以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明の光学フィルムの製造方法は、セルロースエステル樹脂、または該セルロースエステル樹脂と添加剤を含むセルロースエステル樹脂組成物を加熱溶融してフィルム状に流延製膜する光学フィルムの製造方法において、前記セルロースエステル樹脂または前記セルロースエステル樹脂組成物を加熱溶融前に粉砕し、分級して使用することを特徴とする。
前記分級は、体積粒径が300μmを超える大径成分を取り除くことが好ましい。
また、前記粉砕し、分級した後、体積粒径が30μmを超える大径成分を再粉砕し、分級して使用することが好ましく、前記粉砕し、分級して、体積粒径が3〜30μmの範囲の成分を使用することが好ましい。前記分級は、体積粒径が30μmを超える大径成分を20質量%未満になるように取り除くことが好ましい。
セルロースエステルフィルムの製法の一つである溶液流延法は、セルロースエステル樹脂を溶媒に溶解した溶液を流延し、溶媒を蒸発、乾燥することによって製膜するものであり、この方法はフィルム内部に残存する溶媒を除去しなければならないため、乾燥ライン、乾燥エネルギー、及び蒸発した溶媒の回収及び再生装置等、製造ラインへの設備投資及び製造コストが膨大になっており、これらを削減することが重要な課題となっている。
これに対し溶融流延法による製膜では、溶液流延としてセルロースエステル樹脂の溶液を調製するための溶媒を用いないため、前述の乾燥負荷、設備負荷が生じない。
本発明における溶融流延とは、溶媒を用いずセルロースエステルを流動性を示す温度まで加熱溶融し、その後、流動性のセルロースエステルを流延することを溶融流延として定義する。加熱溶融する成形法は、詳細には溶融押出成形法、プレス成形法、インフレーション法、射出成形法、ブロー成形法、延伸成形法等に分類できる。これらの中で、機械的強度及び表面精度等に優れる光学フィルムを得るためには、溶融押出し法が優れている。ここでフィルム構成材料を加熱して、その流動性を発現させた後、ドラムまたはエンドレスベルト上に押出し製膜することが、溶融流延製膜法として本発明のセルロースエステルフィルムの製造方法に含まれる。
セルロースエステル樹脂は、一般に熱により劣化しやすい材料のため、溶融流延製膜法の場合、セルロースエステル樹脂の分子量保持率の低下や着色が見られ、光学フィルム用途では大きな障害となっている。本発明者は、この課題を鋭意検討した結果、セルロースエステル樹脂の熱劣化は、セルロースエステル樹脂中の異物除去のための濾過工程で大きいことに着目し、加熱溶融前の段階でこれら異物を除去または低減することにより、濾過工程の削除または濾過時間の短縮が可能となり、濾過工程での熱劣化を大幅に低減し、分子量保持率に優れ、着色がない光学フィルムが得られることを見出したものである。
セルロースエステル樹脂は、分子量分布と同様に、エステル化の置換度にも分布があるものと考えられている。ここで異物とは、セルロースエステル樹脂の高分子量体及びエステル化が不十分なセルロースエステル樹脂をいう。これらの異物は、通常のセルロースエステル樹脂の溶融温度では溶融が困難で、さらに昇温して溶融すると熱劣化が著しいため、従来は溶融流延製膜前にフィルターにより除去されていた。
以下、本発明を詳細に説明する。
〔粉砕、分級〕
本発明者は、これらの異物の粉砕特性が通常のセルロースエステル樹脂と異なることを見出した。粉砕特性を利用して、粉砕し、分級したセルロースエステル樹脂、または該セルロースエステル樹脂と添加剤を含むセルロースエステル樹脂組成物を使用することにより、異物のない、または異物が非常に低減されたセルロースエステル樹脂を得て、これを用いて光学フィルムを得るものである。
即ち、具体的には、セルロースエステル樹脂を粉砕し、体積粒径が3μm未満の小径成分、3〜30μmの成分及び30μmを超える大径成分の3成分に分級して、その分子量分布及びエステル化の置換度を分析した結果、3〜30μmの粒径成分に比べ、体積粒径が3μm未満の小径成分は低分子量体が多く、30μmを超える大径成分はエステル化の置換度が低く高分子量体が多いことが判明した。体積粒径とは、粒子を球形に換算した時の直径である。
体積粒径が3μm未満の粒径成分は、低分子量体(分子量10,000以下)が10質量%を超え、耐熱性が劣り、熱劣化による分子量低下、着色等の不具合が発生する。分子量低下すると弾性率等の機械特性が低下するのみならず、返材適性等の不具合が生じる。
体積粒径が300μmを超える大径成分は、高分子量体(分子量1,000,000以上)が10質量%を超え、溶融時に未溶融物が増える。これら未溶融物は輝点異物の原因となり、偏光版と貼り合わせたとき、白抜け(光漏れ)等の不具合が発生する。
本発明では、この異物の粉砕特性を利用して、セルロースエステル樹脂を粉砕し、分級することで異物のない、または異物が非常に低減されたセルロースエステル樹脂を得て、これを用いて光学フィルムを得るものである。
また、フィルム構成材料となるセルロースエステル樹脂と添加剤を含むセルロースエステル樹脂組成物を粉砕し、分級した場合にも、セルロースエステル樹脂単独で粉砕し、分級した場合と同様の粉砕特性があり、セルロースエステル樹脂組成物を加熱溶融前に粉砕し、分級し、
体積粒径が300μmを超える大径成分を取り除き、体積粒径が30μmを超える大径成分は再粉砕し、分級して体積粒径が3〜30μmの範囲の成分を使用し、または、体積粒径が30μmを超える大径成分を20質量%未満になるように取り除くことで、異物のない、または異物が非常に低減されたフィルム構成材料を得て、本発明の光学フィルムを得ることができる。
セルロースエステル樹脂の平均分子量及び分子量分布は、高速液体クロマトグラフィーを用いて公知の方法で測定することができる。これを用いて数平均分子量、重量平均分子量を算出する。測定条件は以下の通りである。
溶媒: メチレンクロライド
カラム: Shodex K806、K805、K803(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度: 0.1質量%
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0ml/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1000000〜500迄の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔にすることが好ましい。
また、エステル化の置換度とは、繰り返し単位の2位、3位及び6位について、セルロースがエステル化している割合の合計を表す。具体的には、セルロースの2位、3位及び6位のそれぞれの水酸基が100%エステル化した場合をそれぞれ置換度1とする。従って、セルロースの2位、3位及び6位の全てが100%エステル化した場合、置換度は最大の3となる。置換度は、ASTM−D817−96に規定の方法により求めことができる。
セルロースエステル樹脂、またはセルロースエステル樹脂と添加剤を含むセルロースエステル樹脂組成物の粉砕は、ジェットミル、ハンマー式カッターミル等を用いて行うことができる。
粉砕後の分級は、各種メッシュのふるいを用いたふるい振とう機、乾式気流分級機等を用いて行うことができる。
具体的な粉砕し、分級方法としては、以下の(1)〜(3)の方法が挙げられる。
(1)セルロースエステル樹脂と可塑剤、酸化防止剤等の添加剤を混合して、加熱溶融混練押出によってペレット化する。その後、粉砕機、分級機により体積粒径を3〜30μmに調整する。粒径調整されたペレット微粉末を造粒し、乾燥後、ダイスを具備した押出機により製膜する。
(2)セルロースエステル樹脂を粉砕機、分級機により体積粒径を3〜30μmに調整する。粒径調整されたセルロースエステル樹脂微粉末を添加剤と混合して造粒し、乾燥後、ダイスを具備した押出機により製膜する。
(3)セルロースエステル樹脂を粉砕機、分級機により体積粒径を3〜30μmに調整する。粒径調整されたセルロースエステル樹脂微粉末を添加剤と混合して、加熱溶融混練押出によってペレット化する。その後、粉砕機、分級機により体積粒径を3〜30μmに調整する。粒径調整されたペレット微粉末を造粒し、乾燥後、ダイスを具備した押出機により製膜する。
本発明は、セルロースエステル樹脂、または該セルロースエステル樹脂と添加剤を含むセルロースエステル樹脂組成物を粉砕し、分級して使用することを特徴とし、さらに好ましくは体積粒径が3μm未満の小径成分を1質量%未満に、30μmを超える大径成分を20質量%未満になるように取り除くことを特徴とするが、セルロースエステル樹脂は吸湿性が高いため、3〜30μmの微粉末のままでは比表面積が大きくなり、吸湿性が著しく高くなり、水分管理が困難になる。また、工程汚染(粒子の飛散)、ブロッキングによる目詰まり(搬送性の悪化)等の工程上の不具合が生じる。そのため、粉砕し、分級によって所望の粒径(3〜30μm)に調整されたセルロースエステル樹脂、またはセルロースエステル樹脂と添加剤を含むセルロースエステル樹脂組成物の微粉末は、造粒して1〜10mm程度の成型物とすることが望ましい。
セルロースエステル樹脂の乾燥は微粉末(3〜30μm)の状態でも、成型物の状態でも構わない。微粉末の状態で乾燥する場合、造粒もDP管理(−30℃以下)で実施することが望ましい。通常DP環境下(DP:10〜20℃)で造粒すると、折角乾燥させたCAPが吸湿するからである。また、造粒させて乾燥させる場合、比較的長時間乾燥が必要となる。通常DP環境下にて70〜100℃で乾燥させ、含水率を0.1〜0.5質量%程度に予備乾燥させた後、DP−30℃以下、70〜130℃にて0.02質量%以下に乾燥させることが望ましい(乾燥前の含水率は2〜3質量%)。
セルロースエステル樹脂及び微粉末の乾燥は、例えば90℃、1hr常圧乾燥(含水率0.5質量%以下)後、DP−30℃以下にて130℃、3hr乾燥(含水率0.02質量%以下)、錠剤及びペレットの乾燥は、例えばDP−30℃以下にて70℃、5hr乾燥(含水率0.02質量%以下)が好ましい。
含水率はカールフィッシャー水分量測定装置(ダイアインスツルメンツ社製:CA−06、VA−06)を用い電量滴定法にて測定できる。
〔セルロースエステル樹脂〕
本発明に係るセルロースエステル樹脂は、セルロースエステルの構造を示し、脂肪酸アシル基、置換もしくは無置換の芳香族アシル基の中から少なくともいずれかの構造を含む、セルロースの前記単独または混合酸エステルであることが好ましい。
以下、本発明の目的を満たす上で有用なセルロースエステルについて例示するが、これらに限定されるものではない。
芳香族アシル基において、芳香族環がベンゼン環であるとき、ベンゼン環の置換基の例としてハロゲン原子、シアノ、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アシル基、カルボンアミド基、スルホンアミド基、ウレイド基、アラルキル基、ニトロ、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、カルバモイル基、スルファモイル基、アシルオキシ基、アルケニル基、アルキニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルオキシスルホニル基、アリールオキシスルホニル基、アルキルスルホニルオキシ基及びアリールオキシスルホニル基、−S−R、−NH−CO−OR、−PH−R、−P(−R)2、−PH−O−R、−P(−R)(−O−R)、−P(−O−R)2、−PH(=O)−R−P(=O)(−R)2、−PH(=O)−O−R、−P(=O)(−R)(−O−R)、−P(=O)(−O−R)2、−O−PH(=O)−R、−O−P(=O)(−R)2−O−PH(=O)−O−R、−O−P(=O)(−R)(−O−R)、−O−P(=O)(−O−R)2、−NH−PH(=O)−R、−NH−P(=O)(−R)(−O−R)、−NH−P(=O)(−O−R)2、−SiH2−R、−SiH(−R)2、−Si(−R)3、−O−SiH2−R、−O−SiH(−R)2及び−O−Si(−R)3が含まれる。上記Rは脂肪族基、芳香族基またはヘテロ環基である。置換基の数は、1〜5個であることが好ましく、1〜4個であることがより好ましく、1〜3個であることがさらに好ましく、1個または2個であることが最も好ましい。置換基としては、ハロゲン原子、シアノ、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アシル基、カルボンアミド基、スルホンアミド基及びウレイド基が好ましく、ハロゲン原子、シアノ、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基及びカルボンアミド基がより好ましく、ハロゲン原子、シアノ、アルキル基、アルコキシ基及びアリールオキシ基がさらに好ましく、ハロゲン原子、アルキル基及びアルコキシ基が最も好ましい。
上記ハロゲン原子には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が含まれる。上記アルキル基は、環状構造あるいは分岐を有していてもよい。アルキル基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがより好ましく、1〜6であることがさらに好ましく、1〜4であることが最も好ましい。アルキル基の例には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル、ヘキシル、シクロヘキシル、オクチル及び2−エチルヘキシルが含まれる。上記アルコキシ基は、環状構造あるいは分岐を有していてもよい。アルコキシ基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがより好ましく、1〜6であることがさらに好ましく、1〜4であることが最も好ましい。アルコキシ基は、さらに別のアルコキシ基で置換されていてもよい。アルコキシ基の例には、メトキシ、エトキシ、2−メトキシエトキシ、2−メトキシ−2−エトキシエトキシ、ブチルオキシ、ヘキシルオキシ及びオクチルオキシが含まれる。
上記アリール基の炭素原子数は、6〜20であることが好ましく、6〜12であることがさらに好ましい。アリール基の例には、フェニル及びナフチルが含まれる。上記アリールオキシ基の炭素原子数は、6〜20であることが好ましく、6〜12であることがさらに好ましい。アリールオキシ基の例には、フェノキシ及びナフトキシが含まれる。上記アシル基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。アシル基の例には、ホルミル、アセチル及びベンゾイルが含まれる。上記カルボンアミド基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。カルボンアミド基の例には、アセトアミド及びベンズアミドが含まれる。上記スルホンアミド基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。スルホンアミド基の例には、メタンスルホンアミド、ベンゼンスルホンアミド及びp−トルエンスルホンアミドが含まれる。上記ウレイド基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。ウレイド基の例には、(無置換)ウレイドが含まれる。
上記アラルキル基の炭素原子数は、7〜20であることが好ましく、7〜12であることがさらに好ましい。アラルキル基の例には、ベンジル、フェネチル及びナフチルメチルが含まれる。上記アルコキシカルボニル基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、2〜12であることがさらに好ましい。アルコキシカルボニル基の例には、メトキシカルボニルが含まれる。上記アリールオキシカルボニル基の炭素原子数は、7〜20であることが好ましく、7〜12であることがさらに好ましい。アリールオキシカルボニル基の例には、フェノキシカルボニルが含まれる。上記アラルキルオキシカルボニル基の炭素原子数は、8〜20であることが好ましく、8〜12であることがさらに好ましい。アラルキルオキシカルボニル基の例には、ベンジルオキシカルボニルが含まれる。上記カルバモイル基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。カルバモイル基の例には、(無置換)カルバモイル及びN−メチルカルバモイルが含まれる。上記スルファモイル基の炭素原子数は、20以下であることが好ましく、12以下であることがさらに好ましい。スルファモイル基の例には、(無置換)スルファモイル及びN−メチルスルファモイルが含まれる。上記アシルオキシ基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、2〜12であることがさらに好ましい。アシルオキシ基の例には、アセトキシ及びベンゾイルオキシが含まれる。
上記アルケニル基の炭素原子数は、2〜20であることが好ましく、2〜12であることがさらに好ましい。アルケニル基の例には、ビニル、アリル及びイソプロペニルが含まれる。上記アルキニル基の炭素原子数は、2〜20であることが好ましく、2〜12であることがさらに好ましい。アルキニル基の例には、チエニルが含まれる。上記アルキルスルホニル基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。上記アリールスルホニル基の炭素原子数は、6〜20であることが好ましく、6〜12であることがさらに好ましい。上記アルキルオキシスルホニル基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。上記アリールオキシスルホニル基の炭素原子数は、6〜20であることが好ましく、6〜12であることがさらに好ましい。上記アルキルスルホニルオキシ基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。上記アリールオキシスルホニル基の炭素原子数は、6〜20であることが好ましく、6〜12であることがさらに好ましい。
本発明において、セルロースの水酸基部分の水素原子が脂肪族アシル基との脂肪酸エステルであるとき、脂肪族アシル基は炭素原子数が2〜20で具体的にはアセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、オクタノイル、ラウロイル、ステアロイル等が挙げられる。
本発明において前記脂肪族アシル基とは、さらに置換基を有するものも包含する意味であり、置換基としては上述の芳香族アシル基において、芳香族環がベンゼン環であるとき、ベンゼン環の置換基として例示したものが挙げられる。
また、上記セルロースエステルのエステル化された置換基が芳香環であるとき、芳香族環に置換する置換基Xの数は0または1〜5個であり、好ましくは1〜3個で、特に好ましいのは1または2個である。さらに、芳香族環に置換する置換基の数が2個以上の時、互いに同じでも異なっていてもよいが、また、互いに連結して縮合多環化合物(例えばナフタレン、インデン、インダン、フェナントレン、キノリン、イソキノリン、クロメン、クロマン、フタラジン、アクリジン、インドール、インドリン等)を形成してもよい。
上記セルロースエステルにおいて置換もしくは無置換の脂肪族アシル基、置換もしくは無置換の芳香族アシル基の少なくともいずれか1種選択された構造を有する構造を有することが本発明のセルロースエステルに用いる構造として用いられ、これらは、セルロースの単独または混合酸エステルでもよく、2種以上のセルロースエステルを混合して用いてもよい。
本発明の光学フィルムを構成する前記セルロースエステルにおいて、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、及びセルロースフタレートから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
これらの中で特に好ましいセルロースエステルは、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートが挙げられる。
混合脂肪酸エステルの置換度として、さらに好ましいセルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートの低級脂肪酸エステルは、炭素原子数2〜4のアシル基を置換基として有し、アセチル基の置換度をXとし、プロピオニル基またはブチリル基の置換度をYとした時、下記式(I)及び(II)を同時に満たすセルロースエステルを含むセルロース樹脂であることが好ましい。
式(I) 2.5≦X+Y≦3.0
式(II) 0≦X≦2.0
この内、特にセルロースアセテートプロピオネートが好ましく用いられ、中でも0≦X≦2.0であり、0.7≦Y≦2.8であることが好ましい。上記アシル基で置換されていない部分は通常水酸基として存在しているのものである。これらは公知の方法で合成することができる。
さらに、本発明で用いられるセルロースエステルは、重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn比が1.5〜5.5のものが好ましく用いられ、特に好ましくは2.0〜5.0であり、さらに好ましくは2.5〜5.0であり、さらに好ましくは3.0〜5.0のセルロースエステルが好ましく用いられる。重量平均分子量Mw、数平均分子量Mnは前記方法で測定できる。
本発明で用いられるセルロースエステルの原料セルロースは、木材パルプでも綿花リンターでもよく、木材パルプは針葉樹でも広葉樹でもよいが、針葉樹の方がより好ましい。製膜の際の剥離性の点からは綿花リンターが好ましく用いられる。これらから作られたセルロースエステルは適宜混合して、あるいは単独で使用することができる。
例えば、綿花リンター由来セルロースエステル:木材パルプ(針葉樹)由来セルロースエステル:木材パルプ(広葉樹)由来セルロースエステルの比率が100:0:0、90:10:0、85:15:0、50:50:0、20:80:0、10:90:0、0:100:0、0:0:100、80:10:10、85:0:15、40:30:30で用いることができる。
本発明に係るセルロースエステル樹脂は、20mlの純水(電気伝導度0.1μS/cm以下、pH6.8)に1g投入し、25℃、1hr、窒素雰囲気下にて攪拌した時のpHが6〜7、電気伝導度が1〜100μS/cmであることが好ましい。pHが6未満の場合、残留有機酸が加熱溶融時にセルロースの劣化を促進させる恐れがあり、pHが7より高い場合、加水分解が促進する恐れがある。また、電気伝導度が100μS/cm以上の場合、残留イオンが比較的多く存在するため、加熱溶融時にセルロースを劣化させる要因になると考えられる。
本発明に好ましく用いられるセルロースアセテートプロピオネートは、例えば以下の方法で合成される。
セルロース(日本製紙(株)製溶解パルプ)30kgに酢酸60kg、プロピオン酸20kgを加え、54℃で30分撹拌した。混合物を冷却した後、氷浴中で冷却した無水酢酸50kg、無水プロピオン酸50kg、硫酸1.2kgを加えてエステル化を行った。エステル化において、40℃を超えないように調節しながら、撹拌を150分行った。反応終了後、酢酸30kgと水10kgの混合液を20分かけて滴下して過剰の無水物を加水分解した。反応液の温度を40℃に保持しながら、酢酸90kgと水30kgを加えて1時間撹拌した。酢酸マグネシウム2kgを含有した水溶液中に混合物をあけてしばらく撹拌した後にろ過、乾燥し、セルロースアセテートプロピオネート(アセチル基置換度2.45、プロピオニル基置換度0.43、アシル基総置換度2.88、アシル基総炭素数6.20、重量平均分子量211000)を得た。
酢酸に溶解させたセルロースアセテートプロピオネートを水添加等によりpHを上げて再沈する工程時前にろ過し、異物(酢酸溶液への不溶解物)を除去することが望ましい。この異物を十分に除去しないと後の溶融製膜時、フィルム中に異物として残存する恐れがある。
得られたセルロースアセテートプロピオネートの洗浄は、水洗、アルコール洗浄等を実施し、残留酸成分は100ppm未満、低分子量体(分子量10,000以下)は5質量%未満に除去することが望ましい。残留酸成分、低分子量体が多いと劣化、着色等が著しくなる恐れがある。
その他の好ましいセルロースエステルである、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート及びセルロースアセテートブチレートは、脂肪酸として、酢酸、プロピオン酸または酪酸を用い、無水脂肪酸として無水酢酸、無水プロピオン酸または無水n−酪酸を用いたて同様にして合成できる。
〔添加剤〕
本発明の光学フィルムは、セルロースエステル樹脂の他に、可塑剤、酸化防止剤、酸捕捉剤、光安定剤、紫外線吸収剤、リターデーション制御剤、高分子材料等の添加剤を含有することが好ましい。
添加剤の混合は、セルロースエステル樹脂微粉末と添加剤を各々添加してするもよし、全添加剤を予め溶融混合し一体化させた後、セルロースエステル樹脂微粉末と添加してもよい。また、セルロースエステル樹脂微粉末と添加剤を錠剤もしくはペレット化してもよい。錠剤とは、セルロースエステル樹脂は溶融しないが、添加剤は溶融する温度にてセルロースエステル樹脂微粉末と添加剤とを分散混合し一体化させた成型物のことをいう。ペレットとは、セルロースエステル樹脂と添加剤が溶融する温度にて溶融混合し一体化させた成型物のことをいう。
(可塑剤)
本発明の光学フィルムに可塑剤として知られる化合物を添加することは、本発明の効果を得る以外にも、機械的性質向上、柔軟性付与、耐吸水性付与、水分透過率の低減等のフィルムの改質の観点において好ましい。また、本発明で行う溶融流延法においては、用いるセルロースエステル単独のガラス転移温度よりも、可塑剤の添加によりフィルム構成材料の溶融温度を低下させる目的、または同じ加熱温度においてセルロースエステルよりも可塑剤を含むフィルム構成材料の粘度が低下できる点で好ましい。
ここで、本発明において、フィルム構成材料の溶融温度とは、該材料が加熱され流動性が発現された状態において、材料が加熱された温度を意味する。
セルロースエステル単独では、ガラス転移温度よりも低いとフィルム化するための流動性は発現されない。しかしながらセルロースエステルは、ガラス転移温度以上において、熱の吸収により弾性率あるいは粘度が低下し、流動性が発現される。フィルム構成材料を溶融させるためには、添加する可塑剤がセルロースエステルのガラス転移温度よりも低い融点またはガラス転移温度を持つことが上記目的を満たすために好ましい。
本発明に用いる可塑剤としては、例えばリン酸エステル誘導体、カルボン酸エステル誘導体が好ましく用いられる。また、特開2003−12859号に記載の重量平均分子量が500〜10000であるエチレン性不飽和モノマーを重合して得られるポリマー、アクリル系ポリマー、芳香環を側鎖に有するアクリル系ポリマーまたはシクロヘキシル基を側鎖に有するアクリル系ポリマー等も好ましく用いられる。
リン酸エステル誘導体としては、例えば、可塑剤としては、リン酸エステル系可塑剤、エチレングリコールエステル系可塑剤、グリセリンエステル系可塑剤、ジグリセリンエステル系可塑剤(脂肪酸エステル)、多価アルコールエステル系可塑剤、ジカルボン酸エステル系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤、ポリマー可塑剤等が挙げられる。この中でも多価アルコールエステル系可塑剤、ジカルボン酸エステル系可塑剤及び多価カルボン酸エステル系可塑剤が好ましい。また、可塑剤は液体であっても固体であってもよく、組成物の制約上無色であることが好ましい。熱的にはより高温において安定であることが好ましく、分解開始温度が150℃以上、さらに200℃以上が好ましい。添加量は前記の光学フィルムに求められる諸性能のために調整でき、その配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択され、セルロースエステル樹脂100質量部に対して好ましくは1〜50質量%、より好ましくは3〜30質量%である。特に5〜15質量%が好ましい。
以下、本発明に用いられる可塑剤についてさらに説明する。具体例はこれらに限定されるものではない。
リン酸エステル系の可塑剤:具体的には、トリアセチルホスフェート、トリブチルホスフェート等のリン酸アルキルエステル、トリシクロベンチルホスフェート、シクロヘキシルホスフェート等のリン酸シクロアルキルエステル、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリナフチルホスフェート、トリキシリルオスフェート、トリスオルト−ビフェニルホスフェート等のリン酸アリールエステルが挙げられる。これらの置換基は、同一でもあっても異なっていてもよく、さらに置換されていてもよい。またアルキル基、シクロアルキル基、アリール基のミックスでもよく、また置換基同志が共有結合で結合していてもよい。
また、エチレンビス(ジメチルホスフェート)、ブチレンビス(ジエチルホスフェート)等のアルキレンビス(ジアルキルホスフェート)、エチレンビス(ジフェニルホスフェート)、プロピレンビス(ジナフチルホスフェート)等のアルキレンビス(ジアリールホスフェート)、フェニレンビス(ジブチルホスフェート)、ビフェニレンビス(ジオクチルホスフェート)等のアリーレンビス(ジアルキルホスフェート)、フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)、ナフチレンビス(ジトルイルホスフェート)等のアリーレンビス(ジアリールホスフェート)等のリン酸エステルが挙げられる。これらの置換基は、同一でもあっても異なっていてもよく、さらに置換されていてもよい。またアルキル基、シクロアルキル基、アリール基のミックスでもよく、また置換基同志が共有結合で結合していてもよい。
さらに、リン酸エステルの部分構造が、ポリマーの一部あるいは規則的にペンダントされていてもよく、また酸化防止剤、酸捕捉剤、紫外線吸収剤等の添加剤の分子構造の一部に導入されていてもよい。上記化合物の中では、リン酸アリールエステル、アリーレンビス(ジアリールホスフェート)が好ましく、具体的にはトリフェニルホスフェート、フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)が好ましい。
エチレングリコールエステル系の可塑剤:具体的には、エチレングリコールジアセテート、エチレングリコールジブチレート等のエチレングリコールアルキルエステル系の可塑剤、エチレングリコールジシクロプロピルカルボキシレート、エチレングリコールジシクロヘキルカルボキシレート等のエチレングリコールシクロアルキルエステル系の可塑剤、エチレングリコールジベンゾエート、エチレングリコールジ4−メチルベンゾエート等のエチレングリコールアリールエステル系の可塑剤が挙げられる。これらアルキレート基、シクロアルキレート基、アリレート基は、同一でもあっても異なっていてもよく、さらに置換されていてもよい。またアルキレート基、シクロアルキレート基、アリレート基のミックスでもよく、またこれら置換基同志が共有結合で結合していてもよい。さらにエチレングリコール部も置換されていてもよく、エチレングリコールエステルの部分構造が、ポリマーの一部、あるいは規則的にペンダントされていてもよく、また酸化防止剤、酸捕捉剤、紫外線吸収剤等の添加剤の分子構造の一部に導入されていてもよい。
グリセリンエステル系の可塑剤:具体的にはトリアセチン、トリブチリン、グリセリンジアセテートカプリレート、グリセリンオレートプロピオネート等のグリセリンアルキルエステル、グリセリントリシクロプロピルカルボキシレート、グリセリントリシクロヘキシルカルボキシレート等のグリセリンシクロアルキルエステル、グリセリントリベンゾエート、グリセリン4−メチルベンゾエート等のグリセリンアリールエステル、ジグリセリンテトラアセチレート、ジグリセリンテトラプロピオネート、ジグリセリンアセテートトリカプリレート、ジグリセリンテトララウレート、等のジグリセリンアルキルエステル、ジグリセリンテトラシクロブチルカルボキシレート、ジグリセリンテトラシクロペンチルカルボキシレート等のジグリセリンシクロアルキルエステル、ジグリセリンテトラベンゾエート、ジグリセリン3−メチルベンゾエート等のジグリセリンアリールエステル等が挙げられる。これらアルキレート基、シクロアルキルカルボキシレート基、アリレート基は、同一でもあっても異なっていてもよく、さらに置換されていてもよい。またアルキレート基、シクロアルキルカルボキシレート基、アリレート基のミックスでもよく、またこれら置換基同志が共有結合で結合していてもよい。さらにグリセリン、ジグリセリン部も置換されていてもよく、グリセリンエステル、ジグリセリンエステルの部分構造が、ポリマーの一部、あるいは規則的にペンダントされていてもよく、また酸化防止剤、酸捕捉剤、紫外線吸収剤等の添加剤の分子構造の一部に導入されていてもよい。
多価アルコールエステル系の可塑剤:具体的には、特開2003−12823号公報の段落30〜33記載の多価アルコールエステル系可塑剤が挙げられる。
これらアルキレート基、シクロアルキルカルボキシレート基、アリレート基は、同一でもあっても異なっていてもよく、さらに置換されていてもよい。またアルキレート基、シクロアルキルカルボキシレート基、アリレート基のミックスでもよく、またこれら置換基同志が共有結合で結合していてもよい。さらに多価アルコール部も置換されていてもよく、多価アルコールの部分構造が、ポリマーの一部、あるいは規則的にペンダントされていてもよく、また酸化防止剤、酸捕捉剤、紫外線吸収剤等の添加剤の分子構造の一部に導入されていてもよい。
ジカルボン酸エステル系の可塑剤:具体的には、ジドデシルマロネート(C1)、ジオクチルアジペート(C4)、ジブチルセバケート(C8)等のアルキルジカルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、ジシクロペンチルサクシネート、ジシクロヘキシルアジーペート等のアルキルジカルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤、ジフェニルサクシネート、ジ4−メチルフェニルグルタレート等のアルキルジカルボン酸アリールエステル系の可塑剤、ジヘキシル−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート、ジデシルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボキシレート等のシクロアルキルジカルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、ジシクロヘキシル−1,2−シクロブタンジカルボキシレート、ジシクロプロピル−1,2−シクロヘキシルジカルボキシレート等のシクロアルキルジカルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤、ジフェニル−1,1−シクロプロピルジカルボキシレート、ジ2−ナフチル−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート等のシクロアルキルジカルボン酸アリールエステル系の可塑剤、ジエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート等のアリールジカルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、ジシクロプロピルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート等のアリールジカルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤、ジフェニルフタレート、ジ4−メチルフェニルフタレート等のアリールジカルボン酸アリールエステル系の可塑剤が挙げられる。これらアルコキシ基、シクロアルコキシ基は、同一でもあっても異なっていてもよく、また一置換でもよく、これらの置換基はさらに置換されていてもよい。アルキル基、シクロアルキル基はミックスでもよく、またこれら置換基同志が共有結合で結合していてもよい。さらにフタル酸の芳香環も置換されていてよく、ダイマー、トリマー、テトラマー等の多量体でもよい。またフタル酸エステルの部分構造が、ポリマーの一部、あるいは規則的にポリマーへペンダントされていてもよく、酸化防止剤、酸捕捉剤、紫外線吸収剤等の添加剤の分子構造の一部に導入されていてもよい。
多価カルボン酸エステル系の可塑剤:具体的には、トリドデシルトリカルバレート、トリブチル−meso−ブタン−1,2,3,4−テトラカルボキシレート等のアルキル多価カルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、トリシクロヘキシルトリカルバレート、トリシクロプロピル−2−ヒドロキシ−1,2,3−プロパントリカルボキシレート等のアルキル多価カルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤、トリフェニル2−ヒドロキシ−1,2,3−プロパントリカルボキシレート、テトラ3−メチルフェニルテトラヒドロフラン−2,3,4,5−テトラカルボキシレート等のアルキル多価カルボン酸アリールエステル系の可塑剤、テトラヘキシル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボキシレート、テトラブチル−1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボキシレート等のシクロアルキル多価カルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、テトラシクロプロピル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボキシレート、トリシクロヘキシル−1,3,5−シクロヘキシルトリカルボキシレート等のシクロアルキル多価カルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤、トリフェニル−1,3,5−シクロヘキシルトリカルボキシレート、ヘキサ4−メチルフェニル−1,2,3,4,5,6−シクロヘキシルヘキサカルボキシレート等のシクロアルキル多価カルボン酸アリールエステル系の可塑剤、トリドデシルベンゼン−1,2,4−トリカルボキシレート、テトラオクチルベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボキシレート等のアリール多価カルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、トリシクロペンチルベンゼン−1,3,5−トリカルボキシレート、テトラシクロヘキシルベンゼン−1,2,3,5−テトラカルボキシレート等のアリール多価カルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤トリフェニルベンゼン−1,3,5−テトラカルトキシレート、ヘキサ4−メチルフェニルベンゼン−1,2,3,4,5,6−ヘキサカルボキシレート等のアリール多価カルボン酸アリールエステル系の可塑剤が挙げられる。これらアルコキシ基、シクロアルコキシ基は、同一でもあっても異なっていてもよく、また一置換でもよく、これらの置換基はさらに置換されていてもよい。アルキル基、シクロアルキル基はミックスでもよく、またこれら置換基同志が共有結合で結合していてもよい。さらにフタル酸の芳香環も置換されていてよく、ダイマー、トリマー、テトラマー等の多量体でもよい。またフタル酸エステルの部分構造が、ポリマーの一部、あるいは規則的にポリマーへペンダントされていてもよく、酸化防止剤、酸捕捉剤、紫外線吸収剤等の添加剤の分子構造の一部に導入されていてもよい。
ポリマー可塑剤:具体的には、脂肪族炭化水素系ポリマー、脂環式炭化水素系ポリマー、ポリアクリル酸エチル、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系ポリマー、ポリビニルイソブチルエーテル、ポリN−ビニルピロリドン等のビニル系ポリマー、ポリスチレン、ポリ4−ヒドロキシスチレン等のスチレン系ポリマー、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア等が挙げられる。数平均分子量は、1000〜500000程度が好ましく、特に好ましくは、5000〜200000である。1000以下では揮発性に問題が生じ、500000を超えると可塑化能力が低下し、セルロースエステル誘導体組成物の機械的性質に悪影響を及ぼす。これらポリマー可塑剤は1種の繰り返し単位からなる単独重合体でも、複数の繰り返し構造体を有する共重合体でもよい。また、上記ポリマーを2種以上併用して用いてもよく、他の可塑剤、酸化防止剤、酸捕捉剤、紫外線吸収剤、滑り剤及びマット剤等を含有させてもよい。
上記可塑剤の中でも熱溶融時に揮発成分を生成しないことが一般的には好ましい。具体的には特表平6−501040号に記載されている不揮発性リン酸エステルが挙げられ、例えばアリーレンビス(ジアリールホスフェート)エステルや上記例示化合物の中ではトリメチロールプロパントリベンゾエート等が好ましいがこれらに限定されるものではない。揮発成分が上記可塑剤の熱分解によるとき、上記可塑剤の熱分解温度Td(1.0)は、1.0質量%減少したときの温度と定義すると、フィルム形成材料の溶融温度よりも高いことが求められる。可塑剤は、上記目的のために、セルロースエステルに対する添加量が他のフィルム構成材料よりも多く、揮発成分の存在は得られるフィルムの品質に与える劣位となる影響が大きいためである。熱分解温度Td(1.0)は、市販の示差熱重量分析(TG−DTA)装置で測定することができる。
(酸化防止剤)
本発明では、加熱溶融前にセルロースエステル樹脂、またはセルロースエステル樹脂と添加剤を含むセルロースエステル樹脂組成物中の異物を除去し、溶融時のフィルターを必要としない(溶融フィルターレス システム)。しかし、滞留時間を長くしない程度のフィルターは具備しても構わない。従って、従来の溶融流延法に比べ、溶融時の滞留時間を大幅に短縮可能であり、熱酸化劣化しにくいシステムのため、酸化防止剤の使用量は少量または使用しなくとも目的の物性を確保可能である。
本発明に少量用いられる酸化防止剤は、市販の酸化防止剤を使用しても構わない。酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、耐熱加工安定剤、酸素スカベンジャー等が挙げられ、これらの中でもフェノール系酸化防止剤、特にアルキル置換フェノール系酸化防止剤が好ましい。これらの酸化防止剤を配合することにより、透明性、耐熱性等を低下させることなく、成型時の熱や酸化劣化等による成形体の着色や強度低下を防止できる。これらの酸化防止剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択されるが、セルロースエステル樹脂100質量部に対して好ましくは0.001〜5質量部、より好ましくは0.01〜1質量部である。
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール酸化防止剤化合物は既知の化合物であり、例えば、米国特許第4,839,405号明細書の第12〜14欄に記載されているもの等の、2,6−ジアルキルフェノール誘導体化合物が含まれる。このような化合物には、以下の一般式(1)のものが含まれる。
式中、R1、R2及びR3は、さらに置換されているかまたは置換されていないアルキル置換基を表す。ヒンダードフェノール化合物の具体例には、n−オクタデシル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、n−オクタデシル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−アセテート、n−オクタデシル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、n−ヘキシル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルベンゾエート、n−ドデシル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルベンゾエート、ネオ−ドデシル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ドデシルβ(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、エチルα−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)イソブチレート、オクタデシルα−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)イソブチレート、オクタデシルα−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2−(n−オクチルチオ)エチル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンゾエート、2−(n−オクチルチオ)エチル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−フェニルアセテート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンゾエート、2−(2−ヒドロキシエチルチオ)エチル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、ジエチルグリコールビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−フェニル)プロピオネート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ステアルアミドN,N−ビス−[エチレン3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、n−ブチルイミノN,N−ビス−[エチレン3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2−(2−ステアロイルオキシエチルチオ)エチル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、2−(2−ステアロイルオキシエチルチオ)エチル7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ヘプタノエート、1,2−プロピレングリコールビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、エチレングリコールビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ネオペンチルグリコールビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、エチレングリコールビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート)、グリセリン−l−n−オクタデカノエート−2,3−ビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート)、ペンタエリトリトール−テトラキス−[3−(3′,5′−ジ−t−ブチル−4′−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,1,1−トリメチロールエタン−トリス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ソルビトールヘキサ−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2−ヒドロキシエチル7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2−ステアロイルオキシエチル7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ヘプタノエート、1,6−n−ヘキサンジオール−ビス[(3′,5′−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリトリトール−テトラキス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナメート)が含まれる。上記タイプのヒンダードフェノール系酸化防止剤化合物は、例えば、Ciba Specialty Chemicalsから、“Irganox1076”及び“Irganox1010”という商品名で市販されている。
その他の酸化防止剤としては、具体的には、トリスノニルフェニルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト等のリン系酸化防止剤、ジラウリル−3,3′−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3′−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3′−チオジプロピオネート、ペンタエリスリチルテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)等のイオウ系酸化防止剤、2−tert−ブチル−6−(3−tert−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2−[1−(2−ヒドロキシ−3、5−ジ−tert−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−tert−ペンチルフェニルアクリレート等の耐熱加工安定剤、特公平08−27508号記載の3,4−ジヒドロ−2H−1−ベンゾピラン系化合物、3,3′−スピロジクロマン系化合物、1,1−スピロインダン系化合物、モルホリン、チオモルホリン、チオモルホリンオキシド、チオモルホリンジオキシド、ピペラジン骨格を部分構造に有する化合物、特開平03−174150記載のジアルコキシベンゼン系化合物等の酸素スカベンジャー等が挙げられる。これら酸化防止剤の部分構造が、ポリマーの一部、あるいは規則的にポリマーへペンダントされていてもよく、可塑剤、酸捕捉剤、紫外線吸収剤等の添加剤の分子構造の一部に導入されていてもよい。
(酸捕捉剤)
酸捕捉剤としては、米国特許第4,137,201号明細書に記載されている酸捕捉剤としてのエポキシ化合物を含んでなるのが好ましい。このような酸捕捉剤としてのエポキシ化合物は当該技術分野において既知であり、種々のポリグリコールのジグリシジルエーテル、特にポリグリコール1モル当たりに約8〜40モルのエチレンオキシド等の縮合によって誘導されるポリグリコール、グリセロールのジグリシジルエーテル等、金属エポキシ化合物(例えば、塩化ビニルポリマー組成物において、及び塩化ビニルポリマー組成物と共に、従来から利用されているもの)、エポキシ化エーテル縮合生成物、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(即ち、4,4′−ジヒドロキシジフェニルジメチルメタン)、エポキシ化不飽和脂肪酸エステル(特に、2〜22この炭素原子の脂肪酸の4〜2個程度の炭素原子のアルキルのエステル(例えば、ブチルエポキシステアレート)等)、及び種々のエポキシ化長鎖脂肪酸トリグリセリド等(例えば、エポキシ化大豆油等の組成物によって代表され、例示され得る、エポキシ化植物油及び他の不飽和天然油(これらは時としてエポキシ化天然グリセリドまたは不飽和脂肪酸と称され、これらの脂肪酸は一般に12〜22個の炭素原子を含有している))が含まれる。特に好ましいのは、市販のエポキシ基含有エポキシド樹脂化合物 EPON 815c、及び一般式(2)の他のエポキシ化エーテルオリゴマー縮合生成物である。
上式中、nは0〜12である。用いることができるさらに可能な酸捕捉剤としては、特開平5−194788号公報の段落87〜105に記載されているものが含まれる。
(光安定剤)
光安定剤としては、ヒンダードアミン光安定剤(HALS)化合物が挙げられ、これは既知の化合物であり、例えば、米国特許第4,619,956号明細書の第5〜11欄及び米国特許第4,839,405号明細書の第3〜5欄に記載されているように、2,2,6,6−テトラアルキルピペリジン化合物、またはそれらの酸付加塩もしくはそれらと金属化合物との錯体が含まれる。このような化合物には、以下の一般式(3)のものが含まれる。
上式中、R1及びR2は、Hまたは置換基である。ヒンダードアミン光安定剤化合物の具体例には、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−アリル−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−ベンジル−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(4−t−ブチル−2−ブテニル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ステアロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−エチル−4−サリチロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−メタクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン−4−イル−β(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、1−ベンジル−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニルマレイネート(maleinate)、(ジ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−アジペート、(ジ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−セバケート、(ジ−1,2,3,6−テトラメチル−2,6−ジエチル−ピペリジン−4−イル)−セバケート、(ジ−1−アリル−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−4−イル)−フタレート、1−アセチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル−アセテート、トリメリト酸−トリ−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)エステル、1−アクリロイル−4−ベンジルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ジブチル−マロン酸−ジ−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−ピペリジン−4−イル)−エステル、ジベンジル−マロン酸−ジ−(1,2,3,6−テトラメチル−2,6−ジエチル−ピペリジン−4−イル)−エステル、ジメチル−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−オキシ)−シラン,トリス−(1−プロピル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−ホスフィット、トリス−(1−プロピル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−ホスフェート,N,N′−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−ヘキサメチレン−1,6−ジアミン、N,N′−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−ヘキサメチレン−1,6−ジアセトアミド、1−アセチル−4−(N−シクロヘキシルアセトアミド)−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン、4−ベンジルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、N,N′−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−N,N′−ジブチル−アジパミド、N,N′−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−N,N′−ジシクロヘキシル−(2−ヒドロキシプロピレン)、N,N′−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−p−キシリレン−ジアミン、4−(ビス−2−ヒドロキシエチル)−アミノ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−メタクリルアミド−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、α−シアノ−β−メチル−β−[N−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)]−アミノ−アクリル酸メチルエステル。好ましいヒンダードアミン光安定剤の例には、以下のHALS−1及びHALS−2が含まれる。
これらのヒンダードアミン系耐光安定剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、またこれらヒンダードアミン系耐光安定剤と可塑剤、酸捕捉剤、紫外線吸収剤等の添加剤と併用しても、添加剤の分子構造の一部に導入されていてもよい。その配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択されるが、セルロースエステル樹脂100質量部に対して好ましくは0.01〜20質量部、より好ましくは0.02〜15質量部、特に好ましくは0.05〜10質量部である。
(紫外線吸収剤)
紫外線吸収剤としては、偏光子や表示装置の紫外線に対する劣化防止の観点から、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れており、かつ液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等を挙げることができるが、ベンゾフェノン系化合物や着色の少ないベンゾトリアゾール系化合物が好ましい。また、特開平10−182621号公報、特開平8−337574号公報記載の紫外線吸収剤、特開平6−148430号公報記載の高分子紫外線吸収剤を用いてもよい。
有用なベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の具体例として、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、オクチル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートの混合物等を挙げることができるが、これらに限定されない。
また、市販品として、チヌビン(TINUVIN)109、チヌビン(TINUVIN)171、チヌビン(TINUVIN)360(いずれもチバ−スペシャルティ−ケミカルズ社製)を用いることもできる。
ベンゾフェノン系化合物の具体例として、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニルメタン)等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
本発明においては、紫外線吸収剤は0.1〜20質量%添加することが好ましく、さらに0.5〜10質量%添加することが好ましく、さらに1〜5質量%添加することが好ましい。これらは2種以上を併用してもよい。
(リターデーション制御剤)
本発明の光学フィルムにおいて配向膜を形成して液晶層を設け、偏光板保護フィルムと液晶層由来のリターデーションを複合化して光学補償能を付与して、液晶表示品質の向上するような偏光板加工を行ってもよい。リターデーションを調節するために添加する化合物は、欧州特許911,656A2号明細書に記載されているような、二つ以上の芳香族環を有する芳香族化合物をリターデーション制御剤として使用することもできる。また二種類以上の芳香族化合物を併用してもよい。該芳香族化合物の芳香族環には、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環を含む。芳香族性ヘテロ環であることが特に好ましく、芳香族性ヘテロ環は一般に、不飽和ヘテロ環である。中でも1,3,5−トリアジン環が特に好ましい。
(高分子材料)
本発明の光学フィルムはセルロースエステル以外の高分子材料やオリゴマーを適宜選択して混合してもよい。前述の高分子材料やオリゴマーはセルロースエステルと相溶性に優れるものが好ましく、フィルムにしたときの透過率が80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは92%以上であることが好ましい。セルロースエステル以外の高分子材料やオリゴマーの少なくとも1種以上を混合する目的は、加熱溶融時の粘度制御やフィルム加工後のフィルム物性を向上するために行う意味を含んでいる。この場合は、上述のその他添加剤として含むことができる。
(マット剤)
本発明の光学フィルムは、滑り性を付与するためにマット剤等の微粒子を添加することができ、微粒子としては、無機化合物の微粒子または有機化合物の微粒子が挙げられる。マット剤はできるだけ微粒子のものが好ましく、微粒子としては、例えば、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、リン酸カルシウム等の無機微粒子や架橋高分子微粒子を挙げることができる。中でも、二酸化ケイ素がフィルムのヘイズを低くできるので好ましい。二酸化ケイ素のような微粒子は有機物により表面処理されている場合が多いが、このようなものはフィルムのヘイズを低下できるため好ましい。
表面処理で好ましい有機物としては、ハロシラン類、アルコキシシラン類、シラザン、シロキサン等が挙げられる。微粒子の平均粒径が大きい方が滑り性効果は大きく、反対に平均粒径の小さい方は透明性に優れる。また、微粒子の分散粒径は0.05〜1.0μmの範囲である。これらの微粒子はセルロースエステルフィルム中では、セルロースエステルフィルム表面に0.01〜1.0μmの凹凸を生成させるために好ましく用いられる。微粒子のセルロースエステル中の含有量はセルロースエステルに対して0.005〜0.3質量%が好ましい。
二酸化ケイ素の微粒子としては、日本アエロジル(株)製のアエロジル(AEROSIL)200、200V、300、R972、R972V、R974、R202、R812、OX50、TT600等を挙げることができ、好ましくはアエロジル200V、R972、R972V、R974、R202、R812である。これらの微粒子は2種以上併用してもよい。2種以上併用する場合、任意の割合で混合して使用することができる。この場合、平均粒径や材質の異なる微粒子、例えば、アエロジル200VとR972Vを質量比で0.1:99.9〜99.9:0.1の範囲で使用できる。
上記マット剤として用いられるフィルム中の微粒子の存在は、別の目的としてフィルムの強度向上のために用いることもできる。また、フィルム中の上記微粒子の存在は、本発明の光学フィルムを構成するセルロースエステル自身の配向性を向上することも可能である。
〔溶融流延法による製膜〕
本発明の光学フィルムは溶融流延法によって形成されることが特徴である。
溶液流延法において用いられる溶媒(例えば塩化メチレン等)を用いずに、加熱溶融する溶融流延による成形法は、さらに詳細には、溶融押出成形法、プレス成形法、インフレーション法、射出成形法、ブロー成形法、延伸成形法等に分類できる。これらの中で、機械的強度及び表面精度等に優れる偏光板保護フィルムを得るためには、溶融押出し法が優れている。
以下、溶融押し出し法を例にとり、本発明の光学フィルムの製造方法について説明する。
図1は、本発明の光学フィルムの製造方法を実施する装置の全体構成を示す概略フローシートである。
図1において、光学フィルムの製造方法は、粉砕し、分級したセルロース樹脂等のフィルム材料を混合した後、押出し機1を用いて、流延ダイ4から第1冷却ロール5上に溶融押し出し、第1冷却ロール5に外接させるとともに、さらに、第2冷却ロール7、第3冷却ロール8の合計3本の冷却ロールに順に外接させて、冷却固化してフィルム10とする。ついで、剥離ロール9によって剥離したフィルム10を、ついで延伸装置12によりフィルムの両端部を把持して幅方向に延伸した後、巻き取り装置16により巻き取る。また、平面性を矯正するために溶融フィルムを第1冷却ロール5表面に挟圧するタッチロール6が設けられている。このタッチロール6は表面が弾性を有し、第1冷却ロール5との間でニップを形成している。タッチロール6についての詳細は後述する。
光学フィルムの製造方法において、溶融押し出しの条件は、他のポリエステル等の熱可塑性樹脂に用いられる条件と同様にして行なうことができる。材料は予め乾燥させておくことが好ましい。真空または減圧乾燥機や除湿熱風乾燥機等で水分を1000ppm以下、好ましくは200ppm以下に乾燥させることが望ましい。
例えば、熱風や真空または減圧下で乾燥したセルロースエステル系樹脂を押出し機1を用いて、押し出し温度200〜300℃程度で溶融し、リーフディスクタイプのフィルター2等で濾過し、異物を除去する。
供給ホッパー(図示略)から押出し機1へ導入する際は、真空下または減圧下や不活性ガス雰囲気下にして、酸化分解等を防止することが好ましい。
可塑剤等の添加剤を予め混合しない場合は、押出し機の途中で練り込んでもよい。均一に添加するために、スタチックミキサー3等の混合装置を用いることが好ましい。
本発明において、セルロース樹脂と、その他必要により添加される安定化剤等の添加剤は、溶融する前に混合しておくことが好ましい。セルロース樹脂と安定化剤を最初に混合することがさらに好ましい。混合は、混合機等により行なってもよく、また、前記したようにセルロース樹脂調製過程において混合してもよい。混合機を使用する場合は、V型混合機、円錐スクリュー型混合機、水平円筒型混合機等、ヘンシェルミキサー、リボンミキサー一般的な混合機を用いることができる。
上記のようにフィルム構成材料を混合した後に、その混合物を押出し機1を用いて直接溶融して製膜するようにしてもよいが、一旦、フィルム構成材料をペレット化した後、該ペレットを押出し機1で溶融して製膜するようにしてもよい。また、フィルム構成材料が、融点の異なる複数の材料を含む場合には、融点の低い材料のみが溶融する温度で一旦、いわゆるおこし状の半溶融物を作製し、半溶融物を押出し機1に投入して製膜することも可能である。フィルム構成材料に熱分解しやすい材料が含まれる場合には、溶融回数を減らす目的で、ペレットを作製せずに直接製膜する方法や、上記のようなおこし状の半溶融物を作ってから製膜する方法が好ましい。
押出し機1は、市場で入手可能な種々の押出し機を使用可能であるが、溶融混練押出し機が好ましく、単軸押出し機でも2軸押出し機でもよい。フィルム構成材料からペレットを作製せずに、直接製膜を行なう場合、適当な混練度が必要であるため2軸押出し機を用いることが好ましいが、単軸押出し機でも、スクリューの形状をマドック型、ユニメルト、ダルメージ等の混練型のスクリューに変更することにより、適度の混練が得られるので、使用可能である。フィルム構成材料として、一旦、ペレットやおこし状の半溶融物を使用する場合は、単軸押出し機でも2軸押出し機でも使用可能である。
押出し機1内及び押出した後の冷却工程は、窒素ガス等の不活性ガスで置換するか、あるいは減圧することにより、酸素の濃度を下げることが好ましい。
押出し機1内のフィルム構成材料の溶融温度は、フィルム構成材料の粘度や吐出量、製造するシートの厚み等によって好ましい条件が異なるが、一般的には、フィルムのガラス転移温度Tgに対して、Tg以上、Tg+100℃以下、好ましくはTg+10℃以上、Tg+90℃以下である。押出し時の溶融粘度は、10〜100000ポイズ、好ましくは100〜10000ポイズである。また、押出し機1内でのフィルム構成材料の滞留時間は短い方が好ましく、5分以内、好ましくは3分以内、より好ましくは2分以内である。滞留時間は、押出し機1の種類、押出す条件にも左右されるが、材料の供給量やL/D、スクリュー回転数、スクリューの溝の深さ等を調整することにより短縮することが可能である。
押出し機1のスクリューの形状や回転数等は、フィルム構成材料の粘度や吐出量等により適宜選択される。本発明において押出し機1でのせん断速度は、1/秒〜10000/秒、好ましくは5/秒〜1000/秒、より好ましくは10/秒〜100/秒である。
本発明に使用できる押出し機1としては、一般的にプラスチック成形機として入手可能である。
押出し機1から押し出されたフィルム構成材料は、流延ダイ4に送られ、流延ダイ4のスリットからフィルム状に押し出される。流延ダイ4はシートやフィルムを製造するために用いられるものであれば特に限定はされない。流延ダイ4の材質としては、ハードクロム、炭化クロム、窒化クロム、炭化チタン、炭窒化チタン、窒化チタン、超鋼、セラミック(タングステンカーバイド、酸化アルミ、酸化クロム)等を溶射もしくはメッキし、表面加工としてバフ、#1000番手以降の砥石を用いるラッピング、#1000番手以上のダイヤモンド砥石を用いる平面切削(切削方向は樹脂の流れ方向に垂直な方向)、電解研磨、電解複合研磨等の加工を施したもの等が挙げられる。流延ダイ4のリップ部の好ましい材質は、流延ダイ4と同様である。またリップ部の表面精度は0.5S以下が好ましく、0.2S以下がより好ましい。
この流延ダイ4のスリットは、そのギャップが調整可能なように構成されている。ダイ後流の所要箇所に厚さ計を設け、これによって検出されたウェブ厚さ情報を制御装置にフィードバックし、この厚さ情報を制御装置で設定厚み情報と比較し、同装置から来る補正制御量の信号によってヒートボルトの発熱体の電力またはオン率を制御するようにすることもできる。ヒートボルトは、好ましくは、長さ20〜40cm、直径7〜14mmを有し、複数、例えば数十本のヒートボルトが、好ましくはピッチ20〜40mmで配列されている。ヒートボルトの代わりに、手動で軸方向に前後動させることによりスリットギャップを調節するボルトを主体とするギャップ調節部材を設けてもよい。ギャップ調節部材によって調節されたスリットギャップは、通常200〜1000μm、好ましくは300〜800μm、より好ましくは400〜600μmである。
第1〜第3冷却ロールは、肉厚が20〜30mm程度のシームレスな鋼管製で、表面が鏡面に仕上げられている。その内部には、冷却液を流す配管が配置されており、配管を流れる冷却液によってロール上のフィルムから熱を吸収できるように構成されている。この第1乃至第3冷却ロールの内、第1冷却ロール5が回転支持体に相当する。
一方、第1冷却ロール5に当接するタッチロール6は、表面が弾性を有し、第1冷却ロール5への押圧力によって第1冷却ロール5の表面に沿って変形し、第1ロール5との間にニップを形成する。すなわち、タッチロール6が挟圧回転体に相当する。
タッチロール6は、可撓性の金属スリーブの内部に弾性ローラを配したものである。
金属スリーブは厚さ0.3mmのステンレス製であり、可撓性を有する。金属スリーブが薄すぎると強度が不足し、逆に厚すぎると弾性が不足する。これらのことから、金属スリーブの厚さとしては、0.1〜1.5mmが好ましい。弾性ローラは、軸受を介して回転自在な金属製の内筒の表面にゴムを設けてロール状としたものである。そして、タッチロール6が第1冷却ロール5に向けて押圧されると、弾性ローラが金属スリーブを第1冷却ロール5に押しつけ、金属スリープ及び弾性ローラは第1冷却ロール5の形状になじんだ形状に対応しつつ変形し、第1冷却ロールとの間にニップを形成する。金属スリーブの内部で弾性ローラとの間に形成される空間には、冷却水が流される。
本発明において、第1ロール5、第2ロール6に好ましい材質は、炭素鋼、ステンレス鋼、樹脂、等が挙げられる。また、表面精度は高くすることが好ましく表面粗さとして0.3S以下、より好ましくは0.01S以下とする。
本発明においては、流延ダイ4の開口部(リップ)から第1ロール5までの部分を70kPa以下に減圧させることにより、上記、ダイラインの矯正効果がより大きく発現することを発見した。好ましくは減圧は50〜70kPaである。流延ダイ4の開口部(リップ)から第1ロール5までの部分の圧力を70kPa以下に保つ方法としては、特に制限はないが、流延ダイ4からロール周辺を耐圧部材で覆い、減圧する等の方法がある。このとき、吸引装置は、装置自体が昇華物の付着場所にならないようヒーターで加熱する等の処置を施すことが好ましい。本発明では、吸引圧が小さすぎると昇華物を効果的に吸引できないため、適当な吸引圧とする必要がある。
本発明において、Tダイ4から溶融状態のフィルム状のセルロースエステル系樹脂を、第1ロール(第1冷却ロール)5、第2冷却ロール7、及び第3冷却ロール8に順次密着させて搬送しながら冷却固化させ、未延伸のセルロースエステル系樹脂のフィルム10を得る。
図1に示す本発明の実施形態では、第3冷却ロール8から剥離ロール9によって剥離した冷却固化された未延伸のフィルム10は、ダンサーロール(フィルム張力調整ロール)11を経て延伸装置12に導き、そこでフィルム10を横方向(幅方向)に延伸する。この延伸により、フィルム中の分子が配向される。延伸後、フィルムの端部をスリッター13により製品となる幅にスリットして裁ち落とした後、エンボスリング14及びバックロール15よりなるナール加工装置によりナール加工(エンボッシング加工)をフィルム両端部に施し、巻き取り装置機16によって巻き取ることにより、元巻きF中の貼り付きや、すり傷の発生を防止する。
本発明の光学フィルムの巻きの長さとしては、500〜5000mが好ましく、1000〜5000mがより好ましい。幅手両端部には膜厚の0〜25%の高さのナーリングを設けて巻き取ることも好ましい。
このような非常に長大なフィルムを安定して生産するためには、溶融製膜中に分子量をいかに低下させないかが重要である。分子量が低下すると、フィルムが脆くなり、破断が発生しやすくなり、上記のような長さのフィルムを得ることは難しい。分子量の低下を防ぐためには、前述のような安定化剤を添加するのみならず、材料の購入前または合成時に混入している溶媒や不純物や、酸素・水分等を、溶融プロセス前になるべく除去しておくことが重要である。溶融流延法による製膜は、溶液流延法と比べるとその製膜時の温度が著しく高いため、酸素や水分、あるいは化学的に活性な不純物が混入していると、セルロースエステルの分解が促進されてしまうためである。
前記水分や不純物等の揮発成分は、製膜する前に、または溶融前に除去されていることが好ましい。この除去する方法は、乾燥による方法が適用でき、加熱法、減圧法、加熱減圧法等の方法で行うことができる。乾燥は空気中または不活性ガスとして窒素あるいはアルゴン等の不活性ガスを選択した雰囲気下で行ってもよい。これらの不活性ガスは水や酸素の含有量が低いことが好ましい。酸素濃度は0.1%以下であることが好ましく、ガスの露点は−30℃以下であることが好ましい。最も好ましくは、実質的に含有しないことである。これらの公知の乾燥方法を行うとき、フィルム構成材料が分解しない温度領域で行うことがフィルムの品質上好ましい。例えば、前記乾燥工程で除去した後の残存する水分または不純物は、各々フィルム構成材料の全体に質量に対して1質量%以下とすることが好ましく、さらに好ましくは0.5質量%以下にすることである。
特にセルロースエステル樹脂の水分は、0.3質量%未満のものが好ましく用いられる。これらの特性値はASTM−D817−96により測定することができる。セルロースエステルは、さらに熱処理することで水分を低減させて0.1〜1000ppmとして用いることが好ましい。
また、残留有機不純物量は、ヘッドスペースガスクロ法により測定できる。即ち、既知量のセルロースエステルフィルムを密閉容器内で120℃で20分間加熱し、その密閉容器内の気相に含まれる有機溶媒をガスクロマトグラフにより定量する。この結果から残留有機溶媒量を算出することができる。
フィルム構成材料は、製膜前に乾燥することにより、揮発成分の発生を削減することができ、樹脂単独、または樹脂とフィルム構成材料の内、樹脂以外の少なくとも1種以上の混合物または相溶物に分割して乾燥することができる。好ましい乾燥温度は80℃以上、かつ乾燥する材料のTgまたは融点以下であることが好ましい。材料同士の融着を回避する観点を含めると、乾燥温度は、より好ましくは100〜(Tg−5)℃、さらに好ましくは110〜(Tg−20)℃である。好ましい乾燥時間は0.5〜24時間、より好ましくは1〜18時間、さらに好ましくは1.5〜12時間である。これらの範囲よりも低いと揮発成分の除去率が低いか、または乾燥に時間がかかり過ぎることがあり、また乾燥する材料にTgが存在するときには、Tgよりも高い乾燥温度に加熱すると、材料が融着して取り扱いが困難になることがある。乾燥は1気圧以下で行うことが好ましく、特に真空〜1/2気圧に減圧しながら行うことが好ましい。乾燥は、樹脂等の材料は適度に撹拌しながら行うことが好ましく、乾燥容器内で下部より乾燥空気もしくは乾燥窒素を送り込みながら乾燥させる流動床方式が、より短時間で必要な乾燥を行うことができるため好ましい。
乾燥工程は2段階以上に分離してもよく、例えば予備乾燥工程による材料の保管と、製膜する直前〜1週間前の間に行う直前乾燥を行った素材を用いて製膜してもよい。
乾燥工程によって、フィルム形成材料中の水分・不純物等の揮発性成分を除去した後、フィルム形成材料は個別に、あるいは事前に混合/ペレット化されて、加熱されたバレルに送られ、溶融・流動化したのち、Tダイによってシート状に押出され、例えば、静電印加法等により冷却ドラムあるいはエンドレスベルト等に密着させ、冷却固化されてシート状に固化し、未延伸シートを得る。これらの工程は、流延工程と呼ばれる。
得られる光学フィルムの物性を鑑みると、溶融温度(バレル内の温度)は150〜250℃の範囲であることが好ましく、180〜230℃であることがより好ましく、さらに好ましくは190〜220℃である。冷却ドラムの温度は、90〜150℃に維持されていることが好ましい。ドラムの温度が90℃以下であると、ダイから押出されたシートが急冷されてフィルム内の構造が膜厚方向に不均一となったり、もろくなったりすることがあるため、90℃以上であることが好ましい。他方、150℃以上であると、未延伸シートの冷却速度が遅くなり、生産性が低下するために好ましくない。
本発明の光学フィルムを偏光板保護フィルムとした場合、該保護フィルムの厚さは10〜500μmが好ましい。特に10〜100μmが好ましく、20〜80μmが好ましく、特に好ましくは30〜60μmである。上記領域よりも光学フィルムが厚いと、例えば、偏光板保護フィルムとして用いる場合、偏光板加工後の偏光板が厚くなり過ぎ、ノート型パソコンやモバイル型電子機器に用いる液晶表示においては、特に薄型軽量の目的には適さない。一方、上記領域よりも薄いとフィルムの透湿性が高くなり偏光子に対して湿度から保護する能力が低下してしまうために好ましくない。また、位相差フィルムにおいてはリターデーションの発現が困難となるため、好ましくない。
なお、溶液流延法ではフィルムの厚みが増えると乾燥(溶剤除去)負荷が著しく増加してしまうが、本発明では乾燥(溶剤除去)工程が不要なため、膜厚が厚いフィルムを生産性よく製造することができる。そのため、必要な位相差の付与や透湿性の低減等の目的に応じてフィルムの厚みを増やすことが今まで以上にやりやすくなるという利点がある。また、膜厚の薄いフィルムであっても、このような厚手のフィルムを延伸することで高い生産性で生産することができると言う効果を有する。なお、延伸した際のフィルムの膜厚は、延伸倍率と反比例して薄くなる。例えば、未延伸シートが200μmであった場合、2倍に延伸すると100μmのフィルムが得られる。
また、光学フィルム支持体の膜厚変動は、±3%、さらに±1%、さらに好ましくは±0.1%の範囲とすることが好ましい。これらの膜厚変動は、延伸することによって低減することができる。
近年の液晶ディスプレイの大型化を鑑みると、偏光板保護フィルムの幅は1m以上が好ましい。他方で、4mを超えると装置が大型化し、また搬送が困難となるため、本発明の光学フィルムの幅は1〜4mが好ましく、特に好ましくは1.4〜2mである。バレルから流動してきたセルロースエステルを、1.4m以上の幅手に均一にダイから押出すことは困難であるため、1.4m以上の幅を有するフィルムは、横延伸しなければ得ることは困難である。
(延伸工程)
次に延伸工程について説明する。
本発明のセルロースエステルを用いた光学フィルムは、溶融温度を低くすることができ、溶融押出し後のセルロースエステルの分子量低下を抑えることができるため、搬送時の破断が起こりにくく、高収率かつ高速に製造できる。さらに高倍率延伸が可能なため、より平面性に優れた光学フィルムを得ることができる。さらに光学フィルムを生産性よく製造することができる。
バレルから押出され、冷却ドラムに密着させられた後、冷却ドラムから剥離されたフィルムは、横延伸や縦延伸、あるいは特開2004−226465号公報に開示されているような、斜め方向の延伸を行うことによって、平面性を向上させ、かつ生産速度を向上させることができる。これらの延伸は、複数回行ってもよく、複数回行う際には、同時であっても逐次であってもよい。複数回の延伸を行った際には、全ての延伸倍率の積が、最終延伸倍率となる。例えば、2倍の延伸を2回行えば、最終延伸倍率は4倍となる。
なおセルロースエステルは、延伸された方向に対して屈折率が上昇し、遅相軸が形成される。従って、最終的に得られるフィルムが満たすべき光学特性の範囲内で延伸倍率は決定される。
フィルム面内の位相差をなるべく低減したい場合には、2軸延伸することが好ましい。1回目の延伸軸と直交する方向に、同倍率程度の延伸を行うにより、1回目の延伸による複屈折の発生がキャンセルされ、等方性のフィルムを得ることができる。
他方で、液晶ディスプレイの視野角を拡大する効果のあるような位相差フィルムを得る場合には、1回目の延伸と2回目の延伸の比率を変化させ、どちらか一方の延伸倍率が他方の延伸倍率よりも大きくなるように延伸することで光学異方性のフィルムを得ることができる。その際の幅手方向と長手方向との延伸倍率比は1.1〜2.0が好ましく、より好ましくは1.2〜1.5である。
複数回の延伸を行う際には、長手方向から延伸しても、幅手方向から延伸してもよいが、幅手方向の延伸工程を経たのちにはフィルムの搬送幅が大きくなり、搬送装置の大型化を招くため、長手方向の延伸の後に幅手方向の延伸を行うことが好ましい。
また、光学フィルムの最終延伸倍率は1.5〜4.0倍であることが好ましい。1.5倍未満では、得られるフィルムの平面性に劣ることがある。他方、4.0倍よりも大きく延伸することは、本発明のセルロースエステルを用いても困難であり、延伸工程中で破断が起きる可能性が高くなるため好ましくない。より好ましくは2.0〜3.0倍に延伸されたものである。
最初に、長手方向(MD)の延伸方法について説明する。
バレルから押出され、冷却ドラムに密着させられた後、冷却ドラムから剥離されたフィルムは、1つまたは複数のロール群及び/または赤外線ヒーター等の加熱装置を介して、再度加熱して長手方向に一段または多段MD延伸してもよい。
延伸する際は、本発明のフィルムのガラス転移温度をTgとすると(Tg−30)〜(Tg+100)℃、より好ましくは(Tg−20)〜(Tg+80)℃の範囲内で加熱して搬送方向(長手方向;MD)あるいは幅手方向(TD)に延伸することが好ましい。(Tg−20)〜(Tg+20)℃の温度範囲内で横延伸し次いで熱固定することが好ましい。また延伸工程の後、緩和処理を行うことも好ましい。
光学フィルムのTgは、フィルムを構成する材料種及び構成する材料の比率によって制御することができる。本発明の用途においてはフィルムの乾燥時のTgは110℃以上が好ましく、さらに120℃以上が好ましい。これは液晶表示装置に本発明の光学フィルムを用いた場合、該フィルムのTgが上記よりも低いと、使用環境の温度や湿度、バックライトの熱による影響によって、フィルム内部に固定された分子の配向状態に影響を与え、リターデーション値及びフィルムとしての寸法安定性や形状に大きな変化を与える可能性が高くなる。また、フィルムの形状を保持できなくなることがある。逆にフィルムのTgが高過ぎると、フィルム構成材料の分解温度に近づくため製造しにくくなり、フィルム化するときに用いる材料自身の分解によって揮発成分の存在や着色を呈することがある。従ってガラス転移温度は180℃以下、より好ましくは150℃以下であることが好ましい。このとき、フィルムのTgはJIS K7121に記載の方法等によって求めることができる。
次に、幅手方向(TD)の延伸方法について説明する。
TD延伸する場合、2つ以上に分割された延伸領域で温度差を1〜50℃の範囲で順次昇温しながら横延伸すると幅方向の物性の分布が低減でき好ましい。さらに横延伸後、フィルムをその最終TD延伸温度以下でTg−40℃以上の範囲に0.01〜5分間保持すると幅方向の物性の分布がさらに低減でき好ましい。
熱固定は、その最終TD延伸温度より高温で、Tg−20℃以下の温度範囲内で通常0.5〜300秒間熱固定する。この際、2つ以上に分割された領域で温度差が1〜100℃となる範囲で順次昇温しながら熱固定することが好ましい。
熱固定されたフィルムは通常Tg以下まで冷却され、フィルム両端のクリップ把持部分をカットし巻き取られる。この際、最終熱固定温度以下、Tg以上の温度範囲内で、横方向及び/または縦方向に0.1〜10%弛緩処理することが好ましい。また冷却は、最終熱固定温度からTgまでを、毎秒100℃以下の冷却速度で徐冷することが好ましい。冷却、弛緩処理する手段は特に限定はなく、従来公知の手段で行えるが、特に複数の温度領域で順次冷却しながらこれらの処理を行うことがフィルムの寸法安定性向上の点で好ましい。なお、冷却速度は、最終熱固定温度をT1、フィルムが最終熱固定温度からTgに達するまでの時間をtとした時、(T1−Tg)/tで求めた値である。
これら熱固定条件、冷却、弛緩処理条件のより最適な条件は、フィルムを構成するセルロースエステルや可塑剤等の添加剤種により異なるので、得られた二軸延伸フィルムの物性を測定し、好ましい特性を有するように適宜調整することにより決定すればよい。
本発明に係る光学フィルムの面内リターデーション値(Ro)及び厚さ方向のリターデーション値(Rth)は、偏光板保護フィルムとして用いる場合には0≦Ro、Rth≦70nmであることが好ましい。より好ましくは0≦Ro≦20nmかつ0≦Rth≦50nmであリ、より好ましくは0≦Ro≦10nmかつ0≦Rth≦30nmである。位相差フィルムとして用いる場合には、30≦Ro≦100nmかつ70≦Rth≦400nmであリ、より好ましくは35≦Ro≦65nmかつ90≦Rth≦180nmである。また、Rthの変動や分布の幅は±10%未満であることが好ましく、より好ましくは±5%未満である。さらに好ましくは±1%未満であることが好ましく、最も好ましくはRthの変動がないことである。
なおリターデーション値Ro、Rthは以下の式によって求めることができる。
Ro=(nx−ny)×d
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d
ここにおいて、dはフィルムの厚み(nm)、屈折率nx(フィルムの面内の最大の屈折率、遅相軸方向の屈折率ともいう)、ny(フィルム面内で遅相軸に直角な方向の屈折率)、nz(厚み方向におけるフィルムの屈折率)である。
なお、リターデーション値(Ro)、(Rth)は自動複屈折率計を用いて測定することができる。例えば、KOBRA−21ADH(王子計測機器(株))を用いて、23℃、55%RHの環境下で、波長590nmで求めることができる。
また、遅相軸はフィルムの幅手方向±1°もしくは長手方向±1°にあることが好ましい。より好ましくは幅手方向または長手方向に対してに±0.7°、さらに好ましくは幅手方向または長手方向に対して±0.5°である。このような範囲とすることで、得られる液晶ディスプレイのコントラストを高めることができる。
本発明の光学フィルムは製膜工程で実質的に溶媒を使用することがないため、製膜後巻き取られた光学フィルムに含まれる残留有機溶媒量は安定して0.1質量%未満であり、これによって従来以上に安定した平面性とRthを持つ光学フィルムを提供することが可能である。特に100m以上の長尺の巻物においても安定した平面性とRthを持つ光学フィルムを提供することが可能となる。該光学フィルムは巻きの長さについては特に制限はなく、1500m、2500m、5000mであっても好ましく用いられる。
溶液流延法で作製された光学フィルムの残留有機溶媒量を0.1質量%以下とすることは困難であり、そのためには長い乾燥工程が必要であるが、この方法によれば安いコストで極めて低い残留有機溶媒含有量の光学フィルムを得ることができ、光学フィルムとして優れた特性を持つセルロースエステルフィルムを得ることができる。
また、製膜工程において、カットされたフィルム両端のクリップ把持部分は、粉砕処理された後、あるいは必要に応じて造粒処理を行った後、同じ品種のフィルム用原料としてまたは異なる品種のフィルム用原料として再利用してもよい。
(機能性層)
本発明の光学フィルム製造に際し、延伸の前及び/または後で帯電防止層、ハードコート層、反射防止層、易滑性層、易接着層、防眩層、バリアー層、光学補償層等の機能性層を塗設してもよい。特に、帯電防止層、ハードコート層、反射防止層、易接着層、防眩層及び光学補償層から選ばれる少なくとも1層を設けることが好ましい。この際、コロナ放電処理、プラズマ処理、薬液処理等の各種表面処理を必要に応じて施すことができる。
また、前述の可塑剤、紫外線吸収剤、マット剤等の添加物濃度が異なるセルロース樹脂を含む組成物を共押出しして、積層構造のセルロースエステルフィルムを作製することもできる。例えば、スキン層/コア層/スキン層といった構成のセルロースエステルフィルムを作ることができる。例えば、マット剤は、スキン層に多く、またはスキン層のみに入れることができる。可塑剤、紫外線吸収剤はスキン層よりもコア層に多く入れることができ、コア層のみに入れてもよい。また、コア層とスキン層で可塑剤、紫外線吸収剤の種類を変更することもでき、例えば、スキン層に低揮発性の可塑剤及び/または紫外線吸収剤を含ませ、コア層に可塑性に優れた可塑剤、あるいは紫外線吸収性に優れた紫外線吸収剤を添加することもできる。スキン層とコア層のTgが異なっていてもよく、スキン層のTgよりコア層のTgが低いことが好ましい。また、溶融流延時のセルロースエステルを含む溶融物の粘度もスキン層とコア層で異なっていてもよく、スキン層の粘度>コア層の粘度でも、コア層の粘度≧スキン層の粘度でもよい。
〔偏光板〕
本発明の光学フィルムを用いた偏光板の作製方法は特に限定されず、一般的な方法で作製することができる。得られた光学フィルムをアルカリ処理し、ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の少なくとも一方の面に完全鹸化ポリビニルアルコール水溶液を用いて本発明の光学フィルムを貼合する。偏光子の両面に本発明の光学フィルムを偏光板保護フィルムとして貼り合わせてもよい。
なお、従来の偏光板保護フィルムとしては、コニカミノルタタックKC8UX、KC4UX、KC5UX、KC8UY、KC4UY、KC8UCR−3、KC8UCR−4、KC12UR、KC8UXW−H、KC8UYW−HA、KC8UX−RHA(コニカミノルタオプト(株)製)等のセルロースエステルフィルムが用いることができる。
また、上記アルカリ処理の代わりに特開平6−94915号、同6−118232号に記載されているような易接着加工を施して偏光板加工を行ってもよい。
偏光板は偏光子及びその両面を保護する保護フィルムで構成されており、さらに該偏光板の一方の面にプロテクトフィルムを、反対面にセパレートフィルムを貼合して構成することができる。プロテクトフィルム及びセパレートフィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。この場合、プロテクトフィルムは、偏光板の表面を保護する目的で貼合され、偏光板を液晶板へ貼合する面の反対面側に用いられる。また、セパレートフィルムは液晶板へ貼合する接着層をカバーする目的で用いられ、偏光板を液晶セルへ貼合する面側に用いられる。
〔液晶表示装置〕
液晶表示装置には通常2枚の偏光板の間に液晶を含む基板が配置されているが、本発明の光学フィルムを適用した偏光板保護フィルムは平面性・リターデーションの均一性が高いため、どの部位に配置しても優れた表示性が得られる。液晶表示装置の表示側最表面の偏光板保護フィルムには、クリアハードコート層、防眩層、反射防止層等が設けられた偏光板保護フィルムをこの部分に用いることが好ましい。また光学補償層を設けた偏光板保護フィルムや、延伸操作等によりそれ自身に適切な光学補償能を付与した偏光板保護フィルムの場合には、液晶セルと接する部位に配置することで、優れた表示性が得られる。特にマルチドメイン型の液晶表示装置、より好ましくは複屈折モードによってマルチドメイン型の液晶表示装置に使用することが本発明の効果をより発揮することができる。
マルチドメイン化とは、1画素を構成する液晶セルをさらに複数に分割する方式であり、視野角依存性の改善・画像表示の対称性の向上にも適しており、種々の方式が報告されている「置田、山内:液晶,6(3),303(2002)」。該液晶表示セルは、「山田、山原:液晶,7(2),184(2003)」にも示されており、これらに限定される訳ではない。
表示セルの表示品質は、人の観察において左右対称であることが好ましい。従って、表示セルが液晶表示セルである場合、実質的に観察側の対称性を優先してドメインをマルチ化することができる。ドメインの分割は、公知の方法を採用することができ、2分割法、より好ましくは4分割法によって、公知の液晶モードの性質を考慮して決定できる。
本発明の偏光板は垂直配向モードに代表されるMVA(Multi−domein Vertical Alignment)モード、特に4分割されたMVAモード、電極配置によってマルチドメイン化された公知のPVA(Patterned Vertical Alignment)モード、電極配置とカイラル能を融合したCPA(Continuous Pinwheel Alignment)モードに効果的に用いることができる。また、OCB(Optical Compensated Bend)モードへの適合においても光学的に二軸性を有するフィルムの提案が開示されており「T.Miyashita,T.Uchida:J.SID,3(1),29(1995)」、本発明の偏光板によって表示品質において、本発明の効果を発現することもできる。本発明の偏光板を用いることによって本発明の効果が発現できれば、液晶モード、偏光板の配置は限定されるものではない。
該液晶表示装置はカラー化及び動画表示用の装置としても高性能であるため、本発明の光学フィルムを用いた液晶表示装置、特に大型の液晶表示装置の表示品質は、疲れにくく忠実な動画像表示が可能となる。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例
《セルロースエステル樹脂P1の合成》
セルロース(日本製紙(株)製溶解パルプ)30gに酢酸60kg、プロピオン酸20kgを加え、54℃で30分撹拌した。混合物を冷却した後、氷浴中で冷却した無水酢酸50kg、無水プロピオン酸50kg、硫酸1.2gを加えてエステル化を行った。エステル化において、40℃を超えないように調節しながら、撹拌を150分行った。反応終了後、酢酸30gと水10gの混合液を20分かけて滴下して過剰の無水物を加水分解した。反応液の温度を40℃に保持しながら、酢酸90gと水30gを加えて1時間撹拌した。酢酸マグネシウム2gを含有した水溶液中に混合物をあけてしばらく撹拌した後にろ過、乾燥し、セルロースアセテートプロピオネート(アセチル基置換度1.93、プロピオニル基置換度0.71、アシル基総置換度2.64、アシル基総炭素数5.99、数平均分子量Mn=79124、重量平均分子量Mw=211307、Mw/Mn=2.67)を得た。このセルロースアセテートプロピオネートをセルロースエステル樹脂P1とする。
《セルロースエステル樹脂P2の合成》
セルロース(日本製紙(株)製溶解パルプ)30kgにプロピオン酸80kgを加え、54℃で150分撹拌した。混合物を冷却した後、氷浴中で冷却した無水プロピオン酸100kg、硫酸1.2gを加えてエステル化を行った。エステル化において、40℃を超えないように調節しながら、撹拌を150分行った。反応終了後、プロピオン酸30kgと水10kgの混合液を60分かけて滴下して過剰の無水物を加水分解した。反応液の温度を40℃に保持しながら、プロピオン酸90kgと水30kgを加えて1時間撹拌した。酢酸マグネシウム2kgを含有する水溶液中に混合物をあけてしばらく撹拌した後に、ろ過、乾燥し、セルロースジプロピオネート(アセチル基置換度0、プロピオニル基置換度2.50、アシル基総置換度2.50、アシル基総炭素数7.50、数平均分子量Mn=73052、重量平均分子量Mw=234478、Mw/Mn=3.21)を得た。このセルロースアセテートプロピオネートをセルロースエステル樹脂P2とする。
《セルロースエステル樹脂P3の合成》
セルロース(日本製紙(株)製溶解パルプ)30kgに酢酸0kg、プロピオン酸90kgを加え、54℃で150分撹拌した。混合物を冷却した後、氷浴中で冷却した無水酢酸4kg、無水プロピオン酸125kg、硫酸1.2kgを加えてエステル化を行った。エステル化において、40℃を超えないように調節しながら、撹拌を150分行った。反応終了後、酢酸30kgと水10kgの混合液を60分かけて滴下して過剰の無水物を加水分解した。反応液の温度を40℃に保持しながら、酢酸90kgと水30kgを加えて1時間撹拌した。酢酸マグネシウム2gを含有する水溶液中に混合物をあけてしばらく撹拌した後に、ろ過、乾燥し、セルロースアセテートプロピオネート(アセチル基置換度0.08、プロピオニル基置換度2.76、アシル基総置換度2.84、アシル基総炭素数8.44、数平均分子量Mn=79076、重量平均分子量Mw=290652、Mw/Mn=3.68)を得た。このセルロースアセテートプロピオネートをセルロースエステル樹脂P3とする。
各置換度は、ASTM−D817−96に規定の方法により求めた。
また、数平均分子量、重量平均分子量は、高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した。測定条件は以下の通りである。
溶媒: メチレンクロライド
カラム: Shodex K806、K805、K803(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度: 0.1質量%
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0ml/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1000000〜500迄の13サンプルによる校正曲線を使用した。
セルロースエステルP1〜P3のアセチル基置換度(DSAc)、プロピオニル基置換度(DSPr)、アシル基総置換度(DS)、アシル基総炭素数(2×DSAc+3×DSPr)、Mn、Mw、Mw/Mnを表1に示す。
《セルロースエステル樹脂の調製》
セルロースエステル樹脂P1〜P3を下記表2の構成で混合し、実施例に使用するセルロースエステル樹脂Pa〜Pdを調製した。セルロースエステル樹脂Pa〜Pdのアセチル基置換度(DSAc)、プロピオニル基置換度(DSPr)、アシル基総置換度(DS)、アシル基総炭素数(2×DSAc+3×DSPr)、Mn、Mw、Mw/Mnを表2に示す。
《粒状樹脂Pa〜Pdの乾燥》
粒状樹脂Pa〜Pdは下記表3の条件で予備乾燥及び本乾燥した。本乾燥後の含水率を、カールフィッシャー水分量測定装置(ダイアインスツルメンツ社製:CA−06、VA−06)を用い電量滴定法にて求めた。その結果を表3に示す。なお、表3のDPとは乾燥雰囲気の露点(Dew Point)である。
《錠剤aの作製》
セルロースエステル樹脂Paをジェットミル粉砕機(セイシン企業社製)にて、ノズル圧0.7MPa、風量1.1m3/min、処理量5000g/hrの条件で3Pass行い、粉砕し微粒子を得た。得られた微粒子の粒径を測定したところ、体積粒径が3〜300μmの粒子が得られた。得られた粉砕粒子をふるい振とう機にかけ分級を行った。ふるいは、φ600のものを用い、受器、440メッシュ(32μm)、140メッシュ(106μm)、50メッシュ(300μm)、16メッシュ(1.00mm)、蓋の順に重ね、粉砕粒子を16メッシュふるい上に投入し、蓋をしてふるい振とう機に30〜60分かけた。得られた分級後の微粒子をフロー式粒子像分析装置FPIA−2000(東亜医用電子社製)で測定したところ3.0〜30μmの範囲が80体積%より大となる比較的粒径分布の揃った微粉末が得られた。分級によりカットされた440〜50メッシュ(30〜300μm)の大径成分は、再度、ジェットミル粉砕機に戻し、同様の粉砕、分級処理を行った。50〜16メッシュ(300μm以上)の粗大成分は使用しない。この微粒子を粒Paとする。
粒Pa(セルロースエステル樹脂) 92質量部
K1(可塑剤、トリメチロールプロパントリベンゾエート) 8質量部
AO1(酸化防止剤の混合物、Irganox1010(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.5質量部、GSY−P(坂井化学社製)0.25質量部、IrganoxHP−136(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.25質量部)
1質量部
UV1(紫外線吸収剤LA−31(旭電化工業社製)) 1.2質量部
M1(アエロジルNAX50(日本アエロジル社製)) 0.3質量部
上記組成物をタンブラーミキサーにて攪拌し、混合した。混合時、DP−30℃以下になるよう管理した。得られた混合物を卓上型ロータリー式打錠機ピッコラ(株式会社エステック社製)を用いて、下記条件で錠剤を作製した。
錠剤型:10mm
試料充填量:1.0〜1.2g
設定打錠圧力:10kN
フィーダ:ロータリーフィーダ
処理量:10000錠/hr
上記条件により、直径10mm、高さ10mmの錠剤aを作製した。
《錠剤b〜dの作製》
錠剤aの作製において、セルロースエステル樹脂、可塑剤、酸化防止剤、UV吸収剤、マット剤を表7記載の組成に変更する以外は同様にして、錠剤b〜dを作製した。
《錠剤ぺaの作製》
セルロースエステル樹脂Pa(セルロースエステル樹脂) 92質量部
K1(可塑剤、トリメチロールプロパントリベンゾエート) 8質量部
AO1(酸化防止剤の混合物、Irganox1010(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.5質量部、GSY−P(坂井化学社製)0.25質量部、IrganoxHP−136(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.25質量部)
1質量部
UV1 1.2質量部
M3(アエロジルNAX50(日本アエロジル社製)10質量部、KE−P100(日本触媒社製)1質量部)
0.22質量部
上記組成物をタンブラーミキサーにて攪拌し、混合した。混合時、DP−30℃以下になるよう管理した。得られた混合物を4mm×5穴のペレット成型用丸ダイを具備した2軸押出機PCM−30(池貝社製)を用いて下記表4のペレットaの条件でペレット化した。
得られたペレットをジェットミル粉砕機(セイシン企業社製)にて、ノズル圧0.7MPa、風量1.1m3/min、処理量5000g/hrの条件で3Pass行い、粉砕し微粒子を得た。得られた微粒子の粒径を測定したところ、体積粒径が1.5〜40μmの粒子が得られた。得られた粉砕粒子をふるい振とう機にかけ分級を行った。ふるいは、φ600のものを用い、受器、440メッシュ(32μm)、140メッシュ(106μm)、50メッシュ(300μm)、16メッシュ(1.00mm)、蓋の順に重ね、粉砕粒子を16メッシュふるい上に投入し、蓋をしてふるい振とう機に30〜60分かけた。得られた分級後の微粒子をフロー式粒子像分析装置FPIA−2000(東亜医用電子社製)で測定したところ3.0〜30μmの範囲が80体積%より大となる比較的粒径分布の揃った微粉末が得られた。分級によりカットされた440〜50メッシュ(30〜300μm)の大径成分は、再度、ジェットミル粉砕機に戻し、同様の粉砕、分級処理を行った。50〜16メッシュ(300μm以上)の粗大成分は使用しない。この微粒子を粒ペaとする。
得られた粒ペaを卓上型ロータリー式打錠機ピッコラ(株式会社エステック社製)を用いて、下記条件で錠剤を作製した。
錠剤型:10mm
試料充填量:1.0〜1.2g
設定打錠圧力:10kN
フィーダ:ロータリーフィーダ
処理量:10000錠/hr
上記条件により、直径10mm、高さ10mmの錠剤ペaを作製した。
《錠剤ペb〜dの作製》
錠剤ペaの作製において、表4及び表5記載のペレット化条件及び組成に変更する以外は同様にして、錠剤ペb〜dを作製した。
《錠剤ペeの作製》
錠剤bを表8記載の条件にて乾燥を実施した。乾燥後の錠剤bを2軸式押出し機PCM−30(池貝社製)を用いて下記表4のペレットeの条件でペレット化した。ペレットeをジェットミル粉砕機(セイシン企業社製)にて、ノズル圧0.7MPa、風量1.1m3/min、処理量5000g/hrの条件で3Pass行い、粉砕し微粒子を得た。得られた微粒子の粒径を測定したところ、体積粒径が3〜300μmの粒子が得られた。得られた粉砕粒子を乾式気流分級機ファルマ・エアーセパレーターPAS−1(セイシン企業社製)にて、分級風量0.25m3/min、処理量500g/hrにて分級(3.0〜30μmの範囲の粒子を分別して得る)を行った。得られた分級後の微粒子をフロー式粒子像分析装置FPIA−2000(東亜医用電子社製)で測定したところ3.0〜30μmの範囲が80体積%より大となる比較的粒径分布の揃った微粉末が得られた。分級によりカットされた30〜300μmの大径成分は、再度、ジェットミル粉砕機に戻し、同様の粉砕、分級処理を行った。300μm以上の粗大成分は使用しない。この微粒子を粒ペeとする。
粒ペe 100質量部に対し、M4(R972V(日本アエロジル社製))0.5質量部を添加混合した後、卓上型ロータリー式打錠機ピッコラ(株式会社エステック社製)を用いて、下記条件で錠剤を作製した。
錠剤型:10mm
試料充填量:1.0〜1.2g
設定打錠圧力:10kN
フィーダ:ロータリーフィーダ
処理量:10000錠/hr
上記条件により、直径10mm、高さ10mmの錠剤ペeを作製した。
《錠剤ペfの作製》
錠剤ペeの作製において、表4記載のペレット化条件に変更する以外は同様にして、錠剤ペfを作製した。
なお、錠剤dはペレット化する前に、表8記載の条件にて乾燥を実施した。
《錠剤ペb2の作製》
粒ペb 100質量部に対し、M4(R972V(日本アエロジル社製)) 0.5質量部、V1(1−ドデカノール) 2質量部を添加混合した後、卓上型ロータリー式打錠機ピッコラ(株式会社エステック社製)を用いて、下記条件で錠剤を作製した。
錠剤型:10mm
試料充填量:1.0〜1.2g
設定打錠圧力:10kN
フィーダ:ロータリーフィーダ
処理量:10000錠/hr
上記条件により、直径10mm、高さ10mmの錠剤ペb2を作製した。
《錠剤の乾燥》
錠剤は下記表8の条件で乾燥した。乾燥後の含水率を、カールフィッシャー水分量測定装置(ダイアインスツルメンツ社製:CA−06、VA−06)を用い電量滴定法にて水分量を測定し、含水率を求めた。その結果を表8に示す。なお、表8のDPとは乾燥雰囲気の露点(Dew Point)である。
《光学フィルム1の作製》
乾燥した錠剤aを、単軸押出機GT−50(プラスチック工学研究所社製、スクリュー口径50mmφ、L/D=26)を用いて下記表9の条件で光学フィルム1を作製した。
《光学フィルム2〜11の作製》
光学フィルム1の作製において、表9記載の錠剤及び製造条件に変更する以外は同様にして、光学フィルム2〜11を作製した。
《光学フィルム12の作製》
光学フィルム1の作製において、錠剤aをペレットbに変更する以外は同様にして、光学フィルム12を作製した。
ペレットbは、セルロースエステル樹脂の段階でも粉砕し、分級されていない。なお、ペレットbの乾燥は、錠剤bと同様の条件にて実施した。
《光学フィルム13の作製》
光学フィルム1の作製において、錠剤aを下記粉砕−分級範囲外ペレットbに変更し、表9記載の製造条件に変更する以外は同様にして光学フィルム13を作製した。なお、粉砕−分級範囲外ペレットbの乾燥は、錠剤bと同様の条件にて実施した。
(粉砕−分級範囲外ペレットbの作製)
セルロースエステル樹脂Pb(セルロースエステル樹脂) 92質量部
K1(可塑剤、トリメチロールプロパントリベンゾエート) 8質量部
AO1(酸化防止剤の混合物、Irganox1010(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.5質量部、GSY−P(坂井化学社製)0.25質量部、IrganoxHP−136(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.25質量部)
1質量部
UV2(紫外線吸収剤Tinuvin928、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製) 1.5質量部
M2(KE−P100(日本触媒社製)) 0.03質量部
上記組成物をタンブラーミキサーにて攪拌し、混合した。混合時、DP−30℃以下になるよう管理した。得られた混合物を2軸式押出し機PCM−30(池貝社製)を用いて前記表4の粒子4の条件でペレット化した。このペレットを粉砕−分級範囲外ペレットbとする。このペレットは、セルロースエステル樹脂の段階で粉砕し、分級比測定のため分級したが、分級により得られた30μmを超える大径成分及び3μm未満の小径成分を除去せずに全量ペレット化に用いた。なお、30−106μmの大径成分は23体積%、106−300μmの大径成分は7.5体積%であった。
《光学フィルムの評価》
作製した光学フィルムについて以下の評価を行った。
(ヘイズ)
日本電色工業のNDH2000を用いて、JIS K7136に従い測定した。1枚値の測定である。
(YI)
イエローインデックス値(YI)は、JIS K7105−1981(6.3)記載の方法に従って、分光光度計U−3310(株式会社日立ハイテクノロジーズ社製)を用い、C光源下、可視光(380〜780nm)に対するフィルムの透過率を測定し、
YI=100(1.28X−1.06Z)/Y
なる式に基づき算出した。ここで、X、Y、Zは国際CIE規格に定められる光の3刺激値である。
(異物)
光学フィルムの10-2mm当たりの直径30μm以上の異物数を目視で数えた。
(弾性率)
23℃、55%RH下で24時間保管した試料をMD方向及びTD方向についてJIS K7127に記載の方法に従って測定した。この時の試験片の形状は1号形試験片で、試験速度は100mm/分で行った。弾性率は1.5〜5GPaの範囲が好ましく、より好ましくは2.0〜3.5GPaの範囲である。この値よりも低いとき、光学フィルム用途としてフィルムの強度が不足し、変形することがある。また、この値の範囲である場合、フィルムの脆さも問題なく、偏光板に加工するときの歩留まりも向上し、好ましい。
(分子量保持率)
溶融押出し機に供給する前のセルロースエステル樹脂の重量平均分子量Mw0と、溶融押出しした後のセルロースエステル樹脂の重量平均分子量Mw1をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、Mw1/Mw0×100(%)を分子量保持率と定義した。100%に近い程、熱劣化が小さく優れている。
以上の評価の結果を表10に示す。
本発明の光学フィルムは比較例のフィルムに比べ、ヘイズ、イエローインデックス値(YI)に優れ、異物が少なく、製造時のセルロースエステル樹脂の熱劣化が小さいことが分かる。また、体積粒径が3〜30μmの範囲の成分を使用した光学フィルムは、特にヘイズに優れていることが分かる。
作製した光学フィルムは、両端をスリット加工した後巻き取られる。スリットした端部(返材)は、溶融製膜時の熱によってセルロース樹脂や添加剤の一部が分解していることがあり、その場合は再利用せずに廃棄することが好ましく、原料の一部として返材を使用しないことになる。しかしながら、セルロース樹脂の分解や添加剤の分解が少ない返材は、原料の一部として再利用することができる。溶融物に含まれている再利用される返材の比は、1〜50%程度が好ましい。スリットしたフィルム端部を1〜30mmに細かく断裁した後、溶融組成物の調製に用いることが好ましい。必要に応じて再度乾燥させた後に原料の一部として再利用される。断裁物をさらにペレット化したものを溶融組成物の調製に用いてもよい。また、断裁物を溶媒等で添加剤またはその分解物を洗浄、除去したセルロース樹脂を原料の一部として再利用することも好ましい。また、これらは再溶融されるまでに吸湿しないように保持することが好ましい。そのため、スリット部からフィルム端部の搬送工程、断裁工程、保管工程等が低湿度条件もしくは水を含まない雰囲気下で行うことが好ましく、乾燥空気下で行うことが好ましい。また、さらに酸素濃度も低いことが好ましく、酸素濃度10%以下、好ましくは5%以下、さらに好ましくは1%以下、特に好ましくは0.1%以下であり、例えば乾燥窒素雰囲気下で行うことが好ましい。溶融押出し工程からスリッティング工程までの区間は低湿度条件下で行われることが好ましく、もしくは水を含まない雰囲気下で行うことが好ましい。また、酸素濃度も低いことが好ましい。特に溶融押出し部の雰囲気は低湿度かつ低酸素濃度条件に維持されていることが好ましい。
以上の観点から下記光学フィルムを作製し、返材率とフィルム物性の関係を検討した。
《光学フィルム14〜16の作製》
光学フィルム6の作製において、スリットした端部(返材)を原料の一部として返材率20、50、60%で再利用して、それぞれ光学フィルム14、15、16を作製した。
光学フィルム14〜16について、上記と同様にしてヘイズ、イエローインデックス値(YI)及び弾性率を測定した。その結果を表11に示す。
さらに、光学フィルム1〜16について表12の条件で延伸し、それぞれ延伸フィルム1〜16を作製した。延伸フィルム1〜16について、膜厚、ヘイズ及び弾性率を測定し、弾性保持率を算出した。その結果を表12に示す。
返材率を上げると、イエローインデックス値(YI)が上昇し、弾性率が低下するが、返材率は50%までは可能を示唆している。
また、延伸フィルムを用いて下記のようにして偏光板を作製した。
《偏光板の作製》
厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムを、一軸延伸(温度110℃、延伸倍率5倍)した。これをヨウ素0.075g、ヨウ化カリウム5g、水100gの比率からなる水溶液に60秒間浸漬し、次いでヨウ化カリウム6g、ホウ酸7.5g、水100gの比率からなる68℃の水溶液に浸漬した。これを水洗、乾燥し偏光子を得た。
次いで、下記工程1〜5に従って偏光子と上記作製した光学フィルム1〜16を各々両面に用いて偏光板1〜16を作製した。
工程1:60℃の2モル/Lの水酸化ナトリウム溶液に90秒間浸漬し、次いで水洗し乾燥して、偏光子と貼合する側を鹸化した前記光学フィルムを得た。
工程2:前記偏光子を固形分2質量%のポリビニルアルコール接着剤槽中に1〜2秒浸漬した。
工程3:工程2で偏光子に付着した過剰の接着剤を軽く拭き除き、これを工程1で処理した各々の光学フィルムの上にのせて積層した。
工程4:工程3で積層した光学フィルムと偏光子を圧力20〜30N/cm2、搬送スピードは約2m/分で貼合した。
工程5:80℃の乾燥機中に工程4で作製した光学フィルムと偏光子とを貼り合わせた試料を2分間乾燥し、偏光板を作製した。
《偏光板の評価》
作製した偏光板について下記の方法で、偏光板の白抜け評価を行った。
(白抜け)
500mm×500mmの偏光板試料2枚を熱処理(条件:90℃で100時間放置する)し、直行状態にしたときの縦または横の中心線部分のどちらか大きい方の縁の白抜け部分の長さを測定して辺の長さ(500mm)に対する比率(%)を算出した。縁の白抜けとは直行状態で光を通さない偏光板の縁の部分が光を通す状態になることで、目視で判定できる。偏光板の状態では縁の部分の表示が見えなくなる故障となる。
評価の結果を表13に示す。
比較例の偏光板に数%の白抜けが見られたのに対し、本発明の偏光板は白抜けが全く見られなかった。
また、作製した偏光板を用いて下記のようにして液晶表示装置を作製した。
《液晶表示装置の作製》
富士通製15型液晶ディスプレイVL−1530Sにおいて、該液晶テレビに予め貼合されていた偏光板を剥がし、MVAモード型液晶セルに上記作製した偏光板1〜13をそれぞれ液晶セルのガラス面に貼合した。
その際、液晶セルを挟むようにして、前記作製した各々の偏光板2枚を偏光板の偏光軸がもとと変わらないように互いに直交するように貼り付け液晶表示装置1〜13を作製した。
液晶表示装置の特性を評価したところ、比較例の光学フィルム12、13を用いた液晶表示装置に対して、本発明の光学フィルム1〜11を用いた液晶表示装置は、コントラストも高く、優れた表示性を示した。これにより、本発明の光学フィルムは液晶ディスプレイ等の画像表示装置用の偏光板として有用であり、液晶表示装置としても優れた視認性を提供できることが確認された。