JP2008041871A - 熱電材料、熱電素子及び熱電材料の作製方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】耐熱性及び熱電特性の安定性に優れ、かつ量産性及び簡便性にも優れた熱電材料、熱電素子及び熱電材料の作製方法を提供する。
【解決手段】第1熱電材料5及び第2熱電材料6では、Fe及びCoの単体金属を含み、スピネル型結晶構造をなす酸化物で形成するようにしたことにより、同一結晶系で、かつ構成元素の主成分を同等にしてFe及びCoの組成を変えるだけp型及びn型の電気伝導型を制御することができる。このようにスピネル型という同一結晶系で、かつ主成分がFe及びCoの同一の材料を第1熱電材料5及び第2熱電材料6として用いることにより、耐熱性及び熱電特性の安定性に優れ、かつ量産性及び簡便性にも優れた熱電材料、熱電素子及び熱電材料の作製方法を提供することができる。
【選択図】図6
【解決手段】第1熱電材料5及び第2熱電材料6では、Fe及びCoの単体金属を含み、スピネル型結晶構造をなす酸化物で形成するようにしたことにより、同一結晶系で、かつ構成元素の主成分を同等にしてFe及びCoの組成を変えるだけp型及びn型の電気伝導型を制御することができる。このようにスピネル型という同一結晶系で、かつ主成分がFe及びCoの同一の材料を第1熱電材料5及び第2熱電材料6として用いることにより、耐熱性及び熱電特性の安定性に優れ、かつ量産性及び簡便性にも優れた熱電材料、熱電素子及び熱電材料の作製方法を提供することができる。
【選択図】図6
Description
本発明は熱電材料、熱電素子及び熱電材料の作製方法に関し、特にスピネル型結晶構造をなす酸化物を用いた熱電材料に適用して好適なものである。
近年、様々な技術開発の中で、熱エネルギーと電気エネルギーとを直接かつ相互に変換する熱電変換技術が注目されている。このような熱電変換技術には、材料に発生する温度差に起因して起電力が発生する性質(以下、これをゼーベック効果と呼ぶ)や、材料に電流を流すことにより、材料に設置した電極の間で温度差が発生する性質(以下、これをペルチエ効果と呼ぶ)をもつ熱電素子が知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。実際上、熱電素子は、基板上で金属電極が対向して配置され、当該対向する金属電極間にn型及びp型の熱電部材が交互に接続された構成を有する。
特開2004−342893号公報
特願2000−213419号公報
ところで、このような熱電素子としては、ペルチエ効果を利用して、素子に電流を流すことにより、熱電素子の外部を冷却もしくは加熱する機能をもつペルチエ素子が知られている。このペルチエ素子に用いられている熱電材料は、主にビスマステルル系(以下、BiTe系と呼ぶ)材料である。ここでBiTe系材料の構成元素であるビスマス(以下、Biと呼ぶ)とテルル(以下、Teと呼ぶ)は、ともに耐熱性に乏しく、BiTe系の熱電特性が安定した温度域は室温から200℃程度である。従って熱電材料を発電目的で用いるためには、さらに高温での熱電材料の使用が求められるため、BiTe系材料は、発電用熱電材料として耐熱性に欠けるという問題がある。
このようなBiTe系材料より耐熱性に優れる熱電材料には、スクッテルダイト系材料や、シリコン・ゲルマニウム系(以下、SiGe系と呼ぶ)材料がある。ここでスクッテルダイト系材料は、母体となる材料がp型の電気伝導性を示す半導体材料であり、基本となる構成元素以外の元素を加えることにより、n型の電気伝導性を示す半導体材料を作製することができるが、母体となる材料がp型であるため、p型とn型で熱電性の温度依存性が異なるという問題がある。また、スクッテルダイト系材料では、p型及びn型ともにアンチモン(以下、Sbと呼ぶ)が、結晶の構成元素に含まれるため、高温でのSbの蒸発により熱電特性が変化してしまい、高温での性能の安定性に欠けるという問題がある。
一方、ボロンやリンを添加することにより、p型又はn型の半導体材料を作製することができるSiGe系では、耐熱性に優れており、また添加元素により電気伝導型(p型及びn型)が制御できるため、p型とn型の材料がそれぞれ同様の温度依存性を示す。しかし、Geが高価格であるため作製コストが増加し、また高温での生成が必要になるため量産性に欠けるという問題がある。さらに、SiGe系では、高温で酸化するため、熱電特性が変化してしまい熱電特性の安定性に欠けるという問題がある。
一方、耐熱性に優れる熱電材料としては、ベータ鉄二珪化物系(以下、β−FeSi2系と呼ぶ)材料がある。このβ−FeSi2系材料は、他の元素で置換することにより、電気伝導型を制御することができる。ここでβ−FeSi2系材料は、コバルト(以下、Coと呼ぶ)やニッケル(以下、Niと呼ぶ)等をFeの一部と置換することによりn型の半導体材料を作製することができる。またβ−FeSi2系材料は、マンガン(以下、Mnと呼ぶ)やクロム(以下、Crと呼ぶ)をFeの一部と置換したり、あるいはアルミニウム(以下、Alと呼ぶ)をSiの一部と置換することによりp型の半導体材料を作製することができる。そしてこのようなβ−FeSi2系材料では、原料であるFeやSiが低価格であることから作製コストを低減できるとともに、量産性にも優れる。しかしながら、β−FeSi2系材料の含まれる元素の組成、特に、FeとSiの組成の変化により、熱電性能の高いβ−FeSi2以外に、熱電性能が低く金属的性質を示す、α−Fe2Si5やε−FeSiが生成される場合がある。このため、熱電性に大きな影響が現れ、結果として熱電性能が低下する場合があり、熱電特性の安定性に欠けるという問題がある。
本発明は、このような状況を鑑みてなされたもので、耐熱性及び熱電特性の安定性に優れ、かつ量産性及び簡便性にも優れた熱電材料、熱電素子及び熱電材料の作製方法を提供することを目的とする。
かかる課題を解決するため本発明において、請求項1記載の発明では、Fe、Co、Ni、Ti、V、Cr、Mn、Cu及びZnの単体金属のうち少なくとも2種以上の前記単体金属を含み、スピネル型結晶構造をなす酸化物であることを特徴とするものである。
また、請求項2記載の発明では、前記スピネル型結晶構造をなす酸化物に含まれる単体金属の主成分が、前記Fe及び前記Coであることを特徴とするものである。
また、請求項3記載の発明では、前記スピネル型結晶構造をなす酸化物がCoxFe3-xO4であって、前記xが、0≦x<0.9であり、n型の電気伝導性を示すことを特徴とするものである。
また、請求項4記載の発明では、前記スピネル型結晶構造をなす酸化物がCoxFe3-xO4であって、前記xが、1<x≦3であり、p型の電気伝導性を示すことを特徴とするものである。
また、請求項5記載の発明では、前記スピネル型結晶構造をなす酸化物のうち、前記Coの組成を増加させてゼーベック係数の極大値を示す温度を上昇させることを特徴とするものである。
また、請求項6記載の発明では、前記スピネル型結晶構造をなす酸化物がCoxFe3-xO4であって、前記xが、0.9≦x≦1であるとともに、酸素濃度が化学量論比組成であり、500℃以下でp型の電気伝導性を示し、600℃以上でn型の電気伝導性を示すことを特徴とするものである。
また、請求項7記載の発明では、前記スピネル型結晶構造をなす酸化物がCoxFe3-xO4-dであって、前記xが、0.9≦x≦1であるとともに、前記dが、d>0であり、n型の電気伝導性を示すことを特徴とするものである。
また、請求項8記載の発明では、前記Feに対する前記Coの元素の比率が単調に変化し、p型とn型との電気伝導性が連続していることを特徴とするものである。
また、請求項9記載の発明では、n型の熱電材料及びp型の熱電材料を備える熱電素子において、前記n型の熱電材料及び前記p型の熱電材料のうち少なくともいずれか一方の熱電材料が請求項1〜8のうちいずれか1項記載の熱電材料でなることを特徴とするものである。
また、請求項10記載の発明では、n型の熱電材料及びp型の熱電材料を複数備え、複数の前記n型の熱電材料のうち、少なくとも1つが請求項6記載の熱電材料であるとともに、複数の前記p型の熱電材料のうち、少なくとも1つが請求項6記載の熱電材料であることを特徴とするものである。
また、請求項11記載の発明では、Fe、Co、Ni、Ti、V、Cr、Mn、Cu及びZnから選ばれた2種以上の単体金属を所定の組成比で混合する混合工程と、前記混合工程で得た混合粉末、あるいは前記混合粉末を加圧成型した成型体を、高融点材料からなる封入容器に真空状態あるいは不活性ガス雰囲気下で封入する封入工程と、前記封入容器内に封入した前記混合粉末あるいは前記成型体を熱処理することにより、スピネル型結晶構造をなす酸化物を形成する熱処理工程とを有することを特徴とするものである。
また、請求項12記載の発明では、前記混合粉末に含まれる単体金属の主成分が、前記Fe及び前記Coであることを特徴とするものである。
また、請求項13記載の発明では、前記熱処理工程で形成されたスピネル型結晶構造をなす酸化物が、CoxFe3-xO4であって、前記xが、0≦x<0.9であり、n型の電気伝導性を示すことを特徴とするものである。
また、請求項14記載の発明では、前記熱処理工程で形成されたスピネル型結晶構造をなす酸化物が、CoxFe3-xO4であって、前記xが、1<x≦3であり、p型の電気伝導性を示すことを特徴とするものである。
また、請求項15記載の発明では、前記熱処理工程で形成されたスピネル型結晶構造をなす酸化物のうち、前記Coの組成を増加させてゼーベック係数の極大値を示す温度を上昇させることを特徴とするものである。
また、請求項16記載の発明では、前記熱処理工程で形成されたスピネル型結晶構造をなす酸化物が、CoxFe3-xO4であって、前記xが、0.9≦x≦1であるとともに、酸素濃度が化学量論比組成であり、500℃以下でp型の電気伝導性を示し、600℃以上でn型の電気伝導性を示すことを特徴とするものである。
また、請求項17記載の発明では、前記熱処理工程で形成されたスピネル型結晶構造をなす酸化物が、CoxFe3-xO4-dであって、前記xが、0.9≦x≦1であるとともに、前記dが、d>0であり、n型の電気伝導性を示すことを特徴とするものである。
請求項1記載の発明によれば、Fe、Co、Ni、Ti、V、Cr、Mn、Cu及びZnの単体金属のうち少なくとも2種以上の前記単体金属を含み、スピネル型結晶構造をなす酸化物により熱電材料を形成したことにより、耐熱性及び熱電特性の安定性に優れ、かつ量産性及び簡便性にも優れた熱電材料を提供することができる。
請求項9記載の発明によれば、n型の熱電材料及びp型の熱電材料を備える熱電素子において、前記n型の熱電材料及び前記p型の熱電材料のうち少なくともいずれか一方の熱電材料を、請求項1〜8のうちいずれか1項記載の熱電材料としたことにより、耐熱性及び熱電特性の安定性に優れ、かつ量産性及び簡便性にも優れた熱電素子を提供することができる。
請求項11記載の発明によれば、封入容器の密閉空間内で熱処理することにより、酸化物を用いたスピネル型酸化物の生成反応を、従来の熱処理法より低温の熱処理で活性化させることができ、その結果、岩塩構造の結晶相の生成を抑制し、スピネル型酸化物の単相を作製することができるので、耐熱性及び熱電特性の安定性に優れ、かつ量産性及び簡便性にも優れた熱電材料を提供することができる。
以下図面に基づいて、本発明の一実施の形態を詳述する。
(第1実施例)
図1において、1は全体として複数の熱電素子2により構成された熱電素子群を示し、一端及び他端に配置した熱電素子にそれぞれリード線3,4が電気的に接続され、各熱電素子2において生じる温度差によって熱起電力が発生し、電流がリード線3からリード線4に向けて流れ得るようになされている。実際上、図2に示すように、熱電素子2は、p型の熱電半導体材料となる第1熱電材料5と、n型の熱電半導体材料となる第2熱電材料6とが、対向する板状の金属電極7,8に接合された構造を有し、これら第1熱電材料5及び第2熱電材料6が対を形成することで効率的に動作し得ることができる。
図1において、1は全体として複数の熱電素子2により構成された熱電素子群を示し、一端及び他端に配置した熱電素子にそれぞれリード線3,4が電気的に接続され、各熱電素子2において生じる温度差によって熱起電力が発生し、電流がリード線3からリード線4に向けて流れ得るようになされている。実際上、図2に示すように、熱電素子2は、p型の熱電半導体材料となる第1熱電材料5と、n型の熱電半導体材料となる第2熱電材料6とが、対向する板状の金属電極7,8に接合された構造を有し、これら第1熱電材料5及び第2熱電材料6が対を形成することで効率的に動作し得ることができる。
かかる構成に加えて本発明による第1熱電材料5及び第2熱電材料6は、構成元素の主成分が同一結晶系で形成されており、同様の作製方法を用いることができるように構成されている。実際上、これら第1熱電材料5及び第2熱電材料6は、スピネル型結晶構造をなす酸化物(以下、これを単にスピネル型酸化物と呼ぶ)からなり、コバルト(以下、Coと呼ぶ)と鉄(以下、Feと呼ぶ)とを主成分として、CoxFe3-xO4で表され、かつ組成xが所望の値に調整されている。なお、第1熱電材料5及び第2熱電材料6としてスピネル型酸化物を用いるため、高温での熱電特性の安定性が必要である。
因みに、スピネル型酸化物は、Feを主成分として、Feの一部を、亜鉛(以下、Znと呼ぶ)とマンガン(以下、Mnと呼ぶ)、あるいはZnとニッケル(以下、Niと呼ぶ)などの他の金属元素で置換することにより、軟磁性かつフェリ磁性の磁気秩序を実現させたソフトフェライトなどに用いられている。また、主に、MnとCoとを含み、温度に依存した急峻な電気抵抗率の変化を、測定因子として用いるサーミスタ素子としても、幅広く利用されている。加えて、スピネル型酸化物の微粒子を用いた磁性流体を利用した、稼動機構に用いるシール材料として幅広く利用されている。さらに、最近では、Ni及びCoを含む、電気抵抗率の小さいスピネル型酸化物の微粒子や薄膜を用いた、リチウム二次電池の電極材料の研究開発も、盛んに進められている。
まず始めに、熱電素子2を作製する方法について以下説明する。図3は、第1実施例の作製工程を示すフローチャートであり、第1熱電材料5及び第2熱電材料6となるCoxFe3-xO4で表されるスピネル型酸化物に含まれる金属元素の主成分は、Fe及びCoであるため、Feの原料としてFe酸化物を用いるとともに、Coの原料としてCo酸化物を用いる。そして、Fe酸化物及びCo酸化物は、CoxFe3-xO4で表されるスピネル型酸化物に含まれるFe及びCoが所望の組成になるように計量する。例えば、Fe酸化物としては、コランダム構造の結晶構造である三酸化二鉄(以下、α―Fe2O3と呼ぶ)又はスピネル構造の四酸化三鉄(以下、Fe3O4と呼ぶ)を用いる。また、Co酸化物としては、四酸化三コバルト(以下、Co3O4と呼ぶ)を用いる。α―Fe2O3又はFe3O4と、Co3O4とは、後の熱処理工程において、固相反応を十分に活性化させるために、粉末を用いたほうがよい。用いる粉末の粒径が小さい場合には、後の加圧成型工程において、結晶粒の接触面積を増加させ、固相反応を活性化させることができる。従って、用いる粉末の粒径の規格は、100μm程度以下であることが望ましい。
FeとCoの酸化物の中で、最も安定なものは、上述したα−Fe2O3とCo3O4であるが、α―Fe2O3やFe3O4の代わりに、酸化鉄(以下、FeOと呼ぶ)又はCo3O4の代わりに酸化コバルト(以下、CoOと呼ぶ)を用いてもよい。FeOを用いた場合には、α―Fe2O3やFe3O4と比較して、単位格子内のFeに対する酸素の割合が少ないため、加熱により、スピネル構造の結晶相が還元される場合がある。そこで、後の熱処理工程において、α―Fe2O3を用いた場合よりも、酸素濃度の高い雰囲気で熱処理をすることが、純粋なスピネル型酸化物を得るためには効果的である。
なお、熱処理工程後に作製されたスピネル型酸化物の粉体の純度を考慮しない場合には、原料となるFe酸化物とCo酸化物の純度は、それぞれ98%以下程度でもよい。さらに、原料としては、酸化物の粉末に限らず、Feの硝酸塩の水和物とCoの硝酸塩の水和物とを用いる方法でもよい。この場合は、有機溶媒内で溶液の状態で攪拌することで混合した後乾燥し、スピネル型酸化物の前駆体を得る方法などが望ましい。
続いて原料の計量後に、第1熱処理工程を施す(図3)。実施上、この第1熱処理工程は、原料を粉砕する工程と、当該粉砕した原料を混合する工程と、混合工程で得た混合粉末を加圧成型する工程と、加圧成型して得られた成型体を加熱する工程とからなり、スピネル型酸化物の粉体あるいは焼結体を作製する。ここで第1熱処理工程では、原料粉末の純度を維持するために、Fe酸化物やCo酸化物よりも硬質なメノウなどの材料で構成された乳鉢などの容器に、計量したFe酸化物とCo酸化物を入れて、撹拌棒で粉砕し混合する。なお、撹拌棒も、Fe酸化物やCo酸化物より硬質であることが望ましい。このように原料を混合する工程では、原料よりも容器や撹拌棒を硬質としたことにより、容器や撹拌棒に含まれる材料が粉末内へ混入する量を軽減できる。
実際上、上述した粉砕及び混合する工程では、原料粉末を均一に混合し、粉末の粒径を微細化し得るようになされている。ただし、粒径が数μm程度以下になると、粉末表面の酸化物量と粉末内部の酸化物量とが同等になるので、原料粉末の種類によっては、後の加熱工程における固相反応で、粉砕及び混合状態の違いにより、熱電特性に違いが生ずる場合がある。従って、粉砕と混合する工程としては、例えば手動で1時間程度混合することにより、平均粒径を数十μm程度にすればよい。また、混合時にFe酸化物とCo酸化物の反応を促進する必要はないので、室温かつ大気中で混合すればよい。
続いて、粉砕及び混合した混合粉末を加圧成型し、所定形状でなる成型体を作製する。加圧成型する際の圧力は、100kgf/cm2程度であればよく、温度は室温でよい。また、成型体の形状は、ペレット状や、熱電素子の作製を容易にする形状である直方体型などでもよい。
なお、加圧成型を行わない場合でも、後述する密閉空間を用いた等温での適切な加熱条件下で加熱処理を行うことにより、混合粉末の固相反応を促進させることができるが、固相反応は結晶粒の接触点から原子の拡散が発生し、反応が進行するため、接触面積が大きいほど反応が促進される。従って、混合粉末については加圧成型しておくことが望ましい。一方、粉砕及び混合した混合粉末を加圧成型する場合には、粉末の結晶粒径が大きいと、成型体の密度が低下し、その結果、後述する加熱処理において、成型体を加熱処理した後の焼結体の密度も低下してしまい、当該焼結体が脆弱になる場合がある。この場合には、粉砕及び混合した混合粉末に、ポリビニルアルコールの水溶液などの結合助剤や、グリセリンなどの分散剤を結合補助剤として加えることで、粉末の結晶粒を均一に分散させ、密着性を向上させることが望ましい。
続いて、成型体を熱処理する工程(以下、第1加熱と呼ぶ)を行う。第1加熱では、混合粉末を反応させると同時に、反応過程における還元や酸化を制御する必要がある。Coの組成が多くなるにつれて、還元作用が生じやすくなるため、Coの組成が小さい場合には酸素雰囲気以外が望ましい。また、Coの組成が大きい場合には、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気以外が望ましい。さらに、第1熱処理工程のみで、焼結体を作製することを目的として、上述した結合補助剤を原料粉末に加えた場合には、スピネル型酸化物の生成反応を促進させる前に、適切な加熱条件とすることにより成型体から結合補助剤を蒸発させて除去することが望ましい。例えば、結合助剤にポリビニルアルコールを用いた場合には、成型体を300℃以上400℃以下程度で保持することで結合補助剤を成型体から除去し、連続して、温度を上昇させて、スピネル型酸化物の反応を目的とした熱処理を施す。なお、結合助剤を除去するための熱処理時間は、結合助剤の成型体内の含有量に応じて、適切に設定すればよい。また、第1熱処理工程のみで、純粋なスピネル型酸化物の焼結体を作製する場合には、焼結度が高い焼結体を作製するために、1100℃程度以上の温度で熱処理したのちに、焼結体内に存在する岩塩構造の結晶相を酸化させて、スピネル構造に相変態する目的で1100℃程度以下の温度で熱処理する方法でもよい。
ここで成型体を熱処理した場合には、成型体内にある酸化物粉末同士の固相反応が促進される。第1加熱における熱処理条件によっては、反応と同時に焼結が促進される場合がある。熱電材料から熱電素子を作製するために、熱電材料の形態としては、主に焼結体が用いられるが、適切な熱処理条件により、第1熱処理工程のみで、スピネル型酸化物の焼結体を作製することができる。ただし、第1熱処理工程後の焼結体は、X線回折法などの測定により、結晶格子の大きさが一定の結晶相のみが確認される場合でも、結晶粒の表面に、特定元素の偏析や、他の結晶相が形成される場合がある。ここで焼結体の熱電特性としては、結晶粒内部のみならず、結晶粒表面の特性も影響するため、結晶粒表面の結晶相が、結晶粒内部と同等であることが望ましい。そこで、第1熱処理工程後に粉砕し、再度、成型して加熱することにより、第1熱処理工程で結晶粒表面に存在していた、結晶粒内と異なる結晶相、もしくは結晶性の異なる結晶相の反応も促進され、第1熱処理工程のみで作製した焼結体より、純粋なスピネル型酸化物の焼結体を作製することができる。従って、第1熱処理工程に加えて、後に述べる第2熱処理工程を施すことが望ましい。
ところで、第1熱処理工程では、第1加熱における熱処理温度、熱処理時間及び熱処理時の雰囲気の制御などにより、所望の固相反応を実現することが目的であるが、Fe及びCoの組成によって、熱処理温度を上げて焼結度を向上させようとすると、岩塩構造とスピネル構造の2相に相分離を起こし、スピネル構造の単相を作製できない場合がある。従って、相分離が生じず、かつスピネル型酸化物の生成反応が活性化される作製条件が望まれる。そこで、この場合、相分離が生じず、かつスピネル型酸化物の生成反応を活性化させるために、密閉空間内で等温の熱処理を行うことが望ましい。
以下、密閉空間を用いた場合の第1熱処理工程について説明する。まず始めに、Fe及びCoの組成を所望の値に調整した成型体を高融点材料からなる管材(図示せず)内に挿入する。実際上、封入容器となる管材は、主成分が石英で構成されており、水素ガスなどの燃焼ガスを使用したバーナーなどで片側を溶かすことにより片側のみを封じた管(以下、片側封じ石英管と呼ぶ)(図示せず)を使用する。この時、片側封じ石英管は、事前に管内に付着した有機物や金属を除去するために、アセトンやメタノールなどの有機溶媒や、塩酸や硝酸などの酸を使用して、洗浄しておくことが望ましい。続いて、片側封じ石英管に成型体を入れる。
次に、真空排気装置を使用して、片側封じ石英管内の空気を開管側から排気しながら、水素ガスなどの燃焼ガスを使用したバーナーなどで片側封じ石英管の開管側を溶かし、当該開管側を封じて図4に示すような石英管10を作製する。かくして封入容器としての石英管10内に成型体11を真空封入し得る。因みに、石英管10内に成型体11を真空封入する際には、片側封じ石英管内の成型体11の近傍を加熱すると、密閉空間内で熱処理を行う前に、成型体11内で反応が始まり、密閉空間を用いたことによる効果が抑制されてしまうという問題がある。従って、成型体11を真空封入する際には片側封じ石英管内の成型体近傍の加熱は避けることが望ましい。なお、真空排気装置は、例えば、ロータリーポンプなどによる10Pa程度の到達真空度を実現できるものであればよい。
一方、片側封じ石英管の開管側を封じる方法は、石英がやわらかくなる温度まで加熱し、溶接して、片側封じ石英管をねじ切る方法などでよい。また、Fe酸化物やCo酸化物と反応しない高融点材料を、石英管10の代りに用いることも可能である。そして、この実施の形態では、真空排気しながら石英管10内に成型体を封入するようにしたことにより、大気圧との圧力差により石英管10内に成型体を容易に封入し得るようになされていている。なお、封入時の片側封じ石英管内は、大気圧の大気や、アルゴンなどの不活性ガスで満たすようにしてもよい。
因みに、この実施の形態の場合、上述した密閉空間内の加熱において固相反応を促進させるために成型体11を用いた。しかしながら、密閉空間での加熱処理では蒸気の効果による固相反応の活性化が生ずるため、第1熱処理工程のみで加圧成型した成型体11の他に、加圧成型しない混合粉末を用いてもよい。また、成型体を作製するために、結合補助剤を用いる場合には、片側封じ石英管の中に設置する前に、加熱処理により結合補助剤を蒸発させ、予め結合補助剤を除去しておくことが望ましい。
最後に、封じた石英管10を管状電気炉などに設置し、第1加熱を行う。実際上、石英管10の加熱時間と加熱温度は、上述した雰囲気下での熱処理と同様に、FeとCoとの組成により適切に調整する。すなわち、スピネル型酸化物のCoの組成が大きい場合には、岩塩構造の結晶相が生成されやすくなる。従って、例えばスピネル型酸化物のCoの組成が2以上程度の場合には、加熱温度を1100℃以下程度に設定することが望ましい。またこの際、領域aの温度が低い場合には、成型体11を構成する酸化物から発生した蒸気が、成型体11近傍以外の領域で凝集することで堆積して、成型体11内の酸化物の反応の活性化が抑制されてしまう場合があるという問題がある。従って、封じた石英管10内で成型体11近傍の領域b(図4)の温度と、それ以外の領域aの温度とが同等であることが望ましく、封じた石英管10全域の温度を前記の温度範囲に維持する必要がある。なお、加熱後は、封じた石英管10を放冷してもよいし急冷してもよい。
以上、石英管10における密閉空間を用いた第1熱処理工程を示したが、他にも、加圧しながら加熱することにより、反応と焼結を促進させるホットプレス(以下、HPと呼ぶ)を用いることや、放電プラズマ焼結法(以下、SPS法と呼ぶ)などを用いてもよい。なお、後に示す第2熱処理工程を施す場合には、第2熱処理工程後に純粋なスピネル型酸化物が得られればよく、第1熱処理工程で純粋なスピネル型酸化物を作製する必要はない。また、密閉空間内ではない、上述した雰囲気下での熱処理の場合と同様に、第1熱処理工程のみで、純粋なスピネル型酸化物の焼結体を作製する場合には、焼結度を向上させるために1100℃程度以上の温度で熱処理した後に、焼結体内に存在する岩塩構造の結晶相を酸化して、1100℃程度以下の温度で熱処理することによりスピネル結晶構造に相変態させるような方法でもよい。密閉空間内の加熱では、スピネル型酸化物からの酸素の蒸発が抑制されるため、岩塩構造の結晶相の生成が抑制され、純粋なスピネル型酸化物が得られやすいという効果がある。
続いて、図3に示すように、第1熱処理工程後に、粉体内の結晶相の均一性を向上させるために、さらに熱処理を施す(以下、第2熱処理工程と呼ぶ)。第2熱処理工程は、第1熱処理工程後に生成された粉体を粉砕する工程と、粉砕した粉末を加圧成型する工程と、成型体を加熱する工程とからなり、これら工程を得ることによりスピネル型酸化物の焼結体を作製することができる。まず、第2熱処理工程の前に、第1熱処理工程において石英管10の密閉空間を用いた場合には、密閉空間内から、成型体11を熱処理して得た粉体を取り出しておく。第1熱処理工程と同様に、FeやCoを含むスピネル型酸化物よりも硬質なメノウなどの材料で構成された乳鉢などの容器に、第1熱処理工程後のスピネル型酸化物の粉体を入れて、撹拌棒で粉砕する。粉砕により、粉体は粉末になるが、粉末の粒径が大きい場合は、後の加圧成型において緻密な成型体を作製することが困難になる。そこで、粉砕後の結晶粒の粒径は、100μm以下程度が望ましい。続いて、粉砕した粉末を第1熱処理工程と同様に、加圧成型する。成型時の温度は、第1熱処理工程と同様に室温が望ましい。続いて、加圧成型した成型体を加熱する第2加熱を行う。
ここで、これら複数の工程からなる第2熱処理工程を行う目的は、第1熱処理工程で所望の固相反応を実現することで作製したスピネル型酸化物を用いて、結晶粒表面に存在する、結晶粒内の結晶相とは異なる相の生成を抑制し、均一な焼結体を作製することにある。しかし、第1熱処理工程と同様に、熱処理温度の上昇により焼結度は向上するものの、その一方で岩塩構造とスピネル構造の結晶相の2相に相分離を起こし、スピネル構造の単相を作製できない場合がある。そこで、第1の熱処理工程と同様に石英管10(図4)を用いて密閉空間内で熱処理することにより、成型体の加熱過程での還元を抑制することができる。還元を抑制するために、加熱時の雰囲気として、酸素を供給することが効果的であるが、第2熱処理工程でも、密閉空間を用いて適切な加熱温度で加熱処理をすることで、外部から酸素ガスを供給することなく、結果として、純粋で均一なスピネル型酸化物の焼結体を作製することができる。なお、密閉空間を用いた熱処理方法は、上述した第1熱処理工程で示した方法に準ずるのでその説明は省略する。
なお、第2熱処理工程としては、第1熱処理工程と同様にHPや、SPS法などを用いてもよい。また、第1熱処理工程と同様に、焼結度を向上させるために、1100℃程度以上の温度で加熱処理した後に、1100℃程度以下の温度で熱処理することにより焼結体内に存在する岩塩構造の結晶相を酸化させてスピネル構造にする方法でもよい。さらに、熱処理工程は、第1熱処理工程及び第2熱処理工程の2回に限らず、所望の純度を維持する範囲内で、第2熱処理工程と同様の熱処理工程を任意の回数だけ繰り返すようにしてもよい。
実際上、図5(A)及び(B)のグラフは、FeとCoのモル組成比がFe:Co=1:2の場合において、第1加熱条件と第1熱処理工程後の粉体の結晶相との関係を示すものである。この場合、原料Fe酸化物として結晶粒径が1μm以下のFe2O3粉末を用いたとともに、原料Co酸化物として結晶粒径が数μm程度のCo3O4粉末を用いた。加熱温度と加熱時間は、それぞれ、1000℃、10時間とした。また、酸素雰囲気で加熱を施した。結晶相の判定には、X線回折法を用いた。原料のFe酸化物にFe3O4とα−Fe2O3を用いた場合には、熱処理後の結晶相が異なる。原料のFe酸化物とCo酸化物に、それぞれ、Fe3O4とCo3O4を用いて熱処理した場合には、大気中での加熱によってFe3O4とCo3O4の反応が促進されないため、結晶性が悪くなり、Feを主成分とするスピネル型酸化物と、Coを主成分とするスピネル型酸化物との混合状態になった。しかし、石英管10を用いて密閉空間内で、同じ加熱温度及び加熱時間で熱処理した場合には、結晶性は悪いが、スピネル型酸化物が反応し、FeとCoを含むスピネル型酸化物が生成され、一部、岩塩構造の結晶相が生成されたことが分かった。
一方、原料のFe酸化物としてα−Fe2O3を用いて大気中で加熱した場合には、原料にFe3O4を用いた場合より、生成される結晶相の結晶性は良いが、岩塩構造の結晶相とスピネル型酸化物との混相になった。その一方、石英管10を用いて密閉空間を用いた場合には、結晶性のよいスピネル型酸化物の単相となった。
この実験結果より、Fe3O4を原料に用いた場合には、α-Fe2O3を原料に用いた場合よりも、Co3O4との反応性が劣り、均一なスピネル型酸化物の作製が困難になることが分かった。しかし、石英管10(図4)により作製した密閉空間を用いて、一定温度で熱処理を施した場合には、還元が抑制されると同時に、スピネル型酸化物の生成反応が活性化することが分かった。また、原料Fe酸化物にα−Fe2O3を用い、密閉空間で加熱することにより、均一なスピネル型酸化物が生成されることが分かった。
ところで、スピネル型酸化物のCoの組成を増加させた場合には、Co3O4が高温で還元性をもつ性質により、岩塩構造の結晶相が生成されやすくなり、熱電性能が変化してしまい熱電性能の安定性に欠けるという問題がある。この場合、熱処理温度を低下させることで還元が抑制されるが、同時に、反応性が悪くなる。そこで、石英管10の密閉空間を用いて一定温度での熱処理を施したことにより、Fe酸化物として、Co3O4と反応性の高いα−Fe2O3などを用いても、均一なスピネル型酸化物の単相を作製することが可能となった。一方、Feに対するCoの組成を減少させた場合、及び原料のFe酸化物にα−Fe2O3を用いた場合には、Co3O4の高温での還元性による、Fe酸化物の還元が抑制されるため、α−Fe2O3の結晶相であるコランダム構造の結晶相(以下、コランダム型と呼ぶ)が焼結体内に残存しやすくなり、スピネル型酸化物とコランダム型の酸化物の混相になり、熱電特性が変化してしまい、熱電特性の安定性に欠けるという問題がある。そこで、原料のFe酸化物にFe3O4などを用いたことにより、コランダム型の酸化物の生成が抑制され、スピネル型酸化物の単相の作製が可能になった。
上述した加熱条件により生成された粉体の結晶相から、以下に示す、原料のスピネル型酸化物の反応形態が考えられる。高温大気中では、Fe酸化物の安定相は、α−Fe2O3であり、Co酸化物の場合は、CoOである。従って、Fe酸化物としてFe2O3を用い、Co酸化物としてCo3O4を用いた場合には、反応過程で、α−Fe2O3からCo3O4に酸素を供給し、加えて、Co3O4が還元して酸素を放出することがある。Fe酸化物からCo酸化物への酸素の供給が、スピネル型酸化物の生成反応を促進する効果があり、Fe3O4を用いた場合には、Fe酸化物からCo酸化物への酸素の供給速度が遅くなり、スピネル型酸化物の生成反応が抑制されると考えられる。一方、石英管10の密閉空間を用いた場合には、高温でのCo3O4自体の還元性によるCo3O4からの酸素の放出状態が、加熱温度で限定される密閉空間内の飽和蒸気圧により限定されるため、開放状態での加熱と比較して、Co3O4の還元が抑制される。開放状態での熱処理では、Co3O4の還元が抑制される場合、スピネル型酸化物の生成反応も抑制されるが、石英管10を用いた密閉空間では、粉末から発生するわずかな蒸気が、固体の酸化物間の反応を活性化する効果があると考えられる。
なお、開放状態での加熱では、上述したように原料のスピネル型酸化物から酸素が放出される場合があるが、1100℃程度以上の加熱では、酸素に加えて、Feに対してCoが選択的に蒸発することにより、FeとCoの組成比が加熱処理により変化し、焼結体の内部と表面とで、FeとCoとの組成比が異なる場合がある。そのため、熱電特性が変化してしまい、熱電特性の制御性に欠けるという問題がある。これに対して、石英管10を用いた密閉空間内での加熱では、上述したように原料のスピネル型酸化物からの酸素の放出が抑制されると同時に、Coの選択的な蒸発が抑制される。従って、特に、原料酸化物の種類により、スピネル型酸化物の生成反応が抑制される場合には、密閉空間内で加熱することにより、スピネル型酸化物の生成反応が活性化すると同時に、酸素の放出に加えてCoの蒸発が抑制されるために、組成変化が少なく、熱電特性が安定したスピネル型酸化物を生成することができる。さらに、熱処理温度が高い場合には、焼結作用が向上する場合がある。従って、スピネル型酸化物の単相が得られる範囲である1100℃程度以上より高温の熱処理により、熱電特性が制御され、かつ焼結度の高い焼結体を作製することができる。
図6(A)及び(B)には、本実施例によるFe及びCoを含むCoxFe3-xO4のスピネル型酸化物の焼結体の電気抵抗率とゼーベック係数の温度依存性を示す。なお、この場合、スピネル型酸化物は、原料のFe酸化物としてα−Fe2O3を用いたとともに、原料のCo酸化物としてCo3O4を用いた。そして、第1熱処理工程と第2熱処理工程とを施し、第2熱処理工程における第2加熱は、すべて1100℃、10時間で酸素雰囲気において行った。測定は、すべて、大気中で行った。なお、測定温度域の低温側で、電気抵抗率が大きい組成のスピネル型酸化物については、測定端子の高い接触抵抗が原因となる高い接点電位による測定精度の問題から、ゼーベック係数の測定点を示していない。
スピネル型酸化物のCoの組成xが0.9の場合には、ゼーベック係数の値が400℃程度以上のときに負であったことから、400℃程度以上でn型の電気伝導性を示すことが分かった。また、スピネル型酸化物のCoの組成xが、x>1の場合には、ゼーベック係数の値が全測定温度域において正であったことから、全測定温度域でp型の電気伝導性を示すことが分かった。したがって、スピネル型酸化物のFeとCoとの組成を調整することにより、n型又はp型のいずれか一方の電気伝導型に制御できることが分かった。なお、スピネル型酸化物のCoの組成xが、0.9未満の場合には、原料のFe酸化物にFe3O4を用いることにより、スピネル型酸化物を容易に生成することができる。また、この場合には、すべての測定温度域において、n型の電気伝導性を示すことが分かった。なお、この場合、スピネル型酸化物の大気中での熱電測定後に、表面の結晶相をX線回折法による測定で確認したところ、スピネル型酸化物のCoの組成xが、x>0.9のときには、すべてスピネル構造の結晶相の単相であり、高温の大気中で安定した熱電特性を示すことが分かった。
ところで、スピネル型結晶構造であるフェライトは、結晶構造は高温でも安定している。ただし、フェリ磁性の磁気秩序が消失する温度(以下、キュリー温度と呼ぶ)以下では絶縁体であり、キュリー温度以上でも、電気抵抗の大幅な減少は見られない。一方、NiとCoを含む、電気抵抗率の低いスピネル型酸化物の場合、微粒子で構成された薄膜を作製するためには、NiやCoの硝酸塩の水和物などを用いて、有機溶媒を含む前駆体を生成し、基板上に前駆体を含む溶液を塗布して、加熱処理することにより、スピネル型酸化物の結晶化を促して膜を作製する方法や、金属や酸化物のスパッタリングターゲットを用いて、スパッタ法により、基板上に膜を作製する方法などが検討されている。しかし、スピネル型酸化物の金属として、NiとCoのみを含む場合には、高温で、相分離が起こり、スピネル構造と岩塩構造との結晶相の混相になり、熱電特性が変化してしまい、熱電性能の安定性に欠けるという問題がある。一方、サーミスタ素子に用いられているスピネル型酸化物は、温度上昇に伴い、電気抵抗率が減少する特性を持つが、電気抵抗率の温度依存性をパラメータとして用いる最大使用温度は、高々300℃程度である。300℃程度以上の温度では、結晶構造が、立方晶のスピネル構造から正方晶のスピネル構造で構造相転移を起こす場合があり、300℃程度以上の温度で、大気中などで保持すると、電気抵抗率や熱起電力が経時的に変化してしまい、熱電特性の安定性に欠けるという問題がある。
ところで、スピネル型酸化物は酸素と金属とで構成されており、金属は主に遷移金属である。スピネル型の結晶内には、金属の結晶格子内の位置として、最近接の酸素が四面体配位した結晶格子内位置(以下、Aサイトと呼ぶ)と、遷移金属に最近接の酸素が八面体配位した結晶格子内位置(以下、Bサイトと呼ぶ)とがある。ここでAサイトとBサイトとに設置できる金属元素の種類は多岐にわたるが、AサイトとBサイトとにFeイオンのみが配置されたFe3O4の場合、Aサイトには+3価のFeイオンのみが存在し、Bサイトには、+2価と+3価のFeイオンが等量存在する構造(以下、逆スピネル構造と呼ぶ)になっている。Fe3O4では、BサイトのFeの価数が、+2価と+3価の間で変化することにより、伝導電子がFeイオンを介して移動することによる電気伝導(以下、ホッピング伝導と呼ぶ)が起こる。Fe3O4の場合には、伝導キャリアは電子であり、電気伝導型はn型になる。Feの一部を他の金属元素で置換することにより、ホッピング伝導に影響を与えることができるが、Feが主成分である場合には、正孔が主体となるp型の電気伝導性を実現することはできない。前記のサーミスタ素子では、MnとCoとNiとが主成分であり、p型の電気伝導性を示し、Mnイオン上の正孔によるホッピング伝導が生じていると考えられている。また、組成比の制御により、n型の電気伝導性も実現できることが知られている(T. Yokoyama et al., Jpn. J. Appl. Phys. 35(1996)pp.5775−5780. など)。ただし、300℃程度以上の温度域では、構造相転移を起こすなどの、結晶構造上の不安定要因があり、熱電性能は極端に低いという問題がある(笹本 他、 材料科学33(1996)pp.32−37.など)。
本実施例で示したFe及びCoを含むスピネル型酸化物では、Bサイト内のFeイオンに起因した電子のホッピング伝導と、Bサイト内のCoに起因した正孔のホッピング伝導とを組み合わせ、その組成比により、スピネル型酸化物材料として電気伝導型が制御されていると考えられる。また、高温大気中でも、スピネル構造の結晶相が維持されることから、高温で安定した熱電性能に優れる材料であることが分かる。
以上より、スピネル型酸化物の金属元素の主成分が、FeとCoで構成されている場合、FeとCoの組成を制御することにより、電気伝導型(p型及びn型)を制御できることが分かった。しかし、400℃程度以下の温度域では、熱電材料に用いるためには、電気抵抗率が比較的大きいという問題がある。そこで、特定のFeとCoとの組成の範囲内でNiを加えることにより、スピネル型酸化物の電気抵抗率を減少させることができる。
以下の表1に、スピネル型酸化物のFe組成における、Coに対するNiの組成比と電気抵抗率とを示す。
このように、スピネル型酸化物のFeの組成が2の場合には、Coの組成を減少させてNiの組成を増加させると、電気抵抗率が増加する傾向が見られた。一方、Feの組成が1.5の場合には、Coの組成を減少させて、Niの組成比を増加させると、300℃では、電気抵抗率の減少傾向が見られたが、500℃と700℃では電気抵抗率の増加傾向が見られた。スピネル型酸化物のCoの組成が増加することにより、Co3O4に対するNiの置換で見られている電気抵抗率の減少傾向が、300℃程度の低温域で現れていると考えられる。従って、高温での熱電特性の安定性を維持しながら、特に、300℃程度以下の温度域でp型の熱電性能を向上するためには、スピネル型酸化物に含まれる金属元素として、スピネル型酸化物のFeの組成を2程度以下にして、Fe及びCoの他にNiなどを加えて、組成を調整することなどが効果的である。
なお、n型のスピネル型酸化物として、高い熱電性能と高温での熱電性能の安定性を実現するためには、スピネル型酸化物の金属元素として、Feの組成を2程度以上とし、BサイトのFeに起因した電子のホッピング伝導が、スピネル型酸化物の電気伝導において主体である場合で、CoやNiなどを置換する方法などが効果的である。本発明者らの研究によれば、スピネル型酸化物のFeの組成が2.1の場合には、Coに対してNiを増加させると、電気抵抗率が増加するが、400℃以下程度では、ゼーベック係数の絶対値が大幅に増加し、結果として、熱電性能の指標である出力因子(以下、PFと呼ぶ)が増加することが分かった。また、本発明者らの研究によれば、スピネル型酸化物のFeの組成が2.1の場合には、大気中での熱電特性の測定後に、スピネル構造の結晶相以外に、コランダム構造の結晶相が焼結体の表面に生成される。しかし、スピネル型酸化物のFeの組成を2.1のまま、Coの一部をNiで置換することにより、コランダム構造の生成が抑制され、スピネル型の結晶相の単相になることが分かった。従って、Fe及びCoを含むスピネル型酸化物は、Niを加えることにより、さらに、高温で安定した熱電特性が得られることが分かった。
ところでFeを含むスピネル型酸化物は、前記のようにフェライト磁石としても用いられている。本実施例で示したスピネル型酸化物も、フェライト磁石と同様に少なからずFeを含んでいるために、焼結体に外部から磁場を印加することにより磁化することができる。本発明者らの研究によれば、Fe3O4の焼結体に対して、電流注入方向に磁化した場合、キュリー温度程度以下では、磁化しないものと比較して、電気抵抗率が減少し、ゼーベック係数の絶対値が増加する傾向が見られた。このように電気抵抗率が減少しゼーベック係数が増加することで、PFが増加し、熱電性能を向上させることができる。FeかつCoを含むスピネル型酸化物のキュリー温度は、FeとCoの組成に依存するが、キュリー温度以下で、本実施例で示したスピネル型酸化物を熱電材料として用いる場合には、第1熱処理工程後、あるいは、第2熱処理工程の後に、電磁石などを用いて焼結体を磁化することより、一段と熱電性能を向上できる。
ところで、熱電材料の熱電性能は、発電用途の場合、発電効率で示されるが、最大発電効率を表す際の変数である熱電性能指数Zで評価される。Zは、Z=S2/(ρ×κ)(S:熱起電力、ρ:電気抵抗率、κ:熱伝導率)で示され、Zの値が大きいほど、熱電性能が向上することを意味する。この場合、Sの絶対値を増加させ、ρとκを減少させることにより、Zが増加する。発電効率が10%を超えるためには、Zに温度(T)をかけた値であるZTが、0.5程度から1程度必要である。しかし、Sとρは、半導体の場合、一般的には相反の関係にある。また、ZはSの二乗と、ρとκの積で決まるので、それぞれが特定の値をもつ必要はないが、熱電材料の固有抵抗によるジュール熱によるエネルギー損失を考慮すると、ρの値はできるだけ小さいほうがよい。従って、実用に適したPF=S2/ρを実現するためのSとρの値は、Sの絶対値で数百μV/K以上で、ρが数十mΩ・cm以下が望ましい。本実施例で示したスピネル型酸化物では、高温で、出力因子が高いが、400℃程度以下で、ρが比較的大きくなる。したがって、本実施例で示した熱電材料は、実用的には、高温での使用に適した熱電材料であることが分かった。
本実施例では、熱電性能の因子として、ρとSの温度依存性を示したが、熱電性能指数を評価するためには、κの値を評価する必要がある。κは、電子などのキャリアによる熱伝導と、格子振動による熱伝導との足し合わせで表される。Fe及びCoを含むスピネル型酸化物の場合には、電気伝導機構が、ホッピング伝導であるため、バンド伝導と比較して、温度による大幅なキャリア濃度の変化が生じない。その結果として、温度によるキャリアの熱伝導率の大幅な変化は生じない。
また、Fe3O4に比べて、Fe以外の他の金属元素で置換したスピネル型酸化物のほうが、結晶格子の単位構造に起因した熱振動の種類が増加し、高エネルギーの振動状態が、多数、発現する。様々な格子振動の状態が干渉することにより、結果として、格子の振動による熱の伝播速度が抑制され熱伝導率が減少する。また、温度上昇に伴い、熱による格子の振動エネルギーは増加するが、様々な振動状態が存在することにより、温度上昇による格子の振動に起因する熱伝導の増加を抑制することができる。Fe3O4の単結晶の熱伝導率は、本実施例で示した温度域でも、高々10W/(m・K)程度以下である事が知られている。本実施例で示したFe及びCoを含むスピネル型酸化物は、単結晶より熱伝導が抑制される焼結体の形態であるため、さらに低い熱伝導率を実現することが可能である。
このようにして第1熱電材料5及び第2熱電材料6は、CoxFe3-xO4のFeとCoの組成比を制御したスピネル型酸化物によって形成するようにしたことにより、電気伝導型を容易に制御できる。
そして、このようにして作製した第1熱電材料5及び第2熱電材料6は、それぞれFeとCoの組成により電気伝導型を制御できるために、第1熱電材料5をp型の半導体材料として用い、第2熱電材料6をn型の半導体材料として用いて、図2に示すような熱電素子を作製することができる。実際上、熱電素子を作成する場合には、第1熱電材料5及び第2熱電材料6を接続するために、めっきやスパッタ成膜などの方法により、それぞれの熱電材料の高温側と低温側に、金属を形成する。なお用いる金属は、Niなどの遷移金属などが望ましい。続いて、事前に、電極のパターンなどを形成したアルミナなどで構成された耐熱性のある絶縁基板上に、第1熱電材料5と第2熱電材料6を配置し、加熱処理などにより、片側の電極を接合する。さらに、電極パターンを形成した別の基板を、加熱処理などにより、第1熱電材料5と第2熱電材料6の反対側の電極と接合する。最後に、所定の電極にリード線を設置する。リード線の接合に接合助剤などを用いる場合には、熱電素子の使用温度域に応じた適切なペースト剤などを用いることが望ましい。
以上の構成において、第1熱電材料5及び第2熱電材料6では、Fe及びCoの単体金属を含み、スピネル型結晶構造をなす酸化物で形成するようにしたことにより、同一結晶系で、かつ構成元素の主成分を同等にしてFe及びCoの組成を変えるだけp型及びn型の電気伝導型を制御することができる。このような、Fe及びCoを含むp型とn型の電気伝導型を示すスピネル型酸化物では、高温大気中で安定な熱電性能を示すため、スピネル型という同一結晶系で、かつ主成分がFe及びCoの同一の材料を第1熱電材料5及び第2熱電材料6として用いることにより、最適な熱電素子2を製造することができる。また、n型及びp型の作製方法として同じ作製方法を用いることができるため、作製工程を簡便にすることができる。
さらに、第1熱電材料5及び第2熱電材料6では、Fe及びCoを主成分として含むスピネル型酸化物で形成されていることにより、特に400℃程度以上の高温大気中で使用する発電用途の熱電素子に用いることができ、また熱電特性の安定性と量産性に優れている。さらに、スピネル型酸化物やスピネル型酸化物を構成する元素が低環境負荷であるという汎用性に適した特徴を有する。
また、この実施の形態の場合には、例えば第1熱処理工程において、スピネル型酸化物の原料を、高融点材料で作製した石英管10の密閉空間内で熱処理することにより、酸化物を用いたスピネル型酸化物の生成反応を、従来の熱処理法より低温の熱処理で活性化させることができる。結果として、岩塩構造の結晶相の生成を抑制し、スピネル型酸化物の単相を作製することができる。また、原料に粉末を用いた場合には、微粉末にする必要がないため、原料の酸化物粉末の純度が維持できる程度の結晶粒径であれば、純粋なスピネル型酸化物を作製できる。
さらに、Fe及びCoを含むスピネル型酸化物をなす第1熱電材料5では、p型の電気伝導性を示すFeとCoの組成において、熱起電力を評価する指数であるゼーベック係数の極大値を示す温度域を制御することができる。主たる電気伝導機構がバンド伝導性を示す半導体の中には、電気伝導に寄与するキャリア濃度の制御により、ゼーベック係数の極大値を示す温度を制御できる場合があるが、一般的に、キャリア濃度の増加に伴いゼーベック係数の絶対値は減少し、温度域は高温側に推移するという特徴があり、ゼーベック係数の絶対値の極大値と、極大値を示す温度域を独立に制御することは困難である。一方、本発明によるFeとCoを含むスピネル型酸化物は、主たる電気伝導機構がホッピング伝導性を示し、加えて、スピネル型酸化物のFeイオンとCoイオンに起因した電子と正孔の双方が伝導キャリアとなり得るため、ゼーベック係数の絶対値を大きく変化させることなく、極大値を示す温度域を制御することができる。したがって、熱起電力を指数とした、室温以上の高温域において、センサ機能をもつ熱電素子を作製することができる。
以上の構成によれば、Fe及びCoの単体金属を主成分として含み、CoxFe3-xO4でなるスピネル型結晶構造をなす酸化物を用い、組成xを任意に選定して、第1熱電材料5及び第2熱電材料6を作製するようにしたことにより、耐熱性及び熱電特性の安定性に優れ、かつ量産性及び簡便性にも優れた熱電材料及び熱電素子を実現することができる。
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々の変形実施が可能である。例えば、第1熱電材料又は第2熱電材料に形成する金属は、前記のように金属膜を形成する方法ではなく、第1熱電材料と第2熱電材料の接合部を、スパッタエッチングなどにより還元し、金属にする方法でもよい。
また、p型のスピネル型酸化物とn型のスピネル型酸化物とは、それぞれFeとCoの組成を調整することにより、図7に示すように、同一の熱処理条件でp型領域15とn型領域16とを含む熱電材料(以下、第3熱電材料と呼ぶ)17を一度の熱処理で作製することができる。第3熱電材料17では、p型領域15とn型領域16との境界領域を還元する、もしくは、第1熱電材料5と第2熱電材料6を用いて熱電素子を作製する場合と同様の方法により、境界領域の上に金属膜18などを形成することで、p型、金属、n型の連続した構造を作製することができる。金属領域を形成した第3熱電材料17を用いて、熱電素子を作製することもできる。また第3熱電材料17では、スピネル型酸化物であるCoxFe3−xO4において、Feに対するCoの元素の組成xの比率を単調に変化させて、p型とn型との電気伝導性を連続させるようにしても良い。
(第2実施例)
図8(A)において、20は第2実施例による熱電素子を示し、この熱電素子20は、上述した第1実施例で示したスピネル型酸化物の中で、スピネル型酸化物のCoの組成が1近傍で、所定の組成域に選定されていることにより使用温度域内で温度に応じて電気伝導型(n型及びp型)が変化する構成を備えた第1熱電材料21と、この第1熱電材料21と対をなすn型の電気伝導性をもつ第2熱電材料22とから構成されており、熱電素子20全体が低温域にある場合、第1熱電材料がp型となり、熱起電力を利用した熱電素子20として動作させることができるようになされている。
図8(A)において、20は第2実施例による熱電素子を示し、この熱電素子20は、上述した第1実施例で示したスピネル型酸化物の中で、スピネル型酸化物のCoの組成が1近傍で、所定の組成域に選定されていることにより使用温度域内で温度に応じて電気伝導型(n型及びp型)が変化する構成を備えた第1熱電材料21と、この第1熱電材料21と対をなすn型の電気伝導性をもつ第2熱電材料22とから構成されており、熱電素子20全体が低温域にある場合、第1熱電材料がp型となり、熱起電力を利用した熱電素子20として動作させることができるようになされている。
因みに、この熱電素子20では、図8(B)に示すように、n型の電気伝導性をもつ第2熱電材料22に替えて、p型の電気伝導性をもつ第2熱電材料23を用いるようにしてもよく、この場合、熱電素子20全体が高温域にある場合、第1熱電材料がn型となり、熱起電力を利用した熱電素子20として動作させることができるようになされている。そして、図8(A)に示した熱電素子20と、図8(B)に示した熱電素子20とを複数設けるようにしても良い。
まず始めに、熱電素子20を作製する方法について以下説明する。図9は、第2実施例の作製工程を示すフローチャートであり、まず始めの工程として、第1熱処理工程など(図3)を施すことによりFe酸化物とCo酸化物とを用いて第1熱電材料用の成型体を作製する。なお、この場合、原料粉末の粒径の規格が100μm程度以下であることが望ましい点などについては上述した第1実施例と同様であり、重複した説明となるため以下省略する。かかる構成に加えて第2実施例では、スピネル型酸化物であるCoxFe3−xO4のCoの組成xが、0.9≦x≦1の組成域内において任意に選定された所定の組成xとなるようにFe酸化物とCo酸化物とを計量する(例えばCo1Fe2O4)。かくして第2実施例では、このような0.9≦x≦1の組成域に選定することにより、図6(B)に示したように、200℃程度の低温域でp型の電気伝導性をもち、700℃程度の高温域でn型の電気伝導性をもつ変動性を備えた第1熱電材料を作製し得るようになされている。
実際上、実施例1と同様に、計量したFe酸化物とCo酸化物を乳鉢などの容器に入れて、撹拌棒を用いて、粉砕し混合する。なお、粉砕後の結晶粒の平均粒径は、数十μm程度であればよい。また、混合時にFe酸化物とCo酸化物の反応を促進する必要はないので、室温・大気中で混合すればよい。
続いて、実施例1と同様に、粉砕及び混合した原料粉末を100kgf/cm2程度で加圧成型し、ペレット状などの所定形状からなる第1熱電材料用の成型体を作製する。また、第1熱処理工程のみで、焼結体を作製する必要がない場合は、加圧成型することなく、粉砕及び混合した粉末を用いても、密閉空間を用いた一定温度での熱処理などの適切な熱処理条件で熱処理を行うことにより、原料粉末の固相反応を促進させることが可能である。また、加圧成型する際は、第1実施例と同様の理由で、粉砕及び混合した原料粉末に、結合補助剤たる結合剤としてポリビニルアルコールの水溶液や、結合補助剤たる分散剤としてグリセリンなどを用いることで、粉末粒子を分散させ、かつ密着性を向上させる方法が望ましい。
続いて、第1熱電材料21と対をなす第2熱電材料用の成型体を作製する。熱電素子の基本構造は、図8(A)及び(B)に示すように、p型とn型の熱電材料を金属で接合された構造で、対を形成することで、効率的に動作させることができる。
p型及びn型の熱電材料は、多数、存在するが、結晶系や構成元素が異なることで、作製方法が異なる場合がある。第1熱電材料21と第2熱電材料22,23が、同一結晶系で、構成元素の主成分が同等である場合は、同様の作製方法を用いることができるため、作製工程が簡便になるという効果がある。そこで、スピネル型酸化物を用いて、第1熱電材料の作製方法に準じて、第2熱電材料用の成型体を作製することは、作製工程を簡便にするために効果的である。
続いて、第1熱電材料用の成型体と、第2熱電材料用の成型体とを第1加熱として熱処理して、粉体を作製する。第1加熱において、第1実施例と同様に、原料粉末の種類により、雰囲気や温度などの熱処理条件を調整する必要がある。スピネル型酸化物のCoの組成xが、0.9≦x≦1の場合には、Feの原料粉末としてα―Fe2O3を用い、1000℃以上1100℃以下程度の温度で、酸素雰囲気により10時間程度の熱処理を施すことが望ましい。また、第1実施例に示したように、石英管10を用いて密閉空間で熱処理する場合には、第1実施例と同様の方法で、封入した密閉空間を作製し、1000℃以上1100℃以下程度で、10時間程度の熱処理を施すことが望ましい。
また、第1熱電材料21と第2熱電材料22,23とを作製するための熱処理条件が同等である場合には、第1熱電材料用の成型体と第2熱処理材料用の成型体とを同時に熱処理することも可能である。その場合、前記の酸素雰囲気内での熱処理でもよいし、第1熱電材料用の成型体及び第2熱電材料用の成型体それぞれを密閉空間内で熱処理してもよいし、第1熱電材料の成型体及び第2熱電材料の成型体を同時に石英管10内に封入して、熱処理を施してもよい。なお、第1実施例と同様に、第1熱処理工程のみで第1熱電材料用の焼結体あるいは第2熱電材料用の焼結体を作製する場合には、第1熱処理工程の第1加熱を、石英管10の密閉空間内で、1100℃以上程度の温度で行うことで、焼結度の高い焼結体を作製することができる。
上述した第1実施例と同様に第1熱処理工程に続いて第2熱処理工程を施す場合には、第1熱電材料用に熱処理した粉体と、第2熱電材料用に熱処理した粉体とをそれぞれ粉砕する。粉砕後の粉末の結晶粒径は、第1実施例と同様に数十μm程度でよい。続いて、粉砕した各粉末をそれぞれ加圧成型し、新たに成型体を作製する。次いで第2熱処理工程として成型体に熱処理を施す。このような第2熱処理工程の目的は、焼結体の第1熱電材料と第2熱電材料を作製することである。なお、第1熱処理工程と同様に、第1熱電材料21と第2熱電材料22,23の熱処理条件が同一である場合は、同時に熱処理を施すことが可能である。なお、密閉空間を用いた熱処理方法は、第1熱処理工程で示した方法に準ずる。なお、第1実施例と同様に、第2熱処理工程の第2加熱を、石英管10の密閉空間内で、1100℃以上程度の温度で行うことで、焼結度の高い焼結体を作製することができる。
最後に上述した第1実施例と同様に、絶縁基板上に第1熱電材料21と、例えばn型の第2熱電材料22とを配置し、加熱処理などにより、片側の電極7を接合し。さらに、電極パターンを形成した別の基板を、加熱処理などにより、熱電材料の反対側の電極8と接合して熱電素子20が作製され得る。そして、熱電素子20に電流を取り出すためのリード線3,4を設置する。
このような工程を得て作製された熱電素子20は、第1熱電材料21が、スピネル型酸化物であるCoxFe3−xO4のCoの組成xについて0.9≦x≦1の組成域内で任意の組成xとなるようにFe酸化物とCo酸化物とを選定したことにより、図6(B)に示したように、低温域でp型の電気伝導性をもち、高温域でn型の電気伝導性をもつことができる。従って、図8(A)に示したように、すべての使用温度域においてn型の電気伝導性をもつ第2熱電材料22を用いたときには、熱電素子20全体が低温域にある場合、第1熱電材料21がp型となるため、熱起電力を利用した熱電素子20として動作させることができる。一方、熱電素子20全体が高温域の場合には、第1熱電材料21と第2熱電材料22とが共にn型の電気伝導性をもつことになるため、熱起電力の絶対値が極端に小さくなる。
これに対して、図8(B)に示したように、すべての使用温度域においてp型の電気伝導性をもつ第2熱電材料23を用いたときには、熱電素子20全体が高温域にある場合、第1熱電材料21がn型となるため、熱起電力を利用した熱電素子20として動作させることができる。一方、熱電素子20全体が低温域の場合には、第1熱電材料21と第2熱電材料23とが共にp型の電気伝導性をもつことになるため、極端に熱起電力の絶対値が小さくなる。
従って、このような熱電素子20では、使用温度域により起電力の極性を制御することができる。その結果、温度による整流性をもつ直流電源として用いることができる。また、第1熱電材料21と第2熱電材料22,23とが、同じ電気伝導型になった場合(例えばn型の第2熱電材料22を用いているとき、第1熱電材料21がn型になった場合)には、熱電素子20の熱起電力が極端に小さくなるため、抵抗体として用いることもできる。
なお、第2実施例で示したスピネル型酸化物は、低温域で熱電素子20に使用するために適さない、高い電気抵抗率を示す場合があり、高電気抵抗が原因で、熱電材料に電流が流れることで発生するジュール熱の影響により、エネルギー変換効率が低下する場合がある。異種の結晶相が存在する材料の中には、温度を上昇させることにより異なる結晶相の間で反応が生じて、種々の特性が変化する場合があるが、使用温度域を限定することにより、異なる結晶相を反応させずに独立に維持することができる。そこで、高融点金属などを第1熱電材料21に適切な組成比で分散させることにより、低温域でも第1熱電材料21の電気伝導型の特性を維持した状態で、電気抵抗率を減少させることができる。また、第1熱電材料21のキュリー温度以下の低温域であれば、磁気秩序が保たれているため、第1熱電材料21を磁化した場合には、第1実施例で示したように、電気抵抗率が変化する場合がある。前記の場合には、第1熱電材料21又は第2熱電材料22,23を作製した後に、第1熱電材料21又は第2熱電材料22,23に対して、温度差をつける方向に、電磁石などを用いて磁化することにより、電気抵抗率を減少させることができる。また、熱電素子20の熱電性能は、電気抵抗の大きさが、直接、ジュール熱に影響するので、熱電素子20に用いる熱電材料の電流方向の断面積を大きくすることにより、電気抵抗を小さくすることもできる。
以上の構成によれば、スピネル型結晶構造をなす酸化物がCoxFe3-xO4であって、酸素濃度が化学量論比組成であり、かつ組成xを、0.9≦x≦1の組成域内に選定したことにより、500℃以下でp型の電気伝導性を示し、600℃以上でn型の電気伝導性を示すことができる。このように、特定のFe及びCoの組成であるスピネル型酸化物では、温度域により電気伝導型を制御することができる。従って、同一金属組成のスピネル型酸化物を用いて、所望の温度域においてのみ動作する熱電素子を作製することができる。
(第3実施例)
図10において、30は第3実施例による熱電素子を示し、この熱電素子30は、第1実施例で示したスピネル型酸化物による熱電材料の中で、全使用温度域においてp型の電気伝導型をもつように組成域が選定された第1熱電材料31と、この第1熱電材料31と対をなす第2熱電材料32とで構成されている。
図10において、30は第3実施例による熱電素子を示し、この熱電素子30は、第1実施例で示したスピネル型酸化物による熱電材料の中で、全使用温度域においてp型の電気伝導型をもつように組成域が選定された第1熱電材料31と、この第1熱電材料31と対をなす第2熱電材料32とで構成されている。
まず始めに、熱電素子30を作製する方法について以下説明する。図11は、第3実施例の作製工程を示すフローチャートであり、まず始めの工程として、第1熱処理工程など(図3)を施すことによりFe酸化物とCo酸化物とを用いて第1熱電材料用の成型体を作製する。かかる構成に加えて第3実施例では、スピネル型酸化物であるCoxFe3−xO4のCoの組成xについて、1<x≦3の範囲内で任意に選定された組成xとなるようにFe酸化物とCo酸化物とを計量する。かくして第3実施例では、1<x≦3の組成域に選定されていることにより、図6(B)に示したように、200℃から700℃程度までの全使用温度域で、p型の電気伝導性をもつ第1熱電材料31を作製し得るようになされている。
続いて、図3に示したように、第1実施例と同様に、原料粉末の純度を維持するために、乳鉢などの容器に、計量したFe酸化物とCo酸化物とを入れて、撹拌棒を用いて粉砕し混合する。続いて、第1実施例と同様に、粉砕及び混合した原料粉末を、100kgf/cm2程度で加圧成型し、所定形状からなる成型体を作製する。なお、第1実施例と同様に、第1熱処理工程により、焼結体を作製する必要がない場合には、加圧成型することなく、粉砕及び混合した粉末を用いても、密閉空間を用いた一定温度での熱処理などの適切な熱処理条件で熱処理を行うことにより、原料粉末の固相反応を促進させることは可能である。また、加圧成型する際は、実施例1と同様の理由で、粉砕かつ混合した原料粉末に、ポリビニルアルコールの水溶液や、グリセリンなどの粒子を分散させ、密着性を向上させることが望ましい。
続いて、第1熱電材料31と対をなす第2熱電材料用の成型体を作製する(図11)。ここで熱電素子30の基本構造は、図10に示したように、p型とn型との熱電材料を金属で接合された構造で、対を成すことで効率的に動作させることができる。第1熱電材料用のスピネル型酸化物は、FeとCoの組成により、ゼーベック係数の極大値を示す温度を制御することができるという特徴をもつ。そこで、第1熱電材料31のゼーベック係数の特性を用いるために、対をなす第2熱電材料32は、熱起電力の絶対値の温度依存性が小さい材料、あるいは金属を用いる。しかしながら、p型とn型の熱電材料は、多数存在し、結晶系や構成元素が異なることで、作製方法が異なる場合がある。そこで本願発明では、第1熱電材料31と第2熱電材料32とが、同一結晶系で、構成元素の主成分が同等とし、同様の作製方法を用いることができるように構成することが望ましく、この場合、第2熱電材料32がスピネル型酸化物を用いて第1熱電材料31の作製方法に準じて作製し得、その結果、作製工程を簡便にできる。
続いて、第1熱電材料用と第2熱電材料用の成型体を第1加熱たる熱処理を行って、粉体を作製する。第1加熱では、第1実施例と同様に、原料粉末に含まれる金属の組成により、雰囲気や温度などの熱処理条件を調整する必要がある。第2熱電材料32に金属を用いる場合は、第1熱電材料31と同等の作製条件で作製できる高融点金属などが望ましい。第2熱電材料32にスピネル型酸化物を用いて、400℃程度以下で熱電素子を動作させる場合には、例えば原料のFe酸化物にFe3O4を用いればよい。400℃程度以上で熱電素子30を用いる場合には、Fe3O4のFeの一部をCoで置換する方法などが望ましい。Fe3O4の焼結体は、Feの原料粉末にFe2O3、あるいは、Fe3O4を用いて、1000℃以上1100℃以下程度の温度で、アルゴン雰囲気により10時間程度の熱処理を施すことなどが望ましい。また、第1実施例に示した、石英管10を用いて密閉空間で熱処理する場合には、実施例1と同様の方法で、封入した密閉空間をもつ石英管10を作製し、1000℃以上1100℃以下程度で、10時間程度の熱処理を施すことが望ましい点や、結合助剤を用いる場合には片側封じ石英管の中に設置する前に、加熱処理により結合助剤を除去することが望ましいなどの点については上述した第1実施例と同様であるため、その説明は省略する。
また、第1熱電材料31及び第2熱電材料32を作製するための熱処理条件が同等である場合には、第1熱電材料用の成型体と第2熱電材料用の成型体とを同時に熱処理することも可能である。その場合、酸素雰囲気の熱処理でもよく、また第1熱電材料31及び第2熱電材料32ごとに密閉空間をそれぞれ作製し、同時に熱処理を施してもよく、それぞれの第1熱電材料31及び第2熱電材料32を同時に密閉空間に封入して熱処理を施してもよい。なお、第1実施例と同様の理由で、第1熱処理工程のみで第1熱電材料用の焼結体を作製する場合、第1熱電材料用の成型体の第1熱処理工程の第1加熱を、密閉空間内で、1100℃以上程度の温度で行うことにより、焼結度の高い焼結体を作製できる。
続いて、図3に示したように、第1実施例と同様に第2熱処理工程を行って焼結体の第1熱電材料31と第2熱電材料32とを作製する。ここで第2熱処理工程の目的は、焼結体の第1熱電材料31と第2熱電材料32を作製することである。なお、第1熱処理工程と同様に、第1熱電材料31と第2熱電材料32の熱処理条件が同一である場合は、同時に熱処理を施すことが可能である。なお、密閉空間を用いた熱処理方法は、第1熱処理工程で示した方法に準ずる。続いて、作製された第1熱電材料31と第2熱電材料32を用いて、熱電素子30を作製する。実際上、図11に示したように、まず、第1熱電材料31と第2熱電材料32を接続するNiなどの遷移金属を、めっきなどの方法により、それぞれの第1熱電材料31及び第2熱電材料32の高温側と低温側に形成し、事前に、電極のパターンなどを形成したアルミナなどで構成された耐熱性のある絶縁基板上に第1熱電材料31と第2熱電材料32を配置し、加熱処理などにより、片側の電極を接合する。さらに、電極パターンを形成した別の基板を、加熱処理などにより、熱電材料の反対側の電極と接合して熱電素子30を作製し得る。最後に、熱電素子30にリード線3,4を設置する(図10)。
このような工程を得て作製された熱電素子30は、第1熱電材料31がスピネル型酸化物のCoの組成xについて、1<x≦3の範囲内で任意の組成xとなるようにFe酸化物とCo酸化物とを選定したことにより、図6(B)に示したように、200℃から700℃の間の使用温度域で、p型の電気伝導性をもつことができる。また、図6(B)に示したように、スピネル型酸化物のFeとCoの組成により、熱起電力の極大値を示す温度域が変化することが分かる。また、一般的なバンド電気伝導を示す材料の特性と異なり、熱起電力の絶対値は大きく減少しない。
従って、熱電素子30では、第1熱電材料31がp型の電気伝導性をもつことになるので、第2熱電材料32に、熱起電力の小さいn型、あるいは、金属を用いることにより、熱起電力の極大値近傍の値を閾値とし、かつ高温で使用する温度センサとして用いることができる。この実施の形態の場合、熱起電力の極大値が500μV/K程度以上の値を示すため(図6(B))、ゼーベック係数の絶対値を温度センサの指数として用いるには、十分な大きさがある。
なお、第3実施例で示したスピネル型酸化物では、第2実施例と同様に、低温域で熱電素子30に適用するために適さない、高い電気抵抗率を示す場合があり、高電気抵抗が原因で、第1熱電材料31及び第2熱電材料32に電流が流れることで発生するジュール熱の影響でエネルギー変換効率が低下する場合がある。異種の結晶相が存在する材料の中には、温度を上昇させることにより反応が生じて、熱電特性が変化する場合があるが、使用温度域を限定することにより、異なる結晶相を独立に維持することができる。そこで、高融点金属などを第1熱電材料31に適切な混合比で分散させることにより、第1熱電材料31の熱電特性の特徴を保持した状態で、低温域の電気抵抗率を減少させることができる。また、第1熱電材料31のキュリー温度以下の低温域であれば、磁気秩序が保たれているため、第1実施例で示したように、第1熱電材料31を磁化した場合には、電気抵抗率が変化する場合がある。第1熱電材料31又は第2熱電材料32を作製した後に、第1熱電材料31又は第2熱電材料32に対して、温度差が発生する方向に、電磁石などを用いて磁化することにより、電気抵抗率を減少させることができる。また、実際の熱電素子では、電気抵抗の大きさがジュール熱に影響するので、熱電素子に用いる熱電材料の電流方向の断面積を大きくすることにより、電気抵抗を小さくすることもできる。
以上の構成によれば、スピネル型結晶構造をなす酸化物がCoxFe3-xO4であって、組成xが、1<x≦3の組成域内に選定するようにしたことにより、200℃から700℃の間の使用温度域で常にp型の電気伝導性を示す第1熱電材料31を作製することができる。また、1<x≦3の組成域内では、Coの増加に伴い、ゼーベック係数の絶対値を示す温度域が上昇するため、熱起電力をパラメータとしたセンサ素子としての熱電素子を作製することができる。
(第4実施例)
図12において、40は第4実施例による熱電素子を示し、この熱電素子40は、原料の酸化物の種類や作製方法により電気伝導型が変化するFeとCoとの組成域内において、電気伝導型がn型となる第1熱電材料41と、当該第1熱電材料41と対をなすp型となる第2熱電材料42とから構成されている。実際上、この第1熱電材料41は、スピネル型結晶構造の酸化物のCoxFe3−xO4-dにおいて、組成xが0.9≦x≦1の範囲内であって、かつ、組成dが、d>0であり、n型の電気伝導性を示すものである。
図12において、40は第4実施例による熱電素子を示し、この熱電素子40は、原料の酸化物の種類や作製方法により電気伝導型が変化するFeとCoとの組成域内において、電気伝導型がn型となる第1熱電材料41と、当該第1熱電材料41と対をなすp型となる第2熱電材料42とから構成されている。実際上、この第1熱電材料41は、スピネル型結晶構造の酸化物のCoxFe3−xO4-dにおいて、組成xが0.9≦x≦1の範囲内であって、かつ、組成dが、d>0であり、n型の電気伝導性を示すものである。
まず始めに、熱電素子40を作製する方法について以下説明する。図13は、第4実施例の作製工程を示すフローチャートである。まず始めの工程として、第1熱処理工程など(図3)を施すことによりFe酸化物とCo酸化物とを用いて第1熱電材料用の成型体を作製する。第1実施例と同様の理由で、Fe酸化物としては、例えばα―Fe2O3又はFe3O4の粉末を用い、Co酸化物としては、Co3O4の粉末を用いる。なお、この場合、原料粉末の粒径の規格が100μm程度以下であることが望ましい点などについては上述した第1実施例と同様であり、重複した説明となるため以下省略する。実際上、Fe酸化物とCo酸化物とを、所望の組成比になるように計量する。ここで、スピネル型酸化物のCoの組成xを、0.9≦x≦1とする。原料のFe酸化物として、第1熱電材料用としてはα―Fe2O3又はFe3O4を用いる。また第2熱電材料用としてはα―Fe2O3又はFe3O4を用いる。
続いて、実施例1と同様に、乳鉢などの容器に、計量したFe酸化物とCo酸化物を入れて、撹拌棒を用いて粉砕し混合する。続いて、実施例1と同様に、粉砕及び混合した原料粉末を、100kgf/cm2程度で加圧成型し、所定形状からなる成型体を作製する。また、第1熱処理工程により、焼結体を作製する必要がない場合には、加圧成型することなく、粉砕及び混合した粉末を用いても、石英管10の密閉空間を用いた一定温度での熱処理などの適切な熱処理条件で熱処理を行うことにより、原料粉末の固相反応を促進させることができる。続いて、第1加熱として第1熱電材料用の成型体を熱処理し、粉体あるいは焼結体を作製する。第1熱処理工程では、第1実施例と同様に、原料粉末の組成により、雰囲気や温度などの熱処理条件を調整する必要がある。
ここで、図14(A)及び(B)に第1熱処理工程のみで作製した第1熱電材料の熱電特性の温度依存性を示す。この実施の形態では、FeとCoとのモル組成比が、Fe:Co=2:1のスピネル型酸化物の焼結体を、第1熱電材料用の成型体に対して1100℃で10時間の第1加熱を行い、第1熱処理工程のみで作製した。この焼結体は、200℃以上700℃以下の温度域で、n型の電気伝導性をもつことが分かった。また、図14(A)及び(B)に示したスピネル型酸化物と、図6(B)に示したスピネル型酸化物のうち、FeとCoのモル組成比がFe:Co=2:1のスピネル型酸化物との酸素濃度を比較するために、蛍光X線分析と熱重量分析を行ったところ、図6(B)に示したスピネル型酸化物の酸素の組成は、Co1Fe2O4となり化学量論比組成であるのに対し、図14に示したスピネル型酸化物の場合は、Co1Fe2O4の化学量論比組成より低い組成(すなわちCo1Fe2O4-d 組成dがd>0)であった。
以上の研究結果より、スピネル型酸化物におけるCoの組成が1で、Feの組成が2の場合には、Coの還元性とFeの酸化性との均衡により、スピネル型酸化物の生成反応の過程で、酸素が脱離しやすい傾向があり、結果として、スピネル型酸化物に、電子キャリアが供給されたと考えられる。なお、n型の電気伝導性をもつ第1熱電材料41の熱電特性を制御するために、n型の状態で電気抵抗率を減少させるためには、原料のFe酸化物としてFe3O4を用い、1000℃以上1100℃以下程度の温度で、アルゴン雰囲気で10時間程度の熱処理を施すことなどが望ましい。また、n型の状態で、電気抵抗率を増加させるためには、Feの原料粉末としてα―Fe2O3を用い、1000℃以上1100℃以下程度の温度域で、酸素雰囲気により10時間程度の熱処理を施すことなどが望ましい。また、第1実施例に示した石英管10(図4)を用いて密閉空間で熱処理する場合には、第1実施例と同様の方法で、封入した密閉空間を作製し、1000℃以上1100℃以下程度で、10時間程度の熱処理を施すことが望ましい。
なお、第1熱処理工程に加えて、第2熱処理工程を施す場合には、第2加熱を酸素雰囲気で行うと、スピネル型酸化物は、第1実施例で示したように、FeとCoとの組成によっては、p型の電気伝導を示す場合がある。従って、n型の電気伝導性を示すスピネル型酸化物を作製するためには、第2加熱をアルゴンなどの不活性ガスの雰囲気で行うことが望ましい。なお、第1実施例と同様の理由で、第1熱処理工程のみで焼結体を作製する場合、第1熱電材料用の成型体に対して、第1熱処理工程の第1加熱を密閉空間内で1100℃程度以上の温度で行うことにより、焼結度の高い焼結体を作製することができる。また、第2熱処理工程も施す場合には、第1熱電材料用の成型体を熱処理した粉体から作製した成型体に対する、第2熱処理工程の第2加熱を、密閉空間内で、1100℃程度以上の温度で行うことにより、焼結度の高い焼結体を作製することができる。
続いて、第1熱電材料41の成型体の作製方法と同様の方法で作製した第2熱電材料用の成型体に対して、第1熱処理工程を施す(図3)。第1熱処理工程の熱処理方法は、第1熱電材料41の第1熱処理工程に準ずる。なお、第1実施例と同様の理由で、第1熱処理工程のみで第2熱電材料用の焼結体を作製する場合には、第2熱電材料用の成型体の第1熱処理工程における第1加熱を、密閉空間内で、1100℃程度以上の温度で行うことにより、焼結度の高い焼結体を作製することができる。
次に、加圧成型した第2熱電材料42の成型体に第2熱処理工程を行う。この第2熱処理工程の目的は、p型の第2熱電材料42の焼結体を作製することである。図6(B)に示したように、第1熱処理工程後の粉体を用いて作製した成型体に対して、第2熱処理工程として、1100℃で10時間の酸素雰囲気による第2加熱を行うことにより焼結体を作製する。この焼結体は、500℃以下で、p型の電気伝導性を示し、600℃以上でn型の電気伝導性を示す。なお、第1実施例と同様に、第2熱電材料用の成型体における第2熱処理工程の第2加熱を、密閉空間内で、1100℃程度以上の温度で行うことにより、焼結度の高い焼結体を作製することができる。
スピネル型酸化物におけるCoxFe3−xO4-dのCoの組成が1で、Feの組成が2の場合には、Coの還元性とFeの酸化性の均衡により、スピネル型酸化物の生成反応の過程で、酸素が離脱しやすい傾向がある。しかしながら、第1熱処理工程により、すでにスピネル型酸化物の生成反応がほぼ終了し、第2熱処理工程では、主に、高温度による焼結効果が働いている。従って、第2熱処理工程では、熱処理条件と、スピネル型酸化物に含まれるFeとCoの組成に依存して、スピネル型酸化物からの酸素の放出や、スピネル型酸化物への酸素の供給が生ずる。また、第1熱処理後に粉砕する工程で、少なからず、粉砕した粉末の表面の酸化が進行する。その結果として、スピネル型酸化物の酸素欠損が減少し、特定の温度より低温域では、正孔による電気伝導が支配的(すなわち、p型の電気伝導性)になったと考えられる。なお、n型の第1熱電材料41を、第1熱処理工程のみで作製する方法を示したが、第2熱処理工程で、スピネル構造の結晶相が維持される範囲内で、還元雰囲気、もしくは、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気で熱処理することにより、第2熱処理工程を施した場合でも、n型の電気伝導性を実現することができる。
最後に上述した第1実施例と同様に、絶縁基板上に第1熱電材料41と第2熱電材料42を配置し、加熱処理などにより、片側の電極7を接合し、さらに、電極パターンを形成した別の基板を、加熱処理などにより、熱電材料の反対側の電極8と接合して熱電素子40が作製され、当該熱電素子40に電流を取り出すためのリード線3,4を設置する。
以上の構成において、第4実施例の第1熱電材料41では、CoxFe3-xO4-dでなるスピネル型結晶構造の酸化物において、組成xが0.9≦x≦1の範囲内としてn型の電気伝導性をもたせ、かつ組成dを、d>0の範囲内とすることにより酸素濃度を調整し、n型の状態で電気抵抗率を増減させることにより、熱電特性を制御できる。また、第1熱電材料41及び第2熱電材料42について前記の作製法によるスピネル型酸化物を用いることで、同一金属組成を用いて、n型の第1熱電材料41とp型の第2熱電材料42とを作製できるとともに、これら同一金属組成からなるn型の第1熱電材料41とp型の第2熱電材料42とを用いて熱電素子40を作製できる。
これに加えて、以上の作製工程により作製された熱電素子40において、スピネル型酸化物の第1熱電材料41では、単体金属の主成分であるFeとCoの組成比を適宜選定し、酸素濃度を高くすることにより低温域でp型となり、かつ高温域でn型となる。また、スピネル型酸化物の第1熱電材料41において酸素濃度を低くした場合には、全使用温度域で、n型となる。従って、第1熱電材料41及び第2熱電材料42では、単体金属の主成分であるFeとCoの組成比が同一で、かつ酸素濃度が異なるスピネル型酸化物を用いることで、低温域でのみ熱電素子として動作させることができる。かくして温度に応じて動作する熱電素子を作製することができる。さらに、1100℃程度以上の温度域では、熱電素子周辺の雰囲気により、熱電材料の熱電特性が経時的に変化するため、雰囲気による熱電特性の変化を利用したガスセンサとして、熱電素子を機能させることもできる。
なお、本実施例で示したスピネル型酸化物は、第2実施例と同様に、低温域で熱電素子40を適用するために適さない、高い電気抵抗率を示す場合があり、高電気抵抗が原因で、熱電材料に電流が流れることで発生するジュール熱の影響でエネルギー変換効率が低下する場合がある。異種の結晶相が存在する材料の中には、温度を上昇させることにより反応が生じて、種々の特性が変化する場合があるが、使用温度域を限定することにより、異なる結晶相を独立に維持することができる。そこで、高融点金属を第1熱電材料41に適切な組成比で分散させることにより、低温域でも、第1熱電材料41の熱電特性の特徴を保持した状態で、電気抵抗率を減少させることが可能である。また、低温域で、かつ第1熱電材料41のキュリー温度以下であれば、磁気秩序が保たれているため、第1実施例で示したように、電気抵抗率が低下する場合がある。その場合には、第1熱電材料41又は第2熱電材料42を作製した後に、第1熱電材料41又は第2熱電材料42に対して、接合方向(電流を流す方向)に、電磁石などを用いて磁化することにより、電気抵抗率を減少させることができる。また、実際の熱電素子では、電気抵抗の大きさがジュール熱に影響するので、熱電素子に用いる熱電材料の電流方向の断面積を大きくすることにより、電気抵抗を小さくすることができる。
以上の構成によれば、スピネル型結晶構造をなす酸化物がCoxFe3-xO4-dであって、組成xが、0.9≦x≦1であるとともに、組成dが、d>0の組成域内に選定するようにしたことにより、n型の電気伝導性を示す第1熱電材料41を作製し得、またスピネル型酸化物の原料酸化物の種類や作製条件を調整することにより、スピネル型酸化物の酸素量を制御することで、熱電特性を制御することができる。また第1熱電材料41について、酸素濃度の異なる同一金属組成のスピネル型酸化物を用いて、熱電素子40を作製することもできる。
(第5実施例)
図15において、50は第5実施例による熱電素子を示し、上述した第1実施例から第4実施例が第1熱電材料及び第2熱電材料について焼結体を用いたのに対して、この第5実施例の熱電素子50では、耐熱性のある基板上に、CoxFe3-xO4からなるスピネル型酸化物の第1熱電材料52及び第2熱電材料53を膜状に作製した構成を有する。熱電素子50では、第1領域ER1に第1熱電材料52が膜状に作製されているとともに、第2領域ER2に第2熱電材料53を膜状に作製され、これら第1領域ER1及び第2領域ER2との間の高温側となる第3領域ER3に電極54が形成されている。また、熱電素子50では、第1領域ER1と連続する第4領域ER4と、第2領域ER2と連続する第5領域ER5との低温側にもそれぞれ電極55が形成されている。
図15において、50は第5実施例による熱電素子を示し、上述した第1実施例から第4実施例が第1熱電材料及び第2熱電材料について焼結体を用いたのに対して、この第5実施例の熱電素子50では、耐熱性のある基板上に、CoxFe3-xO4からなるスピネル型酸化物の第1熱電材料52及び第2熱電材料53を膜状に作製した構成を有する。熱電素子50では、第1領域ER1に第1熱電材料52が膜状に作製されているとともに、第2領域ER2に第2熱電材料53を膜状に作製され、これら第1領域ER1及び第2領域ER2との間の高温側となる第3領域ER3に電極54が形成されている。また、熱電素子50では、第1領域ER1と連続する第4領域ER4と、第2領域ER2と連続する第5領域ER5との低温側にもそれぞれ電極55が形成されている。
まず始めに、熱電素子50を作製する方法について以下説明する。図16は、第5実施例の作製工程を示すフローチャートであり、対向電極が設置された真空容器内で、高周波もしくは直流の電圧を印加することにより発生するプラズマを用いて、ガスのイオンによるスパッタリング現象を用いた成膜方法(以下、スパッタ法と呼ぶ)を用いたものである。
この作製方法では、スパッタターゲット材料(以下、ターゲット材料と呼ぶ)に、FeとCoや、FeとCoの合金、Fe酸化物とCo酸化物、FeとCoとを含む酸化物などを用いる。ターゲット材料としてFeやCoを用いる場合には、焼結体でもよいし、板状でもよい。また、基板上に形成するスピネル型酸化物の膜の純度を考慮しない場合は、ターゲット材料の純度は98%以下でもよい。基板材料は、熱酸化したシリコン単結晶基板や石英やアルミナなどの耐熱性のある材料が望ましい。真空排気装置は、ロータリーポンプと、油拡散ポンプもしくはターボ分子ポンプなどを用いて、到達真空度を、10−4〜10−5Pa以下程度とする。
成膜時の基板設定温度は、後に、熱処理工程を施す場合には、室温でもよい。成膜時の結晶化を促進させる場合や、基板と膜の密着性を制御する場合には、基板を加熱してもよい。また、成膜条件は、ターゲット材料の種類に応じて調整する。例えば、ターゲット材料が、FeとCoを主成分とする単体金属や合金の場合には、アルゴンなどの不活性ガスに加えて、酸素ガスなどを供給しながら成膜する。全ガス圧力は、数Pa程度でよい。酸化を促進するために、成膜時に基板を加熱しておくことも効果的である。一方、ターゲット表面にターゲットに平行な磁場を増加させることなどにより、プラズマ密度が増加すると、ガスの陽イオンによるターゲット材料のスパッタリングにより、ターゲット材料から飛散する粒子(以下、スパッタ粒子と呼ぶ)が増加する。また、ターゲット表面の温度上昇も起こる。その結果、スパッタ粒子が活性になり酸化されやすくなる。また、スパッタ粒子のエネルギーが増加するため、基板上に到達したスパッタ粒子は、熱平衡状態に近づくために移動する。その結果、結晶性に優れた緻密な膜が生成されやすくなる。
成膜後、結晶性を向上させるために、酸素雰囲気などで熱処理を施してもよい、その際、焼結体作製に用いる成型体より、結晶粒が微細で密着性が高いために、焼結体作製時の熱処理より、低温かつ短時間で結晶化を促進させることが可能である。
ところで、スパッタターゲットに合金や酸化物を用いた場合には、成膜条件により、ターゲット材料の組成と膜の組成が異なる場合がある。ただし、FeとCoを主成分とするスピネル型酸化物では、焼結体と同様に、膜中のスピネル型酸化物のCoxFe3−xO4において組成xが、1<x≦3では、200℃以上700℃以下でp型になり、0≦x<0.9ではn型になる。従って、p型とn型の領域を、FeとCoの組成の制御により作製することができる。p型の状態で低温域での電気抵抗率を低下させるためには、焼結体の場合と同様に、x>1では、Coの一部をNiなどで置換することが効果的である。また、n型の場合には、Fe3O4を主成分として、Feの一部を遷移金属などで置換することが効果的である。さらに、低温域のみで動作させる場合は、高融点金属などとスピネル型酸化物の混相を作製することで、低温域の電気抵抗率を減少させることができる。
このような工程を得ることによって、第1熱電材料52及び第2熱電材料53では、第1実施例の焼結体と同様にスピネル型酸化物の金属元素の主成分であるFeとCoの組成を制御することができ、かくして電気伝導型を制御した第1熱電材料52及び第2熱電材料53の膜を作製することができる。
続いて、p型の第1熱電材料52の膜を形成した基板と、n型の第2熱電材料53の膜を形成した基板とを用いて、互いに金属電極54、55を介して接合することにより、熱電素子50を作製することができる。金属は、基板上に形成した膜でもよいし、板状でもよい。また、スピネル型酸化物のFeとCoの組成を単調に変化させた膜を一度に作製することにより、p型領域とn型領域が存在する膜を、一度の成膜で作製することができる。この場合、第1実施例の焼結体の場合と同様に、p型領域とn型領域の境界領域を還元する、もしくは、高融点金属などの金属膜をスピネル型酸化物のp型領域とn型領域の境界領域上に堆積させる方法などにより、p型、金属及びn型が連続した熱電素子を作製することができる。最後にリード線を接続することにより熱電素子を作製することができる。
以上の構成によれば、熱電素子50では、耐熱性のある基板上に、CoxFe3-xO4からなるスピネル型酸化物の第1熱電材料52及び第2熱電材料53を膜状に作製するようにした。これにより、大きな発電量を必要としない場合やセンサ素子に用いる場合には、焼結体ではなく基板上に形成したスピネル型酸化物の膜を用いることにより、焼結体より、結晶粒の密着性を向上でき、かくして比較的簡便に、焼結体よりも低い電気抵抗率をもつ熱電素子50を作製することができる。
(第6実施例)
図17(A)において、60は第6実施例による熱電素子を示し、上述した第5実施例と同様にスパッタ法を用いて、スピネル型酸化物をなす第1熱電材料61及び第2熱電材料62の膜が、耐熱性のある基板上に作製され得る。かかる構成に加えて熱電素子60は、スピネル型酸化物のCoの組成を1近傍で、所定の組成域に選定されていることにより使用温度域内で温度に応じて電気伝導型(n型及びp型)が変化する構成を備えた第1熱電材料61の膜と、この第1熱電材料61の膜と対をなすn型の電気伝導性をもつ第2熱電材料62の膜とから構成されており、熱電素子60全体が低温域にある場合、第1熱電材料61の膜がp型となり、熱起電力を利用した熱電素子60として動作させることができるようになされている。
図17(A)において、60は第6実施例による熱電素子を示し、上述した第5実施例と同様にスパッタ法を用いて、スピネル型酸化物をなす第1熱電材料61及び第2熱電材料62の膜が、耐熱性のある基板上に作製され得る。かかる構成に加えて熱電素子60は、スピネル型酸化物のCoの組成を1近傍で、所定の組成域に選定されていることにより使用温度域内で温度に応じて電気伝導型(n型及びp型)が変化する構成を備えた第1熱電材料61の膜と、この第1熱電材料61の膜と対をなすn型の電気伝導性をもつ第2熱電材料62の膜とから構成されており、熱電素子60全体が低温域にある場合、第1熱電材料61の膜がp型となり、熱起電力を利用した熱電素子60として動作させることができるようになされている。
因みに、この熱電素子60では、図17(B)に示すように、n型の電気伝導性をもつ第2熱電材料62の膜に替えて、p型の電気伝導性をもつ第2熱電材料63の膜を形成するようにしてもよく、この場合、熱電素子60全体が高温域にある場合、第1熱電材料61がn型となり、熱起電力を利用した熱電素子60として動作させることができるようになされている。
図18は、第6実施例の作製工程を示すフローチャートであり、第1熱電材料61の膜中のスピネル型酸化物のCoxFe3−xO4において、組成xが、0.9≦x≦1となるように成膜条件が調整されている点を除き、上述した第5実施例と同様の工程によって熱電素子が作製され得る。この0.9≦x≦1の組成域のスピネル型酸化物は、上述した第2実施例における焼結体の場合と同様に、低温域でp型になり、高温域でn型になる。従って、第1熱電材料61と対をなす第2熱電材料62に、p型、あるいはn型を用いることで、それぞれ、高温域と低温域で熱電素子として動作せることができる。したがって、第2実施例と同様に、温度により、起電力に関する整流性をもつ膜状の熱電素子を作製することができる。なお、第1熱電材料61の熱起電力の特性を維持する範囲内で、第1熱電材料用のスピネル型酸化物の膜を形成する際に、同時に高融点金属などを添加することにより、電気抵抗率を減少させることも可能である。
このように、第1熱電材料61の膜を形成した基板と、当該第1熱電材料61の膜と対をなす第2熱電材料62の膜を形成した基板とを用いて、互いを金属を介して接合して熱電素子60を作製し得る。かくして熱電素子60では、上述した第2実施例と同様の効果を得ることができ、n型の電気伝導性を示す第2熱電材料62の膜を用いた場合には低温域で動作させることができ、これに対してp型の電気伝導性を示す第2熱電材料63を用いた場合には高温域で動作させることができる。なお、第1熱電材料61と第2熱電材料62,63を接合するための電極54,55(金属)は、基板上に形成した膜でもよいし、板状でもよい。また、第1熱電材料と第2熱電材料の接合部を、不活性ガスなどによるスパッタエッチングなどにより、還元する方法で、金属を形成してもよい。前記の工程により、温度による整流性をもつ、膜状の熱電素子60を作製することができる。
以上の構成によれば、スピネル型結晶構造をなす酸化物がCoxFe3-xO4であって、酸素濃度が化学量論比組成であり、かつ組成xが、0.9≦x≦1の組成域内に選定して第1熱電材料61の膜を作製するようにしたことにより、500℃以下でp型の電気伝導性を示し、600℃以上でn型の電気伝導性を示すことができ、かくして温度域により電気伝導型を制御することができる。このような第1熱電材料61の膜では、焼結体より、結晶粒の密着性を向上できるため、比較的簡便に、焼結体よりも低い電気抵抗率をもつ熱電素子を作製することも可能である。
(第7実施例)
図19において、70は第7実施例による熱電素子を示し、上述した第5実施例と同様にスパッタ法を用いて耐熱性のある基板上に、スピネル型酸化物でなる第1熱電材料71の膜が形成され、当該第1熱電材料71が全使用温度域において、p型の電気伝導性を示す組成域で形成されている。
図19において、70は第7実施例による熱電素子を示し、上述した第5実施例と同様にスパッタ法を用いて耐熱性のある基板上に、スピネル型酸化物でなる第1熱電材料71の膜が形成され、当該第1熱電材料71が全使用温度域において、p型の電気伝導性を示す組成域で形成されている。
図20は、第7実施例の作製工程を示すフローチャートであり、第1熱電材料71の膜中におけるスピネル型酸化物のCoxFe3−xO4において、組成xが、1<x≦3となるように成膜条件が調整されている点を除き、上述した第5実施例と同様の工程によって熱電素子70が作製され得る。膜中のスピネル型酸化物のCoxFe3−xO4について組成xを、1<x≦3とした場合には、上述した第3実施例の焼結体の場合と同様の効果を得ることができ、具体的には200℃以上700℃以下程度の温度域においてp型となる。また、ゼーベック係数の極大値を示す温度域をFeとCoの組成により制御することができる。また、一般的なバンド電気伝導を示す材料の特性と異なり、熱起電力の絶対値自体は大きく変化しない。従って、上述した第3実施例の焼結体の場合と同様に、第2熱電材料72に、金属、あるいは、熱起電力の温度依存性が小さい材料を用いることで、熱起電力の極大値近傍の値を閾値とした温度センサとして用いることができる。なお、電極54,55となる金属領域(すなわち第3領域ER3、第4領域ER4及び第5領域ER5)の作製方法は、例えば、Arスパッタエッチングなどにより、電極形成領域を還元して、金属にする方法や、FeやCoなどの本発明におけるスピネル型酸化物に含まれる金属や高融点の金属などをスピネル型酸化物上にスパッタ法などで成膜する方法などで金属領域を作製すればよい。
スパッタターゲットに合金や酸化物を用いた場合には、成膜条件により、ターゲット材料の組成と膜の組成が異なる場合がある。ただし、スピネル型酸化物のCoxFe3−xO4の組成xが、1<x≦3になるようにFeとCoの組成を制御することは、比較的容易である。また、低温域での電気抵抗率を低下させるためには、第6実施例と同様に、Coの一部をNiなどで置換することが効果的である。また、スパッタ法などによる成膜の加熱時に、アルゴンなどの不活性ガスによる熱処理でスピネル型酸化物の一部から、酸素を脱離させる方法などで、電子キャリアを供給する方法などが効果的である。
前記の工程により、焼結体と同様に、スピネル型酸化物内の単体金属の主成分であるFeとCoの組成を制御することで、熱起電力の極大値を示す温度域を制御した第1熱電材料71の膜を作製することができる。したがって、第1熱電材料71と対をなす第2熱電材料72に、金属などの熱起電力の小さい材料、あるいは、熱起電力の温度依存性が小さい材料を用いることにより、互いを電極54,55となる金属を介して接合することにより、第1熱電材料71の熱起電力の特性を用いたセンサ素子としての熱電素子を作製することができる。
以上の構成によれば、スピネル型結晶構造をなす酸化物がCoxFe3-xO4であって、組成xが、1<x≦3の組成域内に選定するようにしたことにより、200℃から700℃の間の使用温度域で常にp型の電気伝導性を示す第1熱電材料71の膜を作製することができる。このような第1熱電材料71の膜では、焼結体より、結晶粒の密着性を向上できるため、比較的簡便に、焼結体よりも低い電気抵抗率をもつ熱電素子を作製することも可能である。
(第8実施例)
図21において、80は第8実施例による熱電素子を示し、上述した第4実施例と同様に原料の酸化物の種類や作製方法により電気伝導型が変化するFeとCoとの組成域内において、電気伝導型がn型となる第1熱電材料81と、当該第1熱電材料81と対をなすp型となる第2熱電材料82とが、上述した第5実施例と同様にスパッタ法を用いて形成されたものである。
図21において、80は第8実施例による熱電素子を示し、上述した第4実施例と同様に原料の酸化物の種類や作製方法により電気伝導型が変化するFeとCoとの組成域内において、電気伝導型がn型となる第1熱電材料81と、当該第1熱電材料81と対をなすp型となる第2熱電材料82とが、上述した第5実施例と同様にスパッタ法を用いて形成されたものである。
図22は、第8実施例の作製工程を示すフローチャートである。この第8実施例では、スパッタ法で成膜する際に、成膜条件を調整することで、第1熱電材料81の膜中のスピネル型酸化物のCoxFe3−xO4−dにおいて、組成xが0.9≦x≦1の範囲内で第1熱電材料81がn型の電気伝導性をもつように選定されている。これに加えて第1熱電材料81の膜では、組成dを、d>0の範囲内とすることにより酸素濃度を調整し、n型の状態で電気抵抗率を増減させることにより、熱電特性を制御できるようになされている。また、第1熱電材料81及び第2熱電材料82についてCoxFe3−xO4−dのスピネル型酸化物を用いることで、同一金属組成を用いて、n型の第1熱電材料81とp型の第2熱電材料82とを前記の作製法により作製できるとともに、これら同一金属組成からなるn型の第1熱電材料81とp型の第2熱電材料82とを用いて熱電素子80を作製できるようになされている。
実際上、組成xが0.9≦x≦1になるように成膜条件を調整し、加えて、スピネル型酸化物の酸素欠損を抑制する。膜中の酸素濃度を増加するためには、成膜時の雰囲気や基板温度を調整する方法や、成膜後の熱処理条件により、膜に酸素を供給する方法などでよい。なお、成膜時に、膜中に十分な酸素が供給され、膜中のスピネル型酸化物の酸素欠損がなければ、膜形成後の熱処理は、石英などの高融点の材料で作製した密閉空間内で行ってもよい。続いて、第2熱電材料82を第1熱電材料81の作製法に準じて、組成xが、0.9≦x≦1になるように基板上に成膜する。加えて、膜中のスピネル型酸化物の酸素濃度を低下させ、スピネル型酸化物に酸素欠損を生じさせる。膜中の酸素濃度を減少するためには、成膜時の雰囲気や基板温度を調整する方法や、成膜後の熱処理を、不活性ガス、あるいは還元性ガスの雰囲気で行うことなどにより、膜から酸素を脱離させる方法などでよい。なお、成膜時に、膜中のスピネル型酸化物の酸素欠損が所望の値であれば、膜形成後の熱処理は、石英などの高融点の材料で作製した密閉空間内で行ってもよい。
次に、熱電素子80を作製するための電極54,55を作製する。熱電素子80を作製するために必要な電極54,55となる金属領域の作製方法は、例えばArスパッタエッチングなどにより、電極形成領域を還元して、金属にする方法や、FeやCoなどの本発明におけるスピネル型酸化物に含まれる金属や高融点の金属などをスピネル型酸化物上にスパッタ法などで成膜する方法で、金属領域を作製すればよい。また、スパッタターゲットに合金や複数種類の金属元素を含む酸化物を用いた場合は、成膜条件により、ターゲット材料の組成と膜の組成が異なる場合がある。ただし、0.9≦x≦1の範囲で、組成調整をすることは、比較的容易である。
低温域での電気抵抗率を低下させるためには、電気伝導型の特徴を維持させる範囲内で、熱電材料の膜中に、スピネル型酸化物とスピネル型酸化物に含まれる金属もしくは高融点の金属などの混相にすることが効果的である。
続いて、第1熱電材料81の膜を形成した基板と対をなす第2熱電材料82の膜を形成した基板を用いて、互いを電極54,55となる金属を介して接合することにより、熱電素子80を作製することができる。第1熱電材料81と第2熱電材料82を接合するための電極金属54,55は、基板上に形成した膜でもよいし、板状でもよい。また、第1熱電材料81と第2熱電材料82の接合部を、不活性ガスなどによるスパッタエッチングなどにより、還元する方法で、金属を形成してもよい。前記の工程により、第4実施例と同様に、温度による整流性をもつ膜状の熱電素子を作製することができる。
以上の作製工程により作製された、スピネル型酸化物の熱電素子80では、第4実施例の焼結体の場合と同様の効果を得ることができる。例えば第1熱電材料81において、酸素濃度が高い膜では、全使用温度域でp型、あるいは、低温域でp型になり、かつ高温域でn型になる。また、酸素濃度が低い膜は、全使用温度域で、n型となる。したがって、第4実施例の焼結体の場合と同様に、金属の主成分であるFeとCoの組成比が同一で、酸素濃度が異なる第1熱電材料81と第2熱電材料82を用いた場合、使用温度域、あるいは、使用温度のうち、低温域でのみ熱電素子として動作する熱電素子80を作製することができる。かくして温度に応じて動作する熱電素子を作製することができる。さらに、1100℃程度以上の温度域では、熱電素子周辺の雰囲気により、熱電材料の熱電特性が経時的に変化するため、雰囲気による熱電特性の変化を利用したガスセンサとして、熱電素子を機能させることもできる。
以上の構成によれば、スピネル型結晶構造をなす酸化物がCoxFe3-xO4-dであって、組成xが、0.9≦x≦1であるとともに、組成dが、d>0の組成域内に選定するようにしたことにより、n型の電気伝導性を示す第1熱電材料81の膜を作製し得、またスピネル型酸化物の原料酸化物の種類や作製条件を調整することにより、スピネル型酸化物の酸素量の制御することで、熱電特性を制御することができる。また第1熱電材料81について、酸素濃度の異なる同一金属組成のスピネル型酸化物を用いて、熱電素子40を作製することもできる。
このような第1熱電材料81の膜では、焼結体より、結晶粒の密着性を向上できるため、比較的簡便に、焼結体よりも低い電気抵抗率をもつ熱電素子を作製することも可能である。
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々の変形実施が可能である。第1熱電材料及び第2熱電材料のスピネル型結晶構造をなす主成分としてFe及びCoを適用するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、第1熱電材料及び第2熱電材料のスピネル型結晶構造をなす主成分としてFe、Co、Ni、Ti、V、Cr、Mn、Cu及びZnの単体金属のうち少なくとも2種以上の単体金属を含み、スピネル型結晶構造をなす酸化物であればこの他種々の組み合わせであってもよい。
また、例えば第5実施例から第8実施例において、成膜の方法は、前記のスパッタ法に限らず、Fe又はCoを含む有機ガスなどを用いた化学気相成長法や、Fe又はCoを含むスピネル型酸化物の前駆体を含む溶液を基板上に塗布し、スピンコートなどにより平坦化した膜を熱処理することにより作製するゾルゲル法、Fe又はCoを含む有機ガスなどを用いたCVD法など種々の方法でもよい。
2,20,30,40,50,60,70,80 熱電素子
5,21,31,41,52,61,71,81 第1熱電材料
6,22,23,32,42,53,62,63,72,82 第2熱電材料
5,21,31,41,52,61,71,81 第1熱電材料
6,22,23,32,42,53,62,63,72,82 第2熱電材料
Claims (17)
- Fe、Co、Ni、Ti、V、Cr、Mn、Cu及びZnの単体金属のうち少なくとも2種以上の前記単体金属を含み、スピネル型結晶構造をなす酸化物であることを特徴とする熱電材料。
- 前記スピネル型結晶構造をなす酸化物に含まれる単体金属の主成分が、前記Fe及び前記Coであることを特徴とする請求項1記載の熱電材料。
- 前記スピネル型結晶構造をなす酸化物がCoxFe3-xO4であって、前記xが、0≦x<0.9であり、n型の電気伝導性を示すことを特徴とする請求項2記載の熱電材料。
- 前記スピネル型結晶構造をなす酸化物がCoxFe3-xO4であって、前記xが、1<x≦3であり、p型の電気伝導性を示すことを特徴とする請求項2記載の熱電材料。
- 前記スピネル型結晶構造をなす酸化物のうち、前記Coの組成を増加させてゼーベック係数の極大値を示す温度を上昇させることを特徴とする請求項2又は4記載の熱電材料。
- 前記スピネル型結晶構造をなす酸化物がCoxFe3-xO4であって、前記xが、0.9≦x≦1であるとともに、酸素濃度が化学量論比組成であり、500℃以下でp型の電気伝導性を示し、600℃以上でn型の電気伝導性を示すことを特徴とする請求項2記載の熱電材料。
- 前記スピネル型結晶構造をなす酸化物がCoxFe3-xO4-dであって、前記xが、0.9≦x≦1であるとともに、前記dが、d>0であり、n型の電気伝導性を示すことを特徴とする請求項2記載の熱電材料。
- 前記Feに対する前記Coの元素の比率が単調に変化し、p型とn型との電気伝導性が連続していることを特徴とする請求項2記載の熱電材料。
- n型の熱電材料及びp型の熱電材料を備える熱電素子において、
前記n型の熱電材料及び前記p型の熱電材料のうち少なくともいずれか一方の熱電材料が請求項1〜8のうちいずれか1項記載の熱電材料でなることを特徴とする熱電素子。 - n型の熱電材料及びp型の熱電材料を複数備え、
複数の前記n型の熱電材料のうち、少なくとも1つが請求項6記載の熱電材料であるとともに、複数の前記p型の熱電材料のうち、少なくとも1つが請求項6記載の熱電材料である
ことを特徴とする記載の熱電素子 - Fe、Co、Ni、Ti、V、Cr、Mn、Cu及びZnから選ばれた2種以上の単体金属を所定の組成比で混合する混合工程と、
前記混合工程で得た混合粉末、あるいは前記混合粉末を加圧成型した成型体を、高融点材料からなる封入容器に真空状態あるいは不活性ガス雰囲気下で封入する封入工程と、
前記封入容器内に封入した前記混合粉末あるいは前記成型体を熱処理することにより、スピネル型結晶構造をなす酸化物を形成する熱処理工程と
を有することを特徴とする熱電材料の作製方法。 - 前記混合粉末に含まれる単体金属の主成分が、前記Fe及び前記Coであることを特徴とする請求項11記載の熱電材料の作製方法。
- 前記熱処理工程で形成されたスピネル型結晶構造をなす酸化物が、CoxFe3-xO4であって、前記xが、0≦x<0.9であり、n型の電気伝導性を示すことを特徴とする請求項12記載の熱電材料の作製方法。
- 前記熱処理工程で形成されたスピネル型結晶構造をなす酸化物が、CoxFe3-xO4であって、前記xが、1<x≦3であり、p型の電気伝導性を示すことを特徴とする請求項12記載の熱電材料の作製方法。
- 前記熱処理工程で形成されたスピネル型結晶構造をなす酸化物のうち、前記Coの組成を増加させてゼーベック係数の極大値を示す温度を上昇させることを特徴とする請求項12又は14記載の熱電材料の作製方法。
- 前記熱処理工程で形成されたスピネル型結晶構造をなす酸化物が、CoxFe3-xO4であって、前記xが、0.9≦x≦1であるとともに、酸素濃度が化学量論比組成であり、500℃以下でp型の電気伝導性を示し、600℃以上でn型の電気伝導性を示すことを特徴とする請求項12記載の熱電材料の作製方法。
- 前記熱処理工程で形成されたスピネル型結晶構造をなす酸化物が、CoxFe3-xO4-dであって、前記xが、0.9≦x≦1であるとともに、前記dが、d>0であり、n型の電気伝導性を示すことを特徴とする請求項12記載の熱電材料の作製方法。
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JP2006213111A JP2008041871A (ja) | 2006-08-04 | 2006-08-04 | 熱電材料、熱電素子及び熱電材料の作製方法 |
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WO2018105601A1 (ja) * | 2016-12-08 | 2018-06-14 | 日本電気株式会社 | 熱電変換部、発電システムおよび熱電変換方法 |
-
2006
- 2006-08-04 JP JP2006213111A patent/JP2008041871A/ja active Pending
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