JP2008026211A - プラスチック素材の成分識別方法および成分識別装置 - Google Patents

プラスチック素材の成分識別方法および成分識別装置 Download PDF

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Abstract

【課題】プラスチック素材に目的検出成分が微量含有されている場合でも、迅速にその含有を識別する方法を提供する。
【解決手段】プラスチック素材に連続スペクトルをもった赤外光を照射し、全反射もしくは透過した前記赤外光の強度を測定することによって得られる第1の赤外吸収スペクトルと、前記プラスチック素材中の目的検出成分固有の波数に変化を与える処理を行いながらまたは行った後、前記連続スペクトルを持った赤外光を照射し、全反射もしくは透過した前記赤外光を測定することによって得られる第2の赤外吸収スペクトルを比較することによって目的検出成分の含有の有無を識別する。
【選択図】図1

Description

本発明は、プラスチック素材中に含まれる目的検出成分を赤外分光測定により識別するプラスチック素材の成分識別方法に関する。
近年、世界的な規模で地球環境問題の関心が高まっており、有害物質の規制などの取組みが進められている。欧州においては、環境破壊や健康に及ぼす危険を最小化することを目的に、電気電子機器類に含まれる特定有害化学物質の使用を制限するRoHS指令が制定され、2006年7月1日に施行される。その対象物質は、鉛、カドミウム、六価クロム、水銀、ポリブロモビフェニル、ポリブロモビフェニルエーテルであり、規制値はカドミウムが100ppm以下であり、それ以外の物質は1000ppm以下である。この規制の対応として、規制物質が誤使用もしくは混入し、使用されることを防ぐため材料や部品などの受入れ検査が行われる。受入れ検査は、元素分析が必要な、鉛、カドミウム、水銀については、蛍光X線分析装置を用いて行われ、特定化数のイオン検出が必要な六価クロムについては、ジフェニルカルバジド吸光光度法により行われている。ポリブロモビフェニル、ポリブロモビフェニルエーテルは特定構造の臭化物であるため、元素分析では識別できない。そのため構造分析する必要があり、様々な方法が提案されている。
例えば、プラスチック素材中の特定構造を有した成分分析方法として、ガスクロマトグラフ質量分析装置を用いる方法が提案されている。
しかしながら、この方法ではプラスチック素材を粉砕し、溶媒で特定成分のみを抽出濃縮などの前処理を施してから分析しなければならず迅速な測定結果を得ることができない。
そこで、プラスチック素材中の特定構造を有した成分を迅速に分析する方法として、赤外分光分析法が提案されている。この方法は、特定構造の成分を含まない試料を測定して得られたスペクトルと、特定構造の成分を含有した試料のスペクトルとを比較し、特定構造成分の有無を識別するものである。
また、プラスチック素材中の特定構造を有した成分を迅速に分析する方法として、放射線回折測定法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この方法は、プラスチック素材に放射線を照射したときに、得られる放射線の回折パターンと、予め用意された分析対象の成分の回折パターンとを比較することにより、プラスチック素材中に目的検出成分が含まれるか否かを判定する方法である。
以上に説明した赤外分光分析法および放射線回折測定法であれば、特定の成分を含むプラスチック素材を前処理せずに迅速に識別することができるとされている。
特開2005−3440号公報
しかし、RoHS指令の閾値である1000ppm程度しか目的検出成分が含有されていない場合、これらの方法では目的検出成分が含有されているか否かを識別することが困難である。
例えば、放射線回折測定法では、プラスチック素材中に10%以上の目的検出成分が含有されている場合ならば、プラスチック素材の回折パターンから目的検出成分の有無を識別することは可能である。しかし、目的検出成分に相当する回折パターンが小さいため、プラスチック素材全体の回折パターンのベースラインに隠れてしまい、目的検出成分に相当する回折パターンを識別することが困難である。
また、赤外分光分析法では、目的検出成分が微量の場合、目的検出成分の存在を示すスペクトルが微少であり、目的検出成分の特定構造を示す波数域に他の含有成分の影響が生じやすく、目的検出成分が含有されていない場合のスペクトルとの差がほとんどなくなる。このため、目的検出成分の存在を示すスペクトルを識別することが困難である。
本発明の課題は、プラスチック素材中に目的検出成分が微量しか含有されていない場合でも、目的検出成分の含有を迅速に識別できるプラスチック素材の成分識別方法および成分識別装置を提供することにある。
第1の発明は、プラスチック素材に目的検出成分が含まれているか否かを識別するプラスチック素材の成分識別方法である。その方法は、プラスチック素材に連続スペクトルをもった赤外光を照射し、プラスチック素材で反射又は透過された赤外光の強度を測定することによって得られる第1の赤外吸収スペクトルを取得するステップと、プラスチック素材に対して、目的検出成分に固有な波数に対応するスペクトルに変化を与える波数変化処理を行う固有スペクトル変化処理ステップと、を有する。さらに、固有スペクトル変化処理ステップを行った後、連続スペクトルを持った赤外光を、波数変化処理を行ったプラスチック素材に照射し、プラスチック素材で反射又は透過された赤外光の強度を測定することによって得られる第2の赤外吸収スペクトルを取得するステップと、第1の赤外吸収スペクトルと第2の赤外吸収スペクトルとを比較することにより、プラスチック素材に目的検出成分が含まれているか否かを識別する目的検出成分識別ステップと、を有するプラスチック素材の成分識別方法である。
この成分識別方法では、固有スペクトル変化処理ステップにより、目的検出成分に固有な波数に対応するスペクトルが変化する。このため、目的検出成分が微量しか含有されていない場合であっても、固有スペクトル変化処理ステップの前後に取得された第1および第2の赤外吸収スペクトルから、目的検出成分が含有されているか否かを識別することができる。
ここで、「波数」とは、単位長さあたりに進む位相の値、すなわち波長の逆数を意味しており、例えば、1cmあたりの波の数がこれに相当する。「固有スペクトル変化処理」とは、特定成分に固有な波数に対応するスペクトルに変化を与える処理をいい、例えば、目的検出成分がポリブロモジフェニルエーテルの場合、検査対象となるプラスチック素材に特定波長の紫外線を照射し、炭素−臭素結合を乖離させ、波数が1350cm-1近傍である赤外吸収スペクトルを減衰させる処理が、これに相当する。
第2の発明は、第1の発明であって、目的検出成分識別ステップにおける比較は、第1の赤外吸収スペクトルの波数について2次微分したものと、第2の赤外吸収スペクトルの波数について2次微分したものとを用いて行うものである。
これにより、固有スペクトル変化処理を行った前後の赤外吸収スペクトルの差が大きくなるので、目的検出成分の含有を見落とすことなく、確実に識別することができる。なお、第2の発明における「比較」とは、第1の赤外吸収スペクトルの波数について2次微分したものと、第2の赤外吸収スペクトルの波数について2次微分したものとを用いる比較をいい、例えば、第1の赤外吸収スペクトルの波数についての2次微分したデータと第2の赤外吸収スペクトルの波数について2次微分したものとの差分をとり比較することや、第1の赤外吸収スペクトルと第2の赤外吸収スペクトルとの差分をとったデータを2次微分したデータにより比較することが含まれる概念である。なお、目的検出成分識別ステップにおける比較は、2次微分による比較だけでなく、第1の赤外吸収スペクトルの波数について1次微分したものと第2の赤外吸収スペクトルの波数について1次微分したものとの比較であってもよい。また、第1の赤外吸収スペクトルおよび第2の赤外吸収スペクトルの波数について、それぞれ、3次、4次、5次等の高次微分したものを用いた比較であってもよい。
第3の発明は、プラスチック素材に目的検出成分が含まれているか否かを識別するプラスチック素材の成分識別方法である。その方法は、プラスチック素材に連続スペクトルをもった赤外光を照射し、プラスチック素材で反射又は透過された赤外光の強度を測定することによって得られる第1の赤外吸収スペクトルを取得するステップと、プラスチック素材中の目的検出成分に固有な波数に対応するスペクトルに変化を与える処理を行う固有スペクトル変化処理ステップと、を有する。さらに、固有スペクトル変化処理ステップを行いながら、連続スペクトルを持った赤外光をプラスチック素材に照射し、プラスチック素材で反射又は透過された赤外光の強度を測定することによって得られる第2の赤外吸収スペクトルを取得するステップと、第1の赤外吸収スペクトルと第2の赤外吸収スペクトルとを比較することにより、プラスチック素材に目的検出成分が含まれているか否かを識別する目的検出成分識別ステップと、を有するプラスチック素材の成分識別方法である。
この成分識別方法では、固有スペクトル変化処理ステップにより、目的検出成分に固有な波数に対応するスペクトルに変化を与えるステップと、第2の赤外吸収スペクトルを取得するステップとが同時に実行される。このため、比較部で第1の赤外吸収スペクトルと第2の赤外吸収スペクトルとの比較も同時に実行することができ、迅速に、プラスチック素材に目的検出成分が含有されているか否かを識別することができる。
また、固有スペクトル変化処理を実行しながら、プラスチック素材についての目的検出成分の含有を識別することができるので、固有スペクトル変化処理を行うために、プラスチック素材の成分識別のための処理を一旦停止させるような煩雑な手続きをする必要がないので、作業時間を短縮することができる。
第4の発明は、第3の発明であって、目的検出成分識別ステップにおける比較は、第1の赤外吸収スペクトルの波数について2次微分したものと、第2の赤外吸収スペクトルの波数について2次微分したものとを用いて行うものである。
これにより、固有スペクトル変化処理を行った前後の赤外吸収スペクトルの差が大きくなるので、目的検出成分の含有を見落とすことなく、確実に識別することができる。なお、目的検出成分識別ステップにおける比較は、2次微分による比較だけでなく、第1の赤外吸収スペクトルの波数について1次微分したものと第2の赤外吸収スペクトルの波数について1次微分したものとの比較であってもよい。また、第1の赤外吸収スペクトルおよび第2の赤外吸収スペクトルの波数について、それぞれ、3次、4次、5次等の高次微分したものを用いた比較であってもよい。
第5の発明は、第1から第4のいずれかの発明であって、固有スペクトル変化処理ステップでの目的検出成分に固有な波数に対応するスペクトルに変化を与える処理は、プラスチック素材に特定波長の紫外線を照射することにより行うものである。
第6の発明は、第1から第5のいずれかの発明であって、プラスチック素材は、ハロゲン化難燃剤を含有するものである。
第7の発明は、第1から第6のいずれかの発明であって、目的検出成分は、ポリブロモビフェニルまたは/およびポリブロモジフェニルエーテルである。
第8の発明は、第5から第7のいずれかの発明であって、紫外線の波長範囲は、345〜450nmである。
この場合、固有スペクトル変化処理ステップにおいて、炭素−臭素結合部分は乖離し、かつ、炭素−炭素結合部、炭素−酸素結合部、炭素−水素結合部および酸素−水素結合部等は乖離しない。このため、例えば、目的検出成分がポリブロモビフェニルまたは/およびポリブロモジフェニルエーテルである場合、効率良く、ポリブロモビフェニルまたは/およびポリブロモジフェニルエーテルに固有な波数に対応するスペクトルに変化を与えることができる。
第9の発明は、赤外光照射部と、干渉計と、検査対象物設置部と、固有スペクトル変化処理部と、赤外吸収スペクトル取得部と、目的検出成分識別部と、を備えるプラスチック素材の成分識別装置。外光発生部は、連続スペクトルをもった赤外光を出射させる。干渉計は、赤外光の連続スペクトルに含まれる各スペクトルの波長に従って、赤外光に変調をかける。検査対象物設置部には、干渉計で変調された赤外光をプラスチック素材である検査対象物に照射するために、プラスチック素材である検査対象物が設置される。固有スペクトル変化処理部は、検査対象物に含まれる目的検出成分に固有な波数に対応するスペクトルに変化を与える波数変化処理を行う。赤外吸収スペクトル取得部は、固有スペクトル変化処理部で目的検出成分に固有な波数に変化する処理をされていない検査対象物に照射され、検査対象物で反射又は透過された赤外光から第1の赤外吸収スペクトルを取得し、固有スペクトル変化処理部で目的検出成分に固有な波数に変化する処理をされた検査対象物に照射され、検査対象物で反射又は透過された赤外光から第2の赤外吸収スペクトルを取得する。目的検出成分識別部は、第1の赤外吸収スペクトルと第2の赤外吸収スペクトルとを比較することで、検査対象物に目的検出成分が含まれているか否かを識別する。
この成分識別装置では、検査対象物設置部に設置した検査対象物に対し、固有スペクトル変化処理部により、目的検出成分に固有な波数に対応するスペクトルに変化を与える波数変化処理を行うことができるので、目的検出成分が微量しか含有されていない場合であっても、固有スペクトル変化処理の前後に取得された第1および第2の赤外吸収スペクトルを目的検出成分識別部で比較することにより、目的検出成分が含有されているか否かを識別することができる。
第10の発明は、第9の発明であって、目的検出成分識別部は、第1の赤外吸収スペクトルの波数について2次微分したものと、第2の赤外吸収スペクトルの波数について2次微分したものとを比較することで、検査対象物に目的検出成分が含まれているか否かを識別する。
これにより、固有スペクトル変化処理を行った前後の赤外吸収スペクトルの差が大きくなるので、目的検出成分の含有を見落とすことなく、識別することができる。なお、目的検出成分識別部における比較は、2次微分による比較だけでなく、第1の赤外吸収スペクトルの波数について1次微分したものと第2の赤外吸収スペクトルの波数について1次微分したものとの比較であってもよい。また、第1の赤外吸収スペクトルおよび第2の赤外吸収スペクトルの波数について、それぞれ、3次、4次、5次等の高次微分したものを用いた比較であってもよい。
本発明のプラスチック素材の成分識別方法および成分識別装置によれば、目的検出成分に固有な波数に対応する赤外吸収スペクトルに変化を与え、その変化の前後の赤外吸収スペクトルの差を明確に判断できるので、微量の検出目的成分であってもその含有を迅速に識別することが可能となる。したがって、受入れ検査で規制物質の誤使用や混入を発見することが容易となり、その効果は顕著である。
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係るプラスチック素材の成分識別方法について、図1および図2を用いて説明する。
<装置の全体構成>
図1に、第1実施形態に係るプラスチック素材の成分識別方法に使用するフーリエ変換赤外分光分析装置100(以下、「FT−IR」という。)の概略構成図を示す。FT−IR100は、主に、連続スペクトルを持つ赤外光を放射する赤外光照射部としての赤外光源1と、干渉計2と、検査対象物が設置される検査対象物設置部としての試料測定室3と、検査対象物で反射又は透過した赤外光を検出する検出器4と、AD変換器5と、コンピュータ6とから構成されている。
赤外光源2は、連続スペクトルを持つ赤外光を放射する光源である。
干渉計2は、主に、入射光L1を2分する半透鏡201と、その2分された光を各々再び半透鏡201に戻す固定鏡202と可動鏡203とから構成されている。干渉計2に入射した光L1は、その光強度が光L1の波数成分ごとに変調された複数の波の合成波となる光L2に変換される。
試料測定室3は、検査対象物としての測定試料301を脱着可能に設置できる構造を有しており、干渉計2からの出射光L2が、試料測定室3に設置された測定試料301に入射され、その反射光が、検出器4へと出射されるようになっている。
検出器4は、試料測定室3から出射された光L3を電気信号に変換し、その電気信号を増幅して、出力する。
AD変換器5は、検出器4から出力されたアナログ信号をデジタル信号に変換して、コンピュータ6に出力する。
コンピュータ6は、CPU、ROM、RAM、記憶装置、入出力装置、バス等から構成される。コンピュータ6は、AD変換器5から出力されたデジタル信号出力を受け、そのデジタル信号に対して、フーリエ変換(高速フーリエ変換を含む。)を行うことで、試料測定室3からの出射光L3のスペクトルに相当するデータを取得する。さらに、コンピュータ6は、目的検出成分に固有な波数に対応するスペクトルに変化を与える処理を行う前後のスペクトルを取得し、前述の処理の前後のスペクトルの差分データを取得する処理、およびその差分データの、波数についての2次微分したデータを取得する処理等を行う。なお、コンピュータ6は、フーリエ変換(高速フーリエ変換を含む。)を行うためのDSP(Digital Signal Processor)等を備えていてもよい。
<プラスチック素材の成分識別方法>
第1実施形態においては、前述したFT−IR100を使用し、プラスチック素材としてポリスチレン、目的検出成分をポリブロモジフェニルエーテル(以下、「PBDE」という。)とした場合を例に説明する。目的検出成分が微量混入された場合を想定して、PBDEを意図的に500ppm混入させた測定試料301を用いる場合について、図1から図4を用いて説明する。
はじめに、PBDEを500ppm含有した測定試料301が試料測定室3に設置され、赤外光源1から連続スペクトルを有する赤外光L1が出射され、干渉計2に入射される。干渉計2に入射された光L1は、干渉計2により、その光強度が光L1の波数成分ごとに変調された複数の波の合成波となる光L2に変換され、試料測定室3へと出射される。試料測定室3で、光L2は、測定試料301に照射され、その反射された光L3が検出器4へと出射される。検出器4で、光L4が電気信号に変換され、AD変換器5を通じて、変換されたデータがコンピュータ6へと入力される。コンピュータ6に入力されたデータは、コンピュータ6にて、高速フーリエ変換され、試料測定室3からの出射光L3のスペクトルに相当するデータが取得される。さらに、そのデータについては、波数についての2次微分が算出され、その2次微分データは記憶される。このようにして、FT−IR100にて、測定試料301に照射し、反射した光L3のスペクトルの波数についての2次微分データが取得される。
次に、PBDEを含有した測定試料301が試料測定室3から取り外され、図示しないブラックライトを用い、352nmの紫外線が測定試料301に照射された後、再び試料測定室3に測定試料301が設置され、再び、FT−IR100にて、同様にして、測定が行われ、紫外線照射後の測定試料301で反射された光L3のスペクトルの波数についての2次微分データが取得される。
ここで、測定試料301に照射される紫外線の波長について説明する。
一般に、PBDEは1350cm-1近傍に赤外光の吸収があることが知られている。赤外吸収スペクトルの減衰のメカニズムは次の通りである。PBDEの構造中に、炭素と臭素が結合した部分がある。炭素と臭素の結合乖離エネルギーは2.86eVであり、波長に換算すると433.9nmである。したがって、この波長より短い紫外線が照射されることにより炭素−臭素の結合が乖離し、1350cm-1近傍の赤外吸収スペクトルが減衰するため、スペクトルに差が生じPBDEの含有の有無を識別することが可能となる。ただし、炭素―炭素(結合エネルギー:3.60eV、波長換算値:344.1nm)、炭素―水素(結合エネルギー:4.28eV、波長換算値:389.4nm)、炭素―酸素(結合エネルギー:3.64eV、波長換算値:340.3nm)の結合を乖離するほど強いエネルギーを与えると目的検出成分の特定波数に影響を与える恐れがあるので、これらの結合を乖離させず、かつ炭素−臭素の結合を乖離させる345nm以上の波長の紫外線を使用し、測定試料301に照射することがより好ましい。したがって、本実施形態においては、352nmの紫外線を使用した。なお、本実施形態では、紫外線の光源はブラックライトを使用したが、前述した条件に該当するものであれば、他の光源を使用してもよい。
コンピュータ6で、記憶されている紫外線照射前の測定試料301の反射光L3のスペクトルの2次微分データから、紫外線照射後の測定試料301の反射光L3のスペクトルの2次微分データを差し引いて求めた差分データを取得し、この差分データにより、1350cm-1近傍の赤外吸収が存在するか否かを検出することで、測定試料301に、目的検出成分であるPBDEが含有されているか否かを判断することができる。なお、取得されたスペクトルの2次微分データを取得するのは、スペクトルのベースラインの変動除去、近接したピークの分離、ショルダーピークの分離等を行うためである。これについて、以下説明する。
紫外線照射前の2次微分スペクトルから紫外線照射後の2次微分のスペクトルの差をとることで取得されたデータ(以下、「差スペクトルデータ」という。)を図2に示す。図2のグラフは、横軸に波数をとり、縦軸に、赤外光吸収度の波数について2次微分されたデータ値をとったものである。波数としてスペクトルのピークを、波数について2次微分すると、下に凸状のピーク(谷)となる。図2の差スペクトルデータにおいて、α1部分に下に凸状のピーク(谷)があり、これにより、紫外線の照射前後で1356cm-1近傍の赤外吸収スペクトルが減少していることがわかる。つまり、α1部分に下に凸状のピーク(谷)があることを検出することで、プラスチック素材にPBDEが混入されていると判断することができる。2次微分データを用いて、目的検出成分の含有を判断することは、目的検出成分が微量であるとき特に有効である。これについて、図3を用いて説明する。図3(a)は、湿度や二酸化炭素等の影響を変化させて複数回測定して取得された吸収度スペクトルと波数との関係を示すデータであり、紫外線照射していない、PBDEを微量含む試料のスペクトルから、紫外線照射後のスペクトルを差し引いて求められた吸収度スペクトルのデータである。図3(a)では、1350cm-1近傍のピークが認識しにくい。ところが、このデータを波数について2次微分して求めたデータである図3(b)のデータをみると、図3(b)中のα2(1358cm-1近傍)に下に凸状のピーク(谷)があることをはっきり認識することができ、目的検出成分であるPBDEが試料中に含有されていることを明確に識別することができる。このように測定条件のバラツキがあっても2次微分データの差分データにより、目的検出成分が微量含有されているか否かを明確に判断することが可能となる。
以上により、プラスチック素材に目的検出成分が微量しか混入されていない場合でも、識別すべき目的検出成分の含有を迅速かつ正確に識別することができる。
[第2実施形態]
図4に、第2実施形態に係るプラスチック素材の成分識別方法に使用するFT−IR100’の概略構成図を示す。FT−IR100’は、紫外線用光源7を有する点が、第1実施形態に係るFT−IR100と異なる。以下、第1実施形態とは異なる部分について説明する。
第1実施形態では、試料測定室3に、測定試料301が設置され、FT−IR100でスペクトルが取得された後、測定試料301が取り外され、紫外線照射された後、測定試料301が再び試料測定室3に設置され、スペクトルが取得されたが、第2実施形態のFT−IR100’では、測定試料301が設置されたままの状態で、紫外線照射前後のスペクトルが取得される。これについて、以下に説明する。
最初に、測定試料301を試料測定室3に設置し、FT−IR100’を動作させると同時に、紫外線用光源から352nmの紫外線が測定試料301に照射される。FT−IR100’を動作開始させた時から、コンピュータ6にて、測定試料301についてのスペクトルの取得処理、その取得されたスペクトルの、波数についての2次微分データの算出処理、現取得データについての2次微分データとその前に取得されコンピュータに記憶されている2次微分データとの差分データの算出処理、現取得データの2次微分データの記憶処理が連続して行われる。そして、2次微分データの差分データにおいて、1350cm-1あたりに下に凸状のピーク(谷)が発生しないか監視しておく。1350cm-1あたりの下に凸状のピーク(谷)を検出した時点で、プラスチック素材である測定試料301にPBDEが含有されていると判断することができるので、FT−IR100’での測定を終了させる。また、一定時間、1350cm-1あたりの下に凸状のピーク(谷)が検出されないときは、PBDEがプラスチック素材である測定試料301にPBDEが含まれていないと判断することができる。
以上により、測定試料301を第1実施形態のように脱着することなく、迅速に、プラスチック素材に目的検出成分が含有されているか否かを識別することができる。
[他の実施形態]
上記実施形態では、目的検出成分がPBDEの場合について説明したが、目的検出成分がポリブロモビフェニルである場合も同様にして、FT−IR100又はFT−IR100’を用いて、前述の各実施形態で説明した識別方法を適用することができる。
また、上記実施形態では、測定試料301に対して、入射赤外光L2が反射されて、検出器4への出射光L3、L3’によりスペクトルについてデータが取得されるという実施形態であったが、測定試料301に対して、入射赤外光L2が透過され、その透過光が検出器4へ入射され、検出器4に入射された光のスペクトルについてデータが取得されるという実施形態にて、上記実施形態と同様の処理を行ってもよい。
また、上記実施形態では、紫外線照射前後の赤外吸収スペクトルの波数についての2次微分したものによる比較により、目的検出成分を識別する場合について説明したが、これに限定されることはなく、紫外線照射前後の赤外吸収スペクトルの波数についての1次微分したものによる比較や、3次、4次、5次等の高次微分したものを用いた比較であってもよい。
本発明のプラスチック素材の成分識別方法および成分識別装置によれば、迅速でかつ微量の検出目的成分であっても含有の識別が可能となるため、受入れ検査で規制物質の誤使用や混入を発見することができるので、プラスチック素材を取り扱う関連産業において、有用であり、本発明のプラスチック素材の成分識別方法および成分識別装置は、当該分野において実施することができる。
本発明の第1実施形態に係るFT−IRの全体構成図。 赤外光吸収度の2次微分データと波数との関係を表すグラフ。 赤外光吸収度と波数との関係、および赤外光吸収度の2次微分データと波数との関係を表すグラフ。 本発明の第2実施形態に係るFT−IRの全体構成図。
符号の説明
100、100’ FT−IR
1 赤外光源
2 干渉計
3 試料測定室
301 測定試料
4 検出器
5 AD変換器
6 コンピュータ

Claims (10)

  1. プラスチック素材に目的検出成分が含まれているか否かを識別するプラスチック素材の成分識別方法であって、
    前記プラスチック素材に連続スペクトルをもった赤外光を照射し、前記プラスチック素材で反射又は透過された前記赤外光の強度を測定することによって第1の赤外吸収スペクトルを取得するステップと、
    前記プラスチック素材に対して、前記目的検出成分に固有な波数に対応するスペクトルに変化を与える波数変化処理を行う固有スペクトル変化処理ステップと、
    前記固有スペクトル変化処理ステップを行った後、前記連続スペクトルを持った赤外光を、前記波数変化処理を行った前記プラスチック素材に照射し、前記プラスチック素材で反射又は透過された前記赤外光の強度を測定することによって得られる第2の赤外吸収スペクトルを取得するステップと、
    前記第1の赤外吸収スペクトルと前記第2の赤外吸収スペクトルとを比較することにより、前記プラスチック素材に前記目的検出成分が含まれているか否かを識別する目的検出成分識別ステップと、
    を有するプラスチック素材の成分識別方法。
  2. 前記目的検出成分識別ステップにおける前記比較は、前記第1の赤外吸収スペクトルの波数について2次微分したものと、前記第2の赤外吸収スペクトルの波数について2次微分したものとを用いて行う、
    請求項1に記載のプラスチック素材の成分識別方法。
  3. プラスチック素材に目的検出成分含有が含まれているか否かを識別するプラスチック素材の成分識別方法であって、
    前記プラスチック素材に連続スペクトルをもった赤外光を照射し、前記プラスチック素材で反射又は透過された前記赤外光の強度を測定することによって第1の赤外吸収スペクトルを取得するステップと、
    前記プラスチック素材中の前記目的検出成分に固有な波数に対応するスペクトルに変化を与える処理を行う固有スペクトル変化処理ステップと、
    前記固有スペクトル変化処理ステップを行いながら、前記連続スペクトルを持った赤外光を前記プラスチック素材に照射し、前記プラスチック素材で反射又は透過された前記赤外光の強度を測定することによって得られる第2の赤外吸収スペクトルを取得するステップと、
    前記第1の赤外吸収スペクトルと前記第2の赤外吸収スペクトルとを比較することにより、前記プラスチック素材に前記目的検出成分が含まれているか否かを識別する目的検出成分識別ステップと、
    を有するプラスチック素材の成分識別方法。
  4. 前記目的検出成分識別ステップにおける前記比較は、前記第1の赤外吸収スペクトルの波数について2次微分したものと、前記第2の赤外吸収スペクトルの波数について2次微分したものとを用いて行う、
    請求項3に記載のプラスチック素材の成分識別方法。
  5. 前記波数変化処理は、前記プラスチック素材に特定波長の紫外線を照射することにより行う、
    請求項1から4のいずれかに記載のプラスチック素材の成分識別方法。
  6. 前記プラスチック素材は、ハロゲン化難燃剤を含有する、
    請求項1から5のいずれかに記載のプラスチック素材の成分識別方法。
  7. 前記目的検出成分は、ポリブロモビフェニルおよびポリブロモジフェニルエーテルの少なくとも一方である、
    請求項1から6のいずれかに記載のプラスチック素材の成分識別方法。
  8. 前記紫外線の波長範囲は、345〜450nmである、
    請求項5から7のいずれかに記載のプラスチック素材の成分検出方法。
  9. プラスチック素材に目的検出成分が含まれているか否かを識別するプラスチック素材の成分識別装置であって、
    連続スペクトルをもった赤外光を出射する赤外光照射部と、
    前記赤外光の連続スペクトルに含まれる各スペクトルの波長に従って、前記赤外光に変調をかける干渉計と、
    前記干渉計で変調された前記赤外光をプラスチック素材である検査対象物に照射するために、前記検査対象物が設置される検査対象物設置部と、
    前記検査対象物に対して、前記目的検出成分に固有な波数に対応するスペクトルに変化を与える波数変化処理を行う固有スペクトル変化処理部と、
    前記固有スペクトル変化処理部で前記目的検出成分に固有な波数に変化する前記処理をされていない前記検査対象物に照射され、前記検査対象物で反射又は透過された前記赤外光から第1の赤外吸収スペクトルを取得し、前記固有スペクトル変化処理部で前記目的検出成分に固有な波数に変化する前記処理をされた前記検査対象物に照射され、前記検査対象物で反射又は透過された前記赤外光から第2の赤外吸収スペクトルを取得する赤外吸収スペクトル取得部と、
    前記第1の赤外吸収スペクトルと前記第2の赤外吸収スペクトルとを比較することで、前記検査対象物に目的検出成分が含まれているか否かを識別する目的検出成分識別部と、
    を備えるプラスチック素材の成分識別装置。
  10. 前記目的検出成分識別部は、前記第1の赤外吸収スペクトルの波数について2次微分したものと、前記第2の赤外吸収スペクトルの波数について2次微分したものとを比較することで、前記検査対象物に目的検出成分が含まれているか否かを識別する、
    請求項9に記載のプラスチック素材の成分識別装置。

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