以下、本発明のガイドワイヤを添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1は、ガイドワイヤの参考例を示す縦断面図、図2は、図1に示すガイドワイヤにおける第1ワイヤと第2ワイヤとを接続する手順を示す図である。なお、説明の都合上、図1および図2中の右側を「基端」、左側を「先端」という。また、図1および図2中では、見易くするため、ガイドワイヤの長さ方向を短縮し、ガイドワイヤの太さ方向を誇張して模式的に図示しており、長さ方向と太さ方向の比率は実際とは大きく異なる。
図1に示すガイドワイヤ1は、カテーテルに挿入して用いられるカテーテル用ガイドワイヤであって、先端側に配置された第1ワイヤ2と、第1ワイヤ2の基端側に配置された第2ワイヤ(基端側ワイヤ)3と、螺旋状のコイル4とを有している。ガイドワイヤ1の全長は、特に限定されないが、200〜5000mm程度であるのが好ましい。
第2ワイヤ3は、弾性を有する線材である。第2ワイヤ3の長さは、特に限定されないが、200〜4800mm程度であるのが好ましい。
第2ワイヤ3は、比較的弾性率(ヤング率(縦弾性係数)、剛性率(横弾性係数)、体積弾性率)が大きい材料で構成されている。これにより、第2ワイヤ3に適度な剛性(曲げ剛性、ねじり剛性)が得られ、ガイドワイヤ1がいわゆるコシの強いものとなって押し込み性およびトルク伝達性が向上し、より優れた挿入操作性が得られる。なお、第2ワイヤ3の構成材料は、第1ワイヤ2の管状ワイヤ23の構成材料より弾性率が大きいものである。
第2ワイヤ3の構成材料(素材)は、特に限定されず、ステンレス鋼(例えば、SUS304、SUS303、SUS316、SUS316L、SUS316J1、SUS316J1L、SUS405、SUS430、SUS434、SUS444、SUS429、SUS430F、SUS302等のSUS全品種)、ピアノ線、コバルト系合金(コバルト基合金)、擬弾性を示し得る合金(超弾性合金を含む。)などの各種金属材料を用いることができるが、そのなかでも特にステンレス鋼が好ましい。第2ワイヤ3をステンレス鋼で構成することにより、ガイドワイヤ1は、より優れた押し込み性およびトルク伝達性が得られる。
第2ワイヤ3の先端には、第1ワイヤ2の基端が連結(接続)されている。第1ワイヤ2は、弾性を有する線材である。第1ワイヤ2の長さは、特に限定されないが、10〜1000mm程度であるのが好ましい。
第1ワイヤ2は、弾性を有する管状ワイヤ23と、この管状ワイヤ23を貫くよう設けられた芯材22とを有している。この芯材22は、長手方向に沿ってその外径がほぼ一定である細径の線材であり、管状ワイヤ23の構成材料より弾性率が大きい材料、好ましくは第2ワイヤ3の構成材料とほぼ弾性率が等しい材料、より好ましくは第2ワイヤ3の構成材料と同一の材料(特に、ステンレス鋼)で構成されている。
換言すれば、第1ワイヤ2は、第2ワイヤ3の構成材料と同一またはほぼ弾性率が等しい材料(比較的弾性率が高い材料)で構成された細径の芯材22を、芯材22と比較して弾性率が小さい管状ワイヤ23で覆ったような構成とされている。
このような構成により、第1ワイヤ2の剛性を第2ワイヤ3より十分に低くすることができる。その結果、ガイドワイヤ1は、その先端側の部分に十分な曲げに対する柔軟性が得られ、複雑に湾曲・屈曲する血管に対する追従性が向上し、より優れた操作性が得られるとともに、第1ワイヤ2が湾曲・屈曲変形を繰り返しても、第1ワイヤ2に曲がり癖が付き難いので、ガイドワイヤ1の使用中に第1ワイヤ2に曲がり癖が付くことによる操作性の低下を防止することができる。
なお、芯材22は、長手方向に沿って外径が一定の径一定部と、先端方向へ向かって外径が漸減する少なくとも1つのテーパ部(外径漸減部)とを有するものであってもよい。例えば、複数の径一定部と複数のテーパ部とがワイヤ長手方向に沿って交互に形成されているものでもよい。
管状ワイヤ23の最大外径をR1[mm]とし、芯材22の平均外径をR2[mm]としたとき、R2/R1は、0.01〜0.5程度であるのが好ましく、0.02〜0.3程度であるのがより好ましい。R2/R1を前記範囲とすることにより、第1ワイヤ2の剛性をより適度なものとすることができ、ガイドワイヤ1の操作性がより向上する。
図示の構成では、第1ワイヤ2は、その先端部において、管状ワイヤ23が省略され、芯材22が露出した露出部(先端側ワイヤ)221が形成されている。すなわち、露出部221は、比較的弾性率が高い材料のみで構成されており、これにより、リシェイプ可能となっている。ここで、「リシェイプ可能」とは、線材を所望の形状に曲げてその形状を維持できることを言う。
ガイドワイヤ1は、通常、血管分岐を選択するために、医師がガイドワイヤ1の先端部を所望の形状に曲げて使用することが多いが、このようにガイドワイヤ1に露出部221を設けることにより、ガイドワイヤ1の先端部のリシェイプ(形状付け)を容易かつ確実に行うことができる。その結果、ガイドワイヤ1を生体内に挿入する操作の際の操作性が格段に向上する。
この露出部221の長さ(第1ワイヤ2の先端部における芯材22の露出長さ)は、特に限定されないが、5〜200mm程度であるのが好ましく、10〜150mm程度であるのがより好ましい。露出部221の長さが長すぎると、芯材22の構成材料等によっては、ガイドワイヤ1の操作性が低下するおそれがあり、一方、露出部221の長さが短すぎると、ガイドワイヤ1の先端部のリシェイプが困難となるおそれがある。
また、図示の構成では、管状ワイヤ23は、その基端から所定長さは外径が一定であり、途中から先端方向へ向かって(先端側において)外径が漸減している。この部分を外径漸減部(テーパ部)15と言う。このような外径漸減部15を有することにより、第1ワイヤ2の剛性(曲げ剛性、ねじり剛性)を先端方向に向かって徐々に減少させることができ、その結果、ガイドワイヤ1は、先端部に良好な柔軟性を得て、血管への追従性、安全性が向上すると共に、折れ曲がり等も防止することができる。
図示の構成では、外径漸減部15は管状ワイヤ23の一部に形成されているが、管状ワイヤ23の全体が外径漸減部15を構成していてもよい。また、外径漸減部15のテーパ角度(外径の減少率)は、ワイヤ長手方向に沿って一定でも、長手方向に沿って変化する部位があってもよい。例えば、テーパ角度(外径の減少率)が比較的大きい箇所と比較的小さい箇所とが複数回交互に繰り返して形成されているようなものでもよい。
また、管状ワイヤ23は、外径漸減部15の途中または外径漸減部15より先端側に、外径が長手方向に沿って一定の部分があってもよい。例えば、管状ワイヤ23は、先端方向へ向かって外径が漸減するテーパ状のテーパ部が長手方向に沿って複数箇所に形成され、これらのテーパ部とテーパ部との間に外径が長手方向に沿って一定の部分が形成されているようなものでもよい。このような場合でも、前記と同様の効果が得られる。
また、図示の構成と異なり、外径漸減部15の基端が第2ワイヤ3の途中に位置する、すなわち、外径漸減部15が第1ワイヤ2と第2ワイヤ3の境界(連結部:溶接部14)を跨って形成された構成でもよい。
このような管状ワイヤ23の構成材料は、芯材22の構成材料より弾性率が小さいものであれば特に限定されず、例えば、ステンレス鋼などの各種金属材料を使用することができるが、そのなかでも特に、擬弾性を示す合金(以下、擬弾性合金という)が好ましい。
擬弾性合金には、引張りによる応力−ひずみ曲線のいずれの形状も含み、As、Af、Ms、Mf等の変態点が顕著に測定できるものも、できないものも含み、応力により大きく変形(歪)し、応力の除去により元の形状にほぼ戻るものは全て含まれる。管状ワイヤ23の構成材料は、超弾性合金がより好ましい。
超弾性合金は、比較的柔軟であるとともに、復元性があり、曲がり癖が付き難いので、管状ワイヤ23を超弾性合金で構成することにより、ガイドワイヤ1は、その先端側の部分(第1ワイヤ2)に十分な柔軟性と曲げに対する復元性が得られ、複雑に湾曲・屈曲する血管に対する追従性が向上し、より優れた操作性が得られるとともに、第1ワイヤ2が湾曲・屈曲変形を繰り返しても、第1ワイヤ2に復元性により曲がり癖が付かないので、ガイドワイヤ1の使用中に第1ワイヤ2に曲がり癖が付くことによる操作性の低下を防止することができる。
超弾性合金の好ましい組成としては、49〜52原子%NiのNi−Ti合金等のNi−Ti系合金、38.5〜41.5重量%ZnのCu−Zn合金、1〜10重量%XのCu−Zn−X合金(Xは、Be、Si、Sn、Al、Gaのうちの少なくとも1種)、36〜38原子%AlのNi−Al合金等が挙げられる。このなかでも特に好ましいものは、上記のNi−Ti系合金である。
また、図示の構成では、管状ワイヤ23を超弾性合金で構成し、芯材22および第2ワイヤ3をステンレス鋼で構成することが特に好ましい。これにより、ガイドワイヤ1は、先端側の部分が優れた柔軟性を有するとともに、基端側の部分が剛性(曲げ剛性、ねじり剛性)に富んだものとなる。その結果、ガイドワイヤ1は、優れた押し込み性やトルク伝達性を得て良好な操作性を確保しつつ、先端側においては良好な柔軟性、復元性を得て血管への追従性が向上する。
コイル4は、線材(細線)を螺旋状に巻回してなる部材であり、少なくとも露出部221(本実施形態では、露出部221および管状ワイヤ23の先端部)を覆うように設置されている。図示の構成では、第1ワイヤ2の先端側の部分は、コイル4の内側のほぼ中心部に挿通されている。また、第1ワイヤ2の先端側の部分は、コイル4の内面と非接触で挿通されている。第1ワイヤ2と第2ワイヤ3との連結部(溶接部14)は、コイル4の基端より基端側に位置している。
なお、図示の構成では、コイル4は、外力を付与しない状態で、螺旋状に巻回された線材同士の間にやや隙間が空いているが、図示と異なり、外力を付与しない状態で、螺旋状に巻回された線材同士が隙間なく密に配置されていてもよい。
コイル4は、金属材料で構成されているのが好ましい。コイル4を構成する金属材料としては、例えば、ステンレス鋼、超弾性合金、コバルト系合金(コバルト基合金)や、金、白金、タングステン等の貴金属またはこれらを含む合金等が挙げられる。特に、貴金属のようなX線不透過材料で構成した場合には、ガイドワイヤ1にX線造影性が得られ、X線透視下で先端部の位置を確認しつつ生体内に挿入することができ、好ましい。また、コイル4は、その先端側と基端側とを異なる材料で構成してもよい。例えば、先端側をX線不透過材料のコイル、基端側をX線を比較的透過する材料(ステンレス鋼など)のコイルにて各々構成してもよい。なお、コイル4の全長は、特に限定されないが、5〜500mm程度であるのが好ましい。
コイル4の基端部および先端部は、それぞれ、固定材料11および12により第1ワイヤ2(管状ワイヤ23および芯材22)に固定されている。また、コイル4の中間部(先端寄りの位置)は、固定材料13により第1ワイヤ2(芯材22)に固定されている。固定材料11、12および13は、半田(ろう材)で構成されている。なお、固定材料11、12および13は、半田に限らず、接着剤でもよい。また、コイル4の固定方法は、固定材料によるものに限らず、例えば、溶接でもよい。また、血管内壁の損傷を防止するために、固定材料12の先端面は、丸みを帯びているのが好ましい。
図示の構成では、このようなコイル4が設置されていることにより、第1ワイヤ2は、コイル4に覆われて接触面積が少ないので、摺動抵抗を低減することができ、よって、ガイドワイヤ1の操作性がより向上する。
なお、図示の構成の場合、コイル4は、線材の横断面が円形のものを用いているが、これに限らず、線材の断面が例えば楕円形、四角形(特に長方形)等のものであってもよい。
ガイドワイヤ1において、第1ワイヤ2と第2ワイヤ3とは、溶接により互いに一体的に連結(固定)されている。これにより、第1ワイヤ2と第2ワイヤ3との溶接部(連結部)14は、高い結合強度(接合強度)が得られ、よって、ガイドワイヤ1は、溶接部14の破損、損傷を確実に防止することができ、高い安全性が得られる。また、溶接部14の強度低下による弊害、例えば、溶接部14で折れ曲がりを生じたり、第2ワイヤ3からのねじりトルクや押し込み力が第1ワイヤ2に伝達されにくくなったりするような弊害が生じるのも確実に防止することができる。
なお、第2ワイヤ3と芯材22とは、同一または同種の材料により一体的に形成されていてもよい。
また、溶接部14の外周部は、例えば後述する手順<3>等の方法により、実質的に平滑とされているのが好ましい。
なお、第1ワイヤ2と第2ワイヤ3とは、第1ワイヤ2の少なくとも管状ワイヤ23と第2ワイヤ3とが溶接されているものであってもよい。この場合、例えば、芯材22と第2ワイヤ3とを一体的に形成し、芯材22の外周に管状ワイヤ23を配置して、管状ワイヤ23の基端と第2ワイヤ3の先端とを溶接により連結する構成とすることができる。
また、図示の構成では、第1ワイヤ2の第2ワイヤ3に対する接続端面21と、第2ワイヤ3の第1ワイヤ2に対する接続端面31とは、それぞれ、ガイドワイヤ1の軸方向(長手方向)に対しほぼ垂直な平面になっているが、これにより、接続端面21、31を形成するための加工が極めて容易であり、ガイドワイヤ1の製造工程を複雑化することなく上記効果を達成することができる。
なお、図示の構成と異なり、接続端面21、31は、両ワイヤの軸方向(長手方向)に垂直な平面に対し傾斜していてもよく、また、凹面または凸面になっていてもよい。例えば、後述する図3の実施形態の第2テーパ部634のように、接続端面21、31は、先端方向に向かって外径が漸減するテーパ面であってもよい。
第1ワイヤ2と、第2ワイヤ3との溶接の方法としては、特に限定されず、例えば、レーザを用いたスポット溶接、バットシーム溶接等の突き合わせ抵抗溶接などが挙げられるが、突き合わせ抵抗溶接であるのが好ましい。これにより、溶接部14は、より高い結合強度が得られる。
以下、図2を参照して、第1ワイヤ2と第2ワイヤ3とを突き合わせ抵抗溶接の一例であるバットシーム溶接により接合する場合の手順について説明する。同図には、第1ワイヤ2と第2ワイヤ3とをバットシーム溶接により接合する場合の手順<1>〜<3>が示されている。
手順<1>では、図示しないバット溶接機に固定(装着)された第1ワイヤ2と第2ワイヤ3とが示される。
手順<2>にて、第1ワイヤ2と第2ワイヤ3とは、バット溶接機によって、所定の電圧を印加されながら第1ワイヤ2の基端側の接続端面21と第2ワイヤ3の先端側の接続端面31とが加圧接触される。この加圧接触により、接触部分には溶融層が形成され、第1ワイヤ2と第2ワイヤ3とは強固に接続される。
手順<3>にて、加圧接触することによって変形された接続箇所(溶接部14)の突出部分を除去(削除)する。これにより、溶接部14の外周は、実質的に平滑とされる。なお、突出部分の除去方法は、例えば、研削、研磨、エッチング等の化学処理が挙げられる。
次いで、管状ワイヤ23の接続箇所(溶接部14)より先端側の部位を研削または研磨して外径が先端方向に向かって漸減する外径漸減部15を形成するとともに、第1ワイヤ2の先端部において芯材22を露出させ、露出部221を形成する。
なお、外径漸減部15の基端を溶接部14より基端側とする場合には、手順<3>を省略して、外径漸減部15を形成する本手順(本工程)を行ってもよい。
なお、第1ワイヤ2(芯材22および管状ワイヤ23)と第2ワイヤ3との接合は、溶接によるものが好ましいが、例えば、管状部材内に挿入しろう材を充填して固定するなど任意の方法を用いることもできる。
以上のようなガイドワイヤ1は、その外周面(外表面)の全部または一部を覆う合成樹脂の図示しない被覆(プラスティックジャケット)を有していてもよい。これにより、ガイドワイヤ1とともに用いられるカテーテルの内壁との摩擦が低減されて摺動性が向上し、カテーテル内でのガイドワイヤ1の操作性がより良好なものとなる。このような被覆の構成材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリカーボネート、フッ素系樹脂(PTFE、ETFE等)、シリコーン樹脂、その他各種のエラストマー、またはこれらの複合材料が好ましく用いられる。特に、管状ワイヤ23と同等またはそれ以下の可撓性、柔軟性を有するものが好ましい。また、このような被覆を設ける個所は、特に限定されず、例えば、ガイドワイヤ1のほぼ全体に設けられていても良く、先端側の部分(第1ワイヤ2およびコイル4の外周面)のみに設けられていても良い。
また、ガイドワイヤ1の外周面の全部または一部には、ガイドワイヤ1とともに用いられるカテーテルの内壁との接触により発生する摩擦を抑える処理が施されていてもよい。これにより、カテーテル内壁との摩擦が抑えられ、カテーテル内でのガイドワイヤ1の操作性は、より良好なものとなる。この処理としては、例えば、ガイドワイヤ1の外周面に、親水性材料または疎水性材料による被膜(図示せず)を設けることができる。
この被膜を構成する親水性材料としては、例えば、セルロース系高分子物質、ポリエチレンオキサイド系高分子物質、無水マレイン酸系高分子物質(例えば、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体のような無水マレイン酸共重合体)、アクリルアミド系高分子物質(例えば、ポリアクリルアミド、ポリグリシジルメタクリレート−ジメチルアクリルアミド(PGMA−DMAA)のブロック共重合体)、水溶性ナイロン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。また、被膜を構成する疎水性材料としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、シリコーン系の材料等が挙げられる。
図3は、本発明のガイドワイヤの実施形態を示す縦断面図である。なお、説明の都合上、図3中の右側を「基端」、左側を「先端」という。また、図3中では、見易くするため、ガイドワイヤの長さ方向を短縮し、ガイドワイヤの太さ方向を誇張して模式的に図示しており、長さ方向と太さ方向の比率は実際とは大きく異なる。
以下、図3に基づいて本発明のガイドワイヤの実施形態を説明するが、主に前述した参考例と相違する点について説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。
図3に示すガイドワイヤ1は、先端側に配置された先端側ワイヤ(前記露出部221に相当)230と、該先端側ワイヤ230の基端側に配置された中間ワイヤ600と、該中間ワイヤ600の基端側に配置された基端側ワイヤ(前記第2ワイヤ3に相当)300とを有している。
先端側ワイヤ230は、後述する中間ワイヤ600の内層630が先端方向に延長されて形成されたものであり、リシェイプ可能な金属材料で構成されている。一般に、ガイドワイヤでは、誘導するカテーテルの先端部を血管形状に対応させたり、血管分岐を円滑に誘導したりするために、医師などがガイドワイヤの先端部を所望の形状に曲げて使用することが多い。このようにガイドワイヤの先端部を所望の形状に曲げることを、リシェイプ(形状付け)と言うが、本発明のガイドワイヤ1では、先端側ワイヤ230がリシェイプに適したものとなっている。
リシェイプ可能な金属材料としては、例えば、ステンレス鋼、コバルト系合金(コバルト基合金)が挙げられる。
先端側ワイヤ230は、主に、平板状をなす平板部232で構成されている。この平板部232の横断面形状は、実施的に長方形であるが、例えば、楕円、長円、台形等の他の形状であってもよい。また、平板部232の横断面形状は、先端側ワイヤ230の長手方向に沿って一定でも、変化する部位があってもよい。例えば、後者の場合、先端方向に向かって平板部232の幅が漸増または漸減するような部位があってもよい。
なお、先端側ワイヤ230の形状は、前述した平板状に限らず、その他例えば線状(棒状)であってもよい。
このような先端側ワイヤ230の先端部は、前記と同様の固定材料12によりコイル4の先端部と固定されている。
中間ワイヤ600は、内層(芯材)630と、該内層630の外周面を囲むように形成された外層(被覆層)620とで構成されている。内層630および外層620は、それぞれ、長手方向に沿ってその横断面形状(外径等)が変化している。
内層630は、先端側ワイヤ230を構成する金属材料と同一または同種の材料で構成されているのが好ましい。特に、内層630と先端側ワイヤ230とは、連続した一体の金属線材で構成されていること、すなわち、先端側ワイヤ230は内層630が先端方向に延長されて形成されたものであるのが好ましい。これにより、中間ワイヤ600は先端側に向って滑らかな物性移行となり、良好な柔軟性を得て、血管への追従性、安全性が向上すると共に、折れ曲がり等も防止できるという効果が得られる。
また、内層630は、基端側ワイヤ300を構成する金属材料と同一または同種の材料で構成されているのが好ましい。特に、内層630と基端側ワイヤ300とは、連続した一体の金属線材で構成されていること、すなわち、内層630は、基端側ワイヤ300が先端方向に延長されて形成されたものであるのが好ましい。これにより、基端側ワイヤ300から先端に向って滑らかな物性移行となり、良好な柔軟性を得て、血管への追従性、安全性が向上すると共に、折れ曲がり等も防止できるという効果が得られる。
このような内層630は、外層620の構成材料より剛性の高い材料で構成されているのが好ましい。このような材料としては、例えば、ステンレス鋼、コバルト系合金(コバルト基合金)が挙げられる。
内層630は、先端方向に向かってその外径が漸減する少なくとも1つのテーパ部を有しているのが好ましく、当該テーパ部を複数有しているのがより好ましい。
内層630は、図1に示す参考例で述べたのと同様に、長手方向に沿って外径が一定の径一定部と、先端方向へ向かって外径が漸減するテーパ部(外径漸減部)とを有し、これらが交互に複数づつ形成されている。このような構成とすることにより、中間ワイヤ600の剛性(曲げ剛性、ねじり剛性)を先端方向に向かって徐々に減少させることができ、その結果、ガイドワイヤ1は、先端部に良好な柔軟性を得て、血管への追従性、安全性が向上すると共に、折れ曲がり等も防止することができる。
内層630の第1径一定部631は、コイル4の内部に位置している。第1テーパ部632は、第1径一定部631の基端から基端方向に延びている。第2径一定部633は、第1テーパ部632の基端から基端方向に延びている。第2テーパ部634は、第2径一定部633の基端から基端方向に延びている。第2テーパ部634の基端は、基端側ワイヤ300の先端と連続し、一体化されている。
第2径一定部633の外径は、基端側ワイヤ300の外径より小さく、第1径一定部631の外径は、第2径一定部633の外径より小さい。また、第1テーパ部632と第2テーパ部634のテーパ角度は、特に限定されず、これらは同一でも異なっていてもよい。
外層(前記管状ワイヤ23に相当)620は、擬弾性を示し得る合金で構成されているのが好ましい。当該合金は、擬弾性を示す合金の組成を備えるものであればよく、典型的な例としては、Ni−Ti系合金が挙げられる。このような構成としたことにより、先端側の部分に十分な柔軟性と曲げに対する復元性が得られ、複雑に湾曲、屈曲する血管に対する追従性が向上し、より優れた操作性が得られるとともに、湾曲、屈曲変形を繰り返しても、外層620の復元性により曲がり癖が付かないので、曲がり癖が付くことによる操作性の低下を防止できるという効果が得られる。
また、外層620は、擬弾性合金以外の材料で構成されていてもよく、その場合、内層630を構成する材料より剛性の低い材料で構成されているのが好ましい。
外層620は、図1に示す参考例で述べたのと同様に、長手方向に沿って外径が一定の径一定部と、先端方向へ向かって外径が漸減するテーパ部(外径漸減部)とを有し、これらが交互に複数づつ形成されている。このような構成とすることにより、前述した内層630の先端方向への外径変化と相まって、中間ワイヤ600の剛性(曲げ剛性、ねじり剛性)を先端方向に向かって徐々に減少させることができ、その結果、ガイドワイヤ1は、先端部に良好な柔軟性を得て、血管への追従性、安全性が向上すると共に、折れ曲がり等も防止することができる。
外層620の第1径一定部621の先端は、先端側ワイヤ230の基端付近に達している。第1テーパ部622は、第1径一定部621の基端から基端方向に延びている。第2径一定部623は、第1テーパ部622の基端から基端方向に延びている。第1径一定部621、第1テーパ部622および第2径一定部623は、コイル4の内部に位置している。第2テーパ部624は、第2径一定部623の基端から基端方向に延びている。第3径一定部625は、第2テーパ部624の基端から基端方向に延びている。
第3径一定部625の外径は、基端側ワイヤ300の外径とほぼ等しく、第3径一定部625の基端部外周面と、基端側ワイヤ300の先端部外周面とは、段差のない滑らかな連続面を形成している。
第2径一定部623の外径は、基端側ワイヤ300および第3径一定部625の外径より小さく、第1径一定部621の外径は、第2径一定部623の外径より小さい。また、第1テーパ部622と第2テーパ部624のテーパ角度は、特に限定されず、これらは同一でも異なっていてもよい。
ガイドワイヤ1を冠動脈へ挿入する場合、ガイドワイヤ1の第3径一定部625に相当する部位は、大動脈弓付近に留置されるため、ガイドワイヤ1が湾曲した状態でもトルクを十分に伝達し得る特性が望ましい。この点に関し、本発明のガイドワイヤ1は、外層620が擬弾性を示し得る合金で構成されているので、湾曲形状とされたときでも曲がり癖がつき難く(すなわち、形状復元性を維持することができ)、耐キンク性に優れ、しかも、外層620より剛性の高い材料で構成された内層630が軸方向に存在するので、トルク伝達性に優れる。
ガイドワイヤ1の第2テーパ部634に相当する部位においては、外層620の外径は先端方向に向かってほぼ一定であるが、内層630の外径は先端方向に向かって徐々に減少しているので、中間ワイヤ600の全横断面積に対する外層620の横断面積の占める割合が徐々に増大し、その結果、ガイドワイヤ1全体としては、先端方向に向かって柔軟性が徐々に増大している。
外層620の第2テーパ部624は、内層630の第1テーパ部632を包含している。また、第2テーパ部624と第1テーパ部632は、それらの一部が重なっていてもよい。
第2テーパ部624と第1テーパ部632の長さは、同一でも異なっていてもよいが、異なっているのが好ましい。図3に示す構成では、第2テーパ部624の方が第1テーパ部632より長い。
中間ワイヤ600の少なくとも一部において、内層630における先端方向への外径の減少率や、外層620における先端方向への外径の減少率は、異なる部分を有することが好ましい。
また、内層630における先端方向への外径の減少率(テーパ角度)の方が外層620のそれよりも小さいことが好ましい。このような部分としては、内層630の第1テーパ部632や外層620の第1テーパ部622が挙げられる。このような内層630と外層620の先端方向への外径の減少率(テーパ角度)が異なる部分は、少なくとも2ヶ所あるのが好ましい。
また、中間ワイヤ600は、第2テーパ部634のように、内層630における先端方向への外径の減少率の方が外層620における先端方向への外径の減少率よりも大きい部分を有するのが好ましい。第2テーパ部634においては、外層620は実質的に外径が一定であるため、外径の減少率は0であり、内層630は、先端方向に向かって所定の割合で外径が減少している。
ガイドワイヤ1を冠動脈へ挿入する場合、ガイドワイヤ1の第2径一定部623に相当する部位は、上行大動脈から冠動脈内に位置するため、ガイドワイヤ1が曲がりくねった冠動脈内でも押し込み性やトルク伝達性に優れ、かつ、塑性変形し難いという特性を持つことが望ましい。
この点に関し、本発明のガイドワイヤ1は、外層620が擬弾性合金で構成されているので、湾曲形状とされたときでも曲がり癖がつき難く(すなわち、形状復元性を維持することができ)、耐キンク性に優れ、しかも、外層620より剛性の高い材料で構成された内層630が軸方向に存在するので、押し込み性およびトルク伝達性にも優れている。
中間ワイヤ600において、内層630の横断面積は、中間ワイヤ600の全横断面積の約80%以下であることが好ましく、10〜50%程度であるのがより好ましい。なお、この値は、中間ワイヤ600の全長における平均値である。この値が80%を超えると、内層630の構成材料の特性、特に塑性変形し易い特性がより明確に現れて、全体として剛性が高く、または、曲がり癖がつき易い傾向となる。
外層620の第1径一定部621は、内層630の第1径一定部631に包含されている。また、第1径一定部621と第1径一定部631は、それらの一部が重なっていてもよい。
外層620の第2径一定部623は、内層630の第1径一定部631に包含されている。また、第2径一定部623と第1径一定部631は、それらの一部が重なっていてもよい。
また、第2径一定部623の長さは、コイル4の全長よりも短いのが好ましい。コイル4の内部に位置する外層620の径一定部(第2径一定部623)の長さは、先端側ワイヤ230よりも長いことが好ましい。
外層620の第1テーパ部622は、内層630の第1径一定部631に包含されている。また、第1テーパ部622と第1径一定部631は、それらの一部が重なっていてもよい。
図3に示す構成では、外層620の第1径一定部621の先端は、内層630の第1径一定部631の先端とほぼ一致している。ただし、本発明では、第1径一定部621の先端は、第1径一定部631の先端と一致していなくてもよい。すなわち、第1径一定部621の先端より先端方向に第1径一定部631が延びていてもよい。この場合、第1径一定部631は、外層620で覆われていない部分が存在することとなり、この部分は、先端側ワイヤ230の一部と呼ぶこともできる。
第1径一定部621においては、半田(ろう材)、接着剤等の固定材料13によりコイル4と固定されている。
なお、固定する部分(固定材料を付与する部分)だけ外層620が存在しないようにしてもよい。この場合には、内層630の露出部分が固定材料13によりコイル4と固定されることとなるが、内層630の構成材料が固定材料13との結合力が大きい材料である場合、より強固な固定が実現でき、好ましい。
また、図1に示す構成と同様に、固定材料13よりも基端側に外層620(管状ワイヤ23)の先端が位置していてもよく、この場合も前記と同様である。この場合にも、内層630の第1径一定部631と固定材料13とが強い結合力で結合し、強固な固定が可能となる。
外層620および内層630の形成方法は、特に限定されず、例えば、次のような方法により形成することができる。
まず、内層630を構成する金属材料よりなるワイヤを、所望の外径やテーパ形状になるように伸線加工、機械研磨、化学研磨等を施し、第1径一定部631、第1テーパ部632、第2径一定部633および第2テーパ部634を形成する。
なお、基端側ワイヤ300、内層630および先端側ワイヤ230が同一材料による一体化物である場合、基端側ワイヤ300としての金属線材を用意し、その先端側、すなわち内層630および先端側ワイヤ230となるべき部分に対し、伸線加工、プレス加工、機械研磨、化学研磨等を施して、所望形状の内層630(第1径一定部631、第1テーパ部632、第2径一定部633および第2テーパ部634)および先端側ワイヤ230とする。
次に、内層630の全長(または一部を除く部位)の外周面に対し、外層620を構成する金属材料(例えばNi−Ti合金)を例えば蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の乾式メッキ法(気相成膜法)または湿式メッキ法あるいは金属溶着等により被覆形成し、その後、所望の外径やテーパ形状になるように機械研磨、化学研磨等を施し、第1径一定部621、第1テーパ部622、第2径一定部623、第2テーパ部624および第3径一定部625を形成する。
Ni−Ti合金にて構成された外層620の場合、外層620の形成方法にもよるが、その外層620部分に所定の熱処理を施すと、擬弾性または擬弾性に近い特性を発現させる場合がある。
以上のような中間ワイヤ600の基端側には、基端側ワイヤ300が設けられている。基端側ワイヤ300は、先端側ワイヤ230および内層630を構成する材料と同一または同種の材料で構成されているのが好ましい。この材料としては、例えば、ステンレス鋼、コバルト系合金(コバルト基合金)が挙げられる。
図4および図5は、それぞれ、本発明のガイドワイヤ1をPTCA術に用いた場合における使用状態を示す図である。
図4および図5中、符号40は大動脈弓、符号50は心臓の右冠状動脈、符号60は右冠状動脈開口部、符号70は血管狭窄部である。また、符号30は大腿動脈からガイドワイヤ1を確実に右冠状動脈に導くためのガイディングカテーテル、符号20はその先端部分に拡張・収縮自在なバルーン201を有する狭窄部拡張用のバルーンカテーテルである。
図4に示すように、ガイドワイヤ1の先端をガイディングカテーテル30の先端から突出させ、右冠状動脈開口部60から右冠状動脈50内に挿入する。さらに、ガイドワイヤ1を進め、先端から右冠状動脈内に挿入し、先端が血管狭窄部70を超えた位置で停止する。これにより、バルーンカテーテル20の通路が確保される。なお、このとき、ガイドワイヤ1の溶接部14(または第2テーパ部634の基端部)は、大動脈弓40の下流側(生体内)に位置している。
次に、図5に示すように、ガイドワイヤ1の基端側から挿通されたバルーンカテーテル20の先端をガイディングカテーテル30の先端から突出させ、さらにガイドワイヤ1に沿って進め、右冠状動脈開口部60から右冠状動脈50内に挿入し、バルーンが血管狭窄部70の位置に到達したところで停止する。
次に、バルーンカテーテル20の基端側からバルーン拡張用の流体を注入して、バルーン201を拡張させ、血管狭窄部70を拡張する。このようにすることによって、血管狭窄部70の血管に付着堆積しているコレステロール等の堆積物は物理的に押し広げられ、血流阻害が解消できる。
以上、本発明のガイドワイヤを図示の実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、ガイドワイヤを構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物が付加されていてもよい。
図1に示す参考例では、ガイドワイヤは、第1ワイヤにおいて芯材が露出する露出部を有さないもの、すなわち、管状ワイヤが芯材の先端まで設けられたような構成であってもよい。この場合、第1ワイヤの先端部における、管状ワイヤの外径と芯材の外径との比率を適宜設定することにより、ガイドワイヤの先端部のリシェイプ性を確保することができる。
また、図1に示す参考例では、第1ワイヤにおいて、芯材と管状ワイヤとの間には、任意の目的の層(例えば、芯材と管状ワイヤとの密着性を向上し得る中間層)を設けることもできる。