以下に、本発明の実施態様について詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施形態に限定されるものではない。
[原料]
セルロースアシレートは、セルロースの水酸基への置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するセルロースアシレートを用いることが好ましい。以下、下記式を満たすセルロースアシレートをTACと称する。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
但し、式中A及びBは、セルロースの水酸基の水素原子に対するアシル基の置換度を表わし、Aはセルロースの水酸基の水素原子に対するアセチル基の置換度、またBはセルロースの水酸基の水素原子に対する炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90重量%以上が0.1mm〜4mmの粒子を用いることが好ましい。なお、本発明に用いられるポリマーはTACに限定されるものではない。
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位及び6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位及び6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1)を意味する。
全アシル置換度、即ち、DS2+DS3+DS6は2.00上〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.28以上が好ましく、より好ましくは0.30以上、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2はグルコース単位の2位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「2位のアシル置換度」とも言う)であり、DS3は3位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「3位のアシル置換度」とも言う)であり、DS6は6位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「6位のアシル置換度」とも言う)である。
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでも良いし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていても良い。2種類以上のアシル基を用いるときは、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位及び6位の水酸基のアセチル基による置換度の総和をDSAとし、2位,3位及び6位の水酸基のアセチル基以外のアシル基による置換度の総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、より好ましくは2.2〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DSBは0.30以上であることが好ましく、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBはその20%以上が6位水酸基の置換基であるが、より好ましくは25%以上が6位水酸基の置換基であり、特には33%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましい。また更に、セルロースアシレートの6位の置換度が0.75以上であることが好ましく、さらに好ましくは0.80以上であり特に好ましくは0.85以上であるセルロースアシレートを用いることである。これらのセルロースアシレートにより溶解性の好ましい溶液(ドープ)が作製できる。特に非塩素系有機溶媒において、良好な溶液の作製が可能となる。更に粘度が低く濾過性の良い溶液の作製が可能となる。
セルロースアシレートは、リンター,パルプのどちらから得られたものでも良いが、リンターから得られたものが好ましい。
本発明のセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でも良く特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していても良い。これらの好ましい例としては、プロピオニル基、ブタノイル基、ケプタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくはプロピオニル基、ブタノイル基である。
ドープを調製する溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明において、ドープとはポリマーを溶媒に溶解または分散して得られるポリマー溶液または分散液を意味している。
炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フイルムの機械的強度など及びフイルムの光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを一種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶媒全体に対し2重量%〜25重量%が好ましく、5重量%〜20重量%がより好ましい。アルコールの具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノールあるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
最近、環境に対する影響を最小限に抑えるため、ジクロロメタンを用いない溶媒組成も提案されている。この目的に対しては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステルが好ましく、特に酢酸メチルが好ましく用いられる。また、これらを適宜混合して用いる。これらのエーテル、ケトン及びエステルは、環状構造を有していてもよい。エーテル、ケトン及びエステルの官能基(すなわち、−O−,−CO−及び−COO−)のいずれかを2つ以上有する化合物も、溶媒として用いることができる。溶媒は、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。2種類以上の官能基を有する溶媒の場合、その炭素原子数は、いずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であれば良い。
(添加剤)
本発明のセルロースアシレート溶液には、各調製工程において用途に応じた種々の添加剤(例えば、剥離促進剤、可塑剤、紫外線防止剤、劣化防止剤、微粒子、光学特性調整剤など)を加えることができる。またその添加する時期はドープ作製工程において何れでも添加しても良いが、ドープ調製工程の最後の調製工程に添加剤を添加し調製する工程を加えて行ってもよい。
(可塑剤)
可塑剤としては、沸点が200℃以上であり、25℃で液体であるか、または融点が25〜250℃である固体であることが好ましく、沸点が250℃以上であり、25℃で液体であるか、融点が25〜200℃の固体であることがより好ましい。可塑剤が液体の場合は、その精製は通常減圧蒸留によって実施されるが高真空ほど好ましく、その真空度は例えば100Pa以下が好ましい。また分子蒸留装置などを用いて精製することも特に好ましい。また可塑剤が固体の場合は、溶媒を用いて再結晶させてろ過,洗浄し乾燥することで実施されることが一般的である。
本発明に用いる可塑剤としては、リン酸エステルまたはカルボン酸エステルを用いることが好ましい。リン酸エステルとしては、トリフェニルフォスフェート(TPP)およびトリクレジルホスフェート(TCP)、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェートが含まれる。カルボン酸エステルとしては、フタル酸エステルおよびクエン酸エステルが代表的である。フタル酸エステルとしては、ジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジフェニルフタレート(DPP)およびジエチルヘキシルフタレート(DEHP)が含まれる。クエン酸エステルとしては、O−アセチルクエン酸トリエチル(OACTE)およびO−アセチルクエン酸トリブチル(OACTB)、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル、が含まれる。これらうち、特に好ましい可塑剤は、TPP(融点約50℃)或いは、25℃において液体であり、沸点も250℃以上である。
その他のカルボン酸エステルの例には、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、種々のトリメリット酸エステルが含まれる。グリコール酸エステルの例としては、トリアセチン、トリブチリン、ブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、メチルフタリルメチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレートなどがある。中でもトリフェニルフォスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリブチルホスフェート、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジエチルヘキシルフタレート、トリアセチン、エチルフタリルエチルグリコレートが好ましい。特にトリフェニルフォスフェート、ジエチルフタレート、エチルフタリルエチルグリコレートが好ましい。これらの可塑剤は1種でもよいし2種以上併用してもよい。可塑剤の添加量はセルロースアシレートに対して2〜30質量%、特に5〜20質量%が好ましい。
本発明のセルロースアシレートフイルムに好ましく使用される紫外線吸収剤について説明する。本発明のセルロースアシレートフイルムは、その高い寸法安定性から、偏光板または液晶表示用部材等に使用されるが、偏光板または液晶等の劣化防止の観点から、紫外線吸収剤が好ましく用いられる。紫外線吸収剤としては、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ良好な液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましく用いられる。本発明に好ましく用いられる紫外線吸収剤の具体例としては、例えばオキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などが挙げられる。
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としての具体例を下記に列記するが、本発明はこれらに限定されない。2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニルメタン)、(2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2(2’−ヒドロキシ−3’,5‘−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール、(2(2’−ヒドロキシ−3’,5‘−ジ−tert−アミルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイトなどが挙げられる。特に(2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2(2’−ヒドロキシ−3’,5‘−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール、(2(2’−ヒドロキシ−3’,5‘−ジ−tert−アミルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。また例えば、N,N′−ビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジンなどのヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)フォスファイトなどの燐系加工安定剤を併用してもよい。これらの化合物の添加量は、セルロースアシレートに対して質量割合で1ppm〜1.0%が好ましく、10〜1000ppmが更に好ましい。
また、その他にも旭電化プラスチック用添加剤概要「アデカスタブ」のカタログにある光安定剤も使用できる。チバ・スペシャル・ケミカルズのチヌビン製品案内にある光安定剤、紫外線吸収剤も使用できる。SHIPROKASEI KAISYAのカタログにSEESORB(登録商標)、SEENOX(登録商標)、SEETEC(登録商標)なども使用できる。城北化学工業のUV吸収剤、酸化防止剤も使用できる。共同薬品のVIOSORB(登録商標)、吉富製薬の紫外線吸収剤も使用できる。
(微粒子)
ドープに微粒子を添加することにより、作製されたセルロースアシレートフイルムがハンドリングされる際に、傷が付いたり搬送性が悪化することを防止することができる。それらは、マット剤、ブロッキング防止剤あるいはキシミ防止剤と称されて、従来から利用されている。それらは、前述の機能を呈する素材であれば特に限定されないが、これらのマット剤の好ましい具体例は、無機化合物としては、ケイ素を含む化合物、二酸化ケイ素、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化バリウム、酸化ジルコニウム、酸化ストロングチウム、酸化アンチモン、酸化スズ、酸化スズ・アンチモン、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウム等が好ましく、更に好ましくはケイ素を含む無機化合物や酸化ジルコニウムであるが、セルロースアシレートフイルムの濁度を低減できるので、二酸化ケイ素が特に好ましく用いられる。二酸化ケイ素の微粒子としては、例えば、アエロジルR972、R974、R812、200、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)等の商品名を有する市販品が使用できる。酸化ジルコニウムの微粒子としては、例えば、アエロジルR976及びR811(以上日本アエロジル(株)製)等の商品名で市販されているものが使用できる。
有機化合物としては、例えば、シリコーン樹脂、弗素樹脂及びアクリル樹脂等のポリマーが好ましく、中でも、シリコーン樹脂が好ましく用いられる。シリコーン樹脂の中でも、特に三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えば、トスパール103、トスパール105、トスパール108、トスパール120、トスパール145、トスパール3120及びトスパール240(以上東芝シリコーン(株)製)等の商品名を有する市販品が使用できる。
なお、セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号の[0141]段落から[0195]段落に記載されている。これらの記載は本発明にも適用できる。また、溶媒及び可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤,光学異方性コントロール剤,レターデーション制御剤,染料,マット剤,剥離剤などの添加剤、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されている。
(ドープ製造方法)
図1にドープ製造ライン10を示す。ドープ製造ライン10には、溶媒を貯留するための溶媒タンク11と、溶媒とTACなどとを混合するための溶解タンク13と、TACを供給するためのホッパ14、添加剤液を貯留するための添加剤タンク15と、後述する膨潤液を加熱するための加熱装置18と、調製されたドープの温度を調整する温調機19と、ドープを濾過する濾過装置20と、ドープを濃縮するフラッシュ装置21,濃縮後のドープを濾過する濾過装置22などが備えられている。また、溶媒を回収するための回収装置23と、回収された溶媒を再生するための再生装置24とが備えられている。また、溶解タンク13の下流にはポンプ25が設けられ、フラッシュ装置21の下流にはポンプ26が設けられる。ポンプ25は溶解タンク13中の膨潤液44を加熱装置18に送り、ポンプ26はフラッシュ装置21中の濃縮後の濾過装置22に送る。そして、濾過装置20,22の下流側には、ストックタンク30が接続する。ドープ製造ライン10は、ストックタンク30を介してフイルム製膜ライン32に接続されている。
初めに、溶媒タンク11と溶解タンク13とを接続する配管に設けられたバルブ35を開き、溶媒を溶媒タンク11から溶解タンク13に送る。次に、ホッパ14に入れられているTACを計量しながら溶解タンク13に送り込む。添加剤タンク15と溶解タンク13とを接続する配管に設けられたバルブ36の開閉操作を行って、必要量の添加剤溶液を添加剤タンク15から溶解タンク13に送り込む。なお、添加剤は溶液として送り込む方法以外にも、例えば添加剤が常温で液体の場合には、その液体の状態で溶解タンク13に送り込むことも可能である。また、添加剤が固体の場合には、ホッパを用いて溶解タンク13に送り込むことも可能である。添加剤を複数種類添加する場合には、添加剤タンク15中に複数種類の添加剤を溶解させた溶液を入れておくこともできる。または、多数の添加剤タンクを用いてそれぞれに添加剤が溶解している溶液を入れて、それぞれ独立した配管により溶解タンク13に送り込むこともできる。
前述した説明においては、溶解タンク13に入れる順番が、溶媒(混合溶媒の場合も含めた意味で用いる)、TAC、添加剤であったが、この順番に限定されるものではない。TACを計量しながら溶解タンク13に送り込んだ後に、好ましい量の溶媒を送液することもできる。また、添加剤は必ずしも溶解タンク13に予め入れる必要はなく、後の工程でTACと溶媒との混合物(以下、これらの混合物もドープと称する場合がある)に混合させることもできる。
溶解タンク13には、その外面を包み込むジャケット37と、モータ38により回転する第1攪拌翼39とが備えられている。さらに、溶解タンク13には、モータ40により回転する第2攪拌翼41が取り付けられていることが好ましい。なお、第1攪拌翼39は、アンカー翼であることが好ましく、第2攪拌翼41は、ディゾルバータイプのものを用いることが好ましい。ジャケット37に伝熱媒体を流して溶解タンク13内を−10℃以上55℃以下の範囲に温度調整することが好ましい。第1攪拌翼39,第2攪拌翼41を適宜選択して回転させることでTACが溶媒中で膨潤した膨潤液44を得ることができる。
膨潤液44をポンプ25により加熱装置18に送液する。加熱装置18は、ジャケット付き配管を用いることが好ましく、更に膨潤液44を加圧できる構成であることが好ましい。膨潤液44を加熱または加圧加熱条件下でTACなどを溶媒に溶解させてドープを得る。なお、この場合に膨潤液44の温度は、0℃以上97℃以下であることが好ましい。加熱溶解法及び冷却溶解法を適宜選択して行うことでTACを溶媒に十分溶解させることが可能となる。温調機19によりドープの温度を略室温とした後に、濾過装置20により濾過を行いドープ中の不純物を取り除く。濾過装置20の濾過フィルタの平均孔径が100μm以下であることが好ましい。また、濾過流量は、50L/時以上であることが好ましい。濾過後のドープは、バルブ46を介してストックタンク30に入れられる。
前記ドープは、後述する原料ドープとして用いることが可能である。しかしながら、膨潤液44を調製した後にTACを溶解させる方法は、TACの濃度を上昇させるほど時間がかかりコストの点で問題が生じる場合がある。その場合には、目的とするTAC濃度より低濃度のドープを調製した後に目的とする濃度のドープを調製する濃縮工程を行うことが好ましい。濾過装置20で濾過されたドープを、バルブ46を介してフラッシュ装置21に送液する。フラッシュ装置21内でドープ中の溶媒の一部を蒸発させる。蒸発した溶媒は、凝縮器(図示は省略)により液体とした後に回収装置23で回収する。その溶媒は再生装置24によりドープ調製用の溶媒として再生を行い再利用することがコストの点から有利である。
濃縮されたドープをフラッシュ装置21からポンプ26を用いて抜き出す。さらに、ドープ中の泡抜きを行うことが好ましい。泡抜きは、公知のいずれの方法により行っても良く、例えば超音波照射法が挙げられる。その後に濾過装置22に送液して異物の除去を行う。なお、この際にドープの温度が0℃以上200℃以下であることが好ましい。そして、ストックタンク30にドープを入れる。
これらの方法により、TAC濃度が10重量%以上30重量%以下のドープを製造することができる。なお、製造されたドープ(以下、原料ドープと称する)48は、ストックタンク30に貯蔵される。
上述したドープ製造ライン10での、素材、原料、添加剤の溶解方法、濾過方法、脱泡、添加方法については、特開2005−104148号の[0517]段落から[0616]段落が詳しい。これらの記載も本発明に適用できる。
(フイルム製造工程) 次に、本発明のフイルム製造工程50について説明する。図2のように、フイルム製造工程50は、上記で得られた原料ドープ48から流延ドープ51を調製する流延ドープ調製工程52と、流延ドープ51を支持体上に流延して流延膜53を形成する流延工程54と、自己支持性を有する流延膜53を支持体から剥ぎ取って湿潤フイルム55とする剥取工程56と、湿潤フイルム55を乾燥して、フイルム57を得る乾燥工程58とを有する。なお、このフイルム57を巻き取り、フイルムロールとする巻取工程を行っても良い。
(溶液製膜設備)
図3にフイルム製膜ライン32を示す。ストックタンク30には、モータ61で回転する攪拌翼62が取り付けられている。攪拌翼62を回転させることで原料ドープ48を攪拌して常に濃度等を均一にしている。ストックタンク30と後述するフィードブロックとの間には、中間層用ドープ流路63と裏面層用ドープ流路64と表面層用ドープ流路65とが接続されている。それぞれの流路63〜65にギアポンプ66〜68が設けられる。
本実施形態では、基層を形成するドープ(以下、基層形成用ドープと称する)として中間層用ドープ71を用い、表層を形成するドープ(以下、表層形成用ドープと称する)として、裏面層用ドープ72,表面層用ドープ73を用いる。基層形成用ドープとしては、製造する光学機能性フイルムの強度や光学的機能に適するドープを用い、表層形成用ドープとしては、光学機能性フイルムの平面性や滑り性を良くするためのドープを用いる。また、上記に加え、表層形成用ドープとして、基層形成用ドープよりも粘性が低いものを用いることが好ましい。これにより、後述する乾燥工程などにおいて、後述する流延膜や湿潤フイルムの表面におけるスジやムラの生成や、厚さムラなどを防ぐことができる。
ギアポンプ66〜68は、図示を省略した制御部に接続する。この制御部により、ギアポンプ66〜68は、ストックタンク30から原料ドープ48を送液し、また、原料ドープ48からつくられる中間層用ドープ71,裏面層用ドープ72,表面層用ドープ73をフィードブロック74に送液する。
中間層用ドープ流路63には、配管を介してストックタンク75が接続する。ストックタンク75には、中間層用添加液76が貯留する。流路63とストックタンク75とを接続する配管には、ポンプ77が設けられる。ストックタンク75中の中間層用添加液76は、ポンプ77により中間層用ドープ流路63に送液され、中間層用ドープ流路63中の原料ドープ48に添加される。その後、原料ドープ48と中間層用添加液76とは、中間層用ドープ流路63に設けられる静止型混合器(スタティックミキサ)78により攪拌混合されて均一となる。以下、このドープを中間層用ドープ71と称する。中間層用添加液76には、例えば紫外線吸収剤,レターデーション制御剤や可塑剤などの添加剤が予め含まれた溶液(または分散液)が入れられている。
裏面層用ドープ流路64には、配管を介してストックタンク80が接続する。ストックタンク80には、裏面層用添加液81が貯留する。流路64とストックタンク80とを接続する配管には、ポンプ82が設けられる。ストックタンク80中の裏面層用添加液81は、ポンプ82により裏面層用ドープ流路64に送液され、裏面層用ドープ流路64中の原料ドープ48に添加される。その後、原料ドープ48と裏面層用添加液81とは、裏面層用ドープ流路64に設けられる静止型混合器83により攪拌混合されて均一となる。以下、このドープを裏面層用ドープ72と称する。裏面層用添加液81には、支持体である流延バンドからの剥離を容易とする剥離促進剤(例えば、クエン酸エステルなど)、フイルムをロール状に巻き取った際にフイルム面間での密着を抑制するマット剤(例えば、二酸化ケイ素など)や劣化防止剤などの添加剤が予め含有されている。なお、裏面層用添加液81には、可塑剤,紫外線吸収剤やレターデーション制御剤などの光学特性制御剤などの添加剤が含まれていても良い。
表面層用ドープ流路65には、配管を介してストックタンク85が接続される。ストックタンク85には、表面層用添加液86が貯留する。流路65とストックタンク85とを接続する配管には、ポンプ87が設けられる。ストックタンク85中の表面層用添加液86は、ポンプ87により表面層用ドープ流路65に送液され、表面層用ドープ流路65中の原料ドープ48に添加される。その後、原料ドープ48と表面層用添加液86とは、表面層用ドープ流路65に設けられる静止型混合器88により攪拌混合されて均一となる。以下、このドープを表面層用ドープ73と称する。表面層用添加液86には、フイルムをロール状に巻き取った際にフイルム面間での密着を抑制するマット剤(例えば、二酸化ケイ素など)や劣化防止剤などの添加剤が予め含有されている。なお、表面層用添加液86には、剥離促進剤,可塑剤,紫外線吸収剤やレターデーション制御剤などの光学特性制御剤などの添加剤が含まれていても良い。
フィードブロック74の内部には3本の内部流路が設けられている。これらの内部流路は、それぞれ流路63〜65と接続している。第1の内部流路は、鉛直下向きに延びるように、流路63からフィードブロック74を貫通し、流延ダイ91に接続する。第1の内部流路の途中には合流部が設けられる。第2の内部流路、第3の内部流路は、流路64、65から合流部まで延びるように形成される。この合流部で、各ドープ71〜73が層をなす流延ドープ51が形成される。フィードブロック74は、各ドープ71〜73を所定の温度に保持する温調機(例えば、ヒータ,ジャケットなど)を備えることが好ましい。
(流延室)
流延ダイ91は、フィードブロック74の下流側と連結するように配される。流延ダイ91の下流には、回転ドラム93,94や流延バンド95が設けられる。流延バンド95と回転ドラム93、94の詳細は後述する。流延室96には、流延ダイ91、回転ドラム93、94、流延バンド95の他、流延室96内の温度を所定の値に保つ温調設備97が取り付けられている。温調設備97は、流延室96の室温を−10℃以上57℃以下に保つ。また、流延室96内で蒸発している溶媒を凝縮回収するための凝縮器(コンデンサ)98が設けられている。凝縮液化した有機溶媒は、回収装置99により回収され再生させた後に、ドープ調製用溶媒として再利用される。
フィードブロック74及び流延ダイ91の材質は析出硬化型のステンレス鋼を用いることが好ましい。その熱膨張率が2×10-5 (℃-1 )以下の素材を用いることが好ましい。また、電解質水溶液での強制腐食試験でSUS316と略同等の耐腐食性を有するものを用いることもできる。さらに、その素材はジクロロメタン、メタノール、水の混合液に3ヵ月浸漬しても気液界面にピッティング(孔開き)が生じない耐腐食性を有するものを用いる。さらに、鋳造後1ヶ月以上経過したものを研削加工して流延ダイ91を作製することが好ましい。これにより流延ダイ91内を流れるドープの面状が一定に保たれる。流延ダイ91及びフィードブロック74の接液面の仕上げ精度は表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下のものを用いることが好ましい。スリットのクリアランスの平均値が、自動調整により0.5mm〜3.5mmの範囲で調整可能なものを用いる。流延ダイ91のリップ先端の接液部の角部分について、Rはスリット全巾に亘り50μm以下のものを用いる。また、流延ダイ91内でのドープ71〜73の剪断速度は1(1/秒)〜5000(1/秒)となるように調整されているものを用いることが好ましい。
(流延ダイ)
流延ダイ91は、流延ドープ51を所定の温度に保持する温調機(例えば、ヒータ,ジャケットなど)を備えることが好ましい。また、流延ダイ91にはコートハンガー型のものを用いることが好ましい。さらに、厚み調整ボルト(ヒートボルト)を所定の間隔で設けてヒートボルトによる自動厚み調整機構を取り付けることがより好ましい。ヒートボルトは予め設定されるプログラムによりギアポンプ66〜68の送液量に応じてプロファイルを設定し製膜を行うことが好ましい。また、フイルム製膜ライン32中に図示を省略した厚み計(例えば、赤外線厚み計)のプロファイルに基づく調整プログラムによってフィードバック制御を行っても良い。流延エッジ部を除いて任意の2点の厚み差は1μm以内に調整し、幅方向厚みの最小値で最も大きな差が3μm以下となるように調整することが好ましい。また、厚み精度は±1.5μm以下に調整されているものを用いることが好ましい。
流延ダイ91のリップ先端に硬化膜が形成されていることがより好ましい。硬化膜の形成方法は、特に限定されるものではないが、セラミックスコーティング、ハードクロムメッキ、窒化処理方法などが挙げられる。硬化膜としてセラミックスを用いる場合には、研削でき気孔率が低く脆くなく耐腐食性が良く、かつ流延ダイ91と密着性が良く、ドープと密着性がないものが好ましい。具体的には、タングステン・カーバイド(WC),Al2 O3 ,TiN,Cr2O3 などが挙げられるが特に好ましくはWCを用いることである。WCコーティングは、溶射法で行うことができる。
流延ダイ91のスリット端に流出するドープが、局所的に乾燥固化することを防止するために溶媒供給装置(図示は省略)をスリット端に取り付けることが好ましい。ドープを可溶化する溶媒(例えば、ジクロロメタン86.5重量部,メタノール13重量部,1−ブタノール0.5重量部の混合溶媒)を流延ビード端部とスリットとの気液界面に供給することが好ましい。なお、この液を供給するポンプの脈動率は5%以下のものを用いることが好ましい。
(減圧チャンバ)
流延ダイ91の近傍には、流延ビードの形成を安定化させる減圧チャンバ100が設けられている。減圧チャンバ100は、流延ビードの背面側(流延バンド95の走行方向上流側)に配されており、例えば、流延ビードの背面側の圧力を前面側よりも10Pa以上2000Pa以下の範囲で減圧する。さらに、減圧チャンバ100の温度を所定の温度に保つため、ジャケット(図示は省略)を取り付けることが好ましい。減圧チャンバ100の温度は特に限定されるものではないが、10℃以上50℃以下の範囲であることが好ましい。また、流延ビードの形状を所望のものにたもつため流延ダイ91のエッジ部に吸引装置(図示は省略)を取り付けることが好ましい。エッジ吸引風量は、1L/分以上100L/分以下の範囲であることが好ましい。
(渡り部)
流延室96の下流側には渡り部105が設けられる。渡り部105には、ローラ106、送風機107が配される。ローラ106が、流延室96から送り出された湿潤フイルム55を所定の方向に搬送する搬送路を形成する。渡り部105では、送風機107から所望の温度の乾燥風を送風することで湿潤フイルム55の乾燥を進行させる。このとき乾燥風の温度が、20℃以上250℃以下であることが好ましい。なお、渡り部105では下流側のローラの回転速度を上流側のローラの回転速度より速くすることにより湿潤フイルム55に流延方向に延伸を付与させることも可能である。
(テンタ)
渡り部105の下流側にはテンタ110が設けられる。テンタ110は、湿潤フイルム55の両側端部を担持するクリップと、クリップにより担持された湿潤フイルム55に乾燥風をあてるための送風機とが設けられる。テンタ110内を異なった温度ゾーンに区画して乾燥条件を調整することが好ましい。テンタ110を用いて湿潤フイルム55を幅方向に延伸及び緩和させることも可能である。このように、渡り部105またはテンタ110で湿潤フイルム55の流延方向と幅方向との少なくとも1方向を0.5%〜300%延伸することが好ましい。
(耳切装置)
テンタ110の下流側には耳切装置112が設けられる。耳切装置112は、フイルム57の両端を切断する。切断されたフイルムは、図示を省略したカッターブロワによりクラッシャ113に送られる。クラッシャ113によりフイルム57の縁部は、粉砕されてチップとなる。このチップをドープ調製用に再利用することがコストの点から有利である。なお、このフイルム57の両縁を切断する工程は、省略することもできるが、前記流延してからフイルム57を巻き取るまでのいずれかで行うことが好ましい。
(乾燥室)
耳切装置112の下流側には乾燥室115が設けられる。乾燥室115は、多数のローラ116と温調機(図示は省略)とを備える。ローラ116は、耳切装置112から送られるフイルム57を所定の方向に搬送する。温調機は、乾燥室115の温度や湿度を所定の条件下に保持する。乾燥室115の温度は特に限定されるものではないが、60℃以上145℃以下の範囲であることが好ましい。乾燥室115でフイルム57は、ローラ116に巻き掛けられながら搬送され、フイルム57中の溶媒は蒸発する。これにより、フイルム57が乾燥する。また、乾燥室115には、吸着回収装置117が取り付けられている。吸着回収装置117は、乾燥室115内で気化した溶媒を吸着回収する。吸着回収装置117は、溶媒成分が除去された気体を、乾燥室115内に乾燥風として再度送風する。なお、乾燥室115は、乾燥温度を変えるために複数の区画に分割されていることがより好ましい。また、耳切装置112と乾燥室115との間に予備乾燥室(図示は省略)を設け、フイルム57の予備乾燥を行うことにより、急激な温度の上昇によるフイルム57の形状変化を抑制できるためにより好ましい。
乾燥室115の下流側には冷却室118が設けられる。冷却室118では、乾燥室115から送り出されたフイルム57を略室温まで冷却する。なお、乾燥室115と冷却室118との間に調湿室(図示は省略)を設けても良い。調湿室でフイルム57の所望の湿度及び温度に調整された風を吹き付ける。これにより、フイルム57のカールの発生やフイルム57を巻き取る際の巻き取り不良の発生を抑制できる。
冷却室118の下流側には巻取室120が設けられる。巻取室120には、巻取ローラ121が設けられる。巻取ローラ121は、図示を省略した制御部により回転し、冷却室118からおくられるフイルム57を巻取る。フイルム57を巻き取る際、プレスローラ122を用いて、所望のテンションを付与しつつフイルム57を巻き取ることが好ましい。なお、テンションは巻取開始時から終了時まで徐々に変化させることがより好ましい。巻き取られるフイルム57は、長手方向(流延方向)に少なくとも100m以上とすることが好ましい。また、フイルム57の幅が500mm以上であることが好ましく、500mm以上2800mm以下であることがより好ましい。フイルム製膜ライン32は、厚さ15μm以上100μm以下であり、フイルム57全体の厚さムラが5%以下、幅方向の厚さムラが2%以下のフイルム57を製造することができる。
なお、冷却室118と巻取室120との間には、強制除電装置(除電バー)125やナーリング付与ローラ対126などが設けられている。強制除電装置(除電バー)125は、フイルム57が搬送されている間の帯電圧が所定の範囲(例えば、−3kV〜+3kV)となるように除電を行う。図3では、冷却室118の下流側に設けられている例を図示しているが、その位置に限定されるものではない。ナーリング付与ローラ対126は、フイルム57の両縁にエンボス加工でナーリングを付与する。なお、ナーリングされた箇所の変形は、1μm〜200μmであることが好ましい。
次に、流延室96の内部の詳細について説明する。図3及び図4に示すように、流延バンド95の近傍には、剥取ローラ(剥ぎ取り手段)140が設けられる。流延ダイ91から流出する流延ドープ51は、この流延バンド95上で流延膜53を形成し、所定の方向へ搬送される。流延バンド95上の流延膜53は、剥取ローラ140により剥ぎ取られ、湿潤フイルム55となって渡り部105へ送られる。
また、流延バンド95の近傍には、送風機141〜143が設けられる。送風機141〜143は、流延膜53中の溶媒を蒸発させるための乾燥風を送り出す送風口を有する。送風機141〜143の取り付け位置として、流延バンド95の上部上流側、上部下流側や流延バンド95の下部とする形態を図示しているがこれに限定されるものではない。また、流延ダイ91と送風機141との間には、遮風板145が設けられている。遮風板145は、流延ビードに乾燥風が直接吹き付けられることによる膜面の面状変動を抑える。
(回転ドラム)
回転ドラム93,94は、略円柱状又は略円筒状に形成されている。回転ドラム93,94は、図示を省略した駆動部によって、少なくとも一方が回転駆動される。この回転ドラム93,94の回転にともなって、流延バンド95が連続的に走行する。また、回転ドラム93,94は、間隔が調整できるように構成されている。これにより、各回転ドラム93,94に巻き掛けられた流延バンド95に所定のテンションが付与される。なお、流延バンド95に付与されるテンションは、30N/mm2〜100N/mm2であることが好ましい。
なお、回転ドラム93,94の形状は、上記に限るものではないが、回転ドラム93,94の周面に沿って流延バンド95が走行させる際、回転ドラム93,94や流延バンド95に発生する応力が小さいものであることが好ましい。また、回転ドラム93,94の周面93a、94aの平均粗さは、0.01μm以下であることが好ましい。さらに、回転ドラム93、94には、耐摩耗性の高いステンレス鋼を用いることが好ましい。この際、周面93a、94aにクロムメッキ処理などを行って、十分な硬度と耐久性とを持たせるようにすると、さらに好適である。
回転ドラム93,94には、流延バンド95の温度を所定の値にするための伝熱媒体循環装置146が取り付けられている。回転ドラム93,94の内部には、伝熱媒体を流すための流路が形成されている。伝熱媒体循環装置146は、所定の温度に調節された伝熱媒体を前述の流路に循環させることで、回転ドラム93,94の温度を所定の範囲に保持する。これにより、回転ドラム93,94の温度を介して流延バンド95の温度が、所望の範囲に保持される。なお、流延バンド95の温度は、例えば、0℃以上40℃以下であることが好ましい。
(流延バンド)
流延バンド95は、環状に形成されている。流延バンド95の外面95aは、流延ダイ91から流出した流延ドープ51を支持して流延膜53を形成する。一方、流延バンド95の内面95bは、回転ドラム93、94の周面93a、94aと接触する。流延バンド95の幅W1は、特に限定されるものではないが、例えば、ドープの流延幅の1.1倍〜3.0倍の範囲のものを用いることが好ましい。また、流延バンド95の周囲の長さは、10m以上200m以下、厚みは、0.3mm以上10mm以下であることが好ましい。
流延膜53の厚さムラ故障を抑制するため、流延バンド95の全体の厚みムラは、0.5%以下であることが好ましく、幅方向の厚みムラは、0.1%以下であることが好ましい。また、外面95aの粗さは0.05μm以下であることが好ましい。流延バンド95の表面欠陥は最小限に抑制する必要がある。具体的には、30μm以上のピンホールは皆無であり、10μm以上30μm未満のピンホールは1個/m2 以下であり、10μm未満のピンホールは2個/m2 以下とすることが好ましい。
流延バンド95には、十分な耐腐食性と耐摩耗性と強度とを有するオーステナイト系ステンレス鋼が用いられる。オーステナイト系ステンレスのうち、SUS316、SUS316L、SUS316LN、SUS316Nなどを用いることが好ましく、中でもSUS316を用いることが最適である。また、SUS316の中では、オーステナイト生成元素が多く、フェライト生成元素が少ないもの、またはいずれか1つを満たすものであることが好ましい。オーステナイト生成元素には、例えば、C、N、Ni、Mn、Cuなどが挙げられ、フェライト生成元素には、例えば、Cr、Si、Mo、Ti、Alなどが挙げられる。これらの中でも、1.35重量%以上2重量%以下のMnと、11重量%以上14重量%以下のNiと、16重量%以上17重量%以下のCrと、2重量%以上2.07重量%以のMoとのうち少なくとも1つを満たすステンレス鋼であることが好ましい。また、上記の他、加工硬化を抑制するP(リン)やS(硫黄)などを添加しても良い。
また、流延バンド95内の残留応力は少ないことが好ましい。流延バンド95内の残留応力は、外面95aにスジ状の変形を誘起するためである。そのため、鋳造後1ヶ月以上経過したものを研削加工して流延バンド95を作製することが好ましい。更に、作成後、加工時に生じた残留応力が緩和された流延バンド95を用いることが好ましい。
流延バンド95の走行速度が遅いと、フイルム57の生産性が悪い。一方、流延バンド95の走行速度が速すぎると、流延バンド95に上下方向の振動や幅方向の蛇行などが生じるため、フイルム57の品質を低下させる要因となる。このため、流延バンド95の走行速度は、45m/分以上200m/分以下とすることが好ましい。この際、流延バンド95と回転ドラム93,94との相対速度差は、0.01m/分以下とすることが好ましい。また、流延バンド95に速度変動が生じると、流延膜53の長手方向の厚みムラの要因となる。このため、流延バンド95の速度変動は、0.5%以下であることが好ましい。なお、流延バンド95が一回転する際に生じる幅方向の蛇行は、1.5mm以下とすることが好ましい。この蛇行を制御するため、流延バンド95の両端を検出する検出器(図示は省略)を設け、その測定値に基いてフィードバック制御を行うようにしてもよい。
(ガイドローラ)
図4に示すように、回転ドラム93,94の間には、等間隔に並べて配置された複数のガイドローラ102が設けられている。各ガイドローラ102は、流延バンド95の上部の内面95bと接触して流延バンド95を内側から支持し、流延バンド95の上部に生じる撓みや振動などを防止する。流延ダイ91から流出する流延ドープ51を受ける流延バンド95の上部に撓みや振動などの上下方向の位置変動が生じると、流出直後の自己支持性の低い流延膜53に厚みムラなどの悪影響を与える恐れがある。このため、各ガイドローラ102は、流延バンド95の上部に生じる上下方向の位置変動を防止し、流延膜53に厚みムラなどが生じることを防ぐ。なお、流延バンド95の上部に生じる上下方向の位置変動は、流延バンド95に付与されるテンションや各ガイドローラ102との接触面圧などを調整することによって、200μm以下にすることが好ましい。
図5に示すように、各ガイドローラ102は、回転ドラム93,94と略平行に配置される金属ローラ部(ローラ本体部)103と、この金属ローラ部103に巻き付けられた無端状のゴム部104とによって構成されており、いわゆるゴムライニングされたローラとなっている。金属ローラ部103には、回転軸103aが形成されている。各ガイドローラ102は、この回転軸103aを介して回動自在に保持され、流延バンド95の走行に応じて従動回転する。なお、各ガイドローラ102は、従動回転するものに限らず、回転駆動されるものであってもよい。
流延バンド95には、各ガイドローラ102と接触する際に、ガイドローラ102からの垂直抗力が加わる。この垂直抗力が過大になると、流延バンド95の内面95bの近傍のオーステナイト系ステンレス相P1(図6(A)参照)が、マルテンサイト系ステンレス相Q1(図6(B)参照)に変化してしまうことがある。オーステナイト系ステンレス相P1がマルテンサイト系ステンレス相Q1に変化すると、約4%体積が増加することが知られている。このため、マルテンサイト系ステンレス相Q1への変化が生じると、図6(B)に示すように、内面95bが隆起し、これに伴って外面95bが凹状に湾曲する。また、マルテンサイト系ステンレス相Q1への変化は、各ガイドローラ102との接触に伴って、流延バンド95の走行方向に連続的に発生する。すなわち、各ガイドローラ102からの過大な垂直抗力は、外面95bに流延バンド95の走行方向と略平行なスジ状の変形を生じさせる。こうしたスジ状の変形は、流延膜53の幅方向の厚みムラの要因となる。
ゴム部104は、流延バンド95のマルテンサイト化による外面95aの変形を防止するためのものであって、その弾性によって内面95bと接触する際の接触面圧を低減し、流延バンド95に加わる垂直抗力を抑える。この際、ゴム部104が柔らかすぎると、流延バンド95との摩擦によって磨耗し、ゴム部104の変形や破損などが懸念される。一方、ゴム部104が硬すぎると、マルテンサイト化の問題を起こしかねない。このため、ゴム部104の硬度は、60°〜100°[JIS−A]であることが好ましく、特に70°〜80°[JIS−A]であることが好適である。
ところで、ゴム部104が厚すぎると、接触面圧によってゴム部104に割れなどの破損や変形が生じてしまうことが懸念される。一方、ゴム部104が薄すぎると、接触面圧を低減させる効果が薄れてしまう。このため、ゴム部104の厚みt1は、1mm〜10mmであることが好ましく、5mmが最適である。また、ゴム部104の表面が粗すぎると、点接触になってマルテンサイト化を誘起しやすい。一方、ゴム部104の表面が滑らかすぎると、流延バンド95との摩擦が低下してスリップの要因となる。このため、ゴム部104の表面粗さは、最大高さRyが0.1μm〜10μmであることが好ましく、特に2μm〜8μmであることが好適である。
なお、ゴム部104には、例えば、耐摩耗性、耐溶剤性に優れたフッ素ゴム(FKM)などを用いることが好ましい。フッ素ゴムとしては、例えば、ハイフロン(明和ゴム工業(株)製)などの商品名で市販されているものが使用できる。また、金属ローラ部103には、例えば、耐腐食性の高いステンレス鋼などを用いることが好ましい。
次に、本発明の作用について説明する。
ドープ製造ライン10(図1)では、溶媒、TACや添加剤液などから、原料ドープ48が調整され、ストックタンク30に貯留する。
図3のように、ギアポンプ66〜68により、ストックタンク30に貯留する原料ドープ48は、中間層用ドープ流路63と裏面層用ドープ流路64と表面層用ドープ流路65へ送液される。流路63〜65では、原料ドープ48に所定の添加剤等が添加され、静止型混合器(スタティックミキサ)78、83、88により、中間層用ドープ71,裏面層用ドープ72,表面層用ドープ73がつくられる。こうして、中間層用ドープ71,裏面層用ドープ72,表面層用ドープ73は、フィードブロック74にそれぞれ所望の流量で送液される。各ドープ71〜73は、フィードブロック74内で合流し、流延ドープ51となって流延ダイ91へ送られる(図4)。
流延ダイ91は、流延ドープ51を流延バンド95に流出する。流延ダイ91から流延バンド95にかけて、流延ドープ51は、流延ビードを形成する。流延バンド95上に流出した流延ドープ51は流延膜53を形成する。この流延膜53は、流延ドープ51と同様に各ドープ71〜73が層をなしている。なお、このときのドープ71〜73の温度は、−10℃以上57℃以下であることが好ましい。
回転ドラム93、94は、伝熱媒体循環装置146により所定の温度に保持される。また、図示を省略した駆動部により回転ドラム93が、所定の速度で回転する。回転ドラム93の回転に従動して流延バンド95が所定の速度で走行する。そして、流延バンド95の走行に従動して回転ドラム94が回転する。流延膜53は、剥取ローラ140によって剥ぎ取られるまで、流延バンド95により流延室96内を案内される。流延室96内を案内される間、送風機141〜143が流延膜53に乾燥風をあてて、流延膜53内の溶媒を蒸発させる。こうして、所望の程度まで乾燥された流延膜53は、剥取ローラ140によって剥ぎ取られ、湿潤フイルム55となる。
流延膜53が自己支持性を有するものとなった後に剥取ローラ140で支持しながら湿潤フイルム55として流延バンド95から剥ぎ取る。その後に多数のローラが設けられている渡り部105を搬送させた後にテンタ110に送り込む。渡り部105では、送風機107から所望の温度の乾燥風を送風することで湿潤フイルム55の乾燥を進行させる。
テンタ110には、所定の乾燥条件に保持された温度ゾーンが設けられる。テンタ110に送られる湿潤フイルム55は、その両縁がクリップ等で把持されながら温度ゾーンに搬送される。この温度ゾーンへの搬送或いは通過において、湿潤フイルム55に含まれる溶媒が蒸発し、湿潤フイルム55が乾燥する。テンタ110は、乾量基準の残留溶媒量が250重量%以上10重量%以下になるまで湿潤フイルム55を乾燥することが好ましい。なお、この乾量基準による残留溶媒量は、サンプリング時におけるフイルム重量をx、そのサンプリングフイルムを乾燥した後の重量をyとするとき{(x−y)/y}×100で算出される値である。
テンタ110で所定の残留溶媒量まで乾燥された湿潤フイルム55は、フイルム57として送り出され、耳切装置112によりその両縁が切断される。次にフイルム57は、乾燥室115に送られる。乾燥室115では、フイルム57の残留溶媒量を乾量基準で5重量%以下にすることが好ましい。その後、フイルム57は、冷却室118に搬送され、略室温まで冷却される。最後に、フイルム57を巻取室120内の巻取ローラ121で巻き取る。
流延工程54では、駆動部を介して回転ドラム93を回転させ、この回転に伴わせて流延バンド95を所定の速度で走行させる。この際、流延バンド95は、各回転ドラム93、94によって支持されるとともに、各回転ドラム93、94の間を各ガイドローラ102によって支持される。各ガイドローラ102は、流延バンド95の内面95bと接触する外周部分にゴム部104を有している。ゴム部104は、流延バンド95と接触した際の接触面圧を低減させ、流延バンド95に過大な垂直抗力が加わることを防ぐ。これにより、流延バンド95にオーステナイト系ステンレスを用いた際の、流延バンド95のマルテンサイト化が防止される。また、流延バンド95のマルテンサイト化を防止することで、厚みムラのないフイルム57を製造することができる。
さらに、流延バンド95のマルテンサイト化によって外面95aにスジ状の変形が起きた場合には、この変形に起因する厚みムラ故障を回避するために流延バンド95の走行速度を減速させたり、新たな流延バンド95に交換するために溶液製膜設備全体を停止させたりする必要があったが、本発明により、流延バンド95の減速、溶液製膜設備全体の停止が不要になる。従って、本発明は、厚みムラがないフイルム57を高い生産効率で製造することができる。
なお、上記実施形態では、複数のドープが層をなす流延ドープ51を用いて複数の層を有する流延膜53をつくる溶液製膜設備、及び溶液製膜方法について説明したが、本発明はこれに限らず、例えば、単層のドープからなる流延ドープを用いて流延膜をつくる溶液製膜設備、及び溶液製膜方法などにも適用することができる。
また、上記実施形態では、流延バンド95の上部のみをガイドローラ102で支持するようにしているが、これに限ることなく、流延バンド95の下部をガイドローラ102で支持するようにしてもよい。さらに、上記実施形態では、ガイドローラ102のローラ本体部としてステンレス鋼からなる金属ローラ部103を示したが、ローラ本体部は、これに限ることなく、例えば、硬質な樹脂材料などによって成形されるものであってもよい。
なお、流延ダイ、減圧チャンバ、支持体などの構造、共流延、剥離法、延伸、各工程の乾燥条件、ハンドリング方法、カール、平面性矯正後の巻取方法から、溶媒回収方法、フイルム回収方法まで、特開2005−104148号の[0617]段落から[0889]段落に詳しく記述されている。これらの記載も本発明に適用できる。
[性能・測定法]
(カール度・厚み)
巻き取られたセルロースアシレートフイルムの性能及びそれらの測定法は、特開2005−104148号の[0112]段落から[0139]段落に記載されている。これらも本発明にも適用できる。
[表面処理]
前記セルロースアシレートフイルムの少なくとも一方の面が表面処理されていることが好ましい。前記表面処理が真空グロー放電処理、大気圧プラズマ放電処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理、火炎処理、酸処理またはアルカリ処理の少なくとも一種であることが好ましい。
[機能層]
(帯電防止・硬化層・反射防止・易接着・防眩)
前記セルロースアシレートフイルムの少なくとも一方の面が下塗りされていても良い。
さらに前記セルロースアシレートフイルムをベースフイルムとして、他の機能性層を付与した機能性材料として用いることが好ましい。前記機能性層が帯電防止層、硬化樹脂層、反射防止層、易接着層、防眩層及び光学補償層から選択される少なくとも1層を設けることが好ましい。
前記機能性層が、少なくとも一種の界面活性剤を0.1mg/m2〜1000mg/m2含有することが好ましい。また、前記機能性層が、少なくとも一種の滑り剤を0.1mg/m2〜1000mg/m2含有することが好ましい。さらに、前記機能性層が、少なくとも一種のマット剤を0.1mg/m2〜1000mg/m2含有することが好ましい。さらには、前記機能性層が、少なくとも一種の帯電防止剤を1mg/m2〜1000mg/m2含有することが好ましい。セルロースアシレートフイルムに、種々様々な機能、特性を実現するための表面処理機能性層の付与方法は、上記以外にも、特開2005−104148号の[0890]段落から[1087]段落に詳細な条件、方法も含めて記載されている。これらも本発明に適用できる。
(用途)
前記セルロースアシレートフイルムは、特に偏光板保護フイルムとして有用である。セルロースアシレートフイルムを偏光子に貼り合わせた偏光板を、液晶層に通常は2枚貼って液晶表示装置を作製する。ただし、液晶層と偏光板との配置は限定されるものではなく、公知の各種配置とすることができる。特開2005−104148号には、液晶表示装置として、TN型,STN型,VA型,OCB型,反射型、その他の例が詳しく記載されている。この方法は、本発明にも適用できる。また、同出願には光学的異方性層を付与した、セルロースアシレートフイルムや、反射防止、防眩機能を付与したセルロースアシレートフイルムについての記載もある。更には適度な光学性能を付与し二軸性セルロースアシレートフイルムとして光学補償フイルムとしての用途も記載されている。これは、偏光板保護フイルムと兼用して使用することもできる。これらの記載は、本発明にも適用できる。特開2005−104148号の[1088]段落から[1265]段落に詳細が記載されている。
また、本発明の製造方法により光学特性に優れるセルローストリアセテートフイルム(TACフイルム)を得ることができる。前記TACフイルムは、偏光板保護フイルムや写真感光材料のベースフイルムとして用いることができる。さらにテレビ用途などの液晶表示装置の視野角依存性を改良するための光学補償フイルムとしても使用可能である。特に偏光板の保護膜を兼ねる用途に効果的である。そのため、従来のTNモードだけでなくIPSモード、OCBモード、VAモードなどにも用いられる。また、前記偏光板保護膜用フイルムを用いて偏光板を構成しても良い。
次に、本発明の実施例を説明する。以下の各実施例では、詳細を実施例1で説明し、実施例2〜4については、実施例1と異なる条件のみを説明する。なお、実施例1〜3は本発明の実施様態の例であり、実施例4は実施例1〜3に対する比較実験である。
以下に実施例1を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。使用した重量部を下記に示す。
[組成]
セルローストリアセテート(置換度2.84、粘度平均重合度306、含水率0.2重量%、ジクロロメタン溶液中6重量%の粘度315mPa・s、平均粒子径1.5mmであって標準偏差0.5mmである粉体) 100重量部
ジクロロメタン(第1溶媒) 320重量部
メタノール(第2溶媒) 83重量部
1−ブタノール(第3溶媒) 3重量部
可塑剤A(トリフェニルフォスフェート) 7.6重量部
可塑剤B(ジフェニルフォスフェート) 3.8重量部
染料(染料例 化−115(I−4)) 0.0005重量部
[綿化合物]
なお、ここで使用したセルローストリアセテートは、残存酢酸量が0.1重量%以下であり、Ca含有量が58ppm、Mg含有量が42ppm、Fe含有量が0.5ppmであり、遊離酢酸40ppm、さらに硫酸イオンが15ppm含むものであった。また6位アセチル基の置換度は0.91であり全アセチル中の32.5%であった。また、アセトン抽出分は8重量%、重量平均分子量/数平均分子量比は2.5であった。また、イエローインデックスは1.7であり、ヘイズは0.08、透明度は93.5%であり、Tg(ガラス転移温度;DSCにより測定)は160℃、結晶化発熱量は6.4J/gであった。このセルローストリアセテートは、綿から採取したセルロースを原料としてセルローストリアセテートを合成した。
(1−1)ドープ仕込み
図1に示すドープ製造ライン10を用いた。攪拌翼根を有する4000Lのステンレス製の溶解タンク13に、前記複数の溶媒を混合して混合溶媒として攪拌・分散しつつ、セルローストリアセテート粉体(フレーク)をホッパ14から徐々に添加し、全体が2000kgとなるように調製した。なお、溶媒は、すべてその含水率が0.5重量%以下のものを使用した。溶解タンク13内を攪拌剪断速度が最初は5m/秒(剪断応力5×104kgf/m/秒2)の周速で攪拌するディゾルバータイプの第2攪拌翼41および、中心軸にアンカータイプの第1攪拌翼39を有して周速1m/秒(剪断応力1×104kgf/m/秒2)で攪拌する条件下で30分間分散した。分散の開始温度は25℃であり、最終到達温度は48℃となった。分散終了後、高速攪拌は停止し、第1攪拌翼39の周速を0.5m/秒としてさらに100分間攪拌し、セルローストリアセテートフレークを膨潤させて膨潤液44を得た。膨潤終了までは窒素ガスでタンク内を0.12MPaになるように加圧した。この際のタンク内の酸素濃度は2vol%未満であり防爆上で問題のない状態を保った。またドープ中の水分量は0.3重量%であった。
(1−2)溶解・濾過
膨潤液44を溶解タンク13からポンプ25で加熱装置18であるジャケット付配管に送液した。ジャケット付き配管で50℃まで加熱し、更に2MPaの加圧下で90℃まで加熱し、完全溶解させた。加熱時間は15分であった。温調機19で36℃まで温度を下げ、公称孔径8μmの濾材を有する濾過装置20を通過させて固形分濃度が19重量%のドープ(以下、濃縮前ドープと称する)を得た。この際、濾過1次圧は1.5MPa、2次圧は1.2MPaとした。なお、高温にさらされるフィルタ、ハウジング及び配管はハステロイ(登録商標)合金製で耐食性の優れたものを利用し保温加熱用の熱媒を流通させるジャケットを有するものを使用した。
(1−3)濃縮・濾過・脱泡・添加剤
濃縮前ドープを80℃で常圧に調整されているフラッシュ装置21内でフラッシュさせて、蒸発した溶媒を凝縮器で液化して回収装置23で回収分離した。フラッシュ後のドープの固形分濃度は、21.8重量%となった。なお、回収された溶媒は、再生装置24で再利用のために調整された。フラッシュ装置21のフラッシュタンクには中心軸にアンカー翼を有しており、周速0.5m/秒で攪拌して脱泡を行った。フラッシュタンク内のドープの温度は25℃であり、タンク内の平均滞留時間は50分であった。このドープを採取して25℃で測定した剪断粘度は剪断速度10(秒−1)で450Pa・sであった。
つぎに、このドープに弱い超音波照射することで泡抜きを実施した。その後、ポンプ26を用いて1.5MPaに加圧した状態で、濾過装置22に送液した。濾過装置22では、最初公称孔径10μmの焼結繊維金属フィルタを通過させ、ついで同じく10μmの焼結繊維フィルタを通過させた。それぞれの1次圧は1.5MPa,1.2MPaであり、2次圧は1.0MPa,0.8MPaであった。濾過後のドープの温度を36℃に調整して2000Lのステンレス製のストックタンク30内に貯蔵した。以下、このドープを原料ドープ48と称する。ストックタンク30は中心軸にアンカー翼である攪拌翼62を有して周速0.3m/秒で常時攪拌された。なお、濃縮前ドープから原料ドープ48を調製する際に、各装置のドープ接液部には、腐食などの問題は全く生じなかった。また、ジクロロメタンが86.5重量部、メタノールが13重量部、1−ブタノール0.5重量部の混合溶媒Aを作製した。
(1−4)吐出・直前添加・流延・ビード減圧
図3に示すフイルム製膜ライン32を用いて、図2に示すフイルム製造工程50を行った。ストックタンク30内の原料ドープ48を1次増圧用のギアポンプ66〜68で、1次側圧力が0.8MPaになるようにインバーターモーターによりフィードバック制御を行い送液した。ギアポンプ66〜68は容積効率99.2%、吐出量の変動率0.5%以下の性能であった。また、吐出圧力は1.5MPaであった。
流延ダイ91は、幅が1.8mであり共流延用に調整したフィードブロック74を装備し、主流のほかに両面にそれぞれ積層して3層構造のフイルムを成形できるようにした装置を用いた。なお、ドープの送液流路は、中間層用ドープ流路63、裏面層用ドープ流路64,表面層用ドープ流路65の3流路を用いた。
UV剤a(2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール),UV剤b(2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミルフェニル)5−クロルベンゾトリアゾール)とレターデーション制御剤(N,N’−di−
M−トリル−N’’−p−メトキシフェニル−1、3、5−トリアジン−2、4、6−トリアミン)と混合溶媒Aと原料ドープ48とを混合させた中間層用添加液76をストックタンク75に入れた。中間層用添加液76をポンプ77により中間層用ドープ流路63中の原料ドープ48に送液した。そして、静止型混合器78を介して混合させて、中間層用ドープ71とした。
マット剤である二酸化ケイ素(粒径15nm モース硬度 約7)を0.05重量部と剥離促進剤であるクエン酸エステル混合物(クエン酸,クエン酸モノエチルエステル,クエン酸ジエチルエステル,クエン酸トリエチルエステル)を0.006重量部と原料ドープ48と混合溶媒Aとを溶解または分散させて裏面層用添加液81とした。裏面層用添加液81をストックタンク80に入れ、ポンプ82を用いて所望の流量で裏面層用ドープ流路67中に流れている原料ドープ48に送液した。そして、静止型混合器83で混合させて、裏面層用ドープ72を作製した。添加量は、全固形分濃度が20.5重量%、フイルム形態でマット剤濃度が0.05重量%、フイルム形態で剥離促進剤濃度が0.03重量%となるように行った。
二酸化ケイ素0.05重量部を混合溶媒Aに分散させて表面層用添加液86を調製しストックタンク85に入れた。表面層用添加液86をポンプ87により表面層用ドープ流路65中の原料ドープ48に送液した。そして、静止型混合器88を介して混合させて、表面層用ドープ73を作製した。添加量は、全固形分濃度が20.5重量%、フイルム形態でマット剤濃度が0.1重量%となるように行った。
そして、目的とするTACフイルムの膜厚(表面層,中間層,裏面層)がそれぞれ4μm,73μm,3μmであり、製品厚みが80μmとなるように、流延幅を1700mmとして各ドープ(中間層用ドープ,裏面層用ドープ,表面層用ドープ)の流量を調整して流延を行った。各ドープの温度を36℃に調整するため、流延ダイ91にジャケット(図示は省略)を設けてジャケット内に供給する伝熱媒体の入口温度を36℃とした。
流延ダイ91、フィードブロック74、配管は製膜時にはすべて36℃に保温した。流延ダイ91はコートハンガータイプのものを用い、厚み調整ボルト(ヒートボルト)が20mmピッチに設けられており、ヒートボルトによる自動厚み調整機構を具備しているものを使用した。ヒートボルトは予め設定したプログラムにより高精度ギアポンプの送液量に応じたプロファイルを設定することもでき、フイルム製膜ライン32内に設置した赤外線厚み計(図示は省略)のプロファイルに基づいた調整プログラムによってフィードバック制御も可能な性能を有するものである。流延エッジ部20mmを除いたフイルムで50mm離れた任意の2点の厚み差は1μm以内であり、幅方向厚みの最小値で最も大きな差が3μm/m以下となるように調整した。また、各層の平均厚み精度は両外層が±2%以下、主流が±1%以下に制御され、全体厚みは±1.5%以下となるように調整した。
各ドープ71〜73は、フィードブロック74を経て、各ドープ71〜73が層をなす流延ドープ51となった。この流延ドープ51は、流延ダイ91に送られた。
流延ダイ91の1次側には減圧するための減圧チャンバ100を設置した。減圧チャンバ100の減圧度は流延ビードの前後で1Pa〜5000Paの圧力差が生じるようになっていて、流延スピードに応じて調整が可能なものである。その際に、ビードの長さが4mm±20mmとなるように圧力差を設定した。また、減圧チャンバ100の温度は、流延部周囲のガスの凝縮温度よりも高く設定できる機構を具備したものであった。ビード前後、後部にラビリンスパッキン(図示は省略)を設けた。また、両端には開口部を設けた。さらに、そこから、流延ビードの両縁の乱れを調整するためにエッジ吸引装置(図示は省略)が取り付けられているものを用いた。
流延ダイ91の材質は析出硬化型のステンレス鋼であり、熱膨張率が2×10-5(℃−1)以下の素材であり、電解質水溶液での強制腐食試験でSUS316製と略同等の耐腐食性を有する素材を使用した。また、ジクロロメタン,メタノール,水の混合液に3ヶ月浸漬しても気液界面にピッティング(孔開き)が生じない耐腐食性を有する素材を使用した。流延ダイ91及びフィードブロック74の接液面の仕上げ精度は表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下であり、スリットのクリアランスは1.5mmに調整した。ダイリップ先端の接液部の角部分について、Rはスリット全巾に亘り50μm以下になるように加工した。ダイ内部での剪断速度は1(1/秒)〜5000(1/秒)の範囲であった。また、流延ダイ91のリップ先端には、溶射法によりWCコーティングをおこない硬化膜を設けた。
さらに流延ダイ91のスリット端には流出するドープが、局所的に乾燥固化することを防止するために、ドープを可溶化する前記混合溶媒を流延ビード端部とスリット気液界面に片側で0.5ml/分で供給した。この液を供給するポンプの脈動率は5%以下のものを用いた。また、減圧チャンバ100により流延ビード背面(流延バンド走行方向の上流)側の圧力を150Pa低くした。減圧チャンバ100の温度を一定にするために、ジャケット(図示は省略)を取り付けた。そのジャケット内に35℃に調整された伝熱媒体を供給した。エッジ吸引風量は、1L/分〜100L/分の範囲で調整可能なものを用い、本実施例では30L/分〜40L/分の範囲で適宜調整した。
支持体として幅2.1mで長さが70mのオーステナイト系ステンレス製のエンドレスバンドを流延バンド95として利用した。流延バンド95の厚みは1.5mmであり、表面粗さは0.05μm以下になるように研磨した。流延バンド95の全体の厚みムラは0.5%以下で、幅方向の厚みムラは0.1%以下であった。内面95bと周面93a、94aとが接触するように、流延バンド95を2個の回転ドラム93,94に掛け渡した。そして、駆動部を介して回転ドラム93を回転させた。回転ドラム93の回転により、流延バンド95は無端走行した。
また、流延バンド95に付与されるテンションが、70N/mm2 となるように、各回転ドラム93、94の間隔を調整した。流延バンド95の速度変動は0.5%以下であった。また、1回転の幅方向の蛇行が、1.5mm以下に制限するように流延バンド95の両端位置を検出して制御した。さらに、流延ダイ91直下におけるダイリップ先端と流延バンド95との上下方向の位置変動は200μm以下とした。流延バンド95は、風圧変動抑制手段(図示は省略)を有した流延室96内に設置されている。この流延バンド95上に流延ダイ91から3層のドープ(表面層,中間層,裏面層)からなる流延ドープ51を流出した。
回転ドラム93,94は、流延バンド95の温度調整を行えるように、内部に伝熱媒体を送液できるものを用いた。流延ダイ91側の回転ドラム93には略5℃の伝熱媒体を流し、他方の回転ドラム94には略40℃の伝熱媒体を流した。流延直前の流延バンド95中央部の表面温度は略15℃であり、その両端の温度差は6℃以下であった。なお、流延バンド95は、表面欠陥がないものが好ましく、30μm以上のピンホールは皆無であり、10μm〜30μmのピンホールは1個/m2 以下、10μm未満のピンホールは2個/m2 以下であるものを用いた。また、流延バンド95の走行速度は、10m/分以上200m/分以下の範囲に調節した。
流延バンド95の上部の上下方向の位置変動を防止するため、各回転ドラム93、94の間に複数のガイドローラ102を設け、各ガイドローラ102で流延バンド95の上部を内側から支持した。各ガイドローラ102には、表1に示すガイドローラ(1)を用いた。ここで、表1中に付される番号1〜3は、それぞれ、ゴム部104の厚みt1、金属ローラ部103の直径、及びガイドローラ102の直径である。金属ローラ部103には、ステンレス鋼を用いた。また、ゴム部104には、明和ゴム工業(株)製のフッ素ゴムであるハイフロンを用いた。なお、ゴム部104の硬度は、80°[JIS−A]とした。また、ゴム部104の表面粗さは、最大高さRyが8μmとなるようにした。
流延室96の温度は、温調設備97を用いて35℃に保った。流延バンド95上に流延されたドープから形成された流延膜53は、最初に平行流の乾燥風により乾燥した。乾燥する際の乾燥風からの流延膜53への総括伝熱係数は24kcal/m2 ・時・℃であった。乾燥風の温度は流延バンド95上部の上流側を135℃とし、下流側を140℃とした。また、流延バンド95下部は、65℃となるように送風機141〜143から送風した。それぞれの乾燥風に含まれる溶媒の飽和温度は、いずれも−8℃付近であった。流延バンド95上の乾燥雰囲気における酸素濃度は5vol%に保持した。なお、酸素濃度を5vol%に保持するため空気を窒素ガスで置換した。また、流延室96内の溶媒を凝縮回収するために、凝縮器(コンデンサ)98を設け、その出口温度は、−10℃に設定した。
流延後5秒間は遮風板145により乾燥風が、直接流延ドープ51及び流延膜53に当たらないようにして流延ダイ91直近の静圧変動を±1Pa以下に抑制した。流延膜53中の溶媒比率が乾量基準で150重量%になった時点で流延バンド95から剥取ローラ140で支持しながら湿潤フイルム55として剥ぎ取った。このときの剥取テンションは10kgf/mであり、剥取不良を抑制するために流延バンド95の速度に対して剥取速度(剥取ローラドロー)は、100.1%〜110%の範囲で適切に調整した。湿潤フイルム55の表面温度は15℃であった。流延バンド95上での乾燥速度、すなわち、乾量基準における残留溶媒量の減少量は、平均60重量%/分であった。乾燥して発生した溶媒ガスは、−10℃の凝縮器98で凝縮液化して回収装置99で回収した。回収された溶媒は調整がなされた後に、ドープ調製用溶媒として再利用した。その際に、溶媒に含まれる水分量を0.5%以下に調整した。溶媒が除去された乾燥風は再度加熱して乾燥風として再利用した。
剥取ローラ140により剥ぎ取られた湿潤フイルム55を渡り部105のローラ106を介して搬送し、テンタ110に送った。このときに送風機107から40℃の乾燥風を湿潤フイルム55に送風した。なお、渡り部105のローラ106で搬送している際に、湿潤フイルム55に約100Nのテンションを流延方向に付与した。
テンタ110に送られた湿潤フイルム55は、クリップでその両端を固定されながらテンタ110の乾燥ゾーン内を搬送され、乾燥風により乾燥した。クリップには、20℃の伝熱媒体を供給して冷却した。クリップの駆動はチェーンで行い、そのスプロケットの速度変動は0.5%以下であった。また、テンタ110内を3ゾーンに分け、それぞれのゾーンの乾燥風温度を上流側から90℃,100℃,110℃とした。乾燥風に含まれる溶媒の飽和温度は、いずれも−10℃であった。テンタ110内での平均乾燥速度は120重量%/分であった。テンタ110の出口ではフイルム内の残留溶媒の量が、7重量%となるように乾燥ゾーンの条件を調整した。また、テンタ110内では搬送しつつ幅方向に延伸も行った。テンタ110に搬送された際の湿潤フイルム55の幅を100%としたときの拡幅量を103%とした。
剥取ローラ140からテンタ110入口に至る延伸率(テンタ駆動ドロー)は、102%とした。テンタ110内の延伸率はテンタ噛み込み部から10mm以上はなれた部分における実質延伸率の差異が10%以下であり、かつ20mm離れた任意の2点の延伸率の差異は5%以下であった。ベース端のうちテンタ110で固定している長さの比率は90%とした。テンタ110内で蒸発した溶媒は、−10℃の温度で凝縮させ液化して回収した。凝縮回収用に凝縮器(図示は省略)を設け、その出口温度は−8℃に設定した。溶媒に含まれる水分量を0.5重量%以下に調整して再使用した。そして、テンタ110からフイルム57として送り出した。
そして、テンタ110の出口から送り出されてから30秒以内に、フイルム57の両端を耳切装置112により切断した。NT型カッターにより両側50mmの耳をカットし、カットした耳はカッターブロワー(図示は省略)によりクラッシャ113に風送して平均80mm2 程度のチップに粉砕した。このチップは、再度ドープ調製用原料としてTACフレークと共にドープ製造の際に原料として利用した。テンタ110の乾燥雰囲気における酸素濃度は5vol%に保持した。なお、酸素濃度を5vol%に保持するため空気を窒素ガスで置換した。後述する乾燥室115で高温乾燥させる前に、100℃の乾燥風が供給されている予備乾燥室(図示は省略)でフイルム57を予備加熱した。
フイルム57を乾燥室115で高温乾燥した。乾燥室115を4区画に分割して、上流側から120℃,130℃,130℃,130℃の乾燥風を送風機(図示は省略)から給気した。フイルム57のローラ116による搬送テンションは100N/巾として、最終的に残留溶媒量が、0.3重量%になるまでの約10分間乾燥した。前記ローラ116のラップ角度は、90度および180度とした。前記ローラ116の材質はアルミ製もしくは炭素鋼製であり、表面にはハードクロム鍍金を施した。ローラ116の表面形状はフラットなものとブラストによりマット化加工したものとを用いた。ローラ116の回転による振れは全て50μm以下であった。また、テンション100N/巾でのローラ撓みは0.5mm以下となるように選定した。
乾燥風に含まれる溶媒ガスは、吸着回収装置117を用いて吸着回収除去した。吸着剤は活性炭であり、脱着は乾燥窒素を用いて行った。回収した溶媒は、水分量0.3重量%以下に調整してドープ調製用溶媒として再利用した。乾燥風には溶媒ガスの他、可塑剤,UV吸収剤,その他の高沸点物が含まれるので冷却除去する冷却器およびプレアドソーバーでこれらを除去して再生循環使用した。そして、最終的に屋外排出ガス中のVOC(揮発性有機化合物)は10ppm以下となるよう、吸脱着条件を設定した。また、全蒸発溶媒のうち凝縮法で回収する溶媒量は90重量%であり、残りの大部分は吸着回収により回収した。
乾燥されたフイルム57を第1調湿室(図示は省略)に搬送した。乾燥室115と第1調湿室との間の渡り部には、110℃の乾燥風を給気した。第1調湿室には、温度50℃、露点が20℃の空気を給気した。さらに、フイルム57のカールの発生を抑制する第2調湿室(図示は省略)にフイルム57を搬送した。第2調湿室では、フイルム57に直接90℃,湿度70%の空気をあてた。
調湿後のフイルム57は、冷却室118で30℃以下に冷却して両端耳切りを行った。搬送中のフイルム帯電圧は、常時−3kV〜+3kVの範囲となるように強制除電装置(除電バー)125を設置した。さらにフイルム57の両端にナーリング付与ローラ126でナーリングを行った。ナーリングは片側からエンボス加工を行うことで付与し、ナーリングする幅は10mmであり、最大高さは平均厚みよりも平均12μm高くなるように押し圧を設定した。
そして、フイルム57を巻取室120に搬送した。巻取室120は、室内温度28℃,湿度70%に保持した。さらに、フイルム帯電圧が−1.5kV〜+1.5kVになるようにイオン風除電装置(図示は省略)も設置した。このようにして得られたフイルム(厚さ60μm)57の製品幅は、1500mmとなった。巻取ローラ121の径は169mmのものを用いた。巻き始めテンションは360N/巾であり、巻き終わりが250N/巾になるようなテンションパターンとした。巻き取り全長は3940mであった。巻き取りの際の周期を400mとし、オシレート幅を±5mmとした。また、巻取ローラ121にプレスローラ122を押し圧50N/巾に設定した。巻き取り時のフイルムの温度は25℃、含水量は1.4重量%、残留溶媒量は0.3重量%であった。全工程を通しても平均乾燥速度は20重量%(乾量基準溶媒)/分であった。また巻き緩み、シワもなく、10Gでの衝撃テストにおいても巻きずれが生じなかった。また、ロール外観も良好であった。
フイルム57のフイルムロールを25℃、55%RHの貯蔵ラックに1ヶ月保管して、さらに上記と同様に検査した結果、いずれも有意な変化は認められなかった。さらにロール内における接着も認められなかった。また、フイルム57を製膜した後に、流延バンド95上にはドープから形成された流延膜53の剥げ残りは全く見られなかった。