JP2008135503A - 磁気抵抗素子 - Google Patents
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Abstract
【課題】優れた平滑性を有する磁化自由層を備えたトップピン型の磁気抵抗素子を提供すること。
【解決手段】本発明によれば、トップピン型の磁気抵抗素子30が提供される。その磁気抵抗素子30は、下地層32と、下地層32上に形成された磁化自由層33と、磁化自由層33上に非磁性層34を介して形成された磁化固定層35とを備える。下地層32は、結晶性の金属材料で形成される。下地層32の結晶は、複数種類の結晶配向成分を有する。その複数種類の結晶配向成分のうち2種類以上が、磁化自由層33に接触する。
【選択図】図10
【解決手段】本発明によれば、トップピン型の磁気抵抗素子30が提供される。その磁気抵抗素子30は、下地層32と、下地層32上に形成された磁化自由層33と、磁化自由層33上に非磁性層34を介して形成された磁化固定層35とを備える。下地層32は、結晶性の金属材料で形成される。下地層32の結晶は、複数種類の結晶配向成分を有する。その複数種類の結晶配向成分のうち2種類以上が、磁化自由層33に接触する。
【選択図】図10
Description
本発明は、磁気抵抗素子に関する。特に、本発明は、トップピン型の磁気抵抗素子に関する。
不揮発性半導体メモリの一種として、磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM: Magnetic Random Access Memory)が知られている。MRAMは、高集積、高速動作、低消費電力の観点から有望な不揮発性半導体メモリである。
MRAMにおいては、磁気抵抗効果を示す「磁気抵抗素子」が、メモリセル(記憶素子)として利用される。一般的に、磁気抵抗素子は、トンネル磁気抵抗(TMR: Tunnel MagnetoResistance)効果を示す磁気トンネル接合(MTJ: Magnetic Tunnel Junction)から構成される。具体的には、磁気抵抗素子は、反強磁性層、磁化固定層(ピン層)、トンネル絶縁層(トンネルバリア層)、磁化自由層(フリー層)からなる積層構造を有している。トンネル絶縁層は、磁化固定層と磁化自由層の間に挟まれている。
磁化固定層と磁化自由層は、磁性体を含む。磁化固定層の磁化の向きは、隣接する反強磁性層によって一方向に固定される。一方、磁化自由層の磁化の向きは、反転可能であり、磁化固定層の磁化に対して平行、反平行のいずれかになることが許される。つまり、磁気抵抗素子においては、磁化自由層と磁化固定層の磁化の向きが互いに反平行な状態(反平行状態)と、それらが平行な状態(平行状態)が考えられる。そして、反平行状態でのMTJの抵抗値(R+ΔR)は、磁気抵抗効果により、平行状態での抵抗値(R)よりも大きくなることが知られている。磁気抵抗素子は、この抵抗値の変化を利用することによってデータを不揮発的に記憶することができる。例えば、反平行状態がデータ「1」に対応付けられ、平行状態がデータ「0」に対応付けられる。
データの書き換えは、磁化自由層の磁化の向きを反転させることによって行なわれる。データの読み出しは、MTJを貫通して流れるトンネル電流の大きさに基づいて検出される。例えば、データ「1」(反平行状態)の場合、MTJの抵抗値は比較的大きく、トンネル電流は比較的小さくなる。一方、データ「0」(平行状態)の場合、MTJの抵抗値は比較的小さく、トンネル電流は比較的大きくなる。よって、トンネル電流を所定の閾値と比較することによって、データが「1」か「0」かを判定することが可能である。抵抗値の変化量で決まるMR比(ΔR/R)が大きいほど、読み出し特性は良好となる。
このような磁気抵抗素子の積層構造として、「ボトムピン型」と「トップピン型」の2種類が知られている。図1及び図2は、ボトムピン型及びトップピン型の磁気抵抗素子の積層構造をそれぞれ示している。図1に示されたボトムピン型の場合、半導体基板1側から、反強磁性層2、磁化固定層(ピン層)3、トンネル絶縁層4、及び磁化自由層5が順番に積層されている。一方、図2に示されたトップピン型の場合、半導体基板1側から、磁化自由層5、トンネル絶縁層4、磁化固定層(ピン層)3、及び反強磁性層2が順番に積層されている。
多くの場合、製造の容易性や素子特性などの観点から、図1で示されたボトムピン型が採用される。しかしながら、MRAM特性のうち重視するものによっては、図2で示されたトップピン型を採用することが好適な場合もある。例えば、磁化自由層をMTJ下部の配線の近くに、あるいは隣接して設計することが望ましい場合、トップピン型を採用することが好適である。
但し、トップピン型の磁気抵抗素子を製造する上で、注意を要する点もある。特に注意すべきは、磁化自由層5とトンネル絶縁層4との界面の平滑性(evenness)である。トップピン型の場合、図2で示されたように、磁化自由層5上にトンネル絶縁層4が形成される。磁化自由層5の表面の凹凸は、トンネル絶縁層4の膜厚の不均一の原因となる。トンネル絶縁層4の膜厚の不均一は、MR比(ΔR/R)の低下、MTJ抵抗値のばらつきの増大、リークパスの出現などを招く。従って、磁化自由層5の表面は、なるべく平滑であることが望ましい。
トップピン型の磁気抵抗素子に関連する従来技術として、次のものが知られている。
特許文献1に記載された磁気抵抗素子によれば、フリー層は、下電極層上に形成される。その下電極層の表面平均粗さ(Roughness Average)は、3nm以下である。また、その下部電極層の材料は、Ta、Zr、Ti、Hf、W、Mo、Y、V、Nb、Au、Ag、Pdからなる群から選択される。
特許文献2に記載された磁気抵抗素子によれば、フリー層は、下地層としてのTa膜上に形成される。そのTa膜の膜厚は5nmである。
特許文献3に記載された磁気抵抗素子によれば、フリー層は、下地層上に形成される。その下地層は、Ta層とRu層の積層構造を有する。このうち、Ta層が、フリー層と接触する。
特許文献4に記載された磁気抵抗素子によれば、フリー層は、下地層上に形成される。その下地層に関して、表面平均粗さ(Ra)は0.5nm以下であり、最大高さ(Rmax)は5nm以下であり、標準偏差粗さ(Rrms)は0.55nm以下である。また、その下地層の材料は、W、Ta、Rh、Ti、Cr、Mo、Zr、Hf、Pt、Pd、Au、Ag、Cuからなる群から選択される。
特許文献5に記載された磁気抵抗素子によれば、フリー層は、下地層上に形成される。その下地層に関して、表面平均粗さ(Ra)は1.0nm以下であり、最大高さ(Rmax)は10nm以下であり、標準偏差粗さ(Rrms)は1.2nm以下である。また、その下地層の材料は、W、Ta、Rh、Ti、Cr、Mo、Zr、Hf、Pt、Pd、Au、Ag、Cuからなる群から選択される。
本発明は、本願発明者によって得られた次の知見に基づいている。
MRAMの大容量化や高歩留まりの観点からは、磁気抵抗素子の磁化自由層表面の平均粗さ(Ra)は0.3nm以下であることが望ましい。その磁化自由層の材料としては、NiFe、またはNiFeを主成分として含む合金が用いられることが多い。これは、NiFeの組成を適切に調整することにより良好な軟磁気特性が得られるためである。
上述の従来技術によれば、磁化自由層が形成される下地層として、例えばTa膜が用いられている。この場合、磁化自由層としてのNiFe膜が、下地層としてのTa膜上に形成されることになる。しかしながらその場合、Ta膜表面の平均粗さを小さくしたとしても、NiFe膜表面の平均粗さは十分小さくならない。つまり、本願発明者は、Ta膜が下地層として用いられる場合、その上に成長するNiFe膜の表面は十分に平滑にならないことを発見した。その理由は、次の通りであると考えられる。
一般的に、Ta、W、Ti、Mo、Zr、Hfなどの4−6族元素は、膜厚が十分薄い領域においては「非晶質」となり、その表面エネルギーは高くなる。結果として、その上に成長する結晶に関しては、最稠密面(最低表面エネルギー面)配向の結晶成長が促進されやすくなる。NiFeの結晶は面心立方格子(fcc; face centered cubic)型であり、その最稠密面は(111)面である。よって、物理気相法などによりNiFeがTa膜上に成膜される際、その初期段階から、(111)面配向の結晶成長が促進されることになる。すなわち、単一の配向の結晶化が促進されてしまう。その結果、成膜されるNiFeの表面平均粗さが増大してしまう。W、Ti、Mo、Zr、Hfといった材料が下地層に用いられる場合でも、同じ結果となる。
本発明の目的は、トップピン型の磁気抵抗素子に含まれる磁化自由層に関して、単一配向の結晶成長を抑制することができる技術を提供することにある。
本発明の他の目的は、優れた平滑性を有する磁化自由層を備えたトップピン型の磁気抵抗素子を提供することにある。
以下に、[発明を実施するための最良の形態]で使用される番号・符号を用いて、[課題を解決するための手段]を説明する。これらの番号・符号は、[特許請求の範囲]の記載と[発明を実施するための最良の形態]との対応関係を明らかにするために括弧付きで付加されたものである。ただし、それらの番号・符号を、[特許請求の範囲]に記載されている発明の技術的範囲の解釈に用いてはならない。
本発明の第1の観点において、トップピン型の磁気抵抗素子(30)が提供される。その磁気抵抗素子(30)は、下地層(32)と、下地層(32)上に形成された磁化自由層(33)と、磁化自由層(33)上に非磁性層(34)を介して形成された磁化固定層(35)とを備える。下地層(32)は、結晶性の金属材料で形成される。下地層(32)の結晶は、複数種類の結晶配向成分を含む。本発明によれば、複数種類の結晶配向成分のうち2種類以上((001)、(101))が磁化自由層(33)に接触する。
本発明の第2の観点において、トップピン型の磁気抵抗素子(30)が提供される。その磁気抵抗素子(30)は、下地層(32)と、下地層(32)上に形成された磁化自由層(33)と、磁化自由層(33)上に非磁性層(34)を介して形成された磁化固定層(35)とを備える。下地層(32)は、結晶性の金属材料で形成される。本発明によれば、下地層(32)の厚さ(d)は、0.5nm以上10nm以下である。
本発明の第3の観点において、トップピン型の磁気抵抗素子(30)が提供される。その磁気抵抗素子(30)は、下地層(32)と、下地層(32)上に形成された磁化自由層(33)と、磁化自由層(33)上に非磁性層(34)を介して形成された磁化固定層(35)とを備える。下地層(32)は、結晶性の金属材料で形成される。下地層(32)の結晶は、複数種類の結晶配向成分を有する。その複数種類の結晶配向成分は、上記結晶中で最も大きい第1体積を有する第1結晶配向成分(001)と、上記結晶中で2番目に大きい第2体積を有する第2結晶配向成分(101)とを含む。本発明によれば、第1体積の第2体積に対する比は1より大きく3.8以下である。
本願発明者の実験によれば、上記構造を有する下地層(32)を用いることによって、磁化自由層(33)の単一配向の結晶成長が抑制されることが判明した。すなわち、上記構造を有する下地層(32)上に磁化自由層(33)が成膜されると、その磁化自由層(33)の表面平均粗さ(Ra)が十分小さくなることが判明した。このように、本発明によれば、優れた平滑性を有する磁化自由層(33)が形成される。磁化自由層(33)と非磁性層(34)との界面が平滑であると、非磁性層(34)の膜厚が均一となる。その場合、読み出し特性に寄与するMR比が向上する。また、MTJ抵抗値のばらつきも抑制される。更に、微小リークパスの出現が防止され、抵抗不良素子の発生頻度が低減される。
本発明によれば、読み出し特性に寄与するMR比の高い磁気抵抗素子を提供することが可能となる。また、MTJ抵抗値のばらつきが小さい磁気抵抗素子を提供することが可能となる。更に、抵抗不良の発生頻度の低い磁気抵抗素子を提供することが可能となる。
添付図面を参照して、本発明の実施の形態に係る磁気抵抗素子を説明する。本実施の形態に係る磁気抵抗素子は、MRAMにおいてメモリセルとして使用されるトップピン型の磁気抵抗素子である。
1.原理
まず、本実施の形態に係る磁気抵抗素子に適用される原理を説明する。磁化自由層を形成するための「最適な下地層」を求めるために、本願発明者は、サンプルを用いて実験を行なった。
まず、本実施の形態に係る磁気抵抗素子に適用される原理を説明する。磁化自由層を形成するための「最適な下地層」を求めるために、本願発明者は、サンプルを用いて実験を行なった。
図3は、実験に用いられたサンプルの積層構造を示す側面図である。図3に示されるように、サンプルは、熱酸化シリコン基板10、Ru膜11、及びNiFe膜12からなる積層構造を有する。Ru膜11は、熱酸化シリコン基板10上に、スパッタリング法により成膜される。そのRu膜11の膜厚dは、様々な値に設計された。NiFe膜12は、Ru膜11上に、スパッタリング法により成膜される。そのNiFe膜12の膜厚は10nmである。この積層構造中、Ru膜11が「下地層」に相当し、NiFe膜12が「磁化自由層」に相当する。
図4は、様々な膜厚d(3nm、5nm、10nm、15nm)のRu膜11に関して得られたX線回折パターンを示すグラフである。このX線回折パターンは、例えば、Cu−Kα線を用いたX線回折実験(θ−2θ測定)によって得られる。図4において、横軸は、X線回折の位置2θを示している。図4から、膜厚dが小さいときは、「001反射」と「101反射」が同程度の強さで現れることがわかる。また、膜厚dが大きくなるにつれ、「001反射」の強度が優勢になることがわかる。このことは、Ru結晶成長の初期段階では結晶配向が3次元的にランダムであり、膜厚dの増加に伴い(001)結晶配向成分が占める割合が増加することを意味している。特に、膜厚dが10nmを超えると、(001)配向の結晶粒が占める割合が高くなる。
図5A及び図5Bは、図4で示された実験結果から推察されるRu結晶の成長の模様を示す模式図である。図5Aは、膜厚dが比較的小さい場合の結晶構造を示し、図5Bは、膜厚dが比較的大きい場合の結晶構造を示している。まず、膜厚dが小さい場合、図5Aに示されるように、(001)結晶配向成分の他に、(101)結晶配向成分もRu膜11の表面に露出している。従って、「001反射」と「101反射」が同程度の強さで現れる。一方、膜厚dが大きくなると、図5Bに示されるように、Ru膜11の表面に露出する(001)結晶配向成分の割合が増える。その結果、「001反射」の強度が優勢になる。
この傾向は、それぞれの結晶面の表面エネルギーに基づいて説明することが可能である。Ruの結晶面のうち、表面エネルギーが最低の結晶面は(001)結晶面であり、(001)結晶配向成分の成長速度が最も大きい。また、表面エネルギーが2番目に低い結晶面は(101)結晶面であり、(101)結晶配向成分の成長速度が2番目に大きい。古典的なPairwiseモデルによれば、(101)結晶面の表面エネルギーは、(001)結晶面の表面エネルギーの1.02倍であり、比較的小さい。このように表面エネルギーの差が僅かであるため、結晶成長の初期段階では、(001)結晶配向成分と(101)結晶配向成分とは、結晶中に混在することができる。Ru膜11の膜厚dがある程度の値を超えるまでは、(001)結晶配向成分の優位性は顕著にならない。これは、図4で示された実験結果と一致する。
また、(001)結晶配向成分と(101)結晶配向成分との体積比率を、図4で示された測定結果から見積もることができる。以下、「001反射」の強度は“I001”と参照され、「101反射」の強度は“I101”と参照される。また、結晶中の(001)結晶配向成分の体積は“V(001)”と参照され、(101)結晶配向成分の体積は“V(101)”と参照される。配向が3次元的にランダムである場合、強度比I001/I101は0.35である(参考:Powder Diffraction File: Joint Committee on Powder Diffraction Standards, 06-0663)。一方、図4から、膜厚dが5nmのときの強度比I001/I101は、0.8と算出される。同様に、膜厚dが10nm及び15nmのときの強度比I001/I101は、それぞれ1.3及び2.1と算出される。ここで、反射強度が結晶配向成分の体積に比例すると仮定する。この場合、膜厚dが5nm、10nm、及び15nmのそれぞれの場合に関して、体積比V(001)/V(101)は、それぞれ2.3、3.8、及び5.9と見積もられる。
このように様々な膜厚dを有するRu膜11上に、NiFe膜12が成膜される。
図6は、様々なサンプルに関して得られたX線回折パターンを示すグラフである。このX線回折パターンは、例えば、Cu−Kα線を用いたX線回折実験(θ−2θ測定)によって得られる。図6には、Ru膜11の膜厚dが3nm、5nm、10nm、15nmの場合に加えて、Ru膜11が無い場合(d=0)の測定結果も示されている。図6から、NiFe膜12に関する「111反射」は、下地層としてのRu膜11の膜厚dが大きくなるにつれて強くなることがわかる。この結果は、次のようにして解釈することができる。
まず、前提として、NiFeの(111)結晶配向成分は、Ruの(001)結晶配向成分上で良好にエピタキシャル成長することが知られている。よって、Ru膜11の表面に露出するRuの(001)結晶配向成分の割合が大きくなるにつれ、NiFeの(111)結晶配向成分のエピタキシャル成長は促進される。
図4及び図5Aに示されたように、膜厚dが比較的小さい間、(001)結晶配向成分の他に、(101)結晶配向成分もRu膜11の表面に露出している。よって、そのRu膜11は、NiFeの(111)結晶配向成分にとって良好なシードとはならない。そのRu膜11上に成長するNiFeに関して、(111)結晶配向成分のエピタキシャル成長はさほど促進されない。すなわち、単一配向のNiFe結晶成長が抑制され、NiFe膜12の表面平均粗さは小さくなる。
一方、図4及び図5Bに示されたように、膜厚dが大きくなると、Ru膜11の表面に露出する(001)結晶配向成分の割合が増える。特に、膜厚dが10nmを超えると、Ru膜11の表面に露出するのは主に(001)結晶配向成分になると考えられる。このようなRu膜11は、NiFeの(111)結晶配向成分にとって良好なシードとなる。そのRu膜11上に成長するNiFeに関して、(111)結晶配向成分のエピタキシャル成長は十分に促進されてしまう。すなわち、単一配向のNiFe結晶成長が促進され、NiFe膜12の表面平均粗さは大きくなってしまう。
このように、下地層としてのRu膜11上のNiFe結晶成長は、そのRu膜11の膜厚dに大きく依存していることがわかる。単一配向のNiFe結晶成長を抑制するためには、膜厚dが10nm以下に設計されることが好適である。それにより、NiFe膜12の表面平均粗さを小さくすることが可能となる。
図7は、Ru膜11の膜厚dとNiFe膜12表面の平均粗さ(Ra)との関係を示すグラフである。平均粗さ(Roughness Average)は、原子間力顕微鏡(AFM: Atomic Force Microscope)により測定される。図7から、膜厚dが大きくなるにつれ、NiFe膜12表面の平均粗さRaも大きくなることがわかる。この傾向は、上記説明と一致している。MRAMの大容量化や高歩留まりの観点からは、磁化自由層表面の平均粗さRaは0.3nm以下であることが望ましい。図7から、膜厚dが10nm以下であると、その基準が満たされることが確認される。特に、膜厚dが5nm以下の場合、極めて小さい平均粗さRaが実現される。よって、Ru膜11の膜厚dは5nm以下に設計されると特に好適である。
更に、下地層の材料として従来技術のようにTaが用いられたサンプルとの比較も行われた。
図8は、下地材料がRuの場合と下地材料がTaの場合の、NiFe膜12に関するX線回折パターンを示している。ここで、下地層としてのRu膜の膜厚とTa膜の膜厚とは、共に5nmに設定されている。図8においては、更に、下地材料が酸化シリコン(SiO2)の場合のX線回折パターンも比較として示されている。図8から、Taの場合、NiFeの「111反射」の強度が極めて強くなることが分かる。これは、(111)配向のNiFe結晶成長が優先的に促進されてしまったことを意味する。逆に、Ruの場合、NiFeの「111反射」の強度が極めて弱くなることがわかる。これは、(111)配向のNiFe結晶成長が抑制されていることを意味する。
図9は、下地材料とNiFe膜12表面の平均粗さ(Ra)との関係を示すグラフである。平均粗さRaは、原子間力顕微鏡により測定される。図9から明らかなように、下地材料がRuの場合の平均粗さRaは、下地材料がTaの場合よりも小さくなっている。更に、下地材料がRuの場合の平均粗さRaは、平均粗さが極めて小さい酸化シリコンの場合と比較してもわずかに小さいことも分かる。MRAMの大容量化や高歩留まりの観点からは、磁化自由層表面の平均粗さRaは0.3nm以下であることが望ましい。図9に示されるように、下地材料がTaの場合は、その基準を達成することができない。一方、下地材料がRuの場合は、その基準が満たされている。
以上の説明をまとめると、単一配向のNiFe結晶成長を抑制するためには、次のポイントが重要であると考えられる。
(1)下地層が、結晶性の金属材料で形成される。
(2)その下地層の結晶面の表面エネルギーのうち、最小の表面エネルギーと2番目に小さい表面エネルギーとの差が小さい。
(3)その下地層の膜厚が小さい。
(1)下地層が、結晶性の金属材料で形成される。
(2)その下地層の結晶面の表面エネルギーのうち、最小の表面エネルギーと2番目に小さい表面エネルギーとの差が小さい。
(3)その下地層の膜厚が小さい。
これらの要求が満たされるとき、その下地層の表面には、表面エネルギーが最小の結晶面と共に、それ以外の結晶面が露出する(図5A参照)。そのような下地層の表面上に、結晶性の磁性膜が成膜される。この場合、複数種類の結晶面上に磁性結晶が成長するため、単一配向の結晶成長が進行しにくくなる。その結果、磁性膜の表面での平均粗さRaが低減される。上記要求を満たす下地材料は、Ru(ルテニウム)に限られない。下地材料として、Tc(テクチニウム)、Re(レニウム)、Os(オスミウム)、Ir(イリジウム)、またはこれらの金属元素のうちの少なくとも1つを原子比で50%以上含む合金が用いられても、同様の状態(図5A参照)が実現される。
尚、上述の説明では、下地層の膜厚dを調整することにより、結晶配向が制御され、図5Aに示された状態が実現されていた。その他に、成膜条件を調整することにより、その状態が実現されてもよい。例えば、スパッタリング法により下地層が形成される場合、スパッタリングガスの分圧、スパッタリング電力、基板とターゲットの位置関係などが制御されればよい。あるいは、下地層の下に、下地層のためのシード層が設けられてもよい。このシード層により、下地層の結晶配向を制御し、図5Aで示された状態を実現することも可能である。
2.磁気抵抗素子
本実施の形態に係る磁気抵抗素子には、上記第1節で説明された原理が適用される。すなわち、本実施の形態に係る磁気抵抗素子では、上述の手法に基づいて下地層並びに磁化自由層が作成される。
本実施の形態に係る磁気抵抗素子には、上記第1節で説明された原理が適用される。すなわち、本実施の形態に係る磁気抵抗素子では、上述の手法に基づいて下地層並びに磁化自由層が作成される。
2−1.全体構造
図10は、本実施の形態に係る磁気抵抗素子(メモリセル)30の積層構造を示す側面図である。図10に示されるように、基板31側から、下地層32、磁化自由層33、トンネル絶縁層34、磁化固定層35、及び反強磁性層36が順番に積層されている。つまり、磁気抵抗素子30は、トップピン型の積層構造を有している。
図10は、本実施の形態に係る磁気抵抗素子(メモリセル)30の積層構造を示す側面図である。図10に示されるように、基板31側から、下地層32、磁化自由層33、トンネル絶縁層34、磁化固定層35、及び反強磁性層36が順番に積層されている。つまり、磁気抵抗素子30は、トップピン型の積層構造を有している。
磁化自由層33(フリー層)は、下地層32上に形成されている。磁化自由層33は、NiFe、CoFe、NiFeCoなどの強磁性体を含んでおり、その磁化の向きは反転可能である。例えば、磁化自由層33は、NiFeで形成されている。磁化自由層33は、複数の磁性膜が非磁性膜を介して磁気的に結合した積層フェリ構造を有していてもよい。
トンネル絶縁層34(トンネルバリア層)は、磁化自由層33上に形成されている。このトンネル絶縁層34は非磁性層である。例えば、トンネル絶縁層34は、薄いAl2O3層である。
磁化固定層35(ピン層)は、トンネル絶縁層34上に形成されている。磁化固定層35は、NiFe、CoFe、NiFeCoなどの強磁性体を含んでおり、その磁化の向きは、反強磁性層36によって固定されている。例えば、磁化固定層35は、CoFeで形成されている。磁化固定層35は、複数の磁性膜が非磁性膜を介して磁気的に結合した積層フェリ構造を有していてもよい。
トンネル絶縁層34は、磁化自由層33と磁化固定層35に挟まれており、これら磁化自由層33、トンネル絶縁層34、及び磁化固定層35によって、MTJが形成されている。磁化自由層33の磁化の向きは、磁化固定層35の磁化に対して平行、反平行のいずれかになることが許される。反平行状態でのMTJの抵抗値(R+ΔR)は、磁気抵抗効果により、平行状態での抵抗値(R)よりも大きくなる。磁気抵抗素子30は、この抵抗値の変化を利用することによってデータを不揮発的に記憶することができる。
2−2.下地層
本実施の形態に係る下地層32は、結晶性の金属材料で形成されている。また、本実施の形態に係る下地層32は、図5Aで示されたような結晶構造を有している。つまり、下地層32は、複数種類の結晶配向成分((001)、(101)・・・)を有しており、それらのうち2種類以上の結晶配向成分が磁化自由層33に接触している。言い換えれば、下地層32の表面には、表面エネルギーが最小の結晶面と共に、それ以外の結晶面も存在している。それら複数の結晶面が、磁化自由層33に接触している。図5Aに示された例の場合、(001)結晶面と(101)結晶面が、磁化自由層33に接触することになる。
本実施の形態に係る下地層32は、結晶性の金属材料で形成されている。また、本実施の形態に係る下地層32は、図5Aで示されたような結晶構造を有している。つまり、下地層32は、複数種類の結晶配向成分((001)、(101)・・・)を有しており、それらのうち2種類以上の結晶配向成分が磁化自由層33に接触している。言い換えれば、下地層32の表面には、表面エネルギーが最小の結晶面と共に、それ以外の結晶面も存在している。それら複数の結晶面が、磁化自由層33に接触している。図5Aに示された例の場合、(001)結晶面と(101)結晶面が、磁化自由層33に接触することになる。
図5Aで示されたような状態を実現するためには、下地層32の最小の表面エネルギーと2番目に小さい表面エネルギーとの差が小さいことが重要である。そのような材料としては、Ru(ルテニウム)、Tc(テクチニウム)、Re(レニウム)、Os(オスミウム)、Ir(イリジウム)、またはこれらの金属元素のうちの少なくとも1つを原子比で50%以上含む合金などが例示される。
また、以下の説明のため、下地層32が有する複数種類の結晶配向成分は、「第1結晶配向成分」と「第2結晶配向成分」を含むとする。第1結晶配向成分の表面エネルギーが最小であり、第1結晶配向成分の成長速度が最も大きいとする。また、第2結晶配向成分の表面エネルギーが2番目に小さく、第2結晶配向成分の成長速度が2番目に大きいとする。よって、下地層32の結晶中、第1結晶配向成分の体積V1が最大であり、第2結晶配向成分の体積V2が2番目に大きい(V1>V2、V1/V2>1)。図5Aに示された例の場合、第1結晶配向成分は(001)配向成分であり、第2結晶配向成分は(101)配向成分である。
下地層32の膜厚が増加するにつれて、体積V1と体積V2との差は開き、結晶中で第1結晶配向成分がより支配的となっていく(図5A及び図5B参照)。よって、下地層32の膜厚に関して、図5Aで示されたような状態が実現され得る“ある上限値”が存在するはずである。その上限値は、最小の表面エネルギーと2番目に小さい表面エネルギーとの比率(差)で決まる。2つの表面エネルギーの差が小さいほど、第1結晶配向成分と第2結晶配向成分との間の結晶成長速度の差も小さくなる。結果として、図5Aで示されたような状態を実現可能な膜厚の上限値も大きくなる。
上述のRu膜11を用いた実験では、その膜厚dが10nm以下のときに、結晶配向が有効に制御されていた(図4、図6、図7参照)。第1節中の議論の通り、膜厚dが10nmの場合は、体積比V1/V2(=V(001)/V(101))が“3.8”の場合に相当する。このように、下地層32の膜厚の上限値を、体積比V1/V2の上限値に置き換えることが可能である。この体積比V1/V2の上限値は、Ruに限らず、他の下地材料の場合にも適用可能である。本実施の形態では、体積比V1/V2が1より大きく3.8以下であることが好適である。
下地材料がRuの場合、第1節で示された実験結果から明らかなように、下地層32の膜厚は10nm以下であることが好適である(図4、図6、図7参照)。その場合、磁化自由層33の表面平均粗さRaは、0.3nm以下となる。特に、図7に示されたように、下地層32の膜厚が5nm以下の場合、極めて小さい平均粗さRaが実現される。よって、下地層32の膜厚は5nm以下に設計されると特に好適である。
また、磁気抵抗素子30がMRAMで用いられる場合、図10中の下地層32の下には一般的に層間絶縁膜が形成される。その場合、下地層32は、磁化自由層33の結晶成長をコントロールするだけでなく、拡散バリアとしても機能する。拡散バリアとしての効果の観点からは、下地層32の膜厚は0.5nm以上であることが好ましい。すなわち、本実施の形態において、下地層32の膜厚は、0.5nm以上10nm以下であることが望ましい。下地層32の膜厚が0.5nm以上5nm以下である場合、更に好適である。
3.効果
上記構造を有する下地層32を用いることによって、磁化自由層33の単一配向の結晶成長を抑制することが可能となる。つまり、上記構造を有する下地層32上に磁化自由層33を成膜することにより、その磁化自由層33の表面平均粗さRaを十分小さくすることが可能となる。よって、優れた平滑性を有する磁化自由層33を備えた磁気抵抗素子30が得られる。
上記構造を有する下地層32を用いることによって、磁化自由層33の単一配向の結晶成長を抑制することが可能となる。つまり、上記構造を有する下地層32上に磁化自由層33を成膜することにより、その磁化自由層33の表面平均粗さRaを十分小さくすることが可能となる。よって、優れた平滑性を有する磁化自由層33を備えた磁気抵抗素子30が得られる。
磁化自由層33とトンネル絶縁層34との界面が平滑であると、トンネル絶縁層34の膜厚が均一となる。その場合、読み出し特性(読み出し信号強度)に寄与するMR比(ΔR/R)が向上する。また、トンネル絶縁層34の膜厚が均一となるため、MTJ抵抗値のばらつきも抑制される。更に、微小リークパスの出現が防止され、抵抗不良素子の出現頻度が低減される。
更に、磁化自由層33の表面が平滑であれば、その上に形成される磁化固定層35や反強磁性層36の表面も平滑になり、それらの膜厚も均一となる。磁化固定層35と反強磁性層36との界面も平滑となる。これは、磁化固定層35の磁気特性が向上することを意味する。例えば、磁化固定層35と反強磁性層36との界面の平均粗さが大きいと、固定されているべき磁化固定層35の磁化が回転しやすくなる。それは、デバイスの動作不良を招く。本発明によれば、磁化固定層35と反強磁性層36の磁気特性が向上し、そのような動作不良が防止される。
尚、本発明は下地層32が結晶化していることを特徴として有するが、その結晶化は、「短範囲での結晶化(Short Range Ordering)」も含んでいる。短範囲での結晶化でも、同等の効果が得られる。下地層32の膜厚が1nm以下と小さくても、短範囲での結晶化は進行するため、同等の効果が得られる。更に、磁化自由層33の材料は、NiFeに限られない。磁化自由層33の材料が結晶性の材料であれば、同等の効果が得られる。
1 基板
2 反強磁性層
3 磁化固定層
4 トンネル絶縁層
5 磁化自由層
10 酸化シリコン基板
11 Ru膜
12 NiFe膜
30 磁気抵抗素子(メモリセル)
31 基板
32 下地層
33 磁化自由層
34 トンネル絶縁層
35 磁化固定層
36 反強磁性層
2 反強磁性層
3 磁化固定層
4 トンネル絶縁層
5 磁化自由層
10 酸化シリコン基板
11 Ru膜
12 NiFe膜
30 磁気抵抗素子(メモリセル)
31 基板
32 下地層
33 磁化自由層
34 トンネル絶縁層
35 磁化固定層
36 反強磁性層
Claims (10)
- 下地層と、
前記下地層上に形成され、磁化の向きが反転可能な磁化自由層と、
前記磁化自由層上に非磁性層を介して形成され、磁化の向きが固定された磁化固定層と
を備え、
前記下地層は、結晶性の金属材料で形成され、
前記下地層の結晶は、複数種類の結晶配向成分を有し、
前記複数種類の結晶配向成分のうち2種類以上が前記磁化自由層に接触する
磁気抵抗素子。 - 請求項1に記載の磁気抵抗素子であって、
前記複数の結晶配向成分は、
前記結晶中で最も大きい第1体積を有する第1結晶配向成分と、
前記結晶中で2番目に大きい第2体積を有する第2結晶配向成分と
を含み、
前記第1体積の前記第2体積に対する比は1より大きく3.8以下である
磁気抵抗素子。 - 請求項2に記載の磁気抵抗素子であって、
前記下地層は、Ru、Tc、Re、Os、Ir、及びこれらの元素のうちの少なくとも1つを原子比で50%以上含む合金から構成された群から選択される材料で形成された
磁気抵抗素子。 - 請求項1に記載の磁気抵抗素子であって、
前記下地層は、Ruで形成された
磁気抵抗素子。 - 請求項4に記載の磁気抵抗素子であって、
前記下地層の厚さは、0.5nm以上10nm以下である
磁気抵抗素子。 - 請求項5に記載の磁気抵抗素子であって、
前記下地層の厚さは、0.5nm以上5nm以下である
磁気抵抗素子。 - 請求項4に記載の磁気抵抗素子であって、
前記下地層の結晶は、
第1体積を有する(001)結晶配向成分と、
第2体積を有する(101)結晶配向成分と
を有し、
前記第1体積の前記第2体積に対する比は1より大きく3.8以下である
磁気抵抗素子。 - 下地層と、
前記下地層上に形成され、磁化の向きが反転可能な磁化自由層と、
前記磁化自由層上に非磁性層を介して形成され、磁化の向きが固定された磁化固定層と
を備え、
前記下地層は、結晶性の金属材料で形成され、
前記下地層の厚さは、0.5nm以上10nm以下である
磁気抵抗素子。 - 下地層と、
前記下地層上に形成され、磁化の向きが反転可能な磁化自由層と、
前記磁化自由層上に非磁性層を介して形成され、磁化の向きが固定された磁化固定層と
を備え、
前記下地層は、結晶性の金属材料で形成され、
前記下地層の結晶は、複数種類の結晶配向成分を有し、
前記複数種類の結晶配向成分は、
前記結晶中で最も大きい第1体積を有する第1結晶配向成分と、
前記結晶中で2番目に大きい第2体積を有する第2結晶配向成分と
を含み、
前記第1体積の前記第2体積に対する比は1より大きく3.8以下である
磁気抵抗素子。 - 請求項1乃至9のいずれかに記載された磁気抵抗素子をメモリセルとして備える
磁気ランダムアクセスメモリ。
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Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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JP2006319723A JP2008135503A (ja) | 2006-11-28 | 2006-11-28 | 磁気抵抗素子 |
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Publication Number | Publication Date |
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Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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2006
- 2006-11-28 JP JP2006319723A patent/JP2008135503A/ja active Pending
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