以下、本発明の実施の形態を添付の図面に基づいて説明する。
図1〜図17は本発明の第1の実施の形態を示すもので、図1は電動機を軸線方向に見た正面図(図2の1−1線矢視図)、図2は図1の2−2線断面図、図3は図2の3−3線断面図、図4は図2の4−4線断面図、図5は図2の5−5線矢視図、図6は図3の6−6線矢視図、図7は電動機の分解斜視図、図8はアウターロータの分解斜視図、図9はインナーロータの分解斜視図、図10は図3の10部拡大図、図11はインナーロータ14の永久磁石の磁気短絡を説明する図、図12は電動機を円周方向に展開した模式図、図13はインナーロータを固定した場合に作動説明図の(その1)、図14はインナーロータを固定した場合に作動説明図の(その2)、図15はインナーロータを固定した場合に作動説明図の(その3)、図16はアウターロータを固定した場合に作動説明図の(その1)、図17はアウターロータを固定した場合に作動説明図の(その2)である。
図7に示すように、本実施の形態の電動機Mは、軸線L方向に短い八角筒形状を成すケーシング11と、ケーシング11の内周に固定された円環状の第1、第2ステータ12L,12Rと、第1、第2ステータ12L,12Rの内部に収納されて軸線Lまわりに回転する円筒状のアウターロータ13と、アウターロータ13の内部に収納されて軸線Lまわりに回転する円筒状のインナーロータ14とで構成されるもので、アウターロータ13およびインナーロータ14は固定された第1、第2ステータ12L,LRに対して相対回転可能であり、かつアウターロータ13およびインナーロータ14は相互に相対回転可能である。
図1および図2から明らかなように、ケーシング11は有底八角筒状の本体部15と、本体部15の開口に複数本のボルト16…で固定される八角板状の蓋部17とで構成されており、本体部15および蓋部17には通気のための複数の開口15a…,17a…が形成される。
図1〜図4および図7から明らかなように、第1、第2ステータ12L,12Rは、同一構造のものを円周方向にずらして重ね合わせたものであり、その一方の第1ステータ12Lを例にとって構造を説明する。第1ステータ12Lは、積層鋼板よりなるコア18の外周にインシュレータ19を介してコイル20を巻回した複数個(実施の形態では24個)第1電機子21L…を備えており、これらの第1電機子21L…は全体として円環状を成すように円周方向に結合された状態で、リング状のホルダ22で一体化される。ホルダ22の軸線L方向一端から径方向に突出するフランジ22aが、ケーシング11の本体部15の内面の段部15b(図2参照)に複数本のボルト23…で固定される。
第2ステータ12Rは、上述した第1ステータ12Lと同様に24個の第2電機子21R…を備えており、そのホルダ22のフランジ22aがケーシング11の本体部15の内面の段部15c(図2参照)に複数本のボルト24…で固定される。このとき、第1ステータ12Lおよび第2ステータ12Rの円周方向の位相は、インナーロータ14の第1、第2永久磁石52L…,52R…のピッチの半分だけ相互にずれている(図3および図4参照)。そして第1、第2ステータ12L,12Rの第1、第2電機子21L…,21R…に、ケーシング11の本体部15に設けた3個の端子25,26,27(図1参照)から3相交流電流を供給することで、第1、第2ステータ12L,12Rに回転磁界を発生させることができる。
図2、図7および図8から明らかなように、アウターロータ13は、弱磁性体で有底円筒状に形成されたロータボディ31と、弱磁性体で円板状に形成されてロータ本体31の開口を覆うようにボルト32…で固定されるロータカバー33とを備えた中空の部材であって、ロータボディ31の底部の中心から軸線L上に突出する第1アウターロータシャフト34がボールベアリング35でケーシング11の本体部15に回転自在に支持されるとともに、ロータカバー33の中心から軸線L上に突出する第2アウターロータシャフト36がボールベアリング37でケーシング11の蓋部17に回転自在に支持される。アウターロータ13の出力軸となる第1アウターロータシャフト34は、ケーシング11の本体部15を貫通して外部に延出する。
弱磁性体とは、磁石に吸着しない材質で、例えばアルミニウム等の他に樹脂、木等を含み、非磁性体と呼ばれることもある。
図2、図6、図8および図10から明らかなように、ロータボディ31の外周面には、軸線Lと平行に延びる複数本(実施の形態では20本)のスリット31a…が、径方向内外に連通するように形成される。各スリット31aは、ロータボディ31の底部側が開口し、ロータボディ31の開口側が閉塞しており、そこに軟磁性体製の第1誘導磁極38Lと、スペーサ39と、軟磁性体製の第2誘導磁極38Rとが、ロータボディ31の底部側から軸線L方向に挿入されて埋め込まれる。第1、第2誘導磁極38L,38Rは、軸線L方向に積層された鋼板で構成される。
ロータボディ31の各スリット31aの相対向する内面に相互に接近する方向に突出する一対の凸部31b,31bが形成されるとともに、前記スリット31aの内面に当接する第1、第2誘導磁極38L,38Rおよびスペーサ39の外面に、前記一対の凸部31b,31bに摺動自在に係合する一対の凹部38a,38a;39a;39aが形成される。
このようにしてスリット31aに挿入された第1、第2誘導磁極38L,38Rおよびスペーサ39のうち、第1誘導磁極38Lの前端がスリット31aの前端のストッパ31c(図6参照)に当接して移動を規制された状態で、ロータボディ31の底部にボルト40…で固定した円環状のホルダ41から軸線L方向に突出する複数の弾性爪41a…の一つが、第2誘導磁極38Rの後端に弾発的に当接する。その結果、スリット31aに挿入された第1、第2誘導磁極38L,38Rおよびスペーサ39はストッパ31cおよびホルダ41の弾性爪41aによって軸線L方向に抜け止めされ、かつガタの発生が防止される。
図2から明らかなように、アウターロータ13の第2アウターロータシャフト36を囲むように、アウターロータ13の回転位置を検出するための第1レゾルバ42が設けられる。第1レゾルバ42は、第2アウターロータシャフト36の外周に固定されたレゾルバロータ43と、このレゾルバロータ43の周囲を囲むようにケーシング11の蓋部17に固定されたレゾルバステータ44とで構成される。
図2〜図5および図9から明らかなように、インナーロータ14は、円筒状に形成されたロータボディ45と、ロータボディ45のハブ45aを貫通してボルト46で固定されたインナーロータシャフト47と、積層鋼板で構成されてロータボディ45の外周に嵌合する円環状の第1、第2ロータコア48L,48Rと、ロータボディ45の外周に嵌合する円環状のスペーサ49とを備える。インナーロータシャフト47の一端は軸線L上で第1アウターロータシャフト34の内部にボールベアリング50で回転自在に支持され、またインナーロータシャフト47の他端は第2アウターロータシャフト36の内部にボールベアリング51で回転自在に支持されるとともに、第2アウターロータシャフト36およびケーシング11の蓋部17を貫通し、インナーロータ14の出力軸としてケーシング11の外部に延出する。
ロータボディ45の外周に嵌合する第1、第2ロータコア48L,48Rは同一構造を有するもので、その外周面に沿って複数個(実施の形態では20個)の永久磁石支持孔48a…(図3および図4参照)を備えており、そこに第1、第2永久磁石52L…,52R…が軸線L方向に圧入される。第1ロータコア48Lの隣接する第1永久磁石52L…の極性は交互に反転しており、第2ロータコア48Rの隣接する第2永久磁石52R…の極性は交互に反転しており、かつ第1ロータコア48Lの第1永久磁石52L…の円周方向の位相と、第2ロータコア48Rの第2永久磁石52R…の円周方向の位相とは、それらのピッチの半分だけ相互にずれている(図3および図4参照)。
そしてロータボディ45の外周の軸線L方向中央に弱磁性体のスペーサ49が嵌合し、その外側に第1、第2永久磁石52L…,52R…を抜け止めする一対の内側永久磁石支持板53,53がそれぞれ嵌合し、その外側に第1、第2ロータコアロータコア48L,48Rがそれぞれ嵌合し、その外側に第1、第2永久磁石52L…,52R…を抜け止めする一対の外側永久磁石支持板54,54がそれぞれ嵌合し、その外側に一対のストッパリング55,55が圧入によりそれぞれ固定される。
図2から明らかなように、インナーロータシャフト47を囲むように、インナーロータ14の回転位置を検出するための第2レゾルバ56が設けられる。第2レゾルバ56は、インナーロータシャフト47の外周に固定されたレゾルバロータ57と、このレゾルバロータ57の周囲を囲むようにケーシング11の蓋部17に固定されたレゾルバステータ58とで構成される。
しかして、図10に拡大して示すように、アウターロータ13の外周面に露出する第1誘導磁極38L…の外周面に、僅かなエアギャップαを介して第1ステータ12Lの第1電機子21L…の内周面が対向し、アウターロータ13の内周面に露出する第1誘導磁極38L…の内周面に、僅かなエアギャップβを介してインナーロータ14の第1ロータコア48Lの外周面が対向する。同様に、アウターロータ13の外周面に露出する第2誘導磁極38R…の外周面に、僅かなエアギャップαを介して第2ステータ12Rの第2電機子21R…の内周面が対向し、アウターロータ13の内周面に露出する第2誘導磁極38R…の内周面に、僅かなエアギャップβを介してインナーロータ14の第2ロータコア48Rの外周面が対向する。
次に、上記構成を備えた第1の実施の形態の電動機Mの作動原理を説明する。
図12は電動機Mを円周方向に展開した状態を模式的に示すものである。図12の左右両側には、インナーロータ14の第1、第2永久磁石52L…,52R…がそれぞれ示される。第1、第2永久磁石52L…,52R…は円周方向(図12の上下方向)に所定のピッチPでN極およびS極が交互に配置されるとともに、第1永久磁石52L…と第2永久磁石52R…とが所定のピッチPの半分だけ、つまり半ピッチP/2だけずれて配置される。
図12の中央部には第1、第2ステータ12L,12Rの第1、第2電機子21L…,21R…に対応する仮想永久磁石21…が円周方向に所定のピッチPで配置される。実際には、第1、第2ステータ12L,12Rの第1、第2電機子21L…,21R…の数は各24個であり、インナーロータ14の第1、第2永久磁石52L…,52R…の数は各20個であるため、第1、第2電機子21L…,21R…のピッチはインナーロータ14の第1、第2永久磁石52L…,52R…のピッチPと一致していない。
しかしながら、第1、第2電機子21L…,21R…はそれぞれ回転磁界を形成するため、それら第1、第2電機子21L…,21R…を、ピッチPで配置されて円周方向に回転する20個の仮想永久磁石21…で置き換えることができる。以下、第1、第2電機子21L…,21R…を、仮想永久磁石21…の第1、第2仮想磁極21L…,21R…と呼ぶ。円周方向に隣接する仮想永久磁石21…の第1、第2仮想磁極21L…,21R…の極性は交互に反転しており、かつ各仮想永久磁石21…の第1仮想磁極21L…と第2仮想磁極21R…とは、円周方向に半ピッチP/2だけずれている。
第1、第2永久磁石52L…,52R…と仮想永久磁石21…との間に、アウターロータ13の第1、第2誘導磁極38L…,38R…が配置される。第1、第2誘導磁極38L…,38R…は円周方向にピッチPで配置されるとともに、第1誘導磁極38L…と第2誘導磁極38R…とは軸線L方向に整列している。
図12に示すように、仮想永久磁石21の第1仮想磁極21Lの極性が、それに対向する(最も近い)第1永久磁石52Lの極性と異なるときには、仮想永久磁石21の第2仮想磁極21Rの極性が、それに対向する(最も近い)第2永久磁石52Rの極性と同じになる。また仮想永久磁石21の第2仮想磁極21Rの極性が、それに対向する(最も近い)第2永久磁石52Rの極性と異なるときには、仮想永久磁石21の第1仮想磁極21Lの極性が、それに対向する(最も近い)第1永久磁石52Lの極性と同じになる(図14(G)参照)。
先ず、インナーロータ14(第1、第2永久磁石52L…,52R…)を回転不能に固定した状態で、第1、第2ステータ12L,12R(第1、第2仮想磁極21L…,21R…)に回転磁界を発生させることで、アウターロータ13(第1、第2誘導磁極38L…,38R…)を回転駆動する場合の作用を説明する。この場合、図13(A)→図13(B)→図13(C)→図13(D)→図14(E)→図14(F)→図14(G)の順番で、固定された第1、第2永久磁石52L…,52R…に対して仮想永久磁石21…が図中下向きに回転することで、第1、第2誘導磁極38L…,38R…が図中下向きに回転する。
図13(A)に示すように、相対向する第1永久磁石52L…および仮想永久磁石21…の第1仮想磁極21L…に対して第1誘導磁極38L…が整列し、かつ相対向する第2仮想磁極21R…および第2永久磁石52R…に対して第2誘導磁極38R…が半ピッチP/2ずれた状態から、仮想永久磁石21…を同図の下方に回転させる。その回転の開始時においては、仮想永久磁石21…の第1仮想磁極21L…の極性は、それに対向する第1永久磁石52L…の極性と異なるとともに、仮想永久磁石21…の第2仮想磁極21R…の極性は、それに対向する第2永久磁石52R…の極性と同じになる。
第1誘導磁極38L…が第1永久磁石52L…および仮想永久磁石21…の第1仮想磁極21L…間に配置されているので、第1誘導磁極38L…が第1永久磁石52L…および第1仮想磁極21L…によって磁化され、第1永久磁石52L…、第1誘導磁極38L…および第1仮想磁極21L…間に第1磁力線G1が発生する。同様に、第2誘導磁極38R…が第2仮想磁極21R…および第2永久磁石52R…間に配置されているので、第2誘導磁極38R…が第2仮想磁極21R…および第2永久磁石52R…によって磁化され、第2仮想磁極21R…、第2誘導磁極38R…および第2永久磁石52R…間に第2磁力線G2が発生する。
図13(A)に示す状態では、第1磁力線G1は、第1永久磁石52L…、第1誘導磁極38L…および第1仮想磁極21L…を結ぶように発生し、第2磁力線G2は、円周方向に隣り合う各2つの第2仮想磁極21R…と両者の間に位置する第2誘導磁極38R…とを結ぶように、また円周方向に隣り合う各2つの第2永久磁石52R…と両者の間に位置する第2誘導磁極38R…とを結ぶように発生する。その結果、この状態では、図15(A)に示すような磁気回路が構成される。この状態では、第1磁力線G1が直線状であることにより、第1誘導磁極38L…には、円周方向に回転させるような磁力は作用しない。また円周方向に隣り合う各2つの第2仮想磁極21R…と第2誘導磁極38R…との間の2つの第2磁力線G2の曲がり度合いおよび総磁束量が互いに等しく、同様に円周方向に隣り合う各2つの第2永久磁石52R…と第2誘導磁極38R…との間の2つの第2磁力線G2の曲がり度合いおよび総磁束量も、互いに等しくなってバランスしている。このため、第2誘導磁極38R…にも、円周方向に回転させるような磁力は作用しない。
そして、仮想永久磁石21…が図13(A)に示す位置から図13(B)に示す位置に回転すると、第2仮想磁極21R…、第2誘導磁極38R…および第2永久磁石52R…を結ぶような第2磁力線G2が発生するとともに、第1誘導磁極38L…と第1仮想磁極21L…との間の第1磁力線G1が曲がった状態になる。これに伴い、第1、第2の磁力線G1,G2によって、図15(B)に示すような磁気回路が構成される。
この状態では、第1磁力線G1の曲がり度合いは小さいものの、その総磁束量が多いため、比較的強い磁力が第1誘導磁極38L…に作用する。これにより、第1誘導磁極38L…は、仮想永久磁石21…の回転方向、つまり磁界回転方向に比較的大きな駆動力で駆動され、その結果アウターロータ13が磁界回転方向に回転する。また第2磁力線G2の曲がり度合いは大きいものの、その総磁束量が少ないため、比較的弱い磁力が第2誘導磁極38R…に作用し、それにより第2誘導磁極38R…は磁界回転方向に比較的小さな駆動力で駆動され、その結果アウターロータ13は磁界回転方向に回転する。
次いで、仮想永久磁石21が、図13(B)に示す位置から、図13(C),(D)および図14(E),(F)に示す位置に順に回転すると、第1誘導磁極38L…および第2誘導磁極38R…は、それぞれ第1、第2の磁力線G1,G2に起因する磁力によって磁界回転方向に駆動され、その結果アウターロータ13が磁界回転方向に回転する。その間、第1誘導磁極38L…に作用する磁力は、第1磁力線G1の曲がり度合いが大きくなるものの、その総磁束量が少なくなることによって、徐々に弱くなり、第1誘導磁極38L…を磁界回転方向に駆動する駆動力が徐々に小さくなる。また第2誘導磁極38R…に作用する磁力は、第2磁力線G2の曲がり度合いが小さくなるものの、その総磁束量が多くなることによって徐々に強くなり、第2誘導磁極38R…を磁界回転方向に駆動する駆動力が徐々に大きくなる。
そして、仮想永久磁石21が図14(E)に示す位置から図14(F)に示す位置に回転する間、第2磁力線G2が曲がった状態になるとともに、その総磁束量が最多に近い状態になり、その結果、最強の磁力が第2誘導磁極38R…に作用し、第2誘導磁極38R…に作用する駆動力が最大になる。その後、図14(G)に示すように、仮想永久磁石21が当初の図13(A)の位置からピッチP分回転することにより、仮想永久磁石21の第1、第2仮想磁極21L…,21R…がそれぞれ第1、第2永久磁石52L…,52R…に対向する位置に回転すると、図13(A)の状態と左右が反転した状態となり、その瞬間だけアウターロータ13を円周方向に回転させる磁力は作用しなくなる。
この状態から、仮想永久磁石21が更に回転すると、第1、第2の磁力線G1,G2に起因する磁力によって、第1、第2誘導磁極38L…,38R…が磁界回転方向に駆動され、アウターロータ13が磁界回転方向に回転する。その際、仮想永久磁石21が再び図13(A)に示す位置まで回転する間、以上とは逆に、第1誘導磁極38L…に作用する磁力は、第1磁力線G1の曲がり度合が小さくなるものの、その総磁束量が多くなることによって強くなり、第1誘導磁極38L…に作用する駆動力が大きくなる。逆に、第2誘導磁極38R…に作用する磁力は、第2磁力線G2の曲がり度合が大きくなるものの、その総磁束量が少なくなることによって弱くなり、第2誘導磁極38R…に作用する駆動力が小さくなる。
また図13(A)と図14(G)とを比較すると明らかなように、仮想永久磁石21がピッチP分回転するのに伴って、第1、第2誘導磁極38L…,38R…が半ピッチP/2分しか回転しないので、アウターロータ13は、第1、第2ステータ12L、12Rの回転磁界の回転速度の1/2の速度で回転する。これは、第1、第2磁力線G1,G2に起因する磁力の作用によって、第1、第2誘導磁極38L…,38R…が、第1磁力線G1で結ばれた第1永久磁石52L…と第1仮想磁極21L…との中間、および第2磁力線G2で結ばれた第2永久磁石52R…と第2仮想磁極21R…トの中間に、それぞれ位置した状態を保ちながら、回転するためである。
次に、図15および図16を参照しながら、アウターロータ13を固定した状態で、インナーロータ14を回転させる場合の電動機Mの作動について説明する。
先ず、図16(A)に示すように、各第1誘導磁極38L…が各第1永久磁石52L…に対向するとともに、各第2誘導磁極38R…が隣り合う各2つの第2永久磁石52R…の間に位置した状態から、第1、第2回転磁界を同図の下方に回転させる。その回転の開始時において、各第1仮想磁極21L…の極性を、それに対向する各第1永久磁石52L…の極性と異ならせるとともに、各第2仮想磁極21R…の極性をそれに対向する各第2永久磁石52R…の極性と同じにする。
この状態から、仮想永久磁石21…が図16(B)に示す位置に回転すると、第1誘導磁極38L…と第1仮想磁極21L…の間の第1磁力線G1が曲がった状態になり、かつ第2仮想磁極21R…が第2誘導磁極38R…に近づくことによって、第2仮想磁極21R…、第2誘導磁極38R…および第2永久磁石52R…を結ぶような第2磁力線G2が発生する。その結果、第1、第2永久磁石52L…,52R…、仮想永久磁石21…および第1、第2誘導磁極38L…,38R…において、前述した図15(B)に示すような磁気回路が構成される。
この状態では、第1永久磁石52L…と第1誘導磁極38L…との間の第1磁力線G1の総磁束量は高いものの、この第1磁力線G1がまっすぐであるため、第1誘導磁極38L…に対して第1永久磁石52L…を回転させるような磁力が発生しない。また第2永久磁石52R…およびこれと異なる極性の第2仮想磁極21R…の間の距離が比較的長いことにより、第2誘導磁極38R…と第2永久磁石52R…との間の第2磁力線G2の総磁束量は比較的少ないものの、その曲がり度合いが大きいことによって、第2永久磁石52R…に、これを第2誘導磁極38R…に近づけるような磁力が作用する。これにより、第2永久磁石52R…は、第1永久磁石52L…と共に、仮想永久磁石21…の回転方向、即ち磁界回転方向と逆方向(図16の上方)に駆動され、図16(C)に示す位置に向かって回転する。また、これに伴い、インナーロータ14が磁界回転方向と逆方向に回転する。
そして第1、第2永久磁石52L…,52R…が図16(B)に示す位置から図16(C)に示す位置に向かって回転する間、仮想永久磁石21…は、図16(D)に示す位置に向かって回転する。以上のように、第2永久磁石52R…が第2誘導磁極38R…に近づくことにより、第2誘導磁極38R…と第2永久磁石52R…との間の第2磁力線G2の曲がり度合いは小さくなるものの、仮想永久磁石21…が第2誘導磁極38R…に更に近づくのに伴い、第2磁力線G2の総磁束量は多くなる。その結果、この場合にも、第2永久磁石52R…に、これを第2誘導磁極38R…側に近づけるような磁力が作用し、それにより、第2永久磁石52R…が、第1永久磁石52L…と共に、磁界回転方向と逆方向に駆動される。
また第1永久磁石52L…が磁界回転方向と逆方向に回転するのに伴い、第1永久磁石52L…と第1誘導磁極38L…との間の第1磁力線G1が曲がることによって、第1永久磁石52L…に、これを第1誘導磁極38L…に近づけるような磁力が作用する。しかし、この状態では、第1磁力線G1に起因する磁力は、第1磁力線G1の曲がり度合いが第2磁力線G2よりも小さいことによって、上述した第2磁力線G2に起因する磁力よりも弱い。その結果、両磁力の差分に相当する磁力によって、第2永久磁石52R…が第1永久磁石52L…と共に、磁界回転方向と逆方向に駆動される。
そして、図16(D)に示すように、第1永久磁石52L…と第1誘導磁極38L…との間の距離と、第2誘導磁極38R…と第2永久磁石52R…との間の距離が互いにほぼ等しくなったときには、第1永久磁石52L…と第1誘導磁極38L…との間の第1磁力線G1の総磁束量および曲がり度合いが、第2誘導磁極38R…と第2永久磁石52R…との間の第2磁力線G2の総磁束量および曲がり度合いとそれぞれほぼ等しくなる。
その結果、これらの第1、第2磁力線G1,G2に起因する磁力が互いにほぼ釣り合うことによって、第1、第2永久磁石52L…,52R…が一時的に駆動されない状態になる。
この状態から、仮想永久磁石21…が図17(E)に示す位置まで回転すると、第1磁力線G1の発生状態が変化し、図17(F)に示すような磁気回路が構成される。それにより、第1磁力線G1に起因する磁力が、第1永久磁石52L…を第1誘導磁極38L…に近づけるようにほとんど作用しなくなるので、第2磁力線G2に起因する磁力によって、第2永久磁石52R…は、第1永久磁石52L…とともに、図17(G)に示す位置まで、磁界回転方向と逆方向に駆動される。
そして、図17(G)に示す位置から、仮想永久磁石21…が若干回転すると、以上とは逆に、第1永久磁石52L…と第1誘導磁極38L…との間の第1磁力線G1に起因する磁力が、第1永久磁石52L…に、これを第1誘導磁極38L…に近づけるように作用し、それにより、第1永久磁石52L…が第2永久磁石52R…と共に、磁界回転方向と逆方向に駆動され、インナーロータ14が磁界回転方向と逆方向に回転する。そして仮想永久磁石21…が更に回転すると、第1永久磁石52L…と第1誘導磁極38L…との間の第1磁力線G1に起因する磁力と第2誘導磁極38R…と第2永久磁石52R…との間の第2磁力線G2に起因する磁力の差分に相当する磁力によって、第1永久磁石52L…が第2永久磁石52R…と共に、磁界回転方向と逆方向に駆動される。その後、第2磁力線G2に起因する磁力が、第2永久磁石52R…を第2誘導磁極38R…に近づけるようにほとんど作用しなくなると、第1磁力線G1に起因する磁力によって、第1永久磁石52L…が第2永久磁石52R…と共に駆動される。
以上のように、第1、第2回転磁界の回転に伴い、第1永久磁石52L…と第1誘導磁極38L…との間の第1磁力線G1に起因する磁力と、第2誘導磁極38R…と第2永久磁石52R…との間の第2磁力線G2に起因する磁力と、これらの磁力の差分に相当する磁力とが、第1、第2永久磁石52L…,52R…に、即ちインナーロータ14に交互に作用し、それによりインナーロータ14が磁界回転方向と逆方向に回転する。また、そのように磁力、即ち駆動力がインナーロータ14に交互に作用することによって、インナーロータ14のトルクはほぼ一定になる。
この場合、インナーロータ14は、第1、第2回転磁界と同じ速度で逆回転する。これは、第1、第2磁力線G1,G2に起因する磁力の作用によって、第1、第2誘導磁極38L…,38R…が、第1永久磁石52L…と第1仮想磁極21L…との中間、および第2永久磁石52R…と第2仮想磁極21R…との中間にそれぞれ位置した状態を保ちながら、第1、第2永久磁石525L…,52R…が回転するためである。
以上、インナーロータ14を固定してアウターロータ13を磁界回転方向に回転させる場合と、アウターロータ13を固定してインナーロータ14を磁界回転方向と逆方向に回転させる場合とを別個に説明したが、勿論インナーロータ14およびアウターロータ13の両方を相互に逆方向に回転させることも可能である。
以上のように、インナーロータ14およびアウターロータ13のいずれか一方、あるいはインナーロータ14およびアウターロータ13の両方を回転させる場合に、インナーロータ14およびアウターロータ13の相対的な回転位置に応じて、第1、第2誘導磁極38L…,38R…の磁化の状態が変わり、滑りを生じることなく回転させることが可能であり、同期機として機能するので、効率を高めることができる。また第1仮想磁極21L…、第1永久磁石52L…および第1誘導磁極38L…の数が互いに同じに設定されるとともに、第2仮想磁極21R…、第2永久磁石52R…および第2誘導磁極38R…の数が互いに同じに設定されているので、インナーロータ14およびアウターロータ13のいずれを駆動する場合にも、電動機Mのトルクを十分に得ることができる。
しかして、本実施の形態の電動機Mによれば、アウターロータ13がロータボディ31に設けた第1アウターロータシャフト34と、ロータカバー33に設けた第2アウターロータシャフト36とでケーシング11に両持ち支持されるので、アウターロータ13の安定した回転を可能にすることができる。
またアウターロータ13を一対のボールベアリング35,37でケーシング11に回転自在に支持し、かつインナーロータ14を前記一対のボールベアリング35,37の間に配置した一対のボールベアリング50,51でアウターロータ13に回転自在に支持したので、アウターロータ13およびインナーロータ14をそれぞれ直接ケーシング11に回転自在に支持する場合に比べて、電動機Mの軸線L方向の寸法を小型化することができる。
なぜならば、インナーロータ14を一対のボールベアリング50,51でケーシング11に直接支持しようとすると、それらのボールベアリング50,51をアウターロータ13の一対のボールベアリング35,37の間に配置することができず、アウターロータ13の一対のボールベアリング35,37の軸線L方向外側に配置しなくてはならないからである。
またアウターロータ13の回転位置を検出する第1レゾルバ42と、インナーロータ14の回転位置を検出する第2レゾルバ56とを、共に軸線L方向の一端側、つまりケーシング11の蓋部17側に集中配置したので、蓋部17を取り外すだけで第1、第2レゾルバ42,56の点検、修理、組み付け、交換等の作業を同時に行うことが可能になり、利便性が大幅に向上する。更に第1、第2レゾルバ42,56のハーネスの取り回しも容易になる。
またアウターロータ13は、第1、第2誘導磁極38L…,38R…の外周表面および内周表面を、それぞれロータボディ31の外周表面および内周表面に露出させたので、第1、第2ステータ12L,12Rに対する前記エアギャップαと、インナーロータ14の第1、第2コア48L,48Rに対する前記エアギャップβとを最小限に抑え、磁気効率を高めることができる。
更に、第1誘導磁極38L…および第2誘導磁極38R…が円周方向に同位相で配置されるので、第1、第2誘導磁極38L…,38R…を円周方向に異なる位相で配置する場合に比べて、それら第1、第2誘導磁極38L…,38R…を支持するアウターロータ13のロータボディ31の構造が簡素化されるだけでなく、ロータボディ31の強度も向上する。
特に、ロータボディ31に対する第1、第2誘導磁極38L…,38R…およびスペーサ39…の支持を、ロータボディ31のスリット31aの凸部31b,31bに対して、第1、第2誘導磁極38L,38Rおよびスペーサ39の凹部38a,38a;39a;39bを軸線L方向に滑らせながら挿入することで行うので、その組付け作業が容易になるだけでなく、ボルトのような特別の固定手段が不要になって部品点数の削減および構造の簡素化に寄与することができる。しかもアウターロータ13の回転により発生する遠心力で第1、第2誘導磁極38L,38Rおよびスペーサ39が径方向に脱落するのを確実に防止することができる。
しかも、第1、第2誘導磁極38L…,38R…に凹部38a…を形成したことで、その凹部38a…で第1、第2誘導磁極38L…,38R…の不要部分を削り、渦損失およびヒステリシス損失を低減することができる。
ところで、図11に示すように、第1ステータ12Lの第1電機子21L…と、インナーロータ14の第1永久磁石52L…と間で、アウターロータ13の第1誘導磁極38L…を介して磁束が通過するとき、鎖線で示す位置に第1誘導磁極38L…が存在する状態では、第1永久磁石52L…から第1誘導磁極38L…を介して隣接する第1永久磁石52L…に磁束が短絡してしまい、磁気効率が低下する問題がある。この問題は、第2電機子21R…、第2永久磁石52R…および第2誘導磁極38R…においても、同様に発生する。
そこで本実施の形態では、図10に示すように、第1、第2永久磁石52L…,52R…の電気角180°に相当する機械角θ0よりも、軸線Lから各第1、第2誘導磁極38L,38Rの円周方向両端に引いた2本の直線の成す角度θ2を小さく設定している。尚、θ1は、軸線Lから各第1、第2永久磁石52L,52Rの円周方向両端に引いた2本の直線の成す角度であり、三つの角度の関係はθ0>θ1≧θ2である。こうすることで、円周方向に隣接する二つの第1永久磁石52L,52L間の磁気短絡、あるいは円周方向に隣接する二つの第2永久磁石52R,52R間の磁気短絡を最小限に抑えることができる。
次に、図18に基づいて本発明の第2の実施の形態を説明する。
第1の実施の形態では、第1、第2誘導磁極38L…,38R…およびスペーサ39の凹部38a…,39a…の形状と、ロータボディ31のスリット31a…の凸部31b…の形状とを四角形にしているが、図18(A)に示すように三角形にしたり、図18(B)に示すようにU字状にしても、同様の作用効果を達成することができる。
尚、凹部38a…,39a…および凸部31b…の位置関係を逆にし、第1、第2誘導磁極38L…,38R…およびスペーサ39側に凸部を形成し、スリット31a…側に凹部を形成しても、第1、第2誘導磁極38L…,38R…を確実に支持できることは同様である。しかしながら、実施の形態の如く、第1、第2誘導磁極38L…,38R…側に凹部38a…を形成することで、スリット31a…側に凹部を形成する場合に比べて、渦損失およびヒステリシス損失を低減することができる。
図19〜図21は本発明の第3の実施の形態を示すもので、図19は前記図6に対応する図、図20は図19の20−20線断面図、図21は図19の21−21線断面図である。
第3の実施の形態は、アウターロータ13のスペーサ39…の表面に円周方向に延びる溝39b…を形成するとともに、アウターロータ13のロータボディ31の外周面に前記スペーサ39…の溝39b…に連なる溝31d…を形成し、それらの溝39b…,31d…に弱磁性体で構成したリング59を嵌合させたものである。
アウターロータ13が回転すると、第1、第2誘導磁極38L…,38R…およびスペーサ39…に遠心力が作用し、ロータボディ31の軸線L方向中間部が膨らむように変形しようとする。しかしながら、前記リング59でロータボディ31の軸線L方向中間部を押さえることで、その変形を防止することができる。
次に、図22に基づいて本発明の第4の実施の形態を説明する。
第4の実施の形態は、インナーロータ14の一つの磁極を構成する第1永久磁石52Lあるいは第2永久磁石52Rを、それぞれ二つに分割したものである。この場合、二つの永久磁石が一つの磁極を構成するには、その二つの永久磁石の極性が一致していることが必要である。
この場合、インナーロータ14の磁極の電気角180°に相当するθ0は、一つの磁極を構成する二つの永久磁石52L,52L(あるいは52R,52R)をペアとしたとき、隣接するペア間を通る2本の半径線が成す角度として定義される。
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
例えば、実施の形態では径方向外側に配置したステータ12L,12Rに電機子21L…,21R…を設け、径方向内側に配置したインナーロータ14に永久磁石52L…,52R…を設けているが、電機子21L…,21R…および永久磁石52L…,52R…の位置関係を逆にしても良い。
また実施の形態では第1、第2誘導磁極38L…,38R…をロータボディ31のスリット38a…に凹凸係合させて固定しているが、第1誘導磁極38L…の位相および第2誘導磁極38R…の位相を一致させてロータボディ31に固定する構造であれば、任意の固定構造を採用することができる。
また実施の形態のステータ12L,12Rの巻線は集中巻であるが、これを分布巻にしても良い。
また第1、第2ステータ12L,12R、アウターロータ13およびインナーロータ14の極対数は実施の形態に限定されず、適宜変更可能である。