート492bはサーモスタット保持具491と略同形状とし、下部防水シート492cはヒータ固定具490と略同形状となっている。このような形状にすることにより、防水シートを所定の位置に粘着することが容易になり、作業の効率化と品質の安定を得ることができる。
また、図15は、ヒータ固定具の別形状の例であり、本例の場合、ヒータ固定具490
の固定突起をバーリングによる円筒形状ではなく、折り曲げ加工による固定突起490cとなっている。この構成とすることにより、加工が容易になるとともに、固定突起の高さの自由度が高くなり、厚さの厚い便座ヒータへの対応が可能になる。
図16は、他方の検温部450Tに温度ヒューズ450R設置した状態を示す断面図である。
温度ヒューズ450Rは検温部450Tに粘着テープで仮固定しておく。一方、ばね材で形成した温度ヒューズ固定具450Sを便座部400の下部便座ケーシング420に設けた固定ボス420aにねじで固定しておき、上部便座ケーシング410と下部便座ケーシング420を組み付けることにより、図に示すように温度ヒューズ450Rは温度ヒューズ固定具450Sの弾性で便座ヒータ450の検温部450Tに密着し、検温部の温度を正確に検知することができる。 上記構成の便座装置において、便座ヒータ450が想定外の異常温度になると、復帰型のサーモスタット450Qが開くことにより、一時的に通電が停止される。また、復帰型のサーモスタット450Qが故障等を起こすことにより、便座ヒータ450が危険温度に達しようとすると、非復帰型の温度ヒューズ450Qが溶断することにより、電力の供給が遮断される。
ここで、温度過昇防止のためのサーモスタット450Qまたは温度ヒューズの動作温度設定は、実際に遮断したい温度よりも低くしておくことが望ましい。本実施の形態で説明している構成の便座は昇温速度が速い。したがって、安全装置(例えば、サーモスタット450Qまたは温度ヒューズ等)の動作速度によっては、実際に通電が停止されたタイミングで便座表面が予め設定された温度よりもさらに高い温度になってしまっている可能性があるためである。人体の皮膚のうち、普段露出していない臀部や大腿部の皮膚は他の部分の皮膚に比べて敏感である。これにより、上記のような、より高い安全設計が重要となる。
(3−e)便座部400の第4の例
図17は、第4の例の便座部400の便座ヒータ450の平面図である。
図17に示すように、シート中央部SE3から左シート一方端部SE1までの領域に配列される線状ヒータ460と、シート中央部SE3からシート他方端部SE2までの領域に配列される線状ヒータ460とが互いに分離されている。
一方の線状ヒータ460のヒータ始端部460aおよびヒータ終端部460bは、便座部400の後部の一方側から引き出されるリード線470にそれぞれ接続される。他方の線状ヒータ460のヒータ始端部460cおよびヒータ終端部460dは、便座部400の後部の他方側から引き出されるリード線470にそれぞれ接続される。
(3−f)便座部400の第5の例
図18は、第5の例の便座部400の便座ヒータ450の平面図である。
図18に示すように、線状ヒータ460は、便座部400の第2の例の図8(a)と同様に、上部便座ケーシング410の形状に合わせて左右方向に蛇行する蛇行形状に配設される。
具体的には、線状ヒータ460が便座ヒータ450の後部の一方側からシート一方端部SE1の近傍まで左右に蛇行しながら延びることにより図8(b)の第1系列Aの蛇行形状が形成される。また、線状ヒータ460がシート一方端部SE1の近傍から左右に蛇行しながらシート中央部SE3の近傍を経由してシート他方端部SE2の近傍まで延びるこ
とにより第2系列Bの蛇行形状が形成される。さらに、線状ヒータ460がシート他方端部SE2の近傍からシート中央部SE3の近傍を経由して便座ヒータ450の後部の一方側まで延びることにより第1系列Aの蛇行形状が形成される。
さらに、図8(a)と同様に、第1系列Aの蛇行形状の線状ヒータ460と第2系列Bの蛇行形状の線状ヒータ460とはほぼ平行に配列される。第1系列Aおよび第2系列Bの蛇行形状の線状ヒータ460はヒータ始端部460aからヒータ終端部460bまで連続している。
線状ヒータ460のヒータ始端部460aおよびヒータ終端部460bは、便座部400の後部の一方側から引き出されるリード線470にそれぞれ接続される。
さらに本例では、便座部400表面の温度分布が均一になるように、図8(b)におけるLbを変えて上部便座ケーシング410単位面積あたりのヒータ線密度がほぼ等しい構成をとっている。
具体的には便座ヒータ領域A1およびA5ではLb=15mm、便座ヒータ領域A3ではLb=19mmとした。便座ヒータ領域A2およびA4はLb=16〜18mmとし、便座ヒータ領域A3に近い側から徐々にLbを小さくすることで、なだらかにヒータ線密度を高くする構成とした。
この構成により、便座中央部のヒータ線密度を低くし、便座前部および後部のヒータ線密度を高くし、その密度変化もスムースなものであるため、線状ヒータ460の全長は殆ど変えないまま便座部400表面の温度分布を均一にすることができる。
一方、使用者が着座した際に一番冷たさを感じ、また接触面積も広い太腿が接するであろう領域である便座ヒータ領域A3、A4の辺りのヒータ線密度を高密度化、残りの領域を低密度化し、あえて便座部400表面の温度分布を不均一にする構成も考えられる。
また、本実施例は線状ヒータ460が単線の例であるが、それに限るものではなく、2本以上複数の線状ヒータ460からなる構成も考えられる。
(3−g)便座ヒータ450の第1の構造例
図19は、上部便座ケーシング410に取り付けられる便座ヒータ450の第1の構造の例を示す断面図である。
図19に示すように、上部便座ケーシング410は、例えば厚さ1mmのアルミニウム板413により形成される。アルミニウム板413の上面には、アルマイト層412および表面化粧層411が形成される。表面化粧層411の上面が着座面410Uとなる。また、アルミニウム板413の下面には、塗装膜414が形成される。塗装膜414は、例えば膜厚40μmおよび150℃の耐熱性を有するポリエステル粉体塗装膜である。
なお、アルミニウム板413の代わりに、銅板、ステンレス板、アルミニウムめっき鋼板および亜鉛アルミニウムめっき鋼板のうちいずれかまたは複数を用いてもよい。
塗装膜414の下面に粘着層452aを介して例えばアルミニウムからなる金属箔451が貼着される。金属箔451の膜厚は、例えば50μmである。
線状ヒータ460は、断面円形の発熱線463a、エナメル層463bおよび絶縁被覆層462により構成される。断面円形の発熱線463aの外周面がエナメル層463bお
よび絶縁被覆層462で順に被覆される。発熱線463aおよびエナメル層463bによりエナメル線463が構成される。
発熱線463aは、例えば0.16〜0.25mmの直径を有し、銅または銅合金からなる。本例では、発熱線463aとして、直径0.176mmの4%Ag−Cu合金からなる高抗張力型ヒータ線が用いられる。抵抗値は0.833Ω/mである。
エナメル層463bは、例えば180〜300℃の耐熱性を有するポリエステルイミド(PEI)からなる。エナメル層463bの膜厚は、20μm以下であり、本例では12〜13μmである。このようなエナメル線463は、エナメル層463bの膜厚が極薄い0.01〜0.02mm程度であっても、電気用品技術基準である1000Vで1分間以上の電気絶縁耐圧性能を十分確保することができる。また、エナメル層463bの材料として、ポリイミド(PI)またはポリアミドイミド(PAI)を用いてもよい。
絶縁被覆層462は、例えば260℃の耐熱性を有するパーフロロアルコキシ混合物(以下PFAと称する)等のフッ素樹脂からなる。絶縁被覆層462の厚みは、例えば0.1〜0.15mmである。PFAからなる絶縁被覆層462の形成は、押出し加工により行うことができる。この場合、絶縁被覆層462の厚みが0.05〜0.1mmと薄くても、雷サージにも耐える電気絶縁耐圧性能を確保することができる。
なお、絶縁被覆層462の材料として、ポリイミド(PI)またはポリアミドイミド(PAI)を用いてもよい。
線状ヒータ460の外径は、例えば0.46〜0.50mmである。線状ヒータ460の電力密度は、例えば0.95W/cm2である。
線状ヒータ460は、粘着層452bおよび例えばアルミニウムからなる金属箔453で覆うように金属箔451に取り付けられる。金属箔453の膜厚は、例えば50μmである。
このように、単一のエナメル線463上に絶縁被覆層462を形成することにより二重の絶縁構造を確保することができる。
また、絶縁被覆層462は比較的薄くても十分な絶縁性が得られる。したがって、絶縁被覆層462の厚さを薄くすることができる。上記の例では、線状ヒータ460の樹脂層(エナメル層463bおよび絶縁被覆層462)の厚さは、0.12mm程度であり、極めて薄い。この場合、発熱線463aから金属箔451および便座ケーシング410への熱伝導を極めて俊敏に行うことができる。
ちなみに従来の便座装置においては、線状ヒータのシリコーンゴムまたは塩化ビニール等からなる被覆チューブの厚さは、上記の例の約10倍の1mm程度ある。このような被覆チューブの熱伝導速度は桁違いに遅く、便座の昇温速度を速くすることはできなかった。
従来の便座装置において便座の昇温速度を無理やり速くするためにヒータ線に大きい電力を供給した場合、断熱状態でヒータ線の温度を高くした場合と同様に、被覆チューブが溶融および焼損する。そのため、このような方法による便座の昇温は実用できなかった。
一方、本例のように耐熱性能に優れたエナメル線463をヒータ線として使用した場合、十分短時間で便座を昇温でき、かつ電気絶縁性および安全性を確保できる。したがって
、本例の構造は、種々の便座装置に有効に実用することができる。
また、本例の構造では、エナメル層463bおよび絶縁被覆層462等からなる樹脂層を0.1〜0.4mm程度の薄い厚さで形成できる。それにより、発熱線463aおよび樹脂層の絶対温度が低い温度に維持された状態で、便座を急速に昇温させることができる。その結果、高価な耐熱絶縁材料でなく比較的安価な絶縁材料を用いることができる。
また、本例においては、線状ヒータ460の熱を便座ケーシング410に効率よく伝達するために、線状ヒータ460をアルミ箔451,452で挟んでいる。ここで、本例の線状ヒータ460においては、エナメル層463bおよび絶縁被覆層462を薄くできるので、線状ヒータ460の外径を細く(約φ0.2〜φ0.4)できる。この場合、アルミ箔451とアルミ箔452とを貼り合わせる際に、アルミ箔451とアルミ箔452との間の空気層を小さくすることができるとともに、アルミ箔451,452のしわを少なくすることができる。それにより、エナメル線463の局所高熱が抑制され、エナメル線463の断線および電気絶縁層(エナメル層463bおよび絶縁被覆層462)の損傷が防止される。その結果、便座装置110の長寿命化が可能になる。
また、エナメル線463を細くできるので、便座ヒータ450の重量を低減でき、便座開閉トルクを小さくすることができる。それにより、便座開閉用の電動開閉ユニットを小型化でき、便座装置110の小型化が可能となる。
(3−h)便座ヒータ450の第2の構造例
図20は、上部便座ケーシング410に取り付けられる便座ヒータ450の第2の構造例を示す断面図である。
図20の例では、複数のエナメル線463が撚り合わされ、絶縁被覆層462で被覆されている。各エナメル線463は、例えば直径0.1mmの発熱線463aおよび膜厚10μmのエナメル層463bにより構成される。
このように、複数のエナメル線463の束の周囲を取り囲むように絶縁被覆層462を形成することにより二重の絶縁構造を確保することができる。
なお、図20の例では、7本のエナメル線463が撚り合わされているが、エナメル線463の数は7本に限定されない。例えば、2本のエナメル線463およびエナメル層463bにより被覆されていない1本の発熱線463a(以下、単体発熱線463aと称する。)を撚り合わせてもよい。
この構成においては、例えば、局所高熱等により上記2本のエナメル線463のうちの一方のエナメル層463bが絶縁破壊された場合、そのエナメル線463の発熱線463aと、上記の単体発熱線463aとが電気的に接続される。したがって、この構成によれば、単体発熱線463aを絶縁破壊検知線として用いることにより、エナメル層463bの絶縁破壊を検知することができる。それにより、2本のエナメル線463のうちいずれかのエナメル線463のエナメル層463bが絶縁破壊された場合には、すべての発熱線463aへの通電を遮断することができる。
つまり、複数本の撚り線のうち少なくとも1本をエナメル層463bのない非絶縁電線とすることにより、局所高熱等によりいずれかのエナメル線463のエナメル層463bが絶縁破壊された場合にも、その絶縁破壊を迅速に検知することができる。それにより、安全に発熱線463aへの通電を遮断することができる。
なお、上記においては、複数のエナメル線463を撚り合わせて用いた場合について説明したが、複数のエナメル線463を単に束ねて用いてもよい。
また、複数本の発熱線463aのうちの所定数の発熱線463aに流れる電流の向きと残りの発熱線463aに流れる電流の向きとを逆にしてもよい。この場合、一方向に流れる電流により発生する磁界と他方向に流れる電流により発生する磁界とが打ち消し合う。それにより、漏洩磁界の発生およびノイズの発生を抑制することができる。
(3−i)便座ヒータ450の第4の構造例
図21は、上部便座ケーシング410に取り付けられる便座ヒータ450の第4の構造例を示す断面図である。
図21の例では、金属箔451と粘着層452bとの間に耐熱絶縁層455が形成される。また、粘着層452bと金属箔453との間に耐熱絶縁層456が形成される。耐熱絶縁層455は、例えば150℃の耐熱性を有する膜厚12〜25μmのポリエチレンテレフタレート(PET)からなる。同様に、耐熱絶縁層455は、例えば150℃の耐熱性を有する膜厚12〜25μmのPETからなる。
このように、単一のエナメル線463上に絶縁被覆層462を形成するとともに耐熱絶縁層455,456を形成することにより三重絶縁構造を確保することができる。
なお、図21の便座ヒータ450において、単一のエナメル線463の代わりに複数のエナメル線463の束を用いてもよい。
(3−j)便座ヒータ450の第5の構造例
図22は、上部便座ケーシング410に取り付けられる便座ヒータ450の第5の構造例を示す断面図である。
本例が第4の構造例と異なっている点は、金属箔453と、耐熱絶縁層455と、粘着層452bとを貫通する空気抜き孔495を便座ヒータの略全面に配設したことである。
線状ヒータ460は、発熱線463aの周囲がエナメル層463bおよび絶縁被膜層462で覆われていることで通常は二重の絶縁が保たれている。線状ヒータ460は粘着層452の効果によって金属箔451および453の間に挟まれている形で配されておりいる。通電によって線状ヒータ460が発熱すると、その熱は金属箔451および453に伝導し、シート状の便座ヒータ450全体が均一な状態で温度上昇する効果を有するが、もし仮に線状ヒータ460の周囲(金属箔との間)に空気層が存在した場合、線状ヒータ460から発せられた熱の放熱が阻害され、ヒータ線温度が上昇してしまう。ヒータ線温度がエナメル層463bおよび絶縁被膜層462の耐熱温度を超えると被覆材料の劣化が進行して絶縁性が破壊され、最終的には発熱線463aの断線に至ってしまう。
空気層をできるだけ発生させないための工夫として、あらかじめ金属箔453と、耐熱絶縁層455と、粘着層452bを貫通した空気抜き孔751cを設けておき、線状ヒータ460を金属箔でサンドイッチした直後にローラープレス加工をかけることで、内部から余分な空気が抜けた状態でしっかりと2枚の金属箔が線状ヒータ460に密着する効果を得ることができる。
(3−j)便座ヒータ450の第6の構造例
図23は、上部便座ケーシング410に取り付けられる便座ヒータ450の第6の構造例を示す断面図である。
本例が第5の構造例と異なっている点は、図23に示すように、金属箔453の外側に一体ラミネート加工された耐熱絶縁層455aで覆い、粘着層452bの裏面にPETフィルムによる耐熱絶縁層455cと粘着層452cを追加するとともに、金属箔を451、453の端面部分の全周に亘り電気絶縁性に優れた材質によって防水シール495を施した点である。
線状ヒータ460は、発熱線463aの周囲がエナメル層463bおよび絶縁被膜層462で覆われていることで通常は2重の絶縁が保たれている。線状ヒータ460は粘着層452の効果によって金属箔451および453の間に挟まれている形で配されており、金属箔の外側にはそれぞれ金属箔に対して一体ラミネート加工された耐熱絶縁層455a、455bで覆われた構成を有している。通電によって線状ヒータ460が発熱すると、その熱は金属箔451、453に伝導し、シート状の便座ヒータ450全体が均一な状態で温度上昇する効果を有するが、もし仮に線状ヒータ460の周囲(金属箔との間)に空気層が存在した場合、線状ヒータ460から発せられた熱の放熱が阻害され、ヒータ線温度が上昇してしまう。ヒータ線温度がエナメル層463bおよび絶縁被膜層462の耐熱温度を超えると被覆材料の劣化が進行して絶縁性が破壊され、最終的には発熱線463aの断線に至ってしまう。
空気層をできるだけ発生させないための工夫として、あらかじめ金属箔453および絶縁被覆層455bに空気抜きのための貫通孔701を設けておき、線状ヒータ460を金属箔でサンドイッチした直後にローラープレス加工をかけることで、内部から余分な空気が抜けた状態でしっかりと2枚の金属箔が線状ヒータ460に密着する効果を得ることができる。図23は、空気抜き孔451cを金属箔451、耐熱絶縁層455b、粘着層452bを貫通して設けた構成を示しているが、空気抜き孔451cを金属箔453および耐熱絶縁層455aに設けた場合でも同様の効果を得ることができる。
金属箔451、453に導通するリード線を設け、そこに流れる電流を監視することによって、線状ヒータ460の絶縁性が何らかの原因によって損なわれた場合、通電によってヒータ線から漏れ流れた電流を電気回路によって検知して通電を停止させて安全性を確保することが可能である。このような絶縁破壊検知回路を採用する場合においては、もし便座内部に水が浸入し、かつ便座表面も濡れている場合などでも、検知回路と人体との間に導通が発生しないための配慮として、金属箔451、453の浸水絶縁性を確保することが必要となる。
図23で示すように、空気抜き孔451cを塞ぐ目的で耐熱絶縁層455cを粘着層452cの効果で貼り付け、金属箔451、453の端面部分については電気絶縁性に優れた材質によって防水シール495を施すことで浸水絶縁性能を満足させることが可能である。防水シール495の材質、形状については、防水性および電気絶縁性を満足するものであれば、テープ状の材料やシリコンコーティング剤など、加工性を考慮した上で自由に選択することができる。図23は、空気抜き孔451cを塞ぐための耐熱絶縁層455cが便座ヒータ450と上部便座ケーシング410との間に配されているが、空気抜き孔451cが金属箔451および耐熱絶縁層455a側に設けた場合は、耐熱絶縁層455cは便座ヒータ450の内部側に配されることになるため、上部便座ケーシング410との間にヒータからの伝熱を阻害する要因が追加されることがないという利点を有する。
また、金属箔451、453の端面と、耐熱絶縁層455cの端面との沿面距離を十分に設けておくことで、もし仮に防水シール700が損なわれた場合においても、水が介在しない条件においては空間による絶縁性を確保することができる。絶縁性を確保するための十分な沿面距離寸法としては最低でも2.5〜3mm以上が必要である。
(3−k)発熱線463aの被覆厚さ
図24は、発熱線463aの被覆厚さと便座部400の各部の温度上昇との関係の測定結果を示す図である。図24において、横軸は発熱線463aの被覆厚さを表し、縦軸は通電開始から6秒後の温度上昇値[K]を表す。
測定には、図21の構造を有する便座ヒータ450を用いた。発熱線463aの被覆厚さは、発熱線463aとアルミニウム板413との間の厚さであり、本例では、エナメル層463b、耐熱絶縁層455、粘着層452aおよび塗装膜414の合計の厚さである。
ここでは、6秒で約10Kの便座部400の着座面410Uの温度上昇を実用昇温性能とし、6秒で約13Kの温度上昇を目標昇温性能とした。
図24において、丸印は便座部400の着座面410Uの温度上昇値であり、三角印はアルミニウムからなる金属箔451の温度上昇値であり、四角印は絶縁被覆層462の温度上昇値である。
図24の結果から、発熱線463aの被覆厚さが0.4mm以下の場合には、実用昇温性能が得られることがわかる。また、発熱線463aの被覆厚さが0.2mm以下の場合には、目標昇温性能が得られることがわかる。したがって、発熱線463aの被覆厚さは、0.4mm以下であることが好ましく、0.2mm以下であることがより好ましい。
(3−l)絶縁被覆層462の材料
次に、図21の構造を有する3種類の便座ヒータ450に交流100Vの電圧を印加して発熱線463aの温度を測定した。
第1の便座ヒータ450では、絶縁被覆層462の材料として膜厚100μmおよび耐熱温度260℃のPFAを用い、耐熱絶縁層455,456の材料としてそれぞれ膜厚25μmおよび耐熱温度150℃のPETを用いた。第2の便座ヒータ450では、絶縁被覆層462の材料として膜厚35〜40μmおよび耐熱温度350℃のPI巻被覆を用い、耐熱絶縁層455,456の材料としてそれぞれ膜厚25μmおよび耐熱温度150℃のPETを用いた。第3の便座ヒータ450では、絶縁被覆層462の材料として膜厚35〜40μmおよび耐熱温度350℃のPI巻被覆を用い、耐熱絶縁層455,456の材料としてそれぞれ膜厚3〜6μmおよび耐熱温度90℃のアクリル樹脂を用いた。
第1の便座ヒータ450については、発熱線463aの温度がPFAからなる絶縁被覆層462の耐熱温度260℃よりも低い162.3℃となった。第2の便座ヒータ450については、発熱線463aの温度がPIからなる絶縁被覆層462の耐熱温度350℃よりも低い155.4℃となった。第3の便座ヒータ450については、発熱線463aの温度がPIからなる絶縁被覆層462の耐熱温度350℃よりも低い125.7℃となった。
これらの結果から、絶縁被覆層462の材料として、PFAだけでなく、PI等の他の樹脂を用いることができることがわかった。
(3−m)線状ヒータ460とリード線470との接続方法
図25は、線状ヒータ460とリード線470との接続方法を示す図である。図26は、線状ヒータ460とリード線470との接続部の断面図である。図27は、熱カシメの方法を示す図である。
図25および図26に示すように、リード線470の芯線は端子471に接続されている。端子471がU字形状に折曲され、線状ヒータ460の屈曲された先端部が端子471のU字形状の折曲部内に挿入される。
この状態で、図27に示すように、端子471のU字形状の折曲部を一対の電極EL1,EL2で挟み込む。一対の電極EL1,EL2で端子471のU字形状の折曲部を押圧しつつトランスTSから電極EL1,EL2を通して端子471および線状ヒータ460に電流を供給する。それにより、図26に示すように、絶縁被覆層462および線状ヒータ460のエナメル層463bが溶融する。その結果、線状ヒータ460の発熱線463aが接触点463Cで端子471に接触する。
図25に示すように、リード線470の端子471と線状ヒータ460との接続部475には例えば厚さ12μmのポリイミド薄膜からなる耐熱シート480が2〜3回巻き付けられる。さらに、リード線470の端子471と線状ヒータ460との接続部475は、シリコーン樹脂で被覆され、図5〜図21の金属箔451,453間に挟み込まれる。
このように、線状ヒータ460の発熱線463aの熱が金属箔451,453およびリード線470の端子471に伝導する。それにより、発熱線463aの局部過熱および断線が防止され、便座ヒータ450の均熱性が確保される。
また、線状ヒータ460の発熱線463aとリード線470の端子471との接続部475が耐熱シート480およびシリコーン樹脂の二重絶縁構造を有する。この場合、接続部475の熱が耐熱シート480およびシリコーン樹脂を通して便座ヒータ450の金属箔451,453に伝導する。それにより、十分な絶縁性を確保しつつ発熱線463aの局部過熱および断線が防止される。
さらに、線状ヒータ460の発熱線463aとリード線470の端子471とが熱カシメにより接続されるので、薄く確実な電気的接続が実現される。また、発熱線463aの浮き上がりが防止されるので、発熱線463aの局部過熱および断線が防止される。
なお、便座部400の安全性確保のために、便座装置110には2つの安全回路が内蔵されている。1つの安全回路は、便座ヒータ450の一方のリード線470とプリント基板230内部の便座ヒータ絶縁破壊検知回路との間に接続され、他の1つの安全回路は、便座ヒータ450の両方のリード線470と便座ヒータ断線検出回路との間に接続されている。いずれの安全回路も便座ヒータ402に異常が発生したときに使用者の感電を防止するために用いるものである。
便座ヒータ絶縁破壊検知回路は、便座ヒータ450が異常発熱した際の絶縁被覆層462溶融時に便座ヒータ450と金属箔451の間に電流が流れることを検出するものである。また、便座ヒータ断線検出回路は、便座ヒータ450両端に発生する電圧波形が便座ヒータ450断線時には発生しなくなることを検出するものである。ヒータ駆動部402は、2つの安全回路の両方が正常状態を検出しているときにのみ便座ヒータ450に通電を行う。
(3−n)便座ヒータ450の動作
次に、便座ヒータ450の動作について説明する。便座ヒータ450のヒータ始端部460aとヒータ終端部460bとの間に一定の電圧が印加されると、内部の発熱線463aを電流が流れ、この発熱線463aが発熱する。このとき、発生した熱は、発熱線463aからエナメル層463bおよび金属箔451,453を通って上部便座ケーシング4
10の着座面410Uに伝導する。
線状ヒータ460は、絶縁被覆層462が260℃程度の耐熱性を有するPFAにより形成されるため、絶縁被覆層462の厚みが例えば0.1〜0.15mmと薄くても、発熱線463aの100〜150℃への急速昇温時にもエナメル層463bが破壊されることが防止される。したがって、線状ヒータ460から着座面410Uへの熱伝導を迅速に進行させることにより、着座面410Uを急速に昇温させることができる。
この場合、線状ヒータ460への通電開始から所定の最適温度に到達するのは5〜6秒と短時間であり、例えば、使用者がトイレットルームに入室して着座面410Uに着座するまでに要する7〜8秒より短時間である。したがって、使用者がトイレットルームに入室したことを入室検知センサ600により検知されると同時に線状ヒータ460に通電を開始しても、使用者が着座するまでには着座面410Uを十分に最適温度に到達させることができる。
さらに、図7の着座面410Uの内側の領域G3および外側の領域G1は、中央部の領域G2に比べて放熱性が高い。本実施の形態では、内側の領域G3および外側の領域G1では、中央部の領域G2に比べて線状ヒータ460が密に配列される。したがって、使用者が着座面410Uに着座した瞬間に温度むらおよび冷感を感じることがない。
一方、線状ヒータ460は、全長10m程度と長く、発熱線463aの急速昇温に伴って急速な膨張が発生し、結果として長さ方向に伸張する。また、通電が停止された場合は、発熱線463aの温度が低下し、収縮により元の長さに戻る。つまり、発熱線463aには熱膨張および熱収縮による熱応力歪が反復して形成される。
線状ヒータ460と金属箔451,453との密着が弱く、または線状ヒータ460と着座面410Uとの間に隙間が形成された場合、熱応力歪全体がそれらのうちの最も動きやすい箇所に集中する。その結果、線状ヒータ460に比較的強い屈伸運動が発生し、その応力疲労の蓄積により発熱線463aの破断といった線状ヒータ460の破損が発生する。
本例では、線状ヒータ460に熱応力緩衝部として複数の折曲部が形成されるので、これらの折曲部が全体の熱応力歪を細かく分散させるとともに、折曲部が熱応力歪を吸収する作用をも果たす。したがって、折曲部での熱応力は極めて小さく、結果として微小な屈伸の発生に留まる。その結果、発熱線463aの破断という事態には至らず、線状ヒータ460の長寿命化および耐久性が向上する。
なお、比較的放熱の多い着座面410Uの内側の領域G3および外側の領域G1では、中央部の領域G2に比べて線状ヒータ460の間隔を大きくし、折曲部の数を少なくてもよい。
上記のように、線状ヒータ460の全長はほぼ10mと長く、かつ線状ヒータ460には折曲部が形成される。そのため、着座面410Uへの線状ヒータ460の装着時に、これらの線状ヒータ460の配列を維持および固定化する必要がある。線状ヒータ460を金属箔451,453で挟持した状態で線状ヒータ460を金属箔451,453に密着させることによりユニット化された便座ヒータ450が構成される。したがって、線状ヒータ460の配列を強固に維持した状態で線状ヒータ460を着座面410Uに接着することができる。
また、金属箔451,453により線状ヒータ460が挟持されるように構成されるの
で、金属箔451,453により均等に熱分散が行われる。それにより、線状ヒータ460が高温化することを防止することができる。また、着座面410Uが均熱化されるとともに、便座ヒータ450の破損が防止される。
(3−o)便座装置110の通電シーケンス
便座ヒータ450の駆動の制御は、便座ヒータ450を駆動する電力を大きく3つに変化させることにより行う。
例えば、便座部400を第1の温度勾配で昇温させる場合、図3のヒータ駆動部402は約1200Wの電力で便座ヒータ450を駆動する(1200W駆動)。
前述のように、便座ヒータ450の抵抗値は0.833Ω/mであり、全長10mである。したがって、便座ヒータ450の抵抗値は8.33Ωとなる。この抵抗値を有する便座ヒータ450に交流100Vが印加されると、(100V×100V)÷8.33Ω=1200Wの電力が発生する。すなわち、便座ヒータ450に交流電源の全周期に渡って電流を流すことにより、1200Wの電力が発生する。
また、便座部400を第1の温度勾配よりもやや緩やかな第2の温度勾配で昇温させる場合、ヒータ駆動部402は約600Wの電力で便座ヒータ450を駆動する(600W駆動)。さらに、便座部400の温度を一定に保つ場合、ヒータ駆動部402は約50Wの電力で便座ヒータ450を駆動する(低電力駆動)。なお、低電力駆動とは、1200W駆動および600W駆動に比べて十分に低い電力(例えば、0W〜50Wの範囲内の電力)により便座ヒータ450を駆動することをいう。
1200W駆動、600W駆動および低電力駆動の切替えは、制御部90の通電率切替回路が、ヒータ駆動部402から便座ヒータ450への通電を制御することにより行われる。
ヒータ駆動部402には図示しない電源回路から交流電流が供給されている。そこで、ヒータ駆動部402は、通電率切替回路から与えられる通電制御信号に基づいて供給された交流電流を便座ヒータ450に流す。
図28は、便座ヒータ450の駆動例および便座部400の表面温度の変化を示す図である。
図28においては、便座部400の表面温度と時間との関係を示すグラフと、便座ヒータ450を駆動する際の通電率と時間との関係を示すグラフとが示されている。これら2つのグラフの横軸は共通の時間軸である。
本例では、使用者が予め暖房機能をオンし、便座設定温度を高く(38℃)設定した場合を想定する。
冬季等室温が待機温度である18℃よりも低い場合、制御部90(図3)は、便座部400の温度を18℃となるように温度調整する。このように、制御部90は、入室検知センサ600により使用者の入室が検知されるまでの待機期間D1の間、便座部400の表面温度が18℃で一定となるように、便座ヒータ450の低電力駆動を行う。
制御部90は、時刻t1で入室検知センサ600により使用者の入室が検知された場合、突入電流低減期間D2の間、600W駆動を行う。なお、この600W駆動は、突入電流を十分に低減するために行う。この場合、便座部400の表面温度はやや緩やかな第2
の温度勾配で上昇される。
その後、制御部90は、突入電流低減期間D2の経過後の時刻t2で、便座ヒータ450の1200W駆動を開始し、第1の昇温期間D3の間便座ヒータ450の1200W駆動を継続する。この場合、便座部400の表面温度は上述の第1の温度勾配で上昇される。
ここで、便座部400の表面温度は急激に上昇される。便座ヒータ450の1200W駆動は、便座部400の表面温度が所定温度(例えば30℃)に達するまで行われる。もちろん、この所定温度は暖房温度として設定された温度であってもよいが、この所定温度は暖房温度にまで十分に上昇した温度でなく、それよりも低くても、使用者が着座した際に冷たいという不快感情を生じない最低限界の温度(限界温度)であればよい。この限界温度は、発明者らの実施した被験者実験により約29℃であることがわかっている。
このように、第1の昇温期間D3においては、便座部400の表面温度が1200W駆動により迅速に所定温度まで上昇される。それにより、使用者は便座部400を冷たいと感じることなく便座部400に着座することができる。
また、上述のように、便座部400の表面温度を急激に上昇させると、その温度変化にオーバーシュートが生じる。しかしながら、本例では、便座部400の表面温度が所定温度に達したときに便座ヒータ450の1200W駆動を600W駆動に切替える。したがって、便座部400の表面温度の変化がオーバーシュートした場合でも、その表面温度は便座設定温度を超えない。その結果、使用者が着座時に便座部400を熱いと感じることが防止される。
続いて、制御部90は、第1の昇温期間D3の経過後の時刻t3で、便座ヒータ450の600W駆動を開始し、第2の昇温期間D4の間便座ヒータ450の600W駆動を継続する。この場合、便座部400の表面温度は上述の第2の温度勾配で上昇される。
便座ヒータ450の600W駆動は、便座部400の表面温度が便座設定温度(38℃)に達するまで行われる。
第2の温度勾配は第1の温度勾配よりも緩やかである。これにより、便座部400の表面温度の変化に大きなオーバーシュートが生じることが防止される。
制御部90は、第2の昇温期間D4の経過後の時刻t4で、便座ヒータ450の低電力駆動を開始し、第1の維持期間D5の間便座ヒータ450の低電力駆動を継続する。それにより、便座部400の表面温度が便座設定温度で一定となる。
制御部90は、時刻t5で着座センサ290により使用者の便座部400への着座が検知された場合、低電力駆動の通電率を低下させ、第1の着座期間D6の間便座部400の表面温度が便座設定温度を維持するように便座ヒータ450の低電力駆動を継続する。本例では、第1の着座期間D6は約10分に設定される。
また、制御部90は、第1の着座期間D6の経過後の時刻t6で、低電力駆動の通電率をさらに低下させ、第2の着座期間D7の間便座部400の表面温度が便座設定温度よりもやや低い温度(36℃)に低下するように便座ヒータ450の低電力駆動を継続する。本例では、第2の着座期間D7は約2分に設定される。
制御部90は、第2の着座期間D7の経過後の時刻t7で、低電力駆動の通電率をさら
に低下させ、第2の維持期間D8の間便座部400の表面温度が便座設定温度よりもやや低い温度(36℃)で一定となるように便座ヒータ450の低電力駆動を継続する。以下の説明では、第2の維持期間D8において一定に維持される期間便座部400の表面温度、すなわち便座設定温度よりもやや低い温度を維持温度と称する。
このように、本例では、使用者が便座部400に着座した後、制御部90が徐々に便座部400の表面温度を低下させる。それにより、使用者が低温やけどすることが防止される。
制御部90は、時刻t8で着座センサ290により使用者が便座部400から離れたことを検知すると、停止期間D9の間便座ヒータ450の駆動を停止する。それにより、便座部400の表面温度が低下する。
制御部90は、便座部400の表面温度が18℃に達した時刻t9で、再び便座ヒータ450の低電力駆動を開始し、便座部400の表面温度が18℃で一定となるように待機期間D10の間便座ヒータ450の低電力駆動を維持する。
このように温度勾配が徐々に緩やかになる場合、便座部400の温度変化により生じるオーバーシュートを十分に小さくすることができる。
本例では、使用者の便座部400への着座後、便座ヒータ450の駆動に用いる電力を調整することにより便座部400の表面温度を徐々に低下させているが、便座ヒータ450の駆動は使用者の便座部400への着座時に停止してもよい。この場合においても、使用者が低温やけどすることが防止される。
上記のように、本例では、時刻t8に使用者が便座部400から離れたことが検知されることにより便座ヒータ450の駆動が停止される旨を説明したが、便座ヒータ450の駆動の停止は、使用者が便座部400から離れたことが検知された時刻t8から一定時間(例えば1分間)経過後に行われてもよい。この場合、一度使用者が便座部400から離れた後に再度便意をもよおし、再度便座部400に着座する際にも、便座部400の表面温度が低下しない。これにより、使用者は快適に便座部400に着座することができる。
1200W駆動時、600W駆動時および低電力駆動時における便座ヒータ450への通電状態を通電率切替回路の通電制御信号とともに説明する。
以下の説明において、通電率とは交流電流の1周期に対して便座ヒータ450に交流電流を流す時間の割合をいう。
図29(a)は1200W駆動時に便座ヒータ450を流れる電流の波形図、図29(b)は1200W駆動時に通電率切替回路からヒータ駆動部402に与えられる通電制御信号の波形図である。
図29(b)に示すように、1200W駆動時における通電制御信号は常に論理「1」となる。ヒータ駆動部402は通電制御信号が論理「1」のときに電源回路から供給される交流電流を便座ヒータ450に流す(図29(a)太線部)。それにより、全周期の期間に渡って交流電流が便座ヒータ450に流れる。その結果、便座ヒータ450が約1200Wの電力で駆動される。
図30(a)は600W駆動時に便座ヒータ450を流れる電流の波形図、図30(b)は600W駆動時に通電率切替回路からヒータ駆動部402に与えられる通電制御信号
の波形図である。
図30(b)に示すように、600W駆動時における通電制御信号は、ヒータ駆動部402に供給される交流電流と同じ周期のパルスからなる。パルスのデューティー比は50%に設定される。
ヒータ駆動部402は通電制御信号が論理「1」のときに電源回路から供給される交流電流を便座ヒータ450に流す(図30(a)太線部)。それにより、半周期の期間交流電流が便座ヒータ450に流れる。その結果、便座ヒータ450が約600Wの電力で駆動される。
図31(a)は低電力駆動時に便座ヒータ450を流れる電流の波形図、図31(b)は低電力駆動時に通電率切替回路からヒータ駆動部402に与えられる通電制御信号の波形図である。
図31(b)に示すように、低電力駆動時における通電制御信号は、ヒータ駆動部402に供給される交流電流と同じ周期のパルスからなる。パルスのデューティー比は50%よりも小さく(例えば数%程度)に設定される。
ヒータ駆動部402は通電制御信号が論理「1」のときに電源回路から供給される交流電流を便座ヒータ450に流す(図31(a)太線部)。各周期においては、パルス幅に相当する期間交流電流が便座ヒータ450に流れる。その結果、便座ヒータ450が例えば約50Wの電力で駆動する。
上記の他、便座部400の温度を低くする場合、または便座装置110の暖房機能をオフしている場合等には、通電率切替回路はヒータ駆動部402に通電制御信号を与えない(通電制御信号を論理「0」に設定する)。これにより、ヒータ駆動部402は便座ヒータ450を駆動しない。
ここで、一般に、電子機器に供給される電流が高調波成分を有する場合、ノイズが発生する。本例では、上述のように便座ヒータ450の1200W駆動または600W駆動を行う場合には、便座ヒータ450に供給される電流がサインカーブを描くように変化するので、電流の大きさが大きくなってもノイズの発生が十分に低減される。
また、便座ヒータ450の低電力駆動を行う場合、便座ヒータ450に供給される電流は高調波成分を有するが、電流の大きさが1200W駆動時および600W駆動時に比べて非常に小さいので、ノイズの発生が十分に低減される。
上記のように、本実施の形態では、便座ヒータ450を1200W、600Wおよび約50Wの電力で駆動するとしているが、他の大きさの電力で便座ヒータ450を駆動してもよい。
例えば、便座ヒータ450に半周期の期間交流電流を流す場合には、交流電流を流すタイミングを2周期または3周期等所定の周期の間隔で設定する。それにより、1200W、600Wおよび約50Wとは異なる大きさの電力で、ノイズの発生を十分に防止しつつ便座ヒータ450を駆動することができる。
なお、本例では、制御部90は通電制御信号が論理「1」のときに便座ヒータ450に電流を供給し、通電制御信号が論理「0」のときに便座ヒータ450への電流の供給を停止しているが、通電制御信号が論理「1」のときに便座ヒータ450への電流の供給を停
止し、通電制御信号が論理「0」のときに便座ヒータ450に電流を供給してもよい。
なお、便座ヒータ450のオンおよびオフは時間により制御されるため、時間の計測がずれると便座部400の温度が所定値を超えたり、所定値に達しない。そこで、時間の計測がずれないように、制御部90では、2つの計測源にて便座部400のオンの時間を計測する。1つの計測源として、制御部90のプログラムの実効速度を規定する発振子により便座ヒータ450のオンの時間を計測し、もう1つの計測源して、交流電圧の周期を基準として便座ヒータ450のオンの時間を計測する。これらの計測値の少なくとも一方が規定時間を超過すると、次の通電パターンに移行する。
特に、便座に1200W通電される時間が正確に計測されることにより過昇温が確実に防止される。これにより、さらに機器の安全性が向上する。ここでは、計測源を複数設けることにより計測の精度を向上させる方法について記載したが、便座ヒータ450がフル通電される時間を計測し、強制的にヒータへの通電を遮断もしくは制限する方法であっても、同様の効果を得ることができる。
(3−o)便座装置110に関する効果
本例の便座装置110においては、線状ヒータ460の発熱線463aで発生された熱がエナメル層463bおよび絶縁被覆層462を介して上部便座ケーシング410に伝達される。それにより、着座面410Uの温度が上昇する。
ここで、エナメル層463bは十分な電気絶縁性を有する。そのため、エナメル層463bの厚さを小さくしても、発熱線463aと上部便座ケーシング410とを十分に絶縁することができる。また、それにより、絶縁被覆層462の厚さも小さくすることができる。
したがって、この便座装置110においては、発熱線463aと上部便座ケーシング410のアルミニウム板413とを確実に絶縁しつつ、エナメル層463bおよび絶縁被覆層462の厚さを小さくすることができる。この場合、エナメル層463bおよび絶縁被覆層462の熱容量を小さくすることができるので、発熱線463aで発生された熱を効率よく着座面410Uに伝達することが可能となる。
また、この便座装置110においては、上部便座ケーシング410にアルミニウム板413が用いられている。したがって、発熱線463aで発生された熱をさらに効率よく着座面410Uに伝達することができる。
以上の結果、発熱線463aと上部便座ケーシング410のアルミニウム板413とを確実に絶縁しつつ、着座面410Uを迅速に昇温させることが可能となる。
また、発熱線463aの熱を効率よく着座面410Uに伝達することができるので、発熱線463aの発熱量を抑制することができる。それにより、エナメル層463bおよび絶縁被覆層462の耐久性が向上する。その結果、便座装置110の信頼性が向上する。
また、発熱線463aと上部便座ケーシング410のアルミニウム板413とを絶縁するためのエナメル層463bおよび絶縁被覆層462の厚さを小さくすることができるので、便座装置110の軽量化が可能となる。
また、十分な耐熱性を有するエナメル層463bで発熱線463aを被覆しているので、絶縁被覆層462として耐熱性の低い材料を用いることができる。それにより、便座装置110の製品コストを確実に低減することができる。
また、エナメル層463bがポリエステルイミドまたはポリアミドイミドにより形成される場合、ポリエステルイミドおよびポリアミドイミドは電気絶縁性および耐熱性に優れているので、発熱線463aと上部便座ケーシング410のアルミニウム板413とをより確実に絶縁しつつ、着座面410Uを迅速に昇温させることが可能となる。
さらに、エナメル層463bの厚さおよび絶縁被覆層462の厚さの合計が0.4mm以下である場合、発熱線463aと上部便座ケーシング410のアルミニウム板413とを確実に絶縁しつつ、着座面410Uをより迅速に昇温させることができる。
特に、エナメル層463bの厚さおよび絶縁被覆層462の厚さの合計が0.2mm以下である場合、着座面410Uをさらに迅速に昇温させることができる。
また、絶縁被覆層462がエナメル層463bより耐熱性の低い材料からなるので、便座装置110の製品コストを十分に低減できる。
また、線状ヒータ460が上部便座ケーシング410の裏面側に設けられる金属箔451と金属箔453との間に挟まれるように設けられるので、発熱線463aで発生された熱が金属箔451,453に効率よく伝達される。また、金属箔451の一面が上部便座ケーシング410の裏面に貼着されかつ金属箔453の一面が金属箔451の他面に貼着されている。それにより、発熱線463aから金属箔451,453に伝達された熱を上部便座ケーシング410の裏面全体に効率よく伝達することができる。それにより、着座面410Uの全体を均一に昇温させることができる。
特に、金属箔451,453がアルミニウムからなる場合、発熱線463aで発生された熱を上部便座ケーシング410により迅速に伝達することができる。
さらに、上部便座ケーシング410の裏面と金属箔451との間に耐熱絶縁層455が設けられる場合、耐熱絶縁層455により発熱線463aと上部便座ケーシング410のアルミニウム板413とをより確実に絶縁することができる。
また、リード線470と線状ヒータ460との接続部475が金属箔451と金属箔453との間に設けられるので、リード線470と線状ヒータ460との接続部475における発熱が金属箔451,453に伝達される。それにより、着座面410Uをより迅速に昇温させることができる。
また、接続部475は耐熱シート480で被覆されているので、接続部475と上部便座ケーシング410とを確実に絶縁することができる。
さらに、接続部475がシリコーン樹脂で被覆されるので、接続部475を確実に防水することができる。
線状ヒータ460の発熱線463aとしてAg−Cu合金からなる高抗張力型ヒータ線が用いられるので、発熱線463aの強度を確保しつつ発熱線463aの径を小さくすることができる。それにより、狭いスペースに長い発熱線463aを高い密度で配列することができる。その結果、着座面410Uの昇温速度を向上させることができる。