JP2008101656A - 固定式等速自在継手 - Google Patents
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Abstract
【課題】 外輪のトラック溝の成形性およびダイスの寿命を共に向上させ、過大な余肉の発生を抑制する。
【解決手段】 内球面12に複数のトラック溝14を形成した外輪10と、外球面に複数のトラック溝を形成した内輪と、外輪10と内輪間に介在してトルクを伝達する複数のボールと、外輪10と内輪間に介在してボールを保持するケージとを備え、外輪10のトラック溝14の開口側溝底をテーパ状にすると共に内輪のトラック溝の奥側溝底をテーパ状とし、外輪10のトラック溝14の直線部分14bと対応する外径をトラック溝14の直線部分14bと同一テーパ角度αを持つ円錐形状とし、外輪10のトラック溝14を冷間鍛造仕上げにより形成する。
【選択図】 図3
【解決手段】 内球面12に複数のトラック溝14を形成した外輪10と、外球面に複数のトラック溝を形成した内輪と、外輪10と内輪間に介在してトルクを伝達する複数のボールと、外輪10と内輪間に介在してボールを保持するケージとを備え、外輪10のトラック溝14の開口側溝底をテーパ状にすると共に内輪のトラック溝の奥側溝底をテーパ状とし、外輪10のトラック溝14の直線部分14bと対応する外径をトラック溝14の直線部分14bと同一テーパ角度αを持つ円錐形状とし、外輪10のトラック溝14を冷間鍛造仕上げにより形成する。
【選択図】 図3
Description
本発明は固定式等速自在継手に関し、詳しくは、自動車や各種産業機械の動力伝達系において使用されるもので、駆動側と従動側の二軸間で作動角度変位のみを許容する固定式の等速自在継手に関する。
近年、自動車の乗車空間拡大の観点からホイールベースを長くすることがあるが、それに伴って車両回転半径が大きくならないようにするため、自動車のドライブシャフト等の連結用継手として使用されている固定式等速自在継手の高角化による前輪の操舵角の増大が求められている。
一般的に、この等速自在継手は、図9に示すように内球面112に複数のトラック溝114を円周方向等間隔に軸方向に沿って開口端118に向けて形成した外側継手部材としての外輪110と、外球面122に外輪110のトラック溝114と対をなす複数のトラック溝124を円周方向等間隔に軸方向に沿って形成した内側継手部材としての内輪120と、外輪110のトラック溝114と内輪120のトラック溝124との間に介在してトルクを伝達する複数のボール130と、外輪110の内球面112と内輪120の外球面122との間に介在してボール130を保持するケージ140とを備えている。
前述した高角化のニーズに対する等速自在継手は、大きな作動角を取り得る構造とするため、図9に示すようにケージ140の内球面144の曲率中心O3と、外球面142の曲率中心O4とは、継手中心面Pに対して等距離fだけ軸方向逆向きにオフセットされている(ケージオフセット)。このように、ケージオフセットを設けることにより、ケージ140は、外輪110の開口側に向けて厚肉で、かつ、その奥側に向けて薄肉となる形状を有する。
また、外輪110のトラック溝114の曲率中心O1および内輪120のトラック溝124の曲率中心O2は、外輪110の内球面112の曲率中心O4および内輪120の外球面122の曲率中心O3に対して等距離Fだけ軸方向逆向きにオフセットされている(トラックオフセット)。このように、トラックオフセットを設けることにより、外輪110のトラック溝114および内輪120のトラック溝124のそれぞれは、外輪110の開口側で深く、かつ、その奥側で浅くなっている。これら一対のトラック溝114,124により、外輪110の奥側から開口側に向けて径方向間隔が徐々に増加する楔状のボールトラックが形成されている。
なお、内輪120の外球面122の曲率中心O3は、ケージ140の内球面144の曲率中心と一致し、外輪110の内球面112の曲率中心O4は、ケージ140の外球面142の曲率中心と一致している。これにより、内輪120の外球面122はケージ140の内球面144と接し、外輪110の内球面112はケージ140の外球面142と接する。
この固定式等速自在継手では、さらに高角化を図るため、外輪110のトラック溝114の開口側溝底を、その外輪110の開口側に向けて直線的に拡径したテーパ状にすると共に、内輪120のトラック溝124の奥側溝底を、その内輪120の奥側に向けて直線的に拡径したテーパ状とすることにより、高角域の作動を実現している(例えば、特許文献1〜3参照)。
特開2001−153149号公報
特開2001−304282号公報
特開2001−349332号公報
ところで、前述した固定式等速自在継手では、外輪110のトラック溝114の開口側溝底を、その外輪110の開口側に向けて直線的に拡径したテーパ状にすると共に、内輪120のトラック溝124の奥側溝底を、その内輪120の奥側に向けて直線的に拡径したテーパ状とすることにより、作動角の高角化を図っている。
この固定式等速自在継手の外輪110は、その外径が円筒形状をなし、高角化を実現するために、開口端118に向けて直線的に拡径したテーパ状としている。このことから、図10に示すようにそのテーパ状をなすトラック溝114の直線部分114bで、外輪110の開口端118での肉厚D1が反開口側での肉厚D2よりも小さくなっている(D1<D2)。
このように、従来の等速自在継手では、外輪110のトラック溝底から外径までの肉厚が軸方向で不均一となっている。特に、前述したようにトラック溝114の直線部分114bで開口端118での肉厚D1が反開口側での肉厚D2よりも小さくなっている。このことから、外輪110のトラック溝114をダイスおよびパンチからなる成形治具を用いて塑性加工により形成する場合、ダイスに加わる負荷も、外輪110の肉厚が異なる部位と対応する部分で変動することになる。その結果、外輪110のトラック溝114の成形性が悪化し、ダイスの寿命が短くなるという問題が発生する。
また、外輪110の肉厚が軸方向で不均一でありその開口端118に向けて薄肉となっているため、外輪110の開口端面に過大な余肉が発生し、その余肉が過大である分、余肉を旋削する取り代が増加してしまうことで加工に手間がかかるという問題も生じる。
これらの問題により外輪110のトラック溝114を塑性加工により形成することが困難であり、そのトラック溝114を機械加工により形成しようとした場合、加工工数が増加すると共にコストが高騰するという問題があった。
そこで、本発明は前述の問題点に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、外輪のトラック溝の成形性およびダイスの寿命を共に向上させ、開口端面の過大な余肉の発生を抑制し得る構造を具備した高角化の固定式等速自在継手を提供することにある。
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明は、内球面に複数のトラック溝を円周方向等間隔に軸方向に沿って開口端に向けて形成した外側継手部材と、外球面に外側継手部材のトラック溝と対をなす複数のトラック溝を円周方向等間隔に軸方向に沿って形成した内側継手部材と、外側継手部材と内側継手部材の両トラック溝間に介在してトルクを伝達する複数のボールと、外側継手部材の内球面と内側継手部材の外球面との間に介在してボールを保持するケージとを備え、ケージの外球面中心と内球面中心は継手中心に対して軸方向反対側にオフセットされ、ケージの縦断面において、外側継手部材の開口端側を厚肉にすると共にその反開口端側を薄肉にし、外側継手部材のトラック溝の開口端側溝底を、開口端に向けて直線的に拡径したテーパ状にすると共に、内側継手部材のトラック溝の反開口端側溝底を、その反開口端側に向けて直線的に拡径したテーパ状とし、外側継手部材のトラック溝の直線部分と対応する外径をトラック溝の直線部分と同一テーパ角度を持つ円錐形状とし、外側継手部材のトラック溝を冷間鍛造仕上げにより形成したことを特徴とする。
本発明では、外側継手部材のトラック溝の直線部分と対応する外径をトラック溝の直線部分と同一テーパ角度を持つ円錐形状としたことにより、そのトラック溝の直線部分での肉厚が軸方向で均一となるため、外側継手部材のトラック溝を塑性加工により形成する場合、トラック溝の成形性およびダイス寿命の向上が図れる。また、外側継手部材の開口端に向けて薄肉となっていないのでトラック溝の直線部分で充分な肉厚を確保することができるため外輪強度の向上も見込める。また、外側継手部材の開口端面で過大な余肉が発生することもないので、外側継手部材の開口端面の旋削取り代も少なくすることができ、加工の簡略化が図れる。
前述した構成におけるケージは、その外球面の開口側端部を軸方向に向けて延在させ、ケージの内球面の開口側端部を外球面の開口側端部に向けて拡径するテーパ状とした構造が望ましい。ここで、ケージの外球面の開口側端部を軸方向に向けて延在させる場合、等速自在継手が最大作動角をとった状態で、内側継手部材に取り付けられたシャフトがケージの開口側端部と干渉しない程度にその外球面の開口側端部を延在させる。
シャフトがケージの開口側端部と干渉しない程度までケージの外球面の開口側端部を延在させる場合、ケージの内球面の開口側端部のテーパ角度を、外側継手部材と内側継手部材がなす最大作動角の半分以上とすることが望ましい。このようにテーパ角度を最大作動角の半分以上とすれば、高角域においてもケージの外球面と外側継手部材の内球面との接触面積を確保することができる点で好ましい。なお、このテーパ角度が最大作動角の半分よりも小さければ、シャフトがケージのテーパ状開口側端部と干渉することになる。
このように高角域においてもケージの外球面と外側継手部材の内球面との接触面積を確保することができることにより、最大作動角をとった時に、ボールがケージを開口側へ押し、そのケージの外球面の開口側端部と外側継手部材の内球面が強く擦れ合っても発熱による耐久性の低下や伝達トルクの損失を最小限に抑えることができる。また、ケージの剛性を最大限に確保することができるので、ケージ自体の強度も向上する。
本発明では、外側継手部材および内側継手部材の両トラック溝をテーパ状とすることにより、外側継手部材の外径を大きくすることなく、作動角の高角化を容易に実現する上で、外側継手部材の肉厚を薄くしてもその外側継手部材の強度および加工性を低下させないように、この固定式等速自在継手の内部諸元の中で、トラック溝をテーパ状にすることによる影響および傾向を検証し、前述のトラック溝のテーパ角度の最適値としてその上限値を12°に規定した。
本出願人は、従来必要な基本性能である強度や耐久性を確保しながら、静的内部力解析、有限要素法(FEM)解析を用いて検討を進め、トラック溝のテーパ角度の範囲を絞り込んで最適設定した。そして、テーパ角度を変えたサンプルの評価結果と解析結果との整合性を確認した。
前述の構成において、ケージの外球面中心と内球面中心とのケージオフセット量fと、外側継手部材のトラック溝の曲率中心または内側継手部材のトラック溝の曲率中心とボール中心との距離PCRとの比の値f/PCRが0.12以下であることが望ましい。このケージオフセット量fは、ケージの縦断面における肉厚差に関係するため、この点を考慮してケージオフセット量fを設定することが望ましい。
例えば、ケージオフセット量fを大きく設定することにより、外側継手部材の開口側にケージの厚肉側を位置させるようにすれば、外側継手部材の開口側のケージの肉厚を増大させて強度向上を図ることができる利点を有する。また、外側継手部材の開口側のケージの肉厚を増大させることによって、作動角をとった時、外側継手部材の開口端部から飛び出そうとするボールをケージで拘束することができる。
ただし、ケージオフセット量fが大きすぎると、ケージのポケット内におけるボールの周方向移動量が大きくなり、ボールの適正な運動を確保するため、ケージのポケットの周方向寸法を大きくする必要が生じるので、ケージの柱部が細くなり、強度面が問題となる。また、ケージの入口側と反対側に位置する奥側の肉厚が小さくなり、強度面が問題となる。
以上より、ケージオフセット量fが過大であるのは好ましくなく、ケージオフセット量fを設ける意義と前述の強度面での問題との均衡を図り得る最適範囲が存在する。ただ、ケージオフセット量fの最適範囲は継手の大きさによって変わるので、継手の大きさを表わす基本寸法との関係において求める必要がある。そのため、ケージオフセット量fと、外側継手部材のトラック溝の曲率中心または内側継手部材のトラック溝の曲率中心とボール中心との距離PCRとの比f/PCRを用いる。
そこで、前述の構成におけるケージオフセット量は、そのケージオフセット量fと、作動角0°時における外側継手部材のトラック溝の曲率中心または内側継手部材のトラック溝の曲率中心とボール中心との距離PCRとの比f/PCRを0より大きく、かつ、0.12以下とすることが望ましい。
この比f/PCRが0.12より大きいと前述の強度面での問題がある。逆に、0以下であるとケージオフセット量fを設ける意義がなくなる。すなわち、ケージオフセット量fが0の場合、トラックオフセット量も0のため、オフセットが0となり、くさび角=0でボール(ケージ)位置が定まらず、作動性が著しく悪化することから、0以下の範囲では、その目的が達成できない。従って、ケージ強度の確保、耐久性の確保の点から、比f/PCRが0より大きく、かつ、0.12以下であることが、ケージオフセット量fの最適範囲である。
なお、本発明は、ボール数が6個あるいは8個である固定式等速自在継手に適用可能であるが、ボール数が8個の固定式等速自在継手に適用すれば、固定式等速自在継手のコンパクト化が図れる点で有効である。
本発明では、外側継手部材のトラック溝の直線部分と対応する外径をトラック溝の直線部分と同一テーパ角度を持つ円錐形状としたことにより、そのトラック溝の直線部分での肉厚が軸方向で均一となるため、外側継手部材のトラック溝を塑性加工により形成する場合、トラック溝の成形性およびダイス寿命の向上が図れる。また、外側継手部材の開口端に向けて薄肉となっていないのでトラック溝の直線部分で充分な肉厚を確保することができるため外輪強度の向上も見込める。また、外側継手部材の開口端面で過大な余肉が発生することもないので、外側継手部材の開口端面の旋削取り代も少なくすることができ、加工の簡略化が図れる。
このことから、外側継手部材のトラック溝を冷間鍛造仕上げにより形成することが容易となり、そのトラック溝の機械加工を削減でき、加工工数の削減およびコストの低減化が図れる。その結果、作動角の高角化を容易に実現することができ、近年における自動車の乗車空間拡大の観点からホイールベースを長くする要望に対して、車両回転半径が大きくならないように前輪の操舵角の増大を容易に図ることができる。
本発明に係る固定式等速自在継手の実施形態を以下に詳述する。
図1に示す固定式等速自在継手は、外輪10と、内輪20と、ボール30と、ケージ40を主要な構成要素としている。この固定式等速自在継手によって連結すべき二軸、例えば従動側の回転軸(図示せず)を外輪10と結合し、駆動側の回転軸(図示せず)を結合して、両者が角度をなした状態でも等速でトルクを伝達するようになっている。なお、図4は外輪10の回転軸Xと内輪20の回転軸Y(内輪20に連結されたシャフト50の中心軸)とが最作動角θをとった状態を示し、図1はその作動角が0°の状態を示す。
外側継手部材としての外輪10はマウス部16とステム部(図示せず)とからなり、ステム部にて従動側の回転軸とトルク伝達可能に結合する。マウス部16は一端にて開口した椀状で、その内球面12に、軸方向に延びた複数のトラック溝14が円周方向等間隔に形成されている。そのトラック溝14はマウス部16の開口端18まで延びている。
内側継手部材としての内輪20は、その外球面22に、軸方向に延びた複数のトラック溝24が円周方向等間隔に形成されている。そのトラック溝24は内輪20の軸方向に切り通されている。内輪20は駆動側の回転軸とトルク伝達可能に結合するためのスプライン孔26を有している。
外輪10のトラック溝14と内輪20のトラック溝24とは対をなし、各対のトラック溝14,24で構成されるボールトラックに1個ずつ、トルク伝達要素としてのボール30が転動可能に組み込んである。ボール30は外輪10のトラック溝14と内輪20のトラック溝24との間に介在してトルクを伝達する。
各ボール30はケージ40の円周方向に配設したポケット46内に収容されている。ボール30の数、換言すれば、トラック溝14,24の数は任意であるが、例を挙げるならば6あるいは8である。コンパクトな等速自在継手を実現する上では、この実施形態のようにボール30は8個が好ましい。
ケージ40は外輪10と内輪20との間に摺動可能に介在し、外球面42にて外輪10の内球面12と接し、内球面44にて内輪20の外球面22と接する。外輪10の内球面12の曲率中心とケージ40の外球面42の曲率中心とは一致し、図2に符号O4で示している。同様に、内輪20の外球面22の曲率中心とケージ40の内球面44の曲率中心とは一致し、図2に符号O3で示している。なお、図面では、外輪10の内球面12とケージ40の外球面42との間、内輪20の外球面22とケージ40の内球面44との間のすきまが誇張して示している。
外輪10のトラック溝14は円弧部分14aと直線部分14bとからなり、円弧部分14aはマウス部16の奥側つまり反開口端側に位置し、直線部分14bは開口端側に位置する。そして、トラック溝14は、開口端側の溝底を、開口端18に向かって直線的に拡径するテーパ角度αのテーパ状としている。
内輪20のトラック溝24は円弧部分24aと直線部分24bとからなり、円弧部分24aは外輪10の開口端側に位置し、直線部分24bは反開口端側に位置する。そして、トラック溝24は、外輪10の奥側つまり反開口端側の溝底を、反開口端側に向かって直線的に拡径するテーパ角度αのテーパ状としている。
この継手では、大きな作動角θを取り得る構造とするため、図2に示すように、外輪10のトラック溝14の曲率中心O1は内球面12の中心O4に対して、内輪20のトラック溝24の曲率中心O2は外球面22の中心O3に対して等距離Fだけ軸方向逆向きにオフセットさせている(トラックオフセット)。同様に、ケージ40の外球面42の曲率中心O4と内球面44の曲率中心O3は、継手中心Oに対して等距離fだけ軸方向逆向きにオフセットさせている(ケージオフセット)。このケージオフセット量はトラックオフセット量に対して大きく設定されている。
図4に示すように、外輪10の回転軸Xと内輪20の回転軸Yが0°以外のある作動角θをとったとき、両回転軸X,Yのなす角度θの二等分線に垂直な平面すなわち継手中心面P内にすべてのボール30があれば、ボール中心から両回転軸X,Yまでの距離が相等しく、したがって、両回転軸X,Y間で等角速度で回転運動の伝達が行われる。継手中心面Pと回転軸X,Yとの交点を継手中心Oと称する。固定式等速自在継手では、作動角θに関わりなく継手中心Oは固定されている。
対をなす外輪10のトラック溝14と内輪20のトラック溝24とで構成されるボールトラックは、トラックオフセットを設けることにより、外輪10のマウス部16の奥側から開口端側に向かって径方向間隔が徐々に拡大する楔状を呈している。
ケージ40は、前述したようにケージオフセットを設けたことにより、外輪10の開口端側に向けて厚肉で、その反開口端側に向けて薄肉となった形状を有する。つまり、外輪10の開口端側に厚肉部41、その反開口端側に薄肉部43が配されている。この厚肉部41の外球面側を軸方向に向けて延在させ、厚肉部41の内球面側を外球面側に向けて拡径するテーパ状としている。
このようにケージ40の厚肉部41の外球面側を軸方向に向けて延在させることにより、継手が最大作動角をとった時、高角域においてもケージ40の外球面42と外輪10の内球面12との接触面積を確保することができる。その結果、ボール30がケージ40を開口端側へ押し、そのケージ40の厚肉部41の外球面42と外輪10の内球面12が強く擦れ合っても発熱による耐久性の低下や伝達トルクの損失を最小限に抑えることができる。また、ケージ40の剛性を最大限に確保することができるので、ケージ自体の強度も向上する。
また、ケージ40の厚肉部41の内球面側を外球面側に向けて拡径するテーパ状とすることにより、継手が最大作動角をとった状態で、内輪20に取り付けられたシャフト50がケージ40の厚肉部41と干渉しないようにすることができる(図4参照)。
この実施形態の等速自在継手では、外輪10のトラック溝14の直線部分14bと対応する外径をトラック溝14の直線部分14bと同一テーパ角度αを持つ円錐形状としている。ここで、従来品の外輪110と本発明品の外輪10を比較するため、従来品の外輪110を図3(a)に示し、本発明品の外輪10を同図(b)に示す。
図3(a)に示すように、従来の等速自在継手では、外輪110のトラック溝114の直線部分114bと対応する外径を円筒形状とし、その開口端118に向けて直線的に拡径したテーパ状としている。このことから、テーパ角度αを持つトラック溝114の直線部分114bで、外輪110の開口端118での肉厚D1が反開口側での肉厚D2よりも小さくなっている(D1<D2)。
これに対して、図3(b)に示すように、本発明の等速自在継手では、外輪10のトラック溝14の直線部分114bと対応する外径をトラック溝14の直線部分14bと同一テーパ角度αを持つ円錐形状としている。その結果、トラック溝14の直線部分14bで、外輪10の開口端18での肉厚D1が反開口端での肉厚D2と等しくなっている(D1=D2)。
本発明品のように、外輪10のトラック溝14の直線部分14bと対応する外径をトラック溝14の直線部分14bと同一テーパ角度αを持つ円錐形状としたことにより、前述したようにトラック溝14の直線部分14bでの肉厚が軸方向で均一となる(D1=D2)。これにより、外輪10のトラック溝14をダイスおよびパンチからなる成形治具を用いて塑性加工により形成する場合、ダイスに加わる負荷も、外輪10のトラック溝14の直線部分14bと対応する部分で均等になる。その結果、外輪10のトラック溝14の成形性が向上し、ダイスの長寿命化が図れ、外輪10のトラック溝14を冷間鍛造仕上げにより形成することが容易となり、そのトラック溝14の機械加工を削減でき、加工工数の削減およびコストの低減化が図れる。
また、外輪10の開口端18に向けて薄肉となっていないのでトラック溝14の直線部分14bで充分な肉厚を確保することができるため外輪強度の向上も見込める。また、外輪10の開口端面で過大な余肉が発生することもない。その結果、外輪10の開口端面の旋削取り代も少なくすることができ、加工の簡略化が図れる。
なお、外輪10を製作するに際しては、その強度を確保するために熱処理などが施されるが、その熱処理後の変形などを防止し、トラック溝14の成形性をより一層向上させる必要がある場合には、冷間鍛造後に機械加工によりトラック溝14を仕上げ加工してもよい。また、外輪10の外径をコンパクト化する場合には、外輪10のトラック溝14の直線部分14bと対応する外径部位を旋削加工などにより除去するようにしてもよい。
外輪10と内輪20が最大作動角θをとったとき、外輪10のマウス部16の開口端18からボール30が飛び出すことを防止するため、ケージ40のポケット46で拘束できるようにケージオフセット量fを従来のものよりも大きく設定する。すなわち、ケージオフセット量をf、ボール30の中心軌跡半径値、すなわち、作動角0°時における外輪10のトラック溝14の曲率中心O1または内輪20のトラック溝24の曲率中心O2とボール30の中心O5とを結ぶ線分の長さをPCRとした場合、f/PCRが0より大きく、かつ、0.12以下となるように設定する。
このように、外輪10および内輪20の両トラック溝14,24をテーパ状とすれば、最大作動角の高角化と共に、外輪10のトラック溝14におけるボール30との接触長さを確保することができるので、外輪10と内輪20との間で安定したトルク伝達を確保することができる。また、作動角をとった時にボール30が最も飛び出そうとする位相(位相角φ=0°)(図5参照)のトラック荷重およびポケット荷重を低減することができるので、外輪10と内輪20の高角域での作動において有利である。ここで、トラック荷重とは、接触するボール30からトラック溝14,24が受ける荷重を意味する。
また、ケージ40の外球面42は外輪10の内球面12に接触案内され、ケージ40の内球面44は内輪20の外球面22に接触案内され、トルク伝達時にケージ40と外輪10または内輪20との間で球面力が作用するが、その球面力の最大値を低減することができ、継手内部での発熱を抑制できる。
外輪10および内輪20の両トラック溝14,24をテーパ状とすることにより、前述したトラック荷重、ポケット荷重および球面力からなる内部力の影響および傾向を検証し、有限要素法(FEM)解析を実施することで、トラック溝14,24のテーパ角度α(図1および図2参照)の範囲を絞り込んで最適設定した。
まず、トラック溝14,24のテーパ角度αを大きくすることによる内部力(トラック荷重、ポケット荷重および球面力)の傾向は、表1のとおりである。なお、表1において、ボール30が最も飛び出そうとする位相(位相角φ=0°)と内部力が最大値となるボール30の位相、つまり、ボール30が最も奥に入る位相(位相角φ=180°付近)について検証した(図5参照)。また、球面力の変動幅とは、球面力の最大値と最小値との差を意味する。
表1から明らかなようにテーパ角度αを大きくすると、ポケット荷重の最大値が大きくなるが、ボール30が最も奥に入る位相(位相角φ=180°付近)で外輪10の肉厚を大きく、また、ケージオフセット量を大きくしてケージ40の肉厚を大きくすることにより強度を確保することができるので問題にはならない。
次に、テーパ角度αの上限値を決定するために、有限要素法(FEM)解析を実施した。テーパ角度αが大きくなれば、ボール30が最も飛び出そうとする位相(位相角φ=0°)では内部力(トラック荷重およびポケット荷重)が小さくなり、強度的に有利になるが、外輪10の開口端18でありその肉厚が小さくなるため、トラック溝14に発生する応力値を継手強度に換算して傾向を確認した。その結果は、図6に示すとおりである。同図に示す特性から明らかなようにテーパ角度αが12.9°で継手強度が必要強度を下回ることから、テーパ角度αの最適範囲としてその上限値を12°として規定した。
なお、前述の実施形態では、トラックオフセットを設けた場合について例示したが、そのトラックオフセットを設けずにトラックオフセット量Fを0にしてもよい。トラックオフセットを設けていると、外輪10のトラック溝14の円弧部分14aがその奥側に向けて浅くなることから、作動角をとった時にトラック溝14の最奥部に位置するボール30の乗り上げが生じる可能性がある。
そこで、外輪10のトラック溝14の曲率中心O1をその内球面12の曲率中心O4に一致させ、かつ、内輪20のトラック溝24の曲率中心O2をその外球面22の曲率中心O3に一致させてトラックオフセット量Fを0とすることにより、外輪10のトラック溝14の円弧部分14aが奥側に向けて浅くなることがなく均一な深さとなることから、作動角をとった時にトラック溝14の最奥部に位置するボール30の乗り上げを抑制することができる。
トラックオフセット量F、ケージオフセット量f、テーパ角度αの各因子を変動させて内部力解析を行った結果を次に述べる。ここで、トラックオフセットについては、高角域に入っても許容負荷トルクが落ちない超高角固定式等速自在継手の特性を考慮してトラックオフセット量F=0すなわち「トラックオフセットなし」とした。ケージオフセットについては、内部力の観点からはできるだけ小さい方がよいが、継手の機能確保のためにはある程度ケージオフセットをつけなくてはならないことから、0≦f/PCR≦0.150で変動させた。テーパ角度αについては、0°から12°までの範囲で変動させた。
ケージオフセット量f=0(f/PCR=0)ならば、テーパ角度αが1.1°以上のとき、ボール30が最も飛び出そうとする位相(0°位相)のトラック荷重およびポケット荷重はゼロになる。一方、テーパ角度α=12°ならば、ケージオフセット量f=3.94(f/PCR=0.114)以下のとき、ボール30が最も飛び出そうとする位相(0°位相)のトラック荷重およびポケット荷重はゼロになる。
つまり、ケージオフセット量fとテーパ角度αとの関係が図7の斜線領域内に設定されていれば、ボール30が最も飛び出そうとする位相(0°位相)のトラック荷重およびポケット荷重はゼロになる。ここで、図7は内部力解析により算出したデータに基づいて作図したもので、横軸がテーパ角度α(deg)、縦軸がf/PCRを表している。
これより、ボール30が最も飛び出そうとする位相(0°位相)に負荷される荷重を極力小さくし、より高角作動域において有利となる内部仕様は次のようになる。
トラックオフセット:なし
ケージオフセット量f:0<f/PCR≦0.12
テーパ角度α:1°≦α≦12°
トラックオフセット:なし
ケージオフセット量f:0<f/PCR≦0.12
テーパ角度α:1°≦α≦12°
また、この実施形態では、ボール30が最も飛び出そうとする位相(0°位相)における荷重が低減する一方、ピークの荷重は従来の等速自在継手と比較して大きくなることから、強度を確保するため、ケージ40の厚肉部41を外輪10の開口端側に向けた配置とするのが好ましい。
前述の内部仕様で寸法を設定した本発明による固定式等速自在継手(実施例)と従来の固定式等速自在継手(比較例)について、最大作動角時のボール30が最も飛び出そうとする位相(0°位相)におけるトラック荷重およびポケット荷重を算出したところ、結果は図8に示すとおりであった。同図より、比較例に対して実施例が、トラック荷重とポケット荷重のいずれも8割以上減少していることが分かる。
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
10 外側継手部材(外輪)
12 外側継手部材(外輪)の内球面
14 外側継手部材(外輪)のトラック溝
18 開口端
20 内側継手部材(内輪)
22 内側継手部材(内輪)の外球面
24 内側継手部材(内輪)のトラック溝
30 ボール
40 ケージ
42 ケージの外球面
44 ケージの内球面
f ケージオフセット量
F トラックオフセット量
O1 外側継手部材(外輪)のトラック溝の曲率中心
O2 内側継手部材(内輪)のトラック溝の曲率中心
O3 ケージの内球面中心
O4 ケージの外球面中心
α トラック溝のテーパ角度
12 外側継手部材(外輪)の内球面
14 外側継手部材(外輪)のトラック溝
18 開口端
20 内側継手部材(内輪)
22 内側継手部材(内輪)の外球面
24 内側継手部材(内輪)のトラック溝
30 ボール
40 ケージ
42 ケージの外球面
44 ケージの内球面
f ケージオフセット量
F トラックオフセット量
O1 外側継手部材(外輪)のトラック溝の曲率中心
O2 内側継手部材(内輪)のトラック溝の曲率中心
O3 ケージの内球面中心
O4 ケージの外球面中心
α トラック溝のテーパ角度
Claims (6)
- 内球面に複数のトラック溝を円周方向等間隔に軸方向に沿って開口端に向けて形成した外側継手部材と、外球面に前記外側継手部材のトラック溝と対をなす複数のトラック溝を円周方向等間隔に軸方向に沿って形成した内側継手部材と、前記外側継手部材と内側継手部材の両トラック溝間に介在してトルクを伝達する複数のボールと、外側継手部材の内球面と内側継手部材の外球面との間に介在してボールを保持するケージとを備え、
前記ケージの外球面中心と内球面中心は継手中心に対して軸方向反対側にオフセットされ、ケージの縦断面において、外側継手部材の開口端側を厚肉にすると共にその反開口端側を薄肉にし、
前記外側継手部材のトラック溝の開口端側溝底を、前記開口端に向けて直線的に拡径したテーパ状にすると共に、前記内側継手部材のトラック溝の反開口端側溝底を、その反開口端側に向けて直線的に拡径したテーパ状とし、
前記外側継手部材のトラック溝の直線部分と対応する外径を前記トラック溝の直線部分と同一テーパ角度を持つ円錐形状とし、前記外側継手部材のトラック溝を冷間鍛造仕上げにより形成したことを特徴とする固定式等速自在継手。 - 前記ケージの外球面の開口側端部を軸方向に向けて延在させ、ケージの内球面の開口側端部を外球面の開口側端部に向けて拡径するテーパ状とした請求項1に記載の固定式等速自在継手。
- 前記ケージの内球面の開口側端部のテーパ角度を、外側継手部材と内側継手部材がなす最大作動角の半分以上とした請求項2に記載の固定式等速自在継手。
- 前記外側継手部材および内側継手部材の両トラック溝のテーパ角度の上限値を12°とした請求項1〜3のいずれか一項に記載の固定式等速自在継手。
- 前記ケージの外球面中心と内球面中心とのケージオフセット量fと、作動角0°時における外側継手部材のトラック溝の曲率中心または内側継手部材のトラック溝の曲率中心とボール中心との距離PCRとの比の値f/PCRが0より大きく、かつ、0.12以下である請求項1〜4のいずれか一項に記載の固定式等速自在継手。
- 前記ボールの個数を6個もしくは8個とした請求項1〜5のいずれか一項に記載の固定式等速自在継手。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2006282889A JP2008101656A (ja) | 2006-10-17 | 2006-10-17 | 固定式等速自在継手 |
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JP2008101656A true JP2008101656A (ja) | 2008-05-01 |
Family
ID=39436141
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JP (1) | JP2008101656A (ja) |
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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DE102011075154A1 (de) | 2010-05-07 | 2011-11-10 | Mitsubishi Electric Corporation | Halbleitervorrichtung |
-
2006
- 2006-10-17 JP JP2006282889A patent/JP2008101656A/ja not_active Withdrawn
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