本発明は、デジタル複写機、レーザプリンタ、レーザファクシミリ等に用いられる光走査装置、および、これを用いた画像形成装置に関するものである。
レーザプリンタ等に関連して広く知られた光走査装置は一般に、光源側からの光ビームを光偏向器により偏向させ、fθレンズ等の走査結像光学系により被走査面に向けて集光して被走査面上に光スポットを形成し、この光スポットで被走査面を光走査(この走査を「主走査」といい、この走査方向を「主走査方向」という)するように構成されている。被走査面の実体をなすものは、光導電性の感光体ドラムなどの感光媒体の感光面である。
また、フルカラー画像形成装置の一例として、4つの感光体を記録紙の搬送方向に配列し、これらの各感光体に対応した複数の光源装置から放射された複数の光ビームを1つの偏向手段により偏向走査するように構成したものがある。各感光体は、色成分ごとに対応して備えられた複数の走査結像光学系により同時に露光されて潜像が形成され、これらの潜像はイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックなど上記色成分に対応した互いに異なる色の現像剤を使用する現像器で可視像化される。これらの可視像を同一の記録紙に順次重ね合わせて転写し定着することで、カラー画像が得られるように構成されている。このように、光走査装置と感光体の組み合わせを2組以上用いて、2色画像や多色画像、カラー画像等を得るようにした画像形成装置は「タンデム式画像形成装置」として知られている。
このようなタンデム式画像形成装置における光走査装置として、複数の感光媒体を光走査する光ビームに関して単一の光偏向器を共用する方式のものが、以下のように各種提案されている。
(1)光偏向器の両側より光ビームを入射し、光ビームを光偏向器の両側に振り分けて走査する対向走査方式(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
(2)略平行でかつ副走査方向に離れた複数の光ビームを光偏向器に入射し、複数の光ビームに対応する複数の走査光学素子を副走査方向に並べて走査する(例えば、特許文献3参照)。
(3)光偏向器の片側より光ビームを入射し、走査光学系を3枚のレンズで構成し、第1走査レンズ、第2走査レンズは異なる被走査面に向かう複数の光束が通過し、第3走査レンズは被走査面毎に設けられているもの(例えば、特許文献4、特許文献5、特許文献6参照)。
このように、複数の被走査面に向かう複数の光ビームについて光偏向器を共用する構成にすると、光偏向器の数を減らすことができるため、画像形成装置をコンパクト化・低コスト化することが可能になる。
さらに最近では、カラー画像形成装置の光走査装置において、複数の光ビームを偏向する光偏向器を単一の光偏向器とすることによって低コスト化を図るために、光偏向器の偏向反射面に、副走査方向に角度を持たせて光ビームを入射させる斜め入射光学系が知られている(例えば、特許文献7参照)。この斜め入射光学系は、複数の光ビームがそれぞれ偏向反射面で偏向反射された後に、各々対応する被走査面(感光体)に、ミラーなどで分離され導かれる。それぞれの光ビームの副走査方向の角度(光偏向器に斜め入射する角度)は、上記ミラーで各光束が分離可能な角度に設定されている。
この斜め入射光学系を用いることで、光偏光器(例えばポリゴンミラー)の副走査方向への多段化、厚肉化など、光偏向器の大型化を回避しながら、上記ミラーで各光束を分離可能な光ビームの副走査方向の隣接間隔を得ることができる。つまり、光偏向器の偏向反射面の副走査方向の幅を大きくする必要が無く、低コストの光走査装置を実現することができる。例えば光偏向器としてポリゴンミラーを用いた場合、高速回転駆動したとしても、高速回転に必要なエネルギーを削減することができ、高速回転させたときの「風切り音」も小さくすることができる。
しかし、斜め入射方式の光学系においては、特に周辺像高において走査レンズに入射する光ビームがねじれて入射することで、波面収差が増大して光学性能が著しく劣化し、被走査面でのビームスポット径が太ってしまい、高画質化を妨げる要因となる。中央近傍の像高においては光ビームのねじれは発生し難く、ビームスポット径は像高間での偏差が大きいという現象で現れる。
さらに、斜め入射方式の光学系においては、「走査線曲がり」が大きいという問題がある。この走査線曲がりの発生量は、各光ビームの偏向反射面への副走査方向の斜め入射角により異なり、各々の光ビームで描かれた潜像を各色のトナーにより可視化して重ね合わせた際に、色ずれとなって現れてしまう。
上記斜め入射方式に固有の「大きな走査線曲がり」を補正する方法として、副走査断面内におけるレンズ面の固有傾きを、走査線曲がりを補正するように主走査方向へ変化させたレンズ面を有するレンズを走査結像光学系に含める方法(例えば、特許文献8参照)や、走査結像光学系に「副走査断面内における反射面の固有傾きを、走査線曲がりを補正するように主走査方向へ変化させた反射面を有する補正反射面」を含める方法(例えば、特許文献9参照)などが提案されている。また、斜め入射される光束を走査レンズの軸外に通し、走査レンズの子線の非球面量を主走査方向に沿って変化させる面を用いることにより走査線の位置を揃える方法が提案されている(例えば、特許文献10参照)。特許文献10では、1枚の走査レンズにて補正を行う例を挙げており、この発明によれば、前記走査線曲がりの補正は可能であるが、以下に説明する波面収差増大によるビームスポット径の劣化については考慮されていない。
先に説明したように、斜め入射方式における問題の一つは、光線スキューにより周辺像高(走査線の両端部近傍)で波面収差の大きな劣化が発生し易いことである。このような波面収差が生じると、周辺像高で光スポットの径が大径化してしまう。この問題を解決できないと、近来強く要請されている「高品質の光走査」を実現することができない。上記特許文献8,9に記載されている光走査装置では、斜め入射方式に特有の大きな走査線曲がりが極めて良好に補正されているが、上記波面収差の補正は十分といえない。走査線曲がりについては、先に説明した方法の他、折返しミラーや走査レンズの撓みを用い、あるいはシフト偏芯させる調整機構による補正、電気的な補正などの手段があるが、波面収差補正に関しては設計時点で補正を実施しないと調整による補正は困難であり、大きな技術課題となっている。
斜め入射方式の問題点といえる上記「走査線曲がりと波面収差の劣化」を良好に補正できる光走査装置として、走査結像光学系に複数の回転非対称レンズを含め、これら回転非対称レンズのレンズ面の子線頂点を結ぶ母線形状を副走査方向に湾曲させたものが提案されている(例えば、特許文献11参照)。しかし、上記「子線頂点を結ぶ母線形状を副走査方向に湾曲させたレンズ面」を有するレンズは、母線を湾曲させることで諸問題を解決しており、入射光束に対応した個別の走査レンズが必要となるため、タンデム型の走査光学系に適用する場合、走査レンズの枚数が増大するという難点がある。
同一のレンズに、異なる被走査面に向かう複数の光束を入射させた場合、母線形状を湾曲させることにより一方の光束に対しては諸問題の解決がなされるが、他方の光束については走査線曲がりや波面収差を低減させることは難しい。
特開平11−157128号公報
特開平9−127443号公報
特開平9−54263号公報
特開2001−4948号公報
特開2001−10107号公報
特開2001−33720号公報
特開2003−5114号公報
特開平11−14932号公報
特開平11−38348号公報
特開2004−70109号公報
特開平10−73778号公報
本発明は、以上説明した従来技術の問題点を解消すること、すなわち、斜め入射方式の光走査装置において、低コスト、低消費電力、小型化に適し、走査線曲がりと波面収差の劣化を有効に補正できる新規な光走査装置、および、新規な画像形成装置を実現することを課題とする。
本発明は、光源からの光ビームを光偏向器の偏向反射面の法線に対し副走査方向に角度を持つ斜め入射方式の光走査装置において、走査線曲がりと波面収差の劣化を有効に補正し、色ずれが小さく安定した光学性能を有する高品質の光走査を行うことができる光走査装置を低コストで実現することを第1の目的とする。
本発明はまた、光偏向器の小型化や、マルチビーム化による光偏向器である回転多面鏡の回転数低下による消費電力の低下など、環境を考慮した光走査装置の実現、および、これを用いることにより、高品質の画像を形成することができ、消費電力の少ない画像形成装置を実現することを第2の目的とする。
本発明は、複数の光源と、各光源からの光ビームを偏向する各光ビームに共通の光偏向器と、偏向された光ビームをそれぞれ異なる被走査面に集光する走査光学系を有する光走査装置において、複数の光源からの全ての光ビームは、光偏向器の反射面の法線に対し副走査方向に角度を持ち、走査光学系は、複数の光源からの光ビームで共用さる共用走査レンズと、異なる被走査面に向かう各光ビームに対応して配置されている個別走査レンズの複数のレンズで構成され、共用走査レンズは、副走査方向に最も強い正の屈折力を持つ走査レンズより光偏向器側に配置され、上記副走査方向の屈折力は、光軸上では、ゼロもしくはゼロに近く、周辺に向かい負の屈折力が強くなり、上記共用走査レンズの各面は、主走査方向に応じて副走査方向の曲率が変化する特殊面で、かつ、主走査方向の中心から周辺に向かい副走査方向の負の屈折力が強くなる面で構成されていることを最も主要な特徴とする。
本発明はまた、上記の特徴を有する光走査装置を、電子写真プロセスを実行することによって画像を形成する画像形成装置の露光プロセスを実行する手段として用いたことを特徴とする。
共用走査レンズの入射面、射出面をともに、主走査方向の中心から周辺に向かい副走査方向の負の屈折力が強くなる特殊面とすることで、波面収差補正を実施するための副走査方向の曲率半径を大きくすることができる。共用走査レンズ1の各面の曲率半径を大きくすることで、副走査方向に光ビームの入射位置がずれた場合の倍率誤差変動を小さくすることができ、かかる構成の走査レンズを有する走査結像光学系をカラー画像形成装置に適用することにより、形成されるカラー画像の色ずれを抑えることができる。
以下、本発明にかかる光走査装置および画像形成装置の実施例を、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明にかかる光走査装置の一実施例を示す。図1において、符号51は光源としての半導体レーザを示しており、光源51から放射された発散性の光ビームはカップリングレンズ52により以後の光学系に適した光ビーム形態に変換される。カップリングレンズ52により変換された光束形態は、平行光束であってもよいし、弱い発散性あるいは弱い集束性の光束であってもよい。カップリングレンズ52を透過した光ビームはアパーチャ53で所定の横断面形状に成形された後、シリンドリカルレンズ54により副走査方向にのみ集光され、ミラー56により光路を曲げられて光偏向器55の偏向反射面に入射するように構成されている。シリンドリカルレンズ54の集光作用により、上記偏向反射面近傍に、主走査方向に長い線像が形成される。光偏向器55はポリゴンミラーで構成されている。
光源51は複数あり、各光源51から光ビームが放射される。すなわち、複数の光ビームが各光源51から放射される。図2からわかるように、光偏向器55の偏向反射面で反射される各光ビームは、偏向反射面の法線に対して副走査方向にそれぞれ異なった角度で反射される。その理由は、光源側からの光ビームは、光偏向器55の偏向反射面の法線に対して副走査方向に傾いて入射するように構成されているからである。偏向反射面の法線に対して光ビームを副走査方向に傾けて入射するためには、光源装置、カップリングレンズ52、シリンドリカルレンズ54を所望の角度に傾けて配置してもよいし、上記ミラー56を用いて角度をつけてもよい。また、シリンドリカルレンズ54の光軸を副走査方向にシフトすることで、偏向反射面に向かう光ビームに角度をつけるようにしてもよい。
光偏向器55の偏向反射面により反射された光ビームは、光偏向器としてのポリゴンミラーの等速回転とともにその偏向反射面で等角速度的に偏向される。この偏向ビームは、走査光学系を構成する第1走査レンズ61と第2走査レンズ62を透過することにより、被走査面58に向けて集光される。これにより、偏向ビームは被走査面58上に光スポットを形成するとともに被走査面58上を光走査する。走査レンズ61,62からなる走査光学系はfθ機能を備えていて、等角速度的に偏向される光ビームを、被走査面58上で等速度的に走査させる。上記第1走査レンズ61は全ての光ビームによって共用される共用走査レンズで、全ての光ビームが1個の第1走査レンズ61を透過する。上記第2走査レンズ62は、各光ビームに対応して配置され、ここの光ビームが個別に透過する個別走査レンズである。
本発明は走査光学系の構成に特徴がある。そこで、以下に、走査光学系の特徴について、タンデム型のカラー画像形成装置に対応する片側走査方式の光走査装置を例に挙げて説明する。複数の光源装置(図示しない)からの各光ビームは、同一の光偏向器の同一の偏向反射面に斜め入射される。各光ビームは、偏向反射面の法線を挟み副走査方向両側より入射する。図2において、光偏向器55の偏向反射面から水平方向に引かれた点線は偏向反射面の法線を示しており、法線の下側を領域A、上側を領域Bとすると、偏向反射面に領域A側から入射された光ビームは領域B側に向けて反射され、領域B側から入射された光ビームは領域A側に向けて反射される。全ての光ビームは、共用走査レンズである第1走査レンズ61と、異なる感光体に向かう光ビーム毎に個別に設けられた第2走査レンズ62を透過し、ミラー57に反射されて各々対応する被走査面58としての感光体に集光される。また、各光ビームはそれぞれの光路中に配置されているミラーにより分離され、対応する被走査面58としての感光体に導かれるように構成されている。図2において、光ビームは4本からなり、4本の光ビームに対応した第2走査レンズ(個別走査レンズ)を符号62−1〜62−4で、ミラーを符号57−1〜57−4で、被走査面としての感光体を符号58−1〜58−4で示している。
各光ビームを対応する感光体に導くミラーの枚数は、以下のように設定されている。すなわち、偏向反射面の法線を挟み副走査方向片側、例えば図2中領域A側から偏向反射面に入射される光ビームに対応するミラーは奇数枚であり、逆側、つまり図2中領域B側から偏向反射面入射される光ビームに対応するミラーは偶数枚として配置されている。図2中に描かれている光ビームは光偏向器15で偏向された後の光ビームであり、光偏向器55への入射光は、図2中の光ビームの副走査方向反対側の領域から入射される。この配置により、斜め入射光学系で発生する走査線曲がりの方向を一致させることができ、各光ビームの走査によって形成される各色に対応する画像を重ね合わせたカラー画像の色ずれを低減することができる。斜め入射光学系における走査線曲がりの発生については後述する。
図2に示すように、偏向手段55としてのポリゴンミラーの偏向反射面で反射される複数の光ビームを、ポリゴンミラーの偏向反射面の法線に対して副走査方向に角度を持つ光ビームとすることで、光走査装置を構成する部品でコスト比率の高い光偏向器55の副走査方向の幅を小さくすることができる。これによって光走査装置のコストを下げることができ、ポリゴンミラーの消費電力や騒音を低減可能で、環境を考慮した光走査装置を提供することができる。
次に、上記実施例の波面収差補正について説明する。走査光学系を構成する走査レンズ入射面の主走査方向の形状が、偏向反射面の光ビームの反射点を中心とする円弧形状でない限り、光偏向器55の偏向反射面から走査レンズ入射面までの距離は像高により異なる。通常、走査レンズを上記のような偏向反射面の光ビームの反射点を中心とする円弧形状にすることは、光学性能を維持する上で困難である。つまり、通常の光ビームは、光偏向器55により偏向走査され、各像高にて主走査断面において、レンズ面に対し垂直入射することはなく、主走査方向にある入射角を持って入射する。光偏向器55により偏向反射された光ビームは、主走査方向にある幅を持っており、主走査方向両端の光ビームは、光偏向器55の偏向反射面から走査レンズ入射面までの距離が異なり、斜め入射で副走査方向に角度を持っていることにより、走査レンズにねじれた状態で入射することになる。この結果、波面収差が著しく劣化し、被走査面58におけるビームスポット径が太る。図1に示すように、主走査方向の入射角は、周辺像高に行くほどきつくなり、主走査方向両端の光ビームの走査レンズへの副走査方向の入射位置は大きくずれるため、光束のねじれは大きくなり、周辺に行くほど波面収差の劣化によるビームスポット径の太りは大きくなる。波面収差の劣化は、特に副走査方向に強い屈折力を持つ走査レンズへの入射時に、光束がねじれることにより大きく発生する。
図3は、特殊面を持たない従来の走査光学系に光ビームを斜め入射させたときの副走査断面での光線の模式図である。図3に示す光線は、カップリングレンズ52を通過した後に配置されているアパーチャ53の副走査方向中心と、主走査方向両端の2本の光線の計3本の光線として表されている。また、副走査方向に強い屈折力を持つレンズは、第2走査レンズ62、図3ではL2で示すレンズである。さらに、図3中「仮想面」とは、実際には存在しない面であり、図3において第2走査レンズL2を第1走査レンズL1と水平に配置させるための仮想ミラー面である。図3から明らかなように、光偏向器55としてのポリゴンミラーで反射された各光ビームは、走査レンズに副走査方向の高さを異ならせて入射する。中心像高においては、走査レンズにほぼ垂直に入射するため、同一の光ビーム内の光線、すなわち、アパーチャの副走査方向中心の光線と、主走査方向両端の2本の光線は、副走査方向に高さを異ならせることなく走査レンズに入射している。このため、波面は劣化せず良好なビームスポット径を保つことができる。一方、周辺像高(ここでは、被走査面上の+150mmの位置に到達する光束)では、ポリゴンミラーから走査レンズまでの光路長の違いにより、各光線は副走査方向に入射高さが異なっている。このため、被走査面上では各光ビームは一点に集まらず、つまり波面収差が劣化している状態になり、ビームスポット径が劣化している。
波面収差の補正のためには、副走査方向に強い屈折力を持つ走査レンズへの入射高さを補正し、被走査面上で一点に集光するようにする必要がある。このため、本実施例における走査レンズL1、つまり、共用走査レンズを、主走査方向の中心から周辺に向かい、副走査方向の負の屈折力が強くなるレンズとしている。具体的には、共用走査レンズの副走査方向の屈折力は、光軸上ではゼロ、周辺に向かい負の屈折力が強くなる形状となっている。つまり、波面収差の補正を行うために、副走査方向に最も強い屈折力を持つ走査レンズより光偏向器55側の第1走査レンズである共用走査レンズL1に、周辺において副走査方向に負の屈折力を持たせることで光ビームを跳ね上げ、第2走査レンズL2の高い位置に入射させることで、波面収差の劣化(光束のねじれ)を補正し、被走査面で同一光ビーム内での光線を一点に集光させている。光軸での副走査方向の屈折力をゼロとしている理由は、走査レンズに入射する光束が垂直に入射するため、光束のスキューがない、つまり、波面収差の劣化が生じないためである。図4は、共用走査レンズL1に、周辺において副走査方向に負の屈折力を持たせた場合の図3に準じる模式図である。図4の例では、後に説明する面を第2走査レンズL2に採用しており、これによって走査線曲がりも補正されている。
第1走査レンズである共用走査レンズについてさらに説明する。本実施例における第1走査レンズL1、つまり、共用走査レンズの入射面、および、射出面は、主走査方向に応じて副走査方向の曲率が変化する特殊面で構成される。後に示す数値実施例においては、両面ともに主走査方向の中心から周辺に向かい、副走査方向の負の屈折力が強くなる面で構成され、共用走査レンズの副走査方向の屈折力は、光軸上ではゼロ、周辺に向かい負の屈折力が強くなる形状となっている。つまり、光軸上では副走査方向は曲率を持たない面(入射面、射出面ともに平面)で、主走査方向の周辺に向かい副走査方向の断面形状が両凹形状となり、負の屈折力が強くなる形状となっている。光軸とは、各々の面を表す形状式の原点を結ぶ線と定義することとする。また、共用走査レンズの光軸は、光偏向器の偏向反射面の法線を含み、偏向反射面上の複数の光ビームの反射点の副走査方向中心を含む軸と一致する。
上記特殊面の形状についてさらに説明する。特殊面は次式で表される。ただし、この発明に用いることができる特殊面は以下の形状式に限定されるものではなく、同一の面形状を別の形状式を用いて特定することも可能である。光軸を含み、主走査方向に平行な断面である「主走査断面」内の近軸曲率半径をRY、光軸から主走査方向の距離をY、高次係数をA、B、C、D…とし、主走査断面に直交する「副走査断面」内の近軸曲率半径をRZとする。
本実施例の具体的な数値例は、数値例1の各表に記載のとおりである。特殊面は、前に説明したとおり、斜め入射光学系における波面収差補正のために用いる。本発明のように、共用走査レンズL1の入射面、射出面ともに、主走査方向の中心から周辺に向かい副走査方向の負の屈折力が強くなる特殊面とすることで、1面のみの特殊面で波面収差補正に必要な負の屈折力を得る場合と対比すると、副走査方向の曲率半径を大きく設定することが可能となる。例えば、出射面1面のみでなく入射面側も凹面とすることで、波面収差補正を実施するための副走査方向の曲率半径を、射出面側1面で実施する場合よりも大きくすることができる。共用走査レンズL1の副走査方向の曲率半径が小さい場合、副走査方向の高さ毎に主走査方向の形状が大きく変化し、温度変動、あるいは光学素子の組み付け誤差により副走査方向に光ビームの入射位置がずれた場合に倍率誤差変動が大きく発生し、この光走査装置をカラー画像形成装置に適用すると、各色に対応した画像間でのビームスポット位置がずれ、色ずれが発生してしまう。
また、図5に示すように、第1走査レンズのレンズ面が副走査方向にきつい曲率、つまり小さな曲率半径を持つ場合、入射光線が副走査方向にシフトすると、屈折力が大きく変わることにより光線の副走査方向の進行方向が変わる。先に説明したように、第1走査レンズL1の特殊面は、第2走査レンズL2への副走査方向の入射高さ、および、入射角を補正しているため、第1走査レンズL1を射出した後の副走査方向への光線の進行方向が変化すると波面収差が劣化してしまう。その点、第1走査レンズL1の各面の曲率半径を大きくすることで、副走査方向に光ビームの入射位置がずれた場合の倍率誤差変動を小さくすることができ、カラー画像形成装置における色ずれの発生を抑えることができる。
また、第1走査レンズL1の各面の曲率半径を大きくすることで、温度分布発生による光ビーム間での倍率変動の差を小さくすることができ、同期を取ることで書き出し位置と書き終わり位置を各光ビームで一致させたときの中間像高での色ずれを低減できる。また、第1走査レンズL1を射出した後の光ビームの副走査方向における進行方向の変化を低減することができ、波面収差の劣化を低減することができることにより、安定した光学性能を実現することができる。
また、光走査装置のレイアウトの都合上、斜め入射の角度が大きくなり、あるいは走査光学系の画角が増大した場合、光ビームのスキュー量が増大し、波面収差の劣化も大きくなる。この場合、波面収差補正のために光線を跳ね上げる量も大きくなり、走査レンズ周辺での副走査方向の負の屈折力をより強くする必要がある。この場合においても、第1走査レンズL1の両面を特殊面とし、副走査断面形状を両面とも凹レンズ形状とすることで対応することができる。
共用走査レンズについてさらに説明する。走査光学系に共用走査レンズを使用するメリットの一つは、複数の被走査媒体に向かう光ビームごとに個別に走査レンズを設ける場合に対し、走査レンズの枚数を減らすことができ、低コストの光走査装置を提供できる点にある。また、斜め入射光学系の場合、走査レンズを共用することなく、例えば2段重ねにする場合には、複数の光ビームの副走査方向の間隔を広く取る必要があるため、斜め入射角が増大し、波面収差の劣化や走査線曲がりの発生が増大してしまうが、共用走査レンズを使用すれば、波面収差の劣化や走査線曲がりを抑制することができる。そして、光偏向器に近い方の走査レンズを、異なる被走査媒体に向かう光ビームで共用し、斜め入射角をできるだけ小さく設定することで、波面収差の発生、走査線曲がりの発生を抑制することが可能となる。波面収差は前述のように特殊面で補正可能であるが、その補正量は小さいほうが望ましい。
上記実施例のように、共用走査レンズである第1走査レンズに特殊面を用いたものにおいて、共用走査レンズの光軸外を光ビームが透過する場合、斜め入射角の大きい光ビーム(以下、偏向反射面の法線に対し、より遠い側を通るという意味で「Out側」という)の通過位置と、斜め入射角が小さい光ビーム(以下、上記法線により近い側という意味で「In側」という)の通過位置とでは、図2からもわかるように走査レンズ内を通過する光ビームの光路長が異なる。厳密には走査レンズの軸外を各光ビームが異なる角度で斜めに透過するため、特殊面を用いず両面とも平面であっても走査レンズ内での光路長差は生じるが、特殊面を用いることでOut側とIn側の走査レンズ内での光路長差は増大する。特殊面を用いた走査レンズにおいては、走査レンズの副走査方向の高さが異なると主走査方向の断面形状は異なる。
例えば、図6に示すように、第1走査レンズである共用走査レンズL1の射出面側のみに主走査方向周辺に向かい負の屈折力が強くなる特殊面を用いて波面収差補正を実施した場合、走査レンズL1の副走査走行に高い位置ほど走査レンズ周辺で被走査面側にレンズが繰出してくる。つまり、Out側の光ビーム通過位置での走査レンズの主走査形状とIn側の光ビーム通過位置での走査レンズの主走査形状は射出面側で大きく異なることとなる。この走査レンズの繰出し量の差は特殊面の副走査方向の曲率半径が小さくなるほど大きくなり、Out側の光ビームとIn側の光ビームでの光学性能、特に主走査方向の像面湾曲が大きく異なる結果となる。このため、Out側の光ビームとIn側の光ビームで個別に第2走査レンズL2を準備し、主走査方向の像面湾曲を補正しなければならず、第2走査レンズL2の種類が増える。第2走査レンズL2の種類が増えると、生産性の面でまったく異なる金駒を準備する必要があるなどの課題が発生する。
一方、波面収差補正のために必要な負の屈折力を得る場合において、共用走査レンズの入射面、射出面ともに特殊面とし、主走査方向の光軸外における、各光ビーム通過位置での副走査方向の断面における走査レンズ形状を両凹形状とすることで、特殊面1面で前記負の屈折力を得るための各面の曲率半径を大きく設定することが可能となり、Out側のビームとIn側のビームの光路長差を低減することができる。この結果、Out側ビームとIn側ビームとで、特殊面の副走査方向の曲率半径の影響による主走査周辺に向かう走査レンズの繰出しは小さくなり、Out側の光ビーム通過位置での走査レンズの主走査方向形状とIn側の光ビーム通過位置での走査レンズの主走査方向形状の変化を小さく抑えることが可能となる。このため、第2走査レンズL2をOut側ビームとIn側ビームとで共通に使用する場合における、Out側とIn側における光ビームの主走査方向の像面湾曲の変化を小さくすることが可能となる。
後で説明する走査線曲り補正のため、共用走査レンズの副走査方向の形状を、Out側とIn側で同一とすることなく個別に設定することで、Out側とIn側の走査線曲がりをより良好に一致させ、副走査方向の色ずれを精度良く補正するようにしても構わない。ただし、この場合、主走査方向の形状は一致させることが可能であり、後で説明する被走査面での光スポットの等速性をOut側とIn側で略一致させることができ、主走査方向の色ずれ補正を良好に行うことができる。等速性と主走査方向の色ずれについては後でさらに説明する。
前述のように、Out側の光ビーム通過位置での走査レンズの主走査方向形状とIn側の光ビーム通過位置での走査レンズの主走査方向形状の変化を小さく抑えることが可能であるが、特殊面を用いることでOut側ビームとIn側ビームを完全に一致させることは難しく、同一形状の第2走査レンズL2を使用した場合において、Out側とIn側の光ビームの主走査方向における像面湾曲は異なる。そこで、Out側、In側それぞれの光ビームの、被走査面上での主走査方向の像面湾曲は、少なくとも最周辺部の像高において、その発生方向が被走査面をはさみ逆方向となるようにすることが望ましい。
例えば、Out側に配置される第2走査レンズL2の形状を主走査方向の像面湾曲が最小となるようにした場合、In側では、第1走査レンズL1の主走査方向周辺に向かいOut側の光束通過位置に対して繰出し量が小さいため、主走査方向の屈折力は周辺で強くなる。一方、In側に配置される第2走査レンズL2の形状を主走査方向の像面湾曲が最小となるようにした場合、Out側では、第1走査レンズL1の主走査方向周辺に向かいIn側の光束通過位置に対し繰出し量が大きいため、主走査方向の屈折力は周辺で弱くなる。走査レンズ主走査方向において、特殊面による副走査方向の曲率変化がどのように変化するかにより、各像高での主走査方向の屈折力変化は必ずしも前記の如くなるとは限らないが、Out側とIn側での主走査方向の屈折力は、周辺で一方が強くなり他方が弱くなる。そこで、Out側、In側各々の光ビームに対応する被走査面上での主走査方向の像面湾曲は、少なくとも最周辺部の像高において、その発生方向が被走査面をはさみ逆方向となるようにすることで、Out側、In側ともに主走査方向の像面湾曲量を小さく抑えることが可能となる。
この場合においても、2面の特殊面を用いることなく、特殊面1面で波面収差補正を実施し、これにより特殊面の副走査方向の曲率半径が小さくなった場合、Out側とIn側とでは第1走査レンズL1での主走査方向の形状変化が大きくなる。これに伴いOut側とIn側とで第2走査レンズL2を共通化した場合、各光ビームで生じる主走査方向の像面湾曲が大きく、その発生方向を、被走査面をはさみ逆方向となるようにしても、残存する主走査方向の像面湾曲は大きく、ビームスポット径が劣化してしまう。つまり、第1走査レンズL1(共用走査レンズ)を入射面、射出面ともに特殊面とすることで、第2走査レンズL2を前記領域Aにおいて、また前記領域BにおいてOut側とIn側の光ビームにつき共通に使用することを可能とし、または、少なくとも第2走査レンズL2の主走査方向の形状を一致させることが可能となる。
また、共用走査レンズである第1走査レンズの、主走査方向の光軸外における各光ビーム通過位置での特殊面の副走査方向曲率半径の絶対値は、入射面側に対し射出面側が小さくなるように設定することが望ましい。第1走査レンズの入射面の負の屈折力を大きくすると、被走査面側に凸面を向けた形状、つまり入射光束に対し、副走査方向で強い凹面形状となるため、その面で反射された光ビームが光偏向器等の光学素子方向に戻り、多重反射を繰り返して被走査面に到達し、形成される画像の品質を低下させることがある。共用走査レンズの主走査方向の光軸外における、各光ビーム通過位置での特殊面の副走査方向曲率半径の絶対値を、入射面側に対し射出面側が小さくなるように設定し、走査レンズ入射面の曲率半径を大きくすることで、同面での反射光は光偏向器側へ戻りにくくなり、反射光の影響を低減して、安定した品質の画像を得ることができる。
異なる被走査面上でのリニアリティ特性は略一致していることが望ましい。例えば、Out側とIn側それぞれに対応する被走査面でリニアリティ特性が大きく異なる場合、書き出し位置、及び、書き終わり位置を同期により揃えた場合においても、中間像高では各ドット位置を一致させることはできない。カラー画像形成装置において、各被走査面での潜像をイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックなどの各々異なる色の現像剤を使用する現像器で可視像化したのち、これらの可視像を同一の記録紙に順次重ね合わせて転写し定着することで、カラー画像を得ると、所謂「色ずれ」が生じてしまう。各色でリニアリティ特性が一致していないと、走査速度むらの発生が各色で異なるために、主走査方向の同一位置にドットを形成しようとした場合にドット位置がずれ、上記「色ずれ」の原因となる。
上記「色ずれ」について、図7にシアンとマゼンタを例にあげ説明する。図7は、同期をとることによって書き出し位置、および、書き終わり位置の調整前と調整後における走査位置ずれを示している。図7(a)は、シアンとマゼンタでリニアリティが大きく異なり速度むらが発生している例を示す。この例は、横軸の理想像高に対し縦軸の実像高が各色で異なっている例である。そこで、例えば書き込み開始端と書き終わり端で同期をとり、画素クロックを補正することで走査線の長さを一致させる調整を行なったとする。この調整により、図7(b)に示すように、両端での走査位置は一致するが、中間像高の走査位置を一致させることはできない。
第2走査レンズL2を、前記領域AのOut側、In側で、また、領域BのOut側、In側で共通使用する場合、もしくは、主走査方向の形状を一致させる場合は、リニアリティ特性を略一致させることが容易となる。前に説明した通り、共用走査レンズである第1走査レンズL1の主走査方向の形状変化を、Out側とIn側で小さくすることで、第2走査レンズL2の主走査方向の形状を一致させても、ほぼ同一形状の走査光学系により各々の光学特性が決まることで、リニアリティ特性を略一致させることが可能となる。
共用走査レンズである第1走査レンズL1の主走査方向の形状変化がOut側とIn側で大きい場合、第2走査レンズL2の主走査方向の形状をOut側とIn側で個別に設定し主走査方向の像面湾曲補正をする必要が生じる。第2走査レンズL2は光束が主走査方向に絞られた状態で入射しており、主走査方向の屈折力は主走査方向の走査位置補正、つまり、リニアリティの補正のために光束の進行方向を変化させる機能が大きい。このため、主走査方向の像面湾曲補正、つまり結像作用の補正のために、第2走査レンズL2の主走査方向の形状、つまり屈折力をダイナミックに変えてしまうと、リニアリティ特性を一致させることが困難となる。このため、共用走査レンズである第1走査レンズL1の主走査方向の形状変化を、Out側とIn側で小さくすることにより、第2走査レンズL2を共通化(少なくとも主走査形状を共通化)することで、主走査方向の像面湾曲を良好に補正し、リニアリティ特性を略一致させる走査光学系を容易に実現することができる。
これまで、Out側とIn側の2種類の光ビームを例に挙げ説明してきたが、共用レンズの光軸に対しOut側とIn側の光ビームを対称に通した場合など、共用走査レンズに複数の光ビームを通しても同様の効果を得ることができる。
実施例5について説明する前に、走査線曲がりの発生について説明する。例えば、走査光学系を構成する走査レンズ、特に副走査方向に強い屈折力を持つ走査レンズ(図1に示す例では第2走査レンズ62)の入射面の主走査方向の形状が、偏向反射面による光ビームの反射点を中心とする円弧形状でない限り、主走査方向のレンズ高さによって、光偏向器の偏向反射面から走査レンズ入射面までの距離が異なることになる。通常、走査レンズを上記のような形状にすることは、光学性能を維持する上で困難である。つまり、図1に示すように、通常の光ビームは、光偏向器55により偏向走査され、主走査断面において、各像高にてレンズ面に対し垂直入射することはなく、主走査方向にある入射角を持って入射する。
これに加えて、副走査方向に角度を持っている(斜め入射されているため)ことにより、光偏向器55の偏向反射面から走査レンズ入射面までの距離が像高によって異なり、光偏向器55により偏向反射された光ビームは、走査レンズへの副走査方向の入射高さが周辺に行くほど中心より高い位置もしくは低い位置(光ビームの副走査方向にもつ角度の方向により異なる)に入射される。この結果、副走査方向に屈折力を持つ面を通過する際に、副走査方向に受ける屈折力が異なり、走査線曲がりが発生してしまう。通常の水平入射であれば、偏向反射面から走査レンズ入射面までの距離が異なっても、光ビームは走査レンズに対し水平に進行するため、走査レンズ上での副走査方向の入射位置が異なることはなく、走査線曲がりは発生しない。
前に説明したとおり、走査光学系において副走査方向の折り返しミラーの枚数を異なる被走査面に向かう光ビーム毎に最適に設定することで、斜め入射光学系で発生する走査線曲がりの方向を一致させることができ、重ね合わせ画像による色ずれを低減することができる。しかし、斜め入射の角度により走査線曲がりの発生量は異なるため、各色に対応した走査光学系で走査線曲がりを小さく補正することが望ましい。
本発明においては、斜め入射光学系により生じる走査線曲がりを補正するために、異なる被走査面に向かう光ビーム毎に配置される個別走査レンズに、副走査方向にパワーを持たず、主走査方向に副走査方向のチルト偏芯量が異なる面を持たせている。この面は、走査光学系を構成する複数の走査レンズのうち被走査面側に配置されている走査レンズに使用することが望ましい。光ビームは被走査面に近づく程その大きさ(ビーム径)は小さくなる。このため、走査線曲がり補正のために光ビームの進行方向を変化させても光ビーム内への影響は小さく、光偏向器に近い方の走査レンズの特殊面で波面収差を補正した状態を劣化させることを防ぐことができる。これによって補正後の光ビームを大きくスキューさせ波面を乱すことはない。つまり、波面収差補正のためには、透過する光ビームの径が大きく、光ビームの進行方向を補正しやすい光偏向器に近い走査レンズが有効となる。さらに、被走査面に近い方の走査レンズでは、各像高に向かう光ビームがより大きく分離されており、隣り合う光ビームの重なりが小さい。このため、副走査方向のシフト偏芯量を細かく設定することが可能で、走査線曲がりの補正を良好に補正することができる。
次に、走査線曲り補正のための走査結像光学系の面形状について説明する。この面形状は、以下の形状式による。ただし、この発明に適用可能な走査結像光学系の面形状は以下の形状式に限定されるものではなく、同一の面形状を別の形状式を用いて特定することも可能である。
光軸を含み、主走査方向に平行な平断面である「主走査断面」内の近軸曲率半径をRY、光軸から主走査方向の距離をY、高次係数をA、B、C、D…とし、主走査断面に直交する「副走査断面」内の近軸曲率半径をRZとする。
(F0+F1・Y+F2・Y^2+F3・Y^3+F4・Y^4+・・)Zは、チルト量を表す部分であり、チルト量を持たないとき、F0,F1,F2,・・は全て0である。F1,F2,・・が0で無いとき、チルト量は、主走査方向に変化することになる。
さらに、特殊チルト面の副走査方向の形状を、曲率を持たない平面形状としている理由について説明する。副走査方向に曲率を付けた場合、副走査方向の高さ毎に主走査方向の形状が大きく変化し、温度変動、光学素子の組み付け誤差により光ビームの入射位置が副走査方向にずれた場合に倍率誤差変動が大きく発生する。カラー画像形成装置においては、各色成分に対応したビームスポットの位置がずれ、これらのビームによって形成され可視化された画像を重ね合わせることによって形成されるカラー画像に色ずれが発生する。そこで、本発明のように、特殊面の副走査方向の面形状を、曲率を持たない平面形状とすることで、副走査方向の高さ毎に主走査方向の形状誤差を小さくすることができ、光ビームの入射位置が副走査方向にずれた場合の倍率誤差変動を小さくすることができ、カラー画像形成装置においては色ずれの発生を抑えることができる。
実際には、特殊面を用いることで主走査方向の形状は副走査方向の高さにより変化するが、その量は僅かであり、副走査方向に曲率を付けた場合に比べ主走査方向の形状の変化を小さくすることができる。この結果、温度分布発生による光ビーム間での倍率変動の差を小さくでき、同期を取ることで書き出し位置と書き終わり位置を各光ビームで一致させたときの中間像高での色ずれを低減することができる。
また、図8(b)に示すように、走査レンズへの入射光線が副走査方向にシフトした場合、特殊面は屈折力を持たないため光線の進行方向もシフトするのみで、その方向の変化は小さい。副走査方向に曲率を持つ、つまり屈折力を持つ面では、入射光線が副走査方向にシフトした場合、屈折力が変わることにより、図8(a)に示すように光線の進行方向が変わる。各像高でこの進行方向の変化量が異なると、走査線曲がりが大きく発生してしまう。また、光ビームのスキューが発生し、波面収差の劣化、ビームスポット径の劣化が生じる。以上の理由から、特殊面における副走査方向の形状は、曲率を持たない平面形状とする必要がある。
近年、光走査装置、画像形成装置の高速化、高密度化が進んでいる。光偏向器としてポリゴンスキャナを使う場合、ポリゴンミラーを高速で回転させることで、高速化、高密度化への対応は可能である。しかし、回転数を上げるには限界があので、ポリゴンスキャナの回転数を上げることなく高速化、高密度化を図るために、以下に述べる実施例では、複数の光ビームで同一の被走査面を走査するようにしている。
本発明に係る光走査装置において、光源を、例えば、複数の発光点を有する半導体レーザアレイや、単数の発光点もしくは複数の発光点を有する光源を複数用いたマルチビーム光源装置とし、複数の光ビームを一つの感光体表面に同時に走査するように構成するとよい。こうすることにより、高速化、高密度化を図った光走査装置および画像形成装置を構成することができ、かかる光走査装置および画像形成装置を構成した場合も、これまで説明してきた実施例の効果と同様の効果を得ることができる。図9はマルチビーム光源装置を構成する光源ユニットの例を示す。
図9(a)において、半導体レーザ403、404は各々ベース部材405の裏側に形成された図示しない嵌合孔に個別に嵌合されている。上記嵌合孔は主走査方向に所定角度、実施例では約1.5°だけ微小に傾斜していて、この嵌合孔に嵌合された半導体レーザ403、404も主走査方向に約1.5°傾斜している。半導体レーザ403、404は、フランジ状ヒートシンク部403−1、404−1を一体に有するとともに、このヒートシンク部403−1、404−1に切り欠きが形成されていて、押え部材406、407の中心丸孔に形成された突起406−1、407−1を上記ヒートシンク部の切り欠き部に合わせることによって発光源の配列方向が合わせられている。押え部材406、407はその背面側からネジ412でベース部材405に固定されることにより、半導体レーザ403、404がベース部材405に固定されている。また、コリメートレンズ408、409は各々その外周をベース部材405の半円状の取り付けガイド面405−4,405−5に沿わせられて光軸方向の調整が行われ、光源の発光点から射出した発散ビームが平行光束となるよう位置決めされ接着されている。
なお、上記実施例では、各々の半導体レーザからの光線が主走査面内で交差するように設定するために、上記ベース部材405に形成されている半導体レーザ403、404の嵌合孔および半円状の取り付けガイド面405−4,405−5を光線方向に傾けて形成している。ベース部材405の前面には上記半導体レーザ403、404の嵌合孔よりも外周側において円筒状係合部405−3が形成されている。この円筒状係合部405−3をホルダ部材410の受け孔に係合させ、ネジ413を貫通孔410−2に通してネジ孔405−6、405−7に螺合することによって、ベース部材405がホルダ部材410に固定され、光源ユニットを構成している。
上記光源ユニットのホルダ部材410は、その前面中心部に突設された円筒部410−1が、光学ハウジングの取り付け壁411に設けられた基準孔411−1に嵌合されている。上記円筒部410−1には取り付け壁411の表側よりスプリング611が挿入され、略リング状のストッパ部材612を上記円筒部の突起410−3に係合することで、ホルダ部材410が取り付け壁411の裏側に密着して保持され、これによって上記光源ユニットが保持されている。スプリング611の一端を取り付け壁411に設けられている突起411−2に引っ掛け、スプリング611の他端を光源ユニットに引っ掛けることで、光源ユニットに円筒部410−1の中心を回転軸とした回転力を発生している。この光源ユニットの回転力を係止する調節ネジ613を具備していて、この調節ネジ613により、光軸の周りであるθ方向に光源ユニット全体の回転を規制するとともに、ピッチを調節することができるように構成されている。光源ユニットの前方にはアパーチャ415が光学ハウジングに取り付けられて配置されている。アパーチャ415には半導体レーザ毎に対応したスリットが設けられ、光ビームの射出径を規定するように構成されている。
図9(b)は、光源ユニットの第2の実施形態を示す。図9(b)において、4個の発光源を持つ半導体レーザ703からの各光ビームは、ビーム合成手段を用いて合成するように構成されている。符号706は押え部材、705はベース部材、708はコリメートレンズ、710はホルダ部材をそれぞれ示している。この実施の形態では光源としての半導体レーザ703は1個であり、これに応じて押え部材706が1個である点が図9(a)に示す実施の形態と異なっており、他の構成は基本的に同じである。
図9(c)は、図9(b)に示す実施形態に準じる構成のものであって、4個の発光源を直線的に配列してなる半導体レーザアレイ801からの光ビームを、ビーム合成手段を用いて合成する例を示している。基本的な構成要素は図9(a)(b)と同様であるから、ここでは説明を省略する。
次に、本発明に係る光走査装置を用いた画像形成装置の一実施形態を、図10を参照しながら説明する。本実施形態は、本発明に係る光走査装置をタンデム型フルカラーレーザプリンタに適用した例である。図10において、装置内の下部には給紙カセット13が水平方向に配設されていて、その上方には、給紙カセット13から給紙される転写紙(図示せず)を搬送する搬送ベルト17が水平方向に設けられている。この搬送ベルト17上にはイエローY用の感光体7Y,マゼンタM用の感光体7M,シアンC用の感光体7C及びブラックK用の感光体7Kが、転写紙の搬送方向上流側から上記の順に等間隔で配設されている。なお、以下、色成分に対応する添字Y,M,C,Kを符号の後に適宜付けて色成分に対応した構成部品を区別するものとする。
これらの感光体7Y,7M,7C,7Kは全て同一径に形成されたもので、その周囲には、電子写真プロセスにしたがって各プロセスを実行するプロセス部材が各感光体の回転方向に順に配設されている。感光体7Yを例に採れば、帯電チャージャ8Y、光走査装置9が備えている光走査光学系6Y、現像装置10Y、転写チャージャ11Y、クリーニング装置12Y等が感光体7Yの回転方向に順に配設されている。他の感光体7M,7C,7Kに対しても同様にプロセス部材が配置されている。すなわち、本実施形態では、感光体7Y,7M,7C,7Kの表面を色成分毎に設定された被走査面ないしは被照射面とするものであり、各々の感光体に対して光走査光学系6Y,6M,6C,6Kが1対1の対応関係で設けられている。ただし、光走査装置9が備えている第1走査レンズL1は、マゼンタM,イエローY、ブラックK,シアンCで共通に使用している。また、搬送ベルト17の周囲には、感光体7Yよりも転写紙搬送方向上流側に位置させてレジストローラ対16と、ベルト帯電チャージャ20が設けられ、感光体7Kよりも搬送ベルト17の回転方向(転写紙搬送方向)下流側に、ベルト分離チャージャ21、除電チャージャ22、クリーニング装置23等が順に設けられている。また、ベルト分離チャージャ21よりも転写紙搬送方向下流側には定着装置24が設けられ、排紙トレイ26に向けて排紙ローラ25で結ばれている。
このような概略構成において、例えば、フルカラーモード(複数色モード)時であれば、各感光体7Y,7M,7C,7Kに対してY,M,C,K用の各色成分の画像信号に基づき各々の光走査光学系6Y,6M,6C,6Kによる光ビームの走査で、各感光体表面に、各色信号に対応した静電潜像が形成される。これらの静電潜像はそれぞれに対応する現像装置で対応する色トナーにより現像されてトナー像となり、搬送ベルト17上に静電的に吸着されて搬送される転写紙上に順次転写されることにより重ね合わせられ、転写紙上にフルカラー画像が形成される。このフルカラー像は定着装置24で定着された後、排紙ローラ25により排紙トレイ26に排紙される。
上記画像形成装置の光走査光学系6Y,6M,6C,6Kを、前述の実施形態に係る光源装置を具備した前述の実施例に係る光走査装置の光走査光学系とすることで、低コスト化、低消費電力、小型化に適した斜め入射方式の光走査装置を得ることができる。この光走査装置を上記画像形成装置の光走査装置として組み込むことにより、組み付け誤差、加工誤差の影響による光ビームの副走査方向の角度変化を低減し、走査線曲がりと波面収差の劣化を低減し、良好で安定した画像品質を得ることができる画像形成装置を提供することができる。
以上、本発明の実施例について、光走査装置の光偏向器としてポリゴンミラーを用いた場合について説明してきたが、光偏向器として正弦振動を行うマイクロミラー(以下「正弦振動ミラー」という)、ガルバノミラーなどを用いてもよく、この場合においても、前に述べた効果を得ることができる。よって、光偏向器はポリゴンミラーに限定されるものではない。例えば、正弦振動ミラーを用いた場合においては、ポリゴンミラーのような、回転による偏向反射面の光ビーム反射位置の光軸方向の出入り、つまり光学的なサグの影響が小さくなる。また、等速性の補正などの設計目標値は変化するが、斜め入射光学系特有の課題である波面収差補正、走査線曲り補正に関してはポリゴンミラーを用いた場合と同一の解決すべき課題があり、前述の実施例と同様に構成することにより、前に説明したような効果が得られることとなる。以下に、光偏向器として正弦振動ミラーを用いた場合の数値実施例を示す。
数値実施例
本実施例にかかる光走査装置の具体的な数値実施例を挙げる。
光源として用いられる半導体レーザは発光波長:780nmのもので、放射される発散性の光束はカップリングレンズ(焦点距離:10mm(波長780nmにおいて))により「実質的な平行光束」に変換され、シリンドリカルレンズ(入射面副走査方向曲率半径:64.5mm、肉厚:3mm)の作用により、光偏向器の偏向反射面の位置に「主走査方向に長い線像」として結像する。
光偏向器は、正弦振動ミラー(振幅:±25°)を用い、有効書込幅に対応する偏向手段の最大回転角を±15°としている。最大像高は±110mmである。
偏向反射面の法線に対し、光ビームは副走査方向にOut側が3.3°、In側が1.46°で斜めに入射され、主走査方向においては像高0に向かう光束に対し約60°で入射される。カップリングレンズを透過した光束を規制するアパーチャは、主走査方向に3.5mm、副走査方向に0.94mmの矩形アパーチャを用いる。
面番号1、2で示される入射面と出射面を持つ第1走査レンズL1は、偏向反射面に平行に配置され、光ビームは第1走査レンズL1の入射面に、副走査方向に対しOut側は±3.3°、In側は±1.46°で斜め入射される。
面番号3、4で示される入射面と出射面を持つ個別走査レンズである第2走査レンズL2は、レンズの光軸と入射光束を一致させて配置されている。また、各レンズに光束が斜め入射されないようにそれぞれOut側は±3.3°、In側は±1.46°傾けて配置されている。
共用レンズである第1走査レンズL1の入射面、射出面ともに特殊面とした場合の走査結像光学系のデータを表1に示す。表1においてXは、各面が正弦振動ミラーの回転軸に垂直な面に投影したときの光軸方向(第1走査レンズL1の光軸方向になる)の距離を示す。この実施例では光偏向器として正弦振動ミラーを用いているが、ポリゴンミラーを用いることもできる。
また、上記走査結像光学系のOut側とIn側における像面湾曲、リニアリティおよび走査線曲がりを図11に示す。図11からわかるように、Out側、In側ともに、良好な光学特性が得られている。
レンズ面形状は、次の式で与えられる。各面形状は下記式で与えられる。
*の各面は、主走査方向の形状が非円弧形状であり、副走査方向の曲率半径は、レンズ高さにより連続的に変化する特殊面である。各面形状は、上記式にて与えられる。ただし、Cs(Y)は、下の式による。
Cs(Y)=1/RZ+aY+bY^2+cY^3+dY^4+eY^5
+fY^6+gY^7+hY8+iY^9+jY^10
・・・・・+kY^11+lY^12
本実施例の非球面係数は以下の表2に示す通りである。第2走査レンズL2はOut側とIn側で共通に使用している。すなわち、領域A側において第2走査レンズL2をOut側とIn側の複数の光ビームが共用し、領域B側において第2走査レンズL2をOut側とIn側の複数の光ビームが共用している。
共用レンズである第1走査レンズL1の射出面のみを特殊面とし、波面収差補正を実施した場合の走査結像光学系のデータを表3に示す。
また、上記走査結像光学系のOut側とIn側における像面湾曲、リニアリティおよび走査線曲がりを図12に示す。図12からわかるように、Out側、In側において、主走査方向の像面湾曲に大きな差が生じ、良好な光学特性が得られていない。これは、先に説明したとおり、Out側とIn側の光ビーム通過位置での共用走査レンズの主走査方向の形状が大きく変わってしまっているためである。
本実施例における走査結像光学系の非球面係数は以下の表4に示す通りである。第2走査レンズL2は、Out側で一つを共用し、In側で他の一つを共用し、双方の第2走査レンズの仕様は共通である。ここでは、Fの項を用いていない。これは、先に説明した主走査方向の像面湾曲の効果を説明するための実施例であるためで、数値実施例1に示すように、fの項により走査線曲り補正は可能である。この結果から、共用レンズの両面を特殊面とする効果と、走査線曲り補正のために、副走査方向にパワーを持たず、主走査方向に副走査方向のチルト偏芯量が異なる面を用いる効果がわかる。
本数値実施例は、片側走査方式において、光ビームが第1走査レンズL1の入射面に、副走査方向に対しOut側は±3.3°、In側は±1.46°で斜め入射される仕様についてのレンズデータである。第1走査レンズは副走査方向の傾き角度+3.3°、+1.46°、−3.3°、−1.46°の光ビームに共用される。第2走査レンズL2は、各光ビームに対応して光ビームごとに個別に配置されるとともに、+側と−側すなわち領域A側と領域B側に上下反転して配置されることとなる。
本発明にかかる光走査装置の一実施例を主走査面対応方向から示す平面図である。
上記実施例を副走査面対応方向から示す正面図である。
特殊面を持たない従来の走査光学系に光ビームを斜め入射させたときの副走査断面での光線の模式図である。
共用走査レンズに、周辺において副走査方向に負の屈折力を持たせた場合の図3に準じる模式図である。
第1走査レンズのレンズ面が副走査方向に小さな曲率半径を持つものにおいて入射光線が副走査方向にシフトした場合の光線の進行方向を示す光路図である。
波面収差補正のために共用走査レンズの射出面側のみに主走査方向周辺に向かい負の屈折力が強くなる特殊面を用いた例を示す、(a)は副走査に対応する方向の正面図、(b)は平面図である。
書き出し位置および書き終わり位置の調整前と調整後における異なる色の走査位置ずれを示すもので、(a)は調整前、(b)は調整後のグラフである。
走査レンズへの入射光線が副走査方向にシフトした場合の光線の進行方向を示すもので、(a)は屈折力を持つ面に入射した場合、(b)は屈折力を持たない面に入射した場合の光路図である。
マルチビーム光源装置を構成する光源ユニットの三つの例を示す分解斜視図である。
本発明にかかる画像形成装置の実施例を概略的に示す正面図である。
走査結像光学系の一数値例におけるOut側とIn側における像面湾曲、リニアリティおよび走査線曲がりを示すグラフである。
走査結像光学系の別の数値例におけるOut側とIn側における像面湾曲、リニアリティおよび走査線曲がりを示すグラフである。
符号の説明
51 光源
52 カップリングレンズ
53 アパーチャ
54 シリンドリカルレンズ
55 光偏向器
58 被走査面
61 第1走査レンズ
62 第2走査レンズ