JP2008039598A - 石油類容器用金属材料の局部腐食性評価方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】石油類容器に用いる石油類容器用金属材料における実機での局部腐食性評価を、迅速かつ簡便に、また、高精度で行う石油類容器用金属材料の局部腐食性評価方法を提供する。
【解決手段】石油類を収容する容器に用いられる金属材料の局部腐食性評価方法において、金属材料を用いて作製された金属片を、水またはNaCl水溶液とS粉末とを混合した溶液に接触させて腐食させ、当該腐食させた金属片の平均腐食深さと表面の粗さ測定値を合計して、当該腐食させた金属片の最大腐食深さを測定することにより、金属材料の局部腐食性を評価することを特徴とする。また、金属材料として鋼材を用いることを特徴とする。
【選択図】図1

Description

本発明は、原油および石油由来の油類の貯蔵、輸送、機器搭載等のための石油類容器に用いる石油類容器用金属材料の局部腐食性評価方法に関する。
原油、重油、軽油、灯油、ガソリン、石油アスファルト、潤滑油、切削油、マシン油、グリース、石油ワックス、さび止め油、石油エーテル等の原油および石油由来の油類の貯蔵や運搬等に用いられる容器(以下、適宜「石油類容器」という)は、鋼材等の金属材料で作製されるのが一般的である。しかしながら、近年、原油等に含まれる硫黄分やタンク底に滞留する塩化物を含む水分等に起因して、容器に用いる金属材料が激しい局部腐食を受け、早期に穴あきに至ってしまうという問題が顕在化している。こうした石油類容器の材料の腐食は、例えば原油タンカーでは沈没事故といった重大事故を招くため、材質選定や肉厚設定等の容器設計や寿命予測のための局部腐食性評価を行う必要がある。
このような局部腐食性評価としては、評価対象である金属材料を、使用する石油類に浸漬させたり、既設の石油類容器内に暴露したりして、当該金属材料の腐食損傷状況を調べることが一般的によく行われている。このような金属材料の腐食損傷状況に関しては、特に実環境での暴露試験を行うことによって正確な評価が可能である。
また、石油類容器の金属材料で生じる局部腐食は孔食となる場合が多いが、このような孔食を簡便に評価する方法として、塩化第二鉄溶液を用いてステンレス鋼(鋼材)の耐孔食性を調べる方法がJIS G0578に定められている。この方法は、35℃または50℃における6質量%塩化第二鉄溶液に試験片を24時間浸漬して、質量変化より腐食度を評価するものである。
さらに、孔食の発生条件として一定温度を保持したサワー原油の満載状態を想定し、硫黄を付着させた研磨鋼板および黒皮付鋼板について孔食の発生状況を調べ、さらに、発生した孔食の形状、深さ、成長速度について検討した模擬原油タンクにおける孔食再現試験方法が開示されている(非特許文献1参照)。
海上安全研究領域 材料信頼性研究グループ「模擬原油タンクにおける孔食再現試験」独立行政法人海上技術安全研究所 研究発表会講演集 2003年6月 p.1‐4
しかしながら、前記した従来の腐食性を評価する方法には、以下に示す問題があった。
実環境での暴露試験では、試験期間に数年程度の長期間を要することに加えて、局部腐食は確率論的に発生するために、大面積の試験片が必要になるという問題があった。
また、JIS G0578に定められている方法は、ステンレス鋼材に対しては短時間で耐食性を評価できる方法として有効であるが、炭素鋼材や低合金鋼材には、環境条件が厳しすぎて適用できないという問題があった。
さらに、非特許文献1に記載の方法は、タンカーの原油タンクにおける局部腐食を高精度で評価することが可能であるが、専用の評価試験設備が必要であることに加え、評価期間も6ヶ月程度と、暴露試験ほどではないが、比較的長期間を要するという問題があった。
本発明は、前記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、石油類容器に用いる石油類容器用金属材料における実機での局部腐食性(耐食性)評価を、迅速かつ簡便に、また、高精度で行う石油類容器用金属材料の局部腐食性評価方法を提供することにある。
本発明に係る石油類容器用金属材料の局部腐食性評価方法は、石油類容器の局部腐食がSに起因して生じる浸食現象であることをふまえ、評価対象である金属材料の局部腐食発生部を模擬した試験を行うことによって、実機での局部腐食性を迅速かつ簡便に、また、高精度で評価するものである。
すなわち、請求項1に係る石油類容器用金属材料の局部腐食性評価方法は、石油類を収容する容器に用いられる金属材料の局部腐食性評価方法において、前記金属材料を用いて作製された金属片を、水またはNaCl水溶液とS粉末とを混合した溶液に接触させて腐食させ、当該腐食させた金属片の最大腐食深さを測定することにより、前記金属材料の局部腐食性を評価することを特徴とする。
このような構成によれば、金属材料を用いて作製された金属片を、水またはNaCl水溶液とS粉末とを混合した溶液に接触させることで、金属片が腐食する。そして、この腐食した金属片の最大腐食深さを測定することにより金属材料の局部腐食性を評価することで、石油類容器用金属材料における実機での局部腐食性の評価を迅速かつ簡便に、また、高精度で行うことができる。
請求項2に係る石油類容器用金属材料の局部腐食性評価方法は、前記金属材料が鋼材であることを特徴とする。
このような構成によれば、金属材料として鋼材を使用することで、鋼材を使用した石油類容器における実機での局部腐食性評価を迅速かつ簡便に、また、高精度で行うことができる。
本発明に係る石油類容器用金属材料の局部腐食性評価方法によれば、評価対象である金属片(金属材料)において局部腐食発生部を模擬した試験を行い、得られた金属片の最大腐食深さを測定することにより金属材料の局部腐食性を評価することで、石油類容器用金属材料における実機での局部腐食性を迅速かつ簡便に、また、高精度で評価することができる。
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
本発明の評価方法では、まず、金属材料を用いて作製された金属片を、水またはNaCl水溶液(以下、適宜「溶媒」という)とS粉末とを混合した溶液に接触させて腐食させる(腐食試験)。次に、この腐食試験で腐食させた金属片の最大腐食深さを測定することにより局部腐食性を評価する。
[腐食試験]
試験片として用いる金属片は、実機における局部腐食部を模擬するものである。この金属片は、転炉溶製により金属材料の原料を溶製して、所定の化学成分を有する金属材料を作製し、この金属材料から所定の大きさに切り出して作製する。そして、この金属片の全面を研磨仕上げし、水洗およびアセトン洗浄を行って腐食試験用の試験片とする。
金属片の大きさは、小さすぎると腐食試験前後の質量変化の測定において測定精度が悪くなるため好ましくない。また、金属片の大きさが大きすぎると、腐食試験後の粗さ測定に時間がかかるため好ましくない。さらに、厚さが薄い場合には、貫通によって正確な腐食深さが測定できないので好ましくない。このような観点から、試験片として用いる金属片の大きさは、概ね10×10×3mmから50×50×50mm程度の範囲が好ましく、20×20×5mmから30×30×10mm程度の範囲がより好ましい。
ここで、金属片を作製する金属材料としては、鋼材を用いることが好ましく、鋼材としては、ステンレス鋼材、炭素鋼材、低合金鋼材、鉄鋼材等が挙げられるが、アルミニウム合金材やチタン合金材等の鋼材以外の金属材料を用いてもよい。
油類容器用に用いられる金属材料としては、機械特性や経済性の観点から鋼材を用いることが多いが、試験片の金属材料として鋼材を用いることにより、鋼材を使用した石油類容器における実機での局部腐食性評価を、迅速かつ簡便に、また、高精度で行うことができる。
試験溶液として用いる水またはNaCl水溶液(溶媒)とS粉末との混合物は、局部腐食を起こす石油類容器の先端環境を模擬するものである。S粉末としては、一般的に市販されている粉末状S試薬を用いることができ、特に、特級試薬を用いることが好ましく、例えば、和光純薬工業(株)製の硫黄粉末(コードNo.195−04651)等が挙げられる。
水としては、イオン交換水あるいは蒸留水を用いることが試験の再現性確保の点から好ましい。
また、腐食反応が進行するための導電性を確保するため、水の代わりに、NaCl水溶液を用いることがさらに好ましい。
NaCl水溶液としては、前記した水に、NaCl濃度が0.5〜30質量%となるようにNaClを添加することが好ましい。NaCl濃度が0.5質量%未満であると、導電性が低いため腐食を再現しにくい。また、NaCl濃度が30質量%を超えると、塩が析出して油類容器の腐食を正確に再現できない場合があるため好ましくない。したがって、NaCl濃度は、0.5〜30質量%が好ましく、1〜10質量%がより好ましい。
また、溶媒とS粉末との混合物に金属片を接触させる際の処理温度は、20〜80℃が好ましく、処理時間は、24〜240時間が好ましい。さらに、溶媒1に対してSを0.1〜1の質量比で混合するのが好ましい。
処理温度が低すぎると、局部腐食反応の進行が遅いため、正確な測定が可能な局部腐食深さを得るのに長時間を要する。一方、処理温度が高すぎると、局部腐食が激しすぎて金属材料の局部腐食特性の違いが現れにくい。したがって、処理温度は20〜80℃が好ましく、25〜60℃がより好ましい。
処理時間は、用いる溶液のS混合比や処理温度等の処理条件によって異なるが、処理時間が短すぎると、局部腐食深さの測定の精度が低くなりやすい。一方、処理時間が長すぎると、局部腐食が試験片を貫通するため、正確な局部腐食深さの測定ができない。したがって、処理時間は、おおむね24〜240時間が好ましいが、この処理時間は、他の処理条件との兼ね合いで決定する。
溶媒1に対するSの質量比が0.1未満であると、Sが少なすぎて局部腐食が生じ難く、一方、1を越えると、局部腐食が激しすぎて材料の局部腐食特性の違いが現れなくなる。したがって、溶媒とSとの混合比は、質量比で、溶媒1に対して、Sを0.1〜1の範囲とすることが好ましい。
[最大腐食深さの測定]
最大腐食深さを測定する方法としては、腐食試験前後の試験片(金属片)の質量変化から平均腐食深さを求め、さらに腐食試験後の表面の粗さを測定して測定値を求め、この平均腐食深さと表面の粗さの測定値を合計することにより、最大腐食深さを測定することが好ましい。また、精度の良い測定を行うために、腐食試験後の質量および表面の粗さの測定の前には、腐食生成物を除去することが好ましい。腐食生成物の除去方法としては、インヒビターを添加した酸等、適切な除去液に浸漬させる方法、クエン酸水素二アンモニウム水溶液等を用いた陰極電解法、あるいはウォータージェット法等を用いることが可能である。
局部腐食性評価方法は、腐食試験で腐食させた金属片の最大腐食深さを極値解析法によってデータ解析を行うことで、実機の最大腐食深さを推定することが可能であるため、この最大腐食深さを測定することにより評価する。すなわち、前記腐食試験に複数個の試験片を用いて、各々の試験片の最大腐食深さを求め、極値プロットを行って実機の最大腐食深さを求める。これは、局部腐食における最大腐食深さがガンベル分布に従うということに基づくものである。
本発明の評価方法においては、ある材料の腐食発生面積率が既知である場合には、再帰期間(T)を用いて、実機での使用面積に相当する最大腐食深さを求めることが可能である。ここで、実機での使用面積をA、腐食発生面積率をB、評価試験に用いる試験片面積をCとすると、「T=A×B/C」に相当する最大腐食深さが実機における最大腐食深さの推定値となる。この推定は、材種が異なった場合にも腐食発生面積率は変わらないという前提条件において成り立つものである。
なお、実機での使用面積とは、本発明で評価対象としている環境、すなわち、実機において、石油類と接触している材料の総面積を意味する。また、腐食発生面積とは、発生した局部腐食の総面積を意味する。
次に、本発明に係る石油類容器用金属材料の局部腐食性評価方法の実施例について、図面を参照して説明する。
参照する図面において、図1は、腐食試験後の試験片断面における最大腐食深さを示す説明図であり、図2は、最大腐食深さの極値プロットを示す極値プロット図である。
なお、本発明の評価方法における評価結果と、従来の評価方法における評価結果との整合性を示すため、従来の評価方法(暴露試験)における評価結果を合わせて示す。
<本発明に係る評価方法>
[試験方法]
転炉溶製により鋼材の原料を溶製して、表1に示すAからDの化学成分を有する鋼材を作製し、この鋼材から30×30×5(mm)の大きさの金属片を切り出した。切り出した金属片の全面を湿式回転研磨機(研磨紙;#600)で研磨仕上げし、水洗およびアセトン洗浄を行って腐食試験用の試験片とした。この試験片を使用して、以下の腐食試験を行った。
Figure 2008039598
腐食試験の溶液は、NaCl特級試薬(和光純薬工業(株)製:コードNo.191−01665)およびイオン交換水を用いて8質量%NaCl水溶液を作製し、当該8質量%NaCl水溶液1に対して粉末状S特級試薬(和光純薬工業(株)製:コードNo.195−04651)を0.5の質量比で混合したものである。腐食試験では、当該粉末Sを混合した溶液に前記試験片を浸漬して腐食させた。このときの溶液温度は30℃、試験時間は168時間である。そして、図1に示すように、腐食試験前後の質量変化から平均腐食深さ(A)を求め、さらに試験後の試験片表面の3次元粗さ測定を行って、粗さ測定値(B)を求め、これらを合計して試験片の最大腐食深さ(A+B)を求めた。なお、試験終了後に試験片表面に生成している腐食生成物は、10質量%クエン酸水素二アンモニウム水溶液中での陰極電解法によって除去した。
[試験結果]
前記腐食試験を行って求めた鋼材A、B、CおよびDの最大腐食深さについて、極値プロットを行った。この極値プロット(ガンベル分布)を図2に示す。図2は、Aは30個、Bは6個、Cは10個、Dは8個の試験片について、最大腐食深さを求め、それぞれ小さい順に並べて平均ランク法によりプロットした結果である。なお、縦軸は、再帰期間および累積確率、横軸は、最大腐食深さである。最大腐食深さは確率論的にばらついており、ガンベル分布に従っている。すなわち、実機での使用面積が広ければ広いほど、最大腐食深さは深くなることを意味するものである。
次に、実機での使用面積に相当する最大腐食深さを求める。本実施例では、試験片の大きさは30×30×5mmであるから、用いた試験片面積Cは2.4×10mmである。そして、例えば、実機容器の面積(実機での使用面積)が2.4×10mm、腐食発生面積率が0.1%であれば、T=2.4×10×0.001÷2.4×10=100に相当する最大腐食深さが実機での最大腐食深さと見積もることができる。
前記の実験結果より、実機での使用面積に相当する最大腐食深さを推測した結果を表2に示す。
Figure 2008039598
表2は、図2のプロットの最小自乗法で求めた外挿線を外挿して、再帰期間T=100における最大腐食深さを読んだものである。
なお、本結果によれば、鋼材B、鋼材Cおよび鋼材Dの最大腐食深さは、ぞれぞれ、鋼材Aの35.7%、30.0%および28.1%と評価される。
<従来の評価方法(暴露試験)>
[試験方法]
原油の貯蔵容器内に、表3に示すA、B、CおよびDの鋼材を暴露して、本発明に係る評価方法との相関関係を調べた。用いた試験片は、大きさが1000×1000×19(mm)であり、貯蔵容器底に平行に設置して原油(クエート産)に暴露した。なお、使用した鋼材は、前記の本発明に係る評価方法と同様の方法で作製した。5年間の暴露後に試験片を取り出して、ウォータージェット法により錆等の腐食生成物を除去し、デプスゲージを用いて腐食部の腐食深さを測定した。
[試験結果]
前記試験を行って求めた鋼材A、B、CおよびDの最大腐食深さを表3に示す。
Figure 2008039598
表3に示すように、最大腐食深さの比率は、本発明による評価結果(表2)とほぼ一致する結果であり、本発明が迅速かつ簡便に、また、暴露試験と同様に高精度で腐食状況を評価できることがわかる。
以上説明したように、本発明に係る石油類容器用金属材料の局部腐食性評価方法によれば、各種鋼材の実機での使用面積における最大腐食深さを簡便に求めることができる。この最大腐食深さを元に、各鋼材での最大腐食深さの違い等から、石油類容器用金属材料における実機での耐食性評価を迅速かつ簡便に、また、高精度で行うことができる。
以上、本発明の好適な実施形態、実施例について説明してきたが、本発明は前記実施形態、実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲において広く変更、改変して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
腐食試験後の試験片断面における最大腐食深さを示す説明図である。 最大腐食深さの極値プロットを示す極値プロット図である。
符号の説明
1 試験片(金属材料の金属片)
A 質量変化(平均腐食深さ)
B 粗さ測定値

Claims (2)

  1. 石油類を収容する容器に用いられる金属材料の局部腐食性評価方法において、
    前記金属材料を用いて作製された金属片を、水またはNaCl水溶液とS粉末とを混合した溶液に接触させて腐食させ、当該腐食させた金属片の最大腐食深さを測定することにより、前記金属材料の局部腐食性を評価することを特徴とする石油類容器用金属材料の局部腐食性評価方法。
  2. 前記金属材料が鋼材であることを特徴とする請求項1に記載の石油類容器用金属材料の局部腐食性評価方法。
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