以下、本発明について図面を参照しつつ説明する。なお、実質的に同一の機能を有する部材には全図面を通して同じ符合を付与し、重複する説明は省略する場合がある。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係るインクジェット記録装置を示す概略構成図である。図2は、第1実施形態のインクジェット記録ユニットによる印字領域を示す図である。
本実施形態に係るインクジェット記録装置10(液滴吐出装置)は、図1に示すように、用紙を送り出す用紙供給部12と、用紙の姿勢を制御するレジ調整部14と、インク滴(液滴)を吐出して記録媒体Pに画像形成する記録ヘッド部16と、記録ヘッド部16のメンテナンスを行なうメンテナンス部18とを備える記録部20と、記録部20で画像形成された用紙を排出する排出部22とから基本的に構成される。
用紙供給部12は、用紙が積層されてストックされているストッカ24と、ストッカ24から1枚ずつ枚葉してレジ調整部14に搬送する搬送装置26とから構成されている。
レジ調整部14は、ループ形成部28と用紙の姿勢を制御するガイド部材29が備えられており、この部分を通過することによって用紙のコシを利用してスキューが矯正されると共に搬送タイミングが制御されて記録部20に進入する。
排出部22は、記録部20で画像が形成された用紙が排紙ベルト23を介してトレイ25に収納するものである。
記録ヘッド部16とメンテナンス部18の間には、記録媒体Pが搬送される用紙搬送路が構成されている。用紙搬送路には複数のスターホイール17と搬送ロール19とが配置されており、スターホイール17と搬送ロール19とで記録媒体Pを挟持しつつ連続的に(停止することなく)搬送する。そして、この用紙に対して、記録ヘッド部16からインク滴が吐出され当該記録媒体Pに画像が形成される。
メンテナンス部18は、インクジェット記録ユニット30(インクジェット記録ヘッド32)に対して対向配置されるメンテナンス装置21で構成されており、インクジェット記録ユニット30(インクジェット記録ヘッド32)に対するキャッピングや、ワイピング、さらにダミージェットやバキューム等の処理を行うことができる。
インクジェット記録ユニット30のそれぞれは、インクジェット記録ヘッド32を1つ又は複数備えている。また、図示しないが、複数のインクジェット記録ヘッド32が備えられている場合、インクジェット記録ヘッド32は用紙搬送方向と直交する方向に配置される。用紙搬送路を連続的に搬送される記録媒体Pに対し、インクジェット記録ヘッド32のノズル(不図示)からインク滴を吐出することで、記録媒体P上に画像が記録される。なお、インクジェット記録ユニット30は、たとえば、いわゆるフルカラーの画像を記録するために、YMCKの各色に対応して、少なくとも4つ配置されている。
また、図2に示すように、それぞれのインクジェット記録ユニット30による印字領域幅は、このインクジェット記録装置10での画像記録が想定される記録媒体Pの用紙最大幅PWよりも長くされており、インクジェット記録ユニット30を紙幅方向に移動させることなく記録媒体Pの全幅にわたる画像記録が可能とされている(いわゆるFull Width Array(FWA))。ここで、印字領域とは、用紙の両端から印字しないマージンを引いた記録領域のうち最大のものが基本となるが、一般的には印字対象となる用紙最大幅PWよりも大きくとっている。これは、用紙が搬送方向に対して所定角度傾斜して(スキューして)搬送されるおそれがあること、また縁無し印字の要請が高いためである。
次に、インクジェット記録ユニット30のインクジェット記録ヘッド32について詳細に説明する。図3は、第1実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの底面図及び側面図である。図4は、第1実施形態に係るインクジェット記録ヘッドにおける圧電体周辺を示す部分拡大平面図である。図5は、図4のA−A端面図である。図6は、図4のB−B端面図である。なお、図4中、わかり易く図示するために、共通電極46、圧電体48、信号電極50、信号配線62及び電気伝導層70を実線で示し、共通電極46と信号配線62と電気伝導層70とを異なるドットで示す。以下、同様である。
インクジェット記録ヘッド32は、図3(A)に示すように、圧電体素子34(圧電体48)が、例えば、2560bits(例えば、8行×320列)の碁盤目状に配列されており(但し、各行の位相シフトした配置構成)、各行毎で列方向(記録媒体Pの幅方向)に沿って21μmシフトしている。これにより、1200dpiの解像度を得ることができるようになっている。
2560bitsの圧電体素子34で構成される圧電体群のチップ38の幅方向の両端部には、支持基板40の長手方向に沿って、複数の駆動チップ42が等間隔で配設されている。
そして、各圧電体素子34を構成する信号電極50(信号配線62)に接続された引き回し配線44は、支持基板40の長手方向に対して直交する方向(幅方向)へ引き回され、最終的に駆動チップ42のパッドのピッチとの整合性を図り、電気的接続が行われる。ここで、引き回し配線44の配線長を短くする為には、支持基板40の幅方向で圧電体素子34を二つに分け、支持基板40の幅方向に沿って引き回し配線44を引き回す方が望ましい。
また、ここでは、圧電体素子34を2560bitsの碁盤目状に配列し、圧電体素子34の各行毎で列方向に沿って21μmシフトさせ、インクジェット記録ヘッド32に対して記録媒体Pが1回通過することで、記録媒体Pには1200dpiの画像が形成されることになるが、必ずしも、圧電体素子34の各行毎で列方向に沿ってシフトさせる(圧電体素子34の各行を千鳥配列させる)必要はない。
例えば、インクジェット記録ヘッド32を搬送される記録媒体Pの幅方向に沿って移動可能とし、インクジェット記録ヘッド32に対して記録媒体Pが1回通過する毎に、インクジェット記録ヘッド32を相対的にシフトさせることにより、記録媒体Pのn回の通過で所望の解像度が得られるようにしても良い。
インクジェット記録ヘッド32は、図4〜6に示すように、圧電体素子34(圧電体48)が、2560bits(8行×320列)の碁盤目状に配列され、各行毎で列方向に沿って例えば21μmシフトしている。
圧電体素子34は、振動板(ダイアフラム)52Aを有する基板52上に設けられており、下層電極層としての共通電極46、圧電体48、及び上層電極層としての信号電極50がこの順で積層して構成されている。
また、信号電極50表面(圧電体48とは反対側表面)には、一部の接続領域を除いて層間絶縁層56が設けられており、層間絶縁層56は圧電体48の側壁にも延在して当該側壁を覆っている。
層間絶縁層56には、圧電体48の非動作領域であって信号電極50と信号配線62との電気的な接続領域に開口が設けられ、当該開口において圧電体48と信号電極50との電気的な接続を図っている。また、図示を省略するが、圧電体48の非動作領域で共通電極46と共通配線との電気的な接続を図っている。
また、信号電極50と電気的に接続される信号配線62表面には、保護層58が配設されている。但し、この保護層58は、信号配線62のみを被覆するようにして、圧電体48の圧電体動作領域48Aを除いて配設されている。
また、圧電体48の上部には、信号電極50上に層間絶縁層56を介して電気伝導層70が被覆されている。電気伝導層70は圧電体48の側方にも延在して層間絶縁層56を介して圧電体48の側部を覆っている。この電気伝導層70については、後述する。
電気伝導層70の上部であって、圧電体48が変位する圧電体動作領域48A及びその周囲付近を除いた部分に流路基板80が積層され、流路基板80の上には圧力室プレート82が積層されている。流路基板80及び圧力室プレート82には、圧電体動作領域48A及びその周囲付近の電気伝導層70と接する部分に圧力室86が形成されている。圧力室プレート82の上部には、ノズルプレート84が積層されている。ノズルプレート84には、インク滴を吐出するノズル88が圧力室86と連通するように形成されている。
また、基板52には、振動板52Aの下部に流路プレート90が積層され、流路プレート90の下部に貫通口プレート92が積層されている。流路基板80と振動板52Aと流路プレート90には、圧力室86と連通孔87を介して連通する供給孔94が形成されている。また、貫通口プレート92には、供給孔94にインクを供給するインク供給用貫通口96が形成されている。また、流路プレート90には、圧電体動作領域48Aの下方部に振動板52Aを変位させるための空間Sが形成されている。すなわち、振動板52Aの上部であって、圧力室86の下部に圧電体素子34が設けられており、圧電体素子34は圧力室86側に配置される構成となっている。この構成では、圧電体動作領域48Aと圧力室86を備えた流路基板80及び圧力室プレート82との位置合わせが容易である。
ここで、圧電体48を挟む共通電極46及び信号電極50について説明する。共通電極46は、各圧電体48の行毎に形成され、320bitsの圧電体48に対して共通化されている。そして、共通電極46には、これとは異なる階層に配設された共通配線(図示省略)と圧電体48の非動作領域において接続されている。
一方、信号電極50は、各圧電体48毎に形成され、それぞれ、これとは異なる階層に配設された信号配線62と圧電体48の非動作領域において接続されている。信号配線62は信号電極50とは独立して設けることができ、この電極材料としてAl、Cu、Ag等の固有抵抗値10μΩcm以下の材料を適用することで、配線抵抗を十分低下させることができる。
また、圧電体48を挟んで共通電極46と信号電極50が配置され、圧電体48上の信号電極50は、信号配線62を設けて圧電体動作領域48Aの近傍で電気的に接続することにより、圧電体48の各ビットの静電容量のチップ内分布・変動を低く抑えることができる。また、共通電極46および信号電極50に較べて低い固有抵抗値の信号配線62を用いることにより、チップ内の配線抵抗値の分布・変動を共に低く抑えることができる。また、圧電体48は、モノリシック(Monolithic)に構成される。
ここで、電気伝導層70について説明する。
電気伝導層70として、高融点金属、または、その窒化物、珪化物、または、硼化物のいずれかが用いられている。このような材料を選択することで、表面に緻密な酸化膜を形成することができる。また、上記の選択された高融点金属元素は活性であるため、外部からの水分や水素・窒素・酸素等の侵入、電解質インクのアルカリイオンの侵入、及びアルカリイオンによる腐食を阻止するのに最適である。さらに、上記の選択された高融点金属元素は高い吸蔵性を呈するため、予め堆積された層間絶縁層56に残留する未結合の水素・酸素・窒素を電気伝導層70側に吸収して、圧電体48への侵入を阻止することができる。かかる素材として以下が最適であるが、これに限るものではない。
高融点金属:α−Ta(bcc−Ta), bcc−V, bcc−Nb, bcc−Mo, bcc−W, hcp−Ti, hcp−Zr, hcp−Hf, TaMo, TaTi, TiAl, β−Ta, bcc−Ti, bcc−Zr, bcc−Ti, bcc−Zrなどが挙げられる。
高融点金属の窒化物・珪化物・硼化物:
Ta2N,TaN0.1,TaN0.8,TaN,Ta6N2.57,Ta4N,Amorphous−TaNx,
TaB2,TaB,Amorphous−TaBx,
TaSi2,Ta5Si,β−Ta5Si3,α−Ta5Si3,Ta2Si,Ta3Si,Ta4Si,Ta3.28Si0.72,Amorphous−TaSix,
VN,V2N,V6N2.7,VN0.2,VN0.35,Amorphous−VNx,VB2,V1.54B50,Amorphous−VBx,
VSi2,V3Si,V5Si3,Amorphous−VSix,
Nb2N,NbN,NbN0.95,Nb4.62N2.14,Nb4N3.92,Nb4N3,Amorphous−NbNx,
Amorphous−NbBx,
NbSi2,Nb3Si,Amorphous−NbSix,
MoN,Mo2N,Amorphous−MoNx,
MoB4,Mo0.8B3,Mo2B,Amorphous−MoBx,
MoSi2,Mo5Si3,Amorphous−MoSix,
WN,W2N,Amorphous−WNx,
WB4,W2B5,Amorphous−WBx,
WSi2,W5Si3,W3Si,Amorphous−WSix,
TiN,Ti2N,TiN0.26,TiN0.30,Amorphous−TiNx,
TiB2,Amorphous−TiBx,
TiSi2,TiSi,Ti5Si4,Ti5Si3,Amorphous−TiSix,
ZrN0.28,ZrN,Amorphous−ZrNx,
ZrB2,Amorphous−ZrBx,
ZrSi2,ZrSi,Zr5Si3,Amorphous−ZrSix,
HfB2,HfN0.40,HfN,Amorphous−HfNx,
HfB,Amorphous−HfBx,
HfSi2,Hf5Si4,Hf2Si,Hf5Si3,Amorphous−HfSixなどが挙げられる。
また、層間絶縁層56の素材として、例えば、非晶質の電気的絶縁体、特に、酸化珪素(USG: Un−Doped Silicate Glass),窒化珪素,酸窒化珪素,BPSG(Boro−Phospho−Silicate Glass),FSG(Fluorinated Silicate Glass), Black Diamond, FDLC(Fluorinated Diamond−like Carbon), USGにCを添加したSiCO,炭化珪素,タンタル酸化物,アルミニウム酸化物、ジルコニア酸化物,チタニウム酸化物等、または、その非晶質の無機絶縁素材などが用いられる。
以上のようなインクジェット記録ヘッド32では、図5及び図6に示すように、インク供給用貫通口96から供給孔94と、連通孔87と、圧力室86及びノズル88へと連続するインクの流路が形成されており、インク供給用貫通口96から供給されたインクは、供給孔94と連通孔87を経て圧力室86内に充填される。そして、圧電体素子34に駆動電圧が印加されると、圧電体素子34とともに振動板52Aがたわみ変形して圧力室86を膨張又は圧縮させる。これによって、圧力室86に体積変化が生じ、圧力室86内に圧力波が発生する。この圧力波の作用によってインクが運動し、ノズル88から外部へインク滴が吐出される。
このようなインクジェット記録ヘッド32では、圧電体48の上部に、層間絶縁層56を介して被覆した電気伝導層70が表面に緻密な酸化膜を形成するため、圧力室86内のインクと直接接触しても、外部からの水分や水素・窒素・酸素等の侵入、電解質インクのアルカリイオンの侵入、及びアルカリイオンによる腐食を阻止することができる。さらに、電気伝導層70は、堆積法により形成された層間絶縁層56に残留する未結合の水素・酸素・窒素を吸蔵する作用を有し、圧電体48への水素・酸素・窒素の拡散を阻止することができる。従って、圧電性の劣化により変位が低下することなく、圧電体素子34の信頼性を改善することができる。
次に、本実施形態に係る圧電体素子34の製造方法の具体的一例を説明する。
図7は、図5における製造工程を示す工程図である。図8は、図6における製造工程を示す工程図である。
まず、図7(A)及び図8(A)に示すように、熱酸化珪素0.5μm/単結晶珪素3.0μm/熱酸化珪素1.0μm/単結晶珪素300μm/熱酸化珪素0.5μmからなる基板52の単結晶珪素3μm側の面に、スパッタリング法によりTi 100Å/Ir 2500Åを順次堆積してIrからなる共通電極46を形成する。Tiは下地である基板52との吸着促進層である。なお、図7,8では、吸着促進層を含めた共通電極46を1層として表現している。
さらに、520℃雰囲気下でスパッタリング法によりPZT(Lead Zirconate Titanate)からなる圧電体48を4.0μmの厚みで堆積する。更に、その上にIr 2000Åをスパッタリング法により堆積して信号電極50を形成する。なお、本発明では、スパッタリング法により圧電体48を堆積したが、この他、MOCVD法、ゾルゲル法、水熱法等の堆積法を用いることができる。
次に、図7(B)及び図8(B)に示すように、信号電極50と圧電体48と共通電極46とを反応性イオンエッチング法(RIE:Reactive Ion Etching)により順次エッチングし、パターニングする。信号電極50と圧電体48は同一のパターンで描画されるが、共通電極46は異なるパターンで描画される。圧電体素子34は、図4に示すように、個々の圧力室86毎に孤立され、圧電体動作領域48Aと動作領域以外の領域、すなわち、圧力室86を囲む圧電体周囲領域と信号配線62までの接続領域から構成される。
圧電体48の領域境界(端面)は基板面に対して10〜80°の傾斜を設けることが望ましい。80°以上の急激な傾斜では、充分なステップ・カバリッジを得ることができず、信号電極50と電気的接続される信号配線62の断線を招くことがある。10°以下の穏やかな傾斜では、圧電体48の間隔や、圧電体48と信号配線62の領域との間隔が拡がり、圧電体48の配列を高密度に配置することが難しくなることがある。
次に、図7(C)及び図8(C)に示すように、共通電極46と信号配線62との層間分離を図るための層間絶縁層56として、酸窒化珪素SiOxNy 7000Åをプラズマ(Plasma)CVD法により堆積する。
次に、図7(D)及び図8(D)に示すように、圧電体48の非動作領域の信号電極50上に層間絶縁層56の開口56Aを設け、さらに、Ti 100Å/Al 7000Åを堆積・描画し、開口56Aにより露出した信号電極50上に信号配線62を形成する。これにより、信号電極50と信号配線62との電気的接続が圧電体48の非動作領域(圧電体動作領域48Aの近傍)で図られる。層間絶縁層56は共通電極46と信号配線62との層間分離を行い、両者を異なる階層に設けるために機能する他、圧電体48の側壁における保護層として機能する。
次に、図7(E)及び図8(E)に示すように、窒化珪素SiNx 2000Åをプラズマ(Plasma)CVD法により堆積・描画し、信号配線62を保護する保護層58を形成する。
ここで、圧電体48の圧電体動作領域48Aに堆積した膜は、圧電体48の変位に束縛を与える場合がある。このため、保護層58は、圧電体動作領域48Aを除くように信号配線62のある領域のみを被覆している。なお、これに限られず、保護層を圧電体48の圧電体動作領域48Aを含む全面を被覆するように形成することも可能である。
なお、図示を省略するが、共通電極46、信号配線62は圧電体48の基板周囲に引き回され、層間絶縁層56、保護層58の開口に設けられたパッドで、駆動チップ42と電気的接続が図られる。
次に、図7(F)及び図8(F)に示すように、電気伝導層70として、Ta 2000Åを堆積し、信号電極50上に層間絶縁層56を介して圧電体48を被覆するように描画する。
上記の基板52に対して、振動板52Aを形成した後、図5及び図6に示すように複数のプレートを接合して供給孔94などの形成を行い、圧力室86側に圧電体素子34を配置することができる。なお、本実施形態では、共通電極46の配線層(共通配線)を設けていないが、配線抵抗値を下げるため圧電体素子34間の共通電極46上に共通配線を設けても良い。
本実施形態では、信号電極50上に信号配線62を設けた後、層間絶縁層56を介して電気伝導層70を堆積するため、圧電体素子34の全体を保護することができる。
(第2実施形態)
図9は、第2実施形態に係るインクジェット記録ヘッドにおける圧電体周辺を示す部分拡大平面図である。図10は、図9のA−A端面図である。図11は、図9のB−B端面図である。
なお、第1実施形態と同じ部材には同じ符号を用いて説明する。
インクジェット記録ヘッド102は、図9〜12に示すように、圧電体素子104(圧電体48)が、2560bits(8行×320列)の碁盤目状に配列され、各行毎で列方向に沿って例えば21μmシフトしている。
圧電体素子104は、振動板52A(ダイアフラム)を有する基板52上に設けられており、共通電極46(下部電極)、圧電体48、及び信号電極50(上部電極)がこの順で積層して構成されている。圧電体48の圧電体動作領域48Aの上部であって信号電極50の上には、層間絶縁層56を介して電気伝導層110が積層されている。すなわち、圧電体動作領域48A及びその周辺部分が層間絶縁層56を介して電気伝導層110によって被覆されている。電気伝導層110には、第1実施形態の電気伝導層70と同じ材料が用いられている。その他の構成は図4〜図6と同じである。
このような構成では、圧電体動作領域48Aの上部に層間絶縁層56を介して被覆した電気伝導層110が表面に緻密な酸化膜を形成するため、電気伝導層110が圧力室86と接触しても、外部からの水分や水素・窒素・酸素等の侵入、電解質インクのアルカリイオンの侵入、及びアルカリイオンによる腐食を阻止することができる。さらに、電気伝導層110は、堆積法により形成された層間絶縁層56に残留する未結合の水素・酸素・窒素を吸蔵する作用を有し、圧電体48への水素・酸素・窒素の拡散を阻止することができる。従って、本構成では、少なくとも圧電体動作領域48Aを電気伝導層110により被覆することができ、圧電性の劣化により変位が低下することなく、圧電体素子104の信頼性を改善することができる。
次に、第2実施形態に係る圧電体素子104の製造方法の具体的一例を説明する。図12は、図10における製造工程を示す工程図である。図13は、図11における製造工程を示す工程図である。
まず、図12(A)及び図13(A)に示すように、熱酸化珪素0.5μm/単結晶珪素3.0μm/熱酸化珪素1.0μm/単結晶珪素300μm/熱酸化珪素0.5μmからなる基板52の単結晶珪素3μm側の面に、スパッタリング法によりTi 100Å/Ir 2500Åを順次堆積してIrからなる共通電極46を形成する。Tiは下地である基板52との吸着促進層である。なお、図12,13では、吸着促進層を含めた共通電極46を1層として表現している。
さらに、520℃雰囲気下でスパッタリング法によりPZT(Lead Zirconate Titanate)からなる圧電体48を4.0μmの厚みで堆積する。更に、その上にIr 2000Åをスパッタリング法により堆積して信号電極50を形成する。なお、本発明では、スパッタリング法により圧電体48を堆積したが、この他、MOCVD法、ゾルゲル法、水熱法等の堆積法を用いることができる。
次に、図12(B)及び図13(B)に示すように、信号電極50と圧電体48と共通電極46とを反応性イオンエッチング法(RIE:Reactive Ion Etching)により順次エッチングし、パターニングする。信号電極50と圧電体48は同一のパターンで描画されるが、共通電極46は異なるパターンで描画される。圧電体素子104は、図9に示すように、個々の圧力室86毎に孤立され、圧電体動作領域48Aと動作領域以外の領域、すなわち、圧力室86を囲む圧電体周囲領域と信号配線62までの接続領域から構成される。
圧電体48の領域境界(端面)は基板面に対して10〜80°の傾斜を設けることが望ましい。80°以上の急激な傾斜では、充分なステップ・カバリッジを得ることができず、信号電極50と電気的接続される信号配線62の断線を招くことがある。10°以下の穏やかな傾斜では、圧電体48の間隔や、圧電体48と信号配線62の領域との間隔が拡がり、圧電体48の配列を高密度に配置することが難しくなることがある。
次に、図12(C)及び図13(C)に示すように、共通電極46と信号配線62との層間分離を図るための層間絶縁層56として、酸窒化珪素SiOxNy 7000Åをプラズマ(Plasma)CVD法により堆積する。
次に、図12(D)及び図13(D)に示すように、電気伝導層110として、Ta 2000Åを堆積し、層間絶縁層56を介して圧電体動作領域48Aを被覆するように描画する。
次に、図12(E)及び図13(E)に示すように、圧電体48の非動作領域の信号電極50上に層間絶縁層56の開口56Aを設ける。
次に、図12(F)及び図13(F)に示すように、Ti 100Å/Al 7000Åを堆積・描画し、開口56Aにより露出した信号電極50上に信号配線62を形成する。これにより、信号電極50と信号配線62との電気的接続が圧電体48の非動作領域(圧電体動作領域48Aの近傍)で図られている。層間絶縁層56は共通電極46と信号配線62との層間分離を行い、両者を異なる階層に設けるために機能する他、圧電体48の側壁における保護層として機能する。
次に、図12(G)及び図13(G)に示すように、窒化珪素SiNx 2000Åをプラズマ(Plasma)CVD法により堆積・描画し、信号配線62を保護する保護層58を形成する。
ここで、圧電体48の圧電体動作領域48Aに堆積した膜は、圧電体48の変位に束縛を与える場合がある。このため、保護層58は、圧電体動作領域48Aを除くように信号配線62のある領域のみを被覆している。なお、これに限られず、保護層を圧電体48の圧電体動作領域48Aを含む全面を被覆するように形成することも可能である。
なお、図示を省略するが、共通電極46、信号配線62は圧電体48の基板周囲に引き回され、層間絶縁層56、保護層58の開口に設けられたパッドで、駆動チップ42と電気的接続が図られる。
上記の基板52に対して、振動板52Aを形成した後、図10及び図11に示すように複数のプレートを接合して供給孔94などの形成を行い、圧力室86側に圧電体素子104を配置することができる。なお、本実施形態では、共通電極46の配線層(共通配線)を設けていないが、配線抵抗値を下げるため圧電体素子104間の共通電極46上に共通配線を設けても良い。
本実施形態では、信号配線62を堆積する前に、信号電極50上に層間絶縁層56を介して電気伝導層110を堆積するため、圧電体動作領域48Aの全体を保護することができる。
(第3実施形態)
図14は、第3実施形態に係るインクジェット記録ヘッドにおける圧電体周辺を示すA−A端面図である(図4参照)。図15は、第3実施形態に係るインクジェット記録ヘッドにおける圧電体周辺を示すB−B端面図である(図4参照)。
なお、第1実施形態及び第2実施形態と同じ部材には同じ符号を用いて説明する。
インクジェット記録ヘッド122は、圧電体素子124(圧電体48)が、2560bits(8行×320列)の碁盤目状に配列され、各行毎で列方向に沿って例えば21μmシフトしている。
圧電体素子124は、図5及び図6と同じ構成であり、振動板52A(ダイアフラム)を有する基板52上に、共通電極46(下部電極)、圧電体48、及び信号電極50(上部電極)がこの順で積層して構成されている。圧電体48の上部であって信号電極50の上には、層間絶縁層56を介して電気伝導層70が積層されている。
振動板52Aの下部には、圧力室プレート130が積層されている。圧力室プレート130には、圧電体動作領域48Aの下方部に圧力室134が形成されている。圧力室プレート130の下部には、ノズルプレート132が積層されている。ノズルプレート132には、インク滴を吐出するノズル136が圧力室134と連通するように形成されている。
また、圧電体素子124の上部には、圧電体動作領域48Aの上方部に空間Sが形成された流路基板140が設けられている。また、流路基板140の上部には、貫通口プレート142が積層されている。流路基板140と振動板52Aと圧力室プレート130には、圧力室134と連通孔138を介して連通する供給孔144が形成されている。また、貫通口プレート142には、供給孔144にインクを供給するインク供給用貫通口146が形成されている。すなわち、圧力室134の上方部であって、振動板52Aの上部に圧電体素子124が設けられており、圧電体素子124は圧力室134と反対側に配置される構成となっている。
このようなインクジェット記録ヘッド122は、圧電体素子124が圧力室134と反対側に配置され、圧電体48上の信号電極50が層間絶縁層56を介して電気伝導層70で被覆されている。この構成では、電気伝導層70が表面に緻密な酸化膜を形成するため、外部から圧電体48への水分や水素・窒素・酸素等の侵入を阻止することができる。さらに、電気伝導層70は、堆積法により形成された層間絶縁層56に残留する未結合の水素・酸素・窒素を吸蔵する作用を有し、圧電体48への水素・酸素・窒素の拡散を阻止することができる。
(第4実施形態)
図16は、第4実施形態に係るインクジェット記録ヘッドにおける圧電体周辺を示すA−A端面図である(図9参照)。図17は、第4実施形態に係るインクジェット記録ヘッドにおける圧電体周辺を示すB−B端面図である(図9参照)。
なお、第1実施形態〜第3実施形態と同じ部材には同じ符号を用いて説明する。
インクジェット記録ヘッド152は、圧電体素子154(圧電体48)が、2560bits(8行×320列)の碁盤目状に配列され、各行毎で列方向に沿って例えば21μmシフトしている。
圧電体素子154は、図10及び図11と同じ構成であり、振動板52A(ダイアフラム)を有する基板52上に、共通電極46(下部電極)、圧電体48、及び信号電極50(上部電極)がこの順で積層して構成されている。圧電体48の圧電体動作領域48Aの上部であって信号電極50の上には、層間絶縁層56を介して電気伝導層110が積層されている。すなわち、圧電体動作領域48A及びその周辺部分が層間絶縁層56を介して電気伝導層110によって被覆されている。
また、インクジェット記録ヘッド152の他の構成は図14及び図15と同じであり、圧力室134の上方部であって、振動板52Aの上部に圧電体素子154が設けられ、圧電体素子154は圧力室134と反対側に配置される構成となっている。
このような構成では、圧電体動作領域48Aの上部に層間絶縁層56を介して被覆した電気伝導層110が表面に緻密な酸化膜を形成するため、外部からの水分や水素・窒素・酸素等の侵入を阻止することができる。さらに、電気伝導層110は、堆積法により形成された層間絶縁層56に残留する未結合の水素・酸素・窒素を吸蔵する作用を有し、圧電体48への水素・酸素・窒素の拡散を阻止することができる。
(第5実施形態)
図18は、第5実施形態に係るインクジェット記録ヘッドにおける圧電体周辺を示す部分拡大平面図である。図19は、図18のA−A端面図である。図20は、図18のB−B端面図である。
なお、第1実施形態〜第4実施形態と同じ部材には同じ符号を用いて説明する。
インクジェット記録ヘッド172は、図18〜20に示すように、圧電体素子174(圧電体178)が、2560bits(8行×320列)の碁盤目状に配列され、各行毎で列方向に沿って例えば21μmシフトしている。
圧電体素子174は、振動板52Aを有する基板52上に設けられており、下層電極としての共通電極176、圧電体178、及び上層電極としての信号電極180がこの順で積層して構成されている。
また、基板52上の共通電極176の上には、共通電極176の一部を覆うように第1の層間絶縁層184が設けられている。また、信号電極180の表面(圧電体178とは反対側表面)には、一部の接続領域を除いて第2の層間絶縁層186が設けられており、第2の層間絶縁層186は圧電体178の側壁にも延在して当該側壁を覆っている。
第2の層間絶縁層186には、圧電体動作領域178A近傍の非動作領域に、信号電極180と信号配線192との電気的な接続を図るための開口が設けられ、当該開口において信号電極180と信号配線192とが電気的に接続されている。また、第1の層間絶縁層184には、共通電極176と共通配線190との電気的な接続を図るための開口が設けられ、当該開口において共通電極176と共通配線190とが電気的に接続されている。また、共通電極176と電気的に接続される共通配線190表面には第2の層間絶縁層186が設けられている。
また、信号電極180と電気的に接続される信号配線192表面には、保護層188が配設されている。但し、この保護層188は、信号配線192のみを被覆するようにして、圧電体動作領域178Aを除いて配設されている。
また、圧電体178の上部であって信号電極180の上には、層間絶縁層186を介して電気伝導層194が積層されている。電気伝導層194は圧電体178の側方にも延在して第2の層間絶縁層186を介して圧電体178の側壁を覆っている。この電気伝導層194には、第1実施形態の電気伝導層70と同じ材料が用いられている。その他の構成は図4〜図6と同じである。
このような構成では、圧電体178の上部であって信号電極180上に第2の層間絶縁層186を介して被覆した電気伝導層194が表面に緻密な酸化膜を形成するため、電気伝導層194が圧力室86と接触しても、外部からの水分や水素・窒素・酸素等の侵入、電解質インクのアルカリイオンの侵入、及びアルカリイオンによる腐食を阻止することができる。さらに、電気伝導層194は、堆積法により形成された第2の層間絶縁層186に残留する未結合の水素・酸素・窒素を吸蔵する作用を有し、圧電体178への水素・酸素・窒素の拡散を阻止することができる。従って、本構成では、圧電体178の全体を電気伝導層194により被覆することができ、圧電性の劣化により変位が低下することなく、圧電体素子174の信頼性を改善することができる。
次に、本実施形態に係る圧電体素子174の製造方法の具体的一例を説明する。
図21−1及び図21−2は、図19における製造工程を示す工程図である。図22−1及び図22−2は、図20における製造工程を示す工程図である。
まず、図21−1(A)及び図22−1(A)に示すように、熱酸化珪素0.5μm/単結晶珪素3.0μm/熱酸化珪素1.0μm/単結晶珪素300μm/熱酸化珪素0.5μmからなる基板52の単結晶珪素3μm側の面に、スパッタリング法によりTi 100Å/Ir 2500Åを順次堆積し、反応性イオンエッチング法により描画してIrからなる共通電極176を形成する。Tiは下地である基板52との吸着促進層である。なお、図21,22では、吸着促進層を含めた共通電極176を1層として表現している。
次に、図21−1(B)及び図22−1(B)に示すように、第1の層間絶縁層184として、非晶質タンタル酸化物を3000Å堆積し、圧電体動作領域178Aを規定するための開口184Aをホトリソグラフィおよびエッチングにより設ける。
次に、図21−1(C)及び図22−1(C)に示すように、520℃雰囲気下でスパッタリング法によりPZT(Lead Zirconate Titanate)からなる圧電体178を4.0μmの厚みで堆積する。更に、その上にIr 2000Åを順次スパッタリング法により堆積して信号電極180を形成する。なお、本発明では、スパッタリング法により圧電体178を堆積したが、この他、MOCVD法、ゾルゲル法、水熱法等の堆積法を用いることができる。
さらに、信号電極180と圧電体178とを反応性イオンエッチング法(RIE:Reactive Ion Etching)により順次エッチングし、パターニングする。信号電極50と圧電体178は同一のパターンで描画される。圧電体素子174は、図18に示すように、個々の圧力室86毎に孤立され、圧電体動作領域178Aと圧電体動作領域以外の領域、すなわち、圧力室86を囲む圧電体周囲領域と信号配線192までの接続領域から構成される。
圧電体178の領域境界(端面)は基板面に対して10〜80°の傾斜を設けることが望ましい。80°以上の急激な傾斜では、充分なステップ・カバリッジを得ることができず、信号電極180と電気的接続される信号配線192の断線を招くことがある。10°以下の穏やかな傾斜では、圧電体178の間隔や、圧電体178と信号配線192の領域との間隔が拡がり、圧電体178の配列を高密度に配置することが難しくなることがある。
次に、図21−1(D)及び図22−1(D)に示すように、共通電極176と共通配線190との電気的接続を図るための開口184Bを共通電極176上の第1の層間絶縁層184に設ける。
次に、図21−1(E)及び図22−1(E)に示すように、共通配線190として、TiNx100Å/Ti 100Å/Al 5000Å/Ti 100Å/TiNx200Åを堆積・描画し、開口184A上で共通電極176との電気的接続を図る。
次に、図21−2(F)及び図22−2(F)に示すように、共通電極176と信号配線192との層間分離を図るための第2の層間絶縁層186として、酸窒化珪素SiOxNy 7000Åをプラズマ(Plasma)CVD法により堆積する。さらに、圧電体178の非動作領域の信号電極180上に第2の層間絶縁層186の開口186Aを設ける。
次に、図21−2(G)及び図22−2(G)に示すように、Ti 100Å/Al 7000Åを堆積・描画し、開口186Aにより露出した信号電極180上に信号配線192を形成する。これにより、信号電極180と信号配線192との電気的接続が圧電体178の非動作領域(圧電体動作領域178Aの近傍)で図られている。第2の層間絶縁層186は共通配線190と信号配線192との層間分離を行い、両者を異なる階層に設けるために機能する他、圧電体178の側壁における保護層として機能する。
次に、図21−2(H)及び図22−2(H)に示すように、窒化珪素SiNx 2000Åをプラズマ(Plasma)CVD法により堆積・描画し、信号配線192を保護する保護層188を形成する。
ここで、圧電体178の圧電体動作領域178Aに堆積した膜は、圧電体178の変位に束縛を与える場合がある。このため、保護層188は、圧電体動作領域178Aを除くように信号配線192のある領域のみを被覆している。なお、これに限られず、保護層を圧電体178の圧電体動作領域178Aを含む全面を被覆するように形成することも可能である。
なお、図示を省略するが、共通配線190、信号配線192は圧電体178の基板周囲に引き回され、第2の層間絶縁層186、保護層188の開口に設けられたパッドで、駆動チップ42と電気的接続が図られる。
次に、図21−2(I)及び図22−2(I)に示すように、電気伝導層194として、Ta 2000Åを堆積し、第2の層間絶縁層186を介して圧電体178を被覆するように描画する。
上記の基板52に対して、振動板52Aを形成した後、図19及び図20に示すように複数のプレートを接合して供給孔94などの形成を行い、圧力室86側に圧電体素子174を配置することができる。
この構成では、信号電極180上に信号配線192を設けた後、第2の層間絶縁層186を介して電気伝導層194を堆積するため、圧電体素子174全体を保護することができる。
(第6実施形態)
図23は、第6実施形態に係るインクジェット記録ヘッドにおける圧電体周辺を示す部分拡大平面図である。図24は、図23のA−A端面図である。図25は、図23のB−B端面図である。
なお、第1実施形態〜第5実施形態と同じ部材には同じ符号を用いて説明する。
インクジェット記録ヘッド202は、図23〜25に示すように、圧電体素子204(圧電体178)が、2560bits(8行×320列)の碁盤目状に配列され、各行毎で列方向に沿って例えば21μmシフトしている。
圧電体素子204は、振動板52Aを有する基板52上に設けられており、下層電極としての共通電極176、圧電体178、及び上層電極としての信号電極210がこの順で積層して構成されている。この信号電極210は、電気伝導層を兼ねており、高融点金属、および、その窒化物、珪化物、または、硼化物のいずれかが用いられている。
また、基板52上の共通電極176の上には、共通電極176の一部を覆うように、共通電極176と共通配線190との電気的な接続を図るための開口が設けられた第1の層間絶縁層184が設けられている。また、信号電極210の表面(圧電体178とは反対側表面)には、圧電体動作領域178Aと一部の接続領域を除いて第2の層間絶縁層212が設けられており、第2の層間絶縁層212は圧電体178の側壁にも延在して当該側壁を覆っている。
第2の層間絶縁層212には、圧電体178の非動作領域であって信号電極210と信号配線192との電気的な接続領域に開口が設けられ、当該開口において信号電極210と信号配線192との電気的な接続を図っている。また、第1の層間絶縁層184には、共通電極176と共通配線190との電気的な接続を図るための開口が設けられ、当該開口において共通電極176と共通配線190との電気的な接続を図っている。また、共通電極176と電気的に接続される共通配線190表面には第2の層間絶縁層212が設けられている。
また、信号電極210と電気的に接続される信号配線192表面には、保護層214が配設されている。但し、この保護層214は、信号配線192のみを被覆するようにして、圧電体動作領域178Aを除いて配設されている。その他の構成は図18〜図20と同じである。
このような構成では、圧電体178の上部に被覆した電気伝導層としての信号電極210が表面に緻密な酸化膜を形成するため、信号電極210が圧力室86と直接接触しても、外部からの水分や水素・窒素・酸素等の侵入、電解質インクのアルカリイオンの侵入、及びアルカリイオンによる腐食を阻止することができる。従って、本構成では、圧電体178を信号電極210によって保護することができ、圧電性の劣化により変位が低下することなく、圧電体素子204の信頼性を改善することができる。また、信号電極210が電気伝導層を兼ねるため、製造過程を簡略化することができる。
次に、本実施形態に係る圧電体素子204の製造方法の具体的一例を説明する。
図26−1及び図26−2は、図24における製造工程を示す工程図である。図27−1及び図27−2は、図25における製造工程を示す工程図である。
まず、図26−1(A)及び図27−1(A)に示すように、熱酸化珪素0.5μm/単結晶珪素3.0μm/熱酸化珪素1.0μm/単結晶珪素300μm/熱酸化珪素0.5μmからなる基板52の単結晶珪素3μm側の面に、スパッタリング法によりTi 100Å/Ir 2500Åを順次堆積し、反応性イオンエッチング法により描画してIrからなる共通電極176を形成する。Tiは下地である基板52との吸着促進層である。なお、図26,27では、吸着促進層を含めた共通電極176を1層として表現している。
次に、図26−1(B)及び図27−1(B)に示すように、第1の層間絶縁層184として、非晶質タンタル酸化物を3000Å堆積する。
次に、図26−1(C)及び図27−1(C)に示すように、第1の層間絶縁層184に圧電体動作領域178Aを規定するための開口184Aをホトリソグラフィおよびエッチングにより設ける。
次に、図26−1(D)及び図27−1(D)に示すように、520℃雰囲気下でスパッタリング法によりPZT(Lead Zirconate Titanate)からなる圧電体178を4.0μmの厚みで堆積する。更に、圧電体178の上に、Ir1000Å/Ti100Å/Ta1000Åを順次スパッタリング法により堆積し、電気伝導層を兼ねた信号電極210を形成する。なお、本発明では、スパッタリング法により圧電体178を堆積したが、この他、MOCVD法、ゾルゲル法、水熱法等の堆積法を用いることができる。
さらに、信号電極210と圧電体178とを反応性イオンエッチング法(RIE:Reactive Ion Etching)により順次エッチングし、パターニングする。信号電極50と圧電体178は同一のパターンで描画される。圧電体素子204は、図23に示すように、個々の圧力室86毎に孤立され、圧電体動作領域178Aと圧電体動作領域以外の領域、すなわち、圧力室86を囲む圧電体周囲領域と信号配線192までの接続領域から構成される。
圧電体178の領域境界(端面)は基板面に対して10〜80°の傾斜を設けることが望ましい。80°以上の急激な傾斜では、充分なステップ・カバリッジを得ることができず、信号電極210と電気的接続される信号配線192の断線を招くことがある。10°以下の穏やかな傾斜では、圧電体178の間隔や、圧電体178と信号配線192の領域との間隔が拡がり、圧電体178の配列を高密度に配置することが難しくなることがある。
次に、図26−1(E)及び図27−1(E)に示すように、共通電極176上の第1の層間絶縁層184に、共通電極176と共通配線190との電気的接続を図るための開口184Bを設ける。
次に、図26−1(F)及び図27−1(F)に示すように、共通配線190として、TiNx100Å/Ti 100Å/Al 5000Å/Ti 100Å/TiNx200Åを堆積・描画し、開口184A上で共通電極176と共通配線190との電気的接続を図る。
次に、図26−1(G)及び図27−1(G)に示すように、共通電極176と信号配線192との層間分離を図るための第2の層間絶縁層212として、酸窒化珪素SiOxNy 7000Åをプラズマ(Plasma)CVD法により堆積する。
次に、図26−1(H)及び図27−1(H)に示すように、圧電体178の非動作領域の信号電極210上の第2の層間絶縁層212に開口212Aを設ける。
次に、図26−1(I)及び図27−1(I)に示すように、Ti 100Å/Al 7000Åを堆積・描画し、開口212Aにより露出した信号電極210上に信号配線192を形成する。これにより、信号電極210と信号配線192との電気的接続が圧電体178の非動作領域(圧電体動作領域178Aの近傍)で図られている。第2の層間絶縁層212は共通配線190と信号配線192との層間分離を行い、両者を異なる階層に設けるために機能する他、圧電体178の側壁における保護層として機能する。
次に、図26−1(J)及び図27−1(J)に示すように、窒化珪素SiNx 2000Åをプラズマ(Plasma)CVD法により堆積・描画し、信号配線192を保護する保護層214を形成する。
ここで、圧電体178の圧電体動作領域178Aに堆積した膜は、圧電体178の変位に束縛を与える場合がある。このため、保護層214は、圧電体動作領域178Aを除くように信号配線192のある領域のみを被覆している。なお、これに限られず、保護層を圧電体178の圧電体動作領域178Aを含む全面を被覆するように形成することも可能である。
なお、図示を省略するが、共通配線190、信号配線192は圧電体178の基板周囲に引き回され、第2の層間絶縁層212、保護層214の開口に設けられたパッドで、駆動チップ42と電気的接続が図られる。
次に、図26−1(K)及び図27−1(K)に示すように、第2の層間絶縁層212の圧電体動作領域178Aに開口212Bを設け、信号電極(電気伝導層)210を露出させる。なお、必ずしも、圧電体動作領域178Aの信号電極210を露出させる必要はない。信号電極210上の第2の層間絶縁層212の有無に関わらず、外部からの水分や水素・窒素・酸素等の侵入、電解質インクのアルカリイオンの侵入、及び、アルカリイオンによる腐食を阻止することができるからである。
上記の基板52に対して、振動板52Aを形成した後、図24及び図25に示すように複数のプレートを接合して供給孔94などの形成を行い、圧力室86側に圧電体素子204を配置することができる。
(第7実施形態)
図28は、第7実施形態に係るインクジェット記録ヘッドにおける圧電体周辺を示す部分拡大平面図である。図29は、図28のA−A端面図である。図30は、図28のB−B端面図である。
なお、第1実施形態〜第6実施形態と同じ部材には同じ符号を用いて説明する。
インクジェット記録ヘッド222は、図28〜30に示すように、圧電体素子224(圧電体178)が、2560bits(8行×320列)の碁盤目状に配列され、各行毎で列方向に沿って例えば21μmシフトしている。
圧電体素子224は、振動板52Aを有する基板52上に設けられており、下層電極としての共通電極176、圧電体178、及び上層電極としての信号電極230が積層して構成されている。この信号電極230は、電気伝導層を兼ねており、高融点金属、および、その窒化物、珪化物、または、硼化物のいずれかが用いられている。
また、基板52上の共通電極176の上には、共通電極176の一部を覆うように、共通電極176と共通配線190との電気的な接続を図るための開口が設けられた第1の層間絶縁層184が設けられている。また、圧電体178と信号電極230の間には、圧電体動作領域178Aと一部の接続領域を除いて第2の層間絶縁層232が設けられており、第2の層間絶縁層232は圧電体178の側壁にも延在して当該側壁を覆っている。
第2の層間絶縁層232には、圧電体178の非動作領域であって信号電極230と信号配線192との電気的な接続領域に開口が設けられている。また、第2の層間絶縁層232及び当該開口の上に信号電極230が設けられ、当該開口の上部で信号電極230と信号配線192とが電気的に接続されている。また、信号電極230は、第2の層間絶縁層232を介して圧電体178の側壁にも延在して当該側壁を被覆している。
また、第1の層間絶縁層184には、共通電極176と共通配線190との電気的な接続を図るための開口が設けられ、当該開口において共通電極176と共通配線190との電気的な接続を図っている。また、共通電極176と電気的に接続される共通配線190表面には第2の層間絶縁層232が設けられている。
また、信号電極230と電気的に接続される信号配線192表面には、保護層214が設けられている。但し、この保護層214は、信号配線192のみを被覆するようにして、圧電体動作領域178Aを除いて配設されている。その他の構成は図23〜図25と同じである。
このような構成では、圧電体178の上部と、第2の層間絶縁層232を介して圧電体178の側壁に被覆した電気伝導層としての信号電極230が表面に緻密な酸化膜を形成するため、信号電極230が圧力室86と直接接触しても、外部からの水分や水素・窒素・酸素等の侵入、電解質インクのアルカリイオンの侵入、及びアルカリイオンによる腐食を阻止することができる。また、信号電極230が圧電体178の上部及び側部を覆っているため、圧電体素子224全体を保護することができる。従って、本構成では、圧電体178を信号電極230によって保護することができ、圧電性の劣化により変位が低下することなく、圧電体素子224の信頼性を改善することができる。また、信号電極230が電気伝導層を兼ねるため、製造過程を簡略化することができる。
次に、本実施形態に係る圧電体素子224の製造方法の具体的一例を説明する。
図31−1及び図31−2は、図29における製造工程を示す工程図である。図32−1及び図32−2は、図30における製造工程を示す工程図である。
まず、図31−1(A)及び図32−1(A)に示すように、熱酸化珪素0.5μm/単結晶珪素3.0μm/熱酸化珪素1.0μm/単結晶珪素300μm/熱酸化珪素0.5μmからなる基板52の単結晶珪素3μm側の面に、スパッタリング法によりTi 100Å/Ir 2500Åを順次堆積し、反応性イオンエッチング法により描画してIrからなる共通電極176を形成する。Tiは下地である基板52との吸着促進層である。なお、図31,32では、吸着促進層を含めた共通電極176を1層として表現している。
次に、図31−1(B)及び図32−1(B)に示すように、第1の層間絶縁層184として、非晶質タンタル酸化物を3000Å堆積する。
次に、図31−1(C)及び図32−1(C)に示すように、第1の層間絶縁層184に圧電体動作領域178Aを規定するための開口184Aをホトリソグラフィおよびエッチングにより設ける。
次に、図31−1(D)及び図32−1(D)に示すように、520℃雰囲気下でスパッタリング法によりPZT(Lead Zirconate Titanate)からなる圧電体178を4.0μmの厚みで堆積する。なお、本発明では、スパッタリング法により圧電体178を堆積したが、この他、MOCVD法、ゾルゲル法、水熱法等の堆積法を用いることができる。
さらに、圧電体178を反応性イオンエッチング法(RIE:Reactive Ion Etching)により順次エッチングし、パターニングする。圧電体素子224は、図28に示すように、個々の圧力室86毎に孤立され、圧電体動作領域178Aと圧電体動作領域以外の領域、すなわち、圧力室86を囲む圧電体周囲領域と信号配線192までの接続領域から構成される。
圧電体178の領域境界(端面)は基板面に対して10〜80°の傾斜を設けることが望ましい。80°以上の急激な傾斜では、充分なステップ・カバリッジを得ることができず、信号電極230と電気的接続される信号配線192の断線を招くことがある。10°以下の穏やかな傾斜では、圧電体178の間隔や、圧電体178と信号配線192の領域との間隔が拡がり、圧電体178の配列を高密度に配置することが難しくなることがある。
次に、図31−1(E)及び図32−1(E)に示すように、共通電極176上の第1の層間絶縁層184に、共通電極176と共通配線190との電気的接続を図るための開口184Bを設ける。
次に、図31−1(F)及び図32−1(F)に示すように、共通配線190として、TiNx100Å/Ti 100Å/Al 5000Å/Ti 100Å/TiNx200Åを堆積・描画し、開口184A上で共通電極176と共通配線190との電気的接続を図る。
次に、図31−1(G)及び図32−1(G)に示すように、共通配線190と信号配線192との層間分離を図るための第2の層間絶縁層232として、酸窒化珪素SiOxNy 7000Åをプラズマ(Plasma)CVD法により堆積する。
次に、図31−1(H)及び図32−1(H)に示すように、圧電体178の圧電体動作領域178A上と非動作領域上の第2の層間絶縁層232に、開口232Aと開口232Bを設ける。第2の層間絶縁層232は共通配線190と信号配線192との層間分離を行い、両者を異なる階層に設けるために機能する他、圧電体178の側壁における保護層として機能する。
次に、図31−1(I)及び図32−1(I)に示すように、開口232Aと開口232Bによって露出された圧電体178上と第2の層間絶縁層232上に、Ta2N 2000Åを順次スパッタリング法により堆積し、電気伝導層を兼ねた信号電極230を形成する。信号電極230は、圧電体178上の圧電体動作領域178Aに設けられた開口232A、および、信号電極230と信号配線192の電気的接続領域に設けられた開口232Bにおいて、圧電体178と電気的接続が図られる。また、電気伝導層を兼ねた信号電極230は、圧電体178の側壁も第2の層間絶縁層232を介して被覆する。
次に、図31−1(J)及び図32−1(J)に示すように、Ti 100Å/Al 7000Åを堆積・描画し、信号配線192を形成する。これにより、信号電極230と信号配線192との電気的接続が圧電体178の非動作領域(圧電体動作領域178Aの近傍)で図られる。
次に、図31−1(K)及び図32−1(K)に示すように、窒化珪素SiNx 2000Åをプラズマ(Plasma)CVD法により堆積・描画し、信号配線192を保護する保護層214を形成する。
ここで、圧電体178の圧電体動作領域178Aに堆積した膜は、圧電体178の変位に束縛を与える場合がある。このため、保護層214は、圧電体動作領域178Aを除くように信号配線192のある領域のみを被覆している。なお、これに限られず、保護層を圧電体178の圧電体動作領域178Aを含む全面を被覆するように形成することも可能である。
なお、図示を省略するが、共通配線190、信号配線192は圧電体178の基板周囲に引き回され、第2の層間絶縁層232、保護層214の開口に設けられたパッドで、駆動チップ42と電気的接続が図られる。
上記の基板52に対して、振動板52Aを形成した後、図29及び図30に示すように複数のプレートを接合して供給孔94などの形成を行い、圧力室86側に圧電体素子224を配置することができる。
このような構成では、電気伝導層を兼ねた信号電極230によって、外部からの水分や水素・窒素・酸素等の侵入、電解質インクのアルカリイオンの侵入、及び、アルカリイオンによる腐食を阻止することができる。
なお、図1等に示した例では、紙幅対応のFWAの例について説明したが、本発明のインクジェット記録ヘッドは、これに限定されず、主走査機構と副走査機構を有するPartial Width Array(PWA)の装置にも適用することができる。
また、図1等に示した例では、記録媒体Pとして用紙上へ画像(文字を含む)を記録するものであったが、本発明の液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置は、これに限定されるものではない。すなわち、記録媒体は紙に限定されるものでなく、また、吐出する液体もインクに限定されるものではない。例えば、高分子フィルムやガラス上にインクを吐出してディスプレイ用カラーフィルターを作成したり、溶接状態の半田を基板上に吐出して部品実装用のバンプを形成したりする等、工業用的に用いられる液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置全般に適用することができる。