本発明は、圧縮機の駆動トルクと負荷トルクの不平衡に基づく回転振動を低減するための、圧縮機に接続されたモータの制御装置に開する。
圧縮機においては、1回転の間に吸入、圧縮、吐出の各行程における冷媒ガス圧の変化のため、定常的な負荷トルク変動が発生する。一方、圧縮機に接続された駆動モータは、1回転中に一定な駆動トルクを発生するように運転されているため、この駆動トルクと負荷トルクとの不平衡に起因した回転数変動を生じ、それによって振動が発生する。
このような振動を防止するため、例えば、特許文献1には、負荷トルクが周期性を有して変化する負荷を駆動する電動機と、この負荷トルクの変動の一周期をn分割して得られたn個の領域毎の速度を検出する手段と、この手段によって検出された速度データを使用し、電動機の速度を指令速度に合わせるように電動機に付与する電流あるいは電圧を調整制御する制御装置とを有し、分割された領域毎に速度検出を行ない、回転脈動を減じるように電動機に加える電圧もしくは電流のn個のデータの少なくとも1つのデータを修正して制御するようにした速度制御方法において、負荷トルクに対し電動機出力トルクが一致しないまま運転されることを防止するため、前記負荷トルクの変動の周期あるいはこれより長い周期の平均速度を検出する平均速度検出手段と、この平均速度検出手段から得られた平均速度データと指令速度とから、前記各領域毎に平均偏差速度データを作成する平均偏差速度データ作成手段と、平均偏差速度データ作成手段によって作成された平均偏差速度データに基づき、前記で分割された少なくとも一つの領域の平均偏差速度を減じるように電流指令データ、あるいは電圧指令データを補正する補正手段とを有する電動機の速度制御装置が開示されている。
また、特許文献2には、圧縮機の1回転中の負荷トルクの変化パターンに対応したパターンで変化する係数を予め記憶させた記憶手段と、モータの回転角度に基づき、この回転角度に対応する係数を記憶手段から出力させる出力手段と、記憶手段から出力される係数を平均電圧指令に乗じ、新たな電圧指令を形成する乗算手段とを備え、新たな電圧指令に基づいてモータを駆動し、モータのトルクを一回転中における負荷トルクの変化に追従させるようにした、圧縮機用モータの制御装置が開示されている。
さらに特許文献3には、1回転の間に負荷トルクが周期的に変化する負荷を駆動するモータに対し、負荷トルクの変動に対応させたトルクパターンを記憶してロータの回転位置に応じ、トルク制御を行うようにしたモータ制御装置において、トルクパターンがモータの回転数の高低にかかわらず常に固定されていると、広い回転数範囲において十分な振動抑制能力を発揮できずにハンチングが生じるため、モータ1回転での平均回転数を検出し、この回転数を目標回転数と比較して回転数の変動状態が安定状態か過渡状態かを判定し、安定状態であれば目標回転数に応じてトルクパターンを選択し、過渡状態であれば平均回転数に応じてトルクパターンを選択してトルクパターンの頻繁な変更を抑制し、モータの回転数を安定状態に維持してハンチングを発生しないようにした、モータ制御方法およびモータ制御装置が開示されている。
特許第1966999号、特公平6−97868号公報
特開2001−295769号公報
特開2003−70282号公報
しかしながら、特許文献1に示された電動機の速度制御装置および電動機の速度制御法は、各分割区間ごとに速度を検出する必要や、各区間ごとの電圧もしくは電流値を個別に制御する必要があり、また、少なくとも1つ以上の区間で電圧もしくは電流値を補正する必要があって、制御装置が大きな処理性能を求められてコストアップする。
また、特許文献2に示された圧縮機用モータの制御装置は、モータの出力トルクを負荷トルクの変化に追従させるため、モータに印加する電圧とモータのトルクとの関係を、予めシミュレーション等で計算する必要があって開発に時間が掛かっていた。
さらに特許文献3に示されたモータ制御方法およびモータ制御装置は、トルクパターンを変化させるにあたり、モータ1回転中における平均トルクの変化が考慮されていないと、トルクパターンの変化でトルク補償量の平均が増減してモータ1回転中の平均トルクも増減し、回転数変動が発生してその値がトルクパターン変更が実行される設定回転数付近であると、ハンチングが発生してしまうのを防ぐためのものであり、回転数に応じてたくさんのトルクパターンを用意する必要がある。
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、低いコストで高圧縮比時など振動の抑制が難しい場合や、トルクパターンを変更した時のショックを小さくし、振動を確実に抑制できるようにした、圧縮機に接続されたモータの制御装置を提供することを目的とする。
かかる目的のもとになされた本発明になる圧縮機に接続されたモータの制御装置は、
圧縮機に接続されたモータの制御装置であって、
前記モータを目標速度で回転させるため、前記モータに供給する電流値を指令する速度制御部と、
前記モータに供給される電流値を検出する電流センサと、
前記電流値から前記モータの回転位置を推定する位置推定部と、
前記モータの平均負荷トルクを算出する平均トルク計算部と、
前記モータの回転位置に応じて前記モータの出力トルクを変動させるための基準となる正規化トルクパターンを記憶したトルクパクーン記憶部と、
前記平均負荷トルクと前記正規化トルクパターンの積により、前記モータの回転位置に応じて前記モータの出力トルクを変動させるための補償トルクパターンを生成し、前記モータに供給する電流値を補正するトルク制御部と、
を備えることを特徴とする。
また同様に、
圧縮機に接続されたモータの制御装置であって、
前記モータを目標速度で回転させるため、前記モータに供給する電流値を指令する速度制御部と、
前記モータに供給される電流値を検出する電流センサと、
前記電流値から前記モータの回転位置を推定する位置推定部と、
前記モータの平均負荷トルクを算出する平均トルク計算部と、
前記モータの回転位置に応じて前記モータの出力トルクを変動させるための基準となる正規化トルクパターンを複数記憶したトルクパクーン記憶部と、
前記モータの運転状態に基づいて選択される一つの前記正規化トルクパターンと前記平均負荷トルクとの積により、前記モータの回転位置に応じて前記モータの出力トルクを負荷に応じて変動させるための補償トルクパターンを生成し、前記モータに供給する電流値を補正するトルク制御部と、
を備えることを特徴とする。
ここで、正規化トルクパターンとは、モータの回転位置毎にモータの出力トルクを変動させるための係数であり、モータが1回転する間の角度を複数に区分し、それぞれの区分において係数をあらかじめ設定したものである。回転しているモータの平均負荷トルクは、電流センサで検出した電流値から平均トルク計算部で算出することができるので、この平均負荷トルクと正規化トルクパターンの積をトルク制御部で算出する。すると、その時のモータの回転状態(負荷の大きさ)に応じ、正規化トルクパターンを増減させた補償トルクパターンを生成できる。この補償トルクパターンも正規化トルクパターンと同様、モータが1回転する間の角度を複数に区分し、それぞれの区分における係数を設定したものである。この補償トルクパターンを用い、モータに供給する電流値を補正することで、モータに供給される電流はモータの回転位置に応じて補償トルクパターンに基づいて変動し、圧縮機負荷の状態に対応したものとなる。
このような構成において、トルクパクーン記憶部に予め正規化トルクパターンが記憶されており、これを用いてモータに供給する電流値を補正するのでトルク制御が容易に可能となり、滑らかに制御可能となる。また、モータに供給する電流は、トルクと電流の関係式から容易に求められることから、電流指令によるモータ制御を行うことで、トルクパターンを出力トルク値そのままで設定できる。したがって、電圧値をシミュレーション等で計算する必要が無く、開発が容易である。
そして、複数の正規化トルクパターンを用いた場合、前記トルク制御部は、前記複数の正規化トルクパターンから前記平均トルク計算部の算出した前記モータの平均負荷トルクの大小に対応した正規化トルクパターンを選択し、前記補償トルクパターンを生成するようにすれば、平均負荷トルクが大きい場合はそれに対応して大きな補償トルクを、小さい場合は小さな補償トルクを夫々生成する正規化トルクパターンを採用でき、より、目標速度に近い速度が得られると共に、運転回避などの保護制御が可能となる。
また同様に、複数の正規化トルクパターンを用いた場合、前記位置推定部は前記電流値から前記モータの回転位置に対応した回転速度算出機能を有し、前記トルク制御部は、前記複数の正規化トルクパターンから前記モータの回転数変動幅に対応した正規化トルクパターンを選択し、前記補償トルクパターンを生成することで、前記したように1回転の間に吸入、圧縮、吐出の各行程により負荷トルク変動が発生する圧縮機においては、圧力の差が大きいところでは振動が大きく、差が小さいくなると振動も小さくなるので、回転数変動幅を見れば圧縮機の振動状態を推定することができる。従ってこのように、モータの回転数変動幅に対応した正規化トルクパターンを選択することで、負荷状態に応じた目標速度が得られ、過振動の場合は運転回避などの保護制御が可能となる。
さらに同様に、複数の正規化トルクパターンを用いた場合、前記トルク制御部は、前記複数の正規化トルクパターンから前記位置推定部が推定した前記モータの回転位置と回転速度に対応した正規化トルクパターンを選択し、前記補償トルクパターンを生成することで、回転数というのは負荷の変動で加減速するが、圧縮比が小さいところでは負荷トルクが小さな回転角でピークが生じ、圧縮比が高いところでは大きな回転角でピークが生じるから、圧縮機における圧力の高い、低い、すなわち負荷トルクの形に応じたパターンを見ることができ、負荷パターンに合う正規化トルクパターンをダイレクトに選べるから、直接的な値が得られて高精度な選択をすることができる。
そして同様に、複数の正規化トルクパターンを用いた場合、前記トルク制御部は、前記複数の正規化トルクパターンから前記電流センサが検出したモータ電流ピーク値に対応した正規化トルクパターンを選択し、前記補償トルクパターンを生成することで、圧縮機では、モータは常に一定速度で廻るように制御され、そのため、負荷が大きくなればそれだけ電流が多くなり、小さければ電流が少なくなるが、このようにモータ電流ピーク値の大小によって複数の正規化トルクパターンから対応した正規化トルクパターンを選択することで、簡単に補償トルクパターンを生成する正規化トルクパターンを選択することができる。
こうして正規化トルクパターンが選択されたら、特定の正規化トルクパターンから新たな正規化トルクパターンへ切換えるわけであるが、前記トルク制御部は、前記複数の正規化トルクパターンの一から他の正規化トルクパターンへの切換え状態において、両パターンにおけるトルク差を一定割合で増加させ、または減少させながら前記補償トルクパターンを生成するようにすることで、パターンの切換えが一挙に行われることがなく、パターンの切換えで電流値が大きく増減することによる振動や、速度ショックなどを防止しながら切換えを行うことができる。
また同様に、前記トルク制御部は、前記複数の正規化トルクパターンの一から他の正規化トルクパターンへの切換え状態において、前記位置推定部が推定した前記モータの回転位置における両パターンの負荷トルクが小さい角度で前記切換えを行うようにすることで、パターンの切換えで振動が生じるのは、負荷トルクが大きい位置での切換えにより過渡的な速度変動、電流振動等が大きくなるからであり、このようにモータの回転位置における両パターンの負荷トルクが小さい角度で切換えを行うことで、負荷トルクが小さい角度ではモータへの電流が小さく、従ってそれによる振動が起こることが少なくなって、過渡的な速度変動、電流振動等のショックを小さくすることができる。
そして、前記トルク制御部は、前記複数の正規化トルクパターンの一から他の正規化トルクパターンへの切換え状態において、前記他の正規化トルクパターン選択の閾値を他の正規化トルクパターンから一の正規化トルクパターン切換えの場合より大きくまたは小さくし、前記複数の正規化トルクパターンの他から一の正規化トルクパターンへの切換え状態において、前記一の正規化トルクパターン選択の閾値を一の正規化トルクパターンから他の正規化トルクパターン切換えの場合より小さくまたは大きくして判断することで、より確実に一の正規化トルクパターンから他のパターンへ、また逆の切換えを行うことができ、一と他の正規化トルクパターンの間を行ったり来たりし、フラフラすることで電流が振動することを防ぐことができる。
さらに、前記トルク制御部は、前記補償トルクパターンに予め定められた変調率を掛けて前記補償トルクパターンを調整することにより、モータの回転角度の全域にわたり、補償トルクパターンを増減させることが可能となる。
また、前記トルク制御部は、前記モータの回転角度の一部区間のみにおいて前記正規化トルクパターンを増減し、前記補償トルクパターンを調整することで、例えばモータの出力トルクがピークとなるような回転角度の一部区間において、正規化トルクパターンを増減させることで、さまざまなトルクの出方に対応してモータで発生するトルクを合わせ込むことができる。
ここで、前記トルク制御部は、前記モータの回転数の幅が小さくなるように前記したような正規化トルクパターンの増減や、最適な正規化トルクパターンの選択を行って、モータに供給する電流値を補正することで、より圧力比が大きい過負荷領域でも、モータ出力トルクと負荷トルクをマッチングさせることができ、広範囲な圧力条件で電動圧縮機を運転することが可能となる。
本発明によれば、予め記憶した正規化トルクパターンを使用してモータのトルクを圧縮機の負荷トルクに追従して変化させることにより、上記負荷トルクの変動に基づく圧縮機の回転変動、つまり、圧縮機の駆動トルクと負荷トルクの不平衡に起因して発生する回転振動を低コストで確実に抑制することができる。
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
最初に、本発明の概略を図9乃至図15を用いて説明する。まず図15(A)は、前記したように1回転の間に吸入、圧縮、吐出の各行程を行う圧縮機の運転範囲40を示した図で、(B)はこの(A)における41の番号を付けた(1)の近辺の負荷トルクと、本発明で用いる正規化トルクパターンの一例を示した図、(C)は同じく42の番号を付けた(2)の近辺の負荷トルクと、本発明で用いる正規化トルクパターンの一例を示した図である。図15(A)において、横軸は圧縮機の低圧(Lp、単位:MPa)、縦軸は高圧(Hp、単位:MPa)であり、(B)、(C)は横軸がモータにおけるロータの回転角度、縦軸がトルク(単位:Nm)である。
図15(A)における40の番号を付したのは、1回転の間に吸入、圧縮、吐出の各行程を行う圧縮機における、圧縮時の高圧と吸入時の低圧の設計上の範囲の一例であり、この範囲40外では高圧の場合は圧縮機が壊れてしまう可能性があり、低圧の場合は圧縮比が高すぎて何処かの部分に応力がかかりすぎる危険性がある。
そしてこの図15(A)において、41の番号を付けた(1)の近辺と42の番号を付けた(2)の近辺とでは、前記吸入、圧縮、吐出の各行程における負荷トルクの大きさが異なり、例えば41の番号を付けた(1)の近辺では、(B)のグラフにおける43の番号を付したカーブのように吸入側と圧縮側の差が小さく、42の番号を付けた(2)の近辺では吸入側と圧縮側の差が大きい。この差は、例えば外気の温度条件や暖房、冷房の違い、圧縮機の回転数、運転方法の違いなどによって変化する。
前記したように圧縮機においては、圧縮機に接続された駆動モータは1回転中に一定の回転速度となるように運転されるが、この1回転の間に生じる吸入、圧縮、吐出の各行程における冷媒ガス圧の変化のため、駆動トルクと負荷トルクとの不平衡に起因した回転数変動を生じ、それによって振動が発生する。そのため、振動を防止するためには、この図15(B)、(C)に示したような、吸入側と圧縮側における負荷トルクの大きさの差を考慮に入れないと振動を確実に防止することができない。そのため本発明においては、この図15(B)、(C)に44、46の番号付したような正規化トルクパターンを負荷トルクの大きさに対応させて選択し、モータの駆動トルクを圧縮機の駆動により生じる負荷トルクと平衡させて、振動を防止するようにしたものである。
この正規化トルクパターン44、46は、例えばモータのロータの回転角度30度毎に、予め算出した負荷の推定変動トルクに合致するよう、モータの出力トルクを変動させるための係数であり、モータの回転角をこのように30度毎の複数に区分し、それぞれの区分における補償トルク係数との関係を表したパターンである。このように正規化トルクパターン44、46を定めることで、モータを回転させるための平均トルク(例えば図15(B)に38で、(C)に39示した点線の値)にこの正規化トルクパターンを乗じ、補償トルクパターンを生成すれば、圧縮機負荷の大きい条件下では正規化トルクパターンが大きく調整された補償トルクパターンが生成され、圧縮機負荷の小さい条件下では、それに合わせて正規化トルクパターンが小さく調整された補償トルクパターンが生成される。
このようにして生成される補償トルクパターンでモータが駆動されるよう本発明においては、まず、回転しているモータにおける電流センサで検出した電流値から、図15(B)、(C)に38、39で示したような平均負荷トルクを算出する。そして、図15(B)、(C)に44、46で示した正規化トルクパターンのうち、その時の回転状況に対応した正規化トルクパターンを選択し、この正規化トルクパターンと平均負荷トルクとを乗じて補償トルクパターンを生成し、その補償トルクパターンによってモータを与える電流を制御することで、圧縮機負荷の状態に対応した駆動が行えるようにしたものである。
このようにすることで、モータに供給する電流値の補正が容易に可能となり、滑らかな制御が可能となる。また、モータに供給する電流はトルクと電流の関係式から容易に求められ、電流指令によるモータ制御を行うことで、トルクパターンを出力トルク値そのままで設定できる。従って、電圧値をシミュレーション等で計算する必要が無く、開発が容易である。
なお、以下の説明では、正規化トルクパターンの係数を30度毎に持たせる場合を例に説明すると共に、正規化トルクパターンが1つと2つの場合を例に説明するが、係数を持たせる角度はこの30度のみにこだわるものではなく、また、正規化トルクパターンの数も3つ以上であっても良いことは自明である。
なお、図15(B)、(C)に44、46で示した正規化トルクパターンのうち、その時の回転状況に対応した正規化トルクパターンの選択には、種々の方法が考えられる。図9は、その第1の方法を説明するための図である。この図9中、(A)は、前記図15の場合と同様圧縮機の運転範囲40と、(C)に示した負荷トルク53の位置51、(B)に示した負荷トルク54の位置52を示した図、(B)は52に対応した負荷トルク54と平均トルク56を示した図、(C)は51に対応した負荷トルク53と平均トルク55を示した図である。図9(A)において横軸は圧縮機の低圧(Lp、単位:MPa)、縦軸は高圧(Hp、単位:MPa)であり、(B)、(C)は横軸がモータにおけるロータの回転角度、縦軸がトルク(単位:Nm)である。
この図9に示した正規化トルクパターン選択の第1の方法では、モータを駆動する平均負荷トルク55、56があるトルクの基準値37より大きいか小さいかを判断し、それによって(B)、(C)に53、54で示した負荷トルクのどちらに対応した正規化トルクパターンを採用するかを決めるものである。すなわち、(B)、(C)に53、54で示した負荷トルクを平均化すると、(B)に56で、(C)に55で示したラインになるが、これがトルクの基準値37より大きいか小さいかを見ることで、(B)、(C)のどちらの負荷トルクに対応した正規化トルクパターンを採用すればよいかわかるから、それによって補償トルクを作成するものである。
なお、この第1番目の方法を実施する制御フローが図10で、図中12は平均トルクを算出するPI制御(比例、積分、微分制御:Propiortinal Integral Differential)、14は回転数指令と実際の回転数との差を求める減算、57は負荷トルクの平均化、58は図9に37で示したような基準値を閾値とした、57で平均化された負荷トルクからなる負荷判断用値との比較、59は図9に53、54で示したトルクパターンをA、A’としたとき、どちらを選択するかの判断である。
まず、減算14に入力された回転数指令とモータに流れる電流値などから算出される実際の回転数との差が求められ、PI制御12で平均トルクが算出される。そして算出された複数の平均トルクが平均化57でさらに平均化され、負荷判断用値が求められる。そして求められた値が58で図9に37で示したような基準値からなる閾値と比較され、平均値がこの閾値より小さい場合は例えば図9(C)のトルクパターンAが、大きい場合は図9(B)のトルクパターンA’が59で選ばれ、前記したような補償トルクの算出が行われるわけである。
正規化トルクパターン選択の2番目の方法は、図11に示したように回転数の変動幅を用いる方法である。この図11(A)において横軸はモータにおけるロータの回転角度、縦軸が回転数、(B)においてLpと記したのは低圧側の圧力(単位:Mpa)、Hpと記したのは高圧側の圧力(単位:Mpa)、縦軸は回転数の変動幅で、回転数は図11(B)の立体グラフに示したように、高圧、低圧の差が大きいところでは大きく、差が小さくなると小さくなって、図11(A)に60で示したように負荷状態によってその振幅が異なっている。
すなわち、高圧、低圧の差が大きいところでは振動が大きく、差が小さいところでは振動が小さい。そのため、図11(A)に60で示した回転数の振幅を見れば圧縮機の振動状態が推定でき、それによって前記図15の(B)、(C)に示したどちらの負荷トルクに対応した正規化トルクパターンを採用すればよいかわかるから、選択した正規化トルクパターンで補償トルクを作成するわけである。
図12は正規化トルクパターン選択の3番目の方法を説明するための図である。この図12中、(A)は前記図15の場合と同様圧縮機の運転範囲40と、この運転範囲40における図12(B)に示したようなモータ電流が流れる位置66、運転範囲40における図12(C)に示したようなモータ電流が流れる位置65を示した図、(B)は(A)に66で示した位置に対応したモータ電流を示した図、(C)は(A)に65で示した位置に対応したモータ電流を示した図である。図12(A)において横軸は圧縮機の低圧(Lp、単位:MPa)、縦軸は高圧(Hp、単位:MPa)であり、(B)、(C)は横軸がモータにおけるロータの回転角度、縦軸が電流(単位:A)である。
この3番目の方法は、モータ電流のピーク電流量がある基準値より大きい過負荷領域であるか、小さい通常領域であるかを計算して負荷状態を判断し、前記図15で説明した(B)、(C)のいずれに示した正規化トルクパターンを選択するかを決定するものである。すなわち、圧縮機に接続されたモータは一般的に回転数が一定であるように制御されるが、モータの負荷が変動しても回転数を一定とするため、モータに与える電流は、負荷が大きくなった場合はこの図12(B)に示したようにそのピーク値を大きく、負荷が小さくなった場合は図12(C)に示したようにそのピーク値を小さくするように制御される。従って、モータ電流値を見れば負荷状態がわかり、それによって前記図15で説明した(B)、(C)のいずれに示した正規化トルクパターンを選択すればよいかを判断することができる。
なお、ここに示した例では電流のピーク値、すなわち圧縮機における高圧側の負荷に対応した電流値のみを見るよう説明したが、この場合、例えば圧縮機に何らかの理由でカジリなどが生じてモータ電流が増加した場合でも同様な制御となるから、例えば低圧側のボトムピーク値を同時に見るようにして、このようなノイズを排除するようにしても良い。
図13は正規化トルクパターン選択の4番目の方法を説明するための図である。この図13中、(A)は前記図15の場合と同様圧縮機の運転範囲40と、この運転範囲40における図13(B)に示したような圧縮機における圧縮比が小さい場合の位置71、運転範囲40における図13(C)に示したような圧縮機における圧縮比が大きい場合の位置72を示した図、(B)は(A)に71で示した位置に対応した圧縮機における圧縮比が小さい場合のモータ回転数のピーク位置を示した図、(C)は(A)に72で示した位置に対応した圧縮機における圧縮比が大きい場合のモータ回転数のピーク位置を示した図である。図13(A)において横軸は圧縮機の低圧(Lp、単位:MPa)、縦軸は高圧(Hp、単位:MPa)であり、(B)、(C)におけるグラフは横軸がモータにおけるロータの回転角度、図上、上のグラフは縦軸が負荷、同じく下のグラフは縦軸が回転数である。
この第4の方法では、モータにおけるロータの回転角度に対する周期的な負荷トルク変動は、圧縮機における負荷状態によって異なり、モータの回転数は負荷トルク変動に伴って加減速することを利用するもので、モータの回転数がピークとなるロータ角度がある基準値より大きいか小さいかを計算することで負荷状態を判断し、それによって前記図15で説明した(B)、(C)のいずれに示した正規化トルクパターンを選択すればよいかを判断するものである。
すなわち、圧縮機における1回転中の負荷トルクの変動というのは、モータのロータの角度に対して特徴があり、モータの回転数は負荷の変動で加減速する。つまり、圧縮機における圧縮比が小さい図13(B)の上のグラフのような場合、負荷トルクのピーク値はロータの角度が小さいとき(図上左寄り)に現れ、大きい図13(C)のような場合、負荷トルクのピーク値はロータの角度が大きいとき(図上右寄り)になる。そしてそれに伴い、図13(B)、(C)における下のグラフに示したように、ロータの回転数のピークが(B)の場合はロータの角度が小さいときに、(C)の場合はロータの角度が大きいときに現れる。
そのためこの第4の方法では、モータにおける回転数のピークが変わることを検出し、それが基準とする角度より大きいか小さいかで、前記図15で説明した(B)、(C)のいずれに示した正規化トルクパターンを選択すればよいかを判断するものである。このようにすることで、圧縮機における圧力の高い、低い、すなわち負荷トルクの形に応じたパターンを見ることができ、負荷パターンに合う正規化トルクパターンをダイレクトに選べるから、直接的な値が得られて高精度な選択をすることができる。
このようにして前記図15の(B)、(C)に示した正規化トルクパターン44、46のどちらを用いるかを判断するわけであるが、この正規化トルクパターン44から例えば46のパターンに切換えるにあたり、負荷の大きい状態のときにこの切換えを実施すると電流値が大きく変化することになり、この図14における(D)の左図に示したように、正規化トルクパターン46(2)から44(1)に切換えに伴って86で示したようなオーバーシュートによる振動が生じる。
これを防ぐ方法を示したのが図14(A)、(B)、(C)である。まず図14(A)はその第1の方法で、横軸がモータにおけるロータの回転角度、縦軸が負荷トルクであり、例えば前記図15の(B)に示した正規化トルクパターン44を81の番号を付したAのパターン、(C)に示した正規化トルクパターン46を82の番号を付したA’のパターンとした場合、それぞれのトルクパターンにおけるトルク差を、一定割合で増加、または減少させながら前記補償トルクパターンを生成するようにしたものである。
すなわち、図14(A)に示した正規化トルクパターン81(A)と82(A’)とは、それぞれ前記したように、一例としてモータにおけるロータの回転角度30度毎の補償トルク係数として記憶されているから、この81(A)と82(A’)の切換えに際し、81(A)の値から82(A’)の値に直接切換えるのではなく、両者の値を30度毎に読み出し、例えば両者の差の1/10を1周毎に増加、または減少させながら前記補償トルクパターンを生成し、最終的に目的の値にする。これにより,正規化トルクパターン81(A)から82(A’)への変更、あるいは逆の変更時に生じる過渡的な速度変動、電流振動等のショックを、より小さくすることができる。
図14(B)は正規化トルクパターン切換えの第2の方法を説明するための図で、横軸がモータにおけるロータの回転角度、縦軸が負荷トルクであり、前記図15の(B)に相当する負荷トルク83と、正規化トルクパターン84を示した図である。この第2の方法では、前記図15(B)、(C)に示した正規化トルクパターン44から46へ、または逆への切換えを、この正規化トルクパターン44、46における負荷トルクが小さい角度、すなわちこの図14(B)における85で示した位置で行うものである。
すなわち前記した方法により、前記図15の(B)、(C)に示した正規化トルクパターン44、46のどちらを用いるかの判断がおこなわれ、切換えの指示が来たら、その指示が来た直後に切換えを行うのではなく、この図14(B)の85のように、負荷トルクが小さくなるモータの回転角度を調べ、その角度において切換えを実施するわけである。このようにすると、負荷トルクが小さい角度ではモータへの電流が小さく、従ってそれによる振動が起こることが少なくなるから、過渡的な速度変動、電流振動等のショックを小さくすることができる。
図14(C)は正規化トルクパターン切換えの第3の方法を説明するための図で、前記図9から図13で説明してきたモータの回転状況に対応した正規化トルクパターンの選択の際、モータにかかる負荷トルクがそれぞれの正規化トルクパターン選択における閾値付近の値の場合、例えば図14(A)で説明した81の番号を付したAの正規化トルクパターンと、82の番号を付したA’のパターンの選択を行ったり来たりし、フラフラすることで電流が振動することを防ぐためのものである。
すなわちこの図14(C)の場合、正規化トルクパターンAからA’へ、逆にA’からAへの切換えに際し、切換えの判断のための閾値を2つ持ち、例えば正規化トルクパターンAからA’への切換えにおいてはよりA’に近い閾値nで切換え、逆に正規化トルクパターンA’からAへの切換えにおいてはよりAに近い閾値mで切換えるものである。このようにすることで、正規化トルクパターンAからA’への切換えや、逆にA’からAへの切換えにおいても、より確実に正規化トルクパターンAまたはA’の状態で切換えを行うことができ、正規化トルクパターンAまたはA’の間を行ったり来たりし、フラフラすることで電流が振動することを防ぐことができる。
以上が本発明になる圧縮機に接続されたモータの制御装置の概略であるが、次に、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。まず図1は、本発明の圧縮機を駆動するのに適用可能な、モータ用トルク制御装置1Aのブロック図である。
本実施形態におけるモータ2は、交流電源3及びインバータ4により制御される。本実施形態のトルク制御装置1Aは、モータ2に供給される電流値を検出する電流センサ10と、検出された電流値からモータ2のモータ回転位置(回転角度)を推定する速度・位置推定邦(位置推定邦)11と、モータの平均負荷トルクを算出する速度PI制御部(平均トルク計算部、PI制御は比例、積分、微分制御:Propiortinal Integral Differential)12と、前記図15で説明した、予め定められた正規化トルクパターンを記憶し、モータ2の負荷状態に応じ、モータ2に供給する電流を補正するための負荷トルク補償部(トルク制御部、トルクパターン記憶邦)13と、モータ2を目標速度で回転させるため、モータ2に供給する電流値を指令する速度制御部20と、を備える。
速度PI制御部12は、回転数指令と、速度・位置推定部11により推定されたモータ位置との偏差(減算部14で得られる)から、回転に応じて変動するモータ2の負荷トルクの平均値である平均トルクを算出する比例積分要素である。
負荷トルク補償部13は、前記図15に示して説明したような、正規化トルクパターンを記憶している。この正規化トルクパターンは前記したように、モータ2の回転位置毎に、モータ2の出力トルクを変動させるための係数であり、モータ2の回転角を複数に区分し、それぞれの区分における補償トルク係数との関係を表すパターンである。負荷トルク補償部13にて、平均トルク×正規化トルクパターンが演算され、補償トルクパターンが生成される。すなわち、圧縮機負荷の大きい条件下では、正規化トルクパターンが大きく調整されて補償トルクパターンが生成され、圧縮機負荷の小さい条件下では、それに合わせて正規化トルクパターンが小さく調整されて補償トルクパターンが生成される。
さらに、平均トルクと補償トルクパターンとを加算部15にて足し合わせ、モータ出力トルクとする。このモータ出カトルクは、モータ2の回転角と、モータ2に供給する電流の指令値(これを指令電流と適宜称する)との関係を示すものである。さらにこれを電流変換部16にて電流変換し、d軸指令電流id *、q軸指令電流iq *とする。これらの指令とモータ電流との偏差を減算部17にて演算し、さらに電流PI制御部18にて指令電圧vd、vqとし、モータ2の回転角度に応じてインバータ4に与える。ここで、速度PI制御部12、加算部15、電流変換部16、減算部17、電流PI制御部18により、速度制御部20が構成される。
このように、本実施形態のトルク制御装置1Aでは、正弦波(180°通電)ベクトル制御により、圧縮機負荷に合わせたトルク制御が可能となり、間欠駆動波形(120゜通電等)と比較し、滑らかに制御可能となる。また、インバータ4に対する制御が電流指令となるため、トルク制御装置1Aにおいて正規化トルクパターンを出力トルク値そのままで設定できる。したがって、電圧値をシミュレーション等で計算する必要が無く、開発が容易である。また、正規化トルクパターンを負荷トルク補償部13に特つことで、簡易な制御手法でトルク制御が可能となる。
さらに、本実施形態のトルク制御装置1Aによれば、予め記憶した正規化トルクパターンを使用してモータのトルクを圧縮機の負荷トルクに追従して変化させることにより、上記負荷トルクの変動に基づく圧縮機の回転変動、つまり、圧縮機の駆動トルクと負荷トルクの不平衡に起因して発生する回転振動を低コストで抑制することができる。
次に、本発明の第2実施形態について図2により説明する。なお、上記第1実施形態と同様の構成については同一の符号を用い、その説明を省略する。
図2に示した本実施形態のトルク制御装置1Bにおいては、負荷トルク補償部13は、補償トルク(平均トルク×正規化トルクパクーン)の正規化トルクパターンを、例えば前記図15の(B)、(C)に示したように2つ、あるいは複数個記憶している。トルク制御装置1Bは、これらの正規化トルクパターンから、適切なパターンを選択する正規化パターン選択部27を備える。
正規化パターン選択部27は、モータ電流から計算される推定回転数変動幅が所定値以下となるように、前記複数の正規化パターンの中から適宜最適なものを選択する。このときも、正規化パターン選択部27における正規化パターンの選択は、モータ2の回転中に繰り返しモータ電流を検出し、複数のなかから特定の正規化パターンを設定した結果、推定回転数変動幅が増加したか減少したかを判定しながら、推定回転数変動幅が所定値以下となるように、正規化パターンを選択しなおして行われる、いわゆるフィードバック制御によって実行される。これにより、より圧力比が大きい過負荷領域でも、モータ出力トルクと負荷トルクをマッチングさせることができ、広範囲圧力条件で運転可能となる。
次に、本発明の第3実施形態について図3により説明する。なお、前記第1実施形態と同様の構成については同一の符号を用い、その説明を省略する。この図3に示した本発明の第3実施形態は、前記本発明の概要で説明した図9の第1の方法に該当する。この図9に示した第1の方法では、前記したように、モータを駆動する平均負荷トルク55、56があるトルクの基準値37より大きいか小さいかを判断し、それによって図9(B)、(C)に53、54で示した負荷トルクのどちらに対応した正規化トルクパターンを採用するかを決めるものである。
図3に示した本実施形態のトルク制御装置1Cにおける正規化パターン選択部27は、回転数指令とモータ電流から速度・位置推定部(位置推定部)11が推定したモータの回転数とから、減算部14が算出した速度差を速度PI制御部(平均トルク計算部)12により平均トルクを受け、前記図10で説明したように、算出された複数の平均トルクから平均値を算出する。
この平均値が前記図9(B)、(C)に55、56で示した平均負荷トルクであり、これを前記図9(B)、(C)に37で示した基準値(閾値)37と比較することで、図9(B)、(C)に53、54で示したトルクパターンのどちらかであるかを判断し、それによって前記図15の(B)、(C)に44、46で示したどちらの正規化トルクパターンを用いるかを選択するわけである。
次に、本発明の第4実施形態について図4により説明する。なお、前記第1実施形態と同様の構成については同一の符号を用い、その説明を省略する。この図4に示した本発明の第4実施形態は、前記本発明の概要で説明した図11の第2の方法に該当する。この図11に示した第2の方法では、前記したように回転数の変動幅を用いて選択を行うもので、前記図11(B)の立体グラフに示したように、圧縮機における高圧、低圧の差が大きいところでは回転数が大きく、差が小さくなると回転数も小さくなって、図11(A)に60で示したように負荷状態によってその振幅が異なっている。そのためこの第4実施形態では、回転数の振幅を見て圧縮機の振動状態を推定し、それによって前記図15の(B)、(C)に示したどちらの負荷トルクに対応した正規化トルクパターンを採用すればよいか判断するわけである。
この図4に示した本実施形態のトルク制御装置1Dにおける正規化パターン選択部27は、モータ電流から速度・位置推定部(位置推定部)11が推定したモータの回転数ωesを受け、図11(A)に60で示したようにモータ2におけるロータの回転角度θes毎の回転数から、その振幅を算出して圧縮機の振動状態を推定し、それによって前記図15の(B)、(C)に示したどちらの負荷トルクに対応した正規化トルクパターンを採用すればよいかを判断する。
図5は、本発明の第5実施形態のブロック図であり、前記第1実施形態と同様の構成については同一の符号を用い、その説明を省略する。この図5に示した本発明の第5実施形態は、前記本発明の概要で説明した図12の第3の方法に該当し、モータ電流のピーク電流量がある基準値より大きい過負荷領域であるか、小さい通常領域であるかを計算することで負荷状態を判断し、前記図15で説明した(B)、(C)のいずれに示した正規化トルクパターンを選択するかを決定するものである。
前記したように圧縮機に接続されたモータは、回転数が一定であるように制御されるが、モータの負荷が変動しても回転数を一定とするため、モータに与える電流は、負荷が大きくなった場合は前記図12(B)に示したようにそのピーク値が大きく、負荷が小さくなった場合は図12(C)に示したようにそのピーク値が小さくなるように制御される。従って、モータ電流値を見れば負荷状態がわかり、それによって前記図15で説明した(B)、(C)のいずれに示した正規化トルクパターンを選択すればよいかを判断することができるわけである。
そのため、図5に示した本実施形態のトルク制御装置1Eにおける正規化パターン選択部27は、モータ電流の増減を見て、図12における(B)、(C)のどちらに該当するかを判断し、それによって前記図15で説明した(B)、(C)のいずれに示した正規化トルクパターンを選択すればよいかを判断する。
なお、戦記したように、ここに示した例では電流のピーク値、すなわち圧縮機における高圧側の負荷に対応した電流値のみを見るよう説明したが、この場合、例えば圧縮機に何らかの理由でカジリなどが生じてモータ電流が増加した場合でも同様な制御が行われてしまうから、例えば低圧側のボトムピーク値を同時に見るようにして、このようなノイズを排除するようにしても良い。
図6は、本発明の第6実施形態のブロック図であり、前記第1実施形態と同様の構成については同一の符号を用い、その説明を省略する。この図6に示した本発明の第6実施形態は、前記本発明の概要で説明した図13の第4の方法に該当し、モータにおけるロータの回転角度に対する周期的な負荷トルク変動が圧縮機における負荷状態によって異なり,モータの回転数が負荷トルク変動に伴って加減速することを利用するもので、モータの回転数がピークとなるロータ角度がある基準値より大きいか小さいかを計算することで負荷状態を判断し、それによって前記図15で説明した(B)、(C)のいずれに示した正規化トルクパターンを選択すればよいかを判断するものである。
そのため、図6に示した本実施形態のトルク制御装置1Fにおける正規化パターン選択部27は、速度・位置推定部(位置推定部)11が算出したモータ2のロータにおける回転角度θesと回転速度(回転数)ωesとを受け、回転速度(回転数)ωesがピークとなるロータ回転角度θesを算出する。そしてその算出結果から、図13における(B)、(C)のいずれに示したピークであるかを判断し、それによって前記図15で説明した(B)、(C)のいずれに示した正規化トルクパターンを選択すればよいかを判断する
このようにして前記図15の(B)、(C)に示した正規化トルクパターン44、46のどちらを用いるかを判断するわけであるが、前記したように、この図15の(B)、(C)に示した正規化トルクパターン44から例えば46のパターンに切換えにあたり、図14(D)に86で示した切換えに伴うオーバーシュートによる振動が生じる。そのため、この振動を防止する場合の制御について説明する。
その制御の第1の方法は、図14に示した81の番号を付したAのパターンと82の番号を付したA’のパターンにおけるトルク差を、一定割合で増加、または減少させながら前記補償トルクパターンを生成するようにするもので、これは、正規化パターン選択部27が正規化トルクパターンの切換えを指示したとき、負荷トルク補償部(トルク制御部トルクパクーン記憶部)13がAのパターン81とA’のパターン82とにおけるトルク差を算出し、例えば補償シルク係数が設けられている30度毎に、両者の差の1/10を1周毎に増加、または減少させながら前記補償トルクパターンを生成し、加算部15に与えてモータ出力トルクとするわけである。このようにすることにより,正規化トルクパターン81(A)から82(A’)への変更、あるいは逆の変更時に生じる過渡的な速度変動、電流振動等のショックを、より小さくすることができる。
また、パターン切換えの第2の方法は、前記図15(B)、(C)に示した正規化トルクパターン44から46へ、または逆への切換えを、この正規化トルクパターン44、46における負荷トルクが小さい角度で行うものである。
そのため正規化パターン選択部27は、速度PI制御部(平均トルク計算部)12からモータ2のロータにおける回転角度θesと、回転速度(回転数)ωesとを受け、さらに負荷トルク補償部(トルク制御部トルクパクーン記憶部)13における補償トルクから負荷トルクが小さい角度を算出して、その角度で切換えが行われるようにする。このようにすることで、負荷トルクが小さい角度ではモータへの電流が小さく、従ってそれによる振動が起こることが少なくなり、過渡的な速度変動、電流振動等のショックを小さくすることができる。
また、前記図14(C)に示した第3の方法は、図14(C)に示した正規化トルクパターンAからA’へ、逆にA’からAへの切換えに際し、切換えの判断のための閾値を2つ持ち、例えば正規化トルクパターンAからA’への切換えにおいてはよりA’に近い閾値nで切換え、逆に正規化トルクパターンA’からAへの切換えにおいてはよりAに近い閾値mで切換えるものである。
この第3の方法では、前記図3から図6に示した実施形態3から6におけるそれぞれの実施形態において、前記図14(C)に示した正規化トルクパターンAからA’へ、逆にA’からAへの切換えにおける判断のための閾値をそれぞれの正規化パターン選択部27が2つ持ち、例えば正規化トルクパターンAからA’への切換えにおいてはよりA’に近い閾値nで切換え、逆に正規化トルクパターンA’からAへの切換えにおいてはよりAに近い閾値mで切換えるようにすることで行う。このようにすることで、正規化トルクパターンAからA’への切換えや、逆にA’からAへの切換えにおいても、より確実に正規化トルクパターンAまたはA’の状態で切換えを行うことができ、正規化トルクパターンAまたはA’の間を行ったり来たりし、フラフラすることで電流が振動することを防ぐことができる。
次に、本発明の第10実施形態について図7により説明する。なお、前記第1実施形態と同様の構成については同一の符号を用い、その説明を省略する。この図7に示した第10実施形態では、前記第1、第2本実施形態のトルク制御装置1A、1Bにおける構成に加え、補償トルクに変調率Knを掛けて補償トルクパターンを調整する補償トルク調整部25をさらに有する。
補償トルク調整部25は、速度・位置推定部11からモータの推定位置が与えられており、モータ電流から計算されるモータの推定回転数変動幅(モータ2が1回転する間の最大回転数と最小回転数の差)が所定値以下となるように、予め設定された複数段階の変調率Knの中から、適切な変調率Knが選択される。この補償トルク調整部25における変調率Knの選択は、モータ2の回転中に繰り返しモータ電流を検出し、変調率Knを設定した結果、推定回転数変動幅が増加したか減少したかを判定しながら、推定回転数変動幅が所定値以下となるように、複数段階に設定された変調率Knを増減させて行われる、いわゆるフィードバック制御によって実行される。
この場合、負荷トルク補償部13においては、補償トルクパターンは、平均トルク×正規化トルクパクーン×変調率Knによって演算される。変調率Knにより、補償トルクパクーン全体(モータ2の回転角度全域)において補償トルク係数を増減できるので、トルク制御の適用度を容易に調整できる。
また、変調率Knは0とすることもできる。例えば、Kn=Oの場合はトルク制御無し、Kn=1.0の場合は設計通りの正規化トルクパターンによるトルク制御となる。これにより、例えば、振動の出やすい低回転域ではトルク制御を行い、高回転域ではトルク制御を行わず、その中間の回転域ではトルク制御を段階的に弱くしていく(変調率Knを小さくしていく)等の制御も行える。また、圧力比が大きい過負荷領域では変調率Knを1.0以上に上げることにより、モータ出カトルクと負荷トルクをマッチングさせることができる。このようにして、広範囲の圧力条件でトルク制御を有効に活用して運転することが可能となる。
次に、図8を用いて本発明の第11実施形態について説明する。なお、前記第1実施形態と同様の構成については同一の符号を用い、その説明を省略する。この図3に示した第11実施形態におけるトルク制御装置1Hにおいては、補償トルク(平均トルク×正規化トルクパクーン)の演算に用いられる、負荷トルク補償部13が記憶する正規化トルクパクーンのうち、モータ2の回転角度のうち一部区間のみにおいて補償トルク係数を増減する正規化パターン調整部26を有する。
正規化パターン調整部26は、モータ電流から計算される推定回転数変動幅が所定値以下となるように、例えば回転数の最大値や最小値を合む区間において、補償トルク係数を増減する。これにより、トルクのピークを増減させることができる。これにより、より圧力比が大きい過負荷領域でも、モータ出カトルクと負荷トルクをマッチングさせることができ、振動を抑えたり、より大きなトルクを発揮するように運転可能となる。
なお、上記第10、第11実施形態における正規化トルクパターンの調整または選択は、圧力変動等に対応して逐次実施することができる。また、上記トルクパターンの調整または選択について、回転数変動幅を一定値以下にするように実施しているが、回転数変動幅を最小にするように調整または選択してもよい。これにより最大の振動低減効果を得られる。また、回転数変動幅を一定値以下とすることで、必要な振動低減量の分しか電流を増加させないことにより、効率を上げることができる。
さらにまた、上記各実施形態を組み合わせてもよい。例えば、補償トルク調整部25と正規化パターン選択部27とを組み合わせ、正規化トルクパターンを選択した後にさらに変調率Knを掛けてもよい。または、補償トルク調整部25と正規化パターン調整部26とを組み合わせ、変調率Knをトルクパターンの一部区間に対してのみ掛けてもよい。また、正規化パターン調整部26と正規化パターン選択部27とを組み合わせ、正規化トルクパターンのある部分だけの増減もパターンの変更も可能としてもよい。さらに、補償トルク調整部25、正規化パターン調整部26、及び正規化パターン選択部27をすべて組み合わせてもよい。
また、図1〜図8において、電流検出方法の一例を示したが、例示したものに限らず、ホールセンサ、CT(変流器)、シャント抵抗を用いる等、その手法は問うものではなく、電流値を直接的に検出するものだけでなく、例えば低コストの1シャント抵抗による電流値の推定によって検出を行うものでもかまわない。電流の検出個数も、2電流検出、1電流検出等としても良い。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
本発明によれば、簡単、安価な構成で圧縮機に接続されたモータを振動などを起こすことなく制御することができ、空調用として好適なモータ制御装置を提供することができる。
本実施の形態における空調回転圧縮機に接続されたをモークの制御装置のブロック図である。
トルク制御装置の第2実施形態について示したブロック図である。
トルク制御装置の第3実施形態について示したブロック図である。
トルク制御装置の第4実施形態について示したブロック図である。
トルク制御装置の第5実施形態について示したブロック図である。
トルク制御装置の第6実施形態について示したブロック図である。
トルク制御装置の第7実施形態について示したブロック図である。
トルク制御装置の第8実施形態について示したブロック図である。
トルク制御装置の第2実施形態について説明するための図で、(A)は圧縮機の運転範囲40と、(C)に示した負荷トルク53の位置51、(B)に示した負荷トルク54の位置52を示した図、(B)は52に対応した負荷トルク54と平均トルク56を示した図、(C)は51に対応した負荷トルク53と平均トルク55を示した図である。
トルク制御装置の第2実施形態にを実施するフローを表した図である。
トルク制御装置の第3実施形態について説明するための図で、(A)はモータのロータの回転角度に対する縦軸が回転数を示したグラフ、(B)は圧縮圧力と回転数の変動幅との関係を示した立体グラフである。
トルク制御装置の第4実施形態について説明するための図で、(A)は圧縮機の運転範囲40と、(B)に示したようなモータ電流が流れる位置66、(C)に示したようなモータ電流が流れる位置65を示した図、(B)は(A)に66で示した位置に対応したモータ電流を示した図、(C)は(A)に65で示した位置に対応したモータ電流を示した図である。
トルク制御装置の第5実施形態について説明するための図で、(A)は圧縮機の運転範囲40と、圧縮機における圧縮比が小さい場合の位置71、大きい場合の位置72を示した図、(B)は(A)に71で示した位置に対応した圧縮機における圧縮比が小さい場合のモータ回転数のピーク位置を示した図、(C)は(A)に72で示した位置に対応した圧縮機における圧縮比が大きい場合のモータ回転数のピーク位置を示した図である。
トルク制御装置第6実施形態、第7実施形態について説明するための図で、一の正規化トルクパターンから他の正規化トルクパターンへ、また、逆の切換えを行う際、急激な速度変化や電流変化による振動、一の正規化トルクパターンと他の正規化トルクパターンの間を行ったり来たりすることを防止する方法について説明するための図である。
(A)は1回転の間に吸入、圧縮、吐出の各行程を行う圧縮機における、高圧側(Hp)と低圧側(Lp)における運転範囲を示した図、(B)は(A)の(1)の位置における負荷平均トルクと本発明の正規化トルクパターンの一例を示した図、(C)は(A)の(2)の位置における負荷平均トルクと本発明の正規化トルクパターンの一例を示した図である。
符号の説明
1A〜1H トルク制御装置
2 モータ
3 交流電源
4 インバータ
10 電流センサ
11 速度・位置推定部(位置推定部)
12 速度PI制御部(平均トルク計算部)
13 負荷トルク補償部(トルク制御部トルクパクーン記憶部)
14 減算部
15 加算部
16 電流変換部
17 減算部
18 電流PI制御部
20 速度制御部
25 補償トルク調整部
26 正規化パターン調整部
27 正規化パターン選択部