JP2008210801A - 固体高分子型燃料電池用電極、固体高分子型燃料電池用焼成膜の製造方法、及び、固体高分子型燃料電池 - Google Patents
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Abstract
【課題】処理の困難な副生成物を発生させることなく短期間で製造でき、良好な燃料ガス透過性を確保しながら高い触媒活性が得られる薄型の固体高分子型燃料電池用電極、固体高分子型燃料電池用電極の製造方法、及び、固体高分子型燃料電池を提供する。
【解決手段】導電性及び通気性を有するガス拡散層2と、触媒担持体に担持された金属触媒6を含む触媒層とからなる固体高分子型燃料電池用電極であって、前記ガス拡散層2がカーボンナノチューブでなる焼成膜で構成されるとともに、前記金属触媒6が前記触媒担持体として機能する前記焼成膜に担持されている。
【選択図】図1
【解決手段】導電性及び通気性を有するガス拡散層2と、触媒担持体に担持された金属触媒6を含む触媒層とからなる固体高分子型燃料電池用電極であって、前記ガス拡散層2がカーボンナノチューブでなる焼成膜で構成されるとともに、前記金属触媒6が前記触媒担持体として機能する前記焼成膜に担持されている。
【選択図】図1
Description
本発明は、導電性及び通気性を有するガス拡散層と、触媒担持体に担持された金属触媒を含む触媒層とからなる固体高分子型燃料電池用電極、固体高分子型燃料電池用電極の製造方法、及び、固体高分子型燃料電池に関する。
固体高分子型燃料電池は、固体電解質膜の両側をアノード触媒電極及びカソード触媒電極で挟持した膜−電極接合体で構成される。
アノード触媒電極及びカソード触媒電極は、導電性及び通気性を有するガス拡散層と触媒担持体に担持された金属触媒とイオン交換樹脂を含む触媒層を備え、触媒層が固体電解質膜と当接した構造となっている。
触媒層はアノード触媒電極及びカソード触媒電極共に白金または白金合金等の金属触媒をカーボンブラック等の表面積の大きい触媒担持体に担持して構成され、これをイオン交換樹脂と共に前記ガス拡散層上に塗布することによって得られる。
そして、白金または白金合金等の金属触媒をカーボンブラック等の触媒担持体に担持するために、一般的には湿式法と呼ばれる方法が採用されている。
そのような湿式法の一例として、塩化白金酸のエタノールによる還元反応が例示でき、これによれば、カーボンブラック上に白金が担持されるが、担持作業に数日の日数を費やす必要があることと同時に、その製造工程から出る廃液の処理に困難を要する。廃液としては塩素、塩化エチル、塩化水素等の副生成物並びにpH調整等伴うアルカリ溶液が生じるため、その生産効率の問題に加え、廃液の処理費用が生じ、製造コストの上昇につながるという問題があった。
また、触媒担持体上における金属触媒の担持部位が任意であるため、例えば触媒担持体表面にある細孔内に金属触媒が担持された場合には、その金属触媒は燃料ガスとの接触が断たれ触媒反応を起こさないため、燃料電池全体の出力向上に寄与しないという問題もあった。実際、湿式法においては、カーボンブラック表面にある細孔内にまで溶液が浸透し、白金等の金属触媒が担持されるため、プロトン伝導をつかさどるイオン交換樹脂との接触が不十分で、触媒としての機能を果たさない金属触媒が多数存在するといわれている。さらに、担持された金属触媒は、その反応過程で二次粒子として成長するものもあり、粒子内で触媒反応に寄与しない金属粒子ができてしまう。
加えて、湿式法では、触媒担持体上における金属触媒の粒子径を制御するのは非常に難しく、金属触媒の比表面積を十分に小さく、かつ均一に制御できない。そのため、固体高分子型燃料電池の発電特性を上げるには、多量の金属触媒を担持する必要があり、経済的にも効率が悪い。
さらに、担持された金属触媒がその触媒活性を十分に発揮して、固体高分子型燃料電池の出力を向上させるためには、金属触媒と燃料とイオン交換樹脂が同時に接触するよう、いわゆる三相界面を形成する必要があるが、従来の方法では、イオン交換樹脂と金属触媒を担持した導電性の触媒担持体とを混合して塗布するため、燃料が透過する経路が失われたり、金属触媒自体がイオン交換樹脂に覆われて、燃料との接触機会が失われる等の問題や、固体高分子電解質膜と反対側に担持された金属触媒は、3次元的に電解質膜とのプロトンの受け渡しを十分に行えず、燃料電池全体の発電量の向上に寄与しないという問題もあった。
このような多くの理由から、一般的な燃料電池の触媒層においては、実際に発電反応に寄与している白金または白金合金等の金属触媒量は、触媒層内に担持されている全金属触媒量の10〜30重量%に過ぎないといわれている。
さらにまた、ガス拡散層に触媒層を形成する場合には、膜−電極接合体が厚くなり、膜−電極接合体が積層される燃料電池が大型になるため、膜−電極接合体の薄膜化の要請もあった。
本発明の目的は、上述の問題点に鑑み、処理の困難な副生成物を発生させることなく短期間で製造でき、良好な燃料ガス透過性を確保しながら高い触媒活性が得られる薄型の固体高分子型燃料電池用電極、固体高分子型燃料電池用電極の製造方法、及び、固体高分子型燃料電池を提供する点にある。
上述の目的を達成するため、本発明による固体高分子型燃料電池用電極の第一の特徴構成は、特許請求の範囲の書類の請求項1に記載した通り、導電性及び通気性を有するガス拡散層と、触媒担持体に担持された金属触媒を含む触媒層とからなる固体高分子型燃料電池用電極であって、前記ガス拡散層がカーボンナノチューブでなる焼成膜で構成されるとともに、前記金属触媒が前記触媒担持体として機能する前記焼成膜に担持されている点にある。
触媒の担体として要求される主要な物性は比表面積と粉体としてのストラクチャーの発達程度であり、担体の比表面積が大きいほど担持する金属触媒の粒子サイズを小さく、しかも適切に分散させることができる。従って、一般的に、担体の比表面積がそれほど大きくなく、気孔サイズが数百μmで気孔率が80%程度のカーボンクロス等で構成されるガス拡散層に金属触媒を担持させるのは困難である。しかし、上述の構成によれば、カーボンナノチューブを用いた気孔サイズの小さな焼成膜をガス拡散層として用いることにより、燃料ガスに対する適度な通気性を確保しながらも、触媒の担体として要求される十分な比表面積が得られるので、カーボンブラック等の別途の触媒担体層を設けることなく、ガス拡散層に直接金属触媒を担持させることができるようになる。その結果、膜−電極接合体の一層の薄膜化が図れるようになる。
同第二の特徴構成は、同請求項2に記載した通り、導電性及び通気性を有するガス拡散層と、触媒担持体に担持された金属触媒を含む触媒層とからなる固体高分子型燃料電池用電極であって、前記ガス拡散層がカーボンナノチューブでなる焼成膜で構成されるとともに、前記触媒担持体が前記焼成膜に形成されたカーボンナノチューブ層で構成されている点にある。
触媒担持体を焼成膜に形成されたカーボンナノチューブ層で構成する場合には、金属触媒を必要量担持させるためのさらに大きな比表面積を容易に確保することができる。
また、カーボンナノチューブとして内部に中空構造を有するカップスタック型のカーボンナノチューブを用いる場合には、そのカップ状に炭素網層が積層した構造の内外表面の端面が外部に露出した構造となり、非常に活性が高く、金属触媒が結合しやすいため、全体として金属触媒を好適に分散させて担持させることができるようになり、焼成膜の好適な材料として、または触媒担持体の好適な材料として極めて有用である。
前記金属触媒が前記触媒担持体にスパッタリングにより担持されていることが好ましく、スパッタリングの諸条件を適正に調整することにより、焼成膜上に担持される金属触媒の粒径分布、担持量を好適に制御することができ、湿式法のような生産効率及び廃液処理の問題が生じることなく、高い触媒活性を有する固体高分子型燃料電池用電極を提供することができるようになる。特に、触媒担持体が焼成膜に形成されたカーボンナノチューブ層で構成される場合には、スパッタされる金属触媒粒子が層状に重なることなく分散して担持させることが容易にできるので、通気性を確保してさらに発電効率を高めることができるようになる。
前記金属触媒の粒子径が1〜10nmの範囲であれば、燃料ガスの通気性を確保して、触媒層で金属触媒が燃料ガスと十分に接触することができるため、高い触媒反応を得ることができる点で好ましく、前記金属触媒の担持量が1mg/cm2以下であることがさらに好ましい。
前記焼成膜の厚みは300μm以下である方が好ましい。これを超える厚みの場合には、焼成膜を作成する前段階の成形工程にて、膜表面に割れや貫通穴が形成され、その後の焼成工程によって、より促進されてしまうという傾向があり、その結果、焼成膜の導電性などが阻害されてしまい、燃料電池の機能特性が伸びないという傾向があるが、300μm以下の厚みとすることにより、そのような問題の発生を未然に防止することができる。
上述した固体高分子型燃料電池用電極に用いる焼成膜の製造方法の特徴構成は、有機溶媒にカーボンナノチューブと樹脂バインダを分散させる分散処理工程と、前記分散処理工程で得られた分散溶液を膜状に成形して乾燥させる成形工程と、前記成形工程で得られた膜を不活性ガス雰囲気下で焼成する焼成工程とからなる点にある。
分散処理工程ではカーボンナノチューブと樹脂バインダを有機溶媒中で分散させて、カーボンナノチューブ同士が適度に絡まるように分散させ、成形工程では分散処理工程で得られた分散溶液を膜状に成形して乾燥させる。このようにして成形された膜状の成形体を不活性ガス雰囲気下で焼成することにより、カーボンナノチューブの酸化による脆弱化を招くことなく、樹脂バインダが熱分解することにより多孔質の焼成膜が形成されるのである。
前記分散処理工程では、有機溶媒にカーボンナノチューブと樹脂バインダを混合し、分散装置を用いて30分から180分の範囲で分散処理することが好ましく、分散処理時間が短い場合にはカーボンナノチューブが適度に分散されず、粒状の塊であるダマが形成され、分散処理時間が長い場合にはカーボンナノチューブ同士の絡まりが解消されるため焼成後の膜の保型性を確保できなくなる。
前記分散処理工程で用いられるカーボンナノチューブは、直径が50から200nm、長さが3μm以上100μm以下の範囲であることが好ましく、この範囲であればスパッタリングにより担持される金属触媒の活性化分極が低減して触媒活性が向上するとともに、高導電性により抵抗分極が低下し、濃度分極の低下が実現できる点で好ましい。
上述した固体高分子型燃料電池用電極が、アノード触媒電極またはカソード触媒電極として、固体高分子電解質膜の何れかの面にその触媒層が接合されることにより、高効率の燃料電池を得ることができるようになる。
以上説明した通り、本発明によれば、処理の困難な副生成物を発生させることなく短期間で製造でき、良好な燃料ガス透過性を確保しながら高い触媒活性が得られる薄型の固体高分子型燃料電池用電極、固体高分子型燃料電池用電極の製造方法、及び、固体高分子型燃料電池を提供することができるようになった。
以下、本発明における固体高分子型燃料電池用電極を採用した固体高分子型燃料電池の好適な実施形態について説明する。
図1に本発明による固体高分子型燃料電池の実施形態の一例を示す。固体高分子型燃料電池1は、固体高分子電解質膜8の両面にアノード触媒電極4a(4)及びカソード触媒電極4b(4)が夫々接合されて構成されている。
アノード触媒電極4a(4)及びカソード触媒電極4b(4)は、導電性及び通気性を有するガス拡散層2(2a,2b)と、ガス拡散層2(2a,2b)の一側面に担持された金属触媒6(6a,6b)とイオン交換樹脂7を含む触媒層3(3a,3b)とで構成され、夫々の触媒層3(3a,3b)が固体高分子電解質膜8に対向するように配置されている。
ガス拡散層2は、導電性及び通気性を有する焼成膜で構成され、焼成膜上に金属触媒6がスパッタリングによって担持されている。
触媒担持体となる焼成膜は、触媒担体として比表面積を十分に確保し、金属触媒の担持量や均一分散性を確保するために適切な径及び長さのカーボンナノチューブを用いて形成されている。特に、直径が50〜200nmの範囲で、繊維の長さが3μm以上で100μm以下の範囲のカーボンナノチューブを用いて形成されたものであることが好ましい。
つまり、導電性及び通気性を有するガス拡散層と、触媒担持体に担持された金属触媒を含む触媒層とからなり、ガス拡散層がカーボンナノチューブでなる焼成膜で構成されるとともに、金属触媒が触媒担持体として機能する焼成膜に担持されて固体高分子型燃料電池用電極が構成されている。
一枚のグラフェンシートを筒状に巻いた構造を持ち、直径0.7〜70nm、長さが数十μm程度の大きさの炭素の結晶からなるカーボンナノチューブを用いる場合には、その比表面積の大きさと導電性から本発明における触媒担持体として極めて好適である。
カーボンナノチューブには、単層タイプ、複層タイプ、カーボンホーンタイプ等の種類があり、強度、導電性、熱伝導率など非常に優れた特性を持つ材料として知られている。特に、カップスタック型カーボンナノチューブは、一般的な同心円状のカーボンナノチューブと異なり、底の空いたカップを積み重ねた形状で、内部に大きな中空構造を有しており、カップの積み重ね数によって長さの調整が可能であることから、上述の範囲でカップスタック型カーボンナノチューブの長さを適切に選択することによって、金属触媒の担持量を制御することができる点で極めて有用である。直径80〜120nmのカップスタック型カーボンナノチューブを、例えばボールミリング等によって100μm以下の長さに容易に調整することができる。
一般的に燃料電池の良好な発電特性を得るには、活性化分極、抵抗分極、濃度分極の三つの最適化が必要とされるが、上述のカップスタック型カーボンナノチューブを用いると、スパッタリングによる金属触媒の担持により、活性化分極の低減(触媒活性の向上)、既存のカーボンブラックまたはカーボンナノチューブと同等以上の高導電性による抵抗分極の低減、長さ制御による濃度分極の低減という3つの最適化が可能となる。特に濃度分極低減においては、3μm以上〜50μm、より好ましくは10μm〜15μmの長さを用いることで、既存材料より性能が向上する。
金属触媒6は電極反応を促進する機能を有し、その担持量は1mg/cm2以下であることが好ましい。また、触媒6として、白金Ptまたは白金合金が好適に用いられるが、その他に、金Au、銀Ag、イリジウムIr、パラジウムPd、ルテニウムRu、オスミウムOs、コバルトCo、ニッケルNi、タングステンW、モリブデンMo、マンガンMn、イットリウムY、バナジウムV、ニオブNb、チタンTi、希土類金属、から選択される少なくとも一種を含む金属を用いることができ、さらには金属触媒に代えてモリブデンカーバイドMo2C等の炭化物を用いることも可能である。これらの触媒は一種類を単独で用いてもよいし、複数を併用してもよく、これらの一部または全部を合金形態で使用してもよい。
金属触媒6の平均粒子径は、小さい方が有効電極面積が増加して触媒活性が向上するため、1〜10nmの範囲にあることが好ましく、さらに好ましくは、2〜5nmの範囲である。ここで、スパッタリングによって金属触媒6を担持する場合、金属触媒6の薄膜が形成されないように諸条件を調節する必要がある。金属触媒6の薄膜が形成されると、触媒層3の表面全体を金属触媒6が覆うこととなり、反応ガスや反応ガスと共に供給した水の移動を阻害するためである。
スパッタリングの処理時間は90秒未満が好ましく、さらに15秒から60秒以下とすることがより好ましい。また、スパッタリングの際のRF出力値は特に制限されないが、100W以上とすることが好ましい。
図3(a)に示すように、表面が平滑な表面を有する膜に金属触媒6をスパッタした場合には、金属粒子の上に粒子が乗り、積層された金属触媒層が形成されるため、スパッタされた金属触媒の量に対して水素ガスまたは酸素ガスと接触する表面積が制限され、効率的な触媒層を形成することが困難となる。これに対して、図3(b)に示すように、カーボンナノチューブでなる焼成膜は、表面が凹凸に形成されるため、金属触媒6が固着する膜表面積を大きく稼ぐことができ、スパッタリングにより金属粒子が単層で形成され易く、担持されたほぼ全ての金属触媒6が水素ガスまたは酸素ガスの活性化に寄与して、より高い発電効率を得ることができる。
金属触媒6が担持されたガス拡散層2(2a,2b)は固体高分子電解質膜8と接合して、燃料電池用MEA(Membrane Electrode Assembly)として利用される。両者を接合する際には、金属触媒6と固体高分子電解質膜8との間にプロトンが通過する経路を得るため、イオン交換樹脂7を塗布することが好ましい。
イオン交換樹脂7としては、少なくとも高いプロトン導電性を有する材料が好ましく、デュポン社製の各種ナフィオン(デュポン社登録商標:Nafion)やダウケミカル社製のイオン交換樹脂等が好ましく例示される。
触媒層3に塗布するイオン交換樹脂7の含有量は特に制限されないが、担持された金属触媒6の全量に対して50〜1500重量%とするのが良い。50重量%より少ない場合には、プロトンが通過する経路が充分に形成されず、一方、1500重量%よりも多い場合には、焼成膜の多孔をふさいでしまい反応ガス(水素ガスや酸素ガス)が通過しなくなり、電池が発電しないという現象を誘発してしまう。また、電極触媒層へのイオン交換樹脂の塗布は、ピペット塗布、スプレー法、ドクターブレード法、スクリーン印刷法等を用いることができる。
さらに、触媒層3と固体高分子電解質膜8との接合には、熱プレス装置等を用いて実施することができる。
尚、燃料電池を構成するMEAは、本発明による固体高分子型燃料電池用電極がアノード触媒電極またはカソード触媒電極として、固体高分子電解質膜の何れかの面に接合されていれば所期の効果が得られ、必ずしも本発明による固体高分子型燃料電池用電極がアノード触媒電極及びカソード触媒電極の双方に用いられるものに限るものではない。
カーボンナノチューブを用いた焼成膜の製造工程は、図2に示すように、有機溶媒にカーボンナノチューブと樹脂バインダを分散させる分散処理工程と、分散処理工程で得られた分散溶液を膜状に成形して乾燥させる成形工程と、成形工程で得られた膜を不活性ガス雰囲気下で焼成する焼成工程とからなる。
分散処理工程で用いられる有機溶媒としては、特に制限は無いが、カップスタック型のカーボンナノチューブを用いる場合には、極性有機溶媒を例示することができ、特にN−メチルピロリドンが好ましく、樹脂バインダとしてはカーボン分散性を有するアクリル系樹脂が好適に使用できる。
また分散処理工程では、有機溶媒にカーボンナノチューブと樹脂バインダを混合し、ペイントシェーカー等の分散装置を用いて30分から60分の範囲で分散処理することが好ましい。分散処理時間が短い場合にはカーボンナノチューブが適度に分散されず、粒状の塊であるダマが形成され、分散処理時間が長い場合にはカーボンナノチューブ同士の絡まりが解消されるため焼成後の膜の保型性を確保できなくなるためである。
成形工程では、分散処理工程で十分な流動性が得られた分散液が、ガス拡散層のサイズ及び膜厚に対応した型に流し込まれ、その後乾燥処理されて薄膜の板状体が得られる。
焼成工程では、成形工程で得られた薄膜の板状体が、カーボンナノチューブの酸化による脆弱化を招くことが無いように、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下、約600℃で1時間程度焼成される。焼成温度は500℃から700℃、焼成時間は30分から5時間程度が好ましい。焼成時間が20分以下であるとバインダ樹脂が十分に熱分解しないために十分な気孔が形成されず、長時間焼成すると熱劣化により脆弱性が現れる虞があるためである。
上述した実施形態では、図3(b)に示したように、ガス拡散層がカーボンナノチューブでなる焼成膜で構成されるとともに、金属触媒が触媒担持体として機能する焼成膜に担持されている固体高分子型燃料電池用電極について説明したが、固体高分子型燃料電池用電極としては、図3(c)に示すように、ガス拡散層がカーボンナノチューブでなる焼成膜で構成されるとともに、触媒担持体が焼成膜に形成されたカーボンナノチューブ層で構成されているものであってもよい。
例えば、有機溶媒N−メチルピロリドンにカップスタック型カーボンナノチューブ等のカーボンナノチューブを混入して分散処理したカーボンナノチューブペーストを焼成膜の一側面に塗布することにより、触媒担持体としてのカーボンナノチューブ層を形成することができる。この場合には、焼成膜異常に大きな比表面積を確保することができ、スパッタされる金属触媒粒子が層状に重なることなく分散して担持させることが容易にできるので、通気性を確保してさらに発電効率を高めることができるようになる。
有機溶媒N−メチルピロリドン(以下NMP)に、カップスタック型カーボンナノチューブ(株式会社GSIクレオス提供、形式:24PS)が10重量%、アクリル樹脂(古川化学工業製 BI−2107−SA)が30重量%となるように混入して、ペイントシェーカーで60分シェーク処理してカーボンナノチューブの分散溶液を得た。
この溶液を、予め5cm2となるように区画したSUS板にキャスティングして約250μmの膜厚の板状体に成形した後、乾燥処理して、図4(a)に示すような板状体の膜を得た。
乾燥処理の後、板状体を焼成装置に投入し、窒素ガスの雰囲気下、約600℃の温度で1時間焼成して、バインダ樹脂及びNMPを熱分解及び蒸発させ、図4(b)に示すようなカーボンナノチューブの焼成膜を得た。尚、図4はSEM写真である。
このようにして得られた約250μmの膜厚で平均孔径が数μmの多孔質焼成膜の一側面に、アルバック社製スパッタリング装置を用いてスパッタリングによる金属触媒を担持させた。スパッタリングは、ターゲットには白金、不活性ガスとしてアルゴンを用い、直流電源を使用しながら、真空度3.6x103Torr、RF出力300W、スパッタ温度24℃の設定で実施した。
スパッタリング処理を30秒間行なったときに担持された白金の量は、0.029mg/cm2であった。最後に、白金粒子を担持したカップスタック型カーボンナノチューブ焼成膜に対し、担持した白金量の5倍量にNAFIONがなるように調整した、Aldrich社製Nafion溶液(5重量パーセント溶液)を、ピペットで塗布して、120℃で乾燥して白金担持電極触媒膜を得た。
MEAは次の手順で作成した。予め洗浄処理を施した、Dupont社製Nafion212膜を5cm角の大きさに切り取った。このNafion212膜の中央部分に、白金を担持した電極触媒膜を、担持した白金がNafion212膜側を向くようにして両側から挟みこみ、ホットプレス装置によって接合処理した。接合時の温度は120℃、圧力は10MPa、時間5分であった。このようにして、本願発明の電極をアノード触媒電極及びカソード触媒電極として接合されたMEAを作成した。
得られたMEAを東洋テクニカ製シングルセル(EFC05−01SP)に組み込んで、燃料電池としての評価を実施した。評価に際しては、燃料としてアノード側に水素ガスを、カソード側には酸素ガスを供給した。両ガス共に供給量を500cc/minとし、ガス供給配管の温度を120℃に設定した。また、セル本体の温度は80℃とした。IV特性の評価を実施し、図5に示すような発電特性を得た。
尚、カップスタック型カーボンナノチューブ10重量%に対して、アクリル樹脂を10〜80重量%の範囲で変動させた場合でも発電特性が大きく変わることがないことが確認された。
[比較例1]
上記実施例において、カップスタック型カーボンナノチューブ(株式会社GSIクレオス提供、形式:24PS)をアセチレンブラック(電気化学工業株式会社製 粒状品グレード)にして、同様手順の方法で試験を行った。得られた焼成膜は、非常に脆く、形状を保持しておらず使用不可であった。これはアセチレンブラックの粒子形状が細かく(5μm以下)、分散処理によるお互いの絡み合い効果が得られないためであると考えられる。
上記実施例において、カップスタック型カーボンナノチューブ(株式会社GSIクレオス提供、形式:24PS)をアセチレンブラック(電気化学工業株式会社製 粒状品グレード)にして、同様手順の方法で試験を行った。得られた焼成膜は、非常に脆く、形状を保持しておらず使用不可であった。これはアセチレンブラックの粒子形状が細かく(5μm以下)、分散処理によるお互いの絡み合い効果が得られないためであると考えられる。
[実施例2]
上記実施例において、上述と同様の方法により厚さが350μmの焼成膜を作成し、上述と同様の方法で試験を行った。得られたIV特性を図5に示す。図から明らかなように、250μm膜の場合よりも、電流密度が低いという結果が得られている。これは、厚さ350μmの焼成膜には、表面にわれや大きな貫通穴が形成されており、その結果、導電性などが阻害されているためであると考えられる。
上記実施例において、上述と同様の方法により厚さが350μmの焼成膜を作成し、上述と同様の方法で試験を行った。得られたIV特性を図5に示す。図から明らかなように、250μm膜の場合よりも、電流密度が低いという結果が得られている。これは、厚さ350μmの焼成膜には、表面にわれや大きな貫通穴が形成されており、その結果、導電性などが阻害されているためであると考えられる。
従来の固体高分子型燃料電池用電極では、厚さが300から400μmのガス拡散層に数十μmの厚さの触媒担持層を形成していたため、電極の厚みが400μm以上になるが、本発明による焼成膜を用いれば電極の厚みを200μm程度の薄型に構成することができる。
また従来の湿式法による固体高分子型燃料電池用電極の製造プロセスと比較して、ほぼ同等の発電効率を確保しながらも、製造時間が大幅に短縮され、製造工程も簡素化されるので、製造コストが低減されるばかりでなく、部品コストも低減されるようになる。
上述した実施例では、カップスタック型のカーボンナノチューブを用いてガス拡散層を構成する焼成膜を形成した場合を説明したが、本発明による焼成膜は、カップスタック型に限るものではなく、他のカーボンナノチューブを用いて構成することができ、何れの場合もスパッタリングにより金属触媒を担持させることにより良好な特性の固体高分子型燃料電池用電極を得ることができる。
1:固体高分子型燃料電池
2,2a,2b:ガス拡散層
3,3a,3b:触媒層
4:触媒電極
4a:アノード触媒電極
4b:カソード触媒電極
6,6a,6b:金属触媒
7:イオン交換樹脂
8:固体高分子電解質膜
2,2a,2b:ガス拡散層
3,3a,3b:触媒層
4:触媒電極
4a:アノード触媒電極
4b:カソード触媒電極
6,6a,6b:金属触媒
7:イオン交換樹脂
8:固体高分子電解質膜
Claims (11)
- 導電性及び通気性を有するガス拡散層と、触媒担持体に担持された金属触媒を含む触媒層とからなる固体高分子型燃料電池用電極であって、
前記ガス拡散層がカーボンナノチューブでなる焼成膜で構成されるとともに、前記金属触媒が前記触媒担持体として機能する前記焼成膜に担持されている固体高分子型燃料電池用電極。 - 導電性及び通気性を有するガス拡散層と、触媒担持体に担持された金属触媒を含む触媒層とからなる固体高分子型燃料電池用電極であって、
前記ガス拡散層がカーボンナノチューブでなる焼成膜で構成されるとともに、前記触媒担持体が前記焼成膜に形成されたカーボンナノチューブ層で構成されている固体高分子型燃料電池用電極。 - 前記カーボンナノチューブは内部に中空構造を有するカップスタック型のカーボンナノチューブである請求項1または2記載の固体高分子型燃料電池用電極。
- 前記金属触媒が前記触媒担持体にスパッタリングにより担持されている請求項1から3の何れかに記載の固体高分子型燃料電池用電極。
- 前記金属触媒の粒子径が1〜10nmの範囲である請求項4記載の固体高分子型燃料電池用電極。
- 前記金属触媒の担持量が1mg/cm2以下である請求項4または5記載の固体高分子型燃料電池用電極。
- 前記焼成膜の厚みが300μm以下である請求項1から6の何れかに記載の固体高分子型燃料電池用電極。
- 請求項1から7の何れかに記載の固体高分子型燃料電池用電極に用いる焼成膜の製造方法であって、
有機溶媒にカーボンナノチューブと樹脂バインダを分散させる分散処理工程と、前記分散処理工程で得られた分散溶液を膜状に成形して乾燥させる成形工程と、前記成形工程で得られた膜を不活性ガス雰囲気下で焼成する焼成工程とからなる焼成膜の製造方法。 - 前記分散処理工程では、有機溶媒にカーボンナノチューブと樹脂バインダを混合し、分散装置で30分から180分の範囲で分散処理する請求項8記載の焼成膜の製造方法。
- 前記分散処理工程で用いられるカーボンナノチューブは、直径が50から200nm、長さが3μm以上100μm以下の範囲である請求項8または9記載の焼成膜の製造方法。
- 固体高分子電解質膜の一方の面にアノード触媒電極の触媒層が接合され、他方の面にカソード触媒電極の触媒層が接合されている固体高分子型燃料電池であって、
請求項1から7の何れかに記載の固体高分子型燃料電池用電極が、前記アノード触媒電極または前記カソード触媒電極として、前記固体高分子電解質膜の何れかの面に接合されている固体高分子型燃料電池。
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JP2008022284A JP2008210801A (ja) | 2007-02-02 | 2008-02-01 | 固体高分子型燃料電池用電極、固体高分子型燃料電池用焼成膜の製造方法、及び、固体高分子型燃料電池 |
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