以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
図1および図2は、それぞれ、本発明による薄膜音響共振器であるFBARおよびSBARの基本構成を説明するための模式的断面図である。
図1において、FBAR20は、上方電極21および下方電極23を備え、これらは圧電体(PZ)材料の層22の一部を挟み込んで挟み込み構造を形成している。好適なPZ材料は窒化アルミニウム(AlN)または酸化亜鉛(ZnO)である。FBAR20に使用される電極21,23は、好適にはモリブデンから作られるが、他の材料を使用することも可能である。
この素子は、薄膜PZ材料内のバルク弾性音響波の作用を利用している。印加電圧により二つの電極21,23の間に電界が生ずると、PZ材料は電気エネルギーの一部を音波の形の機械的エネルギーに変換する。音波は電界と同じ方向に伝播し、電極/空気境界面で反射される。
機械的に共振している時、PZ材料の電気エネルギー/機械エネルギー変換機能により、音響共振器は電気共振器としての役割を果す。したがって、素子は、ノッチフィルタとして動作することができる。素子の機械的共振は、音波が伝播する材料の厚さが当該音波の半波長と等しくなる周波数で発生する。音波の周波数は電極21,23間に印加される電気信号の周波数である。音の速度は光の速度より5〜6桁小さいから、得られる共振器を極めてコンパクトにすることができる。GHz帯の用途に対する共振器を、平面寸法が約100μmおよび厚さが数μmのオーダーで構成することができる。
次に、図2を参照してSBARについて説明する。SBAR40は、帯域フィルタと類似の電気的機能を与える。SBAR40は、基本的には機械的に結合されている二つのFBARフィルタである。圧電体層41の共振周波数で電極43および44を横断する信号は、音響エネルギーを圧電体層42に伝える。圧電体層42内の機械的振動は、電極44および45を横断する電気信号に変換される。
図3〜図8は、本発明による薄膜音響共振器であるFBARの製造方法及びそれにより得られたFBARの実施形態を説明するための模式的断面図(図3〜図6,図8)及び模式的平面図(図7)である。
先ず、図3に示されているように、集積回路製作に利用されている通常のシリコンウェーハ51に、エッチングにより窪みを形成する。窪みの深さは好適には1.5〜30μm、更に好ましくは1.5〜10μmあるいは場合によっては3〜30μmである。FBARの挟み込み構造の下の空洞の深さは圧電体層により生ずる変位を許容すればよいことを考えれば、空洞の深さは数μmあれば十分である。
ウェーハ51の表面に熱酸化により酸化シリコンの薄層53を形成し、これにより、その上に以後の工程で形成される犠牲層のPSGからウェーハ51内に燐が拡散しないようにする。この薄層53としては、酸化シリコン層の代わりに、低圧CVD法により形成した窒化シリコン層を用いてもよい。このようにウェーハ内への燐の拡散を抑制することにより、シリコンウェーハが導体に変換されることが阻止され、作製された素子の電気的動作に対する悪影響をなくすことができる。以上のようにしてウェーハ51の表面に酸化シリコンまたは窒化シリコンの薄層53を形成したものを、基板として用いる。即ち、図3は、基板の表面に深さが好適には1.5〜30μm、更に好ましくは1.5〜10μmあるいは場合によっては3〜30μmの窪み52を形成した状態を示す。
次に、図4に示されているように、基板の酸化シリコンまたは窒化シリコンの薄層53上に燐酸石英ガラス(PSG)層55を堆積させる。PSGは、シランおよびP2O5源となる物質を原料に使用して約450℃までの温度で堆積され、燐含有量約8%の軟ガラス様物質を形成する。シランの例としては、モノシラン(Monosilane:SiH4)、トリクロルシラン(Trichlorosilane:SiHCl3)、テトラメトキシシラン(Silicontetramethoxide:Si(OCH3)4)、テトラエトキシシラン(Silicont etraethoxide:Si(OC2H5)4)などが挙げられる。P2O5源となる物質の例としては、P2O5の他に、ホスフィン(PH3)、亜リン酸トリメチル(Trimethylphosphite:P(OCH3)3)、亜リン酸トリエチル(Triethyl phosphite:P(OC2H5)3)、リン酸トリメチル(Trimethylphosphate:PO(OCH3)3)、リン酸トリエチル(Triethyl phosphate:PO(OC2H5)3)などが挙げられる。この低温プロセスは、当業者に周知である。PSGは、比較的低温で堆積させることができ、且つ、希釈H2O:HF溶液で非常に高いエッチング速度でエッチングされる非常にクリーンな不活性材料であるから、犠牲層の材料として好適である。以後の工程で実行されるエッチングにおいて10:1の希釈割合で毎分約3μmのエッチング速度が得られる。
堆積したままのPSG犠牲層55の表面は、原子レベルでみると非常に粗い。したがって、堆積したままのPSG犠牲層55は、音響共振器を形成する基体としては不十分である。FBAR/SBAR形式の音響共振器は、結晶が電極面に垂直な柱状晶をなして成長する圧電材料を必要とする。微細な研磨粒子を含む研磨スラリーを用いてPSG犠牲層55の表面を磨いて滑らかにすることにより、優れた結晶の圧電材料の薄膜を形成する。
即ち、図5に示されているように、PSG層55の表面を粗仕上げスラリーで磨くことにより全体的に平面化して、窪み52の外側のPSG層の部分を除去する。次に、残っているPSG層55を更に微細な研磨粒子を含むスラリーで磨く。代替方法として、磨き時間がかかってもよければ一つの更に微細なスラリーを用いて上記二つの磨きステップを実行してもよい。目標は、鏡面仕上げである。
本発明においては、PSG層を研磨する前に、緻密化とリフローとを兼ねて、PSG層を高温で熱処理することが好ましい。このPSG層の熱処理は、RTA(RapidThermal Anneal)法により行なうことができる。これは、窒素雰囲気中または窒素−酸素混合雰囲気中で750℃〜950℃の温度で行なわれる。または、高温熱処理を拡散炉またはランプ加熱により行なってもよい。本発明においては、PSG層を高温で熱処理することにより、PSG層をより緻密な構造にするとともに、その硬度を高める。硬度を高めることにより、その後のCMP(化学的機械的研磨)において、PSG膜表面にスクラッチ等の研磨傷が発生するのを抑制し、表面を良好に平坦化することができる。
以上のようにして窪み52に対応する位置にPSG層55を残留させた基板のクリーニングも重要である。スラリーはウェーハ上に少量のシリカ粗粉を残す。この粗粉を除去せねばならない。本発明の好適な実施形態では、この粗粉除去をポリテックス(Polytex(商標):ロデール・ニッタ社)のような堅いパッドの付いた第2の研磨具を使用して行う。その際の潤滑剤として、脱イオン水を使用し、磨いてから最終クリーニングステップの準備が完了するまでウェーハを脱イオン水中に入れておく。基板を、最後の磨きステップと最後のクリーニングステップとの間で乾燥させないように注意する。最後のクリーニングステップは、基板を色々な化学薬品の入っている一連のタンクに漬けることから成る。各タンクに超音波撹拌を加える。このようなクリーニング手段は当業者に周知である。
研磨剤は、シリカ微粒子から構成されている。本発明の好適な実施形態では、シリカ微粒子のアンモニア主体スラリー(RodelKlebosol#30N:ローデル・ニッタ社)を利用する。
以上の説明では特定の研磨およびクリーニングの様式を示したが、必要な滑らかさの表面を与えるどんな研磨およびクリーニングの様式をも利用することができる。本発明の好適な実施形態では、最終表面は、原子間力顕微鏡プローブで測った高さのRMS変動が25nm以下(好ましくは20nm以下)である。
以上のようにして表面をきれいにしてから、図6に示されているように、挟み込み構造体60の下方電極61を堆積させる。下方電極61の好適な材料は、モリブデン(Mo)である。しかし、下方電極61を他の材料たとえばAl、W、Au、PtまたはTiから構成することもできる。その低い熱弾性損失のためモリブデン(Mo)が好適である。たとえば、Moの熱弾性損失は、Alの約1/56である。
下方電極61の厚さも重要である。厚い層は、薄い層より表面が粗くなる。圧電体層62の堆積のための滑らかな表面を維持することは、得られる共振器の性能にとって非常に重要である。したがって、下方電極の厚さは、好適には150nm以下である。Moは好適にはスパッタリングにより堆積される。これにより、表面の高さのRMS変動が25nm以下(好ましくは20nm以下)のMo層が得られる。
下方電極61を堆積し終わってから、圧電体層62を堆積する。圧電体層62の好適な材料は、AlNまたはZnOであり、これもスパッタリングにより堆積される。本発明の好適な実施形態では、圧電体層62の厚さは、0.1μmから10μmの間(好ましくは0.5μm〜2μm)にある。圧電体層62の上面は、高さのRMS変動が圧電体層厚さ(平均値)の5%以下であるのが好ましい。
最後に、上方電極63を堆積させる。上方電極63は、下方電極61と同様な材料から構成され、好適にはMoから構成される。
以上のようにして、下方電極61、圧電体層62及び上方電極63からなり、所要の形状にパターニングされた挟み込み構造体60を形成してから、図7に示されているように、挟み込み構造体60の端部または挟み込み構造体60により覆われずに露出している犠牲層55の部分から、希釈H2O:HF溶液でエッチングすることにより、挟み込み構造体60の下方のPSGをも除去する。これにより、図8に示されているように、窪み52の上に橋架けされた挟み込み構造体60が残る。即ち、挟み込み構造体60は、基板の表面に形成された窪み52をまたぐように基板により縁部が支持されている。
以上のようにして得られたFBARにおいては、犠牲層55の表面(高さのRMS変動が25nm以下(好ましくは20nm以下))に従って、その上に形成された下方電極61の下面の高さのRMS変動が25nm以下(好ましくは20nm以下)であり、更に該下方電極61は厚さが薄いので上面も高さのRMS変動が25nm以下(好ましくは20nm以下)である。そして、この下方電極61の上面に従って、その上に形成された圧電体層62の下面の高さのRMS変動が25nm以下(好ましくは20nm以下)である。下方電極61の滑らかな上面は、圧電体層62の成長核となる結晶構造を備えていないにもかかわらず、形成される圧電体層62に非常に規則正しい構造のc軸配向を形成し優れた圧電特性を与える。
図9〜図10は、本発明による音響共振器であるFBARの製造方法及びそれにより得られたFBARの更に別の実施形態を説明するための模式的断面図である。この実施形態では、上記図3〜5に関し説明したような工程の後に、図9に示されているように、絶縁体層54を形成する。絶縁体層54は、たとえばSiO2膜であり、CVD法により堆積することができる。なお、犠牲層55の除去のためのエッチング液に対する耐性を考慮すれば、絶縁体層54としてはSiO2膜よりも低圧CVD法により形成されたSi3N4膜を使用するほうが好ましい。絶縁体層54としてSiO2膜を使用する場合には、犠牲層55の除去のためのエッチングの際に、SiO2膜の露出面に適宜のプロテクトを施せばよい。
その上に、上記図6に関し説明したような工程を行って挟み込み構造体60を形成する。次いで、図10に示されているように、上記図7及び図8に関し説明したような工程を行って、FBARを得る。その際に、犠牲層55をエッチング除去するために、挟み込み構造体60の端部または挟み込み構造体60により覆われていない絶縁体層54の部分であって犠牲層55の上方の部分に適宜の大きさの開口を形成し、該開口からエッチング液を供給する。
本実施形態のFBARは、挟み込み構造体60と空洞52との間に絶縁体層54が配置されており、挟み込み構造体60に加えて絶縁体層54をも含んで振動部が構成されるので、該振動部の強度が向上し、更に振動部の振動における周波数温度特性が改善される。
絶縁体層54の厚さt’は、好ましくは50〜1000nmの範囲内の値である。これは、圧電体層62の厚さtに対する絶縁体層54の厚さt’の比t’/tが0.1以上0.5以下の範囲内にあることが好ましく、圧電体層62の厚さtは上記のように500nm〜2000nmの範囲内にあるのが好ましいからである。比t’/tが0.1以上0.5以下の範囲内にあることが好ましい理由としては、t’/tを0.1以上とすることで絶縁体層54を含む振動部の振動における周波数温度特性を改善する効果が高められ、t’/tを0.5以下とすることで絶縁体層54を含む振動部の振動における電気機械結合係数及び音響的品質係数(Q値)の低下を阻止し得るからである。絶縁体層54の上面は、高さのRMS変動が例えば25nm以下(好ましくは20nm以下)である。
以上の実施形態において、一層高い音響的品質係数(Q値)を得るには、絶縁体層54や、下方電極61、圧電体層62及び上方電極63の各層における厚さの均一性が一層良好であることが必要である。この厚さの均一性は、上方電極63の表面のうねり高さに反映される(即ち、上方電極63の表面のうねり高さが大きい場合には、少なくとも1つの層の厚さ均一性が低い)。そこで、一層高い音響的品質係数(Q値)を得るために、上方電極63の表面のうねり高さは、圧電体層62の厚さの25%以下となるようにするのが好ましい。また、別の観点からは、上方電極63の表面のうねり高さは、測定長の0.5%以下となるようにする(測定長が150μmの場合には、うねり高さ0.75μm以下)のが好ましい。
以上の実施形態は、FBARに関するものである。しかし、当業者には、以上の説明から、同様なプロセスを用いてSBARを作製することが可能であることが明らかであろう。SBARの場合には、もう一つの圧電体層(第2の圧電体層)およびその上の電極(第2の上方電極)を堆積しなければならない。第2の圧電体層は上記実施形態で示されているような「FBAR」の上方電極の上に形成されているから、この上方電極の厚さをも150nm以下に維持して第2の圧電体層を堆積するための適切な表面(第1の圧電体層の下方電極の表面と同様)を与えなければならない。
図11は、本発明による音響共振器であるFBARの製造方法及びそれにより得られたFBARの更に別の実施形態を説明するための模式的断面図であり、図12はその上方電極の平面図である。この実施形態では、上方電極63の形状のみ、上記図3〜8に関し説明した実施形態と異なる。
本実施形態では、上方電極63が中央部631と該中央部の周囲に枠状に位置し且つ中央部631より肉厚の外周部632とを有する。中央部631と外周部632との境界は段差により形成されている。
外周部632の厚さは、中央部631の厚さの1.1倍以上であるのが好ましい。また、中央部631の厚変動は、該中央部の厚さ(平均値)の1%以下であるのが好ましい。上方電極63の寸法aは、例えば100μmである。外周部632は上方電極63の外縁から距離bまでの範囲内に位置しており、距離bは例えば40μmまでの値である。
このような上方電極構造とすることで、上方電極外周部での横方向の振動発生を抑制し、音響共振器の振動に余分なスプリアス振動が重なることを防止することができる。その結果、音響共振器およびフィルタの共振特性や品質係数が改善される。
本実施形態では、一層高い音響的品質係数(Q値)を得るために、上方電極63の中央部631の表面のうねり高さは、圧電体層62の厚さの25%以下となるようにするのが好ましい。また、別の観点からは、上方電極63の中央部631の表面のうねり高さは、測定長の0.5%以下となるようにするのが好ましい。
本発明の上述の実施形態では、PSGから構成された犠牲層を利用しているが、犠牲層には他の材料をも使用することができる。たとえば、BPSG(Boron−Phosphor−Silicate−Glass:ボロン−燐−シリコン−ガラス)または、スピン・ガラスのような他の形態のガラスを利用することもできる。これ以外にも、スピニングにより材料上に堆積できるポリビニール、ポリプロピレン、およびポリスチレンのような、プラスチックがある。堆積したこれら材料の表面は原子的レベルからみて滑らかでないので、これら材料から犠牲層を構成する場合にも、PSG犠牲層の場合のように、研磨による表面平滑化が重要である。これらの犠牲層は、有機除去材あるいはO2プラズマエッチングによって取り去ることもできる。
次に、図13および図14は、それぞれ、本発明による薄膜音響共振器であるFBARおよびSBARの断面図である。
図13において、FBAR20は、上方電極層21、下方電極層23及び密着電極層24を備え、これらは圧電体薄膜層22の一部を挟み込んで挟み込み構造体を形成している。圧電体薄膜層22の好適な材料は窒化アルミニウム(AlN)または酸化亜鉛(ZnO)である。FBAR20に使用される密着電極層24は、好適にはTi、Cr、Ni、Taから作られるが、他の材料を使用することも可能である。上方及び下方の電極層21,23は、好適にはAu、Pt、W、Moから作られるが、他の材料を使用することも可能である。挟み込み構造体は、基板11の上面に形成された窪み12の周囲において該基板11上に密着電極層24が位置するようにして、配置されている。
この素子は、圧電体薄膜層内のバルク弾性音響波の作用を利用している。印加電圧により二つの電極21,23の間に電界が生ずると、圧電体薄膜は電気エネルギーの一部を音波の形の機械的エネルギーに変換する。音波は電界と同じ方向に伝播し、電極/空気境界面で反射される。
機械的に共振している時、PZ材料の電気エネルギー/機械エネルギー変換機能により、音響共振器は電気共振器としての役割を果たす。したがって、素子は、ノッチフィルタとして動作することができる。素子の機械的共振は、音波が伝播する材料の厚さが当該音波の半波長と等しくなる周波数において発生する。音波の周波数は電極21,23間に印加される電気信号の周波数である。音波の速度は光の速度より5〜6桁小さいから、得られる共振器を極めてコンパクトにすることができる。GHz帯の用途に対する共振器を、平面寸法が約100μm、厚さが数μmのオーダーの寸法で構成することができる。
次に、図14を参照してSBARについて説明する。SBAR40は、帯域フィルタと類似の電気的機能を与える。SBAR40は、基本的には機械的に結合されている二つのFBARフィルタである。圧電体薄膜層42の共振周波数で密着電極層24及び下方電極層45と電極層44とを横断する信号は、音響エネルギーを圧電体薄膜層41に伝える。圧電体薄膜層41内の機械的振動は、電極層44と電極層43とを横断する電気信号に変換される。
図15〜図21は、本発明による薄膜音響共振器であるFBARの製造方法及びそれにより得られたFBARの実施形態を説明するための模式的断面図(図15〜図20)及び模式的平面図(図21)である。
先ず、図15に示されているように、集積回路製作に利用されている通常のシリコンウェーハ51に、エッチングにより窪みを形成する。窪みの深さは好適には1.5〜30μm、更に好ましくは1.5〜10μmあるいは場合によっては3〜30μmである。FBARの挟み込み構造体の下の空洞の深さは圧電体薄膜層により生ずる変位を許容すればよい。したがって、空洞の深さは数μmあれば十分である。
ウェーハ51の表面に熱酸化により酸化シリコンの薄層53を形成し、これにより、その上に以後の工程で形成される犠牲層のPSGからウェーハ51内に燐が拡散しないようにする。この薄層53としては、酸化シリコン層の代わりに、低圧CVD法により形成した窒化シリコン層を用いてもよい。このようにウェーハ51内への燐の拡散を抑制することにより、シリコンウェーハが導体に変換されることが阻止され、作製された素子の電気的動作に対する悪影響をなくすことができる。以上のようにしてウェーハ51の表面に酸化シリコンまたは窒化シリコンの薄層53を形成したものを、基板として用いる。即ち、図15は、基板の表面に深さが好適には1.5〜30μm、更に好ましくは1.5〜10μmあるいは場合によっては3〜30μmの窪み52を形成した状態を示す。
次に、図16に示されているように、基板上に窪み52を取り囲むようにして密着電極層161を接合形成する。密着電極層161の上面の面積(平面面積)をS1とし、その上に形成する下方電極の平面面積をS2としたとき、S1が0.01×S2≦S1≦0.5×S2の範囲内にあることが好ましい。S1<0.01×S2の場合には、基板と下方電極との密着力が弱くなり、本発明の効果が十分に発現しなくなる傾向にある。また、S1>0.5×S2の場合には、密着電極層161が薄膜音響共振器の動作に影響を与え、良好な共振特性が得られなくなる傾向にある。密着電極層161の厚さは、その上に形成する下方電極層を保持するに十分なものであれば良く、例えば20nmから1μmまでの範囲内であれば良い。また、密着電極層161の材料は、好適には、Ti、Cr、Ni、Taより選ばれる少なくとも一種を含みさえすれば良い。
以上のように密着電極層161を基板の窪み52の周囲に設けることで、薄膜音響共振器における横方向の振動発生を抑制し、薄膜音響共振器の振動に余分なスプリアス振動が重なることを防止することができる。その結果、薄膜音響共振器およびフィルタの共振特性、品質係数が改善される。また、Au、Pt、W、Moなどからなる下方電極層の中央部の下側には、Ti、Cr、Ni、Taなどからなる密着電極層161が存在しないため、この部分では下方電極層の配向性及び結晶性を高めることができ、その結果、ロッキングカーブにおける回折ピーク半値幅(FWHM)が小さく、配向性及び結晶品質に優れた圧電体薄膜層を形成できることが見出された。圧電体薄膜層の高配向性及び良質結晶化により、本発明の薄膜音響共振器およびフィルタの共振特性及び品質係数が改善される。
さて、次に、図17に示されているように、密着電極層161の形成された基板の酸化シリコンまたは窒化シリコンの薄層53上にPSGからなる犠牲層55を堆積させる。上記のように、PSGは、シランおよびP2O5源となる物質を原料に使用して約450℃までの温度で堆積され、燐含有量約8%の軟ガラス様物質を形成する。シランの例としては、モノシラン(Monosilane:SiH4)、トリクロルシラン(Trichlorosilane:SiHCl3)、テトラメトキシシラン(Silicontetramethoxide:Si(OCH3)4)、テトラエトキシシラン(Silicontetraethoxide:Si(OC2H5)4)などが挙げられる。P2O5源となる物質の例としては、P2O5の他に、ホスフィン(PH3)、亜リン酸トリメチル(Trimethylphosphite:P(OCH3)3)、亜リン酸トリエチル(Triethyl phosphite:P(OC2H5)3)、リン酸トリメチル(Trimethylphosphate:PO(OCH3)3)、リン酸トリエチル(Triethyl phosphate:PO(OC2H5)3)などが挙げられる。この低温プロセスは、当業者に周知である。PSGは、比較的低温で堆積させることができ、且つ、希釈H2O:HF溶液で非常に高いエッチング速度でエッチングされる非常にクリーンな不活性材料であるから、犠牲層の材料として好適である。以後の工程で実行されるエッチングにおいて10:1の希釈割合で毎分約3μmのエッチング速度が得られる。
堆積したままのPSG犠牲層55の表面は、原子レベルでみると非常に粗い。従って、堆積したままのPSG犠牲層55は、薄膜音響共振器を形成する基体としては不十分である。FBAR/SBAR形式の薄膜音響共振器は、結晶が電極面に垂直な柱状晶を成して成長する圧電体材料を必要とする。微細な研磨粒子を含む研磨スラリーを用いてPSG犠牲層55の表面を磨いて滑らかにすることにより、優れた配向性及び結晶品質を持つ下方電極層の形成が可能となり、ひいては優れた配向性及び結晶品質を持つ圧電体薄膜層の形成が可能となる。
即ち、図18に示されているように、PSG犠牲層55の表面を粗仕上げスラリーで磨くことにより平面化して、密着電極層161の上に堆積したPSG層の部分を除去する。次に、残っているPSG層55を更に微細な研磨粒子を含む精密仕上げスラリーを使用して磨くことができる。代替方法として、磨き時間が長くかかっても良ければ、一つの微細な精密仕上げスラリーを二つの磨きステップにて使用することもできる。目標は、「ミラー」状仕上げ(鏡面仕上げ)を実現することである。
本発明においては、PSG層を研磨する前に、緻密化とリフローとを兼ねて、PSG層を高温で熱処理することが好ましい。このPSG層の熱処理は、RTA(RapidThermal Anneal)法により行なうことができる。これは、窒素雰囲気中または窒素−酸素混合雰囲気中で750℃〜950℃の温度で行なわれる。または、高温熱処理を拡散炉またはランプ加熱により行なってもよい。本発明においては、PSG層を高温で熱処理することにより、PSG層をより緻密な構造にするとともに、その硬度を高める。硬度を高めることにより、その後のCMP(化学的機械的研磨)において、PSG膜表面にスクラッチ等の研磨傷が発生するのを抑制し、表面を良好に平坦化することができる。
以上のようにして実行された研磨の後の基板のクリーニングも重要である。スラリーは基板上に少量のシリカ粗粉を残すので、この粗粉を除去せねばならない。本発明の好適な実施形態では、このシリカ粗粉の除去をポリテックス(Polytex(商標):ロデール・ニッタ社)のような堅いパッドの付いた第2の研磨具を使用して行う。その際の潤滑剤として、脱イオン水を使用し、磨いてから最終クリーニングステップの準備が完了するまで基板を脱イオン水中に入れておく。基板を、最後の磨きステップと最後のクリーニングステップとの間で乾燥させないように注意する。最後のクリーニングステップは、基板を色々な化学薬品の入っている一連のタンクに漬けることから成る。各タンクでは超音波撹拌が加えられる。このようなクリーニング手段は当業者には周知である。
研磨剤は、シリカ微粒子から構成されている。本発明の好適な実施形態では、シリカ微粒子のアンモニア主体スラリー(RodelKlebosol#30N:ローデル・ニッタ社)を利用する。
以上の説明では特定の研磨およびクリーニングの様式を示したが、必要な滑らかさの表面を与えるどんな研磨およびクリーニングの様式をも利用することができる。本発明の好適な実施形態では、最終表面は、原子間力顕微鏡プローブで測った高さのRMS変動が25nm以下、好ましくは20nm以下、更に好ましくは10nm以下の表面粗度である。
以上のようにして表面を平滑にし、さらに密着電極層161の表面をプラズマエッチングにより清浄化処理した後、図19に示されているように、挟み込み構造体60の下方電極層162を堆積させる。下方電極層162の好適な材料は、Au、Pt、W、Moである。この下方電極層162の配向性及び結晶性が、その上に形成される圧電体薄膜層163の配向性及び結晶品質に反映される。
下方電極層162の厚さも重要である。厚い層は、薄い層より表面が粗くなる。上記のように、圧電体薄膜層163の堆積のための滑らかな表面を維持することは、得られる共振器の性能にとって非常に重要である。したがって、下方電極層162の厚さは、好適には200nm未満である。Au、Pt、W、Moは好適にはスパッタリングにより堆積される。この方法により、表面の高さのRMS変動が25nm以下、好ましくは20nm以下、更に好ましくは10nm以下の表面粗度の下方電極層162が得られる。
下方電極層162を堆積し終わってから、下方電極層162の周囲に残ったPSG犠牲層を除去し、圧電体薄膜層163を堆積する。圧電体薄膜層163の好適な材料は、AlNまたはZnOであり、これもスパッタリングにより堆積される。本発明の好適な実施形態では、圧電体薄膜層163の厚さは、0.1μmから10μmの間、好ましくは0.5μmから2μmの間にある。
最後に、上方電極層164を堆積させる。上方電極層164は、下方電極層162と同様な材料から構成され、好適にはAu、Pt、W、Moから構成される。
以上のようにして、密着電極層161、下方電極層162、圧電体薄膜層163及び上方電極層164の接合されたものからなり所要の形状にパターニングされた挟み込み構造体60を形成してから、RIE(反応性イオンエッチング)などの乾式エッチング法により、上方電極層164の周辺部から下方へ向かって、該上方電極層164、圧電体薄膜層163及び下方電極層162を通って犠牲層55にまで到達するような貫通小孔を開け、希釈H2O:HF溶液でエッチングすることにより、挟み込み構造体60の下方のPSGを除去する。これにより、図20及び図21に示されているように、窪み52の上に橋架けされた挟み込み構造体60が残る。即ち、挟み込み構造体60は、基板の表面に形成された窪み52の周囲に密着電極層161が位置し、窪み52をまたぐようにして、縁部が基板により支持されている。
以上のようにして得られた薄膜音響共振器においては、挟み込み構造体60の周辺部では密着電極層161の分だけ質量が大きくなるので、横方向の振動発生が抑制され、薄膜音響共振器の振動に余分なスプリアス振動の重なりが生ずるのを防止することができる。また、窪み52の周囲に密着電極層161を形成することにより、従来空洞上に単独では堆積できなかったAu、Ptなどからなる下方電極層を堆積することが可能となり、W、Moなどからなる下方電極層についても下地基板との密着性が改善される。
また、以上のような薄膜音響共振器の製造方法によれば、Au、Pt、W、Moなどからなる下方電極層162の中央部をシリカガラス、燐酸石英ガラスなどのガラス質の犠牲層上に形成するので、従来のTi等からなる密着層上にAu、Pt、W、Moなどの電極層を全体的に形成する場合よりも、下方電極層の配向性及び結晶性が優れたものとなり、ロッキングカーブにおける回折ピーク半値幅(FWHM)の小さな良質な結晶膜が得られる。このようにして下方電極層162の配向性及び結晶品質を改良することにより、その上に形成される圧電体薄膜層の配向性及び結晶品質の向上が実現される。
以上の実施形態は、FBARに関するものである。しかし、当業者には、以上の説明から、同様なプロセスを用いてSBARを作製することが可能であることが明らかであろう。SBARの場合には、もう一つの圧電体層(第2の圧電体層)およびその上の電極層を堆積しなければならない。第2の圧電体層は上記実施形態で示されているような「FBAR」の上方電極層の上に形成されているから、この上方電極層の厚さをも例えば100nmに維持して第2の圧電体層を堆積するための適切な表面状態を与えるようにする。例えば、高さのRMS変動が25nm以下、好ましくは20nm以下、更に好ましくは10nm以下の表面粗度である平滑な表面とするのが好ましい。
本発明の上述の実施形態では、PSGから構成された犠牲層を利用しているが、犠牲層には他の材料をも使用することができる。例えば、BPSG(Boron−Phosphor−silicate−Glass:ボロン−燐−シリコン−ガラス)または、スピン・ガラスのような他の形態のガラスを利用することもできる。これ以外にも、スピニングにより基板上に堆積できるポリビニール、ポリプロピレン、およびポリスチレンのようなプラスチックがある。これらの材料から犠牲層を構成する場合にも、PSG犠牲層の場合のように、研磨による表面平滑化が重要である。これらの犠牲層は、有機除去材あるいはO2プラズマエッチングによって取り去ることもできる。
次に、図22は本発明による圧電薄膜共振子(薄膜音響共振器)の実施形態を示す模式的平面図であり、図23はそのX−X断面図である。これらの図において、圧電薄膜共振子111は基板112、該基板112の上面上に形成された絶縁層13及び該絶縁層13の上面上に接合された圧電積層構造体14を有する。圧電積層構造体14は、絶縁層13の上面上に形成された下部電極15、該下部電極15の一部を覆うようにして下地膜13の上面上に形成された圧電体膜16および該圧電体膜16の上面上に形成された上部電極17からなる。基板112には、空隙を形成するビアホール120が形成されている。絶縁層13の一部はビアホール120に向けて露出している。この絶縁層13の露出部分、及びこれに対応する圧電積層構造体14の部分が振動部(振動ダイヤフラム)121を構成する。また、下部電極15及び上部電極17は、振動部121に対応する領域内に形成された主体部15a,17aと、該主体部15a,17aと外部回路との接続のための端子部15b,17bを有する。端子部15b,17bは振動部121に対応する領域外に位置する。
基板112としては、Si(100)単結晶などの単結晶、または、Si単結晶などの基材の表面にシリコン、ダイヤモンドその他の多結晶膜を形成したものを用いることができる。基板112のビアホール120の形成方法としては、基板下面側からの異方性エッチング法が例示される。尚、基板112に形成される空隙は、ビアホール120によるものには限定されず、振動部121の振動を許容するものであればよく、該振動部121に対応する基板上面領域に形成した凹部であってもよい。
絶縁層13は、酸化シリコン(SiO2)または窒化シリコン(SiNx)を主成分とする(好ましくは含有量が50当量%以上の)誘電体膜である。誘電体膜は、単層からなるものであってもよいし、密着性を高めるための層などを付加した複数層からなるものであってもよい。複数層からなる誘電体膜の例としては、SiO2層の片面または両面に窒化シリコン層を付加したものが例示される。絶縁層13の厚さは、例えば0.2〜2.0μmである。絶縁層13の形成方法としては、シリコンからなる基板112の表面の熱酸化法やCVD法や低圧CVD法が例示される。
下部電極15及び上部電極17は、モリブデン(Mo)を主成分とする(好ましくは含有量が80当量%以上の)導電膜である。Moは熱弾性損失が低い(Alの約1/56)ことから、特に高周波で振動する振動部を構成するのに好適である。Mo単体だけでなく、Moを主成分とする合金を使用することも可能である。下部電極15及び上部電極17の厚さは、例えば50〜200nmである。下部電極15及び上部電極17の形成方法としては、スパッタ法または蒸着法が例示され、更に必要に応じて所要の形状へのパターニングのためにフォトリソグラフィー技術が用いられる。
圧電体膜16は、AlNを主成分とする(好ましくは含有量が90当量%以上の)圧電膜からなり、その厚さは例えば0.5〜2.5μmである。圧電体膜16の形成方法としては、反応性スパッタ法が例示され、更に必要に応じて所要の形状へのパターニングのためにフォトリソグラフィー技術が用いられる。
本発明者らは、図22及び図23に示す構成でAlNを主成分とする圧電体膜16を持ち2GHz近傍に基本モードの共振を持つFBARについて、弾性波の伝搬速度が速いというAlN薄膜の特長を活かしつつ、電気機械結合係数及び音響的品質係数を損なうことなく共振周波数の温度安定性を高めるべく、鋭意検討した結果、絶縁層13としてSiO2またはSiNxを主成分とするものを用い且つ上下部電極15,17としてMoを主成分とするものを用いることが有効であることを見出した。更に、圧電体膜16の厚さtと絶縁層13の厚さt’とが0.1≦t’/t≦0.5好ましくは0.2≦t’/t≦0.4を満たすことにより、電気機械結合係数、音響的品質係数及び共振周波数の温度安定性の全てが一層良好となることを見出した。t’/t<0.1となると、電気機械結合係数及び音響的品質係数は若干向上する場合があるものの、共振周波数の温度係数の絶対値が大きくなり、FBARとしての特性が低下する傾向にある。また、t’/t>0.5となると、電気機械結合係数及び音響的品質係数が低下し、共振周波数の温度係数の絶対値が大きくなり、FBARとしての特性が低下する傾向にある。
図24は本発明による圧電薄膜共振子の更に別の実施形態を示す模式的平面図であり、図25はそのX−X断面図である。これらの図において、上記図22及び図23におけると同様の機能を有する部材には同一の符号が付されている。
本実施形態では、絶縁層13の他にも、SiO2またはSiNxを主成分とする(好ましくは含有量が50当量%以上の)絶縁層18が圧電積層構造体14に接合されている。絶縁層18は上部電極17の主体部17a上に形成されている。絶縁層18は、振動部121に対応する領域以外に延びて、圧電体膜16上にて広い範囲にわたって形成されていてもよい。さらに、酸化シリコンまたは窒化シリコンを主成分とする絶縁層18が形成される場合には、絶縁層13を省略することもできる。但し、この場合、下部電極15の主体部15aを基板112の上面におけるビアホール120の矩形状開口の2辺を通って該開口内へと延出させ、下部電極15による振動部121の保持を行うことが好ましい。
図24,25の実施形態においても、図22,23の実施形態と同様の効果が得られる。
図26は本発明による圧電薄膜共振子の更に別の実施形態を示す模式的平面図であり、図27はそのX−X断面図である。これらの図において、上記図22〜図25におけると同様の機能を有する部材には同一の符号が付されている。
本実施形態では、下部電極15は矩形状をなしており、上部電極17は、第1の電極部17Aと第2の電極部17Bとからなる。これら電極部17A,17Bはそれぞれ主体部17Aa,17Baと端子部17Ab,17Bbとを有する。主体部17Aa,17Baは振動部121に対応する領域内に位置しており、端子部17Ab,17Bbは振動部121に対応する領域外に位置している。
図28は本発明による圧電薄膜共振子の更に別の実施形態を示す模式的平面図であり、図29はそのX−X断面図である。これらの図において、上記図22〜図27におけると同様の機能を有する部材には同一の符号が付されている。
本実施形態では、下部電極15は矩形状をなしており、上部電極17は、第1の電極部17Aと第2の電極部17Bとからなる。これら電極部17A,17Bはそれぞれ主体部17Aa,17Baと端子部17Ab,17Bbとを有する。主体部17Aa,17Baは振動部121に対応する領域内に位置しており、端子部17Ab,17Bbは振動部121に対応する領域外に位置している。本実施形態では、絶縁層18は第1電極部の主体部17Aa及び第2電極部の主体部17Baの双方を覆うように形成されている。
図26,27の実施形態及び図28,29の実施形態においても、図22,23の実施形態及び図24,25の実施形態と同様の効果が得られる。また、図26,27及び図28図28,29の実施形態は、多重モード共振子と呼ばれるものであり、上部電極17のうちの一方(例えば第2の電極部17B)と下部電極15との間に入力電圧を印加し、上部電極17のうちの他方(例えば第1の電極部17A)と下部電極15との間の電圧を出力電圧として取り出すことができる。
以上のような圧電薄膜共振子において、マイクロ波プローバを使用して測定したインピーダンス特性における共振周波数frおよび反共振周波数faと電気機械結合係数kt 2との間には、以下の関係
kt 2=φr/Tan(φr)
φr=(π/2)(fr/fa)
がある。
簡単のため、電気機械結合係数kt 2として、次式
kt 2=4.8(fa−fr)/(fa+fr)
から算出したものを用いることができ、本明細書では、電気機械結合係数kt 2の数値は、この式を用いて算出したものを用いている。
図22,23、図24,25、図26,27及び図28,29に示した構成のFBARにおいて、2.0GHz近傍における共振周波数及び反共振周波数の測定値から求めた電気機械結合係数kt 2は4.0〜6.5%である。電気機械結合係数kt 2が4.0%未満になると、作製したFBARの帯域幅が小さくなり、高周波域で実用に供することが難しくなる傾向にある。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
[実施例1]
図3〜図8に記載されているようにして、薄膜音響共振器を作製した。
先ず、Siウェーハ51の表面をPt/Ti保護膜により被覆し、エッチングにより該保護膜を窪み形成のための所定のパターン状に形成して、Siウェーハ51のエッチングのためのマスクを形成した。その後、Pt/Tiパターンマスクを用いて湿式エッチングを行い、図3に示されているように、深さ20μmで幅150μmの窪みを形成した。このエッチングは、5重量%のKOH水溶液を用い、液温70℃で実施した。なお、窪みの深さを3μmとしてもよい。
その後、Pt/Tiパターンマスクを除去し、図3に示されているように、熱酸化によりSiウェーハ51の表面に厚さ1μmのSiO2層53を形成し、Siウェーハ51及びSiO2層53からなる基板上に窪み52の形成されている構造を得た。
次いで、図4に示されるように、窪み52の形成されているSiO2層53上に、厚さ30μmのPSG犠牲層55を堆積させた。この堆積は、450℃でシラン及びP2O5を原料として用いた熱CVD法により行った。なお、PSG犠牲層55の厚さを5μmとしてもよく、熱CVD法における原料としてシラン及びリン酸トリメチル(PO(OCH3)3)を用いてもよく、更に、堆積したPSG層を1%酸素/窒素混合雰囲気中で850℃にて20分間熱処理してリフローさせ硬度を高めてもよい。
次いで、図5に示されているようにして、PSG犠牲層55の表面を研磨し、窪み52以外の領域のPSG犠牲層55を除去した。続いて、窪み52内に残留するPSG犠牲層55の表面を微細な研磨粒子を含むスラリーを用いて研磨し、その表面粗さを高さのRMS変動が10nmとなるようにした。
次いで、図6に示されているように、PSG犠牲層55上に厚さ100nmで寸法200×200μmのMo膜からなる下部電極61を形成した。Mo膜の形成は、スパッタガスとしてArを用い、室温でDCマグネトロンスパッタ法により行った。そして、リフトオフ法によりMo膜のパターニングを行った。形成されたMo膜の表面粗さを測定したところ、高さのRMS変動は15nmであった。
次いで、下部電極61上にZnO膜からなる1.0μm厚の圧電体層62を形成した。ZnO膜の形成は、スパッタリングターゲットとしてZnOを用い、スパッタガスとしてArとO2との混合ガスを用い、スパッタガス圧を5mTorrとし、基板温度400℃でRFマグネトロンスパッタ法により行った。形成されたZnO膜の表面粗さを測定したところ、高さのRMS変動は膜厚の5%以下の11nmであった。湿式エッチングによりZnO膜を所定形状にパターニングして圧電体層62を得た。
次いで、圧電体層62上に、厚さ100nmのMo膜からなる上部電極63を形成した。Mo膜の形成及びパターニングは、下部電極61の形成の際と同様にした。上部電極63の表面について、測定長さ150μmでうねり高さを調べたところ、圧電体層62の膜厚の25%以下で且つ測定長の0.5%以下の0.2μmであった。
次いで、希釈H2O:HF溶液でエッチングすることによりPSG犠牲層55を除去した。これにより、図8に示されているように、窪み52の上にMo/ZnO/Moの挟み込み構造体60が橋架けされた形態を形成した。
得られた圧電体層62の薄膜XRD分析を行ったところ、膜のc軸は膜面に対して88.5度の方向であり、ロッキングカーブにより配向度を調べた結果、ピークの半値幅は2.5度であり、良好な配向性を示していた。
以上のようにして得られた音響共振器について、マイクロ波プローバを使用して上部電極63と下部電極61との間のインピーダンス特性を測定するとともに、共振周波数fr及び反共振周波数faを測定し、これらの測定値に基づき電気機械結合係数kt2を算出した。電気機械結合係数kt2は5.5%で、音響的品質係数は700であった。実施例1において得られたFBARの構成および音響共振器としての特性を表1に示す。
[比較例1]
PSG犠牲層55の表面粗さを高さのRMS変動が70nmとなるように研磨を行ったこと以外は、実施例1と同様にして音響共振器を作製した。
下部電極61のMo膜の表面粗さを測定したところ、高さのRMS変動は80nmであった。また、ZnO膜の表面粗さを測定したところ、高さのRMS変動は膜厚の5%を越える75nmであった。上部電極63の表面について、測定長さ150μmでうねり高さを調べたところ、測定長の0.5%を越える1.0μmであった。
得られた圧電体層62の薄膜XRD分析を行ったところ、膜のc軸は膜面に対して85.0度と大きく傾いており、ロッキングカーブにより配向度を調べた結果、ピークの半値幅は7.0度であった。
以上のようにして得られた音響共振器の電気機械結合係数kt2は3.0%で、音響的品質係数は400であった。比較例1において得られたFBARの構成および音響共振器としての特性を表1に示す。
[実施例2]
圧電体層62としてZnO膜に代えてAlN膜からなるものを用いたこと以外は、実施例1と同様にして音響共振器を作製した。即ち、下部電極61上にAlN膜からなる1.2μm厚の圧電体層62を形成した。AlN膜の形成は、スパッタリングターゲットとしてAlを用い、スパッタガスとしてArとN2との混合ガスを用い、基板温度400℃でRFマグネトロンスパッタ法により行った。形成されたAlN膜の表面粗さを測定したところ、高さのRMS変動は膜厚の5%以下の14nmであった。上部電極63の表面について、測定長さ150μmでうねり高さを調べたところ、圧電体層62の膜厚の25%以下で且つ測定長の0.5%以下の0.2μmであった。
得られた圧電体層62の薄膜XRD分析を行ったところ、膜のc軸は膜面に対して88.5度の方向であり、ロッキングカーブにより配向度を調べた結果、ピークの半値幅は2.8度であり、良好な配向性を示していた。
以上のようにして得られた音響共振器の電気機械結合係数kt2は6.5%で、音響的品質係数は900であった。実施例2において得られたFBARの構成および音響共振器としての特性を表1に示す。
[比較例2]
PSG犠牲層55の表面粗さを高さのRMS変動が70nmとなるように研磨を行ったこと以外は、実施例2と同様にして音響共振器を作製した。
下部電極61のMo膜の表面粗さを測定したところ、高さのRMS変動は85nmであった。また、AlN膜の表面粗さを測定したところ、高さのRMS変動は膜厚の5%を越える80nmであった。上部電極63の表面について、測定長さ150μmでうねり高さを調べたところ、測定長の0.5%を越える1.25μmであった。
得られた圧電体層62の薄膜XRD分析を行ったところ、膜のc軸は膜面に対して83.0度と大きく傾いており、ロッキングカーブにより配向度を調べた結果、ピークの半値幅は8.5度であった。
以上のようにして得られた音響共振器の電気機械結合係数kt2は3.5%で、音響的品質係数は450であった。比較例2において得られたFBARの構成および音響共振器としての特性を表1に示す。
[実施例3]
図3〜図5,図9〜図10に記載されているようにして、薄膜音響共振器を作製した。
先ず、実施例1と同様にして、図5に示される構造体を得た。但し、窪み52内に残留するPSG犠牲層55の表面を微細な研磨粒子を含むスラリーを用いて研磨し、その表面粗さを高さのRMS変動が5nmとなるようにした。
次いで、図9に示されているように、PSG犠牲層55の表面をも覆うように基板上にCVD法により厚さ500nmのSiO2膜からなる絶縁体層54を形成した。形成された絶縁体層54の表面粗さを測定したところ、高さのRMS変動は10nmであった。
次いで、絶縁体層54上に、実施例1と同様にして、図10に示されているように、Mo膜からなる下部電極61を形成した。形成されたMo膜の表面粗さを測定したところ、高さのRMS変動は15nmであった。
次いで、実施例1と同様にして、下部電極61上にZnO膜からなる圧電体層62を形成した。形成されたZnO膜の表面粗さを測定したところ、高さのRMS変動は膜厚の5%以下の10nmであった。湿式エッチングによりZnO膜を所定形状にパターニングして圧電体層62を得た。
次いで、実施例1と同様にして、圧電体層62上にMo膜からなる上部電極63を形成した。上部電極63の表面について、測定長さ150μmでうねり高さを調べたところ、圧電体層62の膜厚の25%以下で且つ測定長の0.5%以下の0.2μmであった。
次いで、絶縁体層54の露出している部分にPSG犠牲層55に達するバイアホールを開口し、該開口を介して希釈H2O:HF溶液でエッチングすることによりPSG犠牲層55を除去した。これにより、図10に示されているように、窪み52の上に絶縁体層54とMo/ZnO/Moの挟み込み構造体60との積層体が橋架けされた形態を形成した。
得られた圧電体層62の薄膜XRD分析を行ったところ、膜のc軸は膜面に対して88.5度の方向であり、ロッキングカーブにより配向度を調べた結果、ピークの半値幅は2.3度であり、良好な配向性を示していた。
以上のようにして得られた音響共振器について、マイクロ波プローバを使用して上部電極63と下部電極61との間のインピーダンス特性を測定するとともに、共振周波数fr及び反共振周波数faを測定し、これらの測定値に基づき電気機械結合係数kt2を算出した。電気機械結合係数kt2は4.5%で、音響的品質係数は650であった。実施例3において得られたFBARの構成および音響共振器としての特性を表1に示す。
[比較例3]
PSG犠牲層55の表面粗さを高さのRMS変動が70nmとなるように研磨を行ったこと以外は、実施例3と同様にして音響共振器を作製した。
絶縁体層54のSiO2膜の表面粗さを測定したところ、高さのRMS変動は85nmであった。また、下部電極61のMo膜の表面粗さを測定したところ、高さのRMS変動は90nmであった。また、ZnO膜の表面粗さを測定したところ、高さのRMS変動は膜厚の5%を越える85nmであった。上部電極63の表面について、測定長さ150μmでうねり高さを調べたところ、測定長の0.5%を越える1.0μmであった。
得られた圧電体層62の薄膜XRD分析を行ったところ、膜のc軸は膜面に対して83.0度と大きく傾いており、ロッキングカーブにより配向度を調べた結果、ピークの半値幅は9.5度であった。
以上のようにして得られた音響共振器の電気機械結合係数kt2は2.8%で、音響的品質係数は360であった。比較例3において得られたFBARの構成および音響共振器としての特性を表1に示す。
[実施例4]
上部電極63の形成以外は、実施例2と同様にして音響共振器を作製した。即ち、実施例2と同様にして圧電体層62上に厚さ100nmのMo膜を形成した後に、その外縁から30μmの幅の領域において、更にリフトオフ法により厚さ20nmのMo膜を形成して、図11に示されているような上部電極63を形成した。
上部電極63の中央部631の表面について、測定長さ100μmでうねり高さを調べたところ、圧電体層62の膜厚の25%以下で且つ測定長の0.5%以下の0.15μmであった。
以上のようにして得られた音響共振器の電気機械結合係数kt2は7.5%で、音響的品質係数は950であった。実施例4において得られたFBARの構成および音響共振器としての特性を表1に示す。
[実施例5]
図3〜図8に記載されているようにして、薄膜音響共振器を作製した。
先ず、Siウェーハ51の表面をSiO2保護膜により被覆し、エッチングにより該保護膜を窪み形成のための所定のパターン状に形成して、Siウェーハ51のエッチングのためのマスクを形成した。その後、該マスクを用いて湿式エッチングを行い、図3に示されているように、深さ3μmで幅150μmの窪みを形成した。このエッチングは、実施例1と同様にして実施した。
その後、湿式エッチングによりSiO2パターンマスクを除去し、図3に示されているように、Siウェーハ51の表面に厚さ200nmのSi3N4層53を形成し、Siウェーハ51及びSi3N4層53からなる基板上に窪み52の形成されている構造を得た。このSi3N4層53の堆積は、800℃で、モノシラン(SiH4)及びアンモニア(NH3)を原料として用いた低圧CVD法により行なった。
次いで、図4に示されているように、窪み52の形成されているSi3N4層53上に、厚さ5μmのPSG犠牲層55を堆積させた。この堆積は、450℃で、テトラエトキシシラン(Si(OC2H5)4)及びリン酸トリメチル(PO(OCH3)3)を原料として用いた熱CVD法により行った。更に、堆積したPSG層を1%酸素/窒素混合雰囲気中で850℃にて20分間熱処理してリフローさせて硬度を高めた。
次いで、実施例1と同様にして、図5に示されている構造を得た。但し、研磨粒子の選択により、窪み52内に残留するPSG犠牲層55の表面粗さを高さのRMS変動が5nmとなるようにした。
次いで、実施例1と同様にして、図6に示されているように、Mo膜からなる下部電極61を形成した。形成されたMo膜の表面粗さを測定したところ、高さのRMS変動は13nmであった。
次いで、実施例2と同様にして、下部電極61上にAlN膜からなる1.2μm厚の圧電体層62を形成した。形成されたAlN膜の表面粗さを測定したところ、高さのRMS変動は膜厚の5%以下の10nmであった。
次いで、実施例1と同様にして、圧電体層62上にMo膜からなる上部電極63を形成した。上部電極63の表面について、測定長さ150μmでうねり高さを調べたところ、圧電体層62の膜厚の25%以下で且つ測定長の0.5%以下の0.15μmであった。
次いで、実施例1と同様にして、PSG犠牲層55を除去し、これにより、図8に示されているように、窪み52の上にMo/AlN/Moの挟み込み構造体60が橋架けされた形態を形成した。
得られた圧電体層62の薄膜XRD分析を行ったところ、膜のc軸は膜面に対して89.5度の方向であり、ロッキングカーブにより配向度を調べた結果、ピークの半値幅(FWHM)は2.2度であり、良好な配向性を示していた。
以上のようにして得られた音響共振器について、マイクロ波プローバを使用して上部電極63と下部電極61との間のインピーダンス特性を測定するとともに、共振周波数fr及び反共振周波数faを測定し、これらの測定値に基づき電気機械結合係数kt2を算出した。電気機械結合係数kt2は6.7%で、音響的品質係数は980であった。実施例5において得られたFBARの構成および音響共振器としての特性を表1に示す。
[実施例6]
図3〜図5,図9〜図10に記載されているようにして、薄膜音響共振器を作製した。
先ず、実施例5と同様にして、図5に示される構造を得た。但し、研磨粒子の選択により、窪み52内に残留するPSG犠牲層55の表面粗さを高さのRMS変動が10nmとなるようにした。
次いで、図9に示されているように、PSG犠牲層55の表面をも覆うように基板上に厚さ500nmのSi3N4膜からなる絶縁体層54を形成した。このSi3N4膜からなる絶縁体層54の堆積は、800℃で、モノシラン(SiH4)及びアンモニア(NH3)を原料として用いた低圧CVD法により行なった。形成された絶縁体層54の表面粗さを測定したところ、高さのRMS変動は12nmであった。
次いで、絶縁体層54上に、実施例5と同様にして、図10に示されているように、Mo膜からなる下部電極61を形成した。形成されたMo膜の表面粗さを測定したところ、高さのRMS変動は17nmであった。
次いで、実施例5と同様にして、下部電極61上にAlN膜からなる圧電体層62を形成した。形成されたAlN膜の表面粗さを測定したところ、高さのRMS変動は膜厚の5%以下の15nmであった。
次いで、実施例5と同様にして、圧電体層62上にMo膜からなる上部電極63を形成した。上部電極63の表面について、測定長さ150μmでうねり高さを調べたところ、圧電体層62の膜厚の25%以下で且つ測定長の0.5%以下の0.21μmであった。
次いで、実施例3と同様にして、PSG犠牲層55を除去し、これにより、図10に示されているように、窪み52の上に絶縁体層54とMo/AlN/Moの挟み込み構造体60との積層体が橋架けされた形態を形成した。
得られた圧電体層62の薄膜XRD分析を行ったところ、膜のc軸は膜面に対して88.4度の方向であり、ロッキングカーブにより配向度を調べた結果、ピークの半値幅(FWHM)は2.8度であり、良好な配向性を示していた。
以上のようにして得られた音響共振器について、マイクロ波プローバを使用して上部電極63と下部電極61との間のインピーダンス特性を測定するとともに、共振周波数fr及び反共振周波数faを測定し、これらの測定値に基づき電気機械結合係数kt2を算出した。電気機械結合係数kt2は5.2%で、音響的品質係数は700であった。実施例6において得られたFBARの構成および音響共振器としての特性を表1に示す。
[実施例7]
図15〜図21に記載されているようにして、薄膜音響共振器を作製した。
まず、Siウェーハ51の表面をSiO2保護膜により被覆し、エッチングにより該保護膜を窪み形成のための所定のパターン状に形成し、Siウェーハ51のエッチングのためのマスクを形成した。その後、該マスクを用いて湿式エッチングを行い、図15に示されているように、深さ20μmの窪みを形成した。エッチングは、エッチング液として5wt%のKOH水溶液を用い、液温70℃で行った。なお、窪みの深さを3μmとしてもよい。
その後、熱酸化により、ウェーハ51の表面に再度SiO2層53を形成した。これにより、Siウェーハ51及びSiO2層53からなる基板上に窪み52の形成されている構造を得た。
その後、基板の表面(上面)にCr膜を形成し、該Cr膜のうちの窪み52の周囲を取り囲む部分のみを環状に残すようにようパターンエッチングした。これにより、図16に示されているように、窪み52の周囲を取り囲むようにCr膜からなる密着電極層161が形成された。Cr膜の形成は、DCマグネトロンスパッタ法を用い、スパッタガスとしてArを用い、基板温度を室温として行った。Cr密着電極層161は、上面の下方電極層との接触面となる平面の面積(S1)が4500μm2で、膜厚が100nmとなるように形成された。
その後、図17に示されているように、窪み52の形成されているSiO2層53及びCr密着電極層61の上に、シランおよびホスフィン(PH3)を使用して450℃でPSGを堆積させた。なお、堆積したPSG層を1%酸素/窒素混合雰囲気中で850℃にて20分間熱処理してリフローさせ硬度を高めてもよい。
次いで、図18に示されているように、堆積したPSGの表面を研磨して密着電極層161の上のPSG層の部分を除去し、続いてPSG層55の表面を微細な研磨粒子を含むスラリーを用いて研磨し、逆スパッタリング処理によりCr密着電極層161の表面を清浄化した。これにより、PSG犠牲層55の表面は、高さのRMS変動が8nmとなる表面粗さであった。
その後、図19に示されているように、Cr密着電極層161及びPSG犠牲層55の上に、Auからなる下方電極層162を形成した。該下方電極層162のパターニングにはリフトオフ法を採用し、Cr密着電極層161の外周縁に対応する外周縁を有する所定形状の下方電極層162を得た。Au膜の形成は、DCマグネトロンスパッタ法を用い、スパッタガスとしてArを用い、基板温度を室温として行った。下方電極層162は、平面面積(S2)が27225μm2で、膜厚が100nmとなるように形成された。得られたAu膜の表面粗さを調べた結果、高さのRMS変動は7nmであった。
次に、下方電極層162の周囲に残ったPSG犠牲層を除去し、下方電極層162上にZnOからなる圧電体薄膜層163を形成した。ZnO膜の形成は、RFマグネトロンスパッタ法を用い、スパッタリングターゲットとしてZnOを用い、スパッタガスとしてAr:O2が9:1のAr−O2混合ガスを用い、スパッタガス圧を5mTorrとし、基板温度を400℃として行った。ZnO膜の膜厚は1.0μmであった。得られたZnO膜の表面粗さを調べた結果、高さのRMS変動は4nmであった。
続いて、ZnO圧電体薄膜層163を湿式エッチングして、結合電極引き出しに必要な開口部以外はCr密着電極層161の外周縁及び下方電極層162の外周縁に対応する外周縁を有する所定形状にパターニングした。そして、ZnO圧電体薄膜163上にAuからなる上部電極層164を形成した。該上部電極層164は、リフトオフ法によるパターニングで、外周縁がCr密着電極層161の内周縁より内側となるような所定形状とされた(図21参照)。Au膜の形成は、DCマグネトロンスパッタ法を用い、スパッタガスとしてArを用い、基板温度を室温として行った。Au膜の膜厚は100nmとした。
次いで、RIE(反応性イオンエッチング)により、上方電極層164の周辺部から下方へ向かって、該上方電極層164、圧電体薄膜層163及び下方電極層162を通って犠牲層55まで貫通する小さな穴を開け、希釈H2O:HF溶液でエッチングすることによりPSG犠牲層55を除去した。これにより、図20に示されているように、窪み52の上にCr/Au/ZnO/Auの挟み込み構造体60が橋架けされた形態を形成した。得られた挟み込み構造体60について、スコッチテープによるピーリングテストを行ったところ、基板との間での剥離は観察されなかった。
得られたZnO圧電体薄膜層163について、薄膜XRD分析を行った結果、膜のc軸は膜面内に対して88.6度の方向であり、ロッキングカーブにより配向度を調べた結果、(0002)ピークの半値幅(FWHM)は2.3度であり、良好な配向性を示していた。
また、このようにして得られた図20及び図21に示される薄膜音響共振器について、マイクロ波プローバを使用して、上方電極層164と下方電極層162及び密着電極層161との間のインピーダンス特性を測定するとともに、共振周波数frおよび反共振周波数faを測定し、これらの測定値に基づき電気機械結合係数kt 2を算出した。このとき、スプリアスは励振せず、電気機械結合係数係数kt 2は5.5%で音響的品質係数は1145であった。実施例7において得られたFBARの構成、密着強度および音響共振器としての特性を表2に示す。
[実施例8]
密着電極層161としてCrに代えてTiからなるものを用いたこと以外は、実施例7と同様にして薄膜音響共振器を作製した。Ti膜の形成は、DCマグネトロンスパッタ法を用い、スパッタリングターゲットとしてTiを用い、スパッタガスとしてArを用い、基板温度を室温として行った。Ti膜の膜厚は、20nmとした。得られたZnO圧電体薄膜層163の表面粗さを調べた結果、高さのRMS変動は9nmであった。スコッチテープによるピーリングテストを行ったところ、基板と挟み込み構造体60との間での剥離は観察されなかった。また、薄膜XRD分析を行った結果、ZnO圧電体薄膜層163のc軸は膜面内に対して89.2度の方向であり、ロッキングカーブにより配向度を調べた結果、ピークの半値幅は2.1度と良好な配向性を示していた。
このようにして得られた薄膜音響共振器は、スプリアスの励振はなく、電気機械結合係数kt 2は5.9%で、音響的品質係数は772であった。実施例8において得られたFBARの構成、密着強度および音響共振器としての特性を表2に示す。
[実施例9]
下方電極層162及び上方電極層164としてAuに代えてPtからなるものを用い且つCr密着電極層161の厚みを60nmとしたこと以外は、実施例7と同様にして薄膜音響共振器を作製した。Pt膜の形成は、DCマグネトロンスパッタ法を用い、スパッタリングターゲットとしてPtを用い、スパッタガスとしてArを用い、基板温度を室温として行った。Pt膜の膜厚は100nmとした。得られたZnO圧電体薄膜層163の表面粗さを調べた結果、高さのRMS変動は6nmであった。スコッチテープによるピーリングテストを行ったところ、基板と挟み込み構造体60との間での剥離は観察されなかった。また、薄膜XRD分析を行った結果、ZnO圧電体薄膜層163のc軸は膜面内に対して88.8度の方向であり、ロッキングカーブにより配向度を調べた結果、ピークの半値幅は2.5度と良好な配向性を示していた。
このようにして得られた薄膜音響共振器は、スプリアスの励振はなく、電気機械結合係数kt 2は5.2%で、音響的品質係数は898であった。実施例9において得られたFBARの構成、密着強度および音響共振器としての特性を表2に示す。
[実施例10]
密着電極層161としてCrに代えてNiからなるものを用い、その平面面積S1を15000μm2に広げて下方電極層162の平面面積S2との比率S1/S2を0.55にしたこと以外は、実施例7と同様にして薄膜音響共振器を作製した。Ni膜の形成は、DCマグネトロンスパッタ法を用い、スパッタリングターゲットとしてNiを用い、スパッタガスとしてArを用い、基板温度を室温として行った。Ni膜の膜厚は50nmとした。得られたZnO圧電体薄膜層163の表面粗さを調べた結果、高さのRMS変動は11nmであった。スコッチテープによるピーリングテストを行ったところ、基板と挟み込み構造体60との間での剥離は観察されなかった。また、薄膜XRD分析を行った結果、ZnO圧電体薄膜層163のc軸は膜面内に対して89.0度の方向であり、ロッキングカーブにより配向度を調べた結果、ピークの半値幅は2.9度と良好な配向性を示していた。
このようにして得られた薄膜音響共振器は、スプリアスの励振はなく、電気機械結合係数kt 2は4.8%で、音響的品質係数は707であった。実施例10において得られたFBARの構成、密着強度および音響共振器としての特性を表2に示す。
[実施例11]
上方及び下方の電極層162,164としてAuに代えてPtからなるものを用い、圧電薄膜層163としてZnOに代えてAlNからなるものを用い、且つTi密着電極層161の平面面積S1を4000μm2とし厚みを30nmとしたこと以外は、実施例8と同様にして薄膜音響共振器を作製した。Pt膜の形成は、実施例9と同様に行った。また、AlN膜の形成は、RFマグネトロンスパッタ法を用い、スパッタリングターゲットとしてAlを用い、スパッタガスとしてAr:N2が1:1のAr−N2混合ガスを用い、基板温度を400℃として行った。AlN膜の膜厚は1.4μmとした。得られたAlN膜の表面粗さを調べた結果、高さのRMS変動は7nmであった。スコッチテープによるピーリングテストを行ったところ、基板と挟み込み構造体60との間での剥離は観察されなかった。また、薄膜XRD分析を行った結果、AlN圧電体薄膜層163のc軸は膜面内に対して90.0度の方向であり、ロッキングカーブにより配向度を調べた結果、ピークの半値幅は2.7度と良好な配向性を示していた。
このようにして得られた薄膜音響共振器は、スプリアスの励振はなく、電気機械結合係数kt 2は6.4%で、音響的品質係数は984であった。実施例11において得られたFBARの構成、密着強度および音響共振器としての特性を表2に示す。
[実施例12]
密着電極層161としてCrからなるものを用い、上方及び下方の電極層162,164としてMoからなるものを用い、且つCr密着電極層161の平面面積S1を5000μm2とし厚みを40nmとしたこと以外は、実施例11と同様にして薄膜音響共振器を作製した。得られたAlN膜の表面粗さを調べた結果、高さのRMS変動は5nmであった。スコッチテープによるピーリングテストを行ったところ、基板と挟み込み構造体60との間での剥離は観察されなかった。また、薄膜XRD分析を行った結果、AlN圧電体薄膜層163のc軸は膜面内に対して89.8度の方向であり、ロッキングカーブにより配向度を調べた結果、ピークの半値幅は2.9度と良好な配向性を示していた。
このようにして得られた薄膜音響共振器は、スプリアスの励振はなく、電気機械結合係数kt 2は6.1%で、音響的品質係数は1140であった。実施例12において得られたFBARの構成、密着強度および音響共振器としての特性を表2に示す。
[比較例4]
Siウェーハ51及びSiO2層53からなる基板上に窪み52の形成されている構造の上にPSGを堆積させ、その表面を研磨して窪み52以外の領域のPSG層の部分を除去し、窪み52の領域のPSG層の表面を高さのRMS変動が38nmとなるような表面粗さにし、その上にCr膜及びAu膜を形成し、これらの膜を同一形状にパターニングして、密着電極層161を下方電極層162の全面に接合した形態を得たこと以外は、実施例7と同様にして薄膜音響共振器を作製した。得られたZnO膜の表面粗さを調べた結果、高さのRMS変動は30nmであった。スコッチテープによるピーリングテストを行ったところ、基板と挟み込み構造体60との間での剥離は観察されなかった。また、薄膜XRD分析を行った結果、ZnO圧電体薄膜層163のc軸は膜面内に対して87.5度の方向であり、ロッキングカーブにより配向度を調べた結果、ピークの半値幅は4.8度と実施例7に比べて2.5度ほどの劣化を示した。
また、このようにして得られた薄膜音響共振器は、スプリアスが励振し、電気機械結合係数kt 2は2.5%で、音響的品質係数は404であった。比較例4において得られたFBARの構成、密着強度および音響共振器としての特性を表2に示す。
[比較例5]
密着電極層161を設けなかったこと以外は、比較例4と同様にして薄膜音響共振器を作製した。但し、窪み52の領域のPSG層の表面を高さのRMS変動が33nmとなるような表面粗さにした。得られたZnO膜の表面粗さを調べた結果、高さのRMS変動は23nmであった。薄膜XRD分析を行った結果、ZnO圧電体薄膜層163のc軸は膜面内に対して88.4度の方向であり、ロッキングカーブにより配向度を調べた結果、ピークの半値幅は4.2度であり、スコッチテープによるピーリングテストにおいて、基板と挟み込み構造体60との間での剥離が観察された。
また、このようにして得られた薄膜音響共振器は、スプリアスが励振し、電気機械結合係数kt 2は3.2で、音響的品質係数は446であった。比較例5において得られたFBARの構成、密着強度および音響共振器としての特性を表2に示す。
[実施例13〜15]
本実施例では、以下のようにして、図22,23に示されている構造の圧電薄膜共振子を作製した。
即ち、厚さ250μmの(100)Si基板112の上面及び下面に、熱酸化法により厚さ0.3〜0.6μmの酸化シリコン(SiO2)層を形成した。上面側のSiO2層を絶縁層13とした。また、下面側のSiO2層は基板112に対する後述のビアホール形成のためのマスクのパターンに形成した。
絶縁層13の表面に、DCマグネトロンスパッタ法により厚さ0.1μmのMo層を形成し、フォトリソグラフィーによりパターン化して下部電極15を形成した。下部電極15の主体部15aは平面寸法140×160μmの矩形に近い形状とした。このMo下部電極15上に、結晶面がC軸に配向した厚さ1.3〜2.0μmのAlN薄膜を形成した。AlN薄膜の形成は、反応性RFマグネトロンスパッタ法により行った。熱燐酸を使用した湿式エッチングにより、AlN薄膜を所定の形状にパターン化して圧電体膜16を形成した。その後、DCマグネトロンスパッタ法及びリフトオフ法を使用して、厚さ0.1μmのMoからなる上部電極17を形成した。上部電極17の主体部17aは平面寸法140×160μmの矩形に近い形状とし、下部電極主体部15aに対応する位置に配置した。
次に、以上のようにして得られた構造体の上下部電極15,17及び圧電体膜16の形成されている側をPMMA樹脂で被覆し、Si基板112の下面に形成したパターン状SiO2層をマスクとして、振動部121に対応するSi基板112の部分をKOH水溶液でエッチング除去して、空隙となるビアホール120を形成した。Si基板112の上面に形成されたビアホール開口の寸法(振動部21の平面寸法)は、200×200μmであった。
以上の工程により得られた薄膜圧電共振子(FBAR)について、カスケード・マイクロテック製マイクロ波プローバ及びネットワークアナライザを使用して、上記薄膜圧電共振子の電極端子15b,17b間のインピーダンス特性を測定すると共に、共振周波数frおよび反共振周波数faの測定値から、電気機械結合係数kt 2や周波数温度特性τf及び音響的品質係数Qを求めた。得られた圧電薄膜共振子の厚み振動の基本周波数、電気機械結合係数kt 2、周波数温度特性τf及び音響的品質係数Qは表3に示す通りであった。
[実施例16〜18]
本実施例では、以下のようにして、図24,25に示されている構造の圧電薄膜共振子を作製した。
即ち、上部電極17の形成の後であってビアホール120の形成の前に、上部電極17上にRFマグネトロンスパッタ法により厚さ0.1〜0.3μmのSiO2層を形成し、振動部121に対応するようにパターン化して上部絶縁層18を形成すること、及び、下部絶縁層13の厚さ及び圧電体膜16の厚さを表3に示されているようにすること以外は、実施例13〜15と同様の工程を実施した。
以上の工程により得られた薄膜圧電共振子(FBAR)について、実施例13〜15と同様にして圧電薄膜共振子の厚み振動の基本周波数、電気機械結合係数kt 2、周波数温度特性τf及び音響的品質係数Qは表3に示す通りであった。
[実施例19〜22]
本実施例では、以下のようにして、図26,27に示されている構造の圧電薄膜共振子及び図28,29に示されている構造の圧電薄膜共振子を作製した。
即ち、上下部絶縁層13,18の厚さ及び圧電体膜16の厚さを表3に示されているようにすること、及び、上下部電極15,17の形状及び寸法を除いて、実施例13〜15と同様の工程[実施例19,20]及び実施例16〜18と同様の工程[実施例21,22]を実施した。下部電極15は振動部121に対応する領域を含むように延びている平面寸法150×300μmの矩形状のものとし、上部電極17はそれぞれ平面寸法70×90μmの矩形に近い形状の主体部17Aa,17Baが間隔20μmをおいて配置されたものとした。
以上の工程により得られた薄膜圧電共振子(FBAR)について、実施例13〜15及び実施例16〜18と同様にして圧電薄膜共振子の厚み振動の基本周波数、電気機械結合係数kt 2、周波数温度特性τf及び音響的品質係数Qは表3に示す通りであった。
[実施例23〜25]
本実施例では、以下のようにして、図22,23に示されている構造の圧電薄膜共振子及び図24,25に示されている構造の圧電薄膜共振子を作製した。
即ち、圧電体膜16の厚さ及び上下絶縁層13,18の厚さを表3に示されているようにすることを除いて、実施例13と同様の工程[実施例23,24]及び実施例16と同様の工程[実施例25]を実施した。
以上の工程により得られた薄膜圧電共振子(FBAR)について、実施例13及び実施例16と同様にして圧電薄膜共振子の厚み振動の基本周波数、電気機械結合係数kt 2、周波数温度特性τf及び音響的品質係数Qは表3に示す通りであった。
[比較例6,7]
上下電極層の材料としてMoに代えてアルミニウム(Al)を用い、圧電体膜16の厚さ及び絶縁層13の厚さを表3に示されているようにすることを除いて、実施例13と同様の工程を実施した。
以上の工程により得られた薄膜圧電共振子(FBAR)について、実施例13と同様にして圧電薄膜共振子の厚み振動の基本周波数、電気機械結合係数kt 2、周波数温度特性τf及び音響的品質係数Qは表3に示す通りであった。
[比較例8]
絶縁層13を振動部121に対応する領域外にのみ形成したことを除いて、実施例13と同様の工程を実施した。
以上の工程により得られた薄膜圧電共振子(FBAR)について、実施例13と同様にして圧電薄膜共振子の厚み振動の基本周波数、電気機械結合係数kt 2、周波数温度特性τf及び音響的品質係数Qは表3に示す通りであった。
[比較例9,10]
圧電体膜16の材料としてAlNに代えて酸化亜鉛(ZnO)を用い、圧電体膜16の厚さ及び絶縁層13の厚さを表3に示されているようにすることを除いて、実施例13と同様の工程を実施した。
以上の工程により得られた薄膜圧電共振子(FBAR)について、実施例13と同様にして圧電薄膜共振子の厚み振動の基本周波数、電気機械結合係数kt 2、周波数温度特性τf及び音響的品質係数Qは表3に示す通りであった。
以上の結果から、モリブデンを主成分とする電極と窒化アルミニウムを主成分とする圧電体膜とで構成された圧電積層構造体の一部を含む振動部の共振周波数の温度係数とは異符号の温度係数を有する酸化シリコンを主成分とする絶縁層を圧電積層構造体に接合して追加することにより、電気機械結合係数と音響的品質係数を維持したまま共振周波数の温度安定性の良好な圧電薄膜共振子を実現することができ、特に、1GHz以上の高周波域で使用されるVCO(圧電薄膜共振子)、フィルタ、送受切替器に適用した場合に、その性能を著しく向上させることができる。